説明

複合電極材料と、この材料を含む電池の電極と、この電極を有するリチウム電池

【課題】活性要素すなわち電気化学的活性を示す要素と、導電性添加剤と、バインダとを含む複合電極材と、この材料からなる電池電極と、この電極を有するリチウム電池。
【解決手段】本発明の複合電極材では導電性添加剤が少なくとも炭素ナノ繊維(CNF)と少なくともカーボンナノチューブとを含む導電性添加剤との混合物である。本発明はさらに上記の複合電極材を含むリチウム電池型の電気化学的装置用の負極と、この負極を有する(Li−イオン)二次電池とに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合電極材料と、この複合電極材料から形成される電池の電極と、この電極を有するリチウム電池とに関するものである。
本発明は、電池、特にLi−イオンタイプの二次リチウム電池での電気エネルギー貯蔵の分野に適用できる。
【背景技術】
【0002】
複合電極材料は、活性要素すなわち金属に対して電気化学活性を示す要素と、バインダと、導電性添加剤とを含む。
電池の負極で用いる活性要素はグラファイトが最も一般的であり、正極は酸化コバルトが用いられるが、リチウム電池の負極では珪素SiおよびスズSnも見られる。
【0003】
「Li−イオン電池」とは、少なくとも負極またはアノードと、正極またはカソードと、セパレータと、電解質とを含む電池を意味する。電解質はリチウム塩、一般にリチウムヘキサフルオロホスフェートを溶剤と混合したものからなり、この溶剤は有機カーボネートの混合物で、輸送およびイオンの電離を最適化するように選択される。誘電性が高い方がイオン電離には有利であり、所定容積で利用可能なイオン数が多くなる。一方、イオン拡散には低粘度であることが有利である。このイオン拡散性は多くのパラメータの中でも電気化学系の充放電速度に重要な役割を果たす。
【0004】
リチウム電池用電極は複合材料が塗布された電流コレクタを有し、この複合材料はリチウムに対して活性がある活性要素と、一般にフッ化ビニリデンコポリマーであるバインダの役目をするポリマーと、一般にカーボンブラックである導電性添加剤とを含むということは周知である。
【0005】
電池充電時には負極活性要素にリチウムを入れ、カソード活性要素から同量のリチウムを取り出すことによって溶剤中の濃度を一定に維持する。負極へ入ることによってリチウムが減少するので、外部回路を介して正極から出る電子をこの電極に供給する必要がある。放電時には逆反応が起こる。
【0006】
Li−イオン電池は携帯電話、コンピュータおよび軽量機器で特に使用される。その他の用途、例えば電気自動車またはハイブリッド車等の自動車輸送分野も考えられる。すなわち、人に起因するCO2が気候温暖化に与える影響および化石燃料の消費への依存度を減らす必要性から、電力貯蔵システム、特に電池への関心が再び高まってきている。太陽光および風力システムのような再生可能なエネルギー源は間欠的であるため、電力貯蔵はエネルギー生産の最適な利用および管理に最良の方法であると思われる。
【0007】
Li−イオン電池は全ての再充電可能なシステムの中で電気化学的エネルギー貯蔵システムとして事実上最高のエネルギー密度を有する。従って、路面軌道、電気自動車およびハイブリッド車、特に電線を介して直接再充電が可能なもの(「プラグインハイブリッド」)の電気エネルギー源となることが予想される。
【0008】
しかし、Li−イオン電池にはいくつかの欠点があり、世界的に解決策が求められている。現在、解決すべき技術的課題は、貯蔵されるキロワット時当たりのコストが依然として高いということにある。この問題は既存の解決法では正確に解決できないため、多くの調査研究、特に正極(燐酸塩、種々の酸化物等)と負極(珪素、スズ、種々の合金等)の両方の代替活性要素に関する研究がなされている。
【0009】
この電池に望まれる特性は主として以下のものである:
充/放電速度が速く、
サイクルを関数とする容量保持性能が良好、
電流密度を関数とする容量の保持が良好、
不可逆容量が少なく、
内部抵抗、特に低温での内部抵抗が少ない。
【0010】
最近の負極活性要素はグラファイトより容量が大幅に高く、372mAh/gに達するので、理論上はより小さい容積で同じ容量を、または、同じ容積でより高い容量を有することができる。Siの理論容量は4200mAh/gであり、Snの理論容量は1400mAh/gである。
しかし、充放電によってもたらされる大きな容積変化の結果、機械的応力が生じ、電極の凝集性(cohesion)が低下することが一般に認められている。この凝集性の低下に伴って時間とともに容量が大きく減少し、内部抵抗が増加する。
【0011】
特許文献1(欧州特許出願第0 997 543 A1公報、1999年、10月29日のRamot大学、イスラエルの「ナノ構造合金アノードと、その製造方法と、このアノードを含むリチウム電池」)には、粒径が20〜500nmのナノ粒子の形の金属合金を含む構造が記載されている。このナノ粒子は互いに結合し且つ支持体に電解で固定される。この合金はSnおよびZnを主成分(40〜90%)とし、炭素と金属すなわちSb、Zn、Ag、Cu、Fe、Bi、Co、MnまたはNiを含む群の中から選択されるその他の元素とを含む。これらの少なくとも40%は可逆的にリチオ化できる。
【0012】
試験した4つのSn−Sb−Cu合金の場合、30サイクル後の容量はSb含有量の好ましい影響によって100〜450mAh/gであるが、電流密度の関数である容量が低下する。特にSb含有量が高いときに低下する(2mA/cm2で400mAh/gに達する値はない)。従って、この合金の性能はグラファイトの性能と比べて著しく優れているわけではない。
【0013】
合金を用いる方法は[特許文献2](米国特許出願第2008/0003503号明細書、2008年1月3日、キャノン)にも記載されている。この特許の対象は酸化タングステン、チタン、モリブデン、ニオブまたはバナジウムの保護膜で被覆された珪素−スズ複合電極材料を製造することにある。メソポーラス炭素、カーボンナノチューブまたは炭素繊維の中から選択される導電性添加剤を添加する。しかし、性能は充放電サイクルとともに大幅に低下する。
【0014】
特許文献3(日本国特許第JP−A−2002−8652号公報)には、微細Si粒子をグラファイト粉末に塗布した後、炭素で被覆して負極を製造する方法が開示されている。しかし、この電極は時間とともに電気的接点が失われるという問題がある。
