説明

複合溶接装置および複合溶接方法

【課題】ギャップ尤度を向上できると共に、スパッタの発生を抑制できる複合溶接装置および複合溶接方法を提供すること。
【解決手段】レーザ溶接およびアーク溶接が組み合わされるので、溶接速度が速い場合でも均一なビードを形成できる。また、溶接進行方向の前後に並設されアーク溶接を行う第1電極4a及び第2電極4cと、それらのねらい位置を母材W同士の当接部に移動させるか、又は溶接進行方向からみて母材W間のギャップの中心線の右側および左側に移動させる移動手段7,8とを備えているので、ギャップがない場合は溶着金属の幅を狭くし、ギャップがある場合は溶着金属の幅を広げることができる。その結果、母材W間を溶着金属で満たすことができ、溶接欠陥の発生を防止できる。よって、ギャップ尤度を向上できる。さらに、アークを揺動させないので、アークの指向性を安定させることができ、スパッタの発生を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合溶接装置および複合溶接方法に関し、特に、ギャップ尤度を向上できると共に、スパッタの発生を抑制できる複合溶接装置および複合溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザ溶接とアーク溶接とを組み合わせた複合溶接装置が用いられている。この複合溶接装置によれば、レーザ溶接とほぼ同等の溶接速度が得られ、さらにアーク溶接の補完効果により、均一なビードの形成が期待される。
【0003】
しかしながら、突合せ溶接や隅肉溶接がされる母材は、面が湾曲したり端部がうねったりしているので、溶接進行方向で母材間にギャップ(突合せ溶接におけるルート間隔や、隅肉溶接における母材間の隙間)が不規則に生じていた。このため、ギャップの大きな箇所(最大3mm程度)では、母材間が溶着金属で満たされずに溶接欠陥が生じることがあった。即ち、ギャップ尤度(ギャップの許容範囲)が低かった。
【0004】
そこで、レーザ溶接とアーク溶接との複合溶接において、進行方向に交差する左右方向にアークを揺動させて溶接を行う技術が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示される技術では、アークを揺動させることによって溶着金属の幅を広げ、これによりギャップ尤度の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−224130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の技術のようにアークを揺動させると、アークが左または右に移動している間は、アークが引きずられて反進行方向に傾くため、アーク長が長くなる。一方、アークの移動が一時停止する止端(母材の面とビードの表面とが交わる点)ではアークの引きずりがなくなるため、アーク長が短くなる。このようにアークを揺動させることにより、アークの傾きやアーク長が短時間で変化するため、アークの指向性が乱れて液滴が飛散し、スパッタが生じ易いという問題点があった。
【0007】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、ギャップ尤度を向上できると共に、スパッタの発生を抑制できる複合溶接装置および複合溶接方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、請求項1記載の複合溶接装置は、レーザ溶接およびアーク溶接が組み合わされるものであり、溶接進行方向の前後に並設され前記アーク溶接を行う第1電極および第2電極と、それら第1電極および第2電極のねらい位置を母材同士の当接部に移動させるか、又は前記第1電極および前記第2電極のねらい位置を溶接進行方向からみて母材間のギャップの中心線の右側および左側に移動させる移動手段とを備えている。
【0009】
請求項2記載の複合溶接装置は、請求項1記載の複合溶接装置において、前記第1電極および前記第2電極のねらい位置の前記中心線からの離間量に応じて、前記アーク溶接の溶加材の送給速度を変化させる溶加材送給手段を備えている。
【0010】
請求項3記載の複合溶接装置は、請求項1又は2に記載の複合溶接装置において、前記母材間のギャップを検出するギャップ検出装置を備え、前記移動手段は、前記ギャップ検出装置によって検出されるギャップに応じて前記第1電極および前記第2電極のねらい位置の前記中心線からの離間量を変化させる。
【0011】
請求項4記載の複合溶接装置は、請求項3記載の複合溶接装置において、前記ギャップ検出装置により検出されるギャップの有無を判断するギャップ判断手段と、前記ギャップ判断手段によりギャップがないと判断される場合に、前記移動手段を作動させて前記第1電極および前記第2電極のねらい位置を母材同士の当接部に移動させる第1ねらい位置調整手段と、前記ギャップ判断手段によりギャップがあると判断される場合に、前記移動手段を作動させて前記第1電極および前記第2電極のねらい位置を溶接進行方向からみて前記中心線の右側および左側に移動させる第2ねらい位置調整手段とを備えている。
【0012】
請求項5記載の複合溶接装置は、請求項1から4のいずれかに記載の複合溶接装置において、前記第1電極および前記第2電極を保持する電極保持部と、その電極保持部の前記第1電極と前記第2電極との間に溶接線と直交して配設される回動中心軸とを備え、前記移動手段は、前記回動中心軸の回りに前記電極保持部を溶接進行方向に対して所定の角度回動させる回動角調整装置を備えている。
【0013】
請求項6記載の複合溶接方法は、レーザ溶接およびアーク溶接を組み合わせて母材同士を溶接する複合溶接方法において、溶接進行方向の前後に並設されて前記アーク溶接を行う第1電極および第2電極のねらい位置を、溶接進行方向からみて前記母材間のギャップの中心線の右側および左側に移動させる移動工程と、その移動工程によって移動された前記第1電極および前記第2電極により溶接を行う溶接工程とを備えている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の複合溶接装置によれば、レーザ溶接およびアーク溶接が組み合わされるので、溶接速度が速い場合でも均一なビードを形成できる。さらに、溶接進行方向の前後に並設されアーク溶接を行う第1電極および第2電極と、それら第1電極および第2電極のねらい位置を母材同士の当接部に移動させるか、又は第1電極および第2電極のねらい位置を溶接進行方向からみて母材間のギャップの中心線の右側および左側に移動させる移動手段とを備えているので、第1電極および第2電極のねらい位置をギャップに応じて変えることができる。これにより、母材間にギャップがない場合は溶着金属の幅を狭くし、母材間にギャップがある場合は溶着金属の幅を広げることができる。その結果、ギャップがある場合でも母材間を溶着金属で満たすことができ、溶接欠陥の発生を防止できる。よって、ギャップ尤度を向上できる効果がある。
