説明

複合材料組成物の製造方法、複合材料組成物及び成形体

【課題】金属繊維の繊維長を保持したまま、収率よく金属繊維と樹脂の特徴を発現し得る金属繊維−樹脂複合材料組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】構成材料を溶媒に分散させた後、高分子凝集剤を添加し、構成材料をフロック状に凝集させ、その凝集物を溶媒と分離させた後、その溶媒を除去してなる複合材料組成物の製造方法であって、前記構成材料は、(A)イオン交換能を有する粉末状物質、(B)金属繊維、(C)樹脂、を含むことを特徴とする複合材料組成物の製造方法、その製造方法により得られることを特徴とする複合材料組成物、ならびに、その複合材料組成物を用いてなることを特徴とする成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料組成物の製造方法、複合材料組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料は、展性、延性を有しており、電気伝導性、熱伝導性、耐熱性、剛性などの強度に優れているため、構造材料などの建材用途や、電気・電子部品などの電子工業用途など幅広く用いられている。しかし、その反面、溶融や切削などによる成形加工法を用いるため、金属を溶融させるエネルギーが大きいことによる環境への負荷や、切削性が比較的悪いことによるコスト高、比重が大きいことによる重量の増加、酸化による錆の発生、振動吸収性が低いこと、塑性変形により形状維持ができないことなどの短所もある。
【0003】
樹脂は、比重が小さく、絶縁性、弾力性、寸法安定性、振動吸収性、腐食性や耐薬品性に優れており、加工性もよいため、工業的に大量生産されている。しかし、金属と比較すると強度や耐熱性が弱く、熱伝導性や電気伝導性が低く、静電気を帯びやすい。
【0004】
金属や樹脂のそれぞれの短所を補うために、FRPなどで代表されるような樹脂とガラス繊維との複合材料などが開発されており、比重は比較的小さく、強度や加工性もよいため、広く普及している。
また、金属繊維の不織布の空隙に樹脂を充填することにより、金属、樹脂それぞれの特徴を活かしつつ、短所を抑えるような検討もなされている(例えば、特許文献1参照)。
また、樹脂と金属との比重差が大きすぎるために、両者を単軸・二軸押出機やニーダーなどによる混錬では、均一に分散させることができずに、複合材料中で偏析したり、機械的なせん断力により金属繊維が切断され、本来の特性を発現できないなどの問題点があり、金属繊維に柔軟な熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用いた射出成形により、金属と樹脂複合材料を作製する検討なども試みられている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−091786号公報
【特許文献2】特開2006−278574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、金属不織布の空隙に樹脂を含浸させるよう試みられているが、金属不織布が成形体の支柱となるため、複合材料全体として金属不織布の比率が高くなり、重量増の原因となることや、金属と樹脂の配合比率を容易に変えることは難しい。また、不織布は形状があらかじめ形成されているため、それを利用して成形材料を作製する際には、樹脂の流動性が制限され、短繊維―樹脂複合材料などと比較して成形加工性が悪くなる。
【0007】
また、特許文献2記載の方法では、金属繊維を機械的せん断力により切断しないために、柔軟な熱可塑性樹脂の使用が必須となり、成形材料自体の耐熱性が低下したり、金属の適性量を配合することにより薄い厚みの材料を成形できるものの、金属繊維の配合量を増やすと成形加工が悪化したりするなどの課題がみられる。
【0008】
このような状況において、樹脂と金属繊維が複合材料中で偏在することなく、それぞれの配合量を製法に限定されることなく、調整可能な複合材料が望まれており、任意に樹脂
や金属の性質を発現できるような材料の創出が期待されている。
【0009】
こうした中、金属繊維及び樹脂を含む構成材料を溶媒に分散させた後、フロック状に凝集させ、さらに溶媒を除去する方法により複合材料組成物を得る検討を進めてきたが、従来公知の高分子凝集剤を添加するだけでは、比重の重い金属繊維を定着させることは困難であった。本発明は、イオン交換能を有する粉末状物質を用いるにより、金属繊維と樹脂などのように、性質の異なる構成材料の定着性を大幅に向上させることができることを見出し、この知見を基に鋭意研究することにより、達成したものである。本発明の目的は、金属繊維の繊維長を保持したまま、収率よく金属繊維と樹脂の特徴を発現し得る金属繊維−樹脂複合材料組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的は、以下の第(1)項〜第(15)項によって達成される。
(1)構成材料を溶媒に分散させた後、高分子凝集剤を添加し、構成材料をフロック状に凝集させ、その凝集物を溶媒と分離させた後、その溶媒を除去してなる複合材料組成物の製造方法であって、前記構成材料は、(A)イオン交換能を有する粉末状物質、(B)金属繊維、(C)樹脂、を含むことを特徴とする複合材料組成物の製造方法。
【0011】
(2)前記(A)イオン交換能を有する粉末状物質が、粘度鉱物、鱗片状シリカ微粒子、ハイドロタルサイト類、フッ素テニオライト及び膨潤性合成雲母から選ばれる少なくとも1種の層間化合物であることを特徴とする第(1)項記載の複合材料組成物の製造方法。
【0012】
(3)前記(A)イオン交換能を有する粉末状物質が、スメクタイト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム及び燐酸チタニウムから選ばれる少なくとも1種の粘土鉱物を含むことを特徴とする第(1)項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【0013】
