複合粒子の製造方法および複合粒子
【課題】 ある粒子の粒界に他の粒子が均一に分散している複合粒子を安定に製造でき、そのため大量生産も可能な製造方法を提供する。
【解決手段】 表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合する混合工程を有し、混合工程の前に、微粒子のうちの少なくとも1種の表面に高分子化合物を修飾して、該微粒子の表面電位を調整する表面電位調整工程を有する方法である。混合工程は、微小流路内で行うことが好ましい。
【解決手段】 表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合する混合工程を有し、混合工程の前に、微粒子のうちの少なくとも1種の表面に高分子化合物を修飾して、該微粒子の表面電位を調整する表面電位調整工程を有する方法である。混合工程は、微小流路内で行うことが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種の微粒子からなる複合粒子を製造する方法および該方法で製造された複合粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
複合粒子は、薬学、セラミックス、化粧品、電池材料など産業横断的に幅広く利用されている。そのため、複合粒子の製造技術として、極めて多くの方法が提案されており、例えば、樹脂混練粉砕法、混合粉体造粒法、凝集粒子ドーピング法、噴霧熱分解法、機械的複合化などが挙げられる。
例えばセラミックスは、耐熱性、耐磨耗性、耐食性に優れているため、切削工具、研磨剤、ベアリング、メカニカルシール、粉砕メディア、光接合部品、ダイス、エンジン、耐熱耐食材料、離形材、耐熱構造材、断熱材等の幅広い用途で使用されている。ところが、セラミックスは共有またはイオン結合性が強く、金属のように塑性変形などを示さないので、クラック先端の応力集中を緩和できず、表面にある傷や内部欠陥を起点に破壊するという欠点を有する。
【0003】
そこで、セラミックスのこのような脆性材料としての欠点を改善する試みがなされている。例えば特許文献1には、アルミナセラミックスの機械的特性(強度、靭性、耐久性等)を向上させるために、添加物としてジルコニアを加え、アルミナ結晶粒子の粒界にジルコニア結晶粒子を分散させようとする技術が記載されている。特許文献2には、安定化剤を含有するジルコニアセラミックスの機械的特性を改善するために、添加物としてアルミナを加え、ジルコニア結晶粒子の粒界にアルミナ結晶粒子を分散させようとする技術が記載されている。
【0004】
しかしながら、これら特許文献に記載された技術では、平均粒径がサブミクロンオーダーである複数種の微粒子を、ボールミルなどで物理的に湿式混合する方法や、共沈法などにより混合している。よって、得られた複合粒子においては、図24の概念図に示すように、セラミックスを構成している結晶粒子100の粒界101に、添加物102が結晶粒子として存在してはいるものの、添加物102の結晶粒子の分散性が悪く、不均一に塊状に存在している。そのため、結晶粒子の粒界で機械的特性が不均一になる為、十分な機械的特性が得られないという問題があった。
【0005】
そこで、図25に示すように、セラミックスを構成している結晶粒子100の粒界101に、添加物102を均一に分散させた構造(以下、コアシェル型構造という。)の複合粒子を安定に製造する技術の開発が望まれていて、例えば特許文献3には、製造方法を改良することで、ジルコニア結晶粒子をコアとし、アルミナ結晶粒子をシェルとした複合粒子を合成しようとする試みが開示されている。このようなコアシェル型構造の複合粒子によれば、機械的特性が飛躍的に向上し、かつ、粒界強度が均一であるために物性の再現性も良く、高い信頼性が得られることが期待されている。
【0006】
一方、非特許文献1には、コアシェル型構造の複合粒子を利用した電極の微細構造制御について記載され、コアシェル型構造の複合粒子の有用性が示されている。すなわち、一般的な固体酸化物系燃料電池(以下、SOFCという。)において用いられる、図26のような構造のNi−YSZ(Y2O3安定化ZrO2)燃料極では、Ni粒子110とYSZ粒子111の粒界112において水素と酸素イオンの反応が生じる。ところが、SOFCの通常の動作温度は約1000℃と高いために、作動中に燃料極中のNi同士の凝集によりその反応界面が減少して電極性能が劣化するという問題や、Ni同士の凝集により寸法変化が生じ、その結果、燃料極の割れや燃料極における導電率の低下が起こるという問題があった。そこで、Ni−YSZ燃料極を、図27のようにNi粒子110の周囲にYSZ粒子111が比較的均一に存在するコアシェル型構造とすることにより、作動中にNi同士が焼結して粒成長することが抑えられるため、Ni粒子、YSZ粒子、空隙113から構成される3相界面が十分に確保され、電極性能の向上および電極寿命の向上が期待できるとされている。
【特許文献1】特開昭57−100976号公報
【特許文献2】特開昭58−032066号公報
【特許文献3】特開2004−143031号公報
【非特許文献1】福井武久ら著、「複合微粒子による材料のナノ・ミクロ構造制御」、粉体と工業、Vol.34、No.10、2002、41−47頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に開示の方法は再現性が十分ではなく、コアシェル型構造の複合粒子を安定には合成できなかった。また、非特許文献1においては、NiとYSZの複合微粒子を噴霧熱分解法により製造している。噴霧熱分解法は、原料溶液を超音波振動子で霧化し、霧化した原料を乾燥、熱分解、焼結等の熱処理を行って複合粒子を合成する方法であって、一般に、使用される装置が複雑で大掛かりである上に、単位時間に製造できる微粒子の量が非常に少なく、工業的な大量生産ができないという課題があった。
【0008】
このように従来の技術では、ある粒子の粒界に他の粒子が均一に分散しているコアシェル型構造に代表される複合粒子を安定に製造することは非常に困難であり、また、製造できる場合であっても、その際使用される製造装置は複雑で大掛かりなため、大量生産には向かなかった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ある粒子の粒界に他の粒子が均一に分散している複合粒子を安定に製造でき、そのため大量生産も可能な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の複合粒子の製造方法は、表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合する混合工程を有し、複数種の微粒子からなる複合粒子を製造する方法であって、前記混合工程の前に、前記微粒子のうちの少なくとも1種の表面に高分子化合物を修飾して、該微粒子の表面電位を調整する表面電位調整工程を有することを特徴とする。
前記混合工程を、微小流路内で行うことが好ましい。
本発明においては、前記微小流路の流路構造により、前記複合粒子の粒子構造を制御することができる。また、前記微小流路の幅により、前記複合粒子の粒径および/または粒径分散度を制御することができる。
また、本発明は、前記各微粒子が、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物からなる群から選ばれる1種である場合に特に適している。
また、前記複合粒子は、コアシェル型構造であることが好ましい。
さらに、前記表面電位が正の微粒子と前記表面電位が負の微粒子のうちいずれか一方の粒径が、他方の粒径の5倍以上であると、よりコアシェル型構造の複合粒子が得られやすい。
本発明の複合粒子は、上記いずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする。また、その粒径分散度は10%未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合粒子の製造方法によれば、セラミックスのような、化学的、力学的に結合が難しく、従来複合化が困難であったものについても、ある粒子の粒界に他の粒子が均一に分散している複合粒子を、容易に再現性よく製造でき、大量生産も可能である。
すなわち、表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合する混合工程を有し、この工程の前に、微粒子のうちの少なくとも1種の表面に高分子化合物を修飾して、この微粒子の表面電位を調整する表面電位調整工程を有する方法によれば、等電点の差が小さく、クーロン力による結合を進行させることが従来困難であった複数の微粒子であっても、安定に結合させることができる。また、混合工程を微小流路内で行うことにより、一定の条件で連続的に複合粒子を製造でき、一定の物性を備えた複合粒子を安定かつ大量に得ることができ、非常に効率的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の複合粒子の製造方法は、複数種の微粒子からなる複合粒子を製造する方法であって、表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合し、これら微粒子をクーロン力で結合させる混合工程を有するものであるが、この混合工程の前に、これら微粒子のうちの少なくとも1種の表面に高分子化合物を修飾して、この微粒子の表面電位を調整する表面電位調整工程をさらに備えている。
【0013】
ここで使用される表面電位が正または負の微粒子としては、固体微粒子であれば特に制限はなく、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物を例示でき、これらをいずれも好適に使用できる。しかしながら、本発明の製造方法は、安定であって化学結合を形成しにくく、また、硬く脆い性質を持つことから、金属や有機物などのように延性・靭性などによる力学的な複合化も困難な、一般にセラミックスと言われる金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物の微粒子を材料として複合粒子を製造する場合に特に適している。金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物の具体例としては、ニッケルオキサイド、ジルコニア、アルミナ、チタニア、シリカ、イットリア、カルシア、マグネシア、セリア、窒化アルミニウム、炭化ケイ素等が挙げられる。
【0014】
流体としては、気体および液体が挙げられ、いずれも使用できるが、取扱性などから、液体、特に水を使用することが好ましい。
【0015】
混合工程では、表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合して、これら微粒子をクーロン力により結合させるが、微粒子の表面電位は、一般にpHによって変化する。
例えば、pHに対して、図1(a)に示すように表面電位が変化する2種の微粒子(微粒子Aおよび微粒子B)があり、これらを含む2流体を混合して微粒子同士を結合させる場合には、一方の微粒子は、その表面電位が正に安定に保持され、他方の微粒子は、その表面電位が負に安定に保持される必要がある。この例では、微粒子Aは、pHが約4.5以上の領域で安定に負となり、微粒子Bは、pHが約8.3以下の領域で安定に正となる。すなわち、pHが4.5〜8.3の範囲であれば、一方の微粒子の表面電位が正に安定に保持され、かつ、他方の微粒子の表面電位が負に安定に保持される。以下、このような共通のpH領域を、表面電位安定領域といい、図中αまたはα’で示す。
よって、例えば、微粒子Aを含みpHが6であるスラリー溶液と、微粒子Bを含みpHが6であるスラリー溶液とを混合することにより、混合後のスラリー溶液のpHも6となりpHが変化しないため、微粒子AおよびBは結合の直前まで、それぞれの表面電位に安定に保持され、その結果、結合が安定に進行する。なお、ここでは、例として各スラリー溶液のpHを6として説明したが、各スラリー溶液のpHがほぼ同じであって、かつ、4.5〜8.3の範囲であれば結合は同様に安定に進行する。
【0016】
しかしながら、pHに対して、図1(b)に示すように表面電位が変化する2種の微粒子(微粒子Cおよび微粒子D)を結合させようとしても、この場合、この図から明らかなように、一方の微粒子の表面電位が正に安定に保持され、かつ、他方の微粒子の表面電位が負に安定に保持される表面電位安定領域は存在しない。よって、上述の微粒子Aと微粒子Bの場合のように、同程度のpHのスラリー溶液をそれぞれ調製後、これらを混合して、微粒子同士を結合させることはできない。また、例えば、微粒子Cを含むスラリー溶液のpHを約8.3以下としてその表面電位を正に維持し、一方、微粒子Dを含むスラリー溶液のpHを10.5以上としてその表面電位を負に維持することは可能であるが、これらのスラリー溶液を例えば同量ずつ混合すると、混合直後にスラリー溶液のpHは9.4前後となり、微粒子CおよびDはどちらも直ちに表面電位が不安定になってしまい、結合が安定に進行しない。
【0017】
