説明

複合紫外線遮断剤、化粧料及び樹脂組成物

【課題】UV−A,UV−Bの広い波長範囲で紫外線の有害作用を防止し、同時に、高い透明性を確保することができる複合紫外線遮断剤、化粧料及び樹脂組成物を提供する。
【解決手段】レピドクロサイト型板状チタン酸の結晶粒子と、このレピドクロサイト型板状チタン酸の結晶粒子の表面に被覆された酸化セリウム系結晶粒子とを有し、酸化セリウム系結晶粒子が、レピドクロサイト型板状チタン酸の結晶粒子と酸化セリウム系結晶粒子との総和に対して20質量%乃至90質量%含まれる複合紫外線遮断剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UV−A,UV−Bの広い波長範囲で紫外線の有害作用を防止し、同時に、高い透明性を確保する複合紫外線遮断剤、化粧料及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線には、波長が320から400nmのUV−A領域の紫外線,波長が280から320nmのUV−B領域の紫外線があるが、いずれの領域においても生体に対して悪影響を及ぼすことが知られている。すなわち、UV−B領域の紫外線は、皮膚の紅斑水疱等の炎症を引き起こし、UV−A領域の紫外線は、メラニン生成を促して、皮膚の褐色化を生じさせることが知られている。このような紫外線の悪影響の対策として、従来多種多様な日焼け止め化粧料が知られている。これらの化粧料に用いられてきた紫外線遮断剤は、ケイ皮酸系、ベンゾフェノン系、ジベンゾイルメタン系等の有機系紫外線遮断剤と、酸化亜鉛、酸化チタン等の無機系紫外線遮断剤との2種類に分けられる。しかし有機系紫外線遮断剤は、紫外線の吸収性が不十分であり、或いは、大量に配合すると安全性の面から好ましくない等の問題がある。これに対し、無機系の紫外線遮断剤については、性能を発揮させるため微粒子が用いられ、そのため凝集力が強く化粧料の中で均一に分散させることが困難である。また酸化亜鉛、酸化チタン単独ではUV−A、UV−Bすべての波長領域の紫外線を遮断することは不可能で両者を混合して使うなどされているが両者とも微粒子であるためやはり混合時に凝集を起こし本来の性能を発揮させることができなかった。こうした凝集を起こした無機系紫外線遮断剤を多く使用すると使用感の悪化を来すだけでなく透明感のあるナチュラルな仕上がりの化粧料を得ることが困難で不自然な化粧仕上がりとなる等の問題があった。
【0003】
また、紫外線は樹脂組成物を劣化させるので、この劣化を防止するために有機系、無機系の紫外線遮断剤が開発され、これらを樹脂組成物に添加することで紫外線の影響を低減させることが行われてきた。有機系紫外線遮断剤には、サリチル酸系、ベンゾフェノン系ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系などがあるが、最近では、耐熱性や耐候性の不足や、その分解生成物の安全性などが問題にされている。無機系紫外線遮断剤の微粒子酸化チタンや微粒子酸化亜鉛が開発されてきたが、これについては化粧料と同様凝集力が強いため単一又は複合で用いる時、樹脂組成物中に均一に分散するのが困難で透明な樹脂組成物に添加すると透明性がそこなわれることが問題であった。
【0004】
最近では、特開平6−145645号や特開平7−207251号に見られるようにマイカ、タルク、セリサイトのようなフレーク状粒子やシリカ、ガラスのような粒状の粒子表面にセリウム化合物を被覆した紫外線遮断剤が提案されている。ところがこれらの酸化セリウム系の遮断剤でもUV−A、UV−Bの広い波長範囲の紫外線を遮断することは十分ではなく、酸化チタンや酸化亜鉛微粒子を使用する場合ほどではないが、化粧品、プラスチックに添加した場合透明性が低下するという問題があった。またマイカ、タルク、セリサイト、シリカ、ガラスはそれ自体には紫外線遮断能力がないため複合化した時紫外線遮断能力の低下は避けられないという問題もあった。
