説明

複合金属酸化物の製造方法、複合金属酸化物、正極活物質、正極及び非水電解質二次電池

【課題】従来知られた方法よりも低温でA複合金属酸化物を製造する製造方法を提供する。
【解決手段】一般式Aの化学組成(Aはアルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素、Mは遷移金属元素であり、x,y,zは、各元素の原子価により決定される数値であって、x≧yである。)で表される複合金属酸化物の製造方法であって、前記Aを含む化合物である第1原料と前記Mを含む化合物である第2原料とを用い、用いる前記第1原料に含まれる前記Aの総量lと、用いる前記第2原料に含まれる前記Mの総量mとが、l/m > x/yとなるように混合した混合材料を、前記第1原料の融点未満の温度で加熱する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合金属酸化物の製造方法に関する。詳しくは、一般式Aの化学組成(式中、Aはアルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素、Mは遷移金属元素であり、x,y,zは化学組成を決定するための各元素の原子価により決定される数値である。)で表される多元素からなる複合金属酸化物(以下、A複合金属酸化物ということがある。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合金属酸化物の用途としては、例えばリチウム二次電池などの非水電解質二次電池向けの正極活物質が挙げられる。
【0003】
リチウム二次電池用正極活物質には、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn、LiMnO)等の複合金属酸化物が用いられる。リチウム二次電池用正極活物質は、一般的に、原材料であるリチウム化合物とニッケル、マンガン、コバルトなどの酸化物や水酸化物などの化合物を粉体で混合し、800℃前後の温度で焼成した後、得られた焼成体を粉砕し、粉体にすることにより製造されている(非特許文献1参照)。このような製造方法では、800℃という高温にまで加熱するために多くのエネルギーが必要となり、また、800℃まで昇温し、その後冷却する際に長時間の作業時間を要する。したがって、生産効率を向上させ、製造コストを抑えることが求められていた。
【0004】
そこで、より低温で製造できる手法として、目的物である複合金属酸化物と反応せず、且つ目的物と分離が容易な塩(不活性融剤)を用い、該不活性融剤を溶融させた溶融物の中で目的物を製造するフラックス法(融剤法)が報告されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−142064号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】金村聖志 編、「リチウム二次電池の技術展開」,シーエムシー出版,2002年,P.18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フラックス法であっても少なくとも不活性融剤の融点近傍または融点以上の温度までの加熱が必要であることから、高温に耐える製造設備が必要となる。また、融点近傍またはそれ以上にまで加熱し、さらに加熱後に冷却が必要となるため、加熱温度が低い場合と比べて相対的に長時間の製造時間を要し、生産効率が低下しやすい。加えて、融点以上に加熱すると、生成物が容器等に強固に付着するため、生成物の回収に時間を要し、生産効率が低下しやすい。
【0008】
さらに、目的とする複合金属酸化物の種類によっては、LiMnOのように高温で製造することにより正極材として十分に電気化学的な活性を出せないものがあることが知られている。加えて、高温で複合金属酸化物を製造する場合、得られる酸化物粒子の凝集や凝結により比表面積が低下することがある。このような比表面積が低下した複合金属酸化物は、相対的に大きな比表面積を有する複合金属酸化物よりも相対的に正極活性が低下してしまう。
【0009】
これらのことから、従来知られた方法よりも低温でリチウム二次電池用正極活物質である複合金属酸化物を製造する方法が求められていた。
【0010】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、従来知られた方法よりも低温で複合金属酸化物を製造する方法を提供することにある。また、このような方法を用いて製造することが可能な複合金属酸化物を提供することをあわせて目的とする。さらに、このような複合金属酸化物を用いて得られる正極活物質、正極及び非水電解質二次電池を提供することをあわせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記事情に鑑み種々検討した結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち本発明は、一般式Aの化学組成(Aはアルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素、Mは遷移金属元素であり、x,y,zは、各元素の原子価により決定される数値であって、x≧yである。)で表される複合金属酸化物の製造方法であって、
前記Aを含む化合物である第1原料と前記Mを含む化合物である第2原料とを用い、用いる前記第1原料に含まれる前記Aの総量lと、用いる前記第2原料に含まれる前記Mの総量mとが、l/m > x/yとなるように混合した混合材料を、90℃以上前記第1原料の融点未満の温度で加熱する工程を有する複合金属酸化物の製造方法を提供する。
【0013】
本発明においては、前記加熱する工程における加熱温度が、360℃未満であることが望ましい。
【0014】
本発明においては、前記加熱する工程で得られた生成物を洗浄する工程をさらに有することが望ましい。
【0015】
本発明においては、前記第1原料が、酸素酸塩およびハロゲン化物からなる群より選ばれる1種または2種以上の物質であることが望ましい。
【0016】
本発明においては、前記酸素酸塩が水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩および酢酸塩からなる群より選ばれる1種または2種以上の物質であることが望ましい。
【0017】
本発明においては、前記ハロゲン化物がフッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物からなる群より選ばれる1種または2種以上の物質であることが望ましい。
【0018】
本発明においては、前記第2原料が、酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、フッ化物および塩化物からなる群より選ばれる1種または2種以上の物質であることが望ましい。
【0019】
本発明においては、前記第1原料に含まれるアルカリ金属元素が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素であり、アルカリ土類金属元素が、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素であり、
前記第2原料に含まれる遷移金属元素が、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、アルミ二ウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、インジウム、錫、タンタルおよびタングステンからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素であることが望ましい。
【0020】
本発明は、上述の製造方法で製造される複合金属酸化物を提供する。
【0021】
