説明

複合樹脂レンズ

【課題】高屈折率樹脂であるエピスルフィド系樹脂やチオウレタン樹脂からなるベースレンズ上に低屈折率樹脂からなる層を形成した複合樹脂レンズであって、これらの高屈折率樹脂と低屈折率樹脂の樹脂同士の密着性の良いレンズを提供する。
【解決手段】ベースレンズより屈折率の低い樹脂層が、環状エーテル基を含有する化合物(A)と、熱カチオン重合開始剤(B)と、遊離ラジカル捕捉剤(C)と、紫外線吸収剤(D)とを含有する樹脂組成物をベースレンズの表面上で硬化させたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率樹脂と低屈折率樹脂とを密着させた複合樹脂レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
2種類以上の樹脂素材を組み合わせてなる複合樹脂レンズは、単体の樹脂素材からなる樹脂レンズと比較して様々な特性を付加することができる。特許文献1では、易染色性樹脂と難染色性樹脂、耐衝撃性の高い樹脂と低い樹脂、屈折率の高い樹脂と低い樹脂等を組み合わせることにより、樹脂素材の性質を互いに補完し合うことができるとしている。
【0003】
眼鏡分野における複合樹脂レンズの典型的な採用例として、異なる屈折率の樹脂を組み合わせることにより小玉部の突出面を無くした2焦点レンズが挙げられる。特許文献2では、接着剤に頼らない2焦点レンズが開示されており、製造工程を簡略化できる上に、密着強度に優れた、段差の無い2焦点レンズを提供できるとしている。
【0004】
しかし上記した複合樹脂レンズによる2焦点レンズは、小玉部の突出面はないものの、突出面を別の樹脂で被せた部分が逆度数となって働くため、レンズ全体としては厚くなってしまうという問題点がある。特許文献3では、レンズ両面に突出する小玉部を設けることによりレンズ全体の厚みを抑制した2焦点レンズが開示されている。しかしながら、両面に突出する小玉を設ける場合、それを成形するためのモールド数を増加させ、モールドの組み立てにおいても小玉部の位置合わせを行わなければならない。また、両面に別の樹脂を被せるため工程が複雑化してしまうという問題点もある。
【0005】
複合樹脂レンズにおいて組み合わせる2種類の樹脂の屈折率差を大きくすることは、突出面の無い2焦点レンズの厚さを軽減するのに効果的である。特許文献4では、高屈折率層の樹脂として屈折率1.74のエピスルフィド系樹脂(三井化学(株)製、商品名:MR−174)を使用した2焦点レンズが開示されている。高屈折率のエピスルフィド系樹脂に対し、低屈折率層の樹脂として、屈折率1.60のウレタン系樹脂(三井化学(株)製、商品名:MR−6)と屈折率1.49のジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(PPG社製、商品名:CR−39)を用いることが開示されている。低屈折率層に屈折率1.50程度の樹脂を用いると、小玉の加入度数が3.5以上の場合でもレンズ厚さが実用的な範囲になる。しかし、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂は、エピスルフィド系樹脂や高屈折率のウレタン系樹脂との密着性に問題があり、モールドからの離型やコバ擦りの際に高屈折率層と低屈折率層との間での層間剥離がしばしば起こる。
【0006】
エピスルフィド樹脂やウレタン系樹脂に密着する樹脂としては、ウレタン系樹脂やエポキシ系樹脂などがあるが、これらの樹脂の屈折率は1.50以上である。そこで、エピスルフィド樹脂との密着性が高い環状エーテル基を含有する化合物の中でも、エーテル環以外の脂肪族炭化水素系環状構造や芳香環を含まない化合物は、比較的屈折率が低く、透明な樹脂を成形することができることからレンズ材料として期待される。
【0007】
一般に、樹脂を低屈折率化する手段としては、フッ素樹脂を添加する方法や微小な空泡を分散させる方法がある。
【0008】
フッ素樹脂を添加する場合、フッ素樹脂とプラスチック樹脂との相分離による材料の透明性の低下やフッ素樹脂の高い表面エネルギーにより、基板樹脂との密着性に課題が残る。
【0009】
また、材料内に微小な空泡を分散させる方法としては、ナノバブルを分散させる方法(特許文献5、特許文献6)や60nm程度の中空の無機フィラー粒子を添加する方法(特許文献7、特許文献8)があるが、いずれも、材料としての強度や樹脂の透明性およびその成形方法に課題が残る。
【0010】
