説明

複合糸及び複合糸の製造方法

【課題】 性質の異なる複数本の糸を用いて、引張り強度をはじめその他に求められる特質を備えた複合糸の提供。
【解決手段】 芯糸2と編糸3を組み合わせ組織として構成した複合糸であって、上記芯糸2の周囲に編糸3にて編製した丸編み生地4を絡み合わた複合糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は引張り強度並びにその他の性質を備えた複合糸及び該複合糸を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自然界から得られる繊維は、ウールや麻のように短い短繊維なので、これをまとめて捩じることにより長く繋いで扱い易い太さとしたものが糸である。複数本を撚り合わせることで強度を増すことになる。絹やポリエステルのように、もともと長い繊維の場合も、2本以上の繊維を合わせてねじることで強度を増すことが出来る。又、特殊なものとして紙も糸の材料として一部で使用されており、この紙糸を用いることで、従来にない清涼感に優れた生地を作ることが可能となる。
【0003】
近年、一口に糸といってもその種類は非常に多く、色々な用途の糸が開発されている。特開2008−274468号に係る「紡績糸」は、強度、耐久性、ソフト性と低環境負荷性とを両立するものである。そこで、ポリ乳酸からなる繊度0.5〜5dtex、繊維長20〜100mmのポリ乳酸短繊維を10〜75質量%、およびポリ乳酸以外のポリエステルからなる繊度0.5〜5dtex、繊維長20〜100mmのポリエステル短繊維を25〜90質量%含んで構成している。
【0004】
例えば、上記紙を材料として構成される紙糸は、その引張り強度が弱くて一般的な綿糸や絹糸のように織編することは出来ない。又、引張り強度不足の他に摩擦も高くて、糸同士の接触に際して発生する大きな摩擦力によって切断してしまうケースも多い。その為に、従来の高速織機を用いて織ることは一般的に不可能となる。
【0005】
又、麻を材料として用いた麻糸の場合もその摩擦係数が高く、該麻糸を用いて織編する際に色々な問題が発生する。このように、多種・多様な糸が知られており、一方では引張り強度を増すと共に、柔軟性を向上する為に芯糸の周りに補助糸を巻き付けたカバーリング糸なるものが知られ、肌触りの良好なソフト感のある生地として織編されている。
【特許文献1】特開2008−274468号に係る「紡績糸」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、今日、糸の種類は非常に多いが、その材質によっては上記のごとき問題がある。本発明が解決しようとする課題はこれら問題点であって、高速織機又は高速編機によって織編することが出来る引張り強度を備え、又織編物に清涼感やソフト感などを備えることが出来る複合糸及び該複合糸の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る複合糸は芯糸の周りに編糸を絡ませて構成している。すなわち、丸編みした筒状生地の中心に芯糸が挿通して互いに絡み合った組織と成っている。ここで、該芯糸及び周囲の編糸の材質は限定しないが、例えば、芯糸として紙糸やフイルム糸を使用し、周囲の編糸としては該芯糸を保護する為に綿糸、ポリエチレン糸を使用して、紙糸やフイルム糸などの周りに綿糸やポリエチレン糸などで編製した丸編み生地を組合せた組織とすることが出来る。
【0008】
ところで、該複合糸を製造する為の装置は、貫通した穴を有す筒の側面に1本又は複数本の針を設け、該針は昇降動することが出来る。そして、筒は回転し、外から導かれた編糸は昇降動する上記針によって丸編みされる。芯糸は筒の穴を挿通し、針によって編製された編糸と絡みあう。そして、この複合糸は筒の下側に配置されたロールに巻き取られ、巻取りロールの付近には送りロールが配置されて複合糸に一定の張力を付勢している。
【0009】
そして、上記針は丸編み装置に使用されている針とその基本形態は共通し、先端は逆U形を形成し、該針より僅か下方に補助針を取付け、該補助針は揺動(上下動)して上記逆U形をした針の開口を開閉することが出来る。すなわち、筒の外径は小さくて針の本数も少ないが、その基本構造及び基本動作は丸編み装置と共通している。そして、針の本数を少なくすることで複合糸は細くなり、逆に針の本数を多くするならば太い複合糸になる。
【0010】
本発明の複合糸は芯糸の周囲に編糸にて編製した丸編み生地を絡み合わせて構成することを基本としているが、該芯糸を用いないで編糸だけで編製して複合糸を構成することも出来る。この場合、芯糸が存在しない為に細い複合糸となり、特に1本の針で編糸を編製すると非常に細くなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る複合糸は芯糸が筒を通過すると同時に、筒の回転と共に筒外周に取付けた針によって編糸が編製され、芯糸に編糸が絡み合った組織となってロールに巻き取られる。この複合糸は芯糸と編糸の材質の組合せによって、従来にない糸が出来上がる。基本的には、芯糸の特性を周囲の編糸によって増大させることが出来、又芯糸の欠点を周囲の編糸にて補うことが出来る。
