説明

複合材料、医療用チューブおよび医療用カテーテル

【課題】複合材料および医療用チューブにおいて、粒子材料をベースマトリックスに混練した複合材料における表面の摩擦特性を向上することができるようにする。
【解決手段】医療用チューブ1を、1種類以上の熱可塑性樹脂を含むベースマトリックス2Aと、ベースマトリックス2Aの少なくとも表面に複合された、平均円形度が0.90以上、かつ平均粒子径が0.1μm以上30μm以下の母粒子2aと、母粒子2aの10分の1以下の平均粒子径を有し、母粒子2aの表面に付着された子粒子2bとを備える複合粒子2Bからなり、複合粒子2Bは、ベースマトリックス2Aが100重量部に対して、15重量部以上75重量部以下、添加されている複合材料2によって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料、医療用チューブおよび医療用カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療用チューブは、例えば、内視鏡のチャンネル管を通じて体内の処置部に挿入される処置具チューブ(シース)や医療用カテーテルなどとして用いられている。このような医療用チューブは、例えば、内視鏡のチャンネル管や血管などに対する摺動抵抗を小さくして、挿入力量を低減することが求められている。
例えば、特許文献1には、1またはそれ以上の熱可塑性ポリエステルから本質的になるポリマーマトリックスおよび微粉砕潤滑性粒状材料を含む複合材料、およびこの複合材料によって体内に挿入管部材を形成したカテーテルが記載されている。
特許文献1では、例えば、グラファイトや二硫化モリブデンなどからなる微粉砕潤滑性粒状材料を熱可塑性ポリエステルからなるポリマーマトリックスに混ぜることにより、材料の摩擦係数を下げて処置具チューブの挿入性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平10−503103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の複合材料および医療用チューブには、以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術では、微粉砕潤滑性粒状材料を混合することで、ポリマーマトリックスに比べて低摩擦の複合材料が得られるものの粒子形状を制御していないため摩擦の低下は限定的である。かつ特許文献1によれば、この複合材料の摩擦係数は約0.03〜約0.20であり、大きなばらつきを有している。
このように、摩擦係数がばらついて、摩擦係数が大きくなると医療用チューブを挿通させていく際の挿入力量もばらつき、かつ大きくなるという問題がある。
医療用チューブは、体内に迅速に挿入したり、挿入後も処置位置に応じて挿入位置を術者の操作により微調整したりする必要があるため、挿入力量をさらに低減することが強く求められている。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、高分子材料に粒子材料を複合した複合材料における表面の摩擦特性を向上することができる複合材料、医療用チューブおよび医療用カテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の複合材料は、1種類以上の熱可塑性樹脂を含む高分子材料と、該高分子材料の少なくとも表面に複合された粒子材料とを備える複合材料であって、前記粒子材料は、平均円形度が0.90以上、かつ平均粒子径が0.1μm以上30μm以下の母粒子と、該母粒子の10分の1以下の平均粒子径を有し、前記母粒子の表面に付着された子粒子とを備える複合粒子からなり、該複合粒子は、前記高分子材料100重量部に対して、15重量部以上75重量部以下、添加されている構成とする。
この発明によれば、粒子材料を構成する複合粒子は、平均円形度が0.90以上の母粒子と、母粒子の10分の1以下の平均粒子径を有する子粒子とからなるため、母粒子と子粒子とが良好な結合強度を持ちつつ、複合粒子としての粒子形状が球に近くなる。このため、子粒子が球体に近い母粒子上に分散配置されるため、複合粒子の表面での他部材に対する接触面積が小さくなり、表面摩擦係数が低くなる。また複合粒子は、高分子材料の表面において、球体に近い突起物となるので、高分子材料の表面に沿って他部材が接触する際、角状の突起物に比べて、当たりが滑らかとなり、抵抗の小さい凸部になる。そのため、複合材料の表面摩擦係数を低減することができる。
