説明

複合材料

【課題】樹脂の引張り強度、耐衝撃性、弾性率などの向上をはかるとともに、樹脂の加工性の悪化などを防いだ複合材料を提供することを目的とする。
【解決手段】複合材料1は、樹脂3と、この樹脂の主鎖となる結合を切ることを促進させる触媒を含む多孔質構造体2とを加熱混練するとともに、加熱混練により主鎖となる結合を切って低分子量化された樹脂3を多孔質構造体2の細孔内部へ樹脂4として入り込ませたものである。これによって、母相となる樹脂3が多孔質構造体2の細孔内部まで入り込むため、強力なアンカー効果によって、耐衝撃性、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性、難燃性などの向上をはかるとともに、繊維状フィラーを用いないため、樹脂の加工性の悪化、表面外観の悪化、比重の上昇などを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の引張り強度、耐衝撃性、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性、難燃性などの向上を目的として、多孔質構造体を樹脂に均質に分散させた複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複合材料は、アスペクト比が大きな繊維状フィラーを、ニーダや押し出し機などを用いて樹脂に混練することで作製し、引張り強度や弾性率を向上させるのが一般的な方法である(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、層状の粘土鉱物を分散対象物としてインターカレーションを施し分散させた有機分散液と、樹脂を溶解させた有機溶液とを混合した後、脱溶媒することにより二次凝集(凝集により二次粒子を作る)を起こさずに均質に分散した複合材料を得る方法もある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらには、多孔質材料の微細孔中にナノサイズの粒子を内在させることで、高強度のナノ構造を有する材料を得る方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【非特許文献1】相馬勲ら著「初歩から学ぶフィラー活用技術」工業調査会出版、2003年10月20日、P.221−226
【特許文献1】特開平6−41346号公報
【特許文献2】特開2005−139376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の繊維状フィラーを用いるものでは、引張り強度や弾性率が向上するものの、耐衝撃性が低下する、成形性(加工性)が悪くなる、寸法安定性や表面外観が悪化するという諸課題があった。そして、比重も大きくなってしまい軽量化という観点では不利であるという課題もあった。
【0006】
また、インターカレーションの方法では、分散対象物がインターカレーション可能な層状物質に限定されることや、樹脂が有機溶液に溶解する樹脂に限定されるなどの課題があった。
【0007】
さらには、多孔質材料の微細孔中にナノサイズの粒子を内在させる方法では、通常の多孔質材料よりは強度が高くなるものの、一般の樹脂に代えて構造材として使えるほどの強度はないという課題があった。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、樹脂の引張り強度、耐衝撃性、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性、難燃性などの向上をはかるとともに、樹脂の加工性の悪化、表面外観の悪化、比重の上昇などを防いだ複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明の複合材料は、樹脂と、この樹脂の主鎖となる結合を切ることを促進させる触媒を含む多孔質構造体とを加熱混練するとともに、加熱混練により主鎖となる結合を切って低分子量化された樹脂を多孔質構造体の細孔内部へ入り込ませたものである。
【0010】
これによって、母相となる樹脂が多孔質構造体の細孔内部まで入り込むため、強力なアンカー効果によって、耐衝撃性、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性、難燃性などの向上をはかるとともに、繊維状フィラーを用いないため、樹脂の加工性の悪化、表面外観の悪化、比重の上昇などを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合材料は、樹脂の引張り強度、耐衝撃性、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性、難燃性などの向上をはかるとともに、樹脂の加工性の悪化、表面外観の悪化、比重の上昇などを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
