複合粒子
【課題】水の緩和時間を短縮させるというMRI造影剤のみならず、光超音波信号を発し、光超音波マンモグラフィにも利用することができる複合粒子およびその製造方法、ならびに当該複合粒子を含有するMRI造影剤および多機能分子イメージングプローブを提供すること。
【解決手段】酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物からなる被膜が形成されてなる複合粒子、前記複合粒子を含有するMRI造影剤、複合粒子を含有する光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブ、酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物を被覆する複合粒子の製造方法、および酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させ、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整した後、当該酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物を被覆する複合粒子の粒子径の制御方法。
【解決手段】酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物からなる被膜が形成されてなる複合粒子、前記複合粒子を含有するMRI造影剤、複合粒子を含有する光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブ、酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物を被覆する複合粒子の製造方法、および酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させ、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整した後、当該酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物を被覆する複合粒子の粒子径の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粒子に関する。さらに詳しくは、本発明は、複合粒子およびその製造方法、ならびに当該複合粒子を含有するMRI造影剤および光超音波イメージングプローブに関する。本発明の複合粒子は、生体内の水の緩和時間を短縮させるMRI造影剤として利用することができるとともに、光超音波信号を発する光超音波マンモグラフィ(Photoacoustic Mammography)用イメージングプローブとして利用することができる。本発明の複合粒子を用いることにより、単一プローブによる2種類のイメージング技術を利用した画像形成が可能となることから、本発明の複合粒子は、正確、迅速、かつ患者の負荷を軽減する画像診断に使用される多機能分子イメージングプローブとして期待されるものである。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴撮像法〔MRI (Magnetic Resonance Imaging)〕は、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)を利用することにより、生体などの内部組織や内部構造を磁気共鳴画像として得る方法である。
【0003】
磁気共鳴(MR)の信号強度は、生体内の水の緩和時間に大きく依存することから、緩和時間を制御することにより、得られる磁気共鳴画像のコントラストを強くすることができる。例えば、ガドリニウムイオン(Gd3+)は、常磁性を示し、水の緩和時間を短縮させるので、MRI造影剤として大きな効果が期待されている。
【0004】
しかし、ガドリニウムイオン(Gd3+)は、それ単独では生体毒性を有することから、ガドリニウムイオンに有機配位子をキレート配位させることにより、ガドリニウムイオンを安定化させたガドリニウム錯体が開発されており、当該ガドリニウム錯体は、MRI造影剤として用いることが提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0005】
ガドリニウムイオンが発現する水の緩和時間を短縮させる効果は、水分子がガドリニウムイオンに配位することによるところが大きい。一方、MRI造影剤として一般に用いられているガドリニウム錯体では、配位子中の7個または8個の窒素原子やカルボキシル基などの配位性官能基がガドリニウムイオンに配位することによってキレート錯体が形成され、安定化されている。従って、9配位のガドリニウムイオンの8配位までが水の配位に使えないことから、前記ガドリニウム錯体では、ガドリニウムイオンが本来有している水の緩和時間を短縮させる機能が十分に発現されていない可能性がある。
【0006】
そこで、本発明者らは、従来のガドリニウム錯体と対比して水の緩和時間を短縮させる効果に優れたガドリニウム錯体を提案している(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
前記ガドリニウム錯体は、従来のガドリニウム錯体と対比して、水の緩和時間を短縮させる効果に優れているが、単一プローブによる2種類のイメージング技術を用いた画像形成は、より正確、迅速、かつ患者の負荷を軽減する画像診断に対して有用であることから、水の緩和時間を短縮させるというMRI造影剤としての機能のみならず、光超音波信号を発し、光超音波マンモグラフィ用のイメージングプローブとして利用することができる多機能分子イメージングプローブの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平03−215457号公報(特許第2603357号公報)
【特許文献2】特開平11−021279号公報
【特許文献3】特開2009−221187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、水の緩和時間を短縮させるというMRI造影剤のみならず、光超音波信号を発し、光超音波マンモグラフィにも利用することができる複合粒子およびその製造方法、ならびに当該複合粒子を含有するMRI造影剤および多機能分子イメージングプローブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(1) 酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物からなる被膜が形成されてなる複合粒子、
(2) 20〜200nmの粒子径を有する前記(1)に記載の複合粒子、
(3) 両親媒性高分子化合物からなる被膜の厚さが3〜10nmである前記(1)または(2)に記載の複合粒子、
(4) 酸化ガドリニウム含有粒子が酸化ガドリニウムおよび多価アルコールを含有する前記(1)〜(3)のいずれかに記載の複合粒子、
(5) 多価アルコールが脂肪族ジオールである前記(4)に記載の複合粒子、
(6) 前記(1)〜(5)のいずれかに記載の複合粒子を含有することを特徴とするMRI造影剤、
(7) 前記(1)〜(5)のいずれかに記載の複合粒子を含有することを特徴とする光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブ、
(8) 酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物を被覆することを特徴とする複合粒子の製造方法、
(9) 硝酸ガドリニウムを多価アルコールに溶解させて加熱し、得られた酸化ガドリニウムの多価アルコール溶液に極性有機溶媒を添加することにより、酸化ガドリニウム含有粒子を調製する前記(8)に記載の複合粒子の製造方法、
(10) 極性有機溶媒が脂肪族1価アルコール、脂肪族アルデヒドまたは脂肪族ケトン化合物である前記(9)に記載の複合粒子の製造方法、
(11) 酸化ガドリニウム含有粒子を水中に添加し、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整した後、当該酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物を被覆することを特徴とする複合粒子の粒子径の制御方法、
(12) 硝酸ガドリニウムを多価アルコールに溶解させて加熱し、得られた酸化ガドリニウムの多価アルコール溶液に極性有機溶媒を添加することにより、酸化ガドリニウム含有粒子を調製する前記(11)に記載の複合粒子の粒子径の制御方法、および
(13) 極性有機溶媒が、脂肪族1価アルコール、脂肪族アルデヒドまたは脂肪族ケトン化合物である前記(12)に記載の複合粒子の粒子径の制御方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水の緩和時間を短縮させるというMRI造影剤のみならず、光超音波信号を発する光超音波マンモグラフィ用のイメージングプローブとしても利用することができる複合粒子およびその製造方法、ならびに当該複合粒子を含有するMRI造影剤および多機能分子イメージングプローブが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)〜(f)は、それぞれ順に、実施例2において、ゼラチンを被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させた直後の粒径分布、当該酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させて10時間経過時の粒径分布、当該酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させて30時間経過時の粒径分布、複合粒子を25℃の超純水中に分散させた直後の粒径分布、当該複合粒子を25℃の超純水中に分散させて10時間経過時の粒径分布、および当該複合粒子を25℃の超純水中に分散させて30時間経過時の粒径分布を示すグラフである。
【図2】(a)および(b)は、それぞれ順に、実施例3において、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の透過型電子顕微鏡写真および実施例1で得られた複合粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例4において、実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の示差熱−熱重量分析結果を示すグラフである。
【図4】実施例5において、実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の粉末X線回折図である。
【図5】実施例6において、実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の紫外−可視光吸収スペクトルを示すグラフである。
【図6】実施例7において、(a)は従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕の存在下でのT1強調画像を示す図、(b)は実施例1で得られた複合粒子の存在下でのT1強調画像を示す図である。
【図7】実施例8において、(a)は実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させた溶液にパルスレーザー光を照射したときにハイドロフォンにより観測された電圧変化を示す図、(b)は実施例1で得られた複合粒子を25℃の超純水中に分散させた溶液にパルスレーザー光を照射したときにハイドロフォンにより観測された電圧変化を示す図、(c)は超純水のみにパルスレーザー光を照射したときにハイドロフォンにより観測された電圧変化を示す図である。
【図8】実施例9において、コントロール(超純水)、ガドリニウム濃度が0.05mMの従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕、ガドリニウム濃度が0.05mMの複合粒子およびガドリニウム濃度が0.05mMの硝酸ガドリニウムがそれぞれ正常細胞に及ぼす毒性の試験結果を示す図である。
【図9】実施例10において、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕をマウスに投与し、各臓器での投与前におけるMR信号強度に対する投与後のMR信号強度の比の経時変化を示す図である。