本発明は、上述の複合金属酸化物を有する正極活物質を提供する。
【0022】
本発明は、上述の正極活物質を有する正極を提供する。
【0023】
本発明は、負極、および上述の正極を有する非水電解質二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来知られた方法よりも低温で複合金属酸化物を製造することができる。また、このような方法を用いて製造することが可能な複合金属酸化物を提供することができる。さらに、このような複合金属酸化物を用いて得られる正極活物質、正極及び非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1、実施例2、実施例3、実施例4および実施例5で得た結晶相の粉末X線回折図形である。
【図2】比較例1、比較例2、比較例3および比較例4で得た結晶相の粉末X線回折図形である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[複合金属酸化物の製造方法]
本実施形態の複合金属酸化物の製造方法は、一般式Aの化学組成で表される複合金属酸化物の製造方法であって、
Aを含む化合物である第1原料とMを含む化合物である第2原料とを用い、用いる前記第1原料に含まれる前記Aの総量lと、用いる前記第2原料に含まれる前記Mの総量mとが、l/m > x/yとなるように混合した混合材料を、前記第1原料の融点未満の温度で加熱する工程を有する。
なお、前記Aはアルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素、前記Mは遷移金属元素であり、x,y,zは、各元素の原子価により決定される数値であって、x≧yである。
【0027】
以下、本実施形態の製造方法で用いられる原料について説明した後、製造方法について詳細に説明する。
【0028】
(原料)
本実施形態で用いられる「第1原料」は、前記Aを含む化合物であり、前記Aがアルカリ金属元素である場合のアルカリ金属含有物質、前記Aがアルカリ土類金属である場合のアルカリ土類金属含有物質のいずれか一方または両方を示す。
【0029】
第1原料として用いることができるアルカリ金属含有物質またはアルカリ土類金属含有物質は、特に限定されないが、酸素酸塩およびハロゲン化物からなる群より選ばれる1種または2種以上の物質が好ましい。
【0030】
前記酸素酸塩は、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩および酢酸塩からなる群より選ばれる1種または2種以上の物質が好ましく、取り扱いの過程において水分を吸収し一部潮解する物質であってもよい。リチウムを含む酸素酸塩としては、水酸化リチウム(融点:462℃)、水酸化リチウム一水和物(融点:水和水が抜けた後は水酸化リチウムに同じ)、亜硫酸リチウム、硝酸リチウム(融点:261℃)、炭酸リチウム(融点:720℃)、硫酸リチウム(融点:860℃)、リン酸リチウム、または酢酸リチウム(融点:286℃)が好ましく用いられる。
【0031】
ハロゲン化物は、フッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物からなる群より選ばれる1種または2種以上の物質が好ましく、取り扱いの過程において水分を吸収し一部潮解する物質であってもよい。リチウムを含むハロゲン化物としては、フッ化リチウム(融点:848℃)、塩化リチウム(融点:613℃)、臭化リチウム(融点:547℃)、またはヨウ化リチウム(融点:446℃)が好ましく用いられる。
【0032】
なお、本実施形態において、融点または後述の共融点は、示差熱熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製、TG/DTA6300)を用いて測定される値を指している。一方、上記酸素酸塩およびハロゲン化物の融点は各試薬の和光純薬(株)の製品安全データシートに記載のデータである。
複合金属酸化物の製造においては、製造に先だって、上記文献値を参考にしながら、上記測定装置を用いて原料の融点を測定し、得られた測定値に基づいて複合金属酸化物の製造方法における加熱温度を設定する。
【0033】
アルカリ金属元素は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素であればよく、また、アルカリ土類金属原料は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素であればよい。中でも、目的とする複合金属酸化物を1価イオン伝導体として利用する場合、ナトリウムおよびリチウムの少なくともいずれか一方または両方を用いることが好ましい。また、目的とする複合金属酸化物を多価イオン伝導体として利用する場合、カルシウムおよびマグネシウムの少なくともいずれか一方または両方を用いることが好ましい。
【0034】
本実施形態の製造方法で用いられる「第2原料」は、前記Mを含む遷移金属含有物質である。
遷移金属含有物質は酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、フッ化物および塩化物からなる群より選ばれる1種または2種以上の物質であればよく、酸化物または水酸化物が好ましく用いられる。さらに、遷移金属含有物質は、複数の遷移金属元素を含有していてもよく、この場合、遷移金属含有物質は、遷移金属元素を1種類含有する化合物を複数用いたものであってもよいが、遷移金属元素を複数種類含有する化合物であることがより好ましい。遷移金属元素を複数種類含有する化合物は、共沈により得ることができ、水酸化物または該水酸化物を経由した酸化物が好ましい。
【0035】
遷移金属元素は、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、アルミ二ウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、インジウム、錫、タンタル、タングステンからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素であればよい。中でも、目的とする複合金属酸化物をリチウム2次電池用正極活物質として利用する場合、マンガン、コバルト、ニッケルおよび鉄からなる群より選ばれる1種または2種以上の元素を組み合わせることが好ましい。
【0036】
本実施形態においては、まず、上述の第1原料と第2原料とを混合し、得られる混合材料を第1原料の融点以下の温度で加熱する。以下、第1原料と第2原料とを混合し混合材料を得る工程(混合工程)と、混合材料を加熱する工程(加熱工程)と、に分けて順に説明する。
【0037】
(混合工程)
混合工程では、乳鉢、ボールミル、サンドミル、遊星ミル、ジェットミル、ロッキングミル等の器具または装置を用いた方法による混合を採用することができる。また、これらの器具または装置を用いた混合形式は乾式、湿式のどちらでもよい。
【0038】
混合工程では、混合材料に含まれるAの総量(モル量)と、混合材料に含まれるMの総量(モル量)との比を、目的とするA複合金属酸化物のAとMのモル当量比と比べて、化学量論的関係においてはAが過剰となるように第1原料と第2原料とを混合する。すなわち、用いる第1原料に含まれるAの総量(モル量)lと、用いる第2原料に含まれるMの総量(モル量)mとが、l/m > x/yとなるように、第1原料と第2原料とを混合する。
【0039】
具体的には、目的物との化学量論的関係において当量となる量より、Aを1.1倍から10.0倍過剰に仕込んで混合することが好ましい。より好ましくは1.5倍から8.0倍過剰であり、さらに好ましくは2.0倍から6.0倍過剰である。
【0040】
