説明

複合炭素繊維基材、プリフォームおよび炭素繊維強化プラスチックの製造方法

【課題】賦形性に優れて、成形後の耐衝撃性に優れる複合強化繊維基材を提供することにある。また、前記の複合強化繊維基材を使用して、繊維配向が乱れず、ハンドリング性および成形されたときに耐衝撃性に優れるプリフォームを提供すること
【解決手段】強化繊維からなるシート状の強化繊維基材の少なくとも片面に、短繊維からなる不織布が積層され、該不織布を形成する短繊維が該強化繊維基材に貫通することにより、該強化繊維基材と該不織布が一体化されていることを特徴とする複合強化繊維基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維複合材料として優れた特性を発揮する複合強化繊維基材並びにその複合基材からなるプリフォームおよびそのプリフォームを用いた繊維強化プラスチックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維をはじめとする高強度、高弾性率の強化繊維からなる繊維強化プラスチック(以下FRPと呼称)は機械的特性に優れることから、航空機の構造材料として多用されている。
【0003】
FRPは繊維配列方向の機械的特性に極めて優れるが、繊維軸からはずれると機械的特性が急激に低下する、すなわち大きな異方性がある。そのため、FRPを航空機の構造材料などに用いる場合は、薄いプリプレグを多数枚積層し、隣接する層の繊維軸が30°〜60°程度ずれるように、いわゆる交差積層し、FRPの面方向には機械的特性が疑似等方性になるように積層されて使用されることが多い。
【0004】
しかし、このようなFRP板に厚さ方向に衝撃が加わると、各層の機械的特性は大きな異方性があるから、衝撃によってFRPの層間にクラックが発生し、層間が剥離して、衝撃を受けたFRP板の圧縮強度が大幅に低下することが知られている。
【0005】
この対策として、たとえばプリプレグの表面に熱可塑性粒子を付着させ、成形した積層体の層間に粒子を配し、衝撃力によるクラックの伝播エネルギーを粒子を破壊させることによって吸収し、層間剥離の面積を小さくすることが行われている。この対策により衝撃を受けたFRP板の残存圧縮強度が大幅に改善され、大型民間航空機の1次構造材料として実用化されるようになった。
【0006】
しかしながら、この方法では下記のような理由によりFRP構造材料の製造コストが高くなるという問題があった。
A.粒子径が小さく、粒子径が均一な熱可塑性粒子を製造するコストが高い。
B.これら粒子をプリプレグの樹脂表面に均一に付着させるため、プリプレグの加工速度が遅くなったり、またBステージ状態のマトリックス樹脂に粒子が分散した樹脂フイルムを作製するなどの別の新たな工程が必要となる。
C.プリプレグの製造および成形条件によっては粒子はプリプレグやプリプレグの樹脂を硬化した後のFRPの層内に入り、正確に所定の粒子を層間に配置させることは困難である。
D.プリプレグを使用してのオートクレーブ成形は、タックのあるプリプレグを使うから、プリプレグとプリプレグの間の空気を脱泡しながらの積層が必要であり、また所定の構造材の厚みにするには薄いプリプレグを何層も積層することが必要となり手間がかかる。
【0007】
原油の価格低迷もあり軽量化によってはさほどの経済効果が得られず、航空機メーカはFRP構造材料の製造コストダウンを強く要望している。
【0008】
一方、最近、成形型のキャビティに強化繊維基材の積層体を充填し、樹脂を注入するレジン・トランスファー・モールディング(RTM)成形法が、低コスト成形法として注目されている。しかし、この方法では積層体の層間に熱可塑性粒子を正確に配置することはできないし、また樹脂のみの改善では、耐衝撃特性に優れる高靭性なFRPとすることは困難である。また、単に強化繊維基材を積み重ねたのでは、各層で基材がずれ、取り扱いが困難であるばかりか繊維配向が乱れ、所定の機械的特性を有するFRPを得ることは困難である
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、賦形性に優れて、成形後の耐衝撃性に優れる複合強化繊維基材を提供することにある。また、前記の複合強化繊維基材を使用して、繊維配向が乱れず、ハンドリング性および成形されたときに耐衝撃性に優れるプリフォームを提供することにある。さらに、耐衝撃性に優れ、信頼性の高いFRPが安価に製造可能な繊維強化プラスチックの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、下記の構成を有する。
【0011】
すなわち、強化繊維からなるシート状の強化繊維基材の少なくとも片面に、短繊維からなる不織布が積層され、該不織布を形成する短繊維が該強化繊維基材に貫通することにより、該強化繊維基材と該不織布が一体化されている複合強化繊維基材を特徴とする。
【0012】
また、強化繊維からなるシート状の強化繊維基材の少なくとも片面に、不織布が積層され、該不織布が該強化繊維基材と粘着剤によって一体化されている強化繊維基材を特徴とする。
また、強化繊維からなるシート状の強化繊維基材の少なくとも片面に、不織布が積層され、該不織布を構成する繊維のうち5〜50重量%が低融点繊維であり、強化繊維基材と不織布が熱融着により一体化されている複合強化繊維基材を特徴とする。
【0013】
また、前記複合強化繊維基材を、強化繊維基材と不織布とが交互になるように多数枚積層したプリフォームを特徴とする。
【0014】
また、前記プリフォームをバッグフイルムで覆い、内部を真空状態にして樹脂を注入し、複合強化繊維基材に樹脂を含浸させた後、樹脂を硬化させることを特徴とする繊維強化プラスチックの製造方法を特徴とする。
【0015】
また、雄型と雌型によって形成されるキャビティのなかに前記プリフォームを設置し、キャビティ内を真空状態にして樹脂を注入し、複合強化繊維基材に樹脂を含浸させた後、樹脂を硬化させることを特徴とする繊維強化プラスチックの製造方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の複合強化繊維基材は、成形型に対するフィット性に優れ、皺を発生させずプリフォームを得ることができる。本発明のプリフォームはハンドリング性に優れ、また基材の層間に繊維からなる不織布層が存在するから、耐衝撃性に優れるFRPが得られる。また、本発明のFRPの製造方法によれば、プリプレグ加工を行わずにFRPが成形されるから、安価な成形品が得られ、かつFRPの層間に正確にインターリーフ層を設けることができ、信頼性に優れるFRP成形品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係わる複合強化繊維基材の概念を示す部分破断斜視図である。
