説明

複合酸化物触媒

a)コバルトと、b)アルカリ金属グループ、アルカリ土類金属グループ、希土類又は亜鉛のグループ又はこれらの混合物の1つ又はそれ以上の元素とを含有し、その際に元素a)及びb)は少なくとも一部がそれらの複合酸化物の形で存在する触媒前駆物質を還元することにより製造される触媒並びにこれらの触媒の製造方法及び不飽和有機化合物を水素化するためのそれらの使用。さらに、この触媒を、液体での触媒の処理により再生する方法が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、a)コバルトと、b)アルカリ金属グループ、アルカリ土類金属グループ、希土類又は亜鉛のグループ又はそれらの混合物からの1つ又はそれ以上の元素とを含有する触媒前駆物質の還元により製造される触媒に関するものであり、その際に元素a)及びb)は少なくとも一部がそれらの複合酸化物の形で存在する。さらに、本発明は、これらの触媒の製造方法及び水素化のためのそれらの使用に関する。本発明はそのうえ、これらの触媒の再生方法に関する。
【0002】
本発明のさらなる実施態様は、請求の範囲、明細書及び実施例から得ることができる。本発明による対象の前記の特徴及び以下にさらに説明されうる特徴が、その都度示された組合せだけでなく他の組合せでも、本発明の範囲から逸脱することなく使用可能であることが理解される。
コバルト触媒は、通例、触媒前駆物質、例えば水酸化コバルト、硝酸コバルト及び酸化コバルトのか焼及び還元により製造されるか、もしくはコバルトスポンジ触媒(ラネーコバルト)の形で水素化反応において使用される。
【0003】
ラネー触媒を用いる有機ニトリルの水素化は、しばしば、塩基性のアルカリ金属化合物もしくはアルカリ土類金属化合物の存在で実施され、例えば米国特許(US)第3,821,305号明細書、米国特許(US)第5,874,625号明細書、米国特許(US)第5,151,543号明細書、米国特許(US)第4,375,003号明細書、欧州特許出願公開(EP-A)第0316761号明細書、欧州特許出願公開(EP-A)第0913388号明細書及び米国特許(US)第6,660,887号明細書に記載されている。
【0004】
コバルト含有触媒はさらに、酸化コバルト、水酸化コバルトもしくは炭酸コバルトの還元により製造されることができる。独国特許出願公開(DE-OS)第3403377号明細書には、酸化コバルト粒子及び/又は酸化ニッケル粒子から水素との接触により得ることができる金属のコバルト粒子及び/又はニッケル粒子を含有する触媒が記載されている。この開示によれば、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含量は有利には0.1質量%未満である。欧州特許(EP-B)第0742045号明細書には、元素コバルト(55〜98質量%)、リン(0.2〜15質量%)、マンガン(0.2〜15質量%)及びアルカリ金属(0.05〜5質量%)の酸化物のか焼及び引き続き水素流中での還元により製造されるコバルト触媒が記載されている。コバルト塩の水溶液からの炭酸コバルトの沈殿及び引き続き水素での還元により得ることができるコバルト触媒は、欧州特許出願公開(EP-A)第0 322 760号明細書に説明されている。加えて、これらの触媒は、触媒の全質量を基準として、0.25〜15質量%の、SiO2、MnO2、ZrO2、Al23及びMgOを、酸化物、水酸化物又はオキシ水酸化物(Oxidhydrate)の形で含有していてよい。元素Fe、Ni、Mn、Cr、Mo、W及びPの1つ又はそれ以上の酸化物と、アルカリ金属グループ、アルカリ土類金属グループ及び希土類グループの1つ又はそれ以上の酸化物とからなる水素化触媒は、欧州特許(EP-B)第0 445 589号明細書に記載されている。開示によれば、前記酸化物は還元後に部分的に金属として存在する。
【0005】
本発明を用いて、常法に比較して利点を可能にする水素化のための改善された触媒が提供されるべきである。例えば、金属、例えば骨格触媒の場合のアルミニウム又はアルカリ性助触媒、例えばリチウムはできるだけ少ない量で触媒から溶出されるべきである、それというのも、このことは触媒の安定性を弱め、かつ失活をまねくからである。溶出されたアルミニウムから塩基性条件下で形成されるアルミン酸塩は、固体残留物として閉塞及び堆積をまねきうるものであり、かつ有用生成物の分解を引き起こしうる。本発明のさらなる目的は、有機化合物の水素化を、単純化された反応条件下で可能にする触媒を見出すことであった。故に、水素化反応をより低い圧力で実施することを可能にする触媒が見出されるべきである。さらに、水、アンモニア及び水性塩基の不在で実施されることができる水素化法が入手できるべきである。
【0006】
本発明の目的はさらに、第一級アミンへのニトリルの水素化を高い選択率で可能にする水素化法を提供することであった。
それに応じて、冒頭に記載された触媒が見出された。
【0007】
本発明によれば、前記触媒は、a)コバルトと、b)アルカリ金属グループ、アルカリ土類金属グループ、希土類又は亜鉛のグループ又はこれらの混合物の1つ又はそれ以上の元素とを含有し、その際に元素a)及びb)は少なくとも一部がそれらの複合酸化物の形で存在する触媒前駆物質を還元することによって、得ることができる。
【0008】
複合酸化物は、その結晶格子が、コバルト及び酸素に加えて、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のグループ又は希土類又は亜鉛のグループからの少なくとも1つの別の元素b)をさらに含有することによって特徴付けられている。例えば、b)は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム又は亜鉛、好ましくはリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム又は亜鉛あるいは前記の元素の2つ又はそれ以上の混合物であってよい。
【0009】
コバルト対元素b)の量比に相応して、
1.元素b)が、コバルトの代わりに格子サイトを占める(置換型固溶体)か、又は格子間サイトを占める(侵入型固溶体)、
2.コバルトが、元素b)の代わりに格子サイト又は格子間サイトを占める、又は
3.コバルト及び元素b)が、酸素と共に、基本化合物の結晶格子に似ていない共通した結晶格子を形成する
ことができる。
【0010】
複合酸化物という呼称には、本明細書では、明らかにいわゆる"固溶体"、すなわち連続した系列の混晶も含まれる。