【図10】実施例10において、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子をマウスに投与し、各臓器での投与前におけるMR信号強度に対する投与後のMR信号強度の比の経時変化を示す図である。
【図11】実施例11において、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子を担癌マウスに投与してから3時間経過後におけるMRI画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の複合粒子は、酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物からなる被膜が形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明者らは、MRI造影剤としての使用が期待されているガドリニウム粒子について鋭意研究を重ねた結果、酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物、例えば、ゼラチンを被覆することによって得られる複合粒子は、光超音波信号を発生する光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブとして有用であることが見出された。
【0015】
ここで、光超音波マンモグラフィは、血管のイメージングのために近年注目されている新しい技術である。光超音波マンモグラフィに用いられる装置は、検体にパルスレーザー光を照射するための色素レーザー、検体から発生した超音波を電圧の変化として検出するためのハイドロフォン、および解析用のオシロスコープから構成される。光超音波マンモグラフィによって観測された電圧の波形は、光照射を受けた部分の形状に依存することから、当該波形をもとにして画像構築を行なうことができる。
【0016】
本発明の複合粒子から光超音波信号が発生する原理は、完全には解明されていないが、以下のとおりであると考えられる。すなわち、まずパルスレーザー光を複合粒子に照射したとき、当該パルスレーザー光が複合粒子に吸収される。そのときに生じた励起エネルギーにより瞬間的な熱膨張が起こった後、収縮が起こる際に超音波が発生し、この超音波が電圧の変化として観測されるものと考えられる。
【0017】
酸化ガドリニウム含有粒子は、例えば、以下のようにして調製することができる。
酸化ガドリニウム含有粒子の原料化合物としては、例えば、硝酸ガドリニウムなどが挙げられる。硝酸ガドリニウムは、水和物であってもよい。硝酸ガドリニウムの水和物としては、例えば、硝酸ガドリニウム六水和物などが挙げられる。
【0018】
前記原料化合物は、多価アルコールに溶解させることによって用いることができる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ポリテトラメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの脂肪族多価アルコールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの多価アルコールは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの多価アルコールのなかでは、脂肪族ジオールが好ましく、アルキル基の炭素数が2〜8である脂肪族ジオールがより好ましく、ジエチレングリコールがさらに好ましい。
【0019】
前記原料化合物の量は、特に限定されないが、通常、多価アルコール1L(リットル)あたり、0.5〜5モル程度である。また、前記原料化合物を多価アルコールに溶解させる際の温度は、使用される多価アルコールの種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、当該多価アルコールの種類などに応じて室温〜100℃の温度範囲から適切な温度を設定することが好ましい。
【0020】
前記原料化合物の多価アルコール溶液と金属水酸化物および水とを混合し、得られた混合溶液を加熱することにより、水酸化ガドリニウムを含有する白濁溶液を生成させることができる。混合溶液を加熱する際の雰囲気は、特に限定されず、通常、大気であればよい。
【0021】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの金属水酸化物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの金属水酸化物のなかでは、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。金属水酸化物の量は、前記原料化合物1モルあたり、0.9〜1.5モル程度であることが好ましい。
【0022】
また、水としては、例えば、蒸留水、精製水、純水、超純水などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。水のなかでは、純水および超純水が好ましい。水の量は、前記多価アルコール溶液100mLあたり、5〜50mL程度であることが好ましい。
【0023】
前記混合溶液の加熱温度は、特に限定されないが、水酸化ガドリニウムを効率よく生成させる観点から、90〜150℃程度であることが好ましい。また、前記混合溶液の加熱時間は、特に限定されないが、通常、0.5〜3時間程度であることが好ましい。
【0024】
次に、水酸化ガドリニウムを含有する白濁溶液を加熱することにより、水酸化ガドリニウムとジエチレングリコールの脱水反応によって酸化ガドリニウム−ジエチレングリコール複合粒子(以下、酸化ガドリニウム含有粒子という)の生成が促進され、褐色の溶液が得られる。
【0025】
水酸化ガドリニウムを含有する前記白濁溶液を加熱する際の雰囲気は、特に限定されず、通常、大気であればよい。
【0026】
前記白濁溶液の加熱温度は、特に限定されないが、酸化ガドリニウム含有粒子を効率よく生成させる観点から、160〜200℃程度であることが好ましい。また、前記混合溶液の加熱時間は、特に限定されないが、通常、2〜5時間程度であることが好ましい。
【0027】
以上のようにして得られた酸化ガドリニウム含有粒子を含有する褐色溶液は、MRI造影剤、および光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブとして用いることができる。
【0028】
次に、酸化ガドリニウム含有粒子を含有する褐色溶液から、酸化ガドリニウム含有粒子を単離させる。酸化ガドリニウム含有粒子の単離は、例えば、前記酸化ガドリニウム含有粒子を含有する褐色溶液と極性有機溶媒とを混合し、得られた混合溶液を濾過することによって得られた黒褐色固体を凍結乾燥することにより、行なうことができる。前記酸化ガドリニウム含有粒子を含有する褐色溶液と極性有機溶媒とを混合する際の雰囲気は、特に限定されず、通常、大気であればよい。前記混合溶液と極性有機溶媒との混合は、例えば、前記混合溶液を極性有機溶媒中に滴下することによって行なうことができる。
【0029】
極性有機溶媒は、誘電率が6以上の有機溶媒を意味する。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどの脂肪族1価アルコール、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド、アセトン、メチルエチルケトンなどの脂肪族ケトン化合物、アセトニトリル、ジメチルスルホキシドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの極性有機溶媒のなかでは、脂肪族1価アルコールおよび脂肪族ケトン化合物が好ましく、メタノール、エタノール、アセトンおよびアセトニトリルがより好ましく、メタノールおよびアセトンがさらに好ましい。
【0030】
なお、極性有機溶媒の代わりに極性溶媒である水を用いた場合には、生成する酸化ガドリニウム含有粒子を単離することができないことから、水は、使用に適していない。また、極性を有しない有機溶媒、例えば、トルエン、ヘキサンなどの有機溶媒は、前記混合溶液と混和しないことから、使用に適していない。これに対して、本発明では、極性溶媒である水や非極性有機溶媒ではなく、極性有機溶媒が用いられているので、酸化ガドリニウム含有粒子を効率よく得ることができる。
【0031】
前記で得られた酸化ガドリニウム含有粒子は、前記酸化ガドリニウムを含有する褐色溶液と極性有機溶媒とを混合することによって得られる混合物中に分散しているため、例えば、濾過などの方法により、当該混合物から単離することができる。
【0032】
単離された酸化ガドリニウム含有粒子は、水に溶解しがたいという利点を有する。この酸化ガドリニウム含有粒子は、必要により、極性有機溶媒などで洗浄してもよい。
【0033】
以上のようにして単離された酸化ガドリニウム含有粒子は、酸化ガドリニウムおよびジエチレングリコールなどの多価アルコールを含有するものである。当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径は、通常、10〜30nm程度である。
【0034】
次に、前記で得られた酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を大きくする必要がある場合には、当該酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させ、常温〜加熱下にて適切な時間で放置すればよい。
【0035】
したがって、本発明によれば、酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させることにより、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整することができるので、酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させることによって当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整した後、当該酸化ガドリニウム含有粒子の表面上にゼラチンなどの両親媒性高分子化合物を被覆することにより、所定の粒子径を有する複合粒子を製造することができる。
【0036】
このことから、本発明によれば、酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させ、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整した後、当該酸化ガドリニウム含有粒子の表面上にゼラチンなどの両親媒性高分子化合物を被覆することにより、複合粒子の粒子径を制御することができる。
【0037】
前記酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径は、当該酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させることにより、当該酸化ガドリニウム含有粒子同士が凝集するので、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を目的とする粒子径となるまで成長させることができる。この場合、酸化ガドリニウム含有粒子の量は、特に限定されないが、通常、水100gあたり、1〜5g程度であることが好ましい。また、水としては、例えば、蒸留水、精製水、純水、超純水などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。水温は、常温であってもよく、あるいはそれよりも高くてもよく、低くてもよい。
【0038】
次に、前記で単離された酸化ガドリニウム含有粒子をゼラチンなどの両親媒性高分子化合物で被覆することにより、本発明の複合粒子が得られる。
【0039】
前記両親媒性高分子化合物において「両親媒性」とは、極性および非極性部分の双方の性質を有することを意味する。両親媒性高分子化合物の分子量は、当該両親媒性高分子化合物が架橋構造を有する場合、その分子量を特定することが困難なため、一概には決定することができない。
【0040】
