説明

複合電極材料及びその製造方法、並びに該複合電極材料を用いたリチウム電池

【課題】活物質とイオン伝導性物質の接触点、及び活物質と導電助剤の接触点を増やすための処理を少なく又はしなくとも全固体電池の電池性能を高くすることが可能な電極材料を提供する。
【解決手段】活物質、導電物質及び固体イオン伝導性物質とが複合化している複合電極材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合電極材料及びその製造方法、並びに該複合電極材料を用いたリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の移動通信、情報電子機器の発達に伴い、高容量かつ軽量なリチウム二次電池の需要が増加する傾向にある。室温で高いリチウムイオン伝導性を示す電解質のほとんどが液体であり、市販されているリチウムイオン二次電池の多くが有機系電解液を用いている。この有機系電解液を用いたリチウム二次電池では、漏洩、発火・爆発の危険性があり、より安全性の高い電池が望まれている。
上記問題を解決する次世代リチウムイオン電池として、より安全性の高い固体電解質を使用した全固体リチウムイオン電池が期待されている。固体電解質を用いた全固体電池では、電解質の漏洩や発火が起こりにくいという特徴を有している。
【0003】
リチウム二次電池の活物質は、イオン伝導性が低いとともに電子電導性も低いものが多く、電極を製造する場合には、活物質だけではなく、イオン伝導性を確保するためイオン伝導性物質と電子伝導性を確保するため導電助剤を用いることが一般的である。特に全固体電池では、活物質、イオン伝導性物質及び導電助剤はともに粒子状であるため、イオン伝導性と電子電導性を高くするためには、活物質、イオン伝導性物質及び導電助剤を含む合材をメカニカルミリング処理等により混合し、活物質とイオン伝導性物質の接触点、及び活物質と導電助剤の接触点を多くする必要があった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−40190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、活物質とイオン伝導性物質の接触点、及び活物質と導電助剤の接触点を増やすための処理を少なく又はしなくとも全固体電池の電池性能を高くすることが可能な電極材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の複合電極材料等が提供される。
1.活物質、導電物質及び固体イオン伝導性物質とが複合化している複合電極材料。
2.前記活物質の表面に前記固体イオン伝導性物質が複合化している1に記載の複合電極材料。
3.前記活物質の表面の一部に前記固体イオン伝導性物質が複合化している1又は2に記載の複合電極材料。
4.表面の一部が、前記固体イオン伝導性物質、及び前記導電物質である1〜3のいずれかに記載の複合電極材料。
5.前記活物質がS原子を含む1〜4のいずれかに記載の複合電極材料。
6.前記固体イオン伝導性物質がLi原子及びS原子を含む固体電解質である1〜5のいずれかに記載の複合電極材料。
7.導電物質と活物質を複合化した複合材料、及び前記活物質と反応することにより固体イオン伝導性物質を合成できる物質とを反応させる複合電極材料の製造方法。
8.S原子を含む活物質と導電物質とを複合化した複合材料と、P、B、Zn、Si、Cu、Ga及びGeから選択される1以上の元素とSを含む化合物と、を反応させる、
P、B、Zn、Si、Cu、Ga及びGeから選択される1以上の元素とアルカリ金属とSとを含む固体イオン伝導性物質と、S原子を含む活物質と、導電物質と、を複合化させた複合電極材料の製造方法。
9.8に記載の製造方法により製造された複合電極材料。
10.1〜6及び9のいずれかに記載の複合電極材料を含む電極。
11.1〜6及び9のいずれかに記載の複合電極材料を用いて製造された電極。
12.10又は11に記載の電極を備えるリチウム電池。
13.12に記載のリチウム電池を備える装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、活物質とイオン伝導性物質の接触点、及び活物質と導電助剤の接触点を増やすための処理を少なく又はしなくとも全固体電池の電池性能を高くすることが可能な電極材料が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で製造した電解質複合体のX線回折の結果を示す図である。
【図2】実施例1で製造した正極合材のTEM分析結果を示す図である。
【図3】実施例1で製造した正極合材のTEM−EDS分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[複合電極材料]
本発明の複合電極材料は、活物質、導電物質及び固体イオン伝導性物質が複合化している。
ここで複合化とは、例えば活物質、導電物質及び固体イオン伝導性物質にメカニカルミリング処理等の力学的な作用を加えることにより、これらを互いに密着させることではなく、これらが一体化していることを意味する。具体的には、活物質と導電物質の複合化とは、導電物質の存在下、活物質を合成することにより導電物質の表面上及び/又は内部に活物質が合成された場合のような状態を意味する。また、活物質と固体イオン伝導性物質の複合化とは、活物質の一部からイオン伝導性物質を合成した場合のような状態を意味する。
【0010】