樹脂中に微少な空泡を分散させ、かつ、樹脂の強度や透明性を保持させる方法として、粒子径が数nmで分子自体にオングストロームオーダーの空孔を有するかご状シルセスキオキサンを材料中に分散させる方法がある。これまで、かご状シルセスキオキサンを添加した活性エネルギー線硬化性樹脂に紫外線を照射することで、反射防止膜用の低屈折率薄膜を調製することが開示されている(特許文献9、特許文献10)。また、汎用ポリマーにかご状シルセスキオキサンを添加することにより、ポリマーの物性を改良(低誘電率化)することが開示されているが、融解したポリマー中にかご状シルセスキオキサンを分散して調製しているため、樹脂中へのかご状シルセスキオキサンの分散の均一性に課題がある(特許文献11)。また、環状エーテル基の1種であるオキセタニル基を有するかご型シルセスキオキサンを用いることにより、樹脂成形時に発生する内部応力による亀裂発生が抑制され、厚さ数mmの成形体を作成することが開示されている(特許文献12)。しかし、高屈折率樹脂であるエピスルフィド系樹脂やチオウレタン樹脂に対し、屈折率1.50未満といった低屈折率樹脂の層を数mmレベルで密着形成することは開示されていない。
【0011】
以上のように、上記のような高屈折率樹脂に低屈折率樹脂を密着させてなる重合樹脂レンズであって、両樹脂の密着性が高く、透明性にも優れ、小玉の加入度が3.5の場合においても厚さ2mm以下に形成できる突出面の無い2焦点レンズは未だ得られていない。
【特許文献1】再公表WO2003/008171号公報
【特許文献2】特開昭62−226102号公報
【特許文献3】特開2003−344814号公報
【特許文献4】再公表WO2004/109369号公報
【特許文献5】特開1994−3501号公報
【特許文献6】特開2005−99778号公報
【特許文献7】特開2003−149642号公報
【特許文献8】特開2001−233611号公報
【特許文献9】特開2000−334881号公報
【特許文献10】特開2006−063147号公報
【特許文献11】特表2003−533553号公報
【特許文献12】特開2006−131850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、高屈折率樹脂であるエピスルフィド系樹脂やウレタン樹脂に対し低屈折率樹脂を密着させた複合樹脂レンズであって、これらの高屈折率樹脂と低屈折率樹脂の樹脂同士の密着性の良いレンズを提供することを目的とする。
【0013】
好ましくは、小玉部の突出面の無い複合樹脂レンズによる2焦点レンズ等の多焦点レンズにおいて、小玉の加入度数が大きくても実用的な厚さの範囲に抑制することが可能な多焦点レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ベース層に高屈折率重合樹脂層を設け、表面層に異種の環状エーテル化合物を含有する樹脂をカチオン重合させて得られる低屈折率重合樹脂層を設けて複合樹脂レンズを得る際に、特定の環状エーテル基を有する化合物を含む樹脂組成物を使用することにより、接合部分の剥がれがなく、中心厚が薄く且つ軽量なレンズを得ることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0015】
すなわち、本発明の複合樹脂レンズは、エピスルフィド樹脂又はチオウレタン樹脂からなるベースレンズ上に、このベースレンズより屈折率の低い樹脂層が形成された複合樹脂レンズであって、上記課題を解決するために、上記ベースレンズより屈折率の低い樹脂層が、環状エーテル基を含有する化合物(A)と、熱カチオン重合開始剤(B)と、遊離ラジカル捕捉剤(C)と、紫外線吸収剤(D)とを含有する樹脂組成物を前記ベースレンズの表面上で硬化させたものである。
【0016】
上記において、上記環状エーテル基を含有する化合物(A)が、オキセタニル基を含有する化合物であることが好ましい。
【0017】
上記樹脂組成物はカチオン重合反応基を有するシルセスキオキサン化合物(E)をさらに含有するものとすることが好ましい。
【0018】
シルセスキオキサン化合物(E)は、次式(1)又は(2)に示す化合物であることが好ましい。
【化1】

【0019】
但し、式(1)及び(2)において、R及びRは、それぞれ環状エーテル基を有する基であり、R,R及びRは、それぞれ同一かまたは相違する有機基である。a及びbは、a+bが6,8,10,又は12のいずれかとなる整数である。
【0020】
シルセスキオキサン化合物(E)は、あるいは、次式(3)又は(4)に示す化合物であることが好ましい。
【化2】

【0021】
但し、式(3)及び(4)において、R及びRは、それぞれ不飽和結合を有する基であり、R,R及びR10は、それぞれ同一かまたは相違する有機基である。c及びdは、c+dが6,8,10,又は12のいずれかとなる整数である。
