説明

複合材料およびその製造方法

【課題】構造炭素材料からなる担体に触媒粒子を分散担持させた複合材料、その製造方法および該複合材料を含む電気化学デバイスを提供すること。
【解決手段】本発明の複合材料10は、担体12と、担体12に担持された触媒粒子14とを含んでいる。担体12は、構造炭素材料に対して湿式処理を施して表面改質する工程と、湿式処理が施された構造炭素材料に対して熱処理を施す工程とを含む方法により得られる。構造炭素材料は、具体的には、単層カーボン・ナノチューブ、多層カーボン・ナノチューブ、カーボン・ナノホーン、フラーレン、フラーレン・ナノウィスカ、カーボン・ナノファイバ、ナノグラファイト、カーボン・ナノフィラメントおよびこれらの混合物とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料に関し、より詳細には、構造炭素材料からなる担体に触媒粒子を分散担持させた複合材料、その製造方法および該複合材料を含む電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、その優れた物理・化学特性から、カーボン・ナノチューブなどのナノ構造炭素材料を利用した応用技術の開発が活発に行われている。例えば、カーボン・ナノチューブは、高い導電率および耐食性を有していることから、燃料電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学デバイスへの応用が期待され、これまで種々の電極材料が提案されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池(PEFC)や直接メタノール型燃料電池(DMFC)の電極材料としては、これまでカーボンブラックや活性炭などの炭素材料を担体として白金やその合金触媒を担持させた複合材料などが知られていたが、近年、カーボン・ナノチューブを担体とした触媒担持複合材料の開発が試みられている。
【0004】
カーボンブラックなどの無定形炭素材料は、大きな表面積と多数の表面欠陥とを有しており、触媒微粒子を比較的高濃度で分散担持させることができる。しかしながら、表面欠陥が多いことに起因して腐食されやすく、従来の無定形炭素材料を用いた電極材料では、担持させた触媒の遊離、凝集などによる電極性能の劣化を引き起こし、燃料電池の動作の安定性を低下させることが問題となっていた。
【0005】
一方、ナノ構造炭素材料のひとつであるカーボン・ナノチューブ(以下CNTとして参照する。)は、直径が1〜数10nm、長さが数10nm〜数μm程度(長さがmmに及ぶものもある。)の円筒形状を有し、炭素6員環を平面上につなげたネットワーク構造(グラフェン・シート)が単層あるいは多層で円筒状になった、表面欠陥がほとんどない強固な結晶構造を有する。このため、従来の炭素材料に比べて優れた特性を有する一方、触媒粒子などを吸着させるための付着サイトが少ないため、一般に、充分な濃度で、かつ分散性良く触媒粒子を担持させることが困難であった。
【0006】
CNTに白金を担持させる目的で、担体となるCNTに予め酸処理を施すことによって、表面に欠陥(付着サイト)を導入する方法が知られている。例えば、Matsumotoらは、Chem. Commun., 2004, pp840-841(非特許文献1)において、担体材料としてCNTを使用し、酸処理による付着サイトを形成させたCNT上に白金粒子を沈殿法により析出させて担持させた構造のPt−CNT複合材料を提案している。該Pt−CNT複合材料を電極として用いることによって、カーボンブラックを担体とした場合と比較して、燃料電池が電流密度と起電力との点で改善された特性を与えることが報告されている。しかしながら、上述した従来技術では、酸処理によりCNT上に白金が付着することは開示するものの、触媒性能、安定性および省資源・省コストの観点から、より高濃度かつ均一に触媒粒子を分散担持させることが望まれており、この点で充分なものではなかった。
【0007】
また、カーボンブラックを担体とした触媒担持複合材料の耐食性を向上させるために、担体として用いるカーボンブラックを、あらかじめ1000℃以上の高温下で熱処理して、その構造をグラファイト構造へ近づける方法が一般に採用されている。例えば、特開2002−273224号公報(特許文献1)は、異なる熱処理温度で熱処理された2種類以上のカーボン粉末を混合して形成されたカーボン担体に白金と卑金属を担持して形成された白金合金担持触媒を用いて形成される電極触媒層を開示している。上述の従来技術は、熱処理によってカーボン粉末をグラファイト化して構造欠陥を低減させることによって、耐食性を向上させようとするものである。一方、グラファイトは層構造が発達しているため、熱処理が施されてグラファイト化したカーボン担体には、触媒金属を担持させづらく、また担持させた場合であっても触媒金属が遊離しやすくなり、触媒性能およびその安定性の観点から充分なものではなかった。
【非特許文献1】Matsumoto, et. al., Chem. Commun.,2004, pp840-841.
