説明

複合粒子の製造方法

【課題】生体への影響が懸念されるような有機溶剤、及び分子レベルの界面活性剤や分散安定剤等の添加剤を使用せず、熱可塑性樹脂粒子の表面に無機粒子が吸着した球状の複合微粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂粒子の表面に、無機粒子が吸着した複合粒子の製造方法であって、(1)熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に、熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の無機粒子を添加する工程、(2)工程(1)で得られる混合物を前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱して混合し、熱可塑性樹脂粒子の表面に、無機粒子が吸着した複合粒子を含む分散液を形成する工程、及び(3)工程(2)における複合粒子を含む分散液を冷却し、分散液中の複合粒子を固化する工程を含む複合粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子が表面に被覆した熱可塑性樹脂からなる複合粒子の製造方法に関するものであり、特に、生体親和性、生体適合性を有し、かつ、生体組織に対する密着性又は接着性を有する、医療用材料として有用な複合粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
球形の高分子微粒子を製造する方法として、高分子を溶解した有機溶媒からなる液滴を水中に分散させ、該有機溶媒を揮発させる溶剤揮発法が広く一般的に知られている。例えば、特許文献1では、生体親和性、生体適合性、生体組織に対する密着性又は接着性を有するリン酸カルシウムからなるナノ粒子を表面に被覆した高分子微粒子が開示されており、有機溶媒による高分子溶液を水に分散させることによる高分子微粒子の製造方法が開示されている。しかしながら、高分子微粒子の細胞担体への利用を考えた場合、残存する有機溶剤の毒性等が問題となる。
【0003】
これまでに、高分子微粒子の有機溶剤を使用しない製造方法についても提示されており、例えば、特許文献2及び3では、熱可塑性樹脂を該熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒と共に該熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱して混合し、微粒子に分散させ、その後に該微粒子をその融点以下の温度に冷却する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献2及び3のような、有機溶剤を使用しない高分子微粒子の製造方法では、分散媒中で、高分子微粒子を安定化させる目的として分子レベルの界面活性剤や分散安定剤が使用されており、これらの添加剤の配合により、得られる複合微粒子を医療材料に適用した場合に生じる生体への影響が懸念される。
【0005】
そのため、生体親和性、生体適合性、生体組織に対する密着性又は接着性を有するリン酸カルシウム等の無機化合物からなるナノ粒子が表面に被覆した高分子微粒子の製造工程において、生体への影響が懸念されるような有機溶剤及び、分子レベルの界面活性剤や分散安定剤等の添加剤を使用せずに製造する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-156213号公報
【特許文献2】特開2005−200663号公報
【特許文献3】特開2008−209621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、生体への影響が懸念されるような有機溶剤、及び分子レベルの界面活性剤や分散安定剤等の添加剤を使用せず、熱可塑性樹脂粒子の表面に無機粒子が吸着した球状の複合微粒子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような問題を解決するために、鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に、熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の無機粒子を添加し、得られる混合物を前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱して混合し、分散液中の複合粒子を冷却固化することによって、有機溶剤及び、分子レベルの界面活性剤や分散安定剤等の添加剤を使用せずに熱可塑性樹脂粒子の表面に無機粒子が吸着した複合粒子を製造することができるという知見を得た。本発明は、斯かる知見に基づき完成されたものである。
【0009】
項1.熱可塑性樹脂粒子の表面に、無機粒子が吸着した複合粒子の製造方法であって、
(1)熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に、熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の無機粒子を添加する工程、
(2)工程(1)で得られる混合物を前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱して混合し、熱可塑性樹脂粒子の表面に、無機粒子が吸着した複合粒子を含む分散液を形成する工程、及び
(3)工程(2)における複合粒子を含む分散液を冷却し、分散液中の複合粒子を固化する工程
を含む複合粒子の製造方法。
【0010】