複合電極材料は、好ましくは活物質の表面に固体イオン伝導性物質が複合化している。
活物質の表面とは、活物質の比表面積分析により測定される面であり、具体的にはBET比表面積となる面を意味する。活物質の表面にイオン伝導性物質が複合化していることにより、複合電極材料間及び複合電極材料と導電物質間でのイオンの移動が容易になるからである。
【0011】
複合電極材料は、好ましくは活物質の表面の一部にイオン伝導性物質が複合化している。
上記複合化は、好ましくは活物質の表面の0.01%以上に固体イオン伝導性物質が一体化しており、より好ましくは活物質の表面の1%以上にイオン伝導性物質が一体化している。
ここで、活物質の表面のイオン伝導性物質が一体化していない部分は、好ましくは表面全体の1%以下(活物質の表面にイオン伝導性物質が一体化している部分が表面全体の99%以上)であり、より好ましくは活物質の表面にイオン伝導性物質が一体化していない部分が、表面全体の0.01%以下(活物質の表面に電解質が一体化している部分が表面全体の99.99%以上)である。
【0012】
複合電極材料は、好ましくは固体イオン伝導性物質の一部、及び導電物質の一部が表面に出ている。
固体イオン伝導性物質の一部が表面に出ていることで、複合電極材料と固体イオン伝導性物質の間でイオン移動が可能になる。好ましくは固体イオン伝導性物質が表面に露出している部分が、表面全体の0.01%以上であり、より好ましくは1%以上である。
また、導電物質の一部が表面に出ていれば、複合電極材料間及び複合電極材料と導電物質間での電子の移動が容易になる。好ましくは導電物質が表面に露出している部分が、表面全体の0.01%以上であり、より好ましくは1%以上である。
【0013】
以下、本発明の複合電極材料の各部材について説明する。
[活物質]
活物質は、正極活物質及び負極活物質のいずれでもよい。
(1)正極活物質
正極活物質は、リチウムイオンの挿入脱離が可能な物質であり、電池分野において正極活物質として公知のものが使用できる。
正極活物質としては、V、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、Li(NiCoMn)O(ここで、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)、LiNi1−YCo、LiCo1−YMn、LiNi1−YMn(ここで、0≦Y<1)、Li(NiCoMn)O(0<a<2、0<b<2、0<c<2、a+b+c=2)、LiMn2−ZNi、LiMn2−ZCoZO(ここで、0<Z<2)、LiCoPO、LiFePO、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiFePO、LiCoPO、LiMn1/3Ni1/3Co1/3、LiMn1.5Ni0.5(Xは0.1〜0.9);硫化チタン(TiS)、硫化モリブデン(MoS)、硫化鉄(FeS、FeS)、硫化銅(CuS)、硫化ニッケル(Ni)、硫化リチウム(LiS)等の硫化物系正極活物質(好ましくはLiS);酸化ビスマス(Bi)、鉛酸ビスマス(BiPb)、酸化銅(CuO)、酸化バナジウム(V13)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)等の酸化物系正極活物質等が挙げられる。
これら正極活物質は1種単独で、又は2種以上の混合物として使用できる。
【0014】
上記の他、セレン化ニオブ(NbSe)、有機ジスルフィド化合物、カーボンスルフィド化合物、硫黄、金属インジウム等を正極活物質として使用できる。
有機ジスルフィド化合物及びカーボンスルフィド化合物を以下に例示する。
【化1】

【化2】

(式(A)〜(C)において、Xはそれぞれ置換基であり、n及びmはそれぞれ独立に1〜2の整数であり、p及びqはそれぞれ独立に1〜4の整数である。
式(D)において、Zはそれぞれ−S−又は−NH−であり、nは繰返数2〜300の整数である。)
【化3】

(式中、n及びmはそれぞれ独立の整数である。)
【0015】
正極活物質は、好ましくは硫黄原子(S)を含む正極活物質であり、より好ましくはアルカリ金属硫化物である。当該硫黄原子を含む正極活物質としては、例えば硫黄原子、有機ジスルフィド化合物、カーボンスルフィド化合物及びこれらのアルカリ金属化合物が挙げられる。
【0016】
正極活物質の理論容量は、大きいほど好ましく、例えば500mAhg−1以上、好ましくは1000mAhg−1以上、より好ましくは1300mAhg−1以上である。
正極活物質の理論容量の上限は特にないが、例えば10000mAhg−1、5000mAhg−1、3000mAhg−1、2000mAhg−1が例示できる。
尚、理論容量は物質の固有値であり、硫黄の理論容量は1672mAhg−1である。
【0017】
上記アルカリ金属硫化物は、好ましくはX線回折(XRD)で測定したアルカリ金属硫化物のスペクトルピークの半値幅が0.370°以上であり、より好ましくはX線回折(XRD)で測定したアルカリ金属硫化物のスペクトルピークの半値幅が0.500°以上である。これは、アルカリ金属硫化物の結晶が、従来の単純な混合で得られたアルカリ金属硫化物の結晶よりも微細であることを示す。
ここで、上記半値幅の上限は特に制限しない。例えば、0.370°以上であってもよい。
