説明

複合糸、それを用いた織編物および複合糸の製造方法

【課題】高級ウールの特性であるふくらみ、ストレッチ性、ソフト感、反発感、自然なムラ感に優れた複合糸およびその製造方法、さらには該複合糸を用いた織編物を提供する。
【解決手段】少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメントAおよびBが混繊されてなる複合糸であり、該複合糸が下記(1)および(2)の特性を同時に満足し、かつ複合糸を構成する該マルチフィラメントAは捲縮発現能を有する太細コンジュゲートマルチフィラメントであり、該マルチフィラメントBは太細マルチフィラメントであることを特徴とする複合糸。
(1)1.5≦U%(%)≦10
(2)−5≦沸騰水収縮率差(A−B)(%)≦5

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はふくらみ、ストレッチ性、ソフト感、反発感、自然なムラ感に優れた複合糸およびその製造方法、さらには該複合糸を用いた織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、機械的強度、耐薬品性、耐熱性などに優れ、衣料用途で広く用いられている。近年、市場ニーズが多様化してきており、かかるポリエステル繊維、特にポリエステル長繊維で、高級ウールのような風合が出せないかといった要求が高くなっている。高級ウールは、選りすぐられた細い繊度の繊維からなり、ソフトで繊細なタッチを有しており、さらに何色もの色が混ぜ合わさっている多色ミックス効果により自然なムラ感も呈している。しかも、ウール本来のもつ捲縮が優れたソフトなふくらみ感、ストレッチ性を出している。
【0003】
これに対して、例えば、異種のポリエステル重合体が繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わさたコンジュゲート糸を複合仮撚および混繊することにより、ストレッチおよびふくらみ感を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、これらの複合糸ではストレッチ性は得られるが、単調なふくらみとなり、本発明の目的とする繊細なふくらみ感、ソフト感が得られず、さらなる改善が必要である。
【0004】
また、ふくらみ感や自然なムラ感を織編物に付与する方法としては、糸長手方向に太部と細部を有している太細糸を用いる方法が一般的である。ここでは、芯糸にコンジュゲートタイプの太細糸を使用し、かつ低収縮糸と混繊した複合糸を用いることで、ストレッチ性、ふくらみ感が得られることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、コンジュゲート太細糸は延伸工程で細部のみ選択的に捲縮顕在化する傾向があり、そのため、他の糸と混繊するとき、糸長手方向で捲縮発現率の違いにより交絡前張力がばらつき、交絡ムラや単糸タルミ発生するおそれが多発し、解舒不良により、撚糸あるいは製織工程で毛羽が発生したり、糸切れが多発するという問題があった。そのためコンジュゲート太細糸の捲縮は全て潜在化させる必要があり、すなわち織物でのストレッチ性が不十分であるという問題があった。また、他の糸との混繊においても、交絡圧空で部分的に捲縮が発現するため、充分な交絡を付与することができず、撚糸あるいは製織工程でネップが発生し、織物品位が悪くなるという問題があった。また、太細を有する糸は複合糸の内部に位置するため、その太細糸に起因するふくらみ感や自然なムラ感などの風合いへの効果は大変小さいものであった。
【特許文献1】特開2002−105786号公報
【特許文献2】特開2002−266185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記の従来技術の問題点を解決しようとするものであり、高級ウールの特性であるふくらみ、ストレッチ性、ソフト感、反発感、自然なムラ感に優れた複合糸およびその製造方法、さらには該複合糸を用いた織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、以下の構成を採用する。すなわち、
[1]少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメントAおよびBが混繊されてなる複合糸であり、該複合糸が下記(1)および(2)の特性を同時に満足し、かつ複合糸を構成する該マルチフィラメントAは捲縮発現能を有する太細コンジュゲートマルチフィラメントであり、該マルチフィラメントBは太細マルチフィラメントであることを特徴とする複合糸。
