説明

複合繊維及び繊維材料の漂白方法

【課題】その殆どが廃材として処分される大豆の搾り粕を主原料として製造された大豆タンパク繊維と、綿繊維とが混合された繊維材料は、環境に優しい素材であるが、一方、その漂白が難しいという問題があった。そこで、漂白後においても、大豆タンパク繊維が脆化、変質を起こして、当該大豆タンパク繊維中のタンパク質成分が上記繊維材料から脱落することなく、且つ、実用的に十分な白さを有する複合繊維を提供する。
【解決手段】漂白後の大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率が95重量%以上であり、且つ、漂白後の繊維材料の白色度指数が70以上であるように、過酸化水素と水酸化ナトリウムとを含有し、9.5〜11の範囲以内のpHを示す漂白液を用いて、50〜100℃の範囲以内の温度で漂白する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも大豆タンパク繊維と綿繊維とからなる繊維材料を漂白してなる複合繊維、上記繊維材料を上記漂白後に染色してなる複合繊維及び上記繊維材料を漂白する繊維材料の漂白方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、天然材料への志向、環境への負荷軽減、更に、資源の再利用を目的として、ケナフ、ヘンプ、バナナ、サトウキビ、バンブー等のバイオマス材料を原料とした繊維が注目されている。また、繊維原料の採取や製造工程においても、環境に優しい繊維への要求が高まっている。
【0003】
例えば、環境に優しい繊維として、下記特許文献1には、従来はその殆どが廃材とされていた大豆の搾り粕を主原料とした大豆タンパク繊維等が提案されている。この繊維は、天然原料である大豆から油脂を搾った残りの大豆の搾り粕等からタンパク質を抽出し、このタンパク質15〜25重量%にポリビニルアルコールを75〜85重量%程度混合して所定濃度の紡糸溶液を調整し、湿式紡糸した後にアセタール化を経て製造される。
【0004】
また、この繊維の単糸繊度は、1.0〜6.0dTであり、長繊維のまま使用してもよいが、短繊維で使用するときの繊維長は、30〜120mm程度が一般的ある。
【0005】
一方、繊維材料、特に衣料材料としての繊維材料には、審美性、風合い、強力等の諸性能に優れていることが要求される。従って、上記大豆タンパク繊維だけでは、衣料材料として不十分な場合がある。
【0006】
そこで、環境面や生産性に優れ、且つ、繊維としての諸性能にも優れた繊維材料として、下記特許文献1の大豆タンパク繊維と他繊維とを混合して、両繊維の特性を補完した繊維材料が提案されている。
【0007】
ここで、大豆タンパク繊維の諸性能を補完するために、上記他繊維として、綿繊維が用いられることがある。これにより、廃材である大豆の搾り粕を主原料として製造された大豆タンパク繊維と、綿繊維とが混合された繊維材料は、名実共に「土に帰る繊維」として、環境に優しい繊維材料ということができる。
【特許文献1】特表2005−513298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記繊維材料を衣料材料として使用するには、配合されている大豆タンパク繊維と綿繊維のいずれの繊維も漂白して、実用的に十分な白さを得なければならない。特に、上記繊維材料を染色する場合には、その白さが十分得られていないと、求める色相に染色することが難しくなる。
【0009】
しかし、綿繊維に対する従来の漂白方法をそのまま上記繊維材料に使用すると、大豆タンパク繊維が脆化、変質を起こして、当該大豆タンパク繊維中のタンパク質成分が上記繊維材料から脱落してしまい、大豆タンパク繊維としての審美性と風合いが低下するという問題があった。
【0010】
また、絹繊維や毛繊維等の一般のタンパク繊維に対する従来の漂白方法をそのまま上記繊維材料に使用すると、綿繊維に対して実用的に十分な白さを得ることができず、また、上記繊維材料を染色する場合には、求める色相が得られ難いという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するために、少なくとも大豆タンパク繊維と綿繊維とからなる繊維材料を漂白してなる複合繊維であって、その漂白後においても、大豆タンパク繊維が脆化、変質を起こして、当該大豆タンパク繊維中のタンパク質成分が上記繊維材料から脱落することなく、且つ、実用的に十分な白さを有する複合繊維を得ることを目的とする。
