説明

複合酸化物ゾルおよび被膜付基材

【課題】 低屈折率の複合酸化物微粒子が分散したゾルおよびその低屈折率の微粒子を塗布膜に利用した低反射用の基材を提供する。
【解決手段】 シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる平均粒径が5〜300nmの範囲にある複合酸化物コロイド粒子が水および/または有機溶媒に分散した複合酸化物ゾルであって、前記コロイド粒子は、前記無機酸化物を構成する元素の一部が除去されて増大した細孔を有すると共に粒子表面が被膜で被覆されてなり、屈折率が1.36〜1.44の範囲にある。前記被膜はシリカからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカと他の無機酸化物とからなる複合酸化物コロイド粒子が分散したゾルおよびその製造方法、ならびに、該微粒子を含有する被膜が表面に形成された基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリカ、アルミナ等のゾル、またはシリカ・アルミナ、シリカ・ジルコニア等の複合酸化物ゾルは公知であり、種々の用途に用いられている。これらのゾル中のコロイド粒子は、いずれも粒子内部に殆ど細孔を持たず無孔質であり、その比表面積も小さいものであった。そこで、本発明者等は先に、比表面積が大きく多孔質の微粒子が分散した複合酸化物ゾルに関する発明を行い(特開平5−132309号公報:特許文献1)、広範な用途に適用可能な複合酸化物ゾルを開示した。
【0003】
一方、ガラス、プラスチックシート等の基材表面の反射を防止するため、その表面に反射防止膜を形成することが知られており、例えば、蒸着法、CVD法等によって、フッ化マグネシウムのような低屈折率の物質の被膜をガラスやプラスチックの表面に形成することが行われてしている。しかし、これらの方法はコスト的に高価なものとなっている。
【0004】
また、シリカ微粒子を含む塗布液をガラス表面に塗布して、シリカ微粒子による微細で均一な凹凸をもった反射防止被膜を形成する方法も知られている。しかしながら、この方法は、シリカ微粒子により形成された凹凸面において、光の乱反射により正反射が低減されることを利用したり、微粒子間隙に生じる空気層を利用して反射防止を図るものであるが、基材表面への粒子の固定化や単層膜の形成が難しく、表面の反射率を制御することが容易ではない。
【特許文献1】特開平5−132309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の複合酸化物微粒子とは異なる、新規な低屈折率のコロイド粒子が分散したゾルおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明はこの低屈折率の微粒子を塗布膜に利用した低反射用の基材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の複合酸化物ゾルは、屈折率が1.36〜1.44である、シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる複合酸化物コロイド粒子が、水および/または有機溶媒に分散したことを特徴とするものである。
【0007】
本発明の複合酸化物ゾルの製造方法は、下記第1〜第3工程よりなることを特徴とするものである。
(1)アルカリ金属、アンモニウムまたは有機塩基の珪酸塩と、アルカリ可溶の無機化合物とを、pH10以上のアルカリ水溶液中に同時に添加して、シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなるコロイド粒子を生成させる第1工程。
(2)該コロイド粒子中の珪素と酸素以外の元素の一部を除去する第2工程。
(3)該コロイド粒子の表面を被膜で被覆する第3工程。
【0008】
また、本発明の複合酸化物ゾルの別の製造方法は、下記第1〜第3工程よりなることを特徴とするものである。
(1)シード粒子が分散したpH10以上の分散液中に、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機塩基の珪酸塩と、アルカリ可溶の無機化合物とを同時に添加し該シード粒子を核とする粒子成長を行わせて、シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる微粒子を生成させる第1工程。
(2)該コロイド粒子中の珪素と酸素以外の元素の一部を除去する第2工程。