両親媒性高分子化合物としては、例えば、ゼラチン、アクリルアミド−アルキルスルホン酸共重合体、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの両親媒性高分子化合物のなかでは、ゼラチンが好ましい。ゼラチンは、例えば、コラーゲンから熱水で抽出することによって容易に得ることができる。コラーゲンとしては、例えば、ウシやブタなどの骨や皮、サメなどの骨、皮や鱗などを原料とし、これらの原料に脱脂処理、脱灰処理、抽出処理などを施すことによって容易に得ることができる。なお、ゼラチンは、市場において商業的に容易に入手することができる。
【0041】
酸化ガドリニウム含有粒子をゼラチンなどの両親媒性高分子化合物で被覆するには、酸化ガドリニウム含有粒子と両親媒性高分子化合物の水溶液とを混合すればよい。両親媒性高分子化合物の水溶液における両親媒性高分子化合物の濃度は、当該両親媒性高分子化合物の種類によって異なるので一概には決定することができないが、当該両親媒性高分子化合物としてゼラチンを用いる場合には、ゼラチン水溶液の濃度は、特に限定されないが、通常、3〜10質量%程度であればよい。また、両親媒性高分子化合物の水溶液の水温は、特に限定されないが、通常、常温であってもよく、あるいはそれよりも高くてもよく、低くてもよい。両親媒性高分子化合物の水溶液の量は、特に限定されないが、通常、酸化ガドリニウム含有粒子100gあたり50〜1000mL程度である。
【0042】
次に、酸化ガドリニウム含有粒子と両親媒性高分子化合物の水溶液とを混合することによって得られた混合物を、例えば、凍結乾燥法などによって乾燥させることにより、酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物からなる被膜が形成された複合粒子を得ることができる。
【0043】
以上のようにして得られた複合粒子の表面上には、両親媒性高分子化合物の被膜が形成されている。両親媒性高分子化合物の被膜の厚さは、保護コロイド形成の観点から、好ましくは3〜10nmである。また、複合粒子の粒子径は、EPR効果(Enhanced Permeation and Retention effect)による腫瘍集積性を発現させる観点から、好ましくは20〜200nmである。
【0044】
本発明のMRI造影剤は、前記複合粒子を含有するので、水の緩和時間を短縮させるというMRI造影剤としての機能を有する。本発明のMRI造影剤は、前記複合粒子のみで構成されていてもよく、必要により、添加剤などが含まれていてもよい。
【0045】
本発明の光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブは、前記複合粒子を含有するものであり、前記複合粒子のみで構成されていてもよく、必要により、添加剤などが含まれていてもよい。
【0046】
本発明の複合粒子は、水の緩和時間を短縮させるというMRI造影剤として利用することができるとともに、光超音波信号を発する光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブとして利用することができることから、単一プローブによる2種類のイメージング技術を用いた画像形成が可能となり、正確、迅速、かつ患者の負荷を軽減する画像診断に使用されることが期待される多機能分子イメージングプローブである。
【実施例】
【0047】
次に、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
実施例1
硝酸ガドリニウム六水和物[Gd(NO3)3・6H2O]〔和光純薬工業(株)製、純度:99.5%〕451mg(1mmol)をジエチレングリコール1mL中に添加し、加熱しながら溶解させた。得られた溶液の温度が100℃に達した時点で、水酸化ナトリウム50mg(1.25mmol)、および超純水製造装置(ミリポア社製、商品名:Direct−QUV)を用いて製造された超純水数滴を前記溶液に添加し、140℃で1時間加熱撹拌することにより、白濁溶液を得た。
【0049】
次に、前記で得られた白濁溶液を175℃で4時間撹拌することにより、酸化ガドリニウム含有粒子を含有する黒褐色溶液を得た。
【0050】
前記黒褐色溶液を25℃のアセトン40mL中に撹拌しながらゆっくり滴下したところ、褐色の沈殿物を含む溶液を得た。得られた溶液を6400×gで10分間遠心させることにより、沈殿物を沈降させた後、純水40mLを添加して再分散させ、0.2μmのシリンジフィルター(ミリポア社製)を用いて濾過することにより、濾液を回収した。
【0051】
次に、前記で得られた濾液10mLにゼラチン0.5gを添加し、撹拌した後、得られた混合物を凍結乾燥させることにより、酸化ガドリニウム含有粒子の表面上にゼラチン被膜が形成された黒褐色の複合粒子を得た。
【0052】
比較例1
実施例1において、ジエチレングリコールの代わりにジエチレングリコールモノビニルエーテル1mLを用いたところ、加熱攪拌時に重合反応が進行したため、ゼラチン被膜が形成された酸化ガドリニウム含有粒子(複合粒子)を得ることができなかった。前記で得られた粒子は、超純水中で分散しなかったため、プローブに不適であると判断した。
【0053】
比較例2
実施例1において、ジエチレングリコールの代わりにジエチレングリコールジメタクリレート1mLを用いたところ、生成物が超純水に分散しなかったため、この溶液からゼラチン被膜が形成された酸化ガドリニウム含有粒子(複合粒子)を得ることができなかった。前記で得られた粒子は、超純水中で分散しなかったため、プローブに不適であると判断した。
【0054】
比較例3
実施例1において、ジエチレングリコールの代わりに純水1mLを用いたところ、水酸化ガドリニウム[Gd(OH)3]が生成し、ゼラチン被膜が形成された酸化ガドリニウム含有粒子(複合粒子)を得ることができなかった。この水酸化ガドリニウムは、超純水中で分散しなかったため、プローブに不適であると判断した。
【0055】
実施例2
実施例1で得られた複合粒子およびゼラチンを被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子をそれぞれ25℃の超純水中に分散させ、その粒子径の経時変化を粒子径測定装置〔マルバーン(Malvern)社製、商品名:Zetasizer Nano ZS〕を用い、動的光散乱(DLS)法により25℃で測定した。その結果を図1に示す。
【0056】
図1において、(a)〜(c)は、それぞれ順に、ゼラチンを被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させた直後の粒径分布、当該酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させて10時間経過時の粒径分布、および当該酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させて30時間経過時の粒径分布を示す。また、(d)〜(f)は、それぞれ順に、複合粒子を25℃の超純水中に分散させた直後の粒径分布、当該複合粒子を25℃の超純水中に分散させて10時間経過時の粒径分布、および当該複合粒子を25℃の超純水中に分散させて30時間経過時の粒径分布を示す。
【0057】
図1の(a)〜(c)に示された結果から、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させた場合には、酸化ガドリニウム含有粒子が経時とともに凝集するので、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を大きくなるように当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整することができることがわかる。
【0058】
一方、複合粒子は、その表面がゼラチンで被覆されていることから水中に添加しても当該複合粒子が凝集しないので、その粒子径を維持することができることがわかる。
【0059】
したがって、前記結果から、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させることにより、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整した後、酸化ガドリニウム含有粒子をゼラチンで被覆することにより、水中に分散させても粒子径が変化しない所定の粒子径を有する複合粒子を得ることができることがわかる。
【0060】
実施例3
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子、および複合粒子を、透過型電子顕微鏡〔(株)日立製作所製、品番:H−9500〕を用いて、加速電圧80kV、倍率12万倍にて撮像した。その結果を図2に示す。
【0061】
図2において、(a)はゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の透過型電子顕微鏡写真、(b)は複合粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【0062】
図2に示された結果から、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子では、数10nm程度の粒子が凝集して大きな塊が形成されていることがわかる。
【0063】
一方、複合粒子は、その内部が酸化ガドリニウム粒子およびジエチレングリコールで構成され、ナノメートル程度の粒子径を有する酸化ガドリニウム粒子がジエチレングリコールに分散しており、その表面がゼラチンで覆われた、粒子径が100nm程度の球状粒子であることがわかる。
【0064】
実施例4
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の示差熱−熱重量分析を行なった。なお、酸化ガドリニウム含有粒子の示差熱−熱重量分析は、示差熱−熱重量測定装置〔(株)リガク製、品番:TG−DTA TG8120〕を用い、空気の体積流量を50cm3/minとし、酸化ガドリニウム含有粒子約5mgを10℃/minの昇温速度で室温から1000℃まで昇温することによって測定した。その結果を図3に示す。図3は、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の示差熱−熱重量分析結果を示すグラフである。
【0065】
図3に示された結果から、ジエチレングリコールの沸点である244℃付近で急激な発熱反応が確認された。このことから、酸化ガドリニウム含有粒子の粒子内部に大量のジエチレングリコールが存在していることが確認された。
【0066】
実施例5
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の粉末X線回折を調べた。なお、酸化ガドリニウム含有粒子の粉末X線回折は、X線回折測定装置〔(株)島津製作所製、XD−D1型〕を用い、電圧30kV、電流30mAとし、発生したCuKα線を炭素モノクロメーターで単色化し、1°/minの速度にて測定した。その結果を図4に示す。
【0067】
図4に示された結果から、X線回折図には、結晶格子を示す回折ピークが認められないことから、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を構成している酸化ガドリニウムは非晶質であることがわかる。
【0068】
実施例6
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の紫外−可視光吸収スペクトルを調べた。なお、紫外−可視光吸収スペクトルは、紫外−可視光吸収スペクトル測定装置〔(株) 日立製作所製、商品名:U-3010 Spectrophotometer〕を用い、ガドリニウム濃度0.25mMで300〜900nmの範囲で測定した。その結果を図5に示す。
【0069】
図5に示された結果から、酸化ガドリニウム含有粒子は、300〜900nmの波長の紫外−可視光を吸収するものであることがわかる。
【0070】
実施例7
実施例1で得られた複合粒子および従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕の濃度が0mM、0.10mM、0.25mMまたは0.50mMとなるように調整した後、磁気共鳴(MR)を調べた。磁気共鳴(MR)の測定には、小動物用磁気共鳴測定装置〔ブルカー・バイオスピン(Bruker Biospin)社製、商品名:7.0T/20 USR with 72 mm i.d. Quadrature resonator〕を用い、各造影剤の存在下で水の縦緩和時間T1およびT1強調画像を、Inversion Pulseを併用したFISP法、FOV6*6cm、マトリックス256*256、スライスの厚さ:2mm、NEX2の条件で外部磁場強度7T、室温にて測定した。その結果を図6に示す。
