説明

複合粒子、光音響イメージング用造影剤、および前記複合粒子の製造方法

【課題】本発明は、光音響イメージング法において、より高い検出感度で検出するための、高いモル吸光係数を持った複合粒子を提供すること。
【解決手段】粒子と、前記粒子に結合した抗原認識部と抗原認識部以外の部位からなる一本鎖抗体と、前記一本鎖抗体に結合した有機色素と、を有する複合粒子であって、前記一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がチオール基を有し、前記チオール基と、前記粒子の有する官能基とが結合している複合粒子。更に本発明に係る複合粒子は、前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種と、前記有機色素の有する官能基とが結合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合粒子、光音響イメージング用造影剤、および前記複合粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光音響イメージング(光音響トモグラフィー)法は、パルス光を被測定検体の任意の局所表面部分から照射し、照射された光によって被測定検体内部で発生した音響信号の強度を測定し、測定結果を処理して画像化するもので、被爆のおそれなしに非破壊測定で生体(検体)の断層像を得ることが出来る方法として注目されている。
【0003】
光音響イメージング法において、検出感度やコントラストを向上させるために用いられる、光音響イメージング用造影剤が報告されている。生体内に投与された造影剤は、観察対象となる生体組織内に分布し、組織に照射されたパルス光エネルギーを吸収し、音響波を発生させることが出来る。すなわち、光音響イメージング用造影剤は、光音響イメージング用造影剤が存在する組織のみかけのモル吸光係数を増加させること、すなわち内因性組織由来の音響波に、前記光音響イメージング用造影剤由来の音響波を加算することができるため、観察対象組織の検出をしやすくすることができる。
【0004】
ここで、非特許文献1にあるように、MRI用造影剤であるリゾビスト(登録商標)は、複数の酸化鉄粒子を多糖類のデキストランでコーティングしたものであり、音響波を発生することが知られている。しかし、リゾビスト(登録商標)は音響波を発生するものとして酸化鉄粒子のみを有するため、リゾビストから発生する音響波は小さい。そのため、より大きい音響波を発生する、すなわち、より高いモル吸光係数を有する光音響イメージング用造影剤が望まれていた。
【0005】
一方、非特許文献1によると、色素と抗体をそれぞれ酸化鉄粒子を有する粒子表面に結合させた複合粒子が開示されている。この複合粒子は、抗体を有するので、抗原に結合しやすく、抗原部位を検出しやすい。また、この複合粒子は、色素を有するので、複合粒子のモル吸光係数は、酸化鉄粒子のみを有する場合に比べて大きいと考えられるため、大きな音響波を発生させることができると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bioconjugate Chemistry, 16(3),576−581
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1においては、色素と抗体を、それぞれ酸化鉄粒子を有する粒子に結合させている。しかしながら、この手法では、粒子表面上の官能基数が限られるため、色素と抗体の結合数は競合し、色素を多く結合させることは困難であるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一の本発明に係る複合粒子は、粒子と、前記粒子に結合した抗原認識部と抗原認識部以外の部位からなる一本鎖抗体と、前記一本鎖抗体に結合した有機色素と、を有する複合粒子において、前記一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がチオール基を有し、前記チオール基と、前記粒子の有する官能基とが結合している。
【0009】
第二の本発明に係る複合粒子は、粒子と、前記粒子に結合した抗原認識部と抗原認識部以外の部分からなる一本鎖抗体と、前記一本鎖抗体に結合した有機色素と、を有する複合粒子において、前記一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がチオール基を有し、前記チオール基を介して、前記一本鎖抗体と前記粒子とが結合している。
【0010】
第三の本発明に係る複合粒子の製造方法は、抗原認識部と抗原認識部以外の部位からなる一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位の有するチオール基と、粒子の有する官能基を結合させる工程と、前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種と、有機色素の有する官能基を結合させる工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粒子の有する官能基と、一本鎖抗体の有するチオール基が結合し、有機色素の有する官能基と、前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種が結合しているため、前記有機色素と前記一本鎖抗体の結合数が競合することなく、前記有機色素および前記一本鎖抗体をともに多く有する複合粒子を提供することができる。
また、本発明によれば、一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がチオール基を有し、このチオール基と粒子が有する官能基が結合しているので、粒子が一本鎖抗体に結合することによる一本鎖抗体の抗原に対する結合力の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態1に係る複合粒子の模式図。
【図2】複合粒子A乃至D、および粒子Eの光音響信号の強度の測定結果。
【図3】複合粒子F乃至I及び、複合体Jの光音響信号強度の測定結果。
【図4】複合粒子K乃至M及び、複合体Nの光音響信号強度の測定結果。
【図5】(a)複合粒子O乃至Q、及び複合体Rの光音響信号強度の測定結果。(b)複合粒子S乃至U及び、複合体Vの光音響信号強度の測定結果。
【図6】(a)複合粒子O乃至Q、及び複合体Rの表面プラズモン共鳴法による抗体結合機能評価結果。(b)複合粒子S乃至U、及び複合体Vの、表面プラズモン共鳴法による抗体結合機能評価結果。
【図7】(a)複合粒子O、Q、複合体Rの、細胞膜表面にHER2を有するヒト胃癌細胞N87に対する抗体結合機能評価結果。(b)複合粒子S、U、複合体Vの、細胞膜表面にHER2を有するヒト胃癌細胞N87に対する抗体結合機能評価結果。
【図8】複合粒子Wを用いたマウスの腫瘍蛍光イメージング結果。
【図9】比較例1における複合粒子B、X及び複合体Yの光音響信号強度の測定結果。
【図10】比較例1における複合粒子X、複合体Yの、表面プラズモン共鳴法による抗体結合機能評価結果。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係る複合粒子について説明するが、本発明はこれらに限られない。
【0014】
(実施形態1)
本実施形態に係る複合粒子は、粒子と、前記粒子に結合した、抗原認識部と抗原認識部以外の部位からなる一本鎖抗体と、前記一本鎖抗体に結合した有機色素とを有する。そして、前記一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がチオール基を有し、前記チオール基と、前記粒子の有する官能基とが結合していることを特徴とする。また、本実施形態に係る複合粒子は、前記一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がチオール基を有し、このチオール基と前記粒子が有する官能基が結合しているので、前記粒子が前記一本鎖抗体に結合することによる、前記一本鎖抗体の抗原に対する結合力の低下を抑制することができる。
【0015】
更に本実施形態に係る複合粒子は、前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種と、前記有機色素の有する官能基とが結合していることを特徴とする。また、本実施形態に係る複合粒子は、前記粒子の有する官能基と、前記一本鎖抗体の有するチオール基が結合し、前記有機色素の有する官能基と、前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種が結合しているため、前記有機色素と前記一本鎖抗体の結合数が競合することなく、前記有機色素および前記一本鎖抗体をともに多く有する複合粒子を提供することができる。
【0016】
また、本実施形態に係る複合粒子は、複数の一本鎖抗体が粒子に結合していることが好ましい。一本鎖抗体の数が多い場合、本実施形態に係る複合粒子の抗原に対する結合力が大きいと考えられる。
【0017】
また、複数の有機色素が一本鎖抗体に結合していることが好ましい。有機色素の数が多い場合、本実施形態に係る複合粒子のモル吸光係数は大きくなると考えられる。
【0018】
本実施形態に係る複合粒子の一例について図1を用いて説明する。図1において、101は一本鎖抗体、102は粒子、103は有機色素、104は一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位の有するチオール基と、前記粒子の有する官能基との結合、105は前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種と、前記有機色素の有する官能基との結合を表す。
前述したように、本実施形態に係る複合粒子は、一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がチオール基を有し、前記チオール基と、粒子の有する官能基とが結合している。前記チオール基と、粒子の有する官能基との結合としては、チオエステル結合、チオノエステル結合、チオエーテル結合、または以下の化学式で表されるチオール−マレイミドカップリングなどを挙げることができる。特に、チオール−マレイミドカップリング、すなわち、チオール基とマレイミド基との結合は、中性のpH領域において効率的かつ選択的に反応を行えるため好ましい。