以上のことから、2種の微粒子の結合を安定に進行させるためには、2種の微粒子の等電点(表面電位がゼロとなる点、図1中EA、EB、EC、EC’、EDで示す。)の差(図中βまたはβ’で示す。)が大きく、そのために表面電位安定領域が広いことが重要であると理解できる。ところが、一般に、結合させようとする2種の微粒子の等電点の差が大きい場合は少ない。本発明における表面電位調整工程は、少なくとも一方の微粒子の表面に高分子化合物を修飾して、この微粒子の表面電位を調整することにより、2種の微粒子の等電点の差を大きくし、表面電位安定領域を広くするものであって、例えば図1(b)に示した微粒子Cの表面に高分子化合物を修飾することによって、微粒子Cの表面電位曲線を図中矢印で示すようにシフトさせることが可能となる(図中、微粒子C’として示す。)。その結果、等電点の差がβからβ’に広がるとともに表面電位安定領域α’が出現し、等電点の差が小さく、クーロン力による結合を進行させることが従来困難であった微粒子Cと微粒子Dとを、ついで行われる混合工程において、安定に結合させることができる。
【0018】
表面電位調整工程で使用される高分子化合物のうち、図1(b)の例のように、等電点を高いpHから低いpHへとシフトさせる際に使用されるものとしては、ポリアクリル酸アンモニウム塩のような酸系の高分子化合物が挙げられる。一方、等電点を低いpHから高いpHへとシフトさせる際に使用されるものとしては、アルキルアミンやアルキルアンモニウムなどの分子を構成単位とするアミン系の高分子化合物が挙げられる。例えばジルコニアは等電点が比較的高いため、酸系の高分子化合物による修飾に適し、例えばシリカは等電点が比較的低いため、アミン系の高分子化合物による修飾に適している。なお、表面修飾に使用される高分子化合物は分散剤としての機能を有していてもよい。
【0019】
また、このようにして表面修飾される微粒子がセラミックスの場合は、混合工程により複合粒子を合成した後、この複合粒子の粉末を成形して、数百℃から数千℃の高温で焼成する焼成工程を行うことが多い。この場合、表面修飾に使用した高分子化合物は、高温での焼成により消失し、焼成後の製品には影響を及ぼさない。
【0020】
表面電位調整工程において、微粒子の表面に高分子化合物を修飾する具体的方法としては、高分子化合物と微粒子とを、必要に応じて水などの溶媒の存在下で混合する方法が挙げられ、例えば媒体攪拌型ボールミルを使用した粉砕混合法が好ましい。この際の高分子化合物と微粒子との質量比は、微粒子の種類や粒径に依存するが、例えば、粒径(二次粒子径)0.1μmの酸化ジルコニウム粒子の場合、微粒子100質量部に対して、高分子化合物2〜3質量部の範囲が好ましい。また、粉砕混合する時間には特に制限はないが、粒径(二次粒子径)0.1μmの酸化ジルコニウムに高分子化合物を修飾する場合は、数分〜数十分程度行えばよい。
【0021】
このような表面電位調整工程は、結合される複数種の微粒子のうち、少なくとも1種に対して実施すればよいが、必要に応じて2種以上の微粒子に対して実施してもよい。
【0022】
表面電位調整工程の後には、表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合する混合工程を行う。
混合工程の具体的方法としては、図2に示すように、表面電位が正の微粒子を水に添加した一方のスラリー溶液1と、表面電位が負の微粒子を水に添加した他方のスラリー溶液2とを、マグネチックスターラ3で攪拌されている蒸留水の受け水4に、それぞれ滴下ロートから滴下する共滴下法、図3に示すように、一方のスラリー溶液1をマグネチックスターラ3で攪拌しておき、そこへ他方のスラリー溶液2を滴下ロートから滴下する方法、図4に示すように、微小流路11が形成されたマイクロリアクタ10を使用する方法も挙げられる。
【0023】
混合工程を行うことにより、一方の微粒子の粒界に他方の微粒子が均一に分散している複合粒子を簡便かつ大量に製造できる。このような複合粒子の構造としては、図5に示すような内部分散型と、図6(a),(b)に示すような多層構造であるコアシェル型が挙げられる。図5は内部分散型の複合粒子20を示すもので、これは、この複合粒子20内に、複数種の微粒子21,22が均一に分散した構造である。図6(a),(b)はコアシェル型の複合粒子30を示すもので、1種の微粒子32から形成されたコア31の表面に、他の種類の微粒子33が修飾し、被覆部(シェル)34を形成した構造である。なお、図6(a)のコアシェル型構造は、コア31が複数の微粒子32からなり、図6(b)のコアシェル型構造は、コア31が1つの微粒子32からなっている。
【0024】
このような方法によれば、内部分散型、コアシェル型のいずれの構造の複合粒子20,30を製造することも可能であるが、特に、コアシェル型構造の複合粒子30を調製するためには、コア31となる微粒子32を含むスラリーの微粒子濃度をシェル34となる微粒子33を含むスラリーの微粒子濃度よりも低くすることが有効である。このようにすれば、これらスラリーを混合した際に、コア31となる1つの微粒子32に対してシェル34となる微粒子33が接触する確率が増加する。よって、コア31となる微粒子32の周りを優先的にシェル34の微粒子33が覆い、より均一な粒度分布を持つ複合粒子30を製造することができる。ここで仮に、コア31となる微粒子32を含むスラリーの微粒子濃度がシェル34となる微粒子33を含むスラリーの微粒子濃度より高い場合、シェル34となる微粒子33を媒介にコア31となる微粒子32が結合するなどして、粗大粒子を生成する可能性がある。
【0025】
さらに、混合工程においては、コア31となる微粒子32の粒径と、シェル34となる微粒子33の粒径とを制御することもコアシェル型構造の複合粒子30を製造するために有効である。
すなわち、コア31となる微粒子32の粒径をシェル34となる微粒子33の粒径よりも大きくすることにより、コア31を形成する微粒子32は、より高い確率で優先的にコア31を成し、コアシェル型が形成されやすい。一方、コア31となる微粒子32の粒径がシェル34となる微粒子33の粒径と同等か、小さい場合、コア31となる微粒子32の分散性が高いと、分散性の高い複合粒子が得られるものの、その構造はコアシェル型となりにくく、図5のような内部分散型となりやすい。
より好ましくは、コア31となる微粒子32の粒径をシェル34となる微粒子33の粒径の5倍以上とし、さらに好ましくはコア31となる微粒子32の粒径をシェル34となる微粒子33の粒径の10倍以上とする。この場合、コア31となる微粒子32、シェル34となる微粒子33のいずれか一方の表面電位が正であり、他方の表面電位が負であればよいので、表面電位が正の微粒子と表面電位が負の微粒子のうちいずれか一方の粒径が、他方の粒径の好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上であると、コアシェル型が形成されやすいこととなる。
【0026】
また、このように表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合する混合工程においては、表面電位が正および負の微粒子の両方が各流体中で1次粒子の状態にある場合(ケース1)と、表面電位が正および負の微粒子の両方が各流体中で1次粒子が凝集した2次粒子の状態にある場合(ケース2)と、表面電位が正および負の微粒子のいずれか一方が流体中で1次粒子の状態にあり、他方が2次粒子の状態にある場合(ケース3)とがある。よって、ケース1の場合には、表面電位が正の微粒子と負の微粒子についてそれぞれの1次粒子径を比較し、一方の1次粒子径が他方の1次粒子径の好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上であると、コアシェル型が形成されやすいこととなる。ケース2の場合には、表面電位が正の微粒子と負の微粒子についてそれぞれの2次粒子径を比較し、一方の2次粒子径が他方の2次粒子径の好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上であると、コアシェル型が形成されやすいこととなる。そして、ケース3の場合には、流体中で1次粒子の状態にある微粒子の1次粒子径と、流体中で2次粒子の状態にある微粒子の2次粒子径とを比較し、一方が他方の好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上であると、コアシェル型が形成されやすいこととなる。
【0027】
このように、混合される際に微粒子が1次粒子として存在している場合には、その粒径とは「1次粒子径」を指し、1次粒子が凝集した2次粒子として存在している場合には、その粒径とは「2次粒子径」を指す。また、図5や図6における各微粒子21,22,32,33は、混合される際にその微粒子が1次粒子の状態にあるものについては1次粒子を示し、2次粒子の状態にあるものについては2次粒子を示す。
なお、ここでいう1次粒子径とはTEMなどで観察される最小の粒子径であり、2次粒子径とはスラリー化した際に湿式の粒度分布計などで測定される粒子径を指す。また、1次粒子が比較的大きい場合には、スラリー中でも凝集せず、2次粒子を形成しない場合があるが、その場合には、1次粒子径と2次粒子径は等しいこととなる。
また、コア31を形成する微粒子32とシェル34を形成する微粒子33について、その1次粒子径や2次粒子径を比較する場合には、それぞれ全体の粒度分布の50%の位置にあたる粒径(中心粒径)を代表値として用いる。
【0028】
複合粒子を構成する微粒子は、正、負ともにその大きさには特に制限はないが、通常、その粒径(2次粒子径)は1nm〜100μmの範囲である。
また、得られる複合粒子の粒径(2次粒子径)は適宜設定できるが、中心粒径で通常10nm〜200μmである。
【0029】
以上説明した混合工程は、図2〜図4に示したような方法で行えるが、特に、図4に示すように、微小流路11が形成されたマイクロリアクタ10を使用する方法によれば、一定の条件で連続的に複合粒子を製造できるため、一定の物性を備えた複合粒子を安定かつ大量に得ることができ、非常に効率的である。
図4のマイクロリアクタ10は、一方の面に微小流路11が形成された微小流路基板12と、微小流路11が形成された側の微小流路基板12上に設けられた平板状のカバー体13とから形成された微小流路構造体14からなっている。
この例の微小流路11は、第1流路11aと第2流路11bと第3流路11cとを有し、これらが合流部11dで合流するY字状に形成されている。そして、カバー体13において第1流路11aの末端と第2流路11bの末端に対応する位置には、流体をこれら微小流路11内に導入するための流体導入口15がそれぞれ貫通形成され、第3流路11cの末端に対応する位置には、微小流路11内から流体を排出するための流体排出口16が貫通形成されていて、これら流体導入口15と流体排出口16とは微小流路11により連通している。
【0030】
微小流路基板12は、例えば、ガラス、石英、セラミックス、シリコン、金属、樹脂等からなる基板材料に対して、機械加工やレーザー加工、エッチングなどにより微小流路11を直接加工することによって製作できる。また、基板材料がセラミックスや樹脂の場合は、流路形状を有する金属等の鋳型を用いて成形する方法で製作してもよい。カバー体13にも、微小流路基板12と同様の材料を使用できる。
微小流路基板12とカバー体13とは、互いに接合、一体化されて微小流路構造体14を形成していて、接合方法としては、基板材料がセラミックスや金属の場合は、ハンダ付け法や接着剤を用いる方法、基板材料がガラスや石英、樹脂の場合は、百〜千数百℃の高温下で荷重をかけて熱接合させる方法、基板材料がシリコンの場合は洗浄により表面を活性化させて常温で接合させる方法など、それぞれの基板材料に適した接合方法が採用される。
【0031】
このようなマイクロリアクタ10の2つ流体導入口15から、表面電位が正の微粒子を含有する流体と、表面電位が負の微粒子を含有する流体とを、それぞれ図示略の送液用ポンプなどを使用して、通常1〜100μL/分の送液速度で、第1流路11aおよび第2流路11b内に導入することにより、これらの合流部11dで2つの流体が混合され、表面電位が正の微粒子と負の微粒子とが結合する。このような結合により形成された複合粒子は、第3流路11cを流通して流体排出口16より排出される。
【0032】
このようにマイクロリアクタ10を使用することにより、一方の微粒子の粒界に他方の微粒子が均一に分散している複合粒子を特に安定に製造できる。マイクロリアクタ10を使用して、複数種の微粒子を結合させる方法によれば、図5の内部分散型、図6のコアシェル型のいずれの構造の複合粒子20,30を製造することも可能であるが、特にマイクロリアクタ10を使用すれば、コアシェル型の複合粒子30を製造することに適している。
また、特に微粒子がセラミックスである場合、得られたコアシェル型の複合粒子30を成形して焼成しても、そのコアシェル型構造は維持される。このようなコアシェル型のセラミックスは、機械的特性が飛躍的に向上し、かつ、粒界強度が均一であるために物性の再現性も良く、高い信頼性が得られる。なお、通常、粒径の大きな微粒子がコア34を構成し、小さな微粒子がシェル34を構成する。
【0033】
マイクロリアクタ10を使用した場合、これに形成された微小流路11の幅によって、得られる複合粒子20,30の粒径や、粒径分散度を制御することができる。なお、粒径分散度とは、粒径の標準偏差を粒径の平均値(以下、平均粒径という。)で割った値であり、以下、本明細書において粒径分散度が良いとは、粒径分散度が10%未満であることを意味する。
