複合繊維
【課題】 PVA成分を抽出することにより機械的性質および風合等の触感が劣化することなく異型断面あるいは極細の熱可塑性ポリマー繊維を提供する。
【解決手段】 粘度平均重合度が200〜500、鹸化度が90〜99.99モル%、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率が70〜99.9モル%、1,2−グリコール結合の含有量が1.2〜2.0モル%、融点が160〜230℃であるポリビニルアルコール(A)からなり、かつ(A)100質量部に対してアルカリ金属イオン(B)がナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量部含有されている水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(C)と融点が270℃以下の熱可塑性ポリマー(D)とからなる複合繊維。
【解決手段】 粘度平均重合度が200〜500、鹸化度が90〜99.99モル%、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率が70〜99.9モル%、1,2−グリコール結合の含有量が1.2〜2.0モル%、融点が160〜230℃であるポリビニルアルコール(A)からなり、かつ(A)100質量部に対してアルカリ金属イオン(B)がナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量部含有されている水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(C)と融点が270℃以下の熱可塑性ポリマー(D)とからなる複合繊維。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールと融点が270℃以下の熱可塑性ポリマーとからなる複合繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】繊維からなる織編物、紙あるいは不織布等のシート状物は、様々な用途に用いられているが、例えばフィルター用途においては、ろ過性能や薄葉化のために極細化された繊維からなるシート状物が用いられている。また、例えば、衣料用途や生活用品用途においては、柔らかい触感や自然な風合を有する布帛を得るためにフィブリル化された繊維、異型断面からなる繊維あるいは極細化された繊維が用いられている。これらの繊維シート状物は熱可塑性ポリマーから直接細い繊維を作ってシート状物にする方法、あるいは複合繊維の一方を除去して得る方法等がある。直接細い繊維からシート状物を作る方法としては、直接溶融紡糸で選られた細い繊維を用いる方法、メルトブローン法やスパンボンド法などが知られている。しかしながら、熱可塑性ポリマーから直接細い繊維を作ってシート状物にする方法では、フィブリル化された繊維、異型断面からなる繊維あるいは極細化された繊維等からなるシート状物を作ることは非常に困難であった。また複合繊維の一方を除去して得る方法では、シート状物を溶剤やアルカリに浸せきして分解除去するために、抽出後に得られる熱可塑性ポリマーからなるシート状物の強伸度の機械的性質あるいは風合等の触感が劣化するという問題が有った。またこれらの抽出廃液処理も近年の環境問題の点から好ましくなく、より負荷の小さい処理方法が求められている。これらの問題に対し、抽出除去される成分として変性PVAを用いることが検討され、オレフィン変性PVAと疎水性高分子物質を溶融複合紡糸し、得られた複合紡糸繊維からなる織物から変性PVAを水溶液で溶解除去するクレープ織物の製造方法が提案されている(特開昭50−152062号公報、特開昭50−152063号公報)。しかしながら、本発明者の検討によれば、これらの変性PVAは、100℃以下の温水で膨潤流動あるいは一部溶解させることはできるものの、変性PVA成分を十分に溶解するまでには至っていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上述の問題点を解決するものであり、複合繊維を構成する一成分を抽出した場合に、残された繊維の機械的性質および風合等の触感が劣化することなく、異型断面あるいは極細繊度を有する熱可塑性ポリマー繊維が得られ、しかも抽出廃液は生分解される複合繊維を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、粘度平均重合度が200〜500、鹸化度が90〜99.99モル%、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率が70〜99.9モル%、1,2−グリコール結合の含有量が1.2〜2.0モル%であり、融点が160℃〜230℃であるポリビニルアルコール(A)からなり、かつ(A)100質量部に対してアルカリ金属イオン(B)がナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量部含有されている水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(C)と融点が270℃以下の熱可塑性ポリマー(D)とからなることを特徴とする複合繊維である。
【0005】なお、本発明のポリビニルアルコール繊維におけるポリビニルアルコールとは、ポリビニルアルコールのホモポリマーは勿論のこと、例えば、共重合、末端変性、および後反応により官能基を導入した変性ポリビニルアルコールも包含するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】本発明に用いられるPVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は200〜500であり、230〜470が好ましく、250〜450が特に好ましい。重合度が200未満の場合には紡糸時に十分な曳糸性が得られず、繊維化できない。重合度が500を越えると溶融粘度が高すぎて、紡糸ノズルからポリマーを吐出することができない。また重合度500以下のいわゆる低重合度のPVAを用いることにより、水溶液で溶解するときに溶解速度が速くなるばかりでなくPVA成分が溶解する時の収縮率を小さくすることができる。
【0007】PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVAを再鹸化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dl/g)から次式により求められるものである。
P=([η]×103/8.29)(1/0.62)重合度が上記範囲にある時、本発明の目的がより好適に達せられる。
【0008】本発明のPVAの鹸化度は90〜99.99モル%でなければならない。93〜99.98モル%が好ましく、94〜99.97モル%がより好ましく、96〜99.96モル%が特に好ましい。鹸化度が90モル%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって満足な溶融紡糸を行うことができないのみならず、後述する共重合モノマーの種類によってはPVAの水溶性が低下し、本発明の複合繊維を得ることができない場合がある。一方、鹸化度が99.99モル%よりも大きいPVAは安定に製造することができず、安定した繊維化もできない。
【0009】本発明で使用されるPVAは生分解性を有しており、活性汚泥処理あるいは土壌に埋めておくと分解されて水と二酸化炭素になる。PVAを溶解した後の廃液の処理には活性汚泥法が好ましい。該PVA水溶液を活性汚泥で連続処理すると2日間から1ヶ月で分解される。また、本発明に用いるPVAは燃焼熱が低く、焼却炉に対する負荷が小さいので、PVAを溶解した排水を乾燥させてPVAを焼却処理してもよい。
【0010】生分解性の点から該PVAの鹸化度は90〜99.99モル%が好ましく、92〜99.98モル%がより好ましく、93〜99.97モル%が特に好ましい。
【0011】本発明に用いるポリビニルアルコールの1,2−グリコール結合含有量は1.2〜2.0モル%でなければならない。1.25〜1.95モル%がより好ましく、1.3〜1.9モル%が特に好ましい。PVAの1,2−グリコール結合量が1.2モル%未満の場合には、PVAの生分解性が悪くなるばかりでなく、溶融粘度が高すぎて紡糸性が悪くなる場合がある。PVAの1,2−グリコール結合含有量が2.0モル%以上の場合にはPVAの熱安定性が悪くなり紡糸性が低下する場合がある。PVAの1,2−グリコール結合含有量はNMRのピークから求めることができる。鹸化度99.9モル以上に鹸化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃減圧乾燥を2日間したPVAをDMSO−D6に溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えた試料を500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定する。ビニルアルコール単位のメチン由来ピークは3.2〜4.0ppm(積分値A)、1,2−グリコール結合の1つのメチン由来のピークは3.25ppm(積分値B)に帰属され、次式で1,2−グリコール結合含有量を算出できる。ここでΔは変性量(モル%)を表す。
1,2-グリコール結合含有量(モル%)=100B/{100A/(100-Δ)}
【0012】本発明に用いられるPVAの融点(Tm)は160〜230℃であり、170〜227℃が好ましく、175〜224℃がより好ましく、180〜220℃が特に好ましい。融点が160℃未満の場合にはPVAの結晶性が低下し繊維強度が低くなると同時に、PVAの熱安定性が悪くなり、繊維化できない場合がある。一方、融点が230℃を越えると溶融紡糸温度が高くなり紡糸温度とPVAの分解温度が近づくためにPVA繊維を安定に製造することができない。
【0013】PVAの融点は、DSCを用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後、室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を意味する。
【0014】PVAは、ビニルエステル系重合体のビニルエステル単位を鹸化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0015】本発明で使用されるポリビニルアルコール重合体は、ホモポリマーであっても共重合単位を導入した変成PVAであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、共重合単位を導入した変性ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。共重合単量体の種類としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル類、酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。これらの単量体の含有量は、通常20モル%以下である。
【0016】これらの単量体の中でも、入手のしやすさなどから、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類に由来する単量体が好ましい。
【0017】特に、共重合性、溶融紡糸性および繊維の水溶性の観点からエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンの炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類がより好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類に由来する単位は、PVA中に0.1〜20モル%存在していることが好ましく、より好ましくは1〜20モル%、さらに4〜15モル%が好ましく、6〜13モル%が特に好ましい。さらに、α−オレフィンがエチレンである場合において、繊維物性が高くなることから、特にエチレン単位が4〜15モル%、より好ましくは6〜13モル%導入された変性PVAを使用することが好ましい。
【0018】本発明で使用されるPVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、α,α'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、nープロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜150℃の範囲が適当である。