【化1】

【0019】
更に前述したように、本実施形態に係る複合粒子は、前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種と、前記有機色素の有する官能基とが結合している。特に、前記一本鎖抗体の有する求核性アミノ基と、前記有機色素の有する官能基とが結合していることが好ましい。求核性アミノ基は前記一本鎖抗体のアミノ末端や、一本鎖抗体を構成するアミノ酸のリジン残基の側鎖に存在し、一本鎖抗体中に多く含まれる。前記有機色素の有する官能基としては、上記の一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基と結合できるものであれば特に限定されない。例として、サクシニミジルエステル、スクシンイミド、アミノ基、カルボキシル基、などを挙げることができる。これらの官能基は前記有機色素が有していてもよいし、化学反応により、前記の有機色素に導入してもよい。また、有機色素の官能基と、一本鎖抗体は、直接結合してもよいし、リンカーを介して結合してもよい。前述した、前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種と、前記有機色素の有する官能基との結合として、以下の化学式で表されるアミド結合は、中性pH領域において効率的かつ選択的に反応を行うことができるため好ましい。
【化2】

【0020】
(粒子)
本実施形態に係る複合粒子に用いられる粒子とは、光を吸収して音響波を発するものであれば特に限定されない。ここで、光とは、紫外光(10nm乃至400nmの波長を有する電磁波)、可視光(400nm乃至600nmの波長を有する電磁波)または近赤外光(600乃至1300nmの波長を有する電磁波)などである。本実施形態における粒子としては、近赤外光を吸収して音響波を発するものであることが好ましい。
【0021】
本実施形態に係る粒子として例えば、無機物、または、有機色素のみからなる粒子と、無機物または、有機色素を他の無機物もしくは有機物中に分散してなる粒子と、無機物または、有機色素を他の無機物もしくは有機物で被覆してなる粒子が挙げられる。本実施形態においては、前記3種の粒子のいずれかもしくはその組み合わせを使用することができる。
【0022】
前記無機物としては、例えば、金属酸化物、貴金属コロイド、半導体粒子、無機顔料、無機染料を挙げることができる。なお、本実施形態において粒子は、これら無機物の少なくとも1種類を含んでいればよく、2種類以上含んでいても良い。前記金属酸化物としては、例えば酸化鉄(Fe、Fe)、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化ホウ素を挙げることができる。前記貴金属コロイドとしては、例えば、金、銀、銅、白金のコロイドを挙げることができる。前記半導体粒子としては、例えば硫化カドミウム、セレン化亜鉛、セレン化カドミウム、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム、硫化亜鉛、硫化鉛を挙げることができる。前記、無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブを挙げることができる。前記無機染料としては、例えば、シュウ酸鉄を挙げることができる。上記の無機物としては、酸化鉄粒子が好ましい。
【0023】
本実施形態において、粒子を構成する有機色素としては、後述の(有機色素)の項で述べる物質を用いることができる。また、本実施形態において、粒子が、後述するインドシアニングリーン(ICG)などの親水性部位を有する有機色素を有する場合、粒子が、ニコチン酸誘導体又は正帯電部位を有する脂質といった添加物を有することが好ましい。色素の有する親水性部位をと、正帯電部位を有する脂質又はニコチン酸誘導体の有する正帯電部位が色素の親水性部位(ICGにおいては、スルホン酸基)に会合し、そのために色素の疎水性が上がるため、クロロホルム、ジクロロメタンなどの有機溶媒に可溶化することができると考えられる。このとき、色素は脱塩カラムなどで処理して色素の脱塩体として使用しても良い。
【0024】
正帯電部位を有する脂質とは、脂質のうちその構造の一部に、陽イオンの部分構造を有する脂質のことを言う。このような脂質の例としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリン等のグリセロ脂質、スフィンゴミエリン、スフィンゴリン脂質及びスフィンゴシン等のスフィンゴ脂質、ノイラミン酸等のアミノ糖部分を有するスフィンゴ糖脂質等の糖脂質、コレステリル−3β−カルボキシアミドエチレン−N−ヒドロキシエチルアミン及び3−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール等の合成コレステロール類、ラウリルアミン、ステアリルアミン、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド(略称DOTMA)及び2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキシアミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロ酢酸(略称DOSPA)等の合成脂質、並びにエーテル型リン脂質及びカチオニック脂質等を挙げることができる。 また、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリンの例としては、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン及びジアシルホスファチジルセリンなどが挙げられる。本実施形態において、正帯電部位を有する脂質として、Distearoylphosphatidylcholineが好ましい。
【0025】
本実施形態において、ニコチン酸誘導体としては、特に限定されることはないが、例えばニコチン酸アミド、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸、ニコチン酸メチル、ニコチン酸エチル、イソニコチン酸エチル及びニコチン酸トコフェロール等が挙げられる。
【0026】
本実施形態に係る複合粒子において、粒子の大きさは任意のものが利用可能であるが、1nm〜1000nm程度のナノ粒子が望ましい。1000nmを超えると血管中で血栓を形成する可能性も考えられる。特に好ましいのは、10nm〜1000nmである。前記粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察やX線回折法などの公知の方法で測定することができる。また、前記粒子の形状は特に限定されず、ナノロッド、ナノキューブ、ナノプリズム、ナノシェルといったそれぞれに異なる特殊構造体の利用も可能である。なお、本実施形態に係る複合粒子における粒子の径は後述する有機色素のサイズに比べて3倍以上であることが好ましい。また、前記粒子は、公知の粒子作製法により適宜作製して使用することもできるし、市販品を使用してもよい。
【0027】
粒子を分散または被覆する有機物としては、例えば、多糖類、合成高分子、リポソーム、ポリマーミセル、ポリイオンコンプレックス、脂肪酸、界面活性剤を挙げることができる。一方、粒子を分散または被覆する無機物としては、例えば、シリカ、炭酸塩、ヒドロキシアパタイトを挙げることができる。前記粒子を分散または被覆する前記有機物及び無機物は、単独で使用してもよく、任意に混合して使用してもよい。
【0028】
前記多糖類としては、例えば、デキストラン、プルラン、マンナン、アミロペクチン、キトサン、キシログルカン、ヒアルロン酸、アルギン酸、水溶性セルロース、でんぷん、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、及びこれらの誘導体を挙げることができる。
【0029】
前記合成高分子としては、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリアリルアミン、ポリアミドアミンデンドリマーなどのアミノ基を有する高分子、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどのヒドロキシル基を有する高分子、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ポリリンゴ酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸などのカルボキシル基を有する高分子、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体などを挙げることができる。
【0030】
前記リポソームを構成するリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンを挙げることができる。
【0031】
前記ポリマーミセルを形成するポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールからなる親水性セグメントと、ポリラクチド、ポリ(ラクチド−コーグリコリド)、ポリε−カプロラクトンからなる群より選ばれる疎水性セグメントを含むブロックコポリマーを挙げることができる。
【0032】
前記ポリイオンコンプレックスを形成するポリマーの組み合わせとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリアリルアミンからなる群より選ばれるポリカチオンセグメントを含むブロックコポリマーと、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ポリリンゴ酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸からなる群より選ばれるポリアニオンセグメントを含むブロックコポリマーを挙げることができる。
【0033】
前記脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸、ラウロレイン酸、フィセテリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸、イソラウリン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸などの分岐脂肪酸を挙げることができる。