【0015】
非特許文献1(「リチウム二次電池のアノード材料のためにガス懸濁液噴霧法によって調製された珪素被覆グラファイトの電気化学的特徴」、Bup Ju Jeon達、Korean J.Chem.Eng.23(5),(2006),854-859)には逆の方法すなわち炭素材料を珪素で被覆する方法が開示されている。この研究では流動床でジクロロジメチルシランを10ミクロンのグラファイト粒子中に射出し、500℃で焼成して炭素/珪素(C/Si)複合電極材料を製造する。10サイクル後の容量は最適条件下で479mAh/gで、用いた溶剤混合物に強く依存する。この粒径での流動床プロセスは難しいためグラファイトとの相違はあまり大きくない。
【0016】
すなわち、ナノスケールの活性要素を炭素種で被覆すること、または逆に、炭素材料を珪素ナノ粒子で被覆することは、負極の性能を大幅に改善できる方法とはならないことがわかる。
【0017】
特許文献4(国際特許出願第WO 2004/049473 A2号公報、2004年6月10日、Showa Denko)にはSiまたはSnおよび繊維状炭素をベースにした化合物を含む電極材料が記載されている。この電極材料は粒径が20ミクロンのSiまたはSn粒子と直径が150nmの炭素ナノ繊維をフェノール樹脂のアルコール溶液中に分散することによって製造された複合電極材料である。複合電極材料を2900℃でアルゴン中に乾燥および焼成する。最良の結果は10%の繊維含有量を有する複合電極材料で得られる。この複合電極材料は50サイクル以下での容量が589mAh/gである。この結果は、先の全ての実施例よりも良く、グラファイトを用いて得られるものより大きい。しかし、複合電極材料を得るプロセスがかなり複雑で、複合電極材料のコスト/性能比は通常のグラファイト電極の場合より低い。充放電サイクル中に得られる安定化は10%以上の導電性添加剤を用いる場合にのみ得られる。
【0018】
非特許文献2(「Siが埋め込まれたカーボンナノチューブ粉末電極に関する電気化学的膨張率測定研究」(S.Park達、電気化学的および固体状態レター、10(6), 2007, A 142-145)ではポリマー前駆体を炭化する原理を用いている。20ミクロンの珪素粒子をカーボンナノチューブおよびPVCと一緒にTHF中に分散する。超音波処理した後に、懸濁液を乾燥し、固体をアルゴン中で900℃で処理する。20サイクル後の容量は30%以下のナノチューブを含む複合電極材料の場合、650mAh/gの電極のみである。20回目のサイクルで750mAh/gの電極の容量を達成するためには35%のナノチューブ含有量が必要である。20ミクロン粒子の代わりに粒径が500nmの珪素粒子を用いると、この値は20回目のサイクルで970mAh/gの電極になる。しかし、珪素の粒径の低下に伴って電極密度が低下するか否かは明記されていない。しかも、容量は充放電サイクルで安定していない。
【0019】
すなわち、上記の単純且つ安価な従来プロセス、例えば物理的混合では現在の解決法、すなわちグラファイトを用いる解決法に比べて性能があまり改善されない。逆に、性能を著しく改善するように思われる技術的解決法は実施のコストが高いか、複雑なプロセスを必要とし、各段階で効率損失を伴う多段階プロセスであるか、および/または、有機溶剤(THF:テトラヒドロフラン)を用いる方法である。
上記の従来法では可能な限り高い容量を保持するという技術的課題が未解決の問題であるということは明らかである。スズまたは珪素粒子の径を縮小することで改善が得られるが、特性の損失を防ぐことはできない。
【0020】
特許文献5(日本国特許第JP2007−335283号公報、米国特許第2008/0096110号明細書、松下電器産業、2008年4月24日公開)(以下、文献D1)には負極が記載されている。この文献D1が解決しようする課題もやはり充放電サイクル中に高容量を保持する負極電極を得ることにある。そのために、この文献D1は少なくとも一種の金属と少なくとも一種の半導体とを含むリチウムと可逆性合金を形成できる活性材料の使用を提案している。電極基材が導電性、多孔性で、基材の孔が活性材料で充填されるときに結果が改善される。電極は金属(例えばTi)と半金属(半導体、例えばSi)の両方を含む活性材料と、カーボンナノチューブ(CNT)のような電性材料と、多孔性導電性基材とを含む。
【0021】
この特許では本発明の課題と同じ課題が解決されているが、それは本発明に関して以下で説明する導電性添加剤の選択によってではなく、2つの要素(金属と半金属)を組み合わせたものを含む活性材料の選択によって解決されている。この解決法は本発明で提案される方法とは異なる。
【0022】
特許文献6(米国特許第2006/172196号明細書、2006年8月3日公開、松下電器産業)(以下、文献D2)に記載の再充電可能な電池の負極の製造方法では、繊維状炭素を含む導電性材料とポリマーと分散媒体との混合物を製造し、この混合物に珪素含有活性材料を添加する。導電性材料の一例としてCNTまたはCNFの使用が挙げられている。上記文献に記載の方法は特許文献4既に述べた方法と同様であるが、上記の課題を解決するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】欧州特許出願第0 997 543 A1号公報
【特許文献2】米国特許出願第2008/0003503号明細書
【特許文献3】日本国特許第JP−A−2002−8652号公報
【特許文献4】国際特許出願第WO 2004/049473 A2号公報
【特許文献5】日本国特許第JP2007−335283号(米国特許第2008/0096110号明細書)
【特許文献6】米国特許第2006/172196号明細書
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】「リチウム二次電池のアノード材料のためにガス懸濁液噴霧法によって調製された珪素被覆グラファイトの電気化学的特徴」(Bup Ju Jeon達、Korean J.Chem.Eng.23(5),(2006),854-859)
【非特許文献2】「Siが埋め込まれたカーボンナノチューブ粉末電極に関する電気化学的膨張率測定研究」(S.Park達、電気化学的および固体状態レター、10(6),(2007),A 142-145)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