母粒子の平均円形度が0.90未満では、母粒子の形状が球体からの相違が大きくなりすぎるため、高分子材料の表面に沿って他部材が接触する際、抵抗の大きな凸部となり、複合材料の表面摩擦係数が大きくなってしまう。
また、子粒子の平均粒子径が母粒子の10分の1よりも大きいと、母粒子と子粒子とを結合させることが難しく、結合されたとしても結合強度が低下するため、子粒子が剥離しやすくなり、母粒子の表面を子粒子で覆うことができなくなる。このため複合粒子の表面の接触面積が大きくなりすぎ、複合粒子の表面摩擦係数を好適に低減することができない。
また、母粒子の平均粒子径が0.1μm未満であると、子粒子との十分な結合強度を保つことができず成形中に分離してしまう。また、母粒子の平均粒子径が30μmよりも大きいと、高分子材料の表面の凹凸の大きさや凹凸のピッチが大きくなり、表面が荒らされた状態と同様になり、表面摩擦係数を好適に低減することができない。
また、複合粒子の添加量が15重量部未満であると、高分子材料中に存在する複合粒子の数が少なくなりすぎるため、高分子材料の表面に露出する複合粒子が少なくなりすぎ、複合材料の表面摩擦係数を好適に低減することができない。
また、複合粒子の添加量が75重量部より多いと複合粒子同士が凝集してしまうため、粒径が大きくなってしまい、高分子材料表面を過度に荒らしてしまうことから表面摩擦係数を好適に低減することができない。
【0007】
なお、本明細書で言う円形度eは、フロー式粒子像分析装置(シスメックス(株)製)を用いて測定され、以下のように定義される。
【0008】
e=(粒子投影像の面積と同じ面積を有する円の周長)/(粒子投影像の周長)
・・・(1)
【0009】
このフロー式粒子像分析装置によれば、粒子の拡大画像を取得し、その画像処理を行うことで粒子の面積、周長が求められ、上記式(1)に基づいて円形度が算出される。
例えば、真円の円形度は1である。また正多角形の例では、正六角形は0.952、正五角形は0.930、正方形は0.886、正三角形は0.777となる。
【0010】
また、本発明の複合材料では、前記子粒子は、黒鉛型構造、または硫化モリブデン型構造を有することが好ましい。
この場合、子粒子が、黒鉛型構造、または硫化モリブデン型構造を有するため、層状物質となることから、複合材料の表面の子粒子が外力によってせん断されやすくなる。これにより、複合材料の表面の滑り性を向上することができる。
【0011】
また、本発明の複合材料では、前記子粒子は、酸化アルミニウム(Al)、硫酸バリウム(BaSO)、酸化タングステン(WO)、タングステン(W)、酸化ビスマス(BiO)、および炭化ケイ素(SiC)のうちの1種類以上を含むことが好ましい。
この場合、Al、BaSO、WO、W、BiO、SiCは、化学的に安定であるため、複合粒子が外力を受けた際に、高分子材料と複合粒子との界面で、高分子材料にせん断滑りが発生することで、表面摩擦係数を低減することができる。
【0012】
本発明の医療用チューブは、本発明の複合材料を用いた構成とする。
この発明によれば、本発明の複合材料を用いるので、本発明の複合材料と同様な作用を備える。
【0013】
本発明の医療用カテーテルは、本発明の医療用チューブを用いた構成とする。
この発明によれば、本発明の医療用チューブを用いるので、本発明の医療用チューブと同様な作用を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合材料、医療用チューブおよび医療用カテーテルによれば、円形度が良好な母粒子と平均粒子径が母粒子の10分の1以下の子粒子を複合させた複合粒子を高分子材料の表面に備えるので、高分子材料に粒子材料を複合した複合材料における表面の摩擦特性を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る医療用チューブの概略構成を示す軸方向に沿う模式的な断面図である。
【図2】図1のA部の模式的な部分拡大断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る複合材料の一例における表面の写真画像である。
【図4】複合材料の表面摩擦係数測定に用いた測定装置および測定方法について説明する模式説明図である。
【図5】医療用チューブの挿入力量の測定装置および測定方法について説明する模式説明図である。
