説明

複合材料構造物製造用治具

【課題】 ハット型ストリンガを採用したスティフンドパネル構造物の製造に特に好適に用いられ、より多数回の使用が可能となるような耐久性を実現できるブラダタイプの治具を提供する。
【解決手段】 ブラダ10Aの本体となる本体部11は、内部が中空の管状に形成されており、一方の端部が末端金具12で封止され、内部が気密となっている。末端金具12の挿入部12bは、本体部11の端部の中空に挿入されるが、その外周面に、当該外周面を巻き回すように、複数の帯状溝部12dが形成されている。この帯状溝部12dにより、本体部11の内面と挿入部12bの外周面との間には、環状の接着層14が複数設けられることになるので、本体部11と末端金具12の密着性および本体部11の内部の気密性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂複合材料を用いた複合材料構造物の製造に用いられる治具に関し、特に、骨格部材としてハット型ストリンガを用いた構造物の製造において、当該ハット型ストリンガの治具として用いられる膨張可能な袋状の治具(ブラダ)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、これまで金属材料が用いられてきた分野において、繊維強化樹脂複合材料(以下、適宜「複合材料」と略す。)が広く用いられるようになっている。この複合材料の中でも、強化繊維として炭素繊維を用い、これにエポキシ樹脂等のマトリクス樹脂を含浸させて成形した炭素繊維強化型のものは、金属材料よりも軽量であることに加え、より高強度であることから、スポーツ用品、産業機械、航空宇宙等の分野に広く採用されている。
【0003】
これら分野のうち航空宇宙の分野では、例えば、航空機の翼や胴体等の構造物において、軽量な金属の骨格部材であるスティフナ(stiffener)に複合材料からなるスキンを一体化するスティフンドパネル(stiffened panel)が採用されている。代表的なスティフナとしては、ストリンガおよびフレームが挙げられる。ストリンガは、相対的に厚みが小さい部材であり、構造物の長手方向に配置される。また、フレームは、相対的に厚みが大きい部材であり、構造物の断面方向(長手方向に直交する方向)に沿ってストリンガに交差して配置される。ストリンガは各種治具により支持されて構造物の形状に配置され、これにプリプレグが複数枚積層され、オートクレーブ(圧力釜)により加圧、加熱される。これによりプリプレグが硬化してスキンとなるとともに、当該スキンにストリンガが密着されて一体化される。さらに、ストリンガに対してフレームを組み付けることで、スティフンドパネルが形成される。
【0004】
前記ストリンガには、主として断面形状の違いによりさまざまな種類が存在する。具体的には、平板状、角柱状、アルファベットのC型、同I型、同L型、同Z型、あるいはハット型が知られている。中でも、ハット型ストリンガは、次の理由から、構造物の重量の低減に適しているため最近注目されている。
【0005】
航空機においては、できる限り重量を低下させる必要がある反面、十分な強度を維持する必要がある。それゆえ、スティフンドパネルの本体であるスキンの板厚は一定とすることができず、より高強度を要する部位では板厚を大きくし、十分に強度を保持できる部位では板厚を小さくして軽量化を図ることになる。ストリンガを支持する治具は、ストリンガに沿った長い部材であって、プリプレグとストリンガとの位置関係を規定するものであり、プリプレグの硬化後に長手方向に沿って引き抜かれる。それゆえ、スキンの板厚が均等であればストリンガに接する面は平坦であるので、プリプレグの硬化後にストリンガを支持していた治具の引き抜きは比較的容易となる。ところが、スキンの板厚の変化箇所が多ければストリンガに接する面には凹凸が生じるので、治具もこの凹凸に対応して屈曲しているため、その引き抜きは困難となる。
【0006】
ここで、ハット型ストリンガは、ストリンガの長手方向に沿って延びる一対の平坦な帯状部が形成され、これら帯状部の間で横断面が台形状に陥凹した形状の溝状部が形成されている構成となっている。構造物としてワンピースバレル(OPB)で形成される航空機の胴体部を例に挙げると、帯状部はスキンの内面に密着する面(密着面)であるので、この密着面を外側として、胴体部の長手方向に沿ってハット型ストリンガが配され、胴体部の周方向に沿ってフレームが配されることで、所定構造、例えば円筒構造に組み合わせられる。この円筒構造の外側にプリプレグが巻き回されて積層され、さらに円筒構造の内側に治具としての、例えばマンドレルが取り付けられる。ここで、スキンとハット型ストリンガとの間に形成される空間、すなわち溝状部の内側には、ブラダと呼ばれる細長い治具が挿入されている。
【0007】
ブラダは、柔軟性および伸縮性を有する材料で形成され、膨張および収縮が可能で、細長い袋状の構造となっている。そして、治具として溝状部に挿入されている間は内圧を高くして膨張させることで、帯状部の間でプリプレグに変形が生じないように伸張させて維持する。また、プリプレグが硬化してスキンとなった時点では、内圧を下げてブラダを収縮させて溝状部から引き抜く。このとき、ストリンガの帯状部はスキンの内面に密着して一体化されているため、通常の治具であれば、スキンの内面の凹凸が妨げとなって非常に引き抜き難くなるが、ブラダは、膨張状態から収縮して断面積が小さくなっており、しかも柔軟性を有しているので、凹凸による影響が小さくなり、溝状部から容易に引き抜くことができる。
【0008】
