説明

複合溶接方法と複合溶接装置

【課題】レーザ溶接とアーク溶接を制御して行う複合溶接方法と複合溶接装置において、良好な溶接を行うと共に、溶接パラメータの設定を容易にすることを目的とする。
【解決手段】被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射しながら前記溶接位置に第1ワイヤを送給して前記被溶接物との間でアーク溶接を同時に行うと共に、前記レーザビームと前記アーク溶接で形成した溶融池に第2ワイヤを供給する複合溶接方法と複合溶接装置であって、演算手段20は、前記アーク発生手段13から制御される前記第1ワイヤ3の換算送給速度と前記第2ワイヤ7の換算送給速度の和を前記溶接速度に比例するよう演算処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶接物にレーザビームの照射とアーク溶接を行う複合溶接方法と複合溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザはエネルギ密度が高く、熱ひずみの少ない溶接を高速で行うことができるため、様々な板厚または材質の材料の溶接に使用可能である。しかし、被溶接物にギャップがあると、レーザビームがギャップから抜けてしまい溶接ができなくなったり、溶融金属がギャップを埋めるのに消費され、溶融金属不足に起因する溶接欠陥が発生したりする欠点がある。この欠点を補うために、フィラーを使用したレーザ溶接法が従来からあったが、フィラー溶融に余分のレーザエネルギが消費されるため、溶接速度の向上には限界がある。耐ギャップ能力と溶接速度の両立を図るために、レーザと消耗電極方式のアーク溶接を併用する複合溶接方法が提案されている(例えば、特許文献1)が、溶融したワイヤがギャップを埋める役割を果すことがポイントである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−66991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の複合溶接方法に使用するアーク溶接では、ワイヤ送給速度とアーク電流を独立に調整することができないため、溶着金属量と入熱の両方を自由に調整することができない。
【0005】
この問題を解決するために、本発明の発明者が提案中の方法(特願2008−210423)では、レーザ溶接とアーク溶接を同時に行う複合溶接の溶融池に第2ワイヤを供給することによって、溶着金属量の調整を行っている。
【0006】
図7は本発明の発明者が提案した従来の複合溶接方法の構成を示す模式図である。1は被溶接物、2はレーザビーム、3は第1ワイヤ、4は前記第1ワイヤ3と前記被溶接物1との間に形成したアーク、5は前記第1ワイヤ3が溶融して形成した溶滴、6は前記レーザビーム2と前記アーク4で前記被溶接物1に形成した溶融池、7は前記溶融池6に送給される第2ワイヤ、8は前記溶融池6が凝固して形成したビードである。図8は、図7の従来の複合溶接方法の原理を説明する模式図である。MRは従来の消耗電極式のアーク溶接方法の溶着速度を示す溶融曲線である。良好なビードを得るために、適正な溶着速度で溶接を行う必要がある。仮に目標の溶着速度をVW0とすると、アーク溶接でこの溶着速度を実現するためには、Iのアーク電流を供給する必要がある。一方、複合溶接方法を使用すると、第2ワイヤ7の送給速度を入熱と関係なく自由に調整することができるので、低いアーク電流でも高い溶着速度を実現することができる。例えば、溶融曲線MRで示した溶着速度VWFで前記第2ワイヤ7を送給すると、溶着速度は溶融曲線MRに従う。この際、目標の溶着速度VW0を得るために必要なアーク電流は、従来のアーク溶接の前記アーク電流Iからアーク電流Iに低下する。すなわち、同一の溶着速度を実現しつつ、アーク溶接の入熱をI/I倍に下げることができる。
【0007】
しかし、この本発明の発明者が提案した複合溶接方法では、従来の課題を解決できるものの、その一方でレーザ出力とアーク電流とアーク電圧と第2ワイヤの送給速度など多くのパラメータを溶接する前に設定する必要があり、また、溶接速度を変えるたびにこれらのパラメータを溶接速度に応じて再度設定しなおさねばならない操作が必要である。
【0008】
