説明

複合材料およびそれを用いてなる熱可塑性樹脂複合材料

本発明によれば、(A)層状ケイ酸塩を有機オニウム塩によって処理することで得られる、少なくとも1種の有機化層状ケイ酸塩100重量部、及び(B)少なくとも1種の非イオン性界面活性剤50〜1000重量部より構成される、複合材料が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂への添加剤に適した複合材料、およびそれを熱可塑性樹脂へ添加することで得られる機械強度及び延伸加工時の外観に優れ、かつ透明性に優れる熱可塑性樹脂複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミドやポリオレフィンに代表される熱可塑性樹脂の機械強度を改良するために剛性の高いフィラーを混合、混錬することが行われている。フィラーと樹脂を複合化する方法としては、モノマー中にフィラーを分散させた状態で重合する方法と、溶融させた熱可塑性樹脂にフィラーを添加し、混錬する方法の2つが一般的に用いられる。このうち、プロセスが簡便であることや環境負荷が少ないといった利点から、後者の方法でフィラーを分散させる方法が用いられる場合が多い。特に溶融した熱可塑性樹脂にフィラーを微細分散させる手法として、特許文献1には、4級アンモニウムイオン等でイオン交換した有機化層状化合物と有機溶媒とを混合した分散組成物と、溶融した熱可塑性樹脂を2軸押出機等により混錬して複合化する技術が開示されている。しかしながら、製造時に揮発した有機溶媒を熱可塑性樹脂内から除去することが困難であるという問題点がある。
【0003】
近年においては環境保全の立場から生分解性を有する熱可塑性樹脂が様々な用途に利用され始めている。そのような生分解性を有する熱可塑性樹脂についても、その耐熱性、機械強度等を高める目的で他の熱可塑性樹脂と同様にフィラーを複合化する技術が開示されている。
例えば特許文献2には、層状ケイ酸塩にグリコール類を膨潤させ、次いで脂肪族ジカルボン酸を加えて重合することで、結晶化速度に優れる生分解性ポリエステルを製造する方法が開示されている。
また、特許文献3には、脂肪族ポリエステルと有機化層状化合物を溶融混錬することでヒートシール性を改善した複合材料を提供する技術が開示されている。
また特許文献4には、層状化合物に非イオン性界面活性剤をメルトインターカレーション法により複合化し、脂肪族ポリエステルに添加することで難燃性等に優れたフィルムを提供する技術が開示されている。
【0004】
一方、特許文献5には、乳酸系樹脂と脂肪族ポリエステル樹脂を含む組成物に、加水分解防止剤として、表面処理無機フィラー、層状珪酸塩、ワックス、疎水性可塑剤、オレフィン系樹脂およびカルボジイミド化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種類を添加することにより、耐熱性、耐衝撃性、湿熱耐久性を改善する技術が開示されている。
また、特許文献6には、フィルム成形を行うための成形性を高めるために加工助剤としてポリアルキレンオキシド等の化合物および、有機化層状ケイ酸塩を脂肪族ポリエステルに添加することで機械強度やバリア性等に優れた生分解樹脂フィルムを提供する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献7には、水酸基を有する有機オニウム塩で有機化された層状粘土鉱物を生分解樹脂に添加することで、弾性率や結晶化速度に優れた生分解樹脂複合材料を提供する技術が開示されている。
また、特許文献8には、層状ケイ酸塩を0.1〜1.0重量%含有するポリ乳酸系樹脂組成物を2軸延伸することによって、乾熱収縮率が低い2軸延伸フィルムが得られることが示されている。
【0006】
しかしながら、いずれの場合においても提供される熱可塑性樹脂組成物は層状ケイ酸塩の分散性が十分でなく、透明性が不十分であるため、フィルム、シートといった用途への展開が制限される。また、機械物性などの性能も充分に改良されていない。更に層状粘土鉱物を樹脂に添加する場合、溶融混錬などの操作によって樹脂の重量平均分子量が低下し、延伸加工性等が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開平8−302062号公報
【特許文献2】特開平9−169893号公報
【特許文献3】特開2000−17157号公報
【特許文献4】特開2002−188000号公報
【特許文献5】特開2002−309074号公報
【特許文献6】特開2003−82212号公報
【特許文献7】特開2003−73538号公報