【0012】
例えば、芯糸として引張り強度の低い紙糸を用い、編糸としてはこの引張り強度を補足する為にポリエステル繊維を使用するならば、その性質は紙糸をベースにして、一般の糸と同じく高速織機を用いて織製することが出来る。又、高速編機にて編製することが出来る。又、細い炭素繊維を編糸として芯糸の周りを被覆したり、細く裁断したフイルム糸の周りを編糸にてカバーすることも出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る糸を表す組織図。
【図2】本発明に係る糸の製造装置。
【図3】本発明に係る糸の製造工程。
【図4】本発明に係る糸の製造工程。
【図5】補助針が下がった状態の針。
【図6】補助針が上った状態の針。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明に係る複合糸1の拡大組織図を表している。(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は横断面図である。同図の2は芯糸、3は編糸を表し、芯糸2と編糸3が組み合わされて構成している。上記編糸3は概略筒状を形成した丸編み組織となり、編糸3で形成した丸編み生地4の内部に上記芯糸2が挿入されている。勿論、実際には丸編み生地4は捩れて同図に示すような整然とした組織ではないが、説明の都合上、丸編み生地4の捩れや縮れを除去して表している。
【0015】
ここで、本発明の複合糸1を組織する芯糸2及び編糸3の材質は限定しないが、製作される複合糸1は芯糸2と編糸3の両者の性質を合わせ持つようになる。例えば、芯糸2として紙を細く裁断した紙糸とした場合、この紙糸をそのまま織製することは引張り強度が低く問題がある。まして、高速織機を使用することは不可能である。そこで、この紙糸を芯糸2とし、その周りにポリエステル繊維から成る編糸3を編製することで、紙糸の特性を備えたままで引張り強度を向上することが出来る。
【0016】
図2は本発明の複合糸1を作る製造装置の概略図を表している。同図の5は筒、6は針、7は円筒カム、8はプーリー、9はモータを示し、2本の針6a,6bは上記筒5の中心軸に対して対称に取付けられ、筒5と共に回転することが出来る。同図では針6a,6bは側面からはみ出して配置された状態と成っているが、実際には側面10に細い溝が上下方向に形成され、この溝に針6a,6bは嵌っている。
【0017】
筒5の下端はプーリー8と連結し、モータ9にてプーリー8が回転するならば、筒5も同時に回転することが出来る。モータ9の主軸にもプーリー11が取付けられ、両プーリー8,11にはベルト12が巻き掛けられている。このように、筒5は回転するが、円筒カム7は筒5に嵌って筒5の外周に位置し、回転しないように固定されている。
【0018】
ところで、上記針6a,6bの下端にはローラ13,13が取付けられ、このローラ13,13は円筒カム7に設けたカム溝14に遊嵌している。従って、針6a,6bは筒5と共に回転し、円筒カム7によって上下動することが出来る。すなわち、針6a,6bは上昇することで筒5の上端15から上方へ突出し、降下するならば上端15まで下がることが出来る。
【0019】
又同図の2は芯糸を表し、芯糸2は筒5の内部へ導かれる。そして、編糸3は筒5の斜め上部に配置したガイド16の穴17を挿通して針6a,6bに係止して編製される。編製された糸1は筒5から出て巻取りロール18に巻き取られるが、糸1は対を成す送りローラ19a,19bに挟まれて下方へ引張られ、上記巻取りロール18に巻き取られる。
【0020】
ところで、図2に示す糸の製造装置では筒5に4本の針6a,6b・・・を備えているが、丸編み生地4の編組織によっては2本の針6a,6bを備える場合もあり、又は6本の針6a,6b,6c・・・を備える場合もある。同じ外径の筒5に対して針6a,6b・・・の本数が多くなると編組織は細かく成る。これは、完成する複合糸1が求める性質によって、芯糸2と編糸3の比率が定まる。
【0021】
図3は筒5に2本の針6a,6bを備えた場合の編糸3の編工程を示す具体例である。同図では筒5を挿通する芯糸2は省略している。
(1)は筒5の上端15から片方の針6aは上方へ延びており、この針6aの先端に編糸3が係止している。そして、他方の針6bは降下して先端は筒5の上端15に位置している。編糸3はガイド16の穴17から出て、針6aに係止して筒5を挿通し、そして芯糸2と共に送りローラ19a,19bに引張れて巻取りロール18に巻き取られる。上記筒5は矢印方向(反時計方向)に回転し、2本の針6a,6bは筒5と共に回転する為に、係止した編糸3は回転する針6aによって引張られる。
【0022】
