説明

複合繊維及びその製造方法

【課題】
伸縮性が優れており、耐塩素性が改善された複合繊維及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
複合繊維の分子量、分子量分布及び微細構造を調節することにより、一定温度以上での沸騰水または乾熱処理等の別途の染色または後加工処理をしなくても、自然捲縮伸張率が30%以上、自然弾性回復率が70%以上の高伸縮性を発現でき、また、塩素処理後の強力維持率が85%以上、伸縮維持率が80%以上であって、工業用水、水道水、地下水等を利用した後加工または洗濯に適用する時、製品の伸縮性、耐塩素性及び形態安定性が極めて優れている複合繊維を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性が優れており、耐塩素性が改善されたポリエステル系複合繊維及びその製造方法に関し、より詳しくは、複合繊維の分子量、分子量分布及び微細構造を調節することにより、別途の沸騰水または乾熱加工処理をしなくても、自然伸縮性及び耐塩素性が優れていて、後加工及び洗濯時に使用される工業用水、水道水、地下水等に極めて安定したサイドバイサイド型の自然伸縮性及び耐塩素性の優れた複合繊維に関する。
【0002】
本発明によって製造された伸縮性縮合繊維は、一定温度以上での沸騰水または乾熱処理等の別途の染色または後加工処理をしなくても、自然捲縮伸張率が30%以上、自然弾性回復率が70%以上の高伸縮性を発現でき、また、塩素処理後の強力維持率が85%以上、伸縮維持率が80%以上であって、後加工または洗濯に適用する時、製品の伸縮性、耐塩素性及び形態安定性が極めて優れている。
【背景技術】
【0003】
ポリエステル系伸縮性繊維に関しては、特許文献1に、極限粘度差を有するポリエチレンテレフタレート(PET)2種を使用する方法が開示されている。また、特許文献2及び特許文献3によって、一般ポリエチレンテレフタレート及び高収縮性の共重合ポリエチレンテレフタレートを使用してポリエステル系潜在捲縮発現性繊維を製造する方法が公知となっている。この他にも、特許文献4及び特許文献5には、ポリエチレンテレフタレート(PET)にストレッチ性を有するポリトリメチレンテレフタレート(PTT)またはポリブチレンテレフタレート(PBT)を使用する方法も提示している。
【0004】
しかし、従来の前記特許文献に記載された製造方法によって製造されたポリエステル系伸縮性複合繊維の場合には、沸騰水/乾熱処理前の捲縮回復特性及び耐塩素性に関する特別な言及がない。ポリエステル系伸縮性複合繊維は、通常的に2成分のバイメタル(Bimetal)構造を有し、染色や後加工時、沸騰水または乾熱処理過程を経ながら、この2成分の収縮率差による異収縮を通じてクリンプを発現して捲縮特性を現すことをその特徴とする。一般的なポリエステル系伸縮性複合繊維の場合、無荷重またはほぼ無荷重に近い軽荷重下の沸騰水及び乾熱処理後の捲縮伸張率が40%水準またはそれ以上で、弾性回復率が60%またはそれ以上であると言われており、前記熱処理加工をしなくても、伸縮特性を維持しながら、塩素処理後、強力及び伸縮性を維持する技術は未だに確保されていないのが現状である。
【0005】
代表的な伸縮性繊維であるポリウレタン繊維の場合、普通塩素処理後、約30%以上の強力低下及び20%以上の伸縮特性の低下が起こる。また、ポリエステル系繊維の場合、ポリウレタン繊維と比べ、その耐塩素性は優れているが、沸騰水または乾熱処理をしなくても、一定水準以上の伸縮特性を有し、また、塩素処理後、強力及び伸縮特性を維持できるポリエステル系伸縮性複合繊維に関する技術は未だに確保されていない。しかし、これは製品加工または洗濯時に形態変形を起こしたり、強力及び伸縮性を低下させる等、問題を発生させる恐れがある。
【0006】
また、従来の伸縮性複合繊維に関する特許文献には大体、異なるポリエステル系高分子による複合紡糸についてのみ提案されているだけで、複合繊維を構成する異なる高分子の重合物自体の分子量分布及び微細構造に起因する複合繊維の物性については言及されていない。特許文献4には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、そして改質されたPET、PTTに対する粘度の変化による物性変化については言及されているが、この特許文献もまた複合繊維を構成する異なる高分子の分子量分布についての言及はない。勿論、マーク−ホインク式(Mark-Houwink equation)によって、粘度―分子量の関係から分子量の推定はできるが、分子量分布に関する情報は得ることができない。
