説明

複合繊維構造体およびその製造方法

【課題】充分なフィルター性能を有したまま、繊維構造体を構成する繊維間空隙に選択的に極細繊維を積層させることで繊維間空隙より大きさの小さい有害物質や粉塵など等の捕集効率を向上させ、しかも構成する繊維に導電性を付与することにより濾過性能が格段に向上する複合繊維構造体を提供すること。
【解決手段】単繊維の直径が1〜3,000nmの極細繊維を、電荷を付与し、該極細繊維を構成する単繊維と反発し合うように帯電させた繊維から構成される繊維構造体に積層させることにより、該極細繊維を該繊維構造体を構成する繊維の繊維間空隙に選択的に充填積層した複合繊維構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合繊維構造体に関するものであり、さらに詳細には、室内の空気や排水中に含まれる有害化学物質や粉塵などを選択的に除去するフィルターやシートなどに好適に使用することができる複合繊維構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気清浄用フィルターや液体フィルターなどに使用される、高い濾過性能を有するシート状積層体はよく知られており、例えば、特許文献1(特開2003−251121号公報)には、極細繊維からなる不織布と、混合繊維シートとを積層してなるフィルターが開示されている。
そして、これらのシート状積層体においては、濾過性能を高めるために、表層近傍に不織布層を配することが一般的である。しかしながら、特に濾過性能に優れたフィルターを得るため、該不織布層を極細繊維により構成させようとした場合には、極細繊維の積層工程において発生する静電気の影響により、積層斑や不織布層の厚み斑が生じ、さらに通気性においても積層体の面方向にバラツキを生じて濾過性能が均一にならないという問題があった。
【特許文献1】特開2003−251121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記従来技術の有する問題点を解決し、充分なフィルター性能を有したまま、繊維構造体を構成する繊維の繊維間空隙に選択的に極細繊維を積層させることで、繊維間空隙の大きさより小さい有害物質や粉塵などの捕集性能を向上させ、しかも構成する繊維に導電性を付与することにより濾過性能が格段に向上する複合繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、単繊維の直径が1〜3,000nmの極細繊維と、繊維構造体とが積層されてなる複合繊維構造体であって、該極細繊維が該繊維構造体を構成する繊維間空隙に選択的に充填積層されていることを特徴とする複合繊維構造体に関する。
次に、本発明は、単繊維の直径が1〜3,000nmの極細繊維を、電荷を付与し、該極細繊維を構成する単繊維と反発し合うように帯電させた繊維から構成される繊維構造体に積層させることにより、該極細繊維を該繊維構造体を構成する繊維間空隙に選択的に充填積層させることを特徴とする複合繊維構造体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、繊維構造体を構成する繊維間空隙に選択的に極細繊維を充填積層させることで、繊維間空隙より大きさの小さい有害物質や粉塵などの捕集効率を充分なフィルター性能を有したまま向上させ、しかも構成する繊維に導電性を付与することにより濾過性能が格段に向上する複合繊維構造体を提供されるので、有害化学物質を除去するフィルターやシートなどの用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明者の技術的骨子は、極細繊維を積層させる際、繊維構造体に電荷を付与し帯電させるとき、本発明の目的とする所望の複合繊維構造体が得られる点にある。
まず、本発明においては、単繊維の直径が1〜3,000nm、好ましくは1〜2,000nm、さらに好ましくは1〜1,000nmの極細繊維を繊維構造体に積層させることが肝要である。該単繊維の直径が1nm未満の場合は、得られる複合繊維構造体の強力が低下し、一方、該単繊維の直径が3,000nmを超える場合は、フィルター性能や消臭、抗菌、防汚などの機能が充分に発揮されない。