例えばアルカリ金属硫化物が硫化リチウムである場合、好ましくは硫化リチウムのXRD(CuKα:λ=1.5418Å)は、2θ=26.8、31.0、44.6、52.8°にピークがあり、2θ=44.6°近傍のピークの半値幅が0.370°以上、より好ましくは2θ=44.6°近傍のピークの半値幅が0.500°以上である。尚、硫化リチウムの半値幅が0.370°未満の場合、充放電容量が小さくなるおそれがある。
【0018】
(2)負極活物質
負極活物質は、リチウムイオンの挿入脱離が可能な物質であり、電池分野において負極活物質として公知のものが使用できる。
負極活物質としては、例えば人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素等の炭素材料、及びこれらの混合物が挙げられ、好ましくは人造黒鉛である。
上記の他、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属ケイ素等の金属単体、これら金属単体と他の元素又は他の化合物と組合わせた合金を、負極活物質として用いることができる。
【0019】
[導電物質]
導電物質は、好ましくは電導度が1.0×10S/m以上の導電物質であり、より好ましくは、1.0×10S/m以上、さらに好ましくは1.0×10S/m以上の導電物質である。
導電物質は、好ましくは密度が10g/cm以下であり、より好ましくは7g/cm以下であり、さらに好ましくは5g/cm以下であり、最も好ましくは3g/cm以下である。
これら密度を満たす導電物質を用いることにより、エネルギー密度が高く、軽量の電池を製造することが可能になる。
【0020】
導電物質は、例えば比表面積が大きい導電物質であり、具体的には好ましくはBET比表面積が0.1m/g以上5000m/g以下であり、より好ましくは1m/g以上3000m/g以下である。
比表面積が上記範囲にある導電物質は、活物質との接触面を大きくすることができ、電子伝導性を高くすることができる。一方、BET比表面積が0.1m/g未満であると活物質及び/又は固体イオン伝導性物質と複合化しにくくなるおそれがあり、BET比表面積が5000m/gを超えると嵩高くなって取り扱いが難しくなるおそれがある。
【0021】
導電物質は、例えば細孔を有する導電物質であり、好ましくは平均直径が0.5nm以上40nm以下の細孔を有し、より好ましくは0.5nm以上20nm以下の細孔を有する。
上記範囲の平均直径である細孔を有する導電物質を用いることにより、充放電容量を高めることができる。
【0022】
導電物質のBET比表面積及び細孔の平均直径は、導電物質を液体窒素下において、導電物質に窒素ガスを吸着させて得られる窒素吸着等温線を用いて測定することができる。具体的には、BET法によりBET比表面積、BJH(Barrett−Joyner−Halenda)法により細孔の平均直径を求めることができる。
【0023】
上記のBET比表面積、及び上記の平均直径である細孔を有する導電物質としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、メソポーラス炭素、活性炭等の炭素材料が挙げられる。尚、メソポーラス炭素は、例えば下記文献に記載の製法で得られる、二次元又は三次元的に細孔を有する炭素材料である。
メソポーラス炭素の文献:S.J.Sang,S.H.Joo,R.Ryoo,et.,J.Am.Chem.Soc.,122(2000)10712−10713、及びT.Yokoi,Y.Sakamoto,O.Terasaki,et.,J.Am.Chem.Soc.,128(2006)13664−13665
【0024】
[固体イオン伝導性物質]
固体イオン伝導性物質は、好ましくはイオン伝導度が10−5S/cm以上であり、より好ましくは10−4S/cm以上であり、最も好ましくは10−3S/cm以上である。
固体イオン伝導性物質のイオン伝導度が上記範囲にあることにより、電池の出力密度を高くすることができる可能性がある。
【0025】
固体イオン伝導性物質は、固体であればよく、例えばポリマー系固体電解質、又は無機固体電解質である。無機固体電解質には、さらに酸化物系固体電解質と硫化物系固体電解質がある。
(i)酸化物系固体電解質
酸化物系固体電解質としては、LiN、LISICON類;Thio−LISICON類;NASICON型構造を有するLiTi12、さらにこれらを結晶化させた電解質;La0.55Li0.35TiO等のペロブスカイト構造を有する結晶等を用いることができる。
【0026】
(ii)硫化物系固体電解質
硫化物系固体電解質は、硫黄を含む固体電解質であればよく、好ましくは硫黄とリチウムを含む固体電解質であり、より好ましくは下記式(1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質であり、さらに好ましくは下記式(2)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質である。
Li (1)
(式(1)において、Mは、P、B、Zn、Si、Cu、Ga及びGeから選択される元素を示す。a、b、dは各元素の組成比を示し、a:b:dは1〜12:1〜1.2:2〜9を満たす。)
Li (2)
(式(2)において、Mは、B、Zn、Si、Cu、Ga及びGeから選択される元素を示す。a〜dは各元素の組成比を示し、a:b:c:dは1〜12:0〜0.2:1:2〜9を満たす。)
【0027】
式(2)において、Li、M、P及びSの組成比は、好ましくはbが0であり、より好ましくはb=0で且つa、c及びdの比(a:c:d)がa:c:d=1〜9:1:3〜7であり、さらに好ましくはb=0で且つa:c:d=1.5〜4:1:3.25〜4.5である。