【特許文献1】特開平6−145645号、特許請求の範囲等
【特許文献2】特開平7−207251号、特許請求の範囲等
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情の鑑みてなされたもので、UV−A,UV−Bの広い波長範囲で紫外線の有害作用を防止し、同時に、高い透明性を確保することができる複合紫外線遮断剤、化粧料及び樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成を備えている。
【0007】
(1)レピドクロサイト型板状チタン酸結晶粒子と、このレピドクロサイト型板状チタン酸結晶粒子の表面に被覆された酸化セリウム系結晶粒子とを有し、前記レピドクロサイト型板状チタン酸は、化学式K3xLiTi2−x、K2xMgTi2−x,及びKFeTi2−x(但し、いずれの化学式においても,0.05≦x≦0.5)の群から選択されるレピドクロサイト型板状チタン酸の一種又は二種以上であって、その結晶粒子の直径が1μm乃至100μmの範囲にあり、アスペクト比が5以上であり、前記酸化セリウム系結晶粒子は、レピドクロサイト型板状チタン酸の結晶粒子と酸化セリウム系結晶粒子との総和に対して20質量%乃至90質量%含まれ、結晶粒が200nm以下である、複合紫外線遮断剤。
【0008】
(2)レピドクロサイト型板状チタン酸の結晶粒子と、このレピドクロサイト型板状チタン酸の結晶粒子の表面に被覆された酸化セリウム系結晶粒子と、酸化セリウム系結晶粒子の表面をさらに被覆する非晶質シリカとを有し、前記レピドクロサイト型板状チタン酸は、化学式K3xLiTi2−x、K2xMgTi2−x,及びKFeTi2−x(但し、いずれの化学式においても,0.05≦x≦0.5)の群から選択されるレピドクロサイト型板状チタン酸の一種又は二種以上であって、その結晶粒子の直径が1μm乃至100μmの範囲にあり、アスペクト比が5以上であり、前記酸化セリウム系結晶粒子は、レピドクロサイト型板状チタン酸の結晶粒子と酸化セリウム系結晶粒子との総和に対して20質量%乃至90質量%含まれ、結晶粒が200nm以下である、複合紫外線遮断剤。
【0009】
(3)酸化セリウム系結晶粒子は、酸化セリウム単独、若しくは、酸化セリウムを主体とし、Ca,Y,La,Nd,Eu,Tb,Sm,Mg,Sr,Ba,Ce,Zn,Fe,Co,Niから選択された一種又は二種以上の金属の酸化物を酸化セリウムに被覆し又は固溶したものである(1)又は(2)に記載の複合紫外線遮断剤。
【0010】
(4) (1)乃至(3)のいずれかに記載の複合紫外線遮断剤を含む化粧料。
【0011】
(5) (1)乃至(3)のいずれかに記載の複合紫外線遮断剤を含む樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、レピドクロサイト型板状チタン酸結晶粒子と、このレピドクロサイト型板状チタン酸結晶粒子の表面に被覆された酸化セリウム系結晶粒子とを有し、酸化セリウム系結晶粒子が、レピドクロサイト型板状チタン酸の結晶粒子と酸化セリウム系結晶粒子との総和に対して20質量%乃至90質量%含まれるので、UV−A,UV−Bの広い波長範囲で紫外線の有害作用を防止し、同時に、高い透明性を確保することができ、複合紫外線遮断剤、化粧料及び樹脂組成物に有効に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、レピドクロサイト型板状チタン酸結晶粒子と酸化セリウム系結晶粒子とを組み合せた点に特徴がある。本発明で用いるレピドクロサイト型板状チタン酸はマイカやタルクと同様薄い板状結晶をしており且つUV−B領域の紫外線を遮断する性質を持つ材料である。本発明ではこのレピドクロサイト型板状チタン酸にUV−A領域に強い紫外線遮断能力を有する酸化セリウム系紫外線遮断剤を被覆し複合化することによりそれぞれの特性を効率よく引き出した本発明の複合紫外線遮断剤を得ることができる。これを、化粧料や樹脂組成物中に添加しても透明性を損なわない。