項2.工程(1)が、熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に少なくとも1種の無機粒子を分散させ、少なくとも1種の無機粒子を分散させた分散媒中に、さらに熱可塑性樹脂を添加する工程である項1に記載の複合粒子の製造方法。
【0011】
項3.熱可塑性樹脂の融点が0〜300℃である項1又は2に記載の複合粒子の製造方法。
【0012】
項4.工程(3)における冷却温度が、熱可塑性樹脂の融点以下であって、分散媒の凝固点以上の温度である項1〜3のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0013】
項5.工程(3)における冷却温度が−120〜+50℃である項1〜4のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0014】
項6.熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒が水である項1〜5のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0015】
項7.分散媒が水を主成分とする混合分散媒である項1〜5のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0016】
項8.熱可塑性樹脂がポリエステルである項1〜7のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0017】
項9.熱可塑性樹脂がポリ-ε-カプロラクトン、ポリラクチド、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-グリコリド共重合体、ポリグリコリド、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体及びポリジオキサノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体である項1〜8のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0018】
項10.無機粒子の平均粒子径が10〜1000nmである項1〜9のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0019】
項11.無機粒子がリン酸カルシウムである項1〜10のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0020】
項12.無機粒子がハイドロキシアパタイトである項1〜11のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0021】
項13.該複合粒子の平均粒子径が0.01〜2,000μmである項1〜12のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0022】
本発明は、熱可塑性樹脂粒子の表面に無機粒子が吸着した複合粒子の製造方法に関する。該製造方法は、(1)熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に、熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の無機粒子を添加する工程、(2)工程(1)で得られる分散液を前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱して混合し、複合粒子を含む分散液を形成する工程、及び(3)工程(2)における複合粒子を含む分散液を冷却し、分散液中の複合粒子を固化する工程により製造される。
【0023】
熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等が挙げられるが、生体親和性や生体適合性において優れる点から、ポリエステルであることが好ましく、生体適合性に優れているという点から生分解性ポリマーが好ましく、具体的には脂肪族ポリエステルであることが好ましい。ポリエステルの具体例としては、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ラクチド-εカプロラクトン共重合体、ポリジオキサノン、グリコリド-トリメチレンカーボネート共重合体、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸(PHB)、3−ヒドロキシ酪酸−3−ヒドロキシ吉草酸共重合体(PHBV)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリεカプロラクトン(PLC)、酢酸セルロース系(PH)重合体、ポリエチレンサクシネート(PESu)、ポリエステルアミド、変性ポリエステル等が挙げられる。これらの中で、熱可塑性樹脂がポリεカプロラクトン、ポリラクチド、ラクチド-εカプロラクトン共重合体、及びラクチド-グリコリド共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体であることが好ましい。
【0024】
熱可塑性樹脂の融点は、本発明の製造方法により得られる複合粒子の使用目的に応じて適宜設定変更すればよいが、0℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましく、37℃以上がさらに好ましく、60℃以上が特に好ましい。また、熱可塑性樹脂の融点は、熱可塑性樹脂の分解温度よりも低いものであれば、特に限定されるものではなく、通常300℃以下であればよい。なお、熱可塑性樹脂の融点とは、常圧での融点を意味する。
【0025】