【0022】
本発明の複合樹脂レンズは多焦点レンズとすることができる。
【0023】
複合樹脂レンズの製造方法は、エピスルフィド樹脂又はチオウレタン樹脂からなるベースレンズとモールドとの間に樹脂組成物を供給して硬化させた後、モールドを剥離してレンズを製造する複合樹脂レンズの製造方法において、樹脂組成物として、環状エーテル基を含有する化合物(A)と、熱カチオン重合開始剤(B)と、遊離ラジカル捕捉剤(C)と、紫外線吸収剤(D)とを含有するものを用いるものとする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の複合樹脂レンズは、高屈折率樹脂と低屈折率樹脂との密着性が高く、これらの樹脂の層間で剥がれのない複合樹脂レンズとすることができる。
【0025】
特に多焦点レンズにおいては、小玉部の突出面がなく、小玉の加入度数が大きくても実用的なレンズ厚さを有するものとすることができる。具体的には、例えば2焦点レンズの小玉の加入度数が3.5の場合において、レンズ中心厚が2mmという薄さを実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明で用いる樹脂組成物について詳細に説明する。
【0027】
本発明で用いる樹脂組成物は、環状エーテル基を含有する化合物(A)、熱カチオン重合開始剤(B)、遊離ラジカル捕捉剤(C)と紫外線吸収剤(D)とを必須成分とし、好ましくはシルセスキオキサン化合物(E)を含有するものである。これから得られる樹脂は屈折率が1.50未満であることが好ましい。
【0028】
上記環状エーテル基を含有する化合物(A)は、分子中に少なくとも一個以上の環状エーテル基を有する化合物であれば特に制限なく使用できる。これらの中でも環状エーテル基を2個有する化合物が好ましい。環状エーテル基が1個では、硬化が不十分な場合があり、環状エーテル基が3個では、架橋密度が増加し、屈折率が高くなり、シルセスキオキサン化合物などの添加剤の添加による樹脂の屈折率の低下効果が顕著に現れにくい場合がある。
【0029】
環状エーテル基を含有する化合物(A)の具体例としては、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン(東亞合成(株)製、アロンオキセタンOXT−212)、3−エチル−3−(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ヘプチルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(オクチルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ドデシルオキシメチル)オキセタン等の、3−エチル−3−(アルコキシメチル)オキセタンが挙げられる。これらの化合物(A)は1種単独で使用してもよく、複数種の混合物を使用することもできる。
【0030】
これらの化合物は公知の方法によって製造することもでき、東亞合成(株)製アロンオキセタンシリーズ、坂本薬品工業(株)製SRシリーズ、ダイセル化学工業(株)製セロキサイドシリーズのような市販品を用いることもできる。
【0031】
次に、本発明で用いる熱カチオン重合開始剤(以下、単に重合開始剤ともいう)(B)は、ルイス酸(SbF、SbF、AsF、PFなど)のようなカウンターアニオンを有する窒素、硫黄、リンまたはヨウ素の芳香族系第4オニウム塩である。例としては、四級アンモニウム塩型化合物、スルフォニウム塩型化合物、ホスホニウム塩型化合物、ヨードニウム塩型化合物が挙げられ、これらより選択された1種もしくは複数種を用いることができる。
【0032】
これら重合開始剤(B)としては、旭電化工業(株)製アデカオプトンや三新化学工業(株)製サンエイドなどの市販品を用いることができる。
【0033】
重合開始剤(B)の添加量は、樹脂組成物中(但し、固形分換算。以下同様。)で0.1重量%から5重量%の範囲内が好ましい。添加量がこれより多いと、反応速度が速くなりすぎ、発生する反応熱により硬化物が燃焼するおそれがある。
【0034】
遊離ラジカル捕捉剤(C)及び紫外線吸収剤(D)の例としては、ヒンダードアミン化合物、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾトリアジン化合物、ヒンダードフェノール化合物、リン含有化合物が挙げられる。
【0035】
