説明

複合酸化物微粒子、これを用いた透明組成物及び透明樹脂組成物。

【課題】 光触媒活性が極めて低く、透明樹脂や有機溶媒などと共に分散させることで、優れた光学特性、特に、優れた透明性と高い屈折率、波長分散性を有する透明組成物を得ることができる複合酸化物微粒子、これを用いた透明組成物及び透明樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 Ti、下記元素群Lから選ばれる少なくとも1種類以上の金属元素、及び下記元素群Mから選ばれる少なくとも1種類以上の金属元素を含有する複合酸化物微粒子であり、含有する金属元素中の元素群Lのモル比[L]/[Ti+L+M]が0.01〜0.2であり、かつ含有する金属元素中の元素群Lと元素群Mの合計のモル比[L+M]/[Ti+L+M]が0.01〜0.5の範囲である複合酸化物微粒子。
・元素群L=Sb、Bi
・元素群M=Al、Zr、Zn、Sn、Ca、Mg

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物微粒子、これを含む透明組成物及び透明樹脂組成物に関する。より詳しくは、光触媒活性を極めて低減した二酸化チタンを主成分とする高屈折率の複合酸化物微粒子、有機溶媒や樹脂への分散性を飛躍的に向上させた表面修飾複合酸化物微粒子、これを有機溶媒や樹脂に分散させて屈折率を容易に制御することが可能な透明組成物及び透明樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
透明樹脂の高屈折率化は、従来、硫黄やハロゲン原子またはベンゼン環などの芳香族化合物を樹脂中に導入することによって行われてきた。しかし、この手法により透明樹脂の屈折率を向上させるには限界があり、また、吸湿率、屈折率温度依存性、複屈折率などの光学特性が低下する場合があった。そこで種々の光学特性を付与しながら、より高屈折率化が可能な手法として、高屈折率金属酸化物微粒子を透明樹脂と共に分散させる試みが近年盛んに行われている。
【0003】
屈折率の高い金属酸化物としてはTiO(2.3〜2.6)、Bi(2.5)、Nb(2.3)、Ta(2.3)、ZrO(2.0)、Al(1.6)、Sb(1.8)(かっこ内数字は屈折率)等が挙げられるが、なかでもTiOは最も屈折率が高く、また、白色であるため、これを樹脂中に分散させても色つきがなく、非常に有用である。また、TiOは化学的耐久性、機械的耐久性に優れている。
【0004】
しかしながら、TiOは紫外線が照射されると励起され、反応性電子/ホール対が生成し、これらが電荷分離しTiO表面に到達すると、TiO表面に吸着した有機物を分解してしまう(光触媒活性という)。このため、TiO微粒子を有機系樹脂に分散して用いる場合には、この光触媒活性により有機系樹脂が劣化し、分解してしまう。そこで、紫外線などの自然環境による有機系樹脂の劣化、分解を防止するため、TiOが有する光触媒活性を極力抑えるさまざまな方法が検討されている。
【0005】
TiOの光触媒活性を極力抑える方法としては、TiO微粒子の表面に別の金属酸化物を被覆し、コアシェル型とする方法が挙げられる。特許文献1には、Zrの酸化物、特許文献2には、Znの酸化物で被覆したTiOが記載されている。これらは、TiO微粒子と有機系樹脂とが直接接触しないようにして、TiOが光触媒活性を発現したとしても、それが有機系樹脂の劣化、分解に影響しないようにする方法である。また、TiOの光触媒活性を極力抑える他の方法としては、異種金属をTiOにドープさせる方法が挙げられる。特許文献3には、Fe、Zn、Al、Co、Mg、Zrを1〜20重量%含有するTiOが記載されている。また、特許文献4には、Co、Al、Si、Mnを0.01〜30重量%含有するルチル型TiOが記載されている。これらのドープされた金属イオンは、励起された反応性電子/ホールの再結合中心として働くため、TiO微粒子の表面に到達する反応性電子/ホールを減少させ、結果的に光触媒活性を低減させていると考えられている。
【0006】
一方、このような高い屈折率の微粒子をそれより屈折率の低い透明樹脂に分散させて透明樹脂組成物の高屈折率化を行う上では、微粒子の粒子径や分散性に十分配慮することも必要である。一般に、光の波長より十分に小さい一次粒子径を有する微粒子が完全に独立して分散された場合のみ、優れた透明性が実現することが予想されている。しかし、実際には、微粒子の一次粒子径が小さくても、これを透明樹脂中に分散させると、たやすく凝集を起こして2次粒子となり、透明樹脂組成物の透明性が低下してしまう。
【0007】
このような凝集を起こさずに微粒子を樹脂中に分散させる方法としては、例えば、特許文献5や非特許文献1に記載されているように、微粒子合成の際、微粒子表面に官能基を導入し、さらに当該官能基を、これと反応する官能基を有する樹脂と反応させて表面修飾した微粒子を樹脂中に分散させる方法が挙げられる。また、特許文献6には、無機微粒子を有機溶剤に分散させるため、末端にアルコキシシラン基を導入した高分子カップリング剤を用いる方法が挙げられている。
【0008】
また、透明樹脂に高屈折率微粒子を分散させてより高い屈折率を達成するためには、高屈折率微粒子の充填量を透明樹脂に対して十分に増やすことが必要となる。例えば、ローレンツ・ローレンツの式からは、屈折率1.49のポリメチルメタクリレートに屈折率2.6のルチル型TiO微粒子を分散させ、屈折率の1.9〜2.1の透明樹脂を得るためには、体積比で49〜64%ものTiO微粒子を分散させる必要があるということが導かれる。
【特許文献1】特開2004−18311号公報
【特許文献2】特開平7−149520号公報
【特許文献3】特開平10−330236号公報
【特許文献4】特開2003−327430号公報
【特許文献5】特許第3683076号公報
【特許文献6】特許第3235864号公報
【非特許文献1】チャンリー・リュー(Changli.Lu)ら著、「ジャーナル オブ マテリアルズ ケミストリー(J.Mater.Chem)」(米国)、13巻、2003年、p.2189−2195
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高屈折率でかつ透明な樹脂組成物を得る上で、従来技術には主に2つの課題が存在する。
【0010】
第1は、光触媒活性がなく、しかもできるだけ粒径の小さい高屈折率微粒子を作製することである。
【0011】
