説明

複合糸及びそれを用いてなる織編物

【課題】 耐切創性と耐鉤裂き性を有する織編物を提供することが可能な複合糸、及びそれを用いて作製された防護用の物品として好適な織編物を提供すること。
【解決手段】 直径が30μm以上100μm以下のステンレス鋼繊維フィラメントと、高機能フィラメント糸と、から構成されている複合糸、及びそれを用いて作製された織編物。前記複合糸は、(1)ステンレス鋼繊維フィラメントに高機能フィラメント糸がらせん状に巻き付けられているカバリング糸、(2)ステンレス鋼繊維フィラメントと高機能フィラメント糸を撚り合わせてなる合撚糸、又は、(3)ステンレス鋼繊維フィラメントと高機能フィラメント糸とを引き揃えて構成された配列糸である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防護用の物品に使用される複合糸、及びそれを用いて作製された鉤裂き性及び耐切創性に優れた織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属繊維と高強度合成繊維から構成される糸や織編物は、危険な作業において作業者の身体を保護するために使用する作業衣や作業用指サックなどとして広く利用されている。
【0003】
特公昭59−28641号公報には、可撓性を有する針金(直径102〜154μm)とそれに密着して並んでいるアラミド繊維ストランドからなるコアと、該コアにアラミド繊維の外被が相互に反対方向にらせん状に巻き付けられているダブルカバリング糸から作製された保護手袋が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
特公平3−62544号公報には、直径約40μmの1本のステンレス鋼針金とそれに沿わせた約133〜531.6デニールの1本のアラミド繊維紡績糸からなるコアと、該コアにアラミド繊維糸、さらにその上にナイロン糸がらせん状に巻き付けられているダブルカバリング糸から作製された作業用指サックが開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
また、特表2004−501292号公報には、直径が10〜150μmの金属繊維コアと、該コアを被覆するアラミドステープルから構成される糸から作製された耐切断性布が開示されている(特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特公昭59−28641号公報(第1欄、第3欄等)
【特許文献2】特公平3−62544号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特表2004−501292号公報(特許請求の範囲、段落番号0016等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたダブルカバリング糸からなる編物は、直径0.1mm超という大きな直径をもつ針金とアラミド繊維ストランドからなるコアに、アラミド繊維を巻き付けたものであるため、編成時の作業性が悪く、耐鉤裂き性も劣る。
【0008】
また、特許文献2では、指サックに柔軟性を付与するために、特許文献1で使用した金属繊維よりも細い金属繊維を用いているが、それを補強するためのアラミド紡績糸を沿わせたものを芯にしているため、糸の製造工程が煩雑となる。また、上記と同様、編成時の作業性が悪く、耐鉤裂き性に劣る。
【0009】
さらに、特許文献3に開示された糸からなる布帛は、金属繊維をアラミド紡績糸で包んでいるため耐切断性は優れているが、斜め方向から力が加わった場合に紡績糸が切断されやすくなり、そのため鉤裂き性に劣る欠点がある。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑みてなされたもので、耐切創性と耐鉤裂き性を有する織編物を提供することが可能な複合糸、及びそれを用いて作製された防護用の物品として好適な織編物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、かかる課題を解決するため鋭意検討した結果、直径が30μm以上100μm以下のステンレス鋼繊維フィラメントと、高機能フィラメント糸と、の複合糸を用いることにより、前記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。即ち、前記ステンレス鋼繊維により織編物に柔軟性と耐切創性が付与されると共に、それと複合する糸として紡績糸ではなくフィラメント糸を用いることによって、織編物に鉤裂き性が付与される。