(1)1.5≦U%(%)≦10
(2)−5≦沸騰水収縮率差(A−B)(%)≦5
[2]前記マルチフィラメントBが平均一次粒子径0.02〜0.1μmである粒子を含有することを特徴とする前記[1]に記載の複合糸。
【0007】
[3]前記[1]または[2]に記載の複合糸を用いてなることを特徴とする織編物。
【0008】
[4]前記マルチフィラメントBの表面に前記粒子の脱落によるミクロボイドを有することを特徴とする前記[3]に記載の織編物。
【0009】
[5]経糸または緯糸に前記[1]または[2]に記載の複合糸を用い、該複合糸を用いた糸方向のストレッチ率が10%以上であることを特徴とする織物。
【0010】
[6]少なくとも2成分のポリエステル重合体がサイドバイサイド型あるいは偏芯シースコア型に接合したコンジュゲート未延伸マルチフィラメントと、これとは別のポリエステル系未延伸マルチフィラメントを伸度差80%以下で紡糸し、その後1.7〜2.5倍の延伸倍率で杢延伸したことで得られる複合糸の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明を実施することで、高級ウールの特性であるふくらみ、ストレッチ性、ソフト感、反発感、自然なムラ感に優れた複合糸およびその製造方法、さらには該複合糸を用いた織編物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の複合糸は、少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメントA、ポリエステルマルチフィラメントBが混繊されてなる複合糸であり、該複合糸が下記(1)および(2)の特性を同時に満足し、かつ複合糸を構成する該ポリエステルマルチフィラメントAは捲縮発現能を有する太細コンジュゲート糸であり、該ポリエステルマルチフィラメントBも太細マルチフィラメントであることを特徴とする複合糸である。
(1)1.5≦U%(%)≦10
(2)−5≦沸騰水収縮率差(A−B)(%)≦5
本発明に用いるポリエステルマルチフィラメントAおよびポリエステルマルチフィラメントBは、テレフタル酸を主成分とし、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ペンタメチレングリコール、およびヘキサメチレングリコールから選ばれた少なくとも1種を主たるグリコール成分とするポリエステルであり、40%モル以下の第3成分が共重合されていてもよい。好ましい共重合成分としては、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタリンジカルボン酸などの2塩基酸類、オキシ安息香酸の如きオキシ酸類、およびジエチレングリコール、プロピレンングリコール、ポリエチレングリコールのグリコール類、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、および2,2−ビス{4−(2−ヒドロキシエトキシ)フエニル}プロパンなどが挙げられる。これらの共重合成分のうちから1種または2種以上のものを共重合したポリエステルが好ましく用いられる。
【0013】
また、本発明に用いる複合糸を構成するポリエステルマルチフィラメントAおよびポリエステルマルチフィラメントBは両方とも太部と細部を有していることが重要である。この太部と細部がフィラメント間で多層に入り交じることにより、織編物でのふくらみや自然なムラ感の表現が可能になる。
【0014】
また、ポリエステルマルチフィラメントAおよびポリエステルマルチフィラメントBそれぞれの太い部分が濃染、細い部分が淡染となるため多色ミックス効果が得られ、ウールに似た自然な杢感が得ることができる。
【0015】
本発明においては、複合糸の太さむらを表すU%が1.5≦U%(%)であることが重要である。U%が1.5%未満では太細効果が小さく、布帛表面にムラ感を付与するまで至らない。一方、U%が大きすぎても、太細効果が大きすぎて表面品位が粗くなるので、U%は10%以下とするものである。より好ましいU%の範囲は、2〜6%の範囲である。
【0016】
また、ポリエステルマルチフィラメントAは、捲縮発現能を有するコンジュゲート太細マルチフィラメントである。コンジュゲートマルチフィラメントは、例えば熱処理を施すことにより、座屈や機械捲縮特有の角張った部分のないコイル旋回状の捲縮を発現するものである。
【0017】