しかしながら、従来技術に挙げたコアシェル型の微粒子では、粒径を小さくして表面積を大きくすると、TiO微粒子の表面全体を緻密に被覆しにくく、光触媒活性の抑制が不十分となってしまう。また、従来技術に挙げた異種金属をTiOにドープさせる方法においても、光触媒活性の抑制が不十分であり、さらなる改善が求められている。さらに、特許文献3及び4に記載された、300〜2000℃という熱処理を行って作製した粒子は、粒径自体が大きくなったり、凝集したりするため、これを樹脂に分散させても透明な樹脂組成物は得られないし、粒径が大きくなり表面積が小さくなっているので光触媒活性が小さく見積もられるのは自明である。
【0012】
第2は、微粒子をいかにして樹脂中に高充填分散させるかということである。
【0013】
先にも述べたように、微粒子の一次粒子径が小さくても透明樹脂中に分散させると、たやすく凝集を起して2次粒子となり、組成物の透明性は低下してしまう。従来技術に挙げた方法では、樹脂に対する微粒子の充填率が低い場合には問題のないことが多いが、さらに高屈折率化するために、微粒子の充填率を高くすると、凝集し易くなり、樹脂によって透明に分散できないことが多くなる。また、特許文献5の手法では、微粒子合成の際、2種類以上の官能基をもつ分子が必要となるばかりか、微粒子を分散させる樹脂にも当該官能基と反応する官能基を必ず導入しなければいけないなど制限が多い。
【0014】
上記を鑑みて、本発明は、光触媒活性が極めて低く、透明樹脂や有機溶媒などと共に分散させることで、優れた光学特性、特に、優れた透明性と高い屈折率、波長分散性を有する透明組成物を得ることができる複合酸化物微粒子、これを用いた透明組成物及び透明樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、光触媒活性を極めて低減したTiOを主成分とする高屈折率複合酸化物微粒子を得ることを目的に、TiO微粒子にドープする異種金属を探索した結果、異種金属として、Sb、Biをドープすることによって著しく光触媒活性を低減できること、さらにAl、Zr、Zn、Sn、Ca、Mgをドープすることによって光触媒活性をほぼ消失させうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
さらに、本発明者らは、作製した複合酸化物微粒子を凝集させることなく透明樹脂に単分散させ、さらに複合酸化物微粒子の透明樹脂中での充填量を変化させ屈折率を制御する技術について鋭意検討したところ、複合酸化物微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基を有する修飾分子もしくは修飾高分子、または複合酸化物微粒子表面に存在する水酸基と引力性相互作用による弱い結合を形成する官能基を有する修飾分子もしくは修飾高分子を、当該微粒子表面に修飾させると、透明樹脂組成物中において大きな凝集体が生じることなく、これを高充填分散させることが可能となり、その結果、優れた透明性と高い屈折率を有する透明樹脂組成物が得られることを見出した。
【0017】
つまり、本発明は、下記(1)〜(8)に記載の事項をその特徴とするものである。
【0018】
(1)Ti、下記元素群Lから選ばれる少なくとも1種類以上の金属元素、および下記元素群Mから選ばれる少なくとも1種類以上の金属元素、を含有する複合酸化物微粒子であり、含有する金属元素中の元素群Lのモル比[L]/[Ti+L+M]が0.01〜0.2であり、かつ含有する金属元素中の元素群Lと元素群Mの合計のモル比[L+M]/[Ti+L+M]が0.01〜0.5の範囲である複合酸化物微粒子。
・元素群L=Sb、Bi
・元素群M=Al、Zr、Zn、Sn、Ca、Mg
【0019】
(2)平均一次粒子径が1〜50nmの範囲である上記(1)記載の複合酸化物微粒子。
【0020】
(3)複合酸化物微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基を有する修飾高分子(a)で表面が修飾されていることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の複合酸化物微粒子。
【0021】
(4)複合酸化物微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基を有する修飾分子(b)で表面が修飾されていることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の複合酸化物微粒子。
【0022】
(5)複合酸化物微粒子表面と引力性相互作用による弱い結合を形成する官能基を有する修飾分子(c)または修飾高分子(d)で表面が修飾されていることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の複合酸化物微粒子。
【0023】
(6)複合酸化物微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基を有する修飾高分子(a)、複合酸化物微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基を有する修飾分子(b)、複合酸化物微粒子表面と引力性相互作用による弱い結合を形成する官能基を有する修飾分子(c)および複合酸化物微粒子表面と引力性相互作用による弱い結合を形成する官能基を有する修飾高分子(d)からなる群の中から選ばれた少なくとも2種類以上の分子で表面が修飾されていることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の複合酸化物微粒子。
【0024】
(7)上記(3)〜(6)のいずれかに記載の複合酸化物微粒子を有機溶媒に分散させた透明組成物。
【0025】
(8)上記(3)〜(6)のいずれかに記載の複合酸化物微粒子を樹脂に分散させた透明樹脂組成物。
【0026】
なお、本発明において、「透明」という用語は、光学用途に使用できる程度に光が透過することを意味し、望ましくは、波長400〜800nmにおける光の透過率が90%以上であるもの、またはヘイズが1以下であるものを指す。
【発明の効果】
【0027】
本発明の複合酸化物微粒子は、光触媒活性がほとんどなく、TiOに近い高い屈折率を有し、白色の微粒子であり、平均一次粒子径が1〜50nmと非常に小さい。また、その表面が修飾された本発明の複合酸化物微粒子は、樹脂や有機溶媒中に高い充填率で単分散させることが可能である。すなわち、この表面修飾複合酸化物微粒子を透明樹脂に高充填分散させた透明樹脂組成物は、優れた透明性と高い屈折率を有し、なおかつ光触媒活性がないため極めて高い耐候性を有する。
【0028】