(4)前記(A)イオン交換能を有する粉末状物質が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト及びスチーブンサイトから選ばれる少なくとも1種のスメクタイトを含むことを特徴とする第(1)項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【0014】
(5)前記(A)イオン交換能を有する粉末状物質がモンモリロナイトを含むことを特徴とする第(1)項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【0015】
(6)前記(A)イオン交換能を有する粉末状物質の含有量は、複合材料組成物全体の0.1質量%以上30質量%以下であることを特徴とする第(1)項ないし第(5)項のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【0016】
(7)前記(B)金属繊維を構成する金属元素は、アルミニウム、銀、銅、マグネシウム、鉄、クロム、ニッケル、チタン、亜鉛、錫、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含むことを特徴とする第(1)項ないし第(6)項のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【0017】
(8)前記(B)金属繊維の含有量は、複合材料組成物全体の1質量%以上90質量%以下であることを特徴とする第(1)項ないし第(7)項のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【0018】
(9)前記(B)金属繊維の平均繊維長さが500μm以上10mm以下であることを特徴とする第(1)項ないし第(8)項のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【0019】
(10)(D)前記(B)金属繊維以外の繊維をさらに含むことを特徴とする第(1)項ないし第(9)項のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【0020】
(11)前記(B)金属繊維以外の前記(D)成分の繊維が、木材繊維、木綿、麻、羊毛などの天然繊維、レーヨン繊維などの再生繊維、セルロース繊維などの半合成繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、エチレンビニルアルコール繊維などの合成繊維、ならびに、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの無機繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維を含むことを特徴とする第(10)項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【0021】
(12)前記(C)樹脂が、平均粒径が500μm以下であることを特徴とする第(1)項ないし第(11)項のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【0022】
(13)前記溶媒の沸点が50℃以上200℃以下であることを特徴とする第(1)項ないし第(12)項のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【0023】
(14)第(1)項ないし第(13)項のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法により得られることを特徴とする複合材料組成物。
【0024】
(15)第(14)項に記載の複合材料組成物を用いてなる成形体。
【発明の効果】
【0025】
本発明に従うと、イオン交換能を有する粉末物質の存在により、金属繊維と有機物との凝集体を効率よく作製することができ、金属繊維の繊維長を長く維持したまま高い収率で、平面等方性に優れた金属繊維−樹脂複合材料組成物を得ることができる。また、本発明に従うと、従来よりも広範囲に、金属繊維と樹脂の配合量を調整することができ、求められる要求に応じて、樹脂の加工性や軽量性などの特性と、金属の熱伝導性や、電磁波シールド性、剛性などの特性とのバランスに優れた幅広い複合材料組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の複合材料組成物の製造方法は、構成材料を溶媒に分散させた後、高分子凝集剤を添加し、構成材料をフロック状に凝集させ、その凝集物を溶媒と分離させた後、その溶媒を除去してなる複合材料組成物の製造方法であって、前記構成材料は、(A)イオン交換能を有する粉末状物質、(B)金属繊維、(C)樹脂、を含むことを特徴とする。また、本発明の成形体は上記の製造方法により得られる複合材料組成物を用いてなることを特徴とする。これらの構成とすることにより、従来よりも広範囲に、金属繊維と樹脂の配合量を調整することができ、求められる要求に応じて、樹脂の加工性及び軽量性などの特性と、金属の熱伝導性、電磁波シールド性及び剛性などの特性とのバランスに優れた幅広い複合材料組成物及び成形体を得ることができる。以下、本発明について詳細に説明する。
【0027】
先ず、本発明の複合材料組成物について説明する。本発明の複合材料組成物は、構成材料として、(A)イオン交換能を有する粉末状物質、(B)金属繊維、(C)樹脂、を含むことができる。本発明の複合材料組成物の構成材料である(A)イオン交換能を有する粉末状物質としては、粘土鉱物、鱗片状シリカ微粒子、ハイドロタルサイト類、フッ素テニオライト及び膨潤性合成雲母から選ばれる少なくとも1種の層間化合物であることが好ましい。
【0028】
