説明

複合酸化物焼結体及びその用途

【課題】ターゲットとして用いた場合に、スパッタリング中の異常放電現象を著しく抑制することが可能な酸化物焼結体を提供する。
【解決手段】(A)酸化亜鉛を含有し平均粒径が10μm以下の六方晶系ウルツ型構造を有する粒子、および(B)金属元素M(Mはアルミニウム等を示す)を含有し最大粒径が5μm以下のスピネル構造を有する粒子からなる複合酸化物焼結体であって、当該焼結体を構成する亜鉛と金属元素Mが原子比で表したときにM/(Zn+M)=0.006〜0.07であり、かつ、当該焼結体中のスピネル構造を有する粒子同士の粒子間距離は0.5μm以上のものが個数頻度で10%以上である複合酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして成膜に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物焼結体及びその複合酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットに関し、特に酸化亜鉛系焼結体及びその焼結体からなるスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、可視光域での高い透過率と高い導電性を有し、液晶表示素子や太陽電池等の各種受光素子の電極に利用され、また、自動車用・建築材用の熱線反射膜・帯電防止膜や、冷凍ショーケース等の防曇用透明発熱体に広範に利用されている。
【0003】
このような透明導電膜としては、錫をドーパントとして含む酸化インジウム膜や、亜鉛をドーパントとして含む酸化インジウム膜、周期律表の第III族元素を少なくとも1種類以上ドーパントとして含む酸化亜鉛膜等が知られている。
【0004】
錫をドーパントとして含む酸化インジウム膜は、ITO膜と称され、低抵抗膜が容易に得られる。しかしながら、ITO膜の原料であるインジウムは、希少金属で高価であるため、この膜を用いたときの低コスト化には限界がある。また、インジウムは資源埋蔵量が少なく、亜鉛鉱処理等の副産物として得られるに過ぎないため、ITO膜の大幅な生産量増加や安定供給は難しい状況にある。亜鉛をドーパントとして含む酸化インジウム膜は、IZO膜と称され、低抵抗の優れた膜が得られるが、ITO膜と同様に原料であるインジウムの問題がある。
【0005】
そのため、ITO代替の透明導電膜用材料の開発が盛んに進められており、中でも、酸化亜鉛を主成分とし、周期律表の第III族元素を含む酸化亜鉛膜は、主原料である亜鉛が極めて低価格であり、かつ埋蔵量・生産量ともに極めて多いため、ITO膜のような資源枯渇や安定供給に対する懸念等の問題がなく、安価な上に化学的にも安定で、透明性、導電性にも優れていることから注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
ところで、酸化亜鉛(ZnO)は酸化物半導体であり、化学量論組成からのずれによる酸素空孔等の真性欠陥がドナー準位を形成してn型特性を示す。この酸化亜鉛に周期律表の第III族元素を含有させると、伝導電子が増加し、比抵抗が減少する。酸化亜鉛に含ませる周期律表の第III族元素としては、アルミニウム(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、ガリウム(例えば、特許文献3参照)、ホウ素(例えば、特許文献4参照)等が知られている。
【0007】
従来から知られている酸化亜鉛系スパッタリングターゲットでは、透明導電膜等の薄膜形成手段として用いられる場合、スパッタリング中に発生する異常放電現象により、スパッタリング装置の稼働率の低下や発生するパーティクルの影響による製品歩留まりの低下等の問題がある。
【0008】
このようなスパッタリング中に発生する異常放電現象を抑制する手段として、例えば、特許文献1では、製造方法に工夫を凝らすことにより、焼結体を高密度化して抑制する効果を提案している。また、例えば、特許文献5では、焼結体を高密度化し、かつ周期律表第III族元素の酸化物として添加された酸化アルミニウムに起因するアルミニウム成分凝集径を最大5μm以下に抑制することで一層抑制することが示されている。さらに、特許文献6では、酸化亜鉛と添加物の酸化アルミニウムからなるZnAl粒子の平均粒径を0.5μm以下とすることで、スパッタリング中の異常放電を抑制し、耐湿性の向上した薄膜の製造歩留まりを向上させることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2805813号公報
【特許文献2】特開平6−2130号公報
【特許文献3】特開平6−25838号公報
【特許文献4】特開2004−175616号公報
【特許文献5】特許第3864425号公報