【0014】
(レピドクロサイト型板状チタン酸結晶粒子)
本発明のレピドクロサイト型板状チタン酸は、化学式、K3xLixTi2-x4又はK2xMgxTi2-x4又はKxFexTi2-x4の一種又は二種(xが0.05から0.5の範囲、より望ましくは0.2〜0.4)で表され、直径が1μmから100μm、より望ましくは3μm以上50μm、アスペクト比が5以上であるのがよい。
【0015】
xが0.05よりも小さいとレピドクロサイト型チタン酸塩が板状構造とならず、xが0.5より大きいと単一相レピドクロサイト型チタン酸塩とならず板状ではない粒子が混在するので、肌さわりが低下し、或いはUV−B領域の紫外線遮断能力が小さくなる。
【0016】
直径が1μmより小さいと、板状チタン酸自体の凝集力が大きくなり、分散性が低下してその表面に酸化セリウムを含む紫外線遮断剤が効率よく被覆できない。板状チタン酸の径が100μmを超えるとUV−B領域の紫外線遮断能力が低下する。
【0017】
アスペクト比が5未満になると化粧料としては肌触り、感触が悪くなり、さらに化粧料、樹脂組成物中に添加した時の透明性が低下し、複合粒子として実用に適さない。
【0018】
板状チタン酸の径の測定は以下の方法による。
【0019】
走査型電子顕微鏡写真から代表的な粒子30個を選び、その粒子の板状面における最長部分の長さと最短部分の長さを顕微鏡のスケールを基準に読み取り、両者の平均値を一粒子の径とし、30個の平均値を代表径とした。
【0020】
板状チタン酸のアスペクト比の測定は以下の方法による。
【0021】
板状チタン酸の径の測定と同様にして走査型電気顕微鏡写真から代表的な粒子30個を選びその板状面の最長部分の長さと最短部分の長さを顕微鏡のスケールを基準に読み取り両者の平均値を一粒子の径とし、30個の平均を代表径とした。さらに代表的な粒子30個を選びその厚み方向の最長部分の長さと最短部分の長さを顕微鏡のスケールを基準に読み取り両者の平均値を一粒子の厚みとし、30個の平均を代表厚みとした。代表径を代表厚みで割った値をアスペクト比とした。
【0022】
このレピドクロサイト型板状チタン酸は、例えば所定比のK2CO3,Li2CO3,TiO2,MgCO3,Fe23等の主原料とフラックスとして例えばK2MoO4,NaCl等を混合し900℃から1100℃で数時間反応させた後、フラックス成分を洗浄して得ることができる。
【0023】
(酸化セリウム系結晶粒子)
本発明に係る複合紫外線遮断剤は、上記レピドクロサイト型板状チタン酸の表面に酸化セリウム系結晶粒子を質量比で20から90%被覆したものである。
【0024】
酸化セリウム系とは、酸化セリウム単独、酸化セリウムをベースに別の金属酸化物を固溶又は被覆した紫外線遮断剤である。別の金属酸化物としては、Ca,Y,La,Nd,Eu,Tb,Sm,Mg,Sr,Ba,Ce,Zn,Fe,Co,Niが挙げられる。
【0025】
酸化セリウム系結晶粒子の被覆量は20質量%より少ないとUV−A領域の紫外線遮断効果が十分でなく、90%より多いと板状粒子に対して酸化セリウム系の微粒子が過剰となり微粒子同士の凝集がおこり性能が低下する。望ましくは30質量%から70質量%が効果的である。
【0026】
酸化セリウム系結晶粒子は、結晶径200nm以下がよく、より望ましくは100nm以下がさらに効果的である。200nmを越える結晶径になると可視光域での透明性が得られず、また板状チタン酸表面への被覆がすぐはがれて分離してしまう。
【0027】
酸化セリウム系結晶粒子の結晶径の測定方法は以下のとおりである。
【0028】
走査型電子顕微鏡写真から代表的な粒子30個を選び、その粒子の最長部分の長さと最短部分の長さを顕微鏡のスケールを基準に読み取り、両者の平均値を一粒子の径とし、30個の平均値を代表径とした。
【0029】