粘土鉱物としては、イオン交換能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、スメクタイト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム及び燐酸チタニウムなどが挙げられる。ハイドロタルサイト類としては、イオン交換能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ハイドロタルサイト、ハイドロタルサイト状物質などが挙げられる。フッ素テニオライトとしては、イオン交換能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、リチウム型フッ素テニオライト、ナトリウム型フッ素テニオライトなどが挙げられる。膨潤性合成雲母としては、イオン交換能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ナトリウム型四珪素フッ素雲母、リチウム型四珪素フッ素雲母などが挙げられる。これらの層間化合物は、天然物でも合成されたものであってもよく、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、粘土鉱物がより好ましく、スメクタイトが天然物から合成物まで存在し、選択の幅が広いという点においてさらに好ましい。
【0029】
スメクタイトとしては、イオン交換能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト及びスチーブンサイトなどが挙げられる。モンモリロナイトは、アルミニウムの含水ケイ酸塩であるが、モンモリロナイトを主成分とし、他に石英や雲母、長石、ゼオライトなどの鉱物を含んでいるベントナイトであってもよい。着色や不純物を気にする用途に用いる場合などには、不純物が少ない合成スメクタイトが好ましい。
【0030】
(A)イオン交換能を有する粉末状物質として、例えば、クニミネ工業(株)製のクニピア(ベントナイト)、スメクトンSA(合成サポナイト)、AGCエスアイテック(株)製のサンラブリー(鱗片状シリカ微粒子)、コープケミカル(株)製のソマシフ(膨潤性合成雲母)、ルーセンタイト(合成スメクタイト)、堺化学工業(株)製のハイドロタルサイトSTABIACE HT−1(ハイドロタルサイト)などが市販品として入手可能であるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
(A)イオン交換能を有する粉末状物質の含有量は、複合材料組成物全体の0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは、2質量%以上20質量%以下である。上記範囲内であれば、(B)金属繊維と(C)樹脂のように性質の異なる構成材料の定着性を向上させる効果を得ることができる。尚、構成材料中の(B)金属繊維と(C)樹脂との比率や、高分子凝集剤の種類や量などに合せて、(A)イオン交換能を有する粉末状物質の含有量を調整することが好ましい。
【0032】
本発明の複合材料組成物の構成材料である(B)金属繊維としては、単独の金属元素で構成される金属繊維であっても、複数の金属で構成される合金繊維であってもよいが、(B)金属繊維を構成する金属元素としては、例えば、アルミニウム、銀、銅、マグネシウム、鉄、クロム、ニッケル、チタン、亜鉛、錫、モリブデン及びタングステンなどが挙げられる。
【0033】
(B)金属繊維としては、例えば、日本精線(株)やベカルトジャパン(株)製のステンレス繊維、虹技(株)製の銅繊維、アルミニウム繊維、黄銅繊維、鋼繊維、チタン繊維、りん青銅繊維などが市販品として入手可能であるが、これらに限定されるものではない。これらの金属繊維は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、熱放散性の観点では銅繊維、アルミニウム繊維、黄銅繊維などが好ましく、電磁波シールド性の観点ではステンレス繊維、銅繊維、アルミニウム繊維などが好ましい。
【0034】
(B)金属繊維は、そのまま使用してもよいが、必要特性に応じてシランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤などで表面処理したり、樹
脂との密着性や取り扱い性を向上させるために収束剤処理をしたものを使用してもよい。
【0035】
(B)金属繊維の含有量は、求められる要求に応じて使い分けることが好ましく、例えば樹脂の加工性や軽量性が要求された場合は、複合材料組成物全体の含有量の1質量%以上30質量%未満にすることが好ましく、金属と樹脂の性質をバランスよく発現していることが要求された場合は、複合材料組成物全体の含有量の30質量%以上60質量%未満にすることが好ましく、熱伝導性や剛性など金属の性質が要求された場合には、複合材料組成物全体の含有量の60質量%以上90質量%以下にすることが望ましい。複合材料全体の含有量の1質量%未満の場合には、軽量性や加工性が向上するが、金属の性能が発現する効果が薄い。また、複合材料全体の含有量の90質量%より多い場合には、熱伝導率や剛性が高い材料になるが、軽量性や加工性が悪化するので好ましくはない。
【0036】
(B)金属繊維の平均繊維長さは、要求される特性に応じて使い分けることが望ましく、特に限定されるものではないが、例えば、500μm以上10mm以下であることが好ましい。成形加工性の観点からは、500μm以上3mm以下であることがより好ましく、熱伝導性や、電磁波シールド性、剛性などの特性が向上するという観点からは、3mm以上8mm以下であることが特に好ましい。平均繊維長さが上記下限値未満の場合は、繊維長が短すぎるため、熱伝導性、電磁波シールド性、剛性などの特性は発現しにくい場合がある。また、平均繊維長さが上記上限値を超えると、金属の性質発現には有効であるが、成形加工性が低下する原因になるので好ましくない。尚、平均繊維長の異なる複数の金属繊維を用いる場合には、その一部として、平均繊維長が上記下限値未満のものを用いることは可能である。この場合、長繊維のものを用いることによる金属の性質発現を損なうことなく、成形加工性を向上させることができる。