ところで、前記ブラダは、いわゆるインフレータブルマンドレル(inflatable mandrel)と同様の機能を有するものである。インフレータブルマンドレルとしては、例えば、特許文献1に開示されるような、複数の層から形成される伸縮可能な円筒袋状に形成される構成が挙げられる。このような構成であれば、成形時には膨張して外型に対する内型(中子)として機能することができ、収縮した状態では外型のキャビティ内に容易に挿入したり、成形後のドラム状成形物から容易に引き抜いたりすることができる。インフレータブルマンドレルを利用した具体的な製造技術としては、例えば、特許文献2には、インフレータブルマンドレルを利用したラケットの製造技術が開示され、特許文献3には、インフレータブルマンドレルを利用した回転翼航空機のスパー(spar, 桁)を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
米国特許第4632328号公報
特開平8−000770号公報
米国特許第5939007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のとおり、一般的なブラダの構成は、管状の本体部の一方の端部に、金属製の封止部材であって本体部の内部を加圧するための加圧孔が形成されたる末端金具が取り付けられ、他方の端部には、弾性材料製の封止部材である末端栓部が取り付けられる構成となっている。ここで、前記末端金具を用いるブラダにおいては、一般的なインフレータブルマンドレルでは想定されない問題点が生ずる場合がある。
【0011】
すなわち、ブラダはプリプレグの「裏当材」としての機能を有しているが、前記末端金具に加圧孔が形成されていることから、ハット型ストリンガの溝状部にブラダが内挿されると、末端金具は溝状部においてプリプレグに覆われずに露出している。これは、オートクレーブ内に収容されて加熱および加圧されたときに、その加圧雰囲気が、加圧孔を介して本体部の内部に及ぶようにするためである。したがって、オートクレーブ処理の後、ブラダを溝状部から引き抜くときには、末端金具を牽引することになる。
【0012】
ところが、末端金具を牽引してブラダを引く抜くことを繰り返すと、ブラダの構造によっては、本体部と末端金具との接着部位において剥離が生じる場合がある。この剥離は、軽度であっても、オートクレーブの最中に本体部の内部から加圧雰囲気が漏出する現象を引き起こし、重度となれば、ブラダとして使用することができなくなる。このような問題点は、成形時の内型としてしか用いられない特許文献1ないし3に開示の技術では想定され得ることがなく、「裏当材」として機能するブラダ独特のものである。
【0013】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、複合材料構造物の中でも、ハット型ストリンガを採用したスティフンドパネル構造物の製造に特に好適に用いられ、より多数回の使用が可能となるような耐久性を実現できるブラダタイプの治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る複合材料構造物製造用治具は、上記の課題を解決するために、長手方向に沿って延びる溝状部を有するハット型ストリンガを骨格材料として含む骨格構造体にプリプレグを貼付して複合材料構造物を製造する際に、前記ハット型ストリンガの前記溝状部に内挿されて用いられ、伸縮性材料により管状に形成され、その長手方向に直交する断面である横断面が台形状となっている本体部と、前記本体部の一方の端部に取り付けられ、前記本体部の内部を加圧するための加圧孔が形成されている末端金具と、を備え、前記末端金具は、前記本体部の中空に挿入される挿入部を有し、当該挿入部は、柱状であって、その横断面が前記本体部の中空の輪郭形状に対応した形状であるとともに、その外周面には、当該外周面を巻き回すように形成される帯状溝部が設けられ、当該帯状溝部に接着剤が充填された上で、前記本体部の中空に挿入されている構成である。
【0015】
前記構成によれば、前記挿入部に前記帯状溝部が形成されているので、当該帯状溝部は、本体部に挿入された状態で、接着剤を充填させる空間となることに加え、充填された接着剤を、挿入部の周囲でシール材のように環状に保持させることになる。それゆえ、末端金具と本体部との密着性を向上することができるだけでなく、本体部の内部の気密性をより向上させることができる。それゆえ、硬化後のスキンとハット型ストリンガとの間から複合材料構造物製造用治具を引き抜くときにも、末端金具と本体部との密着性を低下させることがなく、その寿命を延ばすことができるとともに、複合材料構造物製造用治具の膨張作用を安定して維持することができる。
【0016】
前記複合材料構造物製造用治具においては、前記帯状溝部は、挿入部に複数設けられていることが好ましい。前記構成によれば、帯状溝部が複数設けられることで、前記密着性および気密性をより一層向上することができる。
【0017】
前記複合材料構造物製造用治具においては、前記本体部の材質である伸縮性材料は特に限定されないが、耐熱性ゴム組成物を好ましく用いることができる。耐熱性ゴム組成物としては、具体的には、シリコーンゴム組成物やフッ素ゴム組成物等が挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明では、複合材料構造物製造用治具において、ハット型ストリンガを採用したスティフンドパネル構造物の製造に特に好適に用いることができ、より多数回の使用が可能となるような耐久性を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)および(b)は、本発明の実施の形態に係る複合材料構造物製造用治具としてのブラダの外観構成の一例を示す模式的斜視図である。