【特許文献8】特開2003−261695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、機械強度が高く、かつ、透明性、外観に優れた延伸フィルム、シート成形品を得るに適した複合材料を提供することである。
本発明の更なる目的は、そのような複合材料を熱可塑性樹脂に添加することによって得られる熱可塑性樹脂複合材料、及びそれを延伸することによって得られるフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記(A)成分および(B)成分を複合化することによって得られる複合材料を、熱可塑性樹脂に添加することで、弾性率などに優れるだけでなく透明性および延伸加工性にも優れた熱可塑性樹脂複合材料が提供されることを見出し、本発明を完成するに至った。
(A)層状ケイ酸塩を有機オニウム塩によって処理することで得られる有機化層状ケイ酸塩
(B)非イオン性界面活性剤
【0009】
すなわち本発明は、下記の通りである。
(1)(A)層状ケイ酸塩を有機オニウム塩によって処理することで得られる、少なくとも1種の有機化層状ケイ酸塩100重量部、及び(B)少なくとも1種の非イオン性界面活性剤50〜1000重量部より構成される、複合材料。
(2)有機オニウム塩が少なくとも1種の極性基を有する、(1)記載の複合材料。
(3)極性基が水酸基である、(2)記載の複合材料。
(4)非イオン性界面活性剤が下式によって表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルである、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の複合材料:
2n+1−(OCH−CHOH (n=12〜18、m=2〜40)。
(5)少なくとも1種の(1)〜(4)のいずれかに記載の複合材料と、少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む、熱可塑性樹脂複合材料。
(6)熱可塑性樹脂が脂肪族ポリエステルである、(5)記載の熱可塑性樹脂複合材料。
(7)(5)または(6)に記載の熱可塑性樹脂複合材料を延伸して得られる、フィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合材料を熱可塑性樹脂と溶融混錬することによって、弾性率等の機械強度および延伸加工時の外観、透明性に優れた熱可塑性樹脂複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明について、特にその好ましい形態を中心に、以下具体的に説明する。
本発明における層状ケイ酸塩としては、ピロフィライト、スメクタイト、バーミキュライト、マイカなどの粘土鉱物が挙げられる。これらは天然に存在するものを精製したものであっても、水熱法など公知の方法で合成したものであってもよい。さらに、具体例として、モンモリロナイト、ヘクトライト、バイデライト、サポナイト、合成フッ素化マイカなどが挙げられる。例えば、モンモリロナイトの例としては、SouthernClay社製、商品名CloisiteNa、クニミネ工業社製、商品名クニピアRG、合成フッ素化マイカの例としてはコープケミカル社製、商品名ソマシフME100などがこれに相当する。
【0012】
これらの層状ケイ酸塩は連続した層構造を有し、その層間にはナトリウムイオンやカリウムイオン、リチウムイオンなどの陽イオンが存在しており、親水性を有する。そのため、水などの極性溶媒を層間に取り込んで膨潤し、一部が剥離分散するという性質を持つ。膨潤とは、層と層の間に第3の物質が入り込むことで層間距離が広げられた状態を指す。また、剥離分散とは膨潤がさらに進むことで層と層が引き剥がされ、層状構造が崩れて微細に分散した状態を指す。
【0013】
本発明における有機化層状ケイ酸塩とは、上記の層状ケイ酸塩の層間に存在する陽イオンを有機オニウムイオンと交換処理することによって有機化したものである。層間に有機オニウムイオンが存在することによって、有機溶媒や有機物との親和性が向上する。すなわち、層状ケイ酸塩が水などの極性溶媒によって膨潤するのに対し、有機化層状ケイ酸塩は、その層間に有機物を取り込むことで膨潤する性質を持ち、熱可塑性樹脂などの有機物中で剥離分散しやすくすることができる。
【0014】
本発明における有機オニウム塩とは、有機物成分とルイス塩基が配位結合をつくることによって生成された塩を指す。4級アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機スルホニウム塩等がこれに相当する。また、酸性の極性溶媒に溶解させた際に陽イオンとなる有機アミン化合物や、両性イオン化合物などもこれに相当する。下記式(1)に示すような4級アンモニウム塩、あるいは陽イオン化した有機アミン化合物が好適に用いられる。