【図6】各実施例、各比較例の表面摩擦係数および挿入力量の測定結果を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0017】
[第1の実施形態]
まず、本発明の第1の実施形態に係る複合材料および医療用チューブ(医療用カテーテル)について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る医療用チューブの概略構成を示す軸方向に沿う模式的な断面図である。図2は、図1のA部の模式的な部分拡大断面図である。図3は、本発明の第1の実施形態に係る複合材料の一例における表面の写真画像である。なお、図1、2は模式図であり、寸法比、数、および形状は誇張されている(以下の図面も同じ)。
【0018】
本実施形態の医療用チューブ1は、図1に示すように、チューブ本体が、内径d、外径d、長さLの円筒形状に形成された可撓性を有するチューブであり、例えば、内視鏡のチャンネル管に挿入して患部の処置や病変部の摘出の補助を行うカテーテルなどに用いることができるものである。内径d、外径d、長さLとしては、例えば、d=1.7(mm)、d=2.4(mm)、L=2000(mm)といった寸法を採用することができる。
医療用チューブ1のチューブ本体は、図2に示すように、1種以上の熱可塑性樹脂を含む高分子材料からなるベースマトリックス(高分子材料)2Aに複合粒子2Bが混練された本実施形態の複合材料2を、上記のチューブ形状に成形してなるものである。
複合材料2における複合粒子2Bの配合比は、ベースマトリックス2Aが100重量部に対して、15重量部以上75重量部以下、添加されている。
【0019】
ベースマトリックス2Aの材質としては、1種以上の熱可塑性樹脂を含む高分子材料であれば特に限定されないが、例えば、以下のような例を挙げることができる。
ポリエチレン(PE)樹脂、アイオノマー樹脂(例えばエチレン−メタクリル酸コポリマーアイオノマー樹脂等)、ポリプロピレン(PP)樹脂、超高分子量PP、ポリブテン、4−メチルペンテン−1ポリマー、環状ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン、ブタジエン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、酢酸セルロース、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等)、ポリアミド(PA)系樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、生分解性ポリマー、およびその共重合体などが挙げられる。
ここで、PE樹脂としては、低密度PE、高密度PE、直鎖状低密度PE、超高分子量PEのいずれであってもよい。また、PP樹脂としては、ホモPP、ランダムPP、ブロックPPのいずれでもよく、また、アタクチック構造、シンジオタクチック構造のいずれでもよい。
本実施形態のベースマトリックス2Aは、一例として、例えば、Pebax(登録商標)6333SN01(アルケマ(Arkema)社製)を採用している。このPebax(登録商標)6333SN01は、ハードセグメントがPA、ソフトセグメントがポリエーテルからなるポリエーテルブロックアミド共重合体であって、高い可撓性と反発弾性とを有する熱可塑性のPA系エラストマーである。
【0020】
複合粒子2Bは、平均円形度が0.90以上1.0以下、平均粒子径が0.1μm以上30μm以下の母粒子2aと、母粒子2aの10分の1以下の平均粒子径を有し母粒子2aの表面に付着された複数の子粒子2bとからなる。すなわち、図2に示すように、母粒子2aの直径をd、子粒子2bの直径をdとすると、それぞれの平均値daave、dbaveの間には、dbave≦0.1・daaveの関係がある。
また、複合粒子2Bの平均粒子径は、略(daave+2・dbave)である。
【0021】
母粒子2aの材質としては、無機材料、有機材料のいずれか、もしくはこれらのハイブリッドであり、特に材料は限定されない。本実施形態では、一例として、PMMA粒子(綜研化学(株)製)を採用している。
【0022】
子粒子2bの材質としては、層状構造を有する適宜の無機粒子を採用することができる。このような層状構造としては、例えば、黒鉛型構造、硫化モリブデン型構造を挙げることができ、これらの層状構造を有する無機粒子を1種類以上含むことが好ましい。