(3)該コロイド粒子の表面を被膜で被覆する第3工程。
【0009】
本発明の基材は、屈折率が1.36〜1.44である、シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる複合酸化物微粒子と、被膜形成用マトリックスとからなる被膜が表面に形成されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る複合酸化物ゾルは、従来のシリカゾル等と比べて低屈折率のコロイド粒子が分散したゾルであり、低反射用基材の表面被膜の構成成分として利用可能である。このような被膜が形成されたガラスは、陰極線管、液晶表示装置などの表示パネルを始め、低反射ガラスとして種々の用途に供し得る。また、この被膜が形成されたPET等のプラスチックシートまたはフィルムは、低反射シートまたはフィルムとして有用である。
【0011】
本発明に係る複合酸化物ゾルの製造方法は、ゾルの製造操作が容易で、しかも製造プロセスが簡易であるという効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に詳述するが、始めに複合酸化物ゾルについて説明する。
〔複合酸化物ゾル〕
本発明のゾルに分散したコロイド粒子は、シリカとシリカ以外の無機酸化物、具体的には、Al23、B23、TiO2、ZrO2、SnO2、Ce23、P25、Sb23、MoO3、WO3等との複合酸化物からなる。また、当該コロイド粒子の表面は、例えば、シリカ等の被膜で薄く被覆されており、このときの被覆処理前のコロイド粒子は多孔性の微粒子である。
【0013】
本発明の複合酸化物ゾルは上記コロイド粒子が、水、有機溶媒または水と有機溶媒との混合溶媒に分散したゾルであるが、本発明で用いられる有機溶媒は1価または多価アルコールを始めとする従来の有機ゾルに用いられる有機溶媒が使用可能である。
【0014】
また、従来のシリカゾル等のコロイド粒子の屈折率が1.45、またはそれ以上と高いのに対して、本発明のコロイド粒子の屈折率は1.44以下である。このコロイド粒子の屈折率は、粒子を構成するシリカと無機酸化物の割合、無機酸化物の種類または粒子内部の細孔の量を変えることにより制御することができる。
【0015】
本発明のゾル中のコロイド粒子の屈折率は、次のようにして測定する。
(1)複合酸化物ゾルをエバポレーターに採り、分散媒を蒸発させる。
(2)これを120℃で乾燥し、粉末とする。
(3)屈折率が既知の標準屈折液を2、3滴ガラス板上に滴下し、これに上記粉末を混合する。
(4)上記(3)の操作を種々の標準屈折液で行い、混合液が透明になったときの標準屈折液の屈折率をコロイド粒子の屈折率とする。
【0016】
〔複合酸化物ゾルの製造方法〕
次に、複合酸化物ゾルの製造方法を説明する。本発明の製造方法は、次の第1〜第3工程からなる。
【0017】
第1工程では、予め、シリカ原料とシリカ以外の無機酸化物原料のアルカリ水溶液を個別に調製するか、または、混合水溶液を調製しておき、この水溶液を目的とする複合酸化物の複合割合に応じて、pH10以上のアルカリ水溶液中に攪拌しながら徐々に添加する。
【0018】
シリカ原料としては、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機塩基の珪酸塩を用いる。
アルカリ金属の珪酸塩としては、珪酸ナトリウム(水ガラス)や珪酸カリウムが用いられる。
有機塩基としては、テトラエチルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類を挙げることができ、アンモニウムの珪酸塩または有機塩基の珪酸塩には、珪酸液にアンモニア、第4級アンモニウム水酸化物、アミン化合物などを添加したアルカリ性溶液も含まれる。
【0019】
また、無機酸化物の原料としては、アルカリ可溶の無機化合物を用い、周期表の3A族、3B族、4A族、4B族、5A族、5B族、6A族から選ばれる金属または非金属のオキソ酸の、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、第4級アンモニウム塩を挙げることができ、より具体的には、アルミン酸ナトリウム、四硼酸ナトリウム、炭酸ジルコニルアンモニウム、アンチモン酸カリウム、錫酸カリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、硝酸セリウムアンモニウム、燐酸ナトリウムが適当である。
【0020】