【0015】
さらに、アークを揺動させないので、アークの傾きやアーク長の変化がほとんどなく、アークの指向性を安定させることができる。よって、スパッタの発生を抑制できる効果がある。
【0016】
請求項2記載の複合溶接装置によれば、請求項1記載の複合溶接装置の奏する効果に加え、第1電極および第2電極のねらい位置の中心線からの離間量に応じて、アーク溶接の溶加材の送給速度を変化させる溶加材送給手段を備えているので、ギャップが大きな場合は溶加材の送給速度を上げることにより、溶接速度を低下させることなく溶着金属の体積を増加させて、溶着不良が生じることを防止できる。よって、溶接速度を低下させることなくギャップ尤度を向上できる効果がある。
【0017】
請求項3記載の複合溶接装置によれば、請求項1又は2に記載の複合溶接装置の奏する効果に加え、母材間のギャップを検出するギャップ検出装置を備え、移動手段は、ギャップ検出装置によって検出されるギャップに応じて第1電極および第2電極のねらい位置の中心線からの離間量を変化させるので、ギャップに応じて第1電極および第2電極を自動で誘導して母材を溶接できる効果がある。
【0018】
請求項4記載の複合溶接装置によれば、請求項3記載の複合溶接装置の奏する効果に加え、ギャップ検出装置により検出されるギャップの有無を判断するギャップ判断手段と、ギャップ判断手段によりギャップがないと判断される場合に、移動手段を作動させて第1電極および第2電極のねらい位置を母材同士の当接部に移動させる第1ねらい位置調整手段とを備えているので、ギャップがないと判断される場合は溶着金属の幅を狭くすることができる。さらに、ギャップ判断手段によりギャップがあると判断される場合に、移動手段を作動させて第1電極および第2電極のねらい位置を溶接進行方向からみて中心線の右側および左側に移動させる第2ねらい位置調整手段を備えているので、ギャップがあると判断される場合は溶着金属の幅を広げることができる。これにより、簡単な制御でギャップ尤度を向上できるという効果がある。
【0019】
請求項5記載の複合溶接装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の複合溶接装置の奏する効果に加え、第1電極および第2電極を保持する電極保持部と、その電極保持部の第1電極と第2電極との間に溶接線と直交して配設される回動中心軸とを備え、移動手段は、回動中心軸の回りに電極保持部を溶接進行方向に対して所定の角度回動させる回動角調整装置を備えているので、回動角調整装置によって電極保持部を所定の角度回動させることで、第1電極および第2電極のねらい位置を溶接進行方向からみて母材間のギャップの中心線の右側および左側に移動させることができる。このように、電極保持部を回動する角度を変えるだけで、第1電極および第2電極を溶接進行方向からみて左右に同時に移動させることができる。これにより、第1電極および第2電極を別々に移動させる場合と比較して、装置構成や制御を簡素化できる効果がある。
【0020】
請求項6記載の複合溶接方法によれば、レーザ溶接およびアーク溶接が組み合わされるので、溶接速度が速い場合でも均一なビードを形成できる。さらに、溶接進行方向の前後に並設されてアーク溶接を行う第1電極および第2電極のねらい位置を、母材間のギャップの中心線の右側および左側に移動させる移動工程と、移動された第1電極および第2電極により溶接を行う溶接工程とを備えているので、母材間にギャップがある場合でも母材間を溶着金属で満たすことができ、溶接欠陥の発生を防止できる。よって、ギャップ尤度を向上できる効果がある。さらに、アークを揺動させないので、アークの傾きやアーク長の変化がほとんどなく、アークの指向性を安定させることができる。よって、スパッタの発生を抑制できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施の形態における複合溶接装置を模式的に示した模式図である。
【図2】(a)は第1電極および第2電極のねらい位置を母材同士の当接部とした平面視による模式図であり、(b)は第1電極および第2電極のねらい位置を溶接進行方向からみて母材間のギャップの中心線の右側および左側とした平面視による模式図であり、(c)は第1電極および第2電極のねらい位置を溶接進行方向からみて母材間のギャップの中心線の右側および左側とした側面視による模式図である。
【図3】離間量制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図4】離間量制御処理を示すフローチャートである。
【図5】第2実施の形態における複合溶接装置を模式的に示した模式図である。
【図6】(a)は第1電極および第2電極のねらい位置を母材同士の当接部とした平面視による模式図であり、(b)は第1電極および第2電極のねらい位置を溶接進行方向からみて母材間のギャップの中心線の右側および左側とした平面視による模式図である。
【図7】離間量制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図8】離間量制御処理を示すフローチャートである。
【図9】第3実施の形態における複合溶接装置において第1電極および第2電極のねらい位置を溶接進行方向からみて母材間のギャップの中心線の右側および左側とした平面視による模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、複合溶接装置1について説明する。図1は第1実施の形態における複合溶接装置1を模式的に示した模式図である。まず、複合溶接装置1の概略構成について説明する。図1に示すように複合溶接装置1は、図示しないレールに案内され母材Wと所定間隔を保ちつつ母材Wに沿って移動可能に構成された装置本体2と、装置本体2に保持されたレーザ照射部3と、装置本体2に保持されたアーク発生部4とを主に備えて構成されている。なお、本実施の形態においては、装置本体2の移動方向は図1左右方向であり、溶接進行方向を矢印で示している。
