説明

複合材料用プリプレグおよび複合材料

【課題】
本発明は、非繊維方向の引張強度が高いだけでなく、衝撃後圧縮強度に優れるベンゾオキサジンをマトリックス樹脂に用いた炭素繊維強化複合材料を与える複合材料用プリプレグと、それから得られる炭素繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】
炭素繊維からなる強化繊維[A]、エポキシ樹脂[B]および次の一般式
【化1】


(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状アルキル基、炭素数3〜8の環状アルキル基、フェニル基、または、炭素数1〜12の鎖状アルキル基またはハロゲンで置換されたフェニル基を表し、芳香環の酸素原子が結合している炭素原子のオルト位とパラ位の少なくとも一方の炭素原子には水素が結合している。)で示される構造単位(I)を有するベンゾオキサジン化合物[C]を必須成分として含有する複合材料用プリプレグであって、該複合材料用プリプレグを硬化した複合材料の臨界ひずみエネルギー解放率GIICが1.0kJ/m以上であることを特徴とする複合材料用プリプレグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機用構造材料をはじめとして、自動車用途、船舶用途、スポーツ用途およびその他一般産業用途に好適な炭素繊維強化複合材料を得るための複合材料用プリプレグ、およびそれから得られる炭素繊維で強化された複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリックス樹脂硬化物とからなる炭素繊維強化複合材料は、その優れた力学物性などから、航空機、自動車および産業用途に幅広く使われている。近年、その使用実績を積むに従い、繊維強化複合材料の適用範囲はますます拡がっている。
【0003】
かかる炭素繊維強化複合材料を構成するマトリックス樹脂には、含浸性や耐熱性に優れる熱硬化性樹脂が用いられることが多く、その熱硬化性樹脂には、成形性に優れること、高温および湿潤環境(湿熱環境)にあっても、高度の機械強度を発現することが必要とされる。
【0004】
この熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラニン樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂等が使用されているが、近年、耐湿性と耐熱性の観点から、ベンゾオキサジン樹脂を、炭素繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として適用する検討が進められている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、ベンゾオキサジン樹脂は、樹脂自身の靭性が低く、そして炭素繊維との接着性が低いことから、マトリックス樹脂としてベンゾオキサジン樹脂を用いた炭素繊維強化複合材料は、衝撃後圧縮強度が低い問題があり、その改善が望まれていた。
【特許文献1】国際公開03/018674号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ベンゾオキサジン樹脂をマトリックス樹脂に用いても、衝撃後圧縮強度をはじめ様々な機械特性に優れた炭素繊維強化複合材料を与える複合材料用プリプレグ、およびそれから得られる炭素繊維で強化された複合材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の複合材料用プリプレグは、上記目的を達成するために、次のような構成を有するものである。すなわち、本発明の複合材料用プリプレグは、炭素繊維からなる強化繊維[A]、エポキシ樹脂[B]および次の一般式
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状アルキル基、炭素数3〜8の環状アルキル基、フェニル基、または、炭素数1〜12の鎖状アルキル基またはハロゲンで置換されたフェニル基を表し、芳香環の酸素原子が結合している炭素原子のオルト位とパラ位の少なくとも一方の炭素原子には水素が結合している。)で示される構造単位(I)を有するベンゾオキサジン化合物[C]を必須成分として含有する複合材料用プリプレグであって、該複合材料用プリプレグを硬化した複合材料の臨界ひずみエネルギー解放率GIICが1.0kJ/m以上であることを特徴とする複合材料用プリプレグである。
【0010】
本発明の複合材料用プリプレグの好ましい態様においては、複合材料用プリプレグは、更に、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよびエラストマーからなる群から選ばれた1種以上の添加剤[D]と、樹脂を素材とする微粒子[E]を含んでいる。
【0011】
本発明の複合材料用プリプレグの好ましい態様においては、前記の強化繊維[A]は、サイジング剤によって被覆されており、そのサイジング剤の表面自由エネルギーの極性成分値(Es)は、9〜50mJ/mである。
【0012】
本発明の複合材料用プリプレグの好ましい態様においては、複合材料用プリプレグを硬化し得られた複合材料の90°引張強度は、70MPa以上である。
【0013】
本発明の複合材料用プリプレグの好ましい態様においては、前記のエポキシ樹脂[B]は、グリシジルアミン型エポキシを40重量%以上含むものであり、前記の添加剤[D]の熱可塑性樹脂は、ポリエーテルスルホンである。
【0014】
本発明の複合材料用プリプレグの好ましい態様においては、前記の微粒子[E]は、大きさが0.1〜150μmの範囲のポリアミドからなる微粒子であり、そして、その微粒子[E]は、90重量%以上がプリプレグの表面から厚さの30%以内に局在化している。
そして、本発明の複合材料は、これら前記の複合材料用プリプレグを硬化して得られる複合材料である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、粘着性(タック性)、変形性(ドレープ性)といった取り扱い性に優れた複合材料用プリプレグを得ることができ、かつ、本発明の複合材料用プリプレグを用いて成形した場合、複合材料に要求される諸特性を満足しながら、衝撃後圧縮強度に優れた複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明における最良の実施形態の例について説明する。
【0017】
本発明の複合材料用プリプレグは、炭素繊維からなる強化繊維[A]、エポキシ樹脂[B]および次の一般式