上記のとおり、本発明は、貯蔵されるキロワット時当たりのコストが依然として高いという現在の技術的課題を解決するものである。
本発明で解決される別の課題は、貯蔵KWコストを下げ、単純、容易に工業化的な方法で電極材料を製造することでこの電極を用いた電池を広く普及させることにある。
【0026】
従って、本発明は充放電サイクル中の電池の容量保持率ができるだけ高くなるような電池の負極を製造するための電極コンポジット(複合材料)を提供する。この複合電極材料を用いることで電池の内部抵抗は低くなり、充放電速度は可能な限り速くできる。
【0027】
本発明はさらに、複合電極材料を製造するための工業的な方法と、得られた電極と、この電極を組み込んだ電池とを提供する。
特に、本発明が解決しようとする技術的課題はリチウムに対して活性で且つリチウムと合金を可逆的に形成できるコンポジットを作ることにある。このコンポジットを用いることでLi−イオン電池の負極が製造できる。この負極を組み込んだ電池は、充放電サイクル時に高い容量保持を示し、内部抵抗は小さく、充放電速度は速い。
【0028】
従来法のように通常の導電性添加剤の全部または一部をカーボンナノチューブまたは炭素ナノ繊維手置換することでリチウムとの合金を可逆的に形成できる活性要素をベースにした負極の性能が改善できるが、D1を含めた上記の全ての文献には、少なくとも炭素ナノ繊維およびカーボンナノチューブを含む導電性添加剤を、可能な限り高い容量保持率を達成するという課題の解決に使用するという記載はない。
【0029】
「カーボンナノチューブ(CNT)」とは、同軸な一つまたは複数のグラファイト平面壁すなわちグラフェンシートまたは巻かれたグラフェンシートから成る一つまたは複数の中空チューブを意味する。通常これらのチューブは「開口」(すなわち一端が開口)した複数の同軸上に配置された格子状チューブに似ている。横断面ではCNTは同心円状の輪の形をしている。CNTの外径は2〜50nmである。
【0030】
単一壁カーボンナノチューブ(SWNT)と多重壁カーボンナノチューブ(MWNT)とがある。
「炭素ナノ繊維またはナノフィブリル(CNF)」とは、直径が50〜200nmの固体グラファイト炭素繊維であって、細い中空中心導管を有することも多い繊維を意味する。横断面ではCNFはディスクの形をしている。
ナノチューブとナノ繊維は両方とも、長さ/直径比が1よりはるかに大きく、一般に100以上である。
【0031】
文献D1には本発明の場合のように導電性材料がCNTとCNFとの混合物を含むと述べられているが、その実施例は全く記載されていない。CNTはそれ自身が導電性要素として用いられる。第2頁、第1欄の[0022]では、「導電性材料は少なくとも一種のカーボンナノチューブおよび炭素ナノ繊維である」というフレーズが記載されているが、詳細な説明からはこの文献がCNTとCNFの両方を含む導電性材料を開示していると理解することはできない。挙げられた全ての実施例でCNTは単独である。[0080]に記載の直径の値はCNTの直径に対応する。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の対象は、導電性添加剤を含む複合電極材料において、導電性添加剤が少なくとも炭素ナノ繊維(CNF)と少なくともカーボンナノチューブ(CNT)とを含む導電性添加剤の混合物であることを特徴とする複合電極材料(コンポジット)にある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明方法で得られる分散体のレオロジー特性のグラフ。
【図2】本発明の複合電極材料の走査電子顕微鏡写真(倍率3000倍)。
【図3】本発明の複合電極材料の走査電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【図4】複数の試験片(一つは本発明の複合電極材料で作った)のサイクル数を関数とする容量Qの変化曲線。
【図5】実施例2で製造した電極の容量Qの変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
上記混合物はグラファイト、カーボンブラック、例えばアセチレンブラックおよびsp−炭素の中から選択される他の導電性添加剤をさらに含むことができる。
炭素ナノ繊維の直径は50〜200nmにすることができ、アスペクト比は10〜1000にすることができ、カーボンナノチューブの直径が0.4〜20nmで、アスペクト比は20〜1000である。
【0035】
本発明の複合電極材料は活性要素といわれるもの、すなわちこの活性要素を含む電極で挿入(Li+)、変換、移動および溶解−再結晶化の原理で機能する要素をさらに含む。
本発明の複合電極材料はリチウムと可逆性合金を形成できる活性要素、例えば珪素(Si)およびスズ(Sn)を含む。
【0036】
本発明の別の対象は、上記複合電極材料を含む電極にある。この電極はリチウム電池型の電気化学的装置用の負極にすることができる。
【0037】
本発明のさらに別の対象は、上記電極の非水電解質二次電池での使用にあり、方法とのさらに別の対象は上記複合電極材料を含む電極を有する(Li−イオン)二次電池にある。
電池の充放電動作では珪素原子1つ当たり0〜1.1のリチウム原子が挿入される。
【0038】
本発明のさらに別の対象は、上記複合電極材料を含む電解質を有する非水電解質的の二次電池の製造と、リチウム二次電池にある。
本発明の複合電極材料は、大きな容量および充放電サイクル特性を有する非水電解質二次電池で高い電流密度で使用できる。
【0039】
本発明のさらに別の対象は、下記(1)と(2)の工程を含む複合電極材料の製造方法にある:
(1)バインダP1と、電子伝導性を与える少なくとも炭素ナノ繊維CNFと、電子伝導性を与える少なくともカーボンナノチューブCNTと、リチウムとの合金を可逆的に形成できる活性電極要素M1と、揮発性溶剤S1とを含む懸濁液を調製し、
(2)得られた懸濁液からフィルムを製造する。
【0040】
本発明のさらに別の対象は、複合電極材料の製造方法の、リチウム電池型の電気化学的装置用電極の製造での使用にある。
基材上のフィルムは電極として直接用いることができる。
【0041】
本発明は、本発明で得られた複合電極材料を含む電極を有する非水電解質二次電池の製造方法の使用にある。
【0042】