【特許文献1】特開2002−273224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
すなわち、触媒粒子が充分に高濃度に均一に分散担持され、かつ、高い導電率、耐食性および耐熱性などの優れた特性を有する複合材料、その製造方法および該複合材料を含む電気化学デバイスの提供が望まれていた。
【0009】
また複合材料の触媒性能の安定性、省資源・省コストの観点から、より微細な触媒粒子を分散担持させて、触媒の比表面積および全表面積を大きくし、触媒粒子を担体に安定に担持させることが好ましい。すなわち、ナノメートル・オーダーの微細な触媒粒子が安定に分散担持され、ナノレベルで構造制御された複合材料、その製造方法および電気化学デバイスの提供が望まれていた。
【0010】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、本発明は、構造炭素材料を担体として、触媒粒子を均一かつ高濃度に分散担持させた複合材料を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、上記複合材料を高い効率および安定性で提供することを可能とする製造方法を提供することを目的とする。本発明のさらに他の目的は、上記複合材料を使用した電気化学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、触媒粒子を担持させる工程の前に、担体となる構造炭素材料に対し、湿式処理による表面改質の後さらに熱処理を施すことによって、極めて分散性良く触媒粒子を担持した複合材料を提供することができることを見出し、本発明に至ったのである。また本発明は、構造炭素材料の表面官能基について昇温脱離分析法によって詳細に分析することにより、湿式処理と熱処理の各工程の前後において、構造炭素材料の表面状態が変化し、その表面状態の変化が複合材料の触媒粒子の分散性および濃度に影響を与えるということを見出してなされたものである。
【0012】
すなわち、本発明では、触媒粒子を担持させる前に、担体となる構造炭素材料に対して湿式処理による表面改質を行った後、続いて熱処理を施す。これにより、構造炭素材料に充分な量の付着サイトが導入され、続いて、良質な付着サイトに改質される。これらの処理工程の後、触媒粒子を担持させる処理を施すことによって、触媒粒子が高濃度かつ均一に分散担持された複合材料が製造される。さらに本発明では、上記熱処理を真空中または不活性雰囲気中で施すことによってさらに、製造される複合材料の分散性を改善することができる。また、熱処理により付着サイトが良質なものに改質されるため、触媒粒子がより安定に担持されることとなり、複合材料の製造工程または使用環境下における、触媒粒子の凝集・粗大化を好適に改善する。
【0013】
すなわち本発明によれば、
担体と、前記担体に担持された触媒粒子とを含む複合材料であって、前記複合材料は、
構造炭素材料に対して湿式処理を施して表面改質する工程と、
湿式処理が施された前記構造炭素材料に対して熱処理を施して、前記担体を得る工程と
を含む方法により製造される、複合材料が提供される。
【0014】
前記触媒粒子は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金および金からなる群から選らばれた少なくとも1以上の金属元素を含むことができる。前記構造炭素材料は、単層カーボン・ナノチューブ、多層カーボン・ナノチューブ、カーボン・ナノホーン、フラーレン、フラーレン・ナノウィスカ、カーボン・ナノファイバ、ナノグラファイト、カーボン・ナノフィラメントおよびこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上のナノ構造炭素材料を含むことができる。
【0015】
さらに本発明によれば、上記のいずれかの複合材料を含む、触媒材料が提供される。さらに本発明によれば、上記のいずれかの複合材料から構成される電気化学デバイスが提供される。
【0016】
また本発明によれば、
触媒粒子を担持する複合材料の製造方法であって、
前記製造方法は、
構造炭素材料に対して湿式処理を施して表面改質する工程と、
湿式処理が施された前記構造炭素材料に対して熱処理を施す工程と、
熱処理が施された前記構造炭素材料を担体として、前記触媒粒子を担持させる工程と
を含む製造方法が提供される。
【0017】
前記熱処理を施す工程は、真空中または不活性雰囲気中で行われることができる。前記製造方法は、前記触媒粒子を担持した前記担体を、さらに還元雰囲気中で焼成する工程をさらに含むことができる。前記構造炭素材料は、単層カーボン・ナノチューブ、多層カーボン・ナノチューブ、カーボン・ナノホーン、フラーレン、フラーレン・ナノウィスカ、カーボン・ナノファイバ、ナノグラファイト、カーボン・ナノフィラメントおよびこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上のナノ構造炭素材料を含むことができる。
【0018】
前記担持させる工程は、熱処理が施された前記構造炭素材料を、触媒金属化合物を含む前駆溶液に含浸させる工程と、前記前駆体溶液の溶媒を蒸発させる工程とを含むことができる。前記金属化合物は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金および金からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属塩または金属錯体とすることができる。前記触媒粒子は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金および金からなる群から選択される元素を含むことができる。
【0019】
本発明によれば、充分な化学特性、導電特性、触媒特性を与え、構造制御された複合材料を提供することができる。また、本発明の複合材料は、燃料電池の燃料極や空気極、電気分解用電極など、導電特性および熱・化学的耐性が必要とされる電気化学デバイスのための電極材料として使用することができる。また、本発明の複合材料は、燃料電池の電極材料としての利用に限定されるものではなく、一般的なエネルギー変換や物質変換の際に使用する触媒材料として使用することができる。さらに本発明によれば、触媒性能の安定性、省資源、省コストの点からも、改善された複合材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を具体的な実施形態をもって説明するが、本発明は、後述する実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の特定の実施形態における複合材料10の概略図を示す。図1に示す複合材料10は、担体12と、担体12上に付着した触媒粒子14とから形成されている。触媒粒子14は、担体12の表面近傍に形成された付着サイト(担体材料の表面欠陥)に局在化して形成され、担体12に分散担持された構造とされる。なお、分散担持とは、触媒粒子が凝集せずに良好な分散状態で担持されることをいう。また、触媒粒子14の担体12に対する付着量は、本発明では、概ね複合材料の質量に対して、5質量%〜90質量%の割合となるように、触媒粒子14を付着させることができる。
