説明

複合材料の製造方法

【課題】複合材料における強化材の充填率を高くすることができる複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】炭化ホウ素および炭化ケイ素のそれぞれの強化材と金属ケイ素のマトリックスとからなる複合材料の製造方法であって、炭化ホウ素の粉粒体に液体フェノールをバインダとして加え、セディメント成形する工程と、セディメント成形の結果、作製されたプリフォームに金属ケイ素を含浸させる工程とを含む。これにより、プリフォームにおける炭化ホウ素粒子の充填阻害を回避し、充填率を高く維持でき、製造した複合材料における炭化ホウ素粒子の充填率を高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ホウ素の強化材と金属ケイ素のマトリックスとからなる複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭化ホウ素の強化材と金属ケイ素のマトリックスとの複合材料(以下、BC/Si複合材料)が様々な分野で利用されている。そして、複合材料の製造工程では金属ケイ素を炭化ホウ素のプリフォームへ含浸させる。このような含浸には、炭化ケイ素と金属ケイ素との複合材料の製造方法を応用できる。例えば、特許文献1には、炭化ケイ素にフェノール樹脂を混合し、それを金型に投入して熱プレスしてプリフォームを作製し、プリフォームを真空中で高温加熱して金属ケイ素を含浸させる方法が開示されている。
【0003】
一方、炭化ホウ素の複合材料に関連する技術として、特許文献2には、フルクトースによるセディメント成形により炭素成分を浸漬させた炭化ホウ素のプリフォームを作製する方法が開示されている。その作製方法では、プリフォーム作製後にケイ素溶浸材が炭化ホウ素に接触する前に、ホウ素源等を炭化ホウ素成分が6%程度になるように事前にケイ素中に合金化または溶解させ、溶解材料を1550℃で炭化ホウ素プリフォームに含浸させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−50181号公報
【特許文献2】特表2007−513854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、熱プレスによる方法は、炭化ホウ素のプリフォームの作製にも応用できる。しかしながら、特許文献1記載のような熱プレス成形では、得られる複合材料の炭化ホウ素の充填率は65%程度で頭打ちとなる。これは、粉末のフェノール樹脂のバインダにより充填阻害が発生し、フェノール樹脂の添加率を増やすほど炭化ホウ素の充填率が低下するためと考えられる。これに対し、特許文献2記載の製造方法では、セディメント成形を採用しているが、バインダとしてフルクトースを用いており、炭化ホウ素の充填率の向上とは無関係である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、複合材料における強化材の充填率を高くすることができる複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の複合材料の製造方法は、炭化ホウ素の強化材と金属ケイ素のマトリックスとからなる複合材料の製造方法であって、炭化ホウ素の粉粒体に液体フェノールをバインダとして加え、セディメント成形する工程と、前記セディメント成形の結果、作製されたプリフォームに金属ケイ素を含浸させる工程と、を含むことを特徴としている。これにより、プリフォームにおける炭化ホウ素粒子の充填阻害を回避し、充填率を高く維持でき、製造した複合材料における炭化ホウ素粒子の充填率を高くすることができる。
【0008】
(2)また、本発明の複合材料の製造方法は、前記セディメント成形体を液体フェノールに浸漬させる工程を更に含むことを特徴としている。これにより、金属ケイ素の含浸時に生成される炭化ケイ素の量を増加させ、炭化ホウ素および炭化ケイ素の充填率を高めることができる。
【0009】
(3)また、本発明の複合材料の製造方法は、前記バインダとして加える液体フェノールの希釈率が、2重量%以上50重量%以下であることを特徴としている。これにより、セディメントスラリーの粘性を低減し、充填率を高くするとともに、十分な炭素成分をプリフォーム内部に浸漬させることができる。2重量%未満ではプリフォームの形成が困難となり、一方50重量%を超えるとスラリーの粘性が高くなり、炭化ホウ素粒子の充填阻害の原因となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プリフォームにおける炭化ホウ素粒子の充填阻害を回避し、その結果、複合材料における炭化ホウ素粒子の充填率を高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(複合材料の構成)
