説明

複合材料の接着方法

【課題】脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料の接着方法を提供する。
【解決手段】脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料と、脂肪族ポリアミドからなる成形体または脂肪族ポリアミド脂をマトリックスとする複合材料との接着方法であって、被接着面に1)脂肪族ポリアミド、2)低級アルコール、3)フェノール類、フッ素化アルコール、および−C(=O)NR−結合(Rは炭素数1〜3のアルキル基)を含む液体化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種との接着剤組成物を塗布して貼り合わせ、加熱加圧処理する接着方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料の接着方法、およびこれより得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にプラスチックの接合にはスナップフィット、ボルト・ナットなど機械締結や、溶着、接着剤などによる接合がある。スナップフィットは主に筐体固定などに使用されているが強度はそれほど高くなく構造部材など力の掛かる部分の締結には不向きである。ボルト・ナット締結はその素材にもよるが一般に接合による重量増が嵩むほか、締結部位に力が掛かった場合に特定の締結点に応力が集中し、それを起点として次々に破壊が進行していく懸念がある。次に振動溶着や熱溶着、超音波溶着は接合による重量増がなく、処理速度も速く、アクリルやポリカーボネート、ナイロンなどの熱可塑性プラスチックには極めて有効な方法である。例えば特許文献1では接合面を溶融させ、接合する方法が示されている。しかしながら溶着による接合の場合、装置規模にもよるが一般に一辺1mを超える大物を接合することは比較的困難である。また溶着による接合の際、接合面に沿って溶融・凝固した樹脂がバリとなって張り出し、トリミングなどの後加工でバリを除去する工程が生じるほか、本来接合面となるべき厚みが当初より減少し所望の強度を得るためにあらかじめ厚みを確保しておかなければならない欠点がある。接着剤を用いる接合は一般に、重合性モノマー等を含有する接着剤を塗布、貼り合わせ、かかるモノマー等を重合または架橋せしめることによって固化させ接着する方法が一般的である。この方法は大型部材の接合においても特別な設備を必要とすることもなく行うことができるが、一般に接着剤は強度を確保するため一定厚の接着剤層を確保することが必要であり、特に大型部材を接合する場合には相当量の接着剤を要し、結果として得られた部材の大幅な重量増が見込まれるという欠点があった。一方接着する部材が熱可塑性プラスチックの場合は特許文献2に記されている通り、接着剤として部材自体を溶解させる溶剤を用いて接着面の樹脂同士を相溶させて接着させる方法が記されており、この場合接着剤による重量増がほとんどない利点がある。特許文献3には熱可塑性プラスチックがナイロンの場合の接合方法が記載されている。
【0003】
炭素繊維、ガラス繊維などで補強された複合材料は強度が高く構造材料として好適に使用される。これら複合材料はマトリックス樹脂として熱硬化プラスチックが用いられていることが多く、接合時には特許文献4にあるように一般に接着剤と機械締結を組み合わせた締結法が用いられる。
しかし熱可塑性プラスチックをマトリックスとする複合材料においても強固な接着を達成できるような方法は従来なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−273992号公報
【特許文献2】特開2005−206824号公報
【特許文献3】特開2003−89783号公報
【特許文献4】特開2007−231999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の目的は、脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料と脂肪族ポリアミドからなる成形体との接着方法、または脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料同士の接着方法を提供することである。