【0071】
図6において、(a)は従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕存在下でのT1強調画像を示す図、(b)は実施例1で得られた複合粒子存在下でのT1強調画像を示す図である。
【0072】
図6に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子存在下では、より低いガドリニウム濃度で高い水のMR信号が観測された。
【0073】
次に、実施例1で得られた複合粒子および従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕の濃度が0mM、0.10mM、0.25mMまたは0.50mMとなるように調整した後、各造影剤の存在下で水の縦緩和時間T1を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子は、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕と対比して、縦緩和時間T1が格段に短いことから、より少量で必要なMRI撮像を可能にするMRI造影剤であることがわかる。
【0076】
また、T1短縮能r1値を、ガドリニウム金属の濃度に対して1/T1をプロットした傾きから求めたところ、実施例1で得られた複合粒子のT1短縮能r1値は9.51L/mmol・secであり、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕のT1短縮能r1値は4.89L/mmol・secであった。このように、実施例1で得られた複合粒子が従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕と対比して、大きいT1短縮能r1値を有するのは、実施例1で得られた複合粒子では、被覆ゼラチン表面のアミノ基とカルボキシル基が水と水素結合することにより、水がガドリニウムに近づきやすい環境ができたことに基づくものと考えられる。
【0077】
実施例8
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子、および複合粒子の光超音波信号の測定を行なった。なお、光超音波信号は、窒素色素レーザー〔(株)日本レーザー製、商品名:N2 Laser MODEL 1010, Dye Laser MODEL 1011、波長 532 nm、1 mJ、10 Hz、Dt = 20 ps 以下〕を用いて組み立てた装置を用い、パルスレーザー光照射時のハイドロフォンにおける電圧変化を測定した。その結果を図7に示す。
【0078】
図7において、(a)は実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子にパルスレーザー光を照射した時のハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図、(b)は実施例1で得られた複合粒子にパルスレーザー光を照射した時のハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図、(c)は超純水のみにパルスレーザー光を照射した時のハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図である。
【0079】
図7に示された結果から、実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子およびゼラチンで被覆した複合粒子のいずれにおいても、光超音波信号が電圧の変化として確認されたことから、前記複合粒子は、光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブとして使用することが期待されるものであることがわかる。
【0080】
実施例9
対数増殖期にあるマウス線維芽組織由来の細胞株L929を96穴プレートのウェルに10質量%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシンを含むDMEM/F12培地〔DMEM/F12の質量比:1/1〕(100μL)とともに播種し(細胞密度:1×104個/cm2)、二酸化炭素濃度が5容量%であるインキュベーター内で24時間培養した。その後、ウェル内の細胞をリン酸緩衝液生理食塩水(以下、PBSという)で1回洗浄した後、培地で種々の濃度に希釈したサンプル(100μL)を入れ、インキュベーター内で48時間曝露させた。PBSで3回洗浄した後、ウェル内に培地(100μL)および細胞数測定試薬SF〔ナカライテスク(株)製〕(10μL)を入れてインキュベーター内で1.5時間静置して呈色を行なった後、紫外−可視分光光度計〔ベックマン・コールター(Beckman Coulter)社製〕を用いてウェル内の細胞含有溶液の波長450nmでの吸光度を測定し、測定された吸光度に基づいて生細胞数を算出し、各試料について生細胞数を比較した。なお、使用したサンプルは、いずれも0.22μmのシリンジフィルターを通過させることにより、あらかじめ濾過滅菌を施しておいた。
【0081】
次に、対照(コントロール)として、超純水を用い、対照における生細胞数に対する各試料における生細胞数の比を求めた。その結果を図8に示す。
【0082】
図8は、コントロール(超純水)、ガドリニウム濃度が0.05mMの従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕(図中、MVで示す)、ガドリニウム濃度が0.05mMの複合粒子およびガドリニウム濃度が0.05mMの硝酸ガドリニウムが細胞に及ぼす毒性の試験結果を示す図である。
【0083】
図8に示された結果から、ガドリニウム濃度0.05mMにおいて、実施例1で得られた複合粒子は、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕と同程度の細胞毒性を示したのに対し、複合粒子の原料である硝酸ガドリニウムは、はるかに高い毒性を有することがわかる。
【0084】
以上の結果から、本発明の複合粒子は、水中で凝集することなく、安定して分散するものであり、さらに100nm前後の粒径を有することから、腫瘍組織へのEPR効果が期待されるものである。
【0085】
さらに、本発明の複合粒子は、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕と対比して、約2倍のT1短縮能を有することからMRI造影剤として、さらにパルスレーザー光の照射により光超音波信号を発する光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブとして使用することができると考えられる。
【0086】
実施例10(健常マウスを用いた体内動態試験)
C57Bl/6Jマウス(8週令)に対して、イソフルランによる吸入麻酔下で、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕、およびガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子を、尾静脈注射により投与し、経時的にMRI撮像を行ない、各臓器における造影効果を調べた。その結果を図9および図10に示す。
【0087】
図9は、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕をマウスに投与し、各臓器での投与前におけるMR信号強度に対する投与後のMR信号強度の比の経時変化を示す図である。また、図10は、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子をマウスに投与し、各臓器での投与前におけるMR信号強度に対する投与後のMR信号強度の比の経時変化を示す図である。
【0088】
図9および図10に示された結果から、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕は早期に腎排泄が行なわれるのに対し、実施例1で得られた複合粒子は、血栓形成や急性毒性を生じることなく、血管、肝臓および脾臓で長期間にわたって滞留することが確認されたことから、これらの造影に効果的であることがわかる。
【0089】
実施例11(担癌マウスを用いた体内動態試験)
Balb/c nu/nuマウス(8週令)の前腕基部に、106個のヒト膵臓がん細胞株(Suit2)を投与し、約10日間飼育した担癌マウスに対し、イソフルランによる吸入麻酔下で、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子を尾静脈注射により投与し、MRI撮像を行なった。その結果を図11に示す。
【0090】
図11は、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子を担癌マウスに投与してから3時間経過後におけるMRI撮像結果を示す図である。図11において、矢印で示される部分が腫瘍組織を示す。
【0091】
図11に示されるように、腫瘍組織でMR信号の増強が確認されたことから、実施例1で得られた複合粒子は、腫瘍組織へ集積することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の複合粒子は、水の緩和時間を短縮させるというMRI造影剤としての機能を有することからMRI造影剤として、さらに光超音波信号を発する光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブとして利用することができる。本発明により、単一プローブによる2種類のイメージング技術を用いた画像形成が可能となり、正確、迅速、かつ患者の負荷を軽減する画像診断に使用される多機能分子イメージングプローブとして期待されるものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粒子に関する。さらに詳しくは、本発明は、複合粒子およびその製造方法、ならびに当該複合粒子を含有するMRI造影剤および光超音波イメージングプローブに関する。本発明の複合粒子は、生体内の水の緩和時間を短縮させるMRI造影剤として利用することができるとともに、光超音波信号を発する光超音波マンモグラフィ(Photoacoustic Mammography)用イメージングプローブとして利用することができる。本発明の複合粒子を用いることにより、単一プローブによる2種類のイメージング技術を利用した画像形成が可能となることから、本発明の複合粒子は、正確、迅速、かつ患者の負荷を軽減する画像診断に使用される多機能分子イメージングプローブとして期待されるものである。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴撮像法〔MRI (Magnetic Resonance Imaging)〕は、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)を利用することにより、生体などの内部組織や内部構造を磁気共鳴画像として得る方法である。
【0003】
磁気共鳴(MR)の信号強度は、生体内の水の緩和時間に大きく依存することから、緩和時間を制御することにより、得られる磁気共鳴画像のコントラストを強くすることができる。例えば、ガドリニウムイオン(Gd3+)は、常磁性を示し、水の緩和時間を短縮させるので、MRI造影剤として大きな効果が期待されている。
【0004】
しかし、ガドリニウムイオン(Gd3+)は、それ単独では生体毒性を有することから、ガドリニウムイオンに有機配位子をキレート配位させることにより、ガドリニウムイオンを安定化させたガドリニウム錯体が開発されており、当該ガドリニウム錯体は、MRI造影剤として用いることが提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0005】