【特許文献6】特開2006−200016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、焼結体の高密度化と焼結体内での添加元素由来の凝集径の最大値の制御、あるいは酸化亜鉛と添加剤からなる第二成分粒子の平均粒子径を著しく小さくしただけでは、スパッタリング中の異常放電現象の発生を完全に避けることができず、その際に飛散するパーティクルによる歩留まり低下が生じ、そのために、生産性の低下は免れないという問題があり、より一層の異常放電現象の抑制が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような背景に鑑み、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の複合酸化物焼結体から成るスパッタリングターゲットを用いて成膜することにより、スパッタリング中の異常放電現象を著しく抑制することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、(A)酸化亜鉛を含有し平均粒径が10μm以下の六方晶系ウルツ型構造を有する粒子、および(B)金属元素M(但し、Mはアルミニウムおよび/またはガリウムを示す)を含有し最大粒径が5μm以下のスピネル構造を有する粒子からなる複合酸化物焼結体であって、当該焼結体を構成する亜鉛と金属元素Mを原子比で表したときにM/(Zn+M)=0.006〜0.07であり、かつ、当該焼結体中のスピネル構造を有する粒子同士の粒子間距離は0.5μm以上のものが個数頻度で10%以上であることを特徴する複合酸化物焼結体である。
【0013】
また本発明は、酸化亜鉛粉末および金属元素M(但し、Mはアルミニウムおよび/またはガリウムを示す)の酸化物粉末を、原子比で表したときにM/(Zn+M)=0.006〜0.07の範囲となるよう、1.0mmφ以下のビーズを用いた湿式ビーズミルにより混合し、得られたスラリーを又はそれを乾燥後に成形し、焼成することを特徴とする、上述の複合酸化物成形体の製造方法である。
【0014】
さらに本発明は、上述の複合酸化物焼結体から成ることを特徴とするスパッタリングターゲットである。
【0015】
また本発明は、上述のスパッタリングターゲットを用いることを特徴とする薄膜の製造方法である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明における複合酸化物焼結体中の粒子の平均粒径、最大粒径の測定は以下のように行う。すなわち、本発明の複合酸化物焼結体を適当な大きさに切断した後、観察面を表面研磨し、次に希酢酸溶液でケミカルエッチングを行い、粒界を明確化する。この試料をEPMAやSEM/EDSを用いて、焼結体の研磨面の観察写真を撮るとともに各粒子の組成を確認する。六方晶系ウルツ型構造を有する粒子の平均粒径は、観察写真の当該粒子500個以上の長径を求め、その平均を平均粒径とした。またスピネル構造を有する粒子の最大粒径は、観察写真の当該粒子500個以上の長径を求め、その最大値を最大粒径とした。
【0017】
本発明の複合酸化物焼結体を構成するものとして、(A)酸化亜鉛を含有し平均粒径が10μm以下の六方晶系ウルツ型構造を有する粒子であることが必須である。これによりターゲットとして用いた場合に、異常放電を抑制することができる。ここで、酸化亜鉛を含有し六方晶系ウルツ型構造に帰属される構造を有する粒子とは、X線回折試験で酸化亜鉛の六方晶系ウルツ型構造に帰属される回折パターンを示す物質であり、SEM/EDS、EPMA、SPM等での分析により、確認したものである。
【0018】
また、本発明の複合酸化物焼結体を構成するものとして(B)金属元素M(但し、Mはアルミニウムおよび/またはガリウムを示す)を含有し最大粒径が5μm以下のスピネル構造を有する粒子であることが必須である。これにより、ターゲットとして用いた場合に異常放電を抑制することができる。ここでスピネル構造を有する粒子とは、X線回折試験でスピネル構造化合物に帰属される回折パターンを示す物質であり、SEM/EDS、EPMA、SPM等での分析により、確認したものである。スピネル構造を有する粒子の最大粒径が3μm以下である場合は、異常放電が一層抑制されるため、特に好ましい。
【0019】
このスピネル構造を有する粒子は、金属元素M(但し、Mはアルミニウムおよび/またはガリウムを示す)を含有することが必須であり、この場合に比較的安定した放電特性が得られやすい。金属元素Mとしては、アルミニウムが好ましい。この理由は、アルミニウムは、取扱性が良好で、かつ原料が安価であり、生産性に問題がないためである。このときスピネル構造を有する粒子は主としてZnAlとして表される。
【0020】
この金属元素Mの含有量は、本発明の複合酸化物焼結体を構成する亜鉛と金属元素Mを原子比で表したときに、M/(Zn+M)=0.006〜0.07を満たすものである。このような範囲とすることにより、本発明の複合酸化物焼結体から成るスパッタリングターゲットを用いて成膜した場合に、得られた薄膜の抵抗率を低くすることが可能である。