第1の発明は、樹脂と、この樹脂の主鎖となる結合を切ることを促進させる触媒を含む多孔質構造体とを加熱混練するとともに、加熱混練により主鎖となる結合を切って低分子量化された樹脂を多孔質構造体の細孔内部へ入り込ませた複合材料とすることにより、母相となる樹脂が多孔質構造体の細孔内部まで入り込むため、強力なアンカー効果によって、耐衝撃性、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性、難燃性などの向上をはかるとともに、繊維状フィラーを用いないため、樹脂の加工性の悪化、表面外観の悪化、比重の上昇などを防ぐことができる。
【0013】
第2の発明は、特に、第1の発明において、多孔質構造体の代表径は1μm未満であることにより、代表径をサブミクロン以下、特に100nm以下のナノオーダーで分散させることで、多孔質構造体同士の相互作用が母相となる樹脂に強く作用するようになり、さらに少量の多孔質構造体の添加で、引張り強度、弾性率、耐衝撃性などを向上させた複合材料を実現することができる。
【0014】
第3の発明は、特に、第1または第2の発明において、多孔質構造体のピーク細孔径は1nm以上であることにより、低分子量化された樹脂が容易に多孔質構造体へ入り込むため、強力なアンカー効果が得られ、少量の多孔質構造体の添加で、引張り強度、弾性率、耐衝撃性などを向上させた複合材料を実現することができる。なお、加熱混練中に樹脂を1nm未満の細孔内部に入るまで結合を切るためにはエネルギーと時間がかかり、また樹脂自身が脆くなってしまうものである。
【0015】
第4の発明は、特に、第1の発明において、樹脂の主鎖となる結合を切ることを促進させる触媒はシリカであることにより、シリカは高温、特に100℃以上の温度帯で樹脂の主鎖となる結合を切ることを促進する触媒作用を有し、またシリカは多孔質構造体を容易に形成できるため、強力なアンカー効果が得られ、少量の多孔質構造体の添加で、引張り強度、弾性率、耐衝撃性などを向上させた複合材料を実現することができる。
【0016】
第5の発明は、特に、第1〜第4のいずれか1つの発明において、少なくとも多孔質構造体の表面に疎水基を有し、かつ樹脂はポリオレフィン系樹脂であることにより、多孔質構造体の表面にアルキル基のような疎水基を付けておくと、アルキル基が多く汎用性の高いポリオレフィン系樹脂となじみ易いため、さらに樹脂が多孔質構造体の細孔内部へ入りやすくなり強力なアンカー効果が得られ、さらに少量の多孔質構造体の添加で、引張り強度、弾性率、耐衝撃性などを向上させた複合材料を実現することができる。
【0017】
第6の発明は、特に、第1〜第5のいずれか1つの発明において、多孔質構造体は、少なくとも水を含む溶媒とゲル原料とを混合することで湿潤ゲルを形成するゲル化工程と、前記湿潤ゲル内の水を除く除水工程と、前記除水工程で除水された湿潤ゲル内に残存した溶媒を除く乾燥工程とから作製されることにより、多孔質構造体を容易に作製することができるため、強力なアンカー効果が得られ、少量の多孔質構造体の添加で、引張り強度、弾性率、耐衝撃性などを向上させた複合材料を実現することができる。
【0018】
第7の発明は、特に、第6の発明において、ゲル化工程において、ゲル原料がアルコキシシランのモノマーまたはオリゴマーであり、少なくとも溶媒には水とアルコールとゲル化を促進させる触媒とを含むことにより、さらに多孔質構造体を簡単、容易に作製することができるため、強力なアンカー効果が得られ、少量の多孔質構造体の添加で、引張り強度、弾性率、耐衝撃性などを向上させた複合材料を実現することができる。
【0019】
第8の発明は、特に、第6の発明において、除水工程の前に疎水化工程を有し、前記疎水化工程においては、RとR’はアルキル基を表し、xは1〜3のいずれかの整数を表し、R(R’O)4−xSiで表されるアルキルアルコキシシランを用いて湿潤ゲル表面の少なくとも一部を疎水化し、かつ乾燥工程が前記少なくとも表面の一部が疎水化された湿潤ゲル内に含まれる溶媒の臨界点未満の温度かつ圧力条件で乾燥することにより、疎水化工程を行うことおよび乾燥工程時に適当な溶媒を選択することで、超臨界乾燥を用いずに多孔質構造体を低コストで作製できる。このため、強力なアンカー効果が得られ、少量の多孔質構造体の添加で、引張り強度、弾性率、耐衝撃性などを向上させた低コストの複合材料を実現することができる。