そこで、本発明では、従来の解決するとともに本発明の発明者が提案中のものより溶接パラメータの設定を容易にすることのできる複合溶接方法と複合溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射しながら前記溶接位置に第1ワイヤを送給して前記被溶接物との間でアーク溶接を同時に行うと共に、前記レーザビームと前記アーク溶接で形成した溶融池に第2ワイヤを供給する複合溶接方法であって、前記レーザビームの出力と前記第1ワイヤの送給速度と前記第2ワイヤの送給速度との何れも溶接速度に比例して調整する複合溶接方法であって、前記第1ワイヤと前記第2ワイヤとの換算送給速度の和を溶接速度に比例して調整する複合溶接方法、前記レーザビームの出力と前記アーク溶接のアーク電流と前記第2ワイヤの送給速度との何れも溶接速度に比例して調整する複合溶接方法、数1で算出したレーザ入熱Qlaserと数2で算出したアーク入熱Qarcをほぼ等しくする複合溶接方法、数1で算出したレーザ入熱Qlaserと数2で算出したアーク入熱Qarcが数3を満足する記載の複合溶接方法、数1で算出したレーザ入熱Qlaserを数2で算出したアーク入熱Qarc以上にする複合溶接方法である。
【0010】
【数1】

【0011】
【数2】

【0012】
【数3】

【0013】
但し、P0はレーザ出力、IAはアーク電流、VAはアーク電圧、v0は溶接速度である。
【0014】
また、本発明は、被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射するレーザ発生手段と、第1トーチを介して前記溶接位置に第1ワイヤを送給する第1ワイヤ送給手段と、第2トーチを介して前記溶接位置に第2ワイヤを送給する第2ワイヤ送給手段と、前記第1ワイヤ送給手段を制御しながら前記第1ワイヤと前記被溶接物にアーク溶接のための電力を供給するアーク発生手段と、溶接速度設定手段から溶接速度を、比例定数設定手段から比例定数を入力して演算処理を行う演算手段と、前記演算手段の演算結果を入力し前記レーザ発生手段と前記アーク発生手段と前記第2ワイヤ送給手段とを制御する制御手段とを備え、前記演算手段は、前記レーザ発生手段のレーザ出力と前記アーク発生手段から制御される第1ワイヤの送給速度と前記第2ワイヤの送給速度との何れも前記溶接速度に比例するよう演算処理を行う複合溶接装置であって、前記演算手段の代わりに前記第1ワイヤの送給速度と前記第2ワイヤの送給速度との和を前記溶接速度に比例するよう演算処理を行う演算手段を使用する複合溶接装置、前記演算手段の代わりに前記レーザ発生手段のレーザ出力と前記アーク発生手段のアーク電流と前記第1ワイヤの送給速度との何れも前記溶接速度に比例するよう演算処理を行う演算処理手段を使用する複合溶接装置、
また、本発明は、被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射するレーザ発生手段と、第1トーチを介して前記溶接位置に第1ワイヤを送給する第1ワイヤ送給手段と、第2トーチを介して前記溶接位置に第2ワイヤを送給する第2ワイヤ送給手段と、前記第1ワイヤ送給手段を制御しながら前記第1ワイヤと前記被溶接物にアーク溶接のための電力を供給するアーク発生手段と、前記レーザ発生手段からレーザ出力を、前記アーク発生手段からアーク電流とアーク電圧とを、溶接速度設定手段から溶接速度を入力して演算処理を行う演算手段と、前記演算手段からの演算結果を入力し、前記演算手段から溶接許可信号を受けた場合は前記レーザ発生手段と前記アーク発生手段と前記第2ワイヤ送給手段を制御して溶接を行うが、前記演算手段から溶接不可信号を受けた場合は溶接を行わずに表示手段に表示信号のみを出力する制御手段とを備え、前記演算手段は、前記演算手段は数1で算出したレーザ入熱Qlaserと数2で算出したアーク入熱Qarcが数3を満足した場合のみ前記溶接許可信号を出力する複合溶接装置であって、前記演算手段の代わりに、前記レーザ入熱Qlaserが前記アーク入熱Qarc以上になった場合のみ前記溶接許可信号を出力する演算手段を使用する複合溶接装置である。
【0015】