ガドリニウムイオンが発現する水の緩和時間を短縮させる効果は、水分子がガドリニウムイオンに配位することによるところが大きい。一方、MRI造影剤として一般に用いられているガドリニウム錯体では、配位子中の7個または8個の窒素原子やカルボキシル基などの配位性官能基がガドリニウムイオンに配位することによってキレート錯体が形成され、安定化されている。従って、9配位のガドリニウムイオンの8配位までが水の配位に使えないことから、前記ガドリニウム錯体では、ガドリニウムイオンが本来有している水の緩和時間を短縮させる機能が十分に発現されていない可能性がある。
【0006】
そこで、本発明者らは、従来のガドリニウム錯体と対比して水の緩和時間を短縮させる効果に優れたガドリニウム錯体を提案している(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
前記ガドリニウム錯体は、従来のガドリニウム錯体と対比して、水の緩和時間を短縮させる効果に優れているが、単一プローブによる2種類のイメージング技術を用いた画像形成は、より正確、迅速、かつ患者の負荷を軽減する画像診断に対して有用であることから、水の緩和時間を短縮させるというMRI造影剤としての機能のみならず、光超音波信号を発し、光超音波マンモグラフィ用のイメージングプローブとして利用することができる多機能分子イメージングプローブの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平03−215457号公報(特許第2603357号公報)
【特許文献2】特開平11−021279号公報
【特許文献3】特開2009−221187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、水の緩和時間を短縮させるというMRI造影剤のみならず、光超音波信号を発し、光超音波マンモグラフィにも利用することができる複合粒子およびその製造方法、ならびに当該複合粒子を含有するMRI造影剤および多機能分子イメージングプローブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(1) 酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物からなる被膜が形成されてなる複合粒子、
(2) 20〜200nmの粒子径を有する前記(1)に記載の複合粒子、
(3) 両親媒性高分子化合物からなる被膜の厚さが3〜10nmである前記(1)または(2)に記載の複合粒子、
(4) 酸化ガドリニウム含有粒子が酸化ガドリニウムおよび多価アルコールを含有する前記(1)〜(3)のいずれかに記載の複合粒子、
(5) 多価アルコールが脂肪族ジオールである前記(4)に記載の複合粒子、
(6) 前記(1)〜(5)のいずれかに記載の複合粒子を含有することを特徴とするMRI造影剤、
(7) 前記(1)〜(5)のいずれかに記載の複合粒子を含有することを特徴とする光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブ、
(8) 酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物を被覆することを特徴とする複合粒子の製造方法、
(9) 硝酸ガドリニウムを多価アルコールに溶解させて加熱し、得られた酸化ガドリニウムの多価アルコール溶液に極性有機溶媒を添加することにより、酸化ガドリニウム含有粒子を調製する前記(8)に記載の複合粒子の製造方法、
(10) 極性有機溶媒が脂肪族1価アルコール、脂肪族アルデヒドまたは脂肪族ケトン化合物である前記(9)に記載の複合粒子の製造方法、
(11) 酸化ガドリニウム含有粒子を水中に添加し、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整した後、当該酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物を被覆することを特徴とする複合粒子の粒子径の制御方法、
(12) 硝酸ガドリニウムを多価アルコールに溶解させて加熱し、得られた酸化ガドリニウムの多価アルコール溶液に極性有機溶媒を添加することにより、酸化ガドリニウム含有粒子を調製する前記(11)に記載の複合粒子の粒子径の制御方法、および
(13) 極性有機溶媒が、脂肪族1価アルコール、脂肪族アルデヒドまたは脂肪族ケトン化合物である前記(12)に記載の複合粒子の粒子径の制御方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水の緩和時間を短縮させるというMRI造影剤のみならず、光超音波信号を発する光超音波マンモグラフィ用のイメージングプローブとしても利用することができる複合粒子およびその製造方法、ならびに当該複合粒子を含有するMRI造影剤および多機能分子イメージングプローブが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)〜(f)は、それぞれ順に、実施例2において、ゼラチンを被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させた直後の粒径分布、当該酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させて10時間経過時の粒径分布、当該酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させて30時間経過時の粒径分布、複合粒子を25℃の超純水中に分散させた直後の粒径分布、当該複合粒子を25℃の超純水中に分散させて10時間経過時の粒径分布、および当該複合粒子を25℃の超純水中に分散させて30時間経過時の粒径分布を示すグラフである。
【図2】(a)および(b)は、それぞれ順に、実施例3において、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の透過型電子顕微鏡写真および実施例1で得られた複合粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例4において、実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の示差熱−熱重量分析結果を示すグラフである。
【図4】実施例5において、実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の粉末X線回折図である。
【図5】実施例6において、実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の紫外−可視光吸収スペクトルを示すグラフである。
【図6】実施例7において、(a)は従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕の存在下でのT1強調画像を示す図、(b)は実施例1で得られた複合粒子の存在下でのT1強調画像を示す図である。
【図7】実施例8において、(a)は実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させた溶液にパルスレーザー光を照射したときにハイドロフォンにより観測された電圧変化を示す図、(b)は実施例1で得られた複合粒子を25℃の超純水中に分散させた溶液にパルスレーザー光を照射したときにハイドロフォンにより観測された電圧変化を示す図、(c)は超純水のみにパルスレーザー光を照射したときにハイドロフォンにより観測された電圧変化を示す図である。
【図8】実施例9において、コントロール(超純水)、ガドリニウム濃度が0.05mMの従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕、ガドリニウム濃度が0.05mMの複合粒子およびガドリニウム濃度が0.05mMの硝酸ガドリニウムがそれぞれ正常細胞に及ぼす毒性の試験結果を示す図である。
【図9】実施例10において、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕をマウスに投与し、各臓器での投与前におけるMR信号強度に対する投与後のMR信号強度の比の経時変化を示す図である。
【図10】実施例10において、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子をマウスに投与し、各臓器での投与前におけるMR信号強度に対する投与後のMR信号強度の比の経時変化を示す図である。
【図11】実施例11において、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子を担癌マウスに投与してから3時間経過後におけるMRI画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の複合粒子は、酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物からなる被膜が形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明者らは、MRI造影剤としての使用が期待されているガドリニウム粒子について鋭意研究を重ねた結果、酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物、例えば、ゼラチンを被覆することによって得られる複合粒子は、光超音波信号を発生する光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブとして有用であることが見出された。
【0015】
ここで、光超音波マンモグラフィは、血管のイメージングのために近年注目されている新しい技術である。光超音波マンモグラフィに用いられる装置は、検体にパルスレーザー光を照射するための色素レーザー、検体から発生した超音波を電圧の変化として検出するためのハイドロフォン、および解析用のオシロスコープから構成される。光超音波マンモグラフィによって観測された電圧の波形は、光照射を受けた部分の形状に依存することから、当該波形をもとにして画像構築を行なうことができる。
【0016】
本発明の複合粒子から光超音波信号が発生する原理は、完全には解明されていないが、以下のとおりであると考えられる。すなわち、まずパルスレーザー光を複合粒子に照射したとき、当該パルスレーザー光が複合粒子に吸収される。そのときに生じた励起エネルギーにより瞬間的な熱膨張が起こった後、収縮が起こる際に超音波が発生し、この超音波が電圧の変化として観測されるものと考えられる。
【0017】
酸化ガドリニウム含有粒子は、例えば、以下のようにして調製することができる。
酸化ガドリニウム含有粒子の原料化合物としては、例えば、硝酸ガドリニウムなどが挙げられる。硝酸ガドリニウムは、水和物であってもよい。硝酸ガドリニウムの水和物としては、例えば、硝酸ガドリニウム六水和物などが挙げられる。
【0018】
前記原料化合物は、多価アルコールに溶解させることによって用いることができる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ポリテトラメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの脂肪族多価アルコールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの多価アルコールは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの多価アルコールのなかでは、脂肪族ジオールが好ましく、アルキル基の炭素数が2〜8である脂肪族ジオールがより好ましく、ジエチレングリコールがさらに好ましい。
【0019】
前記原料化合物の量は、特に限定されないが、通常、多価アルコール1L(リットル)あたり、0.5〜5モル程度である。また、前記原料化合物を多価アルコールに溶解させる際の温度は、使用される多価アルコールの種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、当該多価アルコールの種類などに応じて室温〜100℃の温度範囲から適切な温度を設定することが好ましい。
【0020】
前記原料化合物の多価アルコール溶液と金属水酸化物および水とを混合し、得られた混合溶液を加熱することにより、水酸化ガドリニウムを含有する白濁溶液を生成させることができる。混合溶液を加熱する際の雰囲気は、特に限定されず、通常、大気であればよい。