通常、表面電位が正の微粒子と表面電位が負の微粒子から複合粒子20,30を微小流路11を用いて合成する場合、第1流路11aから導入された微粒子を含むスラリーと第2流路11bから導入された微粒子を含むスラリーが、第3流路11cで合流したときに表面電位が正の微粒子と表面電位が負の微粒子がそれぞれのスラリー界面付近で接触して結合する。この場合、スラリー界面付近では表面電位が正の微粒子と表面電位が負の微粒子の接触する確率が高く、お互いの結合が速やかに進行するが、微小流路の壁面付近では、表面電位が正の微粒子と表面電位が負の微粒子が接触する確率が低い為、お互いの結合が速やかに進行しない。つまり、第3流路11cの幅が狭い場合は、表面電位が正の微粒子と表面電位が負の微粒子が接触する確率の高いスラリー界面付近の領域と確率の低い流路壁付近の領域の確率の差が小さく、第3流路11c内で速やかに、かつ均一に結合が進行し、複合粒子20,30の粒径は小さくなり、粒径分散度も小さく良好となる。一方、第3流路11cの幅が広い場合は、表面電位が正の微粒子と表面電位が負の微粒子が接触する確率の高いスラリー界面付近の領域と確率の低い流路壁付近の領域の確率の差が大きく、スラリー界面付近では速やかにかつ均一に結合が進行して生成する複合粒子が存在すると同時に、第3流路11cの壁付近では、同じ種類の微粒子どうしが凝集した後、もう一方の微粒子と結合して生成することにより粒径が大きく、かつ比較的さまざまな粒径の複合粒子20,30が生成され、粒径分散度も大きくなる。
【0034】
ところが、本発明者らが実験を重ね鋭意検討した結果、このようなマイクロリアクタ10を使用した場合には、得られる複合粒子20,30の粒径や粒径分散度は、微小流路11の幅に依存するものの、微小流路11の深さにはほとんど依存しないことを見出した。よって、例えば、複合粒子20,30の粒径や粒径分散度を小さくするためには、微小流路11の幅のみを小さくすればよい。その際、微小流路11の深さを大きくしたとしても、複合粒子20,30の粒径や粒径分散度は影響を受けないので、微小流路11の幅を小さくした場合には、その深さを大きくすることにより、微小流路11に流れる流体の圧力損失が大きくなったり、複合粒子20,30の合成により微小流路11が閉塞したりすることなく、複合粒子20,30を安定に合成できる。また、微小流路11の幅を小さくする場合には深さを大きくし、幅を大きくする場合には深さを小さくすることにより、その断面積を一定にして、圧力損失を一定に維持することも可能である。
なお、ここで微小流路11の幅とは、微小流路基板12に平行方向の長さであり、深さとは、微小流路基板12に垂直方向の長さである。
【0035】
また、このように微小流路11の幅を調整することにより、粒径だけでなく粒径分散度も制御可能であるので、例えば、粒径分散度が10%未満であって粒径分散度がよく、粒径のばらつきがない均一な複合粒子20,30を製造することもできる。
【0036】
したがって、微小流路11の幅は、複合粒子20,30に要求される粒径や粒径分散度に応じて決定すればよいが、通常、1〜500μm、好ましくは5〜200μmの範囲で形成される。また、その深さも圧力損失などに応じて適宜決定すればよいが、通常、0.1〜200μm、好ましくは1〜50μmの範囲で形成される。また、流体導入口15と流体排出口16は、直径1〜数mm程度に形成されればよい。
また、微小流路11の長さには特に制限はなく、圧力損失などに応じて適宜設定できるが、通常1μm〜50cm、好ましくは10μm〜5cmである。
【0037】
また、本発明者らは、さらに実験を重ね鋭意検討した結果、複合粒子20,30の粒径や粒径分散度は、微小流路11の幅だけでなく、微小流路11内での流体同士の接触時間でも制御可能であるが、微小流路11の幅が狭くなるほど、複合粒子20,30の粒径や粒径分散度は、微小流路11内での流体の接触時間に影響を受けなくなることを見出した。特に、微小流路11の幅が250μm未満、好ましくは100μm未満になると顕著にその効果が現れ、複合粒子20,30の粒径や粒径分散度は、微小流路11内での流体の接触時間にはほとんど影響を受けない。これは、微小流路11の幅が狭くなるほど、微小流路11内での流体の接触時間が変動したとしても、複合粒子20,30の粒径や粒径分散度は変化せず、粒径や粒径分散度の安定した複合粒子20,30を合成できることを意味し、例えば接触時間を短くして、複合粒子20,30の単位時間あたりの合成量を増やすことも可能となる。
【0038】
なお、このようなマイクロリアクタ10は、複数の微小流路構造体14を重ねた積層構造としてもよい。このような構成とすることで、微小流路11を立体的に複数形成でき、複合粒子20,30を大量生産できる。また、この際、積層の方向に、微量流路11同士を連通させるとともに、流体導入口15同士、流体排出口16同士も連通させて、流体導入口15と流体排出口16が1つずづ形成された構成としてもよい。
【0039】
また、このようなマイクロリアクタ10には、微粒子同士の結合を促進させるために、微小流路11にエネルギーを供給する手段を備えていてもよい。エネルギーとは、電界、磁界からなる電磁波や、加熱、冷却、振動、光等を意味する。
具体的なエネルギー供給手段の例としては、例えば図7に示すように、電極40を微小流路11に近接して配置する形態が挙げられる。この電極40間に電源供給装置41により電圧を印加することで微小流路11内に電界を発生させることができる。例えば、微小流路11の流路幅が100μmの場合であれば、微小流路11の流路に近接して配置した電極40に100Vの電圧を印加すると、1MV(1×106V)/mの電界を発生させ、微小流路に供給することができる。
また加熱や冷却の手段としては、図8に示すように、微小流路11の近傍に、例えばペルチェ素子42を配置する態様、あるいは図9に示すようにマイクロリアクタ10全体をヒータや冷媒を備えた恒温槽43で覆うような態様がある。また振動の供給方法としては、図10に示すように圧電素子44などを微小流路11の近傍に配置すれば良く、光の供給方法としては、図11に示すようにレーザー光45をレンズ46で絞り微小流路11に照射する方法がある。
【0040】
また、使用される微粒子はセラミックスに限定されず、イオン、分子、高分子化合物などを使用できるが、特に複合化が難しいと考えられる金属酸化物系のセラミックスの場合であっても、上述したような微小流路11内で混合工程を行う方法によれば容易に、均一に複合化できるため、特に有効である。
【0041】
また、以上の例においては、主に、表面電位が正の微粒子を含有する1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する1種の流体とを混合して、2種の微粒子からなる複合粒子20,30を製造する場合を挙げて説明したが、複合粒子を形成する微粒子の種類は2種に限定されず、3種以上であってもよい。
例えば、マイクロリアクタ10として、図12に示すような微小流路11が形成された微小流路基板12を備えたものを用いれば、図13に示すような微粒子A、微粒子B、微粒子Cの3種類の異種成分の微粒子から構成される、内部分散型の粒子構造を有する複合粒子50を合成できる。この場合、微粒子A、B、Cはそれぞれ、符号11e,11f,11gで示される微小流路に導入される。また、図14に示すような流路構造の微小流路基板12を有するものを用いれば、図15に示すような微粒子A、微粒子B、微粒子Cの3種類の異種成分の微粒子から構成される、3層構造のコアシェル型の粒子構造を有する複合粒子60を合成できる。この場合、微粒子A、B、Cはそれぞれ、符号11h,11i,11jで示される微小流路に導入される。
ここで、図13のような内部分布型の複合粒子50を製造する場合には、3種類の微粒子のうち少なくとも1種の表面電位が正で、少なくとも1種の表面電位が負であれば、残りの1種の表面電位は正負のどちらでもよい。また、図15に示すようなコアシェル型の複合粒子を製造する場合には、内側から正、負、正、あるいは、負、正、負のように、交互に逆の表面電位を備えた微粒子が配置されるように、これら微粒子を含む流体を供給すればよい。
このように微小流路11の流路構造を、1ヶ所の合流部11kを備えた図12のような形態や、2カ所の合流部11m,11nで合流する図14のような形態などとすることにより、製造する複合粒子50,60の粒子構造を制御することも可能である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について、実施例を示して具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
[調製例1]
(酸化ジルコニウムの表面修飾)
媒体攪拌型ボールミル(ダイノーミル:シンマルエンタープライゼ製、粉砕ボール:ジルコニアボール0.3mm)に、表面修飾剤としてポリアクリル酸アンモニウム塩(Dysperbyk−154:ビック・ケミー製)を溶解させた蒸留水を投入し、混合、粉砕を行いながら、原料である酸化ジルコニウム(TZ−8Y:東ソー製)を投入した。投入後、210分間粉砕を行い、表面修飾を行った酸化ジルコニウムスラリーを調製した。
なお、このときの酸化ジルコニウム、表面修飾剤、蒸留水の投入量は質量比で、酸化ジルコニウム:表面修飾剤:蒸留水=100:2.4:100である。本例による表面修飾の前と後のpHの変化に対する酸化ジルコニウムの表面電位と、これと後の実施例で混合される酸化ニッケルの表面電位とを図16に示した。また、こうして得られた酸化ジルコニウムは2次粒子を形成していて、その粒径(2次粒子径)は0.1μmであった。また、ここで粒径とは、全体の粒度分布の50%の位置にあたる粒径(中心粒径)のことである。
【0043】
[調製例2]
(表面修飾のない酸化ジルコニウムスラリー調製)
媒体攪拌型ボールミル(ダイノーミル:シンマルエンタープライゼス製、粉砕ボール:ジルコニアボール0.3mm)に、蒸留水を投入し、混合、粉砕を行いながら、原料である酸化ジルコニウム(TZ−8Y:東ソー製)を投入した。投入後、210分間粉砕を行い、表面修飾を行った酸化ジルコニウムスラリーを調製した。
なお、このときの酸化ジルコニウム、蒸留水の投入量は質量比で、酸化ジルコニウム:蒸留水=100:100である。また、こうして得られた酸化ジルコニウムは2次粒子を形成していて、その粒径(2次粒子径)は約1μmであった。また、ここで粒径とは、全体の粒度分布の50%の位置にあたる粒径(中心粒径)のことである。
【0044】
[実施例1]
(バルク系での共滴下法による複合粒子の合成)
Ni換算で50体積%となるように酸化ニッケルスラリー(約50wt%、溶媒は水)を47.15gと、上記調製例1で調製した表面が高分子化合物により修飾された酸化ジルコニウムスラリー(約50wt%:溶媒は水)を24.35gを用意した。
なお、酸化ニッケルは2次粒子を形成していて、その粒径(2次粒子径)は約1μmであった。
次に、酸化ニッケルスラリー47.15gに蒸留水を52.85g添加し、酸化ジルコニウムスラリー24.35gに蒸留水を75.75g添加し、これらを滴下に用いるスラリーとした。
この際、酸化ジルコニウムスラリーのpHは9.5で、酸化ニッケルスラリーのpHは10.0であった。
図2に示すように酸化ニッケルスラリーと酸化ジルコニウムスラリーを、滴下ロートを用いて、マグネチックスターラ3で攪拌している蒸留水の受け水4に滴下することでこれらを混合し、複合粒子を合成した(共滴下法)。
蒸留水の量は、滴下後の最終的な複合粒子スラリーの濃度が10質量%となるように185gとした。滴下後に反応を終了させるため、30分間攪拌を行い最終的に複合粒子のスラリーを得た。
なお、蒸留水の受け水4がない場合、十分に撹拌ができない場合がある。また、スラリー中の粒子濃度が高い場合、スラリー粘性が上昇し、均一な攪拌が困難となる場合がある。
【0045】
粒度分布計で得られた複合粒子の粒度分布を測定した結果、中心粒径4.6μm、粒径分散度17.2%であった。また得られた複合粒子を乾燥して1100℃で仮焼したときのSEM画像を観察した結果、酸化ニッケル粒子の表面を酸化ジルコニウム粒子が覆った図6(a)の形態および図6(b)の形態のコアシェル型構造をそれぞれ確認できた。
【0046】
[実施例2]
(バルク系での酸化ニッケル滴下法による複合粒子の合成)
Ni換算で50体積%となるように酸化ニッケルスラリー(約50wt%、溶媒は水)を47.15gと、上記調製例1で調製した表面が高分子化合物により修飾された酸化ジルコニウムスラリー(約50wt%:溶媒は水)を24.35gを用意した。
なお、酸化ニッケルは2次粒子を形成していて、その粒径(2次粒子径)は約1μmであった。
次に酸化ニッケルスラリーに蒸留水を244g添加し、酸化ジルコニウムスラリーに蒸留水を36g添加し、図3に示すように蒸留水を添加した酸化ジルコニウムスラリーに同じく蒸留水を添加した酸化ニッケルスラリーを滴下、混合することで複合化を行った。滴下後に反応を終了させるため、30分間マグネチックスターラ3で攪拌を行い最終的に複合粒子スラリーを得た。なお、使用した酸化ジルコニウムスラリーのpHは9.5で、酸化ニッケルスラリーのpHは10.0であった。
