説明

複合粒子及びその製造方法

【課題】 酸化鉄粒子の表面が低分子化合物で被覆され、表面に負電荷を持ち、生体適合性を備えた複合粒子を得る。
【解決手段】 酸化鉄粒子と、下記式(1)で表される化合物からなる表面領域と、を有する複合粒子とする。
−(CHOH)−CO−R (1)
(式(1)中、RはCHOH又はCORであり、R及びRはO、OH、ONa、OK、OCa、及びOMgからなる群からそれぞれ独立して選択される。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライフサイエンス又は医療などの分野において使用可能な複合粒子、その複合粒子の製造方法、並びにその複合粒子からなる造影剤、温熱療法剤薬物送達剤及び分子プローブに関する。より詳細には、本発明は、酸化鉄粒子と水酸基とカルボキシル基を有する化合物からなる表面領域とを有する複合粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉄粒子は、その物理的性質から、ライフサイエンス、医療などの分野への応用が期待されている。例えば、細胞の受容体を認識する抗体などを酸化鉄粒子に固定すると、その受容体が存在する特定の細胞のみを粒子で標識することができることから、この粒子を体外診断用分子プローブとして用いることができる。さらに、酸化鉄の磁性を利用して、粒子で標識された特定の細胞のみを回収することができる。
【0003】
本発明及び本明細書において、分子プローブとは、生体分子の消長ならびに複合的な挙動に由来する生体機能の解明と探索を可能とする機能ユニットのことである。ここで機能ユニットは分子そのもので構成されることもあり、また、複数の分子を集積し複合化した分子集合体として構成されることもある。典型的な分子プローブは、生体機能に関連する特定の分子、分子集合体、さらにはそれらの機能に基づき細胞、細胞群、組織等を認識する機能ユニットである。ここでいう生体機能に関連する特定の分子、分子集合体としては、遺伝子、核酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、脂質ならびにこれらの複合体等を挙げることができる。特定の細胞としては例えば腫瘍細胞を挙げることができるが、特定の分子としての腫瘍マーカーを認識している事例が典型例として挙げられる。また、腫瘍細胞の機能を「代謝」という分子の複合機能の総体として認識している事例もその典型例として挙げられる。診断用分子プローブとは、これらの分子プローブのうち、生体機能を明らかにすることで疾病の有無ならびにその性状の診断を目的とするものをいう。
【0004】
生体内に粒子を投与した場合、そのサイズによっては、体内の腫瘍や特定の臓器に集積する。この性質と、酸化鉄の磁性などの物理的性質とを利用することにより、腫瘍や特定の臓器を造影するための、磁気共鳴画像装置(MRI)などの造影剤として、酸化鉄粒子を利用することができる。また、酸化鉄に磁場をかけると発熱する性質を利用することにより、腫瘍や特定の臓器を対象とする温熱治療剤として酸化鉄ナノ粒子を利用することができる。また、粒子に薬品や薬剤を固定しておくことにより、腫瘍や特定の臓器に薬品や薬剤を到達させる手段として酸化鉄粒子を利用することができる。
【0005】
特定の細胞等の有する受容体を認識する抗体などを酸化鉄粒子に固定し、生体内に投与すると、受容体をもつ細胞等の部位に集積し、上記と同様に、造影剤、温熱治療剤、薬物送達剤として利用が可能である。
【0006】
上記のように、酸化鉄粒子のライフサイエンス、医療などの分野への応用は期待されるが、酸化鉄粒子は、疎水性の表面を持ち、水に分散しない。したがって、酸化鉄粒子をライフサイエンスや医療に応用する場合、水への分散性の向上が望まれる。
【0007】