【0015】
【化1】


式(1)中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立に水素、あるいはメチル、エチル、ラウリル、セチル、オレイル、イソステアリル、ステアリル等に代表される飽和あるいは不飽和炭化水素基である。該炭化水素基は直鎖であっても分岐構造を有していてもよく、エポキシ化されていてもよい。また炭化水素基は、牛脂やヤシ油に代表されるような天然物より誘導したものであってもよい。またシクロアルカンや芳香環、エステル構造を有していてもよく、ベタイン類のようにカルボン酸を有していてもよい。また、R1〜R4の炭化水素基のうち少なくともひとつは、10以上の炭素数を有することが好ましい。最長の炭化水素基を構成する炭素数が10未満である場合、有機化層状ケイ酸塩と熱可塑性樹脂との親和性が不十分であり、十分な物性の改善が得られない場合がある。Xは陰イオンを示し、特に限定されないが、主に塩化物イオンや臭化物イオンなどのハロゲン化物イオンが該当する。
【0016】
本発明においては、有機オニウム塩が少なくとも1種の極性基を有していることが更に好ましい。
ここで言う極性基とは、水酸基や、カルボン酸基、カルボン酸誘導体、カルボン酸無水物、ニトロ基、イミド基などの極性を持つ官能基を意味する。中でも水酸基を有する有機オニウム塩が好ましい。以下詳細に説明する。
【0017】
水酸基はヒドロキシアルキレン基、ポリオキシアルキレン基等の形で存在してもよい。本発明における有機オニウム塩中の水酸基の位置は特に限定はないが、有機オニウム塩としてアンモニウム塩、アミンなどを用いる場合は窒素原子近傍に水酸基が結合したものが好適に用いられる。水酸基が結合したアンモニウム塩、アミンの例としては、硬化タロウジエタノールアミンやドデシルジエタノールアミン、メチルオクタデシルジヒドロキシエチルアンモニウムクロリド、メチルドデシルジヒドロキシプロピルアンモニウムクロリドが挙げられる。またポリオキシアルキレン基を含んだ有機アンモニウム化合物の例としては、ポリオキシエチレンオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド、メチルジポリオキシプロピレンオクタデシルアンモニウムクロリド等が挙げられる。これらポリオキシアルキレン基の有機オニウム塩に対する付加モル数については任意のものを使用することができる。
【0018】
このような構造を有する有機オニウム塩の一例としては、青木油脂工業社製、商品名ブラウノンS−202、ブラウノンS−204、ブラウノンS−205T、ブラウノンL−202;ライオンアクゾ社製、商品名エソミンC/12、エソミンHT/12、エソミン18/12;花王社製、商品名アンヒトール20BS、アンヒトール24B、アンヒトール86Bなどが挙げられる。
【0019】
本発明における有機オニウム塩と、層状ケイ酸塩を複合化して有機化層状ケイ酸塩を合成する方法としては特に制限はない。アミン化合物や両性イオン化合物を用いる場合においては、塩酸等により親水性溶媒を酸性にしてから、そこに層状ケイ酸塩を分散させ、アミン化合物や両性イオン化合物を陽イオン化した上で層状ケイ酸塩とイオン交換を行う方法を用いることができる。このようにして得られる有機化層状ケイ酸塩の一例として、SouthernClay社製、商品名Cloisite10A、Cloisite15A、Cloisite20A、Cloisite25A、Cloisite30Bなどが挙げられる。上述のような水酸基を含む有機オニウム塩を含有するものとしてはSouthernClay社製、商品名Cloisite30B、コープケミカル社製、商品名ソマシフMEEが挙げられる。
【0020】
本発明において複合材料と熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂複合材料を延伸処理してフィルムなどを得る場合は、その目的とする性能によって有機化層状ケイ酸塩を使い分けることが好ましい。すなわち、フィルムの機械強度を特に向上させたい場合はモンモリロナイト系の層状ケイ酸塩から形成された有機化層状ケイ酸塩(例えば上述のCloisite30B)を用い、ガスバリア性を特に向上させたい場合は、比較的アスペクト比の大きい合成フッ素化マイカから形成された有機化層状ケイ酸塩(例えば上述のMEE)を用いることが好ましい。