コンジュゲートマルチフィラメントとしては、少なくとも2種類のポリマーまたは同種のポリマーでも固有粘度の異なるポリマーをサイドバイサイド型または偏芯シースコア型に複合したコンジュゲートマルチフィラメントが挙げられる。つまり、少なくとも2種類のポリマーを複合する場合は、上記ポリエステルうち少なくとも2種類を任意に選んで複合すればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレートとポリプロピレンレンテレフタレートとを複合すればよい。また、同種のポリマーを複合する場合は、例えば、極限粘度の異なるポリエチレンテレフタレートを複合するなどすればよい。この際には低粘度ポリエステル成分の極限粘度は0.35〜0.60の範囲、高粘度ポリエステル成分の極限粘度は0.65〜0.85の範囲にすることが好ましい。低粘度ポリエステル成分の極限粘度が0.35未満であると溶融粘度が低くなるため紡糸が難しくなる。また、低粘度ポリエステル成分の極限粘度が0.60を超えるとコンジュゲートマルチフィラメントの捲縮発現力が乏しくなり、コイル捲縮の発現能力が低下する。
【0018】
また、高粘度ポリエステル成分の極限粘度が0.85を超えると溶融粘度が高くなるため、紡糸および延伸が難しくなる。また、高粘度ポリエステル成分の極限粘度が0.65未満であると捲縮発現力が乏しくなる傾向を示す。
【0019】
低粘度ポリエステル成分と高粘度ポリエステル両者間の極限粘度差は0.20〜0.40の範囲が好ましい。ただし、一方に共重合ポリエステル成分を使用する場合は、両者成分の極限粘度差はさらに接近させることが可能である。
【0020】
ここで、極限粘度[η]は、温度25℃においてオルソクロロフェノール溶液として求めたものである。
【0021】
ここで用いられるコンジュゲートマルチフィラメントについては、少なくとも2種類のポリエステル重合体を紡糸するに当り、低粘度ポリエステル成分と高粘度ポリエステル成分について好適な複合比がある。すなわち、低粘度ポリエステル成分と高粘度ポリエステル成分の複合比は、重量比で35〜65:65〜35が好ましく、40〜60:60〜40がさらに好ましい。
【0022】
本発明においてポリエステルマルチフィラメントAは、単繊維中に太細部が混在していることで、コイル状の旋回捲縮に不規則な変化が加わり、旋回径にも大小ができる。また、太部と細部の収縮が異なることから捲縮形状もより複雑なコイル旋回形態とすることができる。この複雑な捲縮形態が織編物に繊細なふくらみ感、自然なムラ感を付与することができる。
【0023】
また本発明において、織編物に高いストレッチ性を付与するためには、ポリエステルマルチフィラメントAのコイル捲縮を最大限発揮させることが重要である。鋭意検討の結果、もう一方のポリエステルマルチフィラメントBの収縮をポリエステルマルチフィラメントAの収縮に近づけること、すなわち、ポリエステルマルチフィラメントBは、−5≦沸騰水収縮率差(A−B:ポリエステルマルチフィラメントAの沸騰水収縮率−ポリエステルマルチフィラメントBの沸騰水収縮率)(%)≦5を満たすことにより、ポリエステルマルチフィラメントAのコイル捲縮を最大限発揮できることを見出した。なぜなら、複合糸は染色工程でポリエステルマルチフィラメントAはポリエステルマルチフィラメントBに拘束されながら、捲縮発現する。捲縮発現は糸の収縮とほぼ同時に起こるので、ポリエステルマルチフィラメントAの収縮にあわせて、ポリエステルマルチフィラメントBも収縮させることが非常に重要になってくるのである。ここで、沸騰水収縮率差(A−B)(%)>5であれば、ポリエステルマルチフィラメントBがポリエステルマルチフィラメントAの捲縮発現を阻害するうえに、マルチフィラメントAの太部が自発伸長現象を生じ、鞘側に回ってくるので、高いストレッチ性を得ることができない。また、沸騰水収縮率差(A−B)(%)<−5であれば、ポリエステルマルチフィラメントBが芯部に配置される構造となるので、ポリエステルマルチフィラメントAのコイル捲縮を活かすことができない。
【0024】
また、複合糸は、−5≦沸騰水収縮率差(A−B)(%)≦5を満たすことにより、糸の表面にはマルチフィラメントA、マルチフィラメントBが交互に露出する形になり、織編物で自然なムラ感をさらに強調できる。ここで、ポリエステルマルチフィラメントAおよびBの沸騰水収縮率は5〜25%であることが好ましい。5%未満であると、太細差の強調できず、充分なふくらみ感を得ることができない。25%を超えると、収縮が強すぎて、硬い風合いになってしまうからである。
【0025】