無機粒子に用いられる無機化合物としては、リン酸カルシウム、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア、酸化鉄、酸化スズ、酸化亜鉛、金、銀、パラジウム、白金、カーボンブラック、炭酸カルシウム、クレイ(例えば、モンモリロナイト)、前記無機化合物の焼成体等が挙げられるが、これらの中で、生体組織に対する密着性や接着性を有する点、生体内での安全性、熱可塑性樹脂への吸着性において良好であるという観点から、リン酸カルシウムが好ましい。
【0026】
リン酸カルシウムの具体例としては、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))、リン酸トリカルシウム(Ca(PO)、メタリン酸カルシウム(Ca(PO)、フッ化アパタイト(Ca10(PO)、クロロアパタイト(Ca10(POCl)等が挙げられる。これらの中でも、生体適合性において優れている点、分散媒中で熱可塑性樹脂を良好に分散させることができるという点、生体内での安全性、熱可塑性樹脂への吸着性等の点からハイドロキシアパタイトが好ましく、また、耐熱性および化学的安定性等の観点から、ハイドロキシアパタイトの焼結体が好ましい。
【0027】
無機粒子の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、原料となる無機化合物を湿式法、水熱法、熱分解法、ゾルゲル法、アルコキシド法等の製法により得られる。
【0028】
無機粒子の平均粒子径としては、熱処理工程における熱可塑性樹脂の分散安定化、生体内での安全性において良好であるという点から、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、20nm以上がさらに好ましい。また、無機粒子の平均粒子径は、無機粒子の分散媒中での分散性において良好であるという点から、1000nm以下が好ましく、800nm以下がより好ましく、500nm以下がさらに好ましい。
【0029】
工程(1)における、熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に、熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の無機粒子を分散させる際の熱可塑性樹脂と無機粒子の添加の順番は、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に少なくとも1種の無機粒子を分散させ、少なくとも1種の無機粒子を分散させた分散媒中に、さらに熱可塑性樹脂を分散させることが、熱可塑性樹脂表面への無機粒子の吸着状態において優れる点で好ましい。
【0030】
工程(1)において、熱可塑性樹脂及び少なくとも1種類の無機粒子が分散した分散液を調製する際に、本願発明は、毒性を示す有機溶剤を含まず、また、生体への影響が懸念されるような、分子レベルの界面活性剤や分散安定剤を使用しないことを特徴とする。
【0031】
工程(1)において分散媒として含有しない有機溶剤としては、例えば、モノクロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン(クロロホルム)、テトラクロロメタン、トリフルオロ酢酸、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール等のハロゲン系炭化水素;アセトン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。また、工程(1)において含有しない分子レベルの界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、セチルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられ、工程(1)において含有しない分散安定剤としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0032】
工程(1)において使用される前記無機粒子が分散した該熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒の具体例としては、水、塩水溶液(例えば、食塩水)、ひまし油、植物油、オリーブオイル、メタノール、エタノール、メトキシエタノール、プロパノール、プロピレングリコール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ペンタン、ヘキサン、エチレングリコール、グリセロール等が挙げられるが、これらの中で、人体への安全性において優れるという観点から、水、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ペンタンが好ましい。また、熱可塑性樹脂の加水分解制御という観点から、分散媒として水を主成分として、エタノール、プロパノール等の低級アルコール;酢酸エチル等の溶剤を、少量配合した混合分散媒であってもよい。水を主成分とする混合分散媒とする場合における水以外の溶剤の含有割合としては、混合分散媒中、1〜50重量%が好ましく、5〜40重量%がより好ましく、10〜30重量%がさらに好ましい。
【0033】
なお、例えば生分解性樹脂等の加水分解するポリマーを用いる場合には、後述する工程(2)の加熱処理により生分解性樹脂等の加水分解が早く進行するため、加水分解を起こさない分散媒を適宜用いることが好ましい。
【0034】