【図2】(a)は、図1に示すブラダの長手方向(縦方向)の断面図であり、(b)および(c)は、(a)に示すブラダを構成する本体部および末端金具の構成の一例を示す斜視図である。
【図3】(a)および(b)は、図2(c)に示す末端金具を本体部に取り付ける工程を示す模式的な部分断面図である。
【図4】(a)および(b)は、標準的な末端金具を本体部に取り付ける工程を示す模式的な部分断面図である。
【図5】(a)〜(f)は、挿入部に形成されている帯状溝部の具体的な形状を示す模式図である。
【図6】(a)および(b)は、ハット型ストリンガの構成の一例を示す部分斜視図である。
【図7】(a)および(b)は、プリプレグをオートクレーブで硬化させる工程において、ブラダ、プリプレグおよびマンドレルの位置関係を断面図として示す模式図である。
【図8】(a)および(b)は、プリプレグを硬化させた後に、ブラダを引き抜くときの状態を断面図として示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0021】
[複合材料構造物製造用治具としてのブラダの基本構成]
図1(a)および(b)は本実施の形態に係る複合材料構造物製造用治具としてのブラダの外観構成の一例を示す模式的斜視図であり、図2(a)は、図1に示すブラダの長手方向の断面を示す断面図であり、図2(b)は、図1に示すブラダの本体部の形状を示す部分斜視図であり、図2(c)は、図1に示すブラダの一方の端部に取り付けられている末端金具12の形状を示す斜視図である。なお、以下の説明では、ブラダの長手方向を「縦方向」と称し、当該縦方向に直交する方向を「横方向」と称する。また、ブラダの縦方向の断面を「縦断面」と称し、ブラダの横方向の断面を「横断面」と称する。
【0022】
本実施の形態にかかるブラダ10Aは、図1(a)および(b)に示すように、その全体的な外観形状が柱状であって、本体部11、末端金具12および末端栓部13から少なくとも構成されている。本体部11は、ブラダ10Aの本体となる部材であって、図2(a)および(b)に示すように、内部が中空の管状に形成されている。
【0023】
本体部11は、図2(b)に示すように、その横断面が台形状となっている。これは、後述するように、ブラダ10Aがハット型ストリンガに形成されている溝状部に内挿する形状となっている必要があることに基づく。本体部11において、台形状の横断面の上底に対応する壁部は、その外面がハット型ストリンガの溝状部に接する面となるため、図1(b)および図2(b)に示すように、本実施の形態では、「接触壁部11a」と称する。また、台形状の横断面の下底に対応する壁部は、その外面が、ブラダ10Aがハット型ストリンガの溝状部に内挿された状態で露出している面となるため、図1(a)および図2(b)に示すように、本実施の形態では、「露出壁部11b」と称する。したがって、図1(a)は、露出壁部11bを上側としたときの斜視図であり、図1(b)は、壁部11aを上側としたときの斜視図である。なお、当然のごとく、対向する壁部11a(上底に対応する壁部)および露出壁部11b(下底に対応する壁部)は、互いに平行の位置関係にある。
【0024】
また、図2(b)に示すように、本実施の形態では、本体部11の横断面は、上底および下底のそれぞれの中点を通る線分に対して対象な台形状、すなわち等脚台形状となっている。したがって、本体部11において、台形状の横断面の各斜辺に対応する壁部を傾斜壁部11c・11cと定義すれば、これら傾斜壁部11c・11cは、それぞれの傾斜方向が反対側となる状態で、同一の傾斜角度で傾斜していることになる。なお、これら傾斜壁部11c・11cの外面も、壁部11aと同様にハット型ストリンガの溝状部に接する面である。
【0025】
本体部11は、図2(a)に示すように、管状に形成され、末端金具12および末端栓部13により両端が封止されることで、内部が気密となるよう構成されている。また、本体部11は、伸縮性材料により形成され、後述するように、本体部11内が加圧されることによって、当該本体部11は膨張する。したがって、本体部11の各壁部(壁部11a、露出壁部11b、および傾斜壁部11c・11c)の厚みは、伸縮性材料の物性および使用時の加圧の程度等の条件にもよるが、膨張可能な柔軟性が発揮できる程度の寸法となっている必要がある。本実施の形態では、本体部11を形成する伸縮性材料としては、後述するように公知のシリコーンゴム組成物が好ましく用いられるため、本体部11の各壁部の厚みは4.0〜6.0mmの範囲内が好ましく、4.5〜5.5mmの範囲内がより好ましい。シリコーンゴム組成物の主成分であるシリコーンエラストマーのモノマー構造や平均分子量、あるいはシリコーンゴム組成物に含まれる各成分の種類や組成比等にもよるが、本体部11の各壁部の厚みがこの範囲内であれば、後述する加圧条件で十分な膨張を実現することができる。なお、各壁部はいずれも同一の厚みであってもよく、各壁部それぞれで異なる厚みとなっていてもよい。
【0026】
本体部11の横断面は、前記のとおり、ハット型ストリンガの溝状部の形状に合わせて台形状となっていればよく、その具体的な寸法は特に限定されない。本実施の形態では、例えば、横断面の上底の長さ、すなわち壁部11aの幅は20〜25mmの範囲内となっており、横断面の下底の長さ、すなわち露出壁部11bの幅は、70〜73mmの範囲内となっており、横断面の高さH、すなわち本体部11における壁部11aおよび露出壁部11bの間隔は、34〜37mmの範囲内となっているが、これら数値範囲に限定されず、ハット型ストリンガの溝状部の形状に対応して、適宜設定される。