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状アルキル基、炭素数3〜8の環状アルキル基、フェニル基、または、炭素数1〜12の鎖状アルキル基またはハロゲンで置換されたフェニル基を表し、芳香環の酸素原子が結合している炭素原子のオルト位とパラ位の少なくとも一方の炭素原子には水素が結合している。)で示される構造単位(I)を有するベンゾオキサジン化合物[C]を必須成分として含有する複合材料用プリプレグであって、該複合材料用プリプレグを硬化した複合材料の臨界ひずみエネルギー解放率GIICが1.0kJ/m以上であることを特徴とする複合材料用プリプレグである。
【0020】
上記の臨界ひずみエネルギー解放率GIICは、炭素繊維で強化された複合材料の層間破壊靭性を規定した値であり、層状に積層された炭素繊維強化複合材料において、縦剪断変形のモードIIを対象とした層間剥離亀裂の進展抵抗を表している。ベンゾオキサジン化合物のような、化合物自身の靭性が低く、かつ、炭素繊維と接着性が低い化合物は、衝撃後圧縮強度が一般に低下する傾向にある。しかしながら、本発明者らは、化合物自身の靭性が低く、かつ、炭素繊維と接着性が低い樹脂においても、衝撃後圧縮強度が臨界ひずみエネルギー解放率GIICに最も支配されていることを突き止め、臨界ひずみエネルギー解放率GIICさえ大きくすれば、衝撃後圧縮強度に優れた炭素繊維強化複合材料が得られることを見出した。すなわち、炭素繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度を向上させるためには、臨界ひずみエネルギー解放率GIICは、1.0kJ/m以上であることが必要であり、臨界ひずみエネルギー解放率GIICは、好ましくは2.0kJ/m以上ある。臨界ひずみエネルギー解放率GIICは、高ければ高いほど好ましいが、本発明において5.0kJ/m程度もあれば十分なことが多い。
【0021】
臨界ひずみエネルギー解放率を1.0kJ/m以上にするには、炭素繊維とマトリックス樹脂の接着力を高める必要がある。そのためには、炭素繊維の表面をサイジング剤により被覆したり、極性基を多数有するマトリックス樹脂を選定したりすることで達成することができる。また、臨界ひずみエネルギー解放率を1.0kJ/m以上にするには、微粒子を加えて層間強化を図ることによっても達成することができる。
【0022】
本発明で用いられる強化繊維[A]は、炭素繊維で構成されており、炭素繊維は、高度な耐湿熱性、比強度および比弾性率を繊維強化複合材料に発現させるために有効である。
炭素繊維の形態としては、例えば、一方向に引き揃えられた長繊維、二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニットおよび組み紐などが挙げられる。
炭素繊維の太さは、単繊維繊度が1〜20μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは3〜10μmの範囲である。炭素繊維の太さが20μmを超えると、引張強度や引張弾性率が低下する傾向がある。また、炭素繊維の太さが1μm未満になると、炭素繊維の生産性が低下してコスト高になる。
炭素繊維は、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維を用いることが可能であるが、繊維本来の引張強度や複合材料としたときの耐衝撃性が高いという面から、いわゆる高強度炭素繊維が好ましい。すなわち、ストランド引張試験におけるストランド引張強度が.4GPa以上の炭素繊維が好ましく、4.6GPa以上の炭素繊維がより好ましい。ストランド引張強度は高ければ高いほど好ましいが、4.9GPa程度もあれば十分な場合が多い。ストランド引張強度が10GPaを超えると、得られる複合材料の加工性が悪くなる場合がある。
【0023】
また、炭素繊維の引張り破断伸度は1.7%以上であることが好ましく、より好ましくは1.8%以上である。引張破断伸度も高ければ高いほど好ましいが2.0%程度もあれば本発明の目的として十分な場合が多い。
【0024】
ここでいうストランド引張試験とは、束状の炭素繊維に下記組成の樹脂を含浸させ、130℃の温度で35分間硬化させた後、JIS R7601(1986)に基づいて行う試験をいう。
【0025】
*[樹脂組成]
・3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−シクロヘキシル−カルボキシレート(商品名:ERL−4221、ユニオンカーバイド社製) 100重量部
・3フッ化ホウ素モノエチルアミン(ステラケミファ株式会社製) 3重量部
・アセトン(和光純薬工業株式会社製) 4重量部
また、炭素繊維は、引張弾性率が200GPa以上であることが好ましい。引張弾性率が高い炭素繊維を用いることは、複合材料としたときに高剛性を得ることに繋がる。引張弾性率はより好ましくは210GPa以上であり、さらに好ましくは220GPa以上である。引張弾性率は高ければ高いほど好ましいが、230GPa程度もあれば本発明の目的として十分な場合が多い。引張弾性率は、700GPaを超えると得られる複合材料の耐衝撃性が低下する場合がある。
【0026】
炭素繊維はまた、他の強化繊維と混合して用いてもかまわない。他の強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維等が挙げられる。他の強化繊維は、本発明の目的を損なわない範囲で炭素繊維と混合することができる。
【0027】
本発明において、炭素繊維は、表面をサイジング剤で被覆されていることが好ましい。中でも、炭素繊維表面が被覆されたサイジング剤の表面自由エネルギーの極性成分値Es(mJ/m2)が、好ましくは9〜50mJ/m2となるように、炭素繊維に、サイジング処理を施すことにより、炭素繊維とマトリックス樹脂の界面接着性が優れ、衝撃後圧縮強度を改善するだけでなく、非繊維方向の引張強度を高くすることができる。
【0028】
サイジング剤の表面自由エネルギーの極性成分値(Es)が、50mJ/m2を超える場合、極性成分が多すぎて、炭素繊維とマトリックス樹脂との結合が強くなり過ぎて、結果的にコンポジットの機械的強度が低下する場合がある。一方で、表面自由エネルギーの極性成分値(Es)が9mJ/m2未満では、接着性が不十分となり、非繊維方向の引張強度、並びに、衝撃後圧縮強度が低下する場合がある。
【0029】
ここで、サイジング剤の表面自由エネルギーの極性成分値Es(mJ/m2)は、サイジング液中に炭素繊維束を浸漬して引き上げた後、120〜150℃の温度で1〜10分間の乾燥後、水、エチレングリコール、燐酸トリクレゾールの各液体において、ウィルヘルミ法によって測定される各接触角をもとに、オーエンスの近似式を用いて算出した表面自由エネルギーの極性成分値として得ることができる。
【0030】