【0022】
本発明で使用することができる担体12の材料としては、導電性や耐食性の観点から、構造炭素材料を使用することが好ましく、ナノ構造炭素材料を使用することがより好ましい。ここで、構造炭素材料は、カーボンブラックや活性炭(アセチレンブラック)などの無定形炭素とは区別された、特定の結晶構造を有する炭素材料をいい、ナノ構造炭素材料は、ナノメートル・オーダーの特定の微細高次構造を有する構造炭素材料をいう。
【0023】
上述の構造炭素材料としては、グラファイト、高配向性熱分解グラファイト、カーボン・ファイバ、カーボン・ウィスカー、およびカーボン・フィラメントを挙げることができる。上述のナノ構造炭素材料としては、単層カーボン・ナノチューブ(以下SCNTとして参照する。)、多層カーボン・ナノチューブ(以下MCNTとして参照する。)、カーボン・ナノホーン、フラーレン、フラーレン・ナノウィスカ、カーボン・ナノファイバ、ナノグラファイト、およびカーボン・ナノフィラメントを挙げることができる。
【0024】
触媒粒子14を有効に担持させるという観点では、大きな比表面積を有する材料を使用することが好ましく、このような大きな比表面積を有する材料としては、例えば、SCNTやMCNTなどを採用することができる。さらに、高い導電特性を与える点では、高アスペクト比の材料を使用することが好ましく、このような高アスペクト比の材料としては、SCNT、MCNT、カーボン・ファイバ、カーボン・ナノファイバ、カーボン・ウィスカーなどを採用することができる。本発明では、結晶構造を有することにより無定形炭素材料と比較して優れた物理・化学特性を有する一方、充分に触媒粒子を担持させることが困難な上記構造炭素材料に対して、触媒粒子の担持処理の前に、担体材料に対して複数段階の改質処理を施す。
【0025】
以下、製造方法を説明しながら、複合材料10について詳細を説明する。図2は、本実施形態の複合材料10の製造方法を示すフローチャートである。本発明において、上述の触媒粒子14を担持した複合材料10は、図2に示した方法により作製することができる。図2に示した製造方法は、まず工程S101で、担体材料に対して、湿式処理を施して、触媒粒子を吸着させるための付着サイトを導入する(湿式処理による表面改質)。工程S102では、湿式処理を施した担体材料に対し、さらに熱処理を施し、導入された付着サイトをより良好な付着サイトへ改質する。工程S103では、熱処理を施した担体材料に触媒粒子を担持させ、工程S104で、触媒粒子を担持した担体材料を焼成して、不純物の除去および触媒粒子の触媒活性を向上させる。上記方法により、触媒粒子14が高濃度かつ安定的に分散担持された複合材料10が得られる。なお、担持された触媒粒子に対して濃度というときには、単位体積または単位面積当たりの粒子数をいう。以下、各処理工程の詳細について説明する。
【0026】
湿式処理
本発明において、担体材料に付着サイトを形成するための湿式処理としては、例えば、酸処理を挙げることができる。付着サイトを生成させるための酸としては、硫酸(HSO)、硝酸(HNO)、塩酸(HCl)、またはこれらの混合物の他、燐酸、ポリ燐酸、フッ化水素酸(HF)、そのほかカルボン酸類などを挙げることができる。構造炭素材料からなる担体材料に対して酸処理を施すことによって、構造炭素の5員環や6員環などの結晶構造に表面欠陥が形成され、表面欠陥には、カルボキシル基(COOH)、フェノール性水酸基(OH)、カルボニル基(C=O)、エーテル(−O−)その他、ラクトン基、キノン基、無水カルボキシル基などの表面官能基が導入され、これらが付着サイトを構成する。
【0027】
さらに本発明において、付着サイト生成のための湿式処理としては、上述した酸処理以外にも、過酸化水素、過炭酸ソーダ、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの酸化剤を使用した酸化処理など、構造炭素材料へ表面欠陥および表面官能基を導入することができる限り、いかなる湿式処理を採用することができる。
【0028】
本発明において酸を使用して付着サイトの形成処理を行う場合、その条件は、温度として、40℃〜150℃の範囲とすることができ、処理時間としては、0.1時間〜10時間とすることができる。また、処理のために使用する酸は、適切な溶媒で希釈した酸でもよく、また希釈しない濃硫酸、濃硝酸、濃塩酸などの酸をそのまま使用することができる。本発明において酸処理条件を過酷にする場合、担体材料への影響が大きくなり、激しい場合には、担体材料の構造が破壊される場合もある。このため、本発明の酸を使用した付着サイト形成処理は、例えば、カーボン・ナノチューブを担体材料とした場合、80℃で0.5時間〜6時間または140℃で0.1時間〜5時間、より好ましくは120℃で2時間〜6時間の条件とすることで、好適な分量の付着サイトの形成を行うことができる。
【0029】
熱処理
本発明においては、湿式処理を施して表面改質した担体材料に対して、さらに熱処理を施して、付着サイトを改質させる。熱処理は、大気中、真空中または不活性雰囲気下において行うことができるが、得られる複合材料における、触媒粒子の濃度、分散性、安定性の観点から、真空中または不活性雰囲気中で行うことが好ましい。熱処理は、電気炉などを用いて、大気中または、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトンやキセノンなどの不活性ガスで炉内を置換した不活性雰囲気中で行うことができる。また、真空装置を用いて、真空チャンバー内で赤外線照射によって熱処理を施すこともできる。
【0030】
湿式処理を施して付着サイトを導入した担体材料に対して熱処理を施すことによって、湿式処理で導入された表面官能基が担体材料表面から脱離し、比較的触媒粒子との親和性を有する官能基や化学活性の高いダングリングボンド(あるいはダイマー化したもの)が残された表面状態が形成され、付着サイトが改質されることとなる。図8は、熱処理によってグラフェン・シート構造から脱離する官能基および脱離温度を模式的に示す。例えばカーボン・ナノチューブに対して真空中で熱処理を行った場合、カルボキシル基(COOH)が200℃程度以上で、無水カルボキシル基が550℃程度以上で、フェノール性水酸基が650℃程度以上で、エーテルおよびラクトンが700℃程度以上で、カルボニル基およびキノン基が800℃程度以上で、カーボン・ナノチューブの表面近傍から脱離し始める。