レピドクロサイト型板状チタン酸表面に酸化セリウム系結晶粒子を被覆複合させる方法は、例えば上記反応で得られたレピドクロサイト型板状チタン酸を分散させた水スラリーにセリウムとその他必要な金属の塩酸塩,硝酸塩,硫酸塩等とアルカリ水溶液、シュウ酸水溶液等の沈殿生成剤を同時滴下し、レピドクロサイト型板状チタン酸の表面に酸化セリウムを含む水酸化物、シュウ酸塩等の沈殿を析出させ、その後過酸化水素を添加し、或いは1200℃以下で仮焼するなどの方法を適用できる。
【0030】
(非晶質シリカ)
本発明では、酸化セリウム系結晶粒子の表面をさらに非晶質シリカで被覆することができる。非晶質シリカとは、珪酸ナトリウム、シリコンのアルコキシド等を加水分解することによって析出させるSiO成分であり、非晶質で超微粉であるため、酸化セリウム結晶の表面に被覆することにより、酸化セリウムの持つ酸化触媒活性力を軽減することができる。被覆量は酸化触媒活性を軽減するのに必要最小限とする。通常は、酸化セリウム100質量部に対して5〜230重量部程度である。
【0031】
以上のようにして得られた複合紫外線遮断剤は化粧料、樹脂組成物に通常の顔料等を混合すると同様な方法で添加することにより皮膚を紫外線から守り、樹脂組成物の紫外線劣化を防止する等の効果を得ることができる。
【実施例】
【0032】
実施例1
2CO3,Li2CO3,TiO2をK0.8Li0.27Ti1.734の組成の板状チタン酸が200g製作できるよう秤量し乳鉢で混合、炭酸成分を焼き飛ばすためその混合物を電気炉中800℃で30分加熱し混合物Aとした。その後、混合物AとフラックスであるK2MoO4を重量比で1:1の割合で混合し混合物Bとした。混合物Bを電気炉において950℃で2時間反応させ、冷却後沸騰水でK2MoO4を洗浄除去し、80℃で乾燥し板状チタン酸を得た。
【0033】
次にこの板状チタン酸100gを2リットルの水に分散、撹拌しながら加熱して40℃のスラリーとした。このスラリーにCeO2:CaOがモル比で4:1、両者の合計量が100gになるように調整した塩化セリウムと塩化カルシウムの混合溶液500mLと、両塩化物を中和して水酸化物沈殿を得るのに必要な水酸化ナトリウム当量の1.3倍量を溶解した水酸化ナトリウム溶液500mLを、40℃を維持しながら約2時間かけて同時滴下し、滴下終了後30%過酸化水素水溶液30mLを加え沈殿を酸化した。ろ過、洗浄、乾燥後、700℃で1時間焼成した後粉砕し板状チタン酸にカルシウムドープセリアを50質量%被覆した複合紫外線遮断剤を得た。
【0034】
実施例2
2CO3、Li2CO3、TiO2をK0.8Li0.1Ti1.94の組成の板状チタン酸が200g製作できるよう秤量し乳鉢で混合、炭酸成分を焼き飛ばすためその混合物を電気炉中800℃で30分加熱し混合物Aとした。その後、混合物AとフラックスであるK2MoO4を重量比で1:1の割合で混合し混合物Bとした。混合物Bを電気炉において950℃で2時間反応させ、冷却後沸騰水でK2MoO4を洗浄除去し、80℃で乾燥し板状チタン酸を得た。
【0035】
次にこの板状チタン酸60gを2リットルの水に分散、撹拌しながら加熱して40℃のスラリーとした。このスラリーにCeO2:CaOがモル比で4:1、両者の合計量が140gになるように調整した塩化セリウムと塩化カルシウムの混合溶液500mLと、両塩化物を中和して水酸化物沈殿を得るのに必要な水酸化ナトリウム当量の1.3倍量を溶解した水酸化ナトリウム溶液500mLを、40℃を維持しながら約2時間かけて同時滴下し、滴下終了後30%過酸化水素水溶液40mLを加え沈殿を酸化した。ろ過、洗浄、乾燥後、700℃で1時間焼成した後粉砕し板状チタン酸にカルシウムドープセリアを70質量%被覆した複合紫外線遮断剤を得た。
【0036】
実施例3
2CO3、Mg2CO3、TiO2をK0.6Mg0.3Ti1.74の組成の板状チタン酸が200g製作できるよう秤量し乳鉢で混合、炭酸成分を焼き飛ばすためその混合物を電気炉中800℃で30分加熱し混合物Aとした。その後、混合物AとフラックスであるK2MoO4を重量比1:1の割合で混合し混合物Bとした。混合物Bを電気炉において1000℃で4時間反応させ、冷却後沸騰水でK2MoO4を洗浄除去し、80℃で乾燥し板状チタン酸を得た。