Aを過剰に混合することで、目的とするA複合金属酸化物に対して反応が不完全な遷移金属含有物質(反応後の生成物中に残存する遷移金属含有物質)の量を限りなく減らすことができる。10.0倍を超えるようなAが大過剰の条件であると、仕込み時のコストが嵩むほか、目的とする組成の他に、反応後に残存する第1原料が不純物として含まれることがある。また、このように残存する第1原料を事後的な洗浄により除去する場合に、残存量が多くなるため過剰なコストがかかることがある。
【0041】
(加熱工程)
次いで、上述のようにして得られた混合物を加熱する。本実施形態において加熱温度は90℃以上、第1原料の融点未満である。また、加熱温度は、360℃未満であることが好ましく、320℃未満であることがより好ましい。
【0042】
ここで、本発明の特許請求の範囲および明細書において、「第1原料の融点」とは、第1原料が全て溶解した温度として定義する。なお、第1原料が水和水を含みうる場合、「第1原料の融点」とは、水和水が除かれた塩の融点である。
【0043】
「第1原料の融点」とは、具体的には、
(1)第1原料が1種の化合物である場合には、当該化合物の融点を指す。
(2)第1原料が2種以上の化合物の混合物である場合であって、混合物の融点を測定した場合に混合物を構成する各化合物の融点が独立して観測される場合には、最も高い化合物の融点を指す。
(3)第1原料が2種以上の化合物の混合物である場合であって、混合物の融点を測定した場合に各化合物の融点より低温で各化合物が融解を始める場合、混合物の全てが融解する温度を指す。
【0044】
なお、(3)のような混合物の場合、融点は、混合物を構成する各化合物の融点のうち最も高い化合物の融点よりも低い温度となる。このような混合物の場合に、融解を開始する温度を「第1原料の共融点」と称する。
【0045】
従来知られたフラックス法では、反応基質と、反応基質としての機能がない不活性融剤と、を混合し、不活性融剤の融点以上の温度に加熱することで不活性融剤を融解させ、融解した不活性融剤をフラックスとして反応基質を溶解または分散させた上で反応を行っている。
【0046】
一方、本実施形態の製造方法では、第1原料が2種以上の化合物の混合物である場合には、第1原料の融点未満の温度条件で加熱すると、共融点よりも高く融点よりも低い温度においては、第1原料の一部が融解し、融解した第1原料の一部に反応基質(第1原料、第2原料)が溶解または分散して反応を行うこととなる。しかし、本実施形態の製造方法では、フラックス法のように反応に寄与しない化合物は用いない点で、フラックス法とは全く異なる製造方法となっている。
【0047】
加熱工程における加熱時間は、前記加熱温度に達した時点から、0.1時間以上20時間以下であり、好ましくは0.5時間以上12時間以下である。焼成温度までの昇温速度は、50℃/時間以上400℃/時間以下であり、焼成温度から室温までの降温速度は、10℃/時間以上400℃/時間以下である。また、焼成の雰囲気としては、空気、酸素、窒素、アルゴンまたはそれらの混合ガスを用いることができる。焼成の雰囲気は、製造する複合金属酸化物の種類に応じて適したものを選択することが好ましく、例えば、LiMnOを製造する場合、酸素が存在する雰囲気で焼成することが好ましい。
【0048】
加熱により得られた生成物には、A複合金属酸化物以外に過剰に仕込んだ原料のアルカリ金属含有物質やアルカリ土類金属含有物質が残っていてもよい。その場合、これらの残存するアルカリ金属含有物質やアルカリ土類金属含有物質は、水やその他の有機溶媒で洗浄除去することが出来る。
【0049】
また、焼成後において、得られるA複合金属酸化物を、ボールミルやジェットミルなどを用いて粉砕してもよい。粉砕によって、複合金属酸化物のBET比表面積を調整することが可能な場合がある。また、粉砕と焼成を2回以上繰り返してもよい。
【0050】
以上のような製造方法においては、フラックス法のような従来知られた方法よりも低温で、特別に高耐熱な設備を用いること無く、例えば、業務用の乾燥機程度の加熱設備を用いてもA複合金属酸化物を製造することができる。更に、加熱に必要なエネルギーも低く抑えることができるため極めてコストパフォーマンスが高い。
【0051】
[複合金属酸化物]
また、本実施形態の製造方法により得られる複合金属酸化物は、一般式Aの化学組成(Aはアルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素、Mは遷移金属元素であり、x,y,zは、各元素の原子価により決定される数値であって、x≧yである。)で表される複合金属酸化物である。上述の製造方法により得られる複合金属酸化物は、従来の高温焼成で得られた正極活物質と比較して、同等またはそれ以上の高出力を示すことが可能な非水電解質二次電池の正極活物質として、有用である。
【0052】
[非水電解質二次電池]
次いで、非水電解質二次電池の構成を説明しながら、本実施形態の複合金属酸化物を非水電解質二次電池の正極活物質として用いた正極、および当該正極を有する非水電解質二次電池について説明する。
【0053】
本実施形態の非水電解質二次電池の一例は、正極および負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、セパレータに担持される電解液を有する。
【0054】
上記の非水電解質二次電池は、帯状のセパレータ、帯状の負極および帯状の正極を、積層および巻回することにより得られる電極群を、電池缶内に収納した後、当該電極群に電解液を含浸させ、正極と負極との間に電解質を配置することで製造することができる。
【0055】
前記の電極群の形状としては、例えば、該電極群を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面が、円、楕円、長方形、角がとれたような長方形等となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0056】
また、電池の形状としては、上記形状に限らず、例えば、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0057】
・[正極]
本実施形態の正極は、正極活物質を有する。前記正極は、正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を正極集電体に担持させて製造する。
【0058】
・・[正極活物質]
本実施形態の正極活物質は、上述の製造方法で製造される複合金属酸化物を有する。当該複合金属酸化物は、従来の高温焼成で得られた正極活物質と比較して、同等またはそれ以上の高出力を示すことが可能である。
【0059】
・・[導電剤]
前記導電材としては炭素材料を用いることができ、炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量を正極合剤中に添加することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率および出力特性を向上させることができるが、多く入れすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体との結着性を低下させ、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であることが好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0060】
・・[バインダー]
前記バインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;が挙げられる。また、これらの2種以上を混合して用いてもよい。また、バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤に対する該フッ素樹脂の割合が1質量%以上10質量%以下、該ポリオレフィン樹脂の割合が0.1質量%以上2質量%以下となるように含有させることによって、正極集電体との結着性に優れた正極合剤を得ることができる。