なかでも本発明の目的は、脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料の接着方法において、大型部材の接着にも適用可能であり、強固に接着できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料と、脂肪族ポリアミドからなる成形体または脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料とを、脂肪族ポリアミドと特定の溶剤とからなる接着剤組成物を塗布して貼り合わせ、加熱加圧処理することで、強固に接着できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は、脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料と、脂肪族ポリアミドからなる成形体または脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料との接着方法であって、被接着面に1)脂肪族ポリアミド、2)低級アルコール、3)フェノール類、フッ素化アルコール、および−C(=O)NR−結合(Rは炭素数1〜3のアルキル基)を含む液体化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種との接着剤組成物を塗布して貼り合わせ、加熱加圧処理する接着方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料を、充分な接合強度を有し、接合に伴う重量増を極めて抑えて接着することが可能である。本発明により脂肪族ポリアミドをマトリックスとする大型構造の複合部材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[接着剤組成物]
本発明において接着剤組成物は、1)脂肪族ポリアミド、2)低級アルコールと、3)フェノール類、フッ素化アルコール、−C(=O)NR−結合(Rは炭素数1〜3のアルキル基)を含む液体化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0010】
接着剤組成物における低級アルコールは、炭素数4以下のアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。 低級アルコールは例えば後述のフェノール類を常温で液状として使用するほか、塗布後の加熱加圧時に残留溶剤が少なくなるように添加する。低級アルコールとしては具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール(異性体も含む)、ブタノール(異性体も含む)が挙げられ、1種でもまたはそれらの混合物として用いてもよい。
【0011】
相溶性と溶剤残留を低減させるために低沸点のものが好ましい点から、炭素数1〜3のものが好ましく、なかでもエタノール、2−プロパノールまたはそれらの混合物がより好ましい。
【0012】
接着剤組成物におけるフェノール類としてはフェノールおよびクレゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく挙げられる。クレゾールとしてはo-クレゾール、m-クレゾールまたはo-m-p-混合クレゾールが、常温で液状であることから好ましい。は溶剤残留を低減させるために沸点のより低いフェノールを用いることがより好ましい。
【0013】
フッ素化アルコールは常温で固体又は液体で、脂肪族ポリアミドを溶解させるものが好ましく、例えばオクタフロロブタノール、ヘキサフロロブタノール、ヘキサフロロプロパノール、ペンタフロロプロパノール(すべて異性体を含む)などが挙げられる。中でも脂肪族ポリアミドの溶解性、入手性の観点から1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロ−2−プロパノールが好ましい。
【0014】
−C(=O)NR−結合(Rは炭素数1〜3のアルキル基)を含む液体化合物は常温常圧で液体であり、脂肪族ポリアミドを溶解することができれば特に限定はないが、脂肪族ポリアミドの溶解性および入手性の観点からNメチルピロリドン、ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0015】
低級アルコールとフェノール類、フッ素化アルコール、および−C(=O)NR−結合(Rは炭素数1〜3のアルキル基)を含む液体化合物から選ばれる少なくとも1種との重量比は90:10から20:80の範囲であり、好ましくは15:85から70:30の範囲であり、さらに好ましくは20:80から60:40の範囲である。低級アルコールの重量比が90を超えると脂肪族ポリアミドの溶解性が乏しくなり、また20未満では塗布して貼り合わせ、加熱加圧処理して接着した後の界面部の脂肪族ポリアミドに残留する溶剤が多くなって接着後の強度およびVOC(揮発性有機化合物抑制)の観点から好ましくない。