黒鉛型構造を有する物質としては、例えば、グラファイト(C)、窒化ホウ素(BN)、ホウ化マグネシウム(MgB)、二ホウ化マグネシウム(MgB)、LiBC、HBC、CBなどを挙げることができる。
硫化モリブデン型構造を有する物質としては、二硫化タングステン(WS)、二硫化モリブデン(MoS)、二硫化ニオブ(NbS)、二硫化タンタル(TaS)などを挙げることができる。
本実施形態の子粒子2bの材質は、一例として、MoSを採用している。
【0023】
母粒子2a、子粒子2bから複合粒子2Bを製作する複合方法としては、例えば、メカノケミカル法を採用することができる。本実施形態では、奈良機械製作所製のハイブリダイゼーションシステムを使用して複合化させている。
【0024】
このような構成の医療用チューブ1によれば、ベースマトリックス2Aが100重量部に対して、複合粒子2Bを15重量部以上75重量部以下の配合比で混練した複合材料2を成形しているため、医療用チューブ1の内部で複合粒子2Bが分散され、図2に示すように、複合粒子2Bの一部が外表面1aに露出される。また、特に図示しないが、同様に内表面1bでも複合粒子2Bが露出される。なお、以下では、外表面1a、内表面1bは、ベースマトリックス2Aの表面に露出した複合粒子2Bを含む表面を指すものとする。
これにより、医療用チューブ1を、例えば医療用カテーテルとして内視鏡チャンネル管などに挿入したり、医療用チューブ1の内部にワイヤなどを挿通したりする場合に、チャンネル管内面やワイヤ表面と、外表面1aおよび内表面1bにそれぞれ分散して露出された複合粒子2Bとが接触して滑るため、医療用チューブ1としての表面摩擦係数を低減することができる。
また、複合粒子2Bは、母粒子2aが、平均円形度0.90以上、かつ平均粒子径0.1μm以上30μm以下の形状であり、子粒子2bは、母粒子2aの10分の1以下の平均粒子径で、母粒子2aの表面に付着されているため、外表面1aあるいは内表面1bに、略球状の表面を有する微細な凹凸状態が形成される。そのため、接触物に対して円滑な接触が可能となり、医療用チューブ1としての表面摩擦係数を低減することができる。
【0025】
また、複合粒子2Bの表面は、微小径の子粒子2bによって覆われ、この子粒子2bが層状結晶構造である黒鉛型構造のMoSを備えるため、接触物から応力を受けると、子粒子2bにせん断すべりが発生する。そのため、母粒子2aのみの場合や、せん断すべりが生じない無機粒子のみが表面に付着している場合に比べて、接触部分での摩擦力を低減することができる。
【0026】
複合粒子2Bの配合比が15重量部未満では、配合量が少ないため外表面1a、内表面1bに露出する複合粒子2Bが少なくなりすぎ、外表面1aおよび内表面1bにおける摩擦係数が、ベースマトリックス2Aの材質の摩擦係数で略決まってしまう。このため、医療用チューブ1の表面摩擦係数をベースマトリックス2Aの材質で決まる摩擦係数からあまり低減することができない。
複合粒子2Bの配合比が75重量部を超えると、複合材料2中の複合粒子2Bが多すぎて、複合粒子2Bの間で凝集が起こりやすくなり、外表面1aおよび内表面1bに露出する複合粒子2Bの見かけ上の粒子径が大きくなる。このため外表面1aおよび内表面1bの凹凸が増大し、外表面1aおよび内表面1bが荒れた状態となるため医療用チューブ1としての表面摩擦係数が大きくなってしまう。
【0027】
母粒子2aの平均粒子径が0.1μm未満では、母粒子2aの表面エネルギーが大きくなりすぎるため、母粒子2a同士が凝集した状態になりやすく、個々の母粒子2aの表面に子粒子2bを付着させるのが難しくなる。
また、母粒子2aの平均粒子径が30μmを超えると、外表面1aおよび内表面1bでの凹凸が大きくなり、外表面1aおよび内表面1bが荒れた状態となるため表面摩擦係数が大きくなってしまう。
また、母粒子2aの平均円形度が0.90未満であると、母粒子2aひいては複合粒子2Bの表面に先鋭な角部が多くなりすぎる。これらの先鋭な角部が外表面1aおよび内表面1bに露出することで、接触抵抗が大きくなるため、表面摩擦係数が大きくなってしまう。
ここで、平均円形度は、粒子の真円度合いの評価尺度であり、上記式(1)から算出される円形度eの平均値を意味する。
【0028】
このように、本実施形態の複合材料2は、表面の摩擦特性が向上されているため、これを用いる医療用チューブ1の外表面1aおよび内表面1bの表面摩擦係数が低減される。これにより、医療用チューブ1を内視鏡チャンネル管に挿入したり、医療用チューブ1内にワイヤを挿通させたりする場合に、これらの挿入、挿通の際の力量を低減することができる。