本発明の上記以外の特徴および利点は例として示した、以下の添付図面を参照した説明から明らかに成るであろう。しかし、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【0043】
本発明の提案する複合電極材料は、少なくとも炭素ナノ繊維(CNF)と少なくともカーボンナノチューブ(CNT)とを含む導電性添加剤との混合物を含む。
【0044】
2つの導電性添加剤のCNFおよびCNTは従来技術で用いられる導電性添加剤、例えばsp−炭素またはグラファイトとはアスペクト比が極めて高い点で異なる。このアスペクト比は粒子の最大寸法と最小寸法との比で定義される。この比はsp−炭素およびグラファイトの場合には3〜10であるのとは対照的に、ナノ繊維およびナノチューブの場合は約30〜1000である。
【0045】
本発明者は、少なくとも炭素ナノ繊維(CNF)と少なくともカーボンナノチューブ(CNT)とを含む導電性添加剤の混合物を導電性添加剤として選択することによって複合電極材料中で炭素ナノ繊維とカーボンナノチューブの両方が、充放電サイクルでの容量保持に対して相補的役割を果たすということ、それによってリチウムとの合金を可逆的に形成できる活性要素をベースにした負極が作れ、充放電サイクル安定性に優れ、さらに複合電極材料中の活性要素の含有量を高くできるということを見いだした。
【0046】
炭素ナノ繊維は直径が大きいため容易に分散され、連続構造物を形成する。この連続構造物は複合電極材料の容積全体にわたって電流コレクタから電子輸送を確実に行うことができる。この構造物は、炭素ナノ繊維の長さが極めて長いため、活性要素の粒子の容積が変化しても構造物の完全性を維持することができる。
【0047】
カーボンナノチューブは炭素ナノ繊維より分散しにくいが、本発明方法によって複合電極材料中にカーボンナノチューブを分散させることができる。カーボンナノチューブは活性要素の粒子の周りにネットワークを形成し、従って、炭素ナノ繊維の役割に相補的な役割をする。また、カーボンナノチューブは電流コレクタから炭素ナノ繊維を介して供給された電子を活性要素の粒子に分配することを確実とする。さらに、カーボンナノチューブはその長さおよびその可撓性によって反復的容積膨張および収縮によって破壊された活性要素の粒子間に電気架橋を形成する。
【0048】
すなわち、本発明者は、アスペクト比が相対的に小さい通常の導電性添加剤(sp−炭素およびグラファイト)は充放電サイクルで電流コレクタからの電子輸送を維持する効果が炭素ナノ繊維より著しく低くなることを見出した。これは、このような導電性添加剤を用いると粒子が並置して電気経路が形成され、活性要素の粒子が容積膨張し、これらの間の接触がより容易に断たれるためである。
【0049】
同様に、アスペクト比が相対的に小さい通常の導電性添加剤(sp−炭素およびグラファイト)は、充放電サイクル中に破壊された活性要素の粒子への電子の分配を維持する効果がカーボンナノチューブより著しく低い。
本発明の導電性添加剤の混合物は、グラファイト、カーボンブラック、例えばアセチレンブラック、およびsp−炭素によって形成される一種以上の他の導電性添加剤をさらに含むことができる。
【0050】
非水電解質の二次電池および(Li−イオン)二次電池用の電極の製造のような用途では、本発明の複合電極材料はリチウムに対して活性である要素を含む。この要素はリチウムとLixabc型の合金を形成できる金属Mおよび金属合金Mabc等の中から選択される。この金属Mまたは金属合金はSn、SbおよびSiの中から選択するのが好ましい。
【0051】
複合電極材料は、少なくとも一種のポリマーバインダをさらに含む。ポリマーバインダは多糖類、変性多糖類、ラテックス、高分子電解質、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアクリルポリマー、ポリカーボネート、ポリイミン、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリエポキシド、ポリホスファゼン、ポリスルホンおよびハロゲン化ポリマーの中から選択される。
【0052】
本発明の複合電極材料はサブミクロンおよびミクロンスケール構造を有し、この構造は走査電子顕微鏡法(SEM)を用いて試験片上で見ることができる。
炭素ナノ繊維およびカーボンナノチューブはフィブリル形態を有する。炭素ナノ繊維は直径が大きい点でカーボンナノチューブと異なる。前者は平均100nm〜200nmであるのに対して、後者は平均10〜20nmである。炭素ナノ繊維の長さは一般に約10〜30μmで、カーボンナノチューブの長さは一般に約5〜15μmである。
【0053】
本発明の電極組成物を製造する本発明方法は下記(1)と(2)の工程を含む:
(1)ポリマーP1と、電子伝導性を与える少なくとも炭素ナノ繊維CNFと、電子伝導性を与える少なくともカーボンナノチューブCNTと、任意成分としての第3の導電性添加剤C1と、リチウムとの合金を可逆的に形成できる活性電極要素M1と、揮発性溶剤S1とを含む懸濁液を調製し、
(2)得られた懸濁液からフィルムを製造する。
【0054】
必要に応じてさらに圧力(0.1〜10トン)を加えてこのフィルムの密度を高くすることができる。
懸濁液の調製中に、ポリマーP1をそのままの状態でまたは溶液の形で揮発性溶剤S1に導入し、CNF/CNT混合物をそのままの状態でまたは懸濁液の形で揮発性溶剤に導入する。
【0055】
ポリマーP1は多糖類、変性多糖類、ラテックス、高分子電解質、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアクリルポリマー、ポリカーボネート、ポリイミン、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリエポキシド、ポリホスファゼン、ポリスルホンおよびハロゲン化ポリマーの中から選択できる。ハロゲン化ポリマーの例としては下記のものが挙げられる:塩化ビニルのホモポリマーおよびコポリマー、フッ化ビニリデン、塩化ビニリデン、エチレンテトラフルオリドおよびクロロトリフルオロエチレン;およびビニリデンフッ化ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF−HFP)。水溶性ポリマーP1が特に好ましい。一例として下記が挙げられる:カルボキシメチルおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース;ポリエーテル、例えば酸化エチレンホモポリマーおよびコポリマー;ポリアクリルポリマー、例えばアクリルアミドおよびアクリル酸ホモポリマーおよびコポリマー;マレイン酸ホモポリマーおよびコポリマー;無水マレイン酸ホモポリマーおよびコポリマー;アクリロニトリルホモポリマーおよびコポリマー;酢酸ビニル−ビニルアルコールホモポリマーおよびコポリマー;ビニルピロリドンホモポリマーおよびコポリマー;高分子電解質、例えばビニルスルホン酸およびフェニルスルホン酸ホモポリマーおよびコポリマーの塩;およびアリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウム、ビニルピリジン、アニリンおよびエチレンイミンホモポリマーおよびコポリマー。
