説明

複合膜及びその製造方法

【課題】
従来の水処理膜に比べ、分離機能の向上により透過水の水質を安定させるために、分離機能層に優れたウイルス除去性能、耐ファウリング性能を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いた複合膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
支持膜上にセルロースエステルを9重量%以上46重量%以下、かつ溶融粘度が3300Pa・s以上を含有するポリフッ化ビニリデン系樹脂で形成されるコート層であって、該コート層の最外表面孔径が平均0.01μm以上0.1μm以下であり、コート層壁に平均孔径0.01μm以上0.5μm以下、かつ厚さ10μm以上120μm以下の三次元網目構造を形成していることを特徴とする複合膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理分野、医薬品製造分野、食品工業分野などに好適に用いられる分離膜に関する。さらに詳しくは、液体中のウイルスなどの微小物を効率的に除去する分野に好適に使用できる複合膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、河川水や地下水の除濁、工業用水の清澄化、排水の高度処理などの浄水分野にフッ素系樹脂を用いた中空糸膜モジュールが適用されるようになってきた。これら浄水分野で用いられる中空糸膜モジュールには、長期運転を目的に酸、アルカリ、塩素、界面活性剤などの薬品洗浄を中空糸膜モジュールに施し、再生を繰り返して使用される。このために使用される中空糸膜には、高い耐薬品性能(化学的強度)、物理強度が要求され、加えてクリプトスポリジウムなどの病原性微生物が透過処理水に混入しない分離特性が必要とされている。また飲料水製造、医薬品製造、食品工業分野では、製造工程内にウイルスなどの病原体が混入した場合、製造ラインが汚染され、ウイルス感染症などを引き起こす危険性がある。このために種々の殺菌技術が用いられ、ウイルスを細孔で物理的に除去できる分離膜の利用が注目されるようになってきた。このように分離膜には、優れた分離性能、化学的強度(耐薬品性)、物理強度、及び透過性能が求められている。この様な特性要求に対して化学的強度(耐薬品性)を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂の分離膜が用いられるようになって来た。しかしながらポリフッ化ビニリデン樹脂製の分離膜は、化学的強度(耐薬品性)が高いものの、膜面に疎水性相互作用があって汚れ易く、透水性能が低下する。
【0003】
このためにポリフッ化ビニリデン樹脂の疎水性相互作用を低下させる、親水化による耐汚れ性、透水性、或いはウイルス除去性の改善が行われてきた。例えば特許文献1に記載の方法では、酢酸セルロースとポリフッ化ビニリデン系樹脂をブレンドした分離膜の製造方法が開示されている。しかし、単層系の膜で親水性の効果が発現するまで酢酸セルロースをブレンドした場合、酸、アルカリ、塩素などの耐薬品性が低く、機械的強度が低下する懸念がある。また特許文献2には、表層に親水性高分子を含有するフッ素系樹脂を形成させて、高い物理強度や透水性能などを有する複合膜が開示されている。しかし、この複合膜は膜細孔が粗いためにウイルスなどの微小物を除去する分離特性が低い。また特許文献3では、表層に親水性高分子を含有するフッ素系樹脂で形成させた複合膜が高い分離特性を有することが開示されている。しかしながらウイルス除去性は低く、不十分であった。また特許文献4には、医療用途の中空糸膜の記載がある。しかし、高いウイルス除去性能を示すものの膜厚が薄いために物理的強度が低く、さらに透過性能も低い。また特許文献5では、表層に親水性高分子を含有するフッ素系樹脂で形成させた複合膜が高いウイルス除去性(初期)を有することが開示されている。しかしながらウイルス除去性については、未だ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−78425号公報
【特許文献2】特開2006−239680号公報
【特許文献3】特開2006−263721号公報
【特許文献4】国際公開第03/26779号パンフレット
【特許文献5】特開2010−94670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような問題点に鑑み、優れたウイルス除去性能、及び耐汚れ性を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂を分離層に用いた複合膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するために以下の構成からなる。
【0007】
(1)支持膜と、セルロースエステルを9重量%以上46重量%以下、かつ溶融粘度が3300Pa・s以上を含有するポリフッ化ビニリデン系樹脂で前記支持膜上に形成されるコート層とを備え、
該コート層の最外表面孔径が平均0.01μm以上0.1μm以下であり、コート層内に平均孔径0.01μm以上0.5μm以下、かつ厚さ10μm以上120μm以下の三次元網目構造が形成されていることを特徴とする複合膜。
【0008】
(2)溶融粘度3300Pa・s以上のポリフッ化ビニリデン系樹脂を14重量%以上20重量%以下、かつセルロースエステルを2重量%以上12重量%以下の範囲で含有するコート溶液を、支持膜表面にコーティングした後、凝固させることで、該支持膜に分離機能層を形成することを特徴とする複合膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法により、簡素なプロセスで支持膜に優れたウイルス除去性能、及び耐汚れ性を有するポリフッ化ビニリデン樹脂を用いた分離機能層を複合膜化した複合膜及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る中空糸状複合膜に関する一様態の横断面(一部)を示す電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
【図2】本発明に係る中空糸状複合膜に関する一様態の横断面(一部)を示す電子顕微鏡写真(倍率30000倍)である。
【図3】実施例で用いたろ過抵抗上昇度の評価モジュールの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いた複合膜の製造方法の具体的な実施形態について述べる。
【0012】
