説明

複合材料積層板

【課題】引張伸度が大きい複合材料積層板を提供する。
【解決手段】本発明の複合材料積層板1は、基準方向に対して0°に配向した炭素繊維、および樹脂を含有する0°配向層20と、0°以外の方向に配向した炭素繊維、および樹脂を含有する厚さ0.040mm以下の1層以上の他方向配向層10,30,40とを備え、0°配向層20および他方向配向層10,30,40に含まれる炭素繊維は、単繊維の表面の最大高低差が30〜70nm、平均凹凸度が4〜10nm、単繊維の断面の長径と短径との比が1.02〜1.10で、引張伸度が2.2%以上の繊維束である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化樹脂が使用された複合材料積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維強化樹脂からなる複合材料で構成された成形品の利用分野が広がっており、例えば、車や航空機等にも使用され始めている。成形品は、炭素繊維に硬化性樹脂が含浸されたシート状プリプレグを複数枚積層し、硬化することにより作製される。その際に、プリプレグとして、強化繊維が一方向に配向したプリプレグを使用し、積層後の強化繊維の配置パターンが対称になるように複数枚積層した場合には、引張伸度がほぼ等方的になる擬似等方積層板が得られる。
擬似等方積層板としては、例えば、強化繊維配向方向が0°(「0°」は、便宜的に基準とした方向と平行であることを意味する。)に配向した層と90°に配向した層との2層積層、繊維配向方向が0°に配向した層と90°に配向した層と0°に配向した層との3層積層、繊維配向方向が45°に配向した層と0°に配向した層と−45°に配向した層と90°に配向した層との4層積層などが知られている。
【0003】
ところで、航空機等に使用される材料では、高い引張特性が要求されている。そこで、引張伸度が2.0%程度の高い引張特性を有する炭素繊維を用いる方法が考えられるが、このような炭素繊維を用いた場合でも、従来の擬似等方積層板の0°方向の引張伸度は充分に高くならなかった。これは、従来の擬似等方積層板では、厳密には0°方向よりも±45°の方向および90°の方向の引張伸度が低く、その影響により0°方向で引張特性を測定した際には0°以外の方向で先に破壊が生じるためである。
そこで、特許文献1および非特許文献1では、90°または±45°で配向した炭素繊維を含有する層を薄くして、擬似等方積層板の引張特性を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−514458号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】笹山秀樹ら、「多方向強化複合材料積層板の初期破損に関する層厚さの影響」、日本複合材料学会誌、2004年、第30巻、第4号、p.142−148
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および非特許文献1に記載の方法によっても、複合材料積層板の引張伸度が充分に高くならず、上記の要求を満たすことは困難であった。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、引張伸度が大きい複合材料積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]基準方向に対して0°に配向した炭素繊維、および樹脂を含有する0°配向層と、0°以外の方向に配向した炭素繊維、および樹脂を含有する厚さ0.044mm以下の1層以上の他方向配向層とを備え、
0°配向層および他方向配向層に含まれる炭素繊維は、単繊維の表面の最大高低差が30〜75nm、平均凹凸度が4〜10nm、単繊維の断面の長径と短径との比が1.02〜1.10で、引張伸度が2.2%以上の繊維束である複合材料積層板。
[2]他方向配向層は1層または2層で、炭素繊維が基準方向に対して略90°に配向した90°配向層である、[1]に記載の複合材料積層板。
[3]他方向配向層は3層で、炭素繊維が基準方向に対して略90°に配向した90°配向層と、炭素繊維が基準方向に対して略45°に配向した45°配向層と、炭素繊維が基準方向に対して略−45°に配向した−45°配向層とである、[1]に記載の複合材料積層板。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合材料積層板は、引張伸度が大きく、0°の方向で2.1%以上になるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の複合材料積層板の一実施形態例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の複合材料積層板の一実施形態例について説明する。
図1に示すように、本実施形態例の複合材料積層板1は、45°配向層10と、0°配向層20と、−45°配向層30と、90°配向層とを備える矩形状の4層積層板である。ここで、「0°」とは、便宜的に基準とした方向(以下、「基準方向」という。)と平行であることを意味し、「45°」、「−45°」、「90°」は基準方向に対して各々45°、−45°(135°)、90°であることを意味する。なお、本実施形態では、複合材料積層板の長手方向が基準方向と平行になっている。