【0061】
・・[正極集電体]
前記正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどの導電体を用いることができるが、薄膜に加工しやすく、安価であるという点でAlが好ましい。正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、加圧成型する方法、および有機溶媒を用いてペースト化し、正極集電体上に塗布、乾燥後プレスするなどして固着する方法が挙げられる。ペースト化する場合、正極活物質、導電材、バインダー、有機溶媒からなるペーストを作製する。有機溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン等のアミン系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸メチル等のエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)等のアミド系溶媒;が挙げられる。
【0062】
正極合剤を正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
【0063】
・[負極]
前記負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、および負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属または合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。また、これらの負極活物質を混合して用いてもよい。
【0064】
・・[負極活物質]
前記の負極活物質につき、以下に例示する。前記炭素材料として、具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0065】
前記酸化物として、具体的には、SiO、SiOなど式SiO(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO、TiOなど式TiO(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V、VOなど式VO(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe、Fe、FeOなど式FeO(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO、SnOなど式SnO(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO、WOなど一般式WO(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;LiTi12、LiVOなどのリチウムとチタンのいずれか一方または両方とバナジウムとを含有する複合金属酸化物;を挙げることができる。
【0066】
前記硫化物として、具体的には、Ti、TiS、TiSなど式TiS(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V、VS、VSなど式VS(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe、FeS、FeSなど式FeS(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;MO、MoSなど式MoS(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS、SnSなど式SnS(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WSなど式WS(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sbなど式SbS(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se、SeS、SeSなど式SeS(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0067】
前記窒化物として、具体的には、LiN、Li3−xN(ここで、ZはNiおよびCoのいずれか一方または両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0068】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、併用して用いてもよく、結晶質または非晶質のいずれでもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、主に、負極集電体に担持して、電極として用いられる。
【0069】
また、前記金属として、具体的には、リチウム金属、シリコン金属およびスズ金属が挙げられる。また、前記合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Siなどのリチウム合金;Si−Znなどのシリコン合金;Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金;CuSb、LaNiSnなどの合金;を挙げることもできる。これらの金属、合金は、主に、単独で電極として用いられる(例えば箔状で用いられる。)。
【0070】
上記負極活物質の中で、電位平坦性が高い、平均放電電位が低い、サイクル特性が良いなどの観点からは、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、または微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0071】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンおよびポリプロピレンを挙げることができる。
【0072】
・・[負極集電体]
前記の負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどの導電体を挙げることができ、リチウムと合金を作り難い点、薄膜に加工しやすいという点で、Cuを用いればよい。該負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様であり、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0073】
・[セパレータ]
前記セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができ、また、前記の材質を2種以上用いてセパレータとしてもよいし、前記の材料が積層されていてもよい。セパレータとしては、例えば特開2000−30686号公報、特開平10−324758号公報等に記載のセパレータを挙げることができる。セパレータの厚みは電池の体積エネルギー密度が上がり、内部抵抗が小さくなるという点で、機械的強度が保たれる限り薄くした方がよく、5〜200μm程度であることが好ましく、5〜40μm程度であることがより好ましい。
【0074】
セパレータは、好ましくは、熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムを有する。非水電解質二次電池においては、通常、正極−負極間の短絡等が原因で電池内に異常電流が流れた際に、電流を遮断して、過大電流が流れることを阻止(シャットダウン)する機能を有することが好ましい。ここで、シャットダウンは、通常の使用温度を越えた場合に、セパレータにおける多孔質フィルムの微細孔を閉塞することによりなされる。そしてシャットダウンした後、ある程度の高温まで電池内の温度が上昇しても、その温度により破膜することなく、シャットダウンした状態を維持することが好ましい。かかるセパレータとしては、耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層されてなる積層フィルムが挙げられ、該フィルムをセパレータとして用いることにより、本実施形態における二次電池の耐熱性をより高めることが可能となる。ここで、耐熱多孔層は、多孔質フィルムの両面に積層されていてもよい。