【0021】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの金属水酸化物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの金属水酸化物のなかでは、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。金属水酸化物の量は、前記原料化合物1モルあたり、0.9〜1.5モル程度であることが好ましい。
【0022】
また、水としては、例えば、蒸留水、精製水、純水、超純水などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。水のなかでは、純水および超純水が好ましい。水の量は、前記多価アルコール溶液100mLあたり、5〜50mL程度であることが好ましい。
【0023】
前記混合溶液の加熱温度は、特に限定されないが、水酸化ガドリニウムを効率よく生成させる観点から、90〜150℃程度であることが好ましい。また、前記混合溶液の加熱時間は、特に限定されないが、通常、0.5〜3時間程度であることが好ましい。
【0024】
次に、水酸化ガドリニウムを含有する白濁溶液を加熱することにより、水酸化ガドリニウムとジエチレングリコールの脱水反応によって酸化ガドリニウム−ジエチレングリコール複合粒子(以下、酸化ガドリニウム含有粒子という)の生成が促進され、褐色の溶液が得られる。
【0025】
水酸化ガドリニウムを含有する前記白濁溶液を加熱する際の雰囲気は、特に限定されず、通常、大気であればよい。
【0026】
前記白濁溶液の加熱温度は、特に限定されないが、酸化ガドリニウム含有粒子を効率よく生成させる観点から、160〜200℃程度であることが好ましい。また、前記混合溶液の加熱時間は、特に限定されないが、通常、2〜5時間程度であることが好ましい。
【0027】
以上のようにして得られた酸化ガドリニウム含有粒子を含有する褐色溶液は、MRI造影剤、および光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブとして用いることができる。
【0028】
次に、酸化ガドリニウム含有粒子を含有する褐色溶液から、酸化ガドリニウム含有粒子を単離させる。酸化ガドリニウム含有粒子の単離は、例えば、前記酸化ガドリニウム含有粒子を含有する褐色溶液と極性有機溶媒とを混合し、得られた混合溶液を濾過することによって得られた黒褐色固体を凍結乾燥することにより、行なうことができる。前記酸化ガドリニウム含有粒子を含有する褐色溶液と極性有機溶媒とを混合する際の雰囲気は、特に限定されず、通常、大気であればよい。前記混合溶液と極性有機溶媒との混合は、例えば、前記混合溶液を極性有機溶媒中に滴下することによって行なうことができる。
【0029】
極性有機溶媒は、誘電率が6以上の有機溶媒を意味する。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどの脂肪族1価アルコール、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド、アセトン、メチルエチルケトンなどの脂肪族ケトン化合物、アセトニトリル、ジメチルスルホキシドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの極性有機溶媒のなかでは、脂肪族1価アルコールおよび脂肪族ケトン化合物が好ましく、メタノール、エタノール、アセトンおよびアセトニトリルがより好ましく、メタノールおよびアセトンがさらに好ましい。
【0030】
なお、極性有機溶媒の代わりに極性溶媒である水を用いた場合には、生成する酸化ガドリニウム含有粒子を単離することができないことから、水は、使用に適していない。また、極性を有しない有機溶媒、例えば、トルエン、ヘキサンなどの有機溶媒は、前記混合溶液と混和しないことから、使用に適していない。これに対して、本発明では、極性溶媒である水や非極性有機溶媒ではなく、極性有機溶媒が用いられているので、酸化ガドリニウム含有粒子を効率よく得ることができる。
【0031】
前記で得られた酸化ガドリニウム含有粒子は、前記酸化ガドリニウムを含有する褐色溶液と極性有機溶媒とを混合することによって得られる混合物中に分散しているため、例えば、濾過などの方法により、当該混合物から単離することができる。
【0032】
単離された酸化ガドリニウム含有粒子は、水に溶解しがたいという利点を有する。この酸化ガドリニウム含有粒子は、必要により、極性有機溶媒などで洗浄してもよい。
【0033】
以上のようにして単離された酸化ガドリニウム含有粒子は、酸化ガドリニウムおよびジエチレングリコールなどの多価アルコールを含有するものである。当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径は、通常、10〜30nm程度である。
【0034】
次に、前記で得られた酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を大きくする必要がある場合には、当該酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させ、常温〜加熱下にて適切な時間で放置すればよい。
【0035】
したがって、本発明によれば、酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させることにより、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整することができるので、酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させることによって当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整した後、当該酸化ガドリニウム含有粒子の表面上にゼラチンなどの両親媒性高分子化合物を被覆することにより、所定の粒子径を有する複合粒子を製造することができる。
【0036】
このことから、本発明によれば、酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させ、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整した後、当該酸化ガドリニウム含有粒子の表面上にゼラチンなどの両親媒性高分子化合物を被覆することにより、複合粒子の粒子径を制御することができる。
【0037】
前記酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径は、当該酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させることにより、当該酸化ガドリニウム含有粒子同士が凝集するので、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を目的とする粒子径となるまで成長させることができる。この場合、酸化ガドリニウム含有粒子の量は、特に限定されないが、通常、水100gあたり、1〜5g程度であることが好ましい。また、水としては、例えば、蒸留水、精製水、純水、超純水などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。水温は、常温であってもよく、あるいはそれよりも高くてもよく、低くてもよい。
【0038】
次に、前記で単離された酸化ガドリニウム含有粒子をゼラチンなどの両親媒性高分子化合物で被覆することにより、本発明の複合粒子が得られる。
【0039】
前記両親媒性高分子化合物において「両親媒性」とは、極性および非極性部分の双方の性質を有することを意味する。両親媒性高分子化合物の分子量は、当該両親媒性高分子化合物が架橋構造を有する場合、その分子量を特定することが困難なため、一概には決定することができない。
【0040】
両親媒性高分子化合物としては、例えば、ゼラチン、アクリルアミド−アルキルスルホン酸共重合体、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの両親媒性高分子化合物のなかでは、ゼラチンが好ましい。ゼラチンは、例えば、コラーゲンから熱水で抽出することによって容易に得ることができる。コラーゲンとしては、例えば、ウシやブタなどの骨や皮、サメなどの骨、皮や鱗などを原料とし、これらの原料に脱脂処理、脱灰処理、抽出処理などを施すことによって容易に得ることができる。なお、ゼラチンは、市場において商業的に容易に入手することができる。
【0041】
酸化ガドリニウム含有粒子をゼラチンなどの両親媒性高分子化合物で被覆するには、酸化ガドリニウム含有粒子と両親媒性高分子化合物の水溶液とを混合すればよい。両親媒性高分子化合物の水溶液における両親媒性高分子化合物の濃度は、当該両親媒性高分子化合物の種類によって異なるので一概には決定することができないが、当該両親媒性高分子化合物としてゼラチンを用いる場合には、ゼラチン水溶液の濃度は、特に限定されないが、通常、3〜10質量%程度であればよい。また、両親媒性高分子化合物の水溶液の水温は、特に限定されないが、通常、常温であってもよく、あるいはそれよりも高くてもよく、低くてもよい。両親媒性高分子化合物の水溶液の量は、特に限定されないが、通常、酸化ガドリニウム含有粒子100gあたり50〜1000mL程度である。
【0042】
次に、酸化ガドリニウム含有粒子と両親媒性高分子化合物の水溶液とを混合することによって得られた混合物を、例えば、凍結乾燥法などによって乾燥させることにより、酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物からなる被膜が形成された複合粒子を得ることができる。
【0043】
以上のようにして得られた複合粒子の表面上には、両親媒性高分子化合物の被膜が形成されている。両親媒性高分子化合物の被膜の厚さは、保護コロイド形成の観点から、好ましくは3〜10nmである。また、複合粒子の粒子径は、EPR効果(Enhanced Permeation and Retention effect)による腫瘍集積性を発現させる観点から、好ましくは20〜200nmである。
【0044】
本発明のMRI造影剤は、前記複合粒子を含有するので、水の緩和時間を短縮させるというMRI造影剤としての機能を有する。本発明のMRI造影剤は、前記複合粒子のみで構成されていてもよく、必要により、添加剤などが含まれていてもよい。
【0045】
本発明の光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブは、前記複合粒子を含有するものであり、前記複合粒子のみで構成されていてもよく、必要により、添加剤などが含まれていてもよい。
【0046】
本発明の複合粒子は、水の緩和時間を短縮させるというMRI造影剤として利用することができるとともに、光超音波信号を発する光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブとして利用することができることから、単一プローブによる2種類のイメージング技術を用いた画像形成が可能となり、正確、迅速、かつ患者の負荷を軽減する画像診断に使用されることが期待される多機能分子イメージングプローブである。
【実施例】
【0047】
次に、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
実施例1
硝酸ガドリニウム六水和物[Gd(NO3)3・6H2O]〔和光純薬工業(株)製、純度:99.5%〕451mg(1mmol)をジエチレングリコール1mL中に添加し、加熱しながら溶解させた。得られた溶液の温度が100℃に達した時点で、水酸化ナトリウム50mg(1.25mmol)、および超純水製造装置(ミリポア社製、商品名:Direct−QUV)を用いて製造された超純水数滴を前記溶液に添加し、140℃で1時間加熱撹拌することにより、白濁溶液を得た。
【0049】
次に、前記で得られた白濁溶液を175℃で4時間撹拌することにより、酸化ガドリニウム含有粒子を含有する黒褐色溶液を得た。
【0050】
前記黒褐色溶液を25℃のアセトン40mL中に撹拌しながらゆっくり滴下したところ、褐色の沈殿物を含む溶液を得た。得られた溶液を6400×gで10分間遠心させることにより、沈殿物を沈降させた後、純水40mLを添加して再分散させ、0.2μmのシリンジフィルター(ミリポア社製)を用いて濾過することにより、濾液を回収した。
【0051】
次に、前記で得られた濾液10mLにゼラチン0.5gを添加し、撹拌した後、得られた混合物を凍結乾燥させることにより、酸化ガドリニウム含有粒子の表面上にゼラチン被膜が形成された黒褐色の複合粒子を得た。