【0027】
本体部11の全長は特に限定されない。後述するように、本実施の形態に係るブラダ10Aは、複合材料構造物を製造するための治具として用いられるものであって、当該複合材料構造物の骨格部材として用いられる複数のハット型ストリンガの溝状部に内挿されるものであるため、さまざまな長さとなるよう設定される。例えば、複合材料構造物が、ワンピースバレル(OPB)として形成される航空機の胴体部であれば、ハット型ストリンガの長さは、1〜10mの範囲内でさまざまな種類のものが用いられるので、本体部11の長さもこれに合わせて1〜10mの範囲内となるように設定されればよい。
【0028】
末端金具12は、本体部11の一方の端部を封止する部材であって、図1(a)および図2(a)に示すように、加圧孔12aが形成されている。末端金具12は、本実施の形態では、図2(c)に示すように、本体部11の中空に挿入される挿入部12bと、当該挿入部12につながる頭部12cとから少なくとも構成されている。挿入部12bは、本体部11に挿入された状態で接着剤により本体部11の内面と密着する部位であり、頭部12cは、本体部11に挿入された状態では外部に露出する部位である。また、図2(c)に示すように、挿入部12bの外周面に、縦方向(挿入部12bの延伸方向)に直交するように複数の帯状溝部12dが形成されている。
【0029】
挿入部12bの形状は、本体部11の中空の形状に合わせたものとなっていればよい。本実施の形態では、図2(b)に示すように、本体部11は、各壁部がいずれも同一の厚みとなっているので、中空の横断面の形状も台形状となる。したがって、挿入部12bは、その横断面が台形状なっている短い柱状として形成されている。また、挿入部12bの長さも特に限定されず、本体部11の中空に挿入され接着剤で本体部11の内面と接着された状態で、本体部11の内部を気密に保持できるように、十分な接着面積を確保できる長さであればよい。本実施の形態では、例えば、50〜70mmの範囲内となっている。
【0030】
帯状溝部12dは、図2(c)に示すように、挿入部12bの横方向、すなわち挿入部12bが本体部11の中空に挿入される方向(縦方向、ブラダ10Aの長手方向)に直交する方向に、当該挿入部12bの外周面に巻き回されるような形状で形成されている。末端金具12は、挿入部12bに接着剤を塗布して本体部11の中空に挿入されことで、当該本体部11に固定されるが、挿入部12bに帯状溝部12dが形成されていれば、後述するように、帯状溝部12dに接着剤が充填された状態で挿入部12bと本体部11とが接着されることになり、末端金具12と本体部11との接着状態を向上させることができるとともに、本体部11の内部の気密性も高めることができる。
【0031】
頭部12cは、本体部11の外部に確実に露出できるように、本体部11の中空の寸法よりも十分に大きな形状となっていればよいが、後述するように、ハット型ストリンガの溝状部へ内挿する際の便宜上、その横断面が、本体部11の外形寸法と同じ程度の寸法となっていることが好ましい。このように頭部12cの横断面と本体部11の横断面とがほぼ同じ大きさであれば、ブラダ10A全体において、各壁部の外面がほぼ同一の平面となるため、溝状部への内挿や引き抜きの利便性を高めることができる。
【0032】
また、本実施の形態では、末端金具12の頭部12cの外端は、平坦ではなく突き出た尖端状となっている。より具体的には、末端金具12を本体部11に取り付けたときに、壁部11aに対応する面を接触面とし、露出壁部11bに対応する面を露出面とすれば、図2(c)に示すように、末端金具12の接触面は平坦なままで、露出面は接触面に向かって傾斜し、さらに、接触面は外端に向かうにつれて間隔が狭まるように形成されている。このように頭部12cの外端が尖端状であれば、ハット型ストリンガの溝状部に内挿された状態から引き抜きやすくなるが、もちろんこの形状に限定されない。なお、末端金具12の具体的な形状も、前述した挿入部12bおよび頭部12cを備える構成に限定されず、これら以外の構成を含んでもよい。
【0033】
末端金具12においては、図1(a)および図2(a)に示すように、頭部12cの露出面に加圧孔12aの一方の開口が形成され、挿入部12bの端面に加圧孔12aの他方の開口が形成されている。なお、図2(c)では、末端金具12の露出面が図中下側となっているので加圧孔12aは図示されない。この加圧孔12aは、頭部12cの露出面に形成された一方の開口から頭部12c内に向かって略垂直に延伸し、頭部12cの略中央で挿入部12b側に折れ曲がり、挿入部12bの端面の開口につながるよう形成されている。したがって、ブラダ10Aをハット型ストリンガの溝状部に内挿した状態では、末端金具12の頭部12cの露出面に、加圧孔12aの一方の開口が露出しており、他方の開口は本体部11の中空につながっている。それゆえ、加圧孔12aは、本体部11の内部と外部とを接続する通気路となって、気密に封止された本体部11の内部を加圧することができる。例えば、高圧環境のオートクレーブ内では、加圧孔12aから本体部11の内部も高圧となるので、気密に封止されている本体部11の内部が加圧して本体部11が膨張することになる。
【0034】