【0029】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る医療用チューブ(医療用カテーテル)について説明する。
本実施形態の医療用チューブ11は、上記第1の実施形態の医療用チューブ1と同様の形状を有し、チューブ本体を、複合材料2に代えて複合材料12を用いて成形したものである。
複合材料12は、図2に示すように、上記第1の実施形態の子粒子2bに代えて、子粒子2bと同様の形状を有し材質のみが異なる子粒子12bを用いたものである。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0030】
子粒子12bは、Al、BaSO、WO、W、BiO、およびSiCのうちのいずれかを含む無機粒子とする。
【0031】
このような構成によれば、子粒子12bは、化学的に安定であるため、ベースマトリックス2Aに対する界面での結合力は小さく、外表面1aおよび内表面1bに露出した複合粒子12Bに対して、外表面1aおよび内表面1bに沿う外力が作用すると、ベースマトリックス2Aに対して子粒子12bとの界面の部分で、ベースマトリックス2Aにせん断すべりが発生する。この結果、医療用チューブ11の外表面1aおよび内表面1bの摩擦特性を向上することができる。
【0032】
なお、上記の説明では、子粒子2b(12b)の材質が1種類の場合の例で説明したが、2種類以上の材質からなる子粒子2b(12b)を混合して、母粒子2a上に複合させてもよい。例えば、(a)黒鉛型構造、硫化モリブデン型構造の無機粒子のうちの複数種類、あるいは、(b)Al、BaSO、WO、W、BiO、SiCのうちの複数種類をそれぞれ混合させてもよいし、上記(a)、(b)に含まれる材質の無機粒子それぞれ1種類以上含むように複合させてもよい。
また、複合粒子は、1種類には限定されず、異なる複数種類の材質の母粒子2aを合計15重量部以上75重量部以下となるように添加してもよい。
【0033】
また、上記の各実施形態に説明したすべての構成要素は、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
【実施例】
【0034】
以下では、上記各実施形態の実施例について、比較例とともに説明する。
図4は、複合材料の表面摩擦係数測定に用いた測定装置および測定方法について説明する模式説明図である。図5は、医療用チューブの挿入力量の測定装置および測定方法について説明する模式説明図である。図6は、各実施例、各比較例の表面摩擦係数および挿入力量の測定結果を示す棒グラフである。横軸は、実施例、比較例の番号をそれぞれ実1、比1等として示す。縦軸は、表面摩擦係数および挿入力量(N)を示す。
【0035】
[第1の実施形態の実施例1〜8]
第1の実施形態の実施例1〜8の医療用チューブ1のベースマトリックス2A、複合粒子2Bの構成について、比較例1〜7の医療用チューブのベースマトリックス、無機粒子の構成とともに、表1に示す。
なお、製作した各医療用チューブの形状は共通であり、内径d、外径d、長さLが、それぞれ、d=1.7(mm)、d=2.4(mm)、L=2000(mm)としている(以下の各実施例、各比較例にも共通)。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示すように、実施例1〜8は、いずれもベースマトリックス2AにPebax(登録商標)6333SN01(アルケマ(Arkema)社製)、また、複合粒子2Bの母粒子2aとして、PMMA(綜研化学(株)製)を採用した。また、複合粒子2Bの子粒子2bとしては、実施例1〜7がMoS((株)ダイゾー製)、実施例8がBNをそれぞれ採用している。母粒子2aの平均粒子径に対する子粒子2bの平均粒子径の比である粒子径比は、いずれも母粒子:子粒子=10:1とした。
そして、奈良機械製作所製のハイブリダイゼーションシステムによって、子粒子2bを母粒子2aの表面に複合させた(以下の各実施例、比較例2〜7も同じ)。
【0038】
実施例1〜3では、それぞれ共通に、ベースマトリックス2Aの100重量部に対する複合粒子2Bの配合比を15重量部とし、母粒子2aの平均円形度は0.90とした。ただし、母粒子2aの平均粒子径は、実施例1、2、3で、それぞれ、0.10μm、20μm、30μmとした。