粒度分布計で得られた複合粒子の粒度分布を測定した結果、中心粒径4.2μm 粒径分散度15.0%であった。また、得られた複合粒子を乾燥して1100℃で仮焼したときのSEM画像(15000倍)を図17に示した。このSEM画像の結果から、数μm前後の大きな粒子の周囲に小さい粒子が取り囲んでいる様子が観察され、酸化ニッケル粒子の表面を酸化ジルコニウム粒子が覆ったコアシェル型構造を確認できた。コアシェル型構造としては、図6(a)の形態および図6(b)の形態の両者が含まれる。
また、この実施例2では、実施例1よりも、酸化ニッケルスラリーについてはその酸化ニッケル微粒子濃度を薄くし、酸化ジルコニウムスラリーについてはその酸化ジルコニウム微粒子濃度を濃くしているため、実施例1よりも粒径分散度の小さな複合粒子が得られた。
【0047】
[実施例3]
(バルク系での酸化ニッケル滴下法による複合粒子の合成(酸化ニッケル粒径が大きい場合))
Ni換算で50体積%となるように酸化ニッケルスラリー(約50wt%、溶媒は水)を47.15gと、上記調製例1で調製した表面が高分子化合物により修飾された酸化ジルコニウムスラリー(約50wt%:溶媒は水)を24.35g用意した。
なお、酸化ニッケルはスラリー中で1次粒子の状態で、2次粒子を形成しておらず、その粒径(1次粒子径=2次粒子径)は約3μmであった。
次に酸化ニッケルスラリーに蒸留水を244g添加し、酸化ジルコニウムスラリーに蒸留水を36g添加し、図3に示すように蒸留水を添加した酸化ジルコニウムスラリーに同じく蒸留水を添加した酸化ニッケルスラリーを滴下、混合することで複合化を行った。滴下後に反応を終了させるため、30分間マグネチックスターラ3で攪拌を行い最終的に複合粒子スラリーを得た。なお、使用した酸化ジルコニウムスラリーのpHは9.5で、酸化ニッケルスラリーのpHは10.0であった。
粒度分布計で得られた複合粒子の粒度分布を測定した結果、中心粒径1.7μmであった。なお、ここで中心粒径は小さい値となっているが、これは複合粒子とならなかった原料微粒子が存在しているためと推察できる。また、得られた複合粒子を乾燥して1200℃で仮焼したときのSEM画像(5000倍)を図18に示した。このSEM画像の結果から、5μm前後の大きな粒子の周囲に小さい粒子が取り囲んでいる様子が観察され、酸化ニッケル粒子の表面を酸化ジルコニウム粒子が覆った図6(b)のコアシェル型構造を確認できた。また、本実施例3では実施例2よりも、酸化ニッケルとして粒径の大きなものを使用しているため、分散性に優れた複合粒子を得ることができた。
【0048】
[比較例1]
(表面修飾のない酸化ジルコニウムスラリーを用いた複合化)
Ni換算で50体積%となるように酸化ニッケルスラリー(約50wt%、溶媒は水)を47.15gと、上記調製例2で調製した表面修飾処理を行っていない酸化ジルコニウムスラリー(約50wt%:溶媒は水)を24.35g用意した。
なお、酸化ニッケルは2次粒子を形成していて、その粒径(2次粒子径)は約3μmであった。
次に酸化ニッケルスラリーに蒸留水を244g添加し、酸化ジルコニウムスラリーに蒸留水を36g添加し、図3に示すように蒸留水を添加した酸化ジルコニウムスラリーに同じく蒸留水を添加した酸化ニッケルスラリーを滴下、混合することで複合化を行った。滴下後に反応を終了させるため、30分間マグネチックスターラ3で攪拌を行い最終的に複合粒子スラリーを得た。なお、使用した酸化ジルコニウムスラリーのpHは7.0で、酸化ニッケルスラリーのpHは10.0であった。
粒度分布計で得られた複合粒子の粒度分布を測定した結果、複合化が進行しなかったためと推測されるが、中心粒径1.7μmであった。また、得られた複合粒子を乾燥して1200℃で仮焼したときのSEM画像(5000倍)を図19に示した。このSEM画像の結果から、5μm前後の大きな粒子と小さい粒子が別に存在している様子が観察され、この方法では酸化ニッケル粒子の表面を酸化ジルコニウム粒子が選択的に覆う構造にする事は出来なかった。
【0049】
[実施例4]
(マイクロリアクタでの複合粒子の合成)
実施例4の概念図を図20に示した。
マイクロリアクタ10として使用した微小流路構造体14において、微小流路基板12とカバー体13には、70mm×20mm×1mm(厚さ)のパイレックス(登録商標)基板を用いた。また微小流路基板12に形成した微小流路11は、一般的なフォトリソグラフィーとウェットエッチングにより形成し、微小流路基板12とカバー体13の接合は熱融着により接合した。なお、カバー体13に、機械加工により直径1mmの貫通穴を形成して、流体導入口15、流体排出口16とした。
実施例4においては、表1に示すような微量流路11が形成された4種類の微小流路基板12を備えた、図20のようなマイクロリアクタ10を用いた。
導入流路である第1流路11aと第2流路11bとの合流部11dにおける角度は44度、合流部11dから流体排出口16までの微小流路11cの長さは12mmとし、流体排出口16から微小流路11で合成したスラリー状の複合粒子を排出し回収した。
本実施例では、第1の流体送液用ポンプ70により、実施例1で使用した酸化ニッケルスラリーをマイクロリアクタ10の第1流路11aの流体導入口15から微小流路11内に送液し、一方、第2の流体送液用ポンプ71により実施例1で使用した酸化ジルコニウムスラリーをマイクロリアクタ10の第2流路11bの流体導入口15から微小流路11内に送液した。この際の送液速度は表2に示したとおりである。
導入した2種の流体は、微小流路11の合流部11dにおいて混合され、酸化ニッケル微粒子と酸化ジルコニウム微粒子が混合、結合して複合粒子が生成した。
【0050】
こうして流体排出口16から排出された流体を回収し、この流体に含有されている複合粒子の中心粒径と粒径分散度を粒度分布計を用いて測定した。結果を表2に示した。また、微小流路11の幅ごとの粒径分布をバルク(実施例1)と共に図21に示した。
また微小流路11の幅が240μmの場合に得られた複合粒子を乾燥して1100℃で仮焼したときのSEM画像(15000倍)を図22に示した。このSEM画像の結果から、5μm前後の大きな粒子の周囲に小さい粒子が取り囲んでいる様子が観察され、酸化ニッケル粒子の表面を酸化ジルコニウム粒子が覆ったコアシェル型構造を確認できた。ここでのコアシェル型構造には、図6(a)の形態および図6(b)の形態の両者が含まれる。
また、図23には微小流路11の幅が500μmの場合に得られた複合粒子を乾燥し、EPMAによる組成分析を行った結果(写真)を示した。この結果から、20〜30μmの酸化ニッケル粒子(濃い色)の周囲に非常に薄い酸化ジルコニウム粒子(白い色)が分布している様子が観察され、図6(a)の形態の明確なコアシェル型構造を確認することができた。
【0051】
以上の結果から、バルク(実施例1〜3)でも、コアシェル型構造を形成でき、特に使用する微粒子の粒径の制御、スラリーにおける微粒子濃度の調整などにより、より確実にコアシェル型構造を形成できることが示唆された。ただし、バルク(実施例1〜3)では、酸化ニッケル粒子を覆うジルコニア粒子の分布状態が実施例4よりは不十分であり、そのために酸化ニッケル粒子同士が接触し、焼結による粒成長に起因する酸化ニッケル同士の結合も起こっていると推察できる。
一方、マイクロリアクタで合成した実施例4の複合粒子は、図23のEPMAの分析結果が示すように、ジルコニア粒子が酸化ニッケル粒子を十分に覆ったコアシェル型構造となっているため、焼結による酸化ニッケル粒子の粒成長が、酸化ニッケル周囲のジルコニアにより抑制され、酸化ニッケル粒子同士が離れた状態になっている。
このように、酸化ニッケルの粒界をジルコニア粒子が覆うことで、機械的特性(強度、靭性、耐久性等)が向上する。
また表1および図21の結果から、中心粒径および粒径分散度、粒径分布は、微小流路の幅により制御が可能であり、微小流路の幅が狭いほど、中心粒径が小さくなり、粒径分散度は向上することがわかり、均一な粒径を有する複合粒子を得られることが示された。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】微粒子のpHに対する表面電位の変化を説明するグラフであり、(a)微粒子Aおよび微粒子Bの表面電位、(b)微粒子C、これを表面修飾した微粒子C’および微粒子Dの表面電位である。
【図2】本発明の混合工程の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の混合工程の他の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタの一例を示す(a)斜視図、(b)分解斜視図である。
【図5】内部分散型の複合粒子を示す模式図である。
【図6】コアシェル型の複合粒子を示す模式図である。
【図7】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタの他の一例を示す斜視図である。
【図8】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタの他の一例を示す斜視図である。
【図9】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタの他の一例を示す斜視図である。
【図10】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタの他の一例を示す斜視図である。
【図11】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタの他の一例を示す斜視図である。
【図12】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタにおける微量流路基板の一例を示す平面図である。
【図13】図12の微小流路基板を備えたマイクロリアクタで得られる複合粒子の模式図である。
【図14】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタにおける微量流路基板の他の一例を示す平面図である。
【図15】図14の微小流路基板を備えたマイクロリアクタで得られる複合粒子の模式図である。
【図16】酸化ジルコニウムの表面修飾の前後のpHの変化に対する表面電位と、これと混合される酸化ニッケルの表面電位とを示すグラフである。
【図17】実施例2で得られた複合粒子を乾燥して1100℃で仮焼したときのSEM写真(15000倍)である。
【図18】実施例3で得られた複合粒子を乾燥して1200℃で仮焼したときのSEM写真(5000倍)である。
【図19】比較例1で得られた複合粒子を乾燥して1200℃で仮焼したときのSEM写真(5000倍)である。
【図20】実施例4で使用したマイクロリアクタの概念図である。
【図21】実施例4で得られた複合粒子の微小流路の幅ごとの粒径分布を示すグラフである。
【図22】実施例4で得られた複合粒子を乾燥して1100℃で仮焼したときのSEM写真(15000倍)である。
【図23】実施例4で得られた複合粒子を乾燥しEPMAによる組成分析を行った結果を示す写真である。
【図24】ジルコニア−アルミナセラミックスの結晶構造を示す概念図である。
【図25】ジルコニア−アルミナセラミックスのコアシェル型の結晶構造を示す概念図である。
【図26】一般的なNi−YSZの結晶構造の概念図である。
【図27】Ni−YSZのコアシェル型結晶構造の概念図である。
【符号の説明】
【0055】
10 マイクロリアクタ
11、11a〜11c,11e〜11j 微小流路
20,30、50、60 複合粒子
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種の微粒子からなる複合粒子を製造する方法および該方法で製造された複合粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
複合粒子は、薬学、セラミックス、化粧品、電池材料など産業横断的に幅広く利用されている。そのため、複合粒子の製造技術として、極めて多くの方法が提案されており、例えば、樹脂混練粉砕法、混合粉体造粒法、凝集粒子ドーピング法、噴霧熱分解法、機械的複合化などが挙げられる。
例えばセラミックスは、耐熱性、耐磨耗性、耐食性に優れているため、切削工具、研磨剤、ベアリング、メカニカルシール、粉砕メディア、光接合部品、ダイス、エンジン、耐熱耐食材料、離形材、耐熱構造材、断熱材等の幅広い用途で使用されている。ところが、セラミックスは共有またはイオン結合性が強く、金属のように塑性変形などを示さないので、クラック先端の応力集中を緩和できず、表面にある傷や内部欠陥を起点に破壊するという欠点を有する。
【0003】
そこで、セラミックスのこのような脆性材料としての欠点を改善する試みがなされている。例えば特許文献1には、アルミナセラミックスの機械的特性(強度、靭性、耐久性等)を向上させるために、添加物としてジルコニアを加え、アルミナ結晶粒子の粒界にジルコニア結晶粒子を分散させようとする技術が記載されている。特許文献2には、安定化剤を含有するジルコニアセラミックスの機械的特性を改善するために、添加物としてアルミナを加え、ジルコニア結晶粒子の粒界にアルミナ結晶粒子を分散させようとする技術が記載されている。
【0004】