【0056】
ラテックスとよばれるポリマーの水性分散体も挙げられる。この分散体は酢酸ビニル、アクリル、ニトリルゴム、ポリクロロプレン、ポリウレタン、スチレン−アクリルまたはスチレン−ブタジエンポリマーをベースにしている。本明細書で「コポリマー」とは少なくとも2つの異なるモノマーから得られるポリマー化合物を意味する。ポリマーブレンドも有利である。カルボキシメチルセルロースとスチレン−ブタジエン、アクリルまたはニトリル−ゴムラテックスとの混合物も挙げられる。
【0057】
揮発性溶剤S1は有機溶剤または水または有機溶剤/水混合物である。有機溶剤としてはN−メチルピロリドンおよびジメチルスルホキシドが挙げられる。溶剤S1は水であるのが好ましい。そのpHは酸または塩基の添加によって調整できる。溶剤S1は界面活性剤を含むことができる。4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニルポリエチレングリコール(商品名Triton(登録商標)X100で市販)が挙げられる。
【0058】
既に述べたように、炭素ナノ繊維およびカーボンナノチューブに加えて、他の導電性添加剤C1を添加できる。この化合物1はグラファイト、カーボンブラック、例えばアセチレンブラック、またはsp−炭素によって形成できる。いくつかの市販の導電性添加剤がこの条件に合う。特に、Chemetals社から市販の化合物Ensagri Super S(登録商標)またはSuper P(登録商標)が挙げられる。
【0059】
活性要素M1はLi−イオン電池の再放電中にリチウムと反応する化合物の中から選択される。例としては下記が挙げられる:
(1)リチウムとLixabc型の合金を形成する金属Mまたは金属合金Mabc等。これらの金属Mまたは金属合金はM=Sn、Sb、Si等の中から選択するのが好ましく、SnO, SnO2, SnおよびSn-Fe(-C) 化合物, Si, Si-C, Si-C-Al, Si-TiN, Si-TiB2, Si-TiC, Si2/ZrO2, Si3N4, Si3-xFexN4, SiO1.1, Si-Ni, Si-Fe, Si-Ba-Fe, Mg2Si(-C), Si-Ag(-C), Si-Sn-Ni, Si-Cu-C, Si-Sn 化合物およびSb化合物から得られる、または
(2)Cu6Sn5化合物、ホウ酸鉄、プニクチド(例えば、Li3-yCoyN, Li3-yFeyN, LixMnP4, FeP, FeP2, FeP4, FeSb2, Cu3P, Zn3P2, NiP2, NiP3, CoP3, CoSb3等)、可逆的に分解する単純酸化物(例えばCoO, Co2O3, Fe2O3等)および挿入酸化物、例えばチタン酸塩(例えばTiO2, Li4Ti5O12)およびMoO3 またはWO3
【0060】
懸濁液の調製は単一段階または2つの連続した段階で行うことができる。懸濁液の調製を2つの連続した段階で行う場合の第1の実施方法では、カーボンナノチューブと任意成分としてのポリマーP1の全部または一部を含む分散体を調製し、次いで、この分散体に複合電極材料の成分を添加する。この新しい懸濁液を最終フィルムの製造に用いる。
【0061】
第2の実施方法では、カーボンナノチューブと任意成分としてのポリマーP1の全部または一部を溶剤中に含む分散体を調製し、活性要素M1を添加し、溶剤を除去し、粉末を得た後、この粉末に溶剤S1および複合電極材料の残りの成分を添加して新たな懸濁液を形成する。この新たな懸濁液を最終フィルムの製造に用いる。
【0062】
カーボンナノチューブ分散体を調製することでより均一な複合電極材料フィルムを形成できるので有利である。
フィルムは、任意の通常の手段、例えば押出成形、テープ成形または噴霧乾燥によって懸濁液から基材上に得ることができ、その後、乾燥させる。後者の場合は、電極用コレクタの役目をすることができる金属箔、例えば銅またはニッケル箔または耐食被覆処理したメッシュを基材として用いるのが有利である。こうして得られたフィルムは電極として直接用いることができる。
【0063】
本発明の複合電極材料は電気化学的装置、特にリチウム電池用の電極を製造するのに有用である。本発明の別の対象は本発明の材料で形成される複合電極材料電極にある。
【0064】
リチウム電池は、金属リチウム、リチウム合金またはリチウム挿入化合物から形成される負極および正極を有する。この2つの電極は塩の溶液によって分離されている。この塩のカチオンは非プロトン性溶剤(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルカーボネート等)中に少なくともリチウムイオン、例えばLiPF6, LiAsF6, LiClO4, LiBF4, LiC4BO8, Li(C2F5SO2)2N, Li[(C2F5)3PF3], LiCF3SO3, LiCH3SO3およびLiN(SO2CF3)2, LiN(FSO2)2等を含み、これらは全て電解質の役目をする。
【0065】
負極は上記定義の負極活性要素を含む本発明の複合電極材料にすることができる。正極をリチウム挿入化合物で形成するときは、負極を、活性要素が上記定義の正極活性要素である本発明の材料で形成することもできる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
実施例1
この実施例の複合電極材料は80重量%の1〜10μmの純度が99.999%の珪素粒子(Alfa Aesarから)と、8重量%のCMC(カルボキシメチルセルロース:DS=0.7、Mw=90,000、Aldrich)バインダと、4重量%の粗炭素ナノ繊維と、8重量%の粗カーボンナノチューブ(例えばアルケマ社の製品)とからなる。