【0037】
要求される必要特性に応じて、(B)繊維以外の(D)繊維をさらに含むことができる。(B)繊維以外の(D)繊維としては、特に限定されるものではないが、例えば、木材繊維、木綿、麻、羊毛などの天然繊維、レーヨン繊維などの再生繊維、セルロース繊維などの半合成繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、エチレンビニルアルコール繊維などの合成繊維、ならびに、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの無機繊維などが挙げられる。これらの繊維は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、曲げ強度の向上という観点では、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維などが好ましく、曲げ弾性率の向上という観点では、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの無機繊維が好ましい。
【0038】
(B)繊維以外の(D)繊維として、例えば、東レ・デュポン(株)製のアラミド繊維であるケブラー(登録商標)や、帝人テクノプロダクツ社(株)のアラミド繊維であるテクノーラ(登録商標)、(株)クラレ製のポリビニルアルコール繊維であるビニロン、東洋紡績(株)製のポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維であるザイロン(登録商標)、日東紡製のガラス繊維、電気化学工業(株)製のアルミナ繊維であるデンカアルセンなどが市販品として入手可能であるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
(B)繊維以外の(D)繊維の形状としては、特に制限無く使用可能であり、必要特性に応じた形状のものを用いることができるが、曲げ強度や、耐衝撃性などの強度特性を向上させる場合には、チョップドストランドで使用することが望ましい。また、歩留まりの向上効果を得るためには、繊維をビーターや、ホモジナイザーなどの機械的なせん断力により叩解したものや、フィブリル化したものが、繊維表面積が増大し、物理的に構成材料の捕捉能力を向上させる効果と、化学的に高分子凝集剤が作用しやすくなる効果とが得ら
れるため、使用することが望ましい。
【0040】
本発明の複合材料組成物の構成材料である(C)樹脂とは、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよく、バインダーとして作用し得るものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)樹脂や、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル系樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、必要特性に応じて、適宜選択して使用することが可能であり、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、機械強度や耐薬品性が良好であるという観点では、熱硬化性樹脂が好ましく、成形性が良好であることや、樹脂の透明性などのデザイン性が必要であるという観点では、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0041】
(C)樹脂を用いるための好ましい形態としては、平均粒径500μm以下の固体状態や、エマルジョン状にしたものが望ましい。更に好ましくは、平均粒径1nm〜300μm程度の粒径である。これにより、高分子凝集剤を添加した時、(A)イオン交換能を有する粉末状物質存在下では、樹脂と金属繊維が凝集状態を形成しやすくなり、収率が向上する。平均粒径が上記上限値より大きいと、高分子凝集剤を添加しても凝集状態を形成しにくくなり、収率が低下する原因となる。尚、(C)樹脂の平均粒径は、例えば、(株)島津製作所製のSALD−7000などのレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、質量基準の50%粒子径を平均粒径として求めることができる。
【0042】
本発明の複合材料組成物の構成材料を分散させるために用いられる溶媒は、特に限定されないが、工程中に揮発しにくいことと、製品に残らないために脱溶媒をしやすいということ、沸点が高すぎると脱溶媒するために、エネルギーが大きく掛かることなどの観点から、沸点が50℃以上200℃以下であるものが好ましく、このようなものとしては、例えば、水や、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、エチレングリコールなどのアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類や、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸メチルなどのエステル類や、テトラヒドロフラン、イソプロピルエーテル、ジオキサン、フルフラールなどのエーテル類などを挙げることができる。これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのなかでも、供給量が豊富であり、安価、環境負荷が低い、安全性も高く扱いやすいという理由から水が特に好ましい。
【0043】