【0023】
レーザ照射部3は、母材Wに向かってレーザ光Bを照射する部位であり、レーザ光を発生させるレーザ発振器3aと、レーザ発振器3aが光ファイバ3bによって接続されたレーザヘッド3cとを主に備えて構成されている。レーザヘッド3cは、レーザヘッド3cに内蔵された図示しないレンズによってレーザ光を集光し、集光された高エネルギのレーザ光Bを母材に向かって照射する。
【0024】
アーク発生部4は、母材Wとの間でアークを発生させる部位であり、第1電極4aを保持する第1トーチ4bと、第2電極4cを保持する第2トーチ4dとを主に備えて構成されている。第1トーチ4b及び第2トーチ4dは、溶加材M1,M2、溶接電流およびシールドガスの供給を行う部材であり、溶接進行方向の前後に並設されている。これにより、第1電極4a及び第2電極4cは溶接進行方向の前後に並設される。
【0025】
なお、本実施の形態においては、第1トーチ4b及び第2トーチ4dは90°未満のトーチ角度で装置本体2に配設されている。また、第1電極4a及び第2電極4cは消耗電極であり、第1トーチ4b及び第2トーチ4dに送給された溶加材M1,M2が第1電極4a及び第2電極4cとしてはたらく。溶加材M1,M2は、第1溶加材送給装置5及び第2溶加材送給装置6によって第1トーチ4b及び第2トーチ4dにそれぞれ送給される。
【0026】
第1トーチ4b及び第2トーチ4dは、装置本体2に保持された第1電極移動装置7及び第2電極移動装置8に固定されている。第1電極移動装置7及び第2電極移動装置8は溶接進行方向と略直交する方向(図1紙面垂直方向)に水平に伸縮可能に構成されている。これにより、第1電極移動装置7及び第2電極移動装置8を伸縮させて第1トーチ4b及び第2トーチ4dを移動させ、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を変えることができる。また、第1電極4a及び第2電極4cを水平に移動させるので、第1電極4a及び第2電極4cと母材Wとの距離が変わることがなく、アーク長を一定に保つことができる。
【0027】
また、本実施の形態においては、第1電極4a及び第2電極4cが保持される第1トーチ4b及び第2トーチ4dは、溶接進行方向に対してレーザヘッド3cの後方に配設されている。第1トーチ4b及び第2トーチ4dが溶接進行方向に対してレーザヘッド3cの前方に配設されると、アークによって母材Wに形成される溶融池にレーザ光が照射されることとなり、溶融池の溶着金属が飛散し、ビードに穴があいたりブローホールが生じたりする不具合が生じ易くなる。しかし、複合溶接装置1は、第1トーチ4b及び第2トーチ4dがレーザヘッド3cの後方に配設されているので、これら不具合の発生が抑制され、均一なビードを形成できる。
【0028】
次に、図2を参照して、第1電極移動装置7及び第2電極移動装置8によって移動される第1電極4a及び第2電極4cについて説明する。図2(a)は第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を母材W同士の当接部Tとした平面視による模式図であり、図2(b)は第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を溶接進行方向からみて母材W間のギャップGの中心線cの右側および左側とした平面視による模式図であり、図2(c)は第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を溶接進行方向からみて母材W間のギャップGの中心線cの右側および左側とした側面視による模式図である。なお、図2では、第1トーチ4b、第2トーチ4d及びレーザヘッド3cの軸方向の長さの図示が省略されている。また、本実施の形態では突合せ溶接の場合について説明する。
【0029】
上述したように、第1トーチ4b及び第2トーチ4dは第1電極移動装置7及び第2電極移動装置8により溶接進行方向と略直交する方向にそれぞれ移動される。これにより、第1電極移動装置7及び第2電極移動装置8を作動させて、図2(a)に示すように、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を母材W同士の当接部Tに移動させることができる。なお、レーザヘッド3cによるレーザ光Bの照射位置も、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置と同様に母材W同士の当接部Tである。
【0030】
なお、図2(a)に示す状態は、母材W同士が当接されて母材W間にギャップG(ルート間隔)が存在しない状態である。この場合、母材W同士の当接部Tは母材W間のギャップGの中心線c(図2(b)、図2(c)参照)と一致する。従って、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置のギャップGの中心線cからの離間量は0である。このように、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を母材W同士の当接部Tに移動させることにより(ギャップGの中心線cからの離間量を0とすることにより)、溶着金属の幅を狭くすることができる。これにより、母材Wの厚さ方向に溶着金属を深く溶け込ませることができると共に、余盛の小さな均一なビードを得ることができる。
【0031】
また、第1電極移動装置7及び第2電極移動装置8を作動させて、図2(b)に示すように、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を溶接進行方向からみて、母材W間のギャップGの中心線cの右側および左側に移動させることができる。なお、レーザヘッド3cによるレーザ光Bの照射位置は、母材W間のギャップGの中心線c上である。
【0032】
ここで、図2(c)を参照して、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置について説明する。図2(c)に示すように、母材W間のギャップ(ルート間隔)をA(単位はmm)、ギャップの中心線cから第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置までの離間量をs(単位はmm)として、離間量sをA/4とすることができる。離間量sをA/4とすることにより、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置をギャップGの中心線cから母材Wの端面までの中間位置とすることができ、母材W間に溶着金属をムラなく満たすことができる。但し、この離間量(A/4)に限定するものではなく、適宜設定できる。