【0037】
次はこの板状チタン酸170gを2リットルの水に分散、撹拌しながら加熱して70℃のスラリーとした。このスラリーにCeO2:CaOがモル比で4:1、両者の合計量が60gになるように調整した塩化セリウムと塩化カルシウムの混合溶液500mLと、両塩化物を中和して水酸化物沈殿を得るのに必要な水酸化ナトリウム当量の1.3倍量を溶解した水酸化ナトリウム溶液500mLを、70℃を維持しながら約2時間かけて同時滴下し、滴下終了後30%過酸化水素水溶液20mLを加え沈殿を酸化した。ろ過、洗浄、乾燥後、800℃で1時間焼成した後粉砕し板状チタン酸にカルシウムドープセリアを30質量%被覆した複合紫外線遮断剤を得た。
【0038】
実施例4
2CO3、Li2CO3、TiO2をK0.3Li0.1Ti1.94の組成の板状チタン酸が200g製作できるよう秤量し乳鉢で混合、炭酸成分を焼き飛ばすためその混合物を電気炉中800℃で30分加熱し混合物Aとした。その後、混合物AとフラックスであるK2MoO4を重量比1:1の割合で混合し混合物Bとした。混合物Bを電気炉において950℃で2時間反応させ、冷却後沸騰水でK2MoO4を洗浄除去し、80℃で乾燥し板状チタン酸を得た。
【0039】
次にこの板状チタン酸60gを2リットルの水に分散、撹拌しながら加熱して40℃のスラリーAとした。このスラリーAにCeO2の量が70gになるように調整した塩化セリウム溶液500mLと、この塩化セリウムを中和して水酸化物沈殿を得るのに必要な水酸化ナトリウムを当量の1.1倍を溶解した水酸化ナトリウム溶液500mLを40℃に維持しながら約2時間かけて同時滴下し、その後30%過酸化水素水溶液30mLを加え水酸化セリウムを酸化しCeO2としスラリーBを得た。さらに析出したCeO2にSiO2被覆を行った。その方法はスラリーBを80℃以上に加熱し、そこに加水分解して30gの沈殿SiO2が得られるように3号珪酸ソーダ285g(SiO2 含有率28.5質量%)を水に薄めて500mLとした液と2%希硫酸液500mLを、液のpHを9以上に保ちながら2時間程度かけて同時滴下した。滴下終了後液のpHを7に調整し、ろ過、洗浄、乾燥、粉砕して板状チタン酸にシリカ被覆セリアを50質量%被覆した複合紫外線遮断剤を得た。
【0040】
実施例5
2CO3、Fe23、TiO2をK0.6Fe0.3Ti1.74の組成の板状チタン酸が200g製作できるよう秤量し乳鉢で混合、炭酸成分を焼き飛ばすためその混合物を電気炉中800℃で30分加熱し混合物Aとした。その後、混合物AとフラックスであるNaClを重量比2:1の割合で混合し混合物Bとした。混合物Bを電気炉において1050℃で4時間反応させ、冷却後沸騰水でNaClを洗浄除去、80℃で乾燥し板状チタン酸を得た。
【0041】
次にこの板状チタン酸60gを2リットルの水に分散、撹拌しながら加熱して40℃のスラリーAとした。このスラリーAにCeO2の量が70gになるように調整した塩化セリウム溶液500mLと、この塩化セリウムを中和して水酸化物沈殿を得るのに必要な水酸化ナトリウムを当量の1.1倍を溶解した水酸化ナトリウム溶液500mLを40℃に維持しながら約2時間かけて同時滴下し、その後30%過酸化水素水溶液30mLを加え水酸化セリウムを酸化しCeO2としスラリーBを得た。さらに析出したCeO2にSiO2被覆を行った。その方法はスラリーBを80℃以上に加熱し、そこに加水分解して30gの沈殿SiO2が得られるように3号珪酸ソーダ285g(SiO2含有率28.5質量%)を水に薄めて500mLとした液と2%希硫酸液500mLを、液のpHを9以上に保ちながら2時間程度かけて同時滴下した。滴下終了後液のpHを7に調整し、ろ過、洗浄、乾燥、粉砕して板状チタン酸にシリカ被覆セリアを50質量%被覆した複合紫外線遮断剤を得た。