工程(1)において、前記分散媒に分散される無機粒子の含有割合は、熱処理工程における熱可塑性樹脂の分散安定化において良好であるという点から、分散液中、0.01重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、1重量%以上がさらに好ましい。また、前記分散媒に分散される無機粒子の含有割合は、無機粒子の分散媒中での分散性において良好であるという点から、分散液中、50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。
【0035】
工程(1)において、前記分散媒に分散される熱可塑性樹脂の含有割合は、熱可塑性樹脂の種類によって適宜変更されるが、例えば、生産性(生産効率、生産コスト等)において良好であるという点から、分散液中、0.01重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、0.2重量%以上がさらに好ましい。また、前記分散媒に分散される熱可塑性樹脂の含有割合は、熱処理工程における熱可塑性樹脂の分散安定化において良好であるという点から。分散液中、70重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましく、50重量%以下がさらに好ましい。
【0036】
工程(1)における分散液に含有する無機粒子及び熱可塑性樹脂について、無機粒子の添加量は、熱処理工程における熱可塑性樹脂の分散安定化において良好であるという点から、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.001重量部以上が好ましく、0.01重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上がさらに好ましい。また、無機粒子の添加量は、生産性において良好であるという点から、熱可塑性樹脂100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、20重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。
【0037】
工程(2)において、工程(1)で得られた混合物を、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱して混合する。前記加熱混合により、熱可塑性樹脂の微粒子が形成されるとともに、該微粒子の表面に無機粒子が吸着する。加熱処理の際に融点以上にして流動性が出るような温度であれば、適用することができ、処理温度が融点以上であって、かつ、分解点以下に設定することが必要となる。また、例えば生分解性樹脂等の加水分解するポリマーを適用する場合には、特に高温で加水分解が早く進行するため、加水分解を起こさない温度で処理する必要がある。そのような加熱温度の具体例としては、熱可塑性樹脂の融点をTmとした場合、Tm+0〜100℃が好ましく、Tm+0〜50℃がより好ましく、Tm+10〜50℃がさらに好ましい。特に加熱温度を熱可塑性樹脂の融点よりも10℃以上高く設定することにより、短時間で熱可塑性樹脂の微粒子が得られるという効果が得られる。
【0038】
なお、加熱温度が分散媒の沸点よりも高い場合には、例えば、耐圧容器を用いて高圧条件下で加熱する等により加熱することが可能である。
【0039】
撹拌方法としては、回転式撹拌機、振動式撹拌機、マグネティックスターラー、超音波照射、ローラーミル、ボールミル、コロイドミル等が挙げられる。
【0040】
工程(2)における加熱混合時間としては、熱可塑性樹脂の微粒化において良好となる点から、10分以上が好ましく、20分以上がより好ましく、30分以上がさらに好ましい。加熱混合時間は、生産性および熱可塑性樹脂の変性(加水分解)の抑制において良好となる点から、10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましく、1時間以下がさらに好ましい。
【0041】
工程(3)における冷却温度は、熱可塑性樹脂の融点以下であって、分散媒以上の温度であることが好ましく、また、熱可塑性樹脂の融点をTmとした場合、Tm−0〜−50℃程度がより好ましい。
【0042】
また、工程(3)における冷却する際の冷却温度は、生産性において良好であるという点から、工程(1)において使用される前記無機粒子が分散した該熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒の融点をTm(disp.)とした場合、Tm(disp.)−50℃以下が好ましく、Tm(disp.)−40℃以下がより好ましく、Tm(disp.)−30℃以下がさらに好ましい。
【0043】
工程(3)における冷却温度の具体例としては、−120〜+50℃が好ましい。
【0044】
工程(3)における冷却における冷却速度は、1〜20℃/分が好ましく、1〜10℃/分がより好ましく、1〜5℃/分がさらに好ましい。冷却速度1℃/分以上とすることによって、生産性が向上するという効果が得られ、また、冷却速度20℃/分以下とすることによって、冷却時において容器内の液体/気体間の温度差を小さくすることで突沸を防止するという効果が得られる。
【0045】
工程(3)における冷却する際の冷却時間は、冷却において良好であるという点から、30分以上が好ましく、45分以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましい。また、冷却時間は、生産性において良好であるという点から、24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましく、6時間以下がさらに好ましい。
【0046】
工程(3)における冷却方法としては、例えば、自然冷却、送風、液冷(水冷、油冷)等が挙げられる。