【0007】
一般的なポリエステル系繊維の場合、耐化学性、特に耐塩素性において優秀な水準である。しかし、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートとの伸縮性複合繊維の場合、その化学構造の差によって、紡糸工程条件の調節だけでは、一定水準以上に結晶化度を向上させることが困難であり、これによって非結晶部領域が各種の用水、水道水及び地下水に接触して膨潤する際、塩素成分によってポリエステル系伸縮性複合繊維の強力及び伸縮性が低下することを本発明者等は発見した。
【0008】
それで、本発明者等は2種の異なる分子量差を有するポリエステル系重合体の分子量、分子量分布及び繊維の微細構造等が伸縮性、耐塩素強力、耐塩素伸縮性及び形態安定性等に影響を及ぼす因子であることを発見し、最適の2種重合体の分子量、分子量分布及び繊維の微細構造を設計したものである。
【特許文献1】特開平10−72732号公報
【特許文献2】特開2000−328378号公報
【特許文献3】特開平9−41234号公報
【特許文献4】米国特許第3,671,379号公報
【特許文献5】特開平11−189923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、複合繊維の最適の分子量、分子量分布及び微細構造を設計することにより、別途の後加工処理をしなくても、自然捲縮伸張率が30%以上、自然弾性回復率が70%以上の高伸縮性を発現でき、また、塩素処理後の強力維持率が85%以上、伸縮維持率が80%以上である複合繊維及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1成分はポリエチレンテレフタレートで、第2成分はポリトリメチレンテレフタレートで、断面形態がサイドバイサイドである複合繊維であって、曲面変形指数(curvature index)が1.0〜1.2、断面の異形度(a/b)が1.2〜2.5、第1成分のポリエチレンテレフタレート部分の結晶化度が30〜45%、第2成分のポリトリメチレンテレフタレート部分の結晶化度が35〜50%、塩素処理後の強力維持率が85%以上、伸縮維持率が80%以上、自然捲縮伸張率が30%以上、自然弾性回復率が70%以上である伸縮性及び耐塩素性の優れた複合繊維を提供する。
【0011】
前記第1成分のポリエチレンテレフタレートは、数平均分子量が13,000〜18,000、分子量分布指数が1.8〜2.2であり、第2成分のポリトリメチレンテレフタレートは、数平均分子量が30,000〜50,000、分子量分布指数が1.8〜2.4であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、(A)1種の重合物はポリエチレンテレフタレートで、その数平均分子量が13,000〜18,000、分子量分布指数が1.8〜2.2であり、他の1種の重合物はポリトリメチレンテレフタレートで、その数平均分子量が30,000〜50,000、分子量分布指数が1.8〜2.4である2種のポリエステルを溶融させ溶融物とする工程と、(B)前記溶融物を紡糸パック内での滞留時間が5分以下になるように、紡糸パックを通過させた後、2,000〜4,000m/分の紡糸速度で、巻取張力を0.05〜0.10g/d水準にして、サイドバイサイド形態の複合糸に引取した後、第1成分のポリエチレンテレフタレート部分の結晶化度が30〜45%、第2成分のポリトリメチレンテレフタレート部分の結晶化度が35〜50%を満たすように、延伸及び熱固定する工程とを含む方法によって製造される伸縮性及び耐塩素性の優れた複合繊維の製造方法を提供する。
【0013】
前記延伸工程は部分配向―延伸/仮撚工法によって行われることが好ましい。
【0014】
また、前記延伸温度が85〜95℃で、熱固定温度が120〜180℃であることが好ましい。
【0015】
また、前記延伸時の延伸糸切率が10%以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は前記複合繊維から製造され、撚数(TM:Twist/meter)が150〜2,000である加工糸を提供する。
【0017】
また、本発明は前記複合繊維と、伸度50%以上、沸騰水収縮率15%以上の高収縮特性の原糸が混繊されている混繊糸を提供する。
【0018】
