説明

複合構造体

【課題】
本発明は、金属とポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物からなる、高い接合強度を有する複合体を得ることを課題とする。
【解決手段】
金属とポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物の複合構造体であって、前記金属の表面が物理的および/または化学的に粗面化されており、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物を構成するポリアリーレンスルフィド成分が、少なくともパラアリーレンスルフィド繰り返し単位とメタアリーレンスルフィド繰り返し単位からなる共重合体を含み、かつポリアリーレンスルフィド成分中のメタアリーレンスルフィドの繰り返し単位を2〜20mol%含有するポリアリーレンスルフィド成分であることを特徴とする、金属とポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物との複合構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂または樹脂組成物からなる成形体と金属との複合構造体であって、特に溶融させた樹脂または樹脂組成物を金属と接触した状態で冷却・固化することにより、樹脂または樹脂組成物からなる成形体と金属とを直接接合させた複合構造体に関する。
【0002】
本発明は、電子機器、家電製品、自動車部品、構造用部品、機械部品等に用いられる、金属またはその合金と樹脂または樹脂組成物からなる成形体を接合させた複合構造体に関する。更に詳しくは、切断、切削、曲げ、絞り等の加工、即ち、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、研磨加工等の機械加工で作製された金属と樹脂または樹脂組成物からなる成形体とを一体化した構造体およびその製造方法であり、各種電子機器、家電製品、医療機器、車両用構造部品、車両搭載用品、建築資材、その他の構造用部品や外装用部品等に用いられる金属と樹脂または樹脂組成物からなる成形体の複合構造体に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物は優れた耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、電気・自動車分野を中心とした幅広い分野に使用されており、金属と樹脂または樹脂組成物からなる成形体の複合構造体において、既に広く用いられている。
【0004】
金属と樹脂または樹脂組成物からなる成形体を複合化する手段として、樹脂成形品に金属の一部を埋め込む方法、金属に孔を設けて樹脂成形品の一部を埋設する方法、リベットやボルトによる固定の方法が知られているが、複合構造体の形状に対する制約が大きく、また応力集中の発生による強度低下等が課題となっている。
【0005】
このことから、金属と樹脂または樹脂組成物からなる成形体との接合強度が構造体全体の強度に影響する様な用途・形状においては、金属と樹脂または樹脂組成物からなる成形体が直接接した面での接合強度が求められている。例えば、自動車用途においては、軽量化のため、金属と樹脂または樹脂組成物からなる成形体の複合構造体が多く用いられているが、さらなる軽量化を目的とした適応範囲の拡大が強く求められている。しかし、強度を要する構造用部品や外装用部品への適応において大きな課題となっている。
【0006】
これに対し、接着剤を用いる方法が提案されている。接着剤を用いた場合、接着面の洗浄、接着剤の塗布や硬化等といった工程の複雑化が量産化における課題の一つである。
【0007】
一方、金属表面を改質する方法を用いた場合、金属に樹脂または樹脂組成物を射出成形などの方法で直接溶着する方法が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には予め、ヒドラジン水溶液で金属表面を処理し、この表面処理された金属表面にポリアリーレンスルフィドを含む樹脂または樹脂組成物を射出し、一体化する方法が開示されている。しかし、この方法では表面処理時間が長いなどの問題が生じる場合がある。
【0009】
一方、パラアリーレンスルフィド単位(以下、p−アリーレンスルフィド単位と記載する)とメタアリーレンスルフィド単位(以下m−アリーレンスルフィド単位と記載する)を含むポリアリーレンスルフィド共重合体を含有する樹脂または樹脂組成物については、特許文献2などに開示されており、インサート成形などに用いる事ができるとの記載はあるが、金属と樹脂または樹脂組成物が直接的に接した面で高い接合強度を得る方法については、何ら開示されていない。
【0010】
本発明者等は、表面処理を施した金属と特定のポリアリーレンスルフィド共重合体を溶融し接合することで特異に高い接合強度を示すことを発見したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−6721号公報
【特許文献2】特開2004−59835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、金属とポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物と直接的に接した面での高い接合強度を得ることを課題とし、溶融状態の樹脂または樹脂組成物を金属と接触させた状態で固化させて金属とポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物を接合する方法、または樹脂または樹脂組成物からなる成形品と金属を接触させた状態で、樹脂または樹脂組成物にエネルギーを与えて溶融状態とし、その後に冷却固化させて金属と樹脂または樹脂組成物を接合する方法によって、高い接合強度を有する複合成形体を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明は以下を提供するものである。
(1)金属とポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物からなる成形体の複合構造体であって、前記金属の表面が物理的および/または化学的に粗面化されており、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物に含まれるポリアリーレンスルフィド樹脂が、少なくともパラアリーレンスルフィド繰り返し単位および全繰り返し単位に対し2〜20mol%のメタアリーレンスルフィド繰り返し単位を含む共重合体を含むことを特徴とする複合構造体。
(2)物理的に粗面化された金属表面の粗さRaが、1μm〜300μmであることを特徴とする(1)記載の複合構造体。
(3)化学的に粗面化された金属表面が、数平均内径10〜80nmの凹部で覆われていることを特徴とする(1)記載の複合構造体。
(4)化学的粗面化処理が化学エッチング処理または陽極酸化処理であることを特徴とする(1)または(3)に記載の複合構造体。