【0011】
45°配向層10は、基準方向に対して略45°に配向した炭素繊維と、樹脂とを含有する。
45°配向層10の厚さは0.044mm以下であり、0.03mm以下であることが好ましい。45°配向層10の厚さが0.044mm以下であることにより、複合材料積層板1の引張伸度を向上させることができる。
また、45°配向層10の厚さは、製造上の点から、0.01mm以上であることが好ましい。
【0012】
0°配向層20、基準方向に配向した炭素繊維と、樹脂とを含有する。
0°配向層20の厚さは0.01〜0.10mm以下であることが好ましく、0.01〜0.08mmであることがより好ましい。0°配向層20の厚さが0.01mm以上であれば、所定の厚さの積層板を製造する際、プリプレグ材の積層枚数を少なくすることができる。0.1mm以下であれば、0°方向以外の配向層を増やすことができ、積層板の0°方向以外の機械的性能のバランスを維持することができる。
【0013】
−45°配向層30、基準方向に対して略−45°に配向した炭素繊維と、樹脂とを含有する。
−45°配向層30の厚さは、45°配向層10と同様の理由により、0.044mm以下であり、0.03mm以下であることが好ましい。また、−45°配向層30の厚さは、0.01mm以上であることが好ましい。
【0014】
90°配向層40は、基準方向に対して略90°に配向した炭素繊維と、樹脂とを含有する。
90°配向層40の厚さは、45°配向層10と同様の理由により、0.044mm以下であり、0.03mm以下であることが好ましい。また、90°配向層40の厚さは、0.01mm以上であることが好ましい。
【0015】
45°配向層10、0°配向層20、−45°配向層30および90°配向層40で使用される樹脂としては、熱硬化性樹脂の硬化物または熱可塑性樹脂が使用される。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、強度が高いこと、炭素繊維との界面接着性が高いことから、エポキシ樹脂が好ましい。
また、各層10,20,30,40には、硬化剤、離型剤、脱泡剤、紫外線吸収剤、充填材などの各種添加剤などが含まれてもよい。
【0016】
45°配向層10、0°配向層20、−45°配向層30および90°配向層40では、いずれも下記の炭素繊維が使用される。
すなわち、各層10,20,30,40に使用される炭素繊維は、多数の単繊維で構成された繊維束である。本発明で使用される炭素繊維を構成する単繊維の側面は、ほぼ平滑であるが、微視的には凹凸を有している。具体的には、単繊維の表面の最大高低差が30〜75nm、平均凹凸度が4〜10nmになっている。ここで、最大高低差および平均凹凸度は、走査型原子間力顕微鏡を用いて単繊維の表面を測定することによって求められた値である。
また、本発明で使用される炭素繊維では、単繊維の長手方向に垂直な断面はほぼ真円になっており、具体的には、単繊維の断面の長径と短径との比は1.02〜1.10であり、1.03〜1.07であることが好ましい。真円に近いことにより、繊維表面近傍の構造均一性が優れているために、応力集中を低減させることができ、複合材料積層板1の引張伸度が高くなる。長径と短径との比は、短繊維の断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより測定される。ここで、「長径」とは、炭素繊維の断面において、最も長い径であり、「短径」とは、炭素繊維の断面において、最も短い径である。
【0017】
上記のように、単繊維の断面の長径と短径との比が1.02〜1.10であって、単繊維の表面の最大高低差が75nm以下で、平均凹凸度が10nm以下であることにより、応力集中部が少なくなり、複合材料とした際の界面破壊が抑制されるため、複合材料積層板1の引張伸度が高くなる。
また、単繊維の断面の長径と短径との比が1.02〜1.10であって、単繊維の表面の最大高低差が30nm以上で、平均凹凸度が4nm以上であることにより、樹脂との界面接着性が高くなるため、複合材料とした際の引張特性が向上する。
【0018】
また、引張伸度をより高くできることから、単繊維の単位長さ当たりの質量範囲が0.035〜0.056mg/mであることが好ましい。
また、炭素繊維は、強度がより高くなることから、下記方法により求められる破壊表面生成エネルギーが28N/m以上であることが好ましく、29N/m以上であることがより好ましく、30N/m以上であることがさらに好ましい。
[破壊表面生成エネルギーの求め方]
単繊維表面にレーザーにより所定範囲の大きさを有する半球状欠陥を形成し、炭素繊維を引張試験により前記半球状欠陥部位で破断させ、炭素繊維の破断強度と半球状欠陥の大きさに基づき、下記グリフィス式より破壊表面生成エネルギーを求める。
σ=√(2E/πC)×√(破壊表面生成エネルギー)
ここで、σは破断強度、Eは炭素繊維束の超音波弾性率、cは半球状欠陥の大きさである。
【0019】
炭素繊維の引張伸度は2.2%以上であり、2.3%以上であることが好ましい。ここで、引張伸度は、JIS R7608に準じて引張破断強度とA法による引張弾性率を測定し、JIS R7608の10.3.3に記載の計算方法によって求めた値である。炭素繊維の引張伸度が2.2%以上であることにより、複合材料積層板1の引張伸度が高くなる。