【0075】
以下、セパレータとして使用可能な上述の積層フィルムについて説明する。
【0076】
前記積層フィルムにおいて、耐熱多孔層は、多孔質フィルムよりも耐熱性の高い層であり、該耐熱多孔層は、無機粉末から形成されていてもよいし、耐熱樹脂を含有していてもよい。耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有することにより、塗工などの容易な手法で、耐熱多孔層を形成することができる。
【0077】
耐熱樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、芳香族ポリエステル、ポリエーテルサルホンおよびポリエーテルイミドを挙げることができる。耐熱性をより高めるためには、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホンおよびポリエーテルイミドが好ましく、より好ましくは、ポリアミド、ポリイミドまたはポリアミドイミドである。さらにより好ましくは、芳香族ポリアミド(パラ配向芳香族ポリアミド、メタ配向芳香族ポリアミド)、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド等の含窒素芳香族重合体であり、とりわけ好ましくは芳香族ポリアミド、製造面で、特に好ましいのは、パラ配向芳香族ポリアミド(以下、パラアラミドということがある。)である。また、耐熱樹脂として、ポリ−4−メチルペンテン−1および環状オレフィン系重合体を挙げることもできる。これらの耐熱樹脂を用いることにより、積層フィルムの耐熱性、すなわち、積層フィルムの熱破膜温度をより高めることができる。
【0078】
これらの耐熱樹脂のうち、含窒素芳香族重合体を用いる場合には、その分子内の極性によるためか、電解液との相性、すなわち、耐熱多孔層における保液性も向上する場合があり、非水電解質二次電池製造時における電解液の含浸の速度も高く、非水電解質二次電池の充放電容量もより高まる。
【0079】
かかる積層フィルムの熱破膜温度は、耐熱樹脂の種類に依存し、使用場面、使用目的に応じ、選択使用される。より具体的には、耐熱樹脂として、上記含窒素芳香族重合体を用いる場合は400℃程度に、また、ポリ−4−メチル−1−ペンテンを用いる場合は250℃程度に、環状オレフィン系重合体を用いる場合は300℃程度に、夫々、熱破膜温度をコントロールすることができる。また、耐熱多孔層が、無機粉末からなる場合には、熱破膜温度を、例えば、500℃以上にコントロールすることも可能である。
【0080】
上記パラアラミドは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドとの縮合重合により得られるものであり、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4,4’−ビフェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレン等のような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものである。具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0081】
前記の芳香族ポリイミドとしては、芳香族の二酸無水物とジアミンとの縮重合で製造される全芳香族ポリイミドが好ましい。該二酸無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4―ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンおよび3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。該ジアミンの具体例としては、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、3,3’−ジアミノベンソフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォンおよび1,5−ナフタレンジアミンが挙げられる。また、溶媒に可溶なポリイミドが好適に使用できる。このようなポリイミドとしては、例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重縮合物のポリイミドが挙げられる。
【0082】
前記の芳香族ポリアミドイミドとしては、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるもの、芳香族二酸無水物および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるものが挙げられる。芳香族ジカルボン酸の具体例としてはイソフタル酸およびテレフタル酸が挙げられる。また芳香族二酸無水物の具体例としては無水トリメリット酸が挙げられる。芳香族ジイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、オルソトリレンジイソシアネートおよびm−キシレンジイソシアネートが挙げられる。
【0083】
また、イオン透過性をより高めるためには、耐熱多孔層の厚みは、1μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましく、1μm以上4μm以下であることがさらに好ましい。また、耐熱多孔層は微細孔を有し、その孔のサイズ(直径)は3μm以下、好ましくは1μm以下である。また、耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有する場合には、さらに、耐熱多孔層は、後述のフィラーを含有することもできる。
【0084】
前記積層フィルムにおいて、多孔質フィルムは、微細孔を有し、シャットダウン機能を有することが好ましい。「シャットダウン機能」とは、非水電解質二次電池の使用温度が通常温度の場合には、微細孔を介して電解質を透過させる一方で、使用温度が通常の使用温度を超えた異常な温度となった場合には、微細孔を閉塞させて電解質を遮断し、電気化学反応を停止させる機能を指す。この場合、多孔質フィルムは、熱可塑性樹脂を含有する。多孔質フィルムにおける微細孔のサイズは3μm以下、好ましくは1μm以下である。多孔質フィルムの空孔率は、30体積%以上80体積%以下、好ましくは40体積%以上70体積%以下である。非水電解質二次電池において、通常の使用温度を越えた場合には、熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムは、それを構成する熱可塑性樹脂の軟化により、微細孔を閉塞させることができる。
【0085】