各元素の組成比は、下記するように、複合電極材料を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0028】
硫化物系固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化している非結晶でもよい。
結晶化させるとガラスよりもイオン伝導度が高くなる場合があり、その場合には結晶化させることが好ましい。
【0029】
結晶化硫化物系固体電解質の結晶構造は、好ましくは特開2002−109955に開示されているLiPS構造、Li構造、LiPS構造、LiSiS構造、LiSiS構造、又は特開2005−228570及びWO2007/066539に開示されているLi11構造であり、最も好ましくはLi11構造である。
【0030】
(iii)ポリマー系固体電解質
ポリマー系固体電解質としては、例えば、特開2010−262860号公報に開示のフッ素樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、これらの誘導体、これらの共重合体等のポリマー電解質として用いられる材料が挙げられる。
上記フッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン(VdF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、これらの誘導体等を構成単位として含む樹脂が挙げられ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のホモポリマー、VdFとHFPとの共重合体(以下、この共重合体を「P(VdF−HFP)」と示す場合がある。)等の2元共重合体や3元共重合体等が挙げられる。
【0031】
[複合電極材料の製造方法]
本発明の複合電極材料は、導電物質と活物質を複合化した複合材料、及び活物質と反応することにより固体イオン伝導性物質を合成できる物質とを反応させることにより製造できる。
複合電極材料の製造に使用できる導電物質と活物質は、複合電極材料で説明した導電物質と活物質と同様である。
活物質と反応することにより固体イオン伝導性物質を合成できる物質としては、活物質が硫化リチウム、硫黄等の硫黄系活物質である場合は、P(三硫化二リン)、P(五硫化二リン)、SiS(硫化珪素)、LiSiO(オルト珪酸リチウム)、Al(硫化アルミニウム)、単体リン(P)、単体の硫黄(S)、シリコン(Si)、GeS(硫化ゲルマニウム)、B(三硫化二砒素)、LiPO(燐酸リチウム)、LiGeO(ゲルマン酸リチウム)、LiBO(メタホウ酸リチウム)、LiAlO(リチウムアルミネート)等である。
尚、活物質が硫化リチウム以外のアルカリ金属硫化物(例えば硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、硫化フランシウム)の場合であっても、上記を使用できる。
【0032】
導電物質と活物質を複合化は、特開2010−95390号公報に開示の方法等の公知の方法により行うことができる。
例えば導電物質が細孔を有する導電物質であり、活物質が硫化リチウムである場合、導電物質と硫黄をメカニカルミリング処理して導電物質と硫黄を密着させ、硫黄が溶解する温度で加熱し、導電物質の細孔内に硫黄を含浸させる。次に、硫黄の固体化する温度まで冷却し、硫黄と反応して硫化リチウムになる物質と硫黄とを接触させて、硫黄を硫化リチウム化することで導電物質と活物質を複合化することができる。活物質−導電物質複合体の平均粒径は、好ましくは200μm以下である。上記複合体の平均粒径の下限は限定しないが、例えば、0.1μm以上とすることができる。
上記の他、下記(i)、(ii)及び(iii)の方法が実施でき、固体イオン伝導性物質が硫化リチウムと五硫化二リンから合成される場合、下記(iii)の方法が好ましい。
【0033】
(i)導電物質の存在下で、硫黄と還元剤を反応させる導電物質と活物質の複合化
(i)の方法はとしては、以下が挙げられる:
・硫黄を導電物質に包接した後、非水性溶媒中で還元剤溶液を加えて加熱して硫化リチウム−導電物質複合体を製造する
・非水性溶媒中に導電物質と硫黄を加え、硫黄を溶解させた後、還元剤溶液を加えて、加熱して硫化リチウム−導電物質複合体を製造する
・還元剤溶液に導電物質と硫黄を加えて加熱して硫化リチウム−導電物質複合体を製造する
・非水性溶媒に導電物質、硫黄及び還元剤をほぼ同時に加えて加熱し、硫化リチウム−導電物質複合体を製造する
【0034】
導電物質は、複合電極材料の導電物質と同様である。
硫黄は、好ましくは高純度の硫黄であり、より好ましくは純度98%以上の硫黄である。
非水性溶媒としては、THF(テトラヒドロフラン)、ジオキサン、エーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチルニトリル等の極性溶媒;トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、石油エーテル等の非極性溶媒;及びクロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒が挙げられる。