【図2】本発明に係わる複合強化繊維基材を構成する基材が一方向シートの場合の斜視図である。
【図3】本発明に係わる複合強化繊維基材で、構成基材が一方向織物の場合の斜視図である。
【図4】本発明に係わる複合強化繊維基材で、構成基材が一方向ノンクリンプ織物の場合の斜視図である。
【図5】本発明に係わる複合強化繊維基材で、構成基材が二方向織物の場合の斜視図である。
【図6】本発明に係わる複合強化繊維基材で、構成基材がステッチ布帛の場合の斜視図である。
【図7】不織布と基材が繊維の貫通により一体化している状態を示すモデル図である。
【図8】本発明のFRPの成形法を示す1実施例を示す図である。
【図9】本発明の成形法に使用する樹脂拡散媒体の1実施例を示す図である。
【図10】芯鞘型繊維の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の複合強化繊維基材1の概念を示す部分破断斜視面を図1に示した。強化繊維糸条がシート状に配列した強化繊維基材2(以下基材と呼称する)と短繊維からなるポーラスな不織布3が繊維交絡や粘着などの一体化手段(図1には図示せず)によって互いに一体化したものである。
【0019】
図2〜図6に本発明の複合強化繊維基材1の様々な実施態様の部分破断斜視面を示した。
【0020】
図2は強化繊維糸条4が複合強化繊維基材1の長さ方向に並行に配列した一方向シート状物の片面に不織布3を一体化したものである。
【0021】
また、図3は強化繊維糸条4が基材2の長さ方向、つまりたて方向に配列し、よこ方向に強化繊維糸条より細い補助糸5が配列し、経糸4と緯糸5が交錯し、織組織した一方向織物の片面に不織布3を一体化したものである。
【0022】
図4は基材2の長さ方向、つまり織物のたて方向に強化繊維糸条4と補助糸6が配列し、よこ方向に補助糸5が配列し、よこ方向の補助糸5がたて方向の補助糸6と交錯し、強化繊維糸条4が緯糸5と交錯すること無く、真直ぐに配列した、いわゆる一方向ノンクリンプ織物の片面に不織布3を一体化したものである。
【0023】
一方向シート状物や一方向ノンクリンプ織物などのように強化繊維が一方向に配置されている場合、強化繊維糸条間に0.1〜5mm程度の隙間を設け平行に配列することにより、RTM成形や真空バッグ成形での樹脂の流れがよくなり、かつ樹脂含浸速度が速くなるため好ましい。
【0024】
図5は基材2の長さ方向、つまりたて方向に強化繊維糸条4が配列し、よこ方向に強化繊維糸条7が配列し、経糸4と緯糸7が交錯し、織組織した二方向織物の片面に不織布3を一体化したものである。
【0025】
このとき、たて方向およびよこ方向の少なくとも一方の強化繊維糸条が扁平な断面形状を持つものであることにより、たて方向の糸条とよこ方向の糸条が互いに交差したときの屈曲(クリンプ)を小さくすることができ、コンポジットにした場合の強度を向上させることができる。扁平な強化繊維糸条は、幅が4〜30mm、厚みが0.1〜1.0mmの範囲のものが、屈曲を小さく、かつ製織性のよい二方向織物ができ好ましい。
【0026】
また、図6は並行に配列した強化繊維糸条4が基材2の長さ方向(0°)に配列した層8と幅方向(90°)に配列した層9および斜め方向(±α°)に配列した層10、11が交差し、これらの層が細いガラス繊維糸またはポリアラミド繊維糸やポリエステル繊維糸などの有機繊維からなるステッチ糸12で縫合されたステッチ布帛の片面に不織布3を一体化したものである。なお、ステッチ布帛における強化繊維糸条の配列は、前記に限定するものではなく±α°の2方向や0°、±α°の3方向やこれらとマット状物との組み合わせであってもよい。
【0027】
図2〜図6において、基材の片面に不織布を一体化したものを示したが、必ずしも片面に限定するものでは無く、基材の両面に不織布を一体化してもよい。
【0028】
本発明に用いる強化繊維としては、ガラス繊維、ポリアラミド繊維、炭素繊維などの高強度かつ高弾性率の強化繊維が挙げられる。なかでも、引張弾性率が200GPa以上、引張強度が4.5Ga以上の炭素繊維は、高強度かつ高弾性率であるのみならず、耐衝撃性にも優れるので好ましく用いられる。また、強化繊維糸条の太さとしては、特に限定はしないが、550デシテックスから27,000デシテックスの範囲が好ましく、550デシテックスから23,000デシテックス(500デニールから20,000デニール)の範囲がさらに好ましい。
【0029】
なお、炭素繊維糸条1本あたりのフィラメント数は550デシテックスの場合、1000本程度であり、270,000デシテックスでは400,000本程度である。
【0030】
また、上記強化繊維基材の目付は、特に限定はしないが、100〜2000g/mが好ましく、一方向織物の場合150〜1500g/m、二方向織物の場合100〜1000g/m、ステッチ布帛の場合200〜2000g/mのものがより好ましく使用される。
【0031】
また、上記強化繊維基材を構成する織物のカバーファクターは少なくとも95%以上が好ましい。ここでいうカバーファクターとは、織物の投影面積に対する強化繊維の占める割合をいい、この数値が大きい程、経糸と緯糸との交錯箇所の隙間の小さい目の詰まった織物であることを示すものである。従って、この数値が大きいほどFRPに成形した場合に均一な成形体が得られ、特に、カバーファクターが95%以上あると、ほぼ均一なFRP成形体が得られて好ましい。
【0032】
また、本発明に用いる補助糸としては、低熱収縮性のものであることが望ましい。加熱して成形する際、加熱によって補助糸が熱収縮すると、基材の幅が狭くなって補助糸に直交している強化繊維糸条の密度が増加し、強化繊維の分散状態に変化をもたらし、所定の繊維含有率を有するFRPが得られ難くなる。また、強化繊維糸条に並行する補助糸が熱収縮すると強化繊維糸条が局部的に曲がり、FRPにしたとき屈曲部で応力が集中し、引張強度や引張弾性率が低下する。したがって補助糸は、100℃における乾熱収縮率が1.0%以下のものが好ましく、0.1%以下のものがより好ましい。このような補助糸としてはガラス繊維糸やポリアラミド繊維糸などを用いることができる。補助糸の繊度は110デシテックス以上890デシテックス以下(100デニール以上800デニール以下)の細い糸が好ましい。
【0033】
つぎに、本発明の複合強化繊維基材を構成する不織布を説明する。本発明の不織布は短繊維からなり、ニードルパンチや空気や水などの流体によるパンチなどの機械的接結法や少量のバインダーで接結させることによって繊維を絡めて接結した不織布が好ましい。不織布を構成する繊維はランダムに配列しているもの、不織布の長さ方向に平行に配列しているもの、長さ方向に平行に配列したウェブを交差積層されたもののいずれであってもよい。
【0034】