また、本発明の透明組成物や透明樹脂組成物は、優れた透明性を持ちながら任意に屈折率の調節ができ、また大きな波長分散性をもたせることができるため、光学材料分野、例えばカメラや眼鏡用のレンズ、光記録・再生用機器のピックアップレンズ、フィルムレンズのハードコート材として使用できる。また、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ、CRTディスプレイの反射防止層やELディスプレイの輝度向上層等にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の複合酸化物微粒子の第1の形態は、Ti、元素群L(L=Sb、Bi)から選ばれる少なくとも1種類以上の金属元素、及び元素群M(M=Al、Zr、Zn、Sn、Ca、Mg)から選ばれる少なくとも1種類以上の金属元素を含有するものであり、含有する金属元素中の元素群Lのモル比[L]/[Ti+L+M]が0.01〜0.2であり、かつ含有する金属元素中の元素群Lと元素群Mの合計のモル比[L+M]/[Ti+L+M]が0.01〜0.5の範囲であることを特徴とするものである。このような組成とすることによって、光触媒活性をほぼ消失させた、TiOに近い高い屈折率を有する白色の複合酸化物微粒子を得ることが可能である。
【0030】
上記本発明の複合酸化物微粒子は、例えば、TiOに、元素群Lから選ばれる少なくとも1種類以上の金属元素及び元素群Mから選ばれる少なくとも1種類以上の金属元素をそれぞれ公知の方法によりドープすることにより得ることができる。ドープする方法としては、例えば、気相反応法などの気相法やゾルゲル法、均一沈殿法、水熱合成法、マイクロエマルジョン法、ホットソープ法などの液相法等が挙げられる。透明性の高い複合酸化物微粒子分散組成物を得るためには、できるだけ平均粒子径が小さく、粒子径の分布幅が狭い白色微粒子を合成することが望ましく、また、当該分散組成物の高屈折率化を実現するためには、結晶性のよい微粒子を合成することが望ましい。このような微粒子を得る上で好ましい合成法は、水熱合成法やホットソープ法である。
【0031】
また、TiOの光触媒活性は、元素群Lの金属元素のドープ量が多いほど低下し、複合酸化物微粒子に含まれる金属元素中の元素群Lのモル比[L]/[Ti+L+M]が0.3以上でほぼ消失する。しかし、モル比[L]/[Ti+L+M]が0.2を超えると、褐色の色味が出てくるので好ましくない。そのため、金属元素中の元素群Lのモル比[L]/[Ti+L+M]は、0.01〜0.2の範囲、好ましくは0.03〜0.15の範囲、より好ましくは0.05〜0.1の範囲とされる。
【0032】
さらに、TiOの光触媒活性は、元素群Mの金属元素をドープすることによって、さらに低下し、しかもこれらの元素はドープしてもTiOが着色することはない。しかし、複合酸化物微粒子に含まれる金属元素中の元素群Lと元素群Mとの合計のモル比[L+M]/[Ti+L+M]が0.5を超えると、TiOの結晶構造が完全な非晶質(アモルファス)になり易く、屈折率が低下するのであまり好ましくない。そのため、モル比[L+M]/[Ti+L+M]は0.01〜0.5の範囲、好ましくは0.1〜0.4の範囲、より好ましくは0.2〜0.35の範囲とされる。
【0033】
また、本発明の複合酸化物微粒子の粒子径は平均一次粒子径が1〜50nmであることが好ましい。特に透明組成物中の光路長が長くなった場合においても優れた透明性を実現するためには1〜30nmであることがより好ましく、1〜20nmであることが最も好ましい。なお、上記平均一次粒子径は、球状、棒状、不定形などの形状が含まれる複合酸化物微粒子の中から無作為に選ばれた少なくとも百個以上の粒子について、透過型電子顕微鏡(TEM)によりそれぞれの粒子像の面積を測定し、これと同面積の円の直径をもって粒子径とし、公知の統計処理により平均粒子径を算出する。
【0034】
本発明の複合酸化物微粒子の第2の形態は、上記第1の形態の本発明の複合酸化物微粒子の表面が、複合酸化物微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基を有する修飾高分子(a)、複合酸化物微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基を有する修飾分子(b)、複合酸化物微粒子表面と引力性相互作用による弱い結合を形成する官能基を有する修飾分子(c)及び複合酸化物微粒子表面と引力性相互作用による弱い結合を形成する官能基を有する修飾高分子(d)からなる群の中から選ばれた1種または2種類以上の分子で修飾されていることをその特徴とするものである。なお、上記「引力性相互作用による弱い結合」とは、電荷や水素結合などを介した結合を意味し、厳密には、当該結合は付着と脱離の平衡状態にある。
【0035】
上記修飾高分子(a)は、好ましくはその高分子鎖に複合酸化物微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基を有する高分子であり、その重量平均分子量は、微粒子を透明高分子中によく分散させるために、1000〜100000であることが好ましく、2000〜50000であることがより好ましく、5000〜30000であることが最も好ましい。また、上記修飾高分子(a)は、同一のモノマーを重合したものでも異なる2種類以上のモノマーを重合したものでもよく、また、その高分子鎖は、直鎖型でも枝分かれ型でもよく、特に制限されない。また、上記修飾高分子(a)は、微粒子と共に分散させる透明樹脂と相溶する高分子であることが好ましい。ここで、「相溶する」とは透明樹脂と修飾高分子(a)を直接混合または混錬する方法もしくは一旦溶媒に溶解したのち混合して溶媒を留去する方法で混合した後の混合物が優れた透明性を有する場合のことである。特に好ましくは、微粒子と共に分散させる透明樹脂と同一もしくは骨格の一部が共通する高分子鎖を有する修飾高分子(a)である。このような修飾高分子は微粒子と共に分散させる透明樹脂とよく相溶するため、当該高分子により表面修飾を施した微粒子も当該透明樹脂中によく分散する。
【0036】
また、上記修飾高分子(a)の、微粒子表面の水酸基と反応して結合する官能基としては、特に制限はないが、具体的には、リン酸、カルボン酸、酸ハライド、酸無水物、イソシアナ−ト、グリシジル基などを挙げることができる。また、上記修飾高分子(a)の上記官能基の数と位置は、特に限定されず、当該修飾高分子の末端および/または側鎖に、1つ以上の上記官能基が導入されていればよい。ただし、上記官能基を多数導入すると、それぞれが別の微粒子と反応して結合を生成し易くなり、その結果、微粒子同士が凝集体を形成し、微粒子の、透明樹脂中への分散性が低下する恐れがあるため、上記修飾高分子(a)は、その高分子鎖末端の一方に水酸基と反応して結合する上記官能基を有するものであることが最も好ましい。
【0037】