また、本発明は前記複合繊維を含んでいる布帛を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって製造された耐塩素性の優れた伸縮性複合繊維は、染色、後加工時の沸騰水及び乾熱処理を経ていない状態でも、自然捲縮伸縮率が30%以上、自然弾性回復率が70%以上の優れた伸縮性をもっていながらも、塩素処理後の強力維持率が85%以上、伸縮維持率が80%以上であって、原糸及び製品の伸縮性が優れているとともに、工業用水、水道水、地下水等を利用して加工及び洗濯を行う時、その形態安定性が極めて優れているものであるといえる。また、本発明によって製造された伸縮性複合繊維は、紡糸の間、紡糸パック内での重合体の滞留時間を減らすことにより、分子量減少、原糸物性及び伸縮性の低下を最小化し、また、断面の形態をサイドバイサイド形に、曲面変形指数を1.0〜1.2に、断面の異形度を1.2〜2.5水準にして、曲糸(dog-bone)発生及び曲面変形指数(curvature index)を最小化した。また、伸縮性、耐塩素性及び工程性を向上させるために、ポリエチレンテレフタレートの数平均分子量を13,000〜18,000、分子量分布指数を1.8〜2.2にし、ポリトリメチレンテレフタレートの数平均分子量を30,000〜50,000、分子量分布指数を1.8〜2.4にして、各成分の分子量及び分子量分布を設計し、また、紡糸の間、分子量減少及び分子量分布の拡大を最小化するために、紡糸パック内での滞留時間を5分以下に設定することにより、紡糸及び延伸効率を極大化して、第1成分のポリエチレンテレフタレート部分の結晶化度を30〜45%、第2成分のポリトリメチレンテレフタレート部分の結晶化度を35〜50%水準に維持した。また、延伸工程性を向上させるために、巻取張力を0.05〜0.10g/d水準に維持して延伸時の糸切率を最小化して、工程性が優れているとともに、原糸の強伸度、耐塩素性及び自然伸縮特性等が優れているので、本発明によって製造された伸縮性複合繊維は織物、緯編、経編等の多様な用途に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
従来の伸縮性複合繊維の場合、後工程時の布帛の縮小が通常10%以上で、工業用水、水道水、地下水等を使用して後加工及び洗濯を行う時、この水に含まれている塩素によって浸害されて、原糸の強力及び伸縮性の低下が発生するので、製品加工の際、その条件設定が難しく、縫製品の寸法を安定化させることが難しく、また、後加工及び洗濯処理の際、伸縮回復特性が低下する問題点があった。また、一般的なポリエステル系潜在捲縮糸の場合、染色、後加工時の沸騰水または乾熱処理の過程で、2成分のバイメタル(Bimetal)原理によって、収縮率差による異収縮を通じて捲縮特性を現すので、ポリエステル系伸縮性原糸を利用した、沸騰水または乾熱処理をしないおむつ等の伸縮性ポリエステル製品の用途開発は充分でないのが現状である。
【0021】
本発明者等は、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートの伸縮性複合繊維の場合、その化学構造の差によって、紡糸工程条件の調節だけでは、一定水準以上に結晶化度を向上させることが困難であり、これによって非結晶部領域が各種の用水、水道水及び地下水に接触して膨潤する際、塩素成分によってポリエステル系伸縮性複合繊維の強力及び伸縮性が低下することを発見した。即ち、本発明者等は、2種のポリエステル系高分子の構造差及び分子量差による伸縮性発現と、各成分の分子量分布指数、紡糸の間、パック内の滞留時間及び延伸条件を最適化して、結晶化度及び結晶の完全性(Perfectness)を最大化することにより、各種の用水、水道水及び地下水に接触して膨潤する際、塩素成分による浸害を最小化することができることが分かった。従って、後加工及び洗濯を行う時、沸騰水または乾熱処理をしなくても、自然捲縮伸張率が30%以上、自然弾性回復率が70%以上の優れた自然捲縮特性を発現するとともに、耐塩素性が優れていて、塩素処理後の強力維持率が85%以上、伸縮維持率が80%以上で、原糸及び製品の後加工及び洗濯時の形態変形及び伸縮性の低下を最小化することができることが分かった。
【0022】
それで、本発明者等は、複合繊維の分子量、分子量分布及び微細構造を調節することにより、別途の沸騰水または乾熱加工処理をしない状態でも、自然伸縮性及び耐塩素性が優れていて、後加工及び洗濯時に使用される工業用水、水道水、地下水等に極めて安定したサイドバイサイド型の複合繊維及びその製造方法を開発した。
【0023】