【0016】
接着剤組成物に使用する脂肪族ポリアミドはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)よりなる群より選ばれる少なくとも一種の単独重合体、又はこれらを形成する原料モノマーを数種用いた共重合体が挙げられる。汎用性の観点からナイロン6、ナイロン66が好ましい。用いる脂肪族ポリアミドの分子量は250℃おけるMFR値で10〜160g/10minが好ましい。かかるMFR値160g/10minを超えると塗布する接着剤組成物が液状でなくなり塗布しにくいため好ましくなく、また10g/min未満では脂肪族ポリアミドの分子量が低すぎて接着層の強度が不足するため共に好ましくない。
【0017】
接着剤組成物において、2)低級アルコールと、3)フェノール類、フッ素化アルコール、および−C(=O)NR−結合(Rは炭素数1〜3のアルキル基)を含む液体化合物から選ばれる少なくとも1種との混合物は、1)脂肪族ポリアミドの溶剤成分である。2)と3)との混合物すなわち溶剤成分と、1)脂肪族ポリアミドとの重量比は、溶剤成分100重量部に対し脂肪族ポリアミドが1〜17重量部であり、好ましくは2〜13重量部であり、さらに好ましくは3〜11重量部である。接着剤組成物における脂肪族ポリアミドの割合が1重量部未満では、被接着材料の脂肪族ポリアミドを溶剤で溶しすぎて接着面に欠陥が生じ接着強度が著しく下がることがある。また17重量部を超えると、かかる混合物が流動性を失い塗布が困難になることがある。
【0018】
接着剤組成物の調製方法は、フェノール類、フッ素化アルコール、−C(=O)NR−結合(Rは炭素数1〜3のアルキル基)を含む液体化合物から選ばれる少なくとも1種に脂肪族ポリアミドを少量ずつ添加して均一な溶液を調製し、得られた均一な溶液に低級アルコールを所定量添加することが好ましい。この際脂肪族ポリアミド添加においても、低級アルコール添加においても、二次付着物(ダマ)の発生や析出物発生を避けるために攪拌しながら徐々に添加することが好ましい。
【0019】
さらに常温で固体のフェノールなどを取り扱う場合、組成物が調製中液状を保つため加温すること、例えばフェノールの場合は40〜60℃程度に加熱液化して調製することが好ましい。このような接着剤組成物とすることで、接着面近傍の付近の繊維内に囲まれたマトリックス中に取り込まれた溶剤を揮発させることにより除くことが可能となり、所望の接着強度が得られる。
【0020】
[接着する材料]
本発明において接着する材料とは脂肪族ポリアミドおよび/または脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料である。すなわち接着する部材は、脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料同士であっても、また脂肪族ポリアミドと脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料とであってもよい。脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料とは有機または無機繊維で補強された複合材料である。
【0021】
複合材料を構成する有機繊維としては、パラ系またはメタ系のアラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル繊維などが挙げられる。複合材料を構成する無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属酸化物などの鉱物繊維などが挙げられる。
【0022】
複合材料中の繊維は、連続長を有する連続繊維であっても、不連続繊維であってもよい。連続繊維の場合の形態は、とくに限定はなく、例えば織物、編物、または繊維を一方向に配置したもの、不織布、およびそれらの積層体であってもよい。繊維を一方向に配置されたものの場合は、繊維を配向方向を変えて多層積層してもよい。一方向繊維を積層する場合は積層面を厚み方向に対称に配置することが好ましい。また被接着部分である最外層の一方向繊維の配向方向は、接着部分が力を受ける方向と平行になるように配置することが好ましい。一方向繊維の配向方向が力を受ける方向と垂直であると、接着部分に力が掛かったとき複合材料積層の最外層が剥離する可能性がある。
【0023】