【0034】
前記界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキル硫化塩、Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate、末端にメトキシ基を有するポリエチレングリコール化リン脂質である、N−(Carbonyl−methoxypolyethyleneglycol 2000)−1,2−distearoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine,sodium salt、末端に1級アミノ基を有するポリエチレングリコール化リン脂質である、N−(aminopropylpolyethyleneglycol 2000)carbamyl−distearoylphosphatidyl−ethanolamineなどを挙げることができる。また、界面活性剤に別の物質を結合させて、末端の官能基を、後述する一本鎖抗体と結合しやすくしてもよい。例えば、上記のN−(aminopropylpolyethyleneglycol 2000)carbamyl−distearoylphosphatidyl−ethanolamineの有する一級アミノ基に、succinimidyl−[(N−maleimidopropionamido)−diethyleneglycol] esterを結合させることで、末端にマレイミド基を導入することができる。
【0035】
本実施形態に係る複合粒子における粒子は、一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位の有するチオール基と結合することができる官能基を有する。この官能基の例として好ましくは、カルボキシル基、マレイミド基、ハロゲン化アルキル基、アミノ基、ヒドロキシル基をあげることができる。これらの官能基は、上記の粒子が有していてもよいし、化学反応により、粒子に導入されてもよい。
【0036】
本実施形態において、一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がシステイン(C)を有し、Cの有するチオール基が、粒子の有するマレイミド基と前述したチオール−マレイミドカップリングしていることが好ましい。
【0037】
(一本鎖抗体)
本実施形態に係る複合粒子における一本鎖抗体は抗原認識部と抗原認識部以外の部位からなり、抗原認識部以外の部位がチオール基を有する。
ここで、一本鎖抗体とは、抗体の、重鎖可変領域(VHドメイン)と軽鎖可変領域(VLドメイン)とをペプチドリンカーで連結したポリペプチドである。一本鎖抗体上記のペプチドリンカーは例えば15個のアミノ酸からなる。一本鎖抗体の抗原認識部は重鎖可変領域及び軽鎖可変領域であり、相補性決定領域(以下、CDRと略す)及びフレームワーク領域を含んだ配列から構成される。CDRは標的分子との結合界面近傍に存在し、標的分子との特異的な結合に直接的に関与する。一方、フレームワーク領域は、CDRに結合可能な構造を作り出すことで結合に間接的に関与する。このようにCDRおよびフレームワークが相互に作用し合い、一本鎖抗体の機能を発現する。そして、抗原認識部以外の部位はそれ以外の部位である。本実施形態において一本鎖抗体は、ヒト化一本鎖抗体であることが好ましい。
【0038】
一本鎖抗体は、各種抗原に対応して安価かつ簡便に作製することができ、かつ、通常の抗体と比べて分子量が小さいため、上記の粒子あたりの抗体結合量を増加させることが可能になる。さらに、抗体のFc部位(定常部位)を持たないため抗原性を低減させることができる。
【0039】
上記の抗体とは、特定の抗原又は物質に応答して免疫系により誘発されるイムノグロブリンファミリーのタンパク質の総称であり、特定の標的分子を認識し、かつこの標的分子に結合することができる物質である。標的分子への結合の強さは、標的分子との解離結合定数KD(値が低いほど結合親和性は高い)が1μM以下であることが好ましい。上記の抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、もしくはキメラ抗体であり得、または他の種から由来し得る。
【0040】
ここでいう「抗体」とは、特定の抗原又は物質に応答して免疫系により誘発されるイムノグロブリンファミリーのタンパク質の総称であり、特定の標的分子を認識し、かつこの標的分子に結合することができる物質である。前記抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、もしくはキメラ抗体であり得、または他の種から由来し得る。また、前記抗体は、モノクローナル抗体とポリクローナル抗体とのいずれでもよい。さらに、前記抗体の一部分であり、当該抗体より低分子化された、標的分子結合能を有するそれらの誘導体である抗体フラグメントであってもよい。前記抗体フラグメントとしてはFabフラグメント(以下「Fab」と略すことがある)、Fab’フラグメント(以下「Fab’」と略すことがある)、F(ab’)、F(ab’)2、重鎖可変(VH)ドメイン単独、軽鎖可変(VL)ドメイン単独、VHとVLの複合体、あるいはラクダ化VHドメイン、または抗体の相補性決定領域(CDR)を含むペプチド等がある。
【0041】
一本鎖抗体の好ましい例として、配列番号1のアミノ酸配列で示されるポリペプチドを挙げることができる。
MDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSSAAALEHHHHHHGGC(配列番号1)
【0042】
上記アミノ酸配列のうち、アミノ末端のアミノ酸M(第1残基)、カルボキシル末端側のAAALEHHHHHHGGC(第244残基から第257残基)、及び、GGGGSGGGGSGGGGS(第109残基から第123残基)以外は、抗原に対して特異的に結合する機能を発現できる構造単位、すなわち、抗原認識部である。すなわち、配列番号1中、M(第1残基)、AAALEHHHHHHGGC(第244残基から第257残基)、及び、GGGGSGGGGSGGGGS(第109残基から第123残基)は抗原認識部以外の部位である。なお、GGGGSGGGGSGGGGS(第109残基から第123残基)はVHドメインとVLドメインとを連結するペプチドリンカーである。
【0043】
上記の一本鎖抗体の場合、抗原認識部以外の部位の有するチオール基は、AAALEHHHHHHGGC(第244残基から第257残基)で示されるアミノ酸配列のうち、第257残基のシステイン(C)の側鎖に存在するチオール基である。このチオール基と、粒子が有する官能基とが結合しているので、粒子が一本鎖抗体に結合することによる、一本鎖抗体の抗原に対する結合力の低下を抑制することができる。またこのような場合、一本鎖抗体と粒子との結合に伴う抗原認識部への影響は軽微であり、一本鎖抗体の構造は不安定になりにくいので、一本鎖抗体同士が凝集しにくい。その結果、複合粒子の分散性を維持することができる。
【0044】
上記一本鎖抗体の配列には、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基を有するアミノ酸残基が存在するため、後述する有機色素の有する官能基と結合することができる。上記一本鎖抗体の配列には、アミノ末端のアミノ基や、求核性アミノ基を側鎖に有するリジン(K)(第40残基、第43残基、第46残基、第104残基、第108残基、第152残基、第166残基、第188残基、第199残基)、などのアミノ酸残基が存在するため、例えば、カルボキシル基を有するサクシニミジルエステル反応性色素と、求核性アミノ基を有する一本鎖抗体との間での、アミド結合を形成することができる。
【0045】
更に、一本鎖抗体の配列中に存在するリジン残基の側鎖のアミノ基と、下記の式(1)で表される有機色素の有するカルボキシル基とが結合していることが特に好ましい。
【0046】
(標的分子)
本実施形態における複合粒子は、腫瘍のような病的組織の診断における光音響イメージングに用いられることが特に好ましく、本実施形態に係る複合粒子は標的分子を認識し、あるいは標的分子に結合することが望ましい。「標的分子」とは、生物由来の検体分子であれば特に制限されず、好ましくは、病変部位で特異的に発現している検体分子、特に腫瘍部位に特異的に発現している検体分子を意味する。例えば腫瘍抗原、受容体、細胞表面の膜タンパク質、タンパク質分解酵素、サイトカイン等が挙げられ、本発明にとっての標的分子は腫瘍抗原であることが好ましい。
【0047】
前記腫瘍抗原の具体例としては、Vascular Endothelial Growth Factor(VEGF)ファミリー、Vascular Endothelial Growth Factor Receptor(VEGFR)ファミリー、Prostate Specific Antigen(PSA)、Carcinoembryonic Antigen(CEA)、Matrix Metalloproteinase(MMP)ファミリー、Epidermal Growth Factor Receptor(EGFR)ファミリー、Epidermal Growth Factor(EGF)、インテグリンファミリー、I型インスリン様増殖因子受容体(Type 1 insulin−like growth factor receptor:IGF−1R)、CD184抗原(CXCケモカインレセプター4:CXCR4)、胎盤増殖因子(placental growth factor:PlGF)などが挙げられ、特に好ましくは、EGFRファミリーである上皮成長因子受容体2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2、以下、HER2と略すことがある)である。ここでいうHER2は、ErbB2、c−Erb−B2、p185HER2といわれることもある。HER2はEGFRファミリーであり、チロシンキナーゼ型受容体の一つである。HER2は乳癌、前立腺癌、胃癌、卵巣癌、肺癌などの腺癌で遺伝子増幅及び過剰で発現する物質(タンパク質)である。HER2は、HER2同士の二量体(ホモダイマーともいう)あるいは別のEGFRとの二量体(ヘテロダイマーともいう)の形成によって活性化する。より具体的には、ホモダイマーあるいはヘテロダイマーの形成により自己リン酸化し、次いで細胞増殖シグナルが核内へ伝えられ、その結果、細胞増殖、浸潤、転移、アポトーシス抑制などが起こると考えられている。前記腫瘍抗原と特異的に結合する抗体は当業者であれば容易に入手可能であり、例えば、前記抗原又はその部分ペプチドを免疫原として公知の抗体作製法により抗体を適宜作製して使用することもできる。その作製された抗体の遺伝子配列情報から、遺伝子組み換え法により一本鎖抗体を組換えタンパク質として取得することもできる。また、市販品を使用してもよい。