【0012】
また、本発明は、上記漂白後の複合繊維を染色した場合にも、大豆タンパク繊維が脆化、変質を起こして、当該大豆タンパク繊維中のタンパク質成分が上記繊維材料から脱落することなく、且つ、求める色相に容易に染色された複合繊維を得ることを目的とする。
【0013】
更に、本発明は、大豆タンパク繊維が脆化、変質を起こして、当該大豆タンパク繊維中のタンパク質成分が上記繊維材料から脱落することなく、且つ、実用的に十分な白さを得ることのできる繊維材料の漂白方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の条件を備えた漂白液で、上記繊維材料を漂白することにより、上記目的を達成できることを見出した。
【0015】
即ち、本発明に係る複合繊維は、請求項1の記載によれば、少なくとも大豆タンパク繊維と綿繊維とからなる繊維材料を漂白してなる複合繊維において、上記漂白後の上記大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率が95重量%以上であり、且つ、上記漂白後の上記繊維材料の白色度指数が70以上であることを特徴とする。
【0016】
このことにより、上記繊維材料の漂白後においても、大豆タンパク繊維が脆化、変質を起こして、当該大豆タンパク繊維中のタンパク質成分が上記繊維材料から脱落することなく、且つ、実用的に十分な白さを有する複合繊維を得ることができる。
【0017】
また、本発明に係る複合繊維は、請求項2の記載によれば、少なくとも大豆タンパク繊維と綿繊維とからなる繊維材料を漂白後に染色してなる複合繊維において、上記漂白後上記染色前の上記大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率が95重量%以上であり、且つ、上記漂白後上記染色前の上記繊維材料の白色度指数が70以上であることを特徴とする。
【0018】
このことにより、上記漂白後の複合繊維を染色した場合にも、大豆タンパク繊維が脆化、変質を起こして、当該大豆タンパク繊維中のタンパク質成分が上記繊維材料から脱落することなく、且つ、求める色相に容易に染色された複合繊維を得ることができる。
【0019】
更に、本発明に係る複合繊維の漂白方法は、請求項3の記載によれば、少なくとも大豆タンパク繊維と綿繊維とからなる繊維材料を漂白した後の上記大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率が95重量%以上であり、且つ、上記漂白後の上記繊維材料の白色度指数が70以上であるように、少なくとも過酸化水素とアルカリ金属水酸化物とを含有し、所定範囲のpHを示す漂白液を用いて、上記繊維材料を所定範囲の温度で漂白するものである。
【0020】
このことにより、上記漂白後においても、大豆タンパク繊維が脆化、変質を起こして、当該大豆タンパク繊維中のタンパク質成分が上記繊維材料から脱落することなく、且つ、実用的に十分な白さを得ることのできる繊維材料の漂白方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の各実施形態について説明する。
(第1実施形態)
本第1実施形態は、大豆タンパク繊維と綿繊維とからなる繊維材料を漂白してなる複合繊維に関するものである。
【0022】
本第1実施形態においては、上記繊維材料として、経糸に50番手の綿糸を使用し、緯糸に大豆タンパク繊維(大豆タンパク質20重量%とポリビニルアルコール80重量%とからなる単糸繊度1.27dT、繊維長38mmの繊維による40番手の紡績糸)を使用した交織の平織物(目付125g/m)を使用する。
【0023】