上記修飾高分子(a)は、より具体的には、微粒子表面の水酸基と反応して結合を形成する官能基により片末端が変性された片末端変性アクリル樹脂、片末端変性フェノキシ樹脂、片末端変性ポリスチレン、片末端変性ポリカーボナート、片末端変性ポリシクロオレフィン、片末端変性ポリイソプレン、片末端変性ポリ−1、2−ブタジエン、片末端変性ポリイソブテン、片末端変性ポリブテン、片末端変性ポリ−2−ヘプチル−1、3−ブタジエン、片末端変性ポリ−2−t−ブチル−1、3−ブタジエン、片末端変性ポリ−1、3−ブタジエンなどの(ジ)エン類、片末端変性ポリオキシエチレン、片末端変性ポリオキシプロピレン、片末端変性ポリビニルエチルエーテル、片末端変性ポリビニルヘキシルエーテル、片末端変性ポリビニルブチルエーテルなどのポリエーテル類、片末端変性ポリビニルアセテート、片末端変性ポリビニルプロピオネートなどのポリエステル類、片末端変性ポリウレタン、片末端変性エチルセルロース、片末端変性ポリ塩化ビニル、片末端変性ポリアクリロニトリル、片末端変性ポリメタクリロニトリル、片末端変性ポリスルホン、片末端変性ポリスルフィド等が挙げられ、この他にも、片末端変性エチレン酢酸ビニル共重合体、片末端変性エチレン−酢酸ビニル共重合体変性物、片末端変性ポリエチレン、片末端変性エチレン−プロピレン共重合体、片末端変性エチレン−アクリル酸共重合体、片末端変性エチレン−アクリル酸エステル共重合体、片末端変性エチレン−アクリル酸塩共重合体、片末端変性アクリル酸エステル系ゴム、片末端変性ポリイソブチレン、片末端変性アタクチックポリプロピレン、片末端変性ポリビニルブチラール、片末端変性アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、片末端変性スチレン−ブタジエンブロック共重合体、片末端変性スチレン−イソプレンブロック共重合体、片末端変性エチレンセルロース、片末端変性ポリアミド、片末端変性シリコーン系ゴム、片末端変性ポリクロロプレン等の合成ゴム類、片末端変性シリコーン、片末端変性ポリビニルエーテル等が挙げられる。
【0038】
また、上記修飾分子(b)は、上記修飾高分子(a)と同様、複合酸化物微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基を有する分子であり、その重量平均分子量が上記修飾高分子(a)より小さいもの、好ましくは、1000未満の分子である。また、その官能基としては、上記修飾高分子(a)と同様のもの、すなわち、リン酸、カルボン酸、酸ハライド、酸無水物、イソシアナ−ト、グリシジル基などが挙げられる。
【0039】
上記修飾分子(b)は、より具体的には、n−ブチルホスホン酸、n−ヘキシルホスホン酸、n−オクチルホスホン酸、n−デシルホスホン酸、n−ドデシルホスホン酸、n−テトラデシルホスホン酸、n−ヘキサデシルホスホン酸、n−オクタドデシルホスホン酸、フェニルホスホン酸等のホスホン酸、プロピオン酸、酪酸、n−ペンタン酸、n−ヘキサン酸、n−ヘプタン酸、n−オクタン酸、n−ノナン酸、n−デカン酸、n−ウンデカン酸、n−ドデカン酸、n−トリデカン酸、n−テトラデカン酸、n−ペンタデカン酸、n−ヘキサデカン酸、n−ヘプタデカン酸、n−オクタデカン酸、n−イコサン酸、n−ドコサン酸、n−テトラコサン酸、n−ヘキサコサン酸、n−オクタコサン酸、n−トリアコンタン酸、アクリル酸、プロピオル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガトレイン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、イワシ酸、ドコサヘキサエン酸、イソ酪酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、セバシン酸等のカルボン酸およびその酸ハライドもしくはその酸無水物、または、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、p−スチリツトリメトキシシラン、p−スチリツトリエトキシシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシシラン、3−メタクロロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクロロキシプロピルトリエトキシシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシシラン、3−アクロロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクロロキシプロピルトリエトキシシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、3−トリメトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、メトキシジメチルビニルシラン、エトキシジメチルビニルシラン、クロロメチルジメチルメトキシシラン、クロロメチルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリエトキシシラン、3−アリルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−アリルアミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルジメチルメトキシシラン、フェニルジメチルエトキシシラン、ジフェニルメチルメトキシシラン、ジフェニルメチルエトキシシラン、ジメチルエトキシ−3−グリシドオキシプロピルシラン、ジメチルメトキシ−3−グリシドオキシプロピルシラン、ジメトキシメチル−2−ピペリジノエチルシラン、ジエトキシメチル−2−ピペリジノエチルシラン、3−モルホリノプロピルトリメトキシシラン、3−モルホリノプロピルトリエトキシシラン、ジメトキシメチル−3−ピペラジノプロピルシラン、ジエトキシメチル−3−ピペラジノプロピルシラン、3−ピペラジノプロピルトリメトキシシラン、3−ピペラジノプロピルトリエトキシシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリプロピルエトキシシラン、3−ジメトキシアミノプロピルジメトキシメチルシラン、3−ジメトキシアミノプロピルジエトキシメチルシラン、2−(2−アミノエトキシチオエチル)トリメトキシシラン、2−(2−アミノエトキシチオエチル)トリエトキシシラン、ベンジルジメチルメトキシシラン、ベンジルジメチルエトキシシラン、3−(2−アミノエトキシアミノプロピル)トリメトキシシラン、3−(2−アミノエトキシアミノプロピル)トリエトキシシラン、3−シクロヘキシルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−シクロヘキシルアミノプロピルトリエトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、ベンジルトリメトキシシラン、ジエトキシドデシルメチルシラン、ジメトキシドデシルメチルシラン、ジメトキシメチルオクタデシルシラン、ジエトキシメチルオクタデシルシラン及びこれらのクロライド物等を挙げることができる。また、これらの化合物は最終的に金属−酸素−ケイ素結合を形成して表面を修飾することができるが、これと同じ修飾物を与えることが可能な化合物も上記修飾分子(b)に含めることができる。