本発明において用いられるサイジング剤は、表面自由エネルギーの極性成分値が9mJ/m2以上50mJ/m2以下のものであればよく、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリ塩化ビニルやポリアミド等の熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
【0031】
これらのサイジング剤の中でも、炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを有効に行い、高い接着性を得るためには、エポキシ樹脂が好ましく、さらには、中でも、脂肪族系ポリエポキシ化合物が好ましく用いられる。
【0032】
脂肪族系ポリエポキシ化合物としては、例えば、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール”(デナコールは登録商標、以下同じ)EX−512、EX−521)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール”EX−321)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール”EX−211)、グリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール”EX−313、EX−314)、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール”EX−941、EX−920、EX−931)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール”EX−810、EX−811)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール”EX−850、EX−851、EX−821、EX−830、EX−832、EX−841、EX−861)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール”EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622)、およびペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール”EX−411)などを挙げることができる。
【0033】
また、サイジング剤として、ポリアミドやポリビニルアルコールなどの熱可塑性樹脂も使用することができる。水溶性ポリアミド樹脂としては、例えば、東レ(株)製のAQナイロン(商品名)などを挙げることができる。
【0034】
本発明において、サイジング剤の付着量は、炭素繊維からなる強化繊維[A]全体のうち、好ましくは0.15重量%以上5重量%以下であり、より好ましくは0.2重量%以上3重量%以下であり、さらに好ましくは0.3重量%以上2.5重量%以下である。付着量が0.15重量%未満では、耐擦過が低下し、サイジング剤被覆炭素繊維の取り扱い性が低下し、また付着量が5重量%より大きいと、サイジング剤被覆炭素繊維の形態が硬くなり、マトリックスの含浸性が低下する場合がある。
【0035】
エポキシ樹脂[B]は、本発明においては主にマトリックス樹脂として用いられる。エポキシ樹脂としては、分子内に少なくとも2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば、いかなるエポキシ樹脂も使用することができる。具体的には、エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルキシレンジアミン、グリシジルアニリン、グリシジルo−トルイジンなどのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂、オキサゾリドン環を含有するイソシアネート変性エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を含有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を含有するエポキシ樹脂、トリフェニルメタン骨格を含有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を含有するエポキシ樹脂、および脂環式エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は、単独でも組み合わせても用いることができる。
【0036】
エポキシ樹脂[B]は、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含んでいることが好ましい。グリシジルアミン型エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂[B]全体のうち、40〜100重量%含まれていることが好ましく、さらに好ましくは50〜90重量%である。グリシジルアミン型エポキシ樹脂の配合量が40重量%以下であると、耐熱性が低下し、炭素繊維との接着性も低下する傾向がある。また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂の配合量が増えると、樹脂靭性が低下する傾向があるので、目的によって配合量を選ぶ必要がある。
【0037】
本発明で用いられるベンゾオキサジン化合物[C]は、次の一般式
【0038】
【化3】

【0039】
(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状アルキル基、炭素数3〜8の環状アルキル基、フェニル基、または、炭素数1〜12の鎖状アルキル基またはハロゲンで置換されたフェニル基を表し、芳香環の酸素原子が結合している炭素原子のオルト位とパラ位の少なくとも一方の炭素原子には水素が結合している。)で示される構造単位(I)を有するものである。
【0040】
上記の一般式で示される構造単位(I)において、Rの例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、o−メチルフェニル基、m−メチルフェニル基、p−メチルフェニル基、o−エチルフェニル基、m−エチルフェニル基、p−エチルフェニル基、o−t−ブチルフェニル基、m−t−ブチルフェニル基、p−t−ブチルフェニル基、o−クロロフェニル基、およびo−ブロモフェニル基などを好ましく挙げることができる。これらの中でも、良好な取り扱い性を与えることから、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、およびo−メチルフェニル基が好ましく用いられる。
【0041】