また、本発明は、被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射するレーザ発生手段と、第1トーチを介して前記溶接位置に第1ワイヤを送給する第1ワイヤ送給手段と、第2トーチを介して前記溶接位置に第2ワイヤを送給する第2ワイヤ送給手段と、前記第1ワイヤ送給手段を制御しながら前記第1ワイヤと前記被溶接物にアーク溶接のための電力を供給するアーク発生手段と、前記レーザ発生手段からレーザ出力を、前記アーク発生手段からとアーク電流とアーク電圧とを、溶接速度設定手段から溶接速度を入力して演算処理を行う演算手段と、前記演算手段からの演算結果を入力し前記レーザ発生手段と前記アーク発生手段と前記第2ワイヤ送給手段とを制御して溶接を行う制御手段とを備え、前記演算手段は、前記演算手段は数1で算出したレーザ入熱Qlaserと数2で算出したアーク入熱Qarcが数3を満足せず、なおかつ、前記レーザ入熱Qlaserが前記アーク入熱Qarcより小さい場合のみ、前記レーザ入熱Qlaserが前記アーク入熱Qarcと等しくなるよう前記レーザ発生手段のレーザ出力を自動的に算出する複合溶接装置である。
【0016】
また、本発明は、前記アーク溶接としてパルスMIGアーク溶接を用いる複合溶接方法と複合溶接装置であって、前記レーザビームとしてYAGレーザ、半導体レーザ、またはファイバレーザの何れかを用いる複合溶接方法と複合溶接装置、前記被溶接物と前記第1ワイヤと前記第2ワイヤとして材質がアルミニウム合金のものを用いる複合溶接方法と複合溶接装置である。
【発明の効果】
【0017】
以上のように本発明は、被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射しながら前記溶接位置に第1ワイヤを送給して前記被溶接物との間でアーク溶接を同時に行うと共に、前記レーザビームと前記アーク溶接で形成した溶融池に第2ワイヤを供給する複合溶接方法と複合溶接装置であって、前記レーザビームの出力と前記第1ワイヤの送給速度と前記第2ワイヤの送給速度との何れも溶接速度に比例して調整することによって良好な溶接を行うと共に、溶接パラメータの設定を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1における複合溶接方法と複合溶接装置の構成を示す模式図
【図2】ビード形状と溶接パラメータの関係を調べるために使用した溶接条件および入熱の説明図
【図3】図2の溶接条件で得られたビード外観およびビード断面図
【図4】本発明の実施の形態2における複合溶接方法と複合溶接装置の構成を示す模式図
【図5】ビード形状と溶接パラメータの関係を調べるために使用した溶接条件および入熱の説明図
【図6】図5の溶接条件で得られたビード外観およびビード断面図
【図7】本発明の発明者が提案した複合溶接方法の構成を示す模式図
【図8】本発明の発明者が提案した複合溶接方法の原理を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における複合溶接方法と複合溶接装置の構成を示す模式図である。
【0020】
なお、図7と図8に示した内容と同様の構成および動作と作用効果を奏するところには同一符号を付して詳細な説明を省略し、異なるところを中心に説明する。
【0021】
9はレーザ発振器10とレーザ伝送手段11と集光光学系12から構成されるレーザ発生手段、13はケーブル15とケーブル16を通して第1ワイヤ3と被溶接物1との間にアーク4を発生するための電力を供給するアーク発生手段、14は第1トーチ17を通って前記第1ワイヤ3を前記被溶接物1に送給する第1ワイヤ送給手段、18は第2トーチ19を通って第2ワイヤ7を前記被溶接物1に形成した溶融池6に送給する第2ワイヤ送給手段である。20は溶接速度設定手段21から溶接速度v0を、比例定数設定手段22から比例定数αi (i=1, 2, 3, 4, 5)を入力して演算処理を行う演算手段であり、その演算処理の結果であるレーザ出力P1と、第1ワイヤ3の送給速度DVWF1またはアーク電流I1と、第2ワイヤ7の送給速度DVFF1とを制御手段23に出力する。前記制御手段23では、前記演算手段20の演算結果であるレーザ出力P1と第1ワイヤ3の送給速度DVWF1と第2ワイヤ7の送給速度DVFF1をそれぞれ前記レーザ発生手段9と前記アーク発生手段13と前記第2ワイヤ送給手段18に出力し、それらを制御して溶接を行う。前記レーザ発生手段9は、その集光光学系12でレーザビーム2を集光して前記被溶接物1に照射する。前記集光光学系12は一枚あるいは複数のレンズから構成されてもよい。前記レーザ伝送手段11は光ファイバであってもよく、レンズによって組み合わせた伝送系であってもよい。前記レーザ発振器10は、図示していないが、外部の制御装置によってその出力値および出力タイミングを自由に制御することができるが、その出力値および出力タイミングを外部制御装置に出力することもできる。