説明

複合材料およびその製造方法

【課題】接着剤を使用しないで無機材料と当該無機材料とは異種材料であるポリオレフィン系樹脂材料とが強固に一体化された複合材料およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】無機材料およびポリオレフィン系樹脂材料を有する複合材料であって、親水性基を有する有機材料からなり、厚さが1〜50nmである薄膜を介して前記無機材料と前記ポリオレフィン系樹脂材料とが一体化されていることを特徴とする複合材料、ならびに無機材料の表面上に親水性基を有する有機材料からなる厚さが1〜50nmである薄膜を形成させ、当該薄膜が形成された無機材料およびポリオレフィン系樹脂材料に、それぞれ波長が100〜200nmである紫外線を照射した後、当該無機材料の薄膜上に前記ポリオレフィン系樹脂材料を積層し、無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを一体化させることを特徴とする複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、例えば、マイクロチップ、テレビの液晶保護膜などに有用な複合材料およびその製造方法に関する。本発明によれば、接着剤を使用しないで無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とが一体化 された複合材料が提供される。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン、ポリエチレン、シクロオレフィンポリマーなどのポリオレフィン系樹脂は、軽さ、機械的強度、耐薬品性などに優れていることから、樹脂フィルム、不織布、自動車用部品、電気機器用部品、カメラレンズなどの成形品に幅広く用いられている。
【0003】
ポリオレフィン系樹脂は、一般に親水性に劣り、化学的改質を受けにくいという性質を有することから、ポリオレフィン系樹脂の親水性および接着性を改善するための方法として、ポリプロピレン系樹脂成形物をオゾン気流下で処理することにより、その表面の親水性を改質するポリプロピレン系樹脂成形物の処理方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、前記処理方法によれば、ポリプロピレン系樹脂成形物の表面に親水性を付与するために当該ポリプロピレン系樹脂成形物をオゾン気流下で処理するのに約12時間以上の長時間を要し、さらに処理後のポリプロピレン系樹脂成形物の水に対する接触角が67°以上であることから、親水性が十分にポリプロピレン樹脂成形物の表面に付与されているとはいえない。
【0005】
また、接着性を向上させる高分子材料の改質方法として、高分子材料の表面に活性化処理を施した後、触媒または開始剤の存在下で親水性高分子化合物を用いて当該表面に処理を施す改質方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかし、前記改質方法は、高分子材料を改質するための操作が煩雑であるとともに、当該操作を行なうのに長時間を要し、さらに使用した触媒や未反応の開始剤を除去するために煩雑な後処理を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−103448号公報
【特許文献2】特許第3729130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、接着剤を使用しないで無機材料と当該無機材料とは異種材料であるポリオレフィン系樹脂材料とが強固に一体化された複合材料およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
(1) 無機材料およびポリオレフィン系樹脂材料を有する複合材料であって、親水性基を有する有機材料からなり、厚さが1〜50nmである薄膜を介して前記無機材料と前記ポリオレフィン系樹脂材料とが一体化されていることを特徴とする複合材料、および
(2) 無機材料およびポリオレフィン系樹脂材料を有する複合材料の製造方法であって、無機材料の表面上に親水性基を有する有機材料からなる厚さが1〜50nmである薄膜を形成させ、当該薄膜が形成された無機材料およびポリオレフィン系樹脂材料に、それぞれ波長が100〜200nmである紫外線を照射した後、当該無機材料の薄膜上に前記ポリオレフィン系樹脂材料を積層し、前記無機材料と前記ポリオレフィン系樹脂材料とを一体化させることを特徴とする複合材料の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、接着剤を使用しないで無機材料と当該無機材料とは異種材料であるポリオレフィン系樹脂材料とが一体化された複合材料およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の複合材料は、無機材料およびポリオレフィン系樹脂材料を有する複合材料であり、親水性基を有する有機材料からなり、厚さが1〜50nmである薄膜を介して前記無機材料と前記ポリオレフィン系樹脂材料とが一体化されていることを特徴とする。本発明の複合材料は、無機材料の表面上に親水性基を有する有機材料からなる厚さが1〜50nmである薄膜を形成させ、当該薄膜が形成された無機材料およびポリオレフィン系樹脂材料に、それぞれ波長が100〜200nmである紫外線を照射した後、当該無機材料の薄膜上に前記ポリオレフィン系樹脂材料を積層し、前記無機材料と前記ポリオレフィン系樹脂材料とを一体化させることによって製造することができる。