【0047】
本発明の製造方法により得られる複合粒子は、球状の微粒子となる。本発明の製造方法により得られる複合粒子の平均粒子径は、0.01〜2,000μmであることが好ましく、1〜2,000μmであることがより好ましく、10〜1,500μmであることがさらに好ましい。複合粒子の平均粒子径を0.01μm以上とすることによって、生体材料として用いた場合に細胞による貪食が回避できるという効果が期待でき、一方、複合粒子の平均粒子径を2,000μm以下とすることによって、充填剤として用いた場合により密に充填できるという効果が期待できる。なお、平均粒子径については、円相当径をもって表すことができる。
【0048】
本発明の製造方法により得られる複合粒子の形状は、円形度を測定することにより評価される。円形度は、{4π×投影面積/(周囲の長さの二乗)}で表される値であり、1に近づくほど複合粒子が真球に近いことを意味し、球状の微粒子が得られていることを意味する。円形度は、0.70〜1が好ましく、0.75〜1がより好ましい。
【0049】
本発明の製造方法により得られる複合粒子は、医用材料として好適に適用することができ、具体的には、細胞培養材料、骨充填剤、軟組織充填剤、細胞担持材料(細胞のキャリア)等の用途として適用することが可能となる。
【発明の効果】
【0050】
本発明の製造方法は、製造工程において毒性を示す有機溶剤を含まず、また、生体への影響が懸念されるような、分子レベルの界面活性剤や分散安定剤を使用しないため、生体に適合させるような無機粒子が吸着した熱可塑性樹脂の球状微粒子を製造することが可能となる。そのため、安全性の高い医用材料への応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1で製造したハイドロキシアパタイト複合化ポリεカプロラクトン粒子を倍率200倍で測定した走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で製造したハイドロキシアパタイト複合化ポリεカプロラクトン粒子を倍率30,000倍で測定した走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例2で製造したハイドロキシアパタイト複合化ポリεカプロラクトン粒子を倍率20倍で測定した走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例2で製造したハイドロキシアパタイト複合化ポリεカプロラクトン粒子を倍率30,000倍で測定した走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例1で製造したポリεカプロラクトン共重合体の外観写真である。
【図6】実施例3で製造したハイドロキシアパタイト複合化ポリεカプロラクトン粒子の外観写真である。
【図7】実施例4で製造したハイドロキシアパタイト複合化ポリεカプロラクトン粒子の外観写真である。
【図8】比較例2で製造した未処理のポリεカプロラクトン粒子の外観写真である。
【図9】比較例3で製造したハイドロキシアパタイト複合化ポリεカプロラクトン粒子の外観写真である。
【図10】比較例4で製造したハイドロキシアパタイト複合化ポリεカプロラクトン粒子の外観写真である。
【図11】実施例3、4及び比較例2〜4で得られたハイドロキシアパタイト複合化ポリεカプロラクトン粒子を製造する際の処理温度に対する円相当径をプロットしたグラフである。
【図12】実施例3、4及び比較例2〜4で得られたハイドロキシアパタイト複合化ポリεカプロラクトン粒子を製造する際の処理温度に対する円形度をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
[実施例]
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
実施例1
1.低結晶性ハイドロキシアパタイト粒子の調製
球状の形態を有するハイドロキシアパタイトナノ粒子を以下に示す湿式法で合成した。なお、Ca(NO4HO、及び(NHHPOはナカライテスク(株)製のものを用い、25%アンモニア水は和光純薬工業(株)製のものを用い、純水としてMilli-Q waterを使用した。
【0053】
まず、アンモニア水でpHを12に調整したCa(NO水溶液(42mN,800mL)を、冷却管及び半月状攪拌翼を接続した1Lフラスコに注ぎ入れ、室温に保った。このフラスコにアンモニア水でpHを12に調整した(NHHPO水溶液(100mN,200mL)を室温にて添加し、10時間反応させた。次に、得られた反応物を遠心分離により分離洗浄することにより、低結晶性ハイドロキシアパタイトナノ粒子を得た。得られた低結晶性ハイドロキシアパタイトナノ粒子を走査型電子顕微鏡にて観察して粒子径を測定した結果、同粒子径は40nmであった。なお、走査型電子顕微鏡は、日本電子株式会社製、モデル名JSM-6301Fを用いて、倍率90,000倍で観察を行った。
【0054】
2.複合粒子の調製(低融点ポリマー)
前記「1.低結晶性ハイドロキシアパタイト粒子の調製」によって得られた低結晶性ハイドロキシアパタイトナノ粒子0.01gを含む水25mLを超音波バス中に15分浸漬することで低結晶性ハイドロキシアパタイトナノ粒子水分散体を調製した。
【0055】
融点が約60℃であるポリεカプロラクトン(和光純薬工業(株)製;平均分子量=10,000g/mol)0.125gを前記の低結晶性ハイドロキシアパタイトナノ粒子水分散体25mLを含むガラス瓶へ加えて、80℃において4時間混合した。その後、80℃においてホモジナイザー(IKA製T10 basic ULTRA-TURRAX;20500rpm)を用いて1分間混合した後、空冷にて室温まで冷却した。