しかしながら、これら特許文献に記載された技術では、平均粒径がサブミクロンオーダーである複数種の微粒子を、ボールミルなどで物理的に湿式混合する方法や、共沈法などにより混合している。よって、得られた複合粒子においては、図24の概念図に示すように、セラミックスを構成している結晶粒子100の粒界101に、添加物102が結晶粒子として存在してはいるものの、添加物102の結晶粒子の分散性が悪く、不均一に塊状に存在している。そのため、結晶粒子の粒界で機械的特性が不均一になる為、十分な機械的特性が得られないという問題があった。
【0005】
そこで、図25に示すように、セラミックスを構成している結晶粒子100の粒界101に、添加物102を均一に分散させた構造(以下、コアシェル型構造という。)の複合粒子を安定に製造する技術の開発が望まれていて、例えば特許文献3には、製造方法を改良することで、ジルコニア結晶粒子をコアとし、アルミナ結晶粒子をシェルとした複合粒子を合成しようとする試みが開示されている。このようなコアシェル型構造の複合粒子によれば、機械的特性が飛躍的に向上し、かつ、粒界強度が均一であるために物性の再現性も良く、高い信頼性が得られることが期待されている。
【0006】
一方、非特許文献1には、コアシェル型構造の複合粒子を利用した電極の微細構造制御について記載され、コアシェル型構造の複合粒子の有用性が示されている。すなわち、一般的な固体酸化物系燃料電池(以下、SOFCという。)において用いられる、図26のような構造のNi−YSZ(Y2O3安定化ZrO2)燃料極では、Ni粒子110とYSZ粒子111の粒界112において水素と酸素イオンの反応が生じる。ところが、SOFCの通常の動作温度は約1000℃と高いために、作動中に燃料極中のNi同士の凝集によりその反応界面が減少して電極性能が劣化するという問題や、Ni同士の凝集により寸法変化が生じ、その結果、燃料極の割れや燃料極における導電率の低下が起こるという問題があった。そこで、Ni−YSZ燃料極を、図27のようにNi粒子110の周囲にYSZ粒子111が比較的均一に存在するコアシェル型構造とすることにより、作動中にNi同士が焼結して粒成長することが抑えられるため、Ni粒子、YSZ粒子、空隙113から構成される3相界面が十分に確保され、電極性能の向上および電極寿命の向上が期待できるとされている。
【特許文献1】特開昭57−100976号公報
【特許文献2】特開昭58−032066号公報
【特許文献3】特開2004−143031号公報
【非特許文献1】福井武久ら著、「複合微粒子による材料のナノ・ミクロ構造制御」、粉体と工業、Vol.34、No.10、2002、41−47頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に開示の方法は再現性が十分ではなく、コアシェル型構造の複合粒子を安定には合成できなかった。また、非特許文献1においては、NiとYSZの複合微粒子を噴霧熱分解法により製造している。噴霧熱分解法は、原料溶液を超音波振動子で霧化し、霧化した原料を乾燥、熱分解、焼結等の熱処理を行って複合粒子を合成する方法であって、一般に、使用される装置が複雑で大掛かりである上に、単位時間に製造できる微粒子の量が非常に少なく、工業的な大量生産ができないという課題があった。
【0008】
このように従来の技術では、ある粒子の粒界に他の粒子が均一に分散しているコアシェル型構造に代表される複合粒子を安定に製造することは非常に困難であり、また、製造できる場合であっても、その際使用される製造装置は複雑で大掛かりなため、大量生産には向かなかった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ある粒子の粒界に他の粒子が均一に分散している複合粒子を安定に製造でき、そのため大量生産も可能な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の複合粒子の製造方法は、表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合する混合工程を有し、複数種の微粒子からなる複合粒子を製造する方法であって、前記混合工程の前に、前記微粒子のうちの少なくとも1種の表面に高分子化合物を修飾して、該微粒子の表面電位を調整する表面電位調整工程を有することを特徴とする。
前記混合工程を、微小流路内で行うことが好ましい。
本発明においては、前記微小流路の流路構造により、前記複合粒子の粒子構造を制御することができる。また、前記微小流路の幅により、前記複合粒子の粒径および/または粒径分散度を制御することができる。
また、本発明は、前記各微粒子が、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物からなる群から選ばれる1種である場合に特に適している。
また、前記複合粒子は、コアシェル型構造であることが好ましい。
さらに、前記表面電位が正の微粒子と前記表面電位が負の微粒子のうちいずれか一方の粒径が、他方の粒径の5倍以上であると、よりコアシェル型構造の複合粒子が得られやすい。
本発明の複合粒子は、上記いずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする。また、その粒径分散度は10%未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合粒子の製造方法によれば、セラミックスのような、化学的、力学的に結合が難しく、従来複合化が困難であったものについても、ある粒子の粒界に他の粒子が均一に分散している複合粒子を、容易に再現性よく製造でき、大量生産も可能である。
すなわち、表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合する混合工程を有し、この工程の前に、微粒子のうちの少なくとも1種の表面に高分子化合物を修飾して、この微粒子の表面電位を調整する表面電位調整工程を有する方法によれば、等電点の差が小さく、クーロン力による結合を進行させることが従来困難であった複数の微粒子であっても、安定に結合させることができる。また、混合工程を微小流路内で行うことにより、一定の条件で連続的に複合粒子を製造でき、一定の物性を備えた複合粒子を安定かつ大量に得ることができ、非常に効率的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の複合粒子の製造方法は、複数種の微粒子からなる複合粒子を製造する方法であって、表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合し、これら微粒子をクーロン力で結合させる混合工程を有するものであるが、この混合工程の前に、これら微粒子のうちの少なくとも1種の表面に高分子化合物を修飾して、この微粒子の表面電位を調整する表面電位調整工程をさらに備えている。
【0013】
ここで使用される表面電位が正または負の微粒子としては、固体微粒子であれば特に制限はなく、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物を例示でき、これらをいずれも好適に使用できる。しかしながら、本発明の製造方法は、安定であって化学結合を形成しにくく、また、硬く脆い性質を持つことから、金属や有機物などのように延性・靭性などによる力学的な複合化も困難な、一般にセラミックスと言われる金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物の微粒子を材料として複合粒子を製造する場合に特に適している。金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物の具体例としては、ニッケルオキサイド、ジルコニア、アルミナ、チタニア、シリカ、イットリア、カルシア、マグネシア、セリア、窒化アルミニウム、炭化ケイ素等が挙げられる。
【0014】
流体としては、気体および液体が挙げられ、いずれも使用できるが、取扱性などから、液体、特に水を使用することが好ましい。
【0015】
混合工程では、表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合して、これら微粒子をクーロン力により結合させるが、微粒子の表面電位は、一般にpHによって変化する。
例えば、pHに対して、図1(a)に示すように表面電位が変化する2種の微粒子(微粒子Aおよび微粒子B)があり、これらを含む2流体を混合して微粒子同士を結合させる場合には、一方の微粒子は、その表面電位が正に安定に保持され、他方の微粒子は、その表面電位が負に安定に保持される必要がある。この例では、微粒子Aは、pHが約4.5以上の領域で安定に負となり、微粒子Bは、pHが約8.3以下の領域で安定に正となる。すなわち、pHが4.5〜8.3の範囲であれば、一方の微粒子の表面電位が正に安定に保持され、かつ、他方の微粒子の表面電位が負に安定に保持される。以下、このような共通のpH領域を、表面電位安定領域といい、図中αまたはα’で示す。
よって、例えば、微粒子Aを含みpHが6であるスラリー溶液と、微粒子Bを含みpHが6であるスラリー溶液とを混合することにより、混合後のスラリー溶液のpHも6となりpHが変化しないため、微粒子AおよびBは結合の直前まで、それぞれの表面電位に安定に保持され、その結果、結合が安定に進行する。なお、ここでは、例として各スラリー溶液のpHを6として説明したが、各スラリー溶液のpHがほぼ同じであって、かつ、4.5〜8.3の範囲であれば結合は同様に安定に進行する。
【0016】
しかしながら、pHに対して、図1(b)に示すように表面電位が変化する2種の微粒子(微粒子Cおよび微粒子D)を結合させようとしても、この場合、この図から明らかなように、一方の微粒子の表面電位が正に安定に保持され、かつ、他方の微粒子の表面電位が負に安定に保持される表面電位安定領域は存在しない。よって、上述の微粒子Aと微粒子Bの場合のように、同程度のpHのスラリー溶液をそれぞれ調製後、これらを混合して、微粒子同士を結合させることはできない。また、例えば、微粒子Cを含むスラリー溶液のpHを約8.3以下としてその表面電位を正に維持し、一方、微粒子Dを含むスラリー溶液のpHを10.5以上としてその表面電位を負に維持することは可能であるが、これらのスラリー溶液を例えば同量ずつ混合すると、混合直後にスラリー溶液のpHは9.4前後となり、微粒子CおよびDはどちらも直ちに表面電位が不安定になってしまい、結合が安定に進行しない。
【0017】
以上のことから、2種の微粒子の結合を安定に進行させるためには、2種の微粒子の等電点(表面電位がゼロとなる点、図1中EA、EB、EC、EC’、EDで示す。)の差(図中βまたはβ’で示す。)が大きく、そのために表面電位安定領域が広いことが重要であると理解できる。ところが、一般に、結合させようとする2種の微粒子の等電点の差が大きい場合は少ない。本発明における表面電位調整工程は、少なくとも一方の微粒子の表面に高分子化合物を修飾して、この微粒子の表面電位を調整することにより、2種の微粒子の等電点の差を大きくし、表面電位安定領域を広くするものであって、例えば図1(b)に示した微粒子Cの表面に高分子化合物を修飾することによって、微粒子Cの表面電位曲線を図中矢印で示すようにシフトさせることが可能となる(図中、微粒子C’として示す。)。その結果、等電点の差がβからβ’に広がるとともに表面電位安定領域α’が出現し、等電点の差が小さく、クーロン力による結合を進行させることが従来困難であった微粒子Cと微粒子Dとを、ついで行われる混合工程において、安定に結合させることができる。
【0018】
表面電位調整工程で使用される高分子化合物のうち、図1(b)の例のように、等電点を高いpHから低いpHへとシフトさせる際に使用されるものとしては、ポリアクリル酸アンモニウム塩のような酸系の高分子化合物が挙げられる。一方、等電点を低いpHから高いpHへとシフトさせる際に使用されるものとしては、アルキルアミンやアルキルアンモニウムなどの分子を構成単位とするアミン系の高分子化合物が挙げられる。例えばジルコニアは等電点が比較的高いため、酸系の高分子化合物による修飾に適し、例えばシリカは等電点が比較的低いため、アミン系の高分子化合物による修飾に適している。なお、表面修飾に使用される高分子化合物は分散剤としての機能を有していてもよい。
【0019】
また、このようにして表面修飾される微粒子がセラミックスの場合は、混合工程により複合粒子を合成した後、この複合粒子の粉末を成形して、数百℃から数千℃の高温で焼成する焼成工程を行うことが多い。この場合、表面修飾に使用した高分子化合物は、高温での焼成により消失し、焼成後の製品には影響を及ぼさない。
【0020】
表面電位調整工程において、微粒子の表面に高分子化合物を修飾する具体的方法としては、高分子化合物と微粒子とを、必要に応じて水などの溶媒の存在下で混合する方法が挙げられ、例えば媒体攪拌型ボールミルを使用した粉砕混合法が好ましい。この際の高分子化合物と微粒子との質量比は、微粒子の種類や粒径に依存するが、例えば、粒径(二次粒子径)0.1μmの酸化ジルコニウム粒子の場合、微粒子100質量部に対して、高分子化合物2〜3質量部の範囲が好ましい。また、粉砕混合する時間には特に制限はないが、粒径(二次粒子径)0.1μmの酸化ジルコニウムに高分子化合物を修飾する場合は、数分〜数十分程度行えばよい。
【0021】
このような表面電位調整工程は、結合される複数種の微粒子のうち、少なくとも1種に対して実施すればよいが、必要に応じて2種以上の微粒子に対して実施してもよい。