【0007】
上記極細繊維は、1種あるいは2種以上のポリマーを用い、例えば、エレクトロスピニング法により形成される。ここで、エレクトロスピニング法とは、ポリマー溶液に高電圧を印加することによって、溶液をスプレーし、極細繊維を形成させるものである。極細繊維の太さは、印加電圧、溶液濃度、スプレーの飛散距離に依存する。基板上に連続的に極細繊維を作成することによって、立体的な網目を持つ三次元構造の薄膜が得られる。例えば、これまで研究されてきた機能性薄膜を三次元構造にすることで、新しい特性や機能の向上が期待される。また、この方法により、膜を不織布などの布帛のように厚くすることが可能であり、サブミクロンの網目を持つ不織布を製造することができる。
本発明に用いられる極細繊維としては、このエレクロスピニング法を用い、具体的には、例えばポリアクリロニトリルポリマーをジメチルホルムアミドに0.1〜20重量%の重量比で溶解させ、印加電圧0.1〜30kVの範囲のうち最適な条件を選択して紡糸することにより得られる極細繊維などが例示される。
【0008】
繊維構造体の繊維間空隙に選択的に充填積層される不織布構造をとる極細繊維の目付は、通常、0.001〜10g/m、好ましくは0.01〜5.0g/mである。0.01g/m未満では、繊維構造体表面に一様に極細繊維を被覆するに足らず、一方、5.0g/mを超えると、十分な通気性が得られなくなる。
【0009】
次に、本発明において使用する繊維構造体とは、木綿、麻などの天然繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維などの無機繊維、およびポリアミド繊維、ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリアクリロニトリル繊維などの合成繊維から構成される織編物、不織布、紙状物などを言う。
中でも、物性のバランスが良好なポリエステル繊維、水酸化ラジカルやオゾンなどに対して劣化の少ないポリ塩化ビニル繊維、ポリアクリロニトリル繊維を使用することが好ましい。
また、繊維の形状としては、短繊維糸条、長繊維糸条、スプリットヤーン、テープヤーンなどのいずれの形状であってもよい。
【0010】
ここで、繊維構造体を構成する繊維の単繊維の直径は、好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは1〜50μmである。1μm未満では、例えば、繊維構造体全体が極細繊維のみとなり、十分な通気性が得られなくなる。一方、100μmを超えると、繊維間空隙が大きくなり、捕集対象粒子の繊維への衝突機会の減少により、捕集効率が低下する。
【0011】
上記繊維構造体には樹脂加工を施しても良く、その際に被覆する樹脂種には特に限定はないが、耐候性の優れた樹脂が好ましい。ここでいう耐候性に優れた樹脂とは、耐黄変性、保色性、光沢保持性、および耐薬品性などに優れた樹脂をいい、水溶性、溶剤可溶性のいずれも用いることができる。
具体的には、塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン系樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などが好ましく使用される。また、被覆後の樹脂層の表面に金属蒸着膜や金属箔を貼りあわせても構わない。
また、これらの樹脂に添加する化合物としては顔料、難燃剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、安定剤、充填剤、潤滑剤、硬化剤、消泡剤、防カビ剤などが挙げられ、これらを単独、あるいは複合して樹脂に混合することができる。
これらの樹脂を被覆する方法としては、公知のコーティング法、トッピング法、ディッピング法、ラミネート法、グラビア法などが挙げられ、該樹脂層の厚みは用途によって調整することができる。
【0012】
本発明に用いられる繊維構造体の目付は、通常、5.0〜200g/m、好ましく5〜100g/mである。5.0g/m未満では、構造体の厚みが薄くなるため、取り扱い困難となる。一方、200g/mを超えると、圧力損失も次第に大きくなるため、フィルターとして適さない。