前記アーク発生手段13は、溶接開始時には前記第1ワイヤ送給手段14を制御し、前記第1ワイヤ3を前記被溶接物1に向かって送給しつつ、前記第1ワイヤ3と前記被溶接物1の間にアーク4を発生するよう制御するが、溶接終了時には前記第1ワイヤ送給手段14による前記第1ワイヤ3の送給を停止すると共に、前記アーク4を停止するよう制御する。前記アーク発生手段13は、図示していないが、外部の制御装置によってその出力値および出力タイミングを自由に制御することができるが、その出力値および出力タイミングを外部制御装置に出力することもできる。前記第1ワイヤ送給装置14は前記アーク発生手段13によって制御されるが、前記第1ワイヤ3の送給速度は外部の制御装置によって自由に制御することができるが、その送給速度値を外部制御装置に出力することもできる。前記第2ワイヤ送給装置18は前記制御手段23によって制御されるが、前記第2ワイヤ7の送給速度は外部の制御装置によって自由に制御することができるが、その送給速度値を外部制御装置に出力することもできる。前記制御手段23として、コンピュータを使用してもよいが、コンピュータのような演算機能を有する部品、デバイス、装置あるいはそれらの組み合わせを使用してもよい。また、前記制御手段23として、ロボットを使用してもよい。詳細の説明を省略するが、ロボットを使用する場合は、前記ロボットのマニピュレータ部に前記集光光学系12と前記第1トーチ17と前記第2トーチ19とを固定して使用することができる。
【0022】
演算手段20の動作について説明する。溶接開始時には、前記演算手段20は、溶接速度設定手段21から溶接速度v0を、比例定数設定手段22から比例定数αi(i=1, 2, 3, 4, 5)を入力し、数4より前記レーザ発生手段9から出力すべくレーザ出力P1と、前記アーク発生手段13が前記第1ワイヤ送給手段14を制御して出力すべく前記第1ワイヤ3の送給速度DVWF1と、前記第2ワイヤ送給手段18から出力すべく前記第2ワイヤ7の送給速度DVFF1を算出してその算出値を前記制御手段23に出力する。
【0023】
【数4】

【0024】
但し、P1はレーザ出力、v0は溶接速度、DVWF1は第1ワイヤ3の送給速度、DVFF1は第2ワイヤ7の送給速度、α1、α2、α3は比例定数である。使用する被溶接物1の板厚および材質が決まれば、溶接実験を行うことによって前記比例定数α1、α2、α3を決定することができるが、前記比例定数α2とα3は、詳細な計算方法の説明を省略するが、必要なビード予盛量やギャップや開先形状などから算出してもよい。
【0025】
図1に示した本発明の実施の形態1における複合溶接装置の動作について説明する。溶接開始時には、図示していないが、溶接開始命令を受けた制御手段23は、前記演算手段20の演算結果を受け、前記レーザ発生手段9にレーザ溶接の開始信号と前記レーザ出力値P1を送りレーザビーム2照射を開始すると共に、前記アーク発生手段13にアーク溶接の開始信号と前記第1ワイヤ3の送給速度DVWF1を送ってアーク放電を開始し、また、前記第2ワイヤ送給手段18に第2ワイヤ7の送給の開始信号と前記第2ワイヤ7の送給速度DVFF1を送り前記第2ワイヤ7の送給を開始するよう動作する。前記アーク発生手段13はその出力の指令がアーク電流で設定する場合があるが、前記制御手段23では前記第1ワイヤ3の送給速度DVWF1をアーク電流に換算した値を出力してもよい。この際の換算方法は、前記第1ワイヤ3の送給速度DVWF1とアーク電流との実験式で換算してよい。一方、溶接終了時には、溶接終了命令を受けた前記制御手段23は、前記レーザ発生手段9にレーザ溶接終了信号を送り前記レーザビーム2の照射を終了すると共に、前記アーク発生手段13にアーク溶接終了信号を送ってアーク放電を終了し、また、前記第2ワイヤ送給手段18にワイヤ送給の終了信号を送ることによって溶接を終了するよう動作する。
【0026】