前記熱可塑性樹脂は、非水電解質二次電池における電解液に溶解しないものを選択すればよい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂および熱可塑性ポリウレタン樹脂を挙げることができ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。より低温で軟化してシャットダウンさせるためには、ポリエチレンを含有することが好ましい。ポリエチレンとして、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン等のポリエチレンを挙げることができ、分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンを挙げることもできる。多孔質フィルムの突刺し強度をより高めるためには、該フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、少なくとも超高分子量ポリエチレンを含有することが好ましい。また、多孔質フィルムの製造面において、熱可塑性樹脂は、低分子量(重量平均分子量1万以下)のポリオレフィンからなるワックスを含有することが好ましい場合もある。
【0086】
また、積層フィルムにおける多孔質フィルムの厚みは、3μm以上30μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以上25μm以下である。また、本実施形態で使用可能な積層フィルムの厚みとしては、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。また、耐熱多孔層の厚みをA(μm)、多孔質フィルムの厚みをB(μm)としたときには、A/Bの値が、0.1以上1以下であることが好ましい。
【0087】
また、耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有する場合には、耐熱多孔層は、1種以上のフィラーを含有していてもよい。フィラーは、その材質として、有機粉末、無機粉末またはこれらの混合物のいずれから選ばれるものであってもよい。フィラーを構成する粒子は、その平均粒子径が、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0088】
前記有機粉末としては、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独または2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリメタクリレート;などの有機物からなる粉末が挙げられる。該有機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの有機粉末の中でも、化学的安定性の点で、ポリテトラフルオロエチレン粉末が好ましい。
【0089】
前記無機粉末としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の無機物からなる粉末が挙げられ、これらの中でも、導電性の低い無機物からなる粉末が好ましく用いられる。具体的に例示すると、アルミナ、シリカ、二酸化チタンまたは炭酸カルシウム等からなる粉末が挙げられる。該無機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの無機粉末の中でも、化学的安定性の点で、アルミナ粉末が好ましい。ここで、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であることがより好ましく、さらにより好ましいのは、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であり、その一部または全部が略球状のアルミナ粒子である実施形態である。因みに、耐熱多孔層が、無機粉末から形成される場合には、上記例示の無機粉末を用いればよく、必要に応じてバインダーと混ぜて用いればよい。
【0090】
耐熱多孔層が耐熱樹脂を含有する場合のフィラーの含有量としては、フィラーの材質の比重にもよるが、例えば、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子である場合には、耐熱多孔層の総質量を100質量部としたとき、フィラーの質量は、5質量部以上95質量部以下が好ましく、20質量部以上95質量部以下であることがより好ましく、30質量部以上90質量部以下であることがさらに好ましい。これらの範囲は、フィラーの材質の比重により、適宜設定できる。
【0091】
フィラーの形状については、略球状、板状、柱状、針状、ウィスカー状、繊維状等の形状が挙げられ、いずれの粒子も用いることができるが、均一な孔を形成しやすいことから、略球状粒子であることが好ましい。略球状粒子としては、粒子のアスペクト比(粒子の長径/粒子の短径)が1以上1.5以下である粒子が挙げられる。粒子のアスペクト比は、電子顕微鏡写真により測定することができる。
【0092】
本実施形態において、セパレータは、イオン透過性との観点から、ガーレー法による透気度において、透気度が50秒/100cc以上、300秒/100cc以下であることが好ましく、50秒/100cc以上、200秒/100cc以下であることがさらに好ましい。また、セパレータの空孔率は、30体積%以上80体積%以下であることが好ましく、40体積%以上70体積%以下であることがより好ましい。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0093】
・[電解液]
本実施形態において、電解液は、通常、電解質および有機溶媒を含有する。電解質としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(COCF)、Li(CSO)、LiC(SOCF、Li10Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlClなどのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。リチウム塩として、通常、これらの中でもフッ素を含むLiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOCFおよびLiC(SOCFからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いる。
【0094】
また前記電解液において、有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、または上記の有機溶媒にさらにフッ素置換基を導入したものを用いることができるが、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。
【0095】
中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒および環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、動作温度範囲が広く、負荷特性に優れ、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという点で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。また、特に優れた安全性向上効果が得られる点で、LiPF等のフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル等のフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、大電流放電特性にも優れており、さらに好ましい。
【0096】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖もしくはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLiS−SiS、LiS−GeS、LiS−P、LiSb、LiS−SiS−LiPO、LiS−SiS−LiSOなどの硫化物を含む無機系固体電解質を用いてもよい。これら固体電解質を用いて、安全性をより高めることができることがある。
【0097】
なお、本実施形態の非水電解質二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【0098】