さらに、抄紙法または、スパンボンド法やメルトブロー法などによって得られた連続繊維からなる不織布であっても、目付が小さく伸縮可能な形態の不織布であれば好ましく使用することができる。
【0035】
このような不織布は布帛形成のための接着剤が付着していない、あるいは少量であるのでFRPの特性に悪影響がない。また、繊維の絡み合いによって接結しているので、複合強化繊維基材を成形型にフィットさせて賦形させる際、不織布の繊維の絡み合いが解けたり、繊維が滑ったりしてあらゆる面方向にも簡単に伸びて、成形型に対するフィット性に優れるのである。したがってプリフォームを形成した場合にも、フィット性を阻害することはない。一方、熱可塑性ポリマーなどで強固に接着された不織布は、繊維の位置が固定され、変形に対する自由度が無くなってしまうため好ましくない。
【0036】
また、本発明における不織布の繊維目付は5〜30g/mが好ましい。不織布の目付がこの範囲の下限値よりも低いと、FRP基材層間のインターリーフとしての不織布の繊維量が少なくなり、十分な靱性向上効果が得られにくい。また、不織布の目付がこの範囲の上限値を超えるとFRPにおける強化繊維以外の繊維の割合が多くなり、強度や弾性率といった機械的特性が低下するので好ましくない。
【0037】
複雑な形状の成形型にシート状の基材を皺を発生させずに添わせる、すなわちフィットさせる場合、型の曲面部で繊維の位置が部分的にずれたり、繊維の交錯角度が変化する。したがって、複合強化繊維基材には変形に対する自由度が必要である。たとえば不織布の代わりに紙やフイルムなどを用いた場合、変形に対する自由度が無く、曲面部に添わせると必ず複合強化繊維基材に皺が発生する。基材に皺が入ると皺部で強化繊維が折れ曲がるので、FRPにした時に皺部が弱くなり、破壊の起点となるので好ましくない。
【0038】
上記のフィット性は、強化繊維の配向していない方向に樹脂を含浸しない複合強化繊維基材を引張った時の荷重と変形量の関係で示すことができる。この特性を調べるための引張り方向は強化繊維の配向している方向の中間の方向、たとえば、0°方向と90°方向に強化繊維が配向している場合には45°方向、また0°方向、45°方向、90°方向、135°(−45°)方向の4方向に強化繊維が配向している場合には22.5°、67.5°、112.5°、157.5°方向の特性を調べればよい。つまり複合強化繊維基材の剪断変形に対する自由度、すなわち剪断変形能がフィット性を表すことになる。
【0039】
不織布を構成する繊維としては、ポリアラミド、ナイロン6、ナイロン66、ビニロン、ビリデン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、アクリル、ポリアラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリグリルアミド、ビニロン、PBT、PVA、PBI、PPSなどからなる有機繊維、炭素繊維、あるいはガラス繊維やシリコーンカーバイド繊維などの無機繊維を用いることができる。なかでも結晶性の高いナイロン6、ナイロン66の有機繊維が、衝撃によりFRPの層間にクラックが発生しても、有機繊維の損傷によって衝撃エネルギーが吸収されてクラックの進展を抑え、僅かな繊維量で大きな靭性向上効果が得られ、また汎用的なポリマーなので不織布が安価となるため好ましい。
【0040】
つぎに、本発明の複合強化繊維基材における不織布と基材との一体化状態について説明する。
【0041】
不織布を形成する繊維が基材を形成する強化繊維層を貫通することによって基材と一体化していることが好ましい。このような接合状態であると、接合のための接着剤が不要となりFRPの特性に悪影響を及ぼすようなことはない、また不織布を形成する繊維が強化繊維層を貫通することによって接合されているから、フィット性に優れる不織布が基材のドレープ性を阻害するようなことはないのである。かかる効果を発現させるためには、前記貫通は1〜1000パンチ/cmであることが好ましく、2〜500パンチ/cmであることがより好ましく、10〜100パンチ/cmであることがさらに好ましい。
【0042】
不織布を形成する繊維を強化繊維層を貫通させるには、たとえば不織布を基材の上に置き、ニードルパンチやウォータジェットやエアージェットなどの流体によるパンチングなどの機械的接結法によって行うことができる。なかでもエアージェットによるパンチングは、パンチングによって強化繊維を傷つけることはなく、またパンチング処理後の乾燥などの後処理も簡単なので好ましく用いられる。また、基材の上に、不織布のかわりに、繊維が絡まっていないウェブを置き、機械的接結法によって基材との一体化と不織布の形成を同時に行ってもよい。
【0043】
図7に不織布3の短繊維が基材の強化繊維層4に貫通し、一体化している状態を示すモデル図を示した。不織布3を構成する短繊維13が不織布の面内で絡み合い、また、基材の強化繊維層を完全に貫通した繊維13や基材の強化繊維層の途中まで貫通した繊維13からなっている。また、強化繊維層を完全に貫通した繊維の方向が反転した繊維が再びに貫通している状態であってもよい。
【0044】
なお、基材と不織布の一体化においては、成形準備のため複合強化繊維基材を裁断したり、ハンドリングする際、基材と不織布が剥がれなければよく、繊維の絡み度合いを強くする必要はない。
【0045】
不織布と基材との一体化を、不織布を形成する繊維が基材を形成する強化繊維層を貫通することによって行う場合には、不織布は繊維長20〜120mmの短繊維からなることが好ましい。わずかな繊維量でより強化繊維と交絡数を多くするために繊維の端部数が多くなるようにするため20〜70mmがより好ましい。同様にわずかな繊維量でより強化繊維層を貫通する繊維本数を多くするために、繊維の端部数が多くなるようにするため、不織布を形成する短繊維の繊維径は0.005〜0.03mmが好ましい。
【0046】
本発明においては、基材と不織布を、粘着剤により一体化することも好ましい。なお、粘着剤による一体化はあまり強固に行うと不織布のドレープ性が阻害され、また、不織布との接着により基材のドレープ性も阻害されて複合強化繊維基材としてのドレープ性も損なわれるので、粘着剤の使用量は1〜10g/m程度が好ましく、2〜5g/mがより好ましい。
【0047】
なお、粘着剤としては反応型のビスマレイミド、エポキシ系およびPMMA系のものがFRPの特性を低下させず好ましい。たとえば、これらを有機溶媒や水に希釈して基材または不織布にスプレーして粘着剤を付着させ、基材と不織布を一体化することができる。
【0048】