【0021】
本発明における非イオン性界面活性剤は、有機化層状ケイ酸塩を膨潤させる役割を持ち、親水部と疎水部とから構成される。
疎水部の構造としては、ラウリル、セチル、オレイル、イソステアリル、ステアリル等に代表される飽和あるいは不飽和炭化水素基があげられ、該炭化水素基は直鎖であっても分岐構造を有していてもよく、エポキシ化されていてもよい。また、牛脂やヤシ油に代表されるような天然物より精製した脂肪酸から誘導したものであってもよい。また該炭化水素基の構造中にロジンやラノリンのようなシクロアルカンや、ベンゼンやフェノール類などのように芳香族炭化水素、あるいはアクリレートやメタクリレートのようにエステルを有していてもよい。またベタイン類のようにカルボン酸を有していてもよい。
親水部の構造としては、ヒドロキシアルキレン、ポリオキシアルキレン、カルボキシル、エステル、アミン、アミド構造のうちいずれかを有していることが好ましい。より好ましくはヒドロキシアルキレン、ポリオキシアルキレンである。
【0022】
このような条件を満たす非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラノリンエーテル、ポリオキシエチレンロジンエステル、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸オクチル、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、ステアリルジエタノールアミン、ドデシルジエタノールアミン、オレイン酸ジエタノールアミド、ヤシ油脂脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンオレイルアミド等が挙げられる。
【0023】
これらの非イオン性界面活性剤の中でも、加水分解などの構造変化をうけにくいポリオキシエチレンアルキルエーテル(下式参照)が良い。
2n+1−(OCH−CHOH (n=12〜18、m=2〜40)
炭素鎖長を表すnは、12から18が好ましい。更に好ましくは18である。また、ポリキシエチレン鎖長を表すmは2〜40が好ましい。より好ましくは2〜20であり、更に好ましくは2〜10である。このような範囲の構造を有する非イオン性界面活性剤の一例として、日本エマルジョン社製、商品名エマレックス602、エマレックス703、エマレックス805、エマレックス1605、などが挙げられる。
【0024】
本発明において、有機化層状ケイ酸塩(A)と非イオン性界面活性剤(B)を用いて複合材料を合成する方法としては特に制限は無いが、例えば、以下の(I)および(II)に示す方法を用いることができる。
(I) 非イオン性界面活性剤(B)を融点以上に加熱し、溶融させた上で有機化層状ケイ酸塩(A)と混合して複合化させる方法;
(II) 非イオン性界面活性剤(B)を溶媒に溶解し、有機化層状ケイ酸塩(A)を同様の溶媒に分散させた溶液と混合して複合化させた後、溶媒を除去する方法。
【0025】
どちらの方法を用いてもよいが、廃棄物が少ない点から(I)の方法が好ましく用いられる。以下に(I)の方法による複合材料の製法について具体的に説明する。
まず非イオン性界面活性剤を融点以上に加熱して溶融状態としたものに、真空乾燥によって十分乾燥させた有機化層状ケイ酸塩を投入して混錬操作を行う。このような方法で複合化すると、有機化層状ケイ酸塩の層間に、非イオン性界面活性剤が取り込まれ、有機化層状ケイ酸塩を膨潤させることができる。得られる複合材料は、有機化層状ケイ酸塩が膨潤しているために剥離分散が起こりやすくなっている。すなわち、有機化層状ケイ酸塩の表面および層間に非イオン性界面活性剤が存在することによって、熱可塑性樹脂に添加、混錬した際に有機化層状ケイ酸塩の凝集物が残らないために、熱可塑性樹脂中における有機化層状ケイ酸塩の分散性が高まることになる。結果として熱可塑性樹脂の機械強度などの物性が改善されるだけでなく、該凝集物による光の散乱が抑えられ高い透明度を保持することができるのである。有機化層状ケイ酸塩を単独で添加した場合、熱可塑性樹脂に添加、混錬した後においても有機化層状ケイ酸塩が一部凝集した状態で残るために有機化層状ケイ酸塩の添加による機械強度などの物性が十分に改善されないだけでなく、該凝集物による光の散乱により十分な透明性を維持することができない。
【0026】