【0040】
また、上記修飾分子(c)および修飾高分子(d)は、複合酸化物微粒子表面と引力性相互作用による弱い結合を形成する官能基を有する分子であり、具体的には、スルホン酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニウム塩等の塩類、またはホスフィンオキシド基、ホスフィン基、アミノ基、ピリジン基等の官能基などを有する分子である。また、修飾分子(c)における官能基の数や位置に制限はない。これは、当該官能基が微粒子表面から容易に脱離することが可能であるためで、例えば、当該官能基を二つ有する修飾分子(c)の各官能基がそれぞれ異なる二つの無機微粒子表面を修飾しても、容易に少なくとも一方の微粒子表面から脱離することが可能である。また、上記修飾分子(c)の平均重量分子量は、1000未満であることが好ましい。
【0041】
上記修飾分子(c)として、より具体的には、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキサイド、トリブチルホスフィン、トリブチルホスフィンオキサイド、トリオクチルアミン、トリブチルアミン、トリエチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、オクチルアニリン、デシルアニリン、ウンデシルアニリン、ドデシルアニリン、トリデシルアニリン、テトラデシルアニリン、ペンタデシルアニリン、ヘキサデシルアニリン、ヘプタデシルアニリン、オクタデシルアニリン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ステアリン酸ナトリウム及びオレイン酸カリウム等が挙げられる。
【0042】
上記修飾高分子(d)は、より具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸カリウム等が挙げられる。
【0043】
透明樹脂組成物の高屈折率化を図る場合、その透明性を維持できる範囲で複合酸化物微粒子を高充填分散させる必要があるが、当該組成物中における修飾有機物の重量比はなるべく少ない方がよい。したがって、上記修飾高分子(a)、(d)と修飾分子(b)、(c)のうち、2種類以上で微粒子を修飾する場合には、それぞれの修飾量を最適化することが望ましい。この場合、上記第1の形態の本発明の複合酸化物微粒子に施す修飾高分子と修飾分子との割合は、微粒子が透明高分子に分散する限り特に制約はないが、モル比で1:0.01〜1:1000の範囲であることが好ましい。
【0044】
また、上記第1の形態の本発明の複合酸化物微粒子の表面に上記修飾高分子や修飾分子を結合させ、その表面を修飾する方法や条件は、特に制限はないが、複合酸化物微粒子を溶媒中に分散させた状態で行う方がよい。好ましくは、修飾対象の微粒子を一旦、修飾分子(c)で修飾した後、当該修飾分子(c)を修飾高分子(a)や修飾分子(b)で置き換える方法である。修飾分子(c)は、前述の通り、付着と脱離の平衡状態にあり、脱離時に修飾高分子(a)や修飾分子(b)が表面水酸基と化学結合して置き換わる。この修飾方法によれば、修飾分子(c)が一定の量、常に粒子表面に存在するため、粒子表面同士が直接接触しにくく、分離不可能な凝集を防ぐことができる。また、修飾分子(c)を含む溶媒中で修飾対象となる複合酸化物微粒子を製造した後、当該修飾分子(c)を修飾高分子(a)と修飾分子(b)で置き換える方法は、工程の短縮という観点から、最も好ましい修飾方法である。また、修飾後の複合酸化物微粒子の状態は粉末固体状でも溶媒分散状態でもよい。
【0045】
本発明の透明組成物は、表面修飾された本発明の複合酸化物微粒子を有機溶媒やその他の成分と共に分散させてなるものであり、本発明の透明樹脂組成物は、表面修飾された本発明の複合酸化物微粒子を透明樹脂および必要に応じてさらに有機溶媒に分散させてなるものである。
【0046】
上記本発明の組成物中の修飾複合酸化物微粒子の含有量は、特に制限はないが、特に透明樹脂組成物の高屈折率化を行う上では、当該樹脂組成物に対する複合酸化物微粒子の体積比率が5〜95%であることが好ましく、20〜95%であることがより好ましい。なお、組成物中の複合酸化物微粒子の含有量は、窒素雰囲気下摂氏600℃で30分間熱分解して得られる残渣より正確に測定することができる。
【0047】
また、本発明の組成物は、液状、固体状、フィルム状など様々な形態で利用することが可能である。
【0048】
本発明の組成物を液状の組成物として使用する場合やこれを成形する際には、取り扱いやすいように所望の粘度に調整することができる。粘度を調整する手段としては、一般的な有機溶媒や反応性希釈剤を用いることができる。上記有機溶媒としては、例えば、アセトン、ジエチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、メチルセロソルブ、メチルセロソルブアセタート、エチルセロソルブアセタート等のセロソルブ系溶剤、乳酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル等のエステル系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のアルコール系溶剤、テトラヒドロフランなどが挙げられ、必要に応じて単独又は2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0049】
