説明

複合膜とそれを用いたホース

【課題】耐熱性、柔軟性を有しつつ、優れたガスバリア性を有する複合膜、該複合膜の製造方法、及び該複合膜を内層として用いたホースを提供すること。
【解決手段】粘土粒子の層が積層し、配向してなる粘土薄膜内にナイロンが分布し、該ナイロンのアミド結合が、部分的に下記一般式(1):


(式中、R1は置換されていてもよい炭素数1〜8のアルキル基、R2は置換されていてもよい炭素数1〜4のアルカンジイル基、nは0〜10の整数である。)
で表される構造を有することを特徴とする複合膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合膜とそれを用いたホースに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な化学産業分野において、ナイロン、テフロン(登録商標)、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂などの優れたガスバリア性を有する樹脂を材料としたガスバリア材料が、配管、配管連結部材(パッキンなど)に広く用いられている。一方、近年の化学産業の多様化に伴い、高温あるいは低温の厳しい使用環境下における生産プロセスが増加し、上記のようなガスバリア性を有する樹脂を材料としたガスバリア材料の使用が難しくなり、金属製のものを用いる場合がある。しかし、金属製の配管及び配管連結部材は、強度、ガスバリア性に優れるが、フレキシビリティー(柔軟性)に劣るため、強い力で該部材を締めこむための機構が必要となり、パッキンが該部材損傷し易いなどの問題点があり、耐熱性、柔軟性を兼ね備えたガスバリア材料の開発が求められている。
【0003】
ところで、粘土粒子(結晶)は、エンジニアリングプラスチックに少量添加することで、その耐熱性、機械的強度、及びガスバリア性を高めることが可能であることが知られている。そして、粘土粒子の含有量を増加させることで、耐熱性、ガスバリア性がさらに向上することが知られており、粘土粒子を主成分とするガスバリア材料は優れた性能を有することが予想されている。非特許文献1には、粘土を主成分とする膜の形成が、水やアルコールに分散し、その分散液をガラス板の上に広げ、静置乾燥させることにより可能であり、粒子の配向の揃った膜を形成することが開示されている。また、非特許文献2には、ラングミュアーブロジェット法(Langmuir−Blodgett Method)を応用した粘度薄膜の作製が開示されている。しかし、これらの方法では、ガラス板からの粘土膜の剥離が困難であり、膜に亀裂が生じるなど、自立膜として得ることが難しい、また、膜を剥離できたとしても、得られた膜が脆く、強度が不足するため、ピンホールのない均一の厚さの膜を調製することは困難であるといった問題があった。
【0004】
そこで、このような粘土の性質を利用し、かつ上記の欠点を解決するために、粘土粒子の積層を高度に配向させた粘土薄膜に水溶性高分子、ナイロンなどのガスバリア性を有する樹脂を均一に分布させた自立膜が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかし、これらの膜は、自立膜としての強度、耐熱性、及び柔軟性を有しているが、いずれもガスバリア性を十分に有しているとはいえず、耐熱性、柔軟性を有しつつ、さらに優れたガスバリア性を有するガスバリア材料の開発、その実用化が強く望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−313604号公報
【特許文献2】特開2005−200290号公報
【非特許文献1】白水晴雄,「粘土鉱物学−粘土科学の基礎−」,朝倉書店,p.57(1988)
【非特許文献2】梅沢泰史,「粘土科学」,第42巻,第4号,p.218−222(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐熱性、柔軟性を有しつつ、優れたガスバリア性を有する複合膜(ガスバリア材料)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、粘土粒子の積層を高度に配向させた粘土薄膜内に特定のナイロンを分布させることにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)粘土粒子の層が積層し、配向してなる粘土薄膜内にナイロンが分布し、該ナイロンのアミド結合が、部分的に下記一般式(1):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1は置換されていてもよい炭素数1〜8のアルキル基、R2は置換されていてもよい炭素数1〜4のアルカンジイル基、nは0〜10の整数である。)