ナノチューブの平均径は20nmで、長さは約数ミクロンで、その化学組成から、合成プロセスで生じる約7%の鉱物灰を含んでいることがわかった。
炭素ナノ繊維は平均径が150nmで、長さは約15μmであった。これは昭和電工(Showa Denko)によって供給された。
最初に、複合電極材料の組成中の全てのカーボンナノチューブを、1重量%の電極に対応する少量のCMCと一緒に、ボールミル(Fritsch Pulveristette 7)を用いて脱イオン水中に分散させた。カーボンナノチューブを水中に混和および分散させるのにここではCMCを用いた。CMCは高分子電解質であり、セルロース単位が存在するので、カーボンナノチューブとファンデルワールス結合を確立でき、カーボンナノチューブの表面に吸着させることができる。従って、カーボンナノチューブを水で濡らすことが容易になり、イオン性カルボキシレート基が存在するために静電反発力機構を介したナノチューブの良好な分散が確実になる。分散条件は700回転/分で15時間、直径が10mmのボールを3つ入れた12.5mlのミリングジャー、1mlの脱イオン水、32mgのナノチューブおよび4mgのCMCであった。
【0067】
[図1]は15時間のミリング後の分散体のレオロジー特性を示す。32mgのナノチューブの乾燥抽出物および4mgのCMCを1mlの水で調製した場合には貯蔵率(module de stockage)G’が0.1〜10Hzの周波数範囲で800Paの値に達するときに、最適な電気化学的性能が得られる。
分散段階後に、珪素粒子(320mg)、炭素ナノ繊維(16mg)および残りのCMC(28mg)を添加した。これら全てを500回転/分で30分間、共ミリングして混合した。複合電極材料は28.57重量%の懸濁液から成り、残りは脱イオン水であった。
【0068】
上記の複合電極材料を含む懸濁液を25μm厚さの銅製電流コレクタに塗布して電極を調製した。塗装ブレードの高さは100μmに設定した。最初に、電極を室温で乾燥し、次いで、真空下に55℃で3時間乾燥した。この実施例では、電流コレクタ1cm2当たりの珪素塗布量は1.70mgであり、電極の厚さは15μmであった。
【0069】
[図2]および[図3]は得られた複合電極材料のそれぞれ3000倍および50000倍の倍率での走査電子顕微鏡法(SEM)の顕微鏡写真を示す。これらの写真から、本発明の複合電極材料は珪素粒子と、カーボンナノチューブと、炭素ナノ繊維とからなることがわかる。後者は直径が大きい(平均20nmと比べて平均150nm)点および長さが長い点で前者とは異なる。CMCは全ての他の材料の表面に極めて薄い層の形で存在する。炭素ナノ繊維は連続構造物を形成し、この連続構造物は、電流コレクタから、複合電極材料の容積全体にわたって電子輸送を確実に行うことができる。カーボンナノチューブは珪素粒子の周りにネットワークを形成する。本発明方法によって2つの導電性添加剤の極めて均一な分散が可能になるように思われる。
【0070】
こうして得られた電極(a)を、ニッケル電流コレクタ上に積層されたリチウム金属箔を正極として、ガラス繊維セパレータおよび液体電解質(EC/DMC (1:1)で溶解した1MのLiPF6溶液からなる)を有する電池に取り付けた。充放電サイクル性能を測定し、負極が下記の初期組成を有する電極である同様の電池の充放電サイクル性能と比較した:
(b)80%Si, 8% CMC, 12% sp-炭素;
(c)80% Si, 8% CMC, 12% カーボンナノチューブ;
(d)80% Si, 8% CMC, 12% 炭素ナノ繊維;
(e)80% Si, 8% CMC, 4% 炭素ナノ繊維, 8% sp炭素;
(f)80% Si, 8% CMC, 8%カーボンナノチューブ, 4% sp炭素。
【0071】
充放電サイクルは、0〜1V対Li+/Liの電位範囲で、950mAh/gに制限される一定の比容量で実施した。充放電サイクルの制御は150mA/gの電流Iでの定電流モード、C/6モードに対応するモードで行った(各充放電サイクルを6.33時間続ける)。この充放電サイクルモードによって反応終了時の電位が0V以上である限り、一定容量が得られ、次いで、容量は反応終了時の電位が0Vになったときにサイクルの数とともに減少した。
【0072】
[図4]はサイクルの数Nの関数としての容量Q(mAh/g)の変化曲線を示す。曲線と試験片との対応は以下の通り:
曲線 -●--●- :本発明の試験片、
曲線 -▼--▼- : 比較例の試験片b、
曲線 -○--○- : 比較例の試験片c、
曲線 -□--□-: 比較例の試験片d、
曲線 -▲--▲- : 比較例の試験片e、
曲線 -△--△- : 比較例の試験片f。
【0073】
充放電サイクル曲線を比較すると、電極を構成する複合電極材料が、本発明の2つの導電性添加剤すなわちカーボンナノチューブと炭素ナノ繊維とを含むときにのみ充放電サイクル容量が大幅に改善されることがわかる。100回目のサイクルで保持される容量は900mAh/gの珪素、すなわち720mAh/gの電極である。電極の単位容積当たりの容量は約630mAh/cm3であり、これは単位容積当たりの容量が約500mAh/cm3の市販のグラファイトアノードと比較されるべきである([非特許文献3]、[非特許文献4]、[非特許文献5])。この性能は従来技術で報告される性能よりも良い。
【非特許文献3】「リチウムイオン二次電池用のナノおよびバルクシリコンベースの挿入アノード」U.Kasavajjula et al., J.Power Sources, 163 (2007) 1003-1039;
【非特許文献4】「圧縮が天然グラファイトアノード性能およびマトリックス導電性に与える影響」K.A.Striebel et al., J. Power Sources 134 (2004) 241-251;
【非特許文献5】「高性能炭素アノード材料に関する基準研究」、C.Lampe-Onnerud et al., J.Power Sources, 97-98 (2001) 133-136)
【0074】
従って、100サイクルの充放電サイクル中には一度も最終電位0Vに達しなかったので、充放電サイクル条件を変えることによって、950mAh/gを超える容量が得られることは理解できよう。しかし、950mAh/g以上の容量ではどの充放電サイクルも充放電サイクル寿命を損なう。
【0075】
実施例2