市販されているものでは、遊離ラジカル捕捉剤(C)の例としては、チバ・ジャパン(株)ヒンダードアミン系遊離ラジカル捕捉剤IRGANOX(登録商標)シリーズ、IRGAFOSシリーズ(登録商標)、Flamestabシリーズ(登録商標)が挙げられる。
【0036】
また、紫外線吸収剤(D)の例としては、チバ・ジャパン(株)ベンゾトリアゾール系TINUVINシリーズが挙げられる。
【0037】
さらに、例えばアデカ(株)製、アデカスタブLAシリーズは、遊離ラジカル捕捉剤(C)及び紫外線吸収剤(D)の兼用として使用することができる。
【0038】
遊離ラジカル捕捉剤(C)及び紫外線吸収剤(D)は、それぞれを1種単独で使用してもよく、数種類の組み合わせで使用することもできる。
【0039】
これら遊離ラジカル捕捉剤(C)及び紫外線吸収剤(D)の添加量は、それぞれ0.1重量%から10重量%であり、好ましくは、1重量%から3重量%である。3重量%を越えて添加した場合、硬化度は低下するが、透明性が低下し、耐候性の改善効果は変わらない。
【0040】
次に、シルセスキオキサン化合物(E)は、一般式(RSi−O3/2)nで示される3官能性ポリシロキサンであり、はしご状、かご状、又は三次元網目状の構造を有し、本発明ではかご状のものが好ましい。具体的には、次式(1)又は(2)に示す化合物を好適に用いることができる。
【化3】

【0041】
但し、式(1)及び(2)において、R及びRは、それぞれ環状エーテル基を有する基であり、R,R及びRは、それぞれ同一かまたは相違する有機基である。a及びbは、a+bが6,8,10,又は12のいずれかとなる整数である。R及びRは、オキセタニル基,オキシラニル基,スピロオルトエーテル基、エポキシ基のいずれかであることが好ましく、中でもオキセタニル基,エポキシ基が好ましい。R,R及びRは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、n−ヘキセニル基、シクロヘキシル基のいずれかであることが好ましく、より好ましくはR及びRはメチル基であり、Rはシクロペンチル基又はシクロヘキシル基である。a及びbは、好ましくはa+bが8となる整数である。
【0042】
また、シルセスキオキサン化合物(E)としては、次式(3)又は(4)に示す化合物も好適に用いることができる。
【化4】

【0043】
但し、式(3)及び(4)において、R及びRは、それぞれ不飽和結合を有する基であり、R,R及びR10は、それぞれ同一かまたは相違する有機基である。c及びdは、c+dが6,8,10,又は12のいずれかとなる整数である。R及びRは、重合可能な炭素−炭素不飽和結合基を含む、ビニル基、アリル基、アクリロキシ基、メタアクリロキシ基、スチニル基、シクロヘキセニルエチル基などであることが好ましく、中でもメタアクリロキシ基が好ましい。R,R及びR10は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、n−ヘキセニル基、シクロヘキシル基が好ましく、より好ましくはR及びRはメチル基であり、R10はシクロペンチル基又はシクロヘキシル基である。a及びbは、好ましくはa+bが8となる整数である。
【0044】
シルセスキオキサン化合物(E)は、公知の方法により製造することもできるが、市販品では、豊田通商(株)製、東亞合成(株)製やAldrich製の、環状エーテル基又は不飽和結合基を有するかご状シルセスキオキサンが入手可能である。
【0045】
シルセスキオキサン化合物(E)を使用する場合の含有量は、0.1重量%以上50重量%以下が好ましく、より好ましくは1.0重量%以上30重量%以下である。0.1重量%より少ない場合は低屈折率化に対する効果が小さくなる。50重量%より多い場合は機械的強度低下につながり好ましくはない。
【0046】
本発明で用いるベースレンズとしては、従来から公知のエピスルフィド樹脂又はチオウレタン樹脂からなるものを適宜用いることができ、屈折率は1.60以上が好ましく、1.70以上がより好ましい。具体例としては、屈折率1.74のエピスルフィド樹脂(三井化学(株)製、商品名:MR−174、三菱ガス化学(株)製、商品名:MGC−174)や、屈折率1.60以上のチオウレタン樹脂(三井化学(株)製、商品名:MR−6、MR−7、MR−8)が挙げられる。
【0047】
また、本発明の複合樹脂レンズの製造方法は、エピスルフィド樹脂又はチオウレタン樹脂からなるベースレンズとモールドとの間に、上記樹脂組成物を供給して硬化させた後、モールドを剥離してレンズを製造する製造方法である。硬化は樹脂組成物に含まれるモノマーの重合反応により行われ、反応時の温度、時間等の諸条件は、樹脂組成物に含まれる各成分の種類等に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づいて本発明を複合2焦点樹脂レンズの設計・製作に関して具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