末端金具12の材質は、本実施の形態では、アルミニウムまたはその合金が用いられているが、これに限定されない。ブラダ10Aは治具として用いられるため、できる限り軽量の材質であることが好ましく、かつ、加圧孔12aを内部に形成するため、加工性および孔の形状保持性に優れた材質であることが好ましい。それゆえ、本実施の形態では、コストの面から見てもアルミニウムまたはその合金が好適に用いられる。なお、複合材料構造物の製造条件によっては、軽量であることよりも他の条件が重視されることも有りうるので、例えば、アルミニウム以外の公知の金属材料、セラミック材料、あるいは耐熱性樹脂組成物が選択されてもよいし、各種の金属、セラミック、耐熱性樹脂組成物の複合材料が用いられてもよい。
【0035】
末端栓部13は、本体部11の他方の端部(末端金具12で封止された端部とは反対側の端部)を気密に封止する部材であって、本実施の形態では、図2(a)に示すように、本体部11の中空に挿入される挿入部13aと、挿入部13aにつながる外蓋部13bとから構成されている。
【0036】
末端栓部13の挿入部13aは、末端金具12の挿入部12bと同様に、本体部11の中空の横断面形状に合わせて、その横断面が台形状なっている短い柱状に形成され、外蓋部13bは、その外径が本体部11の外径とほぼ同じ程度となるように広がる板状に形成されている。挿入部13aの長さは特に限定されず、末端金具12の挿入部12bと同様に、本体部11の中空に挿入され接着剤で本体部11の内面と接着された状態で、本体部11の内部を気密に保持できるように、十分な接着面積を確保できる長さであればよい。本実施の形態では、例えば、20〜30mmの範囲内となっている。
【0037】
なお、末端栓部13の具体的形状や各部の寸法は、前記構成に限定されず、例えば、必要に応じて、挿入部13aおよび外蓋部13b以外の構成を含んでいてもよいし、本体部11の内部を気密に封止することができれば、外蓋部13bの形状が板状でなくてもよい。
【0038】
なお、前記のとおり、本実施の形態では、本体部11は、末端金具12および末端栓部13という2種の封止部材によって内部が気密に封止されているが、もちろんこれに限定されず、双方とも金属製の封止部材で封止されてもよいし、本体部11の他方の端部では、封止部材という別部材ではなく、管状の本体部11そのものを二次成形することによって開口が封止されてもよい。
【0039】
[末端金具および本体部の接着構成]
本実施の形態に係るブラダ10Aでは、接着剤により末端金具12が本体部11に固定される場合に、末端金具12の挿入部12bの外周に帯状溝部12dが形成されているため、末端金具12の接着固定状態をより強固なものとすることができる。この点について、ブラダ10Aの製造方法とともに、図3(a)および(b)、図4(a)および(b)に基づいて説明する。
【0040】
図3(a)および(b)は、図2(c)に示す末端金具12を本体部11に取り付ける工程を示す模式的な部分断面図である。図4(a)および(b)は、標準的な末端金具17を本体部11に取り付ける工程を示す模式的な部分断面図である。図5(a)〜(f)は、挿入部12bに形成されている帯状溝部12dの具体的な形状を示す模式図である。
【0041】
まず、耐熱性ゴム組成物を用いて公知の成形方法で本体部11を成形し、本体部11の両端に封止部材としての末端金具12および末端栓部13を取り付ける。このとき、図3(a)に示すように、末端金具12の挿入部12bと、図示されないが末端栓部13の挿入部13aには、耐熱性ゴム組成物に用いられる公知の耐熱性の接着剤18が塗布された上で、当該挿入部12bおよび13aが本体部11の端部にそれぞれ挿入される。
【0042】
ここで、挿入部12bの横断面の大きさは、通常、本体部11の横断面における中空の大きさとほぼ同じとなるように形成されている。これは、ブラダ10Aの内部の気密性を向上させるためである。
【0043】
つまり、横断面の中空の大きさに対して挿入部12bの横断面の大きさが小さければ、末端金具12を本体部11に挿入して固定したとき、挿入部12bの外周面と本体部11の内面との間にクリアランス(隙間)が生じる。このクリアランスは、接着剤18を保持するための空間としては有効なものであるが、本体部11は、内部が加圧されて膨張するものであるため、クリアランスが大きすぎると、接着剤18による接着の程度にもよるが、本体部11の内部を気密に保持することができないおそれがある。したがって、本体部11の膨張の程度も考慮した上で、挿入部12bの横断面の大きさは、中空の横断面の大きさとほぼ同程度とすることが好ましい。
【0044】
ところが、図3(a)に示すように、末端金具12の挿入部12bの外周面全体に接着剤18を塗布し、これを本体部11の中空に挿入すると、本体部11の端部の開口周縁で、挿入部12bの外周面に塗布された接着剤18が掻き取られてしまう。それゆえ、図3(b)に示すように、挿入部12bを、ほぼ完全に本体部11の中空に挿入すれば、挿入部12bの外周面から接着剤18の大部分が掻き取られ、本体部11の端部の開口と、末端金具12における頭部12cおよび挿入部12bの段差との間に、掻き取られた接着剤18が集められ、一部は本体部11および末端金具12の側面からはみ出す。
【0045】
この点は、図4(a)および(b)に示す標準的な末端金具17を本体部11に取り付ける場合も同様である。すなわち、図4(a)に示すように、末端金具17の挿入部17bの外周面全体に接着剤18を塗布し、これを本体部11の中空に挿入すると、本体部11の端部の開口周縁で、大部分の接着剤18が掻き取られ、図4(b)に示すように、本体部11の端部の開口と、末端金具17における頭部17cおよび挿入部17bの段差との間に、掻き取られた接着剤18が集められてしまう。
【0046】