図1に示した本発明の実施の形態1における複合溶接装置を使用した溶接の特徴について説明する。前記数4によれば、前記レーザビーム2の出力P1と前記第1ワイヤ3の送給速度DVWF1と前記第2ワイヤ7の送給速度DVFF1との何れも溶接速度に比例して算出されている。ビードに対する溶融金属の溶着金属量を考えると、単位ビード長さ当りの溶着金属量は第1ワイヤ3と第2ワイヤ7との合計したワイヤ送給速度に比例し、溶接速度と反比例する。したがって、数4を使用した場合、溶接速度と関係なく、単位ビード長さ当りの溶着金属量が一定になるので、ほぼ一定の形状のビードを得る条件が満たされる。一方、ビードに対する入熱を考えると、本発明の入熱は、レーザ入熱とアーク入熱の二つからなる。入熱が溶接速度と反比例する関係を考慮すると、数4を使用した場合、溶接速度と関係なく、単位ビード長さ当りのレーザ入熱が一定になる。但し、アーク入熱に関しては、例えば、アーク電流が第1ワイヤ3の送給速度とほぼ比例関係にあるアルミニウム合金の場合には、溶接速度と関係なく、アーク電流の増加に伴うアーク電圧の増加分を除いてアーク入熱はほぼ一定になる。すなわち、本発明の実施の形態1における複合溶接装置を使用した際には、単位ビード長さ当りの溶着金属量が一定になると共に、入熱も凡そ一定にすることが可能であると考えられる。その結果、溶接速度を変えてもほぼ一定のビード形状の溶接を得ることができる。但し、アーク電流と第1ワイヤ3の送給速度が比例関係から大きく離れる、例えば、細いワイヤ径のステンレス鋼または鉄鋼材料では、入熱は、アーク電流の増加に伴うアーク電圧の増加分以外に、ワイヤ突出し部分の抵抗発熱分も入るので、誤差がやや大きくなる場合がある。この場合、アーク電圧を調整することによってビード形状を調整することも可能なので、ほぼ一定のビード形状の溶接を得ることが可能である。
【0027】
板厚2mmのA5052アルミニウム合金のビード・オン・プレート溶接を使用し、ビード形状と溶接パラメータの関係について調べた結果を説明する。図2は使用した溶接条件で、図3は得られたビード外観とビード断面である。図2(a)は、溶接速度を変えた時に使用したレーザ出力(○印)、アーク電流(◇印)および第1ワイヤ3(△印)と第2ワイヤ7(口印)の送給速度である。図2(b)は、図2(a)の溶接条件をもとにして算出した入熱(入熱=〔(アーク電流×アーク電圧+レーザ出力)/溶接速度〕。アーク入熱:○印、レーザ入熱:◇印、全体の入熱:△印)である。この実験では、レーザ出力とアーク電流および第1ワイヤ3と第2ワイヤ7の送給速度の溶接条件を溶接速度とほぼ比例するよう選定している。この際、レーザ入熱はほぼ一定であるが、アーク入熱は、アーク電流の増加に従って増加したアーク電圧を採用していたため、溶接速度に対してやや増加した。全体の入熱は、溶接速度に対してアーク入熱が増加した分だけやや増加する傾向であった。図3に示した溶接結果では、何れの溶接条件においてもほぼ同じ形状のビードが得られることがわかった。前述の通り、アーク入熱は、アーク電流の増加に従って増加したアーク電圧を採用していたために全体の入熱が溶接速度の増加に従って増加したが、ビード形状に及ぼす影響が少なかったことが言える。
【0028】
以上のように本発明の実施の形態によれば、被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射しながら前記溶接位置に第1ワイヤを送給して前記被溶接物との間でアーク溶接を同時に行うと共に、前記レーザビームと前記アーク溶接で形成した溶融池に第2ワイヤを供給する複合溶接方法と複合溶接装置であって、前記レーザビームの出力と前記第1ワイヤの送給速度と前記第2ワイヤの送給速度との何れも溶接速度に比例して調整することによって良好な溶接を行うと共に、溶接パラメータの設定を容易にすることができる。
【0029】
以上の説明では、前記第1ワイヤ3と前記第2ワイヤ7との換算送給速度の和を溶接速度に比例して調整する演算手段を使用してもよい。前記換算送給速度の求め方および前記演算手段の演算方法は、数5によって表される。
【0030】
【数5】

【0031】
但し、DVTranは換算送給速度、DVWF1とφ1は第1ワイヤの送給速度とワイヤ直径、DVFF1とφ2は第2ワイヤの送給速度とワイヤ直径、v0は溶接速度、α4は比例定数である。言うまでも、使用する被溶接物1の板厚および材質が決まれば、溶接実験を行うことによって前記比例定数α4を決定することができる。この演算を行うことによって、例えば、アーク電流(または第1ワイヤ3の送給速度DVWF1)をもってビードに対する入熱を微調整した場合には溶着金属量が変化するので、第2ワイヤ7の送給速度DVWF1をもって単位ビード長さ当りの溶着金属量を補正して一定にすることができる。その結果、良好な溶接を行うと共に、溶接パラメータの設定を容易にすることができる。
【0032】