水への分散性を向上させるために、これまでも、酸化鉄粒子の表面を親水性に改良する様々な試みが行われてきた。酸化鉄粒子をライフサイエンス、医療などの分野に応用する場合、生体適合性のある材料で酸化鉄粒子の表面を改良することが望まれる。そこで、これまでは、デキストランなどの、生体適合性のある高分子化合物で、酸化鉄粒子の表面を被覆していた(特許文献1)。
【0008】
一方で、低分子化合物も、酸化鉄粒子の表面被覆の材料として検討されてきた。例えば、酸化鉄ナノ粒子と結合できる官能基(例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、水酸基、又は、チオール基など)と、水と親和性のある部位(例えば、オリゴエチレングリコール、カルボキシル基、アミノ基、又は、水酸基など)を有し、さらに、生体適合性を備えたアミノ酸が、酸化鉄粒子の被覆剤として提案されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】U.S. Patent 4101435
【特許文献2】特開2007−70195
【特許文献3】特開2007−216134
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の高分子化合物を、酸化鉄粒子の表面被覆の材料として用いて、複合粒子とした場合、1つの複合粒子に占める高分子化合物の割合が高くなり、その結果、複合粒子中に占める酸化鉄の割合が低くなる。酸化鉄の物理的性質を利用する場合、例えば、磁性を利用したMRIなどの造影剤、あるいは磁場をかけると発熱する温熱療法剤として該粒子を使用する場合など、には、粒子中の酸化鉄の割合が低いと、造影剤あるいは温熱療法剤としての効果を低下させる可能性がある。
【0011】
一方、低分子化合物であるアミノ酸を被覆剤として利用して複合粒子とした場合、被覆することによって、すなわち複合粒子とすることによって、粒子の表面が正電荷へと変化することが報告されている(特許文献3)。これは、アミノ酸分子のカルボキシル基が酸化鉄と結合し、アミノ基が粒子の最表面に露出しているためであると考えられる。一般に、正電荷をもつ材料は、負電荷をもつ細胞表面に付着し、エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれる。さらに、正電荷をもつ材料は、細胞をアポトーシスに導くことも報告されている。実際に、正電荷をもつ粒子は、負電荷をもつ粒子よりも細胞内に取り込まれやすいことが報告されている。このような細胞内への取り込みは、非特異的である可能性がある。
【0012】
さらに、アミノ酸の中には、体内に受容体が存在するものがある。例えば、アスパラギン酸やグルタミン酸に対する受容体が神経細胞上に存在することが知られている。酸化鉄粒子を、上記のようなアミノ酸で被覆して得た複合粒子は、体内に投与した際に神経組織に集積する可能性がある。
【0013】
分子プローブ、MRIなどの造影剤、温熱療法剤、又は薬物送達として使用する上で、上記したような、非特異的な細胞への取り込み及び臓器への集積の少ない酸化鉄ナノ粒子が求められる。
【0014】
そこで、本発明は、低分子化合物で被覆され、表面に負電荷を持ち、生体適合性を備えた酸化鉄粒子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、酸化鉄粒子と、下記式(1)で表される化合物からなる表面領域と、を有する複合粒子である。
−(CHOH)−CO−R (1)
(式(1)中、RはCHOH又はCORであり、R及びRはO、OH、ONa、OK、OCa、及びOMgからなる群からそれぞれ独立して選択される。)
上記表面領域は、上記式(1)で表わされる化合物に加えて、下記式(2)で表わされる化合物を有していても良い。
−(CHOH)−CO−R (2)