なお、ここでのポリエステルマルチフィラメントAの沸騰水収縮率とは発現した捲縮を加味しない収縮率のことである。
【0026】
また、ポリエステルマルチフィラメントBは平均一次粒子径が0.02〜0.1μmである粒子を含有していることが好ましい。該粒子を含有することで、単糸がばらけやすくなり、太細の単糸間位相が糸長手方向にばらけ、単糸間収縮差が発生するのでふくらみ大きくなり、かつ自然なムラ感も向上する。また単糸間がばらけることで、低い交絡圧空でも強固な交絡を付与することができ、交絡起因によるポリエステルマルチフィラメントAの捲縮発現ムラ発生をなくすことができる。さらにアルカリ減量工程でこの粒子を脱落させることで、糸表面にミクロボイドを発生させることが可能になり、反射光抑制による発色性向上、点接触によるソフト感が向上させることができる。なお、本発明における平均一次粒子径は、HORIBA製粒径分析装置(LA−700)にて粒子の外接径を測定し、かつn数50で測定した値をいう。
【0027】
ここでの粒子としては、例えばコロイダルシリカなどが挙げられる。コロイダルシリカとはケイ素酸化物を主成分とし、単粒子状で存在する粒子が水または単価のアルコール類またはジオール類またはこれらの混合物を分散媒としてコロイドとして存在するものをいう。
【0028】
また、ポリエステルマルチフィラメントBの断面は、丸型、三角、扁平、六角、L型、T型、W型、八葉型、ドッグボーン型などの多角形型、多様型、中空型など任意に選択することができる。
【0029】
また、ポリエステルマルチフィラメントAおよびBの繊度はそれぞれ20〜250dtexの範囲であれば、梳毛素材としてふさわしいふくらみ感、ソフト感を付与することができ好ましい。さらに好ましくはそれぞれの繊度が30〜180dtexである。
【0030】
また、ポリエステルマルチフィラメントAおよびBの単繊維繊度はそれぞれ10dtex以下が好ましい。単繊維繊度が10dtexを超える場合は、ソフト感が不十分となる。一方、あまりに単繊維繊度を低くしすぎるとストレッチ性がなくなるので、0.5dtex以上とするのが好ましい。単繊維繊度のさらに好ましい範囲は0.5〜5.0dtexである。
【0031】
また、本発明の複合糸の1m当たりの交絡度[CF値]は10〜120であることが好ましい。10未満であると、撚糸あるいは製織工程で単糸タルミによる糸切れが多くなる。また120を超えると交絡が強すぎて、マルチフィラメントAの一部が捲縮発現してしまい、撚糸あるいは製織工程でネップが発生し、織物品位が悪くなる。
【0032】
本発明の複合糸の伸度は30%以上であることが重要である。伸度が30%未満では繊維の配向が高く、布帛にソフトな風合いを付与することができにくくなる。一方、伸度が高すぎても製織工程でヨコヒケなどの問題が発生しやすくなるので、70%以下とするのが好ましい。より好ましい伸度の範囲は40〜60%である。
【0033】
また、ポリエステルマルチフィラメントAまたはBには、必要に応じて、難燃剤、蛍光増白剤、つや消し剤、着色剤、制電剤などの添加剤を添加してもよい。
【0034】
また、ポリエステルマルチフィラメントAまたはBには必要に応じて、イオン染料染色性の異なるポリエステルを用いても良い。こうすることで、多色に染め分けることができ、より多色ミックス効果を向上させることも可能である。
【0035】
次に、本発明の複合糸の製造方法について説明する。
【0036】
ポリエステルマルチフィラメントAは、例えば、少なくとも2種類のポリマーまたは固有粘度の異なる同種のポリマーを、例えばサイドバイサイド型または偏心シースコア型に複合化して紡出し未延伸マルチフィラメントaとし、その後延伸して得ることができる。ポリエステルマルチフィラメントBについても、未延伸マルチフィラメントbとした後、延伸して得ることができる。ここで、ポリエステルマルチフィラメントAおよびBは未延伸マルチフィラメント段階での伸度差が80以下であることが重要となる。好ましい伸度差の下限はなく、0でも何ら問題はない。この範囲の伸度差を満たすことで、−5≦沸騰水収縮率差(A−B)(%)≦5にすることが可能になる。
【0037】
ポリエステルマルチフィラメントAおよびBを得るための紡速(未延伸マルチフィラメントaまたはbの紡速)は、好ましくは1000〜3000m/分である。1000m/分未満では沸水収縮率を下げることが難しくなり、風合いが硬くなってしまう。一方、3000m/分を超える紡速では配向が高くなるため、濃淡杢が細切れになり、きれいな表面外観を得ることが難しくなる。
【0038】