還元剤としては、例えば還元性リチウム化合物であり、スーパーハイドライド(LiBHEt)、水素化リチウム、リチウムアルミニウムハイドライド等が挙げられ、好ましくはスーパーハイドライドである。還元剤溶液とは、当該還元剤を上記非水性溶媒に溶解又は分散させたものであり、還元剤を溶解又は分散させる非水性溶媒は、反応に使用する溶媒と同じでも異なってもよい。
【0035】
硫黄1当量モルに対して、還元剤を2当量モル以上反応させると好ましい。
導電物質の使用量は、生成する硫化リチウムに対して、導電物質:硫化リチウム(質量比)=1:1〜1:5が好ましい。この範囲を逸脱して、導電物質量が多いと電極の質量当たりの充放電容量が小さくなるおそれがあり、少ないと電子伝導性が悪くなるおそれがある。
非水性溶媒に対する導電物質、硫黄、還元剤の添加量は特に限定されず、撹拌が円滑にできる量であればよい。
【0036】
加熱温度は、溶媒種にもよるが、工業的に好ましくは20℃以上200℃以下であり、より好ましくは45℃以上145℃以下である。また、反応時間は、工業的に好ましくは1分以上であり、より好ましくは5分以上24時間以下である。
反応終了後は、数分〜数十時間放置し、未反応の還元剤を上澄み液として除去してもよい。未反応分の還元剤の除去は、溶媒での洗浄、固形分のろ別、遠心分離による上澄み液の除去等で行うことができる。
未反応物除去後、室温で真空乾燥して溶媒を除去して、必要に応じてさらに真空加熱して溶媒を除去することで、活物質−導電物質複合体が得られる。
【0037】
(ii)導電物質の存在下で、アルキルリチウムと硫化水素を反応させる硫化リチウム−導電物質複合体の製造方法
(ii)の方法はとしては、以下が挙げられる:
・非水性溶媒中に導電物質とアルキルリチウムを加え、撹拌しながら、硫化水素を流通して反応させることで硫化リチウム−導電物質複合体を製造する
・非水性溶媒に硫化水素を流通させ充分に溶解させた後、導電物質とアルキルリチウムを加え、撹拌しながら硫化水素を流通させて反応させて硫化リチウム−導電物質複合体を製造する
【0038】
使用する導電物質及び非水性溶媒は(i)と同様である。
アルキルリチウムとしては、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、エチルリチウム、メチルリチウム等が挙げられ、n−ブチルリチウムが工業的に好ましい。
硫化水素は、例えば高純度の硫化水素であればよく、好ましくは純度99%以上の硫化水素である。
【0039】
導電物質の使用量は、(i)と同様である。
硫化水素は、アルキルリチウム1モルに対して、好ましくは0.5モル以上供給する。
非水性溶媒に対する導電物質、アルキルリチウムの添加量は特に限定されず、撹拌が円滑にできる量であればよい。
【0040】
硫化水素ガスを通じることで、系内は硫化水素ガス雰囲気となり、反応は定量的に進行するため、硫化水素ガスを理論量使用することで完結させることが可能である。
しかしながら、アルキルリチウムが残存すると後処理に注意する必要が生じるため、硫化水素ガスは、アルキルリチウム理論量よりも2〜50当量%多く使用することが好ましい。過剰量の硫化水素を使用することになるため、排ガスは、アルカリ溶液にてトラップすると安全面において好ましい。
尚、硫化水素の循環ラインを設置することで、アルカリ溶液トラップは不要又は小スケールとすることができる。
【0041】
反応時間は数分〜数時間が工業化的に好ましい。
反応終了後は、数時間〜数十時間放置し、未反応のアルキルリチウムを上澄み液として除去し、溶媒で2回以上程度洗浄するのが好ましい。洗浄後、室温で真空乾燥して溶媒を除去し、さらに真空加熱し溶媒を除去することで、活物質−導電物質複合体が得られる。
これら操作は、溶媒の飽和蒸気圧の下、又は不活性ガス雰囲気下で行い、実質的に水蒸気に曝されない状態を行うのがよい。
【0042】
(iii)固体イオン伝導性物質が硫化リチウムと五硫化二リンから合成される場合
活物質−導電物質複合体と、活物質と反応することにより固体イオン伝導性物質を合成できる物質との反応について、条件は特にない。活物質が硫化リチウムであり、活物質と反応することにより固体イオン伝導性物質を合成できる物質が五硫化二リンである場合、以下の方法により反応を実施できる。
・硫化リチウム−導電物質複合体に、五硫化二リンを加え、溶媒を加えて加熱撹拌することで固体イオン伝導性物質を製造する(以下、適宜「スラリー法」という。)。
・硫化リチウム−導電物質複合体に、五硫化二リンを加え、ボールミルによるMM(メカニカルミリング)法により固体イオン伝導性物質を製造する。
・硫化リチウム−導電物質複合体に、五硫化二リンを加え、溶融法により固体イオン伝導性物質を製造する。
・硫化リチウムと五硫化二リンと導電物質を、個々に添加し、溶媒を加えて過熱撹拌する方法及び、MM法及び溶融法等により固体イオン伝導性物質を製造する。
・五硫化二リンと導電物質の複合体に硫化リチウムを添加し、溶媒を加えて過熱撹拌する方法及び、MM法及び溶融法等により固体イオン伝導性物質を製造する。
【0043】
本発明の複合電極材料の他の製造方法として、S原子を含む活物質と導電物質を複合化した複合材料と、P、B、Zn、Si、Cu、Ga及びGeから選択される1以上の元素とS原子を含む化合物を反応させる。
他の製造方法は、上記の複合電極材料の製造方法の活物質及び固体イオン導電性物質を特定の物質にしただけで、反応条件等は同様である。
【0044】
他の製造方法の活物質は、S原子を含む活物質であり、好ましくはさらにアルカリ金属を含む。当該アルカリ金属としては、好ましくはリチウム又はナトリウムであり、より好ましくはリチウムである。