本発明においては、不織布を形成する繊維に低融点繊維を少量添加し、基材と不織布を熱融着により一体化することも好ましい。また、不織布を形成する繊維に低融点繊維が僅かに含まれていると、型に沿わせながら複合強化繊維基材を賦形し、その上に他の複合強化繊維基材を賦形しながら積層し、これらを低融点繊維の融点以上に加熱、加圧させて接着させてプリフォームを形成することが簡単にできるため好ましい。低融点繊維としては、低融点の熱可塑性ポリマーからなる低融点繊維または低融点ポリマーが鞘部に配置された芯鞘型繊維を用いることができる。
【0049】
不織布中の低融点繊維の割合があまり多いと複合強化繊維基材の変形に対する自由度を喪失させ、また少ないとプリフォームを形成させるときの接着が不十分となるので、低融点繊維の割合は不織布中の5〜50重量%であることが好ましい。より好ましくは、10〜40重量%、さらに好ましくは20〜30重量%である。
【0050】
低融点の熱可塑性ポリマーとしては、共重合ナイロン、変性ポリエステルやビニロンなど、融点が不織布を形成する他の繊維より低く、60〜160℃程度のものが好ましい。
【0051】
さらに芯鞘型繊維では、芯部のポリマーの融点は200〜300℃が好ましい。
【0052】
図10は本発明の不織布に使用する熱可塑性ポリマーからなる芯鞘型繊維25の斜視図であり芯部26のポリマーと芯部26のポリマーよりも融点が低いポリマーの鞘部27からなる。芯鞘型繊維の鞘部27を構成する低融点ポリマーは、融点が芯部を構成するポリマーより低ければよいが、共重合ナイロン、変性ポリエステルやビニロンなど、融点が60〜160℃程度のものが好ましい。なかでも、鞘部が共重合ナイロンで芯部がナイロン6またはナイロン66の組み合わせは、同種のポリマーであるから芯部と鞘部がよく接着し、衝撃などによってFRPに働く応力で芯部と鞘部が剥離するようなことがないため好ましい。
【0053】
芯部のポリマーと鞘部のポリマーの融点差は、50℃以上が好ましい。この範囲の下限値を下回ると芯部のポリマーと鞘部のポリマーとの融点差が小さくなり、鞘部のポリマーを溶融する際、芯部のポリマーまで溶融されることがあり、また、芯部の分子配向が乱れて芯部のポリマーによる耐衝撃性改善効果が小さくなるからである。
【0054】
前記芯鞘型繊維において芯部の占める割合が、繊維断面積の30〜70%の範囲が好ましい。芯部の割合が30%未満であると、衝撃エネルギーを吸収するポリマー成分が少なくなりFRPの衝撃靭性を向上させる効果が小さくなる。また、所定の衝撃エネルギーを吸収させるには不織布の繊維量を大きくすることが必要となり、FRPに占める強化繊維の割合が少なくなり、FRPの機械的特性が低下する。一方、70%を越えると鞘部の低融点ポリマーの量が少なくなり、基材との接着が不十分となる。
【0055】
もちろん、繊維の貫通、低融点繊維の添加、粘着剤あるいはその他の一体化方法から2つ以上選んで併用しても良い。その場合、それぞれの好ましい範囲の上限値を上回らなくとも複数併用することにより、一体化の効果が過剰となり、好ましくない効果が派生したり、あるいはそれぞれの好ましい範囲の下限値に満たなくとも複数併用することにより各効果が相加されて、十分な一体化の効果が達成されることがあり得る。その場合には以下の判別方式を参照することが有用である。特にそれぞれの好ましい範囲の下限値に満たなくとも複数併用することにより各効果が相加されて、十分な一体化の効果が達成されることがあり得る場合において有用である。
【0056】
1≦Σ(M/Mi1) かつ Σ(M/Mi2)≦1 好ましい範囲Σ(M/Mi1)<1 または 1<Σ(M/Mi2) 好ましくない範囲 Σ:添え字iのついた要素について合計を計算する。
【0057】
:i番目の一体化手段の実施されている値
i1:i番目の一体化手段の好ましい範囲の下限値
i2:i番目の一体化手段の好ましい範囲の上限値。
【0058】
また、本発明における不織布は、成形の際、複合強化繊維基材の積層体の層方向への樹脂の含浸性を確保する観点からポーラスな状態であることが好ましい。不織布を形成する繊維によって覆われない、すなわち繊維が存在しない空隙部の占める割合は不織布全体の面積の30%〜95%の範囲が好ましい。30%未満であると樹脂含浸速度が遅くなり、常温硬化型の樹脂を使用した場合、樹脂が全体に行き渡らない状態で樹脂の硬化が始まるので好ましくない。また、95%を超えると不織布の繊維量が少なくなり、本発明の目的とするFRPの層間靭性向上効果が小さくなってしまう。より好ましくは、40%〜80%の範囲である。
【0059】
本発明のプリフォームは、本発明の複合強化繊維基材を、基材と不織布とが交互になるように多数枚積層したものである。
【0060】
複合強化繊維基材同士を一体化する方法は特に限定されないが、不織布を形成する繊維に僅かに混合した低融点の熱可塑性ポリマーを加熱・加圧し、基材と不織布および多数枚積層した複合強化繊維基材同士を型に賦形された形で接着することが好ましい。
【0061】
また、複合強化繊維基材同士を僅かな粘着剤により一体化することも好ましい。使用する粘着剤は複合強化繊維基材を形成させる際に使用する反応型のビスマレイミド、エポキシ系およびPMMA系のものが好ましい。付着量が1〜10g/m複合強化繊維基材およびプリフォームを含めて2〜20g/m程度が好ましい。
【0062】
なお、プリフォームにおける基材の繊維配向は基材同士が同じ方向となるように各層を積層してよいし、またFRPにしたときの機械的性質が疑似等方性になるように繊維配向が0°、90°および±45°となるようにしてもよく、とくに限定されるものではない。
【0063】
本発明のプリフォームは型に対するフィット性に優れる複合強化繊維基材からなるから、プリフォームは型との間に隙間を形成すること無く密着した形に充填されるので、FRPにしたとき表面層に樹脂過多層を作ることが無く、また型に賦形する際、皺が入らないから、均一に繊維が分散した表面が平滑なFRP成形品を得ることができる。
【0064】
また、基材の層間に繊維からなるインターリーフ層が形成され、FRPの層間靭性が向上する。
【0065】
本発明の複合強化繊維基材から、従来から知られている方法でFRPを成形することができるが、なかでもレジン・トランスファー成形法や真空バッグ成形法は大型の成形品を安価に製造することができるので、好ましく用いられる。
【0066】
以下、本発明のプリフォームを用いて真空バッグ成形により成形する本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の1実施例について説明する。
【0067】