上記透明樹脂としては、特に制限はないが、具体的には(メタ)アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスチレン、ポリカーボナート、ポリシクロオレフィン、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリ−1、2−ブタジエン、ポリイソブテン、ポリブテン、ポリ−2−ヘプチル−1、3−ブタジエン、ポリ−2−t−ブチル−1、3−ブタジエン、ポリ−1、3−ブタジエン等の(ジ)エン類、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルヘキシルエーテル、ポリビニルブチルエーテル等のポリエーテル類、ポリビニルアセテート、ポリビニルプロピオネート等のポリエステル類、ポリウレタン、エチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリスルホン、ポリスルフィド等が挙げられる。その他にも、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体変性物、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸塩共重合体、アクリル酸エステル系ゴム、ポリイソブチレン、アタクチックポリプロピレン、ポリビニルブチラール、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、エチレンセルロース、ポリアミド、シリコン系ゴム、ポリクロロプレン等の合成ゴム類、ポリビニルエーテルなどが適用可能であり、単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0050】
上記(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリ−2−エチルヘキシルアクリレート、ポリ−t−ブチルアクリレート、ポリ−3−エトキシプロピルアクリレート、ポリオキシカルボニルテトラメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリイソプロピルメタクリレート、ポリドデシルメタクリレート、ポリテトラデシルメタクリレート、ポリ−n−プロピルメタクリレート、ポリ−3,3,5−トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリ−2−ニトロ−2−メチルプロピルメタクリレート、ポリ−1,1−ジエチルプロピルメタクリレート、ポリメチルメタクリレートなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル又はこれらの共重合体を使用することができる。
【0051】
また、上記透明樹脂に官能基を導入しておいたり、反応性官能基を持つモノマーを加えることによって、複合酸化物微粒子と混合した後、官能基間の反応を起こして、高分子のネットワーク化を図ることもできる。
【0052】
上記反応性官能基を持つモノマーとしては、ビスフェノールA型エポキシアクリレート、ビスフェノールF型エポキシアクリレート、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルジアクリレート、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジアクリレート、ジプロピレングリコールジグリシジルジアクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸ジアクリレート等のエチレン性2重結合を2個有するもの、フェノールノボラック型エポキシアクリレート、クレゾールノボラック型エポキシアクリレート等のエチレン性2重結合を多数有するもの、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等の2個以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0053】
これら反応性モノマーの官能基間の反応を起こして、高分子のネットワーク化を図るため、一般的な有機過酸化物や光ラジカル重合開始剤、光カチオン硬化剤等を混合することもできる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限するものではない。
【0055】
<修飾分子(c)で表面修飾した複合酸化物微粒子の合成>
(実施例1)
温度計、還流コンデンサーを備えた100ml三つ口フラスコにトリオクチルフォスフィンオキシド(アルドリッチ社製、修飾分子(c))12g、四塩化チタン(和光純薬工業(株)製)2mmol、塩化アンチモン(和光純薬工業(株)製)2mmol、塩化アルミニウム(和光純薬工業(株)製)1mmolを加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら280℃まで加熱した。
【0056】
280℃に到達後、さらにテトライソプロポキシチタン(和光純薬工業(株)製)5mmolを加え、そのまま10分間攪拌した後、放冷したところ沈殿が析出した。傾斜して上澄み液を除き、沈殿を2−プロパノール、アセトンの順で洗浄した結果、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタン、アンチモン、アルミニウムを含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0057】
(実施例2)
塩化アルミニウムに代えて四塩化ジルコニウムを用いた以外は、実施例1と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタン、アンチモン、ジルコニウムを含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0058】
(実施例3)
塩化アルミニウムに代えて塩化亜鉛を用いた以外は、実施例1と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタン、アンチモン、亜鉛を含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0059】
(実施例4)
塩化アルミニウムに代えて塩化スズを用いた以外は、実施例1と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタン、アンチモン、スズを含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0060】
(実施例5)
塩化アルミニウムに代えて塩化カルシウムを用いた以外は、実施例1と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタン、アンチモン、カルシウムを含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0061】
(実施例6)
