説明

複合荷電粒子ビーム装置

【課題】直交に配置された2つの荷電粒子ビーム鏡筒を有する装置において、試料ステージ移動の操作性向上を図る。
【解決手段】集束イオンビーム鏡筒4と、それと直交する電子ビーム鏡筒5と、試料11を移動させる試料ステージ2と、試料11を観察する光学顕微鏡14と、集束イオンビーム像及び電子ビーム像並びに光学顕微鏡像を表示可能な表示部9,10と、各像の座標系に合わせて試料ステージ2を移動させるステージ制御部3と、を有する複合荷電粒子ビーム装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビームで加工した試料を荷電粒子顕微鏡で観察する複合荷電粒子ビーム装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、集束イオンビーム装置は、試料の断面加工観察や電子顕微鏡観察用試料の作製などに使用されている。特に電子ビーム装置を兼ね備えた複合荷電粒子ビーム装置は、集束イオンビームで、加工中もしくは加工後の断面をその場で電子ビームにより観察することが可能であるため、連続断面観察や試料作製に広く使用されている。
【0003】
一般的な複合荷電粒子ビーム装置では、集束イオンビームと電子ビームの入射方向は90°以下で配置されており、加工した断面を斜め方向から電子ビームで覗き込む形態をとっている。近年では、複合荷電粒子ビーム装置を用いて、断面加工とその連続断面観察画像を用いて得られた画像を3次元画像に再構築した3次元解析技術が幅広い分野で使用されている。
【0004】
しかし、従来の複合荷電粒子ビーム装置では、加工した断面を90°以下の方向から観察を行っているため、斜め方向からの観察像を平面画像に補正する必要がある。また、観察部位の微細化に伴い、加工中の試料を走査透過電子顕微鏡により観察する要求も高まっている。
【0005】
このようなニーズに応えるものの一つとして、電子ビームと集束イオンビームを直交に配置した複合荷電粒子ビーム装置を用いた技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
このように構成された装置によれば、試料ステージを動かすことなく、加工した断面を垂直方向により観察を行うことが可能となった。また、電子ビームの入射方向に透過電子検出器を配置して電子顕微鏡用薄膜試料の膜厚モニタリングや走査透過電子顕微鏡像のリアルタイム取得が可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−231720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の複合荷電粒子ビーム装置の場合、イオンビームと電子ビームは同じ面(例えば、試料表面)内を観察しているため、各々のビームで得られる観察像の方向とステージ駆動方向は一致している。一方、二つのビームを直交に配置した複合荷電粒子ビーム装置においては、各々のビームから得られる観察像は、直交する異なる面(例えば、試料表面と側面)を表示しているため、各々の画像の縦横の方向とステージの軸の動作方向は一致していない。そのため、二つのビームを直交に配置した複合荷電粒子ビーム装置では、作業者が集束イオンビームもしくは電子ビームの観察像を見て試料の加工観察位置の調整を行う際、誤動作を招きやすいことが課題であった。
【0009】
本発明は、直交に配置された2つの荷電粒子ビームを有する装置の試料ステージを、操作性良く操作可能な複合荷電粒子ビーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置は、集束イオンビーム鏡筒と、集束イオンビーム鏡筒に対し略直角に配置された電子ビーム鏡筒と、試料を移動させる試料ステージと、試料から発生する二次粒子を検出する検出器と、検出器の検出信号から集束イオンビーム像及び電子ビーム像を形成する観察像形成部と、試料を観察する光学顕微鏡と、集束イオンビーム像及び電子ビーム像並びに光学顕微鏡像を表示可能な表示部と、表示部に表示された各像の座標系に合わせて試料ステージを移動させるステージ制御部と、を有する。
これにより、異なる種類の観察像の座標系で指定した試料ステージの移動方向に対し、一つの試料ステージをそれぞれの座標系に対応した方向に移動させることが可能である。
【0011】
また、本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置の表示部は、光学顕微鏡像に試料ステージの駆動軸の座標系を表示する。
また、本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置のステージ制御部は、集束イオンビーム像または電子ビーム像上で指定した位置が指定した集束イオンビーム像または電子ビーム像の中心に表示されるように試料ステージを移動させる。
また、本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置のステージ制御部は、集束イオンビーム鏡筒と電子ビーム鏡筒のビーム照射軸を中心に試料ステージを回転させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置によれば、直交に配置された2つの荷電粒子ビームを有する複合荷電粒子ビーム装置において、作業者が集束イオンビームもしくは電子ビームの観察像を見て試料の加工観察位置の調整を行う際に、各々の観察像の座標系に合わせてステージ駆動をおこなうことができるため、誤操作による不具合を招くことなく、試料の位置調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る複合荷電粒子ビーム装置の構成図である。
【図2】本発明の実施形態で集束イオンビーム観察像からステージを動作する際のステージ動作の概略図である。
【図3】本発明の実施形態で電子ビーム観察像からステージを動作する際のステージ動作の概略図である。
【図4】本発明の実施形態で集束イオンビームに対して略平行な回転軸を有する場合のステージ動作の概略図である。
【図5】本発明の実施形態に係る光学顕微鏡像である。
【図6】本発明の実施形態に係る試料ステージの制御画面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置の実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の複合荷電粒子ビーム装置は、試料室1内で試料11を移動させる試料ステージ2を備える。また、試料11に電子ビームを照射する電子ビーム鏡筒5と、集束イオンビームを照射する集束イオンビーム鏡筒4を備え、電子ビーム鏡筒5と集束イオンビーム鏡筒4は、ビーム照射軸が互いに略垂直に交差するように配置されている。
【0015】
集束イオンビームもしくは電子ビームを照射することにより試料11から発生する粒子を検出器6により検出し、像形成部12で得られた粒子を時系列に処理することで観察像を形成する。なお、試料11から発生する粒子とは、荷電粒子ビームを照射したことにより試料11から発生する電子、イオン、X線などの二次粒子、または、照射したビーム自身が試料11により散乱や吸収を受けた一次粒子などである。具体的には、電子ビームやイオンビームを試料に照射し発生する二次電子から二次電子像として集束イオンビーム像や電子ビーム像を形成する。また、電子ビームを試料に照射し発生する反射電子から反射電子像を形成する。また、電子ビームを試料に照射し発生する散乱電子からEBSD像を形成する。また、電子ビームを試料に照射し発生するX線からEDS像を形成する。また、電子ビームを試料に照射し、試料を透過した透過電子から透過電子像を形成する。
【0016】
形成された集束イオンビーム像は第一の表示部9に、と電子ビーム像は第二の表示部10に表示される。ここで、一つの表示部に集束イオンビーム像と電子ビーム像を表示しても良い。
また、入力部15から装置操作の指示を入力すると、制御部13から集束イオンビーム鏡筒4、電子ビーム鏡筒5、試料ステージ2を制御するステージ制御部3、像形成部12に制御信号を送信し、複合荷電粒子ビーム装置を制御する。
【0017】
ステージ制御部3は、試料ステージ2を移動方向の座標系を観察像の座標系に合わせるように変更し、前記試料ステージ2の移動を制御する。ここで、試料ステージ2を移動方向の座標系の変更について説明する。
【0018】
図6は試料ステージ2の制御画面である。制御画面を第一の表示部9または第二の表示部10の一部に表示する。作業者は試料ステージ2の移動に用いたい観察像の座標系を制御画面で選択する。ここでは、FIBボタン61で集束イオンビーム像を、SEMボタン62で電子ビーム像を、OMボタン63で光学顕微鏡像を選択することができる。ステージ制御部3は選択された観察像の種類に合わせて試料ステージ2の移動方向の座標系を変更する。
【0019】
そして、変更した試料ステージ2の移動方向の座標系において、X方向の移動ボタン65、67、Y方向の移動ボタン64、66、Z方向の移動ボタン68、69で、試料ステージ2を移動させる。これにより、選択した観察像の座標系で試料ステージ2を移動させることができる。また、試料ステージ2の傾斜は傾斜ボタン70、71で、回転は回転ボタン72,73で行うことができる。
【0020】
次に、表示部に表示された観察像と試料ステージ2の移動方向の関係について説明する。
第一の表示部9、第二の表示部10に表示する像は、ビーム照射方向に対して略垂直な面の横方向をX軸方向、縦方向をY軸方向、また、ビーム照射方向と平行な方向をZ軸方向として表示する。
【0021】
集束イオンビーム像のX、Y、Z方向(それぞれ、集束イオンビーム像のX軸方向9X、Y軸方向9Y、Z軸方向:図示せず)は、それぞれ試料ステージの横方向駆動軸(X軸)2X、試料ステージの高さ方向駆動軸(Z軸)2Z、試料ステージの縦方向駆動軸(Y軸)2Yに相当している。
【0022】
図2に示すように、左図の集束イオンビーム像で集束イオンビーム像のX軸方向9X、Y軸方向9Yに試料ステージ2を移動させる場合、作業者が第一の表示部9を見ながら入力部15に集束イオンビーム像のX軸方向9X、Y軸方向9Yへのステージ移動の指示を入力すると、その指示を受けステージ制御部3は、右図の試料ステージ2に試料ステージの横方向駆動軸(X軸)2X、試料ステージの高さ方向駆動軸(Z軸)2Zの駆動命令を出し、試料ステージの横方向駆動軸(X軸)2X、試料ステージの高さ方向駆動軸(Z軸)2Zの方向に試料ステージ2を移動させる。これにより、集束イオンビーム観察像では、集束イオンビーム像のX軸方向9X、Y軸方向9Yへ試料11が移動する。
【0023】
一方、電子ビーム像のX、Y、Z方向(それぞれ、電子ビーム像のX軸方向10X、Y軸方向10Y、Z軸方向:図示せず)は、それぞれ試料ステージの横方向駆動軸(X軸)2X、試料ステージの縦方向駆動軸(Y軸)2Y、試料ステージの高さ方向駆動軸(Z軸)2Zに相当する。
【0024】
図3に示すように、上図の電子ビーム像で電子ビーム像のX軸方向10X、Y軸方向10Yに試料ステージ2を移動させる場合、作業者が第二の表示部10を見ながら入力部15に電子ビーム像のX軸方向10X、Y軸方向10Yへのステージ移動の指示を入力と、その指示を受けたステージ制御部3は、下図の試料ステージ2に試料ステージの横方向駆動軸(X軸)2X、試料ステージの縦方向駆動軸(Y軸)2Yの駆動命令を出す。これにより、試料ステージ2は試料ステージの横方向駆動軸(X軸)2X、試料ステージの縦方向駆動軸(Y軸)2Y方向に駆動し、電子ビーム観察像では、電子ビーム像のX軸方向10X、Y軸方向10Yへ試料11が移動する。
【0025】
これは、Z方向への移動を指示するときも同様であり、集束イオンビーム画像で集束イオンビーム像のZ軸方向9Zの移動指示をした場合には、試料ステージ2の試料ステージの縦方向駆動軸(Y軸)2Yを駆動し、電子ビーム像で電子ビーム像のZ軸方向10Zの移動指示を行った場合には、試料ステージの高さ方向駆動軸(Z軸)2Zを駆動させる。
【0026】
観察位置の移動は、上記のように移動方向の指示だけではなく、観察像内の特定の位置を指定して、指定位置が、指定を行った観察像の中央に来るように、試料ステージ2を移動させる場合にも、ステージ制御部3は各々の観察像の座標系に合わせてステージ軸を駆動させる。
【0027】
また、試料ステージ2が、一方のビーム照射方向に対して略平行な方向に回転軸(R軸)を有する場合、一方のビームに対しては試料ステージ2が回転動作を行うのに対して、もう一方のビームに対しては、試料ステージ2は傾斜動作を行うことになる。図4に示すように、本実施形態の複合荷電粒子ビーム装置において、イオンビーム照射方向に対して、略平行な方向に回転駆動軸を有する場合の動作を示す。ここで、図4の左下図は集束イオンビーム像、右上図は電子ビーム像、右下図は試料ステージ2を示している。
【0028】
試料ステージの集束イオンビーム照射方向に平行な回転方向駆動軸2Rは、第一の表示部9で集束イオンビームに平行な回転軸を中心に時計回りの回転方向9Rに回転移動の指示がなされた際に駆動する。一方、第二の表示部10では、電子ビームに略垂直な回転軸を中心に時計回りの回転方向10Tに傾斜移動の指示がなされた際に試料ステージの集束イオンビーム照射方向に平行な回転方向駆動軸2Rは、駆動する。
【0029】
次に、光学顕微鏡像と試料と試料ステージ2の移動方向の関係について説明する。本実施形態に係る複合荷電粒子ビーム装置は、試料室1内の集束イオンビーム鏡筒4と電子ビーム鏡筒5の先端と試料ステージ2付近を光学顕微鏡観察できるように光学顕微鏡14を備えている。光学顕微鏡14は像形成部12に接続され、第一の表示部9または第二の表示部10に光学顕微鏡像を表示する。
【0030】
図5は、光学顕微鏡14で観察した光学顕微鏡像である。集束イオンビーム像や電子ビーム像に比べ低倍率の観察像であるので、試料室1内の状況を把握しやすい。作業者が光学顕微鏡像を見ながら試料ステージ2を移動させる場合、ステージ制御部3は試料ステージ2の駆動軸の座標系で移動を制御する。
【0031】
また、光学顕微鏡像には、試料ステージ2の駆動軸の座標系を表示する。これにより試料ステージ2試料ステージ2の駆動方向を把握しながら低倍率の光学顕微鏡像で試料室1内の状況を観察することができるので、試料11を鏡筒先端に衝突させることなく試料ステージ2の移動作業を安全に行うことができる。
上記の説明では電子ビーム像を用いたが、電子ビーム像の代わりに反射電子像、透過電子像、EDS像、またはEBSD像を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0032】
1…試料室
2…試料ステージ
3…ステージ制御部
4…集束イオンビーム鏡筒
5…電子ビーム鏡筒
6…検出器
9…第一の表示部
10…第二の表示部
11…試料
2X…試料ステージの横方向駆動軸(X軸)
2Y…試料ステージの縦方向駆動軸(Y軸)
2Z…試料ステージの高さ方向駆動軸(Z軸)
9X…集束イオンビーム像のX軸方向
9Y…集束イオンビーム像のY軸方向
10X…電子ビーム像のX軸方向
10Y…電子ビーム像のY軸方向
2R…試料ステージの集束イオンビーム照射方向に平行な回転方向駆動軸
9R…集束イオンビームに平行な回転軸を中心に時計回りの回転方向
10T…電子ビームに略垂直な回転軸を中心に時計回りの回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビーム鏡筒と、
前記集束イオンビーム鏡筒に対し略直角に配置された電子ビーム鏡筒と、
試料を移動させる試料ステージと、
前記試料から発生する二次粒子を検出する検出器と、
前記検出器の検出信号から集束イオンビーム像及び電子ビーム像を形成する観察像形成部と、
前記試料を観察する光学顕微鏡と、
前記集束イオンビーム像及び前記電子ビーム像並びに光学顕微鏡像を表示可能な表示部と、
前記集束イオンビーム像及び前記電子ビーム像並びに前記光学顕微鏡像の座標系に合わせ前記試料ステージを移動させるステージ制御部と、を有する複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
前記表示部は、前記光学顕微鏡像に前記試料ステージの駆動軸の座標系を表示する請求項1に記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
前記ステージ制御部は、前記集束イオンビーム像または前記電子ビーム像上で指定した位置が指定した前記集束イオンビーム像または前記電子ビーム像の中心に表示されるように前記試料ステージを移動させる請求項1または2に記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
前記ステージ制御部は、前記集束イオンビーム鏡筒と前記電子ビーム鏡筒のビーム照射軸を中心に前記試料ステージを回転させる請求項1乃至3のいずれか一つに記載の複合荷電粒子ビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−65511(P2013−65511A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204507(P2011−204507)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(503460323)株式会社日立ハイテクサイエンス (330)
【Fターム(参考)】