ベンゾオキサジン化合物[C]は、モノマーのみからなるものでも良いし、重合してポリマー状態となっても良い。しかしながら、開環反応により重合が進行してポリマー化した場合、適正な粘度範囲を外れてプリプレグの粘着性(タック性)や変形性(ドレープ性)が低下してしまう傾向がある。また、異なる構造を有するベンゾオキサジン化合物を同時に用いても良い。
【0042】
ベンゾオキサジン化合物[C]は、熱により開環反応してフェノール性水酸基を分子内に生成する。生成したフェノール性水酸基と、エポキシ樹脂[B]のエポキシ基が反応することにより、低吸水で、耐湿熱性に優れた硬化物を生成する。そのために、ベンゾオキサジン化合物の開環反応を促進する化合物を必要に応じて使用しても良い。開環反応を促進する化合物としては、フェノール化合物、カルボン酸、スルホン酸等のプロトン酸、三ハロゲン化ホウ素錯体等のルイス酸、芳香族アミン、イミダゾール等のアミン化合物、およびトリフェニルホスフィン等を挙げることができる。これらは、単独で使用しても良いし、2種類以上併用しても良い。
【0043】
ベンゾオキサジン化合物[C]の配合量は、エポキシ樹脂[B]100重量部に対して50〜300重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは100〜240重量部の範囲である。配合量が300重量部を超える場合、樹脂の粘度が高くなり、プリプレグの粘着性(タック性)や変形性(ドレープ性)が低下してしまう傾向がある。また、配合量が50重量部未満の場合、ベンゾオキサジン化合物の特徴である低吸水や高弾性率という特徴が失われ、複合材料にした場合に湿熱環境での機械特性が損なわれてしまう傾向がある。
【0044】
本発明で用いられる添加剤[D]は、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよびエラストマーからなる群から選ばれた1種以上の樹脂成分からなるものである。この添加剤[D]は、マトリックス樹脂組成物の靭性を向上させ、かつ、粘弾性を変化させて粘度、貯蔵弾性率およびチキソトロピー性を適正化する役割がある。添加剤[D]として用いられる熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーまたはエラストマーは、単独で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0045】
熱可塑性樹脂としては、主鎖に、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合、およびカルボニル結合からなる群から選ばれた結合を有する熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
【0046】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、およびポリエーテルスルホンのようなエンジニアリングプラスチックに属する熱可塑性樹脂の一群がより好ましく用いられる。特に好ましくは、耐熱性にも優れることから、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンなどが好ましく使用される。また、これらの熱可塑性樹脂が、熱硬化性樹脂との反応性を有することは、靱性向上および硬化樹脂の耐環境性維持の観点から好ましい態様である。特に好ましい官能基としては、カルボキシル基、アミノ基および水酸基などが挙げられる。
【0047】
これらの熱可塑性樹脂の市販品として、ポリエーテルスルホンとしては、“スミカエクセル”(登録商標)PES3600P、“スミカエクセル”(登録商標)PES5003P、“スミカエクセル”(登録商標)PES5200P、“スミカエクセル”(登録商標、以上、住友化学工業(株)製)PES7200Pなどを使用することができ、また、ポリエーテルイミドとしては、“ウルテム”(登録商標)1000、“ウルテム”(登録商標、以上、日本ジーイープラスチックス(株)製)1010などを使用することができる。
【0048】
これらの熱可塑性樹脂は、マトリックス樹脂中に溶解させて使用してもいいし、粉砕などの方法により微粒子化したものをマトリックス樹脂中に分散させて使用してもよい。
【0049】
かかる熱可塑性樹脂の配合量は、マトリックス樹脂における全エポキシ基含有化合物100重量部に対して、1〜30重量部配合することが好ましい。このような配合量にすることによって、マトリックス樹脂に適度な流動性を与え、得られる炭素繊維強化プラスチックの機械強度を高める作用を有する。
【0050】
また、熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系またはポリアミド系の熱可塑性エラストマーが好ましく用いられる。ここでいう熱可塑性エラストマーとは、ハードセグメント成分とソフトセグメント成分からなるブロック共重合体であり、室温以下のガラス転移温度と室温以上の融点を有するポリマーである。ポリエステル系またはポリアミド系の熱可塑性エラストマーの場合は、ハードセグメント成分がポリエステル単位、あるいはポリアミド単位である構造を有する。これらの熱可塑性エラストマーとしては、例えば、国際公開第96/02592号パンフレットに記載のものを用いることができる。
【0051】
また、多くの市販品も使用できる。市販のポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、東レ・デュポン社“ハイトレル”(登録商標)、東洋紡社“ベルプレン”(登録商標)、等を挙げることができ、ポリアミド熱可塑性エラストマーとしては、ATOFINA社の“PEBAX”(登録商標)、三菱化学社の“NOVAMID”(登録商標)、等を挙げることができる。
【0052】
これらの熱可塑性エラストマーは、マトリックス樹脂中に溶解させて使用してもいいし、粉砕などの方法により微粒子化したものをマトリックス樹脂中に分散させて使用してもよい。
【0053】
以上に述べたような熱可塑性エラストマーを配合した樹脂組成物は、優れた粘着性(タック性)を示しながら、低粘度であるため、ドレープ性と強化繊維への含浸性にも優れている。また、このような熱可塑性エラストマーを配合しない場合に比較して、樹脂の粘弾性関数の温度依存性、特に室温付近での変化が小さいため、プリプレグの取り扱い性の温度依存性が小さくなり、好ましい態様である。従って、これを用いたプリプレグは、粘着性(タック性)、変形性(ドレープ性)および品位ともに優れた特性を発現し得る。このような効果を得るためには、熱可塑性エラストマーを、マトリックス樹脂におけるエポキシ基含有化合物100重量部に対して、1〜30重量部配合することが好ましい。
【0054】