図8は本発明のFRPの成形法を説明する1実施例の断面図である。図8において、型14の上に、複合強化繊維基材1を所定の方向に所定の枚数積層し、その上に樹脂が硬化した後に引き剥がして除去するシート、いわゆるピールプライ16を積層し、その上に樹脂を複合強化繊維基材の全面に拡散させるための媒体17を置く。プリフォームの周囲には、織物など多孔性の材料を多数枚積層して真空ポンプの空気の吸引口18を取り付けたエッジ・ブリーザ19を張り巡らし、全体をバッグフイルム20で覆い、空気が漏れないようにバッグフイルムの周囲をシール材21で型に接着する。バッグフイルムの上部に樹脂タンクから注入される樹脂の吐出口22を取り付け、該取り付け部から空気が漏れないようにシール材21で接着する。樹脂タンクには、硬化剤を所定量入れた常温でシロップ状の常温硬化型の熱硬化性樹脂を入れておく。ついで、真空ポンプでバッグフイルムで覆われたプリフォームを、真空圧力が93310〜101325Pa程度の真空状態にしたのち、バルブ15を解放して樹脂を注入する。バッグフイルムで覆われた中が真空状態であり、プリフォームの厚さ方向より媒体の面方向が樹脂の流通抵抗が小さいから、まず樹脂は媒体の全面に拡がったのち、ついでプリフォームの厚さ方向の含浸が進行する。この方法であると樹脂の流れなければならない距離は、プリフォームの厚さでよいから、樹脂含浸が非常に早く完了する。なお、真空ポンプは少なくとも樹脂の含浸が完了するまで運転し、バッグフイルムの中を真空状態に保つことが好ましい。樹脂含浸完了後、バルブを閉口し室温に放置して樹脂を硬化させる。樹脂の硬化後、ピールプライを剥いで、媒体やバッグフイルムを除去し、型から脱型することによってFRP成形品が得られる。
【0068】
本発明に使用する媒体17の1例を図9に示した。媒体はバッグ内の真空圧力をプリフォームに伝え、かつ注入される樹脂を媒体の隙間を通すことにより、媒体側のプリフォーム上面の全体に樹脂を行き渡らせるものである。すなわち、バッグフイルムとピールプライ間に位置する媒体に樹脂が注入されると、図9において、注入された樹脂はバッグフイルムに接するA群のバー23の間隙をバー23の方向に流れると同時に、B群の矩形断面のバー24の間隙をバー24の方向に流れるから、全方向に樹脂が拡散することとなる。また、バー23にかかる力をバー24に伝えることができるから真空圧力をプリフォームに伝えることができるのである。媒体の具体的なものとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニルや金属などからなるメッシュ状のシートが用いられる。たとえば、メッシュ状樹脂フイルム、織物、網状物や編物などであり、必要に応じてこれらを数枚重ねて使用することができる。
【0069】
なお、上記は媒体をプリフォームの上面の一面に設置する場合について説明したが、プリフォームが厚い場合は、プリフォームの下面と上面に設置して、プリフォームの両面から樹脂含浸をおこなうこともできる。
【0070】
上記に記載した成形法は、大きくは真空バッグ成形法の範疇に入るが、樹脂注入と同時に樹脂をプリフォームの全面に拡散させる点で、従来の真空バッグ成形法とは異なり、とくに大型のFRP成形品の成形に用いると好適である。
【0071】
本発明の成形に用いるピールプライは、樹脂が硬化した後にFRPから引き剥がして除去するシートであるが、樹脂を通過させることができることが必要であり、ナイロン繊維織物、ポリエステル繊維織物、ガラス繊維織物などが用いられる。なお、ナイロン繊維織物やポリエステル繊維織物は安価であるため好ましく用いられるが、これら織物を製造する際に用いられている油剤やサイジング剤がFRPの樹脂に混入するのを防ぐため、精練を行い、また常温硬化型樹脂の硬化発熱による収縮を防ぐため、熱セットされた織物を使用することが好ましい。
【0072】
本発明の成形に用いるエッジ・ブリーザは、空気および樹脂を通過させることができることが必要であり、ナイロン繊維織物、ポリエステル繊維織物、ガラス繊維織物およびナイロン繊維またはポリエステル繊維からなるマットを使用することができる。
【0073】
また、本発明の成形に用いるバッグフイルムは、気密性であることが必要でありナイロンフイルム、ポリエステルフイルムやPVCフイルムなどを用いることができる。
【0074】
また、本発明のプリフォームを用いた繊維強化プラスチックの別の成形方法として、雄型と雌型の成形型によって形成されるキャビティの中に本発明のプリフォームを設置し、キャビティの中を真空状態として樹脂を注入し、繊維基材に樹脂を含浸させた後、樹脂を硬化させることができる。
【0075】
この成形方法によれば、前述の真空バッグ成形法に比べて雄型と雌型の2つの型が必要となる短所はあるが、FRPの厚さは雄型と雌型の間隙によって決まるから、寸法精度の良い成形品が得られるので、高い信頼性が要求される航空機構造材の成形法として好ましい。
【0076】
本発明の成形に用いる樹脂は、常温で液状の常温硬化型の、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂である。なお、使用する樹脂の粘度は、樹脂の含浸性や含浸速度の点から低粘度が好ましく、0.5〜10ポイズ程度、より好ましくは0.5〜5ポイズの範囲が好ましい。なかでもビニルエステル樹脂は、樹脂を低粘度とすることができることや、樹脂伸度を3.5〜12%大きくすることができるので、成形性に優れるのみならず、強度が高く、耐衝撃性にも優れるので、好ましく用いられる。
【実施例】
【0077】
実施例1
強化繊維基材として、繊度8000デシテックス、引張強度4800MPa、弾性率230GPa、破断伸度2.1%、フィラメント数12,000本の扁平状の炭素繊維糸を経糸、および緯糸に用い、経糸および緯糸の密度が1.25本/cm、織物目付200g/mの二方向織物を用いた。
【0078】
同織物のカバーファクターは99.7%と非常に高かった。
【0079】
ここで、カバーファクターは、次のようにして求めた。
【0080】
すなわち、まず、実体顕微鏡、例えば株式会社ニコン社製実体顕微鏡SMZ−10−1を使用して、強化繊維織物の裏面側から光を当てながら、織物の表面を撮影する。これにより、織糸部分は黒く、織目部分は白い、織物の透過光パターンが撮影される。光量は、ハレーションを起こさない範囲に調節した。また、株式会社ニコン社製ダブルアームファイバーの光をアクリル板で反射させて投影画像の濃淡が均一になるよう調節した。撮影倍率は、後の画像解析において、解析範囲に経糸および緯糸がそれぞれ2〜20本入るよう、10倍以内に設定した。次に、得られた写真をCCD(charge coupled device)カメラで撮影し、撮影画像を白黒の明暗を表すデジタルデータに変換してメモリに記憶し、それを画像処理装置で解析して、全体の面積S1と、白い部分の面積の総和S2とから、カバーファクターCfを次式、 Cf=〔(S1−S2)/S1〕×100から算出した。
【0081】