【0031】
本発明では、カルボキシル基を充分に脱離させる温度以上で熱処理を施すことが好ましく、より多くの種類の表面官能基を脱離させる温度以上とすることがより好ましい。一方、熱処理条件が高温である場合、担体材料の結晶構造への影響が大きくなり、担体材料の表面欠陥が再構成されて、付着サイトが減少することとなる。このため、本発明の熱処理条件の温度および処理時間は、担体となる構造炭素の結晶構造を大きく変化させない範囲とすることができ、担体の材料構成に合わせて適切な条件で行うことができる。
【0032】
例えば、カーボン・ナノチューブに対して、大気中において熱処理を行う場合、その条件は、温度として、200℃〜700℃程度の範囲とすることができ、処理時間としては、0.1時間〜10時間程度とすることができる。真空中または不活性雰囲気下において熱処理を行う場合、その条件は、温度として、200℃〜2000℃程度の範囲とすることができ、処理時間としては、0.1時間〜10時間程度とすることができる。なお、酸素を含まない雰囲気中で熱処理を施した方が、余剰に官能基が導入されないため、この観点からも真空中または不活性雰囲気中で熱処理を施すことが好ましい。
【0033】
担持処理および焼成
本発明において、触媒粒子を担体材料に担持させる処理としては、例えば、触媒金属化合物(金属塩または金属錯体)を含有する前駆溶液に担体材料を浸して触媒金属を担体材料に担持させる、いわゆる含浸法を用いることができる。含浸法では、触媒金属化合物を加えた前駆溶液に担体材料を含浸させ、担体材料を溶液中に含浸させた状態で溶媒を蒸発させる。これにより、触媒金属粒子が担体表面の付着サイトに担持された複合材料が得られる。その後、得られた複合材料を、好ましくは還元雰囲気下(純水素雰囲気など)で焼成することにより、有機不純物が除去され、触媒金属が良好に結晶化され、触媒活性が改善された複合材料10が得られる。触媒粒子14の担体12に対する付着量は、使用した触媒金属化合物の溶媒に加えた量に応じて変化させることができる。
【0034】
なお、前駆溶液としてエタノール溶液などを用いる場合は、溶媒の蒸発とともに還元されて触媒金属粒子が得られるが、例えば前駆溶液として水溶液を用いる場合には、金属塩、水酸化物などの前駆体物質が付着し、後続する還元雰囲気中で焼成することによって触媒金属粒子が得られることとなる。
【0035】
上述した触媒金属化合物としては、遷移金属塩や遷移金属錯体を挙げることができ、より具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金および金からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属塩または金属錯体を挙げることができる。
【0036】
例えば白金を担持させる場合には、触媒金属化合物としては、ヘキサクロロ白金酸、テトラニトロ白金酸、テトラ(オキサラト)白金酸、ジニトロジアンミン白金、ジニトロジアンミン白金硝酸塩、シス−ジアンミンジアクア白金硝酸塩、トランス−ジアンミンジアクア白金硝酸塩、シスジニトロジアクア白金、テトラアンミン白金水酸塩、ヘキサアンミン白金水酸塩、テトラアンミン白金塩化物、ヘキサアンミン白金塩化物、ヘキサヒドロキシ白金酸、酸化白金、塩化白金(I)、塩化白金(II)、テトラクロロ白金酸カリウムを使用することができる。その他ルテニウムを担持させる場合には、触媒金属化合物としては、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、酢酸ルテニウム、テトラニトロシルジアクアルテニウム、ヘキサアンミンルテニウム硝酸塩、ペンタアンミンアクアルテニウム硝酸塩、ニトロシルペンタアンミンルテニウム硝酸塩、ヒドロキソニトロシルテトラアンミンルテニウム硝酸塩を使用することができる。その他の金属元素に関しても、類似の金属塩または金属錯体を使用することができる。また、上記の化合物の混合物を用いることもできる。
【0037】
熱処理により付着サイトを改質した担体材料に対して、含浸法により触媒金属を担持させることにより、遷移金属からなる触媒粒子、より具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金および金からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む触媒粒子14が、担体12に高濃度かつ安定的に分散担持された複合材料10を得ることができる。また熱処理によって付着サイトの化学活性が高められるため、含浸法においては、改質された付着サイトが触媒金属の核を発生させる良好な基点としても機能する。また改質された付着サイトは、触媒金属粒子を安定的に担持するため、焼成過程での凝集・粗大化が好適に抑制され、非常に微細な触媒粒子を分散担持した複合材料が得られる。その際は、担持された触媒粒子の粒径分布範囲が狭く、良好に構造制御された複合材料が得られる。
【0038】
得られる複合材料10の触媒粒子14の粒径は、概ね0.5nm〜30nmとすることができ、比表面積を大きくする観点から、より好ましくは、0.5nm〜10nmの範囲とすることができ、さらに好ましくは、0.5nm〜5nmとすることができる。また本発明では、担持された触媒粒子の数は、複合材料に対する触媒粒子の担持量として30質量%程度とし、0.5nm〜30nm程度の粒径の触媒粒子を担持させる場合には、充分な触媒の有効面積を得る観点から、0.005個/nm〜0.05個/nmの範囲とすることができ、より好ましくは、0.008個/nm〜0.05個/nmの範囲とすることができる。触媒粒子の粒径は、焼成条件の温度によっても変化し、より低温で焼成することによって、より微細で狭い粒径分布を有した触媒粒子が得られる。また、触媒粒子の担持量を一定とした場合、より微細な触媒粒子を担持させることによって、より多数の触媒粒子を担持することが可能となる。なお、複合材料を還元雰囲気中で焼成する条件としては、より微細な触媒粒子を得る観点から、温度として、100℃〜400℃程度の範囲とすることが好ましく、処理時間としては、0.5時間〜10時間程度とすることが好ましい。
【0039】