まず、上記繊維材料の経糸に付与されたデンプン経糊に酵素(アミラーゼ)を作用させて上記繊維材料を糊抜きする。具体的には、上記繊維材料をその重量に対して浴比1:20の割合の温湯に浸漬し、80℃の温度で20分間洗浄した。続いて、2.5g/リットルのネオマルツH5(大和化成株式会社製、アミラーゼ)を含有する糊抜処理液を調整した。上記繊維材料をその重量に対して浴比1:20の割合で上記糊抜処理液に浸漬し、90℃の温度で30分間処理した。その後、上記繊維材料を水洗した。
【0024】
続いて、糊抜き後の上記繊維材料に酵素(ぺクチナーゼ)を作用させて上記繊維材料を精練した。この精練は、主として上記繊維材料の綿繊維を精練するために行われるものである。具体的には、リン酸二水素ナトリウム‐リン酸水素二ナトリウム緩衝液(pH6.0)中に0.25g/リットルのViscozyme L(ノボザイムズジャパン株式会社製、ペクチナーゼ)及び1g/リットルのサンモールN200(三洋化成株式会社製、界面活性剤)を含有する精練処理液を調整した。糊抜き後の上記繊維材料をその重量に対して浴比1:20の割合の上記精練処理液に浸漬し、50℃の温度で30分間処理した。その後、上記精練処理液に1g/リットルのサンモール1000(三洋化成株式会社製、界面活性剤)を追加して、90℃の温度で15分間処理した。その後、上記繊維材料を水洗した。水洗後の上記繊維材料を乾燥して、糊抜き・精練された繊維材料を得た。
【0025】
ここで、糊抜き・精練後(漂白前)の繊維材料の重量、及び、当該繊維材料の重量に占める大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の重量比率を予め求めておく。このタンパク質成分の重量比率は、漂白前の繊維材料から大豆タンパク繊維中のタンパク質成分のみを溶解し、その重量変化から求める。
【0026】
この大豆タンパク繊維中のタンパク質成分のみを溶解する方法は、本発明者らが大豆タンパク繊維100%を用いて確立した方法であり、大豆タンパク繊維中のポリビニルアルコールや大豆タンパク繊維と混用される綿繊維等が脱落することがない。具体的には、95℃で40分間の水酸化ナトリウム水溶液と過硫酸塩との併用によるアルカリ・酸化処理と、95℃で30分間の亜塩素酸ナトリウム水溶液による酸化処理と、95℃で30分間の過酸化水素水溶液による酸化処理とを併用することにより行った。
【0027】
続いて、糊抜き・精練後の上記繊維材料に対して、下記の漂白液を作用させて上記繊維材料を漂白する。具体的には、5〜50g/リットル、好ましくは、20〜30g/リットルの過酸化水素水(35%水溶液)及び0.1〜5g/リットル、好ましくは、1〜3g/リットルの水酸化ナトリウムを含有する漂白液を調整した。上記漂白液には、過酸化水素の安定剤等の漂白助剤及び浸透剤等を含有していてもよい。ここで、過酸化水素の安定剤としては、ケイ酸ナトリウムが特に良好であり、その使用量は、1〜10g/リットル、好ましくは、3〜6g/リットルの範囲である。
【0028】
上記のことにより、この漂白液のpHは9.5〜11の範囲以内、好ましくは、10〜10.5の範囲以内にあることがよい。漂白液のpHが上記範囲以内にあれば、上記繊維材料の大豆タンパク繊維を脆化、変質させて、当該大豆タンパク繊維中のタンパク質成分が上記繊維材料から脱落することなく、且つ、実用的に十分な白さを有する複合繊維を得ることができる。
【0029】
漂白は糊抜き・精練後の上記繊維材料を上記漂白液に浸漬し、所定の温度で処理する。この漂白液の温度は、50〜100℃の範囲以内、好ましくは、70〜95℃の範囲以内にあることがよい。漂白液の温度が上記範囲以内にあれば、上記繊維材料の大豆タンパク繊維を脆化、変質させて、当該大豆タンパク繊維中のタンパク質成分が上記繊維材料から脱落することなく、且つ、実用的に十分な白さを有する複合繊維を得ることができる。
【0030】
その後、上記繊維材料を水洗、乾燥して、本第1実施形態に係る複合繊維を得る。
【0031】
以下、本第1実施形態において、次のような実施例1及び比較例1〜3による漂白を行った。
実施例1:
30g/リットルの過酸化水素水(35%水溶液)、1g/リットルの水酸化ナトリウム、5g/リットルのケイ酸ナトリウム及び1g/リットルのサンモールBH(三洋化成株式会社製、界面活性剤)を含有する漂白液1を調整した。この漂白液1のpHは10.5であった。ここで、漂白前の繊維材料の重量を予め測定しておく。この繊維材料をその重量に対して浴比1:20の割合で上記漂白液1に浸漬し、95℃の温度で30分間処理した。その後、上記繊維材料を水洗した。水洗後の上記繊維材料を乾燥して、本実施例1に係る複合繊維1を得た。