【0056】
得られた複合粒子の走査型電子顕微鏡写真を図1及び図2に示す。平均粒子径は35μmであり、その表面の一部にハイドロキシアパタイトナノ粒子が複合化されていることが確認できた。なお、走査型電子顕微鏡は、日本電子株式会社製、モデル名JSM-6301Fを用いて、倍率200倍(図1)又は30,000倍(図2)で観察を行った。
【0057】
実施例2
1.高結晶性ハイドロキシアパタイト粒子
高結晶性ハイドロキシアパタイト粒子として、(株)ソフセラ製のnano−SHAp MHS−00405(平均粒子径35〜50nm)を用いた。
【0058】
2.複合粒子の製造(高融点ポリマー)
前記、高結晶性ハイドロキシアパタイトナノ粒子0.2gを水100mLに加えて、超音波バス中に15分浸漬することで高結晶性ハイドロキシアパタイトナノ粒子水分散体を調製した。
【0059】
融点が約136℃であるラクチド−εカプロラクトン共重合体(ラクチド/εカプロラクトン=50/50(モル比);重量平均分子量=280,000)及び前記の高結晶性ハイドロキシアパタイトナノ粒子水分散体100mLを耐圧容器に加え、同耐圧容器を180℃のオイルバス中に浸漬し、耐圧容器中の内容物を2時間撹拌した。その後、耐圧容器をオイルバスから取り出し、4時間空冷にて室温まで冷却した。なお、耐圧容器として耐圧硝子工業(株)製TPR-1型ポータブルリアクターを使用し、回転数830rpmにて撹拌を行った。
【0060】
得られた複合粒子の走査型電子顕微鏡写真を図3及び図4に示す。平均粒子径は860μmであり、その表面にハイドロキシアパタイトナノ粒子が均一に複合化されていることが確認できた。なお、走査型電子顕微鏡は、日本電子株式会社製、モデル名JSM-6301Fを用いて、倍率20倍(図3)又は30,000倍(図4)で観察を行った。
【0061】
比較例1
融点が約136℃であるラクチド−εカプロラクトン共重合体(ラクチド/εカプロラクトン=50/50(モル比);重量平均分子量=280,000)及び純水150mLを耐圧容器に加え、同耐圧容器を180℃のオイルバス中に浸漬し、耐圧容器中の内容物を1時間撹拌した。その後、耐圧容器をオイルバスから取り出し、1時間空冷した。なお、耐圧容器として耐圧硝子工業(株)製TPR-1型ポータブルリアクターを使用し、回転数830rpmにて撹拌を行った。
【0062】
前記処理後に得られたものの外観写真を図5に示す。ラクチド-εカプロラクトン共重合体は融着しており、微粒子は得られなかった。
【0063】
実施例3
1.高結晶性ハイドロキシアパタイト粒子
実施例2と同様に、高結晶性ハイドロキシアパタイト粒子として、(株)ソフセラ製nano−HSAp MHS−00405(平均粒子径35〜50nm)を用いた。
【0064】
2.複合粒子の製造(高融点ポリマー)
前記、高結晶性ハイドロキシアパタイトナノ粒子0.1gを水150mLに加えて、超音波バス中に15分浸漬することで高結晶性ハイドロキシアパタイトナノ粒子水分散体を調製した。
【0065】
融点が約136℃であるラクチド-εカプロラクトン共重合体(ラクチド/εカプロラクトン=50/50(モル比);重量平均分子量=280,000)及び前記の高結晶性ハイドロキシアパタイトナノ粒子水分散体150mLを耐圧容器に加え、同耐圧容器を150℃のオイルバス中に浸漬し、耐圧容器中の内容物を1時間撹拌した。その後、耐圧容器をオイルバスから取り出し、1時間空冷した。なお、耐圧容器として耐圧硝子工業(株)製TPR-1型ポータブルリアクターを使用し、回転数830rpmにて撹拌を行った。
【0066】
前記処理後に得られた粉体の外観写真を図6に示す。また、同写真をもとに、画像解析ソフト(ImageJ;NIH開発フリーウェア)を用いて計測した粉体の円相当径を図11及び円形度を図12に示す。なお、円相当径は、粒子の投影面積と同じ面積をもつ円の直径であり、円形度は、{4π×投影面積/(周囲の長さの二乗)}で表される値である。
【0067】
図11及び図12より、ラクチド-εカプロラクトン共重合体の融点以上の温度である150℃の処理を施すことにより、円相当径が1870μmとなり、円形度は、0.79となった。円形度が1に近づいたことから、得られた複合粒子は、微粒子化していることが確認できた。
【0068】
実施例4
実施例3の「2.複合粒子の製造」において、オイルバスの温度を180℃に代えた以外は、実施例3と同様の方法によって複合粒子を製造した。得られた複合粒子について、実施例3と同様の方法にて、外観、円相当径及び円形度を測定し評価した。得られた粉体の外観写真を図7に、円相当径の結果を図11に、円形度の結果を図12に示す。
【0069】
図11及び12より、実施例3と同様、ラクチド-εカプロラクトン共重合体の融点以上の温度である180℃の処理を施すことにより、円相当径が1410μmとなり、円形度は、0.86となった。円形度が1に近づいたことから、得られた複合粒子は、微粒子化していることが確認できた。
比較例2
ラクチド-εカプロラクトン共重合体(ラクチド/εカプロラクトン=50/50(モル比);重量平均分子量=280,000)をそのまま、実施例3と同様の方法にて、外観、円相当径及び円形度を測定し評価した。得られた粉体の外観写真を図8に、円相当径の結果を図11に、円形度の結果を図12に示す。
【0070】
比較例3
実施例3の「2.複合粒子の製造」において、オイルバスの温度を100℃に代えた以外は、実施例3と同様の方法によって複合粒子を製造した。得られた複合粒子について、実施例3と同様の方法にて、外観、円相当径及び円形度を測定し、評価した。得られた粉体の外観写真を図9に、円相当径の結果を図11に、円形度の結果を図12に示す。