【0021】
なお、本発明の複合酸化物焼結体には、他の元素が含まれていても良く、例えば、Ti、Zr、In、Si、Ge、Sn、V、Cr、W等を例示することができる。例えばInは、本発明の複合酸化物焼結体の主に六方晶系ウルツ型構造を有する粒子内に存在してもよい。
【0022】
本発明の複合酸化物焼結体中のスピネル構造を有する粒子同士の粒子間距離は0.5μm以上のものが個数頻度で10%以上である。このような粒子間距離の大きい分散状態とすることにより、本発明の複合酸化物焼結体から成るスパッタリングターゲットを用いて成膜した場合に、スパッタリング中の異常放電現象をより一層抑制することが可能となる。
【0023】
なお本発明において、スピネル構造を有する粒子同士の粒子間距離とは、あるスピネル構造を有する粒子と、それと最も近い距離にあるスピネル構造を有する粒子との距離をいい、その求め方は以下のとおりである。即ち、本発明の複合酸化物焼結体の焼肌面から500μm以上内部を鏡面研磨加工し、その面において単位面積20μm×25μmをEPMAによる組成マッピング図と走査型顕微鏡による2次電子像を撮影し、その2つの像を比較することによりスピネル構造を有する粒子同士の粒子間距離を求めることができる。
【0024】
組成マッピング図及び2次電子像撮影については倍率2000倍以上が好ましく、この倍率で観察することにより、測定誤差を小さくすることができる。また、単位面積が20μm×25μmあれば、本発明の複合酸化物焼結体中のスピネル構造を有する粒子同士の粒子間距離の代表値として捉えることができると考えられる。また測定箇所については、簡易的に1ヶ所のみの測定でも問題はないが、通常、6ヶ所を測定することが好ましい。
【0025】
なお、本発明において、スピネル構造を有する粒子とは、1次粒子であっても2次粒子であっても良く、そのいずれかが本発明の規定を満たせば良い。
【0026】
次に、本発明の複合酸化物焼結体の製造方法について説明する。
【0027】
原料粉末としては、酸化亜鉛粉末および金属元素Mの酸化物粉末を用いる。これらの粉末は、取扱性を考慮するとBET値が10〜20m/gであることが好ましく、これにより本発明の複合酸化物焼結体を得ることが容易となる。BET値が10m/gよりも小さい粉末の場合は、粉砕処理を行ってBET値が10〜20m/gの粉末としてから用いることが好ましい。またBET値が20m/gよりも大きい粉末を使用することも可能であるが、粉末が嵩高くなるため、取り扱い性を改善するために圧密処理等を行うことが好ましい。
【0028】
次に、この原料粉末を原子比で表したときにM/(Zn+M)=0.006〜0.07となるよう混合する。混合は、1mmφ以下のビーズを用いた湿式ビーズミルで行う。ジルコニア、アルミナ、ナイロン樹脂等のビーズを用いることが好ましい。
【0029】
混合を行うに際しては、スラリー中に添加物を共存させても良い。添加物としては、一般にバインダー、分散剤、可塑剤、消泡剤等と称される有機系添加剤が好ましく用いられる。中でも、ポリカルボン酸系、アクリル系、アルコール系、水溶性ワックス類、エマルジョン系添加剤等の添加剤が好ましく、具体的にはポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリアクリル酸、アクリル酸メタクリル酸共重合体、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ステアリン酸エマルジョン等が好ましい。これらの添加剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いることが可能である。添加量は、原料粉末に対して固形分換算で0.3重量%以下が好ましい。
【0030】
混合では、スラリー中に各原料粉末を均一分散させることが肝要である。そのために、スラリー粘度は2000mPa・s以下が好ましく、また混合により原料粉末のBET値が2m/g以上大きくなるよう混合することが好ましい。このとき、スラリー中の固形分濃度は50重量%以上、かつpH=7〜11とすることが好ましい。固形分濃度を50重量%以上とするのは生産性を向上させるためであり、pH=7〜11とするのは原料の酸化亜鉛粉末の取り扱い性に配慮するためである。なお、混合前のBET値は原料粉末の重量組成比換算で求めた値を用い、混合後のBET値はスラリーを乾燥後に測定される。
【0031】
また混合操作は、さらに均一性を向上させるために、回分操作を行うことが好ましい。すなわち、1ロット分の原料粉末を混合するに際し、各原料粉末をそれぞれが目的とする組成になるようにいくつかに分割し、初めにそれぞれを混合し、最終的にそれらを1ロットに混合する方法である。
【0032】