しかしながら、本実施の形態では、挿入部12bの外周面に、縦方向に直交するように複数(例えば3つの)の帯状溝部12dが形成されている。それゆえ、標準的な末端金具17であれば、図4(b)に示すように、挿入部17bが本体部11の中空に挿入されることで、挿入部17bの外周面からほとんどの接着剤18が除去されてしまうが、本実施の形態の構成であれば、図3(b)に示すように、帯状溝部12dに接着剤18が充填されて、挿入部12bと本体部11との間に残存する。
【0047】
帯状溝部12dは、前記のとおり、挿入部12bの外周面において、縦方向に直交するように形成される。そのため、挿入部12bおよび本体部11の間に残存する接着剤18は、挿入部12bの外周面と本体部11の内面との間に、環状のシール材のような形状で保持され、複数(例えば3つ)の接着層14を形成することになる。したがって、接着剤18を硬化させれば、複数の接着層14により挿入部12bと本体部11とを十分に接着させることができるだけでなく、複数の接着層14が、本体部11と挿入部12bとの間をシールすることになる。それゆえ、本体部11に対する末端金具12の接着状態(固定状態)をより確実なものとするだけでなく、本体部11の内部の気密性も高めることができる。
【0048】
特に、本体部11の内部の気密性を高めるには、挿入部12bの横断面の大きさと本体部11の中空の横断面の大きさを同等とする構成が挙げられる。この構成であれば、挿入部12bの外周面と本体部11の内面との間に無駄なクリアランスが生じないようにすることができる。ただし、標準的な末端金具17であれば、挿入部12bおよび本体部11の中空の横断面の大きさが同等であれば、挿入部12bおよび本体部11との間で接着剤18を保持できなくなるおそれがある。
【0049】
もちろん、クリアランスを適切に設計することで、本体部11を気密できるとともに、接着剤18も適切に保持することは可能であるが、標準的な末端金具17であれば、挿入部12bの外周面が平坦であることから、安定して接着剤18を保持することは難しい。これに対して、本実施の形態では、挿入部12bの外周面に複数の帯状溝部12dを形成することで、複数の接着層14を形成することができるので、末端金具12を本体部11に対して、より確実に接着させることが可能となる。
【0050】
ここで、帯状溝部12dの具体的な構成は特に限定されない。例えば、図5(a)の斜線線の領域で示すように、帯状溝部12d−1は、挿入部12bの外周面において、縦方向に直交する方向(横方向)に沿って巻き回されるように帯状に形成されていればよいが、必ずしも縦方向に直交するように形成されていなくてもよく、例えば、図5(b)の斜線の領域で示すように、横方向に対して傾斜した形状の帯状溝部12d−2として形成されてもよい。帯状溝部12dは、本体部11に挿入された状態で、接着剤18を充填させる空間としての機能(接着剤保持機能)を有しているだけでなく、充填された接着剤18を、挿入部12bの周囲でシール材のように環状に保持させる機能(シール機能)も有しているので、これら各機能を実現できるのであれば、帯状溝部12dの形状は、どのような形状であってもよい。
【0051】
たとえば、図5(c)の斜線の領域で示すように、波状に湾曲する形状の帯状溝部12d−3が形成されてもよいし、図5(d)の斜線の領域で示すように、幅の広い帯状溝部12d−1と幅の狭い帯状溝部12d−4とが混在して形成されてもよい。あるいは、図5(e)の斜線の領域で示すように、3つの帯状溝部12d−1を縦方向につなぐ帯状溝部12d−5がさらに形成されてもよいし、図5(f)の斜線の領域で示すように、挿入部12bの先端側および付け根側では、標準的な帯状溝部12d−1が形成され、これらの間には、破線状に分断された破線状凹部12d−6が形成されてもよい。
【0052】
図5(d)に示す帯状溝部12d−1および12d−4の組合せや、図5(e)に示す帯状溝部12d−1および12d−5の組合せであれば、接着層14の面積を増やすことができるという利点がある。また、図5(f)に示す帯状溝部12d−1および連続凹部12d−6の組合せであれば、挿入部12bの先端側および付け根側の帯状溝部12d−1によりシール材としての機能が実現され、これらの間の破線状凹部12d−6により、挿入部12bの中間部位で接着層14を形成することができるので、接着剤18の使用量を減らすことが可能である。
【0053】
また、帯状溝部12dの寸法についても特に限定されない。例えば、帯状溝部12dの幅および深さは、前記接着剤保持機能およびシール機能を実現できるのであれば、挿入部12bおよび本体部11の具体的な寸法によって適宜設定される。本実施の形態では、例えば、挿入部12bの長さが50mmであれば、帯状溝部12dの幅は、2〜5mmの範囲内であればよく、帯状溝部12dの深さは、1〜3mmの範囲内であればよい。
【0054】
また、挿入部12bに形成される帯状溝部12dの数も特に限定されない。前記接着剤保持機能およびシール機能を実現するのであれば、少なくとも1つの帯状溝部12dが形成されればよいが、挿入部12bの外周面全体にわたって安定した接着状態を確保するのであれば、挿入部12bの先端側、頭部12cの付け根側、およびその間の3箇所に帯状溝部12dが形成されると好ましい。つまり、帯状溝部12dは3つ形成されると好ましい。ただし、挿入部12bの長さ、本体部11の内面との接触面積等の条件を考慮すれば、先端側と付け根側との2箇所であってもよいし、先端側および付け根側の間に2つ以上形成されてもよい。
【0055】
[ブラダの使用方法]