酸化物の混合物又は酸化物混合物は、本発明により存在している複合酸化物とは、酸化物の混合物又は酸化物混合物の場合に、酸化コバルト及び元素b)の酸化物の結晶構造が多かれ少なかれ微細な分布で並存して存在するという点で相違する。本発明による複合酸化物が存在することは、分析的に、例えばX線回折法を用いて、検出されることができる。比較スペクトルもしくは参照スペクトルは、結晶構造データベース[ICSD (Inorganic Crystal Structure Database), Bergerhoff他, Universitaet Bonn (D)又はPowder Diffraction File, Berry他, International Centre for Diffraction Data (ICDD), Swarthmore (USA)]にある。
本発明による触媒の製造に使用される触媒前駆物質は、上記で説明した通り、一部がコバルト及び少なくとも1つの前記の元素b)を有する複合酸化物として存在する。好ましくは、触媒前駆物質は、一部が、Co及びLiの複合酸化物として、Co及びNaの複合酸化物として、Co及びKの複合酸化物として、Co及びRbの複合酸化物として、Co及びCsの複合酸化物として、Co及びBeの複合酸化物として、Co及びMgの複合酸化物として、Co及びCaの複合酸化物として、Co及びSrの複合酸化物として、Co及びBaの複合酸化物として、Co及びLaの複合酸化物として、Co及びYの複合酸化物として及びCo及びZnの複合酸化物として存在する。特に好ましくは、触媒前駆物質は、一部が、Co及びLiの複合酸化物として、Co及びMgの複合酸化物として及びCo及びZnの複合酸化物として存在し、かつ極めて特に好ましくは、触媒前駆物質は一部がCo及びLiの複合酸化物として及びCo及びMgの複合酸化物として存在する。
好ましい別の一実施態様において、本発明による触媒の製造に使用される触媒前駆物質は、一部が、Li、Na及びCoの複合酸化物として、Li、K及びCoの複合酸化物として、Li、Mg及びCoの複合酸化物として、Li、Ca及びCoの複合酸化物として、Na、Mg及びCoの複合酸化物として、K、Mg及びCoの複合酸化物として、Na、Ca及びCoの複合酸化物として及びK、Ca及びCoの複合酸化物として存在する。
【0011】
好ましい一実施態様において、実験式MIxIIyCoz(x/2+y+z×1.5)[ここで、x=0又はx=0.1〜1、y=0又はy=0.1〜1及びz=0.1〜1であり、かつx及びyは同時にゼロであってはならず、かつMIはアルカリ金属グループの少なくとも1つの元素であり、かつMIIはアルカリ土類金属グループ又は亜鉛の少なくとも1つの元素である]の1つ又はそれ以上の化合物を有する触媒前駆物質が還元されることができる。
実験式LiCoO2(コバルト酸リチウム)を有する触媒前駆物質が特に好ましい。LiCoO2は、低温相(LT−LiCoO2)、高温相(HT−LiCoO2)の形で又は双方の相の混合物として存在していてよい。
好ましい別の一実施態様において、触媒前駆物質として、電池のリサイクルにより取得されるコバルト酸リチウムが使用される。
さらに、式MgaCob1を有する酸化Co及び酸化Mgの連続した混晶系列が触媒前駆物質として適しており、その際に0<a<1及び0<b<1及びa+b=1である。
前記触媒前駆物質は、本発明によれば、一部がそれらの複合酸化物の形で存在する。しかしまた前記触媒前駆物質は専らそれらの複合酸化物の形で存在していてよい。好ましくは、触媒前駆物質中の複合酸化物の形で存在するコバルトの割合は、触媒前駆物質中に含まれる全てのコバルトをその都度基準として、少なくとも10mol%、有利に少なくとも20mol%及び特に好ましくは少なくとも30mol%である。前記触媒前駆物質は、1つ又はそれ以上の複合酸化物に加えて、1つ又はそれ以上の付加的成分を含有することも可能である。付加的成分として、元素酸化物が含まれていてよい。元素酸化物として、第1〜第5主族の元素の酸化物又は第3〜第8副族の元素の酸化物、特に元素Co、Ni、Cu、Mn、P、Cr、Ag、Fe、Zr、Al、Ti、Li、Na、K、Mg、Ca、Zr、La又はYの酸化物が適当でありうる。
【0012】
前記触媒前駆物質は、1つ又はそれ以上のドーピング元素を含有していてよい。適したドーピング元素は、元素の周期表の第3〜第8副族の元素(IUPACの2005年10月03日版(http://www.iupac.org/reports/periodic_table/IUPAC_Periodic_Table-3Oct05.pdf)における)並びに第3、第4及び第5主族の元素である。好ましいドーピング元素は、Fe、Ni、Cr、Mn、P、Ti、Nb、V、Cu、Ag、Pd、Pt、Rh、Ir、Ru及びAuである。ドーピング元素は、使用される触媒前駆物質をその都度基準として、好ましくは10質量%以下、例えば0.1〜10質量%の量で、特に好ましくは1〜5質量%の量で含まれている。
【0013】
触媒前駆物質は、一般的に、コバルトの相応する化合物及びアルカリ金属グループの1つ又はそれ以上の化合物、アルカリ土類金属グループの化合物、希土類のグループの化合物又は亜鉛の化合物、例えば硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、酸化物、酢酸塩、シュウ酸塩又はクエン酸塩の熱処理により製造されることができる。熱処理は、例えば、前記の化合物の溶融結着(Zusammenschmelzen)又はか焼と理解されることができる。その際に、前記の化合物、例えば硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、酸化物の熱処理は、空気中で行われることができる。好ましい一実施態様において、熱処理、特に炭酸塩の熱処理は、不活性ガス雰囲気下に行われる。不活性ガスとして、例えば、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、クリプトン又は前記の不活性ガスの混合物が適している。好ましくは、窒素が適している。不活性ガス雰囲気下での前記の化合物の熱処理による触媒前駆物質の製造は、触媒前駆物質のその後の還元が、前記の熱処理に直接続けてできるという利点を有する。触媒前駆物質が不活性ガス雰囲気下に製造されない場合には、還元の前に付加的な不活性化工程が行われるべきである。不活性化工程において、妨害する化合物、例えば還元において還元剤と反応しうる空気酸素は、例えば不活性ガスで触媒前駆物質をガス処理することによるか又は何度も真空排気し、かつ不活性ガスを通気することにより、除去されることができる。
【0014】
触媒前駆物質の別の製造方法は、アルカリ性溶液の添加による、水溶性コバルト化合物並びに水溶性アルカリ金属化合物、水溶性アルカリ土類金属化合物、水溶性の希土類の化合物及び水溶性亜鉛化合物のグループからの少なくとも1つ又はそれ以上の元素の沈殿、引き続き乾燥及びか焼である。
【0015】