これらの水溶液の添加と同時に混合水溶液のpH値は変化するが、本発明ではこのpH値を所定の範囲に制御するような操作は特に必要ない。水溶液は、最終的に、無機酸化物の種類とその混合割合とによって定まるpH値に落ち着く。
pHを所定の範囲に制御するとき、例えば酸を添加することがあるが、この場合、添加された酸により複合酸化物の原料の金属の塩が生成し、このためゾルの安定性が低下することがある。なお、このときの水溶液の添加速度には格別の制限はない。
【0021】
本発明の複合酸化物ゾルの製造方法では、シード粒子の分散液を出発原料とすることも可能である。当該シード粒子としては、特に制限はないが、SiO2、Al23、TiO2またはZrO2等の無機酸化物またはこれらの複合酸化物の微粒子が用いられ、通常、これらのゾルを用いることができる。勿論、前記本発明の製造方法によって得られたゾルをシード粒子分散液としてもよい。
【0022】
このpH10以上に調整したシード粒子分散液中に前記化合物の水溶液を、上記したアルカリ水溶液中に添加する方法と同様にして、攪拌しながら添加する。この場合も、分散液のpH制御は行わず成り行きに任せる。このように、シード粒子を核として複合酸化物粒子を成長させると、成長粒子の粒径コントロールが容易であり、粒度の揃ったものを得ることができる。
【0023】
上記したシリカ原料および無機酸化物原料はアルカリ側で高い溶解度をもっている。しかしながら、この溶解度の大きいpH領域で両者を混合すると、珪酸イオンおよびアルミン酸イオンなどのオキソ酸イオンの溶解度が低下し、これらの複合物が析出して微粒子に成長したり、あるいは、シード粒子上に析出して粒子成長が起こる。従って、微粒子の析出、成長に際して、従来法のようなpH制御は必ずしも行う必要がない。
【0024】
第1工程におけるシリカとシリカ以外の無機酸化物との複合割合は、無機酸化物に対するシリカのモル比が0.5〜20の範囲内にあることが好ましい。この範囲内において、シリカの割合が少なくなる程、コロイド粒子は多孔質になり比表面積が大きくなる。しかしながら、モル比が0.5未満になると、コロイド粒子の比表面積は殆ど増加しなくなる。他方、モル比が20を越えるようになると、細孔容積が少なくなり、比表面積も低下してくる。
【0025】
第2工程では、前記複合酸化物からなるコロイド粒子から、珪素と酸素以外の元素の少なくとも一部を選択的に除去する。具体的な除去方法としては、複合酸化物中の元素を鉱酸や有機酸を用いて溶解除去したり、あるいは、陽イオン交換樹脂と接触させてイオン交換除去する。
【0026】
前記第1工程で得られる複合酸化物のコロイド粒子は、珪素と無機酸化物構成元素が酸素を介して結合した網目構造の粒子である。このような複合酸化物から珪素と酸素以外の元素を除去することにより、一層多孔質で比表面積の大きいコロイド粒子が得られるのであるが、過度に除去するとコロイド粒子の強度が弱くなり、遂にはその形状を保持することができなくなる。従って、最終的な無機酸化物に対するシリカの複合割合(モル比)は、概よそ1000以下にすることが望ましい。
【0027】
第3工程では、このゾルに加水分解性の有機ケイ素化合物、その部分加水分解物、重縮合物またはケイ酸液等を加えることにより、コロイド粒子の表面を加水分解性有機ケイ素化合物またはケイ酸液等の重合物で被覆する。
【0028】
加水分解性の有機ケイ素化合物としては、一般式RnSi(OR′)4-n〔R、R′:アルキル基、アリール基、ビニル基、アクリル基等の炭化水素基、n=0、1、2または3〕で表されるアルコキシシランを用いることができる。特に、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン等のテトラアルコキシシランが好ましく用いられる。
【0029】
添加方法としては、これらのアルコキシシラン、純水、およびアルコールの混合溶液に触媒としての少量のアルカリ又は酸を添加した溶液を、前記ゾルに加え、アルコキシシランを加水分解して生成したケイ酸重合物をコロイド粒子の表面に沈着させる。このとき、アルコキシシラン、アルコール、触媒を同時にゾル中に添加してもよい。アルカリ触媒としては、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物、アミン類を用いることができる。また、酸触媒としては、各種の無機酸と有機酸を用いることができる。
【0030】
ゾルの分散媒が水単独、または有機溶媒に対する水の比率が高い場合には、ケイ酸液による被覆処理も可能である。ケイ酸液とは、水ガラス等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液をイオン交換処理して脱アルカリしたケイ酸の低重合物の水溶液である。