【0019】本発明の繊維におけるアルカリ金属イオン(B)の含有割合は、PVA(A)100質量部に対してナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量部であり、0.0003〜0.8質量部が好ましく、0.0005〜0.6質量部がより好ましく、0.0005〜0.5質量部が特に好ましい。アルカリ金属イオンの含有割合が0.0003質量部未満の場合には、得られた十分な水溶性を示さず未溶解物が残る場合がある。またアルカリ金属イオンの含有量が1質量部より多い場合には溶融紡糸時の分解及びゲル化が著しく繊維化することができない。アルカリ金属イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等があげられる。
【0020】本発明において、特定量のアルカリ金属イオン(B)をPVA中に含有させる方法は特に制限されず、PVAを重合した後にアルカリ金属イオン含有の化合物を添加する方法、ビニルエステルの重合体を溶媒中において鹸化するに際し、鹸化触媒としてアルカリイオンを含有するアルカリ性物質を使用することによりPVA中にアルカリ金属イオンを配合し、鹸化して得られたPVAを洗浄液で洗浄することにより、PVA中に含まれるアルカリ金属イオン含有量を制御する方法などが挙げられるが後者のほうが好ましい。なお、アルカリ金属イオンの含有量は、原子吸光法で求めることができる。
【0021】鹸化触媒として使用するアルカリ性物質としては、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムがあげられる。鹸化触媒に使用するアルカリ性物質のモル比は、酢酸ビニル単位に対して0.004〜0.5が好ましく、0.005〜0.05が特に好ましい。鹸化触媒は、鹸化反応の初期に一括添加しても良いし、鹸化反応の途中で追加添加しても良い。鹸化反応の溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどがあげられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく、含水率を0.001〜1質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.003〜0.9質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.005〜0.8質量%に制御したメタノールが特に好ましい。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などがあげられ、これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水の単独もしくは混合液がより好ましい。洗浄液の量としてはアルカリ金属イオン(B)の含有割合を満足するように設定されるが、通常、PVA100質量部に対して、300〜10000質量部が好ましく、500〜5000質量部がより好ましい。洗浄温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間〜10時間が好ましく、1時間〜6時間がより好ましい。
【0022】本発明において、トライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基とは、PVAのd6−DMSO溶液での500MHz プロトンNMR(JEOL GX-500)装置、65℃測定による水酸基プロトンのトライアッドのタクティシティを反映するピーク(I)を意味する。ピーク(I)はPVAの水酸基のトライアッド表示のアイソタクティシティ連鎖(4.54ppm)、ヘテロタクティシティ連鎖(4.36ppm)およびシンジオタクティシティ連鎖(4.13ppm)の和で表わされ、全てのビニルアルコールユニットにおける水酸基のピーク(II)はケミカルシフト4.05ppm〜4.70ppmの領域に現れることから、本発明のビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率は、100×(I)/(II)で表されるものである。
【0023】本発明の複合繊維におけるPVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量は70〜99.9モル%であり、74〜97モル%が好ましく、75〜96モル%がより好ましく、76〜95モル%が特に好ましい。PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量が70モル%未満である場合には、ポリマーの結晶性が低下し、繊維強度が低くなると同時に、溶融紡糸時に繊維が膠着して巻取り後に巻き出しできない場合がある。また本発明で目的とする水溶性の熱可塑性繊維が得られない場合がある。PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量が99.9モル%より大の場合には、ポリマーの融点が高いため溶融紡糸温度を高くする必要があり、その結果、溶融紡糸時のポリマーの熱安定性が悪く、分解、ゲル化、ポリマー着色が起こる。
【0024】また、本発明のPVAがエチレン変性のPVAである場合、下記式を満足することで本発明の効果は更に高くなるものである。
-1.5×Et+100≧モル分率≧-Et+85ここで、モル分率(単位:モル%)はビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率を表し、Etはビニルアルコール系重合体が含有するエチレン含量(単位:モル%)を表す。
【0025】本発明に用いる融点が270℃以下の熱可塑性ポリマーは、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルおよびその共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン10、ナイロン12、ナイロン6−12等の脂肪族ポリアミドおよびその共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィンおよびその共重合体、エチレン単位を25モル%から70モル%含有する変性ポリビニルアルコール、ポリスチレン系、ポリジエン系、塩素系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、フッ素系のエラストマー等の中から少なくとも一種類を選んで用いることができる。本発明に用いるPVAと複合紡糸しやすい点からは、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ナイロン6、ナイロン6−12、ポリプロピレンおよびエチレン単位を25モル%から70モル%含有する変性ポリビニルアルコールが好ましい。特に、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルを一成分とする複合繊維から他方の成分を除去して、脂肪族ポリエステルからなる繊維を製造するに当たり、該他方の成分を水以外の薬品で抽出すると、脂肪族ポリエステル繊維の劣化、分解を伴うので、かかるポリエステルを一成分とする複合繊維を製造するにおいては、本発明に示したPVAを他方成分とすることが有効である。さらに、本発明において、融点が270℃以下の熱可塑性ポリマーとして、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルを使用すると、ポリ乳酸自体が生分解性を有し、ポリビニルアルコール成分も抽出後の水溶液として生分解性を示し、複合繊維全体が生分解性の重合体からなるので好ましい。
【0026】また本発明の目的や効果を損なわない範囲で、熱可塑性ポリビニルアルコールおよび融点270℃以下の熱可塑性ポリマーには必要に応じて銅化合物等の等の安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤を重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。特に熱安定剤としてヒンダードフェノール等の有機系安定剤、ヨウ化銅等のハロゲン化銅化合物、ヨウ化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属化合物を添加すると、繊維化の際の溶融滞留安定性が向上するので好ましい。
【0027】また必要に応じて平均粒子径が0.01μm以上5μm以下の微粒子を0.05質量%以上10質量%以下、重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。微粒子の種類は特に限定されず、たとえばシリカアルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の不活性微粒子を添加することができ、これらは単独で使用しても2種以上併用しても良い。特に平均粒子径が0.02μm以上1μm以下の無機微粒子が好ましく、紡糸性、延伸性が向上する。
【0028】本発明に用いるポリビニルアルコール(C)と融点が270℃以下の熱可塑性ポリマー(D)とからなる繊維は、例えば、混合紡糸による方法では、PVA成分(C)と熱可塑性ポリマー(D)とを、1つの押し出し機で溶融混練し、引き続き同一の紡糸ノズルから吐出させて巻取り、繊維化することが出来る。また複合紡糸による方法では、PVA成分(C)と熱可塑性ポリマー(D)とをそれぞれ別の押し出し機で溶融混練し、引き続き同一の紡糸ノズルから吐出させて巻き取り、繊維化することができる。複合繊維の複合形態は特に限定されず、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、多層張合わせ型、放射状分割型、これらの組み合わせなど適宜設定することができる。
【0029】本発明において繊維化条件は、ポリマーの組合せ、複合断面形態に応じて設定する必要があるが、主に、以下のような点に留意して繊維化条件を決めることが望ましい。紡糸口金温度は、複合繊維を構成するポリマーのうち高い融点を持つポリマの融点をMpとするときMp〜Mp+80℃が好ましく、せん断速度(γ)1,000〜25,000sec-1、ドラフトV10〜500で紡糸することが好ましい。また、複合するポリマーの組み合わせから見た場合、紡糸時おける口金温度とノズル通過時のせん断速度で測定したときの溶融粘度が近接したポリマーを組合せて複合紡糸することが紡糸安定性の面から好ましい。
【0030】本発明におけるPVAの融点Tmとは、示差走査熱量計(DSC:例えばMettler社TA3000)で観察される主吸熱ピークのピーク温度である。せん断速度(γ)は、ノズル半径をr(cm)、単孔あたりのポリマー吐出量をQ(cm3/sec)とするときγ=4Q/πr3で計算される。またドラフトVは、引取速度をA(m/分)とするときV=A・πr2/Qで計算される。
【0031】本発明の複合繊維を製造するに際して、紡糸口金温度がPVAの融点Tmより低い温度では該PVAが溶融しないために紡糸できない。またTm+80℃を越えるとPVAが熱分解しやすくなるために紡糸性が低下する。また、せん断速度は1,000sec-1よりも低いと断糸しやすく、25,000sec-1より高いとノズルの背圧が高くなり紡糸性が悪くなる。ドラフトは10より低いと繊度むらが大きくなり安定に紡糸しにくくなり、ドラフトが500より高くなると断糸しやすくなる。
【0032】紡糸ノズルから吐出された糸条は延伸せずにそのまま高速で巻き取るか必要に応じて延伸される。延伸は破断伸度(HDmax)×0.55〜0.9倍の延伸倍率でガラス転移点(Tg)以上の温度で延伸される。延伸倍率がHDmax×0.55未満では十分な強度を有する複合繊維が安定して得られず、HDmax×0.9を越えると断糸しやすくなる。延伸は紡糸ノズルから吐出された後に一旦巻き取ってから延伸する場合と、延伸に引き続いて施される場合があるが、本発明においてはいずれでもよい。延伸は通常熱延伸され、熱風、熱板、熱ローラー、水浴等のいずれを用いて行ってもよい。
【0033】延伸温度は、未延伸糸の結晶化部分が少ない場合には、Tgを延伸温度の目安とするが、本発明に用いるポリビニルアルコールは結晶化速度が速いため未延伸糸の結晶化がかなり進み、Tg前後では結晶部分の可塑変形が生じにくい。このため熱ローラー延伸などの接触加熱延伸をする場合でも比較的高い温度(70〜120℃程度)を目安に延伸する。また、加熱炉、加熱チューブなどの非接触タイプのヒーターを使用して加熱延伸する場合は、さらに高温で150〜200℃程度の温度条件とすることが好ましい。ガラス転移点以上の延伸温度で破断伸度(HDmax)×0.55〜0.9倍の延伸倍率の範囲を外れた条件で延伸処理を行うと、得られる繊維表面に繊維軸方向に沿ってたて筋状の溝が形成され、繊維化以降の工程のガイド等での擦れや製編織工程で糸条に働く擦過力により、繊維に形成された溝からフィブリル化が発生し、スカムになって織編物中に入り込んで欠点になったり、工程中で断糸が生じるので好ましくない。本発明では、上記のような条件を採用することにより、繊維表面に繊維軸方向に伸びる長さ0.5μm以上の溝が実質的に存在しないポリビニルアルコール繊維が得られ、繊維化工程以降においてもフィブリル化や断糸が発生しないという特徴を有している。一方、従来の湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法、ゲル紡糸法などで製造されたPVA繊維は、繊維表面の全面に繊維軸方向に伸びる溝が多数形成され、これらの手法で長さ0.5μm以上の溝をなくすことは極めて困難である。