実施例2は本発明の電極と、電池とを用いて得られた。これらは実施例1と同様に調製した。実施例2では、電流コレクタ1cm2当たりの珪素塗布量が1.80mgであった。
充放電サイクルは、0〜1V対Li+/Liの電位範囲で、950mAh/gに制限される一定の比容量で実施した。充放電サイクルの制御は900mA/gの電流Iでの定電流モード、Cモードに対応するモードで行った(各充/放電サイクルを1.05時間続ける)。
[図5]はサイクルの数Nの関数としての容量Q(mAh/g)の変化を示す。数サイクルの誘導期(この誘導期は電極への電解質の含浸率に起因すると考えられる)の後、Cモードでの充放電サイクル時に極めて良好な容量保持率が観察される。150回目のサイクルの後に保持された容量は900mAh/gの珪素、すなわち720mAh/gの電極である。
実際には、CNT/CNF混合物は下記の限界値の範囲内にあるのが好ましい:
限界値1:9%の炭素ナノ繊維+3%のカーボンナノチューブ、
限界値2:3%の炭素ナノ繊維+9%のカーボンナノチューブ。
以下に実施例3を挙げて、これらの限界値の範囲内の結果を説明する
【0076】
実施例3
この実施例の複合電極材料は80重量%の1〜10μmの純度が99.999%の珪素粒子(Alfa Aesarから)と、8重量%のCMC(カルボキシメチルセルロース:DS=0.7、Mw=90,000、Aldrich)バインダと、12重量%の粗炭素ナノ繊維+粗カーボンナノチューブの混合物とからなる。
最初に、複合電極材料の組成の全てのカーボンナノチューブを、1重量%の電極に対応する少量のCMCと一緒に、ボールミル(Fritsch Pulveristette 7)を用いて脱イオン水中に分散させた。分散条件は700回転/分で15時間であった。
分散段階の後に、珪素粒子、炭素ナノ繊維および残りのCMCを添加した。これら全てを、500回転/分で30分間共ミリングして混合した。複合電極材料は28.57重量%の懸濁液から成り、残りは脱イオン水であった。
【0077】
上記複合電極材料を含む懸濁液を25μm厚さの銅製電流コレクタに塗布して電極を調製した。塗装ブレードの高さは100μmに設定した。最初に、電極を室温で乾燥し、次いで、真空下に55℃で3時間乾燥した。
こうして得られた電極を、ニッケル電流コレクタ上に積層されたリチウム金属箔を正極として、ガラス繊維セパレータおよび液体電解質(EC/DMC (1:1)で溶解した1MのLiPF6溶液からなる)を有する電池に取り付けた。
【0078】
充放電サイクルは、0〜1V対Li+/Liの電位範囲で、950mAh/gに制限される一定の比容量で実施した。充放電サイクルの制御は150mA/gの電流Iでの定電流モード、C/6モードに対応するモードで行った(各充放電サイクルを6.33時間続ける)。この充放電サイクルモードによって、反応終了時の電位が0V以上である限り、一定容量が得られ、次いで、容量は反応終了時の電位が0Vになったときにサイクルの数とともに減少した。
【0079】
[表1]は電極の組成およびその充放電サイクル寿命を示している。保持される寿命基準は反応終了時の電位が0Vになるような基準である:
【表1】

【0080】
上記文献D2の発明の詳細な説明の[0038]では、繊維状炭素含有量は活性材料100部当たり3部以上、12部以下であるのが好ましいと述べられている。
本発明で提供される量はこの区間の上限以上、すなわち活性材料80部当たり12部(100部当たり15部に相当)以上の導電性添加剤である。これは、本発明によれば、繊維状炭素含有量が活性材料100部当たり12部(すなわち電極中に9.6重量%)以上であることになる。これ以下の含有量では、以下の実施例4で説明するように、充放電サイクル安定性が劣る。
【0081】
実施例4
この実施例の複合電極材料は83重量%の1〜10μmの純度が99.999%の珪素粒子(Alfa Aesarから)と、8重量%のCMC(カルボキシメチルセルロース:DS=0.7、Mw=90,000、Aldrich)バインダと、9重量%の粗炭素ナノ繊維+粗カーボンナノチューブの混合物とからなる。
最初に、複合電極材料の組成の全てのカーボンナノチューブを、1重量%の電極に対応する少量のCMCと一緒に、ボールミル(Fritsch Pulveristette 7)を用いて脱イオン水中に分散させた。分散条件は700回転/分で15時間であった。
分散段階の後に、珪素粒子、炭素ナノ繊維および残りのCMCを添加した。これら全てを500回転/分で30分間、共ミリングして混合した。複合電極材料は28.57重量%の懸濁液から成り、残りは脱イオン水であった。
【0082】
上記複合電極材料を含む懸濁液を25μm厚さの銅製電流コレクタに塗布して電極を調製した。塗装ブレードの高さは100μmに設定した。最初に、電極を室温で乾燥し、次いで、真空下に55℃で3時間乾燥した。
こうして得られた電極を、ニッケル電流コレクタ上に積層されたリチウム金属箔を正極として、ガラス繊維セパレータおよび液体電解質(EC/DMC (1:1)で溶解した1MのLiPF6溶液からなる)を有する電池に取り付けた。
【0083】
充放電サイクルは、0〜1V対Li+/Liの電位範囲で、950mAh/gに制限される一定の比容量で実施した。充放電サイクルの制御は150mA/gの電流Iでの定電流モード、C/6モードに対応するモードで行った(各充放電サイクルを6.33時間続ける)。この充放電サイクルモードによって、反応終了時の電位が0V以上である限り、一定容量が得られ、次いで、容量は反応終了時の電位が0Vになったときにサイクルの数とともに減少した。
【0084】
[表2]は電極の組成およびその充放電サイクル寿命を示している。保持される寿命基準は反応終了時の電位が0Vになるような基準である:
【表2】

【0085】
この表からわかるように、活性材料80部当たり12部を選択した場合には、サイクル数で表される寿命は120ではなく、88になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性要素すなわち電気化学的活性を示す要素と、導電性添加剤と、バインダとを含む複合電極材料において、上記導電性添加剤が少なくとも炭素ナノ繊維(CNF)と少なくともカーボンナノチューブ(CNT)とを含む導電性添加剤の混合物であることを特徴とする複合電極材料。
【請求項2】
上記混合物が、グラファイト、カーボンブラック、例えばアセチレンブラック、およびsp−炭素の中から選択される一種以上の他の導電性添加剤をさらに含む請求項1に記載の複合電極材料。