ケイ酸液を用いる場合には、ゾル中にケイ酸液を所定量添加し、同時にアルカリを加えてケイ酸液を重合・ゲル化させ、ケイ酸重合物をコロイド粒子表面に沈着させる。なお、ケイ酸液と上記アルコキシシランを併用して被覆処理を行うことも可能である。
有機ケイ素化合物またはケイ酸液の添加量は、コロイド粒子の表面をそれぞれの重合物が十分に被覆できる程度とする。
【0031】
このようにして得られた複合酸化物ゾルに分散したコロイド粒子の屈折率は、従来の酸化物コロイド粒子の屈折率よりも低く、1.36〜1.44の範囲内となる。本発明では前述したように、まず、多孔性のコロイド粒子が分散した複合酸化物ゾルを調製し、次いで、アルコキシシラン等で該コロイド粒子の表面を被覆することにより、粒子の細孔入口が閉塞され、粒子内部の多孔性が保持される。その結果、コロイド粒子の屈折率は、従来の無孔質の酸化物コロイド粒子に比較して低くなるものと考えられる。
【0032】
本発明のコロイド粒子の表面被覆処理は、上述のような有機ケイ素化合物、ケイ酸液のみでなく、例えば、合成樹脂等、粒子表面を薄く被覆しその細孔入口を閉塞できるものであればよい。
当該コロイド粒子の平均粒径は、調製条件によって任意のものが得られるが、一般的には5〜300nm、好ましくは5〜150nmとなる。
【0033】
上記複合酸化物ゾルは水を分散媒とするゾルであるが、その用途に応じて、エタノール、エチレングリコール等の1価または多価アルコール、あるいはその他の有機溶媒と溶媒置換して有機ゾルとすることも可能である。
【0034】
上記コロイド粒子が分散したゾルを濃縮する場合には、予めゾル中のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンおよびアンモニウムイオン等の一部を除去した後に濃縮した方が、安定した濃縮ゾルが得られる。除去方法としては、限外濾過等の公知の方法を採用することができる。
【0035】
〔低反射用基材〕
次に、本発明に係る被膜付基材について説明する。この被膜付基材は、ガラス、ポリカーボネート、アクリル、PET、TAC等のプラスチックシート、フィルム等の基材の表面に被膜を形成したものであり、後述する塗布液をディップ法、スプレー法、スピナー法、ロールコート法などの周知の方法で基材に塗布し、乾燥し、更に必要に応じて、焼成して得ることができる。
【0036】
被膜形成用の塗布液は、前記ゾルと被膜形成用マトリックスとを混合して製造する。また、塗布液には必要に応じて有機溶媒を混合してもよい。
本発明において被膜形成用マトリックスとは、基材の表面に被膜を形成し得る成分をいい、例えば、従来から用いられているポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂などの塗料用樹脂、または、前記アルコキシシラン等の加水分解性有機ケイ素化合物等が挙げられる。
【0037】
マトリックスとして塗料用樹脂を用いる場合には、例えば、前記ゾルの分散媒としての水を、アルコール等の有機溶媒で置換し、この有機溶媒分散ゾルと塗料用樹脂を適当な有機溶剤で希釈して塗布液とすることができる。
【0038】
一方、マトリックスとして加水分解性有機ケイ素化合物を用いる場合には、例えば、アルコキシシランとアルコールの混合液に、水および触媒としての酸またはアルカリを加えることにより、アルコキシシランの部分加水分解物を得、これに前記ゾルを混合し、必要に応じて有機溶剤で希釈して塗布液とすることができる。
【0039】
塗布液中の複合酸化物微粒子とマトリックスの重量割合は、複合酸化物微粒子:マトリックス=90:1〜1:99の範囲が好ましい。複合酸化物微粒子が90重量部を越えると被膜の強度が不足して実用性に欠ける一方、1重量部未満では当該微粒子の添加効果が現れない。
このようにして得られた被膜付基材は、ガラス、プラスチック等の基材自体より低屈折率の被膜が表面に形成されていることから、反射防止機能が優れている。
【実施例1】
【0040】
〔複合酸化物ゾルの製造〕
平均粒径5nm、SiO2濃度20重量%のシリカゾル100gと純水1900gの混合物を80℃に加温した。この反応母液のpHは10.5であり、同母液にSiO2として1.5重量%の珪酸ナトリウム水溶液9000gとAl23として0.5重量%のアルミン酸ナトリウム水溶液9000gとを同時に添加した。その間、反応液の温度を80℃に保持した。反応液のpHは添加直後、12.5に上昇し、その後、殆ど変化しなかった。添加終了後、反応液を室温まで冷却し、限外濾過膜で洗浄して固形分濃度20重量%のSiO2・Al23複合酸化物前駆体ゾル(A)を得た。(第1工程)