また、水酸基を含有する有機化層状ケイ酸塩と、熱可塑性樹脂、例えば脂肪族ポリエステルだけを溶融混練した場合、水酸基が脂肪族ポリエステルと接触することによってその加水分解に基づく分子量低下を促進し、混練物の加工性や性能に悪影響を及ぼす場合がある。しかし、水酸基を含有する有機化層状ケイ酸塩と脂肪族ポリエステルに加えて、そこへ本発明における非イオン性界面活性剤を添加することによって、非イオン性界面活性剤が有機化層状ケイ酸塩の水酸基を適度にブロックして脂肪族ポリエステルとの接触を防ぐため、溶融加工時の分子量低下を防ぐことができる。
【0027】
有機化層状ケイ酸塩と非イオン性界面活性剤を複合化する際の混合比率としては、有機化層状ケイ酸塩100重量部に対して、非イオン性界面活性剤の添加量が50重量部〜1000重量部加えることが好ましく、50重量部〜300重量部添加することがより好ましい。さらに好ましくは100重量部〜200重量部である。有機化層状ケイ酸塩100重量部に対して、非イオン性界面活性剤の量が50重量部未満では、有機化層状ケイ酸塩の膨潤が十分でない場合があり、有機化層状ケイ酸塩の層構造が崩れにくくなる。結果として、その複合材料を熱可塑性樹脂に添加した際の分散性向上効果が充分に発揮されない場合がある。一方、有機化層状ケイ酸塩100重量部に対して、非イオン性界面活性剤の量が1000重量部を越える場合は、後述する熱可塑性樹脂複合材料中の非イオン性界面活性剤の濃度が高くなる。そのために、熱可塑性樹脂自体の性能を大きく変えてしまう場合がある。
なお、本発明の複合材料は、1種または複数種の有機化層状ケイ酸塩、及び1種または複数種の非イオン性界面活性剤を含んでいてもよい。
【0028】
本発明において、熱可塑性樹脂は特に限定はなく、加熱により溶融成形可能なあらゆる樹脂を意味する。例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。それらの熱可塑性樹脂の中でも脂肪族ポリエステル樹脂が好適に用いられる。そのような脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール等が挙げられる。本発明においては、これらの樹脂は単独で用いてもよく、複数の樹脂を組み合わせて使用してもよいが、機械強度や透明性に優れ、汎用性に富むポリ乳酸が好適に用いられる。ポリ乳酸の具体的な例としては、カーギルダウ社製、商品名NatureWorks;三井化学社製、商品名レイシア;大日本インキ化学工業社製、商品名プラメート;カネボウ合繊社製、商品名ラクトロンなどが挙げられる。ポリ乳酸のモノマーである乳酸は光学異性体であるが、重合物中のL−乳酸とD−乳酸の比は任意のものを用いることができる。
なお、本発明の熱可塑性樹脂複合材料は、1種または複数種の複合材料、及び1種または複数種の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の複合材料を熱可塑性樹脂と複合化して熱可塑性樹脂複合材料を製造する方法としては、公知の熱可塑性樹脂混錬技術を用いることができる。混錬時に効率的にせん断応力をかけることで分散性を高められる二軸押出機による混錬方法が好適に用いられる。
本発明の複合材料を熱可塑性樹脂に添加する比率は、必要とする熱可塑性樹脂の種類、複合材料中の有機化層状ケイ酸塩の濃度などに依存する。例えば、熱可塑性樹脂100重量部に対して本発明の複合材料を0.5重量部〜120重量部加えることが出来る。好ましくは1.7重量部から41重量部であり、更に好ましくは4.5重量部〜20重量部である。熱可塑性樹脂複合材料中の複合材料が0.5重量部未満においては物性改善の効果が十分でない場合があり、120重量部を超える場合には熱可塑性樹脂自体の性能が損なわれる場合がある。
【0030】
熱可塑性樹脂複合材料に占める有機化層状ケイ酸塩及び非イオン性界面活性剤各成分の濃度についても好ましい範囲が存在する。熱可塑性樹脂100重量部に対して、有機化層状ケイ酸塩0.17〜50重量部、非イオン性界面活性剤0.34〜100重量部とすることが好ましい。また、熱可塑性樹脂100重量部に対して、有機化層状ケイ酸塩0.6〜15重量部、非イオン性界面活性剤1.2〜30重量部とすることがより好ましい。熱可塑性樹脂100重量部に対する有機化層状ケイ酸塩の含量が0.17重量部未満においては物性改善の効果が十分でない場合がある。一方、50重量部を超える場合には有機化層状化合物の分散性が低下しやすく、得られる熱可塑性樹脂複合材料の靭性が低下することがある。また、熱可塑性樹脂100重量部に対する非イオン性界面活性剤の含量が100重量部を超える場合は熱可塑性樹脂複合材料の機械強度が低下する場合がある。
また、本発明の熱可塑性樹脂複合材料には、所望により当該技術分野において用いられる公知の添加剤、すなわち可塑剤、熱安定化剤、酸化防止剤、結晶化促進剤、難燃剤、離型剤などを添加することができる。