【0013】
本発明の複合繊維構造体は、上記極細繊維を、上記繊維構造体に従来公知の方法により積層すれば良いが、その際、該不織布を構成する繊維の単繊維繊度が小さいために静電気が発生し、積層工程の作業性が不安定になったり、不織布層の厚みに斑が生じ、濾過性能にバラツキが生じたりし易い。
特に、該極細繊維を、例えば、スパンボンド法などにより、繊維構造体上に積層させ、不織布層を形成させる場合などは、積層工程そのものが静電気の発生源になるので、上記の問題が顕著に発生する傾向にある。
従って、本発明においては、極細繊維を、繊維構造体に積層させて複合繊維構造体を製造するに際し、電荷を付与し、該単繊維と反発し合うように帯電させた繊維構造体に積層させることが肝要である。
【0014】
ここで、繊維構造体に電荷を付与し、帯電させるには、繊維構造体を構成する繊維を導電性無機性あるいは導電性有機繊維としてもよい。例えば、該繊維構造体を構成する繊維内部あるいは表面に導電性物質を付与し、導電性を付与することが必要であり、具体的には、該繊維構造体を構成する繊維の製造の際、ポリマー溶液中に金属やカーボンブラック、メソカーボン小球体、黒鉛、炭素繊維、ピッチ系炭素繊維ミルド、フラーレンに代表される導電性炭素材料などの導電性物質を混合する方法や該繊維構造体を構成する繊維表面を銅やニッケルなどで金属めっきする方法、繊維構造体を1,200℃以上の加熱炉にて焼成して炭素化させる方法などが例示される。
【0015】
そして、上記の方法で導電性を付与された繊維構造体に、電荷を付与し、極細繊維と反発し合うように帯電させることにより、該極細繊維を該繊維構造体を構成する繊維の繊維間空隙に、より選択的に充填積層させることが可能となる。
この際、極細繊維を構成する繊維として、導電性無機繊維あるいは導電性有機繊維としてもよい。例えば、極細繊維の内部あるいは表面に導電性物質を付与し、導電性を付与して、繊維構造体を構成する繊維とより強く引合うよう、電荷を付与しても構わない。
【0016】
この際、繊維構造体に電荷を付与し、極細繊維と反発し合うように帯電させる具体的な方法としては、エレクトロスピニング法において、極細繊維を捕集する基板電極上に繊維構造体を静置し、印加電極の電荷と同じ電荷を帯電する繊維構造体を選択する方法である。
【0017】
かくして得られた複合繊維構造体は、繊維構造体を構成する繊維間空隙に選択的に極細繊維を積層させることで繊維間空隙より大きさの小さい有害物質や粉塵などの捕集効率を充分なフィルター性能を有したまま向上させ、しかも構成する繊維に導電性を付与することにより帯電した粒子を捕集可能となり極細繊維の表面積の拡大により濾過性能が格段に向上するため、室内空気清浄用フィルター、排水浄化用フィルターなど、高度の濾過性能を必要とする用途に使用することが望ましい。ここで、繊維構造体を構成する繊維間空隙に選択的に極細繊維を積層させるとは、極細繊維が繊維構造体を構成する繊維以外の部分に積層され、繊維構造体を構成する繊維表面部分に極細繊維が積層されない状態を指称する。
【0018】
なお、本発明の複合繊維構造体の総目付は、通常、5.001〜210g/m、好ましくは5.01〜155g/mである。
また、極細繊維から構成される不織布と繊維構造体の重量比は、通常、1:20〜1:5000、好ましくは1:20〜1:500である。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて本発明の構成および効果をさらに詳細に説明する。
なお、実施例における各物性は、以下の方法により求めたものである。
作製した複合繊維構造体の諸物性を表1に示す。
(1)目付、密度
作製した複合繊維構造体を一定面積(100cm)に切断し、秤量天秤にて重量測定を行い、目付を算出した。また、密度は、複合繊維構造体の厚みを厚み計にて測定後、目付/厚みにより算出した。
(2)導電性
導電性は、JIS K7194に準拠し、四探針法により測定した。
(3)濾過性能(捕集効率)
捕集効率は、作製した複合繊維構造体あるいは繊維構造体JIS B9908に準拠し、56m/minの空気を通過させたときの0.3μmのDOP粒子に対する捕集効率を求めた。
【0020】
実施例1