次に、湿式ビーズミルで均一混合されたスラリーを成形する。鋳込み成形等の湿式成形方法では、スラリーをそのまま用いることが可能であるが、乾式成形の場合には、乾燥する必要がある。この乾燥方法は特に限定されるものではないが、例えば、濾過乾燥、流動層乾燥、噴霧乾燥等が例示できる。中でもスプレードライヤーによる噴霧乾燥は、生産性が高いとともに、得られる造粒粉末の流動性が良好であることから、乾式成形を用いる場合には好適な乾燥方法として重宝される。
【0033】
成形方法は、目的とした形状に成形できる成形方法を適宜選択することが肝要であり、特に限定されるものではない。プレス成形法、鋳込み成形法等の乾式、湿式の成形方法が例示できる。成形圧力はクラック等の発生がなく、取り扱いが可能な成形体であれば特に限定されるものではないが、成形密度は可能な限り、高めた方がより好ましい。そのために冷間静水圧成形(CIP)等の方法を用いることも可能である。
【0034】
次に得られた成形体を焼成する。焼成温度は800〜1600℃が好ましく、特に1100〜1400℃に範囲が酸化亜鉛系複合酸化物特有の揮発消失が抑制され、かつ焼結密度を比較的高められるのでより好ましい。焼結密度は4.7g/cm以上が好ましく、これにより取り扱いに優れ、スパッタリング時の破損等を減らすことができる。
【0035】
焼成時間は特に限定されるものではないが、通常1〜48時間であり、特に好ましくは3〜24時間である。これは、本発明の複合酸化物焼結体中の均質性を確保し、かつ生産性への影響を考慮したものである。
【0036】
昇温速度は特に限定されるものではないが、800℃以上の温度域では100℃/h以下であることが好ましい。これは、本発明の複合酸化物焼結体中のスピネル構造を有する粒子の粒成長を抑制し、かつ均質性を高めるためである。
【0037】
焼成雰囲気は特に限定されるものではないが、例えば、大気中、酸素中、不活性ガス雰囲気中等が適宜選択される。また、焼成時の圧力も特に限定されるものではなく、常圧以外に加圧、減圧状態での焼成も可能である。また、HIP法やホットプレス焼結等も可能である。
【発明の効果】
【0038】
本発明の複合酸化物焼結体から成るスパッタリングターゲットを用いて成膜することにより、スパッタリング中の異常放電現象を著しく低減でき、その際に飛散するパーティクルによる歩留まり低下や生産性の低下を抑制することが可能となる。
【実施例】
【0039】
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
実施例1
BET4m/g、純度99.8%の酸化亜鉛粉末とBET14m/g、純度99.99%の酸化アルミニウム粉末を表1に示した組成になるように0.5mmφのジルコニア製ビーズを用いた湿式ビーズミルで混合した。このとき、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を原料粉末に対して固形分換算で0.2重量%添加した。得られたスラリー粘度は17mPa・s、pH=9.5、混合後のBET値は6.9m/gであった。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥した後、3.0ton/cmで直径150mm、厚さ12mmにCIP成形した。焼結は1400℃、窒素雰囲気で5時間行った。得られた焼結体の特性を表1に示す。即ち、XRD、SEM/EDS、EPMAでの分析により、酸化亜鉛を含有し六方晶系ウルツ型構造を有する粒子とスピネル構造を有する粒子を観察、マッピングし、六方晶系ウルツ型構造を有する粒子の平均粒径、スピネル構造を有する粒子の最大粒径、スピネル型構造を有する粒子の粒子間距離を求めた。スピネル型構造を有する粒子の粒子間距離は前述の方法で求め、0.5μm以上のものが個数頻度で10%以上の場合を「○」、10%未満の場合を「×」とした。
【0041】
この焼結体を4インチφサイズに加工してターゲットとし、スパッタリング評価を行った。スパッタリング条件は、DCマグネトロンスパッタ装置、基板温度200℃、到達真空度5×10−5Pa、スパッタリングガスAr、スパッタリングガス圧0.5Pa、DCパワー300Wとした。放電特性は、単位時間当たりに発生した異常放電回数として評価し、10回未満/時間を「○」、10〜100回未満/時間を「△」、100回以上/時間を「×」とした。結果を表1に示す。なお、表1に記載のM量は、使用した酸化亜鉛粉末および金属元素Mの酸化物粉末を原子比で表したときのM/(Zn+M)を示す。
【0042】
実施例2