優れた自然伸縮性及び耐塩素性を有するポリエステル系複合繊維を製造するために、本発明では複合繊維の分子量、分子量分布及び微細構造を次のように調節した。
【0024】
本発明で用いられる2種の重合体は、第1成分のポリエチレンテレフタレートは、その数平均分子量が13,000〜18,000、分子量分布指数が1.8〜2.2であり、第2成分のポリトリメチレンテレフタレートは、その数平均分子量が30,000〜50,000、分子量分布指数が1.8〜2.4であることが好ましい。
【0025】
また、本発明で用いられる重合物としては、工業的に利用されるポリエステル系重合物とこれらの改質重合物等が使用可能である。その具体的な例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等で代表されるポリエステルと、イソフタル酸(Isophthalic acid)、ポリエチレングリコール等で改質されたこれらの共重合体等がある。
【0026】
これらの重合体の製造は、一般的に知られた塊状重合、溶液重合、界面重合等から製造されるが、本発明で対象とする重合物はこの中でどの方法で製造されたものでも使用でき、特に好ましくは、塊状重合法の中でも溶融重合または固状重合から製造される重合物が製造経費の面で有利である。
【0027】
本発明において、低分子量高分子の分子量の最低値を13,000とし、高分子量高分子の分子量の最高値を50,000とする理由は次のようである。分子量13,000未満の重合物を製造することは、重合方法自体としては難しくはない。しかし、この重合物を利用して繊維化するためには、チップ(またはペレット)の形態とすることが有利である。分子量が13,000未満になると、チップに製造する時、あまりにも砕けやすいので、均一な形状を有するチップの製造が困難になり、また、塩素処理の際、相対的に浸害を受けやすい。分子量が50,000を超えると、重合時間が長くなりすぎて経済的に不利であるばかりでなく、紡糸温度を過度に高めなければならないので、熱分解によって分子量が減少され、分子量分布が広くなるので、その効果が期待できない。
【0028】
また、ポリエチレンテレフタレートの分子量分布指数を1.8〜2.2に、ポリトリメチレンテレフタレートの分子量分布指数を1.8〜2.4に限定するのは、分子量分布指数がもし下限値より少ないと、分子量分布があまりにも均一になり、低分子量物質の自己可塑性(self-plasticizing)の役割が微々たるものになって、工程上の問題点が生じやすく、分子量分布指数が上限値より大きいと、分子量分布が大きくなり、いくつかの重合物が混ざっているような効果が発現されるため、伸縮性が低下し、また、分子量分布が大きくなるにつれ、低分子量の方の数平均分子量が低くなり、相対的に低分子分布率が高くなるので、結晶の欠点が増加し、また、紡糸及び延伸工程上、結晶化度を一定水準以上に向上させることが難しくなって、耐塩素性もまた低下する問題が発生するからである。
【0029】
本発明で数平均分子量及び分子量分布指数は、重合物をヘキサフルオロイソプロピルアルコール(Hexafluoroisopropyl alcohol,HFIP)に溶解して、米国ウォータース(Waters)社の高温用GPCセットを利用して、ポリスチレン(Polystyrene)を基準物質として数平均分子量(Number average molecular weight,Mn)と重量平均分子量(Weight average molecular weight,Mw)を測定し、次の式(1)から分子量分布指数(Polydispersity Index,PDI)を換算した。
【0030】
【数1】

【0031】
本発明で溶融紡糸時の重合物の紡糸温度は、各重合物の溶融温度より20〜70℃高い温度とした。重合物の紡糸温度が重合物の溶融温度より20℃以上高くないと、不均一に溶融されて押出機内での圧力が高くなりすぎて作業性が低下し、また、製造される複合繊維の物性が不均一になる等の問題が発生するので好ましくない。また、重合物の紡糸温度が重合物の溶融温度より70℃を超過して高いと、重合物の流れ性は改善されるが、重合物の熱分解等の問題が発生するので好ましくない。
【0032】
吐出された個々の繊維状重合体を紡糸口金の真下で接合させてサイドバイサイド断面の複合繊維が製造できる。
【0033】
また、紡糸パック内で接合されて紡糸される偏心芯鞘型複合繊維の紡糸の間、分子量及び粘度差によって発生する曲糸(dog-bone)問題は、紡糸口金の真下で接合させて図1及び図2のように、原糸断面のポリマー間の曲面変形指数が1.0〜1.2、異形度が1.2〜2.5になるようにすることによって解決することができる。