以上のような複合金属酸化物を正極活物質として用いる正極は、高出力を実現することができる。
また、以上のような非水電解質二次電池は、上述の複合酸化物を正極活物質として用いているため、高出力を実現することが可能である。
【実施例】
【0099】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、特に断らない限り、正極およびリチウム二次電池の作製評価方法は、次のようにして行った。
【0100】
(1)正極の作製
正極活物質(後述する粉末A1〜A5および粉末R1〜R4)と導電材(アセチレンブラックと黒鉛とを9:1(重量比)で混合したもの)との混合物に、バインダーとしてPVdFのN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)溶液を、活物質:導電材:バインダー(PVdF)=87:10:3(重量比)の組成となるように加えて混練することによりペーストとし、集電体となる厚さ40μmのAl箔に該ペーストを塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、正極を得た。
【0101】
(2)非水電解質二次電池(コインセル)の作製
(1)により得られた正極を用いて、コインセル(宝泉株式会社製)の下蓋にAl箔面を下に向けて正極を置き、その上に後述する積層フィルムセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルムの上に、耐熱多孔層を積層(厚み16μm))を置き、ここに電解液(エチレンカーボネート(以下、ECということがある。)とジメチルカーボネート(以下、DMCということがある。)とエチルメチルカーボネート(以下、EMCということがある。)との30:35:35(体積比)混合液にLiPFを1モル/リットルとなるように溶解したもの(以下、LiPF/EC+DMC+EMCと表すことがある。))を300μl注入した。
【0102】
次に、負極として金属リチウムを用いて、前記金属リチウムを積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめて非水電解質二次電池(コイン型電池R2032)を作製した。なお、電池の組み立てはアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0103】
(3)正極活物質の評価
粉末を専用の基板に充填し、粉末X線回折測定装置(株式会社リガク製、型番:RIN
T2500TTR型)を用いて測定した。測定は、CuKα線源を用いて、回折角2θ=
10°〜70°の範囲にて行い、粉末X線回折図形を得た。さらに、ソフトウェア(株式会社リガク製、JADE Ver.5)を用いて同定分析を行った。
【0104】
(4)充放電試験
上記のコイン型電池を用いて、以下に示す条件で充放電試験を実施した。充放電試験における0.2C放電容量を、それぞれ以下のようにして求めた。
【0105】
(充放電試験条件)
試験温度25℃
充電最大電圧4.8V、充電時間20時間、充電電流0.35mA/cm
放電最小電圧2.0V、放電時間20時間、放電電流0.35mA/cm
【0106】
以下の実施例および比較例で用いた市販の水酸化リチウム一水和物(和光純薬製)および塩化リチウム(和光純薬製)について、それぞれの融点と、混合物(原料混合物)の共融点および融点と、は示差熱熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製「TG/DTA6300」)を用いて確認した。
【0107】
[実施例1]
水酸化リチウム一水和物(和光純薬製)、塩化リチウム(和光純薬製)、二酸化マンガン(高純度化学製)をLiOH・HO:LiCl:MnO=2:8:1のモル当量比で秤量し、アルミナ乳鉢内で混合して、原料混合物を得た。LiOH・HO:LiCl=2:8の混合物が「第1原料」に該当し、MnOが「第2原料」に該当する。
【0108】
次いで、該原料混合物を試料ボートに充填し、電気炉を用いて大気中で280℃で12時間加熱した。得られた生成物を蒸留水で洗浄し、ろ過した後、60℃で風乾して、複合金属酸化物の粉末A1を得た。
【0109】
なお、LiOH・HO:LiCl=2:8のモル当量比で混合した混合塩の共融点は229℃であり、融点は507℃であった。上記加熱温度は、第1原料の共融点より高く融点より低い温度である。
【0110】
粉末A1は、粉末X線回折測定および同定分析の結果、酸化物の一般的な結晶構造である岩塩型構造を基本とするものであり、LiMnOと同じ空間群(空間群C2/m)を有するものと同定された。
【0111】
さらに、粉末A1を用いてコインセルを作製し、充放電試験を行った結果、初回放電容量が162mAh/gであった。
【0112】
[実施例2]
水酸化リチウム一水和物(和光純薬製)、二酸化マンガン(高純度化学製)をLiOH・HO:MnO=10:1のモル当量比で秤量し、アルミナ乳鉢内で混合して、原料混合物を得て、310℃で12時間加熱した以外は、実施例1と同様の条件にて、複合金属酸化物の粉末A2を得た。LiOH・HOが「第1原料」に該当する。なお、LiOHの融点は473℃であり、上記加熱温度は、第1原料の融点より低い温度である。
【0113】
粉末A2は、粉末X線回折測定および同定分析の結果、酸化物の一般的な結晶構造である岩塩型構造を基本とするものであり、LiMnOと同じ空間群(空間群C2/m)を有するものと同定された。
【0114】
さらに、粉末A2を用いてコインセルを作製し、充放電試験を行った結果、初回放電容量が148mAh/gであった。
【0115】
[実施例3]
実施例3の正極活物質は実施例2に記載の原料混合物を用いた以外は、実施例1と同様の条件にて、複合金属酸化物の粉末A3を得た。
【0116】
粉末A3は、粉末X線回折測定および同定分析の結果、酸化物の一般的な結晶構造である岩塩型構造を基本とするものであり、LiMnOと同じ空間群(空間群C2/m)を有するものと同定された。
【0117】
さらに、粉末A3を用いてコインセルを作製し、充放電試験を行った結果、初回放電容量が160mAh/gであった。
【0118】
[実施例4]
水酸化リチウム一水和物(和光純薬製)、二酸化マンガン(高純度化学製)をLiOH・HO:MnO=5:1のモル当量比で秤量した以外は、実施例2と同様の条件にて、複合金属酸化物の粉末A4を得た。
【0119】
粉末A4は、粉末X線回折測定および同定分析の結果、酸化物の一般的な結晶構造である岩塩型構造を基本とするものであり、LiMnOと同じ空間群(空間群C2/m)を有するものと同定された。
【0120】
さらに、粉末A4を用いてコインセルを作製し、充放電試験を行った結果、初回放電容量が157mAh/gであった。
【0121】
[実施例5]
水酸化リチウム一水和物(和光純薬製)、二酸化マンガン(高純度化学製)をLiOH・HO:MnO=3:1のモル当量比で秤量した以外は、実施例2と同様の条件にて、複合金属酸化物の粉末A5を得た。
【0122】
粉末A5は、粉末X線回折測定および同定分析の結果、酸化物の一般的な結晶構造である岩塩型構造を基本とするものであり、LiMnOと同じ空間群(空間群C2/m)を有するものと同定され、超微量の痕跡程度の他結晶系のピークが見られた。
【0123】
さらに、粉末A5を用いてコインセルを作製し、充放電試験を行った結果、初回放電容量が179mAh/gであった。
【0124】
[比較例1]
比較例1の正極活物質は、実施例1に記載の原料混合物を用い、大気中で680℃で12時間加熱した以外は、実施例1と同様の条件にて、複合金属酸化物の粉末R1を得た。上述のように、第1原料であるLiOH・HO:LiCl=2:8の混合塩の融点は507℃であり、本比較例の加熱温度は、第1原料の融点より高い温度である。
【0125】