【0033】
以上のように、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置をギャップGの中心線cの右側および左側に移動させることにより、溶着金属の幅を広くすることができる。これにより、母材W間のギャップGに溶着金属を満たすことができ、溶接欠陥の発生を防止できる。よって、ギャップ尤度を向上できる。
【0034】
なお、第1溶加材送給装置5及び第2溶加材送給装置6は、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置の中心線cからの離間量sに応じて、溶加材M1,M2の送給速度を変化させることができる。離間量sが大きくなるにつれ(即ちギャップAが大きくなるにつれ)、第1溶加材送給装置5及び第2溶加材送給装置6による溶加材M1,M2の送給速度を速くすることにより、溶接速度を低下させることなく溶着金属の体積を増加させて、溶着不良が生じることを防止できる。これにより、溶接速度を低下させることなく(3m/分以上の溶接速度を維持したまま)ギャップ尤度を向上できる。
【0035】
図1に戻って説明する。複合溶接装置1は、溶接進行方向に対してレーザ照射部3及びアーク発生部4の前方に位置するように装置本体2に配設されたギャップ検出センサ9aを備えている。ギャップ検出センサ9aはギャップAを検出するデバイスである。本実施の形態では、ギャップ検出センサ9aは光学式センサで構成され、母材Wに向かってレーザ光B1を発生するレーザ発振器9a1と、母材Wで反射したレーザ光(反射光B2)を透過する一方、アーク光等による波長の一部を遮断するフィルタ9a2と、フィルタ9a2を透過した反射光B2を集光するレンズ9a3と、レンズ9a3により集光された反射光B2を受光する受光器9a4とを主に備えて構成されており、図示しない揺動装置によって、母材W同士の当接部T(図2(a)参照)や母材W間のギャップG(図2(b)参照)に直交する方向に揺動される。これにより、レーザ光B1の照射位置は当接部TやギャップGを横断して変位し、受光器9a4はその照射位置における反射光B2を検出する。母材Wの表面と、当接部TやギャップGとは、照射されたレーザ光B1の反射面が異なるので、受光器9a4による反射光B2の検出位置が異なる。その結果、ギャップ検出センサ9aは、レーザ光B1の照射位置と、それに対応する反射光B2とを検出することにより、当接部TやギャップGの位置やギャップA(大きさ)を検出することができる。
【0036】
離間量制御装置10は、上述したように構成される複合溶接装置1の各部を制御するための装置であり、例えば、ギャップ検出センサ9aが検出するギャップAに応じて第1電極移動装置7や第2電極移動装置8、第1溶加材送給装置5や第2溶加材送給装置6を作動制御する。また、ギャップ検出センサ9aが検出するギャップAや当接部Tの位置に応じて図示しない移動装置を作動制御し、図示しないレールに対して装置本体2自体を上下左右に移動させ、装置本体2の上下左右の位置を変化させる。これにより母材W間の適正箇所を溶接できる。
【0037】
次いで、図3を参照して、離間量制御装置10の詳細構成について説明する。図3は、離間量制御装置10の電気的構成を示したブロック図である。離間量制御装置10は、図3に示すように、CPU11、ROM12及びRAM13を備え、それらがバスライン14を介して入出力ポート15に接続されている。また、入出力ポート15には、第1溶加材供給装置5等の装置が接続されている。
【0038】
CPU11は、バスライン14により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM12は、CPU11により実行される制御プログラム(例えば、図4に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を格納した書き換え不能な不揮発性のメモリである。RAM13は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。
【0039】
ギャップ検出装置9は、溶接される母材W間のギャップAを検出すると共に、その検出結果をCPU11に出力するための装置であり、ギャップAを検出する上述したギャップ検出センサ9aと、そのギャップ検出センサ9aの検出結果を処理してCPU11に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。なお、図3に示す他の入出力装置17としては、例えば、作業者が入力することにより第1電極移動装置7や第2電極移動装置8を作動させるペンダント(携帯ユニット)などが例示される。
【0040】
次いで、図4を参照して離間量制御処理について説明する。図4は離間量制御処理を示すフローチャートである。この処理は、離間量制御装置10の電源が投入されている間、CPU11によって繰り返し(例えば、1ms間隔で)実行される処理であり、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を調整することで、ギャップ尤度を向上させると共にスパッタの発生を抑制する。
【0041】
CPU11は離間量制御処理に関し、まず、母材W間のギャップA(図2(c)参照)を取得する(S1)。なお、この処理は、上述したようにギャップ検出センサ9a(図1参照)及びギャップ検出装置9(図3参照)を用いて行われる。CPU11は取得したギャップAを、装置本体2の位置データと関連付けてRAM13に記憶させる。ギャップAを装置本体2の位置データと関連付けてRAM13に記憶させるのは、ギャップ検出センサ9は溶接進行方向に対し第1電極4a及び第2電極4cに先行して配置されているので、ギャップAを検出した位置に第1電極4a及び第2電極4cが達するまでのタイムラグを考慮するためである。
【0042】