【0020】
第9の発明は、特に、第8の発明において、RとR’はいずれもメチル基で、かつx=2であることにより、この原料はジメチルジメトキシシランと称され、安価で疎水化速度が速く、確実に疎水化することができる。これは、x=1の単官能では3つのアルキル基の立体障害により反応性が低下し、またx=3の3官能では加水分解の結果生じる3つのシラノール基が全て、ゲル表面のシラノール基と反応することが難しくシラノール基がゲル表面に残存することで反応性が低下するからであり、ジメチルジメトキシシランはこのようなことがない。したがって、超臨界乾燥を用いずに、多孔質構造体を低コストで作製できるため、強力なアンカー効果が得られ、少量の多孔質構造体の添加で、引張り強度、弾性率、耐衝撃性などを向上させた低コストの複合材料を実現することができる。
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
図は、本発明の実施の形態1における複合材料を示したものである。
【0023】
図に示すように、本実施の形態における複合材料1は、樹脂3と、この樹脂3の主鎖となる結合を切ることを促進させる触媒作用を有する触媒を含む多孔質構造体2とを加熱混練するすることで樹脂3中に多孔質構造体2を分散させる工程において、樹脂の主鎖となる結合が切れ低分子量化された樹脂3を多孔質構造体2の細孔内部へ込ませて作製している。つまり、樹脂3を母相として多孔質構造体2が均一に分散した構造となっている。
【0024】
多孔質構造体2の樹脂3への分散方法は、ニーダや押し出し機などを用いた加熱混練、特に樹脂の融点以上で行う溶融混練が最適である。そして、樹脂3が、加熱混練時にかかる熱と圧力または触媒を含む多孔質構造体2との接触により樹脂の主鎖となる結合が切れ、低分子量化された樹脂が多孔質構造体2の細孔内部へ侵入し、強力なアンカー効果により保持されている。また、細孔内部へ入り込んだ樹脂4は、細孔内部の壁と物理的な結合もしくは化学的な結合、またはアンカー効果などの作用により強力に結合されている。
【0025】
樹脂3は、図1(b)に示すように細孔全てに入り込む必要はなく、樹脂が入り込まない細孔が存在していてもよい。また、細孔内部へ入り込んだ樹脂4は母相となる樹脂3と繋がっていることが望ましいが、細孔内部へ入り込んだ樹脂4が細孔内部で繋がっていない部分があってもよい。さらには、複合材料1や多孔質構造体2の形や大きさは特に限定されるものではない。
【0026】
次に、図2により、多孔質構造体2について説明する。
【0027】
多孔質構造体2は1〜100nm程度の一次粒子11が数珠状につながった骨格からなり、粒子間距離12の径の孔が多数形成された空間が存在するため、多孔質構造になっている。したがって、粒子間距離12の径、すなわち細孔径は一次粒子11の径に依存し、10〜20nm程度の細孔径が最適で、また空隙率は70〜95%程度のものが最適である。これは、細孔径が小さいと樹脂3が侵入しにくく、細孔径が大きいと樹脂部分が大きくなりアンカー効果が弱くなるからである。また、空隙率が小さいと入り込む樹脂量が小さいためアンカー効果が弱くなり、空隙率が大きいと多孔質構造体2を形成する骨格部分が細くなるため、やはりアンカー効果が弱くなるからである。
【0028】
なお、一般的な樹脂は分子量が大きいため、10〜20nmの細孔には入り込まないが、加熱混練時にかかる熱や圧力により樹脂の主鎖となる結合を切り低分子化されて細孔内部へ入り込むこととなる。そのときに、シリカのような金属酸化物や白金などの金属を付けておくと樹脂の主鎖となる結合を切る作用を促進し、短時間で大量の低分子化された樹脂を作り出すことができる。但し、触媒活性が強すぎると樹脂の主鎖となる結合をさらに切って行き、樹脂3を分解してしまうため望ましくない。また、多孔質構造体2をシリカで構成させることで上記作用を効率よく働かせることができる。一方、細孔径が1nm未満となると、加熱混練中に樹脂を1nm未満の細孔に入るまで結合を切るためのエネルギーと時間がかかり、また樹脂自身が脆くなってしまうため、細孔径が1nm以上の多孔質構造体を利用することが望ましい。
【0029】