さらに本発明において、触媒粒子を担体材料に担持させる処理としては、上述した含浸法以外にも、共沈法やゾルゲル法、触媒粒子のコロイド分散溶液を用いたコロイド法など、触媒粒子を付着サイトに担持させることができる限り、いかなる方法を採用することができる。例えば、コロイド法を用いる場合、あらかじめ調製しておいた触媒粒子のコロイド分散液に担体材料を浸して、あるいは、担体材料を分散させた溶液中で触媒粒子を合成して、溶液中で触媒粒子を担体表面の付着サイトに吸着させることにより行う。コロイド法を用いて担持することができる触媒粒子としては、遷移金属を含む粒子を挙げることができ、より具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金および金からなる群から選択される元素の金属粒子、または、上記群から選択される1以上の種類の元素を含む合金粒子を用いることができ、これまで知られた如何なる方法で合成された触媒粒子を使用することができる。金属層または合金層によって被膜された複合粒子、その他、助触媒特性を示す金属酸化物を含む複合粒子をコロイド法により担持させることもできる。
【0040】
さらに本発明において、触媒粒子の担体処理として、助触媒特性を示す金属酸化物の粒子を担体材料に担持させ、続いて、金属酸化物粒子を金属層で被膜する方法を採用することにより、金属層が被膜された複合粒子を担持する複合材料を提供することができる。上述の金属酸化物としては、ゾルゲル法、沈殿法、共沈法などこれまで知られた如何なる方法を使用して、前駆体物質から水酸化物などのゲルを形成させ、その後適切な条件での熱処理によって形成することができる酸化物を挙げることができる。より具体的には、酸化スズ、酸化チタン、酸化コバルト、酸化タングステン、酸化モリブテン、酸化アルミニウム、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化インジウム、酸化鉛などを挙げることができ、これらの金属酸化物は、酸素不足、または金属不足、または酸素過剰、または不定比の量論的組成を有していてもよい。また上述した複合粒子を被膜する金属層は、酸化還元反応により金属を与えることができる金属前駆体物質から形成される。なお、金属層を被膜した金属酸化物からなる複合粒子の担持についての詳細な処理は、例えば、特開2006−193392号公報を参照することができる。
【0041】
上述したように、優れた物理・化学特性を有する一方、無定形炭素に比して付着サイトが少ない構造炭素に対して、湿式処理を施すことによって表面改質し、付着サイトを導入することができる。担体に付着サイトを導入した後、さらに熱処理を施すことによって、付着サイトの化学活性を向上させ、付着サイトを好適に改質することができる。改質された付着サイトには、触媒粒子が安的的に分散性高く担持され、続く焼成過程での凝集・粗大化を好適に抑制することができ、非常に微細な触媒粒子を分散担持した複合材料を得ることを可能とする。
【0042】
本発明の複合材料10は、構造炭素材料からなる担体12に触媒粒子14が付着した、ナノレベルで構造制御された構造を有している。そのため、高い触媒性能、その安定性を備えた、省資源・省コストな触媒材料として使用することができる。また本発明の複合材料10は、高い導電率、耐食性、耐熱性を有する構造炭素材料からなる担体材料に担持されているため、導電性能、化学特性の面から高い性能を要求される電気化学デバイスに好適に使用することができる。図3は、本発明の複合材料10を電気化学デバイスとして構成した場合の実施形態を示す。
【0043】
図3に示した電気化学デバイスは、燃料電池20として構成されており、図3に示した燃料電池20は、より詳細には、燃料物質を格納する燃料供給部22と、燃料の酸化により生成したプロトンと反応する酸素を蓄積する酸素供給部24と、燃料を酸化させ、酸化により生成された電子を外部に供給するための膜・電極集合体26とを含んでいる。燃料供給部22には、水素、メタノールなどの燃料が供給され、酸素供給部24には、空気、酸素などの酸化剤が供給されている。膜・電極集合体26は、燃料供給部22に供給される燃料に露出される燃料極(アノード)28と、酸素供給部24に供給される酸素に露出される空気極(カソード)30と、燃料極28と空気極30との間に配置されたイオン導電性の固体電解質32とを備えており、担体に触媒粒子を付けた触媒材料と電解質材料を混合した導電性成形体を、固体電解質32の両面に接合させた構造を有する。
【0044】
固体電解質32は、これまで知られたいかなる高分子電解質、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエステル、ポリアミン、ポリスルフィ戸、PAN、スルホン酸基を含むフッ素高分子(ナフィオン(登録商標))などから形成されていて、燃料極28と空気極30との間におけるイオン輸送の媒体として働いている。なお、上述した高分子電解質は、さらに一般的には、「導電性高分子」、緒方直哉編、株式会社講談社サイエンティフィック、第1刷、1990年2月10日発行に記載された化合物を、ドーピングまたは無ドーピングとして使用することができる。
【0045】
また、図3に示した膜・電極集合体26の燃料極28と空気極30には、導電配線34が接続されている。導電配線34は、さらに燃料電池20の外部へと導き出され、負荷36に接続され、負荷36は、燃料電池20から供給されるエネルギーを消費している。図3に示した燃料極28は、少なくとも本発明の複合材料10を含む導電性成形体として形成することができる。また、本発明の複合材料10は、空気極30としても使用することができる。
【0046】
本発明において複合材料10を含む導電性成形体は、例えば、本発明の複合材料と電解質とを適切なバインダ樹脂および溶媒と混合して塗料とし、固体電解質32表面にスプレー・コーティング、ディップ・コーティングなどのコーティングを使用して形成することができる。また、上述した導電性成形体は、例えば複合材料を多孔質膜や多孔質プレート状に成形しておき固体電解質の成型時に多孔質体を一体化させることによっても形成させることができる。また、本発明において多孔質体を形成させる場合にはイオン導電性材料を含む結着剤樹脂中に本発明の複合材料を分散させておき、膜またはプレートに成形後に結着剤樹脂を除去するなどの方法によっても製造することができる。本発明において導電性成形体の製造および燃料極28の固体電解質への一体化については、これまで知られたいかなる方法を使用しても行うことができる。
【0047】
また、本発明の複合材料10は、燃料電池の電極材料としての利用に限定されるものではなく、二次電池用電極などの他一般的なエネルギー変換への用途、水素化反応などの他一般的な物質変換への用途などの触媒材料として使用することもできる。
【0048】
以下、本発明の複合材料について実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明は特定の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
酸処理