【0034】
また、本発明者等は、分子量の高い重合体の場合、紡糸の際、熱分解による分子量の減少がひどくなり、分子量分布もまた広くなるので、紡糸パック内での重合体溶融体の滞留時間を5分以下と最小化して、前記特性による物性、耐塩素性及び伸縮性の発現を極大化させることができることを解明した。
【0035】
得られた複合繊維は、通常のポリエステル複合繊維の製造に利用される部分配向―延伸/仮撚工法によって繊維化することができる。
【0036】
本発明の核心的な技術構成要素として、紡糸速度を2,000〜4,000m/分とすることが挙げられる。これは、2,000m/分未満の紡糸速度で紡糸すると、低速紡糸による重合体溶融体の吐出量の減少のため、経済性側面で不利であるばかりでなく、延伸時の延伸比の増加による熱収縮率の上昇によって、究極的には熱に対する形態安定性が急激に落ちるからである。一般的に、低い紡糸速度で高倍率延伸によって形成された結晶を有している繊維は、熱に対して高い収縮率を示す。また、4,000m/分を超える紡糸速度で紡糸すると、2種の異なる分子量の重合体間の熱的、物理的特性があまりにも異なることによる紡糸性の低下のため、紡糸工程の安定性が落ちるので好ましくない。
【0037】
また、巻取張力を0.05〜0.10g/d水準にして巻取ることが本発明の特徴の一つである。巻取張力が0.05g/d未満である場合、紡糸時の糸のオーバーフィード(Over feed)によって工程性が落ちる短所があり、0.10g/dを超える場合、紡糸時に特別な問題はないが、延伸/仮撚時、捲縮発現及び伸縮特性によって解糸張力が不安定になって糸切が増加し、工程性が落ちる短所がある。
【0038】
本発明は、他の核心的な技術構成要素として、部分配向―延伸/仮撚工法によって製造する時、延伸温度は85〜95℃、熱固定温度は120〜180℃にすることをその特徴とする。延伸温度の場合、85℃未満では均一延伸が難しく、95℃を超えると、熱によって可塑化される程度がひどくなり、工程性とその物性及び耐塩素性が不安定になるので好ましくない。熱固定温度は120℃未満になると、原糸及び製品の結晶化度、結晶の完全性及び非結晶領域の配向度が減少し、また、熱収縮率が増加して形態安定性及び耐塩素性が落ちり、また、180℃を超えると、可塑化がひどくなり、工程性及び諸般物性が弱化するので好ましくない。
【0039】
本発明の一番核心的な技術構成要素として、複合繊維延伸糸において、第1成分のポリエチレンテレフタレート部分の結晶化度が30〜45%、第2成分のポリトリメチレンテレフタレート部分の結晶化度が35〜50%であることを挙げられる。本発明者等は、複合繊維の耐塩素性が結晶化度と密接な相関関係にあることを発見し、複合繊維の微細構造をより緻密に設計することにより、複合繊維の耐塩素性を改善することを可能とした。
【0040】
また、本発明によって製造される複合繊維は、紡糸の間、紡糸パック内の重合体の滞留時間を減らすことにより、分子量減少、原糸物性及び伸縮性の低下を最小化し、また、紡糸口金下で接合させる工法を利用して、図1及び図2のように、曲面変形指数1.0〜1.2、異形度1.2〜2.5水準のサイドバイサイド型に製造して、図3のような既存の偏心芯鞘型原糸と比べ、紡糸時の曲糸問題による工程性、機能性及び物性の低下を最小化し、また、巻取張力を0.05〜0.10g/d水準に維持して延伸時の糸切率を最小化した。
【0041】
本発明の製糸条件による繊維の物性及び機能性を表1に示した。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を下記の実施例に基づき、より詳しく説明する。下記の実施例は本発明を例示するだけであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0043】
本発明による方法によって製造された接合型複合繊維の物性の評価基準及びその測定方法について先ず説明する。
【0044】
(1)数平均分子量及び分子量分布の測定方法
重合物をヘキサフルオロイソプロピルアルコール(Hexafluoroisopropyl alcohol,HFIP)に溶解して、米国ウォータース(Waters)社の高温用GPCセットを利用して、ポリスチレン(Polystyrene)を基準物質として数平均分子量(Number average molecular weight,Mn)と重量平均分子量(Weight average molecular weight,Mw)を測定し、次の式(2)から分子量分布指数(Polydispersity Index,PDI)を換算した。