【0034】ただし、本発明に用いるPVAは水溶液で抽出されやすいので、シート等に成形してから抽出する場合、あるいは抽出しないでバインダー繊維として用いる場合には40℃以上の水浴で延伸することは好ましくなく、水分の影響の少ない熱風で延伸することが好ましい。延伸時に変性PVAを抽出した後にシート状物等に成形する場合には50℃以上の熱水浴で延伸と同時にPVAを抽出しておくこともできる。また延伸時に部分的に抽出しておいてシート状物等にした後に十分抽出してもよい。
【0035】また、水はPVAの可塑剤となるため、本発明の複合繊維は湿潤下では比較的低温で熱融着され、例えば抄紙後や水絡後の乾燥時に100℃位で圧着することで接着できる。したがって、圧着後に樹脂加工等を行い、その後ポリビニルアルコール成分を抽出することもできる。
【0036】PVA成分を抽出した後の熱可塑性ポリマー(D)からなる繊維の繊度は目的に応じて適宜設定されるが、強度の点からはより小さい方がシート状物の強度が高く好ましい。特に熱可塑性ポリマー(D)が被抽出成分であるPVA成分(C)によって、1.1dtex以下に分割されている場合、抽出後の繊維の十分な絡合が得られ、抽出後に得られるシート状物の強度が高くなり好ましい。また風合いの点からも1.1dtex以下が好ましく、0.6dtex以下が更に好ましく、0.4dtex以下が特に好ましい。
【0037】本発明の複合繊維はフィラメント、カットファイバー、わた、紡績糸、パーロック糸のいずれであってもよい。
【0038】本発明の複合繊維は公知の方法でシート状物にすることができる。織編み物の形態にするには、レピア、グリッパー、エアージェット、ウオータージェット、スルザー等の織機、あるいは丸編み機などの横編み機、トリコット、ラッセル、ミラニーズなどのたて編み機、等を用いて行うことができる。本発明の繊維を織編み物状にし、水溶液でPVAを抽出すると異形あるいは極細等の熱可塑性ポリマーからなる織り編み物が得られる。
【0039】紙の形態にするには本発明の繊維を適当な長さに切断してカットファイバーとし、抄紙して得ることができる。抄紙後に(C)を除去する場合には、紙を水溶液の浴に通して除去しても良いし、高圧水流で紙を絡合した後、あるいは絡合しながら除去しても良い。特に熱水で高圧水流絡合処理して除去すると強度の高いシート状物が得られるので好ましい。また、離解するときに水溶液で離解し、(C)を溶解/分解除去して、熱可塑性ポリマー(D)からなる繊維のみを抄紙してもよい。
【0040】不織布の形態にするためには本発明に繊維を公知の方法で捲縮・カットして綿状にし、カーディング、絡合して得ることができる。またカーディング時に他のバインダー繊維原綿等を目的に応じて混綿することもできる。絡合方法はニードルパンチングによる方法であっても高圧水流絡合処理による方法であっても良い。熱水で高圧水流処理するとPVA成分(C)が溶解/分解除去されると同時に残った熱可塑性ポリマー(D)が水流で絡合されて強度の高い不織布ができるので好ましい。
【0041】PVAを抽出して用いる場合、抽出は延伸時、抄紙時、水流絡合時、油剤抜きあるいは染色時等のいずれでもよい。また該変性PVAを除去する水溶液は中性でかまわないし、アルカリ水溶液、酸性水溶液、あるいは界面活性剤等を添加した水溶液であっても良い。抽出処理温度は目的に応じて適宜調整すればよいが、処理温度は高いほど処理時間が短くなる。熱水を用いて抽出する場合には、50℃以上で処理するのが好ましく、80℃以上で抽出処理を行うのが特に好ましい。
【0042】本発明の複合繊維は、バインダー繊維、製紙用カットファイバー、乾式不織布用ステープル、紡績用ステープル、織物用マルチフィラメント、編み物用マルチファイラメント、セメント用配合材、ゴム用配合材、包装材、衛生材料、メディカル用ディスポ製品、農業用被履材、フィルター類、ワイパー類、絶縁紙、電池セパレータ、人工皮革等の用途に用いることができる。
【0043】
【実施例】次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。
【0044】[PVAの分析方法]PVAの分析方法は特に記載のない限りはJIS−K6726に従った。変性量は変性ポリビニルエステルあるいは変性PVAを用いて500MHz プロトンNMR(JEOL GX-500)装置による測定から求めた。アルカリ金属イオンの含有量は原子吸光法で求めた。
【0045】1,2-グリコール結合含有量は先に記載した方法で測定した。トライアッド表示による3連鎖の水酸基量の割合は以下の測定により求めた。PVA試料を鹸化度99.5モル%以上に鹸化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃減圧乾燥を2日間したPVAを用いて、d6−DMSOに溶解した試料を500MHz プロトンNMR(JEOL GX-500)装置により65℃測定を行った。PVA中のビニルアルコールユニットの水酸基由来のピークはケミカルシフト4.05ppmから4.70ppmの領域に現れ、この積分値をビニルアルコールユニット量(II)とする。PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基はそれぞれアイソタクティシティ連鎖の場合4.54ppm、ヘテロタクティシティ連鎖の場合4.36ppmおよびシンジオタクティシティ連鎖の場合は4.13ppmに現れる。この3者の積分値の和をトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基量(I)とする。本発明のPVAのビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率は、100×(I)/(II)で表される。
【0046】[融点]PVAの融点は、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を調べた。
【0047】[抽出成分の生分解性]活性汚泥量を9mgから30mgに増加させたこと以外はJIS−K−6950に準じて、無機培養地に活性汚泥30mgと抽出成分30mg(抽出液を乾燥したのち重量を測定して水溶液にしたもの)を加え、クーロメーター(大倉電気OM3001A型)を用い、25℃で28日間培養し、生分解に消費された酸素量を測定することにより生分解率を求めた。
【0048】[繊維の強度・伸度]JIS L1013に準じて測定した。
【0049】[坪量]JIS P8124に準じて、得られたシート状物を10cm角に切り取り、その質量Wを電子天秤(メトラー社:AE160)で測定し、W/0.01により坪量(g/m2)を求めた。
【0050】[シート状物の裂断長]JIS P8113に準じて、シート状物を幅15mm、長さ250mmに切り出した試験片を用いて強力(kg/15cm)を測定し裂断長(km)を求めた。
【0051】実施例1[エチレン変性PVAの製造]撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に酢酸ビニル29.0kgおよびメタノール31.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.9kg/cm2(5.8×105Pa)となるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液170mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を5.9kg/cm2(5.8×105Pa)に、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて610ml/hrでAMVを連続添加して重合を実施した。10時間後に重合率が70%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しポリ酢酸ビニルのメタノール溶液とした。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が50%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液200g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、46.5g(ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニルユニットに対してモル比(MR)0.10)のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加して鹸化を行った。アルカリ添加後約2分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、60℃で1時間放置して鹸化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVAを得た。
【0052】得られたエチレン変性PVAの鹸化度は98.4モル%であった。また該変性PVAを灰化させた後、酸に溶解したものを用いて原子吸光光度計により測定したナトリウムの含有量は、変性PVA100質量部に対して0.03質量部であった。また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をn−ヘキサンに沈殿、アセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製ポリ酢酸ビニルを得た。該ポリ酢酸ビニルをDMSO−d6に溶解し、500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定したところ、エチレンの含有量は10モル%であった。上記のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5で鹸化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置して鹸化を進行させた後、メタノールソックスレーを3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製されたエチレン変性PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ330であった。該精製PVAの1,2−グリコール結合量および水酸基3連鎖の水酸基の含有量を500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)装置による測定から前述のとおり求めたところ、それぞれ1.50モル%および83%であった。さらに該精製された変性PVAの5%水溶液を調整し厚み10ミクロンのキャスト製フィルムを作成した。該フィルムを80℃で1日間減圧乾燥を行った後に、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、前述の方法によりPVAの融点を測定したところ206℃であった(表1)。
【0053】
【表1】
【0054】次に、上記で得られたPVAとD体の含有率が1%のポリ乳酸(融点;170℃)とをそれぞれ別の押し出し機で溶融混練して、変性PVAを海側に、ポリ乳酸が島側になるように240℃の紡糸パックに導き、ノズル径0.4mmφ×24ホール、吐出量24g/分、せん断速度2,400sec-1、ドラフト110の条件で複合紡糸し、紡速800m/minで巻き取り、海島複合比率1:1、島数16の海島型複合繊維を得た。次いで、得られた紡糸原糸を150℃の熱風炉で3倍(HDmax×0.7)に延伸し、単繊維繊度4.4dtexの複合繊維を得た。この時の紡糸・延伸条件、紡糸性、繊維の強伸度は表2に示したとおりである。引き続き該複合繊維を用いて筒編み地を作成し、95℃の熱水に1時間浸せきし、PVA成分を除去してポリ乳酸繊維からなる編み地を得た。得られた編み地は風合いが良好で、編み地を解いて調べた繊維の繊度は約0.14dtexの極細繊維になっており、物性も十分なものであった。またPVAを溶解除去した廃水を回収して、廃水負荷と生分解性を調べた(表3)。
【0055】
【表2】
【表3】
【0056】実施例2〜12実施例1で用いたPVAの代わりに表1に示すPVAを用い、表2に示した紡糸温度、延伸倍率で繊維化したこと以外は実施例1と同様にして編み地を作成した。得られた編み地の風合い、繊維の物性を表2に示す。また実施例5でPVAを溶解除去した廃水を回収して、廃水負荷と生分解性を調べた(表3)。