(2)は編糸3が係止した針6aの回転に伴って引張られた状態を示している。ここで、他方の針6bにはまだ編糸3は係止していないが、針6aは回転と共に降下する。編糸3は針6aが最も上昇した位置で係止し、その後、筒5が90°回転することで針6aは1/2降下する。他方の針6bは最下端の位置から上昇し、90°回転した状態で両針6a,6bの高さは同一になる。
(3)は筒5が180°回転した場合を示している。針6aには編糸3が係止しており、針6aは降下して先端は筒5の上端15に位置する。この場合、針6aと対向する位置にある別の針6bは上昇して最上端の位置にあり、該針6bに編糸3が係止する。
【0023】
(4)は筒5が(3)の状態から90°回転した場合であり、編糸3は針6aと針6bの両方に係止している。針6bは1/2降下し、針6aは(3)における最下端の位置(筒上端位置)から1/2上昇している。この場合、針6aが上昇することで、先端部に取付けている補助針20aが揺動して下がる。勿論、補助針20aは既に下がっている場合が多い。
【0024】
(5)は針6aに編糸3が係止した(1)の状態から筒5が360°回転した場合であり、針6aは最上端に位置し、対向する別の針6bは最下端に位置する。
図5は針6aが最上端に上昇した場合の拡大図であり、この場合、針6aの先端部に揺動可能に取付けられている補助針20aは下がり、編糸3は補助針20aの先端から離れて僅か下方に位置している。そして、最上端に上昇した針6aには、筒5の回転に伴い編糸3が再び係止することに成る。
【0025】
(6)は(5)の状態から筒5が90°回転した場合を示している。針6aは降下し、最下端に位置した別の針6bは上昇する。図6は針6aが1/2降下した場合の拡大図であり、該針6aが降下するならば、補助針20aは最初に係止した編糸3によって揺動して上る。(5)の状態で針6aに係止した編糸3はそのまま係止している。
【0026】
(7)は筒5がさらに90°回転した場合であり、針6aは最下端に位置する。すなわち、針6aの先端は筒上端15に位置し、その結果、下方へ引張られている為に編糸3は補助針20a及び針6aから離脱する。この場合、別の針6bは最上端に上昇して該針6bには編糸3が係止し、最初に係止している編糸3は下がった補助針20bの先端下方に位置している。
【0027】
図4は図3の各行程を表す平面図である。このように、筒5に取付けた針6a,6bが該筒5と共に昇降動しながら回転することで、編糸3は編製されて丸編み生地4が形成される。本発明では、筒5に芯糸2を挿通することで、丸編み生地4に芯糸2が組み込まれた複合糸1と成る。該実施例では筒5に2本の針6a,6bを備えた場合について説明したが、4本の針6a,6b・・・を備えて編製することも出来、又は1本の針6で編製することも可能と成る。1本の針6にて編製した複合糸1は細い糸になる。逆に、針6a,6b・・・の本数を多くするならば太い複合糸1が作られる。
【符号の説明】
【0028】
1 糸
2 芯糸
3 編糸
4 丸編み生地
5 筒
6 針
7 円筒カム
8 プーリー
9 モータ
10 側面
11 プーリー
12 ベルト
13 ローラ
14 カム溝
15 上端
16 ガイド
17 穴
18 巻取りロール
19 送りローラ
20 補助針


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸と編糸を組み合わせ組織として構成した複合糸において、上記芯糸の周囲に編糸にて編製した丸編み生地を絡み合わせたことを特徴とする複合糸。
【請求項2】
上記芯糸として細く裁断した紙糸を用いた請求項1記載の複合糸。
【請求項3】
上記芯糸として細く裁断したフイルムを用いた請求項1記載の複合糸。
【請求項4】
上記芯糸を用いないで、1本又は複数本の編糸によって編製した請求項1記載の複合糸。
【請求項5】
芯糸の周りに丸編み生地を絡み合わせた複合糸を製作する方法において、回転する筒の側面に1本又は複数本の針を昇降動可能に取付け、芯糸を筒内部を挿通し、上記筒を回転すると共に針を昇降動することで編糸を編製して該芯糸と絡ませ、編製されて筒を通過した複合糸を送りロールにて引張り、巻取りロールに巻き付けることを特徴とする複合糸の製造方法。
【請求項6】
1本又は複数本の編糸によって構成する複合糸を製作する方法において、回転する筒の側面に1本又は複数本の針を昇降動可能に取付け、上記筒を回転すると共に針を昇降動することで編糸を編製し、編製されて筒を通過した複合糸を送りロールにて引張り、巻取りロールに巻き付けることを特徴とする複合糸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−162914(P2011−162914A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27207(P2010−27207)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(594159881)株式会社半田製作所 (1)
【Fターム(参考)】