図1は、本発明の複合糸の延伸工程図の一例である。図1において、1はポリエステルマルチフィラメントAの未延伸マルチフィラメントa、2はポリエステルマルチフィラメントBの未延伸マルチフィラメントbを示す。この2種類の未延伸マルチフィラメントを引き揃えた後、ピンチローラ3へ導き、4ホットローラ4で予熱をおこなう。この際のホットローラ4の温度は40℃〜90℃であれば、均一に分散した杢が形成でき、均整のとれた太細糸が得られるので好ましい。40℃未満であると、繊維の収束部や油剤の付着斑、また加熱域での熱の当たり具合で杢の発現状態が大きく左右され、杢の分散状態が悪くなることがある。90℃を超えると、均一延伸に近い状態になり杢パターン得ることが難しくなる。
【0039】
その後、プレートヒーター5で糸を加熱しながら、ホットローラ4および段付きドローローラ6間でa、bの未延伸マルチフィラメントを1.7〜2.5倍の範囲で杢延伸を実施する。これにより、1.5≦U%(%)≦10を満たす太細糸を得ることができる。ここで杢延伸とは自然延伸倍率を超えない倍率での延伸のことである。
【0040】
また、好ましいプレートヒーター5の温度は110℃〜150℃である。110℃未満であると、沸水収縮率が高すぎて、硬い風合いの織編物になってしまう。一方、150℃を超えると、濃淡杢が細切れになり、きれいな表面外観を得るのは難しくなる。
【0041】
その後、インターレースノズル7で交絡を付与し、糸を収束させる。この際の交絡圧に関しては0.1〜0.4(MPa)であることが好ましい。0.1(MPa)未満であると交絡抜けが発生することがあり、好ましくない。一方、0.4(MPa)を超えると、マルチフィラメントAの捲縮が発現し、タルミが発生しやすくなるので、好ましくない。
【0042】
最後に、複合糸8として巻き取られる。また、杢延伸速度については早ければ生産性が高くなり好ましいが、安定延伸性を考慮すると、200〜1000(m/min)が好ましい。
【0043】
また、上記は未延伸マルチフィラメントを引き揃えた後の杢延伸方法であるが、未延伸マルチフィラメントa、bを別々に延伸した後、交絡ノズルで混繊するなど、いずれの混繊方法でも構わない。
【0044】
また、本発明の複合糸は、織編物で充分なストレッチ、反発感を得るために、撚り係数8,000以上で撚糸することが好ましい。また、ソフトやふくらみのある風合いを維持するためには撚り係数35,000以下が好ましい。ただし、
撚り係数=T×(繊度)1/2
T:1mあたりの撚り数(ターン/m)
繊度:デシテックス(dtex)×0.9
である。
【0045】
本発明において、織物と編物を総称して「織編物」という。本発明の複合糸を織編物にする場合、組織あるいは密度になんら制約されることはない。
【0046】
さらに、本発明の複合糸を用いた織編物を染色仕上げ加工する場合にも、加工方法あるいは加工装置などになんら制約されることはないが、リラックスで充分に解撚効果によるストレッチやふくらみ感を出すために、液流リラックス加工を実施することが好ましい。また、中間セット時には複合糸太部のアルカリ減量耐性を強めるため、セット温度を180℃以上230℃以下にすることが好ましい。230℃を越えると、太部が融着する恐れがあるので好ましくない。
【0047】
アルカリ減量率は5〜35%であることが好ましい。35%以を超えると複合糸太部の強度低下の問題がある。一方、5%未満では織編物にソフトな風合いを付与しにくくなる。
【0048】
本発明の複合糸を用いて織編物にすることで、従来ポリエステル糸がなし得なかった高級ウールを越えるふくらみ、ストレッチ性、ソフト感、反発感、自然なムラ感を得ることができる。
【0049】
また、本発明の複合糸を織物の経糸または緯糸に用いると、用いた方向に10%以上50%以下のストレッチ率を得ることができ、快適なストレッチ性が得られる。10%未満では快適なストレッチ性を得ることができず、50%を越えると織物にワライが発生するようになり好ましくない。
【0050】
本発明により得られた繊維はブラウス、スーツ、パンツ、ワンピース、コート、ブラックフォーマルなどの婦人衣料、ジャージ、アスレチックウェア、スキーウェアなどのスポーツ衣料用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定した。
【0052】
(1)沸水収縮率
複合糸からマルチフィラメントA、Bを15cmづつ取り出す。0.1g/dtexの荷重下で10cmの間隔でマークした糸サンプルをガーゼにくるんで、無緊張下で98℃・30分で熱処理する。その後、糸サンプルを取り出し、24時間風乾し、再び、0.1g/dtexの荷重下において、発現した捲縮を完全に伸ばした後、熱処理前にマークした間隔(L)を読みとり、次の式で糸A、Bの収縮率を表す。