〔1〕ベースレンズの製作
図1に示す、凹面の曲率半径が184.3mmで、凹面の中心位置から13mm以上離れた場所に直径が25mmで曲率半径が52.5mmの窪みを持つ直径81mmのガラス製モールド1(以下、ベースレンズ用モールド1と称す)と、凸面の曲率半径が110mmの直径81mmのガラス製モールド2(以下、B面モールド2と称す)を用意し、図2に示すように、ベースレンズ用モールド1の凹面の中心と、B面モールド2の凸面の中心との間隔を3mmに調整して、これらのモールド1,2の周囲を接着テープで密封したシェルを作製した。
【0050】
エピスルフィド樹脂モノマー(三井化学(株)製、商品名;MR−174、屈折率1.74)100gに、触媒としてN,N−ジメチルシクロヘキシルアミン0.03gとN,N−ジシクロヘキシルメチルアミン0.09gを混合し、上記シェルのキャビティ内に充填し、110℃で2時間加熱重合して樹脂レンズを得た。以下、これをベースレンズ3と称す。
【0051】
〔2〕トップレンズの製作
直径78mmで凹面の曲率半径が184.3mmのガラス製モールド4(以下、A面モールド4と記載する)を用意した。上記ベースレンズ3を直径が78mmになるように周辺部を削り落とし、図3に示すように、A面モールド4の凹面の中心と、ベースレンズ3の凸面の中心との間隙を1.7mmに調整して、これらのモールド4とレンズ3の周囲を接着テープ7で密封したシェルを作成した。以下、これをHBシェルと称す。
【0052】
環状エーテル基を有する化合物(A)[東亞合成(株)製、オキセタンモノマー(ビス[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル)]と遊離ラジカル捕捉剤(C)[チバ・ジャパン(株)製、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル]3.0g(但し、(A)中のモノマー100gに対する配合量。以下同様。)と紫外線吸収剤(D)[チバ・ジャパン(株)製、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール]2.0gを含有する溶液に、熱カチオン重合開始剤(B)(三新化学(株)製、San-Aid SI-80L)1.6g、離型剤(三井化学(株)製、Zelec UN)0.1gの割合で混合し、1kPa以下の雰囲気下で15分間攪拌しながら脱泡した後、図4に示すように、上記HBシェルのキャビティ内に充填し、90℃で2時間加熱重合して複合2焦点樹脂レンズを得た。
【0053】
〔3〕複合樹脂レンズの切削研磨
図5に示すように、この複合樹脂レンズの凹面部を、樹脂レンズの最小厚さが2mmとなるように所定の曲率で切削研磨して、加入度数3.5の複合2焦点樹脂レンズを得た。
【0054】
[実施例2]
〔1〕ベースレンズの作製
凹面の曲率半径が184.3mmで、凹面の中心位置から13mm以上離れた場所に直径が25mmで曲率半径が40.1mmの窪みを持つ直径81mmのベースレンズ用モールド(図1)と、凸面の曲率半径が110mmの直径81mmのB面モールドを用意し、ベースレンズ用モールドの凹面の中心と、B面モールドの凸面の中心の間隔が3mmになるようにモールドの周囲を接着テープで密封したシェルを作製した(図2)。チオウレタン樹脂モノマー(三井化学(株)製、商品名;MR−7、屈折率1.67)100gに、触媒としてジブチルチンジクロリド0.01gを添加、混合し、上記シェルのキャビティ内に充填し、120℃で3時間加熱重合してベースレンズを得た。
【0055】
〔2〕トップレンズの作製
A面モールドとベースレンズ間の間隙を2.2mmとした以外は、実施例1と同様にトップレンズを作製した。
【0056】
〔3〕複合樹脂レンズの切削研磨
最小厚さが2.5mmとなるようにした以外は実施例1と同様に切削研磨して、加入度数3.5の複合2焦点樹脂レンズを得た。
【0057】
[実施例3]
〔1〕ベースレンズの製作