LiCoO2の製造方法は、例えばAntolini[E. Antolini, Solid State Ionics, 159-171 (2004)]及びFenton他[W. M. Fenton, P. A. Huppert, Sheet Metal Industries, 25 (1948), 2255-2259)に記載されている。
【0016】
例えば、LiCoO2は、相応するリチウム化合物及びコバルト化合物、例えば硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、酸化物、酢酸塩、クエン酸塩又はシュウ酸塩の熱処理により製造されることができる。
【0017】
さらに、LiCoO2は、アルカリ性溶液の添加による水溶性のリチウム塩及びコバルト塩の沈殿によって沈殿され、引き続きか焼によって得られることができる。
【0018】
LiCoO2はそのうえ、ゾル−ゲル法により取得されることができる。
【0019】
LiCoO2は、Song他[S.W. Song, K.S. Han, M. Yoshimura, Y. Sata, A. Tatsuhiro, Mat. Res. Soc. Symp. Proc, 606, 205-210 (2000)]により記載されたように、LiOH水溶液でのコバルト金属の水熱処理により得ることもできる。
【0020】
本発明によれば、触媒前駆物質として、電池のリサイクルにより取得されるLiCoO2も使用されることができる。使用済み電池からコバルト酸リチウムを再利用もしくは回収する方法は、例えば、中国特許出願公開(CN)第1594109号明細書から導き出されることができる。電池を機械的に開け、濃NaOHでアルミニウム成分を溶出させることにより、LiCoO2に富むろ過ケークが得られることができる。
酸化物性触媒前駆物質の合成後に、還元の前に、洗浄工程又はその後の乾燥を伴う洗浄工程を続けることができる。洗浄工程により、不純物、副生物又は未反応の出発物質は除去されることができる。
【0021】
前記触媒前駆物質は、前記のように、1つ又はそれ以上のドーピング元素を含有していてよい。
【0022】
これらのドープは、触媒前駆物質の製造の際に金属錯体及び金属塩、例えば金属炭酸塩及び金属酸化物、又は金属自体を添加することにより、相応する酸化物又は炭酸塩又はそれらの混合物の溶融結着により導入されることができる。同じように、ドープは、製造の際に沈殿反応を通じて、沈殿試薬に添加される水溶性の塩及び錯体として導入されることができる。さらに、酸化物性触媒前駆物質を還元前にさらに、金属塩で、これらが特定の時間に亘って、例えば水溶液中で前記複合酸化物と接触されることによって、表面上でドープすることが可能である。前記触媒前駆物質の還元後にも及びそれどころか水素化反応中にも、触媒前駆物質の還元により既に製造された触媒がさらに同じ方法でドープされることができる。その際に触媒前駆物質及び/又はまた触媒は、ドーピング元素で既にドープされていてよい。
【0023】
通例、粉末状で生じる触媒前駆物質は、還元の前に、成形されることができるか、又は多孔質で表面活性な材料に吸収(担持)されることができる。通常の成形及び担持の方法は、例えばUllmann[Ullmann’s Encyclopedia Electronic Release 2000, 章: 'Catalysis and Catalysts', p.28-32]に記載されている。同じように、適した物質が担体上へ施与され、そこで反応されることができ、その際に触媒前駆物質が生じる。
【0024】
触媒前駆物質の還元は、触媒前駆物質が懸濁されている液体中で行われることができる。液体中での還元は、例えば、撹拌オートクレーブ、充填された気泡塔、循環反応器又は固定床反応器中で行われることができる。
【0025】
前記還元は、粉末として乾燥状態で、運動式又は非運動式の還元炉中又は固定床中又は流動層中で実施されることもできる。
好ましい一実施態様において、触媒前駆物質の還元は、前記触媒前駆物質が懸濁されている液体中で実施される。
【0026】
前記触媒前駆物質を懸濁させるのに適した液体は、水又は有機溶剤、例えばエーテル、例えばメチル−t−ブチルエーテル、エチル−t−ブチルエーテル又はテトラヒドロフラン(THF)、アルコール、例えばメタノール、エタノール又はイソプロパノール、炭化水素、例えばヘキサン、ヘプタン又はラフィネート留分、芳香族化合物、例えばトルエン又はアミド、例えばジメチルホルムアミド又はジメチルアセトアミド又はラクタム、例えばN−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N−メチルカプロラクタム又はN−エチルカプロラクタムである。液体として、前記の溶剤の適した混合物も考慮に値する。
【0027】
好ましい液体は、実施すべき水素化からの生成物を含有する。実施すべき水素化の生成物である液体が特に好ましい。
【0028】
好ましい別の一変法において、触媒前駆物質は、水を含有しない液体中に懸濁される。
懸濁液中での触媒前駆物質の還元の際に、温度は一般的に、50〜300℃、特に100〜250℃、特に好ましくは120〜200℃の範囲内である。
【0029】
懸濁液中での還元は、通例、1〜300バール、好ましくは10〜250バール、特に好ましくは30〜200バールの圧力で実施され、その際に圧力データはここで及び以下に、絶対的に測定される圧力に基づいている。
還元剤として、水素又は水素を含有するガス又は水素化物イオン源が考慮に値する。
【0030】
前記水素は、一般的に工業的に純粋で使用される。水素は、水素を含有するガスの形で、すなわち他の不活性ガス、例えば窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン又は二酸化炭素と混合して、使用されることもできる。水素流は、循環ガスとして、場合により新鮮な水素と混合され、かつ場合により凝縮により水の除去後に、前記還元へ返送されることもできる。
【0031】
乾燥した、通例、粉末状の触媒前駆物質の還元は、高められた温度で、運動式又は非運動式の還元炉中で実施されることができる。触媒前駆物質の還元は、通例、50〜600℃、特に100〜500℃、特に好ましくは150〜400℃の還元温度で行われる。
【0032】
操作圧力は通例、1〜300バール、特に1〜200バール、特に好ましくは1〜10バールであり、その際に水素流又は前記のようにさらに他の不活性ガスの混合物を含有していてよい水素を含有する流れは、触媒床を経て又は触媒床上へ導通されることができる。この実施態様の場合にも、水素流は、循環ガスとして、場合により新鮮な水素と混合され、かつ場合により凝縮により水の除去後に、前記還元へ返送されることができる。
【0033】