【0048】
(有機色素)
本実施形態に係る複合粒子の有機色素としては、特に限定されず、光を吸収して音響波を発するものであれば特に限定されない。ここで、光とは、紫外光(10nm乃至400nmの波長を有する電磁波)、可視光(400nm乃至600nmの波長を有する電磁波)または近赤外光(600乃至1300nmの波長を有する電磁波)などである。本実施形態における有機色素としては、近赤外光を吸収して音響波を発するものであることが好ましい。
【0049】
本実施形態に係る複合粒子として、近赤外光領域に吸収を持つ有機色素を利用することで、照射する光の波長に合わせた複合粒子の吸収特性を設定することが可能である。
【0050】
本実施形態に係る複合粒子における有機色素として、例えば、アジン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、スチリル系色素、ピリリウム系色素、アゾ系色素、キノン系色素、テトラサイクリン系色素、フラボン系色素、ポリエン系色素、BODIPY(Invitrogen社登録商標)系色素を挙げることができる。前記有機色素は単独で使用してもよく、任意に混合して使用してもよい。
【0051】
前記ポルフィリン系色素としては、例えば、処方せん医薬品であるフォトフリン(ワイス社製)、レザフィリン(明治製菓社製)、ビスダイン(ノバルティス ファーマ社製)を挙げることができる。
【0052】
前記シアニン系色素としては、例えば、インドシアニングリーン(Indocyanine Green、以下ICGと呼ぶ)、Alexa Fluor(Invitrogen社登録商標)、Cy(GEヘルスケア バイオサイエンス社登録商標)、DyLight(ピアス・バイオテクノロジー社製)系色素を挙げることができる。また、好ましい一例として、下記の式(1)で示される化合物や、下記の式(2)で示される化合物を例示することができる。
【化3】

【化4】

なお、ICGの構造は以下の式(3)で示される。
【化5】

【0053】
前記フタロシアニン系色素としては、例えば、IRDye(LI−COR社登録商標)を挙げることができる。
【0054】
なお、上記の有機色素のサイズとして、3nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがさらに好ましい。
【0055】
本実施形態に係る複合粒子において、有機色素は一本鎖抗体と結合することのできる官能基を有する。一本鎖抗体と結合することのできる官能基としては、前述したアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基と結合できるものであれば特に限定されない。例として、サクシニミジルエステル、スクシンイミド、アミノ基、カルボキシル基、などを挙げることができる。これらの官能基は、上記の有機色素が有していてもよいし、化学反応により、上記の有機色素に導入されてもよい。有機色素の官能基と、一本鎖抗体は、直接結合してもよいし、リンカーを介して結合してもよい。
【0056】
(実施形態2)
本実施形態に係る複合粒子は一本鎖抗体と粒子と有機色素からなる複合粒子であって、前記一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位のチオール基を介して一本鎖抗体と粒子とが結合していることを特徴とする。
本実施形態に係る複合粒子は、一本鎖抗体のアミノ基を介して一本鎖抗体と有機色素が結合していることが好ましい。
本実施形態に係る複合粒子の一本鎖抗体、粒子、及び有機色素については、上記の説明の通りである。
【0057】
(実施形態3)
本実施形態では、光音響イメージング用造影剤について説明する。
(光音響イメージング用造影剤)
本実施形態に係る光音響イメージング用造影剤は、上記の複合粒子と分散媒とを有することを特徴とする。
(分散媒)
上記の分散媒は、本実施形態に係る複合粒子を分散させるための液状の物質であり、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline、PBS)、生理食塩水、注射用蒸留水などが挙げられる。本実施形態に係る造影剤は、上記本実施形態に係る複合粒子をこの分散媒に予め分散させておいてもよいし、本実施形態に係る複合粒子と分散媒とをキットにしておき、生体内に投与する前に複合粒子を分散媒に分散させて使用してもよい。
【0058】
(実施形態4)
本実施形態では、複合粒子の製造方法について説明する。
(複合粒子の製造方法)
本実施形態に係る複合粒子の製造方法は、抗原認識部と抗原認識部以外の部位からなる一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位の有するチオール基と、粒子の有する官能基を結合させる工程と、前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種と、有機色素の有する官能基を結合させる工程を有することを特徴とする。
本実施形態において、粒子と一本鎖抗体は、一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位のチオール基を介して結合する。粒子とチオール基の結合としては、チオエステル結合、チオノエステル結合、チオエーテル結合、チオール−マレイミドカップリングなどを挙げることができる。特にチオール−マレイミドカップリング、すなわち、チオール基とマレイミド基との結合は、中性のpH領域において効率的かつ選択的に反応を行えるため好ましい。前記反応により一本鎖抗体と結合した粒子は、限外濾過法、サイズ排除カラムクロマトグラフィー法により洗浄、精製することができる。
【0059】
本実施形態において、粒子と結合した一本鎖抗体と有機色素は、アミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基を介して従来周知のカップリング反応によって結合する。特に、前記アミノ基を介して結合させることが好ましい。前記アミノ基は一本鎖抗体のアミノ末端や、一本鎖抗体を構成するアミノ酸のリジン残基の側鎖に存在し、一本鎖抗体中に多く含まる。また、中性のpH領域において効率的かつ選択的に反応を行うことができる。前記反応により前記一本鎖抗体と結合した有機色素は、限外濾過法、サイズ排除カラムクロマトグラフィー法により洗浄、精製することができる。
【0060】
(実施形態5)
本実施形態では、光音響イメージング法について説明する。(光音響イメージング法)
本実施形態に係る複合粒子は、光音響イメージング法に用いることができる。本実施形態に係る複合粒子を用いた光音響イメージング法は、本実施形態に係る複合粒子を検体もしくは前記検体から得られる試料に投与する工程と、前記検体もしくは前記検体から得られる試料にパルス光を照射する工程と、前記検体内もしくは前記検体から得られる試料内に存在する前記複合粒子由来の光音響信号を測定する工程と、を少なくとも有することを特徴とする。
【0061】
本実施形態に係る複合粒子を用いた光音響イメージング法の一例は以下の通りである。すなわち、本実施形態に係る複合粒子を検体に投与し、あるいは前記検体より得られた臓器等の試料に添加する。なお、前記検体とは、ヒト、実験動物やペット等の哺乳類、その他、特に限定されることなく、あらゆる生物を指し、前記検体中もしくは検体より得られた試料としては、臓器、組織、組織切片、細胞、細胞溶解物などを挙げることができる。前記複合粒子の投与あるいは添加後、前記検体等に対し近赤外波長域のレーザーパルス光を照射する。
本実施形態に係る光音響イメージング法において、照射される光の波長は使用するレーザ光源により選択することが可能である。本実施形態に係る光音響イメージング法においては、効率良く音響信号を取得するために、生体内における光の吸収、拡散の影響が少ない「生体の窓」と呼ばれる600nmから1300nmの、近赤外光領域の波長の光を照射することが好ましい。
【0062】
本実施形態に係る複合粒子からの光音響信号(音響波)を、音響波検出器、例えば圧電トランスデューサで検出し、電気信号に変換する。この音響波検出器より得られた電気信号に基づき、前記検体等の内の吸収体の位置や大きさ、あるいはモル吸光係数などの光学特性値分布を計算することができる。例えば、複合粒子が基準とする閾値以上で検出されれば、その検体に前記標的分子、あるいは、前記標的分子を産生する部位が存在すると推定され、または、前記試料に前記標的分子が存在する、あるいは、前記試料の由来となる前記検体に前記標的分子を産生する部位が存在すると推定することができる。
【0063】
本実施形態に係る複合粒子は、一本鎖抗体を有するので、腫瘍に特異的に発現している前記標的分子の光音響イメージングに用いることができる。例えば、本実施形態に係る複合粒子は抗原量との相関を有する腫瘍の診断に用いられることができ、好ましくは、乳癌に関連した腫瘍抗原の光音響イメージング法に用いられることもできる。本実施形態に係る複合粒子の使用は、培養された細胞や組織を測定試料として疾病の研究を目的として使用することもできる。一方で、本実施形態に係る複合粒子は、標的分子に対する特異的な結合を持たない場合においても光音響イメージングのために用いることができる。
【0064】
また、前記疾病の患者の状態の診断や健常者における疾病の予防のための診断を目的として、本実施形態に係る複合粒子を検体、あるいは前記検体から取得した細胞もしくは組織に導入して、前記標的分子の光音響イメージング方法に用いることもできる。本実施形態に係る複合粒子を用いる光音響イメージングによる診断方法は、本実施形態に係る複合粒子を培養細胞、検体から採取した細胞もしくは組織、又は前記検体に導入する工程と、複合粒子からの信号を検出することにより疾病の位置と状態をモニタリングする工程と、を有する。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0066】
(光音響特性評価)
以下の実施例で述べる光音響信号の強度の測定は、以下の装置構成、条件で行った。