混練後の多孔質構造体2の代表径は1μm未満が望ましく、さらには100nm以下が望ましい。これは、分散物の粒子径が小さくなると形状効果が減少し表面効果が増してくることによる。特に、ミクロンサイズの粒子を樹脂に分散させると、多くの場合衝撃強度が低下するが、サブミクロンサイズの粒子を分散させると逆に増大することが報告されている。また、粒子径が100nmより小さな粒子を分散させることでミクロンサイズの粒子を分散させたものよりはるかに少量で同程度の補強効果(引張り強度、弾性率、耐熱性などの向上)が得られる。このとき、多孔質構造体2は混練前に予め破砕機などで1μm未満に破砕しておいてもよいし、混練時の力によって1μm未満に破砕させつつ分散させてもよい。しかしながら、多孔質構造体2は空隙率が大きく非常に軽い(自重が小さい)ため、ミキサーなどを用いた破砕法では1μm以下に破砕することは難しく、20〜40μm程度のところにピークを持ち、1〜60μm程度の粒度分布を有することが通常である。したがって、混練時の力を利用して破砕する方が望ましい。
【0030】
樹脂3は特に限定するものではないが、少なくとも多孔質構造体2表面にメチル基のようなアルキル基(疎水基)を有し疎水化すると親油性が向上し、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂と相性がよくなり、多孔質構造体2の細孔内部へ樹脂3が入り込みやすくなる。また、ポリオレフィン系樹脂に限らず、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ポリエステル(PET、PBTなど)、ナイロン樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂は問題なく使用できるが、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂は低分子量化が起きにくいためやや難しい。
【0031】
樹脂3への多孔質構造体2の添加量は特に制限するものではないが、多いと樹脂本来の性質が失われたり、比重が上昇し重くなったりする欠点がある。したがって、多くても30wt%程度までが望ましい。また、多孔質構造体2をサブミクロンからナノオーダーで分散させる場合、添加量が少なくても補強効果(引張り強度、弾性率、耐熱性などの向上)が得られるため、10wt%以下程度が望ましい。
【0032】
このような複合材料1は加工性、表面外観ともによく、比重の上昇もほとんど見られず、引張り強度、弾性率、耐衝撃性などが向上しているため、掃除機などの家電製品や、自動車の内装部品、バンパーなど軽くて強度が必要とされる様々な製品、部品に用いることができる。
【0033】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2における複合材料について説明する。
【0034】
乾燥工程に超臨界乾燥を利用した多孔質構造体2の作製工程は、主に以下の3つの工程からなる。
(1)ゲル化工程(湿潤ゲルの形成)
(2)除水工程(湿潤ゲル中の水の除去)
(3)乾燥工程(湿潤ゲル中の溶媒除去)
以下、工程毎に説明する。
【0035】
(1)ゲル化工程(湿潤ゲルの形成)
本実施の形態では、ゾル−ゲル法により湿潤ゲルを作製する。具体的には、金属アルコキシドをゲル原料とし、水やアルコールなどの溶媒と、必要に応じてゲル化促進用の触媒とを混合することで、溶媒中でゲル原料の加水分解と縮重合(脱水反応)をすすめて湿潤ゲルを形成する。また、ゲル原料として水ガラスを用い、必要に応じて塩酸などのゲル化促進用の触媒とを混合することによっても、湿潤ゲルを作製することができる。本実施の形態で用いられるゲル原料としては、ゾル−ゲル法で一般的に用いられる、例えば、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタンなどのアルコキシド類がある。この中でも金属としてケイ素を含有する化合物、すなわちアルコキシシランが、入手の容易性、安価なコストなどから好ましい。また、アルコキシシランを用いると多孔質構造体2自身が樹脂3の主鎖となる結合を切ることを促進させる触媒作用を有するシリカとすることができ、短時間で大量の低分子化された樹脂を作り出すことができるため、非常に望ましい。
【0036】
湿潤ゲルの形成には、アルコキシシランと、溶媒としてのアルコールと、ゲル化促進用の触媒としての酸あるいは塩基および水を加えることで、アルコキシシランの加水分解、縮重合を経て、湿潤ゲルを形成する。湿潤ゲルは、珪素原子と酸素原子が交互に結合した3次元網目構造のシリカ粒子を作り、それらシリカ粒子が重合して一次粒子11を形成し、それが数珠状となって骨格を形成し、一次粒子11の粒子間距離12が隙間、すなわち細孔となり、水などの溶媒が入り込む構造となっている。
【0037】
次に、原料のアルコキシシランについて説明する。
【0038】