粉末R1は、粉末X線回折測定および同定分析の結果、酸化物の一般的な結晶構造である岩塩型構造を基本とするものであり、LiMnOと同じ空間群(空間群C2/m)を有するものと同定された。
【0126】
さらに、粉末R1を用いてコインセルを作製し、充放電試験を行った結果、初回放電容量が150mAh/gであった。
【0127】
[比較例2]
比較例2の正極活物質は、実施例1に記載の原料混合物を用い、大気中で540℃で12時間加熱した以外は、実施例1と同様の条件にて、複合金属酸化物の粉末R2を得た。
【0128】
粉末R2は、粉末X線回折測定および同定分析の結果、酸化物の一般的な結晶構造である岩塩型構造を基本とするものであり、LiMnOと同じ空間群(空間群C2/m)を有するものと同定された。
【0129】
さらに、粉末R2を用いてコインセルを作製し、充放電試験を行った結果、初回放電容量が143mAh/gであった。
【0130】
[比較例3]
水酸化リチウム一水和物(和光純薬製)、二酸化マンガン(高純度化学製)をLiOH・HO:MnO=2:1のモル当量比で秤量し、アルミナ乳鉢内で混合して、原料混合物を得た。
【0131】
次いで、該原料混合物をアルミナ製試料ボートに充填し、電気炉を用いて大気中で390℃で12時間加熱した。得られた生成物を蒸留水で洗浄し、ろ過した後、60℃で風乾して、A複合金属酸化物と他結晶系を有する複合金属酸化物との混合粉末R3を得た。
【0132】
粉末R3は、粉末X線回折測定および同定分析の結果、LiMnOと同じ空間群(空間群C2/m)に加え、2θ=64.5°付近の回折強度が大きいことから、LiMn12と同じ空間群(Fd3m)を有する混合物と同定された。
【0133】
さらに、粉末R3を用いてコインセルを作製し、充放電試験を行った結果、初回の充電容量が182mAh/gと少量で、初回放電容量が155mAh/gであった。
【0134】
[比較例4]
比較例4の正極活物質は、比較例3に記載の原料混合物を用いた以外は、実施例2と同様の条件にて、A複合金属酸化物と他結晶系を有する複合金属酸化物との混合粉末R4を得た。
【0135】
粉末R4は、粉末X線回折測定および同定分析の結果、LiMnOと同じ空間群(空間群C2/m)に加え、結晶系は定かではないがMnOに少量のLiを含有し、反応未完結のMnOを有する混合物と同定された。
【0136】
さらに、粉末R4を用いてコインセルを作製し、充放電試験を行った結果、初回の充電容量が218mAh/gと少量で、初回放電容量が198mAh/gであった。
【0137】
前記に示した、粉末X線回折測定の結果を図1,2に示し、初回放電容量の結果を表1,2に示す。
【0138】
【表1】

【0139】
【表2】

【0140】
図1、2によれば加熱温度が、アルカリ含有物質の融点未満の低温領域であってもアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、および遷移金属を含有した複合金属酸化物を製造できることがわかる。
また、表1、2によれば、実施例1〜5で製造された複合金属酸化物を用いた正極活物質は非水電解二次電池を製造できるばかりか、高い加熱温度で製造した複合金属酸化物(比較例1,2)と同様に、高い放電容量を示すことがわかる。一方、比較例1,2は、得られる複合金属酸化物としては実施例と同様に正極活物質として使用可能のものであるが、製造のための加熱温度が高いため、本願の製造方法のメリットが得られない。比較例3,4で製造された複合金属酸化物は、充電容量が低く、正極活物質としての物性が低いことが分かった。
これらの結果から、本発明の有用性が確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Aの化学組成(Aはアルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素、Mは遷移金属元素であり、x,y,zは、各元素の原子価により決定される数値であって、x≧yである。)で表される複合金属酸化物の製造方法であって、
前記Aを含む化合物である第1原料と前記Mを含む化合物である第2原料とを用い、用いる前記第1原料に含まれる前記Aの総量lと、用いる前記第2原料に含まれる前記Mの総量mとが、l/m > x/yとなるように混合した混合材料を、90℃以上前記第1原料の融点未満の温度で加熱する工程を有する複合金属酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記加熱する工程における加熱温度が、360℃未満である請求項1に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記加熱する工程で得られた生成物を洗浄する工程をさらに有する請求項1または2に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記第1原料が、酸素酸塩およびハロゲン化物からなる群より選ばれる1種または2種以上の物質である請求項1から3のいずれか1項に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記酸素酸塩が水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩および酢酸塩からなる群より選ばれる1種または2種以上の物質である請求項4に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記ハロゲン化物がフッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物からなる群より選ばれる1種または2種以上の物質である請求項4または5に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項7】
前記第2原料が、酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、フッ化物および塩化物からなる群より選ばれる1種または2種以上の物質である請求項1から6のいずれか1項に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記第1原料に含まれるアルカリ金属元素が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素であり、アルカリ土類金属元素が、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素であり、
前記第2原料に含まれる遷移金属元素が、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、アルミ二ウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、インジウム、錫、タンタルおよびタングステンからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素である請求項1から7のいずれか1項に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の製造方法で製造される複合金属酸化物。
【請求項10】
請求項9に記載の複合金属酸化物を有する正極活物質。
【請求項11】
請求項10に記載の正極活物質を有する正極。
【請求項12】
負極、および請求項11に記載の正極を有する非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−107791(P2013−107791A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253884(P2011−253884)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】