本発明の複合材料組成物の構成材料をフロック状に凝集させるために用いられる高分子凝集剤としては、特にイオン性などにより限定されるものではなく、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤などを用いることができる。このようなものとして、例えば、カチオン性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリルアミド、ホフマンポリアクリルアミド、マンニックポリアクリルアミド、両性共重合ポリアクリルアミド、カチオン化澱粉、両性澱粉、ポリエチレンオキサイドなどを挙げることができる。これらの高分子凝集剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また、高分子凝集剤として、ポリマー構造や分子量、水酸基やイオン性基などの官能基量などは、必要特性に応じて特に制限無く使用可能である。
【0044】
高分子凝集剤として、例えば、和光純薬工業(株)製や関東化学工業(株)製、住友精化(株)製のポリエチレンオキシドや、ハリマ化成(株)製のカチオン性PAMであるハリフィックス、アニオン性PAMであるハーマイドB−15、両性PAMであるハーマイドRB−300、三和澱粉工業(株)製カチオン化澱粉であるSC−5などが市販品とし
て入手可能であるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
高分子凝集剤の添加量として、特に限定はされないが、構成材料の重量に対して100質量ppm以上1質量%以下が好ましい。更に好ましくは、500質量ppm以上0.5質量%である。これにより、収得よく構成材料が凝集させることができる。高分子凝集剤の添加量が上記下限値よりも小さいと収得が低下する可能性があり、上記上限値よりも大きいと凝集が強すぎて脱水などに問題が生じる可能性がある。
【0046】
本発明の複合材料組成物には、上述の(A)イオン交換能を有する粉末状物質、(B)金属繊維、(C)樹脂、(D)繊維及び高分子凝集剤以外に、特性向上を目的とした無機粉末、金属粉、酸化防止剤や紫外線吸収剤などの安定剤、離型剤、可塑剤、難燃剤、樹脂の硬化触媒や硬化促進剤、顔料、乾燥紙力向上剤、湿潤紙力向上剤などの紙力向上剤、歩留まり向上剤、濾水性向上剤、サイズ定着剤、消泡剤、酸性抄紙用ロジン系サイズ剤、中性製紙用ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー系サイズ剤、アルケニルコハク酸無水物系サイズ剤、特殊変性ロジン系サイズ剤などのサイズ剤、硫酸バンド、塩化アルミ、ポリ塩化アルミなどの凝結剤などを、生産条件調整や、要求される物性を発現させることを目的に様々な添加剤を使用することができる。
【0047】
無機粉末としては、例えば、酸化チタン、アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化マグネシウムなどの酸化物類や、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及び窒化ケイ素などの窒化物類や、硫酸バリウム、硫酸鉄、硫酸銅などの硫化物類や、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの水酸化物類や、カオリナイト、タルク、天然マイカ、合成マイカなどの鉱物類ならびに、炭化ケイ素などの炭化物類などが挙げられ、そのまま使用してもよいが、必要特性に応じてシランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤などで表面処理をしたものを使用してもよい。
【0048】
次に、本発明の複合材料組成物の製造方法について説明する。本発明の複合材料組成物は、構成材料などを溶媒に分散させた後、高分子凝集剤を添加し、構成材料などをフロック状に凝集させ、その凝集物を溶媒と分離させた後、その溶媒を除去することにより得ることができる。構成材料などを溶媒に分散させる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ディスパーザーやホモジナイザーなどで撹拌する方法などが挙げられる。また、凝集物を溶媒と分離、除去する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属やプラスチックなどの網や織布、不織布を用いて溶媒のみを通過させて分離した後、更に凝集物を、プレス機、乾燥器などを用いて、脱溶媒、乾燥させて除去する方法などが挙げられる。
【0049】
次に、本発明の複合材料組成物を用いてなる成形体の製造方法について説明する。本発明の成形体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、プレス成形、コンプレッション成形、カレンダーロール成形、SMC法、射出成形、マッチドダイ法、金属や樹脂、織布、不織布などとの積層成形などの成形方法により本発明の複合材料組成物を成形する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、実施例及び比較例に記載されている「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を示す。
実施例に記載している原材料は、あらかじめ含有されている水分量を抜いた質量部で表している。
【0051】
1.複合材料組成物の作製
(1)実施例1
アトマイザー粉砕機で平均粒径100μmに粉砕した固形レゾール樹脂(住友ベークライト(株)製PR−51723)45部と、ベントナイト(クニミネ工業(株)製商品名クニピア)2部、繊維長5mm、繊維径6μmのステンレス繊維(日本精線(株)製商品名ナスロン)1部、ケブラー(登録商標)パルプ1F303(東レ・デュポン(株)製)12部、テクノーラ(登録商標)繊維T32PNW(帝人テクノプロダクツ(株)製)40部を10000部の水に添加して、ディスパーザーで30分撹拌した後、あらかじめ水に溶解させたポリエチレンオキシド分子量1,000,000(和光純薬工業(株)製)を構成材料に対して900ppm添加を行い、構成材料をフロック状に凝集させる。その凝集物を80メッシュの金属網で水と分離し、この後その凝集物を、脱水プレスし、さらに70℃の乾燥器に6時間入れて乾燥させ、複合材料組成物を99%の収率で得た。尚、収率の測定方法の詳細は後述する。