装置本体2が母材Wに沿って移動し、S1の処理でギャップAを取得した位置に第1電極4aが達すると、CPU11は、ギャップAが所定範囲内(本実施の形態においては0〜1mm)かを判断する(S2)。その結果、ギャップAが所定範囲内である(ギャップが存在しない又は小さい)と判断される場合には(S2:Yes)、CPU11は第1電極移動装置7及び第2電極移動装置8を作動して、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置のギャップGの中心線c(又は母材W同士の当接部T)(図2参照)からの離間量sを0に設定する(S3)。次いで、第1溶加材送給装置5及び第2溶加材送給装置6による溶加材M1,M2の送給速度を初期値a(但し、aは溶接速度や溶接電流などによって決まる正の定数である。)に設定して(S4)、この離間量制御処理を終了する。
【0043】
即ち、ギャップが存在しないか小さい場合(本実施の形態では1mm未満)は、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置のギャップGの中心線c(又は母材W同士の当接部T)からの離間量を0に設定しつつ、母材Wに沿って装置本体2を移動させてレーザ溶接およびアーク溶接を行うことにより、溶着金属の幅を狭くすることができる。これにより、母材Wの厚さ方向に溶着金属を深く溶け込ませることができると共に、余盛の小さな均一なビードを得ることができる。また、ギャップが存在しないか小さい場合(本実施の形態では1mm未満)は、微小な移動制御を行うことなく離間量を0に設定することにより、制御の簡素化を図ることができる。
【0044】
一方、S2の処理の結果、ギャップAが所定範囲内にない(ギャップAが大きい)と判断される場合には(S2:No)、CPU11は第1電極移動装置7及び第2電極移動装置8を作動して、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を溶接進行方向からみて、ギャップの中心線cの右側および左側に移動させると共に、中心線cからの離間量sをA/4に設定する(S5)。次いで、第1溶加材送給装置5及び第2溶加材送給装置6による溶加材M1,M2の送給速度を、離間量sに応じた値(本実施の形態ではa+b・s。但し、bは溶接速度や溶接電流などにより決まる正の定数である。)に設定して(S4)、この離間量制御処理を終了する。
【0045】
即ち、ギャップAが所定範囲内にない場合(本実施の形態では1mm以上)は、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置のギャップGの中心線cからの離間量sをA/4に設定し、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を溶接進行方向からみてギャップGの中心線cの右側および左側に移動させた後(以上、移動工程)、この状態で母材Wに沿って装置本体2を移動させてレーザ溶接およびアーク溶接を行うことにより(以上、溶接工程)、溶着金属の幅を広くすることができる。これにより、母材W間のギャップGに溶着金属を満たすことができ、溶接欠陥の発生を防止できる。よって、ギャップ尤度を向上できる。
【0046】
また、第1トーチ4bや第2トーチ4d(図1参照)を揺動させないので、アークの傾きやアーク長の変化がほとんどなく、アークの指向性を安定させることができる。よって、スパッタの発生を抑制できる。
【0047】
さらに溶加材M1,M2の送給速度を、離間量sに応じて初期値aよりも大きな値(a+b・s)とすることにより、溶接速度を低下させることなく溶着金属の体積を増加させて、溶着不良が生じることを防止できる。これにより、溶接速度を低下させることなくギャップ尤度を向上できる。
【0048】
次に、図5から図8を参照して第2実施の形態について説明する。図5は第2実施の形態における複合溶接装置100を模式的に示した模式図である。第1実施の形態では、第1トーチ4b及び第2トーチ4dが第1電極移動装置7及び第2電極移動装置8によってそれぞれ移動される場合を説明したが、第2実施の形態では、電極保持部101に保持された第1電極4a及び第2電極4cが一体的に移動される場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略し、後述第3実施の形態についても同様とする。
【0049】
複合溶接装置100は、図5に示すように、第1電極4aを備える第1トーチ4bと、第2電極4cを備える第2トーチ4dとを保持する電極保持部101を備えている。電極保持部101は母材Wと略垂直(図5上下方向)に配設された回動中心軸102(図6参照)を備え、複合溶接装置100は、回動中心軸102の回りに電極保持部101を溶接進行方向に対して所定の角度回動させる回動角調整装置103(図7参照)を備えている。
【0050】
次に、図6を参照して、回動角調整装置103によって移動される第1電極4a及び第2電極4cについて説明する。図6(a)は第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を母材W同士の当接部Tとした平面視による模式図であり、図6(b)は第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を溶接進行方向からみて母材W間のギャップGの中心線cの右側および左側とした平面視による模式図である。なお、図6では、第1トーチ4b、第2トーチ4d及びレーザヘッド3cの軸方向の長さの図示、第1電極4a、第2電極4c、第1トーチ4b及び第2トーチ4dが傾斜している図示が省略されている。また、本実施の形態では突合せ溶接の場合について説明する。
【0051】
上述したように、第1トーチ4b及び第2トーチ4dは電極保持部101に保持されており、回動中心軸102の回りに電極保持部101を溶接進行方向に対して所定の角度回動させることにより一体的に移動される。図6(a)に示すように、回動中心軸102は第1電極4aの軸と第2電極4cの軸とを結ぶ直線の中点に、溶接線(溶接される箇所であり、当接部TやギャップGの中心線cと一致する。)と直交して配設されている。これにより、回動角調整装置103(図7参照)を作動させて、図6(a)に示すように、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を母材W同士の当接部Tに移動させることができる。なお、レーザヘッド3cによるレーザ光Bの照射位置も、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置と同様に母材W同士の当接部Tである。