同様のことを、同じ織物について10カ所行い、その単純平均値をもってここでいうカバーファクターとした。また、CCDカメラおよび画像処理装置として、株式会社ピアス社製パーソナル画像解析システムLA−525を使用した。画像解析の範囲は、横方向は、最も左に写っている経糸の左端から最も右に写っている経糸の左端までとし、縦方向は、最も上に写っている緯糸の上端から最も下に写っている緯糸の上端までとし、この範囲に経糸および緯糸がそれぞれ2〜20本入るようにした。なお、デジタルデータには、織糸部分(黒い部分)と織目部分(白い部分)との境界に黒と白との中間部分が含まれる。この中間部分を織糸部分と織目部分とに区別するため、モデル的に、透明な紙に幅6mmの黒いテープを6mm間隔で縦横に格子状に貼り付け、カバーファクターが75%になるように規格化した。すなわち、CCDカメラの絞りを2.8に設定し、画像解析システムLA−525のメモリ値が128以下の部分を織糸部分として規格化した(このシステムでは、白黒の明暗が0〜255段階のメモリ値として記憶される)。
【0082】
また、織糸は太い炭素繊維糸が粗密度で交錯されているので形態安定性は低いが、逆に剪断変形し易くて非常にフィット性が優れた織物であった。
【0083】
また、不織布としては、融点が260℃の高融点ナイロン短繊維と融点が140℃の低融点ナイロン短繊維を60:40の比率で混合し、カード装置にてウエブを形成、積層した後、10倍延伸した、8g/m目付の不織布を用いた。
【0084】
不織布の空隙率は90%で高い伸縮性を有していた。
【0085】
なお、空隙率は下式によって算出した。
【0086】
空隙率(%)=〔1−(不織布の真の体積/見掛け体積)〕×100
ここで、不織布の真の体積とは、不織布の単位面積当たりの重量/繊維比重、見掛け体積とは、不織布の厚み×単位面積である。不織布の単位面積当たりの重量は、不織布を1m×1mにカットし、研精工業株式会社製の化学天秤にて測定し、繊維比重はナイロンの比重を用いて算出した。また、不織布の厚みは、株式会社東洋精機製作所製のデジタル定圧厚さ測定器を用い、JIS L 1098に準じ、23.5kPaの圧力下で測定した。
【0087】
そして、前記強化繊維基材と不織布を一緒に合わせてニードルパンチング装置に供給し、パンチング密度6パンチ/cmでニードルパンチを行い、不織布を構成する短繊維を強化繊維基材に貫通させ、一体化させた。
【0088】
一体化された基材は、不織布の短繊維が強化繊維基材に貫通されて一体化されているので、基材をカットしても織糸が解れたりすることなく取扱い性が良好であった。また、不織布自身も伸縮性を有しているので織物自身のフィット性を阻害されるようなことがなく、曲面を有する成形型に容易に沿わせることが可能であった。
【0089】
次いで、一体化基材のコンポジット特性を評価するために真空バック成形で硬化板を作成した。
用いた樹脂は3M社製エポキシ樹脂PR500で、110℃に樹脂を加熱して注入し、177℃×4時間で硬化させた。
【0090】
積層方法は、強化繊維基材と不織布が交互となる様に積層し、1枚積層する毎にアイロンで不織布に含まれる低融点ナイロンを溶融させて互いに接着させた。
【0091】
一体化基材がずれたり、皺が発生することなく成形型板上にセットすることができた。
【0092】
繊維体積割合(Vf)評価用の硬化板を、一体化基材を350mm×350mmサイズでカットし、同方向に6枚積層して成形した。ここでVfとは不織布を除く強化繊維の体積割合であり、下式より算出した。
【0093】
Vf(%)=〔(強化繊維の目付×積層枚数)/強化繊維の密度〕/成形品厚み。
【0094】
ここで、強化繊維の目付は、成形前に使用する強化繊維基材の重量を研精工業株式会社製の化学天秤にて測定し算出した。また、成形品厚みは、成形後の硬化板の端部と中央部の合計9カ所を厚みゲージで測定し、その単純平均で求めた。
【0095】
引張試験は、一体化基材を幅25.0mm(一方向基材の場合は12.5mm)×長さ250mmに切断し、両端にガラスタブを接着して引張試験片とし、JIS K7073に基づき引張試験を行い、破断荷重を測定し、引張強度を求めた。
【0096】
また、衝撃特性であるCAI(落錘衝撃後の圧縮強度)評価用としては、一体化基材を350mm×350mmサイズに切断し、織物の経糸方向を0°、緯糸方向を90°として、積層構成は(±45°)/(0°,90°)を6回繰り返して12枚積層した上に、(0°,90°)/(±45°)の構成で12枚を対称積層し、それぞれ成形型板上にセットして〔(±45°)/(0°,90°)〕6Sの疑似等方板を得た。
【0097】
かくして得られた平板から101.6mm×152.4mmの試験片を切出し、ボーイング社試験法BMS7260記載の衝撃後圧縮強度(CAI)の測定を行った。なお、この時の落錘衝撃のエネルギーは67J/cmで行った。
【0098】
それぞれの試験結果を表1にまとめた。本一体化基材を用いた複合材料は、高い引張強度と高いCAIを発揮し、本発明の複合強化繊維基材は複合材料用基材として優れていることが分かった。
【0099】
比較例1
不織布を一体化せず、炭素繊維のみを用いた以外は実施例1と同じ方法で基材を作成し、試験した結果を表1にまとめた。
【0100】
不織布がない基材では、不織布を一体化した複合基材に比べてCAIが低く、また、成形の際に織糸が解れたりする問題があった。
【0101】
比較例2
不織布として、融点が260℃の高融点ナイロン100%からなる、目付が8g/mのスパンボンドタイプ不織布を用い、ニードルパンチを掛けなかった以外は実施例1と同じ方法で複合基材を作成し評価した結果を表1に示した。
【0102】
不織布と強化繊維基材が一体化されていないので、積層時に織糸が解れたり、また積層がずれたりして非常に取り扱い難かった。
【0103】
コンポジット特性については、CAI特性については実施例1とほぼ同じレベルで効果が見られるが、積層時の基材の乱れにより引っ張り強度がやや低かった。
【0104】
比較例3
不織布として、融点が260℃の高融点ナイロン100%からなる、目付が48g/mの高目付のスパンボンドタイプ不織布を用い、実施例1と同じ強化繊維基材とニードルパンチを掛けて一体化した基材を用い、以下実施例1と同じ方法で硬化板を作成、評価した結果を表1にまとめた。
【0105】
一体化基材は、不織布自身の伸度が小さいため、一体化の状態では曲面に沿わせることができず、無理矢理沿わせようとすると、不織布が剥がれ、不織布に皺が発生する問題があった。
【0106】
硬化板の特性は、高いCAIを発揮したが、不織布が厚いためにVfが低かったことから、低い引っ張り強度であった。また、吸水率も高く、信頼性が要求される航空機部材などには不適と考えられる。
【0107】
実施例2
実施例1に用いた強化繊維基材ならびに不織布を用い、ニードルパンチで一体化した後、ホットローラで不織布に含まれる低融点ナイロンの融点以上の温度に加熱・圧着させた一体化基材とし、以下実施例1と同じ方法で評価し、結果を表1にまとめた。