沸騰水収縮率(%)={(10−L)/10}×100
(2)沸水収縮率差
マルチフィラメントA、Bの沸騰水収縮率の差を沸騰水収縮率差(A−B)(%)として表す。
【0053】
(3)繊度
JIS L1013 8.3の繊度測定に準ずる。
【0054】
(4)U%
測定器としては市販のUster EvenessTester(計測器工業株式会社製)を使用する。糸のトータル繊度により使用する測定用スロットを選択し、糸速を200m/分とし、撚糸機で12000rpmの回転を与え、撚糸しつつハーフ・イナートテストにて測定する。U%は2.5分間の測定を1回として測定試料の任意の5カ所について測定し、その平均値とした。
【0055】
(5)1m当たりの交絡度[CF値]
交絡度は、0.1g/dの張力下における1m当たりの交絡部の数であり、糸に0.02g/dの張力下で非交絡部にピンを刺し、糸条1mにわたり0.1g/dの張力でピンを糸の長手方向の上下に移動せしめ、抵抗なく移動した部分を非交絡部として移動した距離を記録し、ピンが止まる部分を交絡部とする。この作業を5回繰り返し、その非交絡部の距離の平均値(n=5)から1m当たりの交絡度を計算する。
【0056】
(6)伸度
JIS−L−1013に基づいて測定した。
【0057】
(7)伸度差
マルチフィラメントA、Bの伸度の差の絶対値を伸度差(%)として表す。
【0058】
(8)風合い評価、表面品位評価
ふくらみ感、ソフト感、反発感、自然なムラ感の風合い評価、および表面品位の均一性について、熟練者10名にて4段階判定法で評価した。
○○:優
○:良
△:可
×:不可。
【0059】
(9)ストレッチ率
JIS L−1096の伸長率A法(定速伸長法)で測定した。
【0060】
(10)平均一次粒子径
平均一次粒子径はHORIBA製粒径分析装置(LA−700)にてn数50で測定を行った。
【0061】
実施例1〜5
供給糸条として、極限粘度が0.47のポリエチレンテレフタレート100%からなる低粘度成分と、極限粘度が0.75のポリエチレンテレフタレート100%からなる高粘度成分を重量比50:50でサイドバイサイド型に貼り合わせたポリマーを紡速1450(m/min)で紡糸して、110dtex、12フィラメント、伸度300%のコンジュゲート未延伸マルチフィラメントaを得た。一方、平均一次粒子径が0.05μmであるコロイダルシリカを1.0重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなるポリマーを紡速1450(m/min)で紡糸して、103dtex、36フィラメント、伸度310%の未延伸マルチフィラメントbを得た。
【0062】
a、bの未延伸マルチフィラメントを引き揃えた後、表1および図1記載の製造方法で、杢延伸および混繊を実施し、表1に示す複合糸特性を示す複合糸を得た。
【0063】
次に、このようにして得られた複合糸に、村田(株)製のダブルツイスター撚糸機を用いて、S方向に撚係数(K)=13000で追撚を施し、その後、70℃×20分のスチーム撚止めセットを実施した。得られた追撚糸を経糸および緯糸に用い、経密度:160本/2.54cm、緯密度:120本/2.54cm、平二重織物を作成した。次いで、得られた織物に、常法に従いソフサー精練処理後、液流リラックス処理を施し、続いて、乾燥機・中間セットを施した。中間セット条件は、温度180℃で実施した。その後、3%苛性ソーダ水溶液中に浸漬し、20%のアルカリ減量加工を行い、市販のブラック染料で135℃染色した後、常法に従い還元洗浄(80℃、20分)を行い、水洗し乾燥した。最後に160℃で仕上げセットを実施した。
得られた織物は、表面にコロイダルシリカ脱落によるミクロボイドを有し、ふくらみ、ストレッチ性、ソフト感、反発感、自然なムラ感、ストレッチ性、発色性に優れ、また、表面品位も良好な結果であった。結果を表1に示す。
【0064】
実施例6
供給糸条として、極限粘度が0.4のポリエチレンテレフタレート100%からなる低粘度成分と、極限粘度が0.8のポリエチレンテレフタレート100%からなる高粘度成分を重量比45:55でサイドバイサイド型に貼り合わせたポリマーを紡速2500(m/min)で紡糸して、150dtex、24フィラメント、伸度220%のコンジュゲート未延伸マルチフィラメントaを得た。一方、平均一次粒子径が0.7μmである酸化チタンを2.3重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなるポリマーを紡速2500(m/min)で紡糸して、145dtex、48フィラメント、伸度208%の未延伸マルチフィラメントbを得た。