アルコキシシランは、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシランおよびトリアルコキシシラン、ジアルコキシシランなどのアルコキシシランのモノマーやそのオリゴマーなどおよびこれらの混合物が用いられる。特に、テトラメトキシシランはシリカ含有分が多く、また安価で容易に入手できるため、本実施の形態で用いるのに適する。また、テトラメトキシシランは反応速度、すなわち加水分解速度と縮重合速度が速く、一次粒子11の成長を抑制できるため、本実施の形態に適している。さらには、アルコキシシランを予め反応させた4量体や10量体のオリゴマーを用いることもできる。
【0039】
ゲル化触媒としては、一般的な有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基が用いられる。有機酸として、酢酸、クエン酸、無機酸として、硫酸、塩酸、硝酸、有機塩基として、ピペリジン、無機塩基として、アンモニア、ホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどがある。この中でもアンモニアをアンモニア水としてゲル化工程での触媒として用いることで、容易な取り扱い、触媒が湿潤ゲルの中に残りにくいなどの利点があり、また細孔径を10〜20nmに制御しやすいという利点もある。
【0040】
ゲル化後、形成された湿潤ゲルを必要に応じて、加温雰囲気に置き、ゲル中の未反応のシラノール基を縮合させてゲルを熟成させることが強度を増して、乾燥時の収縮を抑制することができる。
【0041】
(2)除水工程(湿潤ゲル中の水の除去)
除水工程は、湿潤ゲル内にある水を除去し、より臨界温度および臨界圧力の小さな溶媒に置換する工程である。湿潤ゲルを普通に熱風乾燥させたものは、溶媒が乾燥するときの表面張力により、収縮し、孔を潰してしまい、1nm以上の細孔径を有する細孔が少なくなってしまう。なお、溶媒蒸発時に細孔に掛かる力ΔPは一般に(数1)により表される。
【0042】
【数1】

【0043】
ここでΔPは毛管力、γは溶媒の表面張力、θは溶媒と骨格との接触角、dは孔の径(細孔径)を表す。
【0044】
したがって、毛管力を小さくするためには、接触角θを大きくする、あるいは表面張力γを小さくする必要がある。湿潤ゲル内の溶媒が超臨界状態では、表面張力γがゼロとなり毛管力は発生しない。したがって、細孔が収縮することがないので多孔質構造体2を得ることができる。しかしながら、通常、臨界温度および臨界圧力は大きいため、安全性に問題があったり、非常にコストがかかったりする。ゆえに、乾燥時には臨界温度および臨界圧力が極力小さい溶媒、特に臨界圧力が小さな溶媒を使用することが望まれる。
【0045】
除水方法として、溶媒置換もしくは加熱留去のいずれかの方法が望ましい。まず、溶媒置換について説明する。一般的な溶媒置換は、形成された湿潤ゲルを、水溶性溶媒の中に浸漬させて、前記溶媒をゲル内の溶媒と入れ替えることで行う。この時に用いる溶媒としては、水溶性の溶媒で臨界温度および臨界圧力が水(臨界温度:374.2℃、臨界圧力:218.3atm)よりも小さければ特に制限されない。例えば、水溶性のアルコール類としてメタノール(臨界温度:240℃、臨界圧力:78.5atm)、エタノール(臨界温度:243.1℃、臨界圧力:63atm)、プロパノールおよびターシャリ−ブタノール、エチレングリコール、グリセロールなどの低級アルコール、その他に、アセトン(臨界温度:235.5℃、臨界圧力:46.6atm)、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランなどのケトン類やエーテル類(臨界温度:193.8℃、臨界圧力:36.2atm)、ジメチルホルムアミドなどのホルムアミド類、さらに蟻酸、酢酸(臨界温度:321.6℃、臨界圧力:57.1atm)およびプロピオン酸などの低級カルボン酸や、これらの混合物を用いることができる。この中でも、低価格で、入手が容易なメタノールやエタノールなどのアルコール類の使用が望ましい。
【0046】
また、溶媒置換は上記水溶性溶媒だけではなく、上記水溶性溶媒と他の非水溶性溶媒との混合溶媒によっても可能である。具体的には、n−ヘキサン、デカン、ノナン、オクタン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどと水溶性溶媒の混合溶媒である。安全面や入手の容易性など工業用として特に好ましいものは、オクタン、トルエン、キシレンなどである。
【0047】