(式(2)中、RはCHOH又はCORであり、R及びRはO、OH、ONa、OK、OCa、OMg、及びRからなる群からそれぞれ独立して選択され、Rはタンパク質、ペプチド、アミノ酸、又はアミノ基が結合したポリエチレングリコールである。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、血液などの水を主成分とする液体に分散し、表面に負電荷を有する複合粒子が得られる。本発明の複合粒子の表面に存在する化合物は、医薬品添加物として認可されている化合物であり、本発明により、生体適合性のある複合粒子が提供される。また、複合粒子の表面に露出しているカルボキシル基を利用して、複合粒子に抗体や抗体断片などのタンパク質、ペプチド、アミノ酸、あるいはアミノ基を持つポリエチレングリコールや薬品などのアミノ基を持ち水に溶解する化合物を固定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例及び比較例で作成した粒子の表面のゼータ電位を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の複合粒子及びその製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
(第1の実施形態の複合粒子)
本発明の第1の実施形態の複合粒子は、酸化鉄粒子と、下記式(1)で表される化合物からなる表面領域と、を有する複合粒子である。
−(CHOH)−CO−R (1)
(式(1)中、RはCHOH、又はCORであり、R及びRは、O、OH、ONa、OK、OCa、及びOMgからなる群からそれぞれ独立して選択される。)
本実施形態の複合粒子は、酸化鉄粒子と表面領域とからなる。表面領域は、式(1)で表される化合物からなっている。
【0020】
ここで、表面領域は、表面の一部のみに存在していても良いが、酸化鉄粒子の表面全てを覆っていることが好ましい。表面領域は、式(1)で表される化合物の単分子層であっても良い。
【0021】
本発明の複合粒子の典型的な形態としては、式(1)で表される化合物が酸化鉄粒子の表面を被覆している粒子が挙げられる。
【0022】
本実施形態の複合粒子において、式(1)で表される化合物は、その有する少なくとも1つの水酸基によって、酸化鉄粒子の表面に結合していると考えられる。また、上記式(1)で表される化合物中のカルボキシル基又はカルボキシラートアニオン部分は、複合粒子の表面を負に帯電させるとともに、複合粒子の水分散性の向上に寄与すると考えられる。
【0023】
前記の化合物の好適な例として、グルコン酸、グルカル酸、又はそれらいずれかのイオンもしくは塩を挙げることができる。
【0024】
以下、式(1)で表される化合物が表面に存在する粒子の優れた点について説明する。
【0025】
まず、人体内には、グルコン酸やグルカル酸などの式(1)で示される化合物の受容体が存在しない。したがって、式(1)で表される化合物が表面に存在する粒子は、人体内の特定の組織に集積せず、造影剤として用いる場合に、幅広い応用可能性がある。
【0026】
これに対して、グルタミン酸やグリシンに対する受容体は、脊髄などの中枢神経細胞上に存在することが知られている。すなわち、酸化鉄粒子の表面に、グルタミン酸やグリシンが存在すると、粒子が脊髄などの組織に集積し、造影させたい組織に集積しない可能性がある。
【0027】
次に、厚生労働省が通達している情報をもとにまとめられた医薬品添加物事典によると、グルコン酸ナトリウムの1日あたりの静脈注射可能量は57mgであり、グルカル酸カルシウムの1日あたりの静脈注射可能量は237.1mgである。
【0028】
これに対して、同辞典によれば、コハク酸、アスパラギン酸、システインの静脈注射可能量は、それぞれ2mg、16mg、8mgである。そして、メルカプトコハク酸、ジメルカプトコハク酸といった化合物は、静脈注射すること自体が認められていない。
【0029】
したがって、グルコン酸やグルカル酸といった式(1)で表される化合物は、比較的大量の投与が可能な、生体適合性が高い物質であるといえる。
【0030】