【0012】
本発明の複合材料の製造方法は、接着剤を使用することなく、ガラス、シリコンなどの無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを強固に一体化させることができるという利点を有する。さらに、本発明の複合材料の製造方法によれば、薬品などを使用することなく、親水性基を有する有機材料からなる厚さが1〜50nmである薄膜を介するだけで無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを強固に一体化させることができるので、簡単な操作で効率よく複合材料を製造することができることから、工業的生産性に優れた方法である。
【0013】
本発明に用いられる無機材料としては、例えば、石英ガラス、ソーダガラスなどのガラス、シリコン、シリカなどをはじめ、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロムなどの空気中に含まれる酸素によって酸化皮膜を形成し、不動態化する金属などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0014】
無機材料の形態としては、例えば、フィルム、シート、プレート(板)、管、棒、所望の形状に成形された成形体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、無機材料の大きさは、その用途によって異なるので一概には決定することができないことから、その用途に応じて適宜決定することが好ましい。なお、無機材料の表面は、ポリオレフィン系樹脂材料との密着性を向上させる観点から、平滑であることが好ましい。また、無機材料の表面は、ポリオレフィン系樹脂材料との密着性を向上させる観点から、例えば、純水、エタノールなどを用いて超音波などによって清浄化処理が施されていることが好ましい。
【0015】
なお、無機材料としてガラスを用いる場合には、当該ガラスに紫外線などを照射することにより、その表面にシラノール基を生成させておくことが、ポリオレフィン系樹脂材料と強固に一体化させる観点から好ましい。
【0016】
無機材料の表面上には、親水性基を有する有機材料からなる薄膜を形成する。前記薄膜は、無機材料の一部のみに形成させてもよく、あるいは無機材料の全面に形成させてもよい。
【0017】
親水性基を有する有機材料において、親水性基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、ホルミル基、4級アンモニウム基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基、アルコキシ基などの加水分解によって水酸基などの親水性基を生成する基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0018】
好適な親水性基を有する有機材料としては、アルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物などが挙げられる。アルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物としては、アルコキシシリル基を有する飽和脂肪族炭化水素化合物およびアルコキシシリル基を有する不飽和脂肪族炭化水素化合物が挙げられるが、重合反応を抑制する観点から、アルコキシシリル基を有する飽和脂肪族炭化水素化合物が好ましい。
【0019】
アルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物の炭素数は、無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを強固に一体化させる観点から、好ましくは3〜32であり、より好ましくは8〜24である。
【0020】
アルコキシシリル基としては、例えば、式(I):
−Si(OR1)n(R2)3-n (I)
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基、nは1〜3の整数を示す)で表されるアルコキシシリル基などが挙げられる。アルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基、プロピルジエトキシシリル基、ジメチルメトキシシリル基、ジメチルエトキシシリル基、ジエチルエトキシシリル基、ジプロピルエトキシシリル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0021】
脂肪族炭化水素化合物が有するアルコキシシリル基の数は、1個または複数個であるが、架橋反応を抑制する観点から1個であることが好ましい。脂肪族炭化水素化合物は、アルコキシシリル基を分子末端に有することが、その合成が容易であることから好ましい。アルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物は、本発明の目的が阻害されない範囲内で、置換基を有していてもよい。当該置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、アミノ基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0022】
アルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物としては、例えば、プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルメチルジメトシキシランなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
無機材料の表面上に親水性基を有する有機材料からなる薄膜を形成させる方法としては、例えば、アルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物を加熱し、生成したアルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物の蒸気を無機材料と気相で接触させることにより、無機材料の表面上に親水性基を有する有機材料からなる薄膜を形成させる方法、アルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解させ、得られた溶液を無機材料の表面に塗布することにより、当該無機材料の表面上に親水性基を有する有機材料からなる薄膜を形成させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの方法のなかでは、前者の方法は、有機溶媒を使用しないので、形成される薄膜に有機溶媒が残存することを回避することができるとともに、無機材料の表面上に形成される親水性基を有する有機材料からなる薄膜の厚さを容易に制御することができることから好ましい方法である。
【0024】
アルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物を加熱し、生成したアルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物の蒸気を無機材料と気相で接触させることにより、親水性基を有する有機材料からなる薄膜を無機材料の表面上に形成させる場合、前記気相には、例えば、空気、酸素ガスなどをはじめ、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガスなどを用いることができるが、これらのなかでは、経済性の観点から空気が好ましい。前記気相中には、無機材料とポリオレフィン系樹脂材料との密着性を向上させる観点から、水蒸気が含まれていることが好ましい。この場合、気相の相対湿度(RH)は、無機材料とポリオレフィン系樹脂材料との密着性を向上させるとともに生産効率を高める観点から、好ましくは5〜60%、より好ましくは10〜50%、さらに好ましくは20〜40%である。アルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物の蒸気を無機材料と気相で接触させる際の気相の温度は、アルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、当該親水性基を有する有機材料からなる薄膜を効率よく生成させる観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは100℃以上であり、アルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物の熱分解を回避する観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下である。
【0025】
アルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解させ、得られた溶液を無機材料の表面に塗布することにより、当該無機材料の表面上に親水性基を有する有機材料からなる薄膜を形成させる場合、アルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物を有機溶媒に溶解させ、得られた溶液を無機材料の表面に塗布した後、乾燥させることが好ましい。有機溶媒は、アルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物を溶解させる性質を有する有機溶媒であればよく、特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、トルエン、アニソール、2−ヘプタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記溶液を無機材料の表面に塗布する方法としては、スピンコート法、ロールコーター法、スプレーコーティング法、ダイコーター法などが挙げられるが、本発明は、かかる方法のみに限定されるものではない。
【0026】
以上のようにして無機材料の表面上に親水性基を有する有機材料からなる薄膜が形成されるが、形成される薄膜の厚さは、無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを強固に一体化させる観点から、1〜50nm、好ましくは2〜30nmである。
【0027】
次に、無機材料の表面上に形成された薄膜に、波長が100〜200nmの紫外線を照射する。本発明では、このように特定波長を有する紫外線が無機材料の表面上に形成された薄膜に照射されるので、無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを強固に一体化させることができる。なお、無機材料の表面上に形成された薄膜に紫外線を照射する際に所定形状のパターンを有するマスクを介して紫外線を照射した場合には、所定形状に紫外線が照射された部分を形成させ、その部分で無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを強固に一体化させることができるようにすることができる。