更に、エラストマーとしては、固形ゴム、液状ゴムおよびゴム粒子などを用いることができる。一般に、固形ゴムは液状ゴムに比べて同一量をマトリックス樹脂に溶解した場合の粘度上昇が大きく、成形過程の樹脂組成物を適度な粘度レベルに保ちながら、比較的成形物の耐熱性を維持することができる。特に、マトリックス樹脂の粘弾性関数の温度依存性が減少し、プリプレグを扱う作業環境温度の変動があっても取り扱い性が悪化しにくく、またプリプレグ放置による粘着性(タック性)の経時変化を小さくし、硬化物である成形板の表面平滑性を向上させることができる。
【0055】
固形ゴムとしては、エポキシ樹脂との相溶性の面から、ブタジエンとアクリロニトリルのランダムコポリマーであるアクリロニトリル−ブタジエン共重合体が好ましく用いられる。アクリロニトリルの共重合比を変化させることによって、エポキシ樹脂との相溶性を制御することができる。さらに、エポキシ樹脂との接着性をあげるために、官能基を有する固形ゴムがより好ましく用いられる。官能基としては、カルボキシル基およびアミノ基などが挙げられる。アクリロニトリル−ブタジエン共重合体として、特に、カルボキシル基を含有する固形アクリロニトリル−ブタジエンゴムが好ましく用いられる。また、耐候性に優れるため、水素化ニトリルゴムも好ましく用いられる。
【0056】
これら固形ゴムの市販品として、“NIPOL”( “NIPOL”は登録商標、以下同じ。)1072、“NIPOL”1072J、“NIPOL”1472、“NIPOL”1472HV、“NIPOL”1042、“NIPOL”1043、“NIPOL”DN631、“NIPOL”1001、“ZETPOL”(“ZETPOL”は登録商標、以下同じ。)2020、“ZETPOL”2220、“ZETPOL”3110(以上、日本ゼオン(株)製)等が挙げられる。
【0057】
また、ゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、および架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が好ましく用いられる。市販の架橋ゴム粒子としては、カルボキシル変性のブタジエン−アクリロニトリル共重合体の架橋物からなるFX601P(JSR(株)製)、アクリルゴム微粒子からなるCX−MNシリーズ(日本触媒(株)製)、YR−500シリーズ(東都化成(株)製)などを使用することができる。また、市販のコアシェルゴム粒子としては、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合体からなる“パラロイド”(登録商標)EXL−2655(呉羽化学工業(株)製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなる“スタフィロイド”(登録商標)AC−3355、TR−2122(武田薬品工業(株)製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合体からなる“PARALOID”(登録商標)EXL−2611、EXL−3387(Rohm& Haas社製)などを使用することができる。
【0058】
これらゴム成分は、靱性向上の反面、樹脂の弾性率や耐熱性を低下させやすいため、配合する場合は、添加量をマトリックス樹脂におけるエポキシ基含有化合物100重量部に対して0.1〜20重量部とすることが好ましく、添加量はより好ましくは1〜10重量部である。
【0059】
本発明で用いられる微粒子[E]の素材は、熱硬化性樹脂または/および熱可塑性樹脂である。
【0060】
微粒子として用いられる熱硬化性樹脂とは、熱または光や電子線などの外部からのエネルギーにより硬化して、少なくとも部分的に三次元架橋体を形成する、または形成した樹脂全てをさす。好ましい熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、アリル樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、アセチレン末端を有する樹脂、アリル末端を有する樹脂、ナジック酸末端を有する樹脂、およびシアン酸エステル末端を有する樹脂が挙げられる。
【0061】
微粒子として用いられる熱可塑性樹脂とは、主鎖に、炭素炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合およびカルボニル結合からなる群から選ばれた結合を有する熱可塑性樹脂である。このような熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリアクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチロールに代表されるビニル系樹脂、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトンのようなエンジニアリングプラスチックに属する熱可塑性樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンに代表される炭化水素系樹脂、酢酸セルロース、および絡酸セルロースに代表されるセルロース誘導体が挙げられる。
【0062】
特に、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、およびポリエーテルエーテルケトンは、耐衝撃性に優れているので、本発明で用いられる樹脂微粒子の素材として適している。これらの中でも、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホンおよびポリスルホンは、高靭性かつ高耐熱性であり、本発明に好適である。ポリアミドの靭性は特に優れており、非晶質透明ナイロンに属するものを使用することにより、耐熱性をも兼ね備えることができる。
【0063】
本発明で用いられる微粒子[E]は、微粒子であるが故に、ベース樹脂(ここでベース樹脂とは微粒子[E]以外の樹脂成分全てを表す。)と混ぜたときにベース樹脂中に分散した状態で存在するため、見かけ上マトリックス樹脂にはベース樹脂の特性が支配的に現れ、炭素繊維からなる強化繊維に含浸した時でもベース樹脂のもつ粘着性(タック性)および変形性(ドレープ性)を保持し、取り扱い性に優れたプリプレグを得ることができる。したがって、微粒子の特性としては粘着性、および変形性が要求されないため、微粒子として選択できる素材が広範に及ぶ。
【0064】
このため、従来、性能が優れているにもかかわらずマトリックス樹脂として使用することが困難であった樹脂でも、微粒子化して用いることによりマトリックス樹脂を構成する成分として使用することができ、マトリックス樹脂の性能を改良することができる。
【0065】