【0041】
この前駆体ゾル(A)500gに純水1,700gを加えて98℃に加温し、この温度を保持しながら、ケイ酸ナトリウム水溶液を陽イオン交換樹脂で脱アルカリして得られたケイ酸液(SiO2濃度3.5重量%)3,000gを添加した。このゾルを限外濾過膜で洗浄して固形分濃度13重量%になったゾル500gに純水1,125gを加え、さらに濃塩酸(35.5%)を滴下してpH1.0とし、脱アルミニウム処理を行った。
次いで、pH3の塩酸水溶液10Lと純水5Lを加えながら限外濾過膜で溶解したアルミニウム塩を分離し、一部のアルミニウムが除去されたSiO2・Al23複合酸化物前駆体ゾル(B)を得た。(第2工程)
【0042】
上記ゾル(B)1500gと、純水500g、エタノール1,750gおよび28%アンモニア水626gとの混合液を35℃に加温した後、エチルシリケート(SiO228重量%)104gを添加し、複合酸化物コロイド粒子の表面をエチルシリケートの加水分解重縮合物で被覆した。次いで、エバポレーターで固形分濃度5重量%まで濃縮した後、15%アンモニア水を加えてpH10とし、オートクレーブで180℃、2時間加熱処理し、本発明の複合酸化物ゾルを得た。(第3工程)
【0043】
この複合酸化物ゾル中のコロイド粒子(P1)の平均粒径、SiO2/MOx(モル比)、および屈折率を表1に示す。ここで、平均粒径は動的光散乱法により測定し、屈折率は標準屈折液としてCARGILL 製のSeriesA、AAを用い、前述の方法で測定した。
【実施例2】
【0044】
実施例1で得られた前駆体ゾル(A)100gに純水1,900gを加えて95℃に加温し、この温度を保持しながら、ケイ酸ナトリウム水溶液(SiO2として1.5g重量%)27,000gおよびアルミン酸ナトリウム水溶液(Al23として0.5重量%)27,000gを同時に徐々に添加し、前駆体ゾル(A)の微粒子を核として粒子成長を行わせた。添加終了後、室温まで冷却した後、限外濾過膜で洗浄、濃縮して、固形分濃度20重量%の前駆体ゾル(C)を得た。(第1工程)
【0045】
この前駆体ゾル(C)500gを採り、実施例1と同様の方法により、第2工程の脱アルミニウム処理、および、第3工程のエチルシリケートの加水分解物による被覆処理を行い、表1に示すコロイド粒子(P2)が分散した複合酸化物ゾルを得た。
【実施例3】
【0046】
実施例2で得られた前駆体ゾル(C)100gに純水1,900gを加えて95℃に加温し、この温度を保持しながら、ケイ酸ナトリウム水溶液(SiO2として1.5g重量%)7,000gおよびアルミン酸ナトリウム水溶液(Al23として0.5重量%)7,000gを同時に徐々に添加し、粒子成長を行わせた。添加終了後、室温まで冷却した後、限外濾過膜で洗浄、濃縮して、固形分濃度20重量%の前駆体ゾル(D)を得た。(第1工程)
この前駆体ゾル(D)500gを採り、実施例1と同様の方法により、表1に示すコロイド粒子(P3)が分散した複合酸化物ゾルを得た。
【実施例4】
【0047】
実施例1のアルミン酸ナトリウムの代わりに、SnO2として0.5重量%の錫酸カリウム水溶液9,000gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、固形分濃度20重量%のSiO2・Al23複合酸化物前駆体ゾルを得、更に実施例1と同様の方法で、脱Sn処理および被覆処理を行い、表1に示すコロイド粒子(P4)が分散した複合酸化物ゾルを得た。
【実施例5】
【0048】
実施例1の第2工程で得られた脱アルミニウム処理したSiO2・Al23複合酸化物前駆体ゾル(B)1,500gをpH11に調整して98℃に加温した後、ケイ酸液(SiO2として3.5重量%)700gを添加し、コロイド粒子の表面をシリカ重合物で被覆した。
次いで、限外濾過膜で洗浄、濃縮して、固形分濃度13重量%の表1に示すコロイド粒子(P5)が分散した複合酸化物ゾルを得た。
【実施例6】
【0049】
実施例1の第2工程において、濃塩酸添加による脱アルミニウム処理の条件をpH1.0の代わりにpH3.0で行った以外は、実施例1と同様の方法により表1に示すコロイド粒子(P6)が分散した複合酸化物ゾルを得た。
【実施例7】
【0050】
実施例1の第2工程において、濃塩酸添加による脱アルミニウム処理の条件をpH1.0の代わりにpH0.5で行った以外は、実施例1と同様の方法により表1に示すコロイド粒子(P7)が分散した複合酸化物ゾルを得た。