【0028】
波長が100〜200nmの紫外線の光源としては、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、エキシマランプなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0029】
薄膜に対する紫外線の照射線量は、無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを強固に一体化させるとともに、薄膜にダメージを与えないようにする観点から、好ましくは0.1〜50J/cm2、より好ましくは0.3〜30J/cm2である。
【0030】
薄膜に紫外線を照射する際の雰囲気は、特に限定されないが、空気などの酸素ガスを含有する雰囲気であることが好ましい。酸素ガスを含有する雰囲気中で薄膜に紫外線を照射した場合、薄膜の紫外線が照射された箇所に酸素原子を含む官能基が生成し、当該官能基を介して無機材料をより一層強固に薄膜と一体化させることができるとともに、薄膜を形成しているアルコキシシリル基を有する脂肪族炭化水素化合物の分子鎖が切断され、その切断された分子末端に水酸基、カルボキシル基などの官能基が生成し、当該官能基を介して無機材料がより強固に薄膜と一体化させることができると考えられる。酸素ガスを含有する雰囲気における酸素ガスの濃度は、薄膜と無機材料とを強固に一体化させる観点から、好ましくは1〜100容量%、より好ましくは3〜100容量%である。
【0031】
また、本発明においては、薄膜に紫外線を照射する際の雰囲気は、酸素ガスの代わりに酸素と水素との化合物である水蒸気を用いるか、または水蒸気および酸素ガスを含有する雰囲気を用いることよっても薄膜と無機材料とをより強固に一体化させることができる。
【0032】
薄膜に紫外線を照射する際の雰囲気の圧力は、特に限定されず、大気圧であってもよく、あるいは加圧または減圧された雰囲気であってもよいが、生産効率を向上させる観点から、大気圧であることが好ましい。
【0033】
次に、無機材料の表面で形成された薄膜上に、紫外線が照射されたポリオレフィン系樹脂材料を積層し、当該無機材料と当該ポリオレフィン系樹脂材料とを一体化させる。
【0034】
ポリオレフィン系樹脂材料は、ポリオレフィン系樹脂で構成されている材料を意味する。また、ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンを主成分、すなわち50重量%以上含有するモノマーを重合させることによって得られる樹脂を意味する。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルペンテンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのポリオレフィン系樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのポリオレフィン系樹脂のなかでは、無機材料と強固に一体化させる観点から、シクロオレフィンポリマーが好ましい。
【0035】
シクロオレフィンポリマーとしては、例えば、シクロオレフィンモノマーの開環重合体、シクロオレフィンモノマーの付加重合体、シクロオレフィンモノマーと鎖状オレフィンとの共重合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。シクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、当該環構造中に炭素−炭素二重結合を有する化合物である。シクロオレフィンモノマーとしては、例えば、2−ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、フニルテトラシクロドデセンなどの四環体、トリシクロペンタジエンなどの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体などのノルボルネン環を含むモノマーであるノルボルネン系モノマー;シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。シクロオレフィンモノマーは、本発明の目的が阻害されない範囲で置換基を有していてもよい。
【0036】
シクロオレフィンポリマーは、例えば、日本ゼオン(株)製、商品名:ゼオネックス・シリーズ、ゼオノア・シリーズなど、住友ベークライト(株)製、商品名:スミライト・シリーズ、JSR(株)製、商品名:アートン・シリーズ、三井化学(株)製、商品名:アペル・シリーズ、Ticona社製、商品名:Topas、日立化成(株)製、商品名:オプトレッツ・シリーズなどとして商業的に容易に入手することができる。
【0037】
ポリオレフィン系樹脂材料の形態としては、例えば、フィルム、シート、プレート(板)、管、棒、所望の形状に成形された成形体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、ポリオレフィン系樹脂材料の大きさは、その用途によって異なるので一概には決定することができないことから、その用途に応じて適宜決定することが好ましい。
【0038】