不連続繊維の場合は、繊維長にとくに限定はないが、強度に優れた複合材料を提供する観点からは、平均繊維長が5mm以上のものを用いることが好ましい。複合材料で短繊維を重なるように配置したものが好ましく挙げられるが、なかでも短繊維を配置するに当たっては、繊維長5mm以上100mm以下であり、複合材料中で、繊維は実質的に2次元ランダムに配向しており、下記式(1)で定義される臨界単糸数以上の繊維束と、単糸の状態または臨界単糸数未満で構成される繊維束が同時に存在することが好ましい。
臨界単糸数=600/D (1)
(Dは平均繊維径(μm))
【0024】
[被接着部材の脂肪族ポリアミド]
被接着部材の脂肪族ポリアミド、および複合材料のマトリックスである脂肪族ポリアミドとは、縮合基に直接芳香環を結合しない脂肪族ポリアミドであり、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)よりなる群より選ばれる少なくとも一種の単独重合体、又はこれらを形成する原料モノマーを数種用いた共重合体が挙げられ、例えばナイロン6、ナイロン66などが挙げられる。脂肪族ポリアミドの分子量は市販の脂肪族ポリアミドであれば問題なく、250℃おけるMFR値として概ね10〜160g/10minであることが好ましい。
【0025】
市販の樹脂には一般的に難燃剤、耐候剤、離型剤などの添加剤が含まれているが、脂肪族ポリアミド樹脂中にはこれらが含まれていてもよい。
なお被接着部材を構成する脂肪族ポリアミドは、接着剤組成物における脂肪族ポリアミドと同種であっても異種であっても良いが、同種であることが好ましい。
【0026】
[接着方法]
本発明で用いる接着剤組成物は刷毛やスプレーなどによって前述の材料の被接着面に塗布することが出来る。塗布量は接着面積を勘案して決めればよいが、少なすぎると接着性に劣る場合があり、多すぎれば意匠面などに液だれした液状組成物が意匠面を溶して侵すことがある。塗布した被接着面は表面が溶けて粘着性が出るまで放置することが好ましい。放置する温度は5〜40℃であり、時間は30秒〜30分である。また、被接着面への塗布・放置の工程は1回でなく、数回行ってもよい。また被接着面への接着剤組成物の塗布は接着両面に行うことが好ましい。かかる塗布ののち両接着面を互いに貼付する。
【0027】
良好な接着力を得るために塗布した接着剤組成物由来の溶剤成分を充分に揮発させる必要がある。そのためには接着面の温度が、接着剤組成物における脂肪族ポリアミドあるいは被接着部材を構成する脂肪族ポリアミドの融点マイナス170℃以上脂肪族ポリアミドの融点マイナス20℃以下となるように加熱する。具体的にナイロン6またはナイロン66の場合の好ましい加熱温度は55〜170℃、より好ましくは70〜160℃、さらに好ましくは100〜150℃である。加熱温度が融点マイナス170℃未満では良好な接着力が得られないことがある。加熱温度が融点マイナス20℃を超えると加熱部分がスプリングバックにより変形することがある。
【0028】
加熱時間は3分〜3時間、好ましくは5分〜2時間、さらに好ましくは10分〜1時間である。加熱時間が3分未満では良好な接着力が得られないことがあり、加熱時間が3時間を超えるのは生産性の観点から好ましくない。
得られた接着部材はフェノール類や低級アルコールの残留を極力少なくするためさらに熱風や蒸気などで後処理することもできる。さらに揮発溶剤の拡散効率を上げるために周辺雰囲気の置換や吸引することがより好ましい。
【0029】
また加熱する接着面には0.01〜2MPa好ましくは0.02〜1.5MPaさらに好ましくは0.05〜1MPaの圧力をかけることが好ましい。圧力が0.01MPa以下では良好な接着力が得られないばかりか、加熱時に複合材料がスプリングバックして形状を保持できず素材強度も低下することがある。圧力が2MPaを超えると加圧部分が潰れ、形状保持が困難となったり、素材強度が低下したりすることがある。
【0030】
[接着された部材]
脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料同士の接着、または該複合材料と脂肪族ポリアミドとの接着に通常の接着剤を用いると、接着力を維持するための接着層確保から約1割の重量増になることもある。特に自動車部品、航空部品、船舶部品、建築部材など主に大型の部材の場合、重量増分が大きくなるといった問題があった。
【0031】
本発明の接着方法によれば、接着による最終的な重量増は接着剤組成物に溶解している樹脂の増量分であり、表面層も厚み増はなく、塗布量から推算しても重量増は極めて微々たるものであり、特にこれら大型部材の接着に好ましい結果をもたらす。
【0032】