凹面の曲率半径が184.3mmで、凹面の中心位置から13mm以上離れた場所に直径が25mmで曲率半径が52.5mmの窪みを持つ直径81mmのガラス製モールド(以下、ベースレンズ用モールドと称す)(図1)と、凸面の曲率半径が110mmの直径81mmのガラス製モールド(以下、B面モールドと称す)を用意し、ベースレンズ用モールドの凹面の中心と、B面モールドの凸面の中心の間隔が3mmになるようにモールドの周囲を接着テープで密封したシェルを作製した(図2)。エピスルフィド樹脂モノマー(三井化学(株)製、商品名;MR−174、屈折率1.74)100gに、触媒としてN,N−ジメチルシクロへキシルアミン0.03gとN,N−ジシクロへキシルメチルアミン0.09gを添加、混合し、上記シェルのキャビティ内に充填し、110℃で2時間加熱重合して樹脂レンズを得た。以下、これをベースレンズと称す。
【0058】
〔2〕トップレンズの製作
直径78mmで凹面の曲率半径が184.3mmのガラス製モールド(以下、A面モールドと記載する)を用意し、上記ベースレンズを直径が78mmになるように周辺部を削り落とし、A面モールドの凹面の中心と、ベースレンズの凸面の中心との間隙が1.7mmになるようにモールドとレンズの周囲を接着テープで密封したシェルを作成した。以下、これをHBシェルと称す(図3)。
【0059】
環状エーテル基を有する化合物(A)として[東亞合成(株)製オキセタンモノマー、(ビス[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル)]を用い、シルセスキオキサン化合物(E)として[豊田通商(株)製、オクタ[(3−プロピルグリシジルエーテル)ジメチルシロキシ]PSS]を20g含有している以外は実施例1で用いたのと同じ組成を有する溶液、硬化剤(三新化学(株)製、San-Aid SI-80L)1.6g、リン酸塩系離型剤(三井化学(株)製、Zelec UN)0.1gを混合し、1kPa以下の雰囲気下で15分間攪拌しながら脱泡した後、上記HBシェルのキャビティ内に充填し、90℃で2時間加熱重合して、複合2焦点樹脂レンズを得た(図4)。
【0060】
〔3〕複合樹脂レンズの切削研磨
この複合樹脂レンズの凹面部を、樹脂レンズの最小厚さが2mmとなるように所定の曲率で切削研磨して、加入度数3.5の複合2焦点樹脂レンズを得た(図5)。
【0061】
[比較例1]
〔1〕ベースレンズの作製
凹面の曲率半径が184.3mmで、凹面の中心位置から13mm以上離れた場所に直径が25mmで曲率半径が51.0mmの窪みを持つ直径81mmのベースレンズ用モールド(図1)と、凸面の曲率半径が110mmの直径81mmのB面モールドを用意し、ベースレンズ用モールドの凹面の中心と、B面モールドの凸面の中心の間隔が3mmになるようにモールドの周囲を接着テープで密封したシェルを作製した(図2)。エピスルフィド樹脂モノマー(三井化学(株)製、商品名;MR−174、屈折率1.74)100gに、触媒としてN,N−ジメチルシクロヘキシルアミン0.03gとN,N−ジシクロヘキシルメチルアミン0.09gを添加、混合し、上記シェルのキャビティ内に充填し、120℃で3時間加熱重合してベースレンズを得た。
【0062】
〔2〕トップレンズの作製
直径78mmで凹面の曲率半径が184.3mmのA面モールドを用意し、上記ベースレンズを直径が78mmになるように周辺部を削り落とし、A面モールドの凹面の中心と、ベースレンズの凸面の中心との間隙が1.8mmになるようにモールドとレンズの周囲を接着テープで密封したHBシェルを作製した(図3)。
【0063】
アリルジグリコールカーボネート(以下、CR−39と称する)モノマーを上記HBシェルのキャビティ内に充填し、120℃で2時間加熱重合して樹脂レンズを得た(図4)。
【0064】
この複合レンズは、重合により硬化したCR−39層とMエピスルフィド樹脂層とがすぐに剥れてしまい、切削研磨ができず実用には適さない密着強度であった。
【0065】
[比較例2]
〔1〕ベースレンズの作製
凹面の曲率半径が184.3mmで、凹面の中心位置から13mm以上離れた場所に直径が25mmで曲率半径が38.4mmの窪みを持つ直径81mmのベースレンズ用モールド(図1)と、凸面の曲率半径が110mmの直径81mmのB面モールドを用意し、ベースレンズ用モールドの凹面の中心と、B面モールドの凸面の中心の間隔が3mmになるようにモールドの周囲を接着テープで密封したシェルを作製した(図2)。チオウレタン樹脂モノマー(三井化学(株)製、商品名;MR−7、屈折率1.67)100gに、触媒としてジブチルチンジクロリド0.01gを添加、混合し、上記シェルのキャビティ内に充填し、120℃で3時間加熱重合してベースレンズを得た。
【0066】
〔2〕トップレンズの作製