【0057】比較例1〜5実施例1で用いたPVAの代わりに表1に示すPVAを用い、表2に示した紡糸温度、延伸倍率で繊維化したこと以外は実施例1とまったく同様にして編み地を得ようと試みたが、いずれも編み地にすることができなかった(表2)。比較例1に示したPVAを用いると溶融粘度が高すぎるために紡糸パックから十分にポリマーが吐出せず巻き取ることができなかった。比較例2のPVAを用いたものは、溶融粘度が低すぎて曳糸性がなく捲き取れなかった。比較例3ではPVAが熱分解・ゲル化して紡糸性が悪く捲き取れなかった。比較例4では紡糸温度250℃ではポリマーが十分に溶融せず粘度が高すぎて紡糸パックから十分にポリマーが吐出しないため、紡糸温度を270℃にしたがこの温度ではPVAが熱分解するためと思われるが、紡糸性が悪く巻き取ることが出来なかった。比較例5ではPVAの結晶性が低下しているためと思われるが、紡糸原糸が一部熱や吸湿で膠着して糸を解じょすることができなかった。
【0058】比較例6実施例1で用いたPVAを製造する際に、実施例1と同様のメタノール洗浄を4回実施した後、さらにメタノール/水=90/10の混合溶液で洗浄を3回実施したPVAを用いて、実施例1と同様に紡糸した。ゲル化するためか極短時間(約5分)しか、巻き取ることができず、また延伸時に巻き付きや断糸が多く延伸糸を得ることができなかった。
【0059】比較例7実施例1で用いたPVAを製造する際に、メタノール洗浄を実施しなかったPVAを用いて実施例1と同様にして紡糸を試みたが、PVAが熱分解して捲き取れなかった(表2)。
【0060】比較例8〜12実施例1で用いたPVAの代わりに表1に示すPVAを用い、表2に示した紡糸温度、延伸倍率で繊維化したこと以外は実施例1と全く同様にして延伸糸を得た。得られた延伸糸を実施例1と同様に抽出処理し、編み地の風合い、繊維物性を調べた(表2)。比較例8に示したPVAを用いるとPVAが熱分解・ゲル化して紡糸性が悪く、極短時間(約5分)しか巻き取ることができず、また延伸時に巻き付き、断糸が多く延伸糸を得ることができなかった。比較例9では紡糸温度200℃では溶融粘度が高すぎて紡糸パックから十分にポリマーが吐出しないため、240℃で紡糸すると熱分解・ゲル化して紡糸性が悪く、極短時間(約5分)しか巻き取ることができず、また延伸時に巻き付き、断糸が多く延伸糸を得ることができなかった。比較例10では紡糸性は非常によくまた編み地も問題無く得られたが、実施例1と同様に95℃の水中で1時間抽出処理したが、PVA成分は膨潤はするものの殆ど溶解しないために風合いの硬い編み地となり、抽出後の繊維も得ることができなかった。比較例11に示したPVAを用いるとPVAが熱分解・ゲル化して紡糸性が悪く、極短時間(約5分)しか巻き取ることができず、また延伸時に巻き付き、断糸が多く延伸糸を得ることができなかった。比較例12で示したPVAを用いると紡糸性が悪く、極短時間(約5分)しか巻き取ることができなかった。少量延伸後、延伸糸からPVAを溶解除去し、廃水を回収して廃水負荷と生分解性を調べると生分解率が低いものであった(表3)。
【0061】比較例13実施例1で用いたPVAの代わりにポリエチレン(ミラソンFL60:三井化学)を用いたこと以外は、実施例1と全く同様にして繊維化し、編み地にした。この編み地を90℃のトルエンを用いて抽出処理を行ったが、抽出後に得られた編み地は風合がごわごわした劣悪なものであり、繊維物性も低いものであった(表2)。またポリエチレンを溶解除去した廃水を回収して、生分解性を調べた(表3)。
【0062】比較例14実施例1で用いたPVAの代わりに固有粘度0.51(フェノール/テトラクロロエタンの等質量混合溶媒にて30℃で測定)でスルホイソフタル酸5モル%、ポリエチレングリコール4質量%変性のポリエチレンテレフタレートを用いて270℃で紡糸したこと以外は、実施例1と同様にして繊維化し、編み地にした。この編み地を98℃の40g/LのNaOHを用いて抽出処理を行った。この抽出処理により変性ポリエチレンテレフタレートだけでなくポリ乳酸も溶解・分解し、ポリ乳酸の編み地は得られなかった(表2)。変性ポリエチレンテレフタレートを溶解・分解除去した廃水を回収して、生分解性を調べた(表3)。
【0063】実施例13実施例1で用いたポリ乳酸の代わりにエチレン44モル%変性PVAを用い、せん断速度2,500sec-1、ドラフト110、紡糸温度250℃で複合紡糸したこと以外は実施例1と全く同様にして繊維化を行い、編み地の作成、抽出処理を行った。その時の紡糸性、抽出性、風合、強伸度を表4に示した。
【0064】
【表4】
【0065】実施例14実施例1で用いたポリ乳酸の代わりにポリプロピレン(S106LA:グランドポリマー社製)を用い、せん断速度3,300sec-1、ドラフト90、紡糸温度250℃で紡糸したこと以外は実施例1と同様にして繊維化を行い、編み地の作成、抽出処理を行った(表4)。
【0066】実施例15実施例1で用いたポリ乳酸の代わりに固有粘度0.72(フェノール/テトラクロロエタンの等質量混合溶媒にて30℃で測定)のポリエチレンテレフタレートを用い、せん断速度2,300sec-1、ドラフト120、紡糸温度280℃で紡糸したこと以外は実施例1と同様にして繊維化を行い、編み地の作成、抽出処理を行った(表4)。
【0067】実施例16実施例1で用いたポリ乳酸の代わりに固有粘度0.52(フェノール/テトラクロロエタンの等質量混合溶媒にて30℃で測定)のスルホイソフタル酸2.5モル%変性、イソフタル酸5モル変性のポリエチレンテレフタレートを用い、せん断速度2,300sec-1、ドラフト120、紡糸温度260℃で紡糸したこと以外は実施例1と同様にして繊維化を行い、編み地の作成、抽出処理を行った(表4)。
【0068】実施例17実施例1で用いたポリ乳酸の代わりにナイロン6(UBEナイロン6:宇部興産)を用い、せん断速度2,500sec-1、ドラフト100、紡糸温度250℃で紡糸したこと以外は実施例1と同様にして繊維化を行い、編み地の作成、抽出処理を行った(表4)。
【0069】実施例18実施例1で得られた延伸糸(単繊維繊度4.4dtex)を捲縮機で捲縮を付与し51mmにカットして原綿化した。この原綿をローラーカードでカーディングし、ニードルパンチで絡合して不織布とした。この不織布を95℃の熱水に1時間浸せきし、変性PVAを除去してポリ乳酸からなるシート状物を得た。得られたシート状物の物性を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】実施例19実施例13で得られた延伸糸を用い、実施例18と同様にしてエチレン44モル%変性PVA繊維からなるシート状物を得た。得られたシート状物の物性を表5に示す。
【0072】実施例20実施例14で得られた延伸糸を用いて実施例18と同様にしてポリプロピレンからなるシート状物を得た。得られたシート状物の物性を表5に示す。
【0073】実施例21実施例20でポリプロピレンとPVAとからなる複合繊維原綿をカーディングする際に、30%のバインダー繊維原綿(芯成分がポリプロピレン、鞘成分がポリエチレンの芯鞘複合繊維で鞘成分の融点が105℃、単繊維繊度1.7dtex×35mm)を混綿し、150℃でカレンダー加工した後に変性PVAを溶解除去したこと以外は実施例20と全く同様にしてシート状物を得た。得られたシート状物の物性を表5に示す。
【0074】比較例15比較例13で用いた複合繊維を使用し、実施例18と同様にして不織布を作成し、得られた不織布を90℃のトルエンを用いて抽出処理行った(表5)。
【0075】比較例16比較例14で用いた複合繊維を使用し、実施例18と同様にして不織布を作成し、得られた不織布を98℃の40g/LのNaOHを用いて抽出処理を行った。この抽出処理により変性ポリエチレンテレフタレートだけでなくポリ乳酸も溶解・分解し、ポリ乳酸の編み地は得られなかった(表5)。
【0076】実施例22実施例1に用いたPVAとD体の含有率が1%のポリ乳酸(融点;170℃)とをそれぞれ別の押し出し機で溶融混練して、変性PVAとポリ乳酸とを240℃の紡糸パックに導き、変性PVAとポリ乳酸とが1:2の比率の11層(ポリ乳酸6層、変性PVA5層)の貼り合わせ型複合繊維を紡速800m/minで巻き取った。得られた紡糸原糸を150℃の熱風炉で3倍に延伸し、5mmにカットしてカットファイバーを得た。このカットファイバーを水中に投じ撹拌分散させた後、この分散物を80メッシュのステンレス製金網を通して抄紙した。この紙を80kg/cm2(7.8×106Pa)の水流で複合繊維を分割・絡合し、引き続いて95℃の熱水に1時間浸せきし、変性PVAを除去してシート状物を得た。このシート状物は十分な強度を有し、柔らかい風合を有していた(表5)。
【0077】実施例23〜24実施例22で用いたポリ乳酸の代わりに実施例13、14で用いた熱可塑性ポリマーとを用いたこと以外は実施例22と全く同様にしてシート状物を得た(表5)。
【0078】実施例25〜29実施例1および実施例13、15、16、17で得られた紡糸原糸を、通常のローラープレート方式の延伸機を用いて3倍延伸し、75デニール/24フィラメント(83dtex/24f)のマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを経糸および緯糸として使用し、1/1の平織物を作製した。該生機織物を1g/L水酸化ナトリウムと0.5g/LアクチノールR−100(松本油脂)を含む水溶液で80℃で30分間処理した。得られた織物は変性PVAが抽出され柔らかい風合いを有していた。また実施例25、27で得られたシート状物を分散染料で、実施例26、29で得られたシート状物をバット染料で、実施例28で得られたシート状物をカチオン染料でそれぞれ青色に染色したが、いずれも発色性が良好であった。
【0079】実施例30〜34実施例1で用いた変性PVAと実施例25〜29で用いた熱可塑性ポリマーとをそれぞれ別の押し出し機で溶融混練して、変性PVAを島側に、ポリ乳酸が海側になるように紡糸パックに導き、海島複合比率が1:1で島数16の海島型複合繊維を紡速800m/minで巻き取った。得られた紡糸原糸を、通常のローラープレート方式の延伸機を用いて3倍延伸し、75デニール/24フィラメント(83dtex/24f)のマルチフィラメントを得た。紡糸パックの温度および延伸温度は実施例1および実施例13、15,16,17と同じとした。次いで得られたマルチフィラメントを筒編み機を用いて筒編み地にし、90℃の熱水で変性PVAを抽出した。得られた筒編み地はきしみ感のある新らしい風合いであり、その繊維断面の形状は島が抽出されたレンコン状の物であった。
【0080】実施例35〜39実施例1の変性PVAと実施例13〜17で用いた熱可塑性ポリマーとを1:1の比率で同じ押し出し機に投入し、紡糸パックに導いて海島混合紡糸繊維を紡糸速度800m/minで巻き取った。これを実施例30〜34と同様にして変性PVAが抽出された筒編み地を得た。筒編み地の繊維はフィブリル化したものであり、ぬめり感のある柔らかい風合いのものであった。
【0081】
【発明の効果】本発明によれば、複合繊維の一成分であるPVA成分を抽出することにより機械的性質および風合等の触感を劣化させることなく異型断面あるいは極細の熱可塑性ポリマー繊維を提供することができる。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールと融点が270℃以下の熱可塑性ポリマーとからなる複合繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】繊維からなる織編物、紙あるいは不織布等のシート状物は、様々な用途に用いられているが、例えばフィルター用途においては、ろ過性能や薄葉化のために極細化された繊維からなるシート状物が用いられている。また、例えば、衣料用途や生活用品用途においては、柔らかい触感や自然な風合を有する布帛を得るためにフィブリル化された繊維、異型断面からなる繊維あるいは極細化された繊維が用いられている。これらの繊維シート状物は熱可塑性ポリマーから直接細い繊維を作ってシート状物にする方法、あるいは複合繊維の一方を除去して得る方法等がある。直接細い繊維からシート状物を作る方法としては、直接溶融紡糸で選られた細い繊維を用いる方法、メルトブローン法やスパンボンド法などが知られている。しかしながら、熱可塑性ポリマーから直接細い繊維を作ってシート状物にする方法では、フィブリル化された繊維、異型断面からなる繊維あるいは極細化された繊維等からなるシート状物を作ることは非常に困難であった。また複合繊維の一方を除去して得る方法では、シート状物を溶剤やアルカリに浸せきして分解除去するために、抽出後に得られる熱可塑性ポリマーからなるシート状物の強伸度の機械的性質あるいは風合等の触感が劣化するという問題が有った。またこれらの抽出廃液処理も近年の環境問題の点から好ましくなく、より負荷の小さい処理方法が求められている。これらの問題に対し、抽出除去される成分として変性PVAを用いることが検討され、オレフィン変性PVAと疎水性高分子物質を溶融複合紡糸し、得られた複合紡糸繊維からなる織物から変性PVAを水溶液で溶解除去するクレープ織物の製造方法が提案されている(特開昭50−152062号公報、特開昭50−152063号公報)。しかしながら、本発明者の検討によれば、これらの変性PVAは、100℃以下の温水で膨潤流動あるいは一部溶解させることはできるものの、変性PVA成分を十分に溶解するまでには至っていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上述の問題点を解決するものであり、複合繊維を構成する一成分を抽出した場合に、残された繊維の機械的性質および風合等の触感が劣化することなく、異型断面あるいは極細繊度を有する熱可塑性ポリマー繊維が得られ、しかも抽出廃液は生分解される複合繊維を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、粘度平均重合度が200〜500、鹸化度が90〜99.99モル%、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率が70〜99.9モル%、1,2−グリコール結合の含有量が1.2〜2.0モル%であり、融点が160℃〜230℃であるポリビニルアルコール(A)からなり、かつ(A)100質量部に対してアルカリ金属イオン(B)がナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量部含有されている水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(C)と融点が270℃以下の熱可塑性ポリマー(D)とからなることを特徴とする複合繊維である。