株式会社マイクロフェーズから入手したMCNT(純度>90%)を、500℃で1時間、大気中で加熱して精製した。精製したMCNTを2g秤量した。秤量したMCNTを、濃硝酸(和光純薬工業製 硝酸含量69%)を80mlと2M硫酸(和光純薬工業製 硫酸含量97%)を80mlとの混合溶液を蓄えた処理槽に投入した。オイルバス(株式会社日伸理化製 NWB−240)を使用し、処理槽中のMCNTを含む混合溶液を、120℃で4時間、撹拌しながら沸騰させ加熱した。その後、MCNTを含む混合溶液を、800mlの超純水で希釈し、さらに3時間攪拌した。MCNTを含む混合溶液を濾過して、濾紙上に残されたMCNTを、150mlの超純水を使用して3回洗浄し、乾燥させた。以下、上記の酸溶液による処理を施した後のMCNTを、酸処理済MCNTとして参照する。
【0050】
熱処理
酸処理済MCNTを、真空ガス置換炉(株式会社デンケン製 KDF−75)内に入れ、炉内から空気を排気し、アルゴンを充満させて、炉内を不活性雰囲気とした。その後、炉内の温度を2時間かけて700℃まで昇温し、さらに15分間保持し、不活性雰囲気中で酸処理済MCNTに熱処理を施した。以下、上記の熱処理を施した後のMCNTを、熱処理済MCNTとして参照する。
【0051】
担持処理および焼成
熱処理済MCNTを、担持白金量換算で30重量%となるように、1g−Pt/lに調製したジニトロジアンミン白金のエタノール溶液に含浸させ、ホットスターラを使用して、溶液温度を40℃〜60℃に保ち撹拌しながら、エタノール溶媒を蒸発させ、担持処理を施した。以下、上記の担持処理を施した後のMCNTを、白金担持MCNTとして参照する。本実施例ではさらに、白金担持MCNTを、純水素雰囲気中200℃で2時間焼成し、本発明の複合材料を得た。以下、上記の担持処理および焼成を施した後のMCNTを焼成済白金担持MCNTとして参照する。
【0052】
電子顕微鏡像
上述の処理によって得られた白金担持MCNTおよび焼成済白金担持MCNTの構造を、透過型電子顕微鏡(株式会社日立製作所 H8100)を用いて観察した。図4は、本実施例の複合材料(白金担持MCNT)の透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)像を示す。図4(A)は、焼成する前の白金担持MCNTのTEM像(約5万倍)を示し、図4(B)は、焼成済白金担持MCNTのTEM(約10万倍)を示す。なお図4の各図中には、20nmのスケールが示されている。TEM像においては、白金触媒粒子は、比較的濃く略球状の粒子として観察され、MCNTは、比較的淡く繊維状(あるいは管状)に観察された。
【0053】
図4(A)には、5nm程度の粒径を有する白金触媒粒子が、30nm〜70nm程度の直径を有したMCNTの表面全体にわたって、無数に担持されている様子が示されている。また図4(B)には、1nm〜12nm程度の粒径を有する白金触媒粒子が、MCNTの全体にわたって、高い分散性で担持されている様子が示されている。
【0054】
図4(B)のTEM像を元に、白金触媒粒子の粒径および粒子数でカウントしたところ、1nm〜12nm程度の範囲の粒径分布を有し、平均粒径が3.98nmであった。図7は、焼成済白金担持MCNTについて、粒径と粒子数の分布を示すヒストグラムである。図7に示したヒストグラムは、TEM像を目視(スケールを使用)して、粒径を計測してカウントし、横軸を粒径の範囲、縦軸を対応する粒子数としてヒストグラム化したものである。図7(A)は、本実施例における焼成済白金担持MCNTのヒストグラムを示す。図7(A)には、粒径が3nmから4nmの範囲の粒子数がピークを示し、比較的狭い粒径分布を有していることが示されている。また、図4(B)に示したTEM像を元に、単位面積当たりの粒子数をカウントしたところ、概ね0.008〜0.015個/nm程度の粒子数の触媒粒子が担持されていた。なお、粒子数のカウントは、MCNTの重なりがない領域を対象として行った。
【0055】
さらに表1には、得られた複合材料(焼成済白金担持MCNT)の評価結果を示す。評価項目は、代表的な平均粒径と、分散性と、総合評価とから構成されている。なお、平均粒径は、上述の通り、得られたTEM像から粒径および粒子数をカウントして算出した。分散性の評価は、TEM像から目視で判断され、担体に一様に分散性良く担持されている様子が観測された場合を○として、偏った粒子分布を有し多くの触媒粒子が凝集してしまっている様子が観測された場合を×とした。
【0056】
さらに、総合評価の判断は、得られた各複合材料について、担持された触媒粒子の分散性、平均粒径、粒子分布の均一性、粒径分布範囲を判断材料として、総合的に判断した。粒子分布の均一性、粒子の分散性の観点から優れている場合○あるいは◎とし、粒子分布の均一性、粒子の分散性の観点から、多くの触媒粒子が凝集(均一に分散されず葡萄の房のように集合している様子)して担持されている場合は、×とした。また、粒子分布の均一性および分散性の観点から優れている場合であって、粒子が微細で、かつ、粒径分布範囲が狭い場合を◎とし、◎と比較して粒径が大きく粒径分布範囲が広い場合を○とした。一般に、担持量(質量%)が一定であれば、触媒粒子が微細になればなるほど、触媒部分の表面積が増大するため、触媒活性が増大する。また分散性が高い場合には、凝集による有効面積の減少や、使用環境下でのさらなる凝集・粗大化を好適に改善できるものと考えられる。なお、本実施例の複合材料は、○と判断された。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例2)
試料の作製(酸処理、熱処理、担持処理、焼成)
実施例1と同じ手順で、酸処理済MCNTを得た。次に酸処理済MCNTを、円筒型電気炉内に設置したパイレックス(登録商標)製のパイプ内に入れ、パイプ内をArガス(流量180cc/min)で1時間かけて空気を排気して、パイプ内を不活性雰囲気とした。Arガスを流しながら、炉内の温度を2時間30分かけて900℃まで昇温させ、さらに1時間保持し、不活性雰囲気中で酸処理済MCNTに対して熱処理を施した。なお炉内の温度は、コントローラ(SHIMADEN製)で制御した。実施例1と同じ手順で、熱処理済MCNTに対して担持処理を施し、白金担持MCNTを得た。また、還元雰囲気中で焼成し、焼成済白金MCNTを得た。
【0059】
電子顕微鏡像
上述の処理によって得られた白金担持MCNTおよび焼成済白金担持MCNTの構造を、透過型電子顕微鏡を用いて観察した。図5は、本実施例の複合材料(白金担持MCNT)のTEM像を示す。図5(A)は、焼成する前の白金担持MCNTのTEM像(約20万倍)を示し、図5(B)は、焼成済白金担持MCNTのTEM(約10万倍)を示す。なお図5(A)および図5(B)の図中には、それぞれ、5nmおよび20nmのスケールが示されている。