また、グルコン酸やグルカル酸といった式(1)で表される化合物で被覆された粒子は、表面が親水性であるため、優れた水分散性を有する。
【0031】
これに対して、ウンデセン、オレイン酸は水に溶解しないため、これらで表面が被覆された粒子は、水分散性が劣る。
【0032】
したがって、前記式(1)で表される化合物が表面に存在する粒子は、水が主成分である生体内への投与に適している。
【0033】
さらに、グルコン酸やグルカル酸といった式(1)で表される化合物についての副作用の報告はなされていない。
【0034】
一方、血液凝固防止剤として用いられているクエン酸には一時的はカルシウム濃度低下をもたらすなど、副作用が報告されている化合物は多数存在する。
【0035】
したがって、グルコン酸やグルカル酸といった式(1)で表される化合物は、生体適合性が高い物質であるといえる。
【0036】
(第2の実施形態の複合粒子)
本発明の第2の実施形態の複合粒子は、その表面領域に、式(1)で表わされる化合物に加えて、式(1)のR、Rの少なくとも一方のCOにタンパク質、ペプチド、アミノ酸、あるいはアミノ基が結合したポリエチレングリコールといった化合物が結合した基である化合物、より具体的には、下記式(2)で表される化合物を有している。
−(CHOH)−CO−R (2)
(式(2)中、Rは、CHOH、又はCORであり、R及びRはO、OH、ONa、OK、OCa、OMg、及びRからなる群からそれぞれ独立して選択され、Rはタンパク質、ペプチド、アミノ酸、又はアミノ基が結合したポリエチレングリコールである。)
上記タンパク質の好適な例としては、抗体及び抗体断片を挙げることができる。
【0037】
当然のことではあるが、より厳密に言えば、上記Rは、列挙されている化合物、すなわちタンパク質、ペプチド、アミノ酸、あるいはアミノ基が結合したポリエチレングリコール、のいずれかからアミノ基中のプロトンを一つ除去するなどして得られる基である。しかしながら、簡単のために、本発明及び本明細書では、プロトンなどの原子が除去されている点については言及しないこととする。
【0038】
この第2の実施形態の複合粒子は、前記第1の実施形態の複合粒子の表面領域に存在する式(1)で表される化合物の一部を抗体や抗体断片などのタンパク質、ペプチド、アミノ酸、又はアミノ基が結合したポリエチレングリコールで修飾したものである。その他の点は第1の実施形態の複合粒子と同様である。
【0039】
また、ここで列挙したもの以外の、種々の化合物で修飾することも可能である。なお、抗体や抗体断片などのタンパク質、ペプチド、アミノ基が結合したポリエチレングリコールなどの一般的な分子量を考えると、表面領域に存在する式(1)で表される化合物のすべてを抗体や抗体断片などのタンパク質、ペプチド、もしくはアミノ基が結合したポリエチレングリコールで修飾することは現実的ではない。
【0040】
念のため付言すると、本発明及び本明細書でいう「ペプチド」とは、決まった順番で様々なアミノ酸がつながってできた分子であって、タンパク質よりも分子量の小さいものである。「ペプチド」は、リボソームペプチド、非リボソームペプチド及び消化ペプチドを含む概念である。
【0041】
(粒径および用途)
ライフサイエンス又は医療などの分野への応用を考慮すれば、本発明の複合粒子の粒径は、Enhanced permeation and retention(EPR)効果が期待できる5nm以上1000nm以下であることが好ましい。
このような好ましい粒径との関係から、本発明の複合粒子中の酸化鉄粒子としては、たとえば粒径5nm以上1000nm以下の、いわゆる酸化鉄ナノ粒子を好適に用いることができる。
【0042】
本発明の複合粒子の用途としては、分子プローブ(とりわけ、診断用分子プローブ)、造影剤、温熱治療剤、薬物送達剤などを挙げることができる。
【0043】