【0045】
【数2】

【0046】
(2)自然捲縮伸張率及び自然弾性回復率の測定方法
実施例で製造されたクリンプ形成性複合繊維の物性である自然捲縮伸張率及び自然弾性回復率を測定するために、下記のように行った。
【0047】
繊維束から0.05g/dの解糸張力で巻き、800〜1,500デニールを採取した後、20分間放置した。前記段階を経た試料を0.002g/dの荷重下で2分間放置した後、その時の長さ(L)を測定した。前記試料に0.1g/dの荷重を加えて、2分後、長さ(L)を測定した。次いで、0.1g/dの荷重を除去した後、2分経過後、その時の長さ(L)を測定した。自然捲縮伸張率及び自然弾性回復率は下記の式(3)及び(4)によって計算した。
【0048】
自然捲縮伸張率(%)=〔(L−L)/L〕×100・・・(3)
【0049】
自然弾性回復率(%)=〔(L−L)/(L−L)〕×100・・・(4)
【0050】
(3)耐塩素性(強力維持率、伸縮維持率)の測定方法
製造された複合繊維を次亜塩素酸を利用して、有効塩素量100ppm、pH=7.0の塩素水に30℃で72時間、沈積する。この際、有効塩素が空気中に放出しないように容器を密閉し、72時間処理後、自然乾燥させた後、塩素水処理による原糸の強力維持率及び伸縮維持率を下記の式(5)〜(8)によって計算した。
【0051】
強力維持率(%)=S/S×100・・・(5)
(S:塩素水処理前の強力、S:塩素水処理後の強力)
(ここで、強力はKS K 0412に基づいて測定する。)
【0052】
伸縮維持率(%)=(捲縮伸張維持率+弾性回復維持率)/2・・・(6)
【0053】
捲縮伸張維持率(%)=C/C×100・・・(7)
(C:塩素水処理前の自然捲縮伸張率、C:塩素水処理後の自然捲縮伸張率)
(ここで、自然捲縮伸張率(C、C)の測定は、前記(2)の自然捲縮伸張率の測定方法に準して実施する。)
【0054】
弾性回復維持率(%)=E/E×100・・・(8)
(E:塩素水処理前の自然弾性回復率、E:塩素水処理後の自然弾性回復率)
(ここで、自然弾性回復率(E、E1)の測定は、前記(2)の自然弾性回復率の測定方法に準して実施する。)
【0055】
(4)原糸断面の曲面変形指数及び異形度の評価
図1、図2及び図3のように、原糸の断面をSEM(走査電子顕微鏡)で分析した後、下記式(9)及び(10)によって計算した。
【0056】
曲面変形指数=c/d・・・(9)
【0057】
異形度=a/b・・・(10)
【0058】
(5)延伸糸切率の測定方法
部分延伸糸200本を延伸糸巻量2kgにして延伸し、糸切された本数を百分率(%)で示した。
【0059】
(6)結晶化度
延伸及び熱固定させた複合繊維の結晶化度をX線広角回折法によって測定した後、Lorentzian分析法によってポリエチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレートの結晶ピークに分離した後、次の式(11)によって各々の結晶化度を測定した。
【0060】
結晶化度=(1−ΣI/ΣIa100)×100・・・(11)
(ここで、I=高分子の非結晶領域の散乱強度、Ia100=高分子の100%非結晶領域の散乱強度)
【0061】
(実施例1)
伸縮性複合繊維の製造において、数平均分子量(Mn)14,632、分子量分布指数(PDI)2.2のポリエチレンテレフタレートと、数平均分子量(Mn)32,149、分子量分布指数(PDI)2.4のポリトリメチレンテレフタレートを、重量比5:5の比率で従来の溶融複合紡糸設備を利用して、図1−(a)のサイドバイサイド断面で、紡糸温度275℃、紡糸速度2,800m/分、巻取張力0.09g/d、パック内での滞留時間3分に設定して、ポリエステル複合繊維を製造した。前記紡糸/巻取して収得された複合繊維を別途の延伸装置を利用して延伸し、単糸繊度2.1デニール級の伸縮性複合繊維を製造した。延伸時の延伸比は1.60、延伸温度85℃、熱固定温度150℃で実施し、その結果を表1に示した。得られた繊維は優れた耐塩素性、伸縮特性及び延伸工程性を示した。
【0062】
(実施例2)