炭素繊維の引張強度は5700MPa以上であることが好ましく、5800MPa以上であることがより好ましく、5900MPa以上であることがさらに好ましい。ここで、引張強度は、JIS R7609に準じて測定した値である。引張強度が5700MPa以上であれば、複合材料積層板1の引張伸度がより高くなる。
炭素繊維の引張弾性率は245〜350GPaであることが好ましく、250〜330GPaであることがより好ましい。ここで、引張弾性率は、JIS R7609に準じて測定した値である。引張弾性率が245GPa以上であれば、複合材料積層板1の引張弾性率が十分なレベルになり、優れた機械的性能を有する積層板とすることができる。350GPa以下であれば、炭素繊維の繊維軸方向の圧縮強度を引張強度と同等な強度レベルに維持することができ、積層板の機械的性能を低下させることを回避することができる。
【0020】
上記の炭素繊維を製造するためには、前駆体繊維を耐炎化した後、炭素化する炭素繊維の製造方法において、以下の前駆体繊維と処理条件を適用すればよい。
本製造方法では、前駆体繊維として、96質量%以上のアクリロニトリルと数種の共重合可能なモノマーとにより得られたアクリロニトリル重合体系前駆体繊維が使用される。アクリロニトリル以外の共重合成分としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のアクリル酸誘導体、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
好ましい共重合体としては、1つ以上のカルボキシル基有するモノマー(アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等)をアクリロニトリルに共重合させたアクリロニトリル系重合体が挙げられる。
好ましくは、1種または2種以上のカルボキシル基を有するモノマーを0.3質量%以上4.0質量%以下とアクリロニトリル96.0質量%以上99.7質量%以下とを共重合したアクリルニトリル共重合体が用いられる。より好ましいアクリロニトリル含有量は、98.0質量%以上である。
【0021】
前駆体繊維は、上記アクリロニトリル系重合体を有機溶剤に溶解した紡糸原液を紡糸口金から凝固液に吐出し、凝固させることにより得られる。
前記有機溶剤としては、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
紡糸原液の固形分濃度は、20質量%以上が好ましく、21質量%以上であることが好ましい。固形分濃度が高い程、緻密な構造を有する凝固糸を容易に作製できる。
【0022】
紡糸原液の凝固により得られた凝固糸には、洗浄処理、延伸処理が施される。
洗浄処理は脱溶剤できれば特に制限されず、洗浄液で満たした槽に浸漬させる方法、洗浄液を高圧で吹き付ける方法などが挙げられる。
延伸処理は、洗浄処理の前でもよいし、後でもよいし、前後両方でもよい。また、延伸処理と洗浄処理とを同時に行ってもよい。
延伸処理と洗浄処理とを同時に行う場合には、例えば、50〜100℃の範囲の温度に設定された多段洗浄・延伸槽にて、洗浄しつつ延伸する方法が挙げられる。ここで、洗浄・延伸槽の段数は特に制限はないが、3〜10段が好ましい。延伸倍率は、1.5〜3.8倍の範囲が好ましく、2.0〜3.8倍であることがより好ましい。延伸倍率が1.5倍未満では延伸不足になり、所望のフィブリル配向度を確保できないことがある。一方、5倍を超える延伸を行うと、フィブリル構造自体の破断が生じ、疎の構造の前駆体繊維束になることがある。
【0023】
また、有機溶剤を含んだ凝固糸を空気中にて延伸処理することもできる。
空気中での延伸では、延伸倍率が1.0〜1.3倍であることが好ましく、1.0〜1.2倍であることがより好ましい。延伸倍率が1.3倍を超えると、過剰延伸となり、ボイドが多数形成され、得られる前駆体繊維束の緻密性を低下させる原因となることがある。
【0024】
また、引き取った凝固糸を洗浄する前に、凝固液よりも溶剤濃度が低く、温度の高い前延伸槽にて、延伸処理を施してもよい。
この場合、延伸槽の温度は40〜80℃の範囲が好ましく、50〜75℃であることがより好ましい。延伸槽の温度が40℃未満であると、充分な延伸性を確保できず、均一なフィブリル構造を形成できないことがある。一方、80℃を超えると熱による可塑化作用が大きくなりすぎる上に、糸条表面での脱溶剤が急速に進み延伸が不均一になるため、前駆体繊維束として品質が低下する傾向にある。
また、延伸槽の濃度は30〜60質量%が好ましく、35〜55質量%であることがより好ましい。延伸槽の濃度が30質量%未満であると、安定に延伸できないことがあり、60質量%を超えると、可塑化効果が大きくなりすぎて、やはり安定に延伸できないことがある。
延伸槽での延伸倍率は1.5〜3.8倍が好ましく、2.0〜3.6倍であることがより好ましい。延伸倍率が1.5倍未満であると、延伸不足になり、所望のフィブリル構造を形成できないことがある。一方、3.8倍を超える延伸を行うと、フィブリル構造自体の破断が生じ、疎の構造の前駆体繊維束になることがある。
【0025】