(5)金属がアルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、マグネシウム、モリブデン、およびこれらの合金から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の複合構造体。
(6)前記ポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物に含まれるポリアリーレンスルフィド樹脂が、メタアリーレンスルフィド繰り返し単位を含まないポリアリーレンスルフィド(共)重合体および、メタアリーレンスルフィド繰り返し単位を含むポリアリーレンスルフィド共重合体との混合物であり、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の全繰り返し単位に対するメタアリーレンスルフィド繰り返し単位が2〜20mol%であるポリアリーレンスルフィド樹脂であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の複合構造体。
(7)射出溶着によって接合されていることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の複合構造体。
(8)成形体がフィルムまたはシート状であって、金属と溶融接合されていることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の複合構造体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属とポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物からなる成形体を高い接合強度で接合した複合構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】アルミニウム合金部品とポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物からなる部品との複合成形体を製造する射出成形金型の断面図である。
【図2】アルミニウム合金部品とポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物からなる部品との複合成形体の一例を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の複合構造体は、表面処理をした金属と、特定のポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物からなる成型体を接合することで得られる。
【0017】
〔ポリアリーレンスルフィド〕
本発明に用いられるポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物に含まれるポリアリーレンスルフィド樹脂は、−(Ar−S)−の繰り返し単位を有するホモポリマーあるいはコポリマーを主成分とする。Arとしては下記の式(A)〜式(K)などで表される構成単位などが挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
(R1,R2は、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
【0020】
具体的にはポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、耐熱性と経済性の観点から、ポリフェニレンスルフィド(PPS)が好ましく例示され、ポリマーの主要構成単位として下記構造式で示される。
【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
(ここでXは、アルキレン、CO、SO単位を示す。)
【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
(ここでRはアルキル、ニトロ、フェニレン、アルコキシ基を示す。)
【0028】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物には、メタアリーレンスルフィド繰り返し単位を含むポリアリーレンスルフィド樹脂を含むことが重要であり、好ましくはm−フェニレンスルフィド単位を必須単位として含むポリアリーレンスルフィド共重合体を含む。
【0029】
ポリアリーレンスルフィド樹脂中のメタアリーレンスルフィド繰り返し単位の含有量は、全繰り返し単位に対して2モル%以上20モル%以下である必要があり、より好ましくは5モル%以上20モル%以下である。かかるメタアリーレンスルフィド単位が2mol%未満の場合は、金属と樹脂または樹脂組成物の複合構造体において、充分な接合強度が得られず、メタアリーレンスルフィド単位が20mol%を超える場合は、ポリマーの結晶性やガラス転移温度などが低く、PPSの特徴である耐熱性、電気特性、耐薬品性、耐液体化学物質性などを損なうことがある。共重合様式としては、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれでも良い。また、本発明では、ポリアリーレンスルフィド樹脂として、メタアリーレンスルフィド繰り返し単位を含まないポリアリーレンスルフィド(共)重合体とメタアリーレンスルフィド繰り返し単位を含むポリアリーレンスルフィド重合体の混合物を用いることも可能であり、この場合は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の全繰り返し単位に対してメタアリーレンスルフィド繰り返し単位が2〜20mol%となるように混合すればよい。
【0030】
かかるポリアリーレンスルフィド共重合体は好ましくは以下の方法により製造できる。
【0031】
即ち、非プロトン性極性溶媒中で、アルカリ金属硫化物とp−ジハロ芳香族化合物とm−ジハロ芳香族化合物を反応させる方法である。p−ジハロ芳香族化合物とm−ジハロ芳香族化合物の投入順序には特に制限はないが、まずp−ジハロ芳香族化合物を反応系に仕込み、p−ジハロ芳香族化合物の反応率が0〜50%未満の時点で、仕込みジハロ芳香族化合物の全量に対し、m−ジハロ芳香族化合物を反応系に添加し、昇温して重合を行う方法が好ましい。
【0032】
以下、本発明の重合方法について、アルカリ金属硫化物、ジハロ芳香族化合物、分子量調節剤、分岐・架橋剤、重合溶媒、重合助剤、重合安定剤、重合反応、後処理および生成ポリアリーレンスルフィドの順に更に詳述し、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物について、混練加工方法を詳述する。
【0033】
・アルカリ金属硫化物