実施例4、5では、それぞれ共通に、ベースマトリックス2Aの100重量部に対する複合粒子2Bの配合比を15重量部とし、母粒子2aの平均粒子径を30μmとした。ただし、母粒子2aの平均円形度は、それぞれ1.00、0.95とした。
実施例6、7では、ベースマトリックス2Aの100重量部に対する複合粒子2Bの配合比をそれぞれ40重量部、75重量部とし、母粒子2aの平均粒子径、平均円形度を、それぞれ30μm、0.90とした。
実施例8では、ベースマトリックス2Aの100重量部に対する複合粒子2Bの配合比を15重量部とし、母粒子2aの平均粒子径、平均円形度を、それぞれ30μm、0.90とした。実施例8は、実施例3と子粒子2bの材質のみが異なる例である。
【0039】
ここで、平均粒子径は、粒度分布測定装置SALD−7100((株)島津製作所製)によって測定した値を採用した。また、平均円形度は、フロー式粒子像分析装置(シスメックス(株)製)を用いて測定した値を採用した。この平均粒子径、平均円形度の測定方法は、他の各実施例および各比較例にも共通である。
【0040】
比較例1は、ベースマトリックス2Aのみでチューブ本体を成形したものである。
比較例2〜4では、それぞれ共通に、ベースマトリックス2Aの100重量部に対する複合粒子2Bの配合比を15重量部とした。ただし、母粒子2aの平均粒子径は、比較例2、3、4で、それぞれ、50μm、0.05μm、30μmとした。また、母粒子2aの平均円形度は、比較例2、3、4で、それぞれ、0.90、0.90、0.80とした。
比較例5では、ベースマトリックス2Aの100重量部に対する複合粒子2Bの配合比を5重量部とし、母粒子2aの平均粒子径、平均円形度を、それぞれ30μm、0.90とした。
比較例6では、ベースマトリックス2Aの100重量部に対する複合粒子2Bの配合比を90重量部とし、母粒子2aの平均粒子径、平均円形度を、それぞれ30μm、0.90とした。
以上、比較例2〜6では、粒子径比は、いずれも母粒子:子粒子=10:1とした。
比較例7では、ベースマトリックス2Aの100重量部に対する複合粒子2Bの配合比を15重量部とした。母粒子2aの平均粒子径、平均円形度は、それぞれ30μm、0.90とした、そして粒子径比を、母粒子:子粒子=5:1とした。
すなわち、比較例1は複合粒子2Bを含まない点で、比較例2、3は母粒子2aの平均粒子径の大きさの点で、比較例4は母粒子2aの平均円形度の大きさの点で、比較例5、6は複合粒子2Bの配合比の点で、比較例7は粒子径比の点で、それぞれ本発明の範囲に含まれない例になっている。
【0041】
これら各実施例、各比較例の評価は、複合材料の表面摩擦係数と、各複合材料で成形されたチューブ本体を屈曲された管内に挿入する際の挿入力量とを測定することにより行った。なお、これらの測定方法は、以下の他の実施例、比較例の測定でも同様である。
【0042】
表面摩擦係数の測定は、図4に示すように、測定サンプルを固定して往復移動する移動台51と、測定サンプルに対して一定荷重で測定相手部材52を押圧するためのおもり52と、測定相手部材52に作用する測定サンプルからの摩擦力を測定する荷重変換器54とを備える摩擦係数測定器50を用いて行った。本測定での摩擦係数測定器50はHEIDON(商品名;新東科学(株)製)を用いた。
本測定では、移動台51に、複合材料2から製作されたサンプル基材60を固定し、おもり52によって、測定相手部材52をサンプル基材60に押圧した状態で、移動台51を往復駆動し、荷重変換器54によって、サンプル基材60から測定相手部材52に作用する摩擦力を測定する。この摩擦力の変化から動摩擦係数を算出し、サンプル基材60の表面摩擦係数を評価した。
ここで、測定相手部材52の材質は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を用いている。
【0043】
挿入力量の測定には、図5に示す応力測定装置70を用いた。
応力測定装置70は内径3.2mm、外径4.4mm、長さ400mmの円筒状のPTFEからなるチャンネル管74が屈曲形状を有するチャンネルガイド75に嵌め込まれ、チャンネル管74に対向して、各医療用チューブの測定サンプルSを押し出すチューブ固定金属棒77を有する応力感知用測定器78が配置されたものである。
ここで、チャンネル管74は、実際に内視鏡において用いられるものを用いている。
チャンネルガイド75は、管径が5mmで、入口側から長さ105mmの直線部75a、曲線部75b、および長さ125mmの直線部75cから構成される。曲線部75bの外側の曲率半径(図5のR)は、50mmであり、この外側の曲線部分の長さは39.25mmである。これにより、直線部75a、75cが、図示紙面内で、90°屈曲されている。