【0108】
強化繊維基材と不織布がニードルパンチならびに熱接着で一体化されているので取扱い性が優れていた。
【0109】
フィット性については、実施例1より低いが、不織布に含まれる低融点繊維の量が僅かであるために、十分なフィット性を有していた。
【0110】
コンポジット特性についても、実施例1とほぼ同程度で、複合材料として優れたものであった。
【0111】
実施例3
実施例1に用いた強化繊維基材と、不織布として融点が260℃の高融点ナイロン100%からなる、目付が8g/mのスパンボンドタイプ不織布を用い、硬化剤を含まない、粘度が1.2poiscのエポキシ樹脂からなる粘着剤を2g/m強化繊維基材の片面に塗布し、不織布と接着させて一体化させた。以下実施例1と同じ方法で評価し、結果を表1にまとめた。
【0112】
僅かな粘着剤で強化繊維基材と不織布を軽く接着させて一体化させているので、形態が安定しており、また強化繊維基材と不織布がずれやすく、しかも不織布自身も伸縮性を有しているので、成形型に容易に沿わせることができる基材であった。
【0113】
コンポジットの引張強度においても、粘着剤が僅かであるので影響がなく、高い強度を発揮し、また、CAIも不織布が強化繊維基材層間に存在するので高い値を示し、複合材料用基材として優れたものであった。
【0114】
比較例4
不織布として融点が約140℃のナイロンからなる目付が10g/mのメルトブロー長繊維不織布を用い、実施例1で用いたのと同じ強化繊維基材とホットローラによる加熱・圧着で接着させ、一体化基材とした。実施例1と同じ方法でコンポジット特性の評価を行い、結果を表1にまとめた。
【0115】
この一体化基材は、低融点ナイロン100%の不織布が強固に強化繊維基材と接着されているので、形態安定性は非常に優れているが、余りに強固に接着されているためにフィット性が劣っていた。
【0116】
コンポジット特性は、引張強度は実施例1と大差ない結果であるが、層間強化を目的とした不織布は低融点繊維であるために成形中に樹脂中に溶解してしまい、層間の補強効果が出ずCAIは低い値で、ほとんど効果がなかった。
【0117】
実施例4
強化繊維基材として、経糸に繊度8000デシテックス、引張強度4800MPa、弾性率230GPa、破断伸度2.1%、フィラメント数12,000本、糸幅6.5mmの扁平状の炭素繊維糸を、緯糸に繊度が225デシテックスのガラス繊維糸を使用し、経糸の密度が3.75本/cm、緯糸の密度が3.0本/cm、炭素繊維糸の目付が300g/m、カバーファクターが99.7%の一方向織物を用いた。
【0118】
同織物は、太い経糸が細い緯糸で一体化されており、経糸の炭素繊維糸はほとんどクリンプすることない織物構造であるために、織糸がずれ易く不安定な織物であった。
【0119】
不織布としては、実施例1で用いた不織布と同じものを用い、また実施例1同じ方法でニードルパンチで一体化させた。
【0120】
強化繊維基材単独では形態不安定であったが、ニードルパンチで不織布と一体化させることにより、形態が安定して取扱い性が大幅に改善されていた。
【0121】
本一体化基材のコンポジット特性を評価するために積層構成以外は実施例1と同じ方法で成形を行った。
繊維体積割合(Vf)評価用の硬化板は、実施例1と同様に、一体化基材を350mm×350mmサイズでカットし、同方向に4枚積層して成形した。
【0122】
また、衝撃特性であるCAI評価用としては、一体化基材を350mm×350mmサイズに切断し、繊維の長手方向を0°として、積層構成は−45°/0°/+45°/90°の順に2回繰り返して8枚積層した上に、90°/+45°/0°/−45°を2回繰返して8枚積層し、対称積層して成形型板上にセットして(−45°/0°/+45°/90°)2Sの疑似等方板を得た。
【0123】
それぞれの試験結果は、実施例1と同様に試験を行い、表2にまとめた。
【0124】
本一体化基材を用いたコンポジットの引張強度、CAIは高い値を発揮し、優れた基材であった。
【0125】
比較例5
実施例4と比較する目的で、不織布を一体化せず、炭素繊維のみを用いた以外は実施例4と同じ方法で一体化基材を作成し、評価を行い、結果を表2にまとめた。
【0126】
強化繊維基材が不安定であるため、基材を炭素繊維方向にカットすると炭素繊維糸が解れる問題や、取扱い性が悪いために積層時の繊維配向が乱れる問題があり、積層に時間を要した。
【0127】
コンポジットの引張強度は炭素繊維の繊維配向乱れによりやや低く、また、CAIについては不織布が存在していないため低かった。
【0128】
比較例6
不織布として、実施例3に用いた融点が260℃の高融点ナイロン繊維100%からなる、目付が8g/mのスパンボンドタイプ不織布を用い、強化繊維基材に一体化せず、単に合わせた状態でコンポジットの作成、評価を行い、その結果を表2に示した。
【0129】
強化繊維基材と不織布が一体化されてないので、カット時に炭素繊維がほつれ易く、また繊維配向が乱れるなど非常に取扱い性が悪く、積層作業に時間を要した。
【0130】
コンポジットのCAIは不織布が強化繊維基材層間に存在するために高い値であったが、引張強度は炭素繊維の繊維配向乱れにより低かった。
【0131】
実施例5 実施例4と同様にニードルパンチで一体化した後にホットローラで加熱・圧着させた以外は実施例5と同じ方法で評価した結果を表2にまとめた。
【0132】
不安定な織物を不織布の低融点繊維により接着を付与させたので、実施例4のニードルパンチだけの一体化よりも形態安定性が優れ、非常に取扱い性の優れた基材であった。
【0133】
またコンポジットの引っ張り強度、CAIも実施例4とほぼ同等の結果で優れた基材であった。
【0134】
実施例6
実施例4で用いた強化繊維基材に、実施例3で用いた粘着剤を3g/m塗布し、融点が260℃の高融点ナイロン繊維100%からなる、目付が8g/mのスパンボンドタイプの不織布を接着させて一体化し、実施例4と同様の方法で硬化板の作成、評価を行った。結果を表2にまとめた。
【0135】
強化繊維基材に粘着剤で不織布を接着させているので、形態安定性に優れ、取扱い易い基材であった。
【0136】
またコンポジットの引張強度、CAIも高い値を発揮し、優れた基材であった。
【0137】
比較例7
不織布として比較例3で用いた、融点が約140℃のナイロンからなる目付が10g/mのメルトブロー長繊維不織布を用い、実施例4に用いた強化繊維基材と合わせてホットローラによる加熱・圧着で接着させて一体化基材とし、実施例4と同じ方法でコンポジット特性の評価を行い、結果を表2にまとめた。
【0138】