【0052】
このように、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を母材W同士の当接部Tに移動させつつ(ギャップGの中心線cからの離間量を0としつつ)、母材Wに沿って装置本体2を移動させてレーザ溶接およびアーク溶接を行うことにより、第1実施の形態で説明したように、溶着金属の幅を狭くすることができる。これにより、母材Wの厚さ方向に溶着金属を深く溶け込ませることができると共に、余盛の小さな均一なビードを得ることができる。
【0053】
また、回動角調整装置103(図7参照)を作動させて、図6(b)に示すように、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を溶接進行方向からみて、母材W間のギャップGの中心線cの右側および左側に移動させることができる。なお、レーザヘッド3cによるレーザ光Bの照射位置は、母材W間のギャップGの中心線c上である。
【0054】
ここで、図6(b)を参照して、電極保持部101の回動角θについて説明する。図6(b)に示すように、母材W間のギャップ(ルート間隔)をA(単位はmm)、ギャップGの中心線cから第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置までの離間量s(単位はmm)をA/4とする。また、回動中心軸102から第1電極4a及び第2電極4cの軸までの距離をそれぞれLとする(図6(a)参照)。この場合、sin−1{s/L}=θ(以下「式(1)」と称す)の関係となるので、式(1)から回動角θを求めることができる。
【0055】
以上のように、溶接進行方向に対して電極保持部101を回動中心軸102の回りに回動角θだけ回動させて、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置をギャップGの中心線cの右側および左側に移動させ(以上、移動工程)、この状態で母材Wに沿って装置本体2を移動させてレーザ溶接およびアーク溶接を行うことにより(以上、溶接工程)、溶着金属の幅を広くすることができる。これにより、母材W間のギャップGに溶着金属を満たすことができ、溶接欠陥の発生を防止できる。よって、ギャップ尤度を向上できる。
【0056】
また、電極保持部101の回動角θを変えるだけで、第1電極4a及び第2電極4cを溶接進行方向からみてギャップGの中心線cの左右に同時に移動させることができ、その離間量sも回動角θによって一義的に定めることができる。これにより、第1電極4a及び第2電極4cを別々に移動させる場合と比較して、装置構成や制御を簡素化できる。さらに、母材Wの表面と平行な水平面を電極保持部101が回動できるので、第1電極4a及び第2電極4cと母材Wとの距離が変わることがなく、アーク長を一定に保つことができる。
【0057】
次いで、図7を参照して、離間量制御装置10の詳細構成について説明する。図7は、離間量制御装置10の電気的構成を示したブロック図である。離間量制御装置10は、図7に示すように、CPU11、ROM12及びRAM13を備え、それらがバスライン14を介して入出力ポート15に接続されている。また、入出力ポート15には、回動角調整装置103等の装置が接続されている。
【0058】
次いで、図8を参照して離間量制御処理について説明する。図8は離間量制御処理を示すフローチャートである。CPU11は離間量制御処理に関し、まず、母材W間のギャップA(図6(b)参照)を取得する(S1)。次いで、CPU11は取得したギャップAに基づき回動角θを算出する(S11)。なお、回動角θは、上述したように式(1)から算出される。CPU11は算出した回動角θを、装置本体2の位置データと関連付けてRAM13に記憶させる。回動角θを装置本体2の位置データと関連付けてRAM13に記憶させるのは、第1実施の形態と同様に、ギャップ検出センサ9aがギャップAを検出した位置に第1電極4a及び第2電極4cが達するまでのタイムラグを考慮するためである。
【0059】
装置本体2が母材Wに沿って移動し、S1の処理でギャップAを取得した位置に第1電極4aが達すると、CPU11は回動角調整装置103(図7参照)を作動して電極保持部101(図6(b)参照)を回動角θだけ回動させる(S12)。これにより、ギャップAに応じて、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置のギャップGの中心線cからの離間量sをA/4に設定できる。
【0060】
次いで、CPU11は第1溶加材送給装置5及び第2溶加材送給装置6による溶加材M1,M2の送給速度をa+m・θ(但し、mは溶接速度や溶接電流などによって決まる正の定数である。)に設定して(S13)、この離間量制御処理を終了する。
【0061】
即ち、ギャップAが大きくなるにつれ電極保持部101の回動角θを大きくすることにより、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置のギャップGの中心線c(又は母材W同士の当接部T)からの離間量sを大きくできる。これにより、母材W間にギャップGがない場合やギャップAが小さい場合は溶着金属の幅を狭くし、ギャップAが大きい場合は溶着金属の幅を広げることができる。その結果、ギャップAに関わらず母材W間を溶着金属で満たすことができ、溶接欠陥の発生を防止できる。よって、ギャップ尤度を向上できる。
【0062】
さらに、CPU11は第1溶加材送給装置5及び第2溶加材送給装置6による溶加材M1,M2の送給速度をa+m・θに設定し、回動角θに応じて溶加材M1,M2の送給速度を上げるので、溶接速度を低下させることなく溶着金属の体積を増加させて、溶着不良が生じることを防止できる。よって、溶接速度を低下させることなくギャップ尤度を向上できる。
【0063】