本発明に係る複合材料(BC/Si複合材料)は、炭化ホウ素(BC、ボロンカーバイド)の強化材と、炭化ケイ素(SiC)と金属ケイ素のマトリックスとからなり、マトリックス中に強化材が分散した構造を有している。炭化ホウ素の粒子の表面には、炭化ケイ素(SiC)の被膜が形成されている。被膜を含めた強化材の充填率を高めることでヤング率等の特性を高めることができる。
【0012】
C/Si複合材料は、炭化ホウ素のプリフォームに金属ケイ素を含浸することで得られる。その際には、炭化ホウ素粒子の表面を炭素成分でコーティングしておく。用いられる浸透材は、金属ケイ素の単体でも合金でもよい。BC/Si複合材料は、実質的に炭化ホウ素の強化材と金属ケイ素のマトリックスとからなるものであり、若干の不純物を含んでいてもよい。
【0013】
(プリフォームの準備)
上記のように構成されるBC/Si複合材料の製造方法を説明する。まず、炭化ホウ素の粒子表面に炭素成分をコーティングしたプリフォームを作製する。
【0014】
プリフォームを形成する際には、炭化ホウ素粉末にバインダとして液体フェノールを混合したスラリーを型に流しこみ、セディメント成形し、炭化ホウ素のセディメント成形体を作製する。具体的には、スラリーを型に流し込み、水分を除去した後、加熱して樹脂を硬化させ、得られた成形体を加工する。混合する液体フェノールの希釈率は、2重量%以上50重量%以下であることが好ましい。これにより、セディメントスラリーの粘性を低減し、充填率を高くすることができる。また、それとともに、十分な炭素成分をプリフォーム内部に浸漬させることができる。
【0015】
そして、作製したセディメント成形体を液体フェノールに浸漬させる。これにより、金属ケイ素の含浸時に生成される炭化ケイ素の量を増加させ、炭化ホウ素および炭化ケイ素の充填率を高めることができる。また、セディメント成形体中の炭化ホウ素の粒子表面は、炭素成分でコーティングされる。金属ケイ素の含浸時にこれがケイ素と反応し、炭化ケイ素の被膜が生成する。このようにして、セディメント成形体からプリフォームを作製することができる。
【0016】
作製されたプリフォームは、容器内に設置する。容器は、有底開口の容器であり、投入された溶融金属を保持して、設置されたプリフォームへ浸透させる。プリフォームの設置の際には、BC/Si複合材料のセッター上に設置してもよい。このような一連の工程により、プリフォームにおける炭化ホウ素粒子の充填阻害を回避し、充填率を高く維持でき、製造したBC/Si複合材料における炭化ホウ素粒子の充填率を高くすることができる。
【0017】
(金属ケイ素の含浸)
次に、作製されたプリフォームに金属ケイ素を含浸させる。まず、金属ケイ素を含む溶融金属を準備し、溶融金属を1420℃以上1500℃以下に維持する。そして、含浸用容器を上記の温度に維持しつつ、溶融金属を容器に投入する。その際には、溶融金属が炭化ホウ素の表面にコーティングされた炭素成分に接触し、炭化ホウ素の表面に炭化ケイ素の被膜が形成される。この被膜により、炭化ホウ素の粒子が保護され、含浸時に炭化ホウ素と金属ケイ素との反応が生じにくくなる。
【0018】
なお、含浸工程において、溶融した金属ケイ素がプリフォームに直接に接触しないように治具を設け、プリフォームを容器の底から浮かせてもよい。また、金属ケイ素の融点が1414℃であるため、理論的には1414℃以上であれば金属ケイ素は融解するが、十分に融解を進めさせるためには1420℃以上であることが好ましい。
【0019】
(冷却、取り出し)
含浸工程を行なった後は、容器内を自然冷却し、室温まで冷却する。このようにして冷却されたBC/Si複合材料を容器から分離して取り出し、BC/Si複合材料を得る。得られたBC/Si複合材料は、たとえば耐衝撃材料として用いることができる。なお、上記の方法で作製されたBC/Si複合材料は、炭化ホウ素および炭化ケイ素の充填率が高いため、従来品に比べてヤング率等の特性が高くなる。
【0020】
[実験1]
C/Si複合材料の製造方法について実験を行なった。実験では、上記の製造方法により幅100mm、長さ100mm、厚さ10mmの寸法を有するBC/Si複合材料を作製した。そして、得られた複合材料の充填率およびヤング率を測定した。具体的な作製条件と結果を以下に説明する。
【0021】
(比較例1)
比較例1として、市販の炭化ホウ素粉末(平均粒径23μm、純度95%以上)に粉末フェノールを5%混合し、熱プレス成形によりプリフォームを作製した。そして、作製されたプリフォームを含浸用容器内に設置し、真空下で含浸用容器に金属ケイ素を投入することでプリフォームへの金属ケイ素の含浸を1450℃で24時間行なった。
【0022】
(比較例2)
比較例2として、市販の炭化ホウ素粉末(平均粒径23μm、純度95%以上)に粉末フェノールを5%混合し、セディメントキャスト法により炭化ホウ素プリフォームを作製した。そして、作製されたプリフォームを含浸用容器内に設置し、真空下で含浸用容器に金属ケイ素を投入して、プリフォームへの金属ケイ素の含浸を1450℃で24時間行なった。