【0044】
まず、測定サンプルSとして、各実施例、各比較例の医療用チューブを切断して長さを400mmに調整した。そして、測定サンプルSの後端側をチューブ固定金属棒77の先端に固定して、チャンネル管74に挿入し、初期状態で直線部75aの入口から20mmだけ侵入させたチューブ設置位置76にセットする。
この状態から、測定サンプルSを移動ストローク300mm、移動速度50mm/secで、チャンネル管74内に10往復の繰返し挿入を行う。
測定サンプルSは、チャンネル管74内に進出すると、先端Saがチャンネルガイド75の曲線部75bに位置するチャンネル管74の内壁と接触するなどして、挿入抵抗が発生する。
そして、この繰り返し挿入における最大挿入力を、チューブ固定金属棒77が接続された応力感知用測定器78によって検出し、それぞれ10回の平均値をとって挿入力量とした。
【0045】
これらの測定結果および判定結果は、表1中および図6に示した。表面摩擦係数の判定は、0〜0.13の範囲を、挿入力量の判定は、0N〜0.45Nの範囲を、それぞれの許容範囲とし、○(良好)、×(許容範囲外)で結果を示した(以下の表も同じ)。
以下では、表面摩擦係数を記号μsf、挿入力量を記号Fで表し、測定値を(μsf,F)のように表す場合がある。例えば、(0.06,0.30N)は、μsf=0.06、F=0.30(N)を意味するものとする。
【0046】
表1によれば、μsf、Fの最大値は、比較例1の場合で、(0.34,0.80N)であった。
実施例1〜3の測定結果は、(0.06,0.31N)、(0.06,0.29N)、(0.07,0.32N)であった。実施例1〜3は、複合粒子2Bの最小の配合比(15重量部)、母粒子2aの最小の平均円形度(0.90)で、母粒子2aの平均粒子径を0.10μmから30μmまで変えているため、μsf、Fともに、母粒子2aの平均粒子径の増大とともに略増大しているが、最大の実施例3でも、比較例1に対して、μsfが約0.21倍、Fが約0.40倍であった。
実施例4、5の測定結果は、(0.04,0.27N)、(0.07,0.31N)であった。実施例4、5は、複合粒子2Bの最小の配合比(15重量部)、母粒子2aの最大の平均粒子径(30μm)で、母粒子2aの平均円形度を1.00、0.95に変えている。実施例3の結果と合わせると、実施例3、5、4の順に、母粒子2aの平均円形度を0.90から1.00まで増大させた場合の測定例となっており、これらの測定結果から母粒子2aの平均円形度の増大とともにμsf、Fが略減少していることが分かる。すなわち、この3例では実施例3のμsf、Fが最も大きい。
実施例6、7の測定結果は、(0.07,0.33N)、(0.09,0.35N)であった。実施例6、7は、母粒子2aの最小の平均円形度(0.90)、最大の平均粒子径(30μm)で、複合粒子2Bの配配合比を40重量部、70重量部に変えている。実施例3の結果と合わせると、実施例3、6、7の順に、複合粒子2Bの配合比を15重量部から75重量部まで増大させた場合の測定例となっており、これらの測定結果から複合粒子2Bの配合比が最大の実施例7でμsf、Fが最大になっている。また、実施例7は、実施例1〜7中でも最大となっているが、比較例1に対して、μsfが約0.26倍、Fが約0.44倍であった。
以上の実施例1〜7の測定結果は、いずれも許容範囲内の良好な結果であった。
また、実施例1〜7のμsfのバラツキは、0.05(=0.09−0.04)と極めて小さくなっている。
【0047】
実施例8の測定結果は、(0.07,0.33N)であった。実施例8は、実施例3において子粒子2bの材質をBNに変えた場合の例であり、実施例3と略同様の結果であった。したがって、MoS、BNは、いずれも層状構造を有する物質として、略同様に表面摩擦係数を低減できていることが分かる。
【0048】
また、比較例2、3の測定結果は、(0.32,0.79N)、(0.24,0.70N)であった。比較例2、3は、複合粒子2Bの最小の配合比(15重量部)、母粒子2aの最小の平均円形度(0.90)で、母粒子2aの平均粒子径をそれぞれ50μm、0.05μmとした場合の例である。これらの測定結果は、実施例3に対して、μsfがそれぞれ約4.6倍、約3.4倍、Fがそれぞれ約2.5倍、約2.2倍となっている。すなわち母粒子2aの平均粒子径が30μmより大きくても、0.10μmより小さくても、μsf、Fが格段に増大して許容範囲外となっている。また、実施例1〜3よりも、複合粒子2Bを配合していない比較例1に、より近い値を示しており、摩擦力の低減効果が乏しいことが分かる。