【0065】
a、bの未延伸マルチフィラメントを引き揃えた後、表1および図1記載の製造方法で、杢延伸および混繊を実施し、表1に示す複合糸特性を示す複合糸を得た。
【0066】
得られた複合糸に、経密度:130本/2.54cm、緯密度:90本/2.54cm、とした以外は実施例1と同じように平二重織物を作成した。実施例1と同じように、染色加工を実施した評価した結果、得られた織物は、表面に酸化チタン脱落によるミクロボイドを有し、ふくらみ、ストレッチ性、ソフト感、反発感、自然なムラ感、ストレッチ性に優れ、また、表面品位も良好な結果であった。結果を表1に示す。
【0067】
実施例7
供給糸条として、極限粘度が0.9ポリプロピレンテレフタレートと、極限粘度が0.4のポリエチレンテレフタレートを重量比50:50でサイドバイサイド型に貼り合わせたポリマーを紡速1500(m/min)で紡糸して、105dtex、12フィラメント、伸度282%のコンジュゲート未延伸マルチフィラメントaを得た。一方、平均一次粒子径が0.05μmであるコロイダルシリカを1.0重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなるポリマーを紡速1450(m/min)で紡糸して、103dtex、36フィラメント、伸度310%の未延伸マルチフィラメントbを得た。
【0068】
a、bの未延伸マルチフィラメントを引き揃えた後、表1および図1記載の製造方法で、杢延伸および混繊を実施し、表1に示す複合糸特性を示す複合糸を得た。
【0069】
得られた複合糸に実施例1と同じように織物を作成、染色加工を実施し、評価した結果、得られた織物は、表面にコロイダルシリカ脱落によるミクロボイドを有し、ふくらみ、ストレッチ性、ソフト感、反発感、自然なムラ感、ストレッチ性、発色性に優れ、また、表面品位も良好な結果であった。結果を表1に示す。
【0070】
比較例1
供給糸条として、極限粘度が0.47のポリエチレンテレフタレート100%からなる低粘度成分と、極限粘度が0.75のポリエチレンテレフタレート100%からなる高粘度成分を重量比50:50でサイドバイサイド型に貼り合わせたポリマーを紡速1450(m/min)で紡糸して、110dtex、12フィラメント、伸度300%のコンジュゲート未延伸マルチフィラメントaを得た。一方、平均一次粒子径が0.7μmである酸化チタンを2.3重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなるポリマーを紡速1450(m/min)で紡糸して、103dtex、36フィラメント、伸度310%の未延伸マルチフィラメントbを得た。
【0071】
a、bの未延伸マルチフィラメントを引き揃えた後、表1および図1記載の製造方法で、杢延伸および混繊を実施し、表1に示す複合糸特性を示す複合糸を得た。
【0072】
得られた複合糸に実施例1と同じように織物を作成、染色加工を実施した評価した結果、得られた織物は、表面に酸化チタン脱落によるミクロボイドを有していたが、ふくらみ、ソフト感、反発感ともに不十分なものであり、ムラ感を有しないプレーンで表情の乏しい織物であった。結果を表1に示す。
【0073】
比較例2
延伸倍率を1.6にした以外は比較例1と同様に複合糸を得た。
得られた複合糸に実施例1と同じように織物を作成、染色加工を実施した評価した結果、得られた織物は捲縮が発現しておらず、ストレッチ性は不十分であり、また収縮が高く、自然なムラ感を有していなかった。また、製織中にヨコヒケが発生し、表面品位も悪い織物であった。結果を表1に示す。
【0074】
比較例3
供給糸条として、極限粘度が0.47のポリエチレンテレフタレート100%からなる低粘度成分と、極限粘度が0.75のポリエチレンテレフタレート100%からなる高粘度成分を重量比50:50でサイドバイサイド型に貼り合わせたポリマーを紡速1450(m/min)で紡糸して、110dtex、12フィラメント、伸度300%のコンジュゲート未延伸マルチフィラメントaを得た。一方、平均一次粒子径が0.7μmである酸化チタンを2.3重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなるポリマーを紡速3100(m/min)で紡糸して、106dtex、36フィラメント、伸度205%の未延伸マルチフィラメントbを得た。