伸縮性複合繊維の製造において、数平均分子量(Mn)14,632、分子量分布指数(PDI)2.2のポリエチレンテレフタレートと、数平均分子量(Mn)39,334、分子量分布指数(PDI)2.2のポリトリメチレンテレフタレートを、重量比5:5の比率で従来の溶融複合紡糸設備を利用して、図1−(a)のサイドバイサイド断面で、紡糸温度280℃、紡糸速度2,600m/分、巻取張力0.07g/d、パック内での滞留時間4分に設定して、ポリエステル複合繊維を製造した。前記紡糸/巻取して収得された複合繊維を別途の延伸装置を利用して延伸し、単糸繊度2.1デニール級の伸縮性複合繊維を製造した。延伸時の延伸比は1.70、延伸温度90℃、熱固定温度160℃で実施し、その結果を表1に示した。得られた繊維は優れた耐塩素性、伸縮特性及び延伸工程性を示した。
【0063】
(実施例3)
伸縮性複合繊維の製造において、数平均分子量(Mn)16,422、分子量分布指数(PDI)2.1のポリエチレンテレフタレートと、数平均分子量(Mn)45,752、分子量分布指数(PDI)2.0のポリトリメチレンテレフタレートを、重量比5:5の比率で従来の溶融複合紡糸設備を利用して、図1−(a)のサイドバイサイド断面で、紡糸温度283℃、紡糸速度2,400m/分、巻取張力0.08g/d、パック内での滞留時間4分に設定して、ポリエステル複合繊維を製造した。前記紡糸/巻取して収得された複合繊維を別途の延伸装置を利用して延伸し、単糸繊度2.1デニール級の伸縮性複合繊維を製造した。延伸時の延伸比は1.70、延伸温度90℃、熱固定温度160℃で実施し、その結果を表1に示した。得られた繊維は優れた耐塩素性、伸縮特性及び延伸工程性を示した。
【0064】
(実施例4)
伸縮性複合繊維の製造において、数平均分子量(Mn)16,422、分子量分布指数(PDI)2.1のポリエチレンテレフタレートと、数平均分子量(Mn)49,118、分子量分布指数(PDI)1.9のポリトリメチレンテレフタレートを、重量比6:4の比率で従来の溶融複合紡糸設備を利用して、図1−(b)のサイドバイサイド断面で、紡糸温度285℃、紡糸速度2,100m/分、巻取張力0.08g/d、パック内での滞留時間4分に設定して、ポリエステル複合繊維を製造した。前記紡糸/巻取して収得された複合繊維を別途の延伸装置を利用して延伸し、単糸繊度2.1デニール級の伸縮性複合繊維を製造した。延伸時の延伸比は1.64、延伸温度90℃、熱固定温度170℃で実施し、その結果を表1に示した。得られた繊維は優れた耐塩素性、伸縮特性及び延伸工程性を示した。
【0065】
(比較例1)
伸縮性複合繊維の製造において、数平均分子量(Mn)11,683、分子量分布指数(PDI)2.2のポリエチレンテレフタレートと、数平均分子量(Mn)14,054、分子量分布指数(PDI)2.3のポリトリメチレンテレフタレートを、重量比5:5の比率で従来の溶融複合紡糸設備を利用して、図1−(a)のサイドバイサイド断面で、紡糸温度270℃、紡糸速度2,800m/分、巻取張力0.09g/d、パック内での滞留時間3分に設定して、ポリエステル複合繊維を製造した。前記紡糸/巻取して収得された複合繊維を別途の延伸装置を利用して延伸し、単糸繊度2.1デニール級の伸縮性複合繊維を製造した。延伸時の延伸比は1.60、延伸温度85℃、熱固定温度150℃で実施し、その結果を表1に示した。得られた繊維は耐塩素性及び延伸工程性は比較的に良好であったが、伸縮特性の低下を示した。
【0066】
(比較例2)
伸縮性複合繊維の製造において、数平均分子量(Mn)11,683、分子量分布指数(PDI)2.2のポリエチレンテレフタレートと、数平均分子量(Mn)23,744、分子量分布指数(PDI)2.8のポリトリメチレンテレフタレートを、重量比5:5の比率で従来の溶融複合紡糸設備を利用して、図3の偏心芯鞘型断面で、紡糸温度270℃、紡糸速度2,600m/分、巻取張力0.15g/d、パック内での滞留時間8分に設定して、ポリエステル複合繊維を製造した。前記紡糸/巻取して収得された複合繊維を別途の延伸装置を利用して延伸し、単糸繊度2.1デニール級の伸縮性複合繊維を製造した。延伸時の延伸比は1.70、延伸温度80℃、熱固定温度140℃で実施し、その結果を表1に示した。得られた繊維は耐塩素性、伸縮特性及び延伸工程性の低下を示した。
【0067】
(比較例3)