【比較例】
【0051】
実施例1の第2工程において得られたSiO2・Al23複合酸化物前駆体ゾル(B)について、そのコロイド粒子(P0)の平均粒径、SiO2/MOx(モル比)、および屈折率を測定した。
【0052】
[表1]
微粒子 平均粒径 SiO2/MOx 屈折率
nm) (モル比
P0 30 149.0 1.45
P1 30 127.2 1.40
P2 60 143.9 1.38
P3 120 231.6 1.36
P4 30 124.0 1.40
P5 30 130.6 1.41
P6 30 103.2 1.42
P7 30 999.0 1.39
【実施例8】
【0053】
〔低反射フィルムの製造〕
実施例1で得られた複合酸化物ゾルを限外濾過膜に通し、分散媒の水をエタノールに置換した。このエタノールゾル(固形分濃度5重量%)50gと、アクリル樹脂(ヒタロイド1007、日立化成(株)製)3gおよびイソプロパノールとn−ブタノールの1/1(重量比)混合溶媒47gとを充分に混合して塗布液を調製した。
【0054】
これをPETフィルムにバーコーター法で塗布し、80℃、1分間乾燥させて、低反射フィルム(F8)を得た。このフィルム(F8)と、未塗布のPETフィルム(F80)の全光線透過率、ヘイズ、および波長550nmの光線の反射率を表2に示す。全光線透過率およびヘイズは、ヘーズメーター(スガ試験機(株)製)により、反射率は分光光度計(日本分光社、Ubest-55)により夫々測定した。
【実施例9】
【0055】
〔低反射ガラスの製造〕
エチルシリケート(SiO2濃度28重量%)20g、エタノール45gおよび純水5.33gの混合溶液に少量の塩酸を添加して、エチルシリケートの部分加水分解物を含有したマトリックスを得た。このマトリックスに、実施例1で得られた複合酸化物ゾルをエタノールと溶媒置換したエタノールゾル(固形分濃度18重量%)16.7gを混合して塗布液を調製した。
【0056】
この塗布液を透明ガラス板の表面に500rpm、10秒の条件でスピナー法により塗布した後、160℃で30分間、加熱処理して低反射ガラス(G9)を得た。このガラス(G9)と、未塗布のガラス(G90)の全光線透過率、ヘイズ、および波長550nmの光線の反射率を表2に示す。
【実施例10】
【0057】
実施例9において、複合酸化物ゾルを実施例3の複合酸化物ゾルに代えた以外は実施例9と同様にして、低反射ガラス(G10)を得た。
【0058】
[表2]
基材 全光線透過率 ヘイズ 反射率
) () (
F80 90.7 2.0 7.0
F8 94.3 1.8 1.0
G90 92.0 0.7 4.0
G9 94.8 0.7 0.8
G10 95.2 0.9 0.1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる平均粒径が5〜300nmの範囲にある複合酸化物コロイド粒子が水および/または有機溶媒に分散した複合酸化物ゾルであって、前記コロイド粒子は、前記無機酸化物を構成する元素の一部が除去されて増大した細孔を有すると共に粒子表面が被膜で被覆されてなり、屈折率が1.36〜1.44の範囲にあることを特徴とする複合酸化物ゾル。
【請求項2】
前記被膜がシリカからなる請求項1記載の複合酸化物ゾル。
【請求項3】
シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる平均粒径が5〜300nmの範囲にある複合酸化物微粒子と、被膜形成用マトリックスとからなる被膜が表面に形成された基材において、該複合酸化物微粒子は、前記無機酸化物を構成する元素の一部が除去されて増大した細孔を有すると共に粒子表面が被膜で被覆されてなり、屈折率が1.36〜1.44の範囲にあることを特徴とする被膜付基材。
【請求項4】
前記複合酸化物粒子の表面被膜がシリカからなる請求項3記載の被膜付基材。


【公開番号】特開2006−117526(P2006−117526A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344810(P2005−344810)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【分割の表示】特願平5−298937の分割
【原出願日】平成5年11月4日(1993.11.4)
【出願人】(000190024)触媒化成工業株式会社 (458)
【Fターム(参考)】