【0022】
表面電位調整工程の後には、表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合する混合工程を行う。
混合工程の具体的方法としては、図2に示すように、表面電位が正の微粒子を水に添加した一方のスラリー溶液1と、表面電位が負の微粒子を水に添加した他方のスラリー溶液2とを、マグネチックスターラ3で攪拌されている蒸留水の受け水4に、それぞれ滴下ロートから滴下する共滴下法、図3に示すように、一方のスラリー溶液1をマグネチックスターラ3で攪拌しておき、そこへ他方のスラリー溶液2を滴下ロートから滴下する方法、図4に示すように、微小流路11が形成されたマイクロリアクタ10を使用する方法も挙げられる。
【0023】
混合工程を行うことにより、一方の微粒子の粒界に他方の微粒子が均一に分散している複合粒子を簡便かつ大量に製造できる。このような複合粒子の構造としては、図5に示すような内部分散型と、図6(a),(b)に示すような多層構造であるコアシェル型が挙げられる。図5は内部分散型の複合粒子20を示すもので、これは、この複合粒子20内に、複数種の微粒子21,22が均一に分散した構造である。図6(a),(b)はコアシェル型の複合粒子30を示すもので、1種の微粒子32から形成されたコア31の表面に、他の種類の微粒子33が修飾し、被覆部(シェル)34を形成した構造である。なお、図6(a)のコアシェル型構造は、コア31が複数の微粒子32からなり、図6(b)のコアシェル型構造は、コア31が1つの微粒子32からなっている。
【0024】
このような方法によれば、内部分散型、コアシェル型のいずれの構造の複合粒子20,30を製造することも可能であるが、特に、コアシェル型構造の複合粒子30を調製するためには、コア31となる微粒子32を含むスラリーの微粒子濃度をシェル34となる微粒子33を含むスラリーの微粒子濃度よりも低くすることが有効である。このようにすれば、これらスラリーを混合した際に、コア31となる1つの微粒子32に対してシェル34となる微粒子33が接触する確率が増加する。よって、コア31となる微粒子32の周りを優先的にシェル34の微粒子33が覆い、より均一な粒度分布を持つ複合粒子30を製造することができる。ここで仮に、コア31となる微粒子32を含むスラリーの微粒子濃度がシェル34となる微粒子33を含むスラリーの微粒子濃度より高い場合、シェル34となる微粒子33を媒介にコア31となる微粒子32が結合するなどして、粗大粒子を生成する可能性がある。
【0025】
さらに、混合工程においては、コア31となる微粒子32の粒径と、シェル34となる微粒子33の粒径とを制御することもコアシェル型構造の複合粒子30を製造するために有効である。
すなわち、コア31となる微粒子32の粒径をシェル34となる微粒子33の粒径よりも大きくすることにより、コア31を形成する微粒子32は、より高い確率で優先的にコア31を成し、コアシェル型が形成されやすい。一方、コア31となる微粒子32の粒径がシェル34となる微粒子33の粒径と同等か、小さい場合、コア31となる微粒子32の分散性が高いと、分散性の高い複合粒子が得られるものの、その構造はコアシェル型となりにくく、図5のような内部分散型となりやすい。
より好ましくは、コア31となる微粒子32の粒径をシェル34となる微粒子33の粒径の5倍以上とし、さらに好ましくはコア31となる微粒子32の粒径をシェル34となる微粒子33の粒径の10倍以上とする。この場合、コア31となる微粒子32、シェル34となる微粒子33のいずれか一方の表面電位が正であり、他方の表面電位が負であればよいので、表面電位が正の微粒子と表面電位が負の微粒子のうちいずれか一方の粒径が、他方の粒径の好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上であると、コアシェル型が形成されやすいこととなる。
【0026】
また、このように表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合する混合工程においては、表面電位が正および負の微粒子の両方が各流体中で1次粒子の状態にある場合(ケース1)と、表面電位が正および負の微粒子の両方が各流体中で1次粒子が凝集した2次粒子の状態にある場合(ケース2)と、表面電位が正および負の微粒子のいずれか一方が流体中で1次粒子の状態にあり、他方が2次粒子の状態にある場合(ケース3)とがある。よって、ケース1の場合には、表面電位が正の微粒子と負の微粒子についてそれぞれの1次粒子径を比較し、一方の1次粒子径が他方の1次粒子径の好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上であると、コアシェル型が形成されやすいこととなる。ケース2の場合には、表面電位が正の微粒子と負の微粒子についてそれぞれの2次粒子径を比較し、一方の2次粒子径が他方の2次粒子径の好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上であると、コアシェル型が形成されやすいこととなる。そして、ケース3の場合には、流体中で1次粒子の状態にある微粒子の1次粒子径と、流体中で2次粒子の状態にある微粒子の2次粒子径とを比較し、一方が他方の好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上であると、コアシェル型が形成されやすいこととなる。
【0027】
このように、混合される際に微粒子が1次粒子として存在している場合には、その粒径とは「1次粒子径」を指し、1次粒子が凝集した2次粒子として存在している場合には、その粒径とは「2次粒子径」を指す。また、図5や図6における各微粒子21,22,32,33は、混合される際にその微粒子が1次粒子の状態にあるものについては1次粒子を示し、2次粒子の状態にあるものについては2次粒子を示す。
なお、ここでいう1次粒子径とはTEMなどで観察される最小の粒子径であり、2次粒子径とはスラリー化した際に湿式の粒度分布計などで測定される粒子径を指す。また、1次粒子が比較的大きい場合には、スラリー中でも凝集せず、2次粒子を形成しない場合があるが、その場合には、1次粒子径と2次粒子径は等しいこととなる。
また、コア31を形成する微粒子32とシェル34を形成する微粒子33について、その1次粒子径や2次粒子径を比較する場合には、それぞれ全体の粒度分布の50%の位置にあたる粒径(中心粒径)を代表値として用いる。
【0028】
複合粒子を構成する微粒子は、正、負ともにその大きさには特に制限はないが、通常、その粒径(2次粒子径)は1nm〜100μmの範囲である。
また、得られる複合粒子の粒径(2次粒子径)は適宜設定できるが、中心粒径で通常10nm〜200μmである。
【0029】
以上説明した混合工程は、図2〜図4に示したような方法で行えるが、特に、図4に示すように、微小流路11が形成されたマイクロリアクタ10を使用する方法によれば、一定の条件で連続的に複合粒子を製造できるため、一定の物性を備えた複合粒子を安定かつ大量に得ることができ、非常に効率的である。
図4のマイクロリアクタ10は、一方の面に微小流路11が形成された微小流路基板12と、微小流路11が形成された側の微小流路基板12上に設けられた平板状のカバー体13とから形成された微小流路構造体14からなっている。
この例の微小流路11は、第1流路11aと第2流路11bと第3流路11cとを有し、これらが合流部11dで合流するY字状に形成されている。そして、カバー体13において第1流路11aの末端と第2流路11bの末端に対応する位置には、流体をこれら微小流路11内に導入するための流体導入口15がそれぞれ貫通形成され、第3流路11cの末端に対応する位置には、微小流路11内から流体を排出するための流体排出口16が貫通形成されていて、これら流体導入口15と流体排出口16とは微小流路11により連通している。
【0030】
微小流路基板12は、例えば、ガラス、石英、セラミックス、シリコン、金属、樹脂等からなる基板材料に対して、機械加工やレーザー加工、エッチングなどにより微小流路11を直接加工することによって製作できる。また、基板材料がセラミックスや樹脂の場合は、流路形状を有する金属等の鋳型を用いて成形する方法で製作してもよい。カバー体13にも、微小流路基板12と同様の材料を使用できる。
微小流路基板12とカバー体13とは、互いに接合、一体化されて微小流路構造体14を形成していて、接合方法としては、基板材料がセラミックスや金属の場合は、ハンダ付け法や接着剤を用いる方法、基板材料がガラスや石英、樹脂の場合は、百〜千数百℃の高温下で荷重をかけて熱接合させる方法、基板材料がシリコンの場合は洗浄により表面を活性化させて常温で接合させる方法など、それぞれの基板材料に適した接合方法が採用される。
【0031】
このようなマイクロリアクタ10の2つ流体導入口15から、表面電位が正の微粒子を含有する流体と、表面電位が負の微粒子を含有する流体とを、それぞれ図示略の送液用ポンプなどを使用して、通常1〜100μL/分の送液速度で、第1流路11aおよび第2流路11b内に導入することにより、これらの合流部11dで2つの流体が混合され、表面電位が正の微粒子と負の微粒子とが結合する。このような結合により形成された複合粒子は、第3流路11cを流通して流体排出口16より排出される。
【0032】
このようにマイクロリアクタ10を使用することにより、一方の微粒子の粒界に他方の微粒子が均一に分散している複合粒子を特に安定に製造できる。マイクロリアクタ10を使用して、複数種の微粒子を結合させる方法によれば、図5の内部分散型、図6のコアシェル型のいずれの構造の複合粒子20,30を製造することも可能であるが、特にマイクロリアクタ10を使用すれば、コアシェル型の複合粒子30を製造することに適している。
また、特に微粒子がセラミックスである場合、得られたコアシェル型の複合粒子30を成形して焼成しても、そのコアシェル型構造は維持される。このようなコアシェル型のセラミックスは、機械的特性が飛躍的に向上し、かつ、粒界強度が均一であるために物性の再現性も良く、高い信頼性が得られる。なお、通常、粒径の大きな微粒子がコア34を構成し、小さな微粒子がシェル34を構成する。
【0033】
マイクロリアクタ10を使用した場合、これに形成された微小流路11の幅によって、得られる複合粒子20,30の粒径や、粒径分散度を制御することができる。なお、粒径分散度とは、粒径の標準偏差を粒径の平均値(以下、平均粒径という。)で割った値であり、以下、本明細書において粒径分散度が良いとは、粒径分散度が10%未満であることを意味する。
通常、表面電位が正の微粒子と表面電位が負の微粒子から複合粒子20,30を微小流路11を用いて合成する場合、第1流路11aから導入された微粒子を含むスラリーと第2流路11bから導入された微粒子を含むスラリーが、第3流路11cで合流したときに表面電位が正の微粒子と表面電位が負の微粒子がそれぞれのスラリー界面付近で接触して結合する。この場合、スラリー界面付近では表面電位が正の微粒子と表面電位が負の微粒子の接触する確率が高く、お互いの結合が速やかに進行するが、微小流路の壁面付近では、表面電位が正の微粒子と表面電位が負の微粒子が接触する確率が低い為、お互いの結合が速やかに進行しない。つまり、第3流路11cの幅が狭い場合は、表面電位が正の微粒子と表面電位が負の微粒子が接触する確率の高いスラリー界面付近の領域と確率の低い流路壁付近の領域の確率の差が小さく、第3流路11c内で速やかに、かつ均一に結合が進行し、複合粒子20,30の粒径は小さくなり、粒径分散度も小さく良好となる。一方、第3流路11cの幅が広い場合は、表面電位が正の微粒子と表面電位が負の微粒子が接触する確率の高いスラリー界面付近の領域と確率の低い流路壁付近の領域の確率の差が大きく、スラリー界面付近では速やかにかつ均一に結合が進行して生成する複合粒子が存在すると同時に、第3流路11cの壁付近では、同じ種類の微粒子どうしが凝集した後、もう一方の微粒子と結合して生成することにより粒径が大きく、かつ比較的さまざまな粒径の複合粒子20,30が生成され、粒径分散度も大きくなる。
【0034】
ところが、本発明者らが実験を重ね鋭意検討した結果、このようなマイクロリアクタ10を使用した場合には、得られる複合粒子20,30の粒径や粒径分散度は、微小流路11の幅に依存するものの、微小流路11の深さにはほとんど依存しないことを見出した。よって、例えば、複合粒子20,30の粒径や粒径分散度を小さくするためには、微小流路11の幅のみを小さくすればよい。その際、微小流路11の深さを大きくしたとしても、複合粒子20,30の粒径や粒径分散度は影響を受けないので、微小流路11の幅を小さくした場合には、その深さを大きくすることにより、微小流路11に流れる流体の圧力損失が大きくなったり、複合粒子20,30の合成により微小流路11が閉塞したりすることなく、複合粒子20,30を安定に合成できる。また、微小流路11の幅を小さくする場合には深さを大きくし、幅を大きくする場合には深さを小さくすることにより、その断面積を一定にして、圧力損失を一定に維持することも可能である。
なお、ここで微小流路11の幅とは、微小流路基板12に平行方向の長さであり、深さとは、微小流路基板12に垂直方向の長さである。
【0035】