また、洗浄後、溶剤分の無い膨潤状態にある繊維束を熱水中で延伸することで繊維の配向をさらに高めることもできる。また、緩和した場合には、延伸の歪みを除去することもできる。熱水中で延伸する場合の延伸倍率は、0.97〜1.6倍であることが好ましく、0.97〜1.15倍であることがより好ましい。延伸倍率が1.6倍を超えると、無理な延伸による構造破壊が生じ、焼成工程での欠陥点形成の原因となることがある。
【0026】
延伸、洗浄の処理の後には、シリコーン系化合物を主成分とする油剤を0.8〜1.6質量%付着させる付着処理を行い、乾燥緻密化する。乾燥緻密化は公知の乾燥法により乾燥、緻密化させればよいが、なかでも、複数の加熱ロールを通過させる方法が好ましい。
乾燥緻密化後は、必要に応じて、130〜200℃の加圧スチームや乾熱熱媒中、あるいは加熱ロール間や加熱板上で1.8〜7.0倍延伸して、更なる配向の向上と緻密化を行ってもよい。加圧スチームを用いる方法は、スチームによる可塑化により、安定に延伸できるため、好ましい。
【0027】
上述した延伸処理により、凝固糸は、最終的に、延伸前から9〜16倍延伸される。その全延伸倍率が9倍未満であると、延伸不足であり、繊維軸方向に配向された構造が充分発達しておらず、高い引張特性の炭素繊維束が得られないことがある。一方、全延伸倍率が16倍を超えると、フィブリル構造の破壊が生じてしまうために、高い引張特性の炭素繊維束が得られないことがある。
【0028】
耐炎化では、例えば、上記のようにして得た前駆体繊維束を220〜260℃の熱風循環型の耐炎化炉に通過させて、耐炎化糸を得る。
耐炎化反応には、熱による環化反応と酸素による酸化反応があり、この2つの反応をバランスさせること重要である。この2つの反応をバランスさせるためには、耐炎化処理時間が30〜100分であることが好ましく、40〜80分であることがより好ましい。耐炎化処理時間が30分未満であると、酸化反応が充分に生じていない部分が単繊維の内側に存在し、単繊維の断面方向で大きな構造斑が生じることがある。その結果、得られる炭素繊維は不均一な構造を有するため、高い引張特性が得られないことがある。一方、耐炎化処理時間が100分を超えると、単繊維の表面近傍に多くの酸素が存在するようになり、その後の高温での熱処理により過剰の酸素が消失する反応が生じ、欠陥点を形成することがある。
【0029】
耐炎化糸の密度は1.335〜1.350g/cmであることが好ましく、1.340〜1.345g/cmであることがより好ましい。耐炎化糸の密度が1.335g/cm未満であると、耐炎化が不充分であり、その後の高温での熱処理により分解反応が生じ、欠陥点を形成するために強度が高くならないことがある。耐炎化糸密度が1.350g/cmを超えると、繊維の酸素含有量が多いため、その後の高温での熱処理により過剰の酸素が消失する反応が生じ、欠陥点を形成するために強度が高くならないことがある。
耐炎化の際には、好ましくは−6.0〜2.0%、より好ましくは−5.0〜0%の伸長操作を施す。耐炎化炉での適度の伸長は、繊維を形成しているフィブリル構造の配向を維持・向上させるために必要である。−6.0%未満の伸長では、フィブリル構造の配向を維持できず、繊維軸での配向が不充分になり、機械的性能が高くならない傾向にある。一方、2.0%を超える伸長では、フィブリル構造自体の破断が生じ、その後の炭素繊維の構造形成を損ない、また破断点が欠陥点となり、炭素繊維の強度が高くならないことがある。
【0030】
炭素化では、上記で得られた耐炎化繊維を、伸長させながら、窒素などにより不活性雰囲気にされた第一炭素化炉に通過させ、その後、伸長させながら、不活性雰囲気にされた第二炭素化炉に通過させて、炭素繊維を得る。
第一炭素化炉では、処理温度が好ましくは300〜800℃、より好ましくは300〜750℃で直線的な温度勾配を形成する。処理温度が300℃未満では、耐炎化とほぼ同じ温度になり、不都合であり、処理温度が800℃を超えると、工程糸が脆くなり、次工程への移送が困難になることがある。
第一炭素化炉における伸長では、伸長率が2〜7%であることが好ましく、3〜5%であることがより好ましい。延伸率2%未満であると、フィブリル構造の配向を維持できず、繊維軸での配向が不充分になり、機械的性能が高くならない傾向にある。一方、伸長率が7%を超えると、フィブリル構造自体の破断が生じ、その後の炭素繊維の構造形成を損ない、また破断点が欠陥点となり、炭素繊維の強度が高くならないことがある。
第一炭素化炉における処理時間は0.7〜3.0分であることが好ましく、0.9〜2.0分であることがより好ましい。処理時間が0.7分未満であると、急激な温度上昇に伴う激しい分解反応が生じ、炭素繊維の強度が高くならないことがある。処理時間が3.0分を超えると、工程前期の可塑化の影響が発生し、結晶の配向度が低下する傾向が生じるため、得られる炭素繊維の機械的性能が損なわれる傾向にある。
【0031】
第二炭素化炉では、処理温度が好ましくは1000〜1600℃、より好ましくは1050〜1600℃の温度勾配を形成する。処理温度における最高温度は低い程、得られる炭素繊維の機械的特性を向上させることができる。
第二炭素化炉における処理時間は、短い程、生産性が高くなり、長い程、最高処理温度を低下させることができ、欠陥点形成を抑制できる。処理時間は、具体的には、0.7〜3.0分であることが好ましく、0.9〜2.0分であることがより好ましい。