【0042】
比較例1
2CO3、Li2CO3、TiO2をK0.09Li0.03Ti1.974の組成の板状チタン酸が200g製作できるよう秤量し乳鉢で混合、炭酸成分を焼き飛ばすためその混合物を電気炉中800℃で30分加熱し混合物Aとした。その後、混合物AとフラックスであるK2MoO4を重量比1:1の割合で混合し混合物Bとした。混合物Bを電気炉において950℃で2時間反応させ、冷却後沸騰水でK2MoO4を洗浄除去し、80℃で乾燥し板状チタン酸を得た。
【0043】
次にこの板状チタン酸100gを2リットルの水に分散、撹拌しながら加熱して40℃のスラリーとした。このスラリーにCeO2:CaOがモル比で4:1、両者の合計量が100gになるように調整した塩化セリウムと塩化カルシウムの混合溶液500mLと、両塩化物を中和して水酸化物沈殿を得るのに必要な水酸化ナトリウム当量の1.3倍量を溶解した水酸化ナトリウム溶液500mLを、40℃を維持しながら約2時間かけて同時滴下し、滴下終了後30%過酸化水素水溶液30mLを加え沈殿を酸化した。ろ過、洗浄、乾燥後、700℃で1時間焼成し板状チタン酸にカルシウムドープセリアを50質量%被覆した複合紫外線遮断剤を得た。
【0044】
比較例2
2CO3、Li2CO3、TiO2をK2.1Li0.7Ti1.34の組成の板状チタン酸が200g製作できるよう秤量し乳鉢で混合、炭酸成分を焼き飛ばすためその混合物を電気炉中800℃で30分加熱し混合物Aとした。その後、混合物AとフラックスであるK2MoO4を重量比1:1の割合で混合し混合物Bとした。混合物Bを電気炉において1000℃で2時間反応させ、冷却後沸騰水でK2MoO4を洗浄除去し、80℃で乾燥し板状チタン酸を得た。
【0045】
次にこの板状チタン酸100gを2リットルの水に分散、撹拌しながら加熱して40℃のスラリーとした。このスラリーにCeO2:CaOがモル比4:1、両者の合計量が100gになるように調整した塩化セリウムと塩化カルシウムの混合溶液500mLと、両塩化物を中和して水酸化物沈殿を得るのに必要な水酸化ナトリウム当量の1.3倍量を溶解した水酸化ナトリウム溶液500mLを、40℃を維持しながら約2時間かけて同時滴下し、滴下終了後30%過酸化水素水溶液30mLを加え沈殿を酸化した。ろ過、洗浄、乾燥後、700℃で1時間焼成し板状チタン酸にカルシウムドープセリアを50質量%被覆した複合紫外線遮断剤を得た。
【0046】
比較例3
2CO3、Li2CO3、TiO2をK1.2Li0.4Ti1.64の組成の板状チタン酸が200g製作できるよう秤量し乳鉢で混合、炭酸成分を焼き飛ばすためその混合物を電気炉中800℃で30分加熱し混合物Aとした。その後、混合物AとフラックスであるK2MoO4を重量比1:1の割合で混合し混合物Bとした。混合物Bを電気炉において1100℃で2時間反応させ、冷却後沸騰水でK2MoO4を洗浄除去し、80℃で乾燥し板状チタン酸を得た。
【0047】
次にこの板状チタン酸100gを2リットルの水に分散、撹拌しながら加熱して40℃のスラリーとした。このスラリーにCeO2:CaOがモル比で4:1、両者の合計量が100gになるように調整した塩化セリウムと塩化カルシウムの混合溶液500mLと、両塩化物を中和して水酸化物沈殿を得るのに必要な水酸化ナトリウム当量の1.3倍量を溶解した水酸化ナトリウム溶液500mLを、40℃を維持しながら約2時間かけて同時滴下し、滴下終了後30%過酸化水素水溶液30mLを加え沈殿を酸化した。ろ過、洗浄、乾燥後、700℃で1時間焼成した後粉砕し板状チタン酸にカルシウムドープセリアを50質量%被覆した複合紫外線遮断剤を得た。
【0048】
比較例4
2CO3、Li2CO3、TiO2をK0.8Li0.27Ti1.784の組成の板状チタン酸が200g製作できるよう秤量し乳鉢で混合、炭酸成分を焼き飛ばすためその混合物を電気炉中800℃で30分加熱し混合物Aとした。その後、混合物AとフラックスであるK2MoO4を重量比1:1の割合で混合し混合物Bとした。混合物Bを電気炉において950℃で2時間反応させ、冷却後沸騰水でK2MoO4を洗浄除去し、80℃で乾燥し板状チタン酸を得た。