で表される構造を有することを特徴とする複合膜、
(2)下記工程(1)〜工程(3)を有する複合膜の製造方法、及び
工程(1)粘土粒子及び上記(1)に記載のナイロンを分散媒体に分散させて粘土粒子−ナイロン分散液を得る分散液調整工程
工程(2)該分散液を静置して、該分散媒体を分離して、粘土薄膜を得る工程
工程(3)該粘土薄膜を加熱して複合膜を得る工程
(3)上記(1)に記載の複合膜が内層として用いられるホース、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性、柔軟性を有しつつ、優れたガスバリア性を有する複合膜、及び該複合膜を用いたホースを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[複合膜]
本発明の複合膜は、粘土粒子の積層を高度に配向させた粘土薄膜内にナイロンが分布し、該ナイロンのアミド結合が、部分的に下記一般式(1):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R1は置換されていてもよい炭素数1〜8のアルキル基、R2は置換されていてもよい炭素数1〜4のアルカンジイル基、nは0〜10の整数である。)
で表される構造を有することを特徴とするものである。
【0014】
[複合膜:粘土粒子]
本発明における粘土薄膜は、粘土粒子の層が積層し、配向してなるものである。本発明において、粘土粒子の層が積層し、配向するとは、粘土粒子の単位構造層(厚さ約1ナノメートル)は、層面の向きを一にして積み重なり、層面に垂直な方向に高い周期性を有することをいい、この現象は、一般に粘土粒子の分散液を静置して粘土粒子を沈降させた後、分散媒体を蒸発させて粘土粒子の膜状とすることにより生じる、粘土粒子に特有の現象である。
【0015】
本発明で用いられる粘土粒子としては、天然粘土、合成粘土の粒子を制限なく用いることができ、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、及びノントロナイトから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。親水性の観点から、天然モンモリロナイト、合成モンモリロナイト、天然スメクタイト、及び合成スメクタイトから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
本発明で用いられる粘土粒子の1次粒子の粒子径は、特に制限はないが、0.01〜1μm程度が好ましく、1次粒子のアスペクト比(粒子数基準)は、200〜400が好ましく、250〜350がより好ましい。また、メチレンブルー吸着量、及び陽イオン交換容量が高いものが好ましく、メチレンブルー吸着量は50〜300mmol/100gが好ましく、75〜200mmol/gがより好ましく、陽イオン交換容量は50〜300meq/100gが好ましく、75〜200meq/gがより好ましい。
【0016】
[複合膜:ナイロン]
本発明の複合膜には、そのアミド結合が部分的に下記一般式(1)で表される構造を有するナイロン(以下、変性ナイロンということがある。)が用いられる。ナイロンとしては、特に制限はなく、6−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、66−ナイロン、610−ナイロンのほか、6,66,610共重合ナイロン、6,12,66,610共重合ナイロンなどが挙げられる。すなわち、本発明の複合膜に用いられるナイロンは、上記したようなナイロンのアミド結合が部分的に下記一般式(1)で表される構造を有する変性ナイロンである。
【0017】
【化3】

【0018】
式中、R1は置換されていてもよい炭素数1〜8のアルキル基であり、アルコール溶媒への溶解性の観点からメチル基が好ましい。R2は置換されていてもよい炭素数1〜4のアルカンジイル基であり、アルコール溶媒への溶解性の観点からメチレン基が好ましい。なお、R1及びR2は直鎖であっても分岐状であってもよく、置換基としては特に制限はなく、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、イミノ基、アミド基、カルボキシル基などが挙げられる。また、nは0〜10の整数であり、アルコール溶媒への溶解性の観点から、0〜5が好ましく、0〜2がより好ましい。また、上記一般式(1)が、R1がメチル基であり、nが0であるメトキシメチル基を有するアミド結合であることが特に好ましく、このようなアミド結合を有するN−メトキシメチル化ナイロンが好ましい。