第二炭素化炉における熱処理では、工程繊維は大きな収縮を伴うために、緊張下で行うことが好ましい。その際の伸長率は、−6.0〜0.0%であることが好ましく、−5.0〜−1.0%であることがより好ましい。伸長率が−6.0%未満であると、結晶の繊維軸方向での配向性が低くなり、充分な引張特性が得られないことがある。一方、伸長率が0.0%を超えると、これまで形成されてきた構造が破壊されて欠陥点が形成され、強度の大幅な低下が生じるおそれがある。
【0032】
得られた炭素繊維には、表面酸化処理を施すことが好ましい。
表面処理方法としては、例えば、電解酸化、薬剤酸化、空気酸化等の酸化処理が挙げられる。これらの中でも、安定な表面酸化処理が可能で、工業的に広く利用されている点で、電解酸化が好ましい。
表面酸化処理では、表面処理状態を表すipaを0.05〜0.25μA/cmにすることが好ましい。このような範囲に制御するためには、電解酸化処理にて電気量を調整する方法が簡便である。電解酸化処理では、同一電気量であっても、用いる電解質及びその濃度によってipaは大きく異なってくるが、pHが7より大きいアルカリ性水溶液中では、炭素繊維を陽極として10〜200クーロン/gの電気量を流して酸化処理を行うことが好ましい。また、電解質としては、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好適である。
【0033】
また、炭素繊維にはサイジング処理が施されてもよい。
サイジング処理では、有機溶剤に溶解させたサイジング剤や、乳化剤などで水に分散させたサイジング剤エマルジョン液を、ローラー浸漬法、ローラー接触法等によって炭素繊維束に付与し、これを乾燥することによって行うことができる。
炭素繊維の表面へのサイジング剤の付着量は、サイジング剤液の濃度調整や絞り量調整によって制御できる。乾燥は、熱風、熱板、加熱ローラー、各種赤外線ヒーターなどを利用して行なうことができる。
【0034】
サイジング剤としては、(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂、(b)ポリヒドロキシ化合物、(c)芳香環を含むジイソシアネートから得られるポリウレタンと、(d)エポキシ樹脂との混合物、前記ポリウレタンと(d)エポキシ樹脂の反応生成物であるウレタン変性エポキシ樹脂が挙げられる。
エポキシ基は、炭素繊維表面の酸素含有官能基との相互作用が非常に強く、サイジング剤成分の炭素繊維表面に強固に接着させることができる。また、ポリヒドロキシ化合物と芳香環を含むジイソシアネートからなるウレタン結合ユニットを有すると、柔軟性の付与とウレタン結合と芳香環の有する極性による炭素繊維表面との強い相互作用の付与が可能となる。したがって、分子中にエポキシ基と上記ウレタン結合ユニットを有するウレタン変性エポキシ樹脂は、炭素繊維表面に強く付着した柔軟性を有する化合物であり、マトリックス樹脂を含浸・硬化させる複合化工程において、炭素繊維表面に強固に接着した柔軟な界面層を形成できる。そのため、より機械的性能に優れた複合材料を得ることができる。
【0035】
(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂としては、例えば、グリシドール、メチルグリシドール、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、オキシカルボン酸グリシジルエステルエポキシ樹脂などを用いることができる。これらの中でも、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂は芳香環を有することから、炭素繊維表面との相互作用が強く、また複合材料に用いられる樹脂として、耐熱性、剛直性の観点から好適に用いられる、芳香環を有するエポキシ樹脂との相溶性に優れる。
(b)ヒドロキシ化合物としては、ビスフエノ−ルAのアルキレンオキサイド付加物、脂肪族ポリヒドロキシ化合物、ポリヒドロキシモノカルボキシ化合物のいずれか、あるいはこれら2種以上の混合物が好ましい。これらの化合物は、ウレタン変性エポキシ樹脂を柔軟にすることができるからである。
(c)芳香環を含むジイソシアネ−トとしては、トルエンジイソシアネートあるいはキシレンジイソシアネートが好ましい。
(d)エポキシ樹脂としては、分子中に2つ以上のエポキシ基を有するものが好ましい。2つ以上のエポキシ基を有すると、炭素繊維の表面との相互作用が強く、強固に付着するからである。エポキシ基の種類としては特に制限はなく、グリシジルタイプ、脂環エポキシ基などを採用することができる。
より好ましいエポキシ樹脂としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、 ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(エピクロン HP−7200シリーズ:DIC株式会社)、トリスヒドロキシンフェニルメタン型エポキシ樹脂(エピコート1032H60、1032S50: ジャパンエポキシレジン株式会社)、DPPノボラック型エポキシ樹脂(エピコート157S65、157S70:ジャパンエポキシレジン株式会社)、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0036】