本発明で使用されるアルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができる。特に好ましいものは、硫化ナトリウムである。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系において、或いは別反応器でin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。あるいは水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系において或いは別反応器でin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。
【0034】
本発明において、仕込みアルカリ金属硫化物の量は、脱水操作などにより反応開始前にアルカリ金属硫化物の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0035】
・ジハロ芳香族化合物
本発明で使用されるパラジハロ芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、1−クロロ−4−ブロモベンゼン等のジハロゲン化ベンゼン、あるいは2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロキシレン、1−エチル−2,5−ジブロモベンゼン、1−エチル−2,5−ジクロロベンゼン、1−エチル−2−ブロモ−5−クロロベンゼン、1,3,4,6−テトラメチル−2,5−ジクロロベンゼン、1−シクロヘキシル−2,5−ジクロロベンゼン、1−フェニル−2,5−ジクロロベンゼン、1−ベンジル−2,5−ジクロロベンゼン、1−フェニル−2,5−ジブロモベンゼン、1−p−トルイル−2,5−ジクロロベンゼン、1−p−トルイル−2,5−ジブロモベンゼン、1−ヘキシル−2,5−ジクロロベンゼン等の置換ジハロゲン化ベンゼン等が挙げられる。上記の内ジハロゲン化ベンゼンが好ましく、p−ジクロロベンゼンが特に好ましい。また、これらの化合物は、それぞれ単独で又は混合物として使用することができる。
【0036】
メタジハロ芳香族化合物としては、例えばm−ジクロロベンゼン、m−ジブロモベンゼン、1−クロロ−3−ブロモベンゼン等のジハロゲン化ベンゼン、あるいは2,4−ジクロロトルエン、2,4−ジクロロキシレン、1−エチル−2,4−ジブロモベンゼン、1−エチル−2,4−ジクロロベンゼン、1−エチル−2−ブロモ−4−クロロベンゼン、1,2,4,6−テトラメチル−3,5−ジクロロベンゼン、1−シクロヘキシル−2,4−ジクロロベンゼン、1−フェニル−2,4−ジクロロベンゼン、1−ベンジル−2,4−ジクロロベンゼン、1−フェニル−2,4−ジブロモベンゼン、1−p−トルイル−2,4−ジクロロベンゼン、1−p−トルイル−2,4−ジブロモベンゼン、1−ヘキシル−2,4−ジクロロベンゼン等の置換ジハロゲン化ベンゼン等が挙げられる。上記の内ジハロゲン化ベンゼンが好ましく、m−ジクロロベンゼンが特に好ましい。また、これらの化合物は、それぞれ単独で又は混合物として使用することができる。
【0037】
・分子量調節剤、分岐・架橋剤
本発明においては、生成ポリアリーレンスルフィド共重合体の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を併用することができる。また、分岐または架橋重合体を形成させるために、トリハロ以上のポリハロ化合物を併用することも可能である。その具体例としては、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリブロモベンゼン、1,2,4−トリブロモベンゼンなどが挙げられるが、必ずしも芳香族化合物でなくともよい。また、活性水素含有ハロゲン芳香族化合物及びハロゲン芳香族ニトロ化合物などを併用することも可能である。
【0038】
・重合溶媒
本発明においては、重合溶媒としては通常有機アミド溶媒を使用する。有機アミド溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略す場合もある)、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン、テトラアルキル尿素、ヘキサアルキル燐酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機アミド溶媒、及びこれらの混合物などが、反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらの中でもN−メチル−2−ピロリドンの使用が特に好ましい。本発明における重合溶媒の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.2〜10モルの範囲が好ましく、2〜5モルの範囲がより好ましい。
【0039】
・重合助剤
本発明においては、高重合度のポリアリーレンスルフィドをより短時間で得るために重合助剤を用いることは好ましい方法の一つである。特に高い靭性を要する用途に適用する場合、重合助剤を用いた高重合度のポリアリーレンスルフィドが好適に用いられる。重合助剤の具体例としては、一般にポリアリーレンスルフィドの重合助剤として知られているアルカリ金属カルボン酸塩及びハロゲン化リチウム、水などを挙げることができるが、ハロゲン化リチウムは高価であるとの欠点を有していることから、特に好ましいものは、アルカリ金属カルボン酸塩、水、あるいは両者の併用である。
【0040】
アルカリ金属カルボン酸塩は、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチリウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、及びそれらの混合物などを挙げることができる。但しリチウム塩等は高価であることから、なかでも酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、安息香酸ナトリウムが好ましく、酢酸ナトリウムが特に好ましい。
【0041】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機アミド溶媒中で、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩及び重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。
【0042】
これら重合助剤の使用量は、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、0.2モル〜0.7モルの範囲が好ましく、0.25〜0.6モルの範囲がより好ましく、0.3〜0.55モルの範囲が更に好ましい。上記の範囲未満では、高重合度化効果が不十分であり、上記の範囲を越えると、それ以上の高重合度化効果が得られないばかりか、重合時間によっては逆効果となる。
【0043】