【0075】
a、bの未延伸マルチフィラメントを引き揃えた後、表1および図1記載の製造方法で、杢延伸および混繊を実施し、表1に示す複合糸特性を示す複合糸を得た。
【0076】
得られた複合糸に実施例1と同じように織物を作成、染色加工を実施し、評価した結果、得られた織物はストレッチ性は不十分であり、自然なムラ感も物足りないものであった。また、複合糸にネップが多発していることにより、表面が非常にきたない織物であった。結果を表1に示す。
【0077】
比較例4
供給糸条として、極限粘度が0.47のポリエチレンテレフタレート100%からなる低粘度成分と、極限粘度が0.75のポリエチレンテレフタレート100%からなる高粘度成分を重量比50:50でサイドバイサイド型に貼り合わせたポリマーを紡速1450(m/min)で紡糸して、110dtex、12フィラメント、伸度300%のコンジュゲート未延伸マルチフィラメントaを得た。一方、平均一次粒子径が0.7μmである酸化チタンを2.3重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなるポリマーを紡速900(m/min)で紡糸して、103dtex、36フィラメント、伸度393%の未延伸マルチフィラメントbを得た。
【0078】
a、bの未延伸マルチフィラメントを引き揃えた後、表1および図1記載の製造方法で、杢延伸および混繊を実施し、表1に示す複合糸特性を示す複合糸を得た。
【0079】
得られた複合糸に実施例1と同じように織物を作成、染色加工を実施し、評価した結果、得られた織物はコイル捲縮が鞘側に構成されているため、ストレッチ性は不十分であり、反発感も乏しい織物であった。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の複合糸は、特にブラウス、スーツ、パンツ、ワンピース、コート、ブラックフォーマルなどの婦人衣料、ジャージ、アスレチックウェア、スキーウェアなどのスポーツ衣料用途に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の複合糸の製造工程を例示説明するための工程概略図である。
【符号の説明】
【0083】
1:ポリエステルマルチフィラメントAの未延伸マルチフィラメントa
2:ポリエステルマルチフィラメントBの未延伸マルチフィラメントb
3:ピンチローラ
4:ホットローラ
5:プレートヒーター
6:段付きドローローラ
7:インターレースノズル
8:複合糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメントAおよびBが混繊されてなる複合糸であり、該複合糸が下記(1)および(2)の特性を同時に満足し、かつ複合糸を構成する該マルチフィラメントAは捲縮発現能を有する太細コンジュゲートマルチフィラメントであり、該マルチフィラメントBは太細マルチフィラメントであることを特徴とする複合糸。
(1)1.5≦U%(%)≦10
(2)−5≦沸騰水収縮率差(A−B)(%)≦5
【請求項2】
前記マルチフィラメントBが平均一次粒子径0.02〜0.1μmである粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載の複合糸。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合糸を用いてなることを特徴とする織編物。
【請求項4】
前記マルチフィラメントBの表面に前記粒子の脱落によるミクロボイドを有することを特徴とする請求項3に記載の織編物。
【請求項5】
経糸または緯糸に請求項1または2に記載の複合糸を用い、該複合糸を用いた糸方向のストレッチ率が10%以上であることを特徴とする織物。
【請求項6】
少なくとも2成分のポリエステル重合体がサイドバイサイド型あるいは偏芯シースコア型に接合したコンジュゲート未延伸マルチフィラメントと、これとは別のポリエステル系未延伸マルチフィラメントを伸度差80%以下で紡糸し、その後1.7〜2.5倍の延伸倍率で杢延伸したことで得られる複合糸の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−144277(P2009−144277A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321609(P2007−321609)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】