伸縮性複合繊維の製造において、数平均分子量(Mn)20,422、分子量分布指数(PDI)2.4のポリエチレンテレフタレートと、数平均分子量(Mn)66,450、分子量分布指数(PDI)2.7のポリトリメチレンテレフタレートを、重量比5:5の比率で従来の溶融複合紡糸設備を利用して、図1−(a)のサイドバイサイド断面で、紡糸温度280℃、紡糸速度1,400m/分、巻取張力0.14g/d、パック内での滞留時間8分に設定して、ポリエステル複合繊維を製造した。前記紡糸/巻取して収得された複合繊維を別途の延伸装置を利用して延伸し、単糸繊度2.1デニール級の伸縮性複合繊維を製造した。延伸時の延伸比は2.90、延伸温度75℃、熱固定温度145℃で実施し、その結果を表1に示した。得られた繊維は耐塩素性、伸縮特性及び延伸工程性の低下を示した。
【0068】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】(a)〜(c)は本発明によって製造された耐塩素性の優れたポリエステル系伸縮性複合繊維の断面図であり、異形度を示す。
【図2】本発明によって製造された耐塩素性の優れたサイドバイサイド型の接合型ポリエステル系伸縮性複合繊維の曲面変形指数を示す図面である。
【図3】偏心芯鞘型のポリエステル系伸縮性複合繊維の曲面変形指数を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成分はポリエチレンテレフタレートで、第2成分はポリトリメチレンテレフタレートで、断面形態がサイドバイサイドである複合繊維であって、
曲面変形指数が1.0〜1.2、断面の異形度(a/b)が1.2〜2.5、第1成分のポリエチレンテレフタレート部分の結晶化度が30〜45%、第2成分のポリトリメチレンテレフタレート部分の結晶化度が35〜50%、塩素処理後の強力維持率が85%以上、伸縮維持率が80%以上、自然捲縮伸張率が30%以上、自然弾性回復率が70%以上であることを特徴とする伸縮性及び耐塩素性の優れた複合繊維。
【請求項2】
前記第1成分のポリエチレンテレフタレートは、数平均分子量が13,000〜18,000、分子量分布指数が1.8〜2.2であり、第2成分のポリトリメチレンテレフタレートは、数平均分子量が30,000〜50,000、分子量分布指数が1.8〜2.4であることを特徴とする請求項1記載の伸縮性及び耐塩素性の優れた複合繊維。
【請求項3】
(A)1種の重合物はポリエチレンテレフタレートで、その数平均分子量が13,000〜18,000、分子量分布指数が1.8〜2.2であり、他の1種の重合物はポリトリメチレンテレフタレートで、その数平均分子量が30,000〜50,000、分子量分布指数が1.8〜2.4である2種のポリエステルを溶融させ溶融物とする工程と、
(B)前記溶融物を紡糸パック内での滞留時間が5分以下になるように、紡糸パックを通過させた後、2,000〜4,000m/分の紡糸速度で、巻取張力を0.05〜0.10g/d水準にして、サイドバイサイド形態の複合糸に引取した後、第1成分のポリエチレンテレフタレート部分の結晶化度が30〜45%、第2成分のポリトリメチレンテレフタレート部分の結晶化度が35〜50%を満たすように、延伸及び熱固定する工程とを含む方法によって製造されることを特徴とする伸縮性及び耐塩素性の優れた複合繊維の製造方法。
【請求項4】
部分配向―延伸/仮撚工法によって製造されることを特徴とする請求項3記載の伸縮性及び耐塩素性の優れた複合繊維の製造方法。
【請求項5】
前記延伸温度が85〜95℃で、熱固定温度が120〜180℃であることを特徴とする請求項3記載の伸縮性及び耐塩素性の優れた複合繊維の製造方法。
【請求項6】
前記延伸時の延伸糸切率が10%以下であることを特徴とする請求項3記載の伸縮性及び耐塩素性の優れた複合繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の伸縮性及び耐塩素性の優れた複合繊維から製造され、撚数(TM)が150〜2,000であることを特徴とする加工糸。
【請求項8】
請求項1記載の伸縮性及び耐塩素性の優れた複合繊維と、伸度50%以上、沸騰水収縮率15%以上の高収縮特性の原糸が混繊されていることを特徴とする混繊糸。
【請求項9】
請求項1記載の伸縮性及び耐塩素性の優れた複合繊維を含んでいることを特徴とする布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−2321(P2006−2321A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198562(P2004−198562)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(503434298)ヒョスング コーポレーション (22)
【Fターム(参考)】