前記還元は好ましくは、還元度が少なくとも50%であるように実施される。還元度の測定方法として、乾燥した触媒前駆物質の質量減少と、乾燥した還元された触媒との比較が行われ、この比較の際にこれらの試料は、室温から900℃までで、水素を含有するガス流中で還元され、その際に質量減少の積分が記録される。還元度は、質量減少の比から次のように計算される:還元度[%]=100×(1−(質量減少還元された触媒/質量減少酸化物性前駆物質))。
【0034】
還元中に、溶剤は、生じる反応水を導出するために、供給されることができる。溶剤はこの場合に超臨界で供給されることもできる。
【0035】
適した溶剤は、前記のように前記触媒を懸濁させるのに適しているものと同じ溶剤であってよい。好ましい溶剤は、エーテル、例えばメチル−t−ブチルエーテル、エチル−t−ブチルエーテル又はテトラヒドロフラン、アルコール、例えばメタノール、エタノール又はイソプロパノール、炭化水素、例えばヘキサン、ヘプタン又はラフィネート留分、芳香族化合物、例えばトルエン又はアミド、例えばジメチルホルムアミド又はジメチルアセトアミド又はラクタム、例えばN−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N−メチルカプロラクタム又はN−エチルカプロラクタムである。メタノール又はテトラヒドロフランが特に好ましい。適した溶剤として、同様に適した混合物が考慮に値する。
前記触媒前駆物質の還元のための上記の反応条件は、一般的に、例えば撹拌オートクレーブ、流動層又は固定床法に当てはまる。
本発明による触媒は、触媒前駆物質から出発して、溶剤中での水素化物イオン源を用いる還元によっても製造されることができる。適した水素化物イオン源は、複合水素化物、例えばLiAlH4又はNaBH4である。適した溶剤は、エーテル、例えばメチル−t−ブチルエーテル、エチル−t−ブチルエーテル又はテトラヒドロフラン、炭化水素、例えばヘキサン、ヘプタン又はラフィネート留分又は芳香族化合物、例えばトルエンである。テトラヒドロフランが特に好ましい。適した溶剤として、同様に適した混合物が考慮に値する。
【0036】
水素化物イオン源の使用の際に、還元は好ましくは10〜200℃の温度で相応する系自生圧で実施される。
【0037】
触媒前駆物質の前記還元は、好ましくは50〜100%の還元度まで実施されることができる。
【0038】
前記触媒は、還元後に、不活性ガス、例えば窒素下に、又は不活性な液体下に、例えばアルコール、水中又は触媒が使用されるそれぞれの反応の生成物中で、取り扱われ、かつ貯蔵されることができる。しかしまた、前記触媒は、還元後に、酸素を含有するガス流、例えば空気又は空気と窒素との混合物で不動態化されてよく、すなわち保護する酸化物層が設けられてよい。
【0039】
触媒という概念は以下に、本発明により前記の触媒前駆物質の還元により製造された触媒、又は前記のように活性化後に酸素を含有するガス流で不動態化された触媒を呼ぶ。
【0040】
不活性な物質下での触媒の貯蔵又は触媒の不動態化は、触媒の複雑でない及び危険のない取り扱い及び貯蔵を可能にする。場合により、触媒から、実際の反応の開始前に、不活性な液体がその後に除去されなければならないか、もしくは不動態化層は、例えば水素又は水素を含有するガスでの処理により取り除かなければならない。
【0041】
本発明による触媒は、不飽和炭素−炭素結合、炭素−窒素結合又は炭素−酸素結合を少なくとも1つ有する化合物を水素化するか、又は芳香族を有する化合物を部分的又は完全に核水素化する方法において使用されることができる。
【0042】
適した化合物は、通例、少なくとも1つ又はそれ以上のカルボン酸アミド基、ニトリル基、イミン基、エナミン基、アジン基又はオキシム基を有する化合物であり、これらはアミンに水素化される。
さらに、本発明による方法において、少なくとも1つ又はそれ以上のカルボン酸エステル基、カルボン酸基、アルデヒド基又はケト基を有する化合物は、アルコールに水素化されることができる。
適した化合物は、不飽和又は飽和の炭素環又は複素環に変換されることができる芳香族化合物でもある。
本発明による方法において使用されることができる特に適した化合物は、有機ニトリル化合物である。これらは、第一級アミンに水素化されることができる。
【0043】
適したニトリルは、エチルアミンの製造のためのアセトニトリル、プロピルアミンの製造のためのプロピオニトリル、ブチルアミンの製造のためのブチロニトリル、ラウリルアミンの製造のためのラウロニトリル、ステアリルアミンの製造のためのステアリルニトリル、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン(DMAPA)の製造のためのN,N−ジメチルアミノプロピオニトリル(DMAPN)及びベンジルアミンの製造のためのベンゾニトリルである。適したジニトリルは、ヘキサメチレンジアミン(HMD)及び/又はアミノカプロニトリル(ACN)の製造のためのアジポジニトリル(ADN)、2−メチルグルタロジアミンの製造のための2−メチルグルタロジニトリル、1,4−ブタンジアミンの製造のためのスクシノニトリル及びオクタメチレンジアミンの製造のためのスベリン酸ジニトリルである。さらに環状ニトリル、例えばイソホロンジアミンの製造のためのイソホロンニトリルイミン(イソホロンニトリル)及びm−キシリレンジアミンの製造のためのイソフタロジニトリルが適している。同じように、α−アミノニトリル及びβ−アミノニトリル、例えば1,3−ジアミノプロパンの製造のためのアミノプロピオニトリル又はω−アミノニトリル、例えばヘキサメチレンジアミンの製造のためのアミノカプロニトリルが適している。適した別の化合物は、いわゆる"ストレッカーニトリル"、例えばジエチレントリアミンの製造のためのイミノジアセトニトリルである。同様に、トルイジンジアミンの製造のためのジニトロトルエンが適している。適した別のニトリルは、β−アミノニトリル、例えばアルキルアミン、アルキルジアミン又はアルカノールアミンとアクリロニトリルとの付加生成物である。例えば、エチレンジアミン及びアクリロニトリルの付加生成物は相応するジアミンに変換されることができる。例えば、3−[2−アミノエチル)アミノ]プロピオニトリルは、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルアミンに、及び3,3’−(エチレンジイミノ)ビスプロピオニトリルもしくは3−[2−(3−アミノプロピルアミノ)エチルアミノ]プロピオニトリルはN,N’−ビス−(3−アミノプロピル)エチレンジアミンに変換されることができる。
【0044】
特に好ましくは、N,N−ジメチルアミノプロピオニトリル(DMAPN)はN,N−ジメチルアミノプロピルアミン(DMAPA)の製造に、及びアジポジニトリル(ADN)はヘキサメチレンジアミン(HMD)の製造に、本発明による方法において使用される。