S原子を含む活物質は、例えば硫化リチウム(LiS)、硫黄、有機ジスルフィド化合物、カーボンスルフィド化合物のリチウム化合物である。
【0045】
他の製造方法のP、B、Zn、Si、Cu、Ga及びGeから選択される1以上の元素とS原子を含む化合物は、好ましくはS及びPを含む化合物である。
P、B、Zn、Si、Cu、Ga及びGeから選択される1以上の元素とS原子を含む化合物の具体例としては、P(三硫化二リン)、P(五硫化二リン)、SiS(硫化珪素)、LiSiO(オルト珪酸リチウム)、GeS(硫化ゲルマニウム)、B(三硫化二砒素)、LiPO(燐酸リチウム)、LiGeO(ゲルマン酸リチウム)、LiBO(メタホウ酸リチウム)等である。
【0046】
得られた複合電極材料について、さらにメカニカルミリング、ハイブリダイゼーション等により、複合電極材料の結着を補ってもよい。
【0047】
[電極]
本発明の複合電極材料は、電極の材料として好適に使用できる。本発明の複合電極材料を用いることにより、電池の理論容量を高めることができる。
本発明の電極は、本発明の複合電極材料を含めばよく、複合電極材料のみからなってもよい。また、本発明の電極は、複合電極材料の他に、導電助剤、バインダー、固体電解質等を含んでもよい。複合電極材料の活物質が負極活物質である場合は、電極は負極として機能し、活物質が正極活物質である場合は、電極は正極として機能する。
【0048】
導電助剤は、公知のものを使用することができ、例えば複合電極材料の導電物質と同様のものが使用できる。
電極が導電助剤を含む場合、電極中の導電助剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは、0.01質量%以上50質量%以下である。
導電助剤の含有量が多すぎると電気容量が小さくなるおそれがあり、導電助剤の量が少ないと(又は含まない)と電気抵抗が高くなるおそれがある。
【0049】
バインダーは、公知のものが使用できる。
電極がバインダーを含む場合、電極中のバインダーの含有量は、好ましくは0.01質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは0.01質量%以上10質量%以下である。
バインダーの含有量が多すぎると電気容量が小さくなるおそれがあり、バインダーの量が少ないと(又は含まない)と結着が弱くなるおそれがある。
【0050】
固体電解質としては、例えばポリマー系固体電解質、酸化物系固体電解質及び硫化物系固体電解質が挙げられる。
(1)ポリマー系固体電解質
ポリマー系固体電解質としては、例えば、特開2010−262860号公報に開示のフッ素樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、これらの誘導体、これらの共重合体等のポリマー電解質として用いられる材料が挙げられる。
上記フッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン(VdF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、これらの誘導体等を構成単位として含む樹脂が挙げられ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のホモポリマー、VdFとHFPとの共重合体(以下、この共重合体を「P(VdF−HFP)」と示す場合がある。)等の2元共重合体や3元共重合体等が挙げられる。
【0051】
(2)酸化物系固体電解質
酸化物系固体電解質としては、LiN、LISICON類;Thio−LISICON類;NASICON型構造を有するLiTi12、さらにこれらを結晶化させた電解質;La0.55Li0.35TiO等のペロブスカイト構造を有する結晶等を用いることができる。
【0052】
(3)硫化物系固体電解質
硫化物系固体電解質は、例えば下記式(1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質である。
Li (1)
(式中、Mは、B、Zn、Si、Cu、Ga及びGeから選択される元素を示す。a〜dは各元素の組成比を示し、a:b:c:dは1〜12:0〜0.2:1:2〜9を満たす。)
【0053】
式(1)において、Li、M、P及びSの組成比は、好ましくはbが0であり、より好ましくはb=0で且つa、c及びdの比(a:c:d)がa:c:d=1〜9:1:3〜7であり、さらに好ましくはb=0で且つa:c:d=1.5〜4:1:3.25〜4.5である。
各元素の組成比は、下記するように、硫化物系固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0054】
硫化物系固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化している非結晶でもよい。
結晶化させるとガラスよりもイオン伝導度が高くなる場合があり、その場合には結晶化させることが好ましい。
【0055】
結晶化硫化物系固体電解質の結晶構造は、好ましくは特開2002−109955に開示されているLiPS構造、Li構造、LiPS構造、LiSiS構造、LiSiS構造、又は特開2005−228570及びWO2007/066539に開示されているLi11構造であり、最も好ましくはLi11構造である。