【0005】なお、本発明のポリビニルアルコール繊維におけるポリビニルアルコールとは、ポリビニルアルコールのホモポリマーは勿論のこと、例えば、共重合、末端変性、および後反応により官能基を導入した変性ポリビニルアルコールも包含するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】本発明に用いられるPVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は200〜500であり、230〜470が好ましく、250〜450が特に好ましい。重合度が200未満の場合には紡糸時に十分な曳糸性が得られず、繊維化できない。重合度が500を越えると溶融粘度が高すぎて、紡糸ノズルからポリマーを吐出することができない。また重合度500以下のいわゆる低重合度のPVAを用いることにより、水溶液で溶解するときに溶解速度が速くなるばかりでなくPVA成分が溶解する時の収縮率を小さくすることができる。
【0007】PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVAを再鹸化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dl/g)から次式により求められるものである。
P=([η]×103/8.29)(1/0.62)重合度が上記範囲にある時、本発明の目的がより好適に達せられる。
【0008】本発明のPVAの鹸化度は90〜99.99モル%でなければならない。93〜99.98モル%が好ましく、94〜99.97モル%がより好ましく、96〜99.96モル%が特に好ましい。鹸化度が90モル%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって満足な溶融紡糸を行うことができないのみならず、後述する共重合モノマーの種類によってはPVAの水溶性が低下し、本発明の複合繊維を得ることができない場合がある。一方、鹸化度が99.99モル%よりも大きいPVAは安定に製造することができず、安定した繊維化もできない。
【0009】本発明で使用されるPVAは生分解性を有しており、活性汚泥処理あるいは土壌に埋めておくと分解されて水と二酸化炭素になる。PVAを溶解した後の廃液の処理には活性汚泥法が好ましい。該PVA水溶液を活性汚泥で連続処理すると2日間から1ヶ月で分解される。また、本発明に用いるPVAは燃焼熱が低く、焼却炉に対する負荷が小さいので、PVAを溶解した排水を乾燥させてPVAを焼却処理してもよい。
【0010】生分解性の点から該PVAの鹸化度は90〜99.99モル%が好ましく、92〜99.98モル%がより好ましく、93〜99.97モル%が特に好ましい。
【0011】本発明に用いるポリビニルアルコールの1,2−グリコール結合含有量は1.2〜2.0モル%でなければならない。1.25〜1.95モル%がより好ましく、1.3〜1.9モル%が特に好ましい。PVAの1,2−グリコール結合量が1.2モル%未満の場合には、PVAの生分解性が悪くなるばかりでなく、溶融粘度が高すぎて紡糸性が悪くなる場合がある。PVAの1,2−グリコール結合含有量が2.0モル%以上の場合にはPVAの熱安定性が悪くなり紡糸性が低下する場合がある。PVAの1,2−グリコール結合含有量はNMRのピークから求めることができる。鹸化度99.9モル以上に鹸化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃減圧乾燥を2日間したPVAをDMSO−D6に溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えた試料を500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定する。ビニルアルコール単位のメチン由来ピークは3.2〜4.0ppm(積分値A)、1,2−グリコール結合の1つのメチン由来のピークは3.25ppm(積分値B)に帰属され、次式で1,2−グリコール結合含有量を算出できる。ここでΔは変性量(モル%)を表す。
1,2-グリコール結合含有量(モル%)=100B/{100A/(100-Δ)}
【0012】本発明に用いられるPVAの融点(Tm)は160〜230℃であり、170〜227℃が好ましく、175〜224℃がより好ましく、180〜220℃が特に好ましい。融点が160℃未満の場合にはPVAの結晶性が低下し繊維強度が低くなると同時に、PVAの熱安定性が悪くなり、繊維化できない場合がある。一方、融点が230℃を越えると溶融紡糸温度が高くなり紡糸温度とPVAの分解温度が近づくためにPVA繊維を安定に製造することができない。
【0013】PVAの融点は、DSCを用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後、室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を意味する。
【0014】PVAは、ビニルエステル系重合体のビニルエステル単位を鹸化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0015】本発明で使用されるポリビニルアルコール重合体は、ホモポリマーであっても共重合単位を導入した変成PVAであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、共重合単位を導入した変性ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。共重合単量体の種類としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル類、酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。これらの単量体の含有量は、通常20モル%以下である。
【0016】これらの単量体の中でも、入手のしやすさなどから、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類に由来する単量体が好ましい。
【0017】特に、共重合性、溶融紡糸性および繊維の水溶性の観点からエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンの炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類がより好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類に由来する単位は、PVA中に0.1〜20モル%存在していることが好ましく、より好ましくは1〜20モル%、さらに4〜15モル%が好ましく、6〜13モル%が特に好ましい。さらに、α−オレフィンがエチレンである場合において、繊維物性が高くなることから、特にエチレン単位が4〜15モル%、より好ましくは6〜13モル%導入された変性PVAを使用することが好ましい。
【0018】本発明で使用されるPVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、α,α'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、nープロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜150℃の範囲が適当である。
【0019】本発明の繊維におけるアルカリ金属イオン(B)の含有割合は、PVA(A)100質量部に対してナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量部であり、0.0003〜0.8質量部が好ましく、0.0005〜0.6質量部がより好ましく、0.0005〜0.5質量部が特に好ましい。アルカリ金属イオンの含有割合が0.0003質量部未満の場合には、得られた十分な水溶性を示さず未溶解物が残る場合がある。またアルカリ金属イオンの含有量が1質量部より多い場合には溶融紡糸時の分解及びゲル化が著しく繊維化することができない。アルカリ金属イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等があげられる。
【0020】本発明において、特定量のアルカリ金属イオン(B)をPVA中に含有させる方法は特に制限されず、PVAを重合した後にアルカリ金属イオン含有の化合物を添加する方法、ビニルエステルの重合体を溶媒中において鹸化するに際し、鹸化触媒としてアルカリイオンを含有するアルカリ性物質を使用することによりPVA中にアルカリ金属イオンを配合し、鹸化して得られたPVAを洗浄液で洗浄することにより、PVA中に含まれるアルカリ金属イオン含有量を制御する方法などが挙げられるが後者のほうが好ましい。なお、アルカリ金属イオンの含有量は、原子吸光法で求めることができる。
【0021】鹸化触媒として使用するアルカリ性物質としては、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムがあげられる。鹸化触媒に使用するアルカリ性物質のモル比は、酢酸ビニル単位に対して0.004〜0.5が好ましく、0.005〜0.05が特に好ましい。鹸化触媒は、鹸化反応の初期に一括添加しても良いし、鹸化反応の途中で追加添加しても良い。鹸化反応の溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどがあげられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく、含水率を0.001〜1質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.003〜0.9質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.005〜0.8質量%に制御したメタノールが特に好ましい。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などがあげられ、これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水の単独もしくは混合液がより好ましい。洗浄液の量としてはアルカリ金属イオン(B)の含有割合を満足するように設定されるが、通常、PVA100質量部に対して、300〜10000質量部が好ましく、500〜5000質量部がより好ましい。洗浄温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間〜10時間が好ましく、1時間〜6時間がより好ましい。
【0022】本発明において、トライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基とは、PVAのd6−DMSO溶液での500MHz プロトンNMR(JEOL GX-500)装置、65℃測定による水酸基プロトンのトライアッドのタクティシティを反映するピーク(I)を意味する。ピーク(I)はPVAの水酸基のトライアッド表示のアイソタクティシティ連鎖(4.54ppm)、ヘテロタクティシティ連鎖(4.36ppm)およびシンジオタクティシティ連鎖(4.13ppm)の和で表わされ、全てのビニルアルコールユニットにおける水酸基のピーク(II)はケミカルシフト4.05ppm〜4.70ppmの領域に現れることから、本発明のビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率は、100×(I)/(II)で表されるものである。