次に、加熱留去に関して説明する。加熱留去により水を除く場合、一般的に水の沸点付近より高い沸点を有する非水溶性の溶媒を加えて加熱することで、水を優先的に留去することが可能である。非水溶性の溶媒を用いることで、加熱留去後に有機溶媒と水が自然に分離するため、溶媒の再利用が容易になる効果がある。また、非水溶性溶媒の沸点は、水の沸点より低くても、過剰に加えれば、水を除去することが可能であるが、さらに溶媒の沸点を高くすることで、水留去の選択性を高めることができる。このため、溶媒置換により水を除去する場合に比較して、使用する溶媒量も大幅に低減できる効果が得られる。但し、沸点が高すぎると使用エネルギーが多くなってしまうという欠点もある。
【0048】
また、水と加えた溶媒とが、共沸混合物を形成する場合は、水と溶媒とが一定の割合で留去されていくため、水の除去の制御が容易になる効果がある。さらに、通常の有機溶媒の乾燥で行われるように、減圧条件下で加熱留去を行うことで、効率的な水除去が可能になる。特に、ゲル化触媒などが存在する場合、水を含む状態で温度を上げて加熱乾燥すると、ゲル骨格中の結合の切断などが生じる可能性がある。このような場合は、減圧で水を加熱留去することで、温度上昇を防ぐことが効果的である。
【0049】
(3)乾燥工程(湿潤ゲル中の溶媒除去)
乾燥方法に関して説明する。乾燥は、除水工程において除去した水に代わり湿潤ゲル内に入り込み残存する溶媒を除去する工程である。溶媒がエタノールの場合を例に説明する。内部の水を除去し、エタノールに置換した湿潤ゲルを耐圧容器に入れ、圧力を臨界圧力以上に上げ、その後、温度を臨界温度以上に上げて、エタノールを超臨界状態とする。その後、例えば二酸化炭素のような超臨界状態でエタノールと相溶性のある物質を流通させることにより、エタノールを抽出し二酸化炭素に置換し、圧力を大気圧まで下げた後、温度を下げる。これにより多孔質構造体2を得ることができる。
【0050】
また、湿潤ゲル中のエタノールの一部を二酸化炭素に置換した後、圧力を二酸化炭素の臨界圧力以上に上げ、その後、温度を臨界温度以上に上げて、二酸化炭素を超臨界状態で流通を行う。その後、流通を止め、圧力を大気圧まで下げた後、温度を下げる。これにより、エタノールの超臨界乾燥よりも安全かつ低コストで多孔質構造体2を得ることができる。
【0051】
このように作製した多孔質構造体2と樹脂3とを加熱混練することにより作製した複合材料1は、加工性、表面外観ともによく、比重の上昇もほとんど見られず、引張り強度、弾性率、耐衝撃性などが向上しているため、掃除機などの家電製品や、自動車の内装部品、バンパーなど軽くて強度が必要とされる様々な製品、部品に用いることができる。
【0052】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3における複合材料について説明する。
【0053】
乾燥工程に超臨界乾燥を利用しない多孔質構造体2の具体的な作製工程は主に以下の4つの工程からなる。
(1)ゲル化工程(湿潤ゲルの形成)
(2)疎水化工程(湿潤ゲル表面の疎水化)
(3)除水工程(湿潤ゲル中の水の除去)
(4)乾燥工程(湿潤ゲル中の溶媒除去)
以下、工程毎に説明する。
【0054】
(1)ゲル化工程(湿潤ゲルの形成)
実施の形態2と同様の方法で湿潤ゲルを作製する。
【0055】
(2)疎水化工程(湿潤ゲル表面の疎水化)
この工程は、湿潤ゲル表面のシラノール基を例えばトリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ジメチルジメトキシシランなどで疎水性のメチル基に代える工程である。これは、乾燥工程前の予備工程という意味合いがある。乾燥時に細孔にかかる力ΔPは(数式1)で示されることを前述したが、この工程では疎水基を導入することで接触角θを大きくし、乾燥時に発生する毛管力ΔPを小さくすることを目的とする。なお、表面張力γを小さくすることについては次の除水工程で説明する。また、疎水化はメチル基に限定されるものではなく、エチル基、プロピル基やフッ素系官能基やフェニル基などでもほぼ同様の効果が得られるが、反応性やコストを考慮するとメチル基が望ましい。
【0056】
さらには、トリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザンなどを用いると、塩化水素やアンモニアなどのガスを発生させ、これらが触媒となり湿潤ゲルを形成する骨格同士の結合の切断などが生じる可能性がある。また、これらの疎水化剤を用いる場合、予め水を取り除いておく必要があり、工程が一つ増えてしまう。
【0057】