【0049】
次にこの板状チタン酸180gを2リットルの水に分散、撹拌しながら加熱して40℃のスラリーとした。このスラリーにCeO2:CaOがモル比で4:1、両者の合計量が20gになるように調整した塩化セリウムと塩化カルシウムの混合溶液500mLと、両塩化物を中和して水酸化物沈殿を得るのに必要な水酸化ナトリウム当量の1.3倍量を溶解した水酸化ナトリウム溶液500mLを、40℃を維持しながら約2時間かけて同時滴下し、滴下終了後30%過酸化水素水溶液10mLを加え沈殿を酸化した。ろ過、洗浄、乾燥後、700℃で1時間焼成した後粉砕し板状チタン酸にカルシウムドープセリアを10質量%被覆した複合紫外線遮断剤を得た。
【0050】
比較例5
直径10μm、アスペクト比が30の合成マイカ100gを2リットルの水に分散、撹拌しながら加熱して40℃のスラリーとした。このスラリーにCeO2:CaOがモル比で4:1、両者の合計量が100gになるように調整した塩化セリウムと塩化カルシウムの混合溶液500mLと、両塩化物を中和して水酸化物沈殿を得るのに必要な水酸化ナトリウム当量の1.3倍量を溶解した水酸化ナトリウム溶液500mLを、40℃を維持しながら約2時間かけて同時滴下し、滴下終了後30%過酸化水素水溶液30mLを加え沈殿を酸化する。ろ過、洗浄、乾燥後、700℃で1時間焼成し合成マイカにカルシウムドープセリアを50質量%被覆した複合紫外線遮断剤を得た。
【0051】
その他市販の酸化チタン、酸化亜鉛を比較した。
【0052】
板状チタン酸の直径、アスペクト比は走査型電子顕微鏡写真から代表的な粒子30個を選びその粒子径と厚みを顕微鏡のスケールを基準に読み取り平均値を用いた。
【0053】
酸化セリウムの直径も透過型電子顕微鏡写真から代表的な粒子30個を選びその粒子径を顕微鏡のスケールを基準に読み取り平均値を用いた。
【0054】
紫外線遮断効果、添加した時の透明性は光透過率により評価した。光透過率は、試料粉末の0.5gにヒマシ油0.4mLを加えてフーバーマーラー(50回転×2)で分散し、更にクリアラッカー6mLを加え混練した後、この混練液を透明石英板に30μmの厚さで塗布し、分光光度計(島津製作所UV−2500型)で測定した。
【0055】
以上の方法より表1のような結果が得られた。
【表1】

【0056】
[記号の説明]
・板状物種類
KLT:K3xLixTi2-x4
KMT:K2xMgxTi2-x4
KFT:KxFexTi2-x4
・フラックス
K:K2MoO4
N:NaCl
・酸化セリウム系紫外線遮断剤種類
A:酸化セリウムにカルシアをドープした紫外線遮断剤
B:酸化セリウムにシリカを被覆した紫外線遮断剤
・評価
○:UV−A、UV−Bの広い波長範囲で良好な紫外線遮断能力がある
可視光線波長領域の光は90%以上透過する
△:UV−A、UV−Bどちらかの領域で紫外線遮断能力劣る
可視光線波長領域の光は85%以上透過するが90%以上は透過しない
×:UV−A、UV−Bの両波長範囲で紫外線遮断能力が劣る
可視光線波長領域の光透過率は85%より小さい。
【0057】
実施例で得られた複合紫外線遮断剤はいずれの比較例よりも300nmから360nmのUV−BからUV−Aの広い波長範囲で紫外線遮断する能力を有し、可視光波長領域では高い透明性を有することが分かる。
【0058】
実施例1と比較例1で得られた粉体を5質量%添加した化粧料であるファンデーションを試作した。実施例1を用いたものはUV−A、UV−Bいずれの波長でも紫外線遮断効果が大きく、化粧が白く浮くこともなく、ナチュラルな仕上がりで、化粧時の感触もすぐれたものであった。一方、比較例1を用いたものは化粧が白く浮き上がり、透明性が悪く、感触もざらざらしたものであった。