また、このように微小流路11の幅を調整することにより、粒径だけでなく粒径分散度も制御可能であるので、例えば、粒径分散度が10%未満であって粒径分散度がよく、粒径のばらつきがない均一な複合粒子20,30を製造することもできる。
【0036】
したがって、微小流路11の幅は、複合粒子20,30に要求される粒径や粒径分散度に応じて決定すればよいが、通常、1〜500μm、好ましくは5〜200μmの範囲で形成される。また、その深さも圧力損失などに応じて適宜決定すればよいが、通常、0.1〜200μm、好ましくは1〜50μmの範囲で形成される。また、流体導入口15と流体排出口16は、直径1〜数mm程度に形成されればよい。
また、微小流路11の長さには特に制限はなく、圧力損失などに応じて適宜設定できるが、通常1μm〜50cm、好ましくは10μm〜5cmである。
【0037】
また、本発明者らは、さらに実験を重ね鋭意検討した結果、複合粒子20,30の粒径や粒径分散度は、微小流路11の幅だけでなく、微小流路11内での流体同士の接触時間でも制御可能であるが、微小流路11の幅が狭くなるほど、複合粒子20,30の粒径や粒径分散度は、微小流路11内での流体の接触時間に影響を受けなくなることを見出した。特に、微小流路11の幅が250μm未満、好ましくは100μm未満になると顕著にその効果が現れ、複合粒子20,30の粒径や粒径分散度は、微小流路11内での流体の接触時間にはほとんど影響を受けない。これは、微小流路11の幅が狭くなるほど、微小流路11内での流体の接触時間が変動したとしても、複合粒子20,30の粒径や粒径分散度は変化せず、粒径や粒径分散度の安定した複合粒子20,30を合成できることを意味し、例えば接触時間を短くして、複合粒子20,30の単位時間あたりの合成量を増やすことも可能となる。
【0038】
なお、このようなマイクロリアクタ10は、複数の微小流路構造体14を重ねた積層構造としてもよい。このような構成とすることで、微小流路11を立体的に複数形成でき、複合粒子20,30を大量生産できる。また、この際、積層の方向に、微量流路11同士を連通させるとともに、流体導入口15同士、流体排出口16同士も連通させて、流体導入口15と流体排出口16が1つずづ形成された構成としてもよい。
【0039】
また、このようなマイクロリアクタ10には、微粒子同士の結合を促進させるために、微小流路11にエネルギーを供給する手段を備えていてもよい。エネルギーとは、電界、磁界からなる電磁波や、加熱、冷却、振動、光等を意味する。
具体的なエネルギー供給手段の例としては、例えば図7に示すように、電極40を微小流路11に近接して配置する形態が挙げられる。この電極40間に電源供給装置41により電圧を印加することで微小流路11内に電界を発生させることができる。例えば、微小流路11の流路幅が100μmの場合であれば、微小流路11の流路に近接して配置した電極40に100Vの電圧を印加すると、1MV(1×106V)/mの電界を発生させ、微小流路に供給することができる。
また加熱や冷却の手段としては、図8に示すように、微小流路11の近傍に、例えばペルチェ素子42を配置する態様、あるいは図9に示すようにマイクロリアクタ10全体をヒータや冷媒を備えた恒温槽43で覆うような態様がある。また振動の供給方法としては、図10に示すように圧電素子44などを微小流路11の近傍に配置すれば良く、光の供給方法としては、図11に示すようにレーザー光45をレンズ46で絞り微小流路11に照射する方法がある。
【0040】
また、使用される微粒子はセラミックスに限定されず、イオン、分子、高分子化合物などを使用できるが、特に複合化が難しいと考えられる金属酸化物系のセラミックスの場合であっても、上述したような微小流路11内で混合工程を行う方法によれば容易に、均一に複合化できるため、特に有効である。
【0041】
また、以上の例においては、主に、表面電位が正の微粒子を含有する1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する1種の流体とを混合して、2種の微粒子からなる複合粒子20,30を製造する場合を挙げて説明したが、複合粒子を形成する微粒子の種類は2種に限定されず、3種以上であってもよい。
例えば、マイクロリアクタ10として、図12に示すような微小流路11が形成された微小流路基板12を備えたものを用いれば、図13に示すような微粒子A、微粒子B、微粒子Cの3種類の異種成分の微粒子から構成される、内部分散型の粒子構造を有する複合粒子50を合成できる。この場合、微粒子A、B、Cはそれぞれ、符号11e,11f,11gで示される微小流路に導入される。また、図14に示すような流路構造の微小流路基板12を有するものを用いれば、図15に示すような微粒子A、微粒子B、微粒子Cの3種類の異種成分の微粒子から構成される、3層構造のコアシェル型の粒子構造を有する複合粒子60を合成できる。この場合、微粒子A、B、Cはそれぞれ、符号11h,11i,11jで示される微小流路に導入される。
ここで、図13のような内部分布型の複合粒子50を製造する場合には、3種類の微粒子のうち少なくとも1種の表面電位が正で、少なくとも1種の表面電位が負であれば、残りの1種の表面電位は正負のどちらでもよい。また、図15に示すようなコアシェル型の複合粒子を製造する場合には、内側から正、負、正、あるいは、負、正、負のように、交互に逆の表面電位を備えた微粒子が配置されるように、これら微粒子を含む流体を供給すればよい。
このように微小流路11の流路構造を、1ヶ所の合流部11kを備えた図12のような形態や、2カ所の合流部11m,11nで合流する図14のような形態などとすることにより、製造する複合粒子50,60の粒子構造を制御することも可能である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について、実施例を示して具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
[調製例1]
(酸化ジルコニウムの表面修飾)
媒体攪拌型ボールミル(ダイノーミル:シンマルエンタープライゼ製、粉砕ボール:ジルコニアボール0.3mm)に、表面修飾剤としてポリアクリル酸アンモニウム塩(Dysperbyk−154:ビック・ケミー製)を溶解させた蒸留水を投入し、混合、粉砕を行いながら、原料である酸化ジルコニウム(TZ−8Y:東ソー製)を投入した。投入後、210分間粉砕を行い、表面修飾を行った酸化ジルコニウムスラリーを調製した。
なお、このときの酸化ジルコニウム、表面修飾剤、蒸留水の投入量は質量比で、酸化ジルコニウム:表面修飾剤:蒸留水=100:2.4:100である。本例による表面修飾の前と後のpHの変化に対する酸化ジルコニウムの表面電位と、これと後の実施例で混合される酸化ニッケルの表面電位とを図16に示した。また、こうして得られた酸化ジルコニウムは2次粒子を形成していて、その粒径(2次粒子径)は0.1μmであった。また、ここで粒径とは、全体の粒度分布の50%の位置にあたる粒径(中心粒径)のことである。
【0043】
[調製例2]
(表面修飾のない酸化ジルコニウムスラリー調製)
媒体攪拌型ボールミル(ダイノーミル:シンマルエンタープライゼス製、粉砕ボール:ジルコニアボール0.3mm)に、蒸留水を投入し、混合、粉砕を行いながら、原料である酸化ジルコニウム(TZ−8Y:東ソー製)を投入した。投入後、210分間粉砕を行い、表面修飾を行った酸化ジルコニウムスラリーを調製した。
なお、このときの酸化ジルコニウム、蒸留水の投入量は質量比で、酸化ジルコニウム:蒸留水=100:100である。また、こうして得られた酸化ジルコニウムは2次粒子を形成していて、その粒径(2次粒子径)は約1μmであった。また、ここで粒径とは、全体の粒度分布の50%の位置にあたる粒径(中心粒径)のことである。
【0044】
[実施例1]
(バルク系での共滴下法による複合粒子の合成)
Ni換算で50体積%となるように酸化ニッケルスラリー(約50wt%、溶媒は水)を47.15gと、上記調製例1で調製した表面が高分子化合物により修飾された酸化ジルコニウムスラリー(約50wt%:溶媒は水)を24.35gを用意した。
なお、酸化ニッケルは2次粒子を形成していて、その粒径(2次粒子径)は約1μmであった。
次に、酸化ニッケルスラリー47.15gに蒸留水を52.85g添加し、酸化ジルコニウムスラリー24.35gに蒸留水を75.75g添加し、これらを滴下に用いるスラリーとした。
この際、酸化ジルコニウムスラリーのpHは9.5で、酸化ニッケルスラリーのpHは10.0であった。
図2に示すように酸化ニッケルスラリーと酸化ジルコニウムスラリーを、滴下ロートを用いて、マグネチックスターラ3で攪拌している蒸留水の受け水4に滴下することでこれらを混合し、複合粒子を合成した(共滴下法)。
蒸留水の量は、滴下後の最終的な複合粒子スラリーの濃度が10質量%となるように185gとした。滴下後に反応を終了させるため、30分間攪拌を行い最終的に複合粒子のスラリーを得た。
なお、蒸留水の受け水4がない場合、十分に撹拌ができない場合がある。また、スラリー中の粒子濃度が高い場合、スラリー粘性が上昇し、均一な攪拌が困難となる場合がある。
【0045】
粒度分布計で得られた複合粒子の粒度分布を測定した結果、中心粒径4.6μm、粒径分散度17.2%であった。また得られた複合粒子を乾燥して1100℃で仮焼したときのSEM画像を観察した結果、酸化ニッケル粒子の表面を酸化ジルコニウム粒子が覆った図6(a)の形態および図6(b)の形態のコアシェル型構造をそれぞれ確認できた。
【0046】
[実施例2]
(バルク系での酸化ニッケル滴下法による複合粒子の合成)
Ni換算で50体積%となるように酸化ニッケルスラリー(約50wt%、溶媒は水)を47.15gと、上記調製例1で調製した表面が高分子化合物により修飾された酸化ジルコニウムスラリー(約50wt%:溶媒は水)を24.35gを用意した。
なお、酸化ニッケルは2次粒子を形成していて、その粒径(2次粒子径)は約1μmであった。
次に酸化ニッケルスラリーに蒸留水を244g添加し、酸化ジルコニウムスラリーに蒸留水を36g添加し、図3に示すように蒸留水を添加した酸化ジルコニウムスラリーに同じく蒸留水を添加した酸化ニッケルスラリーを滴下、混合することで複合化を行った。滴下後に反応を終了させるため、30分間マグネチックスターラ3で攪拌を行い最終的に複合粒子スラリーを得た。なお、使用した酸化ジルコニウムスラリーのpHは9.5で、酸化ニッケルスラリーのpHは10.0であった。
粒度分布計で得られた複合粒子の粒度分布を測定した結果、中心粒径4.2μm 粒径分散度15.0%であった。また、得られた複合粒子を乾燥して1100℃で仮焼したときのSEM画像(15000倍)を図17に示した。このSEM画像の結果から、数μm前後の大きな粒子の周囲に小さい粒子が取り囲んでいる様子が観察され、酸化ニッケル粒子の表面を酸化ジルコニウム粒子が覆ったコアシェル型構造を確認できた。コアシェル型構造としては、図6(a)の形態および図6(b)の形態の両者が含まれる。
また、この実施例2では、実施例1よりも、酸化ニッケルスラリーについてはその酸化ニッケル微粒子濃度を薄くし、酸化ジルコニウムスラリーについてはその酸化ジルコニウム微粒子濃度を濃くしているため、実施例1よりも粒径分散度の小さな複合粒子が得られた。
【0047】
[実施例3]
(バルク系での酸化ニッケル滴下法による複合粒子の合成(酸化ニッケル粒径が大きい場合))
Ni換算で50体積%となるように酸化ニッケルスラリー(約50wt%、溶媒は水)を47.15gと、上記調製例1で調製した表面が高分子化合物により修飾された酸化ジルコニウムスラリー(約50wt%:溶媒は水)を24.35g用意した。
なお、酸化ニッケルはスラリー中で1次粒子の状態で、2次粒子を形成しておらず、その粒径(1次粒子径=2次粒子径)は約3μmであった。
次に酸化ニッケルスラリーに蒸留水を244g添加し、酸化ジルコニウムスラリーに蒸留水を36g添加し、図3に示すように蒸留水を添加した酸化ジルコニウムスラリーに同じく蒸留水を添加した酸化ニッケルスラリーを滴下、混合することで複合化を行った。滴下後に反応を終了させるため、30分間マグネチックスターラ3で攪拌を行い最終的に複合粒子スラリーを得た。なお、使用した酸化ジルコニウムスラリーのpHは9.5で、酸化ニッケルスラリーのpHは10.0であった。
粒度分布計で得られた複合粒子の粒度分布を測定した結果、中心粒径1.7μmであった。なお、ここで中心粒径は小さい値となっているが、これは複合粒子とならなかった原料微粒子が存在しているためと推察できる。また、得られた複合粒子を乾燥して1200℃で仮焼したときのSEM画像(5000倍)を図18に示した。このSEM画像の結果から、5μm前後の大きな粒子の周囲に小さい粒子が取り囲んでいる様子が観察され、酸化ニッケル粒子の表面を酸化ジルコニウム粒子が覆った図6(b)のコアシェル型構造を確認できた。また、本実施例3では実施例2よりも、酸化ニッケルとして粒径の大きなものを使用しているため、分散性に優れた複合粒子を得ることができた。
【0048】
[比較例1]
(表面修飾のない酸化ジルコニウムスラリーを用いた複合化)
Ni換算で50体積%となるように酸化ニッケルスラリー(約50wt%、溶媒は水)を47.15gと、上記調製例2で調製した表面修飾処理を行っていない酸化ジルコニウムスラリー(約50wt%:溶媒は水)を24.35g用意した。