【0031】
本発明によって得られる熱可塑性樹脂複合材料は、同時2軸延伸、逐次2軸延伸、インフレーション成形などによってフィルム状に成形できる。また、射出成形やブロー成形など公知の成形技術により、用途に合わせてボトル、シート、パイプなどの任意の形状に成形することができる。特に本発明における熱可塑性樹脂複合材料をフィルム上に延伸加工する場合においては、有機化層状ケイ酸塩の凝集物による延伸工程中のフィルムの裂けや透明性の低下、外観不良などの不具合が生じ難くなる。
【実施例】
【0032】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。実施例および比較例の評価に用いた測定法および成形方法を以下に示す。
(1)ヘイズ:プレス機によって測定試料を200℃で加熱し、1mmの厚みにプレス成形したものを、冷却水を循環させた低温プレス機により30℃付近まで急冷することでシート成形した。27℃の室温において、ASTM−D−1003に従いヘイズ(%)を測定した。測定装置としては、日本電色社製、商品名NDH−300Aを用いた。
【0033】
(2)動的貯蔵弾性率:プレス機によって測定試料を200℃で加熱し、0.3mmの厚みにプレス成形したものを、冷却水を循環させた低温プレス機により30℃付近まで急冷することでシート成形した。そのようなサンプルを10mm×35mm幅にサンプリングして測定を行った。25℃から160℃までの温度における動的貯蔵弾性率(単位:Gdyn/cm;以下、弾性率とする)を、昇温速度10℃/分、印加歪み0.01%、振動数10Hzの条件で測定した。測定装置としては、レオメトリックファーイースト社製、商品名RSAIIを用いた。以下の実施例に示される樹脂および樹脂複合材料について、上記の条件にて弾性率を評価すると、いずれも50℃付近から樹脂のガラス転移に伴う弾性率の低下が始まり、90℃付近から樹脂の結晶化に伴う弾性率の上昇が始まる。本発明においては、30℃での弾性率を樹脂および樹脂複合材料の非晶状態における機械強度とし、ガラス転移点以上の温度で結晶化した後に到達する弾性率の最大値を、結晶化後における機械強度として用いた。
【0034】
(3)分子量測定:製造した熱可塑性樹脂複合材料をクロロホルムに溶解、延伸分離によって無機成分を除きGPC装置によって重量平均分子量を測定した。測定装置としては、東ソー社製、商品名HLC−8220GPCを用いた。重量平均分子量の算出には、ポリスチレン換算の較正曲線を用いた。
【0035】
[実施例1]
非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンステアリルエーテル(ICI Americas社製、商品名Brij72(ポリオキシエチレンの付加モル数は2))を120℃において加熱溶融したものに、有機化層状ケイ酸塩(SouthernClay社製、商品名Cloisite30B(有機オニウム塩:ジヒドロキシエチレン硬化タロウアミン塩酸塩))を加え、乳鉢で混合することで複合材料を得た。混合した重量比としては、有機化層状ケイ酸塩100重量部に対して、ポリオキシエチレンステアリルエーテルを200重量部とした。次いで、東洋精機製、商品名ラボプラストミルを用いてポリ乳酸(カーギルダウ社製、商品名NatureWorks4031D)を200℃において溶融し、上記の複合材料を、ポリ乳酸100重量部に対して有機化層状ケイ酸塩成分が1.7重量部、ポリオキシエチレンステアリルエーテルが3.4重量部となるように加えて混錬を行うことで熱可塑性樹脂複合材料を得た。混錬時間は5分間とし、ローラーの回転速度は50rpmとした。得られた熱可塑性樹脂複合材料のヘイズ、弾性率(30℃及び結晶化後)を表1に示す。
【0036】
[実施例2]
非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンステアリルエーテル(ICI Americas社製、商品名Brij76(ポリオキシエチレンの付加モル数は10))を用いたことを除いては、実施例1と同様にして複合材料および熱可塑性樹脂複合材料を得た。得られた熱可塑性樹脂複合材料のヘイズ、弾性率(30℃及び結晶化後)を表1に示す。
[実施例3]
非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンステアリルエーテル(ICI Americas社製、商品名Brij78(ポリオキシエチレンの付加モル数は20))を用いたことを除いては、実施例1と同様にして複合材料および熱可塑性樹脂複合材料を得た。得られた熱可塑性樹脂複合材料のヘイズ、弾性率(30℃及び結晶化後)を表1に示す。