【0045】
還元剤として、水素、水素を含有するガス又は水素化物イオン源が使用されることができる。
【0046】
水素化に使用される水素は、一般的に、1〜25倍、好ましくは2〜10倍の量の相対的に多い化学量論的過剰量で又は化学量論量で使用される。これは循環ガスとして反応へ返送されることができる。前記水素は、一般的に工業的に純粋で使用される。水素は、水素を含有するガスの形で、すなわち他の不活性ガス、例えば窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン又は二酸化炭素と混合して、使用されることもできる。
【0047】
前記水素化は、同様に水素化物イオン源を用いて行われることができる。適した水素化物イオン源は、複合水素化物、例えばLiAlH4又はNaBH4である。
【0048】
ニトリルの還元によるアミンの製造方法の場合に、水素化は、アンモニアを添加しながら行われることができる。アンモニアは、通例、その際にニトリル基に対するモル比で、0.5:1〜100:1、好ましくは2:1〜20:1の比で使用される。好ましい実施態様は、アンモニアが添加されない方法である。
前記水素化は、液体の存在で実施されることができる。
【0049】
前記液体は、前記のように、前記触媒前駆物質が還元されたか又は懸濁されたものと同じ液体であってよい。
【0050】
適した液体は、例えばC1〜C4−アルコール、C4〜C12−ジアルキルエーテル又は環状C4〜C12−エーテル、例えばテトラヒドロフラン又はt−ブチルメチルエーテルである。適した液体は、前記の液体の混合物であってもよい。前記液体は、水素化の生成物であってもよい。
好ましい一実施態様において、前記水素化は、無水の液体中で実施される。
【0051】
前記触媒から、水素化の開始前に、不活性な液体もしくは不動態化層が除去されることができる。これは、例えば水素又は水素を含有するガスでの処理により行われる。好ましくは、水素化は、触媒前駆物質の還元直後に、還元も行われた同一の反応器中で行われる。
【0052】
前記水素化は通例、1〜300バール、特に5〜200バール、好ましくは8〜85バール及び特に好ましくは10〜65バールの圧力で、実施される。好ましくは、水素化は低圧法として65バール未満の圧力で実施される。
温度は、通例、40〜250℃、特に60〜160℃、好ましくは70〜150℃、特に好ましくは80〜130℃の範囲内である。
【0053】
前記水素化は、例えば、液相において、撹拌オートクレーブ、気泡塔、循環反応器、例えばジェットループ又は固定床反応器中で行われることができる。
【0054】
前記触媒は、当業者に知られた方法、例えばろ過又は沈降法を用いて、生成物から分離されることができる。
【0055】
同じように、前記水素化は、気相において、固定床反応器又は流動床反応器中で実施されることができる。水素化反応を実施するための通常の反応器は、例えばUllmann’s Encyclopaedieに記載されている[Ullmann’s Encyclopedia Electronic Release 2000, 章: Hydrogenation and Dehydrogenation, p.2-3]。
【0056】
好ましくは、前記水素化は懸濁液中で実施される。
【0057】
特別な一実施態様において、たいてい、方法単純化の理由から、水素化は、触媒前駆物質の還元も行われる同一の反応容器中で実施される。
【0058】
前記水素化法は、不連続に、半連続的に又は連続的に実施されることができる。好ましくは、前記水素化法は半連続的に又は連続的に実施される。
【0059】
本発明による触媒の活性及び/又は選択率は、運転時間が増加すると共に減少しうる。それに応じて、触媒を液体で処理することによる、本発明による触媒の再生方法が見出された。液体での前記触媒の処理は、触媒の活性サイトをブロックする場合により付着している化合物が剥離されるようにするべきである。液体での前記触媒の処理は、液体中での触媒の撹拌によるか又は液体中での触媒の洗浄により行われることができ、その際に処理が行われた後に、前記液体は、ろ過又はデカンテーションにより、剥離された不純物と共に、触媒から分離されることができる。
【0060】
適した液体は、通例、水素化の生成物、水又は有機溶剤、好ましくはエーテル、アルコール又はアミドである。
【0061】
別の一実施態様において、液体での触媒の処理は、水素又は水素を含有するガスの存在で行われることができる。
【0062】
この再生は、高められた温度、通例20〜250℃の温度下に実施されることができる。使用された触媒を乾燥させ、かつ付着している有機化合物を揮発性化合物、例えばCO2に空気下に酸化させることも可能である。水素化において前記触媒をさらに使用する前に、この触媒は、酸化が行われた後に、通例、前記のように活性化されなければならない。
【0063】
再生の際に、前記触媒は、元素b)の化合物で後ドープされることができる。後ドープは、触媒が、元素b)の水溶性塩基に浸漬されるか又は湿潤されることによって行われることができる。
【0064】
本発明の利点は、本発明による触媒の使用により、装置及び投資の要件並びに水素化法でのプラントのための操作コストを低下させることである。特に、投資コストは、操作圧力の増加及び溶剤及び添加剤の使用と共に上昇する。本発明による水素化法は、水及びアンモニアの不在でも操作されることができるので、反応生成物からの水及びアンモニアの分離のための処理工程(蒸留)が割愛されるか又は単純化される。水及びアンモニアの不在により、さらに、既存の反応器容積がより良好に利用されることができる、それというのも、自由になる体積が、付加的な反応容積として使用されることができるからである。
【0065】
本発明による触媒前駆物質の還元が液体中で実施されることができることにより、小さいサイズ及び大きい表面積を有する触媒粒子が得られることができる。
【0066】
本発明は、以下の例において説明される。
【0067】
定義:
触媒負荷は、生成物量と触媒質量及び時間の積との商として示される。
触媒負荷=生成物量/(触媒質量・反応時間)
触媒負荷の単位は、[kg生成物/(kg触媒・h)]又は[g生成物/(g触媒・h)]で示される。
【0068】
前記の選択率を、ガスクロマトグラフィーによる分析により決定し、かつ面積パーセントから計算した。
出発物質転化率U(E)は、次の式に従って計算される:
【数1】

【0069】
生成物の収率A(P)は、生成物信号の面積パーセントから得られる。
【0070】
A(P)=F%(P)、