【0023】本発明の複合繊維におけるPVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量は70〜99.9モル%であり、74〜97モル%が好ましく、75〜96モル%がより好ましく、76〜95モル%が特に好ましい。PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量が70モル%未満である場合には、ポリマーの結晶性が低下し、繊維強度が低くなると同時に、溶融紡糸時に繊維が膠着して巻取り後に巻き出しできない場合がある。また本発明で目的とする水溶性の熱可塑性繊維が得られない場合がある。PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量が99.9モル%より大の場合には、ポリマーの融点が高いため溶融紡糸温度を高くする必要があり、その結果、溶融紡糸時のポリマーの熱安定性が悪く、分解、ゲル化、ポリマー着色が起こる。
【0024】また、本発明のPVAがエチレン変性のPVAである場合、下記式を満足することで本発明の効果は更に高くなるものである。
-1.5×Et+100≧モル分率≧-Et+85ここで、モル分率(単位:モル%)はビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率を表し、Etはビニルアルコール系重合体が含有するエチレン含量(単位:モル%)を表す。
【0025】本発明に用いる融点が270℃以下の熱可塑性ポリマーは、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルおよびその共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン10、ナイロン12、ナイロン6−12等の脂肪族ポリアミドおよびその共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィンおよびその共重合体、エチレン単位を25モル%から70モル%含有する変性ポリビニルアルコール、ポリスチレン系、ポリジエン系、塩素系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、フッ素系のエラストマー等の中から少なくとも一種類を選んで用いることができる。本発明に用いるPVAと複合紡糸しやすい点からは、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ナイロン6、ナイロン6−12、ポリプロピレンおよびエチレン単位を25モル%から70モル%含有する変性ポリビニルアルコールが好ましい。特に、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルを一成分とする複合繊維から他方の成分を除去して、脂肪族ポリエステルからなる繊維を製造するに当たり、該他方の成分を水以外の薬品で抽出すると、脂肪族ポリエステル繊維の劣化、分解を伴うので、かかるポリエステルを一成分とする複合繊維を製造するにおいては、本発明に示したPVAを他方成分とすることが有効である。さらに、本発明において、融点が270℃以下の熱可塑性ポリマーとして、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルを使用すると、ポリ乳酸自体が生分解性を有し、ポリビニルアルコール成分も抽出後の水溶液として生分解性を示し、複合繊維全体が生分解性の重合体からなるので好ましい。
【0026】また本発明の目的や効果を損なわない範囲で、熱可塑性ポリビニルアルコールおよび融点270℃以下の熱可塑性ポリマーには必要に応じて銅化合物等の等の安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤を重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。特に熱安定剤としてヒンダードフェノール等の有機系安定剤、ヨウ化銅等のハロゲン化銅化合物、ヨウ化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属化合物を添加すると、繊維化の際の溶融滞留安定性が向上するので好ましい。
【0027】また必要に応じて平均粒子径が0.01μm以上5μm以下の微粒子を0.05質量%以上10質量%以下、重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。微粒子の種類は特に限定されず、たとえばシリカアルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の不活性微粒子を添加することができ、これらは単独で使用しても2種以上併用しても良い。特に平均粒子径が0.02μm以上1μm以下の無機微粒子が好ましく、紡糸性、延伸性が向上する。
【0028】本発明に用いるポリビニルアルコール(C)と融点が270℃以下の熱可塑性ポリマー(D)とからなる繊維は、例えば、混合紡糸による方法では、PVA成分(C)と熱可塑性ポリマー(D)とを、1つの押し出し機で溶融混練し、引き続き同一の紡糸ノズルから吐出させて巻取り、繊維化することが出来る。また複合紡糸による方法では、PVA成分(C)と熱可塑性ポリマー(D)とをそれぞれ別の押し出し機で溶融混練し、引き続き同一の紡糸ノズルから吐出させて巻き取り、繊維化することができる。複合繊維の複合形態は特に限定されず、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、多層張合わせ型、放射状分割型、これらの組み合わせなど適宜設定することができる。
【0029】本発明において繊維化条件は、ポリマーの組合せ、複合断面形態に応じて設定する必要があるが、主に、以下のような点に留意して繊維化条件を決めることが望ましい。紡糸口金温度は、複合繊維を構成するポリマーのうち高い融点を持つポリマの融点をMpとするときMp〜Mp+80℃が好ましく、せん断速度(γ)1,000〜25,000sec-1、ドラフトV10〜500で紡糸することが好ましい。また、複合するポリマーの組み合わせから見た場合、紡糸時おける口金温度とノズル通過時のせん断速度で測定したときの溶融粘度が近接したポリマーを組合せて複合紡糸することが紡糸安定性の面から好ましい。
【0030】本発明におけるPVAの融点Tmとは、示差走査熱量計(DSC:例えばMettler社TA3000)で観察される主吸熱ピークのピーク温度である。せん断速度(γ)は、ノズル半径をr(cm)、単孔あたりのポリマー吐出量をQ(cm3/sec)とするときγ=4Q/πr3で計算される。またドラフトVは、引取速度をA(m/分)とするときV=A・πr2/Qで計算される。
【0031】本発明の複合繊維を製造するに際して、紡糸口金温度がPVAの融点Tmより低い温度では該PVAが溶融しないために紡糸できない。またTm+80℃を越えるとPVAが熱分解しやすくなるために紡糸性が低下する。また、せん断速度は1,000sec-1よりも低いと断糸しやすく、25,000sec-1より高いとノズルの背圧が高くなり紡糸性が悪くなる。ドラフトは10より低いと繊度むらが大きくなり安定に紡糸しにくくなり、ドラフトが500より高くなると断糸しやすくなる。
【0032】紡糸ノズルから吐出された糸条は延伸せずにそのまま高速で巻き取るか必要に応じて延伸される。延伸は破断伸度(HDmax)×0.55〜0.9倍の延伸倍率でガラス転移点(Tg)以上の温度で延伸される。延伸倍率がHDmax×0.55未満では十分な強度を有する複合繊維が安定して得られず、HDmax×0.9を越えると断糸しやすくなる。延伸は紡糸ノズルから吐出された後に一旦巻き取ってから延伸する場合と、延伸に引き続いて施される場合があるが、本発明においてはいずれでもよい。延伸は通常熱延伸され、熱風、熱板、熱ローラー、水浴等のいずれを用いて行ってもよい。
【0033】延伸温度は、未延伸糸の結晶化部分が少ない場合には、Tgを延伸温度の目安とするが、本発明に用いるポリビニルアルコールは結晶化速度が速いため未延伸糸の結晶化がかなり進み、Tg前後では結晶部分の可塑変形が生じにくい。このため熱ローラー延伸などの接触加熱延伸をする場合でも比較的高い温度(70〜120℃程度)を目安に延伸する。また、加熱炉、加熱チューブなどの非接触タイプのヒーターを使用して加熱延伸する場合は、さらに高温で150〜200℃程度の温度条件とすることが好ましい。ガラス転移点以上の延伸温度で破断伸度(HDmax)×0.55〜0.9倍の延伸倍率の範囲を外れた条件で延伸処理を行うと、得られる繊維表面に繊維軸方向に沿ってたて筋状の溝が形成され、繊維化以降の工程のガイド等での擦れや製編織工程で糸条に働く擦過力により、繊維に形成された溝からフィブリル化が発生し、スカムになって織編物中に入り込んで欠点になったり、工程中で断糸が生じるので好ましくない。本発明では、上記のような条件を採用することにより、繊維表面に繊維軸方向に伸びる長さ0.5μm以上の溝が実質的に存在しないポリビニルアルコール繊維が得られ、繊維化工程以降においてもフィブリル化や断糸が発生しないという特徴を有している。一方、従来の湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法、ゲル紡糸法などで製造されたPVA繊維は、繊維表面の全面に繊維軸方向に伸びる溝が多数形成され、これらの手法で長さ0.5μm以上の溝をなくすことは極めて困難である。
【0034】ただし、本発明に用いるPVAは水溶液で抽出されやすいので、シート等に成形してから抽出する場合、あるいは抽出しないでバインダー繊維として用いる場合には40℃以上の水浴で延伸することは好ましくなく、水分の影響の少ない熱風で延伸することが好ましい。延伸時に変性PVAを抽出した後にシート状物等に成形する場合には50℃以上の熱水浴で延伸と同時にPVAを抽出しておくこともできる。また延伸時に部分的に抽出しておいてシート状物等にした後に十分抽出してもよい。
【0035】また、水はPVAの可塑剤となるため、本発明の複合繊維は湿潤下では比較的低温で熱融着され、例えば抄紙後や水絡後の乾燥時に100℃位で圧着することで接着できる。したがって、圧着後に樹脂加工等を行い、その後ポリビニルアルコール成分を抽出することもできる。
【0036】PVA成分を抽出した後の熱可塑性ポリマー(D)からなる繊維の繊度は目的に応じて適宜設定されるが、強度の点からはより小さい方がシート状物の強度が高く好ましい。特に熱可塑性ポリマー(D)が被抽出成分であるPVA成分(C)によって、1.1dtex以下に分割されている場合、抽出後の繊維の十分な絡合が得られ、抽出後に得られるシート状物の強度が高くなり好ましい。また風合いの点からも1.1dtex以下が好ましく、0.6dtex以下が更に好ましく、0.4dtex以下が特に好ましい。
【0037】本発明の複合繊維はフィラメント、カットファイバー、わた、紡績糸、パーロック糸のいずれであってもよい。
【0038】本発明の複合繊維は公知の方法でシート状物にすることができる。織編み物の形態にするには、レピア、グリッパー、エアージェット、ウオータージェット、スルザー等の織機、あるいは丸編み機などの横編み機、トリコット、ラッセル、ミラニーズなどのたて編み機、等を用いて行うことができる。本発明の繊維を織編み物状にし、水溶液でPVAを抽出すると異形あるいは極細等の熱可塑性ポリマーからなる織り編み物が得られる。
【0039】紙の形態にするには本発明の繊維を適当な長さに切断してカットファイバーとし、抄紙して得ることができる。抄紙後に(C)を除去する場合には、紙を水溶液の浴に通して除去しても良いし、高圧水流で紙を絡合した後、あるいは絡合しながら除去しても良い。特に熱水で高圧水流絡合処理して除去すると強度の高いシート状物が得られるので好ましい。また、離解するときに水溶液で離解し、(C)を溶解/分解除去して、熱可塑性ポリマー(D)からなる繊維のみを抄紙してもよい。
【0040】不織布の形態にするためには本発明に繊維を公知の方法で捲縮・カットして綿状にし、カーディング、絡合して得ることができる。またカーディング時に他のバインダー繊維原綿等を目的に応じて混綿することもできる。絡合方法はニードルパンチングによる方法であっても高圧水流絡合処理による方法であっても良い。熱水で高圧水流処理するとPVA成分(C)が溶解/分解除去されると同時に残った熱可塑性ポリマー(D)が水流で絡合されて強度の高い不織布ができるので好ましい。
【0041】PVAを抽出して用いる場合、抽出は延伸時、抄紙時、水流絡合時、油剤抜きあるいは染色時等のいずれでもよい。また該変性PVAを除去する水溶液は中性でかまわないし、アルカリ水溶液、酸性水溶液、あるいは界面活性剤等を添加した水溶液であっても良い。抽出処理温度は目的に応じて適宜調整すればよいが、処理温度は高いほど処理時間が短くなる。熱水を用いて抽出する場合には、50℃以上で処理するのが好ましく、80℃以上で抽出処理を行うのが特に好ましい。
【0042】本発明の複合繊維は、バインダー繊維、製紙用カットファイバー、乾式不織布用ステープル、紡績用ステープル、織物用マルチフィラメント、編み物用マルチファイラメント、セメント用配合材、ゴム用配合材、包装材、衛生材料、メディカル用ディスポ製品、農業用被履材、フィルター類、ワイパー類、絶縁紙、電池セパレータ、人工皮革等の用途に用いることができる。