【0071】
図11及び図12より、ラクチド-εカプロラクトン共重合体の融点未満の温度である100℃の処理を施した場合、円相当径及び円形度は未処理粉体とほぼ同じ値であり、微粒子化しなかったことがわかる。
【0072】
比較例4
実施例3の「2.複合粒子の製造」において、オイルバスの温度を130℃に代えた以外は、実施例3と同様の方法によって複合粒子を製造した。得られた複合粒子について、実施例3と同様の方法にて、外観、円相当径及び円形度を測定し、評価した。得られた粉体の外観写真を図10に、円相当径の結果を図11に、円形度の結果を図12に示す。
【0073】
図11及び図12より、ラクチド-εカプロラクトン共重合体の融点未満の温度である130℃の処理を施した場合、比較例2と同様、円相当径及び円形度は未処理粉体とほぼ同じ値であり、微粒子化しなかったことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂粒子の表面に、無機粒子が吸着した複合粒子の製造方法であって、
(1)熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に、熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の無機粒子を添加する工程、
(2)工程(1)で得られる混合物を前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱して混合し、熱可塑性樹脂粒子の表面に、無機粒子が吸着した複合粒子を含む分散液を形成する工程、及び
(3)工程(2)における複合粒子を含む分散液を冷却し、分散液中の複合粒子を固化する工程
を含む複合粒子の製造方法。
【請求項2】
工程(1)が、熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に少なくとも1種の無機粒子を分散させ、少なくとも1種の無機粒子を分散させた分散媒中に、さらに熱可塑性樹脂を添加する工程である請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂の融点が0〜300℃である請求項1又は2に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項4】
工程(3)における冷却温度が、熱可塑性樹脂の融点以下であって、分散媒の凝固点以上の温度である請求項1〜3のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項5】
工程(3)における冷却温度が−120〜+50℃である請求項1〜4のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒が水である請求項1〜5のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項7】
分散媒が水を主成分とする混合分散媒である請求項1〜5のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂がポリエステルである請求項1〜7のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項9】
熱可塑性樹脂がポリ-ε-カプロラクトン、ポリラクチド、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-グリコリド共重合体、ポリグリコリド、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体及びポリジオキサノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体である請求項1〜8のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項10】
無機粒子の平均粒子径が10〜1000nmである請求項1〜9のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項11】
無機粒子がリン酸カルシウムである請求項1〜10のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項12】
無機粒子がハイドロキシアパタイトである請求項1〜11のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項13】
該複合粒子の平均粒子径が0.01〜2,000μmである請求項1〜12のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−184615(P2011−184615A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52936(P2010−52936)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・ナノテク・先端部材実用化研究開発/虚血下肢の切断回避を実現する細胞移植用ナノスキャフォールドの開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【出願人】(503420833)学校法人常翔学園 (62)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【出願人】(509090601)株式会社ソフセラ (3)
【上記3名の代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
【Fターム(参考)】