また重合助剤として水を用いる場合、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、0.2モル〜10モルの範囲が好ましく、0.3〜5.0モルの範囲がより好ましく、0.5〜3.0モルの範囲が更に好ましい。上記の範囲未満では、高重合度化効果が不十分であり、上記の範囲を越えると、それ以上の高重合度化効果が得られないばかりか、重合時間によっては逆効果となる。
【0044】
これら重合助剤の添加時期は、重合開始前であっても、重合途中であってもよく、またそれらの組み合わせであってもよい。
【0045】
・重合安定剤
本発明においては、重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、及びアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、本発明で使用する重合安定剤の一つに入る。
【0046】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.01〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モル、より好ましくは0.03〜0.09モルの割合で使用する。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であり、ポリマー収率が低下する傾向となる。重合安定剤の添加時期は、重合開始前であっても、重合途中であっても良い。
【0047】
なお、脱水操作時にアルカリ金属硫化物の一部が分解して、硫化水素が発生する場合には、その結果生成したアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0048】
・重合反応
本発明においては、有機アミド溶媒中で、好ましくは重合助剤の存在下に、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で好ましくは0.5〜20時間反応させる。より好ましくは245℃〜280℃の温度で1〜10時間反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する。
【0049】
より高重合度のポリマーを得るために、2段階以上の温度プロフィールを用いても良い。この場合1段階目は195℃〜240℃で1〜10時間、2段階目は240℃〜290℃の範囲で1〜10時間である。
【0050】
上記反応工程を開始するに際し、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜220℃、好ましくは100〜220℃の温度範囲で、有機アミド溶媒にアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物を加える。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0051】
アルカリ金属硫化物は、通常水和物の形で使用されるが、その含有水量が仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.5モルより少ない場合には、必要量を添加して補充してもよい。一方、アルカリ金属硫化物の含有水量が多すぎる場合には、ジハロ芳香族化合物を添加する前に、有機アミド溶媒とアルカリ金属化合物を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去してもよい。なお、この操作により水を除去し過ぎた場合には、不足分の水を添加して補充しても良い。
【0052】
アルカリ金属硫化物として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系において、あるいは別反応器でin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機アミド溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜240℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0053】
・後処理
本発明においては、重合反応終了後の後処理を、常法によって行なうことができる。例えば、重合反応の終了後、冷却した生成物スラリーをそのまま、あるいは水などで稀釈してから濾別し、水洗濾過を行い乾燥することにより、ポリアリーレンスルフィドを得ることができる。また、反応終了後、高温の反応系から内容物を常圧に解放して重合溶媒を揮散除去してポリマーを回収する方法、さらにその後加熱して重合溶媒を揮散除去し、水洗してポリマーを回収する方法なども可能である。また生成物スラリーを高温状態のままでポリマーを篩分してもよい。また、上記濾別・回収・篩分後、ポリアリーレンスルフィドを重合溶媒と同じ有機アミド溶媒やアセトンなどのケトン類、アルコール類などの有機溶媒及び高温水で洗浄処理してもよい。ポリアリーレンスルフィドを酢酸、塩酸などの酸や塩化アンモニウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛のような塩で処理することもできる。
【0054】
〔ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物〕
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上記ポリアリーレンスルフィド(共)重合体と共に、本発明の効果を損なわない範囲で充填材を配合して使用することも可能であり、30重量%以下の添加が好ましく使用される。
【0055】
かかる充填材の具体例としてはガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、あるいはタルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。
【0056】
また、これらの充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。上記有機シラン化合物の配合は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対して、0.1〜3重量%であり、0.5〜2.5重量%の添加が好ましい。
【0057】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上記ポリアリーレンスルフィド(共)重合体と共に、本発明の効果を損なわない範囲において、さらに他の樹脂をブレンドして用いてもよい。かかるブレンド可能な樹脂には特に制限はないが、その具体例としては、環状オレフィンコポリマーやナイロン6,ナイロン66,ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、芳香族系ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシルジメチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレン、エチレンブテンコポリマー、エチレンヘキセンコポリマー、エチレンオクテンコポリマー、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシル基やカルボン酸エステル基や酸無水物基やエポキシ基などの官能基を有するオレフィン系コポリマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂およびポリイミドなどが挙げられる。上記化合物はいずれも10重量%以下の添加が好ましい。