さらに、高機能フィラメント糸の加工糸を用いることによって、糸のカバリング性や合撚性が向上し、その結果、製織性および製編性(編み立て性)が良好で、高密度の織編物が得られることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、直径が30μm以上100μm以下のステンレス鋼繊維フィラメントと、高機能フィラメント糸と、から構成されていることを特徴とする複合糸を提供する。また、本発明は、該複合糸を用いて作製されたことを特徴とする織編物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、防護用の物品として好適な、耐切創性と耐鉤裂き性を有する織編物を提供することができる。本発明の織編物からなる防護用の物品を着用することにより、金属片や鋭利な刃物などから身体を保護することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の複合糸を構成するステンレス鋼繊維フィラメントは、その直径が30μm以上100μm以下のものが用いられる。直径が30μm未満の場合は、耐切創性が不十分となり、一方、直径が100μmを超える場合は、糸の製織性および製編性(編み立て性)や織編物の柔軟性に劣る。ステンレス鋼繊維の直径は、好ましくは50μm以上70μm以下である。前記のステンレス鋼繊維フィラメントとしては、長繊維の単糸1本を用いてもよく、長繊維を複数本引き揃えたものや合撚したもの等を用いることもできる。
【0015】
また、本発明の複合糸を構成する高機能フィラメント糸は、その構成繊維の種類は特に問わないが、本発明の目的を達成するために、高強度かつ高弾性率の高機能フィラメント糸を用いるのが好ましい。かかる高機能フィラメント糸としては、原糸の特性として、JISL 1013に基づいて測定される引張強度が10cN/dtex以上、好ましくは15cN/dtex以上であるという高引張特性と、JISL 1013に基づいて測定される引張り弾性率が400cN/dtex以上であるという高弾性率とを満足する繊維が好ましく使用される。引張強度が10cN/dtex以上、かつ、引張り弾性率が400cN/dtexの高機能フィラメント糸を用いることにより、複合糸に高度の耐屈曲性と耐摩耗性を付与し、また、織編物に耐鉤裂き性を付与することができるからである。
【0016】
かかる高機能フィラメント糸を構成する素材としては、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維(例えば株式会社クラレ製、商品名「ベクトラン」)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(例えば東洋紡株式会社製、商品名「ザイロン」)、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリアミドイミド繊維(例えばローヌプーラン社製、商品名「ケルメル」)、超高分子量ポリエチレン繊維(例えば東洋紡株式会社製、商品名「ダイニーマ」)、LCP(液晶ポリマー)繊維などが好ましく使用される。これらの繊維のなかでも、耐切創性に優れている点から、アラミド繊維が特に好ましく使用される。
【0017】
前記アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維があり、メタ系アラミド繊維としては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製、商品名「ノーメックス」)などのメタ系全芳香族ポリアミド繊維が使用される。また、パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」)およびコポリパラフェニレン−3,4'−ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、商品名「テクノーラ」)などのパラ系全芳香族ポリアミド繊維が使用される。これらの中でも、特に、高強度特性および高弾性率とともに耐切創性、耐熱性に優れている点から、パラ系アラミド繊維が好ましく使用される。該アラミド繊維は、公知またはそれに準ずる方法で製造でき、また、上記のような市販品を用いてもよい。
【0018】
かかる高機能フィラメント糸は、原糸あるいは加工糸のいずれを用いても良いが、糸のカバリング性や撚り性に優れると共に、織編物を形成したときの風合いがソフトであり、さらに伸縮性に優れるという観点から、高機能フィラメント糸に仮撚り加工を施した捲縮糸やエアー加工糸等の加工糸が、好ましく使用される。捲縮糸は、仮撚り加工(加撚→熱セット→解撚)まで加工していない加撚、熱セットのみのものや、仮撚り加工した糸を撚糸したもの、仮撚り加工した糸に熱セットをしたもの、または撚糸した糸を仮撚り加工したものであっても良い。
【0019】