(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂、(b)ポリヒドロキシ化合物、(c)芳香環を含むジイソシアネートから得られるポリウレタンと、(d)エポキシ樹脂の混合物または反応物は、ポリウレタンを合成する際に、(a)〜(d)を同時に混合して得てもよいし、(a)〜(c)よりポリウレタンを合成したのち、ジイソシアネート化合物と(d)を追加で添加し、反応させて得てもよい。
(a)〜(d)の反応生成物を含む水分散液としては、例えば、ハイドランN320(DIC株式会社製)などが挙げられる。
【0037】
複合材料積層板1を得るには、まず、上記のようにして得た炭素繊維の多数本を、繊維繰出装置等を用いて繰り出し、必要に応じて、開繊させる。開繊の方法としては、例えば、炭素繊維への空気の吹き付け、炭素繊維の縦振動付与、炭素繊維の横振動付与や、これらを組み合わせた方法が挙げられる。
次いで、開繊した繊維を一方向に引き揃え、その引き揃えた状態に未硬化の樹脂を含浸させて、一方向プリプレグを得る。
樹脂の含浸方法としては、例えば、離型シートにあらかじめ未硬化の樹脂を塗布し、その塗布した樹脂の上に、引き揃えた炭素繊維を載せ、ローラーに通す方法、引き揃えた炭素繊維に樹脂を塗布し、ローラーに通す方法などが挙げられる。ここで、ロールの隙間を調整することにより、得られる一方向プリプレグの厚みを調整することができる。また、ロールを加熱することで、樹脂の粘度を低下させれば、一方向プリプレグの厚みを容易に均一化できる。
次いで、得られた一方向プリプレグを4枚用意し、45°配向層10と0°配向層20と−45°配向層30と90°配向層40とを形成するように炭素繊維を配向させつつ4枚の一方向プリプレグを積層する。次いで、加熱して、樹脂を硬化させて、複合材料積層板1を得る。
【0038】
以上説明した複合材料積層板1では、単繊維の表面の最大高低差が15〜50nm、平均凹凸度が2〜6nm、単繊維の断面の長径と短径との比が1.015〜1.10で、引張伸度が2.2%以上の炭素繊維を用い、45°配向層10、−45°配向層30および90°配向層40の厚さを0.04mm以下とするため、45°配向層10、−45°配向層30および90°配向層40の引張特性が向上する。そのため、複合材料積層板1の0°方向の引張伸度は大きくなり、具体的には、2.1%以上にできる。
また、45°配向層10と0°配向層20と−45°配向層30と90°配向層40を備える複合材料積層板1は、全炭素繊維の配置が0°を軸とした線対称になっているため、引張伸度が擬似等方的になっている。
【0039】
なお、本発明は、上記実施形態例に限定されない。
例えば、本発明の複合材料積層板は、45°配向層と0°配向層と−45°配向層と90°配向層との4層積層板以外に、例えば、0°配向層と90°配向層との2層積層板、0°配向層と90°配向層と0°配向層との3層積層板、0°配向層と90°配向層と90°配向層と0°配向層との4層積層板などであってもよい。これらの場合でも、90°配向層の厚さが0.04mm以下とされることで、引張伸度が高くなる。また、上記他の実施形態例の積層板においても、全炭素繊維の配置が0°を軸とした線対称になっているため、擬似等方積層板になっている。
さらには、0°配向層以外の層(他方向配向層)が、90°配向層、45°配向層および−45°配向層でなく、それら以外の方向に配向した炭素繊維を含む層であってもよい。その場合に、複合材料積層板に含まれる全炭素繊維の配置を、0°を軸とした線対称にすれば、複合材料積層板の引張伸度が擬似等方的になる。
【実施例】
【0040】
(1)炭素繊維束の作製
アクリロニトリル単位97質量%、メタクリル酸単位1質量%、アクリルアミド単位2質量%のアクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミドに溶解して、21.0質量%の紡糸原液を調製した。
この調製した紡糸原液を、孔径50μm、孔数24000の吐出孔が形成された紡糸口金から、67質量%ジメチルアセトアミドを含有する水溶液からなり、38℃に調温した凝固液中に吐出し、凝固させて、凝固糸を得た。
次いで、凝固糸を、空気中で1.05倍に延伸させた後、60℃から98℃の範囲で5段階の延伸・洗浄を行って、3.0倍の延伸と洗浄を同時に行った。次に、95℃の熱水中で0.98倍に緩和した後、得られた繊維束に水系繊維油剤を1.1質量%付着させた。その際、水系繊維油剤としては、アミノ変性シリコーン(信越化学工業(株)製KF−865、1級側鎖タイプ、粘度110cSt(25℃)、アミノ当量5,000g/mol)85質量%と、乳化剤(日光ケミカルズ株式会社製;NIKKOL BL−9EX(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)15質量%とを含有するものを使用した。
次いで、乾燥、緻密化し、得られた乾燥緻密化繊維束を、約150℃程度のスチームによる可塑化延伸により3.5倍延伸させた後に、巻き取って、アクリロニトリル系前駆体繊維束を得た。アクリロニトリル系前駆体繊維フィラメントの繊度は、0.77dtexであった。
