説明

複合油性菓子のファットブルーム防止方法

【課題】
油性菓子と別の食材から成る複合油性菓子において、20℃近辺の一定温度に保管した場合にファットブルームが発生することがある。本発明は、保管中にファットブルームが発現し難く、綺麗な外観を保持したまま、複合油性菓子を保管することができるファットブルーム防止方法の提供を目的とした。
【解決手段】
複合油性菓子を温度揺らぎのある条件下で保管する。当該温度揺らぎは、複合油性菓子の品温が20℃以下の第一温度範囲と、21℃以上24℃未満の第二温度範囲とに交互になるものであり、第一温度範囲と第二温度範囲に保持される期間がそれぞれともに7日以内であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合油性菓子のファットブルーム防止方法に関し、詳しくは保管中にファットブルームが発現し難く、綺麗な外観を保持できる複合油性菓子のファットブルーム防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チョコレート等の油性菓子と、別の食材(例えば、油性菓子、焼き菓子類、ナッツ、パフ、グミ、ゼリー、ガナッシュ等の乳化物、乾燥果実などの食材)とを組み合わせた複合油性菓子は、複雑な香味を楽しめることから、多くの種類が製造されている。複合油性菓子を構成する油性菓子は、油脂の中に糖類、粉乳類、カカオマス固形分などの固体粒子が分散したものである。油性菓子中の油脂は、その結晶が保存中に粗大化し、ファットブルームという白化現象を起こして商品価値を大きく損ねる場合がある。ファットブルームは、油性菓子が高温に晒されたり、高温と低温に交互に晒されたりという温度変化によって発生し易いことが知られている。そのため、油性菓子製品は、このような温度変化に晒されないよう、20℃程度の一定温度で保管されるのが通例であり、このような温度変化に伴い発生するファットブルームを防止する策として、いくつかの方法も開示されている特許文献1〜4。
【0003】
しかしながら、複合油性菓子においては、20℃程度の一定温度で保管した場合でも、油性菓子と組み合わせる別の食材が油脂や水分を含む場合、組み合わせられた食材から油性菓子にその油脂や水分が徐々に移行し、それに伴ってファットブルームが発生し、外観を大きく損なうことがある。これは、定温保管中に発生する不具合であり、油性菓子工業において大きな問題となっている。しかし、この種のファットブルームを防止し、綺麗な外観を保持したまま複合油性菓子を保管できるファットブルーム防止方法はまだ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−60945号公報
【特許文献1】特開平01−39945号公報
【特許文献1】特開平02−249452号公報
【特許文献1】特開平06−153798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ファットブルームを発現し難く、綺麗な外観を保持したまま複合油性菓子を保管できるファットブルーム防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、複合油性菓子を形成後、温度揺らぎのある条件下で保管することで、ファットブルームが発現し難く、綺麗な外観を保持したまま、複合油性菓子を保管できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は以下を包含するものである。
(1)油性菓子生地と別の食材から成る複合油性菓子を、温度揺らぎのある条件下で保管するファットブルーム防止方法であって、複合油性菓子の品温が、20℃以下の第一温度範囲と21℃以上24℃未満の第二温度範囲とに交互になるよう保管環境の雰囲気温度が設定される、複合油性菓子のファットブルーム防止方法。
(2)第一温度範囲、第二温度範囲に保持される時間が、それぞれともに7日以内である前記(1)に記載の複合油性菓子のファットブルーム防止方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のファットブルーム防止方法により保管される複合油性菓子は、ファットブルームが発現し難く、綺麗な外観を保持することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の複合油性菓子とは、第一の油性菓子と、別の食材(例えば、第二の油性菓子、または、焼き菓子類、ナッツ、パフ、グミ、ゼリー、ガナッシュ等の乳化物、乾燥果実などの食材)から成るものである。別の食材は一種だけでなく、二種以上の食材を使用しても構わない。
【0010】
第一の油性菓子、及び、別の食材の一つである第二の油性菓子には、チョコレート類の表示に関する公正競争規約に定めるチョコレート、準チョコレートや、それに該当しないファットクリームなどあらゆる油性菓子が使用可能である。
【0011】
複合油性菓子としては、油性菓子と別の食材が一部でも接合しているものであれば構成・構造は特に限定されることなく、あらゆる構成・構造の複合油性菓子が本発明の対象となる。複合油性菓子は、例えば、以下のような構成・構造が考えられる。
(1)第一の油性菓子生地でシェルを形成し、当該シェル内部に第二の油性菓子生地を充填し、充填された第二の油性菓子生地を第一の油性菓子生地で覆ってボトムを形成することによって得られる、第一の油性菓子で第二の油性菓子を内包した複合油性菓子。