塩化アルミニウムに代えて塩化マグネシウムを用いた以外は、実施例1と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタン、アンチモン、マグネシウムを含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0062】
(実施例7)
塩化アンチモンを1mmol、塩化アルミニウムを2mmolとした以外は、実施例1と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタン、アンチモン、アルミニウムを含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0063】
(実施例8)
塩化アルミニウムに代えて四塩化ジルコニウムを用いた以外は、実施例7と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタン、アンチモン、ジルコニウムを含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0064】
(実施例9)
塩化アルミニウムに代えて塩化亜鉛を用いた以外は、実施例7と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタン、アンチモン、亜鉛を含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0065】
(実施例10)
塩化アンチモンに代えて塩化ビスマスを用いた以外は、実施例1と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタン、ビスマス、アルミニウムを含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0066】
(実施例11)
塩化アルミニウムに代えて四塩化ジルコニウムを用いた以外は、実施例10と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタン、ビスマス、ジルコニウムを含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0067】
(実施例12)
塩化アルミニウムに代えて塩化亜鉛を用いた以外は、実施例10と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタン、ビスマス、亜鉛を含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0068】
<表面修飾複合酸化物微粒子の評価>
実施例1〜12で得られた表面修飾複合酸化物微粒子の分散性(ヘイズ)および光触媒活性について、下記に従って評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0069】
(分散性)
実施例1〜12で得られた各複合酸化物微粒子0.12gをトルエンに溶解し全体を12gとし、透明な溶媒分散液を得た。これを光路長10mmの石英セルに入れ、ヘイズメーター(日本電色工業(株)製、NDH2000)を用いてヘイズ値を測定した。このとき、複合酸化物を入れないトルエン又はTHFを石英セルに入れたものをリファレンスとして測定した。
【0070】
(光触媒活性)
実施例1〜12で得られた各複合酸化物微粒子0.02g、青色染料(C.I.SolventBlue70)0.0002gをトルエンに溶解し、全体を4gとした。これを光路長10mmの石英セルに入れ、UVランプによって365nmの光を照射して、分光光度計を用いて吸光度を測定した。このとき、複合酸化物微粒子を入れないトルエンを石英セルに入れたものをリファレンスとして測定した。もし、複合酸化物に光触媒活性があれば、UV照射量(露光量)とともに青色染料が分解するので吸収ピークが減少する。あらかじめ作製した青色染料の濃度と吸光度の関係(検量線)とUV照射前後の吸光度変化から、単位露光量(50J/cm)当たりの青色染料分解量を求めた。
【表1】

【表2】

【0071】
表1及び表2から明らかなように、実施例1〜12の複合酸化物微粒子は白色であり、溶媒に分散したときのヘイズ値が非常に小さいため、無色透明の分散液が得られる。また光触媒活性が非常に小さいため、樹脂に分散した場合に紫外線を吸収しても当該樹脂を劣化させることはない。
【0072】
<修飾高分子(a)で表面修飾した複合酸化物微粒子の合成>
(実施例13)
温度計、還流コンデンサーを備えた100ml三つ口フラスコに4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(和光純薬工業(株)製)3.34g、塩化チオニル(和光純薬工業(株)製)10mlを加え窒素雰囲気下で30分間還流させた。還流後、0℃に冷却したヘキサン80mlを加えたところ、沈殿が析出した。傾斜して上澄みを除き、再び0℃に冷却したヘキサン80mlを沈殿に加え激しく振り、沈殿を濾別して減圧乾燥して2.71gの生成物を得た。
【0073】
次に、100ml三つ口フラスコに上記で得た生成物0.18g、THF30ml、メタクリル酸メチル(和光純薬工業(株)製)6gを加えアルゴンバブリングして溶存酸素を除いた。攪拌しながらアルゴン雰囲気下70℃で5時間加熱した後、放冷して末端官能ポリメタクリル酸メチル(以下、PMMA)修飾高分子(重量平均分子量36600)のテトラヒドロフラン溶液を得た。
【0074】
次いで、実施例1で作製したチタン、アンチモン、アルミニウムを含む白色の複合酸化物微粒子をテトラヒドロフラン溶液に分散させた分散液と、上記で得た末端官能PMMA修飾高分子のテトラヒドロフラン溶液を、還流コンデンサーを備えた30ml三つ口フラスコに加え、窒素雰囲気下で加熱して8時間還流させた。その後放冷して室温に戻し、内容物をメタノール20ml中に滴下したところ、沈殿が生成した。この沈殿を濾別して、表面がPMMA修飾された、チタン、アンチモン、アルミニウムを含む白色の複合酸化物微粒子0.08gを得た。
【0075】
次に、上記で得たPMMA修飾複合酸化物微粒子をトルエンに分散させたトルエン分散液を調整した。また、ポリメタクル酸メチル(PMMA、三菱レイヨン製、分子量=40000、屈折率1.49)をトルエンに溶解したPMMAトルエン溶液を調整した。
【0076】
<表面修飾複合酸化物微粒子を含む透明薄膜試料の作製と評価>
実施例13で得られたPMMA表面修飾複合酸化物微粒子のトルエン分散液とPMMAトルエン溶液を、微粒子とPMMAの重量比が表3に示す割合となるように所定量づつ混合し、微粒子の重量比(充填率)が異なる8種類の透明樹脂組成物を調製した。ついで、各透明樹脂組成物をスライドガラス又はシリコンウエハー上にスピンコートして厚み200nmの透明薄膜試料を作製した。この透明薄膜試料について、ヘイズメーター(日本電色工業(株)製NDH2000)を用いてヘイズ値を測定し、自動エリプソメーター(溝尻光学工業所製DVA−36LA)を用いて波長633nmにおける屈折率を測定した。測定結果を表3に示す。