【0059】
また実施例3、4と比較例3で得られた粉体を樹脂組成物である軟質ポリ塩化ビニルに5質量%配合したもの、無添加のものを加熱ロール圧延し厚さ0.3mmのシートに成形した。それらシートに紫外線を大量に照射する加速試験を行ったところ実施例の粉体を添加したものは、無添加品に比べ紫外線劣化してひびが見えてくる時間が10倍以上、比較例の粉体を添加したものの3倍以上であった。
【0060】
本発明の複合紫外線遮断剤の使用に当たっては本発明品単一独で用いるのはもちろんのこと、目的によっては有機系紫外線遮断剤、他の無機系紫外線遮断剤と併用することも可能である。さらに本発明の複合紫外線遮断剤を化粧料、樹脂組成物等に添加するにあたって、基材とのなじみ、分散状態を改善するため、あらかじめ一般油剤処理、金属石鹸処理、シリコーン処理、アルキルリン酸処理、パーフルオロアルキル基を有する化合物処理、アミノ酸処理、レシチン処理、コラーゲン処理等の表面処理をしてから用いても良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レピドクロサイト型板状チタン酸結晶粒子と、このレピドクロサイト型板状チタン酸結晶粒子の表面に被覆された酸化セリウム系結晶粒子とを有し、前記レピドクロサイト型板状チタン酸は、化学式K3xLiTi2−x、K2xMgTi2−x,及びKFeTi2−x(但し、いずれの化学式においても,0.05≦x≦0.5)の群から選択されるレピドクロサイト型板状チタン酸の一種又は二種以上であって、その結晶粒子の直径が1μm乃至100μmの範囲にあり、アスペクト比が5以上であり、前記酸化セリウム系結晶粒子は、レピドクロサイト型板状チタン酸の結晶粒子と酸化セリウム系結晶粒子との総和に対して20質量%乃至90質量%含まれ、結晶粒が200nm以下である、複合紫外線遮断剤。
【請求項2】
レピドクロサイト型板状チタン酸の結晶粒子と、このレピドクロサイト型板状チタン酸の結晶粒子の表面に被覆された酸化セリウム系結晶粒子と、酸化セリウム系結晶粒子の表面をさらに被覆する非晶質シリカとを有し、前記レピドクロサイト型板状チタン酸は、化学式K3xLiTi2−x、K2xMgTi2−x,及びKFeTi2−x(但し、いずれの化学式においても,0.05≦x≦0.5)の群から選択されるレピドクロサイト型板状チタン酸の一種又は二種以上であって、その結晶粒子の直径が1μm乃至100μmの範囲にあり、アスペクト比が5以上であり、前記酸化セリウム系結晶粒子は、レピドクロサイト型板状チタン酸の結晶粒子と酸化セリウム系結晶粒子との総和に対して20質量%乃至90質量%含まれ、結晶粒が200nm以下である、複合紫外線遮断剤。
【請求項3】
酸化セリウム系結晶粒子は、酸化セリウム単独、若しくは、酸化セリウムを主体とし、Ca,Y,La,Nd,Eu,Tb,Sm,Mg,Sr,Ba,Ce,Zn,Fe,Co,Niから選択された一種又は二種以上の金属の酸化物を酸化セリウムに被覆し又は固溶したものである請求項1又は2に記載の複合紫外線遮断剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の複合紫外線遮断剤を含む化粧料。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の複合紫外線遮断剤を含む樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−316107(P2006−316107A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−137508(P2005−137508)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(391021765)日本電工株式会社 (21)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】