【0058】
また、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物は、上記ポリアリーレンスルフィド(共)重合体と共に、本発明の効果を損なわない範囲において、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物などの結晶核剤、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物などの酸化防止剤、離型剤、熱安定剤、滑剤、多官能エポキシ化合物などの強度向上剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤および発泡剤などの通常の添加剤を添加することができる。
【0059】
〔ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法〕
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、2種以上のポリマーや上記配合剤・添加剤を混合して製造される場合、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法としては溶融混練法が好ましく挙げられる。
【0060】
その製造方法としては、単軸、2軸の押出機、バンパリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に供給してポリアリーレンスルフィド(共)重合体の融解ピーク温度+5〜100℃の加工温度(230〜360℃)の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。具体的には、2軸押出機を使用して、混合時の樹脂温度がポリアリーレンスルフィド(共)重合体の融解ピーク温度+10〜20℃となるように混練する方法などを好ましく用いることができる。
【0061】
この際、原料の混合順序には特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも可能である。
【0062】
〔金属〕
本発明で使用する金属には特に制限はないが、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、マグネシウム、モリブデン、金、銀、亜鉛、スズおよびこれらを主成分とする合金が好もしく用いられ、中でもアルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、マグネシウム、モリブデン、およびこれらの合金が特に好ましく用いられる。
【0063】
本発明に用いる金属の形状や加工方法には特に制限はないが、通常、切断、切削、曲げ、絞り等の加工、即ち、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、研磨加工等の機械加工により、所望の形状、構造に加工する。これらの機械加工により、部品として必要な形状・構造を有する金属部品を得ることができる。金属インサート成形により、本発明の複合体を得る場合、この金属部品が射出成形でのインサート品となる。
【0064】
必要な形状、構造に加工された金属部分は、接着すべき面が厚い酸化膜、水酸化膜等が形成されていないことが好ましい。錆以外の汚れ、即ち、金属加工工程で付着した表面の油層、持ち運びで付着した指脂等は以下に述べる脱脂工程で除くことが好ましい。
【0065】
金属の表面には、加工油、指脂、切粉等が付着しており、また、サンドブラスト加工等による加工後でも微細な油滴や汚れが付いているため、脱脂、洗浄を行うことが好ましい。通常は、加工された合金部品を脱脂処理のための溶剤脱脂処理機に投入して処理する。又は油剤の付着が軽度の場合は、常法である市販されている脱脂剤を溶解した水溶液に、数分浸漬して水洗する脱脂処理を最初に行うことが好ましい。更に、表面を化学的に削り取って清浄な面を出すために、40℃程度で数%濃度の薄い苛性ソーダ水溶液槽を準備して、この苛性ソーダ水溶液槽に合金部品を浸漬することが好ましい。なお、この工程は化学的粗面化処理に含まない。
【0066】
又、別の槽に数%濃度の塩酸水溶液、硝酸水溶液、1水素2弗化アンモニウム水溶液等の酸性水溶液を、40℃程度として用意し、金属の種類によって使用する酸液が異なるが、これらの数種の溶液を用意しておけば異なる合金でも対応できる。苛性ソーダ水溶液に浸漬して水洗した合金形状物は、これら酸液に浸漬し、更に水洗して前処理工程を終える。
【0067】
〔物理的粗面化処理〕
本発明で規定する物理的な粗面化とは、金属表面に微小固体粒子ややすり状の治具を接触、衝突させたり、あるいは高エネルギー電磁線(紫外線、プラズマ、電子線など)を照射する、あるいはスパッタリングなどの物理的な手段により金属表面を粗化することを言う。
【0068】
産業的に利用可能な物理的粗化方法としては種々の方法があるが、工業生産性や加工コストなどの点も考慮すると、本発明においてはサンドブラスト処理やグラインダー処理が特に好適に用いられる。研磨剤としては、サンド、スチールグリッド、スチールショット、カットワイヤー、アルミナ、炭化ケイ素、金属スラグ、ガラスビーズ、プラスチックビーズ等、種々のものがあり、またその粒度も大小様々な種類があるが、これらは処理する目的や用途により使い分けられる。
【0069】
本発明において、インサート部品が電気回路の一部をなす、例えば電気端子のようなものである場合、インサート金属としては銅、銅合金、ステンレス鋼やアルミニウム等が好適に用いられる。その際、金属インサート部品の表面は、物理的表面粗化を阻害しない程度に、物理的に粗化する前又は/及び後に、メッキ等により一部又は全部が被覆処理されていてもかまわない。
【0070】
本発明では、物理的粗面化処理された金属表面の粗さRaは、1μm〜300μmであることが好ましく、の範囲が更に好ましい。
【0071】
かかる金属表面の粗さRaは、JIS B 0601で定められた中心線平均粗さである。
【0072】
〔化学的粗面化処理〕
本発明で規定する化学的面化処理とは、化学薬品等を使用して金属表面を化学的に粗化する方法である。下に金属表面を化学的に粗化する方法を例示する。
【0073】
・アルミニウム合金/水溶性のアミン系化合物の水溶液への浸漬処理