光源として、型式 チタンサファイアレーザ(Lotis Tii社製)を用いて、波長750nm、エネルギー密度:21.8mJ/cm、パルス幅:20ナノ秒、パルス繰返し:10Hz の条件で測定を行った。
超音波トランスデューサとしては、型式 V303(Panametrics−NDT製)を用いて、中心帯域:1MHz、エレメントサイズ:φ0.5、測定距離:33mm(Non−focus)、アンプ:+20dB(超音波プリアンプ Model 5682 オリンパス社製)の条件で測定を行った。
測定容器としては、光路長0.1cmのポリスチレンキュベットを用いた。計測器としてはDPO3034(Tektronix社製)を用いて、光音響光をフォトダイオードでの検出をトリガーとして、32回(32パルス)の測定平均値でデータ収集(Dataacquisition)し計測を行った。
【0067】
(実施例1)
(一本鎖抗体の合成)
始めに、HER2へ結合するイムノグロブリンG(IgG)の可変領域の遺伝子配列を基に、一本鎖抗体の遺伝子断片を作製した。作製した遺伝子の3’末端には、精製のためにヒスチジンが6残基連続したHis6tagおよび、システイン残基をコードする遺伝子配列を配置した。この遺伝子断片を挿入したプラスミドpET−22b(+)(メルク社(Novagen))を用いて大腸菌(BL21株)を形質転換し、発現用菌株を得た。得られた菌株をLB−Amp培地4mLで一晩前培養した後、全量を、250mLの2×YT−Amp培地に添加し、28℃、120rpmで8時間振とう培養した。その後終濃度1mMとなるようにイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、28℃で約20時間培養を続けた。IPTG誘導した大腸菌を8000×g、30分、4℃で遠心分離することで集菌し、上清の培養液を回収した。得られた培養液に80%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、塩析によりタンパク質を沈殿させた。塩析操作した溶液を12時間4℃で静置した後、8000×g、30分、4℃で遠心分離することで沈殿物を回収した。得られた沈殿物を20mMTris・HCl/500mMNaCl緩衝液20mLで溶解し、1Lの同緩衝液へ3回透析した。透析後のタンパク質溶液を、His・Bind(メルク社(Novagen)登録商標) Resinを充填したカラムへ添加し、Niイオンを介した金属キレートアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。
【0068】
このようにしてできた一本鎖抗体のアミノ酸配列は以下の通りであった。
MDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSSAAALEHHHHHHGGC(配列番号1)
【0069】
ここで、上記アミノ酸配列のうち、アミノ末端のアミノ酸M(第1残基)、カルボキシル末端側のAAALEHHHHHHGGC(第244残基から第257残基)、及び、GGGGSGGGGSGGGGS(第109残基から第123残基)以外は、抗原に対して特異的に結合する機能を発現できる構造単位すなわち、抗原認識部である。したがって、本実施例で作製した一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位のチオール基は、AAALEHHHHHHGGC(第244残基から第257残基)で示されるアミノ酸配列のうち、第257残基のシステイン(C)の側鎖に存在するチオール基である。
【0070】
精製した一本鎖抗体を5mM EDTA(キシダ化学社製)を含むリン酸バッファー(キシダ化学社製)にバッファー置換後、物質量比で20倍量のトリ(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP、PIERCE社製)を加えて、25℃で約2時間、還元処理した。ここで用いたリン酸バッファーは、2.68mMのKCl、137mMのNaCl、1.47mMのKHPO、1mMのNaHPO、5mMのEDTAからなり、pH7.4の溶液である。
【0071】
(マレイミド基を有する酸化鉄粒子と一本鎖抗体との結合)
次に、この抗原認識部以外の部位のチオール基を介して酸化鉄粒子を結合させる方法について説明する。
粒子としてmicromod Partikel−technolgie社製のマレイミド基を有する酸化鉄粒子を含有するデキストラン粒子(粒子径:20nm)(以下、IO20と呼ぶ)を用いた。IO20と、IO20に対する物質量比が100倍量の、前記還元処理した一本鎖抗体を酸化鉄粒子(1)と混合して、25℃で4時間穏やかに攪拌後、終濃度1mMとなるようにL−システイン(キシダ化学社製)の溶液を加えた。続いてリン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより精製した後、0.05M炭酸バッファー(pH=9.6)へとバッファー交換した。
上記サイズ排除カラムから溶出した未反応の一本鎖抗体量を定量することで、IO20、1つあたりに結合した一本鎖抗体の量を算出した結果、約11であった。
ここで、マレイミド基はチオール基と強固に結合するため、チオール−マレイミドカップリングで、一本鎖抗体とIO20とが結合していると考えられる。すなわち、一本鎖抗体にIO20が結合してなる複合体(以下、一本鎖抗体−IO20複合体、と呼ぶ)が得られたと考えられる。以下では、一本鎖抗体と粒子の結合体を複合体、複合体と有機色素との結合体を複合粒子と呼ぶ。
【0072】
(一本鎖抗体−IO20複合体と有機色素の結合)
式(1)で表される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素(Invitrogen社)のジメチルスルホキシド溶液を、上記一本鎖抗体−IO20複合体に、この複合体1個あたり20倍量、100倍量、500倍量、1000倍量となるように加えて、25℃で2時間穏やかに攪拌した。攪拌後、リン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したPD−10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による精製を行うことにより、4種類の、有機色素であるサクシニミジルエステル反応性色素が結合した複合粒子(以下、色素結合IO20粒子と呼ぶ)が得られた。ここで、上記の本実施例で作製した一本鎖抗体の配列中にはリジン(K)残基が存在する。このリジン残基は、側鎖に求核性基である第1級アミノ基を有するため、上記の本実施例で用いたサクシニミジルエステル反応性色素と混合することでアミノ基とカルボキシル基の結合(アミド結合)が形成され、上記有機色素と上記一本鎖抗体とが結合したと考えられる。
【0073】
(複合粒子のモル吸光係数の測定)
作製した色素結合IO20粒子に結合している有機色素の数、及び式(1)で表される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素の最大吸収波長である750nmにおけるモル吸光係数を、UV−VIS−NIR(紫外可視近赤外)測定により算出した。反応時に加えた有機色素の量が増えると、色素結合IO20粒子1個あたりに結合している有機色素の数が増加する傾向があるという結果が得られた。更に、色素結合IO20粒子に結合している有機色素の数が増加すると、750nmにおけるモル吸光係数が上昇する傾向が確認された。上記で得られた4種類の色素結合IO20粒子において、色素結合IO20粒子に結合している有機色素数が少ないものから、複合粒子A、B、C、Dと呼ぶ。複合粒子A、B、C、Dについて、反応時に加えた有機色素の量、複合粒子1個に結合している色素の数、750nmの波長におけるモル吸光係数を、表1にまとめた。
【表1】

【0074】
(複合粒子の光音響信号強度の測定)
ここでは、IO20を粒子Eと呼ぶ。
複合粒子A、B、C、D、及び粒子Eについて光音響信号強度の測定を行った。ただし、粒子Eは、複合粒子A、B、C、Dと同じ鉄濃度となるように溶液を調製した上で測定を行った。粒子Eの光音響信号の強度を1としたときの、各複合粒子の光音響信号の強度をまとめたものが図2である。
一本鎖抗体を介して有機色素を結合させた複合粒子A、B、C、Dは、有機色素及び一本鎖抗体が結合していない粒子Eよりも、大きな信号強度を示した。また、結合している有機色素量が多い複合粒子の方が、少ない複合粒子に比べて大きな信号強度を示した。
【0075】
(実施例2)
(一本鎖抗体−IO20複合体とICG色素との結合)
実施例1で作製した一本鎖抗体−IO20複合体に、有機色素であるICG−Sulfo−OSu(同仁化学研究所社製)の、ジメチルスルホキシド溶液をこの複合体に対して20倍量、100倍量、400倍量、1000倍量となるように加えて、25℃で2時間穏やかに撹拌した。ここで、ICG−Sulfo−OSu(同仁化学研究所社製)の構造は上記の式(2)で示されるように、ICGの誘導体であり、以下では、単にICG色素と呼ぶ。
撹拌後、リン酸バッファー(pH7.4)で平衡化したPD−10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による精製を行うことにより、4種類の、ICG色素が結合した複合粒子(以下、ICG色素結合IO20粒子と呼ぶ)が得られた。ここで、上記で作製した抗体の配列中にはリジン(K)残基が存在する。このリジン残基は、側鎖に求核性基である第1級アミノ基を有するため、ICG色素と混合することで、アミノ基とカルボキシル基の結合(アミド結合)が形成され、上記有機色素と上記一本鎖抗体とが結合したと考えられる。
【0076】
(複合粒子のモル吸光係数の測定)
作製したICG色素結合IO20粒子に結合しているICG色素の数、及びICG色素の最大吸収波長である780nmにおけるモル吸光係数を、UV−VIS−NIR(紫外可視近赤外)測定により算出した。反応時に加えた色素量が増えると、ICG色素結合IO20粒子1個あたりに結合しているICG色素の数が増加する傾向があるという結果が得られた。更に、ICG色素結合IO20粒子に結合しているICG色素数が増加すると、780nmにおけるモル吸光係数が上昇する傾向が確認された。
上記で得られた4種類のICG色素結合IO20粒子において、ICG色素結合IO20粒子に結合しているICG色素数が少ないものから、複合粒子F、G、H、Iと呼ぶ。