極細繊維製造装置の極細繊維捕集基板(負極)に静置することにより、電荷を付与し帯電させたガラス繊維メッシュ織布(目付43g/m、厚さ0.2mm、タテヨコ密度3本/10mm)に、エレクトロスピニング法(ポリアクリロニトリルの10重量%溶液に、電圧20KVを印加し、圧力0.01MPaで、該ガラス繊維メッシュ織布にスプレー)により、ポリアクリロニトリル極細繊維(繊維径200nm、0.3g/m2)を積層し、複合繊維構造体を作製した。
この際、ガラス繊維は正に帯電しているため、正に帯電しているポリアクリロニトリル極細繊維はガラス繊維メッシュ織物のメッシュ空隙部分に選択的に充填積層されていた。
【0021】
実施例2
実施例1と同様にして、エレクトロスピニング法によるポリアクリロニトリル極細繊維(繊維径200nm、目付0.3g/m2)作製時に、ポリアクリロニトリルポリマー溶液に一次粒子径25nmのカーボンブラック(東海カーボン製#5500)を10重量部混合し、極細繊維を作製し、実施例1記載のガラス繊維メッシュ織物に積層し、複合繊維構造体を作製した。
この際、ガラス繊維は正に帯電、また、ポリアクリロニトリル極細繊維はより正に帯電しているため、実施例1に比してポリアクリロニトリル極細繊維はガラス繊維メッシュ織物のメッシュ空隙部分により選択的に充填積層されていた。
【0022】
比較例1
実施例1において、ガラス繊維メッシュ織布(目付43g/m、厚さ0.2mm、タテヨコ密度3本/10mm)を帯電させない以外は実施例1と同様に実施し、複合繊維構造体とした。
この際、ガラス繊維は実施例1に比して負帯電寄りに正帯電しているため、ポリアクリロニトリル極細繊維はガラス繊維メッシュ織布を構成する繊維表面にも積層されていた。
【0023】
比較例2
ポリアクリロニトリル極細繊維(繊維径200nm、目付0.3g/m2)作製時にポリアクリロニトリルポリマー溶液に一次粒子径25nmのカーボンブラック(東海カーボン製#5500)を10重量部混合し、極細繊維を作製し、実施例1記載のガラス繊維メッシュ織物を帯電させない以外は実施例1と同様に実施し、複合繊維構造体を作製した。
この際、ガラス繊維は、実施例1に比して負帯電寄りに正帯電し、一方ポリアクリロニトリル極細繊維はより正に帯電しているため、ポリアクリロニトリル極細繊維はポリエステル繊維に対し反発して選択的にポリエステル繊維以外の部分に積層される。
【0024】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、繊維構造体を構成する繊維間空隙に選択的に極細繊維積層させることで繊維間空隙より大きさの小さい有害物質や粉塵などの捕集効率を充分なフィルター性能を有したまま向上させ、しかも構成する繊維に導電性を付与することにより帯電した粒子を捕集可能となり極細繊維の表面積の拡大により濾過性能が格段に向上するため、室内空気清浄用フィルター、排水浄化用フィルターなどに好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維の直径が1〜3,000nmの極細繊維と、繊維構造体とが積層されてなる複合繊維構造体であって、該極細繊維が、該繊維構造体を構成する繊維の繊維間空隙に選択的に充填積層されていることを特徴とする複合繊維構造体。
【請求項2】
繊維構造体を構成する繊維の単繊維の直径が1〜100μmである請求項1記載の複合繊維構造体。
【請求項3】
極細繊維、および繊維構造体を構成する繊維が導電性無機繊維あるいは導電性有機繊維である請求項1記載の複合繊維構造体。
【請求項4】
単繊維の直径が1〜3,000nmの極細繊維を、電荷を付与し、該極細繊維を構成する単繊維と反発し合うように帯電させた繊維から構成される繊維構造体に積層させることにより、該極細繊維を該繊維構造体を構成する繊維の繊維間空隙に選択的に充填積層させることを特徴とする複合繊維構造体の製造方法。


【公開番号】特開2006−69142(P2006−69142A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258224(P2004−258224)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】