【0052】
比較例1
実施例1において、ジエチレングリコールの代わりにジエチレングリコールモノビニルエーテル1mLを用いたところ、加熱攪拌時に重合反応が進行したため、ゼラチン被膜が形成された酸化ガドリニウム含有粒子(複合粒子)を得ることができなかった。前記で得られた粒子は、超純水中で分散しなかったため、プローブに不適であると判断した。
【0053】
比較例2
実施例1において、ジエチレングリコールの代わりにジエチレングリコールジメタクリレート1mLを用いたところ、生成物が超純水に分散しなかったため、この溶液からゼラチン被膜が形成された酸化ガドリニウム含有粒子(複合粒子)を得ることができなかった。前記で得られた粒子は、超純水中で分散しなかったため、プローブに不適であると判断した。
【0054】
比較例3
実施例1において、ジエチレングリコールの代わりに純水1mLを用いたところ、水酸化ガドリニウム[Gd(OH)3]が生成し、ゼラチン被膜が形成された酸化ガドリニウム含有粒子(複合粒子)を得ることができなかった。この水酸化ガドリニウムは、超純水中で分散しなかったため、プローブに不適であると判断した。
【0055】
実施例2
実施例1で得られた複合粒子およびゼラチンを被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子をそれぞれ25℃の超純水中に分散させ、その粒子径の経時変化を粒子径測定装置〔マルバーン(Malvern)社製、商品名:Zetasizer Nano ZS〕を用い、動的光散乱(DLS)法により25℃で測定した。その結果を図1に示す。
【0056】
図1において、(a)〜(c)は、それぞれ順に、ゼラチンを被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させた直後の粒径分布、当該酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させて10時間経過時の粒径分布、および当該酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させて30時間経過時の粒径分布を示す。また、(d)〜(f)は、それぞれ順に、複合粒子を25℃の超純水中に分散させた直後の粒径分布、当該複合粒子を25℃の超純水中に分散させて10時間経過時の粒径分布、および当該複合粒子を25℃の超純水中に分散させて30時間経過時の粒径分布を示す。
【0057】
図1の(a)〜(c)に示された結果から、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させた場合には、酸化ガドリニウム含有粒子が経時とともに凝集するので、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を大きくなるように当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整することができることがわかる。
【0058】
一方、複合粒子は、その表面がゼラチンで被覆されていることから水中に添加しても当該複合粒子が凝集しないので、その粒子径を維持することができることがわかる。
【0059】
したがって、前記結果から、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させることにより、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整した後、酸化ガドリニウム含有粒子をゼラチンで被覆することにより、水中に分散させても粒子径が変化しない所定の粒子径を有する複合粒子を得ることができることがわかる。
【0060】
実施例3
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子、および複合粒子を、透過型電子顕微鏡〔(株)日立製作所製、品番:H−9500〕を用いて、加速電圧80kV、倍率12万倍にて撮像した。その結果を図2に示す。
【0061】
図2において、(a)はゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の透過型電子顕微鏡写真、(b)は複合粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【0062】
図2に示された結果から、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子では、数10nm程度の粒子が凝集して大きな塊が形成されていることがわかる。
【0063】
一方、複合粒子は、その内部が酸化ガドリニウム粒子およびジエチレングリコールで構成され、ナノメートル程度の粒子径を有する酸化ガドリニウム粒子がジエチレングリコールに分散しており、その表面がゼラチンで覆われた、粒子径が100nm程度の球状粒子であることがわかる。
【0064】
実施例4
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の示差熱−熱重量分析を行なった。なお、酸化ガドリニウム含有粒子の示差熱−熱重量分析は、示差熱−熱重量測定装置〔(株)リガク製、品番:TG−DTA TG8120〕を用い、空気の体積流量を50cm3/minとし、酸化ガドリニウム含有粒子約5mgを10℃/minの昇温速度で室温から1000℃まで昇温することによって測定した。その結果を図3に示す。図3は、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の示差熱−熱重量分析結果を示すグラフである。
【0065】
図3に示された結果から、ジエチレングリコールの沸点である244℃付近で急激な発熱反応が確認された。このことから、酸化ガドリニウム含有粒子の粒子内部に大量のジエチレングリコールが存在していることが確認された。
【0066】
実施例5
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の粉末X線回折を調べた。なお、酸化ガドリニウム含有粒子の粉末X線回折は、X線回折測定装置〔(株)島津製作所製、XD−D1型〕を用い、電圧30kV、電流30mAとし、発生したCuKα線を炭素モノクロメーターで単色化し、1°/minの速度にて測定した。その結果を図4に示す。
【0067】
図4に示された結果から、X線回折図には、結晶格子を示す回折ピークが認められないことから、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を構成している酸化ガドリニウムは非晶質であることがわかる。
【0068】
実施例6
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の紫外−可視光吸収スペクトルを調べた。なお、紫外−可視光吸収スペクトルは、紫外−可視光吸収スペクトル測定装置〔(株) 日立製作所製、商品名:U-3010 Spectrophotometer〕を用い、ガドリニウム濃度0.25mMで300〜900nmの範囲で測定した。その結果を図5に示す。
【0069】
図5に示された結果から、酸化ガドリニウム含有粒子は、300〜900nmの波長の紫外−可視光を吸収するものであることがわかる。
【0070】
実施例7
実施例1で得られた複合粒子および従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕の濃度が0mM、0.10mM、0.25mMまたは0.50mMとなるように調整した後、磁気共鳴(MR)を調べた。磁気共鳴(MR)の測定には、小動物用磁気共鳴測定装置〔ブルカー・バイオスピン(Bruker Biospin)社製、商品名:7.0T/20 USR with 72 mm i.d. Quadrature resonator〕を用い、各造影剤の存在下で水の縦緩和時間T1およびT1強調画像を、Inversion Pulseを併用したFISP法、FOV6*6cm、マトリックス256*256、スライスの厚さ:2mm、NEX2の条件で外部磁場強度7T、室温にて測定した。その結果を図6に示す。
【0071】
図6において、(a)は従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕存在下でのT1強調画像を示す図、(b)は実施例1で得られた複合粒子存在下でのT1強調画像を示す図である。
【0072】
図6に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子存在下では、より低いガドリニウム濃度で高い水のMR信号が観測された。
【0073】
次に、実施例1で得られた複合粒子および従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕の濃度が0mM、0.10mM、0.25mMまたは0.50mMとなるように調整した後、各造影剤の存在下で水の縦緩和時間T1を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子は、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕と対比して、縦緩和時間T1が格段に短いことから、より少量で必要なMRI撮像を可能にするMRI造影剤であることがわかる。
【0076】
また、T1短縮能r1値を、ガドリニウム金属の濃度に対して1/T1をプロットした傾きから求めたところ、実施例1で得られた複合粒子のT1短縮能r1値は9.51L/mmol・secであり、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕のT1短縮能r1値は4.89L/mmol・secであった。このように、実施例1で得られた複合粒子が従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕と対比して、大きいT1短縮能r1値を有するのは、実施例1で得られた複合粒子では、被覆ゼラチン表面のアミノ基とカルボキシル基が水と水素結合することにより、水がガドリニウムに近づきやすい環境ができたことに基づくものと考えられる。
【0077】
実施例8
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子、および複合粒子の光超音波信号の測定を行なった。なお、光超音波信号は、窒素色素レーザー〔(株)日本レーザー製、商品名:N2 Laser MODEL 1010, Dye Laser MODEL 1011、波長 532 nm、1 mJ、10 Hz、Dt = 20 ps 以下〕を用いて組み立てた装置を用い、パルスレーザー光照射時のハイドロフォンにおける電圧変化を測定した。その結果を図7に示す。
【0078】
図7において、(a)は実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子にパルスレーザー光を照射した時のハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図、(b)は実施例1で得られた複合粒子にパルスレーザー光を照射した時のハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図、(c)は超純水のみにパルスレーザー光を照射した時のハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図である。
【0079】
図7に示された結果から、実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子およびゼラチンで被覆した複合粒子のいずれにおいても、光超音波信号が電圧の変化として確認されたことから、前記複合粒子は、光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブとして使用することが期待されるものであることがわかる。
【0080】
実施例9