本発明の複合膜に使用される支持膜(支持体)の形態としては、中空糸膜、管状膜、組み紐状などで支持体として透水性を有するもので、ポリマー溶液をコーティング可能なものであれば特に限定するものではない。中でも中空糸膜が連続コーティングなどの生産性において好ましく用いられる。
【0013】
本発明に使用される支持膜用の樹脂としては、鎖状高分子からなる熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミドイミド、ポリテーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びこれらの混合物や共重合体が挙げられる。中でも耐薬品性に優れたポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましく用いられる。
【0014】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有する樹脂で、複数のフッ化ビニリデン共重合体を含有しても構わない。フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデンの残基構造を有するポリマーであり、典型的にはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマーなどとの共重合体である。かかる共重合体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれた1種類以上とフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。また、本発明の効果を損なわない程度に、前記フッ素系モノマー以外の例えばエチレンなどのモノマーが共重合されていても良い。中でも化学的強度の高さからフッ化ビニリデンホモポリマーからなる樹脂が好ましく用いられる。上述したポリフッ化ビニリデン系樹脂を支持膜に用いる場合、物理的強度や透水性を考慮すると重量平均分子量が10万以上70万以下の範囲内にあることが好ましく、溶媒への溶解性を考慮すると重量平均分子量20万以上60万以下のものが好ましく用いられる。
【0015】
本発明に係る支持膜の製造方法としては、冷却による熱誘起相分離法や非溶媒誘起相分離法など公知の製造方法などが採用できる。例えばポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液の冷却による熱誘起相分離法の場合、ここでは重量平均分子量10万以上70万以下のポリフッ化ビニリデン系樹脂を20重量%以上60重量%以下の濃度で、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶媒もしくは良溶媒に結晶化温度以上の温度で溶解する。ポリフッ化ビニリデン系樹脂濃度を高くすれば、物理強度の高い支持膜が得られるが、分離膜の空孔率が小さくなり透過性能が低下傾向を示すので考慮する必要がある。従ってポリフッ化ビニリデン系樹脂濃度は30重量%以上50重量%以下の範囲とすることが好ましい。該ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液をTダイ、二重管式口金などで、シート状或いは中空糸状に賦形して、冷却固化する。冷却浴には0℃以上30℃以下で、濃度が50重量%以上95重量%以下の貧溶媒あるいは良溶媒と、濃度が5重量%以上50重量%以下の非溶媒からなる混合液体が好ましい。また、中空糸状に成形する際には、該ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液と同時に二重管式口金の中心パイプから中空部形成液体を吐出させる方法が好ましい。中空部形成液体には、冷却浴同様、濃度が75重量%以上95重量%以下の貧溶媒あるいは良溶媒と、濃度が5重量%以上25重量%以下の非溶媒からなる混合液体が好ましい。さらに貧溶媒としては樹脂溶液と同じ貧溶媒を用いることが好ましく採用される。
【0016】
以上の支持膜の製造方法に加えて、透過性能を向上させるために延伸を行うことも好ましい。延伸温度は、好ましくは50℃以上165℃以下が好ましい。50℃以上であると延伸配向が均一に起こりやすくなり、165℃以下であるとポリフッ化ビニリデンの融点近くになるので、膜表面の微細孔の部分消失などを抑制することができる。延伸倍率は1.1倍以上4倍以下が好ましく、より好ましくは1.1倍以上2倍以下である。1.1倍以上であると透過性能が向上し、4倍以下であると糸の伸度低下を抑制することができる。
【0017】
本発明における貧溶媒とは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を60℃未満の低温では5重量%以上溶解させることができないが、60℃以上かつポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点以下(例えばポリフッ化ビニリデン系樹脂がポリフッ化ビニリデンホモポリマー単独で構成される場合は178℃程度)の高温領域で5重量%以上溶解させることができる溶媒のことである。ここで、本発明における貧溶媒を例示すると、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、プロピレンカーボネート、等の中鎖長のアルキルケトン、エステル、および有機カーボネートおよびその混合溶媒などが挙げられる。
【0018】
良溶媒としては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びセルロースエステルを溶解し、好ましくは非溶媒誘起相分離により三次元網目構造を形成するものであればとくに制限されないが、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等の低級アルキルケトン、エステル、アミドおよびそれらの混合溶媒などが挙げられる。ここで良溶媒とは、60℃未満の低温でもポリフッ化ビニリデン系樹脂を5重量%以上溶解させることが可能な溶媒である。
【0019】
また非溶媒は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点または溶媒の沸点まで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶解も膨潤もさせない溶媒と定義する。ここでポリフッ化ビニリデン系樹脂の非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o−ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびその混合溶媒などが挙げられる。
【0020】