粒子のカルボキシル基などを利用して抗体や抗体断片などを粒子に固定し、抗体に対する受容体をもつ細胞の有無を、粒子の有無で診断できる体外診断用分子プローブとして利用できる。粒子の磁性を利用して受容体をもつ細胞のみを回収することもできる。
【0044】
水に分散し、かつ生体適合性のある化合物で被覆されている粒子であるため、生体内に投与でき、造影剤、温熱治療剤、又は薬物送達剤として利用できる。投与方法は、静脈内注射、筋肉内注射など任意の投与経路を選択できる。
【0045】
粒径が5nm〜1000nmであれば、EPR効果により癌に粒子を集積させることができ、癌の造影剤として利用できる。癌に粒子を集積させた後、電磁場をかけると、癌の温熱療法剤として利用できる。粒子のカルボキシル基を利用して、抗がん剤を固定化しておけば、癌に抗がん剤を効率よく届ける薬物送達剤として利用できる。
【0046】
粒子のカルボキシル基に抗体などを固定化すると、その抗体に対する受容体が存在する組織に粒子は集積する。例えば、他の臓器と比べて癌にはEGFR(上皮成長因子受容体)などが高発現していることが知られている。このように癌に特異的に高発現している受容体に対する抗体などを粒子に固定化しておくと、癌の造影剤として利用できる。さらに、上記と同様に、癌の温熱療法剤及び薬物送達剤として利用できる。
【0047】
(複合粒子の製造方法)
本発明の第1の実施形態の複合粒子の好適な製造方法は、酸化鉄ナノ粒子を化合物で被覆する方法である。具体的には、酸化鉄粒子が分散する有機溶媒に酸化鉄粒子を分散させる工程と、酸化鉄粒子を分散させた有機溶媒と混和する有機溶媒に化合物を溶解させる工程と、酸化鉄ナノ粒子の分散液と化合物の溶液とを混合する工程を有する方法を挙げることができる。好ましくは、酸化鉄ナノ粒子を分散させる溶媒としてトルエン又はジメチルスルホキシド(DMSO)、多価アルコールを溶解させる溶媒としてDMSOを用いることができる。
【0048】
酸化鉄ナノ粒子を化合物で被覆した後は、有機溶媒と、酸化鉄ナノ粒子の表面にない化合物を除く工程を行うことが好ましい。より好ましくは、酸化鉄ナノ粒子を分散させた有機溶媒、化合物を溶解させた有機溶媒、および水と親和性のある有機溶媒中で透析を行う工程と、水中で透析を行う工程とを行う。透析を行う有機溶媒としては、エタノールが好ましい。酸化鉄ナノ粒子の表面にない化合物を除去するために、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を用いてもよい。
【0049】
本発明の第1の実施形態の複合粒子の製造方法の好適な例は、以下の3つの工程を少なくとも有する。
1 有機溶媒中に分散した酸化鉄粒子と、別の有機溶媒に溶解させた上記式(1)に示す化合物とを混合して、表面領域に上記式(1)で表わされる化合物を有する酸化鉄粒子を含む第1の混合物を得る第1工程
2 前記第1工程で得られた前記第1の混合物をエタノールで透析して第2の混合物を得る第2工程
3 前記第2工程で得られた前記第2の混合物を水で透析する第3工程
上記第2工程と第3工程を行うことで、酸化鉄粒子の表面に存在しない化合物を透析除去する。
【0050】
本発明の複合粒子及びその製造方法に用いる酸化鉄粒子の粒径は、特には限定されず、ナノ粒子、マイクロ粒子、又はミリ粒子の何れでもよいが、好ましくは粒径5nm以上1000nm以下のナノ粒子である。化合物で被覆後に得られる粒子の粒径が用途に合うサイズになるように、酸化鉄の粒径は選択するとよい。
【0051】
本発明の第1の実施形態の複合粒子の製造に用いる酸化鉄粒子としては、何も被覆されていない酸化鉄粒子を用いることもでき、あらかじめ有機溶媒への分散性の付与のための低分子化合物で被覆されている酸化鉄粒子を用いることもできる。特に好ましくは、何も被覆されていない酸化鉄ナノ粒子、又は、オレイン酸で被覆されている酸化鉄ナノ粒子を用いることができる。
【0052】