また、以上の説明では、前記レーザ出力と前記アーク溶接のアーク電流と前記第2ワイヤの送給速度との何れも溶接速度に比例して調整する演算手段を使用してもよい。その演算方法としては、前記レーザ出力P1と前記第2ワイヤの送給速度DVFF1とは数4から算出するが、前記アーク電流は数6から算出することができる。
【0033】
【数6】

【0034】
但し、I1はアーク電流、v0は溶接速度、α4は比例定数である。被溶接物1の板厚および材質が決まれば、溶接実験を行うことによって前記比例定数α5を決定することができる。
【0035】
この場合の溶接の特徴について説明する。前述の通り、第1ワイヤ3の突出し分の抵抗発熱の多いステンレス鋼または鉄鋼材料では、単位ビード長さ当りの溶着金属量と入熱との両方を一定にするほうが困難な場合がある。この際、多少の溶着金属量の変動があっても、ビードに対する入熱を重視する場合を考えると、前述の通り、数4を使用することによって単位ビード長さ当りのレーザ入熱を一定にすることができる。また、数6を使用することによって単位ビード長さ当りのアーク入熱も、アーク電流の増加に伴うアーク電圧の増加分を除いて一定にすることができる。以上の説明の通り、前記レーザ出力P1と前記アーク電流I1と前記第2ワイヤの送給速度DVFF1の何れも溶接速度に比例して調整することで良好な溶接を行うと共に、溶接パラメータの設定を容易にすることができる。
【0036】
(実施の形態2)
図4は本発明の実施の形態2における複合溶接方法と複合溶接装置の構成を示す模式図である。図4は、図1において、演算手段20の代わりに演算手段24を使用すると共に、制御手段23の代わりに制御手段25を使用したものである。なお、図1に示した内容と同様の構成および動作と作用効果を奏するところには同一符号を付して詳細な説明を省略し、異なるところを中心に説明する。前記演算手段24は、レーザ発生手段9からレーザ出力設定値P0を、アーク発生手段13からアーク電流IAとアーク電圧VAを、溶接速度設定手段21から溶接速度v0を入力して演算処理を行い、その演算処理の結果である溶接許可信号と溶接不可信号を前記制御手段25に出力する。溶接開始時には、図示していないが、溶接開始命令を受けた前記制御手段25は、前記演算手段24の演算結果を受け、前記演算手段24から溶接許可信号を受けた場合は、前記レーザ発生手段9にレーザ溶接の開始信号を送りレーザビーム2の照射を開始すると共に、前記アーク発生手段13にアーク溶接の開始信号を送ってアーク放電を開始し、また、前記第2ワイヤ送給手段18に第2ワイヤ7の送給の開始信号を送り前記第2ワイヤ7の送給を開始するよう動作するが、前記演算手段24から溶接不可信号を受けた場合は、前記表示手段26に溶接不可の表示信号のみを出力して前記表示手段26でそれを表示させ、溶接を行わないよう動作する。
【0037】
演算手段24の動作について説明する。溶接開始時には、前記演算手段24は、レーザ発生手段9からレーザ出力設定値P0を、アーク発生手段13からアーク電流IAとアーク電圧VAを、溶接速度設定手段21から溶接速度v0を入力し数1と数2でそれぞれレーザ入熱Qlaserとアーク入熱Qarcを算出する。その後、前記レーザ入熱Qlaserと前記アーク入熱Qarcの関係が数3を満足するかどうかを確認し、満足した場合のみ溶接許可信号を出力するが、それ以外の場合は溶接不可信号を前記制御手段25に出力する。
【0038】
この場合の溶接の特徴について説明する。被溶接物1に対する入熱がレーザ入熱Qlaserとアーク入熱Qarcとの二つの部分からなる。アーク4は前記被溶接物1の上の広い領域にかかり前記アーク入熱Qarcも広い範囲に分散するので、前記アーク4によって形成される溶融領域が広くて浅くなる。一方、レーザビーム2は前記被溶接物1の上の非常に狭い領域に照射され前記レーザ入熱Qlaserも非常に狭い領域にしか分散しないので、前記レーザビーム2によって形成される溶融領域が非常に狭くて深くなる。したがって、前記被溶接物1の深いところまで有効に溶融させるには、前記レーザ入熱Qlaserと前記アーク入熱Qarcとをほぼ等しくすることが望ましい。
【0039】