ここで、出発物質(F%(E))、生成物(F%(P))、副生物(F%(N))又はかなり一般的に物質i(F%(i))の面積パーセントF%(i)は、物質iの信号の下方の面積F(i)及び全面積F、すなわち信号iの下方の面積の総和の商から、100をかけることにより得られる:
【数2】

【0071】
出発物質の選択率S(E)は、生成物収率A(P)及び出発物質転化率U(E)の商として計算される:
【数3】

【0072】
DMAPNをジメチルアミン(DMA)と混合した場合には、面積パーセントのデータはDMA信号の下方の面積を有しない全面積に基づく。
【0073】
【数4】

【0074】
これは、生成物中に見出されたDMAが、出発物質の分解により生じているのではなくて、予めの添加により専ら由来するという仮定に基づいて行われる。
【0075】
使用される省略形:
g:グラム
質量%:質量パーセント
h:時間
kg:キログラム
min.:分
ml:ミリリットル
ppm:parts per million=百万分率
体積%:体積パーセント
XRD:X-Ray Diffraction=X線回折
ADN:アジポジニトリル
ACN:アミノカプロニトリル
DMA:ジメチルアミン
DMAPA:N,N−ジメチルアミノプロピルアミン
DMAPN:ジメチルアミノプロピオニトリル
HMD:ヘキサメチレンジアミン
THF:テトラヒドロフラン。
【0076】
例1
A)本発明による触媒の製造:
高圧オートクレーブ中で、THF 80g及びLiCoO2 3.0gを合一した。
このオートクレーブを密閉し、混合物を不活性化し、水素を押し込んで10バールにした。自生圧下及び撹拌しながら、150℃に加熱した。この温度に達した際に、水素を押し込んで100バールにした。引き続き12h還元した。その後、オートクレーブを冷却し、放圧して約36バールにした。
【0077】
B)DMAPNの水素化:
触媒製造(1A)の直後に、100℃の温度及び36バールの圧力でDMA 2.5質量%を含有する粗DMAPN 0.44ml/min.を反応器中へポンプ輸送し、その際に水素の後押し込みにより圧力をほぼ一定に保持した。これは7.5g DMAPN/(g LiCoO2・h)の触媒負荷に相当する。8〜20hの期間内で、粗排出物中で得られるDMAPAの選択率は98.7〜99.6%であった。20h後に負荷を2倍にした。これは95%への転化率の下降及び96.1%への選択率の低下となった。140℃への温度及び60バールへの圧力の増加により、転化率は再び完全転化率に上昇されることができ、その際に選択率は98.8%(53h)に高められた。Li及びCoについての排出物(62〜74h)の分析は陰性であり、Li及びCo <1ppmが検出された。
【0078】
例2
A)本発明による触媒の製造:
撹拌オートクレーブ中で、LiCoO2 1.5gをTHF 35gと合一し、150℃及び水素100バールで24hに亘って激しく撹拌しながら活性化させた。この時間の後に、オートクレーブを冷却し、放圧して10バールにした。
【0079】
B)DMAPNの水素化:
触媒製造(2A)の直後に、100℃の温度に調節した。この温度に達した後に、水素を押し込んで36バールの圧力にした。引き続き、撹拌しながら2hに亘って純DMAPN 24g(触媒負荷=7g DMAPN/(g LiCoO2・h))を計量供給し、その際に圧力は水素の後押し込みによりほぼ一定に保持した。2h後に、計量供給のスイッチを切り、1分待ち、ついで反応器内容物17gを取り出した。この手順をさらに2回繰り返し、その際に2回目の場合に反応器内容物22g及び3回目の場合に27gを取り出した。分析は、その都度完全転化率及びDMAPA 99.7%の選択率を有していた。Li及びCoについての最後の排出物の分析はCo <1ppm及びLi約1ppmとなった。
【0080】
例1及び2は、より長い期間に亘る、触媒前駆物質LiCoO2から製造された本発明による触媒の高い性能を証明する。さらに、前記前駆物質段階において含まれるLiが還元により、可溶な形へ変換されず、かつ連続法において排出されることが示されることができた。実施例から明らかな別の利点は、前記触媒が、標準装置中で温和な条件下に活性化されることができるという事実である。試験の開始時に存在している水は、本発明による触媒の活性のためには必要ではない、それというのも、水は連続的に除去され、かつそれにもかかわらず触媒は活性なままであるからである。
【0081】
例3
A)本発明による触媒の製造:
高圧オートクレーブ中で、THF 100g及びLiCoO2 12gを合一した。このオートクレーブを密閉し、混合物を不活性化し、水素を押し込んで10バールにした。自生圧下及び撹拌しながら、200℃に加熱した。この温度に達した際に、水素を押し込んで100バールにした。引き続き24h還元した。その後、オートクレーブを冷却し、窒素下に放圧した。引き続き、触媒(3A)を装置中で窒素過剰圧下にろ別し、THFで洗浄した。こうして得られた黒色ペースト(33.8g)は、約37%の乾燥質量割合を有していた。
【0082】
B)不飽和基質の水素化:
触媒(3A)を用いて、第1表に記載された試験3.1〜3.5をついで実施した。
【0083】
第1表:不飽和基質の水素化
【表1】

1 触媒負荷[kg基質/[kg触媒・h]
【0084】
触媒(3A)の製造後に、引き続き、前記表に示された量の触媒を撹拌オートクレーブ中に及び前記表に示された量の装入物を添加した。その後、反応器を前記表に示された温度に調節した。この温度に達した後に、水素を押し込んで前記表に示された圧力にした。
"バッチ試験"(3.1〜3.3)において、撹拌機のスイッチを入れた後についで水素化し、その際に圧力は、水素の後押し込みによりほぼ一定に保持した。水素化の期間は、第2表の"計量供給時間/水素化時間"の欄に示されている。第2表には、得られた生成物の転化率及び選択率が列挙されている。
【0085】
第2表:水素化結果
【表2】

1 生成物に加えて主にシクロオクタエン36%が見出された
【0086】
"供給−バッチ試験"(3.4〜3.6)において、撹拌しながらの触媒前駆物質の活性化に引き続いて、"計量供給された量"の欄に示された量の前記の出発物質を、撹拌しながら計量供給し、その際に圧力を水素の後押し込みによりほぼ一定に保持した。示された時間後の分析結果は、同様に第2表に示されている。
【0087】
例3は、不飽和炭素−炭素結合、炭素−窒素結合又は炭素−酸素結合を有する極めて多様な化合物が極めて良好な選択率で水素化されうることを示している。
【0088】
例4
A)本発明による触媒の製造:
1)ニッケルでのLiCoO2のドープ
LiCoO2 12g及び酢酸Ni(II)四水和物1.2gを、密閉したガラスビン中で脱塩水50ml中で10hに亘って激しく撹拌した。その後、黒色粉末(4A−1)をろ別し、水で及びTHFで洗浄した。
【0089】