そこで、本実施の形態では、RとR’はアルキル基を表し、xは1〜3のいずれかの整数を表し、R(R’O)4−xSiで表されるアルキルアルコキシシランを用いて湿潤ゲル表面の少なくとも一部を疎水化した。用いるアルキルアルコキシシランとして、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシランなどの単官能アルキルアルコキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシランなどの2官能アルキルアルコキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシランなどの3官能アルキルアルコキシシラン化合物がある。これらのうち一つ、もしくは混合物を疎水化処理液となる溶媒に溶解させておき、湿潤ゲルとその溶媒に接触させることで反応させる。疎水化剤とシラノール基との反応は加水分解を伴うため、必ず水が必要となる。そこで、疎水化処理液となる溶媒は水溶性溶媒が望ましく、水溶性溶媒としては、水溶性のアルコール類としてメタノール、エタノール、プロパノールおよびターシャリ−ブタノール、エチレングリコール、グリセロールなどの低級アルコール類、その他、アセトン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランなどのケトンやエーテルや、これらの混合物も用いることができる。
【0058】
アルキルアルコキシシランを疎水化剤として用いるためには、加水分解のために水を必要とするが、ゲル化工程で作製した湿潤ゲルは水を含んでいるため、新たに水を添加する必要がなく、また脱水しておく必要もないので、非常に望ましい。また、ゲル化時の触媒にアンモニア水を用い、溶媒に水とメタノールを用いることにより、湿潤ゲルに直接アルキルアルコキシシランを添加し、疎水化することができる。
【0059】
さらに、アルキルアルコキシシランの中でも、RとR’はいずれもメチル基で、かつx=2である2官能のアルキルアルコキシシランが疎水化効率に優れることも見出した。これは、単官能では3つのアルキル基の立体障害により反応性が低下し、3官能では加水分解の結果生じる3つのシラノール基が全て、ゲル表面のシラノール基と反応することが難しく、シラノール基がゲル表面に残存するためではないかと考えられる。したがって、疎水化効率に優れる2官能アルキルアルコキシシラン、特にジメチルジメトキシシランは反応性が高く、非常に望ましい。
【0060】
また、疎水化工程はゲル化工程の後に記載されているが、ゲル化と同時に行うこともできる。しかし、ゲル化と同時であれば、疎水化剤が重合前のゲル原料と反応して重合を抑制したり、重合前のゲル原料との反応により必要な疎水化剤の量が多くなったりする場合がある。したがって、ゲル化が終了してから、疎水化剤を作用させることが好ましい。
【0061】
(3)除水工程(湿潤ゲル中の水の除去)
この工程では、湿潤ゲル内にある水および未反応の疎水化剤を除去し、その分を表面張力γの小さな溶媒に置換する工程である。この工程も乾燥工程の予備工程の意味合いがある。(数1)によると表面張力γを小さくすることも毛管力の低減には効果がある。水の表面張力は、0.072N/m(25℃)であり、他の液体、例えば汎用的な有機溶媒であるトルエン0.027N/m(30℃)、エタノール0.021N/m(25℃)などに比較して格段に大きい。したがって、乾燥前に湿潤ゲル中の水の割合を低減させ、代わりに表面張力が小さい溶媒に置換することが非常に重要である。
【0062】
除水方法は、(実施の形態2)と同様、溶媒置換もしくは加熱留去であるが、置換する溶媒は臨界温度および臨界圧力に拘らず、表面張力が小さな溶媒が望ましい。
【0063】
溶媒置換は、(実施の形態2)と同様の方法で同様の溶媒を用いることができるが、やはり、低価格で、入手が容易なメタノールやエタノールなどのアルコール類の使用が望ましい。また、水溶性溶媒だけではなく、水溶性溶媒と他の非水溶性溶媒との混合溶媒によっても可能である。加熱留去に関しても、(実施の形態2)と同様の方法である。
【0064】
(4)乾燥工程(湿潤ゲル中の溶媒除去)
乾燥方法に関して説明する。乾燥は、除水工程において除去した水に代わり湿潤ゲル内に導入した溶媒を除去する工程である。疎水化工程と除水工程により、毛管力は著しく低下しているため、この状態で熱風乾燥を行ってもある程度の収縮は抑えられ、比較的弱い力で破砕可能な多孔質構造体2を得ることができるが、さらに乾燥時の圧力を大気圧以上の加圧下、少なくとも2気圧以上で行うことでより空隙率の大きな多孔質構造体2を得られやすい。これは加圧下で乾燥を行えば、孔の中に保持される溶媒の沸点が上昇するからである。このとき、昇温により表面張力γが下がるため、毛管力が低減されて収縮が効果的に抑制され、望ましい。例えば、アセトンを加圧下で乾燥させる場合、沸点を45℃程度上昇させて100℃程度まで上げれば、表面張力が0.005N/m程度下がり、0.015N/m程度まで減少することから、加圧下での乾燥は十分収縮抑制に効果的であるといえる。なお、実施の形態2で記述した超臨界乾燥で乾燥を行ってもよいが、上述した方法の方が圧倒的に安いコストで多孔質構造体2を作製することができる。