板厚2mmのA5052アルミニウム合金のビード・オン・プレート溶接を使用して、ビード形状と溶接パラメータの関係について調べた結果を説明する。図5は使用した溶接条件で、図6は得られたビード外観とビード断面である。図5(a)では、条件1(図2の溶接速度4 m/minの条件と同一条件)は比較のための基準条件で、条件2はアーク入熱Qarcを上げた条件である。図5(a)には、2つの条件のレーザ出力(△印)と第1ワイヤ3の送給速度(○印)と第2ワイヤ7の送給速度(◇印)が示されている。図では、前記条件2のアーク電流を前記条件1のアーク電流より上げた際に入熱をほぼ一定にするために、レーザ出力を下げている。また、単位ビード長さ当りの溶着金属量を一定にするために前記第2ワイヤ7の送給速度をも下げている。図5(b)は、図5(a)の溶接条件をもとにして算出した入熱(入熱=〔(アーク電流×アーク電圧+レーザ出力)/溶接速度〕。アーク入熱:○印、レーザ入熱:◇印、全体の入熱:△印)である。図6は、図5に示した溶接条件で溶接した際のビード外観およびビード断面である。この実験では、全体の入熱をほぼ一定にしているが、前記条件1ではレーザ入熱Qlaserが大きく、前記条件2ではアーク入熱Qarcが大きく選定されている。その結果、図6に示した通り、アーク入熱Qarcの大きい前記条件2では、前記条件1と同様に裏波溶接が得られるものの、ビード幅または溶込み幅の何れも前記条件1より広がっていた。言い換えれば、全体の入熱をほぼ一定にしても、前記レーザ入熱Qlaserを前記アーク入熱Qarcより大きくすることによって、ビードまたは溶込み幅の狭い溶接ができる。また、前記レーザ入熱Qlaserを前記アーク入熱Qarcとほぼ同等にしても、同様の効果を得ることが可能である。
【0040】
以上のように本発明の実施の形態によれば、被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射しながら前記溶接位置に第1ワイヤを送給して前記被溶接物との間でアーク溶接を同時に行うと共に、前記レーザビームと前記アーク溶接で形成した溶融池に第2ワイヤを供給する複合溶接方法と複合溶接装置であって、前記数1で算出したレーザ入熱Qlaserと数2で算出したアーク入熱Qarcが数3を満足した場合のみ溶接許可信号を出力する演算手段を使用することによって良好な溶接を行うと共に、溶接パラメータの設定を容易にすることができる。言うまでもよく、前記レーザ入熱Qlaserが前記アーク入熱Qarc以上になった場合のみ溶接許可信号を出力する演算手段を使用してもよい。
【0041】
また、以上の説明では、前記レーザ入熱Qlaserと前記アーク入熱Qarcが数3を満足しない場合には、前記レーザ入熱Qlaserが前記アーク入熱Qarcと等しくなるよう前記レーザ発生手段9が出力すべくレーザ出力P1を自動的に算出する演算手段を使用してもよい。その内容について、図4を参照しつつ説明する。図4では、前記演算手段24は、前述した機能以外に、前記レーザ発生手段9のレーザ出力P1を自動的に算出して前記制御手段25に出力する機能を有する。その機能の原理は、以下の通りである。前記演算手段24は、前記レーザ発生手段9からレーザ出力設定値P0を、前記アーク発生手段13からアーク電流IAとアーク電圧VAとを、前記溶接速度設定手段21から溶接速度v0を入力し、数1から算出したレーザ入熱Qlaserと数2から算出したアーク入熱Qarcが数3を満足せず、なおかつ、前記レーザ入熱Qlaserが前記アーク入熱Qarcより小さい場合のみ、前記レーザ入熱Qlaserが前記アーク入熱Qarcと等しくなるよう、数7より前記レーザ発生手段9が出力すべくレーザ出力P1を自動的に算出して前記制御手段25に出力する。この際、前記レーザ発生手段9からは、前記制御手段25から入力された前記レーザ出力P1が出力されるのは言うまでもない。
【0042】
【数7】

【0043】
但し、P1はレーザ出力、IAはアーク電流、VAはアーク電圧である。
【0044】
以上のように本発明の実施の形態によれば、被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射しながら前記溶接位置に第1ワイヤを送給して前記被溶接物との間でアーク溶接を同時に行うと共に、前記レーザビームと前記アーク溶接で形成した溶融池に第2ワイヤを供給する複合溶接方法と複合溶接装置であって、前記数1で算出したレーザ入熱Qlaserと前記数2で算出したアーク入熱Qarcが前記数3を満足せず、なおかつ、前記レーザ入熱Qlaserが前記アーク入熱Qarcより小さい場合のみ、前記レーザ入熱Qlaserが前記アーク入熱Qarcと等しくなるよう前記レーザ発生手段のレーザ出力を自動的