【0037】
[実施例4]
非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンステアリルエーテル(ICI Americas社製、商品名Brij72(ポリオキシエチレンの付加モル数は2))を120℃において加熱溶融したものに、有機化層状ケイ酸塩(SouthernClay社製、商品名Cloisite30B(修飾有機カチオン:ジヒドロキシエチレン硬化タロウアミン塩酸塩))を加え、乳鉢で混合することで複合材料を得た。混合した重量比としては、有機化層状ケイ酸塩100重量部に対して、ポリオキシエチレンステアリルエーテルを100重量部とした。次いで東洋精機製、商品名ラボプラストミルを用いてポリ乳酸(カーギルダウ社製、商品名NatureWorks4031D)を200℃において溶融し、上記の複合材料を、ポリ乳酸100重量部に対して有機化層状ケイ酸塩成分が1.7重量部、ポリオキシエチレンステアリルエーテルが1.7重量部となるように加えて混錬を行うことで熱可塑性樹脂複合材料を得た。混錬時間は5分間とし、ローラーの回転速度は50rpmとした。得られた熱可塑性樹脂複合材料のヘイズ、弾性率(30℃及び結晶化後)を表1に示す。
【0038】
[実施例5]
実施例1によって得られた熱可塑性樹脂複合材料を熱プレスによって300μmの厚みにシート成形した後、東洋精機製高温2軸延伸装置によって同時2軸延伸を行った。延伸温度は80℃、延伸速度は26.5mm/s、延伸倍率は縦横それぞれ4倍とした。得られたフィルムは透明であり、延伸によるフィルム裂けやボイドの発生は認められなかった。
[実施例6]
実施例2によって得られた熱可塑性樹脂複合材料を用いたことを除いては、実施例5と同様にして同時2軸延伸を行った。得られたフィルムは透明であり、延伸によるフィルム裂けやボイドの発生は認められなかった。
[実施例7]
ポリ乳酸として、カーギルダウ社製、商品名4042D(重量平均分子量21万)を使用し、有機化層状ケイ酸塩として、コープケミカル社製、商品名ソマシフMEEを使用し、有機化層状ケイ酸塩成分が13重量部、非イオン性界面活性剤が17重量部となるように加えて混錬したことを除いては、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂複合材料を得た。得られた熱可塑性樹脂複合材料の重量平均分子量(Mw)を表2に示す。
【0039】
[比較例1]
ポリ乳酸(カーギルダウ社製、商品名NatureWorks4031D)のみを用いて実施例1と同様の条件で混錬を施した。得られたヘイズ、弾性率(30℃及び結晶化後)を表1に示す。
[比較例2]
非イオン性界面活性剤を用いないということを除いては実施例1と同様にして熱可塑性樹脂複合材料を得た。得られた熱可塑性樹脂複合材料のヘイズ、弾性率(30℃及び結晶化後)を表1に示す。
[比較例3]
有機化層状ケイ酸塩を添加しないということを除いては、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂複合材料を得た。得られた熱可塑性樹脂複合材料のヘイズ、弾性率(30℃及び結晶化後)を表1に示す。
【0040】
[比較例4]
ポリエチレングリコール(分子量2000 Aldrich社製、商品名PEG#2000;PEG2000と表記する)を120℃において溶融状態とし、有機化層状ケイ酸塩(SouthernClay社製、商品名Cloisite30B)を加え、乳鉢で混合することで複合材料を得た。混合した重量比としては、有機化層状ケイ酸塩100重量部に対して、ポリエチレングリコールを200重量部とした。次いで、東洋精機製、商品名ラボプラストミルを用いて脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸(カーギルダウ社製、商品名NatureWorks4031D)を200℃において溶融したものに、上記の複合材料を、ポリ乳酸100重量部に対して有機化層状ケイ酸塩が1.7重量部、ポリエチレングリコールが3.4重量部となるように加えて混錬を行うことで熱可塑性樹脂複合材料を得た。混錬時間は5分間とし、ローラーの回転速度は50rpmとした。得られた熱可塑性樹脂複合材料のヘイズ、弾性率(30℃及び結晶化後)を表1に示す。
[比較例5]
多価カルボン酸である、クエン酸トリブチルアセテート(田岡化学工業社製 、商品名ATBC)を用いたことを除いては実施例4と同様にして複合材料および熱可塑性樹脂複合材料を得た。得られた熱可塑性樹脂複合材料のヘイズ、弾性率(30℃及び結晶化後)を表1に示す。