(2)油性菓子生地を成形型に充填し、焼き菓子を接合して成型した複合油性菓子。
(3)平板状の焼き菓子の片面、または両面に、油性菓子を薄く被覆した複合油性菓子。
(4)油性菓子生地に、クラッシュした粒状のナッツを練り込んで成型した複合油性菓子。
【0012】
本発明において上記の如く成型された複合油性菓子は、好ましくは15〜23℃程度の品温になるよう冷却され、形成される。本発明ではこの形成された複合油性菓子を、温度揺らぎのある条件下で保管する。この温度揺らぎは、油性菓子部分の品温として、20℃以下の第一温度範囲と、21℃以上24℃未満の第二温度範囲が交互に繰り返されるものであり、そのように保管環境の雰囲気温度が設定され、複合油性菓子が保管される。当該条件での保管により、複合油性菓子がファットブルームを発現し難く、綺麗な外観が保持される。
【0013】
前記第一温度範囲は20℃以下であれば何度でもよいが、過度に冷却するとコスト的に不利であり、また結露等の弊害も発生するので、15℃以上20℃以下とすることが好適である。20℃より高い温度では発明の効果が乏しい。
前期第二温度範囲は、21℃以上24℃未満に設定される。21℃未満では発明の効果が乏しく、24℃以上では油性菓子部分の口どけの悪化を招来するので不適切である。
【0014】
温度揺らぎは、第一温度範囲と第二温度範囲が交互に繰り返されればよく、複合油性菓子を冷却、形成した後、温度揺らぎのある条件下で保管を開始する際、第一温度範囲から開始してもよいし、第二温度範囲から開始してもよい。
【0015】
また、複合油性菓子を冷却、形成した後、温度揺らぎのある条件下で保管されるまでの時間は厳密に制約されるものではないが、温度揺らぎのある条件下での保管を施すまでの時間が過度に長いと、その間にファットブルームの発現を招来し、発明の効果が得られず不適切である。従って、複合油性菓子を冷却、形成した後、出来る限り速やかに温度揺らぎのある条件下での保管を行うことが望ましい。
【0016】
さらに、本発明において、複合油性菓子が第一温度範囲で保持される時間をT1、第二温度範囲で保持される時間をT2とすると、T1とT2はともに7日以内であることが望ましい。7日を越えると、その間にファットブルームが発現する危険性が大きくなる。これ以外にはT1、T2は何ら制約されない。T1>T2でも、T1=T2でも、T1<T2でもよいし、7日以内であれば、T1、T2の期間は特に限定されない。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を挙げて更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
製造例1
カカオマス20.000重量部、砂糖40.950重量部、全粉乳20.000重量部、ココアバター7.500重量部、植物油脂11.000重量部、大豆レシチン0.500重量部、香料0.050重量部の配合で、常法によりチョコレート生地を調製した。また、このチョコレート生地80.000重量部、アーモンドペースト20.000重量部を混合し、ナッツクリームを調製した。チョコレート生地を常法通りテンパリング後、成形型に充填し、当該成形型を反転して、型からはみ出た余分なチョコレート生地を掻き取った後、冷却し、シェルを形成した。そのシェルにナッツクリームを充填し、更に、チョコレート生地で覆ってボトムを形成した。冷却して成形型から剥離させ、50重量部のナッツクリームが50重量部のチョコレートで内包された複合油性菓子を得た。
【0018】
製造例2
小麦粉57.000重量部、砂糖8.500重量部、脱脂粉乳3.800重量部、ショートニング7.500重量部、乳化剤0.1500重量部、食塩0.250重量部、膨脹剤0.800重量部、水22.000重量部を混合し、2mmの厚さのシートに圧延し、長方形に型抜きした。これを180℃のオーブンで15分間焼成し、15mm×20mm×4mmの大きさの焼き菓子を得た。また、カカオマス25.000重量部、砂糖42.450重量部、全粉乳15.000重量部、ココアバター5.000重量部、植物油脂12.000重量部、大豆レシチン0.500重量部、香料0.050重量部の配合で、常法によりチョコレート生地を調製した。このチョコレート生地を、常法によりテンパリング後、縦20mm×横25mmの成形型に厚さ4mmとなるよう充填し、その後、上記焼き菓子を接合し、冷却して成形型から剥離させ、焼き菓子とチョコレートが接合した複合油性菓子を得た。
【0019】
製造例3
小麦粉60.475重量部、砂糖14.500重量部、ショートニング17.000重量部、食塩0.700重量部、膨脹剤0.900重量部、水6.425重量部を混合し、2.5mmの厚さのシートに圧延し、直径50mmの円形に型抜きした。これを170℃のオーブンで17分間焼成し、円形板状の焼き菓子を得た。また、カカオマス23.000重量部、砂糖39.450重量部、全粉乳16.000重量部、ココアバター5.500重量部、植物油脂15.500重量部、大豆レシチン0.500重量部、香料0.050重量部の配合で、常法によりチョコレート生地を調製した。チョコレート生地を常法通りテンパリング後、前記円形板状の焼き菓子の片面に被覆し、冷却、固化させ、焼き菓子70重量部、チョコレート30重量部から成る複合油性菓子を得た。
【0020】
製造例4