かかる高機能フィラメント糸に捲縮を付与する方法としては、例えば、特開2001−248027号公報に開示されているように、高機能フィラメント糸に下記式(1)で表わされる撚り係数(K)16,000〜35,000の撚りを加え、次いで130〜250℃の高温高圧水蒸気または高温高圧水処理を行って撚りを固定し、撚りの固定された撚り糸を前記と反対方向に撚りを解撚する方法がある。
【0020】
K=t×D1/2 (1)
〔但し、tは撚り数(回/m)を表し、Dは繊度(dtex)を表す。〕
【0021】
また、パラ系アラミド繊維フィラメント捲縮糸条は、つぎの方法でも得られる。すなわち、パラ系アラミド繊維糸条に下記式(2)で表される撚り係数(K)16,000〜35,000の撚りを加え、次いで例えば空気中で加熱などの方法を用いて乾燥することにより、撚りを固定した後、撚りの固定された撚り糸を前記と反対方向に解撚ことによって得られる。このとき、該パラ系アラミド繊維として、好ましくは水分率15%以上、より好ましくは25%以上、特に好ましくは30〜100%であるものを使用するのがよい。該パラ系アラミド繊維に撚りを加える前の水分率が15%未満では、良好な撚りのセット効果が得られず、一方撚りを加える前の水分率が100%を越えると、リング撚糸機やダブルツイスターで撚りをかけるときに、遠心力で糸条から水分が飛び散って撚糸機が水浸しになるなど環境や作業性に支障をきたす。
【0022】
K=t×Dw1/2 (2)
〔但し、tは撚り数(回/m)を表し、Dwは水分を含む繊度(dtex)を表す。〕
【0023】
かかる高機能フィラメント捲縮糸の伸縮復元率は、望ましくは4〜80%である。伸縮復元率が4%未満では、織編物を形成したときの風合いにおいてソフト感が劣り、また80%以上ではステンレス鋼繊維との調和が悪く、カバリング糸の外観に凹凸が発生して好ましくない。また、残留トルク撚り数は、20回/m以上が好ましい。
【0024】
本発明にかかる高機能フィラメント糸は、上記高機能フィラメント糸の1種類からなっていてもよいし、任意の2種以上の上記高機能フィラメント糸からなっていてもよい。
【0025】
高機能フィラメント糸の繊度、フィラメント数は、用途目的に応じ、耐切創性、伸縮性、柔軟性、風合い等を考慮して適宜選択すればよい。繊度は、20dtex以上1600dtex以下の範囲が好ましい。また、単糸繊度は、0.1dtex以上10dtex以下の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.4dtex以上5dtex以下である。0.1dtex以下では、製糸効率が低くコストアップとなり、10dtex以上では剛性が高く、柔軟性の求められる織編物には向かない。
【0026】
本発明における複合糸の形態は、特に限定されないが、(1)ステンレス鋼繊維フィラメントに高機能フィラメント糸がらせん状に巻き付けられているカバリング糸、(2)ステンレス鋼繊維フィラメントと高機能フィラメント糸を撚り合わせてなる合撚糸、又は、(3)ステンレス鋼繊維フィラメントと高機能フィラメント糸とを引き揃えて構成された配列糸、などは好ましい形態である。なかでも、らせん状に巻き付けられているカバリング糸が、ステンレス鋼繊維が高機能フィラメント糸に被覆されるので、好ましい。これらのカバリング糸、合撚糸、及び配列糸は、公知またはそれに準ずる方法で製造できる。
【0027】
本発明の複合糸は、ステンレス鋼繊維フィラメントと高機能フィラメント糸を、重量比で5:95〜75:25の範囲で用いたものが好ましい。ステンレス鋼繊維の比率が少なすぎる場合は、織編物の耐切創性が不十分となり、一方、高すぎる場合は、布地が堅くなる。より好ましくは、重量比で25:75〜60:40の範囲である。
【0028】
複合糸がカバリング糸である場合、ステンレス鋼繊維単糸に高機能フィラメント糸をらせん状に一重に巻き付けたもの(SCY:シングル・カバード・ヤーン)であってもよく、また、優れた被覆性を得る観点からさらにその上に、高機能繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維などの合成繊維や、天然繊維などの他の公知の繊維をらせん状に巻き付け、ステンレス鋼繊維の回りを二重(DCY:ダブル・カバード・ヤーン)もしくは三重に被覆したものであってもよい。
【0029】
また、本発明の複合糸あるいはそれを被覆したカバリング糸は、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエステル、ナイロン、ポリビニルアルコール系繊維、弾性繊維など他の公知の繊維との混繊、交撚などによる複合糸としても使用することもできる。
【0030】