本発明の分離機能層に用いるポリフッ化ビニリデン系樹脂の場合、溶融粘度3300Pa・s以上のポリフッ化ビニリデン系樹脂が用いられるが、一般的に溶融粘度と重量平均分子量との関係が一義的に決まることから、溶融粘度3300Pa・s以上に相当する重量平均分子量のポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いても良い。溶融粘度3300Pa・s以上となるポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量としては、一般的に80万以上であるが、90万以上であればより確実に達成される。溶融粘度が3300Pa・s以上、あるいは重量平均分子量が80万以上であるとポリマー密度が高くなりウイルス除去などの分離特性を向上させることができる。ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の溶融粘度の上限については特に制限はないが、7000Pa・sを超える、あるいは重量平均分子量が160万を超えると、溶媒への溶解性の低下、或いは複合膜にした場合の透水性が低下する懸念がある。
【0021】
本発明に用いられるコート溶液は、溶融粘度3300Pa・s以上のポリフッ化ビニリデン系樹脂を14重量%以上20重量%以下、かつセルロースエステルを2重量%以上12重量%以下含有する樹脂溶液である。通常、単一組成のポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液をコート溶液に用いて非溶媒誘起相分離法で凝固させる場合、溶融粘度の低いポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を用いると凝集性が低いために三次元網目構造が粗くなり、マクロボイドのような大きな空隙を形成する、一方で溶融粘度の高いポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を用いると凝集性が高くなり高分子リッチ相のネットワーク(三次元網目構造)の孔が細かく形成する。なお、本発明においてマクロボイドとは、非溶媒誘起相分離で形成されたコート層(分離機能層)において平均孔径が5μmを超える孔のことを指す。
【0022】
本発明の分離機能層の構造制御するために、ポリフッ化ビニリデン系樹脂中に相溶性の高いセルロースエステルを加えることで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の凝集性を調整し、コーティングしたコート層壁内に高い分離機能を果たす三次元網目構造を形成することが可能になる。
【0023】
本発明では、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の溶融粘度が3300Pa・s以上であることが必要であり、好ましくは3500Pa・s以上である。溶融粘度が3300Pa・s以上であることで分離機能層に形成する三次元網目の細孔を小さくすることできるために、ウイルス除去性などの分離特性を向上させることができ、本発明が達成される。また上限については特に制限はないが、7000Pa・sを超えると、樹脂の溶解性低下などの製造上の懸念がある。ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の溶融粘度は、ASTM D3835/232℃に剪断速度100秒−1の条件下で測定することができる。
【0024】
またコート溶液におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂の濃度が、14重量%以上20重量%以下であることが必要であり、好ましくは14重量%以上18重量%以下である。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の濃度が14重量%以上であると、ウイルス除去性などの分離特性が向上する。一方で20重量%以下であると透水性が向上するため、本発明が達成される。
【0025】
また本発明でコート溶液中のセルロースエステルの濃度は、2重量%以上12重量%以下であることが必要であり、好ましくは3重量%以上12重量%以下、さらに好ましくは5重量%以上10重量%以下である。セルロースエステルを2重量%以上にすると、ポリフッ化ビニリデン系樹脂との相溶性が向上することで三次元網目構造の細孔を均質的に形成することが可能になり、分離特性、及び耐ファウリング性などが向上する。一方で12重量%以下にすると溶解性が向上し、薬品による物性値の低下を軽減することができるため、本発明が達成される。ここでセルロースエステルとは、繰り返し単位中に3つのエステル基を有し、それらの加水分解の程度を調整したセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートから少なくとも1種以上選ばれるものである。
【0026】
本発明の複合膜の製造方法では、コート溶液を支持膜表面にコーティングした後、凝固液に接触させて凝固させる。凝固液の接触方法は、凝固液をスプレーノズルなどで霧化して吹きつけ、或いは浴中で直接接触させることで良い。中空糸状に賦形する場合、溶液粘度に合わせて、例えば特開2004−314059号公報に記載の弾性体で構成されるコートノズル、或いは金属、セラミックスなどで構成される円形ノズルを用いてコーティングすることが可能である。またシート状に賦形する場合、例えばTダイから引き出した支持膜にスリットコータでコーティングすることが可能である。またコート溶液と支持膜溶液を3重管状ノズルなどから中空部形成流体と同時に賦形しながら中空糸状に吐出して、非溶媒誘起相分離法などで製膜紡糸しても何ら構わない。
【0027】
コート溶液の溶液粘度は、100Pa・s以上300Pa・s以下であることが好ましい。コート溶液の溶液粘度が100Pa・s以上であるとコート溶液中の溶媒拡散が遅くなり、三次元網目構造の孔が細かく形成し易くなる。また300Pa・s以下であると緻密化による透水性低下を抑制すると共に、コーティング時のズリ応力による糸変形を軽減して、本発明が達成される。なおコーティングに際して、コート溶液の濡れ性不足や剪断応力など支持膜に負荷がかからない程度に、支持膜及びコート溶液を60℃以上120℃以下に加熱することであっても良い。
【0028】
ここで、コート溶液の溶液粘度は、溶液を60℃に保温して回転式デジタル粘度計(型式:PV-II+Pro,米国ブルックフィールド社製)で測定することができる。
【0029】
本発明で用いる凝固液としては、透水性と分離特性など考慮して、上述した良溶媒・貧溶媒と非溶媒との混合液が好ましく用いられる。凝固液の非溶媒濃度は、80%以上であることが好ましく、85%以上であると三次元網目構造の孔を小さく均質的に発現することができるのでさらに好ましく用いられる。凝固浴温度は、非溶媒相分離における拡散速度を制御するために20℃以上80℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは30℃以上60℃以下である。凝固浴温度が20℃以上であると透水性が向上し、80℃以下であると表面細孔径を小さくできるので分離特性を向上させるため、本発明が達成される。
【0030】
本発明に係るポリフッ化ビニリデン系樹脂の複合膜について、以下に説明する。
【0031】
図1は本発明に係る中空糸状複合膜を構成する膜壁断面構造を示す図面代用写真(1000倍)であり、図2は本発明に係る中空糸状複合膜を構成する膜壁最外表面を示す図面代用写真(30000倍)である。
【0032】
これらの複合膜の構造は、溶融粘度3300Pa・s以上のポリフッ化ビニリデン系樹脂を54重量%以上91重量%以下、かつセルロースエステルを9重量%以上46重量%以下含有する三次元網目構造の分離機能層(コート層)と、それに続く球状構造の支持膜とで形成される。ポリフッ化ビニリデン系樹脂が54重量%以上であると分離特性や物理強度が向上し、91重量%以下であると透水性が向上する三次元網目構造を形成する。またセルロースエステルを9重量%以上含有することで耐ファウリング性が向上し、46重量%以下に含有すると耐薬品性が向上する。本発明における複合膜は、球状構造の支持膜に分離機能層が積層されるものであるから、界面では層同士が互いに入り込むことで、アンカー効果が実現される。つまり球状構造の支持膜の場合では、平均直径が大きい球状になると広い間隔で支持膜が接合するために、分離機能層が深く球状に入り組む形状で積層される。一方で球状の平均直径が小さくなると接合間隔が狭くなり、界面で相互に入り組んだ形で浅く構造が形成される。ここで三次元網目構造とは、固形分が三次元的に網目状に広がっている構造をいう。また三次元網目構造は網を形成する固形分に仕切られた細孔およびボイドを有する。また、球状構造とは、多数の球状もしくは略球状の固形分が、直接もしくは筋状に固形分を介して連結している構造のこという。
【0033】
コート層の最外表面の平均孔径は、好ましくは0.01μm以上である。また、最外表面の平均孔径は、好ましくは0.1μ以下、または0.03μm以下である。最外表面の平均孔径が0.01μm以上であると透水性が向上し、0.1μm以下であると分離特性や耐ファウリング性が向上する。ここで、コート層の最外表面の平均孔径は、走査型電子顕微鏡を用いて、複合膜の表面を30000倍、60000倍で画像写真撮影し、任意に選んだ計20カ所の孔の長径と短径を測定した結果を数平均して求めることができる。
【0034】
本発明の製造方法によって形成されるコート層の三次元網目構造が分離機能を果たす平均細孔径は、0.01μm以上0.5μm以下であることが必要であり、好ましくは0.03μm以上0.3μm以下である。平均孔径が0.01μm以上であると膜透過性が向上し、0.5μm以下であるとウイルスなどの補足性が向上する。ここで、コート層中の三次元網目構造の平均孔径は、走査型電子顕微鏡を用いて、複合膜の断面を6000倍、10000倍で画像写真撮影し、コート層中央の任意に選んだ計20カ所の孔の長径と短径を測定した結果を数平均して求めることができる。
【0035】
この場合、本発明の製造方法によって形成されるコート層は、最も小さいポリオウイルスの大きさ(約0.03μm)よりも少し大きい孔径を含む分離機能を果たす三次元網目構造が、ある程度以上の厚みをもって存在することになる。実際には、コート層を形成する三次元網目構造にマクロボイドを内包するものであっても、三次元網目構造がかかる性質を有すれば、より好ましくウイルスなどの除去を行えることから、本発明の製造方法によって形成されるコート層内の三次元網目構造が一定の厚みを有することで、ウイルスより小さい孔径でろ過を行うシービング(篩い分け)ろ過で捕捉できない小さい粒子やウイルスを、さらに深い層の細孔内で捕捉する、所謂デプス(深層)ろ過で捕捉していると考えられる。上記の理由によって、本発明の製造方法によって形成されるコート層の厚さは、10μm以上120μm以下であることが好ましいが、より好ましくは20μm以上100μm以下、さらに好ましくは30μm以上80μm以下である。コート層の厚さが10μm以上であるとウイルス除去性が向上し、厚さ120μm以下であると透過性能が向上する。ここで、コート層の厚さは、走査型電子顕微鏡を用いて、複合膜の断面を1000倍、3000倍で画像写真撮影し、三次元網目構造が観察される範囲の長さを、任意に選んだ計10カ所で測定した結果を数平均して求めることができる。
【0036】
また本発明に係る支持膜は、厚さは60μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは120μm以上450μm以下である。支持膜の厚さが60μm以上であれば外圧による座屈圧力が向上し、500μm以下であると透過性能が向上する。ここで、支持膜の厚さは、走査型電子顕微鏡を用いて、複合膜の断面を100倍、1000倍で画像写真撮影し、球状構造が観察される範囲の長さを、任意に選んだ計10カ所で測定した結果を数平均して求めることができる。
【0037】
さらに、中空糸状であれば、内径が0.1mmφ以上1.6mmφ以下であることが好ましい。
【0038】
また球状構造の平均直径は0.1μm以上5μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上3μm以下である。平均直径が0.1μm以上の球状構造で構成される場合、透過性能が向上する。また平均直径が5μm以下に球状構造で構成される場合、物理的強度が向上する。ここで、球状構造の平均直径は、走査型電子顕微鏡を用いて、複合膜の断面を6000倍で画像写真撮影し、任意に選んだ計20カ所の球状の直径を測定した結果を数平均して求めることができる。
【0039】
本発明の複合膜におけるウイルス除去性能は、膜が捕捉すべき適切な性能を有しているか、また欠損があるかを判定するための非破壊性の試験によって定められる性能である。試験方法としては、例えば決まった大きさの指標菌を培養して、ウイルス原液は指標菌を約1.0×10PFU/mlの濃度を含有する様に蒸留水中で調製し、全ろ過を行う。原液中の菌濃度を分子に、透過液の菌濃度を分母にとり、その比を常用対数で表す。本分離膜のウイルス除去性能は、大きさが約25nmのバクテリオファージMS−2(Bacteriophage MS−2 ATCC 15597−B1)を用いて行うことができる。ウイルス原液の除去性能評価を、例えば中空糸膜の場合では、中空糸2〜4本程度からなる長さ約20cmのガラス製モジュールを作製し、温度約20℃、ろ過差圧約10kPa(外圧)の条件でウイルス原液を送液して全ろ過して透過液を得る。任意のろ過量を設定して行うことができる。また平膜の場合では、例えば膜を直径約43mmに切り出し、円筒のろ過ホルダーにセットして中空糸膜と同様な操作をすることで求めることができる。
【0040】
本発明における純水透過性能は、供給水と透過水を区分する容器(モジュール)内に膜を組み込み、印加した圧力のものとに透過水量を測定することで評価できる。実質的には供給水に微粒子を含まない純水ないしは蒸留水を用いて行う。例えば中空糸膜の場合では、中空糸2〜4本程度からなる長さ約20cmのガラス製モジュールを作製し、温度約20℃、ろ過差圧約10kPa(外圧)の条件で純水を送液して全ろ過して行うことができる。また平膜の場合では、例えば膜を直径約43mmに切り出し、円筒のろ過ホルダーにセットして中空糸膜と同様な操作をすることで求めることができる。
【0041】
本発明における破断強度・破断伸度は、物性試験機を用いて試験長の長さ方向に引っ張った際の荷重−伸びの曲線が示す破断した時の強度・伸度を測定する。これらの測定については、引張試験機((株)ボールドウィン製TENSILON(登録商標)/RTG−1210)を用いて、水で湿潤させた複合膜を試験長50mm、フルスケール5kgの荷重でクロスヘッドスピード50mm/分にて測定し、複合膜を変えて10回実施した破断強力・伸度の測定結果から数平均することによって求めることができる。また破断強度は、破断強力(N)を複合膜の単位断面積(mm)における破断強度(N/mm=Pa)として求めることができる。
【0042】
本発明の複合膜は、コート層の最外表面に細かい孔隙形成と、セルロースエステルによる親水性の効果により、優れた耐汚れ性を示すことも特徴である。耐汚れ性について以下に説明する。一般的な精密ろ過膜や限外ろ過膜を用いた水処理方法では、ろ過工程において被処理水中の濁質成分などを阻止することによって膜面細孔の閉塞が進み、ろ過抵抗が上昇する。このために物理洗浄工程では、膜面付着した濁質成分などを膜細孔から除去するために、透過水側から膜外表面に向けて透過水や圧縮空気などの流体を流す逆圧洗浄を施す。この物理洗浄工程において、阻止した成分の一部が膜から剥離され、ろ過抵抗が下がる。しかしながら膜面で阻止した全ての成分を完全に除去することは難しく、膜に残る付着成分によってろ過抵抗は運転の継続と共に上昇を続けることになる。最終的には化学薬品を用いた薬液洗浄を施すが、ろ過抵抗が回復しない場合には膜モジュール自体を交換することになる。このような長期的なろ過抵抗の上昇(度)を抑え、定流量(安定)運転を可能にするには、1回のろ過工程におけるろ過抵抗の上昇を抑制すると共に、物理洗浄工程を含む連続運転におけるろ過抵抗の上昇を抑制することが求められる。つまり、長期の安定運転には物理洗浄の回復性を含んだろ過抵抗値上昇の程度を下げることが重要となる。連続運転におけるろ過抵抗の上昇は、ろ過抵抗上昇度として以下のような手法で定量的に表される。
【0043】
ろ過工程では、ろ過圧力100kPaで透過水量0.065m/mまで実施し、次いで逆圧洗浄工程では、逆洗圧力150kPaで0.0025m/mの水を透過側から膜外表面に向けて流すことを行い、再度、ろ過工程と逆圧洗浄工程をサイクルで30回繰り返す。総ろ過水量を横軸に、算出したろ過抵抗を縦軸にプロットする。ろ過工程において一定時間あたりに得られる透過水量を記録し、ろ過圧力100kPaを、その透過水量で除することにより、その時におけるろ過抵抗値を求める。このプロットにおいて、11回目〜30回目のろ過工程開始時のろ過抵抗20点を結んだ直線の傾きをろ過抵抗上昇度とする。ただし、20点が直線上に乗らない場合には、線形近似で直線の傾きを求めてろ過抵抗上昇度とする。通常、ろ過工程と逆圧洗浄工程を繰り返す膜ろ過運転において、ろ過抵抗上昇度が小さいほど耐汚れ性に優れ、長期的に安定運転できる優れた膜と云える。本発明の複合膜において、前記手法によって算出されるろ過抵抗上昇度は、2×1012/m以下が好ましく、1×1012/m以下がより好ましい。
【実施例】
【0044】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。ここで本発明の複合膜に関する物性値、形態は以下の方法で測定した。
【0045】
(1)溶融粘度
溶融粘度は、ASTM D3835/232℃に剪断速度100秒−1の条件下で測定した。
【0046】
(2)溶液粘度
溶液粘度は、溶液を60℃に保温して回転式デジタル粘度計(型式:PV-II+Pro,米国ブルックフィールド社製)で測定した。
【0047】
(3)ウイルス除去性能
ウイルス原液は、大きさが約25nmのバクテリオファージMS−2(Bacteriophage MS−2 ATCC 15597−B1)を約1.0×10PFU/mlの濃度を含有する様に蒸留水中で調製した。ここで蒸留水は純水製造装置オートスチル(ヤマト科学製)の蒸留水を121℃で20分間高圧蒸気滅菌したものを用いた。ウイルス原液の除去性能評価は、中空糸膜2〜4本程度からなる長さ約20cmのガラス製ミニモジュールを作製し、温度約20℃、ろ過差圧約10kPa(外圧)の条件でウイルス原液を送液して、全ろ過した。ろ過液の採取は、初期とサンプルの膜面積換算で総ろ過水量が約0.13m/mに達した時点で2回目のろ過液を採取した。まず、ろ過した初期のろ過の約10mlを破棄した後、ろ過液を約5ml採取し、引き続き、サンプルの膜面積換算で総ろ過水量が約0.13m/mに達した時点のろ過液を約5ml採取した。これらのろ過液を0〜1000倍に蒸留水で希釈した。Overlay agar assay、Standard Method 9211−D(APHA、1998、Standard methods for the examination of water and wastewater, 18th ed.)の方法に基づいて、希釈した透過液1mlを検定用シャーレに接種し、プラックを計数することによってバクテリオファージMS−2の濃度を求めた。
【0048】
ウイルスの除去性能は、初期ろ過液、及び総ろ過水量が約0.13m/mに達した時点のろ過液を、それぞれ評価サンプル1(初期ろ過液)、及び評価サンプル2(総ろ過水量が約0.13m/mに達した時点のろ過液)として対数で表した。例えば2logとは2log10のことであり、残存濃度が100分の1であることを意味する。また透過液中にプラックがまったく計測されない場合、>7logとした。
【0049】
(4)純水透過性能
透水性能は、複合膜2〜4本程度からなる長さ約20mmのガラス製ミニモジュールを作製し、温度25℃、ろ過差圧16kPa(外圧)の条件で蒸留水を送液して全ろ過を行い、一定時間の透過水量(m)を測定して得た値を、単位時間(hr)、単位有効膜面積(m)、50kPaにおける値に換算して算出した。
【0050】
(5)破断強度・伸度
引張試験機((株)ボールドウィン製TENSILON(登録商標)/RTG−1210)を用いて、水で湿潤させた複合膜を試験長50mm、フルスケール5kgの荷重でクロスヘッドスピード50mm/分にて測定し、複合膜を変えて10回実施した破断強力・伸度の測定結果から数平均することで求めた。また破断強度は、破断強力(N)を複合膜の単位断面積(mm)における破断強度(N/mm=Pa)として求めた。
【0051】
(6)コート層の厚さ
走査型電子顕微鏡を用いて、複合膜の断面を3000倍で画像写真撮影し、三次元網目構造が観察される範囲の長さを、任意に選んだ計10カ所で測定した結果を数平均して求めた。
【0052】
(7)支持膜の厚さ
走査型電子顕微鏡を用いて、複合膜の断面を100倍、1000倍で画像写真撮影し、球状構造が観察される範囲の長さを、任意に選んだ計10カ所で測定した結果を数平均して求めた。
【0053】
(8)コート層外表面の平均孔径
走査型電子顕微鏡を用いて、複合膜の表面を30000倍、60000倍で画像写真撮影し、任意に選んだ計20カ所の孔の長径と短径を測定した結果を数平均して求めた。
【0054】
(9)三次元網目構造の平均孔径
走査型電子顕微鏡を用いて、複合膜の断面を6000倍、10000倍で画像写真撮影し、コート層中央付近で任意に選んだ計20カ所の孔の長径と短径を測定した結果を数平均して求めた。
【0055】
(10)球状構造の平均直径
走査型電子顕微鏡を用いて、複合膜の断面を6000倍で画像写真撮影し、任意に選んだ計20カ所の球状の長径と短径を測定した結果を数平均して求めた。
【0056】
(11)複合膜(中空糸膜)の平均外径/内径
走査型電子顕微鏡を用いて、中空糸状の複合膜の断面を60倍、100倍で画像写真撮影し、任意に選んだ計10カ所の外径及内径の長径と短径を測定した結果を数平均して求めた。
【0057】
(12)ろ過抵抗上昇度
中空糸膜6本からなる長さ約15cmの中空糸膜の両端部が開口したガラス製ミニモジュールを作製した(図4)。ステンレス製加圧タンク(ADVANTEC PRESSURE VESSEL DV−10、容量10L)に原水を入れ(以下に原水タンクと云う)、ステンレス製加圧タンク(ADVANTEC PRESSURE VESSEL DV−40、容量40L))に純水製造装置オートスチル(ヤマト科学製)の蒸留水を121℃で20分間高圧蒸気滅菌した蒸留水を入れた(以下に蒸留水タンクと云う)。なお原水には、琵琶湖水(濁度1.0NTU以下,TOC(全有機炭素)1.2mg/L,カルシウム濃度15mg/L,ケイ素濃度0.5,マンガン濃度0.01mg/L以下,鉄濃度0.01mg/以下)を用いた。
【0058】
評価装置の構成は、ガラス製ミニモジュールのA、Dの端部に接続型2方コック(PTFE製)、B、Cの端部に接続型3方コック(PTFE製)を取り付けた。ガラス製ミニモジュールのB端部の3方コックと原水タンク供給口を内径φ6mmのPTFEチューブで接続し、原水供給ラインとした。また同様のチューブでA,C端部のコックと蒸留水タンク供給口に接続して、蒸留水供給ラインとした。まずA端部とC端部のコックを閉止し、原水タンク内に100kPaに調整した圧縮空気を印加し、B端部とD端部のコックを開くことで原水タンクからガラス製ミニモジュール内に原水(湖水)を供給して外圧全ろ過を行うろ過工程とした。
【0059】
透過水の重量をパソコンに接続した電子天秤(AND HF−6000)で5秒毎に測定し、連続記録プログラムAND RsCom ver.2.40を用いて記録した。本実験で得られるデータは5秒あたりの透過水重量(g)から、ろ過抵抗を以下に示す式を用いて算出した。
【0060】
ろ過抵抗(1/m) =ろ過圧力(kPa)×10 ×5×膜面積(m)×10/(粘度(Pa・s)×(5秒あたりの透過水重量)×密度(g/cm))
透過水が流量0.00025(m/m)になった時点で、ガラス製ミニモジュールのB端部の原水ライン3方コック、及びD端部の2方コックを閉として原水供給を停止した。引き続き、蒸留水タンク内に150kPaに調整した圧縮空気を印加し、逆洗水としてA端部の2方コックを開いて蒸留水を中空糸内部に流し、C端部の3方コックを排出側に開いて逆洗排水が10mlになるまで系外に流して逆洗工程とした。以上のろ過工程と逆洗工程を一つの操作として、設置モジュール対して30回連続して実施し、総ろ過水量を横軸に、算出したろ過抵抗を縦軸にプロットした。
【0061】
ここでプロットの開始は、各回のろ過開始30秒後からとした。また、ろ過抵抗の上昇に伴い透水量が減少するため、5秒ごとの増加量の絶対値が減少する。ろ過抵抗は増加量から前記式に従って算出するため、増加量が減少するとそのばらつきが算出されるろ過抵抗に与える影響が大きくなる。従って、透水量の減少が著しい場合には、適宜作成したグラフの移動平均近似をとってグラフを修正した。
【0062】
ろ過実験の結果から作成した総ろ過水量−ろ過抵抗のグラフ、場合によっては前記グラフの移動平均近似をとったグラフにおいて、総ろ過水量とろ過抵抗の関係から、11〜30回目のろ過工程開始時のろ過抵抗20点を結んだ直線の傾きをろ過抵抗上昇度とした。ただし、20点が直線上に乗らない場合には、線形近似で直線の傾きを求めてろ過抵抗上昇度(×1012/m)とした。
【0063】
<実施例1>
重量平均分子量42万のフッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製、KFポリマーT#1300)38重量%とγ−ブチロラクトン(三菱化学株式会社製:以下同じ)62重量%を150℃で溶解して支持膜用溶液を得た。また溶融粘度測定値が4700Pa・sのフッ化ビニリデンホモポリマー(アルケマ社製,kynar(登録商標)HSV900,カタログ記載の溶融粘度3300〜5500Pa・s)14.5重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435−755:三酢酸セルロース、CA398−3:二酢酸セルロース)4重量%、N−メチル−2−ピロリドンを81.5重量%の割合として温度150℃で溶解し、コート溶液を得た。この支持膜用溶液を二重管状紡糸ノズルの外側スリットから、γ−ブチロラクトン85重量%水溶液を二重管状紡糸ノズルの中心パイプから共に同心円状に押し出し、凝固温度が10℃のγ−ブチロラクトン85重量%水溶液中で固化させた後、1.5倍の延伸工程、脱溶媒工程、乾燥工程を経て支持膜を得た。この支持膜をコートノズル内に導入し、一方で得られたコート溶液をコートノズルに供給して支持膜をコーティングしながら引き出し、その後25℃の水中で凝固させる工程、脱溶媒工程を経て中空糸状の複合膜(以後、複合中空糸膜と呼ぶ。)を得た。
【0064】
得られた複合中空糸膜の構造形態は、外径が1420μm、内径が754μm、コート層の平均厚さが75μmで一部にマクロボイドを内包していた。コート層の最外表面の平均孔径が0.03μm、コート層の三次元網目構造の平均孔径が0.5μm、支持膜の球状(構造)の平均直径が2.6μmであった。純水透過性能が0.26m/m/hr、ウイルス除去性能は、初期値で>7log、総ろ過水量が約0.13m/mに達した時点の値で>7logのウイルスが洩れない除去性能を示した。糸物性値は破断強度が13.4MPa、破断伸度51%であり、琵琶湖水におけるろ過抵抗上昇度が0.54×1012/mを示す、耐汚れ性に優れた複合中空糸膜であった。なお評価結果を表1にまとめた。
【0065】
<実施例2>
実施例1と同様の支持膜溶液を用いて、製膜紡糸した支持膜をコートノズル内に導入し、一方で溶融粘度測定値が4700Pa・sのフッ化ビニリデンホモポリマー(アルケマ社製,kynar(登録商標)HSV900,カタログ記載の溶融粘度3300〜5500Pa・s)16重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435−75S:三酢酸セルロース、CA398−3:二酢酸セルロース)4.5重量%、N−メチル−2−ピロリドンを79.5重量%の割合として温度150℃で溶解したコート溶液を、コートノズルに供給して支持膜をコーティングしながら引き出し、その後35℃の2%NMP水溶液中で凝固させる工程、脱溶媒工程を経て複合中空糸膜を得た。
【0066】
得られた複合中空糸膜の構造形態は、外径が1390μm、内径が750μm、コート層の平均厚さが60μm、コート層の最外表面の平均孔径が0.03μm、コート層の三次元網目構造の平均孔径が0.4μm、支持膜の球状(構造)の平均直径が2.6μmであった。純水透過性能が0.25m/m/hr、ウイルス除去性能は、初期値で>7log、総ろ過水量が約0.13m/mに達した時点の値で>7logのウイルスが洩れない除去性能を示した。糸物性値は、破断強度が14.0MPa、破断伸度45%であり、琵琶湖水におけるろ過抵抗上昇度は、0.28×1012/mを示す、耐汚れ性に優れた複合中空糸膜であった。なお評価結果を表1にまとめた。
【0067】
<実施例3>
実施例1と同様の支持膜溶液を用いて、製膜紡糸した支持膜をコートノズル内に導入し、一方で溶融粘度測定値が4700Pa・sのフッ化ビニリデンホモポリマー(アルケマ社製,kynar(登録商標)HSV900,カタログ記載の溶融粘度3300〜5500Pa・s)18重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435−75S:三酢酸セルロース、CA398−3:二酢酸セルロース)5重量%、N−メチル−2−ピロリドンを77重量%の割合として温度150℃で溶解し、コート溶液を得た。実施例1と同様の支持膜用溶液を用いて支持膜を得た。この支持膜をコートノズル内に供給し、一方で得られたコート溶液を供給して支持膜をコーティングしながら引き出し、その後35℃の2%NMP水溶液中で凝固させる工程、脱溶媒工程を経て複合中空糸膜を得た。
【0068】
得られた複合中空糸膜の構造形態は、外径が1410μm、内径が756μm、コート層の平均厚さが66μm、コート層の最外表面の平均孔径が0.02μm、三次元網目構造の平均孔径が0.4μm、支持膜の球状(構造)の平均直径が2.7μmであった。純水透過性能が0.20m/m/hr、ウイルス除去性能は、ウイルス除去率は、初期値で>7log、総ろ過水量が約0.13m/mに達した時点の値で>7logのウイルスが洩れない除去性能を示した。糸物性値は、破断強度が14.6Pa、破断伸度40%であり、琵琶湖水におけるろ過抵抗上昇度は、0.44×1012/mを示す、耐汚れ性に優れた複合中空糸膜であった。なお評価結果を表1にまとめた。
【0069】
<実施例4>
実施例1と同様の支持膜溶液を用いて、製膜紡糸した支持膜をコートノズル内に導入し、一方で溶融粘度測定値が3900Pa・sのフッ化ビニリデンホモポリマー(アルケマ社製,kynar(登録商標)HSV900,カタログ記載の溶融粘度3300〜5500Pa・s)16重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435−75S:三酢酸セルロース、CA398−3:二酢酸セルロース)4.5重量%、N−メチル−2−ピロリドンを79.5重量%の割合として温度150℃で溶解したコート溶液をコートノズルに供給して、支持膜をコーティングしながら引き出し、その後35℃の水中で凝固させる工程、脱溶媒工程を経て複合中空糸膜を得た。
【0070】
得られた複合中空糸膜の構造形態は、外径が1402μm、内径が755μm、コート層の平均厚さが70μm、コート層の最外表面の平均孔径が0.03μm、コート層の三次元網目構造の平均孔径が0.4μm、支持膜の球状(構造)の平均直径が2.6μmであった。純水透過性能が0.24m/m/hr、ウイルス除去性能は、初期値で>7log、総ろ過水量が約0.13m/mに達した時点の値で>7logのウイルスが洩れない除去性能を示した。糸物性値は、破断強度が13.0MPa、破断伸度43%であり、琵琶湖水におけるろ過抵抗上昇度は、0.88×1012/mを示した。なお評価結果を表1にまとめた。
【0071】
<実施例5>
重量平均分子量42万のフッ化ビニリデンホモポリマー32重量%および四フッ化エチレンとフッ化ビニリデンの共重合体(アルケマ社製、Kynar(登録商標)7201)6重量%にγ−ブチロラクトン62重量%を150℃で溶解して支持膜用溶液を得た。また溶融粘度測定値が4700Pa・sのフッ化ビニリデンホモポリマー14.5重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435−755:三酢酸セルロース、CA398−3:二酢酸セルロース)4重量%、N−メチル−2−ピロリドンを81.5重量%の割合として温度150℃で溶解し、コート溶液を得た。この支持膜用溶液を二重管状紡糸ノズルの外側スリットから、γ−ブチロラクトン88重量%水溶液を二重管状紡糸ノズルの中心パイプから共に同心円状に押し出し、凝固温度が10℃のγ−ブチロラクトン88重量%水溶液中で固化させた後、1.5倍の延伸工程、脱溶媒工程、乾燥工程を経て支持膜を得た。この支持膜をコートノズル内に導入し、一方で得られたコート溶液をコートノズルに供給して支持膜をコーティングしながら引き出し、その後25℃の水中で凝固させる工程、脱溶媒工程を経て中空糸状の複合膜を得た。
【0072】
得られた複合中空糸膜の構造形態は、外径が1390μm、内径が740μm、コート層の平均厚さが48μmで一部にマクロボイドを内包していた。コート層の最外表面の平均孔径が0.02μm、三次元網目構造の平均孔径が0.4μm、支持膜の球状(構造)の平均直径が2.5μmであって、純水透過性能が0.36m/m/hr、ウイルス除去性能は、初期値で>7log、総ろ過水量が約0.13m/mに達した時点の値で6.6logの高いウイルス除去性能を示した。糸物性値は、破断強度が9.2MPa、破断伸度43%であり、琵琶湖水におけるろ過抵抗上昇度は、1.3×1012/mを示した。なお評価結果を表1にまとめた。
【0073】
<比較例1>
実施例1と同様の支持膜溶液を用いて、製膜紡糸した支持膜をコートノズル内に導入し、一方で溶融粘度測定値が2700Pa・sのフッ化ビニリデンホモポリマー(アルケマ社製,kynar(登録商標)760、カタログ記載の溶融粘度2300〜2900Pa・s)16重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435−75S:三酢酸セルロース、CA398−3:二酢酸セルロース)4重量%、N−メチル−2−ピロリドンを82重量%の割合として温度140℃で溶解したコート溶液をコートノズルに供給して支持膜をコーティングしながら引き出し、その後35℃の水中で凝固させる工程、脱溶媒工程を経て複合中空糸膜を得た。
【0074】
得られた複合中空糸膜の構造形態は、外径が1420μm、内径が760μm、コート層の平均厚さが56μm、コート層の最外表面の平均孔径が0.05μm、コート層の三次元網目構造の平均孔径が0.6μm、支持膜の球状(構造)の平均直径が2.6μmであった。純水透過性能が0.44m/m/hr、ウイルス除去性能は、初期値で4.2logの低い除去性能を示した。糸物性値は、破断強度が10.2MPa、破断伸度38%であり、琵琶湖水におけるろ過抵抗上昇度は、0.68×1012/mを示した。なお評価結果を表1にまとめた。
【0075】
<比較例2>
実施例1と同様の支持膜溶液を用いて、製膜紡糸した支持膜をコートノズル内に導入し、一方で溶融粘度測定値が4700Pa・sのフッ化ビニリデンホモポリマー(アルケマ社製,kynar(登録商標)HSV900、カタログ記載の溶融粘度3300〜5500Pa・s)12重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435−75S:三酢酸セルロース、CA398−3:二酢酸セルロース)7.2重量%、N−メチル−2−ピロリドンを80.8重量%の割合として温度140℃で溶解したコート溶液をコートノズルに供給して、支持膜をコーティングしながら引き出し、その後35℃の水中で凝固させる工程、脱溶媒工程を経て複合中空糸膜を得た。
【0076】
得られた複合中空糸膜の構造形態は、外径が1408μm、内径が752μm、コート層の平均厚さが46μm、コート層の最外表面の平均孔径が0.06μm、コート層の三次元網目構造の平均孔径が0.8μm、支持膜の球状(構造)の平均直径が2.6μmであった。純水透過性能が0.24m/m/hr、ウイルス除去性能は、初期値で3.2logの低い除去性能を示した。糸物性値は、破断強度が9.2MPa、破断伸度38%であり、琵琶湖水におけるろ過抵抗上昇度は、0.55×1012/mを示した。なお評価結果を表1にまとめた。
【0077】
<比較例3>
実施例1と同様の支持膜溶液を用いて、製膜紡糸した支持膜をコートノズル内に導入し、一方で溶融粘度測定値が4700Pa・sのフッ化ビニリデンホモポリマー(アルケマ社製,kynar(登録商標)HSV900,カタログ記載の溶融粘度3300〜5500Pa・s)18重量%、N−メチル−2−ピロリドンを82重量%の割合として温度150℃で溶解したコート溶液をコートノズルに供給して支持膜をコーティングしながら引き出し、その後35℃の水中で凝固させる工程、脱溶媒工程を経て複合中空糸膜を得た。
【0078】
得られた複合中空糸膜の構造形態は、外径が1430μm、内径が756μm、コート層の平均厚さが80μm、コート層の最外表面の平均孔径が0.04μm、コート層の三次元網目構造の平均孔径が0.6μm、支持膜の球状(構造)の平均直径が2.6μmであった。純水透過性能が0.24m/m/hr、ウイルス除去性能は、初期値で4.2logの低い除去性能を示した。糸物性値は、破断強度が14.2MPa、破断伸度68%であり、琵琶湖水におけるろ過抵抗上昇度は、2.3×1012/mを示した。なお評価結果を表1にまとめた。
【0079】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば簡便なコーティング方法で、支持膜上に高いウイルス除去性能、かつ耐ファウリング性を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂の分離機能層を形成する複合膜を製造する方法を提供できる。これにより水処理用途に使用した場合、透過水の水質向上と長期再生使用が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持膜と、セルロースエステルを9重量%以上46重量%以下、かつ溶融粘度が3300Pa・s以上を含有するポリフッ化ビニリデン系樹脂で前記支持膜上に形成されるコート層とを備え、
該コート層の最外表面孔径が平均0.01μm以上0.1μm以下であり、コート層内に平均孔径0.01μm以上0.5μm以下、かつ厚さ10μm以上120μm以下の三次元網目構造が形成されていることを特徴とする複合膜。
【請求項2】
溶融粘度3300Pa・s以上のポリフッ化ビニリデン系樹脂を14重量%以上20重量%以下、かつセルロースエステルを2重量%以上12重量%以下の範囲で含有するコート溶液を、支持膜表面にコーティングした後、凝固させることで、該支持膜に分離機能層を形成することを特徴とする複合膜の製造方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−187575(P2012−187575A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−38366(P2012−38366)
【出願日】平成24年2月24日(2012.2.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】