【表3】

【0077】
表3から明らかなように、実施例13で得られた表面修飾複合酸化物微粒子は、非常に分散性に優れているため、透明樹脂(PMMA)に対して高い充填率で混合した場合でも、薄膜試料のヘイズ値が1以下であり、透明性が高い。また、高充填しても透明なので、透明樹脂組成物の屈折率の制御が容易である。
【0078】
(比較例1)
塩化アンチモンおよび塩化アルミニウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された白色の酸化チタン微粒子を沈殿として得た。
【0079】
(比較例2)
四塩化チタンを4mmol、塩化アンチモンを1mmolとし、塩化アルミニウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタンおよびアンチモンを含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0080】
(比較例3)
四塩化チタンを1mmol、塩化アンチモンを4mmolとし、塩化アルミニウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタンおよびアンチモンを含む複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0081】
(比較例4)
塩化アンチモンの代わりに塩化ビスマスを3mmol添加し、塩化アルミニウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタンおよびビスマスを含む複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0082】
(比較例5)
四塩化チタンを4mmol、塩化アルミニウムの代わりに四塩化ジルコニウムを添加し、塩化アンチモンを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、トリオクチルフォスフィンオキシドで表面修飾された、チタンおよびジルコニウムを含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0083】
(比較例6)
四塩化チタンを3mmol、塩化アルミニウムの代わりに塩化カルシウムを2mmol添加し、塩化アンチモンを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、チタンおよびカルシウムを含む白色の複合酸化物微粒子を沈殿として得た。
【0084】
比較例1〜6で得られたそれぞれの酸化物微粒子の分散性(ヘイズ)および光触媒活性を、実施例1と同様の手法により測定、評価した。評価結果を表4に示す。
【表4】

【0085】
表4から明らかなように、比較例1に示した酸化チタン微粒子は、光触媒活性が非常に高いため、樹脂と混合したときに紫外線を吸収し、当該樹脂を劣化させてしまう。また、比較例2に示した、TiにSbを10%molのドープした複合酸化物では、比較例1に比べて光触媒活性が低下しているものの不十分であった。さらに、比較例5及び6に示した、TiにZr、Caをドープした複合酸化物においても光触媒活性の低下が不十分であった。また、比較例3及び4に示した、TiにSb、Biを20mol%以上ドープした複合酸化物では、光触媒活性はほぼ消失しているが、微粒子が薄い褐色になってしまったため、これを溶媒や樹脂に分散させて無色透明な組成物を得ることは困難であり、それゆえ、当該組成物の用途は限定されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti、下記元素群Lから選ばれる少なくとも1種類以上の金属元素、および下記元素群Mから選ばれる少なくとも1種類以上の金属元素、を含有する複合酸化物微粒子であり、含有する金属元素中の元素群Lのモル比[L]/[Ti+L+M]が0.01〜0.2であり、かつ含有する金属元素中の元素群Lと元素群Mの合計のモル比[L+M]/[Ti+L+M]が0.01〜0.5の範囲である複合酸化物微粒子。
・元素群L=Sb、Bi
・元素群M=Al、Zr、Zn、Sn、Ca、Mg
【請求項2】
平均一次粒子径が1〜50nmの範囲である請求項1記載の複合酸化物微粒子。
【請求項3】
複合酸化物微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基を有する修飾高分子(a)で表面が修飾されていることを特徴とする請求項1又は2記載の複合酸化物微粒子。
【請求項4】
複合酸化物微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基を有する修飾分子(b)で表面が修飾されていることを特徴とする請求項1又は2記載の複合酸化物微粒子。
【請求項5】
複合酸化物微粒子表面と引力性相互作用による弱い結合を形成する官能基を有する修飾分子(c)または修飾高分子(d)で表面が修飾されていることを特徴とする請求項1又は2記載の複合酸化物微粒子。
【請求項6】
複合酸化物微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基を有する修飾高分子(a)、複合酸化物微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基を有する修飾分子(b)、複合酸化物微粒子表面と引力性相互作用による弱い結合を形成する官能基を有する修飾分子(c)および複合酸化物微粒子表面と引力性相互作用による弱い結合を形成する官能基を有する修飾高分子(d)からなる群の中から選ばれた少なくとも2種類以上の分子で表面が修飾されていることを特徴とする請求項1又は2記載の複合酸化物微粒子。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれかに記載の複合酸化物微粒子を有機溶媒に分散させた透明組成物。
【請求項8】
請求項3〜6のいずれかに記載の複合酸化物微粒子を樹脂に分散させた透明樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−217272(P2007−217272A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13065(P2007−13065)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】