【0060】
図5(A)には、1nmまたはそれ以下の粒径を有する非常に微細な白金触媒粒子が、MCNTの表面全体にわたって、均一に分散担持されている様子が示されている。図5(B)には、0.5nm〜5nm程度の粒径を有する白金触媒粒子が、MCNTの全体にわたって、高い分散性で担持されている様子が示されている。また図5(A)と(B)とを比較すると、焼成済白金担持MCNTの方が、焼成前の白金担持MCNTよりも、明白に大きくなっていることが示される(図5(A)の倍率が20万倍であることに注意されたい。)。これは、担持された微細な触媒粒子が、焼成過程で、凝集・粗大化していることを意味する。
【0061】
図5(B)のTEM像を元に、白金触媒粒子の粒径および粒子数でカウントしたところ、0.5nm〜5nm程度の範囲の粒径分布を有し、平均粒径が2.51nmであった。図7(B)は、本実施例における焼成済白金担持MCNTのヒストグラムを示す。図7(B)によると、粒径が2nmを中心とした1nmの範囲の粒子数がピークを示し、非常に狭い粒径分布を有していることが示されている。また図5(B)に示したTEM像を元に、単位面積当たりの粒子数をカウントしたところ、概ね0.016〜0.022個/nm程度の粒子数であった。表1には、本実施例で得られた複合材料(焼成済白金担持MCNT)の評価結果を示す。本実施例の複合材料は、非常に粒径分布範囲が狭く、平均粒径も非常に小さいことから、◎と判断された。
【0062】
実施例1の実験結果との比較から、より高温条件で熱処理を施すことによって、より微細な触媒粒子が担持され、より優れた触媒性能が期待される複合材料が得られることが示された。また、本実施例の複合材料の方が、実施例1で得られるものと比較して、焼成前の平均粒径が非常に小さく、焼成後の平均粒径および粒径分布範囲がより小さく・より狭くなっている。このことから、より高温条件で熱処理を施すことによって、焼成する前の段階で、非常に小さな粒径を有する触媒粒子を一様に分散担持することを可能とし、これによりさらに、焼成後もより粒径が揃い平均粒径が小さな触媒粒子が担持された複合材料が得られることが示された。
【0063】
(比較例1)
試料の作製(酸処理、熱処理、担持処理、焼成)
実施例1と同じ手順で、酸処理済MCNTを得た。熱処理を施さずに、酸処理済MCNTを、実施例1および実施例2と同様に、白金担持量が30重量%となるように担持処理を施し、得られた白金担持MCNTを純水素雰囲気中200℃で2時間焼成し、本比較例の複合材料を得た。
【0064】
電子顕微鏡像
図6は本比較例の複合材料(白金担持MCNT)のTEM像を示す。図6(A)は、焼成する前の白金担持MCNTのTEM像(約5万倍)を示し、図6(B)は、焼成済白金担持MCNTのTEM(約10万倍)を示す。なお図6の各図中には、20nmのスケールが示されている。
【0065】
図6(A)には、1nm〜10nm程度の粒径を有する白金触媒粒子が、MCNTの表面に担持されているものの、白金触媒粒子が集中している部分と、白金触媒粒子が非常に疎に担持されている部分とが存在することが示されている。また、白金触媒粒子が集中している部分では、粒子同士が凝集していることが示されている。図6(B)には、1nm〜20nm程度の粒径を有する白金触媒粒子が、MCNTに担持されている様子が示されている。しかしながら、図6(B)は、粒径の分布が非常に広い範囲にわたっていることが示されている。
【0066】
図6(B)のTEM像を元に、白金触媒粒子の粒径および粒子数でカウントしたところ、1nm〜20nm程度の範囲の粒径分布を有し、平均粒径が6.14nmであった。図7(C)は、本比較例における焼成済白金担持MCNTのヒストグラムを示す。図7(C)によると、粒径が2nmを〜3nmの範囲の粒子数がピークを示しているものの、ピークがブロードで、かつ、大きなサイズ側へすそのが広がっており、非常に広範囲にわたる粒径分布を有していることが示されている。また図6(B)に示したTEM像を元に、単位面積当たりの粒子数をカウントしたところ、概ね0.0045〜0.008個/nm程度の粒子数であった。表1には、本比較例の複合材料(焼成済白金担持MCNT)の評価結果を示す。本比較例の複合材料は、非常に粒径分布範囲が広く、平均粒径も大きく、分散性も不充分であることから、×と判断された。
【0067】
比較例1と、実施例1および実施例2との比較から、酸処理を施したMCNTに対して熱処理を施すことにより、構造炭素材料からなる担体に触媒粒子を非常に分散性良く担持させることが可能となり、これにより焼成された後の複合材料においても、粒径分布範囲が狭く微細な触媒粒子が高濃度(例えば、0.01/nm〜0.021/nm)に分散担持された複合材料を得ることができることが示された。また、実施例1および実施例2の複合材料の方が、比較例1で得られるものと比べ、焼成後の平均粒径が小さくなっている。このことから、焼成過程における凝集・粗大化が抑制されていることが示され、熱処理を施した方が、より安定に分散担持され、付着サイトが改質されていることが示された。含浸法以外の方法で触媒粒子を担持する場合も同様に、湿式処理による改質の後さらに熱処理を施すことによって、より微細な触媒粒子を均一に分散担持させることが可能となるものと考えられる。
【0068】
(実施例3)
昇温脱離測定
実施例1と同様の手順でえられた、熱処理前のMCNT(酸処理済MCNT)と、酸処理および熱処理後のMCNT(熱処理済MCNT)とを昇温脱離分析装置(電子科学株式会社製 EMD−WA1000S/W)により評価した。昇温脱離測定では、評価対象を速度30℃/minで室温から1000℃まで昇温させながら、担体からの二酸化炭素(CO)および一酸化炭素(CO)の放出量の時系列を計測し、脱離した官能基について分析を行った。
【0069】
熱処理済(700℃)MCNTでは、酸処理済MCNTで観測される低温側(150℃〜400℃)のカルボキシル基に起因するCOの放出ピークが見られず、熱処理済MCNTでは、カルボキシル基が非常に少なくなっていることが示された。さらに、無水カルボキシル基、カルボニル基、キノン基、フェニル基、エーテルに起因するCO放出量に関しても、熱処理済MCNTでは、酸処理済MCNTと比較して全体的に減少し、これらの官能基も一部脱離していることが示された。また、熱処理済MCNTでは、酸処理済MCNTで観測される中温領域(350℃〜600℃)の無水カルボキシル基の脱離に起因するCOおよびCO放出のショルダーも見られず、熱処理済MCNTでは、無水カルボキシル基についても少なくなっていることが示された。
【0070】