【0019】
本発明で用いられるナイロンのアミド結合のうち、一般式(1)で表される構造を有する割合は、アルコール溶媒への溶解度の観点から、15〜35%が好ましく、20〜33%がより好ましい。また、上記変性ナイロンの重量平均分子量は、通常10,000〜50,000程度であり、溶媒揮発後の物性確保の観点から、15,000〜45,000が好ましく、25,000〜45,000がより好ましい。
【0020】
このような変性ナイロンは、公知の方法により特に制限なく得られるが、例えば以下の方法により得られる。まず、ギ酸、アルコールなどのナイロンを溶解する溶媒中で、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド)とメタノールとを、必要に応じて加圧容器中で反応させる。得られた反応液を、水又はメチルエチルケトン、アセトン、ヘキサン、オクタン、石油エーテルなどの貧溶媒中に加えて、沈殿した樹脂を集めて、水洗を繰り返し、不純物を除去することで変性ナイロンを精製することができる。
【0021】
本発明において、変性ナイロンは、上記のように作製したものを用いてもよいし、市販のものを用いてもよい。市販のものとしては、「トレジンF30K(商品名)」、「トレジンMF−30(商品名)」、「トレジンEF−30T(商品名)」(いずれもナガセケムテックス株式会社製)が挙げられる。
【0022】
また、本発明で用いられる変性ナイロンは、下記一般式(2)で表されるαβ−不飽和重合性モノマーをグラフト重合したグラフト化ナイロンであることが好ましい。
【0023】
【化4】

【0024】
式中、R3は、水素原子又はメチル基を示し、R4は−O−CO−又は−CO−O−で表される連結基であり、R5は水素原子又は置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基である。置換される場合の置換基としては、ハロゲン原子、アリール基、アルコキシ基、カルボキシル基、アシル基などが挙げられる。
このようなαβ−不飽和重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、酢酸ビニルなどが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を用いることができる。なかでも、水への分散性を向上させる点で、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0025】
グラフト化ナイロンにおける、αβ−不飽和重合性モノマーの割合は、10〜40質量%が好ましく、15〜35質量%がより好ましい。この範囲内にあれば、グラフト化ナイロンは、水など分散媒体に対して良好な分散性を有する。
【0026】
グラフト重合は、公知の方法により特に制限なく行うことができるが、例えば以下の方法により行う。変性ナイロンを溶媒中に分散、あるいは溶解させて、これに前記のαβ−不飽和重合性モノマーを1種又は2種以上混合して加えて、重合触媒、を加えて加熱重合する。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、エチルセロソルブ、グリセリンなど又はこれらの混合溶媒を用いればよい。また、重合触媒としては、公知のものを制限なく用いることができ、例えば、2−2’−アゾビスイソブチロニトリル、2−2’−(2−4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイルなどが挙げられる。
重合性モノマーを2種以上用いる場合、モノマーを各々別に加えるとグラフトがモノマー別にブロックした状態となるし、同時に加えるとグラフトがランダムとなった状態となる。本発明においては、グラフト化ナイロンは、いずれの方法で加えて得られたものでもよく、適宜選択して用いればよい。
【0027】
加熱重合した後の液は、そのまま使用することも可能であるが、必要に応じて液中の樹脂を分離精製してもよい。分離精製は、加熱重合後の液を貧溶媒に加えて、沈殿凝析する樹脂を集めて、溶解−凝析を繰り返して洗浄を行うものであり、これにより精製された樹脂分を固体として得ることができる。ここで、貧溶媒としては、上記の変性ナイロンの精製で用いたものと同様のものを用いることができる。