結晶化硫化物固体電解質の結晶化部分は、これら結晶構造のいずれか1つを有すればよく、複数の結晶構造を有していてもよい。これら結晶構造を有する結晶化硫化物固体電解質は、非晶質の硫化物固体電解質よりも高いイオン伝導度を示すことができる。
尚、例えばLi11構造は、X線回折(CuKα:λ=1.5418Å)において、2θ=17.8±0.3deg,18.2±0.3deg,19.8±0.3deg,21.8±0.3deg,23.8±0.3deg,25.9±0.3deg,29.5±0.3deg,30.0±0.3degに回折ピークを有する。
【0056】
結晶化硫化物系固体電解質の結晶化度(非晶体よりイオン伝導度が高い結晶構造の結晶化度)は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上である。
結晶化硫化物系固体電解質の結晶化度が50%未満の場合、結晶化によりイオン伝導度を高くするという効果が少なくなるおそれがある。
【0057】
結晶化度は、NMRスペクトル装置を用いることにより測定できる。具体的には、結晶化硫化物系固体電解質の固体31P−NMRスペクトルを測定し、得られたスペクトルについて、70−120ppmに観測される共鳴線を、非線形最少二乗法を用いたガウス曲線に分離し、各曲線の面積比を求めることにより測定できる。
【0058】
硫化物系固体電解質の製造に用いる原料としては、LiS(硫化リチウム)、P(三硫化二リン)、P(五硫化二リン)、SiS(硫化珪素)、LiSiO(オルト珪酸リチウム)、Al(硫化アルミニウム)、単体リン(P)、単体硫黄(S)、シリコン(Si)、GeS(硫化ゲルマニウム)、B(三硫化二砒素)、LiPO(燐酸リチウム)、LiGeO(ゲルマン酸リチウム)、LiBO(メタホウ酸リチウム)、LiAlO(リチウムアルミネート)等を用いることができ、LiS(硫化リチウム)及びP(五硫化二リン)を用いると好ましい。
【0059】
硫化物系固体電解質の原料にLiS(硫化リチウム)及びP(五硫化二リン)を用いた場合の、硫化物系固体電解質の製造方法を説明する。
原料である硫化リチウムは、特に制限なく工業的に入手可能なものが使用でき、例えば、特開平7−330312号公報、特開平9−283156号公報、特開2010−163356号公報、特開2011−084438号公報に開示の方法で製造できる硫化リチウムを使用できる。
尚、上記特開2010−163356号公報では、炭化水素系有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを70℃〜300℃で反応させて、水硫化リチウムを生成し、次いでこの反応液を脱硫化水素化することにより硫化リチウムを合成する。また、上記特開2011−084438号公報では、水溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを10℃〜100℃で反応させて、水硫化リチウムを生成し、次いでこの反応液を脱硫化水素化することにより硫化リチウムを合成する。
【0060】
硫化リチウムは、好ましくは硫黄酸化物のリチウム塩の総含有量が0.15質量%以下であり、より好ましくは硫黄酸化物のリチウム塩の総含有量が0.1質量%以下である。また、硫化リチウムは、好ましくはN−メチルアミノ酪酸リチウムの含有量が0.15質量%以下であり、より好ましくはN−メチルアミノ酪酸リチウムの含有量が0.1質量%以下である。
硫黄酸化物のリチウム塩の総含有量が0.15質量%以下であると、溶融急冷法やメカニカルミリング法で得られる固体電解質を、ガラス状電解質(完全非晶質)とすることができる。一方、硫黄酸化物のリチウム塩の総含有量が0.15質量%を越えると、得られる電解質は、最初から結晶化物となるおそれがあり、この結晶化物のイオン伝導度は低い。さらに、この結晶化物について熱処理を施しても結晶化物には変化がなく、高イオン伝導度の硫化物系固体電解質を得ることができないおそれがある。
また、N−メチルアミノ酪酸リチウムの含有量が0.15質量%以下であると、N−メチルアミノ酪酸リチウムの劣化物がリチウムイオン電池のサイクル性能を低下させることがない。
このように不純物が低減された硫化リチウムを用いることにより、高イオン伝導性電解質が得られる。
【0061】
特開平7−330312号及び特開平9−283156号に記載の硫化リチウムの製造方法では、得られる硫化リチウムは硫黄酸化物のリチウム塩等を含むため、精製することが好ましい。一方、特開2010−163356号に記載の硫化リチウムの製造方法では、得られる硫化リチウムは、硫黄酸化物のリチウム塩等の含有量が非常に少ないため、精製せずにそのまま用いることができる。
硫化リチウムを精製する場合、好ましい精製法としては、例えば、国際公開WO2005/40039号に開示の精製法等が挙げられ、得られた硫化リチウムを有機溶媒を用いて100℃以上の温度で洗浄することにより精製する。
【0062】
硫化物系固体電解質の原料に用いるP(五硫化二リン)は、工業的に製造され、販売されている五硫化二リンであれば、特に限定なく使用することができる。
【0063】
硫化物系固体電解質(硫化物系ガラス固体電解質)は、硫化リチウムと五硫化二リンの混合物を、溶融急冷法、メカニカルミリング法(MM法)、有機溶媒中で原料を反応させるスラリー法等によって反応させることにより製造することができる。
硫化リチウムと五硫化二リンの混合比(モル比)は、通常LiS:P=50:50〜80:20であり、好ましくはLiS:P=60:40〜75:25であり、特に好ましくはLiS:P=68:32〜74:26(モル比)である。