なお、ポリオレフィン系樹脂材料は、ポリオレフィン系樹脂のみからなる材料であってもよく、あるいはポリオレフィン系樹脂層と当該ポリオレフィン系樹脂層とは異なる種類の樹脂からなる樹脂層との積層体であってもよい。ポリオレフィン系樹脂材料は、無機材料との密着性を向上させる観点から、平滑であることが好ましい。また、フィルム、シートなどの柔軟性を有するポリオレフィン系樹脂材料を無機材料と一体化させる際には、ポリオレフィン系樹脂材料の無機材料と接する面とは反対の面に支持体を設けておき、無機材料と一体化させた後に、当該支持体を除去してもよい。
【0039】
次に、ポリオレフィン系樹脂材料に、波長が100〜200nmの紫外線を照射する。本発明では、このように特定波長を有する紫外線がポリオレフィン系樹脂材料に照射されるので、無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを強固に一体化させることができる。なお、ポリオレフィン系樹脂材料に紫外線を照射する際に、所定形状のパターンを有するマスクを介して紫外線を照射した場合には、所定形状に紫外線が照射された部分を形成させることができる。
【0040】
波長が100〜200nmの紫外線の光源としては、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、エキシマランプなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0041】
ポリオレフィン系樹脂材料に対する紫外線の照射線量は、無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを強固に一体化させるとともに、ポリオレフィン系樹脂材料にダメージを与えないようにする観点から、好ましくは0.1〜50J、より好ましくは0.3〜30Jである。
【0042】
ポリオレフィン系樹脂材料に紫外線を照射する際の雰囲気は、特に限定されないが、空気などの酸素ガスを含有する雰囲気であることが好ましい。酸素ガスを含有する雰囲気中でポリオレフィン系樹脂材料に紫外線を照射した場合、紫外線が照射された箇所に酸素原子を含む官能基が生成し、当該官能基を介して無機材料をより一層強固にポリオレフィン系樹脂材料と一体化させることができる。酸素ガスを含有する雰囲気における酸素ガスの濃度は、ポリオレフィン系樹脂材料と無機材料とを強固に一体化させる観点から、好ましくは1〜100容量%、より好ましくは3〜100容量%である。
【0043】
また、本発明においては、ポリオレフィン系樹脂材料に紫外線を照射する際の雰囲気は、酸素ガスの代わりに酸素と水素との化合物である水蒸気を用いるか、または水蒸気および酸素ガスを含有する雰囲気を用いることよってもポリオレフィン系樹脂材料と無機材料とをより強固に一体化させることができる。
【0044】
ポリオレフィン系樹脂材料に紫外線を照射する際の雰囲気の圧力は、特に限定されず、大気圧であってもよく、あるいは加圧または減圧された雰囲気であってもよいが、生産効率を向上させる観点から、大気圧であることが好ましい。
【0045】
次に、紫外線が照射された無機材料の薄膜上に、紫外線が照射されたポリオレフィン系樹脂材料を積層し、当該無機材料と当該ポリオレフィン系樹脂材料とを一体化させる。その際、無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とは、その紫外線が照射された面と無機材料に形成された薄膜とが重なり合うように重ね合わせてもよく、あるいはその紫外線が照射されていない面と無機材料に形成された薄膜とが重なり合うように重ね合わせてもよいが、その紫外線が照射された面と無機材料に形成された薄膜とが重なり合うように重ね合わせることが、薄膜を介して無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを強固に一体化させる観点から好ましい。
【0046】
薄膜を介して無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを一体化させる際には、無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを薄膜を介して強固に一体化させる観点から、ポリオレフィン系樹脂材料と無機材料とを薄膜を介して重ね合わせた後、両者を加圧することが好ましい。両者を加圧する際の圧力は、高いほど両者を強固に一体化させることができるが、あまりにも圧力が高い場合には、無機材料、ポリオレフィン系樹脂材料または薄膜が破損するおそれがあることから、これらが破損しない範囲内で設定することが好ましい。通常、前記圧力は、ポリオレフィン系樹脂材料と無機材料とを薄膜を介して強固に一体化させる観点および無機材料、ポリオレフィン系樹脂材料および薄膜の破損を防止する観点から、0.1〜10MPaの範囲から適宜選択することが好ましい。
【0047】
また、無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを薄膜を介して一体化させる際には、無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを薄膜を介して強固に一体化させる観点から、ポリオレフィン系樹脂材料と無機材料とを薄膜を介して重ね合わせた後、両者を加熱することが好ましい。両者を加熱する際の温度は、高いほど両者を強固に一体化させることができるが、あまりにも高い場合には、ポリオレフィン系樹脂材料が軟化し、その形態を維持することができなくなるおそれがあることから、ポリオレフィン系樹脂材料の軟化点を考慮して設定することが好ましい。通常、前記温度は、ポリオレフィン系樹脂材料と無機材料とを薄膜を介して強固に一体化させるとともにポリオレフィン系樹脂材料の形態を維持する観点から、好ましくは室温〜ポリオレフィン系樹脂材料のガラス転移温度、より好ましくは50℃〜ポリオレフィン系樹脂材料のガラス転移温度よりも5℃低い温度である。