複合粒子F、G、H、Iについて、反応時に加えた有機色素の量、複合粒子1個に結合している色素の数、780nmの波長におけるモル吸光係数を、表2にまとめた。
【表2】

【0077】
(複合粒子の光音響信号強度の測定)
ここでは、一本鎖抗体−IO20複合体を複合体Jと呼ぶ。
複合粒子F、G、H、I、及び複合体Jについて光音響信号強度の測定を行った。複合体Jの光音響信号の強度を1としたときの、各複合粒子の光音響信号の強度をまとめたものが図3である。
一本鎖抗体を介して有機色素を結合させた複合粒子F、G、H、Iは、有機色素が結合していない複合体Jよりも、大きな信号強度を示した。また、結合している有機色素量が多い複合粒子の方が、少ない複合粒子に比べて大きな信号強度を示した。
【0078】
(実施例3)
(ポリマーナノ粒子の合成)
ICG(日本公定書協会製)4.4mgをメタノール(キシダ化学社製)1mLに溶解し、ICGメタノール溶液を調製した。ここで用いたICGは上記の式(3)で示される構造である。Distearoylphosphatidylcholine(以下、DSPCと呼ぶ、日油社製)9mgをクロロホルム(キシダ化学社製)1mLに溶解し、DSPCクロロホルム溶液を調製した。ICGメタノール溶液1mLと、DSPCクロロホルム溶液1mLを混合し、5分間撹拌した後、減圧下40℃で溶媒を留去した。蒸発乾固したICG・DSPCをクロロホルム1.6mLに完全に溶解させて、クロロホルムに溶解したICG組成物を調製した。これに、組成比50:50、平均分子量20000のポリ乳酸・グリコール酸共重合体(以下、PLGAと呼ぶ、和光純薬工業社製)20mgを溶解させて、PLGAクロロホルム溶液を調製した。
次に、Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate(以下、Tween20と呼ぶ、東京化成工業社製)60mg、および末端にメトキシ基を有するポリエチレングリコール化リン脂質である、N−(Carbonyl−methoxypolyethyleneglycol 2000)−1,2−distearoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine,sodium salt(以下、DSPE−020CNと呼ぶ、日油社製)7.3mg、並びに、末端に1級アミノ基を有するポリエチレングリコール化リン脂質である、N−(aminopropylpolyethyleneglycol 2000)carbamyl−distearoylphosphatidyl−ethanolamine(以下、DSPE−020PAと呼ぶ、日油社製)0.7mgを溶解させた水溶液20mLに前記PLGAクロロホルム溶液を加えて混合液とし、この混合液を室温で3分、撹拌した。その後、超音波分散機で90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。次に前記エマルジョンを、ロータリーエバポレーターを用いて40℃で2時間減圧し、エマルジョン溶液からクロロホルムを除去した。その後、水に対して十分透析を行い、フィルターろ過(ポアサイズ0.2μm、日本ミリポア社製)することで、ICGを含有するポリマーナノ粒子の水溶液を得た。得られた粒子は以下ではICG−PNPと呼ぶ。
ICG−PNPの水中における平均粒径とゼータ電位を、ゼータサイザーナノ(MALVERN社製)を用いて測定した。ICG−PNPの平均粒径は105nm(キュムラント)、ゼータ電位は−31mVであった。
【0079】
(ICG−PNPと一本鎖抗体との結合)
ICG−PNPの有する1級アミノ基を介して、一本鎖抗体の修飾を行った。この1級アミノ基は、DSPE−020PAが有するものである。初めに、succinimidyl−[(N−maleimidopropionamido)−diethyleneglycol] ester (以下、SM(PEG)と呼ぶ、サーモサイエンティフィック社製)0.1mg(233nmol)をICG−PNPの水分散液(ICG−PNP濃度:4.8×1012個/mL)2.9mLに溶解させた。次に、0.33mLのほう酸バッファー(pH8.5)を加えた。この粒子懸濁液を室温で2時間撹拌した後、PD−10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて、マレイミド基を導入したICG−PNP(以下、マレイミド化ICG−PNPと呼ぶ)と未反応のSM(PEG)を、水を展開溶媒として分離し、マレイミド化ICG−PNPの水溶液およそ6mLを得た。この水溶液に1Mの2−[4−(2−Hydroxyethyl)−1−piperazinyl]ethanesulfonic acid (以下、HEPESと呼ぶ、和光純薬工業社製)溶液を120μL加えることで、マレイミド化ICG−PNPのHEPES溶液を得た。
前記還元処理した一本鎖抗体を、前記のマレイミド化ICG−PNPのHEPES溶液に対して、物質量比で720倍量となるように添加し、4℃で15時間以上反応させた。反応後、この溶液に、末端チオール基を有するポリエチレングリコール(分子量1000、PLS−606、Creative PEGWorks社製)16.8nmolを加え、室温で30分撹拌した。次いで、この溶液をフィルターろ過(ポアサイズ1.2μm)した後、100kDaのポアサイズのアミコンウルトラー4(日本ミリポア社製)を用いた限外ろ過によりマレイミド化ICG−PNPへ結合しなかった一本鎖抗体を除去して、一本鎖抗体とICG−PNPとが結合した複合体(以下、一本鎖抗体−ICG−PNP複合体、と呼ぶ)を得た。ここで、マレイミド基はチオール基と強固に結合するため、チオール−マレイミドカップリングで、一本鎖抗体と、マレイミド化ICG−PNPとが結合していると考えられる。
BCA法を用いて、ICG−PNPへの一本鎖抗体の結合量を算出した結果、ICG−PNPあたり491個の一本鎖抗体が結合していることがわかった。一本鎖抗体−ICG−PNP複合体の水中における平均粒径とゼータ電位を、ゼータサイザーナノ(MALVERN社製)を用いて測定した結果、それぞれ109nm(キュムラント)、−40mVであった。
【0080】
(一本鎖抗体−ICG−PNP複合体と有機色素との結合)
式(1)で示される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素(Invitrogen社)のジメチルスルホキシド溶液を、上記一本鎖抗体−ICG−PNP複合体に、複合体1個あたり3600倍量、18000倍量、36000倍量となるように加えて、25℃で2時間穏やかに攪拌した。攪拌後、リン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したPD−10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による精製を行うことにより、3種類の、有機色素が結合した一本鎖抗体−ICG−PNP複合体(以下、色素結合PNPと呼ぶ)を得た。ここで、上記の本実施例で作製した一本鎖抗体の配列中にはリジン(K)残基が存在する。このリジン残基は、側鎖に求核性基である第1級アミノ基を有するため、上記の本実施例で用いたサクシニミジルエステル反応性色素と混合することでアミノ基とカルボキシル基の結合(アミド結合)が形成され、上記有機色素と上記一本鎖抗体とが結合したと考えられる。
【0081】
(複合粒子のモル吸光係数の測定)
作製した色素結合PNPに結合している色素の数、及び式(1)で表される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素の最大吸収波長である750nmにおけるモル吸光係数を、UV−VIS−NIR(紫外可視近赤外)測定により算出した。反応時に加えた色素量が増えると、色素結合PNP1個あたりに結合している有機色素の数が増加する傾向があるという結果が得られた。更に、色素結合PNPに結合している有機色素の数が増加すると、750nmにおけるモル吸光係数がわずかに上昇する傾向が確認された。
上記で得られた3種類の色素結合PNPにおいて、色素結合PNPに結合している有機色素数が少ないものから、複合粒子K、L、Mと呼ぶ。複合粒子K、L、Mについて、反応時に加えた有機色素の量、複合粒子1個に結合している色素の数、750nmの波長におけるモル吸光係数を、表3にまとめた。
【表3】

【0082】
(複合粒子の光音響信号強度の測定)
ここでは、一本鎖抗体−ICG−PNP複合体を複合体Nと呼ぶ。
複合粒子K、L、M、及び複合体Nについて光音響信号の強度の測定を行った。複合体Nの光音響信号の強度を1としたときの、各複合粒子の光音響信号の強度をまとめたものが図4である。
一本鎖抗体を介して有機色素を結合させた複合粒子K、L、Mは、有機色素が結合していない複合体Nよりも、大きな信号強度を示した。また、結合している有機色素量が多い複合粒子の方が、少ない複合粒子に比べて大きな信号強度を示した。
一本鎖抗体を介して蛍光色素を結合させた複合粒子K、L、Mは、蛍光色素が結合していない複合粒子Nよりも、大きい信号強度を示した。また、結合している蛍光色素量が多い複合粒子のほうが、少ない複合粒子に比べて大きな信号強度を示した。
【0083】
(実施例4)
(粒径の大きな酸化鉄粒子と一本鎖抗体との結合)
粒径の大きな酸化鉄粒子としてmicromod Partikel−technolgie社製のマレイミド基を有する酸化鉄含有デキストラン粒子(粒子径:50nm、100nm)(以下、それぞれIO50、IO100と呼ぶ)を用いた。前記還元処理した一本鎖抗体をIO50またはIO100に対して、物質量比でそれぞれ600倍量、2500倍量となるように混合した。その後、25℃で4時間穏やかに攪拌後、終濃度1mMとなるようにL−システイン(キシダ化学社製)溶液を加えた。続いてリン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより精製した後、0.05M炭酸バッファー(pH=9.6)へとバッファー交換し、一本鎖抗体−IO50複合体、および一本鎖抗体−IO100複合体を得た。上記サイズ排除カラムから溶出した未反応の一本鎖抗体量を定量することで、複合体一つあたりに結合した一本鎖抗体の量を算出した結果、一本鎖抗体−IO50では約110、一本鎖抗体−IO100では約410個であった。