に算出することによって同様の効果を得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上のように本発明によれば、被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射しながら前記溶接位置に第1ワイヤを送給して前記被溶接物との間でアーク溶接を同時に行うと共に、前記レーザビームと前記アーク溶接で形成した溶融池に第2ワイヤを供給する複合溶接方法であって、前記レーザビームの出力と前記第1ワイヤの送給速度と前記第2ワイヤの送給速度との何れも溶接速度に比例して調整することによって良好な溶接を行うと共に、溶接パラメータの設定を容易にすることのできる複合溶接方法と複合溶接装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 被溶接物
2 レーザビーム
3 第1ワイヤ
4 アーク
5 溶滴
6 溶融池
7 第2ワイヤ
8 ビード
9 レーザ発生手段
10 レーザ発信器
11 レーザ伝送手段
12 集光光学系
13 アーク発生手段
14 第1ワイヤ送給手段
15 ケーブル
16 ケーブル
17 第1トーチ
18 第2ワイヤ送給手段
19 第2トーチ
20 演算手段
21 溶接速度設定手段
22 比例定数設定手段
23 制御手段
24 演算手段
25 制御手段
26 表示手段
DVFF1 送給速度
DVWF1 送給速度
アーク電流
アーク電流
アーク電流
アーク電流
MR 溶融曲線
MR 溶融曲線
MR 溶融曲線
レーザ出力設定値
レーザ出力
溶接速度
アーク電圧
WF 溶着速度
W0 溶着速度
αi(i=1,2,3,4,5) 比例定数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射しながら前記溶接位置に第1ワイヤを送給して前記被溶接物との間でアーク溶接を同時に行うと共に、前記レーザビームと前記アーク溶接で形成した溶融池に第2ワイヤを供給する複合溶接方法であって、
前記第1ワイヤと前記第2ワイヤとの換算送給速度の和を溶接速度に比例して調整する複合溶接方法。
【請求項2】
前記アーク溶接としてパルスMIGアーク溶接を用いる請求項1に記載の複合溶接方法。
【請求項3】
前記レーザビームとしてYAGレーザ、半導体レーザ、またはファイバレーザの何れかを用いる請求項1または請求項2に記載の複合溶接方法。
【請求項4】
前記被溶接物と前記第1ワイヤと前記第2ワイヤとして材質がアルミニウム合金のものを用いる請求項1から請求項3に記載の複合溶接方法。
【請求項5】
被溶接物の溶接位置にレーザビームを照射するレーザ発生手段と、第1トーチを介して前記溶接位置に第1ワイヤを送給する第1ワイヤ送給手段と、第2トーチを介して前記溶接位置に第2ワイヤを送給する第2ワイヤ送給手段と、前記第1ワイヤ送給手段を制御しながら前記第1ワイヤと前記被溶接物にアーク溶接のための電力を供給するアーク発生手段と、
溶接速度設定手段から溶接速度を、比例定数設定手段から比例定数を入力して演算処理を行う演算手段と、
前記演算手段の演算結果を入力し前記レーザ発生手段と前記アーク発生手段と前記第2ワイヤ送給手段とを制御する制御手段とを備え、
前記演算手段は、前記第1ワイヤと前記第2ワイヤとの換算送給速度の和を前記溶接速度に比例するよう演算処理を行う複合溶接装置。
【請求項6】
前記アーク溶接としてパルスMIGアーク溶接を用いる請求項5に記載の複合溶接装置。
【請求項7】
前記レーザビームとしてYAGレーザ、半導体レーザ、またはファイバレーザの何れかを用いる請求項5または請求項6に記載の複合溶接装置。
【請求項8】
前記被溶接物と前記第1ワイヤと前記第2ワイヤとして材質がアルミニウム合金のものを用いる請求項5から請求項7の何れかに記載の複合溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−56374(P2013−56374A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−252947(P2012−252947)
【出願日】平成24年11月19日(2012.11.19)
【分割の表示】特願2008−231728(P2008−231728)の分割
【原出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】