本発明の第2の実施形態の複合粒子の好ましい製造方法は、公知の方法を用いて、前記第1の実施形態の粒子表面の式(1)で示される化合物の一部を抗体、抗体断片、ペプチド、あるいはアミノ酸、もくしはアミノ基を導入したポリエチレングリコールや薬剤で修飾する(式(1)で示される化合物のカルボキシル基の一部に、抗体や抗体断片などのタンパク質、ペプチド、アミノ酸又はアミノ基を持つポリエチレングリコール中のアミノ基を結合させる。)工程を有する。本発明の第2の実施形態の複合粒子の好ましい製造方法として、例えば、1−ethyl−3−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride、1−cyclohexyl−3−(2−morpholinoethyl)carbodiimide、diisopropyl carbodiimide、あるいはN−ethyl−3−phenylisoxazolium−3’−sulfonateなどの脱水縮合剤を用いて、グルコン酸あるいはグルカル酸のカルボキシル基と、抗体や抗体断片などのタンパク質、ペプチド、アミノ酸、又はアミノ基を持つポリエチレングルコールが有しているアミノ基と、を反応させる方法を挙げることができる。
【実施例】
【0053】
(実施例1)酸化鉄ナノ粒子をグルコン酸で被覆した粒子
オレイン酸で被覆されている酸化鉄ナノ粒子(EMG1200、10nm、株式会社フェローテック)5mgをトルエン1mlに分散させ、超音波バスで30〜60分間超音波を照射した。グルコン酸ナトリウム1gをDMSO 10mlに溶解させ、グルコン酸ナトリウムの過飽和溶液を調製し、超音波バスで5分間超音波を照射した。酸化鉄ナノ粒子の分散液と、グルコン酸ナトリウムの過飽和溶液を混合し、ボルテックスミキサーで攪拌した後、超音波バスで1分間超音波照射をした。その後24時間振とうした。この混合物11mlを透析膜に移し、200mlエタノール、200ml水で透析し、酸化鉄ナノ粒子表面にないグルコン酸ナトリウムを除去した。グルコン酸ナトリウムの除去は、210nm付近の吸光度がなくなることで判断した。得られた粒子の分散液をフィルター(孔5および1.2 μm)で濾過し、凝集物を除去して、濾液に分散したグルコン酸被覆酸化鉄ナノ粒子を得た。1日後に目視により沈殿物の有無を、動的光散乱法(DLS)により酸化鉄ナノ粒子の粒子径を、ゼータ電位(0.1M 酢酸バッファー pH5.2)測定により表面被覆を確認した。結果を表1及び図1に示した。製造1日後に沈殿物は認められず、粒子径が134nmであったことから、得られた粒子は水に分散するとわかった。また、ゼータ電位測定結果から、得られた粒子が負の電荷をもっていることと、グルコン酸が酸化鉄ナノ粒子の表面の少なくとも一部を被覆していることが示された。
【0054】
(実施例2)酸化鉄ナノ粒子をグルカル酸で被覆した粒子
オレイン酸で被覆されている酸化鉄ナノ粒子(EMG1200、10nm、株式会社フェローテック)5mgをトルエン1mlに分散させ、超音波バスで30〜60分間超音波を照射した。グルカル酸カルシウム1gをDMSO 10 mlに溶解させ、グルカル酸カルシウムの過飽和溶液を調製し、超音波バスで5分間超音波を照射した。酸化鉄ナノ粒子の分散液と、グルカル酸カルシウムの過飽和溶液を混合し、ボルテックスミキサーで攪拌した後、超音波バスで1分間超音波照射をした。その後24時間振とうした。この混合物11mlを透析膜に移し、200mlエタノール及び200ml水で透析し、酸化鉄ナノ粒子表面にないグルカル酸カルシウムを除去した。透析膜から回収した混合物に、0.5M EDTA水溶液を2:1の割合で混合し、再び透析膜に移し、200ml水で透析し、EDTAと粒子表面にないグルカル酸カルシウムを除去した。EDTAとグルカル酸カルシウムの除去は、210nm付近の吸光度がなくなることで判断した。以下実施例1と同じ方法で、グルカル酸被覆酸化鉄ナノ粒子を作製し、評価した。結果を表1及び図1に示した。製造1日後に沈殿物は認められず、粒子径が87nmであったことから、得られた粒子は水に分散するとわかった。また、ゼータ電位測定結果から、得られた粒子が負の電荷をもっていることと、グルカル酸が酸化鉄ナノ粒子の表面の少なくとも一部を被覆していることが示された。