ここで、マレイミド基はチオール基と強固に結合するため、チオール−マレイミドカップリングで、一本鎖抗体とIO50またはIO100が結合していると考えられる。
【0084】
(一本鎖抗体−IO50複合体、または一本鎖抗体−IO100複合体と有機色素の結合)
式(1)で示される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素(Invitrogen社)のジメチルスルホキシド溶液を、上記一本鎖抗体−IO50複合体に、この複合体1個あたり1100倍量、2750倍量、11000倍量となるように加えて、25℃で2時間穏やかに攪拌した。また、上記一本鎖抗体−IO100複合体に、この複合体1個あたり4100倍量、10250倍量、41000倍量となるように加えて、25℃で2時間穏やかに攪拌した。
攪拌後、リン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したPD−10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による精製を行うことにより、有機色素が結合した複合粒子(以下、色素結合IO50粒子および色素結合IO100粒子と呼ぶ)を得た。色素結合IO50粒子は3種類、色素結合IO100粒子は3種類得られた。
ここで、上記の本実施例で作製した一本鎖抗体の配列中にはリジン(K)残基が存在する。このリジン残基は、側鎖に求核性基である第1級アミノ基を有するため、上記の本実施例で用いたサクシニミジルエステル反応性色素と混合することでアミノ基とカルボキシル基の結合(アミド結合)が形成され、上記色素と上記一本鎖抗体とが結合したと考えられる。
【0085】
(複合粒子のモル吸光係数の測定)
作製した3種類の、色素結合IO50粒子および、3種類の、色素結合IO100粒子、に結合している有機色素の数、及び式(1)で表される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素の最大吸収波長である750nmにおけるモル吸光係数を、UV−VIS−NIR(紫外可視近赤外)測定により算出した。反応時に加えた色素量が増えると、色素結合IO50粒子、または、色素結合IO100粒子1個あたりに結合している有機色素数が増加する傾向があることがわかった。更に、色素結合IO50粒子または色素結合IO100に結合している有機色素の数が増加すると、750nmにおけるモル吸光係数が上昇する傾向が確認された。
上記で得られた3種類の色素結合IO50粒子において、色素結合IO50粒子に結合している有機色素数が少ないものから、複合粒子O、P、Qと呼ぶ。また、上記で得られた3種類の色素結合IO100粒子において、色素結合IO100粒子に結合している有機色素数が少ないものから、複合粒子S、T、Uと呼ぶ。複合粒子O、P、Q、S、T、Uについて、反応時に加えた有機色素の量、複合粒子1個に結合している色素の数、750nmの波長におけるモル吸光係数を、表4にまとめた。
【表4】

【0086】
(複合粒子の光音響信号強度の測定)
ここでは、一本鎖抗体−IO50複合体を複合体Rと呼ぶ。また、一本鎖抗体−IO100複合体を複合体Vと呼ぶ。
複合粒子O、P、Q及び複合体Rについて光音響信号強度の測定を行った。複合体Rの光音響信号の強度を1としたときの、各複合粒子の光音響信号の強度をまとめたものが図5(a)である。一本鎖抗体を介して有機色素を結合させた複合粒子O、P、Qは、有機色素が結合していない複合体Rよりも、大きな信号強度を示した。また、結合している有機色素量が多い複合粒子の方が、少ない複合粒子に比べて大きな信号強度を示した。
複合粒子S、T、U及び複合体Vについて光音響信号強度の測定を行った。複合体Vの光音響信号の強度を1としたときの、各複合粒子の光音響信号の強度をまとめたものが図5(b)である。一本鎖抗体を介して有機色素を結合させた複合粒子S、T、Uは、有機色素が結合していない複合体Vよりも、大きな信号強度を示した。また、結合している有機色素量が多い複合粒子の方が、少ない複合粒子に比べて大きな信号強度を示した。
【0087】
(色素結合IO50粒子および色素結合IO100粒子の抗体機能評価)
色素結合IO50粒子および色素結合IO100粒子について表面プラズモン共鳴法(SPR)によって、抗体の抗原(HER2)に対する結合機能を評価した。
SPRはBiacoreX(GEヘルスケアジャパン社製)を用いて測定した。Recombinant Human ErbB2/Fc Chimera(R&D Systems社製)を酢酸バッファー(pH5.0)に溶解させ、CM−5チップ表面のカルボキシメチルデキストラン鎖へのアミンカップリングにより第1フローセルに固定化した。固定化量は、約1000RU(Resonance Unit)であった。一方、第2フローセル表面は活性化後、注入を行う際のリファレンスとして用いる為に非活性化した。
次に、上記複合粒子O〜Vを0.005%のTween20を含むリン酸バッファー(pH7.4)へバッファー置換した後、粒子濃度が等しくなるように調製し、流速20μL/分で両フローセルへ注入した。測定時間は、注入時間(結合)120秒、注入停止後経過時間(解離)120秒であり、フローセル表面の洗浄は1サンプル測定毎に50mM水酸化ナトリウム水溶液を用いてセンサーグラムがベースラインに戻るまで適量注入した。図6(a)に複合粒子O、P、Q、及び複合体Rの結果を、図6(b)に複合粒子S、T、U、及び複合体Vの結果を示した。図6(a)では、太実線が複合粒子O、細実線が複合粒子P、太点線が複合粒子Q、細点線が複合体Rの結果を表す。図6(b)では、太実線が複合粒子S、細実線が複合粒子T、太点線が複合粒子U、細点線が複合体Vの結果をそれぞれ表す。この結果から、有機色素を結合させた各々の複合粒子は、有機色素を結合させても、一本鎖抗体の抗原に対する結合能力があることがわかった。また、結合している色素量が多い複合粒子のほうが、蛍光色素が結合していない複合粒子よりも、HER2への結合に伴うRU値の上昇が少なく、結合機能が低下していることが示唆された。
【0088】
次に、前記BiacoreX(GEヘルスケアジャパン社製)による測定と同じ方法で、複合粒子OおよびSについて、数種類の粒子濃度に調製した溶液を流速20μL/分で両フローセルへ注入し、速度論解析実験によって解離平衡定数(K)を算出した。測定時間は、注入時間(結合)120秒、注入停止後経過時間(解離)120秒であり、フローセル表面の洗浄は1サンプル測定毎に50mM水酸化ナトリウム水溶液を用いてセンサーグラムがベースラインに戻るまで適量注入した。結合速度論解析実験においては、BIAevaluation3.0.2ソフトウェア(GE Healthcare社)の1:1ラングミュアフィッティングモデルを用いてセンサーグラムを分析した。その結果、複合粒子OのHER2に対するKは8.1×10−11[M]、複合粒子SのHER2に対するKは1.0×10−10であり、どちらの複合粒子もHER2に対して高い結合機能を保持していることが確認できた。
【0089】
次に、複合粒子O、Q、複合体R、複合粒子S、U、複合体Vについて、細胞膜表面にHER2を有するヒト胃癌細胞N87(DSファーマ社製)に対する結合機能を評価した。前日に前記N87を24ウェルプレートに播種した(4×10cell/well)。翌日、培地を除去し、増殖培地200μLを入れた後、複合粒子O、Q、複合体R、S、複合粒子U、複合体Vを添加した。複合粒子O、Q、複合体Rを粒子濃度3.2nM、複合粒子S、U、複合体Vを粒子濃度0.87nMとなるように調製し、それぞれ100μLずつ添加した。4℃で3時間、静置した後、各種複合粒子を含む培地を除去し、PBS1mLで2回洗浄した。PBSを除去した後、細胞を溶解させるため6M HCl200μLを添加し室温で2時間インキュベートした。この細胞溶解液をそれぞれ16μL回収し、各々に対して純水84μL、0.91mMのアスコルビン酸50μL、3.7Mの酢酸ナトリウム50μL、1.2mMの4,7−Diphenyl−1,10−phenanthrolinedisulfonic acid,disodium salt水溶液50μLを添加し、室温で10分間インキュベートした。この溶液の535nmにおける吸光度を測定することにより、溶液中に含まれる鉄量を算出した。更に、N87の内在性の鉄量を見積もるために、複合粒子を添加していない細胞についても同様に上記操作を行った。複合粒子を添加した溶液中に含まれる鉄量から、複合粒子を添加していない溶液中に含まれる鉄量を差し引くことにより、N87へ結合した複合粒子の鉄量を求めた。複合粒子複合粒子O、Q、複合体Rの結果を図7(a)に、複合粒子S、U、複合体Vの結果を図7(b)に示した。複合粒子O、Qは、有機色素の結合の有無および量に関係なく、複合体Rと同程度のN87に対する結合の強さを示した。同様に、複合粒子S、Uは、有機色素の結合の有無および量に関係なく、複合体Vと同程度のN87結合機能であることが確認された。
【0090】
(色素結合IO100粒子を用いた小動物イメージング)
式(1)で示される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素(Invitrogen社)のジメチルスルホキシド溶液を、上記一本鎖抗体−IO100複合体に、複合体あたり410倍量となるように加えて、25℃で2時間穏やかに攪拌した。攪拌後、リン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したPD−10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による精製を行うことにより、色素結合IO100粒子(以下、複合粒子Wと呼ぶ)を得た。ここで、上記の本実施例で作製した一本鎖抗体の配列中にはリジン(K)残基が存在する。このリジン残基は、側鎖に求核性基である第1級アミノ基を有するため、上記の本実施例で用いたサクシニミジルエステル反応性色素と混合することでアミノ基とカルボキシル基の結合(アミド結合)が形成され、上記色素と上記一本鎖抗体とが結合したと考えられる。
【0091】
(複合粒子のモル吸光係数の測定)
作製した複合粒子Wに結合している色素の数、及び750nmにおけるモル吸光係数を、UV−VIS−NIR(紫外可視近赤外)測定により算出した結果、複合粒子W1個あたり250個の有機色素が結合しており、モル吸光係数は2.3×10[1/cm/M]であった。