また、本発明の複合糸あるいはそれを被覆したカバリング糸は、必要に応じて染料や顔料で着色されていてもよい。着色方法として、紡糸前に染料や顔料をポリマーと混合して紡糸した原着糸を使用してもよく、各種方法で着色した糸を用いてもよい。織編物を染料や顔料で着色してもよい。
【0031】
本発明の複合糸及びそれを使用した糸は、織物、編物、組み紐などの組み物、ロープなどに形成してもよい。また、該織編物の全部又は一部分に、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂を含浸し、樹脂加工することもできる。
【0032】
本発明の複合糸及びそれを使用した糸の織編物は、その面密度(目付)が200〜600g/mの範囲であることが好ましく、目付が小さすぎる場合は耐鉤裂き性が低下し、大きすぎる場合は布地が堅くなる。より好ましい面密度(目付)の範囲は、250〜500g/mである。
【0033】
得られた織編物は、作業服、作業用手袋、作業用指サックなどの防護用の物品に好適に用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
ステンレス鋼繊維フィラメントの単糸1本(日本精線(株)製、直径52μm、比重7.98)に、東レ・デュポン(株)製のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント糸条(「KEVLAR(登録商標)」、単糸繊度1.65dtex、引張強度20.3cN/dtex、引張弾性率499cN/dtex)440dtexの仮撚り加工糸(商品名「KEVLAR(登録商標)ED」)をらせん状に巻き付けた上に、さらにウーリーナイロン繊維(78dtex)をポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維と反対方向にらせん状に巻き付け、複合糸を得た。この時のカバリング撚り数は、400回/mとした。
【0036】
なお、上記の捲縮糸は、フィラメント糸条にダブルツイスターで撚りを加え、撚り糸を飽和水蒸気処理設備に入れ、200℃の飽和水蒸気処理を行って撚りセットを行い、冷却後、ダブルツイスターで逆よりをかけて撚り数をほぼ0まで解撚して得たものであり、捲縮糸の伸縮復元率は9.6%、残留トルク撚り数は96.4回/mである。
【0037】
得られた複合糸を用い、(株)島精機製作所製の13ゲージ手袋編機にて筒状の編地(ヨコ編み組織)を編成した。
【0038】
(実施例2)
ステンレス鋼繊維フィラメントの単糸1本(日本精線(株)製、直径52μm、比重7.98)に、実施例1で使用したポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント糸条440dtexの仮撚り加工糸を、カバリング撚り数400回/mで、らせん状に巻き付け、複合糸を得た。得られた複合糸を用い、実施例1と同じ編成条件で筒状の編地(ヨコ編み組織)を編成した。
【0039】
(実施例3)
ステンレス鋼繊維フィラメントの単糸1本(日本精線(株)製、直径70μm、比重7.98)に、実施例1で使用したポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント糸条440dtexの仮撚り加工糸を、カバリング撚り数400回/mで、らせん状に巻き付け、複合糸を得た。得られた複合糸を用い、実施例1と同じ編成条件で筒状の編地(ヨコ編み組織)を編成した。
【0040】
(実施例4)
ステンレス鋼繊維フィラメントの単糸1本(日本精線(株)製、直径52μm、比重7.98)に、東レ・デュポン(株)製のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント糸条440dtexのエアー加工糸(商品名「KEVLAR(登録商標)LF」)を、カバリング撚り数400回/mで、らせん状に巻き付け、複合糸を得た。得られた複合糸を用い、実施例1と同じ編成条件で筒状の編地(ヨコ編み組織)を編成した。
【0041】
(実施例5)
ステンレス鋼繊維フィラメントの単糸1本(日本精線(株)製、直径52μm、比重7.98)に、東レ・デュポン(株)製のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント原糸糸条440dtex(商品名「KEVLAR(登録商標)」)をらせん状に巻き付けた上に、さらにウーリーナイロン繊維(78dtex)をポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維と反対方向にらせん状に巻き付け、複合糸を得た。この時のカバリング撚り数は、実施例1と同様に、400回/mとした。得られた複合糸を用い、実施例1と同じ編成条件で筒状の編地(ヨコ編み組織)を編成した。
【0042】