次に、図9を参照して第3実施の形態について説明する。図9は第3実施の形態における複合溶接装置200において、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置を溶接進行方向からみて母材W1,W2間のギャップGの中心線cの右側および左側とした平面視による模式図である。第2実施の形態では、電極保持部101に保持された第1電極4a及び第2電極4cの軸と回動中心軸102との距離がいずれもLであり、第1電極4aの軸と第2電極4cの軸とを結ぶ中点に回動中心軸102が配設された場合について説明したが、第3実施の形態では、第1電極4aの軸寄りに回動中心軸202が配設された場合について説明する。なお、第2実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0064】
複合溶接装置200の電極保持部201に配設された回動中心軸202は、図9に示すように、第1電極4aの軸と第2電極4cの軸とを結ぶ直線上であって、第1電極4aの軸寄りに配置されている。具体的には、溶接進行方向に先行する第1電極4aの軸と回動中心軸202との距離がL1に設定され、第1電極4aより遅れて進行する第2電極4cの軸と回動中心軸202との距離がL2(但しL1<L2)に設定されている。
【0065】
ここで、図9に示すように母材W1,W2の端部が湾曲し、さらに母材W1,W2間にギャップGがある場合、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置をギャップGの中心線cの左右に移動させると、ギャップGに沿って進行する第1電極4aの軌跡が示す回転半径と第2電極4cの軌跡が示す回転半径とに差が生じ、図9では、第2電極4cの軌跡が示す回転半径が第1電極4aの軌跡が示す回転半径より大きくなる。このような場合に第2実施の形態における複合溶接装置100では、第1電極4aの軸と第2電極4cの軸とを結ぶ中点に電極保持部101の回動中心軸102が配設されているので、第1電極4a又は第2電極4cのねらい位置をギャップG内とするには、母材W1,W2の端部の曲率にもよるが、電極保持部101の回動角θを頻繁に調整する必要がある。
【0066】
これに対し、第3実施の形態における複合溶接装置200は、先行する第1電極4aの軸寄りに電極保持部201の回動中心軸202が配設されているので、第1電極4aの軌跡が示す回転半径と第2電極4cの軌跡が示す回転半径とに差があっても、電極保持部201の回動角θを頻繁に調整することなく、第1電極4a又は第2電極4cのねらい位置をギャップG内とすることができる。これにより、電極保持部201の回動角θの制御を容易化できる。
【0067】
なお、図4に示すフローチャート(離間量制御処理)において、請求項2記載の溶加材送給手段としてはS4、S6の処理がそれぞれ相当する。また、請求項4記載のギャップ判断手段としてはS2の処理が、請求項4記載の第1ねらい位置調整手段としてはS3の処理が、請求項4記載の第2ねらい位置調整手段としてはS5の処理がそれぞれ相当する。また、図8に示すフローチャート(離間量制御処理)において、請求項2記載の溶加材送給手段としてはS13の処理が相当する。
【0068】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量や寸法等)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0069】
上記実施の形態では、装置本体2は図示しないレールに案内されて溶接進行方向に移動する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、マニプレータやロボットによって装置本体2を移動させることも可能である。この場合は、溶接前にマニプレータやロボットにティーチングを行うことにより、多様な形状の母材を溶接できる。
【0070】
上記実施の形態では、第1電極4a及び第2電極4cは、MIG溶接やMAG溶接のような消耗電極の場合(溶加材M1,M2が第1電極4a及び第2電極4cとして機能する)について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、TIG溶接のような非消耗電極とすることも可能である。この場合は母材と非消耗電極との間に発生したアーク内に溶加材M1,M2を送給することで、上記実施の形態と同様の作用が得られる。
【0071】
上記実施の形態では、溶接進行方向に対してレーザ照射部3がアーク発生部4に先行して配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の配置とすることも可能である。他の配置としては、アーク発生部4をレーザ照射部3に先行して配置、アーク発生部4の第1電極4aと第2電極4cとの間にアーク発生部3を配置することが挙げられる。
【0072】
移動手段として、上記第1実施の形態では第1電極移動装置7及び第2電極移動装置8を用い、第1電極4a及び第2電極4cをそれぞれ水平方向に移動させる場合について説明し、上記第2実施の形態では回動角調整装置103を用い、第1電極4a及び第2電極4cを保持した電極保持部101を母材Wの表面と平行な水平面で回動させる場合について説明したが、必ずしもこれらに限られるものではなく、他の移動手段を用いることも可能である。他の移動手段としては、第1トーチ4b及び第2トーチ4dの上部を回動中心として、第1電極4a及び第2電極4cをギャップGの幅方向に揺れ動かすことが挙げられる。この場合は、第1電極4a及び第2電極4cと母材Wの表面との距離が変わるためアーク長が変化するが、垂下特性の溶接電源を用いることにより、アーク長が変化しても溶加材M1,M2の溶融量が変わらないようにすることができる。
【0073】
なお、複数の溶接線を同時に溶接する場合には、上記実施の形態で説明した複合溶接装置1,100,200を母材W間の溶接されるべき箇所(溶接線)に1台ずつ配置すると共に、それら複数の複合溶接装置1,100,200の装置本体2同士を連結し、溶接線に沿って同じ速度で進行させることにより、複数の溶接線を一斉に接合することができる。複数の接合線の一斉接合は、例えば、鉄道車両の側構体や屋根構体のパネルを接合する場合に適用できる。
【0074】
ここで、ギャップの広狭に応じて溶接速度を変化させることによりギャップ尤度を向上させる溶接装置を用いた場合は、ギャップの大きなところが溶接の律速となって溶接速度が低下する。そのため、複数の溶接装置の各々の溶接速度を変化させながら移動させる手段が必要となる。溶接装置を移動させる手段は、溶接装置ごとに必要となる。
【0075】