【0032】
ここで、複合繊維1の漂白後の重量を求め、予め求めておいた漂白前の繊維材料の重量との差を大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の脱落量とした。この脱落量と予め求めておいた漂白前の繊維材料の重量に占める大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の重量比率から、本実施例1における複合繊維1の大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率(%)を計算した。計算した大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率(%)の値を表1に示す。
【0033】
また、漂白前の繊維材料の白色度指数と漂白後の複合繊維1の白色度指数とをそれぞれ求め、表1に示す。白色度指数の値が大きいほど複合繊維がより白さを有することを示す。本第1実施形態において白色度指数の計算方法は、JIS L 0803による。この白色度指数の値が70以上であると、繊維材料が実用的に十分な白さを有することとなる。 更に、複合繊維の白さを確認するために、漂白前の繊維材料の黄色度と漂白後の複合繊維1の黄色度とをそれぞれ求め、表1に示す。黄色度の値が小さいほど複合繊維の黄味の度合いが低く、より白さを有することを示す。本第1実施形態において黄色度の計算方法は、JIS K 7105による。この黄色度の値は特に限定するものではないが、例えば、10以下であることが好ましい。
比較例1:
本比較例1では、実施例1と同じ漂白前の繊維材料に対して、綿繊維に対して通常行われる亜塩素酸ナトリウムによる漂白を行った。具体的には、30g/リットルの亜塩素酸ナトリウム水溶液(25%水溶液)、3g/リットルの蟻酸及び1g/リットルのサンモールBH(三洋化成株式会社製、界面活性剤)を含有する漂白液2を調整した。この漂白液2のpHは3.0であった。ここで、漂白前の繊維材料の重量を予め測定しておく。この繊維材料をその重量に対して浴比1:20の割合で上記漂白液2に浸漬し、95℃の温度で30分間処理した。その後、上記繊維材料を水洗した。水洗後の上記繊維材料を乾燥して、本比較例1に係る比較繊維1を得た。
【0034】
ここで、比較繊維1の漂白後の重量を求め、実施例1と同様にして比較例1における比較繊維1の大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率(%)を計算し、その値を表1に示す。
【0035】
また、実施例1と同様にして漂白後の比較繊維1の白色度指数と黄色度を求め、表1に示す。
比較例2:
本比較例2では、実施例1と同じ漂白前の繊維材料に対して、綿繊維に対して通常行われる過酸化水素による漂白を行った。具体的には、30g/リットルの過酸化水素水(35%水溶液)、10g/リットルの水酸化ナトリウム、5g/リットルのケイ酸ナトリウム及び1g/リットルのサンモールBH(三洋化成株式会社製、界面活性剤)を含有する漂白液3を調整した。この漂白液3のpHは11.5であった。ここで、漂白前の繊維材料の重量を予め測定しておく。この繊維材料をその重量に対して浴比1:20の割合で上記漂白液3に浸漬し、95℃の温度で30分間処理した。その後、上記繊維材料を水洗した。水洗後の上記繊維材料を乾燥して、本比較例2に係る比較繊維2を得た。
【0036】
ここで、比較繊維2の漂白後の重量を求め、実施例1と同様にして比較例2における比較繊維2の大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率(%)を計算し、その値を表1に示す。
【0037】
また、実施例1と同様にして漂白後の比較繊維2の白色度指数と黄色度を求め、表1に示す。
比較例3:
本比較例3では、実施例1と同じ漂白前の繊維材料に対して、絹繊維に対して通常行われる過酸化水素による中性漂白を行った。具体的には、7g/リットルの過酸化水素水(35%水溶液)及び2g/リットルのハイパーS(大東薬品株式会社製、キレート剤)を含有する漂白液4を調整した。この漂白液のpHは9.2であった。ここで、漂白前の繊維材料の重量を予め測定しておく。この繊維材料をその重量に対して浴比1:20の割合で上記漂白液4に浸漬し、80℃の温度で60分間処理した。その後、上記繊維材料を水洗した。水洗後の上記繊維材料を乾燥して、本比較例3に係る比較繊維3を得た。
【0038】
ここで、比較繊維3の漂白後の重量を求め、実施例1と同様にして比較例3における比較繊維3の大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率(%)を計算し、その値を表1に示す。
【0039】
また、実施例1と同様にして漂白後の比較繊維3の白色度指数と黄色度を求め、表1に示す。
【0040】
更に、上記実施例1で得られた複合繊維1及び上記比較例1〜3で得られた比較繊維1〜3について、それらの風合いを評価して表1に示す。評価は人の触感により行い、タンパク質特有の風合いを残すものを良好(○)、そうでないものを不良(×)とした。
【0041】
【表1】

表1から明らかなように、本第1実施形態に係る漂白方法では、実施例1で得られた複合繊維1の大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率が95重量%以上であり、且つ、複合繊維1の白色度指数が70以上を示している。また、複合繊維1の黄色度も実用的に十分に低い値を示している。更に、複合繊維1は風合いにおいてもタンパク質特有の風合いを残しており良好であった。よって、本第1実施形態に係る複合繊維1は、衣料材料として実用的な性能を有していることがわかる。
【0042】
これに比べ、比較例1及び2で得られた比較繊維1及び2の大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率は95重量%よりかなり小さく、大豆タンパク繊維の多くが脆化、変質を起こして、当該大豆タンパク繊維中のタンパク質成分が上記繊維材料から脱落している。一方、比較繊維1及び2の白色度指数は70以上を示し、また、黄色度も低い値を示している。このことは、大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の多くが繊維材料から脱落していることによるものであるが、そのことにより、タンパク質特有の風合いが低下しており不良であった。よって、比較繊維1及び2は、衣料材料として実用的な性能を有していない。
【0043】
また、比較例3で得られた比較繊維3の大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率は100重量%であり、タンパク質特有の風合いを残しており良好であった。しかし、比較繊維3の白色度指数は50.97とかなり低く、十分な白さが得られていない。このことは、綿繊維の漂白が不十分であることによる。よって、比較繊維3は、衣料材料として実用的な性能を有していない。
【0044】
以上のことにより、本第1実施形態においては、少なくとも大豆タンパク繊維と綿繊維とからなる繊維材料を漂白してなる複合繊維であって、その漂白後においても、大豆タンパク繊維が脆化、変質を起こして、当該大豆タンパク繊維中のタンパク質成分が上記繊維材料から脱落することなく、且つ、実用的に十分な白さを有する複合繊維を得ることができる。
(第2実施形態)
本第2実施形態は、上記第1実施形態の実施例1で得られた複合繊維1を染色して得られる複合繊維に関するものである。以下、本第2実施形態において、次のような実施例2及び3、並びに、各比較例4〜9による染色を行った。
実施例2:
上記第1実施形態の実施例1で得られた漂白された複合繊維1の重量に対して、0.05%の Sumifix Supra Yellow 3RF(住友化学株式会社製、反応染料)、0.5%の Sumifix Supra Red GF 150%(住友化学株式会社製、反応染料)及び0.02%の Sumifix Supra Blue BRF(住友化学株式会社製、反応染料)を含有し、且つ、35g/リットルの無水硫酸ナトリウム及び4g/リットルのメタケイ酸ナトリウムを含有する染色液1を調整した。上記複合繊維1をその重量に対して浴比1:20の割合で上記染色液1に浸漬し、60℃の温度で60分間染色した。その後、水洗、湯洗してピンク色に染色された複合繊維2を得た。