(実施例6)
ステンレス鋼繊維フィラメントの単糸1本(日本精線(株)製、直径70μm、比重7.98)に、実施例5で使用したポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント原糸糸条440dtexを、カバリング撚り数400回/mで、らせん状に巻き付け、複合糸を得た。得られた複合糸を用い、実施例1と同じ編成条件で筒状の編地(ヨコ編み組織)を編成した。
【0043】
(比較例1)
実施例2で使用したポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント糸条440dtexの仮撚り加工糸の替わりに、ウーリーポリエステル繊維(167dtex)3本を引き揃えたものを使用し、実施例1と同じ編成条件で筒状の編地(ヨコ編み組織)を編成した。
【0044】
(比較例2)
実施例1で使用したポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント糸条440dtexの仮撚り加工糸2本を引き揃えたものを使用し、実施例1と同じ編成条件で筒状の編地(ヨコ編み組織)を編成した。
【0045】
実施例と比較例の編物の特性を表1に示す。なお、下記表中の物性は次のようにして測定した。
【0046】
[鉤裂き性試験]
ISO13995「防護服−機械的特性−材料の突刺及び動的引裂に対する抵抗性試験法」に準拠した。落下刃物に対して垂直方向に取り付けられた試験片面に刃物取付落下重錘を一定距離から落下させ、重錘衝撃エネルギーによって試験片に発生する引裂長(鉤裂け長さ)を測定した。鉤裂き方向は、ウエル方向、コース方向で実施した。性能判定は、鉤裂け長さが40mm以内のとき「合格」とした。刃物保持ブロックと刃物の質量は1000kg、衝撃エネルギーは7Jで実施した。
【0047】
[耐切創性試験]
ISO13997「防護服−機械的特性−鋭利物に対する切創抵抗性試験方法」に準拠し、切創抵抗値を測定した。カット方向は45度方向とした。表中の耐切創性は、次式により求められる値である。耐切創性=(切創抵抗値/目付)×100
【0048】
【表1】

【0049】
表1から明らかなように、本発明に係る複合糸を使用した織編物は、耐鉤裂き性が合格レベルにあり、耐切創性にも優れていた。一方、ステンレス鋼繊維フィラメントとポリエステルフィラメントからなる複合糸を使用した織編物は、耐鉤裂き性及び耐切創性が不十分であった。また、ステンレス鋼繊維フィラメントを複合していないアラミド繊維捲縮糸を使用した織編物は、耐鉤裂き性は合格レベルに近いが、耐切創性が不十分であった。以上の結果から、ステンレス鋼繊維フィラメントと高機能フィラメント糸との複合糸を使用することにより、耐鉤裂き性と耐切創性をともに満足する織編物が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が30μm以上100μm以下のステンレス鋼繊維フィラメントと、高機能フィラメント糸と、から構成されていることを特徴とする複合糸。
【請求項2】
前記複合糸が、(1)ステンレス鋼繊維フィラメントに高機能フィラメント糸がらせん状に巻き付けられているカバリング糸、(2)ステンレス鋼繊維フィラメントと高機能フィラメント糸を撚り合わせてなる合撚糸、又は、(3)ステンレス鋼繊維フィラメントと高機能フィラメント糸を引き揃えて構成された配列糸である請求項1に記載の複合糸。
【請求項3】
前記ステンレス鋼繊維フィラメントと高機能フィラメント糸とを、重量比5:95〜75:25で用いた請求項1又は2に記載の複合糸。
【請求項4】
前記高機能フィラメント糸が、原糸の特性として、JIS L 1013に基づいて測定される引張強度が10cN/dtex以上で、かつ、JIS L 1013に基づいて測定される引張り弾性率が400cN/dtex以上である請求項1〜3のいずれかに記載の複合糸。
【請求項5】
前記高機能フィラメント糸がアラミド繊維から構成されてなる請求項1〜4のいずれかに記載の複合糸。
【請求項6】
前記アラミド繊維がポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維である請求項5に記載の複合糸。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の複合糸を用いて作製されたことを特徴とする織編物。

【公開番号】特開2007−39839(P2007−39839A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225814(P2005−225814)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】