カカオマス20.000重量部、砂糖40.950重量部、全粉乳20.000重量部、ココアバター7.500重量部、植物油脂11.000重量部、大豆レシチン0.500重量部、香料0.050重量部の配合で、常法によりチョコレート生地を調製した。また、ローストしたアーモンドを刻み、7メッシュを通過し14メッシュを通過しないサイズに篩別した。チョコレート生地を常法通りテンパリング後、チョコレート生地80重量部に、前記篩別したアーモンドを20重量部混合し、続いてこれを成形型に充填し、冷却して成形型から剥離させ、複合油性菓子を得た。
【0021】
実施例1
製造例1にて得られた複合油性菓子を、19℃維持4日間と22℃維持3日間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0022】
実施例2
製造例2にて得られた複合油性菓子を、19℃維持4日間と22℃維持3日間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0023】
実施例3
製造例3にて得られた複合油性菓子を、19℃維持4日間と22℃維持3日間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0024】
実施例4
製造例4にて得られた複合油性菓子を、19℃維持4日間と22℃維持3日間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0025】
実施例5
製造例1にて得られた複合油性菓子を、18℃維持4日間と22.5℃維持3日間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0026】
実施例6
製造例1にて得られた複合油性菓子を、15℃維持4日間と21.5℃維持3日間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0027】
実施例7
製造例1にて得られた複合油性菓子を、19℃維持18時間と22℃維持6時間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0028】
実施例8
製造例1にて得られた複合油性菓子を、19℃維持6時間と22℃維持18時間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0029】
実施例9
製造例1にて得られた複合油性菓子を、19℃維持12時間と22℃維持12時間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0030】
比較例1
製造例1にて得られた複合油性菓子を、19℃一定に設定した倉庫にて保管した。
【0031】
比較例2
製造例2にて得られた複合油性菓子を、19℃一定に設定した倉庫にて保管した。
【0032】
比較例3
製造例3にて得られた複合油性菓子を、19℃一定に設定した倉庫にて保管した。
【0033】
比較例4
製造例4にて得られた複合油性菓子を、19℃一定に設定した倉庫にて保管した。
【0034】
比較例5
製造例1にて得られた複合油性菓子を、18℃維持4日間と20℃維持3日間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0035】
比較例6
製造例1にて得られた複合油性菓子を、18℃維持18時間と20℃維持6時間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0036】
比較例7
製造例1にて得られた複合油性菓子を、18℃維持6時間と20℃維持18時間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0037】
比較例8
製造例1にて得られた複合油性菓子を、18℃維持12時間と20℃維持12時間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0038】
比較例9
製造例1にて得られた複合油性菓子を、17℃維持12時間と19℃維持12時間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0039】
比較例10
製造例1にて得られた複合油性菓子を、19℃維持10日間と22℃維持10日間とが交互に繰り返されるように設定した倉庫にて保管した。
【0040】
実施例1〜9、比較例1〜10の複合油性菓子につき、さらに20℃にて1ヶ月保管後、外観の状態を観察した。その結果を表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性菓子生地と別の食材から成る複合油性菓子を、温度揺らぎのある条件下で保管するファットブルーム防止方法であって、複合油性菓子の品温が、20℃以下の第一温度範囲と、21℃以上24℃未満の第二温度範囲とに交互になるよう保管環境の雰囲気温度が設定される、複合油性菓子のファットブルーム防止方法。
【請求項2】
第一温度範囲、第二温度範囲に保持される時間が、それぞれともに7日以内である請求項1記載の複合油性菓子のファットブルーム防止方法。

【公開番号】特開2011−87483(P2011−87483A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242062(P2009−242062)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】