本発明で用いられる微粒子[E]の形状は、球状に限られるものではない。もちろん球状であっても良いが、樹脂塊を粉砕した微粉体や、スプレードライ法や再沈殿法で得られる微粒子のごとく形状様々の状態で一向に差し支えない。その他、繊維を短く切断したミルドファイバー状でもよく、また、針状やウィスカー状でも差し支えない。特に球状の粒子を使用したい場合は、懸濁重合法で得られる製品をそのまま微粒子として使用することができる。
【0066】
微粒子の大きさは粒径で表現されるが、この場合の粒径とは遠心沈降速度法などで求められる体積平均粒径を意味する。
【0067】
本発明で用いられる微粒子[E]の粒径は、好ましくは0.1μm〜150μmであり、より好ましくは1μm〜100μmのものが適している。粒径が150μmを超える場合は、炭素繊維からなる強化繊維の配列を乱したり、積層して得られる複合材料の層間を必要以上に厚くするため、複合材料としたときの物性を低下させたりする欠点がある。また、粒径が0.1μmよりも小さい場合は、炭素繊維からなる強化繊維の内部に入り込んでしまい、プリプレグ表面に存在できなくなってしまうことがある。
【0068】
微粒子[E]の量は、マトリックス樹脂に対して1〜80重量%の範囲が適している。微粒子の量が1重量%以下では、微粒子の効果がほとんど現れず、また、80重量%を超えるとベース樹脂との混合が困難になる上、マトリックス樹脂としての粘着性も大幅に低下してしまう。
【0069】
微粒子[E]の分布については、プリプレグの表面層、すなわち、成形して複合材料になった場合のプリプレグシートとプリプレグシートの間に片寄って存在することが好ましい。複合材料のような異方性の強い材料では、材料全体に均一な応力が発生することは殆どなく、たいていの場合、応力は特定の部分に集中する。特に、シート状の複合材料用プリプレグを積層して得られる繊維強化複合材料の場合、外部からの衝撃力など外力がかかる場合、シートとシートの間、すなわち層間に大きな応力がかかることが知られている。従って、靭性に優れた微粒子が層間に比較的高濃度で分布している場合には、層間靭性の向上に著しい効果をもたらす。
【0070】
通常の微粒子の添加では、マトリックス樹脂に対する微粒子の含有率の分だけ改質効果のみが期待されるにすぎないが、微粒子が複合材料用プリプレグの表面層に片寄って存在する場合は、前述の加成性に基づく予想を遙かに超え、特に耐衝撃性の向上に関しては、全く予期し得ないほどの著しい効果が得られるのである。これを満たす条件は、微粒子の90重量%以上がプリプレグの表面からプリプレグの厚さの30%の深さの範囲に局在化することである。この条件を外れて複合材料用プリプレグの内部深くに微粒子が入った場合、複合材料の耐衝撃性は条件にあったものと比べて劣るものとなる。微粒子の90重量%以上が、プリプレグの表面からプリプレグの厚さの10%の深さの範囲内に局在化する場合は、より顕著な効果が現れる。
【0071】
本発明の複合材料用プリプレグにおいては、プリプレグの両面において微粒子が片寄って分布したものが、プリプレグの表裏にかかわりなく自由に積層することができる。しかしながら、プリプレグの片面のみに微粒子が同様の分布をしたプリプレグでも、プリプレグ同志を積層するときに、微粒子が必ずプリプレグ間にくるように注意を払って使用すれば同様の効果が得られるため、プリプレグの片面のみに微粒子が片寄った分布している場合も本発明に含まれる。
【0072】
微粒子のプリプレグ中での分布状態の評価は、次のようにして行う。まず、プリプレグを二枚の平滑な支持板の間に挟んで密着させ、長時間かけて徐々に温度を上げて硬化させる。このときに重要なことは、可能な限り低温でゲル化させることである。ゲル化しないうちに温度を上げると、プリプレグ中の樹脂が流動し、微粒子が移動するため、プリプレグ中における正確な分布状態の評価ができない。ゲル化した後、さらに時間をかけて温度を上げてプリプレグを硬化させる。この硬化したプリプレグを用いてその断面を200倍以上に拡大して、200mm×200mm以上の写真を撮る。この断面写真を用い、まず、平均的なプリプレグの厚みを求める。層の平均厚みは、写真上で任意に選んだ少なくとも5カ所で測り、その平均を取る。次に、両方の支持板に接していた面からプリプレグの厚みの30%の位置にプリプレグの面方向と平行に線を引く。支持板に接していた面と30%の平行線の間に存在する微粒子の面積をプリプレグの両方について定量し、これとプリプレグの全幅に渡って存在する微粒子の面積を定量し、その比を取ることによりプリプレグの表面からプリプレグの厚さの30%以内に存在する微粒子の量が算出される。微粒子の面積の定量は、断面写真から所定の領域に存在する微粒子部分を全て切り取り、その重量を測ることにより行う。微粒子の部分的なばらつきの影響を排除するために、この評価は得られた写真の幅全域に渡って行い、かつ、任意に選んだ5カ所以上の写真について同様の評価を行い、その平均を取る必要がある。
【0073】
本発明の複合材料用プリプレグでは、その他の成分として、一般にエポキシ樹脂の硬化剤といわれる化合物を用いることができる。硬化剤としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンのような芳香族アミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン等の脂肪族アミン、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物のようなカルボン酸無水物、アジピン酸ヒドラジド等のカルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、およびポリフェノール化合物等を挙げることができる。これらの中でも良好な耐熱性および硬化性を与えることから、ジアミノジフェニルスルホンの各構造異性体を含むものであることが好ましい。
【0074】
本発明の複合材料用プリプレグでは、さらに、無機添加剤を加えても良い。無機添加剤としては、炭酸カルシウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、微粒子状シリカ、炭酸カルシウム、マイカ、タルク、モンモリロナイト、スメクタイト、カーボンブラック、炭化ケイ素、およびアルミナ水和物等の無機粒子を挙げることができる。
【0075】
次に、本発明の複合材料用プリプレグの製造方法について説明する。本発明の複合材料用プリプレグは、前記した本発明で用いられるマトリックス樹脂の組成物を、強化繊維に含浸せしめる方法で製造することができる。本発明の複合材料用プリプレグは、例えば、マトリックス樹脂をメチルエチルケトンやメタノールなどの溶媒に溶解して低粘度化し、これを強化繊維に含浸させるウェット法、あるいは加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法などの方法により製造することができる。