【0055】
(実施例3)酸化鉄ナノ粒子をグルコン酸で被覆した粒子
酸化鉄ナノ粒子(EMG1111、10nm、株式会社フェローテック)5mgをDMSO1mlに分散させ、超音波バスで30〜60分間超音波を照射した。グルコン酸ナトリウム1gをDMSO10mlに溶解させ、グルコン酸ナトリウムの過飽和溶液を調製し、超音波バスで5分間超音波を照射した。酸化鉄ナノ粒子の分散液と、グルコン酸ナトリウムの過飽和溶液を混合し、以下実施例1と同じ方法で、グルコン酸被覆酸化鉄ナノ粒子を作製し、評価した。結果を表1及び図1に示した。製造1日後に沈殿物は認められず、粒子径が91nmであったことから、得られた粒子は水に分散するとわかった。また、ゼータ電位測定結果から、得られた粒子が負の電荷をもっていることと、グルコン酸が酸化鉄ナノ粒子の表面の少なくとも一部を被覆していることが示された。
【0056】
(実施例4)酸化鉄ナノ粒子をグルカル酸で被覆した粒子
酸化鉄ナノ粒子(EMG1111、10nm、株式会社フェローテック)5mgをDMSO1mlに分散させ、超音波バスで30〜60分間超音波を照射した。グルカル酸カルシウム1gをDMSO10mlに溶解させ、グルカル酸カルシウムの過飽和溶液を調製し、超音波バスで5分間超音波を照射した。酸化鉄ナノ粒子の分散液と、グルカル酸カルシウムの過飽和溶液を混合し、以下実施例2と同じ方法で、グルカル酸被覆酸化鉄ナノ粒子を作製し、評価した。結果を表1及び図1に示した。製造1日後に沈殿物は認められず、粒子径が40nmであったことから、得られた粒子は水に分散するとわかった。また、ゼータ電位測定結果から、得られた粒子が負の電荷をもっていることと、グルカル酸が酸化鉄ナノ粒子の表面の少なくとも一部を被覆していることが示された。
【0057】
(比較例1)酸化鉄ナノ粒子をソルビトールで被覆した粒子
実施例1及び2の粒子と比較するために、ソルビトールで被覆した酸化鉄ナノ粒子を作製した。オレイン酸で被覆されている酸化鉄ナノ粒子(EMG1200、10nm、株式会社フェローテック)5mgをトルエン1mlに分散させ、超音波バスで30〜60分間超音波を照射した。ソルビトール1gをDMSO10mlに溶解させ、ソルビトール溶液を調製し、超音波バスで5分間超音波を照射した。酸化鉄ナノ粒子の分散液と、ソルビトール溶液を混合し、以下実施例1と同じ方法で、ソルビトール被覆酸化鉄ナノ粒子を作製した。その結果、フィルターを通過する粒子は得られなかった。結果を表1に示した。得られた粒子は水分散性が劣るため、凝集により粒径がフィルター孔径を超えたと考えられた。
【0058】
(比較例2)オレイン酸で被覆された酸化鉄ナノ粒子
実施例1及び2の粒子と比較するために、低分子化合物で表面修飾をしないオレイン酸被覆酸化鉄ナノ粒子を作製した。オレイン酸で被覆されている酸化鉄ナノ粒子(EMG1200、10nm、株式会社フェローテック)5mgをトルエン1mlに分散させ、超音波バスで30〜60分間超音波を照射した。酸化鉄ナノ粒子の分散液と、DMSO10mlを混合し、以下実施例1と同じ方法で、オレイン被覆酸酸化鉄ナノ粒子を作製した。その結果、フィルターを通過する粒子は得られなかった。結果を表1に示した。得られた粒子は水分散性が劣るため、凝集により粒径がフィルター孔径を超えたと考えられた。
【0059】
(比較例3)酸化鉄ナノ粒子
実施例3及び4の粒子と比較するために、低分子化合物で表面修飾をしない酸化鉄ナノ粒子を作製した。酸化鉄ナノ粒子(EMG1111、10nm、株式会社フェローテック)5mgをDMSO1mlに分散させ、超音波バスで30−60分間超音波を照射した。酸化鉄ナノ粒子の分散液と、DMSO10mlを混合し、以下実施例1と同じ方法で、粒子を作製した。また、得られた粒子は短時間であれば水に分散したので、実施例1と同じ方法で評価した。結果を表1及び図1に示した。製造1日後に沈殿物が認められたことから、水中での安定性が悪いと判断した。また、ゼータ電位測定結果から、得られた粒子が正の電荷をもっていることが示された。