市販のアルミニウム用脱脂剤を使用して脱脂し水洗して機械加工油や油脂を除いた後、アルミニウム合金部品を、水溶性のアミン系化合物の水溶液へ浸漬処理する。この浸漬処理は、アンモニア、ヒドラジン、水溶性アミン化合物から選択される1以上の水溶液に浸漬して、アルミニウム合金部品の表面を超微細な凹凸を形成するためにエッチングをするものである。水溶性アミン化合物としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、アリルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アニリン等がある。
【0074】
これらの水溶液はPH9〜10の弱塩基性に調整するのが好ましく、適当時間浸漬したアルミ合金は表面が超微細な凹凸にエッチングされ、電子顕微鏡で観察すれば5〜100nm直径の凹凸部で覆われた状況になる。水溶性アミン、又はヒドラジンの水溶液を使用する場合は、濃度1%〜30%の水溶液として、常温〜70℃で0.5分〜十数分が使用できる。アンモニア水を使用する場合は、濃度20%程度で常温下では十数〜数十分の浸漬時間で使用できる。浸漬後は水洗して温風乾燥する。
【0075】
・アルミニウム合金/陽極酸化処理
市販のアルミニウム用脱脂剤を使用して脱脂し水洗して機械加工油や油脂を除いた後、アルカリエッチング、化学研磨等の前処理で表面を清浄にし、酸性水溶液中の電解により表面に無数の微細孔を有した酸化アルミニウム層を形成する方法である。標準的なアルカリエッチング法は、10〜20%濃度の苛性ソーダ水溶液を50〜90℃とし、これに十秒〜数十秒浸漬して合金表面を溶かす方法である。水洗し、続いて化学研磨するのが普通である。化学研磨は、硝酸、リン酸、硫酸等の酸の高濃度水溶液を80〜100℃とし、ここへ数秒〜十数秒浸漬する方法である。
【0076】
アルミニウム合金表面はこの両工程で数μm以上削られる。続いて陽極酸化であるが、よく知られているのは、アルミニウム合金を陽極として10〜20℃とした約10%濃度の硫酸水溶液中で通電してアルミニウムを酸化し、表面を丈夫で硬い酸化アルミニウム層で覆う方法である。通電性のない酸化アルミニウムで表面が覆われると、電気は通らなくなり酸化はそれで終了するはずだが、実際は通電し続けて酸化アルミニウム層の厚さは二十数μmにも達する。これは、十数〜数十nm径の無数の孔がこの酸化アルミニウム層の表面に開口しており、この孔を通じて通電し続けるからである。それは、この無数の孔があるアルミニウムやアルミニウム合金の陽極酸化物を染料に溶かした水溶液に浸漬すると、孔に染料が入り込んで染色されることからも伺える。
【0077】
これを更に処理して封孔し、染料が逃げ出さないようにしたのが染色アルマイトである。凹部や孔が開いた部分自体は金属ではないが、金属以上に丈夫で硬い金属酸化物であれば、原理から言って本発明は当然有効である。即ち、本発明では、染色や封孔は行わない。又、陽極酸化を終了し、水洗したものを乾燥する場合も、低温で行う。乾燥時の温度を上げ過ぎると、開口部の酸化アルミニウムが水と反応し水酸化物になって開口部を変形させ孔を封じるおそれがある。乾燥温度は60〜70℃が好ましい。
【0078】
・銅合金/トリアジンチオール類による表面処理
金属部品の表面処理に用いられるトリアジンチオール類は、下記式
【0079】
【化7】

【0080】
(式中、Rは、−SR−ORまたは−NHRを示し、Rは、水素原子、アルキル基、フェニル基またはアルケニル基を示す。MおよびMは、同一または異なって、水素原子、アルカリ金属、または1/2(アルカリ土類金属)を示す。)で表される。上記一般式(1)で表されるトリアジンチオール類において、基R1で表される基:−SR、基:−ORまたは基:−NHR中の基Rのうち、アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチルなどが挙げられる。また、アルケニル基としては、例えばビニル、1−プロペニル、2−ブテニル、2−ペンテニル、1,3−ブタンジエニルなどが挙げられる。
【0081】
基MおよびMで表されるアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。また、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウムなどが挙げられる。
【0082】
上記トリアジンチオール類の具体例としては、例えば、2−オクチルアミノ−4,6−ジチオール−1,3,5−トリアジン、2−アニリノ−4,6−ジチオール−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリチオール−1,3,5−トリアジン、2,4−ジメルカプト−6−ナトリウムメルカプチド−1,3,5−トリアジン、2−メルカプト−4,6−ビスカリウムメルカプチド−1,3,5−トリアジンなどが挙げられる。金属部品への表面処理は、上記トリアジンチオール類(1)の水溶液や有機溶媒の溶液に金属部品を浸漬したり、溶液を金属に塗布したりすることによって行われる。金属部品をトリアジンチオール類(1)の水溶液や有機溶媒の溶液に浸漬する場合において、前記水溶液または溶液の温度や浸漬時間は特に限定されるものではないが、通常、液温を10〜40℃に調整して、浸漬時間を1〜30分、好ましくは5〜10分に設定するのが好適である。
【0083】
前記有機溶媒も特に限定されるものではないが、例えばメタノール、エタノールなどのアルコール類;メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類などが挙げられる。
【0084】
トリアジンチオール類による表面処理を行う場合は、予め化学的および/または物理的処理により金属表面を粗面化しておくことが好ましい。かかる金属表面の粗面化処理は、例えば、酸化力の強い過マンガン酸水溶液のようなエッチング溶液によってマイクロエッチングを行う方法、酸化剤によって表面に酸化被膜を形成させるいわゆる黒化処理などが好適である。特に、金属部品として銅を用いる場合には、黒化処理によって生じるピンクリングの問題を避けるべく、キレート作用と空気酸化とを併せてエッチングを行う、いわゆるMECeth Bond法(牧善朗ほか、電子材料、26〜30頁、1995年10月号参照)を採用するのが好ましい。
【0085】
本発明において、化学的粗面化処理された金属表面が、数平均内径10〜80nmの凹部で覆われていることが好ましい。
【0086】
かかる数平均内径とは、乾燥後の金属表面をフィールドエミッション走査型電子顕微鏡「JSM−6701F(日本電子株式会社製)」で、20万倍の倍率で観察し、その中に、1辺が200nmの正方形を、金属表面の電子顕微鏡写真上で区画し、その中に観察される凹部状物の直径を全てその写真上で測定し、その総計を測定した凹部の数で除したものである。
【0087】
最も現象が明快なアルミニウム合金のA5052(JIS規格)の例で述べると、水溶性アミン水溶液をPH10程度の弱塩基性に調整し、温度を50℃前後にして浸漬した場合、直ちに20〜40nm内径の凹部が発生し、1分程度でその凹部の深さが内径と同等レベルになる。そして、更に浸漬を続けると凹部の深さが腐食され深くなる、この腐食により凹部を形成する外周である縁部分も腐食されてしまい、平均して凹部の内径が更に大きくなる。