2)触媒の製造:
こうして処理された触媒前駆物質(例4A−1から)13.2gを引き続き、THF 100g中で200℃及び100バールで24hに亘って300ml水素化オートクレーブ中で還元した。還元後に、THFで湿った還元された触媒17.8gがろ過することにより得られた。こうして得られた触媒(4A−2)は、約57%の乾燥質量割合を有していた。
【0090】
B)DMAPNの水素化:
触媒(4A−2)2.2gを引き続き撹拌オートクレーブ中に充填し、100℃の温度に調節した。この温度に達した後に、水素を押し込んで36バールの圧力にした。引き続き、撹拌しながら8hに亘って純DMAPN 48g(触媒負荷=4.1g DMAPN/(g触媒・h))を計量供給し、その際に圧力を水素の後押し込みによりほぼ一定に保持した。8hの計量供給及び水素化後の試料は、転化率99.0%、DMAPAに対する選択率99.7%となった。
【0091】
例4は、Niでドープされた触媒が、より低い活性を有するが、しかしながら例1A)の未ドープの触媒よりも、DMAPNの水素化においてより高い選択率を有することを示している。
【0092】
例5:
A)ADNの水素化のための本発明による触媒の使用:
LiCoO2 6gを、例2Aに記載されたように、THF 80g中で還元した。引き続き、36バール及び100℃で6hに亘ってADN 60gを計量供給した。水素圧を、水素の連続的な後押し込みにより一定に保持した。6h後に、ADN計量供給を止め、さらに6h後水素化した。6h後の試料のガスクロマトグラフィーによる分析は、転化率99.8%及びHMD及びACNに対する選択率97.6%を示した。その際に、HMD 97.0%及びACN 0.5%が形成されていた。
【0093】
比較例1:
A)比較触媒の製造:
高圧オートクレーブ中で、Co34 6gをTHF 80gと合一し、200℃及びH2 100バールで12hに亘って激しく撹拌しながら活性化させた。この時間の後に、オートクレーブを100℃に冷却し、放圧して36バールにした。
【0094】
B)ADNの水素化:
比較触媒(V1−A)の製造直後に、100℃及び36バールで撹拌しながら、6hに亘って純ADN 60g(触媒負荷:1.7g ADN/(g触媒・h))を計量供給し、圧力を水素の後押し込みにより36バールで保持した。6h後に、計量供給のスイッチを切り、さらに同じ条件で6h後撹拌した。6h後の試料のガスクロマトグラフィーによる分析は、転化率57%及びHMD及びACNに対する選択率87.7%を示した。その際に、HMD 30.5%及びACN 19.4%が形成されていた。12h後の試料のガスクロマトグラフィーによる分析は、転化率81.0%及びHMD及びACNに対する選択率88.5%を示した。その際に、HMD 44.4%及びACN 27.2%が形成されていた。
【0095】
例5及び比較例1は、本発明による複合酸化物構造を含有する触媒前駆物質の還元により製造される触媒が、純粋な酸化コバルトからなる触媒前駆物質の還元により製造された触媒に比べて、利点を有することを示している。同じ触媒負荷の場合に、本発明による触媒の生産性は、純粋な酸化Co触媒前駆物質から製造された触媒の生産性よりもはるかに高くなった。この触媒は、6hの後水素化時間後にも、還元温度が50℃高くなっていたにもかかわらず、LiCoO2の場合に既に6h後に達していた転化率になお達しなかった。
【0096】
例6
A)触媒前駆物質の製造:
粉末状炭酸マグネシウム及び炭酸コバルト(II)水和物(CAS 513-79-1)を、比0.5:1[mol Mg : mol Co]で強力に混合し、炉中で、空気中でか焼した。このためには、2hかけて400℃に加熱し、この温度を2h保持した。こうした得られた酸化物性触媒前駆物質は、XRD(X線回折)においてCoO/MgO混晶及びスピネル構造の回折信号を示す。
【0097】
B)本発明による触媒の製造:
窒素で不活性化され、加熱された還元炉中で、か焼(例6A)から得られた粉末を、N2 90体積%及びH2 10体積%からなるガス流でガス処理し、2hかけて300℃に加熱し、この温度で16h還元し、ついで冷却した。冷却した後に、水素含有雰囲気を窒素により交換した。こうして得られた還元された触媒は、X線回折(XRD)によれば、主に立方晶及び六方晶のコバルト並びにCoO/MgOを含有する。
こうして得られた還元された触媒(6B)を、以下に6C)に記載されたように使用した。
【0098】
C)DMAPNの水素化:
撹拌オートクレーブ中で、触媒(6B)3gをDMAPA 35gと合一した。水素10バールを押し込み、軽く撹拌しながら100℃に加熱した。この温度に達した後に、H2を後押し込みして36バールにし、DMAPN 6g/hの計量供給を開始した。水素圧を連続的な後押し込みによりほぼ一定に保持した。8h後に計量供給を終了し、さらに3h後水素化した。8h後の試料は、転化率99.8%及び選択率99.3%を示した。11h後に、転化率は99.95%であり、かつ選択率は99.2%であった。
【0099】
例7
A)触媒前駆物質の製造:
粉末状炭酸リチウム(CAS 554-13-2)及び炭酸コバルト(II)水和物(CAS 513-79-1)を、比1:1[mol Li : mol Co]で強力に混合し、炉中で、空気中でか焼した。このためには、2hかけて400℃に加熱し、この温度を2h保持した。こうして得られた触媒前駆物質は、1:1[mol:mol](元素分析から)のLi:Co比及び34m2/gの表面積(BET測定)を有していた。X線粉末回折図形(XRD、Cu−K−α線)における回折線から、この触媒前駆物質の結晶質の主成分がLiCoO2複合酸化物であることが結論付けられた。
【0100】
B)本発明による触媒の製造:
窒素で不活性化され、加熱された還元炉中で、か焼から得られた粉末(例7A)を、N2 90体積%及びH2 10体積%からなるガス流でガス処理し、2hかけて300℃に加熱し、この温度で16h還元し、ついで冷却した。冷却した後に、水素含有雰囲気を窒素により交換した。
こうして得られた還元された触媒(7B)を、7C)に記載されたように使用した。
触媒の不動態化のために、窒素が完全に空気により交換されるまで、窒素雰囲気にゆっくりと空気を添加した。
こうして得られた不動態化された触媒を、7D)及び7E)に記載されたように使用した。
【0101】
C)DMAPNのセミバッチ水素化:
例7B)からの触媒3.0gを用いて、DMAPN水素化のためのセミバッチ試験を実施した。撹拌オートクレーブ中にDMAPA 35gを装入し、100℃の温度に調節した。この温度に達した後に、水素を押し込んで36バールの圧力にした。引き続き、撹拌しながら8hに亘ってDMAPN 35g(触媒負荷=約2g DMAPN/(g触媒・h))を計量供給し、その際に圧力を、水素を後押し込みしながらほぼ一定に保持した。8hの計量供給及び水素化後の試料は、転化率99.9%及びDMAPAに対する選択率99.6%となった。