本発明により接着された部材には、その接合界面に接着剤組成物中の溶剤成分が残留する。次に本発明の加熱加圧方法で接着した大型部材の界面部には、脂肪族ポリアミド100重量部に対し、溶剤成分、すなわち低級アルコールと、フェノール類、フッ素化アルコール、および−C(=O)NR−結合(Rは炭素数1〜3のアルキル基)を含む液体化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種との混合物0.0001〜1重量部が存在する。溶剤成分は被接着部材の脂肪族ポリアミドに拡散するため本発明の接着方法によりゼロとすることは困難であり、実質的な下限値は0.0001重量部である。上限値は1重量部を超えないことが接着強度、VOCの観点から好ましい。
【0033】
本発明により脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料を接合したもの、すなわち複合材料接合体が得られる。接着に際し上述のとおり適切な加圧によりその接合部の形状を保持することが可能で、変形、膨潤などによる強度低下が殆んどない複合材料接合体が提供できる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
[接着剤組成物1]
フェノール(東京化成、純度97%)700重量部を60℃に加熱して液化し、攪拌しながら少量ずつナイロン6(宇部ナイロン1011FB 融点225℃)53重量部を溶解した。得られた溶液に2−プロパノール変性エタノール(関東化学、純度95%)300重量部を少量ずつ加え接着剤組成物を調製した。
【0036】
[接着剤組成物2]
1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロ−2−プロパノール(アルドリッチ)70重量部に25℃で攪拌しながら少量ずつナイロン6(宇部ナイロン1011FB)5重量部を溶解した。得られた溶液に2−プロパノール変性エタノール(関東化学、純度95%)300重量部を少量ずつ加え接着剤組成物を調製した。
【0037】
[実施例1 接着試験]
炭素繊維(東邦テナックス製テナックスSTS40−24KS(繊維径7μm、引張強度4000MPa)を、ナイロン6フィルム(ユニチカ・エンブレムON 融点225℃ 25μ厚)を積層しながら、繊維方向0度、90度交互に積層し、260℃、2MPa、20分加熱圧縮し、繊維が0度90度交互、対称積層、炭素繊維体積率47%、300mm角、2mm厚の炭素繊維複合材料を作成した。かかる複合材料を25mm×150mmに2本切削、夫々の端25mm×25mm部に調製した接着剤組成物1を塗布・1分放置のサイクルを3回繰り返した後貼付、該部を0.2MPa加圧、120℃加熱、1時間密着させ、25mm×250mmの接着試験片を5セット作成した。インストロン社製強度試験機インストロン5587を用いてこの接着試験片を1mm/分の速度で引張り、破壊までの強度を測定したところ5セットの強度の平均値は16MPaであった。また破壊後のサンプルの元接着部分表面から100mgを削って10mLのアセトンに入れ密封して常温で1日放置した。得られた分散液をメンブレンフィルターで濾過し、ガスクロマトグラフィーで測定したところ接合面の残留溶剤はナイロン樹脂100重量部に対し、0.01重量部であった。
【0038】
[実施例2 接着試験]
接着試験片を作成する際、接着剤組成物2を用い、500μ厚のナイロン6のシート(融点225℃)1枚を挟むこと以外は実施例1と同様に行ったところ、破壊までの強度は5セット平均値で23MPaであった。また接合面の残留溶剤はナイロン樹脂100重量部に対し、0.005重量部であった。
【0039】
[比較例1]
接着時の条件を0.2MPa、30℃、1時間密着させた以外は実施例1と同様に行ったところ、破壊までの強度は5セット平均値で1MPa以下であり実施例1、2で使用したロードセルでは正確な計測ができなかった。
【0040】
[実施例3 接着試験]
平均繊維長16mmにカットした炭素繊維(東邦テナックス製テナックスSTS40、平均繊維径7μm)を平均目付け540g/m、式(1)で定義される臨界単糸数は86であり、臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束の割合が53Vol%となるようランダムに配置し、ユニチカKE435−POG(融点225℃)クロス10枚の間に挟みこんで260℃、2.5MPaでプレスし1400mm×700mm、厚み2mmの炭素繊維複合材料からなる平板を作成した。得られた平板を25mm×150mmに2本切削、夫々の端25mm×25mm部に調製した接着剤組成物2を塗布・1分放置のサイクルを3回繰り返した後貼付、該部を0.2MPa加圧、120℃加熱、1時間密着させ、25mm×250mmの接着試験片を5セット作成した。インストロン5587を用いてこの接着試験片を1mm/分の速度で引張り、破壊までの強度を測定したところ5セットの強度の平均値は15MPaであった。また破壊後のサンプルの元接着部分表面から100mgを削って10mLのアセトンに入れ密封して常温で1日放置した。得られた分散液をメンブレンフィルターで濾過し、ガスクロマトグラフィーで測定したところ接合面の残留溶剤はナイロン樹脂100重量部に対し、0.005重量部であった。