本実施の形態に係るブラダ10Aは、スティフンドパネルを利用した各種の複合材料構造物の製造において、骨格部材のスティフナに含まれるハット型ストリンガの治具として好適に用いられる。この点について、図6(a)および(b)、図7(a)および(b)、図8(a)および(b)を参照して説明する。
【0056】
図6(a)および(b)は、ハット型ストリンガの構成の一例を示す部分斜視図である。図7(a)および(b)は、プリプレグをオートクレーブで硬化させる工程において、ブラダ10A、プリプレグおよびマンドレルの位置関係を断面図として示す模式図である。図8(a)および(b)は、プリプレグを硬化させた後に、ブラダ10Aを引き抜くときの状態を断面図として示す模式図である。
【0057】
図6(a)および(b)に示すように、ハット型ストリンガ20は、一方向に延伸する棒状または長板状の形状を有し、その長手方向に沿って延び、互いに平行な一対の平坦な帯状部20aが形成され、これら帯状部20aの間に平坦領域の表面から陥凹した形状の溝状部20bが形成された構成となっている。なお、図6(a)に示すように、溝状部20bが下方となっている側の面を内面と称し、図6(b)に示すように、溝状部20bが上方となっている側の面を外面と称する。ブラダ10Aは、この溝状部20bに内挿させて使用される。
【0058】
具体的には、ハット型ストリンガ20を、構造物の形状に合わせて所定の骨格形状に組み合わせる。このとき、ハット型ストリンガ20は、外面を外側とするように組み合わせられるので、溝状部20bにブラダ10Aが内挿される。この状態で、ハット型ストリンガの帯状部20aの外面側とブラダ10Aの露出壁部11bの外面にプリプレグ30が貼付される。
【0059】
なお、プリプレグ30の貼付方法は特に限定されず、例えば、構造物が航空機の胴体部であれば、骨格構造物は円筒形状に組み合わせられるので、積層ローラを備える自動積層機により、円筒形状の骨格構造物を回転させながらプリプレグ30を貼付し積層する方法が挙げられる。なお、プリプレグ30は、構造物の厚みが均等になるように貼付されるのではなく、剛性や強度を高めたい箇所では、スキンの厚みを大きくするように、より多く積層される。これは、例えば、航空機の胴体部であれば、スキンの厚みは全体的に薄く形成して、軽量化を図ることができるが、窓または扉等の周囲は強度を十分に高めるためにスキンを厚く形成することが求められるためである。したがって、硬化前のプリプレグ30の厚みは一定ではない。
【0060】
その後、プリプレグ30の積層が完了すれば、図7(a)に模式的に示すように、円筒形状の構造物の内側に、円筒形状を保持するための治具であるマンドレル42を取り付けて、さらにバッギングフィルム43で全体を覆って、オートクレーブ内に収容する。そして、オートクレーブ内で所定の温度および所定の圧力で加熱および加圧処理を施す。このとき、図7(a)に示すように、オートクレーブ内の高温高圧雰囲気は、バッギングフィルム43を介してプリプレグ30全体に加えられるだけでなく、ブラダ10Aの末端金具12の加圧孔12aからブラダ10Aの内部に伝達され(図中矢印H0)、ブラダ10Aが膨張する。また、オートクレーブ内の高温高圧雰囲気は、プリプレグ30全体に加えられる(図中矢印H1)。
【0061】
ここで、図7(a)に点線で囲んで示すように、挿入部12bの外周面と本体部11の内面との間に、複数(図中3つ)の接着層14が形成されている。この接着層14は、挿入部12bの外周面に形成された帯状溝部12dにより保持されているため、挿入部12bの外周面に、接着剤18で形成された環状のシール材が複数設けられていることになる。それゆえ、ブラダ10Aの内部の高温高圧雰囲気は、挿入部12bと本体部11との間から漏出することがなく、それゆえ、ブラダ10Aを十分に膨らませることができる。
【0062】
このようにブラダ10Aが膨張することで、図7(a)には図示されないハット型ストリンガ20の帯状部20aがプリプレグ30に強い外力で押さえつけられた状態が維持され、プリプレグ30の硬化が進行する。そして、硬化が完了すれば、ハット型ストリンガ20からなる骨格とプリプレグ30が硬化してなるスキンとが強固に密着して一体化されたスティフンドパネル構造物が得られることになる。
【0063】
その後、図8(a)に示すように、硬化したスキン31とハット型ストリンガ20との間から、ブラダ10Aを引き抜くことになる。ここで、本実施の形態に係るブラダ10Aであれば、前述のとおり、末端金具12の挿入部12bの外周面と本体部11の内面との間に、図中点線で囲んで示される、複数の接着層14が形成されている。この接着層14は、例えば、挿入部12bの先端側と付け根側とその間との3箇所に形成されているので、挿入部12b全体を本体部11に良好に接着させることができる。
【0064】
ここで、前述のとおり、スキン31の厚みは一定ではなく、図8(a)において点線で囲まれた領域Dに示すように、その内面には凹凸が生じている。ブラダ10Aは、図8(a)に示すように、この凹凸(領域D)に沿って湾曲した上体で、ハット型ストリンガ20とスキン31との間に内挿されている。そして、このようなスキン31とハット型ストリンガ20との間からブラダ10Aを引き抜く場合には、図中矢印Pで示すように、末端金具12の頭部12cに引っ張りの外力を加えることになる。
【0065】
本実施の形態に係るブラダ10Aであれば、図中点線で囲んで示される、複数の接着層14により、挿入部12bと本体部11との接着状態が安定して保持されるので、スキン31の内面の凹凸に沿ってブラダ10Aが湾曲していても、末端金具12の頭部12cを牽引することで、ブラダ10Aを適切に引き抜くことができる。