【0060】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄粒子と、下記式(1)で表される化合物からなる表面領域と、を有する複合粒子。
−(CHOH)−CO−R (1)
(式(1)中、RはCHOH又はCORであり、R及びRはO、OH、ONa、OK、OCa、及びOMgからなる群からそれぞれ独立して選択される。)
【請求項2】
前記表面領域が、下記式(2)で表される化合物を有することを特徴とする請求項1に記載の複合粒子。
−(CHOH)−CO−R (2)
(式(2)中、RはCHOH又はCORであり、R及びRはO、OH、ONa、OK、OCa、OMg及びRからなる群からそれぞれ独立して選択され、Rはタンパク質、ペプチド、アミノ酸、又はアミノ基が結合したポリエチレングリコールである。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合粒子を含む造影剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の複合粒子を含む温熱療法剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の複合粒子を含む薬物送達剤。
【請求項6】
請求項2に記載の複合粒子を含む分子プローブ。
【請求項7】
酸化鉄粒子と表面領域とからなる複合粒子の製造方法であって、
有機溶媒中に分散した酸化鉄粒子と、別の有機溶媒に溶解させた下記式(1)で表わされる化合物とを混合して、表面領域に下記式(1)で表わされる化合物を有する酸化鉄粒子を含む第1の混合物を得る第1工程と、
前記第1工程で得られた前記第1の混合物をエタノールで透析して第2の混合物を得る第2工程と、
前記第2工程で得られた前記第2の混合物を水で透析する第3工程とを有する、
酸化鉄粒子と下記式(1)で表される化合物からなる表面領域とを有する複合粒子の製造方法。
−(CHOH)−CO−R (1)
(式(1)中、RはCHOH又はCORであり、R及びRはO、OH、ONa、OK、OCa、及びOMgからなる群からそれぞれ独立して選択される。)
【請求項8】
酸化鉄粒子と表面領域とからなる複合粒子の製造方法であって、
酸化鉄粒子と下記式(1)で表される化合物からなる表面領域とを有する複合粒子の下記式(1)で示される化合物の一部にタンパク質、ペプチド、アミノ酸又はアミノ基を持つポリエチレングリコールを結合させる工程を有する、
酸化鉄粒子と、下記式(1)で表わされる化合物と下記式(2)で表わされる化合物とからなる表面領域と、を有する複合粒子の製造方法。
−(CHOH)−CO−R (1)
(式(1)中、RはCHOH又はCORであり、R及びRはO、OH、ONa、OK、OCa、及びOMgからなる群からそれぞれ独立して選択される。)
−(CHOH)−CO−R (2)
(式(2)中、RはCHOH又はCORであり、R及びRはO、OH、ONa、OK、OCa、OMg及びRからなる群からそれぞれ独立して選択され、Rはタンパク質、ペプチド、アミノ酸、又はアミノ基が結合したポリエチレングリコールである。)

【図1】
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【公開番号】特開2012−92026(P2012−92026A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238687(P2010−238687)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】