【0102】
D)DMAPNのセミバッチ水素化:
例7B)の不動態化された触媒3.0gを用いて、DMAPN水素化のためのセミバッチ試験を実施した。撹拌オートクレーブ中にDMAPA 35gを装入し、100℃の温度に調節した。この温度に達した後に、水素を押し込んで36バールの圧力にした。引き続き、撹拌しながら8hに亘ってDMAPN 35g(触媒負荷=約2g DMAPN/(g触媒・h))を計量供給し、その際に圧力を、水素を後押し込みしながらほぼ一定に保持した。8hの計量供給及び水素化後の試料は、転化率99.9%及びDMAPAに対する選択率99.7%となった。
【0103】
E)DMAPNの連続水素化:
例7B)の不動態化された触媒を、懸濁液中でのDMAPNの連続水素化の際に予備活性化せずに使用した。40バールの水素圧及び120℃、触媒2.5質量%及び1.2kg DMAPN/(kg触媒・h)の負荷の場合に、前記試験は、400h後に、一定で高いDMAPN転化率>99.9%で99.5%の変わらず高い選択率と共に、失活の前兆なしに終了した。
【0104】
例7は、前記触媒が、完全に還元されて又は不動態化されて、使用されることができ、その際に水素化の開始前に不動態化された触媒の別個な活性化が必ずしも必要ではないことを示している。
例7は同じように、前記触媒が連続法における使用にも適していることを示している。
【0105】
例8
A)触媒前駆物質の製造:
粉末状炭酸リチウム(CAS 554-13-2)及び炭酸コバルト(II)水和物(CAS 513-79-1)を、比0.8:1[mol Li : mol Co]で強力に混合し、炉中で、空気中でか焼した。このためには、2hかけて400℃に加熱し、この温度を2h保持した。X線粉末回折図形(XRD、Cu−K−α線)においてこうして得られた触媒前駆物質(8A)の回折線から、結晶質の主成分である非化学量論的なLixCo(1+x/3)2複合酸化物に加えて、Co34がなおいくらか存在することが結論づけられることができた。
【0106】
B)本発明による触媒の製造:
窒素で不活性化され、加熱された還元炉中で、か焼から得られた触媒前駆物質(8A)を、N2 90体積%及びH2 10体積%からなるガス流でガス処理し、2hかけて300℃に加熱し、この温度で16h還元し、ついで冷却した。冷却した後に、水素含有雰囲気を窒素により交換した。
こうして得られた還元された触媒(8B)を、C)に記載されたように使用した。
【0107】
C)DMAPNの水素化:
触媒(8B) 3.0gを用いて、DMAPN水素化のためのセミバッチ試験を実施した。撹拌オートクレーブ中にDMAPA 35gを装入し、100℃の温度に調節した。この温度に達した後に、水素を押し込んで36バールの圧力にした。引き続き、撹拌しながら8hに亘ってDMAPN 35g(触媒負荷=約2g DMAPN/(g触媒・h))を計量供給し、その際に圧力を、水素を後押し込みしながらほぼ一定に保持した。8hの計量供給及び水素化後の試料は、転化率99.8%及びDMAPAに対する選択率99.8%となった。
【0108】
例8は、大部分が複合酸化物からなるが、しかし専らなっていない触媒前駆物質も、本発明によれば適していることを明らかに説明している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)コバルトと、b)アルカリ金属グループ、アルカリ土類金属グループ、希土類又は亜鉛のグループ又はこれらの混合物の1つ又はそれ以上の元素とを含有し、その際に元素a)及びb)は少なくとも一部がそれらの複合酸化物の形で存在する触媒前駆物質を還元することによって得ることができる触媒。
【請求項2】
触媒前駆物質としてLiCoO2を使用することにより得ることができる、請求項1記載の触媒。
【請求項3】
触媒前駆物質として、電池のリサイクルにより取得されるLiCoO2を使用することにより得ることができる、請求項1から2までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項4】
触媒前駆物質の還元を液体中で行うことにより得ることができる、請求項1から3までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項5】
触媒の製造方法であって、a)コバルトと、b)アルカリ金属グループ、アルカリ土類金属グループ、希土類又は亜鉛のグループ又はこれらの混合物の1つ又はそれ以上の元素とを含有し、その際に元素a)及びb)は少なくとも一部がそれらの複合酸化物の形で存在する触媒前駆物質を還元することを特徴とする、触媒の製造方法。
【請求項6】
触媒前駆物質としてLiCoO2を使用する、請求項5記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に従って得ることができる触媒を使用することを特徴とする、不飽和炭素−炭素結合、炭素−窒素結合又は炭素−酸素結合を少なくとも1つ有する化合物を水素化するか、又は芳香族を有する化合物を部分的又は完全に核水素化する方法。
【請求項8】
ニトリル基を少なくとも1つ有する化合物から第一級アミンを製造する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
水素化を低圧法として実施する、請求項7から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1から6までのいずれか1項に従って得ることができる触媒の再生方法であって、前記触媒を液体で処理することを特徴とする、触媒の再生方法。
【請求項11】
不飽和炭素−炭素結合、炭素−窒素結合又は炭素−酸素結合を少なくとも1つ有する化合物の水素化、又は芳香族を有する化合物の部分的又は完全な核水素化のための、請求項1から6までのいずれか1項に従って得ることができる触媒の使用。
【請求項12】
ニトリル基を少なくとも1つ有する化合物から第一級アミンを製造するための、請求項11記載の触媒の使用。

【公表番号】特表2009−529419(P2009−529419A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558772(P2008−558772)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【国際出願番号】PCT/EP2007/052013
【国際公開番号】WO2007/104663
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】