BET12.7m/g、純度99.8%の酸化亜鉛粉末とBET14m/g、純度99.99%の酸化アルミニウム粉末を表1に示した組成になるように0.5mmφのアルミナ製ビーズを用いた湿式ビーズミルで混合した。このとき、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を原料粉末に対して固形分換算で0.2重量%添加した。得られたスラリー粘度は23mPa・s、pH=9.2、混合後のBET値は15.3m/gであった。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥した後、3.0ton/cmで直径150mm、厚さ12mmにCIP成形した。焼結は1400℃、窒素雰囲気で3時間行った。得られた焼結体の特性を表1に示す。
【0043】
この焼結体を4インチφサイズに加工してターゲットとし、実施例1と同様にしてスパッタリング評価を行った。結果を表1に示す。
【0044】
実施例3
BET4m/g、純度99.8%の酸化亜鉛粉末とBET14m/g、純度99.99%の酸化アルミニウム粉末を表1に示した組成になるように1.0mmφのアルミナ製ビーズを用いた湿式ビーズミルで混合した。このときのスラリー粘度は10mPa・s、pH=8.9、混合後のBET値は6.8m/gであった。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥した後、3.0ton/cmで直径150mm、厚さ12mmにCIP成形した。焼結は1200℃、窒素雰囲気で5時間行った。得られた焼結体の特性を表1に示す。
【0045】
この焼結体を4インチφサイズに加工してターゲットとし、実施例1と同様にしてスパッタリング評価を行った。結果を表1に示す。
【0046】
実施例4
BET4m/g、純度99.8%の酸化亜鉛粉末とBET14m/g、純度99.99%の酸化アルミニウム粉末を表1に示した組成になるように秤量し、それぞれ2等分してそれぞれを0.3mmφのジルコニア製ビーズを用いた湿式ビーズミルで混合した。さらに両者をあわせて1ロットとして同様に湿式ビーズミルで混合した。このときのスラリー粘度は800mPa・s、pH=9.4、混合後のBET値は7.9m/gであった。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥した後、3.0ton/cmで直径150mm、厚さ12mmにCIP成形した。焼結は1500℃、大気雰囲気で12時間行った。得られた焼結体の特性を表1に示す。
【0047】
この焼結体を4インチφサイズに加工してターゲットとし、実施例1と同様にしてスパッタリング評価を行った。結果を表1に示す。
【0048】
実施例5
BET4m/g、純度99.8%の酸化亜鉛粉末とBET14m/g、純度99.99%の酸化アルミニウム粉末を表1に示した組成になるように秤量し、それぞれ4等分してそれぞれを0.3mmφのアルミナ製ビーズを用いた湿式ビーズミルで混合した。さらにそれらをあわせて1ロットとして同様に湿式ビーズミルで混合した。このとき、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を原料粉末に対して固形分換算で0.1重量%添加した。得られたスラリー粘度は1225mPa・s、pH=9.8、混合後のBET値は12.8m/gであった。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥した後、3.0ton/cmで直径150mm、厚さ12mmにCIP成形した。焼結は1400℃、窒素雰囲気で5時間行った。得られた焼結体の特性を表1に示す。
【0049】
この焼結体を4インチφサイズに加工してターゲットとし、実施例1と同様にしてスパッタリング評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
実施例6
BET4m/g、純度99.8%の酸化亜鉛粉末とBET14m/g、純度99.99%の酸化アルミニウム粉末を表1に示した組成になるように1.0mmφのアルミナ製ビーズを用いた湿式ビーズミルで混合した。このとき、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を原料粉末に対して固形分換算で0.15重量%添加した。得られたスラリー粘度は17mPa・s、pH=9.1、混合後のBET値は6.9m/gであった。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥した後、3.0ton/cmで直径150mm、厚さ12mmにCIP成形した。焼結は1100℃、窒素雰囲気で5時間行った。得られた焼結体の特性を表1に示す。
【0051】
この焼結体を4インチφサイズに加工してターゲットとし、実施例1と同様にしてスパッタリング評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
実施例7