また、熱処理済MCNTに対して担持処理を施して得られるものが実施例1の複合材料に対応し、酸処理済MCNTに対して担持処理を施して得られるものが比較例1の複合材料に対応する。昇温脱離分析による分析結果と電子顕微鏡による観察結果とを合わせると、酸処理済MCNTに存在しているカルボキシル基およびその他の官能基を脱離させるように熱処理を施すことによって、触媒粒子をMCNTに均一に分散担持させることが可能となることが示された。また、触媒粒子を担持させた複合材料をさらに焼成した後も、非常に良く粒径制御(粒径分布範囲が狭く)がなされ、ナノメートル・オーダーの非常に微細な触媒粒子が担持された複合材料が得られることが示された。つまり、熱処理によって付着サイトが改質され、より良好に触媒粒子を担持することができるように改良することができることを意味している。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、充分な化学特性、導電特性・触媒特性を与え、構造制御された複合材料を提供することができる。また、本発明により製造された複合材料は、燃料電池の燃料極や空気極、電気分解用電極など、導電特性および熱・化学的耐性が必要とされる電気化学デバイスのための電極材料として使用することができる。さらに本発明の複合材料は、燃料電池の電極として使用される場合、使用または廃棄される触媒金属として使用される貴金属または希少金属の使用量を減少させることができ、燃料電池のコストを低下することを可能とする。さらに、本発明の複合材料は、燃料電池の電極材料だけでなく、二次電池用電極、酸化還元触媒など、触媒特性や物理・化学特性の要求されるいかなる用途にも適用することができる。
【0072】
これまで本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の実施形態は上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の特定の実施形態における複合材料10の概略図。
【図2】本実施形態の複合材料10の製造方法を示すフローチャート。
【図3】本発明の複合材料を電気化学デバイスとして構成した場合の実施形態を示す図。
【図4】実施例1の複合材料のTEM像。
【図5】実施例2の複合材料のTEM像。
【図6】比較例1の複合材料のTEM像。
【図7】複合材料に担持された触媒粒子の粒径分布を示すヒストグラム。
【図8】熱処理によってグラフェン・シート構造から脱離する官能基および脱離温度を模式的に示す図。
【符号の説明】
【0074】
10…複合材料、12…担体、14…触媒粒子、20…燃料電池、22…燃料供給部、24…酸素供給部、26…膜・電極集合体、28…燃料極、30…空気極、32…固体電解質、34…導電配線、36…負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と、前記担体に担持された触媒粒子とを含む複合材料であって、前記複合材料は、
構造炭素材料に対して湿式処理を施して表面改質する工程と、
湿式処理が施された前記構造炭素材料に対して熱処理を施して、前記担体を得る工程と
を含む方法により製造される、複合材料。
【請求項2】
前記触媒粒子は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金および金からなる群から選らばれた少なくとも1以上の金属元素を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記構造炭素材料は、単層カーボン・ナノチューブ、多層カーボン・ナノチューブ、カーボン・ナノホーン、フラーレン、フラーレン・ナノウィスカ、カーボン・ナノファイバ、ナノグラファイト、カーボン・ナノフィラメントおよびこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上のナノ構造炭素材料を含む、請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合材料を含む、触媒材料。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合材料から構成される電気化学デバイス。
【請求項6】
触媒粒子を担持する複合材料の製造方法であって、
前記製造方法は、
構造炭素材料に対して湿式処理を施して表面改質する工程と、
湿式処理が施された前記構造炭素材料に対して熱処理を施す工程と、
熱処理が施された前記構造炭素材料を担体として、前記触媒粒子を担持させる工程と
を含む製造方法。
【請求項7】
前記熱処理を施す工程は、真空中または不活性雰囲気中で行われる、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記製造方法は、前記触媒粒子を担持した前記担体を、さらに還元雰囲気中で焼成する工程をさらに含む、
請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記構造炭素材料は、単層カーボン・ナノチューブ、多層カーボン・ナノチューブ、カーボン・ナノホーン、フラーレン、フラーレン・ナノウィスカ、カーボン・ナノファイバ、ナノグラファイト、カーボン・ナノフィラメントおよびこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上のナノ構造炭素材料を含む、請求項6〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記担持させる工程は、熱処理が施された前記構造炭素材料を、触媒金属化合物を含む前駆溶液に含浸させる工程と、
前記前駆体溶液の溶媒を蒸発させる工程とを含む、請求項6〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記金属化合物は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金および金からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属塩または金属錯体である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記触媒粒子は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金および金からなる群から選択される元素を含む、請求項6〜11のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−183508(P2008−183508A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18820(P2007−18820)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】