【0088】
〔複合成形体を製造する際の、ポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物からなる成形体と金属の接合方法〕
本発明の複合成形体は、上記方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物からなる成形体と金属を接合して製造される。接合方法としては、上記方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物に、ブロー成形、押出成形、射出成形などの成形方法を適用して、繊維状などの1次元成形体、フィルム・シートなどの2次元成形体あるいは3次元成形体を予め得ておき、かかる成形体を金属とを、(1)振動エネルギー等の摩擦エネルギーにより樹脂を溶融させて接合する振動溶着法、超音波溶着法、スピン溶着法、(2)レーザー光線の吸収エネルギーおよびその輻射エネルギーを用いるレーザー溶着法、(3)樹脂または樹脂組成物の融点以上の温度の金属板に樹脂成形体を近づける、あるいは接触させて熱圧着する方法などをまず例示する事ができる。また(4)金属を金型内に予め設置しておき、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物を、射出成形、押出成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形にて溶融させ、同時に金属と接触させる方法を例示することができる。
【0089】
本発明においては、金属を金型内に予め設置しておき、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂または樹脂組成物を、射出成形により金属に直接接合する方法が特に好適な方法として挙げられる。具体的には、射出成形金型を用意し、可動金型を開いてその一方に本発明の金属をインサートし、可動金型を閉め、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物を射出し、可動金型を開き離型する方法である。
【実施例】
【0090】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0091】
(PPS−1の調整)
撹拌機付きの1リットルオートクレーブに、47%水硫化ナトリウム118g(1.00モル)、96%水酸化ナトリウム42.4g(1.02モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)163g(1.65モル)、酢酸ナトリウム32.0g(0.39モル)、及びイオン交換水150gを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水210gおよびNMP4gを留出したのち、反応容器を150℃に冷却した。硫化水素の飛散量は1.8モル%であった。次に、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)130.8g(0.89モル)、m−ジクロロベンゼン(m−DCB)16.2g(0.11モル)、NMP131g(1.31モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、227℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、その後270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し270℃で170分保持した。その間、270℃に到達後30分経過した時点から水14.4g(0.8モル)を10分かけて添加した。その後180℃まで0.4℃/分の速度で冷却し、次に室温近傍まで急冷した。内容物を取り出し、0.5リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を1リットルの温水で数回洗浄、濾別し、PPSポリマー粒子を得た。これを、80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。
【0092】
(PPS−2の調整)
p−ジクロロベンゼン(p−DCB)の添加量を117.6g(0.75モル)、m−ジクロロベンゼン(m−DCB)の添加量を29.4g(0.25モル)とした以外はPPS−1と同様に重合、洗浄、回収を行った。
【0093】
(PPS−3の調整)
p−フェニレンスルフィド単位を主成分とするPPS樹脂は、主成分モノマとして1.0モルのp−ジクロベンゼンを用い、副成分モノマを用いないこと以外はPPS−1の共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造と同様に実施して、PPS樹脂を製造した。
【0094】
(PPS−1+3の調整)
PPS−1とPPS−3を1:1の割合でドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機で、シリンダー温度をPPS(共)重合体の融解ピーク温度+20℃(230〜300℃)に設定し、200rpmのスクリュー回転にて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。
【0095】
(金属の脱脂処理)
所定の金属板を18mm×45mmの長方形片多数に切断し、金属インサート部品を得た。脱脂材「NE−6(メルテックス株式会社製)」15%を含む槽を用意し液温を75℃とした。この脱脂材水溶液に5分浸漬し、水洗した。続いて別の槽に1%濃度の塩酸水溶液を用意し液温を40℃とした。ここへ先ほどの金属板を1分間浸漬し水洗した。続いて別の槽に1%苛性ソーダ水溶液を用意し、液温を40℃とした。ここへ先ほどの金属板を1分間浸漬し水洗した。続いて別の槽に1%塩酸水溶液を用意し、液温を40℃とした。ここへ先ほどの金属板を1分間浸漬し水洗した。
【0096】
(金属の物理的表面処理)
続いて、脱脂処理を行った金属板を、ショットブラストを用いて、ブラスト処理を行った。この処理により、下記の表面の粗さ(中心線平均粗さ、JIS B0601)の金属板を得た。
・金属−1:アルミ、Ra=600μm
・金属−2:銅、Ra=100μm
・金属−3:SUS、Ra=100μm
・金属−8:アルミ、Ra=0.1μm
・金属−9:アルミ、Ra=600μm。
【0097】
(金属の化学的表面処理)
(アルミ/アミン系化合物水溶液による処理)
1%苛性ソーダ水溶液を用意し、液温を40℃とした。脱脂処理を行ったアルミニウム合金片を1分間浸漬し水洗した。続いて別の槽に1%塩酸水溶液を用意し、液温を40℃とした。ここへ先ほどの合金片を1分間浸漬し推薦した。続いて3.5%量の一水和ヒドラジン水溶液を60℃とした中に先ほどの合金片を1分間浸漬し、水洗し60℃×20分間温風乾燥機で乾燥した。アルミニウム合金片を銅線から外し、アルミ箔で包み、これをポリエチ袋に入れて封じた。翌日、フィールドエミッション走査型電子顕微鏡「JSM−6701F(日本電子株式会社製)」で、20万倍の倍率で観察し、下記の数平均内径の凹部で表面全面が覆われている金属板を得た。