【0052】
(2)実施例2
アトマイザー粉砕機で平均粒径100μmに粉砕した固形レゾール樹脂(住友ベークライト(株)製PR−51723)45部と、ベントナイト(クニミネ工業(株)製商品名クニピア)5部、繊維長5mm、繊維径6μmのステンレス繊維(日本精線(株)製商品名ナスロン)4部、ケブラー(登録商標)パルプ1F303(東レ・デュポン(株)製)6部、テクノーラ(登録商標)繊維T32PNW(帝人テクノプロダクツ(株)製)40部を10000部の水に添加して、ディスパーザーで30分撹拌した後、あらかじめ水に溶解させたポリエチレンオキシド分子量1,000,000(和光純薬工業(株)製)を構成材料に対して0.3%添加を行い、構成材料をフロック状に凝集させる。その凝集物を80メッシュの金属網で水と分離し、この後その凝集物を、脱水プレスし、さらに70℃の乾燥器に6時間入れて乾燥させ、複合材料組成物を99%の収率で得た。
【0053】
(3)実施例3
アトマイザー粉砕機で平均粒径100μmに粉砕した固形レゾール樹脂(住友ベークライト(株)製PR−51723)30部と、ベントナイト(クニミネ工業(株)製商品名クニピア)3部、繊維長5mm、繊維径6μmのステンレス繊維(日本精線(株)製商品名ナスロン)32部、ケブラー(登録商標)パルプ1F303(東レ・デュポン(株)製)10部、テクノーラ(登録商標)繊維T32PNW(帝人テクノプロダクツ(株)製)25部を10000部の水に添加して、ディスパーザーで30分撹拌した後、あらかじめ水に溶解させたポリエチレンオキシド分子量1,000,000(和光純薬工業(株)製)を構成材料に対して0.5%添加を行い、構成材料をフロック状に凝集させる。その凝集物を80メッシュの金属網で水と分離し、この後その凝集物を、脱水プレスし、さらに70℃の乾燥器に6時間入れて乾燥させ、複合材料組成物を96%の収率で得た。
【0054】
(4)実施例4
高圧ホモジナイザーで平均粒径30μmに粉砕したエポキシ樹脂1002(三菱化学(株)製)24部と、イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤2PZ−PW(四国化成工業(株)製)1部、合成サポナイト(クニミネ工業(株)製商品名スメクトンSA)5部、繊維長3mm、繊維径60μmのアルミニウム繊維(虹技(株)製A1070)60部、セルロースパルプ(日本製紙ケミカル(株)製商品名NDPT)10部を10000部の水に添加して、ディスパーザーで30分撹拌した後、あらかじめ水に溶解させた三和澱粉工業(株)製カチオン化澱粉SC−5を構成材料に対して0.4%の添加を行い、構成材料をフロック状に凝集させる。その凝集物を40メッシュの金属網で水と分離し、この後その凝集物を、脱水プレスし、さらに100℃の乾燥器に4時間入れて乾燥させ、複合材料組成物を94%の収率で得た。
【0055】
(5)実施例5
高圧ホモジナイザーで平均粒径30μmに粉砕したエポキシ樹脂1002(三菱化学(株)製)10部と、イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤2PZ−PW(四国化成工業(株)製)1部、合成サポナイト(クニミネ工業(株)製商品名スメクトンSA)3部、繊維長3mm、繊維径60μmの銅繊維(虹技(株)製)82部、セルロースパルプ(日本製紙ケミカル(株)製商品名NDPT)4部を10000部の水に添加して、ディスパーザーで30分撹拌した後、あらかじめ水に溶解させた三和澱粉工業(株)製カチオン化澱粉SC−5を構成材料に対して0.3%添加を行い、構成材料をフロック状に凝集させる。その凝集物を40メッシュの金属網で水と分離し、この後その凝集物を、脱水プレスし、さらに100℃の乾燥器に4時間入れて乾燥させ、複合材料組成物を95%の収率で得た。
【0056】
(6)実施例6
凍結粉砕機で、平均粒径200μmに粉砕した粉砕したアクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)樹脂(ダイセル工業(株)製商品名セビアンN)を45部と、鱗片状シリカ微粒子(AGCエスアイテック(株)製商品名サンラブリー)5部、繊維長1mm、繊維径90μmの黄銅繊維(虹技(株)製)10部、繊維径22μm、繊維長5mmのポリビニルアルコール繊維((株)クラレ製商品名ビニロン)40部を10000部の水に添加して、ディスパーザーで30分撹拌した後、あらかじめ水に溶解させたカチオン性ポリアクリルアミド(ハリマ化成(株)製)を構成材料に対して0.4%の重量になるように添加を行い、構成材料をフロック状に凝集させる。その凝集物を40メッシュの金属網で水と分離し、この後その凝集物を、脱水プレスし、さらに130℃の乾燥器に6時間入れて乾燥させ、複合材料組成物を92%の収率で得た。
【0057】
(7)比較例1
アトマイザー粉砕機で平均粒径100μmに粉砕した固形レゾール樹脂(住友ベークライト(株)製PR−51723)50部と、繊維長5mm、繊維径6μmのステンレス繊維(日本精線(株)製商品名ナスロン)4部、ケブラー(登録商標)パルプ1F303(東レ・デュポン(株)製)6部、テクノーラ(登録商標)繊維(帝人テクノプロダクツ(株)製)40部を10000部の水に添加して、ディスパーザーで30分撹拌した後、あらかじめ水に溶解させたポリエチレンオキシド分子量1,000,000(和光純薬工業(株)製)を構成材料に対して0.3%添加を行ったが凝集せず、それを80メッシュの金属網で水と分離し、この後、脱水プレスし、さらに70℃の乾燥器に6時間入れて乾燥させ、複合材料組成物を75%の収率で得た。
【0058】
(8)比較例2