【0076】
ウェット法では、強化繊維をマトリックス樹脂を含む液体に浸漬した後、引き上げ、オーブンなどを用いて溶媒を蒸発させてプリプレグを得ることができる。
【0077】
ホットメルト法では、加熱により低粘度化したマトリックス樹脂を直接強化繊維に含浸させる方法、あるいは一旦マトリックス樹脂を含む組成物を離型紙などの上にコーティングしたフィルムをまず作成し、次いで、強化繊維の両側あるいは片側から該フィルムを重ね、加熱加圧することによりマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを製造することができる。ホットメルト法は、プリプレグ中に残留する溶媒がないため好ましい手段である。
【0078】
また、本発明の複合材料用プリプレグの取り扱い性を適切な範囲とするためには、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸する工程において、マトリックス樹脂が到達する最高温度を60℃〜150℃の範囲にすることが好ましい。さらには、最高温度を80〜130℃の範囲にすることが好ましい。最高温度が150℃を超えると、マトリックス樹脂中で硬化反応が部分的に進行し、未硬化樹脂のTgが上昇してしまい適当なドレープ性を達成できない場合があり、また60℃未満であると充分な含浸が困難となる場合がある。
【0079】
本発明の複合材料用プリプレグは、微粒子[E]がプリプレグ表面に局在化して存在していることが好ましい。これは、微粒子をふくむ組成物の含浸時に微粒子が炭素繊維からなる強化繊維内部まで入り込まないために、微粒子が濾別された形となり、結果としてプリプレグ表面に局在化する。しかしながら、含浸条件によっては、微粒子のプリプレグ表面への局在化が十分でなく、複合材料の耐衝撃性が低下する場合がある。そこで、確実に微粒子をプリプレグ表面に確実に局在化させるために、二段階の樹脂含浸過程を経てプリプレグを作成することが好ましい。二段階の樹脂含浸過程とは、微粒子を除いたマトリックス樹脂(ベース樹脂)組成のフィルムを離型紙上にコーテイングして作成し、強化繊維の両側あるいは片側から該フィルムを重ね、加熱加圧することにより含浸して1次プリプレグを作成する。次に、高濃度に微粒子を含有したマトリックス樹脂組成のフィルムを離型紙上にコーテイングして作成し、1次プリプレグの両側あるいは片側から高濃度の微粒子を含有した樹脂フィルムを重ね、加熱加圧することにより微粒子が確実に表面に局在化したプリプレグを作成することができる。この他に、微粒子を除いたマトリックス樹脂(ベース樹脂)を強化繊維に含浸させた後、微粒子を直接プリプレグ表面に均一に散布することで目的のプリプレグを作成することもできる。
【0080】
本発明の複合材料用プリプレグを用いて炭素繊維で強化された複合材料を成形するには、プリプレグを積層後、積層物に圧力を付与しながら、含浸させた樹脂を加熱硬化させる方法などを用いることができる。
【0081】
圧力を付与しながら樹脂を加熱硬化させる方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法などがある。
【0082】
本発明における繊維強化複合材料は、航空機用構造材料をはじめとして、自動車用途、船舶用途、スポーツ用途およびその他一般産業用途に好適であり、非繊維方向の引張強度が高いだけでなく、衝撃後圧縮強度に優れる炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明について、さらに具体的に説明する。
【0084】
(実施例1〜5、比較例1、2)
各実施例と各比較例について、樹脂組成物、プリプレグおよび複合材料等の作製、並びに各種物性の測定は、次に示す方法で行った。
【0085】
<樹脂組成物の作製>
各実施例と各比較例では、次に示す原料樹脂を使用し、表1に示す組成分をニーダーで混練して各樹脂組成物を調製した。
【0086】
[エポキシ樹脂]
・MY720(チバガイギー社製、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、エポキシ当量:125)
・“エピコート”(登録商標)630(ジャパンエポキシレジン(株)製、トリグリシジルアミノフェノール、エポキシ当量:97.5)
・“エピコート8”(登録商標)28(ジャパンエポキシレジン(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:189)
・GAN(日本化薬(株)製、ジグリシジルアニリン、エポキシ当量:125)
・HP7200L(大日本インキ(株)製、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、エポキシ当量:245)
[ベンゾオキサジン化合物]
・F−a型(四国化成工業(株)製、ビスフェノールF−アニリン型ベンゾオキサジン)
・P−d型(四国化成工業(株)性、フェノール−ジアミノジフェニルメタン型ベンゾオキサジン)
[添加剤]
・PES(住友化学工業(株)製、ポリエーテルスルホン、“スミカエクセル”(登録商標)PES5003P)
・TN粒子(東レ(株)製、グリルアミド樹脂微粒子、平均粒径12.5μm)
・BF3・ピペリジン(ステラケミファ(株)製)
1.プリプレグの作製
表1に示すマトリックス樹脂組成物(表中、数字は重量部を表す)について、実施例1〜4については、TN粒子を除くベース樹脂を調製し、ナイフコーターを用いて樹脂目付31g/mで離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを一方向に引き揃えた炭素繊維(目付190g/m)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、加熱加圧しながらマトリックス樹脂組成物を含浸させ、一次プリプレグを得た。次に、最終的な複合材料用プリプレグのマトリックス樹脂組成が表1の配合量になるように、TN粒子加えて調整したマトリックス樹脂組成物で、ナイフコーターを用いて樹脂目付21g/mで離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを一次プリプレグの両側に重ね合せてヒートロールを用い、加熱加圧しながら樹脂を含浸させ、目的のプリプレグを得た。比較例1と2については、表1に示す樹脂組成物を調製し、ナイフコーターを用いて樹脂目付52g/mで離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを一方向に引き揃えた炭素繊維(目付190g/m)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、加熱加圧しながらマトリックス樹脂を含浸させ、目的のプリプレグを得た。