・金属−4 :アルミ、凹部数平均内径 50nm
・金属−7 :SUS、凹部数平均内径 50nm
・金属−10:アルミ、凹部数平均内径 5nm
・金属−11:アルミ、凹部数平均内径 500nm。
【0098】
(アルミ/陽極酸化)
アルミニウム合金板の端部に穴を開け、十数個に対し塩化ビニルでコートした銅線を通し、アルミニウム合金板同士が互いに重ならないように銅線を曲げて加工し、全てを同時にぶら下げられるようにした。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス株式会社製」7.5%を水に投入した後で75℃として加熱溶解し、前記のアルミニウム合金板を5分浸漬し、よく水洗した。
【0099】
続いて別の槽に50℃とした10%苛性ソーダ水溶液を用意し、これに前記のアルミニウム合金板を0.5分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に90℃とした60%硝酸液を用意し、15秒浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に20℃とした5%硫酸水溶液を用意し、前記のアルミニウム合金の穴部に直流電源装置「ASR3SD−150−500(中央製作所製)」の陽極を結線し、陰極は槽に入れた鉛板に結線して5A/dmの電流密度になる定電流制御で陽極酸化した。40分陽極酸化して水洗し、60℃とした温風乾燥機に1時間入れて乾燥した。1日後、うち1個を電子顕微鏡によって観察し、数平均内径50nmの微細孔口が表面を覆っている金属−5を得た。
【0100】
(銅/トリアジンチオール類による表面処理)
銅板を、トリアジンチオール類(三協化成(株)製の商品名「ジスネットF」)の1%メタノール溶液に5分間浸漬させて、前記金属端子に表面処理を施した後、水洗し、常温で乾燥させ、金属−6を得た。
【0101】
(射出溶着)
表1、2に示す金属板を射出成形金型にインサートした。射出成形金型の構造図を図1に示したが、図内で1は金属板、2は可動側型板、3は固定側型板、4は樹脂が射出されるキャビティー部、5はピンポイントゲート、6は接合面を示した。射出接合が為されると図2で示す一体化物が得られる。図2で1は金属板(1.6mm×45.0mm×18.0mm)、4は樹脂部(3mm×50mm×10mm)、5はピンポイントゲート、6は接合面(5mm×10mm)である。接合面の面積は0.5cmであった。金型を閉め、表1、2に示す樹脂または樹脂組成物を射出し、図2で示す複合構造体が得られるか評価した。射出成形時、射出温度は270℃〜290℃、金型温度は120℃であった。また、得られた複合構造体については引っ張り試験を行った。引張り速度2mm/min条件下で引張り試験を3回行い、3回の平均のせん断破断力をせん断応力とした。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明を利用すれば、ポリフェニレンサルファイド樹脂または樹脂組成物からなる成形体と金属形状物とを射出接合などにより強固に接合でき、得られる複合構造体は容易に剥がれることがない。従って、形状、構造上も機械的強度の上でも自由度の多い各種機器の筐体や部品、構造物等を作ることができる。本発明によって製造した筐体、部品、構造物は、軽量化や機器製造工程の簡素化に役立つものである。
【符号の説明】
【0105】
1 アルミニウム合金部品
2 可動側型板
3 固定側型板
4 ポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物からなる部品
5 ピンポイントゲート
6 接合面
7 複合構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属とポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物からなる成形体の複合構造体であって、前記金属の表面が物理的および/または化学的に粗面化されており、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物に含まれるポリアリーレンスルフィド樹脂が、少なくともパラアリーレンスルフィド繰り返し単位および全繰り返し単位に対し2〜20mol%のメタアリーレンスルフィド繰り返し単位を含む共重合体を含むことを特徴とする複合構造体。
【請求項2】
物理的に粗面化された金属表面の粗さRaが、1μm〜300μmであることを特徴とする請求項1記載の複合構造体。
【請求項3】
化学的に粗面化された金属表面が、数平均内径10〜80nmの凹部で覆われていることを特徴とする請求項1記載の複合構造体。
【請求項4】
化学的粗面化処理が化学エッチング処理または陽極酸化処理であることを特徴とする請求項1または3に記載の複合構造体。
【請求項5】
金属がアルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、マグネシウム、モリブデン、およびこれらの合金から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項6】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂または樹脂組成物に含まれるポリアリーレンスルフィド樹脂が、メタアリーレンスルフィド繰り返し単位を含まないポリアリーレンスルフィド(共)重合体および、メタアリーレンスルフィド繰り返し単位を含むポリアリーレンスルフィド共重合体との混合物であり、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の全繰り返し単位に対するメタアリーレンスルフィド繰り返し単位が2〜20mol%であるポリアリーレンスルフィド樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項7】
射出溶着によって接合されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項8】
成形体がフィルムまたはシート状であって、金属と溶融接合されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合構造体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−173353(P2011−173353A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39825(P2010−39825)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】