高圧ホモジナイザーで平均粒径30μmに粉砕したエポキシ樹脂1002(三菱化学(株)製)29部と、イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤2PZ−PW(四国化成工業(株)製)1部、繊維長3mm、繊維径60μmのアルミニウム繊維(虹技(株)製A1070)60部、セルロースパルプ(日本製紙ケミカル(株)製商品名NDPT)10部を10000部の水に添加して、ディスパーザーで30分撹拌した後、あらかじめ水に溶解させた三和澱粉工業(株)製カチオン化澱粉SC−5を構成材料に対して0.4%の重量添加を行ったが凝集せず、それを40メッシュの金属網で水と分離し、この後、脱水プレスし、さらに100℃の乾燥器に4時間入れて乾燥させ、複合材料組成物を82%の収率で得た。
【0059】
2.成形体の作製
(1)実施例7
実施例1で得られた複合材料組成物を、離型剤を塗布した金型にセットし、複合材料組成物に対して、面圧30MPa加圧下でコンプレッション成形を180℃、10分行い、縦10cm×横10cm×厚み2mmの成形体を得た。
【0060】
(2)実施例8
実施例2で得られた複合材料組成物を、離型剤を塗布した金型にセットし、複合材料組成物に対して、面圧30MPa加圧下でコンプレッション成形を180℃、10分行い、縦10cm×横10cm×厚み2mmの成形体を得た。
【0061】
(3)実施例9
実施例3で得られた複合材料組成物を、離型剤を塗布した金型にセットし、複合材料組成物に対して、面圧30MPa加圧下でコンプレッション成形を180℃、10分行い、縦10cm×横10cm×厚み2mmの成形体を得た。
【0062】
(4)実施例10
実施例4で得られた複合材料組成物を、離型剤を塗布した金型にセットし、複合材料組成物に対して、面圧10MPa加圧下でコンプレッション成形を160℃、60分行い、縦10cm×横10cm×厚み2mmの成形体を得た。
【0063】
(5)実施例11
実施例5で得られた複合材料組成物を、離型剤を塗布した金型にセットし、複合材料組成物に対して、面圧10MPa加圧下でコンプレッション成形を160℃、60分行い、縦10cm×横10cm×厚み2mmの成形体を得た。
【0064】
(6)実施例12
実施例6で得られた複合材料組成物を、離型剤を塗布した金型にセットし、複合材料組成物に対して、面圧15MPa加圧下でコンプレッション成形を200℃、10分行い、50℃まで金型を冷却させて縦10cm×横10cm×厚み2mmの成形体を得た。
【0065】
(7)比較例3
比較例1で得られた複合材料組成物を、離型剤を塗布した金型にセットし、複合材料組成物に対して、面圧30MPa加圧下でコンプレッション成形を180℃、10分行い、縦10cm×横10cm×厚み2mmの成形体を得た。
【0066】
(8)比較例4
比較例2で得られた複合材料組成物を、離型剤を塗布した金型にセットし、複合材料組成物に対して、面圧10MPa加圧下でコンプレッション成形を160℃、60分行い、縦10cm×横10cm×厚み2mmの成形体を得た。
【0067】
実施例7〜12、及び、比較例3〜4で得られた成形体を用いて、下記に示す特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
3.特性の評価方法
3.1 複合材料組成物
(1)収率
下記式により算出した。
収率(%)=(得られた複合材料組成物の重量/仕込んだ複合材料組成物原料の重量合計)×100
得られた複合材料組成物については、乾燥後の重量を用い、仕込んだ複合材料組成物原料の合計重量に関しては、水分を抜いた量を用いた。
【0070】
3.2 成形体
(1)成形体外観
得られた成形体について、目視で表面にカスレや、ヒビなどの成形不良があるものを×、ないものを○とした。
【0071】
(2)比重測定
比重測定は、JIS K 6911(熱硬化性プラスチック一般試験方法)に準拠して行った。試験片は縦2cm×横2cm×厚み2mmになるように成形体から切り出したものを用いた。
【0072】
(3)熱伝導率の測定
平面方向測定用として、縦10cm×横10cm×厚み2mmの成形体を得た成形条件に対して、成形時間のみを3倍として、縦10mm×横10mm×長さ3cmの成形体を得た。また、厚み方向測定用として、縦10cm×横10cm×厚み2mmの成形体を得た成形条件と同一の成形条件で、縦10cm×横10cm×長さ1.5mmの成形体を得た。得られたそれぞれの成形体から、縦10mm×横10mm×長さ1.5mmになるように切り出して試験片とした。次に、NETZSCH社製のXeフラッシュアナライザーLFA447を用いて、レーザーフラッシュ法により板状試験片の長さ方向の熱伝導率の測定を行った。測定は、大気雰囲気下、25℃の条件下で行った。
【0073】
(4)曲げ試験
曲げ試験は、JIS K 6911(熱硬化性プラスチック一般試験方法)に準拠して行った。試験片は、縦50mm×横25mm×厚み2mmになるように成形体から切り出したものを用いた。曲げ試験の支点間距離は32mmで行った。
【0074】
実施例1〜6は本発明により得られた複合材料組成物である。そして、実施例7〜12は、この複合材料組成物を用いた成形体である。
実施例1〜6ではいずれも、比較例1〜2で得られた複合材料組成物と比較して凝集物
を経由するため収率が良い。成形体評価において、実施例7〜12で得られたものは、収率が良いため、成形体の外観不良が起こっていない。比較例3〜4で得られた成形体は、金属繊維と樹脂が凝集体を形成しないため、脱溶媒時に粒子径が網の目より小さな樹脂は、溶媒と共に通過してしまい、複合材料組成物の収率が低下してしまう。それに起因し、成形体の外観が劣る結果となった。実施例7〜実施例9において、金属繊維の含有量が多くなるにつれて、曲げ強度が低下せずに、成形体の剛性(曲げ弾性率)と比重が向上している傾向がみられる。実施例10と比較例4の成形物における厚み方向への熱伝導率を比較した場合、実施例10は複合体の作製には凝集物を経由するため、成形体中で金属繊維が偏在せず、厚み方向の熱伝導率が3.0W/mKと通常のプラスチック材料の10倍以上となった。一方、比較例4では、複合体の作製には凝集体を経由しないため、樹脂と金属繊維の比重差が大きく、成形体中で偏在してしまうため、厚み方向の熱伝導率が0.5W/mKという、同様の組成でも差が出てしまう結果であった。このことから、本発明により、樹脂の加工性や軽量性などの特性と、金属の熱伝導性や、電磁波シールド性、剛性などの特性とのバランスに優れた幅広い複合材料組成物を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明において、金属繊維の繊維長を長く維持したまま高い収率で、平面等方性に優れた金属繊維−樹脂複合材料組成物を得ることができ、従来よりも広範囲に、金属繊維と樹脂の配合量を調整することができるため、求められる要求に応じて樹脂の加工性や軽量性などの特性と、金属の熱伝導性や、電磁波シールド性、剛性などの特性とのバランスに優れた幅広い複合材料組成物を得ることができる。