【0087】
ここで、炭素繊維は、ストランド強度が4.9GPa、ストランド弾性率が240GPa、引張伸度2.1%の束状のポリアクリロニトリル系炭素繊維(単繊維直径6.9μm、単繊維数12000本/束)を使用して、サイジング剤による表面処理は、ソルビトールポリグリシジルエーテル(“デナコール”(登録商標)EX−611、表面自由エネルギーの極性成分値Es:14mJ/m)、並びに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(「エピコート」1004、表面自由エネルギーの極性成分値Es:2mJ/m)を用いた。
【0088】
2.積層複合材(複合材料)の臨界ひずみエネルギー解放率GIIC
上記の方法により作製した一方向プリプレグの繊維方向を揃え、20プライ積層した。このとき、中央の10プライと11プライの間の位置に初期亀裂導入のためポリイミドフィルムを挟み込みんで、オートクレーブにて、180℃の温度で3時間、0.59MPaの圧力下、昇温速度1.5℃/分で成型して積層複合材を作製した。この積層体について、JIS K7086(1993)に従い、臨界ひずみエネルギー解放率GIICを求めた。臨界ひずみエネルギー解放率GIICは、5個の試料について測定し、その平均臨界ひずみエネルギー解放率GIICを求めた。また、測定については、室温乾燥状態(25℃±2℃、相対湿度50%)で行った。
【0089】
3.積層複合材(複合材料)の90°引張強度
上記した方法により作製した一方向プリプレグの繊維方向を揃え、10プライ積層し、オートクレーブにて、180℃の温度で3時間、0.59MPaの圧力下、昇温速度1.5℃/分で成型して積層複合材を作製した。この積層体について、JIS K7073(1988)に従い、90°引張強度を求めた。かかる90°引張強度は、5個の試料について測定し、その平均90°引張強度を求めた。また測定については、室温乾燥状態(25℃±2℃、相対湿度50%)で行った。
【0090】
4.積層複合材(複合材料)の衝撃後圧縮強度
上記した方法により作製した一方向プリプレグを(+45/0/−45/90)3sの構成で積層し、オートクレーブにて、180℃の温度で3時間、0.59MPaの圧力下、昇温速度1.5℃/分で成型して積層複合材を作製した。この積層体について、JIS K7089(1996)に従い、0°方向が6インチ、90°方向が4インチの長方形に切り出し、その中央に落下高さ571mmで、270インチ・ポンドの落錘衝撃を与え、衝撃後圧縮強度を求めた。かかる衝撃後圧縮強度は、5個の試料について測定し、その平均衝撃後圧縮強度を求めた。また、測定については、室温乾燥状態(25℃±2℃、相対湿度50%)で行った。
【0091】
5.測定結果
結果を表1に示す。比較例1と2に比べて、実施例1〜5は衝撃後圧縮強度に優れているものであった。
【0092】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の複合材料用プリプレグは、航空機用構造材料をはじめとして、自動車用途、船舶用途、スポーツ用途およびその他一般産業用途に好適であり、これを用いて、非繊維方向の引張強度が高いだけでなく、衝撃後圧縮強度に優れる炭素繊維強化複合材料を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維からなる強化繊維[A]、エポキシ樹脂[B]および次の一般式
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状アルキル基、炭素数3〜8の環状アルキル基、フェニル基、または、炭素数1〜12の鎖状アルキル基またはハロゲンで置換されたフェニル基を表し、芳香環の酸素原子が結合している炭素原子のオルト位とパラ位の少なくとも一方の炭素原子には水素が結合している。)で示される構造単位(I)を有するベンゾオキサジン化合物[C]を必須成分として含有する複合材料用プリプレグであって、該複合材料用プリプレグを硬化した複合材料の臨界ひずみエネルギー解放率GIICが1.0kJ/m以上であることを特徴とする複合材料用プリプレグ。
【請求項2】
更に、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよびエラストマーからなる群から選ばれた1種以上の添加剤[D]と、樹脂を素材とする微粒子[E]を含むことを特徴とする請求項1記載の複合材料用プリプレグ。
【請求項3】
強化繊維[A]が、サイジング剤によって被覆されており、サイジング剤の表面自由エネルギーの極性成分値(Es)が、9〜50mJ/mであることを特徴とする請求項1または2記載の複合材料用プリプレグ。
【請求項4】
複合材料用プリプレグを硬化し得られた複合材料の90°引張強度が、70MPa以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合材料用プリプレグ。
【請求項5】
エポキシ樹脂[B]が、グリシジルアミン型エポキシを40重量%以上含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の複合材料用プリプレグ。
【請求項6】
添加剤[D]の熱可塑性樹脂が、ポリエーテルスルホンであることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の複合材料用プリプレグ。
【請求項7】
微粒子[E]がポリアミドからなる微粒子であることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の複合材料用プリプレグ。
【請求項8】
微粒子[E]の大きさが0.1〜150μmの範囲であることを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載の複合材料用プリプレグ。
【請求項9】
微粒子[E]の90重量%以上が、プリプレグの表面から厚さの30%以内に局在化していることを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の複合材料用プリプレグ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の複合材料用プリプレグを硬化して得られる複合材料。

【公開番号】特開2007−16121(P2007−16121A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198832(P2005−198832)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】