【0023】
(実施例1)
一方、実施例1として、市販の炭化ホウ素粉末(平均粒径23μm、純度95%以上)に液体フェノールを20%希釈(液体フェノール10%、及び水40%)したものを混合し、セディメントキャスト法により炭化ホウ素プリフォームを作製した。そして、作製されたプリフォームを含浸用容器内に設置し、真空下で含浸用容器に金属ケイ素を投入して、プリフォームへの金属ケイ素の含浸を1450℃で24時間行なった。なお、上記とは別にこのようにして作製したプリフォームを脱脂し、脱脂前後の重量変化よりプリフォーム中に含まれるフェノール重量を求めたところ、炭化ホウ素粉末に対し重量比3%でフェノールが含まれていた。
【0024】
(実施例2)
実施例2として、液体フェノールの希釈率を5重量%(液体フェノール2%、及び水38%)に変更した以外は、実施例1と同様の手順で試料を作製した。
【0025】
(実施例3)
実施例3として、液体フェノールの希釈率を50重量%(液体フェノール20%、及び水20%)に変更した以外は、実施例1と同様の手順で試料を作製した。
【0026】
(実施例4)
実施例4として、実施例1で作製したセディメント成形体を液体フェノールに一晩浸漬し、セディメント成形体の内部に炭素成分を浸漬した。得られたプリフォームを含浸用容器内に設置した。真空下で含浸用容器に金属ケイ素を投入し、プリフォームへの金属ケイ素の含浸を1450℃で24時間行なった。なお、上記とは別にこのようにして作製したプリフォームを脱脂し、脱脂前後の重量変化よりプリフォーム中に含まれるフェノール重量を求めたところ、炭化ホウ素粉末に対し重量比10%であり、成形体の液体フェノールへの浸漬によりプリフォームに含まれるフェノール分が7%増加したことが分かった。
【0027】
(測定)
このようにして得られた各試料の炭化ホウ素および炭化ケイ素の充填率を測定し、ヤング率を測定した。以下の表に示すように、実施例は、比較例に比べ、炭化ホウ素のみの充填率および炭化ホウ素と炭化ケイ素の合計の充填率とも高く保つことができ、ヤング率もそれに伴い向上していることが分かる。このように、実施例の複合材料では、炭化ホウ素および炭化ケイ素の合計の充填率が高く、ヤング率が高いことが実証された。
【0028】
(比較例3)
液体フェノールの希釈率を1重量%(液体フェノール0.4%、及び水40%)に変更した以外は、実施例1と同様の手順で試料の作製を試みた。しかし脱水後加熱硬化させた後の成形体は、形状保持力が著しく弱く、手で持ち運びできない状態であった。そのため、金属ケイ素の含浸工程以降は中止した。
【0029】
(比較例4)
液体フェノールの希釈率を60重量%(液体フェノール24%、及び水16%)に変更した以外は、実施例1と同様の手順で試料の作製を試みた。しかし炭化ホウ素の充填率は56%と著しく低く、ヤング率も低いレベルに留まった。
【表1】

【0030】
[実験2]
同様にして得られた各試料のうち、比較例1、比較例2、実施例1、及び実施例4のプリフォームを立ててレイアップし、真空下、1600℃で6時間金属ケイ素を含浸させ、含浸した高さおよび100t含浸に必要な時間を測定した。100t含浸に必要な時間は、測定結果(含浸高さ)から、含浸高さ∝√(含浸時間)として推算した。下表に示すように、実施例4では、炭素成分が浸漬していることにより、炭化ホウ素充填率の低い熱プレス成形による比較例1と同程度以上の含浸速度を維持できた。このように、実施例のプリフォームでは、金属ケイ素の含浸速度が大きく、製造の効率が高いことが実証された。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ホウ素の強化材と金属ケイ素のマトリックスとからなる複合材料の製造方法であって、
炭化ホウ素の粉粒体に液体フェノールをバインダとして加え、セディメント成形する工程と、
前記セディメント成形の結果、作製されたプリフォームに金属ケイ素を含浸させる工程と、を含むことを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記セディメント成形体を液体フェノールに浸漬させる工程を更に含むことを特徴とする請求項1記載の複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記バインダとして加える液体フェノールの希釈率は、2重量%以上50重量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2013−75810(P2013−75810A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218140(P2011−218140)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】