【0045】
ここで、複合繊維2について染色性を評価した。この染色性の評価は、大豆タンパク繊維と綿繊維とが同様の色相に染色されている同色性、染色された色の濃さを示す染色濃度及び染色された色相の鮮明性の3項目で評価した。各評価は目視により行い、良好(○)、やや不良(△)及び不良(×)の3段階で評価した。評価結果を表2に示す。
実施例3:
上記第1実施形態の実施例1で得られた漂白された複合繊維1の重量に対して、0.0125%の Sumifix Supra Yellow 3RF(住友化学株式会社製、反応染料)、0.94%の Sumifix Supra Yellow 3GF(住友化学株式会社製、反応染料)及び0.025%の Sumifix Supra Blue BRF(住友化学株式会社製、反応染料)を含有し、且つ、35g/リットルの無水硫酸ナトリウム及び4g/リットルのメタケイ酸ナトリウムを含有する染色液2を調整した。上記複合繊維1をその重量に対して浴比1:20の割合で上記染色液2に浸漬し、60℃の温度で60分間染色した。その後、水洗、湯洗して黄色に染色された複合繊維3を得た。複合繊維3についての染色性の評価を実施例2と同様にして行い、評価結果を表2に示す。
比較例4〜6:
上述の比較例1〜3で得られた漂白された比較繊維1〜3に対して、それぞれ実施例2と同様にして上記染色液1を用いて染色し、比較繊維4〜6を得た。比較繊維4〜6についての染色性の評価を実施例2と同様にして行い、評価結果を表2に示す。
比較例7〜9:
上述の比較例1〜3で得られた漂白された比較繊維1〜3に対して、それぞれ実施例3と同様にして上記染色液2を用いて染色し、比較繊維7〜9を得た。比較繊維7〜9についての染色性の評価を実施例2と同様にして行い、評価結果を表2に示す。
【0046】
更に、上記実施例2及び3で得られた複合繊維2及び3、並びに上記比較例4〜9で得られた比較繊維4〜9について、それらの風合いを評価して表2に示す。評価は上記表1で行ったのと同様に人の触感により行い、タンパク質特有の風合いを残すものを良好(○)、そうでないものを不良(×)とした。
【0047】
【表2】

表2から明らかなように、本第2実施形態においては、実施例2及び3で得られた染色された複合繊維2及び3は、同色性、染色濃度及び鮮明性のいずれにおいても良好な結果が得られた。更に、複合繊維2及び3は風合いにおいてもタンパク質特有の風合いを残しており良好であった。よって、本第2実施形態に係る複合繊維は、漂白後に染色した場合にも、大豆タンパク繊維が脆化、変質を起こして、当該大豆タンパク繊維中のタンパク質成分が上記繊維材料から脱落することなく、且つ、求める色相に容易に染色された複合繊維を得ることができる。
【0048】
これに比べ、比較例4〜9で得られた比較繊維4〜9は、上記染色性の3項目のいずれかにおいて、やや不良(△)又は不良(×)と評価され、求める色相に容易に染色することが難しい。更に、比較繊維4、5、7及び8は風合いにおいても、タンパク質特有の風合いが低下しており不良であった。
【0049】
以上のことにより、本第2実施形態においては、漂白後の複合繊維を染色した場合にも、大豆タンパク繊維が脆化、変質を起こして、当該大豆タンパク繊維中のタンパク質成分が上記繊維材料から脱落することなく、且つ、求める色相に容易に染色された複合繊維を得ることができる。
【0050】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)本発明に係る複合繊維は、本第1実施形態において説明した漂白方法によって得られる複合繊維に限られるものではなく、上記漂白方法以外の漂白方法であっても、その漂白後の大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率が95重量%以上であり、且つ、前記漂白後の前記繊維材料の白色度指数が70以上である漂白方法によって得られるものであればよい。