【0028】
本発明においては、グラフト化ナイロンは、上記のように作製したものを用いてもよいし、市販のものを用いてもよい。市販のものとしては、「トレジンFS−350(商品名)」、「トレジンFS−500(商品名)」(いずれもナガセケムテックス株式会社製)が挙げられる。
【0029】
[複合膜の製造]
本発明の複合膜の製造方法は、工程(1)粘土粒子及び変性ナイロンを分散媒体に分散させて粘土粒子−ナイロン分散液を得る分散液調整工程、工程(2)該分散液を静置して、該分散媒体を分離して、粘土薄膜を得る工程、及び工程(3)該粘土薄膜を加熱して複合膜を得る工程を有する。
【0030】
[複合膜の製造方法:工程(1)]
工程(1)は、粘土粒子及び変性ナイロンを分散媒体に分散させて粘土粒子−ナイロン分散液を調製する工程である。粘土粒子−ナイロン分散液は、以下のように調製する。
まず、粘土粒子を水、又は水と水に可溶な例えばメタノール、エタノールなどのアルコール類、アルデヒド類、ケトン類などの有機溶媒とを混合して得られる水を主成分とする分散媒体に加えて、攪拌機などを用いて十分攪拌して均一な粘土粒子分散液を調製する。次いで、変性ナイロン又はグラフト化ナイロン(以下、単にナイロンということがある。)を上記の粘土粒子分散液に加えて、攪拌して、粘土粒子−ナイロン分散液を得る。
【0031】
粘土粒子分散液中の粘土粒子の含有量は、0.5〜10質量%が好ましく、1〜3質量%がより好ましい。粘土粒子の含有量が上記の範囲内にあれば、粘土粒子の良好な配向状態が得られ、均一な膜を得ることができ、また、乾燥に時間がかかりすぎることもない。
【0032】
ナイロンは粉末状、又はこれらを含む溶液として加えればよい。溶液の場合の溶媒は、使用するナイロンを溶解しうるものであれば特に制限はないが、変性ナイロンの場合はメタノール、エタノール又はこれらの混合溶媒が好ましく、グラフト化ナイロンの場合は水が好ましい。また、溶液中のナイロンの含有量は、0.5〜30質量%、好ましくは1〜25質量%である水溶液とすることが良好な分散状態を得る観点より好ましい。粘土粒子−ナイロン分散液中の全固形分におけるナイロンの割合は、0.001〜10質量%が好ましく、0.005〜0.1質量%であることがより好ましい。ナイロンの割合が上記範囲内にあれば、ナイロンの良好な分散状態を得ることができる。
【0033】
粘土粒子及びナイロンを加えて粘土粒子−ナイロン分散液を得る方法は、上記のように粘土粒子を分散させてからナイロンを加える方法、ナイロンを含む溶液に粘土粒子を分散させる方法、粘土粒子及びナイロンを同時に加える方法のいずれでもよいが、粘土粒子の良好な分散状態を容易に得る観点から、粘土粒子を水などに分散させてから、ナイロンを加える方法が好ましい。
【0034】
分散液中のナイロンを良好な分散状態とすることで、粘土薄膜中におけるナイロンは、均一な分布を呈することとなる。これにより、ナイロンの化学結合のネットワークが粘土薄膜内で一様に広がることとなり、得られる複合膜は、柔軟性及び機械的強度に優れたものとなる。
【0035】
[複合膜の製造方法:工程(2)]
工程(2)は、得られた粘土粒子−ナイロン分散液を水平に静置して、粘土粒子をゆっくりと沈積させつつ、分散液から分散媒体を分離して、ナイロンが分布する粘土薄膜を得るものである。分散液から分散媒体を分離する方法としては、特に制限なく種々の固液分離方法が用いられ、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥、加熱蒸発のいずれか、又はこれらの方法を組み合わせる方法が好ましく挙げられる。
【0036】
例えば、加熱蒸発の方法を用いる場合は、以下の手順により行う。まず、粘土粒子−ナイロン分散液を平坦なトレイ、好ましくはプラスチック製又は金属製のトレイなどの支持体に注ぎ、水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で30〜70℃、好ましくは30〜50℃の温度条件下で、3時間〜半日程度、好ましくは3〜5時間乾燥させて薄膜を得る。乾燥条件は、該分散液中の分散媒体を蒸発によって取り除くに十分であり、かつマイルドなものとすることが肝要である。このような条件とすることで、分散液の対流による粘土粒子の配向度の低下を招くことがなく、乾燥に時間がかかりすぎることもない。
得られた薄膜がトレイなどの支持体から自然に剥離しない場合には、110〜270℃、好ましくは110〜200℃の温度条件で乾燥してもよい。温度条件が上記範囲内にあれば、薄膜に含まれるナイロンが劣化することなく、剥離しやすくなる。