次に、上記複合粒子Wについて、小動物におけるイメージング機能について評価した。小動物としては、雌の非近交系BALB/c Slc−nu/nuマウス(購入時6週齢)(日本エスエルシー社製)を用いた。前記マウスは、癌細胞を移植させる前の1週間、標準的な食餌、寝床を用い、自由に食餌および飲料水を摂取できる環境下でマウスを順応させた。イメージング実験の約2週間前に、2×10個のN87と腫瘍形成マトリックスであるGeltrex(インビトロジェン社製)を、混合した後、マウスの左肩に皮下注射した。実験時までに腫瘍は全て定着しており、腫瘍径は約5mm、マウスの体重は17〜22gであった。上記N87を移植したマウスに、PBSに分散させた複合粒子Wを、6.6×10−13mol/匹となるように投与し、3日後のマウス全身蛍光イメージング画像を取得した(図8)。イメージング画像は、IVIS200(Xenogen社製)システムを用いて撮像した。図8では、TはN87腫瘍部、Lは肝臓部をそれぞれ表す。イメージング画像から、複合粒子Wが腫瘍部に集積していることが確認された。また、複合粒子Wは腫瘍部以外に肝臓にも集積していることが確認された。更に、複合粒子Wを投与して3日後のマウスから筋肉および、N87腫瘍を摘出し、それぞれ蛍光強度測定を行った。摘出した組織について、重量あたりの蛍光強度を比較したところ、筋肉に比べてN87腫瘍のほうが2倍以上大きく、HER2結合機能を持った複合粒子Wが選択的にN87へ集積していることが確認された。したがって、本実施例において作製した複合粒子は、腫瘍の光音響イメージングをするための造影剤として適していると考えられる。
【0092】
(比較例1)
(カルボキシル基を有する酸化鉄粒子と一本鎖抗体との結合)
粒子としてmicromod Partikel−technolgie社製のカルボキシル基を有する酸化鉄含有デキストラン粒子(粒子径:20nm)(以下、IOC20と呼ぶ」)を用いた。なお、IOC20は、マレイミド基を有さない。
終濃度4mg/mLの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)、及び終濃度5mg/mLのN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を含む、終濃度0.1MのMESバッファー(pH=6.3)とIOC20を混合し、25℃で1時間穏やかに攪拌した。続いてリン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化した脱塩カラムクロマトグラフィーによって精製した。上記精製後のIOC20に対して、前述の金属キレートアフィニティークロマトグラフィー精製後の一本鎖抗体が、物質量比で30倍量となるように混合し、25℃で3時間穏やかに攪拌後、終濃度1mMとなるようにL−グリジン溶液を加えた。続いてリン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより精製した後、0.05M炭酸バッファー(pH=9.6)へとバッファー交換し、一本鎖抗体にIOC20が結合してなる複合体(以下、一本鎖抗体−IOC20複合体、と呼ぶ)を得た。上記サイズ排除カラムから溶出した未反応の一本鎖抗体の量を定量することで、IOC20、1つあたりに結合した一本鎖抗体の量を算出した結果、約19であった。
ここで、IOC20はマレイミド基を有さないため、一本鎖抗体の有するチオール基とは反応しにくい。したがって、一本鎖抗体の配列中のリジン(K)残基の側鎖に存在する求核性基である第1級アミノ基と、IOC20の有するカルボキシル基とが結合したものが、一本鎖抗体−IOC20複合体であると考えられる。
【0093】
(一本鎖抗体−IOC20複合体と有機色素の結合)
上記の式(1)で示される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素(Invitrogen社)のジメチルスルホキシド溶液を、上記一本鎖抗体−IOC20複合体に、この複合体あたり300倍量となるように加えて、25℃で2時間穏やかに攪拌した。攪拌後、リン酸バッファーで(pH=7.4)平衡化したPD−10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による精製を行うことにより、一本鎖抗体にIOC20が結合してなる複合体(以下、複合粒子X、と呼ぶ)を得た。
複合粒子Xに結合している有機色素の数、及び式(1)で表される化合物のサクシニミジルエステル反応性色素の最大吸収波長である750nmにおけるモル吸光係数を、UV−VIS−NIR(紫外可視近赤外)測定により測定した。複合粒子B、Xについて、反応時に加えた有機色素の量、複合粒子1個に結合している色素の数、750nmの波長におけるモル吸光係数を、表5にまとめた。複合粒子Xは複合粒子Bに比べて、反応時に、より多くの有機色素を加えているにも関わらず、複合粒子1個あたりに結合した有機色素の数は少なく、モル吸光係数も低かった。これは、複合粒子Xにおいて、上記で作製した一本鎖抗体の配列中に存在するリジン(K)残基の側鎖の第1級アミノ基の多くが、IOC−20との結合に使用されており、上記のサクシニミジルエステル反応性色素と結合できる第1級アミノ基がわずかしか存在しなかったため、粒子1個に結合した有機色素が少なかったと考えられる。
【表5】

【0094】
(光音響特性評価)
光音響特性は前述した方法と同じ方法で評価した。
以下では、一本鎖抗体−IOC20複合体を、複合体Yと呼ぶ。複合体Yの光音響信号強度を1とし、複合粒子BおよびXについて、光音響信号特性評価を行い、複合体Yに光音響信号強度に対する信号強度の比として示したものが図9である。酸化鉄粒子のマレイミド基と一本鎖抗体のチオール基、一本鎖抗体のアミノ基と有機色素のカルボキシル基とがそれぞれ結合した複合粒子Bは、複合体Yに比べ大きな信号強度を示した。一方で、酸化鉄粒子のカルボキシル基と一本鎖抗体のアミノ基、一本鎖抗体のアミノ基と有機色素のカルボキシル基とがそれぞれ結合した複合粒子Xは、複合体Yより光音響信号の強度わずかに大きかった。
【0095】
(複合粒子Xの抗体機能評価)
複合粒子Xについて表面プラズモン共鳴法(Surface Plasmon Resonance、以下、SPRと略す)によって、複合粒子の有する一本鎖抗体の抗原(HER2)に対する結合機能を評価した。SPRは前述した方法と同じ方法で評価した。複合粒子XおよびYを0.005%のTween20を含むリン酸バッファー(pH7.4)へバッファー置換した後、粒子濃度が等しくなるように調製し、流速20μL/分で両フローセルへ注入した。測定時間は、注入時間(結合)120秒、注入停止後経過時間(解離)120秒であり、フローセル表面の洗浄は1サンプル測定毎に50mM水酸化ナトリウム水溶液を用いてセンサーグラムがベースラインに戻るまで適量注入した。図10に得られたセンサーグラムを示した。図10では、太線が複合粒子X、点線が複合粒子Yをそれぞれ表す。この結果から、有機色素を結合させた複合粒子Xは、有機色素を結合させても、一本鎖抗体の抗原に対する結合能力があることがわかった。また、有機色素を結合させていない複合粒子Yに比べて、有機色素を結合させた複合粒子Xの方が、HER2への結合に伴うRU値の上昇が少なく、結合機能が低下していることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子と、抗原認識部と抗原認識部以外の部位からなり前記粒子に結合している一本鎖抗体と、前記一本鎖抗体に結合した有機色素と、を有する複合粒子であって、前記一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位がチオール基を有し、前記チオール基と前記粒子の有する官能基とが結合していることを特徴とする複合粒子。
【請求項2】
前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種と、前記有機色素の有する官能基とが結合していることを特徴とする請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記粒子が酸化鉄粒子あるいはインドシアニングリーンのうち少なくともいずれか一方を有することを特徴とする請求項1または2に記載の複合粒子。
【請求項4】
前記一本鎖抗体が、配列番号1のアミノ酸配列である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の複合粒子。
MDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSSAAALEHHHHHHGGC(配列番号1)
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の複合粒子と分散媒とを有することを特徴とする光音響イメージング用造影剤。
【請求項6】
粒子と、抗原認識部と抗原認識部以外からなり前記粒子に結合している一本鎖抗体と、前記一本鎖抗体に結合した有機色素と、からなる複合粒子であって、前記一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位のチオール基を介して、前記一本鎖抗体と前記粒子とが結合していることを特徴とする複合粒子。
【請求項7】
前記一本鎖抗体のアミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基のうち少なくともいずれか一種を介して前記一本鎖抗体と前記有機色素が結合していることを特徴とする請求項6に記載の複合粒子。
【請求項8】
抗原認識部と抗原認識部以外の部位からなる一本鎖抗体の抗原認識部以外の部位が有するチオール基と、粒子の有する官能基と、を結合させる工程と、前記一本鎖抗体の有するアミノ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基のうち少なくともいずれか一種と、有機色素の有する官能基と、を結合させる工程を有することを特徴とする複合粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−12383(P2012−12383A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120318(P2011−120318)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】