【0043】
【実施例】次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。
【0044】[PVAの分析方法]PVAの分析方法は特に記載のない限りはJIS−K6726に従った。変性量は変性ポリビニルエステルあるいは変性PVAを用いて500MHz プロトンNMR(JEOL GX-500)装置による測定から求めた。アルカリ金属イオンの含有量は原子吸光法で求めた。
【0045】1,2-グリコール結合含有量は先に記載した方法で測定した。トライアッド表示による3連鎖の水酸基量の割合は以下の測定により求めた。PVA試料を鹸化度99.5モル%以上に鹸化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃減圧乾燥を2日間したPVAを用いて、d6−DMSOに溶解した試料を500MHz プロトンNMR(JEOL GX-500)装置により65℃測定を行った。PVA中のビニルアルコールユニットの水酸基由来のピークはケミカルシフト4.05ppmから4.70ppmの領域に現れ、この積分値をビニルアルコールユニット量(II)とする。PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基はそれぞれアイソタクティシティ連鎖の場合4.54ppm、ヘテロタクティシティ連鎖の場合4.36ppmおよびシンジオタクティシティ連鎖の場合は4.13ppmに現れる。この3者の積分値の和をトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基量(I)とする。本発明のPVAのビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率は、100×(I)/(II)で表される。
【0046】[融点]PVAの融点は、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を調べた。
【0047】[抽出成分の生分解性]活性汚泥量を9mgから30mgに増加させたこと以外はJIS−K−6950に準じて、無機培養地に活性汚泥30mgと抽出成分30mg(抽出液を乾燥したのち重量を測定して水溶液にしたもの)を加え、クーロメーター(大倉電気OM3001A型)を用い、25℃で28日間培養し、生分解に消費された酸素量を測定することにより生分解率を求めた。
【0048】[繊維の強度・伸度]JIS L1013に準じて測定した。
【0049】[坪量]JIS P8124に準じて、得られたシート状物を10cm角に切り取り、その質量Wを電子天秤(メトラー社:AE160)で測定し、W/0.01により坪量(g/m2)を求めた。
【0050】[シート状物の裂断長]JIS P8113に準じて、シート状物を幅15mm、長さ250mmに切り出した試験片を用いて強力(kg/15cm)を測定し裂断長(km)を求めた。
【0051】実施例1[エチレン変性PVAの製造]撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に酢酸ビニル29.0kgおよびメタノール31.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.9kg/cm2(5.8×105Pa)となるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液170mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を5.9kg/cm2(5.8×105Pa)に、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて610ml/hrでAMVを連続添加して重合を実施した。10時間後に重合率が70%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しポリ酢酸ビニルのメタノール溶液とした。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が50%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液200g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、46.5g(ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニルユニットに対してモル比(MR)0.10)のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加して鹸化を行った。アルカリ添加後約2分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、60℃で1時間放置して鹸化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVAを得た。
【0052】得られたエチレン変性PVAの鹸化度は98.4モル%であった。また該変性PVAを灰化させた後、酸に溶解したものを用いて原子吸光光度計により測定したナトリウムの含有量は、変性PVA100質量部に対して0.03質量部であった。また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をn−ヘキサンに沈殿、アセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製ポリ酢酸ビニルを得た。該ポリ酢酸ビニルをDMSO−d6に溶解し、500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定したところ、エチレンの含有量は10モル%であった。上記のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5で鹸化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置して鹸化を進行させた後、メタノールソックスレーを3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製されたエチレン変性PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ330であった。該精製PVAの1,2−グリコール結合量および水酸基3連鎖の水酸基の含有量を500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)装置による測定から前述のとおり求めたところ、それぞれ1.50モル%および83%であった。さらに該精製された変性PVAの5%水溶液を調整し厚み10ミクロンのキャスト製フィルムを作成した。該フィルムを80℃で1日間減圧乾燥を行った後に、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、前述の方法によりPVAの融点を測定したところ206℃であった(表1)。
【0053】
【表1】
【0054】次に、上記で得られたPVAとD体の含有率が1%のポリ乳酸(融点;170℃)とをそれぞれ別の押し出し機で溶融混練して、変性PVAを海側に、ポリ乳酸が島側になるように240℃の紡糸パックに導き、ノズル径0.4mmφ×24ホール、吐出量24g/分、せん断速度2,400sec-1、ドラフト110の条件で複合紡糸し、紡速800m/minで巻き取り、海島複合比率1:1、島数16の海島型複合繊維を得た。次いで、得られた紡糸原糸を150℃の熱風炉で3倍(HDmax×0.7)に延伸し、単繊維繊度4.4dtexの複合繊維を得た。この時の紡糸・延伸条件、紡糸性、繊維の強伸度は表2に示したとおりである。引き続き該複合繊維を用いて筒編み地を作成し、95℃の熱水に1時間浸せきし、PVA成分を除去してポリ乳酸繊維からなる編み地を得た。得られた編み地は風合いが良好で、編み地を解いて調べた繊維の繊度は約0.14dtexの極細繊維になっており、物性も十分なものであった。またPVAを溶解除去した廃水を回収して、廃水負荷と生分解性を調べた(表3)。
【0055】
【表2】
【表3】
【0056】実施例2〜12実施例1で用いたPVAの代わりに表1に示すPVAを用い、表2に示した紡糸温度、延伸倍率で繊維化したこと以外は実施例1と同様にして編み地を作成した。得られた編み地の風合い、繊維の物性を表2に示す。また実施例5でPVAを溶解除去した廃水を回収して、廃水負荷と生分解性を調べた(表3)。
【0057】比較例1〜5実施例1で用いたPVAの代わりに表1に示すPVAを用い、表2に示した紡糸温度、延伸倍率で繊維化したこと以外は実施例1とまったく同様にして編み地を得ようと試みたが、いずれも編み地にすることができなかった(表2)。比較例1に示したPVAを用いると溶融粘度が高すぎるために紡糸パックから十分にポリマーが吐出せず巻き取ることができなかった。比較例2のPVAを用いたものは、溶融粘度が低すぎて曳糸性がなく捲き取れなかった。比較例3ではPVAが熱分解・ゲル化して紡糸性が悪く捲き取れなかった。比較例4では紡糸温度250℃ではポリマーが十分に溶融せず粘度が高すぎて紡糸パックから十分にポリマーが吐出しないため、紡糸温度を270℃にしたがこの温度ではPVAが熱分解するためと思われるが、紡糸性が悪く巻き取ることが出来なかった。比較例5ではPVAの結晶性が低下しているためと思われるが、紡糸原糸が一部熱や吸湿で膠着して糸を解じょすることができなかった。
【0058】比較例6実施例1で用いたPVAを製造する際に、実施例1と同様のメタノール洗浄を4回実施した後、さらにメタノール/水=90/10の混合溶液で洗浄を3回実施したPVAを用いて、実施例1と同様に紡糸した。ゲル化するためか極短時間(約5分)しか、巻き取ることができず、また延伸時に巻き付きや断糸が多く延伸糸を得ることができなかった。
【0059】比較例7実施例1で用いたPVAを製造する際に、メタノール洗浄を実施しなかったPVAを用いて実施例1と同様にして紡糸を試みたが、PVAが熱分解して捲き取れなかった(表2)。
【0060】比較例8〜12実施例1で用いたPVAの代わりに表1に示すPVAを用い、表2に示した紡糸温度、延伸倍率で繊維化したこと以外は実施例1と全く同様にして延伸糸を得た。得られた延伸糸を実施例1と同様に抽出処理し、編み地の風合い、繊維物性を調べた(表2)。比較例8に示したPVAを用いるとPVAが熱分解・ゲル化して紡糸性が悪く、極短時間(約5分)しか巻き取ることができず、また延伸時に巻き付き、断糸が多く延伸糸を得ることができなかった。比較例9では紡糸温度200℃では溶融粘度が高すぎて紡糸パックから十分にポリマーが吐出しないため、240℃で紡糸すると熱分解・ゲル化して紡糸性が悪く、極短時間(約5分)しか巻き取ることができず、また延伸時に巻き付き、断糸が多く延伸糸を得ることができなかった。比較例10では紡糸性は非常によくまた編み地も問題無く得られたが、実施例1と同様に95℃の水中で1時間抽出処理したが、PVA成分は膨潤はするものの殆ど溶解しないために風合いの硬い編み地となり、抽出後の繊維も得ることができなかった。比較例11に示したPVAを用いるとPVAが熱分解・ゲル化して紡糸性が悪く、極短時間(約5分)しか巻き取ることができず、また延伸時に巻き付き、断糸が多く延伸糸を得ることができなかった。比較例12で示したPVAを用いると紡糸性が悪く、極短時間(約5分)しか巻き取ることができなかった。少量延伸後、延伸糸からPVAを溶解除去し、廃水を回収して廃水負荷と生分解性を調べると生分解率が低いものであった(表3)。
【0061】比較例13実施例1で用いたPVAの代わりにポリエチレン(ミラソンFL60:三井化学)を用いたこと以外は、実施例1と全く同様にして繊維化し、編み地にした。この編み地を90℃のトルエンを用いて抽出処理を行ったが、抽出後に得られた編み地は風合がごわごわした劣悪なものであり、繊維物性も低いものであった(表2)。またポリエチレンを溶解除去した廃水を回収して、生分解性を調べた(表3)。
【0062】比較例14実施例1で用いたPVAの代わりに固有粘度0.51(フェノール/テトラクロロエタンの等質量混合溶媒にて30℃で測定)でスルホイソフタル酸5モル%、ポリエチレングリコール4質量%変性のポリエチレンテレフタレートを用いて270℃で紡糸したこと以外は、実施例1と同様にして繊維化し、編み地にした。この編み地を98℃の40g/LのNaOHを用いて抽出処理を行った。この抽出処理により変性ポリエチレンテレフタレートだけでなくポリ乳酸も溶解・分解し、ポリ乳酸の編み地は得られなかった(表2)。変性ポリエチレンテレフタレートを溶解・分解除去した廃水を回収して、生分解性を調べた(表3)。
【0063】実施例13実施例1で用いたポリ乳酸の代わりにエチレン44モル%変性PVAを用い、せん断速度2,500sec-1、ドラフト110、紡糸温度250℃で複合紡糸したこと以外は実施例1と全く同様にして繊維化を行い、編み地の作成、抽出処理を行った。その時の紡糸性、抽出性、風合、強伸度を表4に示した。