【0041】
[比較例6]
比較例3で得られた熱可塑性樹脂複合材料を用いたことを除いては、実施例5と同様にして同時2軸延伸を行った。フィルムには多数の凝集物が生じ、外観が不良であった。
[比較例7]
比較例5で得られた熱可塑性樹脂複合材料を用いたことを除いては、実施例5と同様にして同時2軸延伸を行った。延伸フィルムには多数の凝集物および裂けが生じ、延伸加工を行うことができなかった。
【0042】
[比較例8]
非イオン性界面活性剤を使用せず、有機化層状ケイ酸塩の添加量を10重量部としたことを除いては、実施例7と同様にして熱可塑性樹脂複合材料を得た。得られた熱可塑性樹脂複合材料の重量平均分子量(Mw)を表2に示す。
[比較例9]
非イオン性界面活性剤を使用せず、有機化層状ケイ酸塩の添加量を15重量部としたことを除いては、実施例7と同様にして熱可塑性樹脂複合材料を得た。得られた熱可塑性樹脂複合材料の重量平均分子量(Mw)を表2に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
以上、表1に示したように、実施例1〜実施例4では、優れた機械的強度を持ち、かつ透明性にも優れた熱可塑性樹脂複合材料が得られた。また実施例5および実施例6では、透明性および外観に優れた延伸フィルムを得ることができた。比較例1においては何も添加されていないポリ乳酸の物性が示されているが、十分な強度が得られていない。比較例2においては、有機化層状ケイ酸塩を単独で(非イオン性界面活性剤を用いずに)熱可塑性樹脂に添加したために透明性が低下している。比較例3においては非イオン性界面活性剤を単独で(有機化層状ケイ酸塩を用いずに)添加したために、透明性には優れるものの、機械物性に劣る熱可塑性樹脂複合材料となった。比較例4においては、非イオン性界面活性剤ではなく、ポリオキシエチレン鎖のみからなるポリエチレングリコールを用いたが、十分な透明性は得られなかった。比較例5においては多価カルボン酸であるクエン酸トリブチルアセテートを用いたが、十分な透明性は得られなかった。比較例6および比較例7では、延伸フィルムには多数の凝集物および裂けが生じ、延伸加工性に劣ることがわかった。
【0045】
【表2】

【0046】
表2に示したように、実施例7においては重量平均分子量が18.4万であるが、比較例8および比較例9においては、重量平均分子量が7.5万および6.4万と、複合化前の21万に比べて著しく低下していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の複合材料を用いれば、機械強度に優れ、かつ透明性および延伸加工性および延伸加工時の外観に優れた熱可塑性樹脂複合材料を提供することができる。このような材料は、例えばエアクッション材や食品包装材、あるいは射出成形品などとして利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)層状ケイ酸塩を有機オニウム塩によって処理することで得られる、少なくとも1種の有機化層状ケイ酸塩100重量部、及び(B)少なくとも1種の非イオン性界面活性剤50〜1000重量部より構成される、複合材料。
【請求項2】
有機オニウム塩が少なくとも1種の極性基を有する、請求項1記載の複合材料。
【請求項3】
極性基が水酸基である、請求項2記載の複合材料。
【請求項4】
非イオン性界面活性剤が下式によって表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合材料:
2n+1−(OCH−CHOH (n=12〜18、m=2〜40)。
【請求項5】
少なくとも1種の請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合材料と、少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む、熱可塑性樹脂複合材料。
【請求項6】
熱可塑性樹脂が脂肪族ポリエステルである、請求項5記載の熱可塑性樹脂複合材料。
【請求項7】
請求項5または6に記載の熱可塑性樹脂複合材料を延伸して得られる、フィルム。

【国際公開番号】WO2005/075569
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517697(P2005−517697)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001491
【国際出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】