【0048】
以上のようにして前記無機材料と前記ポリオレフィン系樹脂材料とが薄膜を介して一体化された複合材料が得られる。
【0049】
本発明の複合材料は、接着剤を使用しないで異種材料である無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とが一体化されたものであり、例えば、マイクロチップ、テレビの液晶保護膜などの用途に使用されることが期待される。
【実施例】
【0050】
次に、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
実施例1
ポリオレフィン系樹脂材料としてシクロオレフィンポリマーからなるフィルムを形成させるために、当該シクロオレフィンポリマーからなるフィルムの支持体として、表面が平滑なガラス板(縦:25mm、横:25mm、厚さ:1mm)を用いた(以下、このガラス板を支持体という)。この支持体を約20℃のエタノール中に浸漬し、超音波を付与することにより20分間洗浄した後、洗浄後の支持体を約20℃の純水中に浸漬し、超音波を付与することにより20分間濯いだ。この支持体をスピンコーターに固定し、その表面上に26%シクロオレフィンポリマー〔日本ゼオン(株)製、商品名:ゼオネックス480R、ガラス転移温度:138℃〕キシレン溶液500μLを滴下した。
【0052】
次に、スピンコーターで支持体を500回/分の回転速度で5秒間回転させた後、2000回/分の回転速度で100秒間回転させることにより、シクロオレフィンポリマーキシレン溶液を支持体に塗布し、シクロオレフィンポリマーからなるフィルム(厚さ:約7μm)が形成された支持体を得た。この支持体のフィルムにはキシレンが含まれているので、当該支持体を100℃のチャンバ内に入れ、減圧して1時間乾燥させた。これにより、シクロオレフィンポリマーのフィルム(ポリオレフィン系樹脂材料)を有する支持体を得た。
【0053】
表面が平滑なガラス板(縦:25mm、横:25mm、厚さ:1mm)を約20℃のエタノール中に浸漬し、超音波を付与することにより20分間洗浄した後、洗浄後の支持体を約20℃の純水中に浸漬し、超音波を付与することにより20分間濯いだ。このガラス板およびオクタデシルトリメトキシシラン(沸点:140℃)0.1gをフッ素樹脂製の容器内に入れ、この容器を試薬瓶に入れた後、当該試薬瓶を開口状態で雰囲気温度が150℃の電気炉に入れ、3時間加熱することにより、オクタデシルトリメトキシシランを生成させ、ガラス板と接触させることにより、親水性基を有する有機材料としてオクタデシルトリメトキシシランからなる薄膜(厚さ:約2nm)が形成されたガラス板(無機材料)を得た。
【0054】
次に、前記で得られたシクロオレフィンポリマーのフィルム(ポリオレフィン系樹脂材料)を有する支持体の当該フィルムが形成されている面およびオクタデシルトリメトキシシランからなる薄膜を有するガラス板の当該薄膜が形成されている面に、それぞれ、大気中でキセノン・エキシマランプ〔ウシオ電機(株)製、品番:UEM20−172〕を用い、前記支持体のフィルムおよび前記ガラス板の薄膜から5mm離れた位置から波長が172nmの紫外線を照射線量3Jにて5分間照射した。
【0055】
紫外線を照射した支持体およびガラス板をそれぞれ紫外線が照射された面がたがいに接触するようにして重ね合わせ、両者に1.88MPaの圧力を加えながら110℃に加熱し、その状態を10分間維持することによって加熱プレスを行ない、両者を一体化させて積層体を得た。得られた積層体を室温まで冷却した後、当該積層体から支持体を取り除くことにより、複合材料を得た。
【0056】
得られた複合材料の薄膜とガラス板との密着性を調べるために、薄膜に傷が入るほど強力に金属針で当該薄膜を引っ掻いたところ、当該薄膜に傷がついたが、当該薄膜とガラス板とは強固に一体化されているため、両者間に剥離が認められなかった。
【0057】
比較例1
実施例1と同様にして、シクロオレフィンポリマーのフィルム(ポリオレフィン系樹脂材料)を有する支持体を得た。得られた支持体に形成されているシクロオレフィンポリマーのフィルム面に、実施例1と同様にして当該フィルムに傷が入るほど強力に金属針で引っ掻いたところ、当該フィルムが支持体から剥離したため、当該フィルムは、支持体とは強固に一体化しないことが確認された。
【0058】
比較例2
実施例1と同様にして、オクタデシルトリメトキシシランからなる薄膜(厚さ:約2nm)が形成されたガラス板(無機材料)を得た。得られたガラス板に形成されている薄膜に、実施例1と同様にして当該薄膜に傷が入るほど強力に金属針で引っ掻いたところ、当該薄膜がガラス板から剥離したため、当該薄膜は、ガラス板とは強固に一体化しないことが確認された。
【0059】