BET4m/g、純度99.8%の酸化亜鉛粉末とBET14m/g、純度99.99%の酸化アルミニウム粉末を表1に示した組成になるように0.5mmφのアルミナ製ビーズを用いた湿式ビーズミルで混合した。このとき、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を原料粉末に対して固形分換算で0.l重量%添加した。得られたスラリー粘度は1800mPa・s、pH=9.3、混合後のBET値は7.3m/gであった。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥した後、3.0ton/cmで直径150mm、厚さ12mmにCIP成形した。焼結は1400℃、窒素雰囲気で5時間行った。得られた焼結体の特性を表1に示す。
【0053】
この焼結体を4インチφサイズに加工してターゲットとし、実施例1と同様にしてスパッタリング評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
実施例8
BET4m/g、純度99.8%の酸化亜鉛粉末とBET8m/g、純度99.99%の酸化ガリウム粉末を表1に示した組成になるように0.4mmφのアルミナ製ビーズを用いた湿式ビーズミルで混合した。このとき、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を原料粉末に対して固形分換算で0.15重量%添加した。得られたスラリー粘度は250mPa・s、pH=9.1、混合後のBET値は6.6m/gであった。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥した後、3.0ton/cmで直径150mm、厚さ12mmにCIP成形した。焼結は1400℃、窒素雰囲気で5時間行った。得られた焼結体の特性を表1に示す。
【0055】
この焼結体を4インチφサイズに加工してターゲットとし、実施例1と同様にしてスパッタリング評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
実施例9
BET4m/g、純度99.8%の酸化亜鉛粉末とBET14m/g、純度99.99%の酸化アルミニウム粉末、BET8m/g、純度99.99%の酸化ガリウム粉末を表1に示した組成になるように0.5mmφのアルミナ製ビーズを用いた湿式ビーズミルで混合した。このとき、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を原料粉末に対して固形分換算で0.2重量%添加した。得られたスラリー粘度は55mPa・s、pH=9.3、混合後のBET値は6.9m/gであった。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥した後、3.0ton/cmで直径150mm、厚さ12mmにCIP成形した。焼結は1400℃、窒素雰囲気で5時間行った。得られた焼結体の特性を表1に示す。
【0057】
この焼結体を4インチφサイズに加工してターゲットとし、実施例1と同様にしてスパッタリング評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

比較例1
BET4m/g、純度99.8%の酸化亜鉛粉末とBET14m/g、純度99.99%の酸化アルミニウム粉末を表2に示した組成になるように1.0mmφのジルコニア製ビーズを用いた湿式ビーズミルで混合した。得られたスラリー粘度は3500mPa・s、pH=9.8、混合後のBET値は5.1m/gであった。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥した後、3.0ton/cmで直径150mm、厚さ12mmにCIP成形した。焼結は1400℃、窒素雰囲気で5時間行った。得られた焼結体の特性を表2に示す。
【0059】
この焼結体を4インチφサイズに加工してターゲットとし、実施例1と同様にしてスパッタリング評価を行った。結果を表2に示す。なお、表2に記載の各項目は表1と同様の意味を示す。
【0060】
比較例2
BET4m/g、純度99.8%の酸化亜鉛粉末とBET14m/g、純度99.99%の酸化アルミニウム粉末を表2に示した組成になるように3mmφのアルミナ製ビーズを用いた湿式ビーズミルで混合した。このとき、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を原料粉末に対して固形分換算で0.05重量%添加した。得られたスラリー粘度は14mPa・s、pH=9.2、混合後のBET値は5.3m/gであった。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥した後、3.0ton/cmで直径150mm、厚さ12mmにCIP成形した。焼結は1400℃、窒素雰囲気で5時間行った。得られた焼結体の特性を表2に示す。
【0061】