【0066】
これに対して、図7(b)に示すように、標準的な末端金具17を備えるブラダ10Bであれば、挿入部17bと本体部11との間で接着剤が十分に保持されない場合が多い(図4(a)および(b)参照)。それゆえ、図8(b)において図中矢印Pで示すように、末端金具17の頭部17cを引っ張ることでブラダ10Bを引き抜こうとすると、末端金具17と本体部11との接着状態が適切に保持されないことから、挿入部17bが本体部11から抜け出てしまうおそれがある。この場合、ブラダ10Bを簡単に引き抜くことができないだけでなく、スキン31の内面の凹凸の状態によっては、ブラダ10Bを完全に引き抜くことができないおそれもある。
【0067】
さらに、挿入部17bが本体部11から完全に抜け出てしまわなくても、挿入部17bの外周面から本体部11の内面が剥がれてしまうと、挿入部17bによる本体部11の内部の気密性が十分に維持されない。このような状態のブラダ10Bを用いて、再び円筒形状の構造物を製造しようとすれば、図7(b)に示すように、挿入部17bと本体部11とが密着していない箇所から、高温高圧雰囲気が漏出し、ブラダ10Bが十分に膨らまないという事態が生じる。
【0068】
具体的には、前述したように、プリプレグ30を硬化させる際には、構造物の内側にマンドレル42を取り付けて、バッギングフィルム43で全体を覆って、オートクレーブ内に収容するが、図7(b)に示すように、オートクレーブ内の高温高圧雰囲気は、バッギングフィルム43を介してプリプレグ30全体に加えられるとともに、ブラダ10Bの末端金具17の加圧孔17aからブラダ10Bの内部にも伝達される(図中矢印H0)。ここで、挿入部17bの外周面から本体部11の内面が剥がれると、本体部11の内部に加えられるはずの高温高圧雰囲気は、剥がれた箇所から漏出する(図中矢印H2)。
【0069】
このように、ブラダ10Bが十分に膨張することができなければ、図7(b)には図示されないハット型ストリンガ20の帯状部20aをプリプレグ30に強い外力で押さえつけることができなくなる状態で、プリプレグ30の硬化が進行するので、適切な形状の構造物を製造できなくなる。したがって、ブラダ10Bにおいて、本体部11と挿入部17bとの密着状態が不十分となれば、当該ブラダ10Bは再度、構造物の製造に利用することができなくなる。
【0070】
このように、本発明に係るブラダ10Aにおいては、末端金具12の挿入部12bの外周面に帯状溝部12dが形成されているため、末端金具12と本体部11との密着性を向上することができる。それゆえ、硬化後のスキン31とハット型ストリンガ20との間からブラダ10Aを引き抜くときにも、末端金具12と本体部11との密着性を低下させることがなく、ブラダ10Aの寿命を延ばすことができる。また、帯状溝部12dにより保持される接着層14は、挿入部12bの外周面においてシール材のように機能するので、本体部11の内部の気密性をより向上させることができ、ブラダ10Aの膨張作用を安定して維持することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、複合材料構造物の製造分野、特に、ハット型ストリンガを採用したスティフンドパネル構造物の製造の分野に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0072】
10 ブラダ(複合材料構造物製造用治具)
11 本体部
11a 接触壁部(台形状の横断面の上底に対応する壁部)
11b 露出壁部(台形状の横断面の下底に対応する壁部)
12 末端金具(金属製の封止部材)
12a 加圧孔
12b 挿入部
13 末端栓部(弾性材料製の封止部材)
17 末端金具(金属製の封止部材)
17a 加圧孔
17b 挿入部
20 ハット型ストリンガ
20a 帯状部
20b 溝状部
30 プリプレグ
31 スキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って延びる溝状部を有するハット型ストリンガを骨格材料として含む骨格構造体にプリプレグを貼付して複合材料構造物を製造する際に、前記ハット型ストリンガの前記溝状部に内挿されて用いられ、
伸縮性材料により管状に形成され、その長手方向に直交する断面である横断面が台形状となっている本体部と、
前記本体部の一方の端部に取り付けられ、前記本体部の内部を加圧するための加圧孔が形成されている末端金具と、を備え、
前記末端金具は、前記本体部の中空に挿入される挿入部を有し、
当該挿入部は、柱状であって、その横断面が前記本体部の中空の輪郭形状に対応した形状であるとともに、その外周面には、当該外周面を巻き回すように形成される帯状溝部が設けられ、当該帯状溝部に接着剤が充填された上で、前記本体部の中空に挿入されている、複合材料構造物製造用治具。
【請求項2】
前記帯状溝部は、前記挿入部に複数設けられている、請求項1に記載の複合材料構造物製造用治具。
【請求項3】
前記伸縮性材料は、耐熱性ゴム組成物である、請求項1または2に記載の複合材料構造物製造用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−98527(P2011−98527A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255520(P2009−255520)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】