【0064】
【表4】
【0065】実施例14実施例1で用いたポリ乳酸の代わりにポリプロピレン(S106LA:グランドポリマー社製)を用い、せん断速度3,300sec-1、ドラフト90、紡糸温度250℃で紡糸したこと以外は実施例1と同様にして繊維化を行い、編み地の作成、抽出処理を行った(表4)。
【0066】実施例15実施例1で用いたポリ乳酸の代わりに固有粘度0.72(フェノール/テトラクロロエタンの等質量混合溶媒にて30℃で測定)のポリエチレンテレフタレートを用い、せん断速度2,300sec-1、ドラフト120、紡糸温度280℃で紡糸したこと以外は実施例1と同様にして繊維化を行い、編み地の作成、抽出処理を行った(表4)。
【0067】実施例16実施例1で用いたポリ乳酸の代わりに固有粘度0.52(フェノール/テトラクロロエタンの等質量混合溶媒にて30℃で測定)のスルホイソフタル酸2.5モル%変性、イソフタル酸5モル変性のポリエチレンテレフタレートを用い、せん断速度2,300sec-1、ドラフト120、紡糸温度260℃で紡糸したこと以外は実施例1と同様にして繊維化を行い、編み地の作成、抽出処理を行った(表4)。
【0068】実施例17実施例1で用いたポリ乳酸の代わりにナイロン6(UBEナイロン6:宇部興産)を用い、せん断速度2,500sec-1、ドラフト100、紡糸温度250℃で紡糸したこと以外は実施例1と同様にして繊維化を行い、編み地の作成、抽出処理を行った(表4)。
【0069】実施例18実施例1で得られた延伸糸(単繊維繊度4.4dtex)を捲縮機で捲縮を付与し51mmにカットして原綿化した。この原綿をローラーカードでカーディングし、ニードルパンチで絡合して不織布とした。この不織布を95℃の熱水に1時間浸せきし、変性PVAを除去してポリ乳酸からなるシート状物を得た。得られたシート状物の物性を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】実施例19実施例13で得られた延伸糸を用い、実施例18と同様にしてエチレン44モル%変性PVA繊維からなるシート状物を得た。得られたシート状物の物性を表5に示す。
【0072】実施例20実施例14で得られた延伸糸を用いて実施例18と同様にしてポリプロピレンからなるシート状物を得た。得られたシート状物の物性を表5に示す。
【0073】実施例21実施例20でポリプロピレンとPVAとからなる複合繊維原綿をカーディングする際に、30%のバインダー繊維原綿(芯成分がポリプロピレン、鞘成分がポリエチレンの芯鞘複合繊維で鞘成分の融点が105℃、単繊維繊度1.7dtex×35mm)を混綿し、150℃でカレンダー加工した後に変性PVAを溶解除去したこと以外は実施例20と全く同様にしてシート状物を得た。得られたシート状物の物性を表5に示す。
【0074】比較例15比較例13で用いた複合繊維を使用し、実施例18と同様にして不織布を作成し、得られた不織布を90℃のトルエンを用いて抽出処理行った(表5)。
【0075】比較例16比較例14で用いた複合繊維を使用し、実施例18と同様にして不織布を作成し、得られた不織布を98℃の40g/LのNaOHを用いて抽出処理を行った。この抽出処理により変性ポリエチレンテレフタレートだけでなくポリ乳酸も溶解・分解し、ポリ乳酸の編み地は得られなかった(表5)。
【0076】実施例22実施例1に用いたPVAとD体の含有率が1%のポリ乳酸(融点;170℃)とをそれぞれ別の押し出し機で溶融混練して、変性PVAとポリ乳酸とを240℃の紡糸パックに導き、変性PVAとポリ乳酸とが1:2の比率の11層(ポリ乳酸6層、変性PVA5層)の貼り合わせ型複合繊維を紡速800m/minで巻き取った。得られた紡糸原糸を150℃の熱風炉で3倍に延伸し、5mmにカットしてカットファイバーを得た。このカットファイバーを水中に投じ撹拌分散させた後、この分散物を80メッシュのステンレス製金網を通して抄紙した。この紙を80kg/cm2(7.8×106Pa)の水流で複合繊維を分割・絡合し、引き続いて95℃の熱水に1時間浸せきし、変性PVAを除去してシート状物を得た。このシート状物は十分な強度を有し、柔らかい風合を有していた(表5)。
【0077】実施例23〜24実施例22で用いたポリ乳酸の代わりに実施例13、14で用いた熱可塑性ポリマーとを用いたこと以外は実施例22と全く同様にしてシート状物を得た(表5)。
【0078】実施例25〜29実施例1および実施例13、15、16、17で得られた紡糸原糸を、通常のローラープレート方式の延伸機を用いて3倍延伸し、75デニール/24フィラメント(83dtex/24f)のマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを経糸および緯糸として使用し、1/1の平織物を作製した。該生機織物を1g/L水酸化ナトリウムと0.5g/LアクチノールR−100(松本油脂)を含む水溶液で80℃で30分間処理した。得られた織物は変性PVAが抽出され柔らかい風合いを有していた。また実施例25、27で得られたシート状物を分散染料で、実施例26、29で得られたシート状物をバット染料で、実施例28で得られたシート状物をカチオン染料でそれぞれ青色に染色したが、いずれも発色性が良好であった。
【0079】実施例30〜34実施例1で用いた変性PVAと実施例25〜29で用いた熱可塑性ポリマーとをそれぞれ別の押し出し機で溶融混練して、変性PVAを島側に、ポリ乳酸が海側になるように紡糸パックに導き、海島複合比率が1:1で島数16の海島型複合繊維を紡速800m/minで巻き取った。得られた紡糸原糸を、通常のローラープレート方式の延伸機を用いて3倍延伸し、75デニール/24フィラメント(83dtex/24f)のマルチフィラメントを得た。紡糸パックの温度および延伸温度は実施例1および実施例13、15,16,17と同じとした。次いで得られたマルチフィラメントを筒編み機を用いて筒編み地にし、90℃の熱水で変性PVAを抽出した。得られた筒編み地はきしみ感のある新らしい風合いであり、その繊維断面の形状は島が抽出されたレンコン状の物であった。
【0080】実施例35〜39実施例1の変性PVAと実施例13〜17で用いた熱可塑性ポリマーとを1:1の比率で同じ押し出し機に投入し、紡糸パックに導いて海島混合紡糸繊維を紡糸速度800m/minで巻き取った。これを実施例30〜34と同様にして変性PVAが抽出された筒編み地を得た。筒編み地の繊維はフィブリル化したものであり、ぬめり感のある柔らかい風合いのものであった。
【0081】
【発明の効果】本発明によれば、複合繊維の一成分であるPVA成分を抽出することにより機械的性質および風合等の触感を劣化させることなく異型断面あるいは極細の熱可塑性ポリマー繊維を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 粘度平均重合度が200〜500、鹸化度が90〜99.99モル%、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率が70〜99.9モル%、1,2−グリコール結合の含有量が1.2〜2.0モル%であり、融点が160℃〜230℃であるポリビニルアルコール(A)からなり、かつ(A)100質量部に対してアルカリ金属イオン(B)がナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量部含有されている水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(C)と融点が270℃以下の熱可塑性ポリマー(D)とからなることを特徴とする複合繊維。
【請求項2】 熱可塑性ポリマー(D)が、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンおよびエチレン単位を25モル%〜70モル%含有する変性ポリビニルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性ポリマーである請求項1に記載の複合繊維。
【請求項3】 ポリビニルアルコール(A)が、炭素数4以下のαオレフィン単位および/またはビニルエーテル単位を0.1〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項1又は2に記載の複合繊維。
【請求項4】 ポリビニルアルコール(A)がエチレン単位を4〜15モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項3に記載の複合繊維
【請求項5】 ポリエステルが脂肪族ポリエステルである請求項2に記載の複合繊維。
【請求項6】 ポリビニルアルコール(C)の少なくとも一部が繊維表面に存在する複合形態を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合繊維。
【請求項7】 ポリビニルアルコール(C)が繊維表面に存在しない複合形態を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合繊維。
【請求項8】 請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合繊維を含む布帛。
【請求項9】 請求項8に記載の布帛を水で処理し、複合繊維を構成するポリビニルアルコール成分(C)の少なくとも一部を除去することを特徴とする布帛の処理方法。
【請求項10】 請求項9の処理方法により得られる繊維製品。
【請求項1】 粘度平均重合度が200〜500、鹸化度が90〜99.99モル%、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率が70〜99.9モル%、1,2−グリコール結合の含有量が1.2〜2.0モル%であり、融点が160℃〜230℃であるポリビニルアルコール(A)からなり、かつ(A)100質量部に対してアルカリ金属イオン(B)がナトリウムイオン換算で0.0003〜1質量部含有されている水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(C)と融点が270℃以下の熱可塑性ポリマー(D)とからなることを特徴とする複合繊維。
【請求項2】 熱可塑性ポリマー(D)が、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンおよびエチレン単位を25モル%〜70モル%含有する変性ポリビニルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性ポリマーである請求項1に記載の複合繊維。
【請求項3】 ポリビニルアルコール(A)が、炭素数4以下のαオレフィン単位および/またはビニルエーテル単位を0.1〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項1又は2に記載の複合繊維。
【請求項4】 ポリビニルアルコール(A)がエチレン単位を4〜15モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項3に記載の複合繊維
【請求項5】 ポリエステルが脂肪族ポリエステルである請求項2に記載の複合繊維。
【請求項6】 ポリビニルアルコール(C)の少なくとも一部が繊維表面に存在する複合形態を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合繊維。
【請求項7】 ポリビニルアルコール(C)が繊維表面に存在しない複合形態を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合繊維。
【請求項8】 請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合繊維を含む布帛。
【請求項9】 請求項8に記載の布帛を水で処理し、複合繊維を構成するポリビニルアルコール成分(C)の少なくとも一部を除去することを特徴とする布帛の処理方法。
【請求項10】 請求項9の処理方法により得られる繊維製品。
【公開番号】特開2000−239926(P2000−239926A)
【公開日】平成12年9月5日(2000.9.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−355684
【出願日】平成11年12月15日(1999.12.15)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成12年9月5日(2000.9.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成11年12月15日(1999.12.15)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】
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