また、比較例4〜7の測定結果は、それぞれ、(0.25,0.71N)、(0.26,0.71N)、(0.28,0.77N)、(0.31,0.78N)であった。これらは、母粒子2aの平均粒子径、平均円形度、複合粒子2Bの配合比、粒子径比のいずれかが、本発明の範囲外となっているため、実施例7に対して、μsfがそれぞれ約2.8倍、約2.9倍、約3.1倍、約3.4倍、Fが約2.0倍、約2.0倍、約2.2倍、約2.2倍と格段に増大して許容範囲外となっている。
【0049】
[第2の実施形態の実施例9〜14]
第2の実施形態の実施例9〜14の医療用チューブ11のベースマトリックス2A、複合粒子12Bの構成について、上記表1に示す。
【0050】
表1に示すように、実施例9〜14は、いずれもベースマトリックス2AにPebax(登録商標)6333SN01(アルケマ(Arkema)社製)を、また、複合粒子12Bの母粒子2aとして、PMMA(綜研化学(株)製)を採用した。また、複合粒子12Bは、ベースマトリックス2Aの100重量部に対する配合比は15重量部、母粒子2aの平均粒子径は30μm、平均円形度は0.90、粒子径比は、いずれも母粒子:子粒子=10:1とした。
そして、複合粒子12Bの子粒子12b材質を、それぞれ、Al、BaSO、SiC、WO、W、BiOのように変えた。
【0051】
これらの測定結果および判定結果は、表1中および図6に示した。
表1によれば、実施例9〜14の測定結果は、それぞれ、(0.10,0.39N)、(0.11,0.38N)、(0.10,0.36N)、(0.11,0.40N)、(0.09,0.36N)、(0.08,0.34N)であった。
これらの測定結果は、実施例3の測定結果より、やや大きいものの、許容範囲内の良好な結果であった。
また、実施例9〜14のμsfのバラツキは、0.03(=0.11−0.08)と極めて小さくなっている。
また、比較例1に対して、μsfがそれぞれ約0.29倍、約0.32倍、約0.29倍、約0.32倍、約0.26倍、約0.24倍、Fが約0.49倍、約0.48倍、約0.45倍、約0.50倍、約0.45倍、約0.43倍となり、格段に低減されていることが分かる。
【符号の説明】
【0052】
1、11 医療用チューブ
1a 外表面
1b 内表面
2、12 複合材料
2A ベースマトリックス(高分子材料)
2B、12B 複合粒子
2a 母粒子
2b、12b 子粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上の熱可塑性樹脂を含む高分子材料と、該高分子材料の少なくとも表面に複合された粒子材料とを備える複合材料であって、
前記粒子材料は、
平均円形度が0.90以上、かつ平均粒子径が0.1μm以上30μm以下の母粒子と、
該母粒子の10分の1以下の平均粒子径を有し、前記母粒子の表面に付着された子粒子とを備える複合粒子からなり、
該複合粒子は、前記高分子材料100重量部に対して、15重量部以上75重量部以下、添加されていることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記子粒子は、黒鉛型構造、または硫化モリブデン型構造を有することを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記子粒子は、
酸化アルミニウム(Al)、硫酸バリウム(BaSO)、酸化タングステン(WO)、タングステン(W)、酸化ビスマス(BiO)および炭化ケイ素(SiC)のうちの1種類以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の複合材料を用いた医療用チューブ。
【請求項5】
請求項4に記載の医療用チューブからなる医療用カテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−193957(P2010−193957A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39441(P2009−39441)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】