この焼結体を4インチφサイズに加工してターゲットとし、実施例1と同様にしてスパッタリング評価を行った。結果を表2に示す。
【0062】
比較例3
BET4m/g、純度99.8%の酸化亜鉛粉末とBET14m/g、純度99.99%の酸化アルミニウム粉末を表2に示した組成になるように15mmφのアルミナ製ボールを用いた乾式ボールミルで混合した。得られた混合粉末のBET値は5.2m/gであった。この混合粉末を3.0ton/cmで直径150mm、厚さ12mmにCIP成形した。焼結は1400℃、窒素雰囲気で5時間行った。得られた焼結体の特性を表2に示す。
【0063】
この焼結体を4インチφサイズに加工してターゲットとし、実施例1と同様にしてスパッタリング評価を行った。結果を表2に示す。
【0064】
比較例4
BET4m/g、純度99.8%の酸化亜鉛粉末とBET14m/g、純度99.99%の酸化アルミニウム粉末を表2に示した組成になるように15mmφのアルミナ製ボールを用いた湿式ボールミルで混合した。このとき、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を原料粉末に対して固形分換算で0.5重量%添加した。得られたスラリー粘度は450mPa・s、pH=9.0、混合後のBET値は6.5m/gであった。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥した後、3.0ton/cmで直径150mm、厚さ12mmにCIP成形した。焼結は1400℃、窒素雰囲気で5時間行った。得られた焼結体の特性を表2に示す。
【0065】
この焼結体を4インチφサイズに加工してターゲットとし、実施例1と同様にしてスパッタリング評価を行った。結果を表2に示す。
【0066】
比較例5
BET4m/g、純度99.8%の酸化亜鉛粉末とBET8m/g、純度99.99%の酸化ガリウム粉末を表2に示した組成になるように5mmφのジルコニア製ビーズを用いた湿式ビーズミルで混合した。得られたスラリー粘度は4100mPa・s、pH=9.1、混合後のBET値は5.0m/gであった。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥した後、3.0ton/cmで直径150mm、厚さ12mmにCIP成形した。焼結は1400℃、窒素雰囲気で5時間行った。得られた焼結体の特性を表2に示す。
【0067】
この焼結体を4インチφサイズに加工してターゲットとし、実施例1と同様にしてスパッタリング評価を行った。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

以上の実施例1〜9と比較例1〜5から明らかなように、本発明の複合酸化物焼結体から成るスパッタリングターゲットを用いて成膜することにより、スパッタリング中の異常放電を著しく抑制することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸化亜鉛を含有し平均粒径が10μm以下の六方晶系ウルツ型構造を有する粒子、
および
(B)金属元素M(但し、Mはアルミニウムおよび/またはガリウムを示す)を含有し最大粒径が5μm以下のスピネル構造を有する粒子
からなる複合酸化物焼結体であって、
当該焼結体を構成する亜鉛と金属元素Mを原子比で表したときにM/(Zn+M)=0.006〜0.07であり、かつ、当該焼結体中のスピネル構造を有する粒子同士の粒子間距離は0.5μm以上のものが個数頻度で10%以上であることを特徴とする複合酸化物焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載の複合酸化物焼結体において、金属元素Mがアルミニウムであることを特徴とする焼結体。
【請求項3】
酸化亜鉛粉末および金属元素M(但し、Mはアルミニウムおよび/またはガリウムを示す)の酸化物粉末を、原子比で表したときにM/(Zn+M)=0.006〜0.07の範囲となるよう、1.0mmφ以下のビーズを用いた湿式ビーズミルにより混合し、得られたスラリーを又はそれを乾燥後に成形し、焼成することを特徴とする、請求項1または2に記載の複合酸化物成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の複合酸化物焼結体から成ることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項5】
請求項4に記載のスパッタリングターゲットを用いることを特徴とする薄膜の製造方法。

【公開番号】特開2010−70448(P2010−70448A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162110(P2009−162110)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】