【請求項3】
炭素ナノ繊維の直径が50〜200nmで、アスペクト比が10〜1000であり、カーボンナノチューブの直径が0.4〜20nmで、アスペクト比が20〜1000である請求項1に記載の複合電極材料。
【請求項4】
活性要素が、この活性要素を含む電極で挿入(Li+)、変換、移動および溶解−再結晶化の原理で機能する要素の中から選択される請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合電極材料。
【請求項5】
活性要素が、リチウムとLixabc型の可逆性合金を形成することができる金属Mまたは金属合金Mabc...である請求項4に記載の複合電極材料。
【請求項6】
金属がSn、SbおよびSiの中から選択される請求項5に記載の複合電極材料。
【請求項7】
上記バインダが多糖類、変性多糖類、ラテックス、高分子電解質、ポリエーテル、ポリエステルおよびポリアクリルポリマーの中から選択されるポリマーP1である請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合電極材料。
【請求項8】
炭素ナノ繊維(CNF)およびカーボンナノチューブ(CNT)の含有量が活性材料100重量部当たり12重量部以上である請求項1、6および7に記載の複合電極材料。
【請求項9】
平均4重量%の炭素ナノ繊維と、平均8重量%の粗カーボンナノチューブとを含む請求項8に記載の複合電極材料。
【請求項10】
4重量%の炭素ナノ繊維と、8重量%のカーボンナノチューブとを含み、80重量%のSi粒子と8重量%のバインダとを含む請求項9に記載の複合電極材料。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の複合電極材料を含む電極。
【請求項12】
リチウム電池型の電気化学的装置用の請求項10に記載の負極。
【請求項13】
非水電解質式の二次電池用の請求項11に記載の負極。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の複合電極材料を含む負極を有する(Li−イオン)二次電池。
【請求項15】
充放電動作で珪素原子1つ当たり0〜1.1のリチウム原子が挿入される請求項14に記載の(Li−イオン)二次電池。
【請求項16】
下記(1)と(2)の工程から成る請求項1〜15のいずれか一項に記載の複合電極材料の製造方法:
(1)バインダP1と、電子伝導性を与える少なくとも炭素ナノ繊維CNFと、電子伝導性を与える少なくともカーボンナノチューブCNTと、リチウムと反応して合金を可逆的に形成できる活性電極要素M1と、揮発性溶剤S1とを含む懸濁液を調製し、
(2)得られた懸濁液からフィルムを製造する。
【請求項17】
0.1〜10トンの圧力を加えてフィルムの密度を高くする請求項16に記載の複合電極材料の製造方法。
【請求項18】
第3の導電性添加剤C1を加えて重量の調整をする請求項16に記載の複合電極材料の製造方法。
【請求項19】
活性要素M1がLi−イオン電池の再放電中にリチウムと反応する化合物の中から選択され、金属M、好ましくはSn、SbまたはSiまたは金属合金Mabc...がリチウムとLixabc型の合金を形成する請求項16に記載の複合電極材料。
【請求項20】
懸濁液の調製中に、ポリマーP1から成るバインダをそのままの形または溶液の形で揮発性溶剤S1中に導入し、CNF/CNT混合物をそのままの形または懸濁液の形で揮発性溶剤中に導入する請求項16に記載の複合電極材の製造方法。
【請求項21】
ポリマーP1を多糖類、変性多糖類、ラテックス、高分子電解質、ポリエーテル、ポリエステルおよびポリアクリルポリマーの中から選択する請求項20に記載の複合電極材の製造方法。
【請求項22】
揮発性溶剤S1が有機溶剤または水または有機溶剤/水混合物である請求項20に記載の複合電極材の製造方法。
【請求項23】
有機溶剤がN−メチルピロリドンまたはジメチルスルホキシドの中から選択する請求項22に記載の複合電極材の製造方法。
【請求項24】
懸濁液の調製を単一段階または2つの連続した段階で行う請求項16に記載の複合電極材の製造方法。
【請求項25】
カーボンナノチューブと任意成分としてのポリマーP1の全部または一部を含む分散体を調製し、この分散体に複合電極材の他の成分を添加する2つの連続した段階で懸濁液を調製し、この新しい懸濁液を用いてフィルムを製造する請求項16に記載の複合電極材の製造方法。
【請求項26】
カーボンナノチューブと任意成分としてポリマーP1全部または一部を溶剤中に含む分散体を調製し、それに活性要素M1を添加し、溶剤を除去し、粉末を得た後、この粉末に溶剤S1および複合電極材の残りの成分を添加して新たな懸濁液を形成し、この新たな懸濁液を用いてフィルムを製造する請求項16に記載の複合電極材の製造方法。
【請求項27】
任意の通常の手段、例えば押出成形、テープ成形または噴霧乾燥によって懸濁液から基材上にフィルムを作り、乾燥させる請求項16に記載の複合電極材の製造方法。
【請求項28】
基材として電極用コレクタの役目をする金属箔、例えば銅またはニッケル箔または耐食被覆処理したメッシュを用いる請求項27に記載の複合電極材の製造方法。
【請求項29】
請求項16〜28のいずれか一項に記載の複合電極材製造方法の、リチウム電池型の電気化学的装置用電極の製造での使用。
【請求項30】
基材上のフィルムを電極として直接用いる請求項26に記載の方法の使用。
【請求項31】
請求項16〜28のいずれか一項に記載の製造方法で得られた複合電極材を含む電極の、非水電解質式の二次電池の製造方法の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−501515(P2012−501515A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524431(P2011−524431)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051612
【国際公開番号】WO2010/026332
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【出願人】(505252333)サントル・ナシヨナル・ド・ラ・ルシエルシユ・シヤンテイフイク (24)
【Fターム(参考)】