直径78mmで凹面の曲率半径が184.3mmのA面モールドを用意し、上記ベースレンズを直径が78mmになるように周辺部を削り落とし、A面モールドの凹面の中心と、ベースレンズの凸面の中心との間隙が2.5mmになるようにモールドとレンズの周囲を接着テープで密封したHBシェルを作製した(図3)。
【0067】
CR−39モノマーを上記HBシェルのキャビティ内に充填し、120℃で2時間加熱重合して樹脂レンズを得た(図4)。
【0068】
この複合レンズは、重合により硬化したCR−39層とチオウレタン樹脂層がすぐに剥れてしまい、切削研磨ができず実用には適さない密着強度であった。
【0069】
[比較例3]
〔1〕ベースレンズの作製
凹面の曲率半径が184.3mmで、凹面の中心位置から13mm以上離れた場所に直径が25mmで曲率半径が32.7mmの窪みを持つ直径81mmのベースレンズ用モールド(図1)と、凸面の曲率半径が110mmの直径81mmのB面モールドを用意し、ベースレンズ用モールドの凹面の中心と、B面モールドの凸面の中心の間隔が3mmになるようにモールドの周囲を接着テープで密封したシェルを作製した(図2)。エピスルフィド樹脂モノマー(三井化学(株)製、商品名;MR−174、屈折率1.74)100gに、触媒としてN,N−ジメチルシクロヘキシルアミン0.03gとN,N−ジシクロへキシルメチルアミン0.09gを添加、混合し、シェルのキャビティ内に充填し、110℃で2時間加熱重合してベースレンズを得た。
【0070】
〔2〕トップレンズの作製
直径78mmで凹面の曲率半径が184.3mmのA面モールドを用意し、上記ベースレンズを直径が78mmになるように周辺部を削り落とし、A面モールドの凹面の中心と、ベースレンズの凸面の中心との間隙が2.7mmになるようにモールドとレンズの周囲を接着テープで密封したHBシェルを作製した(図3)。
【0071】
ウレタン樹脂モノマー(三井化学(株)製、商品名;MR−6、屈折率1.60)100gに、触媒としてジブチルチンジクロリド0.01gを添加、混合し、上記記載のHBシェルのキャビティ内に充填し、120℃で2時間加熱重合して複合2焦点樹脂レンズを得た(図4)。
【0072】
〔3〕複合樹脂レンズの切削研磨
実施例1と同様に切削研磨し、2焦点レンズとしての機能を保つよう可能な限り薄く成形し、加入度数3.5の複合2焦点樹脂レンズを得たが、最小厚さが3.3mmとなった。眼鏡レンズとしてかなり厚いものになり、実用的ではないことが分かった。
【0073】
上記実施例及び比較例で得られた複合樹脂レンズの密着性の評価結果及び最小厚さを表1に示す。
【0074】
密着性は、次の方法により測定した;
1.密着性評価試料として、厚さ5mmで長さ10mmの低屈折率樹脂平板の両端に厚さ5mmで長さ30mmの2枚のベースレンズ用樹脂が重合密着したものを作製した。
【0075】
2.上記試料を『引張り試験装置』((株)島津製作所製;EZ Graph試験機)で片方を固定し、他の片方を上方に引っ張り、密着応力〔ニュートン〕を検査した。
【0076】
【表1】

【0077】
〔適合性評価〕
実施例1で得られた2焦点複合樹脂レンズの性能評価を下記の基準で行った。結果は表2に示すように、眼鏡用レンズとしての適合性判断基準をすべて満足するものであった。
【0078】
1)外観検査
3波長選択型蛍光灯を光源とする照明系を使用し、目視観察にて限度見本と比較し、次の(1)〜(3)の観点から総合評価した。
(1)視感透過性に優れている
(2)色調が安定している
(3)脈理がない
【0079】
2)耐擦傷性試験
JIS K−7500に準じたスチールウール試験を行い、表面傷の程度を検査した。
【0080】
3)耐温水性試験
温水60℃の中に被験レンズを10分間浸漬し、複合レンズの境界面の剥がれの有無を検査した。
【0081】
4)耐候密着性試験
ISO 4892,11341規格に準じたキセノン耐候試験装置に複合レンズを480時間投入し、複合レンズの境界面の剥がれの有無を検査した。
【0082】
また、ASTM G−53規格に準じたQUV試験装置に被験レンズを240時間投入し、複合レンズの境界面の剥がれの有無を検査した。
【0083】
5)耐光性試験
JIS T 7333規格に準じた450ワットのキセノンランプ下で300mmの位置に複合レンズを設置し、25時間照射後の透過率が10%以下か否かを検査した。
【0084】
6)玉加工試験
NIDEK社製玉加工装置を使用し、加工後の複合レンズの剥がれ・欠けの有無を検査した。
【0085】
7)耐衝撃性試験
ANSI Z87.1規格に準じた落球試験装置を使用し、米国FDA21 CFR 801.410規格の1倍以上の耐衝撃性を有するか否かを検査した。
【0086】
8)機械強度試験