次いで、得られた前駆体繊維束を複数本平行に揃えた状態で耐炎化炉に導入し、220〜280℃に加熱された空気を前駆体繊維束に吹き付けることによって、前駆体繊維束を耐炎化して密度1.345g/cmの耐炎繊維束を得た。その際、伸長率は−4.0%とし、耐炎化処理時間は70分とした。
次いで、耐炎化繊維束を窒素中300〜700℃の温度勾配を有する第一炭素化炉にて4.5%の伸長を加えながら通過させた。温度勾配は直線的になるように設定した。処理時間は1.3分とした。
更に、窒素雰囲気中で1000〜1300℃の温度勾配を設定した第二炭素化炉を用いて熱処理して炭素繊維束を得た。その際、伸長率は−4.5%、処理時間は1.3分とした。
引き続いて、硝酸10質量%水溶液中を走行させ、炭素繊維束を陽極として、被処理炭素繊維1g当たり120クーロンの電気量となるように対極との間で通電処理を行い、温水50℃で洗浄した後、乾燥した。
次に、ハイドランN320を0.8質量%付着させ、ボビンに巻きとり、炭素繊維束を得た。
得られた炭素繊維束について、以下のように単繊維表面の最大高低差、平均凹凸度、断面の長径と短径との比および引張伸度を測定した。測定結果を表1に示す。なお、表1では、上記方法により得られた炭素繊維束のことを「CF1」と表記する。
【0041】
(単繊維表面の最大高低差、平均凹凸度の測定)
単繊維の両端を、走査型プローブ顕微鏡付属の金属製試料台(20mm径)「エポリードサービス社製、品番:K−Y10200167」)上にカーボンペーストで固定し、以下条件で測定を行った。
[走査型プローブ顕微鏡測定条件]
装置:「SPI4000プローブステーション、SPA400(ユニット)」エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、
走査モード:ダイナミックフォースモード(DFM)(形状像測定)
探針:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、「SI−DF−20」
走査範囲:2.5μm×2.5μm Rotation:90°(繊維軸方向に対して垂直方向にスキャン)
走査速度:1.0Hz
ピクセル数:512×512
測定環境:室温、大気中
単繊維1本に対して、上記条件にて1画像を得、得られた画像を走査型プローブ顕微鏡付属の画像解析ソフト(SPIWin)を用いて、平均凹凸度と最大高低差を求めた。
【0042】
(単繊維の断面の長径と短径との比の測定)
炭素繊維束を構成する単繊維の繊維断面の長径と短径との比(長径/短径)は、以下のようにして測定した。
内径1mmの塩化ビニル樹脂製のチューブ内に測定用の炭素繊維束を通した後、これをナイフで輪切りにして試料を準備した。次いで、前記試料を繊維断面が上を向くようにして走査型電子顕微鏡(フィリップス社製XL20)の試料台に接着し、さらに金を約10nmの厚さにスパッタリングした。そして、該走査型電子顕微鏡により、加速電圧7.00kV、作動距離31mmの条件で繊維断面を観察し、単繊維の繊維断面の長径及び短径を測定し、長径/短径での比率を求めた。
【0043】
(炭素繊維束の引張特性測定)
炭素繊維束の引張特性(引張強度、引張弾性率、引張伸度)は、JIS R7608に準拠し測定した。
【0044】
(2)複合材料積層体の作製
ボビンから繰り出した炭素繊維束の40本を、空気の吹き付けおよび縦振動により開繊させた後、一方向に引き揃えた。その引き揃えた繊維を、離型紙上の、Bステージ化したエポキシ樹脂(三菱レイヨン株式会社製、#350、130℃硬化タイプ)に配置した。これを、加熱圧着ローラー(設定温度110℃)に通して、炭素繊維束にエポキシ樹脂を含浸させた。その上に保護フィルムを積層して、一方向プリプレグ(以下、UDプリプレグ)を作製した。その際、加熱圧着ロールの開度を調整して、得られる一方向プリプレグの厚さを0.040mmに調整した。
次いで、得られた一方向プリプレグを4枚用意し、45°配向層と0°配向層と−45°配向層と90°配向層とを形成するように、一方向プリプレグの炭素繊維を配向させつつ、4枚の一方向プリプレグを積層した。これを1セットの積層体とし、合計12セット(すなわち、48層)積層した({[45/0/−45/90])。次いで、加熱炉中、130℃で加熱し、樹脂を硬化させて、厚み1.9mmの複合材料積層板を製造した。
【0045】
(3)評価
得られた複合材料積層板について、0°方向の引張試験をASTM D3039に準拠して行い、引張特性(引張強度、引張弾性率、引張伸度)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0046】
(実施例2)
一方向プリプレグの厚さを0.025mmとし、45°配向層と0°配向層と−45°配向層と90°配向層との積層体を20セット(すなわち80層)積層した({[45/0/−45/90]10)こと以外は実施例1と同様にして、厚み1.9mmの複合材料積層板を製造し、0°方向の引張特性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0047】
(比較例1)