実施例1および比較例1〜2の結果から、無機材料(ガラス板)の表面上に親水性基を有する有機材料(オクタデシルトリメトキシシラン)からなる薄膜を形成させ、形成された薄膜およびポリオレフィン系樹脂材料(シクロオレフィンポリマーのフィルム)に紫外線を照射した後、前記無機材料の薄膜上に前記ポリオレフィン系樹脂材料を積層し、前記無機材料と前記ポリオレフィン系樹脂材料とを一体化させた場合には、前記無機材料と前記ポリオレフィン系樹脂材料とを強固に一体化させることができることがわかる。
【0060】
実施例2
表面が平滑な石英板(縦:25mm、横:25mm、厚さ:1mm)を約20℃のエタノール中に浸漬し、超音波を付与することにより20分間洗浄した後、洗浄後の石英板を約20℃の純水中に浸漬し、超音波を付与することにより20分間濯いだ。
【0061】
実施例1において、オクタデシルトリメトキシシランからなる薄膜(厚さ:約2nm)を形成する際に用いられるガラス板のかわりに、前記石英板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして複合材料を得た。
【0062】
得られた複合材料の薄膜と石英板との密着性を調べるために、クロスカットガイド〔コーテック(株)製、品番:CCI−1(JIS K5600に対応)〕を用い、薄膜をカッターナイフ〔オルファ(株)製、商品名:OLFA〕で1マスが1mm四方となるように5マス×5マスの25マスにカットした後、この薄膜に評価用テープ〔コーテック(株)製、品番:KT−SP3007〕を貼り付け、JIS K5600−5−6に準拠してクロスハッチ試験を行なった。その結果、碁盤目には剥離が見られなかった。
【0063】
比較例3
実施例2において、オクタデシルトリメトキシシランからなる薄膜に紫外線を照射しなかったこと以外は、実施例2と同様にして複合材料を得た。得られた複合材料の薄膜と石英板との密着性を調べるために、実施例2と同様にしてクロスハッチ試験を行なったところ、碁盤目25個が剥離した。
【0064】
比較例4
実施例2において、シクロオレフィンポリマーからなるフィルムに紫外線を照射しなかったこと以外は、実施例2と同様にして複合材料を得た。得られた複合材料の薄膜と石英板との密着性を調べるために、実施例2と同様にしてクロスハッチ試験を行なったところ、碁盤目25個が剥離した。
【0065】
実施例2および比較例3〜4の結果から、オクタデシルトリメトキシシランからなる薄膜およびシクロオレフィンポリマーからなるフィルムの一方のみに紫外線を照射しただけでは、前記ガラス板(無機材料)と前記シクロオレフィンポリマー(ポリオレフィン系樹脂材料)とを強固に一体化させることができないが、オクタデシルトリメトキシシランからなる薄膜およびシクロオレフィンポリマーからなるフィルムの双方に紫外線を照射した場合には、前記ガラス板(無機材料)と前記シクロオレフィンポリマー(ポリオレフィン系樹脂材料)とを強固に一体化させることができることがわかる。
【0066】
以上のことから、無機材料(ガラス板)の表面上に親水性基を有する有機材料からなる薄膜およびポリオレフィン系樹脂材料の両者に紫外線を照射した場合には、両者に紫外線が照射されることにより、その相乗効果として前記無機材料と前記ポリオレフィン系樹脂材料とを格別顕著に強固に一体化させることができることがわかる。
【0067】
実施例3
実施例1において、オクタデシルトリメトキシシランの代わりにプロピルトリメトキシシランを用いたこと、またプロピルトリメトキシシランを製膜したガラス板に波長が172nmの紫外線を照射線量3Jにて10秒間照射したこと以外は、実施例1と同様にして複合材料を得た。
【0068】
前記で得られた複合材料の薄膜と石英板との密着性を調べるために実施例2と同様にしてクロスハッチ試験を行なったが、碁盤目には剥離が見られなかった。
【0069】
以上の結果から、無機材料の表面上に親水性基を有する有機材料からなる薄膜を形成させ、当該薄膜が形成された無機材料およびポリオレフィン系樹脂材料に、それぞれ紫外線を照射した後、当該無機材料の薄膜上に前記ポリオレフィン系樹脂材料を積層し、前記無機材料と前記ポリオレフィン系樹脂材料とを一体化させた場合には、接着剤を使用しないで無機材料と当該無機材料とは異種材料であるポリオレフィン系樹脂材料とが強固に一体化された複合材料を得ることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料およびポリオレフィン系樹脂材料を有する複合材料であって、親水性基を有する有機材料からなり、厚さが1〜50nmである薄膜を介して前記無機材料と前記ポリオレフィン系樹脂材料とが一体化されていることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
無機材料およびポリオレフィン系樹脂材料を有する複合材料の製造方法であって、無機材料の表面上に親水性基を有する有機材料からなる厚さが1〜50nmである薄膜を形成させ、当該薄膜が形成された無機材料およびポリオレフィン系樹脂材料に、それぞれ波長が100〜200nmである紫外線を照射した後、当該無機材料の薄膜上に前記ポリオレフィン系樹脂材料を積層し、前記無機材料と前記ポリオレフィン系樹脂材料とを一体化させることを特徴とする複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2013−103456(P2013−103456A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250233(P2011−250233)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】