これに対し複合溶接装置1,100,200は、上記実施の形態で説明したように、ギャップの広狭によらず溶接速度を一定にできるため、各々の溶接線の突合せ部のギャップの状況が異なっていても、複数の装置本体2ごとに移動速度を変える必要がない。そのため、連結した複数の装置本体2を溶接線に沿って移動させる手段を、1台の装置によって構成できる。従って、装置全体を安価に構成できる。さらに、各々の複合溶接装置1,100,200は高速溶接が可能であるから、複数の溶接線を一斉に高速溶接でき、溶接作業効率を飛躍的に向上できる。
【0076】
上記実施の形態では、ギャップ検出センサ9aが光学式センサの場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他のセンサとすることも可能である。他のセンサとしては、接触式センサ、非接触式のアークセンサ等が挙げられる。
【0077】
上記実施の形態では、ギャップ検出装置9を備える場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ギャップ検出装置9の代わりに作業者が目視でギャップAを認識し、認識したギャップAに基づいてペンダント等の携帯用の入力装置を操作して、第1電極移動装置7及び第2電極移動装置8や回動角調整装置103を作動させることも可能である。
【0078】
上記実施の形態では、レーザヘッド3cから照射されるレーザ光Bの照射位置を、母材Wの当接部TやギャップGの中心線c上とする場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、母材Wの材質やギャップA等によって、レーザヘッド3cを回転若しくは揺動させることにより、レーザ光Bの照射位置を母材Wの当接部TやギャップGの中心線c上からずらすことも可能である。レーザ光Bの照射位置を変えることにより、レーザ溶接される領域を広げることができる。
【0079】
また、レーザヘッド3cを溶接進行方向からみて右または左に傾けることにより、レーザ光Bの照射角度を傾けることも可能である。これにより、ギャップが広い場合でも、レーザ光がギャップを通り抜けることなく、母材Wのギャップ側面に照射されるため、溶接が可能となる。
【0080】
上記実施の形態では、第1トーチ4b及び第2トーチ4dのトーチ角度を90°未満に設定して、第1電極4a及び第2電極4cのねらい位置をレーザヘッド3cによるレーザ光Bの照射位置に近付ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、レーザヘッド3cを傾けてレーザ光Bの照射位置を第1電極4aや第2電極4cのねらい位置に近付けることも可能である。
【0081】
上記実施の形態では、複合溶接装置1,100,200を突合せ溶接に適用した場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、隅肉溶接に適用することも可能である。また、母材Wに開先を設けることも可能であるが、本発明の複合溶接装置1,100,200は、母材Wに開先を設けない場合や狭開先の場合の高速溶接を行う際に特に有効である。開先を設けない場合や狭開先の場合は、ギャップAの変化によって、母材Wの接合に必要な溶着金属量が大きく変化するからである。
【符号の説明】
【0082】
1,100,200 複合溶接装置
4a 第1電極
4c 第2電極
7 第1電極移動装置(移動手段)
8 第2電極移動装置(移動手段)
9 ギャップ検出装置
101,201 電極保持部
102,202 回動中心軸
103 回動角調整装置(移動手段)
c ギャップの中心線
M1,M2 溶加材
T 当接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ溶接およびアーク溶接が組み合わされる複合溶接装置において、
溶接進行方向の前後に並設され前記アーク溶接を行う第1電極および第2電極と、
それら第1電極および第2電極のねらい位置を母材同士の当接部に移動させるか、又は前記第1電極および前記第2電極のねらい位置を溶接進行方向からみて母材間のギャップの中心線の右側および左側に移動させる移動手段とを備えていることを特徴とする複合溶接装置。
【請求項2】
前記第1電極および前記第2電極のねらい位置の前記中心線からの離間量に応じて、前記アーク溶接の溶加材の送給速度を変化させる溶加材送給手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の複合溶接装置。
【請求項3】
前記母材間のギャップを検出するギャップ検出装置を備え、
前記移動手段は、前記ギャップ検出装置によって検出されるギャップに応じて前記第1電極および前記第2電極のねらい位置の前記中心線からの離間量を変化させることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合溶接装置。
【請求項4】
前記ギャップ検出装置により検出されるギャップの有無を判断するギャップ判断手段と、
前記ギャップ判断手段によりギャップがないと判断される場合に、前記移動手段を作動させて前記第1電極および前記第2電極のねらい位置を母材同士の当接部に移動させる第1ねらい位置調整手段と、
前記ギャップ判断手段によりギャップがあると判断される場合に、前記移動手段を作動させて前記第1電極および前記第2電極のねらい位置を溶接進行方向からみて前記中心線の右側および左側に移動させる第2ねらい位置調整手段とを備えていることを特徴とする請求項3記載の複合溶接装置。
【請求項5】
前記第1電極および前記第2電極を保持する電極保持部と、
その電極保持部の前記第1電極と前記第2電極との間に溶接線と直交して配設される回動中心軸とを備え、
前記移動手段は、前記回動中心軸の回りに前記電極保持部を溶接進行方向に対して所定の角度回動させる回動角調整装置を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の複合溶接装置。
【請求項6】
レーザ溶接およびアーク溶接を組み合わせて母材同士を溶接する複合溶接方法において、
溶接進行方向の前後に並設されて前記アーク溶接を行う第1電極および第2電極のねらい位置を、溶接進行方向からみて前記母材間のギャップの中心線の右側および左側に移動させる移動工程と、
その移動工程によって移動された前記第1電極および前記第2電極により溶接を行う溶接工程とを備えていることを特徴とする複合溶接方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate