説明

複合部品の予備成形物の製造のための繊維層を製造する方法

本発明は、展開不可能な表面を有する回転体の形態で、複合部品の予備成形物を形成するための繊維層を形成する方法を提供する。本方法は、環状空間(23)を、この環状空間の内縁および外縁を夫々規定する第1および第2のキャンバス(20,21)で規定する工程と、少なくとも一方向で、環状空間に繊維を配置し、かつ縫合により両キャンバスに繊維を保持することによって、これらキャンバスの間に繊維を配置する工程と、環状空間(23)の内縁の近くで、環状の接続を果す縫合を行う工程と、両キャンバスから前記繊維層を取り出すために、このようにして環状空間(23)に形成された繊維層を切り離す工程とを具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化材を含み、リングの表面や切頭球体の表面のような、展開不可能な(non−developable)表面を有する回転体の形状で存在する複合部品のために、繊維の予備成形物を製造するための繊維層の形成に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明のための特別な適用分野には、可撓性のアバットメントのための複合強度部材を製造するために使用される繊維強化材の形成がある。可撓性のアバットメントは、一般的には、制御用推進エンジン(thruster)のノズルと本体との間にヒンジを形成するように、推進系(propulsion)の分野で使用されている。このようなアバットメントは、各々が球体リングの形態である硬い複合強度部材と、エラストマのような弾性的に変形可能な物質の層とを交互に配置することによって、形成されている。
【0003】
このような複合強度部材を形成するために現在使用されている方法は、樹脂(例えばエポキシ樹脂)が予め含浸されたカーボン繊維層を、ドレープ(draping)し、モールド成形することからなる。さらに詳しくは、この方法は、
予め含浸されたカーボン繊維またはガラス繊維から、ほぼ切頭錐体を展開した形状の環状セクタの形態である層を切り離す工程と、
形成される球体の強度部材の内面に対応する球体リングの形態の表面を有する雄型部材のロゼットパターンに、前記予め含浸された繊維層をドレープする工程と、
メンブレンによって、これら層を真空中でコンパクトにする(compacting)工程と、
形成される強度部材の外面に対応する球体リングの形態の表面を有する雌型部材を所定の位置に配置する工程と、
所定の圧力の下で、これら繊維層を重合する工程と、
強度部材をモールドから取り出す工程とを含む。
【0004】
このようにして、機械的応力を受ける上面により良い強度を与える繊維強化材を含む硬い部材が得られる。
【0005】
それにもかかわらず、上述の方法は、実行するのが非常に困難である。繊維強化材を形成するために繊維層をドレープする工程は、手動で、形状支持部に直接果される動作である。従って、向きおよび繊維強化材の全ての点で繊維の量を正確に制御することが妨げられる。また、雌型部材に配置する工程によって、層が滑ったり、ひだが形成されたりしてしまう可能性がある。
【0006】
この結果、このような技術は、夫々の部品の良い再現性を果さず、特に、夫々の部材が、特に、繊維の密度と繊維の向きとに関して、異なる機械特性を有する。
【0007】
積層された可撓性のアバットメントが形成されたとき、このアバットメントが確実に適切に機能するために、アバットメントの強度部材の全てが、同じ形状および機械特性を有することが重要である。
【0008】
さらに、この層は、乾式繊維よりも可撓性が少なく予め含浸された繊維を使用して形成される。従って、展開不可能な回転体の形状に適合する層を形成することは、より一層困難である。
【0009】
当然ながら、他の形式の複合部品が、展開不可能な表面を有する回転体を有する形状で存在し(例えばエンジンのケーシング)、前記部品の機械強度を増すように、機械的な力の関数として与えられる繊維層で形成される。それにもかかわらず、可撓性のアバットメントの強度部材のように、繊維が、展開不可能な回転体の形態の形状で、かつ均一な構成上の特性で、繊維強化材を形成するように、一定の量および向きで繊維が繰り返し形成されることができる利用可能な方法はない。
【0010】
さらに、特定の形式の部品が、局所的に強化される必要もある。この目的のために、前記繊維層は、繊維の厚さを所定の位置で増加させることが好ましい。変形されるために適切な厚さの繊維の部分を有する繊維層を形成することと、展開不可能な回転体の形状にこの繊維層を適合させることとは、特に、繊維の向きを制御することと、層の間の再現性とに関して、より一層困難である。
【発明の開示】
【0011】
本発明の目的は、展開不可能な表面を有する本体の形態の形状を有する予備成形物、即ち繊維強化材の形成に適した繊維層を形成することが可能な方法を提案することによって、従来技術の方法の欠点を克服することである。繊維の量および向きが、正確に、かつ再現可能なようにして制御されることができる。
【0012】
この目的は、展開不可能な表面を有する回転体の形態で、複合部品の予備成形物を形成するための繊維層を製造する方法において、環状空間を、この環状空間の内縁および外縁を夫々規定する第1および第2のキャンバスで規定する工程と、少なくとも一方向で、環状空間に繊維を配置し、かつ縫合により両キャンバスに繊維を保持することによって、これらキャンバスの間に繊維を配置する工程と、環状空間の内縁の近くで、環状の接続を果す縫合を行う工程と、両キャンバスから繊維層を取り出すために、このようにして環状空間に形成された繊維層を切り離す工程とを具備することを特徴とする方法によって果される。
【0013】
本発明の方法により、展開不可能な表面を有する回転体の形状の予備成形物を形成する繊維層は、2つのキャンバスの間に、平坦に形成される。この結果、これら繊維の向きは、正確に制御されることができ、特に、部品が、これら繊維が受ける機械的応力に十分適するように形成されることを可能にすることができる。従って、繊維の配置を自動化し、使用される繊維の向きおよび量が同じである繊維層を形成することが可能である。
【0014】
本発明の態様では、追加の繊維が、2つのキャンバスの間に配置された繊維の相互間にある空のギャップを満たすように加えられる。この追加の繊維は、縫合により、隣接する繊維に取着される。これは、予備成形物、即ち得られる繊維強化層が、均一な構成上の特性を有し得るように、繊維層全体に亘って一定であることを確実にする。
【0015】
特に、両繊維は、カーボン繊維またはガラス繊維であることができる。
【0016】
また、本発明は、可撓性のアバットメントの複合強度部材のための繊維強化材を製造する方法であって、少なくとも2種類の繊維層を交互に積層することによって予備成形物を形成することを具備する方法を提供する。この方法では、第1の層には、展開不可能な表面を有する回転体の形状を有する部品を形成するための繊維層が、上述の方法で形成される。また、第2の層は、球形の工具上に、第1の層が所定の形状に保持されている間に、第1の層の上に配置されることによって形成され、第2の層の繊維の各々は、第1の層の繊維に直交するように向けられる。
【0017】
従って、繊維層を製造する本発明の方法は、強度部材の機械的な必要性に特に十分に適合する可撓性のアバットメントの強度部材のための繊維強化材を製造することを可能にする。この繊維強度部材は、一方は強度部材の軸線に一致し、他方はこの軸線に垂直であるような、直交する2方向に対して、良い強度を示す必要がある。この目的のために、強度部材の強化材は、これら2方向の一方または他方に連続して向けられた繊維を有する層を交互に積層することにより、形成されることができる。本発明の方法によって、最も形成するのが困難な層、即ち前記強度部材の軸線に沿って配置された繊維を有する層が、2つのキャンバス間に平坦に形成されることができる。従って、繊維の向きおよび量の正確な制御が可能であり、層の各々が再現可能であり、繊維強化材が、均一に得られ、かつ機械的応力に適合されることを可能にする。このようにして形成された層は、球形の工具上の所定の位置に容易に配置され、繊維の向きを保つことができる。そして、繊維強化材を形成することを可能にし、また、これら繊維層は乾式(即ち予め含浸された繊維ではない)であり、形成された強度部材の形状で、即ち展開不可能な表面を有する回転体の形状で、予め形成される。
【0018】
本発明の一態様では、第2の繊維層は、第1の層にフィラメント状の巻線によって形成される。
【0019】
繊維強化材が形成されると、この繊維強化材は、モールド内に配置され、熱硬化性樹脂が、所定の圧力の下でモールド内に注入され、続いて、この樹脂が、熱処理によって重合される。従って、強度部材が受ける機械的な力に耐えるように構造上適合された繊維強化材を含む硬い複合強度部材が得られ、この部材は、実際には多孔性でない。
【0020】
本発明は、可撓性のアバットメントを製造する方法も提供する。この方法は、弾性的に変形可能な材料を挟んだ複数の硬い複合強度部材でできた積層構造を形成することからなり、強度部材の各々は、上述のように、強度部材を製造する方法で形成される。
【0021】
特に、一態様では、可撓性のアバットメントを製造する方法は、上述の方法により厚みを増した、複数の繊維強化材を形成する工程と、隣接する強度部材の間に、弾性的に変形可能な材料の層の厚さを規定するスペーサによって、複数の繊維強化材を互いに保持する工程と、強化材中に、所定の圧力の下で熱硬化性樹脂を注入する工程と、複数の硬い複合強度部材を形成するように、強化材の各々内の樹脂を重合するように熱処理する工程と、 複数の硬い複合強度部材の間に、弾性材料の層を形成するために、これら硬い複合強度部材の間の空間に、弾性材料を注入または成形する工程とを具備する。
【0022】
本発明の実施の形態は、樹脂が、前記強化材に同時に注入され重合されることを可能にし、このようにして、様々な強度部材の間の弾性材料の層を形成することを可能にする。
【0023】
本発明は、ケーシング形式の複合部品を製造する方法も提供する。この方法は、展開不可能な表面を有する回転体の形態で、部品の予備成形物を形成するための繊維層を形成するための上述の方法で形成された、少なくとも1つの繊維層でできた予備成形物、即ち強化材を形成することを含む。繊維層は、異なる2方向に向けられた複数の種類の繊維でできている。
【0024】
本発明の一態様では、少なくとも1つの厚い部分が、繊維層の各々の上の所定の位置に形成され、この部分は、層の所定の位置に繊維を繰り返し配置することによって形成される。従って、繊維層に直接形成された局所的な強化材を有する部品を製造することが可能である。また、層の各々が再現可能なようにして、繊維の厚さおよび向きを容易に制御することができる。
【0025】
本発明の他の態様および効果は、添付図面を参照して、限定的でない例によって与えられる本発明の実施の形態に従って明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
繊維層を形成するための本発明の方法は、回転体の形状であり、展開不可能な表面を有する部品のためのいかなる形式の予備成形物の成形にも、一般的に使用されることができる。
【0027】
以下で詳細に説明されるように、本方法は、両キャンバスに平坦な繊維層を形成することによって始まるように与えられ、この層は、展開不可能な表面を有する回転体の形状に適合することができる。この層は、製造される部品の予備成形物、即ち繊維強化材を形成するために、この層自身を使用されることができるか、複数の層を積層した部品を形成することができる。
【0028】
第1の実施の形態では、本発明の方法は、可撓性のアバットメントの強度部材を製造するために使用される。図1に示されるように、可撓性のアバットメント12によって、制御用推進エンジン、即ちロケット用エンジン10のノズル11をヒンジ接続することが一般的である。この可撓性のアバットメント12は、弾性変形可能な材料121(例えばエラストマ)と、切頭球体の形状である硬い複合強度部材122との交互の層でできた積層構造を有する。従って、前記アバットメント12は、前記ノズルが、前記制御用推進エンジンの本体13とノズルの分岐部分15との間に配置されたアクチュエータ14によって回動されることができるように、制御用推進エンジンのノズル11と本体13との間の可撓性接続を果している。
【0029】
前記強度部材の製造は、始めに、強度部材の軸線に一致する第1の方向を向き、“0°の層”と称される繊維層と、強度部材の軸線および前記0°の層に対して直交する第2の方向を向き、“90°の層”と称される繊維層とを有する交互の積層により構成された繊維強化材を製造することを含む。
【0030】
前記層を形成するために使用される繊維は、所望の性能およびコストに応じて、特に、ガラス繊維やカーボン繊維であることができる。
【0031】
前記0°の層が、本発明の方法に従って形成される。図2に示されるように、0°の層は、環状空間23を規定している2つのキャンバス20,21により、形成され始める。これらキャンバス20,21は、この0°の層に必要な寸法よりもわずかに大きく選択された幅lの前記環状空間の内縁と外縁とを夫々規定している。
【0032】
繊維22が、前記環状空間を満たすことが可能であるように、2つのキャンバス間に径方向に延びるように配置されている。これら繊維22は、テーラー(tailored)繊維配置(TFP)技術を使用して、所定の位置に配置される。この技術は、繊維を支持部(キャンバス)に対して正確な位置に配置することと、自動縫合機によってこれら繊維を取着することとからなる。
【0033】
しかし、本発明では、TFP技術とは異なる技術が使用される。US2004/0074589に記載されているように、TFP技術は、層と一体の部品を形成する支持部に繊維を配置し、かつ縫合するために使用される。対照的に、本発明では、支持部(キャンバス)は、形成される繊維層の形状および寸法を規定するためにのみ使用される。これら支持部は、最終的な繊維層には見ることができない。通常のTFPが使用されるならば、支持部に縫合される繊維層は、硬すぎるので、回転不可能な表面を有する回転体の3次元形状に適するように変形されることができない。
【0034】
より詳しくは、図3に示されるように、この機械は、例えばガラスロービングを有するリール(図示されていない)から繊維を導く。また、この機械は、ガイド25によって、前記環状空間23に繊維の位置を定める。このようにして所定の位置に配置された繊維層を保持するために、この機械は、糸26で前記両キャンバス20,21に繊維の端部の所の繊維を縫合するステッチヘッド24を有する。この糸26は、例えばポリエチレンやポリエステルの非常に細い糸である。これら繊維の配置および縫合は、この機械の数値制御プログラムに組み込まれている。
【0035】
前記空間23が環状であり、この空間23内に繊維を径方向に延びるように配置すると、ギャップが、この機械によって所定の位置に配置された繊維の間に生じる。これらギャップは、この環状空間の外縁に近づくのに従って、大きくなる。この層の全ての点で、同一の繊維の密度を維持するために、図4に示されるように、長さが可変の追加の繊維27が、前記繊維22の間に生じたギャップに加えられる。このような状況の下で、この自動縫合機は、前記追加の繊維27をこれらギャップに配置し、かつ隣接する繊維にこれら追加の繊維を縫合することによって、前記繊維22の間の空のギャップを満たすように、プログラムに組み込まれている。
【0036】
前記ギャップ全体が満たされると、前記環状空間23は、全体に亘って一定の密度の繊維を含む層30で満たされる。そして、これら繊維を保持するために、環状の縫合部31が、前記環状空間の内縁の近くに形成される(図5参照)。さらに、例えば切断工具28,29(例えばナイフ、電気メス、水圧ジェット、レーザ等)を使用して、前記環状空間23の内縁および外縁に沿って前記層30を貫通して切り離すことによって、両キャンバスからこの繊維層30を取り出すことが可能である(図6)。
【0037】
図7は、前記両キャンバスから取り出された後の繊維層30を示している。これは、繊維層を形成しており、前記繊維22が、前記環状の縫合部31によって互いに保持され、一方、形成用工具で容易に形状を合わせることが可能な、高い可撓性を保っている。
【0038】
図8は、0°の層と90°の層との交互の積層を形成するために使用されることができるこのような工具の一例を示している。工具40は、90°の層を形成するために使用される複数の貫通ピンのための複数のスロット41を有する形状の半球体である。図9は、この工具40上に位置が合わせられた(即ち形状が合わせられた)繊維層30を示している。前記繊維22は、この層30の外縁の側で比較的自由であるので、この層は、工具40の球形に十分に形状が合わせられる。そして、複数のピン43を支持しているストリップ42が、工具の前記スロット41の各々に配置される(図10)。
【0039】
次に、フィラメント状の巻線(図11)によって形成された90°の層50が、前記繊維層30によって形成された前記0°の層の上に直接形成される。この目的のために、前記工具40の先端部42は、巻線機60のマンドレル61に取着される。そして、この巻線機60は、前記層30の上に、前記ピン43の間に保持された連続ループを形成するように、巻線が進むのに従って移動するアーム63に装着されたねじ切りアイ62によって、撚り糸57を連続して与えながら、前記工具40を回転させる。この撚り糸57は、好ましくは、前記繊維層30の繊維32を形成している材料と同じ材料(例えばガラス繊維やカーボン繊維)でできている。
【0040】
この巻線が巻き終わると、0°の層である前記繊維層30は、90°の層である繊維層50、即ち、前記繊維52が、基礎となる層30の繊維層32に垂直に配置された層、によって完全に覆われる(図12)。
【0041】
前記可撓性のアバットメントの強度部材のための繊維強化材、即ち予備成形物は、このようにして、前記工具40の上に、巻線によって形成される90°の繊維層50と0°の繊維層30とを交互に重ねることによって形成される。0°の層の各々は、上述の方法を使用して、積層により体積が増加することを考慮して、前記層30の幅が夫々わずかに増加することが可能であるように形成される。
【0042】
例えば、50%の体積密度の繊維を含み、3ミリメートル(mm)の厚さを有する強化材では、以下の積層が形成される。
・ TFP配置による、1つが0.35mmの厚さの0°の層
・ フィラメント巻線による、1つが0.53mmの厚さの90°の層
・ TFP配置による、1つが0.35mmの厚さの0°の層
・ フィラメント巻線による、1つが0.53mmの厚さの90°の層
・ TFP配置による、1つが0.35mmの厚さの0°の層
・ フィラメント巻線による、1つが0.53mmの厚さの90°の層
・ TFP配置による、1つが0.35mmの厚さの0°の層
このような積層が形成されると(図13)、2つの垂直方向に、ここでは機械的応力が前記アバットメントに適用されるであろう方向に、交互に向けられた乾式繊維でできた繊維強化材80が得られ得る。
【0043】
積層された0°および90°の層は、前記厚さの方向(z方向)(図13)に、これら層を貫通する糸64によって、互いに結合されることができる。これら層の内部での接続は、前記糸64を使用して貫通し、縫合するための工具で、前記スロット41を使用して形成されることができる。ここでの例では、糸64は、ポリエチレンテレフタラート(PET)やカーボンにより形成されることができる。
【0044】
その後、部品が、熱処理によって重合する熱硬化性樹脂を、前記強化材80に含浸させることによって、成形される。これは、よく知られたレジンインジェクション成形(RTM)法によって行われる。このRTM法では、前記繊維強化材80は、モールド70と、このモールド70に最初に配置される強化材を含むカウンタモールド71(図14A)との間に配置される。これらモールド70とカウンタモールド71とが、前記強化材80を含む内部空間72を形成するように、互いに組み合わせられると(図14)、熱硬化性樹脂73が、前記カウンタモールド71の底部を通るように形成されたフィードオリフィス710を介して、内部に注入される。このカウンタモールド71は、所定の圧力に保たれるダクト712を排気するように接続されたオリフィス711も有する。この構成は、前記樹脂が注入される強化材の底部と、前記オリフィス711の近くに配置された強化材の上面部との間に圧力勾配が設けられることを可能にする。このようにして、前記強化材80の底部を介して十分に注入された熱硬化性樹脂73は、前記空間72内にこの樹脂が流入することと同様に、前記オリフィス711によって余分な樹脂が取り除かれることによって、全ての強化材を徐々に含浸するようにもたらされる。
【0045】
ここでの例では、使用される樹脂は、180°の温度等級(特性を損失することなく耐えることができる最大温度)のエポキシ樹脂とすることができる。RTM法に適した樹脂は、よく知られている。このような樹脂は、繊維の間への注入を容易にするために、低い粘性を示すことが好ましい。この樹脂の処理の分類(class)と化学特性との少なくとも一方が、この部品が受ける熱化学的な応力の関数として選択される。樹脂が、強化材全体に亘って注入されると、この樹脂は、RTM法に従って熱処理されることによって重合されることができる。
【0046】
注入および重合の後、前記部品は、モールドから取り出される。好ましくは、熱化学特性を改良する(ガラス転移温度を上昇させる)ために、例えば180℃で2時間のサイクルの、次の焼成サイクルを受けることができる。そして、この部品は、余分な樹脂を取り除くようにばり取りされ、面取りされる。この部品が必要な寸法に応じて成形されれば、機械加工する必要はない。
【0047】
図15に示されるように、複合強度部材90が、切頭球体の形態で得られる。
【0048】
前記可撓性のアバットメントは、積層構造を形成することによってできており、このような複合強度部材は、弾性的に変形可能な材料(例えばエラストマ)の層を交互に重ね合わせることによって形成されている。
【0049】
前記アバットメントは、厚みを増した複合強度部材を積層することと、加硫処理されていないエラストマのシートをドレープすることによって得られた、弾性的に変形可能な材料の強度部材を、夫々隣接する層の間に挟むこととによって形成されることができる。前記可撓性のアバットメントを形成している前記強度部材の数と、弾性材料の層の数とは、このアバットメントに耐え得る力の関数として決定される。例えば、可撓性のアバットメントは、7つの強度部材と、6層のエラストマ材料とを有することができる。前記複合強度部材とエラストマ材料の層とを有する集合体は、続いて、弾性材料の層を構成しているこのエラストマを加硫処理するために、熱サイクル(例えば150℃の加熱炉で)を受ける。
【0050】
特に、前記可撓性のアバットメントの実施の形態では、1連(例えば7つ)の内側に形状が合わせられた(即ち寸法が増加または減少された)繊維強化材が、上述の方法を使用して形成されることができる。これら強化材は、弾性的に変形可能な材料の層の厚さに対応し、かつ強化材の各々の間に配置された金属スペーサによって、一方を他方の内部に保っている。樹脂が、RTM法を使用して、これら強化材の各々に注入され、重合される。前記スペーサは、隣り合う強度部材の間を所定の間隔に保つことができるように、モールドに配置される。そして、エラストマ材料が、これら強度部材の間に形成された空間に注入され/成形される。
【0051】
前記強度部材(図15)の各々に内部で結合される層(inter−layer bonding)を与える前記糸64は、2つの強度部材の間の、弾性的に変形可能な部材の層に熱を容易に伝達することができるように、2つの強度部材の間に熱伝導度を与えるように機能する。例えば、弾性的な層がゴムでできていれば、前記糸64の存在は、強度部材の間の熱伝導度を増加させることによって、これら層の加硫処理を改良する。
【0052】
もちろん、繊維層を形成するための本発明の方法は、上述のような強度部材の製造に限定されない。回転体の形状で、展開不可能な表面を有する他の形式の部品を製造するために使用されることができる。
【0053】
図16は、ケーシングの環状の部品を製造するための本発明の方法の他の実施の形態を示している。この実施の形態では、前記繊維層は、例えばガラス繊維やカーボン繊維の1連の複数の繊維122a,122bによって形成されており、部品が受けることができる機械的な力(例えば張力や圧縮力)の方向に一致した異なる2方向に、夫々配置されている。2方向にこれら繊維を配置することは、異なる方向に対する機械的応力に耐える特性を有する部品を与える。
【0054】
上述のように、前記繊維層は、環状空間123を規定している2つのキャンバス120,121でできている。これらキャンバス120,121は、この環状空間の内縁および外縁を夫々規定し、この環状空間は、前記層に必要な寸法よりもわずかに大きく選択された幅である。
【0055】
前記繊維層122a,122bは、TFP配置技術を使用して、即ち、前記両キャンバスに、夫々角度αと角度−αとの間(図16)で、これら繊維122a,122bを配置し、かつ縫合するように、自動縫合機にプログラムを組み込むことによって、所定の位置に配置される。前記角度α,−αは、例えば夫々+45°,−45°であることができる。この自動縫合機は、図3に示されたのと同じ方法で、繊維を所定の位置に配置し、この機械の数値制御プログラムに組み込まれた角度α,−αで、繊維を縫合するように行われる。
【0056】
特に、図17Aに示されるように、この機械は、例えば、前記環状空間123に、前記角度αで第1の繊維122aを配置する。上述の前記繊維層30に関連して、この繊維122aの間に生じた前記ギャップは、これらギャップ(図17B)に追加の繊維123aを配置し、かつ縫合により隣接する繊維に追加の繊維を取着させる縫合機を使用して、満たされることができる。そして、繊維の密度は、全ての点でほぼ一定である。
【0057】
そして、図18Aに示されるように、前記縫合機が、前記1連の繊維122a,123aの角度−αの所に、1連の繊維122bを配置する。さらに、追加の繊維123bが、これら繊維122b(図18B)の間の前記ギャップを満たすように加えられる。
【0058】
これら工程は、好ましくは、角度αと角度−αとに夫々配置された1連の繊維を複数重ね合わせて形成するように、繰り返される。
【0059】
前記環状空間の内縁の近くで環状の縫合部131を形成し、前記2つのキャンバスの間に形成された部分を切り離した後、繊維層130が、前記環状の縫合部により互いに保持され、高い可撓性も維持する繊維132を有するように得られる(図19)。従って、これらは、展開不可能な表面を有する回転体の形状である工具またはモールドに、容易に配置されることができる。
【0060】
形成された前記繊維強化材と前記部品とは、上述のように、単一の層130、または2つのキャンバスの各々でできたこのような複数の層を含む積層により構成されることができる。積層を有する前記繊維層130は、図13の繊維層30,50の間に形成された接続のように、厚さの方向(z方向)にこれら層を貫通した撚り糸によって互いに結合されることができる。
【0061】
特に、本発明の態様では、最終的な部品に局所的な強化材を形成するように、厚さを増したゾーンを有する繊維層を形成することが可能である。図20は、上述のように、角度αと−αとの間に夫々配置された2つの繊維を形成する繊維層231を有する繊維層230を示している。この繊維層231は、縫合された繊維を繰り返し重ね合わせることによって形成された部分232も有する。この部分232は、少なくとも1つの前記繊維層の厚さを増した部分を形成するように、所定のゾーンに、追加の繊維を繰り返し配置し、縫合の機能を果すように、前記自動縫合機のプログラムに組み込むことによって形成される。これは、強化繊維を含む回転体の形態で部品を製造するために、少なくとも厚みが増された部分を局所的に含む繊維層を形成する。
【0062】
前記繊維強化材が、好ましくは強化部分232を含む少なくとも1つの繊維層130を使用して形成されると、これら部分は、熱処理によって重合された熱硬化性樹脂を強化材に含浸させることによって成形される。上述のように前記可撓性のアバットメントのための前記強化材を製造する際、よく知られたレジンインジェクション成形(RTM)法が使用される。この方法では、繊維強化層が、好ましくは金属のモールドに配置され、そして、熱硬化性樹脂が、所定の圧力の下でこのモールド内に注入される。ここでの例では、この樹脂は、250℃の温度等級(特性を損失することなく耐えることができる最大温度)のシアン酸(cyanate)エステル樹脂であることができる。このRTM法に適した樹脂は、よく知られている。このような樹脂は、繊維の間への注入を容易にするために、低い粘性を示すことが好ましい。この樹脂の処理の分類と化学特性との少なくとも一方の選択は、この部分が受ける熱化学的な応力の関数として決定される。この樹脂が、強化材全体に亘って注入されると、この樹脂は、RTM法に従う熱処理によって重合される。
【0063】
注入および重合の後、前記部品は、モールドから取り出される。好ましくは、熱化学特性を改良する(ガラス転移温度を冗長させる)ために、次の焼成サイクルを受けることができる。その後、この部品は、余分な樹脂を取り除くようにばり取りされ、面取りされる。この部品が必要な寸法に応じて成形されれば、機械加工する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、可撓性のアバットメントに適合された制御用推進エンジンの後方の概略的な断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る繊維層がどのように製造されるかを示す概略的な平面図である。
【図3】図3は、繊維層が、自動縫合機によってどのように配置され、縫合されるかを示す、図2でIIIを付された部分の拡大された詳細な斜視図である。
【図4】図4は、自動縫合機によって配置され、縫合された追加の繊維を有する図2の層でIVを付された部分の詳細な拡大図である。
【図5】図5は、繊維層の上に形成された環状の縫合を含む、図2の繊維層を示す矢印Vに沿った半断面図である。
【図6】図6は、繊維層から両キャンバスの一部を切り離すことを示す、図2の繊維層の矢印Vに沿った半断面図である。
【図7】図7は、追加の繊維が加えられ、両キャンバスが取り出された後の、図2の繊維層を示す概略的な平面図である。
【図8】図8は、本発明の一実施の形態に従って、繊維強化材を製造するために使用される形成用工具の概略的な斜視図である。
【図9】図9は、工具の上に配置された図7の繊維層を含む図8の工具の概略的な斜視図である。
【図10】図10は、ピンのストリップが、図9の工具にどのように配置されるかを示す概略的な詳細図である。
【図11】図11は、フィラメント状の巻線の形成を示す概略的な斜視図である。
【図12】図12は、繊維層上のフィラメント状の巻線の層をさらに含む、図9の工具の概略的な斜視図である。
【図13】図13は、図7に示されたような繊維層と、フィラメント状の巻線の層とを有する交互の層を重畳することによって形成された繊維強化材を示している。
【図14A】図14Aは、繊維強化材に樹脂を注入するために使用されるアセンブリを示す斜視図である。
【図14B】図14Bは、繊維強化材に注入された樹脂を示す断片的な断面の概略図である。
【図15】図15は、本発明に係る可撓性のアバットメントの複合強度部材の一実施の形態を示す写真画像である。
【図16】図16は、本発明の他の実施の形態に従い、繊維が異なる2方向にどのように配置されるかを示す平面図である。
【図17A】図17Aは、本発明の他の実施の形態に従い、異なる2方向に延びた繊維を有する繊維層を示す概略図である。
【図17B】図17Bは、本発明の他の実施の形態に従い、異なる2方向に延びた繊維を有する繊維層を示す概略図である。
【図18A】図18Aは、本発明の他の実施の形態に従い、異なる2方向に延びた繊維を有する繊維層を示す概略図である。
【図18B】図18Bは、本発明の他の実施の形態に従い、異なる2方向に延びた繊維を有する繊維層を示す概略図である。
【図19】図19は、本発明の他の実施の形態に従い、異なる2方向に延びた繊維を有する繊維層を示す概略図である。
【図20】図20は、本発明の他の実施の形態に従い、強化部分を含む繊維層の概略的な斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
展開不可能な表面を有する回転体の形態で、複合部品の予備成形物を形成するための繊維層(30)を製造する方法において、
環状空間(23)を、この環状空間の内縁および外縁を夫々規定する第1および第2のキャンバス(20,21)で規定する工程と、
少なくとも一方向で、前記環状空間に繊維(22)を配置し、かつ縫合により前記両キャンバスに前記繊維を保持することによって、これらキャンバス(20,21)の間に前記繊維(22)を配置する工程と、
前記環状空間(23)の前記内縁の近くで、環状の接続を果す縫合(31)を行う工程と、
前記キャンバスから繊維層を取り出すために、このようにして前記環状空間(23)に形成された前記繊維層(30)を切り離す工程とを具備することを特徴とする方法。
【請求項2】
追加の繊維(27)が、前記2つのキャンバス(20,21)の間に配置された前記繊維(22)の相互間にある空のギャップを満たすように加えられ、前記追加の繊維が、縫合により、隣接する前記繊維に取着されることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
前記両繊維(22,27)は、カーボン繊維またはガラス繊維であることを特徴とする請求項1または2の方法。
【請求項4】
前記両繊維(22,27)は、所定の位置に配置され、自動縫合機によって縫合されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1の方法。
【請求項5】
可撓性のアバットメントの複合強度部材のための繊維強化材(80)を製造する方法であって、少なくとも2種類の繊維層(30,50)を交互に積層することによって予備成形物を形成することを具備する方法において、
前記第1の層(30)は、請求項1ないし4のいずれか1の方法に従って形成され、
前記第2の層(50)は、球形の工具(40)上に、前記第1の層が所定の形状に保持されている間に、第1の層の上に配置されることによって形成され、前記第2の層の繊維の各々は、前記第1の層の繊維に直交するように向けられることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記第2の層(50)は、前記第1の層(30)の上に、フィラメント状の巻線によって形成されることを特徴とする請求項5の方法。
【請求項7】
前記繊維強化材(80)の前記両層(30,50)は、複数の糸(64)によって互いに結合されることを特徴とする請求項5または6の方法。
【請求項8】
可撓性のアバットメントのための強度部材を製造する方法において、
請求項5ないし7のいずれか1の方法に従って繊維強化材(80)を製造することを含み、この繊維強化材(80)は、モールド(70)内に配置され、熱硬化性樹脂(73)が、所定の圧力の下で前記モールド内に注入され、続いて、この樹脂が、熱処理によって重合されることを特徴とする方法。
【請求項9】
前記樹脂(73)は、エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項8の方法。
【請求項10】
弾性的に変形可能な材料の層を挟んだ複数の硬い強度部材を有する積層構造でできた可撓性のアバットメントを製造する方法において、
前記強度部材の各々は、請求項8または9の方法に従って形成されることを特徴とする方法。
【請求項11】
前記弾性的に変形可能な材料の層は、エラストマまたはゴムでできており、また、前記積層構造は、前記エラストマまたはゴムを加硫処理するように熱処理されることを特徴とする請求項10の方法。
【請求項12】
弾性的に変形可能な材料の層を挟んだ複数の硬い強度部材を有する積層構造でできた可撓性のアバットメントを製造する方法において、
請求項5ないし7のいずれか1の方法により厚みを増した、複数の繊維強化材(80)を形成する工程と、
互いに隣接する強度部材の間に、前記弾性的に変形可能な材料の層の厚さを規定するスペーサによって、前記複数の繊維強化材を互いに保持する工程と、
前記強化材中に、所定の圧力の下で熱硬化性樹脂を注入する工程と、
複数の硬い複合強度部材を形成するように、前記強化材の各々内の前記樹脂を重合するように熱処理する工程と、
前記複数の硬い複合強度部材の間に、弾性材料の層を形成するために、これら硬い複合強度部材の間の空間に、弾性材料を注入または成形することとを具備することを特徴とする方法。
【請求項13】
前記弾性材料の層は、エラストマでできており、また、前記積層構造は、このエラストマを加硫処理するように熱処理されることを特徴とする請求項10の方法。
【請求項14】
ケーシング形式の複合部品を製造する方法であって、少なくとも1つの繊維層(130)でできた繊維強化材を形成することを具備する方法において、
前記層は、請求項1ないし4のいずれか1の方法で形成され、前記層は、異なる2方向に向けられた複数の種類の繊維(122a,122b)でできていることを特徴とする方法。
【請求項15】
少なくとも1つの厚い部分(232)が、繊維層(231)の各々の上の所定の位置に形成され、前記部分は、層の前記所定の位置に繊維を繰り返し配置することによって形成されることを特徴とする請求項14の方法。
【請求項16】
前記強化材は、熱硬化性樹脂が注入されたモールド内に配置され、続いて、前記樹脂が、熱処理によって重合されることを特徴とする請求項14または15の方法。
【請求項17】
前記樹脂は、シアン酸エステル樹脂であることを特徴とする請求項16の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2009−534236(P2009−534236A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507130(P2009−507130)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051167
【国際公開番号】WO2007/125249
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(502202281)スネクマ・プロピュルシオン・ソリド (48)
【氏名又は名称原語表記】SNECMA PROPULSION SOLIDE
【Fターム(参考)】