なお、酸化ニッケルは2次粒子を形成していて、その粒径(2次粒子径)は約3μmであった。
次に酸化ニッケルスラリーに蒸留水を244g添加し、酸化ジルコニウムスラリーに蒸留水を36g添加し、図3に示すように蒸留水を添加した酸化ジルコニウムスラリーに同じく蒸留水を添加した酸化ニッケルスラリーを滴下、混合することで複合化を行った。滴下後に反応を終了させるため、30分間マグネチックスターラ3で攪拌を行い最終的に複合粒子スラリーを得た。なお、使用した酸化ジルコニウムスラリーのpHは7.0で、酸化ニッケルスラリーのpHは10.0であった。
粒度分布計で得られた複合粒子の粒度分布を測定した結果、複合化が進行しなかったためと推測されるが、中心粒径1.7μmであった。また、得られた複合粒子を乾燥して1200℃で仮焼したときのSEM画像(5000倍)を図19に示した。このSEM画像の結果から、5μm前後の大きな粒子と小さい粒子が別に存在している様子が観察され、この方法では酸化ニッケル粒子の表面を酸化ジルコニウム粒子が選択的に覆う構造にする事は出来なかった。
【0049】
[実施例4]
(マイクロリアクタでの複合粒子の合成)
実施例4の概念図を図20に示した。
マイクロリアクタ10として使用した微小流路構造体14において、微小流路基板12とカバー体13には、70mm×20mm×1mm(厚さ)のパイレックス(登録商標)基板を用いた。また微小流路基板12に形成した微小流路11は、一般的なフォトリソグラフィーとウェットエッチングにより形成し、微小流路基板12とカバー体13の接合は熱融着により接合した。なお、カバー体13に、機械加工により直径1mmの貫通穴を形成して、流体導入口15、流体排出口16とした。
実施例4においては、表1に示すような微量流路11が形成された4種類の微小流路基板12を備えた、図20のようなマイクロリアクタ10を用いた。
導入流路である第1流路11aと第2流路11bとの合流部11dにおける角度は44度、合流部11dから流体排出口16までの微小流路11cの長さは12mmとし、流体排出口16から微小流路11で合成したスラリー状の複合粒子を排出し回収した。
本実施例では、第1の流体送液用ポンプ70により、実施例1で使用した酸化ニッケルスラリーをマイクロリアクタ10の第1流路11aの流体導入口15から微小流路11内に送液し、一方、第2の流体送液用ポンプ71により実施例1で使用した酸化ジルコニウムスラリーをマイクロリアクタ10の第2流路11bの流体導入口15から微小流路11内に送液した。この際の送液速度は表2に示したとおりである。
導入した2種の流体は、微小流路11の合流部11dにおいて混合され、酸化ニッケル微粒子と酸化ジルコニウム微粒子が混合、結合して複合粒子が生成した。
【0050】
こうして流体排出口16から排出された流体を回収し、この流体に含有されている複合粒子の中心粒径と粒径分散度を粒度分布計を用いて測定した。結果を表2に示した。また、微小流路11の幅ごとの粒径分布をバルク(実施例1)と共に図21に示した。
また微小流路11の幅が240μmの場合に得られた複合粒子を乾燥して1100℃で仮焼したときのSEM画像(15000倍)を図22に示した。このSEM画像の結果から、5μm前後の大きな粒子の周囲に小さい粒子が取り囲んでいる様子が観察され、酸化ニッケル粒子の表面を酸化ジルコニウム粒子が覆ったコアシェル型構造を確認できた。ここでのコアシェル型構造には、図6(a)の形態および図6(b)の形態の両者が含まれる。
また、図23には微小流路11の幅が500μmの場合に得られた複合粒子を乾燥し、EPMAによる組成分析を行った結果(写真)を示した。この結果から、20〜30μmの酸化ニッケル粒子(濃い色)の周囲に非常に薄い酸化ジルコニウム粒子(白い色)が分布している様子が観察され、図6(a)の形態の明確なコアシェル型構造を確認することができた。
【0051】
以上の結果から、バルク(実施例1〜3)でも、コアシェル型構造を形成でき、特に使用する微粒子の粒径の制御、スラリーにおける微粒子濃度の調整などにより、より確実にコアシェル型構造を形成できることが示唆された。ただし、バルク(実施例1〜3)では、酸化ニッケル粒子を覆うジルコニア粒子の分布状態が実施例4よりは不十分であり、そのために酸化ニッケル粒子同士が接触し、焼結による粒成長に起因する酸化ニッケル同士の結合も起こっていると推察できる。
一方、マイクロリアクタで合成した実施例4の複合粒子は、図23のEPMAの分析結果が示すように、ジルコニア粒子が酸化ニッケル粒子を十分に覆ったコアシェル型構造となっているため、焼結による酸化ニッケル粒子の粒成長が、酸化ニッケル周囲のジルコニアにより抑制され、酸化ニッケル粒子同士が離れた状態になっている。
このように、酸化ニッケルの粒界をジルコニア粒子が覆うことで、機械的特性(強度、靭性、耐久性等)が向上する。
また表1および図21の結果から、中心粒径および粒径分散度、粒径分布は、微小流路の幅により制御が可能であり、微小流路の幅が狭いほど、中心粒径が小さくなり、粒径分散度は向上することがわかり、均一な粒径を有する複合粒子を得られることが示された。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】微粒子のpHに対する表面電位の変化を説明するグラフであり、(a)微粒子Aおよび微粒子Bの表面電位、(b)微粒子C、これを表面修飾した微粒子C’および微粒子Dの表面電位である。
【図2】本発明の混合工程の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の混合工程の他の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタの一例を示す(a)斜視図、(b)分解斜視図である。
【図5】内部分散型の複合粒子を示す模式図である。
【図6】コアシェル型の複合粒子を示す模式図である。
【図7】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタの他の一例を示す斜視図である。
【図8】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタの他の一例を示す斜視図である。
【図9】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタの他の一例を示す斜視図である。
【図10】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタの他の一例を示す斜視図である。
【図11】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタの他の一例を示す斜視図である。
【図12】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタにおける微量流路基板の一例を示す平面図である。
【図13】図12の微小流路基板を備えたマイクロリアクタで得られる複合粒子の模式図である。
【図14】本発明の混合工程で使用されるマイクロリアクタにおける微量流路基板の他の一例を示す平面図である。
【図15】図14の微小流路基板を備えたマイクロリアクタで得られる複合粒子の模式図である。
【図16】酸化ジルコニウムの表面修飾の前後のpHの変化に対する表面電位と、これと混合される酸化ニッケルの表面電位とを示すグラフである。
【図17】実施例2で得られた複合粒子を乾燥して1100℃で仮焼したときのSEM写真(15000倍)である。
【図18】実施例3で得られた複合粒子を乾燥して1200℃で仮焼したときのSEM写真(5000倍)である。
【図19】比較例1で得られた複合粒子を乾燥して1200℃で仮焼したときのSEM写真(5000倍)である。
【図20】実施例4で使用したマイクロリアクタの概念図である。
【図21】実施例4で得られた複合粒子の微小流路の幅ごとの粒径分布を示すグラフである。
【図22】実施例4で得られた複合粒子を乾燥して1100℃で仮焼したときのSEM写真(15000倍)である。
【図23】実施例4で得られた複合粒子を乾燥しEPMAによる組成分析を行った結果を示す写真である。
【図24】ジルコニア−アルミナセラミックスの結晶構造を示す概念図である。
【図25】ジルコニア−アルミナセラミックスのコアシェル型の結晶構造を示す概念図である。
【図26】一般的なNi−YSZの結晶構造の概念図である。
【図27】Ni−YSZのコアシェル型結晶構造の概念図である。
【符号の説明】
【0055】
10 マイクロリアクタ
11、11a〜11c,11e〜11j 微小流路
20,30、50、60 複合粒子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合する混合工程を有し、複数種の微粒子からなる複合粒子を製造する方法であって、
前記混合工程の前に、前記微粒子のうちの少なくとも1種の表面に高分子化合物を修飾して、該微粒子の表面電位を調整する表面電位調整工程を有することを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程を、微小流路内で行うことを特徴とする請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項3】
前記微小流路の流路構造により、前記複合粒子の粒子構造を制御することを特徴とする請求項2に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項4】
前記微小流路の幅により、前記複合粒子の粒径および/または粒径分散度を制御することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項5】
前記各微粒子は、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物からなる群から選ばれる1種であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項6】
前記複合粒子は、コアシェル型構造であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項7】
前記表面電位が正の微粒子と前記表面電位が負の微粒子のうちいずれか一方の粒径が、他方の粒径の5倍以上であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする複合粒子。
【請求項9】
粒径分散度が10%未満であることを特徴とする請求項8に記載の複合粒子。
【請求項1】
表面電位が正の微粒子を含有する少なくとも1種の流体と、表面電位が負の微粒子を含有する少なくとも1種の流体とを混合する混合工程を有し、複数種の微粒子からなる複合粒子を製造する方法であって、
前記混合工程の前に、前記微粒子のうちの少なくとも1種の表面に高分子化合物を修飾して、該微粒子の表面電位を調整する表面電位調整工程を有することを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程を、微小流路内で行うことを特徴とする請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項3】
前記微小流路の流路構造により、前記複合粒子の粒子構造を制御することを特徴とする請求項2に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項4】
前記微小流路の幅により、前記複合粒子の粒径および/または粒径分散度を制御することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項5】
前記各微粒子は、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物からなる群から選ばれる1種であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項6】
前記複合粒子は、コアシェル型構造であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項7】
前記表面電位が正の微粒子と前記表面電位が負の微粒子のうちいずれか一方の粒径が、他方の粒径の5倍以上であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする複合粒子。
【請求項9】
粒径分散度が10%未満であることを特徴とする請求項8に記載の複合粒子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
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【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2006−82073(P2006−82073A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230593(P2005−230593)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
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