【0037】
また、粘土粒子−ナイロン分散液は、真空引きにより事前に脱気処理を行うことが好ましい。これにより、得られる薄膜における気泡に由来する孔の発現を低減させることができるので、加熱蒸発の方法に限らず行うことが好ましい。この脱気処理は、粘土粒子−ナイロン分散液を静置する前後にかかわらず行うことができるが、静置前に脱気処理を行うことが好ましい。
【0038】
[複合膜の製造方法:工程(3)]
工程(3)は、このようにして得られたナイロンが分布する粘土薄膜を加熱して複合膜を得るものである。
加熱処理の条件としては、250〜270℃の温度条件で、1〜10時間、好ましくは5〜10時間である。加熱処理における温度条件が上記範囲内であれば、ナイロンが劣化することなく好ましい。なお、上記の乾燥、加熱処理は、温度条件及び時間を適宜選択することで、同時に行うことも可能である。
【0039】
複合膜の厚さは、分散液中の固体量(粘土粒子とナイロンとの合計量)を調整することにより、任意の厚さとすることができる。複合膜の厚さは、通常3〜1000μm程度であり、十分なガスバリア性と耐熱性、柔軟性などの機械的特性を得る観点から、好ましくは3〜100μm、3〜30μmがより好ましい。
【0040】
[複合膜の用途]
本発明の複合膜は、自立膜として用いることが可能であり、100〜200℃高温あるいは−60〜0℃低温の厳しい使用環境下においても、耐熱性、柔軟性を有しつつ、優れたガスバリア性を有するガスバリア材料として、好適に用いられる。従って、本発明の複合膜は、化学プラント、自動車エンジン周辺又は二酸化炭素などを冷媒として用いた冷却装置の配管及び配管連結部材(パッキンなど)、ロケットやジェット機エンジン周辺の燃料シール材、あるいは固体電解質燃料電池の隔膜などに利用が可能であり、耐熱ガスバリア材料として有望である。また、本発明の複合膜は、特に膜として得られることから、配管及びホースの内層部材として好適に用いられる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
(1)二酸化炭素ガスの透過係数
各実施例及び比較例で得られた複合膜のCO2ガス透過係数を、室温、−30℃、及び100℃で、「Gasperm−100(商品名)」:日本分光株式会社製を用いて測定し、比較例1を1とした指数をCO2ガス透過抑制係数として第1表に示した。
(2)TG−DTAチャート
各実施例で得られた複合膜について、TG−DTAチャート(昇温速度5℃/分、空気雰囲気下)を測定した。
【0042】
実施例1
粘土粒子として、0.75gの天然モンモリロナイト(「クニピアP(商品名)」:クニミネ工業株式会社製,粒子径:2μm)、及び0.2gの合成雲母(「ソマシフ(商品名)」:コープケミカル株式会社製,粒子径:5〜7μm)を60mlの蒸留水に加えて、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れて、激しく振とうし、均一な粘土粒子分散液を得た。次いで、ナイロンとして0.05gのN−メトキシメチル化ナイロンの粉末(「トレジンFS−350(商品名)」:ナガセケムテックス株式会社製)を加えて、得られた粘土粒子−ナイロン分散液を、底面が平坦であり、底面の形状が円形であり、その直径が約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、該分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、強制送風式オーブン中で50℃の温度条件で5時間乾燥して、厚さ30μmの薄膜を得た。該薄膜をトレイから剥離し、さらに250℃に保った加熱炉中で5時間加熱処理して複合膜を得た。
得られた複合膜の評価を第1表に示す。
【0043】
実施例2〜4
実施例1において、第1表に示す粘土粒子、ナイロンの各成分を、第1表に示す配合量とする以外は、実施例1と同様にして複合膜を得た。得られた複合膜の評価を第1表に示す。
【0044】
比較例1〜3
第1表に示される部材を用いた場合の評価を第1表に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
比較例4〜9
実施例1において、第1表に示す粘土粒子、ナイロンの各成分を第1表に示す配合量とする以外は、実施例1と同様にして複合膜を得た。得られた複合膜の評価を第2表に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