この一体化基材は、強化繊維基材は不織布の低融点繊維により強固に熱接着されているので、基材として非常に形態安定性に優れ、取扱い易い基材であった。しかし、余りに強固に接着されているためにフィット性が劣っていた。
【0139】
コンポジットの引張強度は、所定の繊維配向させることができたので、高い値を発揮したが、不織布を構成する繊維が低融点であるために成形中に樹脂中に溶解してしまい、CAIは低く、不織布存在の効果が得られなかった。
【0140】
【表1】

【0141】
【表2】

【符号の説明】
【0142】
1:複合強化繊維基材
2:強化繊維基材
3:不織布
4:強化繊維糸条
5:よこ方向補助糸
6:たて方向補助糸
7:緯糸
8:0°方向に配向した強化繊維糸条
9:90°方向に配向した強化繊維糸条
10:−45°方向に配向した強化繊維糸条
11:+45°方向に配向した強化繊維糸条
12:ステッチ糸
13:不織布の繊維
14:型
15:バルブ
16:ピールプライ
17:媒体
18:吸引口
19:エッジ・ブリーザ
20:バッグフイルム
21:シール材
22:吐出口
23:バー(A群)
24:バー(B群)
25:芯鞘型繊維
26:芯鞘型繊維の鞘部
27:芯鞘型繊維の芯部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維からなるシート状の強化繊維基材の少なくとも片面に、短繊維からなる不織布が積層され、該不織布を形成する短繊維が該強化繊維基材に貫通することにより、該強化繊維基材と該不織布が一体化されていることを特徴とする複合強化繊維基材。
【請求項2】
強化繊維からなるシート状の強化繊維基材の少なくとも片面に、不織布が積層され、該不織布が該強化繊維基材と粘着剤によって一体化されている複合強化繊維基材。
【請求項3】
強化繊維からなるシート状の強化繊維基材の少なくとも片面に、不織布が積層され、該不織布を構成する繊維のうち5〜50重量%が低融点繊維であり、強化繊維基材と不織布が熱融着により一体化されていることを特徴とする複合強化繊維基材。
【請求項4】
前記強化繊維基材における強化繊維糸条の繊度が550〜270000デシテックスであって、かつ該強化繊維1本あたりのフィラメント数が1000〜400000本である請求項1ないし3のいずれかに記載の複合強化繊維基材。
【請求項5】
前記強化繊維基材における強化繊維糸条の繊度が550〜23000デシテックスである請求項1ないし3のいずれかに記載の複合強化繊維基材。
【請求項6】
前記強化繊維基材の目付が100〜2000g/mである請求項1ないし3のいずれかに記載の複合強化繊維基材。
【請求項7】
前記強化繊維基材を構成する織物のカバーファクターが、95%以上である特許請求項1ないし3のいずれかに記載の複合強化基材。
【請求項8】
前記不織布に低融点の熱可塑性ポリマーからなる低融点繊維が含まれている請求項1ないし3のいずれかに記載の複合強化繊維基材。
【請求項9】
前記不織布に芯鞘型繊維が含まれており、該芯鞘型繊維において芯部の占める割合が、芯鞘型繊維断面積の30から70%である請求項1ないし3のいずれかに記載の複合強化繊維基材。
【請求項10】
前記芯鞘型繊維は芯部がナイロン6またはナイロン66であり、鞘部が共重合ナイロンである請求項9に記載の複合強化繊維基材。
【請求項11】
前記不織布の繊維目付が5〜30g/mの範囲である請求項1ないし3のいずれかに記載の複合強化繊維基材。
【請求項12】
前記強化繊維基材は、強化繊維糸条が該基材の長さ方向に配列してなる一方向シートである請求項1ないし3のいずれかに記載の複合強化繊維基材。
【請求項13】
前記強化繊維基材が、該基材の長さ方向に強化繊維糸条が配列し、幅方向に該強化繊維糸条より細い補助糸が配列し、織組織している一方向織物である請求項1ないし3のいずれかに記載の複合強化繊維基材。
【請求項14】
前記一方向シートまたは一方向織物において、強化繊維糸条と強化繊維糸条の間に0.1〜5mmの隙間を設けて、該強化繊維糸条が長さ方向に配列した請求項12または13に記載の複合強化繊維基材。
【請求項15】
前記強化繊維基材は、該基材の長さ方向および幅方向に強化繊維糸条が配列し、織組織している二方向織物である請求項1ないし3のいずれかに記載の複合強化繊維基材。
【請求項16】
前記二方向織物において、長さ方向および幅方向の少なくとも一方の強化繊維糸条が扁平な強化繊維糸条であって、該扁平な強化繊維糸条の糸幅が4〜30mm、糸厚みが0.1〜1.0mmの範囲にある請求項15記載の複合強化繊維基材。
【請求項17】
前記強化繊維基材が、少なくとも2群の強化繊維糸条を交差させ、ステッチ糸で縫合してなるステッチ布帛である請求項1ないし3のいずれかに記載の複合強化繊維基材。
【請求項18】
強化繊維が炭素繊維である請求項1ないし3のいずれかに記載の複合強化繊維基材。
【請求項19】
前記不織布において、空隙部の占める割合が不織布全体の面積の30%〜95%である請求項1ないし3のいずれかに記載の複合強化繊維基材。
【請求項20】
粘着剤の使用量が1〜10g/mである請求項2に記載の複合強化繊維基材。
【請求項21】
請求項1ないし20のいずれかに記載の複合強化繊維基材を、強化繊維基材と不織布とが交互になるように多数枚積層したことを特徴とするプリフォーム。
【請求項22】
前記複合強化基材同士が不織布に含まれる低融点繊維の融着により一体化されている請求項21に記載のプリフォーム。
【請求項23】
前記複合強化基材同士が粘着剤により一体化されている請求項21に記載のプリフォーム。
【請求項24】
請求項21ないし23のいずれかに記載のプリフォームをバッグフイルムで覆い、内部を真空状態にして樹脂を注入し、複合強化繊維基材に樹脂を含浸させた後、樹脂を硬化させることを特徴とする繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項25】
雄型と雌型によって形成されるキャビティのなかに請求項21ないし23のいずれかに記載のプリフォームを設置し、キャビティ内を真空状態にして樹脂を注入し、複合強化繊維基材に樹脂を含浸させた後、樹脂を硬化させることを特徴とする繊維強化プラスチックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−155460(P2010−155460A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29685(P2010−29685)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【分割の表示】特願2000−606420(P2000−606420)の分割
【原出願日】平成12年2月22日(2000.2.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】