【0065】
すなわち、乾燥工程は少なくとも表面の一部が疎水化された湿潤ゲル内に含まれる溶媒の臨界点未満の温度かつ圧力条件で乾燥するものである。
【0066】
このように作製した多孔質構造体2と樹脂3とを加熱混練することにより作製した複合材料1は、加工性、表面外観ともによく、比重の上昇もほとんど見られず、引張り強度、弾性率、耐衝撃性などが向上しているため、掃除機などの家電製品や、自動車の内装部品、バンパーなど軽くて強度が必要とされる様々な製品、部品に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明にかかる複合材料は、本発明の複合材料は、樹脂の引張り強度、耐衝撃性、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性、難燃性などの向上をはかるとともに、樹脂の加工性の悪化、表面外観の悪化、比重の上昇などを防ぐことができるので、掃除機などの家電製品や、自動車の内装部品、バンパーなど軽くて強度が必要とされる様々な製品、部品に用いることができる。また、分散対象物をカーボンなどの有機物の多孔質構造体を用いることで、導電性を付与した複合材料としても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】(a)本発明の実施の形態1〜3における複合材料の断面模式図(b)同複合材料の一部を拡大した断面模式図
【図2】同複合材料における多孔質構造体の一部を拡大した模式図
【符号の説明】
【0069】
1 複合材料
2 多孔質構造体
3 樹脂
4 細孔内部へ入り込んだ樹脂
11 一次粒子
12 粒子間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、この樹脂の主鎖となる結合を切ることを促進させる触媒を含む多孔質構造体とを加熱混練するとともに、加熱混練により主鎖となる結合を切って低分子量化された樹脂を多孔質構造体の細孔内部へ入り込ませた複合材料。
【請求項2】
多孔質構造体の代表径は1μm未満である請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
多孔質構造体のピーク細孔径は1nm以上である請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
樹脂の主鎖となる結合を切ることを促進させる触媒はシリカである請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
少なくとも多孔質構造体の表面に疎水基を有し、かつ樹脂はポリオレフィン系樹脂である請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
多孔質構造体は、少なくとも水を含む溶媒とゲル原料とを混合することで湿潤ゲルを形成するゲル化工程と、前記湿潤ゲル内の水を除く除水工程と、前記除水工程で除水された湿潤ゲル内に残存した溶媒を除く乾燥工程とから作製される請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項7】
ゲル化工程において、ゲル原料がアルコキシシランのモノマーまたはオリゴマーであり、少なくとも溶媒には水とアルコールとゲル化を促進させる触媒とを含む請求項6に記載の複合材料。
【請求項8】
除水工程の前に疎水化工程を有し、前記疎水化工程においては、RとR’はアルキル基を表し、xは1〜3のいずれかの整数を表し、R(R’O)4−xSiで表されるアルキルアルコキシシランを用いて湿潤ゲル表面の少なくとも一部を疎水化し、かつ乾燥工程が前記少なくとも表面の一部が疎水化された湿潤ゲル内に含まれる溶媒の臨界点未満の温度かつ圧力条件で乾燥する請求項6に記載の複合材料。
【請求項9】
RとR’はいずれもメチル基で、かつx=2である請求項8に記載の複合材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−63366(P2008−63366A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239834(P2006−239834)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】