対数増殖期にあるマウス線維芽組織由来の細胞株L929を96穴プレートのウェルに10質量%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシンを含むDMEM/F12培地〔DMEM/F12の質量比:1/1〕(100μL)とともに播種し(細胞密度:1×104個/cm2)、二酸化炭素濃度が5容量%であるインキュベーター内で24時間培養した。その後、ウェル内の細胞をリン酸緩衝液生理食塩水(以下、PBSという)で1回洗浄した後、培地で種々の濃度に希釈したサンプル(100μL)を入れ、インキュベーター内で48時間曝露させた。PBSで3回洗浄した後、ウェル内に培地(100μL)および細胞数測定試薬SF〔ナカライテスク(株)製〕(10μL)を入れてインキュベーター内で1.5時間静置して呈色を行なった後、紫外−可視分光光度計〔ベックマン・コールター(Beckman Coulter)社製〕を用いてウェル内の細胞含有溶液の波長450nmでの吸光度を測定し、測定された吸光度に基づいて生細胞数を算出し、各試料について生細胞数を比較した。なお、使用したサンプルは、いずれも0.22μmのシリンジフィルターを通過させることにより、あらかじめ濾過滅菌を施しておいた。
【0081】
次に、対照(コントロール)として、超純水を用い、対照における生細胞数に対する各試料における生細胞数の比を求めた。その結果を図8に示す。
【0082】
図8は、コントロール(超純水)、ガドリニウム濃度が0.05mMの従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕(図中、MVで示す)、ガドリニウム濃度が0.05mMの複合粒子およびガドリニウム濃度が0.05mMの硝酸ガドリニウムが細胞に及ぼす毒性の試験結果を示す図である。
【0083】
図8に示された結果から、ガドリニウム濃度0.05mMにおいて、実施例1で得られた複合粒子は、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕と同程度の細胞毒性を示したのに対し、複合粒子の原料である硝酸ガドリニウムは、はるかに高い毒性を有することがわかる。
【0084】
以上の結果から、本発明の複合粒子は、水中で凝集することなく、安定して分散するものであり、さらに100nm前後の粒径を有することから、腫瘍組織へのEPR効果が期待されるものである。
【0085】
さらに、本発明の複合粒子は、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕と対比して、約2倍のT1短縮能を有することからMRI造影剤として、さらにパルスレーザー光の照射により光超音波信号を発する光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブとして使用することができると考えられる。
【0086】
実施例10(健常マウスを用いた体内動態試験)
C57Bl/6Jマウス(8週令)に対して、イソフルランによる吸入麻酔下で、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕、およびガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子を、尾静脈注射により投与し、経時的にMRI撮像を行ない、各臓器における造影効果を調べた。その結果を図9および図10に示す。
【0087】
図9は、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕をマウスに投与し、各臓器での投与前におけるMR信号強度に対する投与後のMR信号強度の比の経時変化を示す図である。また、図10は、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子をマウスに投与し、各臓器での投与前におけるMR信号強度に対する投与後のMR信号強度の比の経時変化を示す図である。
【0088】
図9および図10に示された結果から、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕は早期に腎排泄が行なわれるのに対し、実施例1で得られた複合粒子は、血栓形成や急性毒性を生じることなく、血管、肝臓および脾臓で長期間にわたって滞留することが確認されたことから、これらの造影に効果的であることがわかる。
【0089】
実施例11(担癌マウスを用いた体内動態試験)
Balb/c nu/nuマウス(8週令)の前腕基部に、106個のヒト膵臓がん細胞株(Suit2)を投与し、約10日間飼育した担癌マウスに対し、イソフルランによる吸入麻酔下で、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子を尾静脈注射により投与し、MRI撮像を行なった。その結果を図11に示す。
【0090】
図11は、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子を担癌マウスに投与してから3時間経過後におけるMRI撮像結果を示す図である。図11において、矢印で示される部分が腫瘍組織を示す。
【0091】
図11に示されるように、腫瘍組織でMR信号の増強が確認されたことから、実施例1で得られた複合粒子は、腫瘍組織へ集積することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の複合粒子は、水の緩和時間を短縮させるというMRI造影剤としての機能を有することからMRI造影剤として、さらに光超音波信号を発する光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブとして利用することができる。本発明により、単一プローブによる2種類のイメージング技術を用いた画像形成が可能となり、正確、迅速、かつ患者の負荷を軽減する画像診断に使用される多機能分子イメージングプローブとして期待されるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物からなる被膜が形成されてなる複合粒子。
【請求項2】
20〜200nmの粒子径を有する請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
両親媒性高分子化合物からなる被膜の厚さが3〜10nmである請求項1または2に記載の複合粒子。
【請求項4】
酸化ガドリニウム含有粒子が酸化ガドリニウムおよび多価アルコールを含有する請求項1〜3のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項5】
多価アルコールが脂肪族ジオールである請求項4に記載の複合粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の複合粒子を含有することを特徴とするMRI造影剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の複合粒子を含有することを特徴とする光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブ。
【請求項8】
酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物を被覆することを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項9】
硝酸ガドリニウムを多価アルコールに溶解させて加熱し、得られた酸化ガドリニウムの多価アルコール溶液に極性有機溶媒を添加することにより、酸化ガドリニウム含有粒子を調製する請求項8に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項10】
極性有機溶媒が脂肪族1価アルコール、脂肪族アルデヒドまたは脂肪族ケトン化合物である請求項9に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項11】
酸化ガドリニウム含有粒子を水中に添加し、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整した後、当該酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物を被覆することを特徴とする複合粒子の粒子径の制御方法。
【請求項12】
硝酸ガドリニウムを多価アルコールに溶解させて加熱し、得られた酸化ガドリニウムの多価アルコール溶液を極性有機溶媒に滴下することにより、酸化ガドリニウム含有粒子を調製する請求項11に記載の複合粒子の粒子径の制御方法。
【請求項13】
極性有機溶媒が、脂肪族1価アルコール、脂肪族アルデヒドまたは脂肪族ケトン化合物である請求項12に記載の複合粒子の粒子径の制御方法。
【請求項1】
酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物からなる被膜が形成されてなる複合粒子。
【請求項2】
20〜200nmの粒子径を有する請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
両親媒性高分子化合物からなる被膜の厚さが3〜10nmである請求項1または2に記載の複合粒子。
【請求項4】
酸化ガドリニウム含有粒子が酸化ガドリニウムおよび多価アルコールを含有する請求項1〜3のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項5】
多価アルコールが脂肪族ジオールである請求項4に記載の複合粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の複合粒子を含有することを特徴とするMRI造影剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の複合粒子を含有することを特徴とする光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブ。
【請求項8】
酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物を被覆することを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項9】
硝酸ガドリニウムを多価アルコールに溶解させて加熱し、得られた酸化ガドリニウムの多価アルコール溶液に極性有機溶媒を添加することにより、酸化ガドリニウム含有粒子を調製する請求項8に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項10】
極性有機溶媒が脂肪族1価アルコール、脂肪族アルデヒドまたは脂肪族ケトン化合物である請求項9に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項11】
酸化ガドリニウム含有粒子を水中に添加し、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整した後、当該酸化ガドリニウム含有粒子の表面上に両親媒性高分子化合物を被覆することを特徴とする複合粒子の粒子径の制御方法。
【請求項12】
硝酸ガドリニウムを多価アルコールに溶解させて加熱し、得られた酸化ガドリニウムの多価アルコール溶液を極性有機溶媒に滴下することにより、酸化ガドリニウム含有粒子を調製する請求項11に記載の複合粒子の粒子径の制御方法。
【請求項13】
極性有機溶媒が、脂肪族1価アルコール、脂肪族アルデヒドまたは脂肪族ケトン化合物である請求項12に記載の複合粒子の粒子径の制御方法。
【図3】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【公開番号】特開2012−56901(P2012−56901A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202766(P2010−202766)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2010年3月12日発行の日本化学会 第90春季年会(2010) 講演予稿集III、および2010年5月10日発行の日本分子イメージング学会 JSMI Report 第3巻第2号において発表
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2010年3月12日発行の日本化学会 第90春季年会(2010) 講演予稿集III、および2010年5月10日発行の日本分子イメージング学会 JSMI Report 第3巻第2号において発表
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
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