従って、本発明の複合材料組成物より得られた成形体は、パソコンや携帯、プラズマディスプレイテレビ、液晶テレビ、照明器具などの電子製品や、車載用のエレクトロニクス製品の内部機構部品や、筐体などの構成部品への適用や、建築用構造材料、自動車部品などに使用が可能になり、軽量化における燃費の向上や省エネルギー化に寄与することができるため、環境負荷を低減することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成材料を溶媒に分散させた後、高分子凝集剤を添加し、構成材料をフロック状に凝集させ、その凝集物を溶媒と分離させた後、その溶媒を除去してなる複合材料組成物の製造方法であって、
前記構成材料は、
(A)イオン交換能を有する粉末状物質、
(B)金属繊維、
(C)樹脂、
を含むことを特徴とする複合材料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記(A)イオン交換能を有する粉末状物質が、粘土鉱物、鱗片状シリカ微粒子、ハイドロタルサイト類、フッ素テニオライト及び膨潤性合成雲母から選ばれる少なくとも1種の層間化合物であることを特徴とする請求項1記載の複合材料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記(A)イオン交換能を有する粉末状物質が、スメクタイト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム及び燐酸チタニウムから選ばれる少なくとも1種の粘土鉱物を含むことを特徴とする請求項1に記載の複合材料組成物の製造方法。
【請求項4】
前記(A)イオン交換能を有する粉末状物質が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト及びスチーブンサイトから選ばれる少なくとも1種のスメクタイトを含むことを特徴とする請求項1に記載の複合材料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記(A)イオン交換能を有する粉末状物質がモンモリロナイトを含むことを特徴とする請求項1に記載の複合材料組成物の製造方法。
【請求項6】
前記(A)イオン交換能を有する粉末状物質の含有量は、複合材料組成物全体の0.1質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【請求項7】
前記(B)金属繊維を構成する金属元素は、アルミニウム、銀、銅、マグネシウム、鉄、クロム、ニッケル、チタン、亜鉛、錫、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【請求項8】
前記(B)金属繊維の含有量は、複合材料組成物全体の1質量%以上90質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【請求項9】
前記(B)金属繊維の平均繊維長さが500μm以上10mm以下であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【請求項10】
(D)前記(B)金属繊維以外の繊維をさらに含むことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【請求項11】
前記(B)金属繊維以外の前記(D)成分の繊維が、木材繊維、木綿、麻、羊毛などの天然繊維、レーヨン繊維などの再生繊維、セルロース繊維などの半合成繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロ
ピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、エチレンビニルアルコール繊維などの合成繊維、ならびに、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの無機繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維を含むことを特徴とする請求項10に記載の複合材料組成物の製造方法。
【請求項12】
前記(C)樹脂が、平均粒径が500μm以下であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【請求項13】
前記溶媒の沸点が50℃以上200℃以下であることを特徴とする請求項1ないし12のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか一項に記載の複合材料組成物の製造方法により得られることを特徴とする複合材料組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の複合材料組成物を用いてなることを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2012−236930(P2012−236930A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107473(P2011−107473)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】