実施例1の一方向プリプレグを3枚重ねて厚さを0.120mmとし、45°配向層と0°配向層と−45°配向層と90°配向層との積層体を4セット(すなわち16層)積層した({[45/0/−45/90])こと以外は実施例1と同様にして、厚み1.9mmの複合材料積層板を製造し、0°方向の引張特性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0048】
(比較例2)
実施例1の一方向プリプレグを2枚重ねて厚さを0.080mmとし、45°配向層と0°配向層と−45°配向層と90°配向層との積層体を6セット(すなわち24層)積層した({[45/0/−45/90])こと以外は実施例1と同様にして、厚み1.9mmの複合材料積層板を製造し、0°方向の引張特性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0049】
(実施例3)
第二炭素化炉の温度勾配を1050〜1450℃とし、その際の伸長率を−3.5%とした以外は実施例1と同様にして、炭素繊維束を得た。
得られた炭素繊維束について、以下のように単繊維表面の最大高低差、平均凹凸度、断面の長径と短径との比および引張伸度を測定した。測定結果を表1に示す。なお、表1では、上記方法により得られた炭素繊維束のことを「CF2」と表記する。
そして、実施例2と同様にして、厚み1.9mmの複合材料積層板を製造し、0°方向の引張特性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0050】
(比較例3)
炭素繊維を三菱レイヨン社製TR50Sに変更したこと以外は実施例1と同様にして、厚み1.9mmの複合材料積層板を製造し、0°方向の引張特性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0051】
(比較例4)
炭素繊維を三菱レイヨン社製TR50Sに変更したこと以外は実施例2と同様にして、厚み1.9mmの複合材料積層板を製造し、0°方向の引張特性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0052】
(比較例5)
炭素繊維を三菱レイヨン社製MR60Hに変更し、一方向プリプレグの厚さを0.042mmとしたこと以外は実施例1と同様にして、厚み2.03mmの複合材料積層板を製造し、0°方向の引張特性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
単繊維表面の最大高低差が30〜75nm、平均凹凸度が4〜10nm、単繊維断面の長径と短径との比が1.02〜1.10の範囲内で、引張伸度が2.2%以上の炭素繊維を用い、45°配向層、−45°配向層および90°配向層の厚さを0.044mm以下とした実施例1,2の複合材料積層板は、0°方向の引張伸度が2.1%以上であった。
これに対し、45°配向層、−45°配向層および90°配向層の厚さを0.044mmより厚くした比較例1,2の複合材料積層板は、0°方向の引張伸度が2.1%未満であった。
炭素繊維TR50Sを用い、45°配向層、−45°配向層および90°配向層の厚さを0.044mm以下とした比較例3,4の複合材料積層板は、0°方向の引張伸度が2.1%未満であった。
引張伸度が2.2%未満の炭素繊維MR60Hを用い、45°配向層、−45°配向層および90°配向層の厚さを0.044mm以下とした比較例5の複合材料積層板は、0°方向の引張伸度が2.1%未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の複合材料積層体は、引張特性が良好であるため、高い強度が要求される用途、例えば、航空機、自動車、鉄道車両等に好適に利用される。
【符号の説明】
【0056】
1 複合材料積層板
10 45°配向層(他方向配向層)
20 0°配向層
30 −45°配向層(他方向配向層)
40 90°配向層(他方向配向層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準方向に対して0°に配向した炭素繊維、および樹脂を含有する0°配向層と、0°以外の方向に配向した炭素繊維、および樹脂を含有する厚さ0.044mm以下の1層以上の他方向配向層とを備え、
0°配向層および他方向配向層に含まれる炭素繊維は、単繊維の表面の最大高低差が30〜70nm、平均凹凸度が4〜10nm、単繊維の断面の長径と短径との比が1.02〜1.10で、引張伸度が2.2%以上の繊維束である複合材料積層板。
【請求項2】
他方向配向層は1層または2層で、炭素繊維が基準方向に対して略90°に配向した90°配向層である、請求項1に記載の複合材料積層板。
【請求項3】
他方向配向層は3層で、炭素繊維が基準方向に対して略90°に配向した90°配向層と、炭素繊維が基準方向に対して略45°に配向した45°配向層と、炭素繊維が基準方向に対して略−45°に配向した−45°配向層とである、請求項1に記載の複合材料積層板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−192564(P2012−192564A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56929(P2011−56929)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【Fターム(参考)】