(2)本第1実施形態においては、上記繊維材料として、経糸に50番手の綿糸を使用し、緯糸に大豆タンパク繊維(大豆タンパク質20重量%とポリビニルアルコール80重量%とからなる単糸繊度1.27dT、繊維長38mmの繊維による40番手の紡績糸)を使用した交織の平織物(目付125g/m)を使用するものであるが、本発明に係る繊維材料は、これに限定されるものではなく、綿糸の番手、大豆タンパク繊維の繊度及び番手を任意に選定することができる。また、本発明に係る繊維材料は、綿繊維と大豆タンパク繊維の交織の平織物に限定されるものではなく、混紡の織編物等あってもよい。
(3)本第1実施形態においては、経糸にデンプン経糊が付与された繊維材料に酵素(アミラーゼ)を作用させて糊抜きするものであるが、経糊としてデンプン経糊に変えてPVA糊剤が使用されている繊維材料に対しては、アミラーゼ処理をおこなわずに、湯洗いのみで糊抜きをしてもよい。
(4)本第1実施形態においては、繊維材料と漂白液の浴比を1:20とした浸漬法で行うものであるが、浴比はこれに限られるものではなく、任意の比率で行うことができる。また、浸漬法に限られるものではなく、繊維材料に漂白液をパディング後、ロールアップして所定温度と時間で処理するバッチアップ法で行ってもよい。更に、漂白液をパディング後、コンベア上において所定温度と時間で処理する連続法で行ってもよい。
(5)本第2実施形態においては、染色をビニルスルフォン型反応染料で行うものであるが、この反応基に限定されるものではなく、例えば、トリアジン型反応染料、ピリミジン型反応染料その他の反応染料で行ってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも大豆タンパク繊維と綿繊維とからなる繊維材料を漂白してなる複合繊維において、前記漂白後の前記大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率が95重量%以上であり、且つ、前記漂白後の前記繊維材料の白色度指数が70以上であることを特徴とする複合繊維。
【請求項2】
少なくとも大豆タンパク繊維と綿繊維とからなる繊維材料を漂白後に染色してなる複合繊維において、前記漂白後前記染色前の前記大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率が95重量%以上であり、且つ、前記漂白後前記染色前の前記繊維材料の白色度指数が70以上であることを特徴とする複合繊維。
【請求項3】
少なくとも大豆タンパク繊維と綿繊維とからなる繊維材料を漂白した後の前記大豆タンパク繊維中のタンパク質成分の残存率が95重量%以上であり、且つ、前記漂白後の前記繊維材料の白色度指数が70以上であるように、少なくとも過酸化水素とアルカリ金属水酸化物とを含有し、所定範囲のpHを示す漂白液を用いて、前記繊維材料を所定範囲の温度で漂白する繊維材料の漂白方法。
【請求項4】
請求項3に記載の漂白に先立って、前記繊維材料を酵素で糊抜きし、且つ、酵素で精練することを特徴とする繊維材料の漂白方法。
【請求項5】
前記所定範囲のpHが、9.5〜11の範囲以内であって、且つ、前記所定範囲の温度が、50〜100℃の範囲以内であることを特徴とする請求項3又は4に記載の繊維材料の漂白方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウムであって、前記漂白液における前記水酸化ナトリウムの濃度が、0.1〜5g/リットルの範囲以内にあることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1つに記載の繊維材料の漂白方法。

【公開番号】特開2008−266827(P2008−266827A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110611(P2007−110611)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000219794)東海染工株式会社 (24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】