(1)JIS T 7331規格に準じた23℃の温度条件下にて22mmφの鋼球で100ニュートンの力を10秒間掛けた後の複合レンズの剥がれ・欠けの有無を検査した。
【0087】
(2)接合部分のエッジを万力で挟み、通常に万力で600Nの力を掛けた場合の複合レンズの剥がれ・欠けの有無を検査した。
【0088】
9)燃焼試験
JIS T 7331規格に準じた長さ300mm,直径6mmφのスチールロッドを温度650℃下で5秒間押し当てた時に発火するか否かを検査した。
【0089】
10)臭気試験
耐候試験装置を使用し、480時間までを60時間毎に取り出して異臭がするか否かを検査した。
【0090】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】(a)はベースレンズ用モールド1の正面図であり、(b)は同模式端面図である。
【図2】ベースレンズ用モールド1とB面モールド2とを相対向するように配置して周囲を接着テープ6で密封したシェルを示す模式端面図である。
【図3】ベースレンズ3とA面モールド4とを相対向するように配置して周囲を接着テープ7で密封したシェルを示す模式端面図である。
【図4】ベースレンズ3と低屈折率樹脂層5とからなる複合樹脂レンズを示す模式端面図である。
【図5】図4に示した複合樹脂レンズの内面部を切削研磨したレンズを示す模式端面図である。
【符号の説明】
【0092】
1……ベースレンズ用モールド
2……B面モールド
3……ベースレンズ
4……A面モールド
5……低屈折率樹脂層
6,7……接着テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピスルフィド樹脂又はチオウレタン樹脂からなるベースレンズ上に、このベースレンズより屈折率の低い樹脂層が形成された複合樹脂レンズであって、
前記ベースレンズより屈折率の低い樹脂層が、環状エーテル基を含有する化合物(A)と、熱カチオン重合開始剤(B)と、遊離ラジカル捕捉剤(C)と、紫外線吸収剤(D)とを含有する樹脂組成物を前記ベースレンズの表面上で硬化させたものである
ことを特徴とする複合樹脂レンズ。
【請求項2】
前記環状エーテル基を含有する化合物(A)が、オキセタニル基を含有する化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の複合樹脂レンズ。
【請求項3】
前記樹脂組成物がカチオン重合反応基を有するシルセスキオキサン化合物(E)をさらに含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の複合樹脂レンズ。
【請求項4】
前記シルセスキオキサン化合物(E)が、次式(1)又は(2)に示す化合物であることを特徴とする、請求項3に記載の複合樹脂レンズ。
【化1】

但し、式(1)及び(2)において、R及びRは、それぞれ環状エーテル基を有する基であり、R,R及びRは、それぞれ同一かまたは相違する有機基である。a及びbは、a+bが6,8,10,又は12のいずれかとなる整数である。
【請求項5】
前記シルセスキオキサン化合物(E)が、次式(3)又は(4)に示す化合物であることを特徴とする、請求項4に記載の複合樹脂レンズ。
【化2】

但し、式(3)及び(4)において、R及びRは、それぞれ不飽和結合を有する基であり、R,R及びR10は、それぞれ同一かまたは相違する有機基である。c及びdは、c+dが6,8,10,又は12のいずれかとなる整数である。
【請求項6】
多焦点レンズであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合樹脂レンズ。
【請求項7】
エピスルフィド樹脂又はチオウレタン樹脂からなるベースレンズとモールドとの間に樹脂組成物を供給して硬化させた後、前記モールドを剥離してレンズを製造する複合樹脂レンズの製造方法において、
前記樹脂組成物として、環状エーテル基を含有する化合物(A)と、熱カチオン重合開始剤(B)と、遊離ラジカル捕捉剤(C)と、紫外線吸収剤(D)とを含有するものを用いることを特徴とする複合樹脂レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−251235(P2009−251235A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98399(P2008−98399)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【出願人】(391003750)株式会社アサヒオプティカル (13)