【0041】
[比較例2]
接着時の条件を0.2MPa、30℃、1時間密着させた以外は実施例3と同様に行ったところ、破壊までの強度は5セット平均値で1MPa以下であり実施例3で使用したロードセルでは正確な計測ができなかった。
【0042】
[実施例4]
実施例3と同様の方法で得られた平板を全幅100mm、フランジ幅20mm、底面幅45mm、高さ30mm、長さ1400mmのハット形状を有する金型を用い260℃で2.5MPaでプレスしてハット形状の部材2本を作成した。得られたハット部材2本のフランジ部分に接着剤組成物を塗布して各々を貼り合わせ、150℃加熱、0.1MPaで1時間密着させ、長さ1400mmの中空材を作成した。中空材の重量は1.5kgであり、接着による重量増は塗布した接着剤組成物が85gであったことからおよそ4gであった。得られた中空材の端から10mmを切断し、さらに接着面を切断した。切断面を切削した削り粉100mgを10mLのアセトンに入れ密封して常温で1日放置した。得られた分散液をメンブレンフィルターで濾過し、ガスクロマトグラフィーで測定したところ削り粉中の残留溶剤はナイロン樹脂100重量部に対し0.05重量部であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料と、脂肪族ポリアミドからなる成形体または脂肪族ポリアミドをマトリックスとする複合材料との接着方法であって、被接着面に1)脂肪族ポリアミド、2)低級アルコール、3)フェノール類、フッ素化アルコール、および−C(=O)NR−結合(Rは炭素数1〜3のアルキル基)を含む液体化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種との接着剤組成物を塗布して貼り合わせ、脂肪族ポリアミドの融点マイナス170℃以上、融点マイナス20℃以下で加熱加圧処理する接着方法。
【請求項2】
フェノール類がフェノールおよびクレゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の接着方法。
【請求項3】
低級アルコールが炭素数4以下のアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜2のいずれかに記載の接着方法。
【請求項4】
−C(=O)NR−結合(Rは炭素数1〜3のアルキル基)を含む液体化合物がNメチルピロリドン、およびジメチルアセトアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜2のいずれかに記載の接着方法。
【請求項5】
脂肪族ポリアミドがナイロン6またはナイロン66である請求項1〜4のいずれかに記載の接着方法。
【請求項6】
接着剤組成物において、2)と3)との混合物100重量部に対し脂肪族ポリアミドが1〜17重量部である請求項1〜5のいずれかに記載の接着方法。
【請求項7】
加熱温度が50〜170℃である請求項1〜6のいずれかに記載の接着方法。
【請求項8】
加圧圧力が0.01〜2MPaである請求項1〜7のいずれかに記載の接着方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかの方法によって接着された複合材料接合体。
【請求項10】
界面部には、脂肪族ポリアミド100重量部に対し、低級アルコールと、フェノール類、フッ素化アルコール、および−C(=O)NR−結合(Rは炭素数1〜3のアルキル基)を含む液体化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種との混合物0.0001〜1重量部が存在する請求項9に記載の複合材料接合体。

【公開番号】特開2012−7095(P2012−7095A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145055(P2010−145055)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】