*1,「トレジンFS−350(商品名)」:ナガセケムテックス株式会社製(メトキシメチル化度:30%,重量平均分子量:43,000),N−メトキシメチル化ナイロン。
*2,「エバールF101(商品名)」:クラレ株式会社製
*3,「UBE1022B(商品名)」:宇部興産株式会社
*4,「クニピアP(商品名)」:クニミネ工業株式会社製,天然モンモリロナイト,粒子径:2μm
*5,「ソマシフ(商品名)」:コープケミカル株式会社製,合成雲母,平均粒径:5〜7μm
*6,ε−カプロラクタム粉末(和光純薬工業株式会社製)
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の複合膜は、耐熱性、柔軟性を有しつつ、優れたガスバリア性を有するものであり、様々な化学産業分野に用いられる配管及び配管連結部材(パッキンなど)、また、膜として得られることから、配管及びホースの内層部材などの用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土粒子の層が積層し、配向してなる粘土薄膜内にナイロンが分布し、該ナイロンのアミド結合が、部分的に下記一般式(1):
【化1】

(式中、R1は置換されていてもよい炭素数1〜8のアルキル基、R2は置換されていてもよい炭素数1〜4のアルカンジイル基、nは0〜10の整数である。)
で表される構造を有することを特徴とする複合膜。
【請求項2】
ナイロンのアミド結合の15〜35%が、式(1)で表される構造を有する請求項1に記載の複合膜。
【請求項3】
上記式(1)において、nが0であり、かつR1がメチル基である請求項1又は2に記載の複合膜。
【請求項4】
ナイロンが、アクリル酸がグラフト重合されたものである請求項1〜3のいずれかに記載の複合膜。
【請求項5】
ナイロンの含有量が、10質量%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の複合膜。
【請求項6】
粘土粒子が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、及びノントロナイトから選らばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の複合膜。
【請求項7】
下記工程(1)〜(3)を有する複合膜の製造方法。
工程(1)粘土粒子及び請求項1に記載のナイロンを分散媒体に分散させて粘土粒子−ナイロン分散液を得る分散液調整工程
工程(2)該分散液を静置して、該分散媒体を分離して、粘土薄膜を得る工程
工程(3)該粘土薄膜を加熱して複合膜を得る工程
【請求項8】
ナイロンのアミド結合の15〜35%が、式(1)で表される構造を有する請求項7に記載の複合膜の製造方法。
【請求項9】
上記式(1)において、nが0であり、かつR1がメチル基である請求項7又は8に記載の複合膜の製造方法。
【請求項10】
ナイロンが、アクリル酸がグラフト重合されたものである請求項7〜9のいずれかに記載の複合膜の製造方法。
【請求項11】
粘土粒子が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、及びノントロナイトから選らばれる少なくとも1種である請求項7〜10のいずれかに記載の複合膜の製造方法。
【請求項12】
分散液中の粘土粒子の含有量が、0.5〜10質量%である請求項7〜11のいずれかに記載の複合膜の製造方法。
【請求項13】
分散液中の全固形分に対するナイロンの含有量が、0.001〜10質量%である請求項7〜12のいずれかに記載の複合膜の製造方法。
【請求項14】
分散液を脱気処理を行う請求項7〜13のいずれかに記載の複合膜の製造方法。
【請求項15】
分散媒体を分離する方法が、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥、加熱蒸発のいずれかである請求項7〜14のいずれかに記載の複合膜の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれかに記載の複合膜が内層として用いられるホース。

【公開番号】特開2010−121010(P2010−121010A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294764(P2008−294764)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】