【0064】
硫化物系ガラス固体電解質を溶融急冷法によって製造する場合、例えば特開平6−279049号公報又はWO2005/119706に開示の溶融急冷法を実施するとよい。
具体的には、PとLiSを所定量乳鉢にて混合してペレット状とし、当該ペレットをカーボンコートした石英管中に入れ真空封入する。その後、所定の反応温度で反応させ、氷中に投入し急冷することにより、硫化物系ガラス固体電解質が得られる。
反応温度は、好ましくは400℃〜1000℃であり、より好ましくは800℃〜900℃である。また、反応時間は、好ましくは0.1時間〜12時間、より好ましくは1〜12時間である。
上記反応物の急冷温度は、通常10℃以下であり、好ましくは0℃以下であり、その冷却速度は、通常1〜10000K/sec程度であり、好ましくは10〜10000K/secである。
【0065】
硫化物系ガラス固体電解質をメカニカルミリング法によって製造する場合、例えば特開平11−134937号公報、特開2004−348972号公報又は特開2004−348973号公報に開示のメカニカルミリング法を実施するとよい。
具体的には、PとLiSを所定量乳鉢にて混合し、例えば各種ボールミル等を使用して、混合物を所定時間反応させることにより、硫化物系ガラス固体電解質が得られる。
MM法では、室温で反応を行うことができ、室温でガラス固体電解質を製造できるため、原料の熱分解が起らず、仕込み組成のガラス固体電解質を得ることができるという利点がある。また、MM法では、ガラス固体電解質の製造と同時に、ガラス固体電解質を微粉末化できるという利点もある。
尚、MM法は室温に限定されず、特開2010−30889号公報に開示されているように、メカニカルミリング処理の際のミル内の温度を調整してもよい。メカニカルミリングの際に原料が60℃以上160℃以下になるようにすることが好ましい。
【0066】
MM法では、回転ボールミル、転動ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル等種々の形式を用いることができ、特開2010−90003号公報に記載されているように、ボールミルのボールは異なる径のボールを混合して使用してもよい。
MM法の条件としては、例えば、遊星型ボールミル機を使用した場合、回転速度を数十〜数百回転/分とし、0.5時間〜100時間処理すればよい。
上記の他、特開2009−110920号公報及び特開2009−211950号公報に開示されているように、PとLiSの混合物に有機溶媒を添加してスラリー状にし、このスラリーをメカニカルミリング処理してもよい。
【0067】
硫化物系ガラス固体電解質をスラリー法によって製造する場合、例えばWO2004/093099又はWO2009/047977に開示のスラリー法を実施するとよい。
具体的には、所定量のP粒子とLiS粒子を有機溶媒中で所定時間反応させることにより、硫化物系ガラス固体電解質が得られる。
反応温度は、好ましくは20℃以上80℃以下であり、より好ましくは20℃以上60℃以下である。また、反応時間は、好ましくは1時間以上16時間以下であり、より好ましくは2時間以上14時間以下である。
【0068】
スラリー法を実施する場合に、原料である硫化リチウムと五硫化二リンに有機溶媒を添加して、溶液状又はスラリー状とすることが好ましく、有機溶媒1リットルに対して原料(合計量)を、通常0.001kg以上1kg以下添加し、好ましくは0.005kg以上0.5kg以下添加し、特に好ましくは0.01kg以上〜0.3kg添加する。
【0069】
添加する有機溶媒は、特に制限されないが、好ましくは非プロトン性有機溶媒であり、例えば非プロトン性有機溶媒(例えば、炭化水素系有機溶媒)、非プロトン性極性有機化合物(例えば、アミド化合物、ラクタム化合物、尿素化合物、有機イオウ化合物、環式有機リン化合物等)を、単独溶媒として又はこれらの混合溶媒として使用する。
【0070】
上記炭化水素系有機溶媒としては、飽和炭化水素溶媒、不飽和炭化水素溶媒又は芳香族炭化水素溶媒が使用できる。
飽和炭化水素溶媒としては、ヘキサン、ペンタン、2−エチルヘキサン、ヘプタン、デカン、シクロヘキサン等が挙げられ;不飽和炭化水素溶媒としては、ヘキセン、ヘプテン、シクロヘキセン等が挙げられ、芳香族炭化水素溶媒としては、トルエン、キシレン、デカリン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン等が挙げられる。これら炭化水素系有機溶媒のうち、特にトルエン、キシレンが好ましい。
【0071】
スラリー法に炭化水素系有機溶媒を用いる場合は、炭化水素系有機溶媒は、あらかじめ脱水されていることが好ましく、具体的には、水分含有量が100重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒が好ましく、水分含有量が30重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒であることが特に好ましい。
尚、必要に応じて炭化水素系有機溶媒に他の溶媒を添加してもよい。添加可能な他の溶媒は、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;エタノール、ブタノール等のアルコール類;酢酸エチル等のエステル類;ジクロロメタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
【0072】
スラリー法を実施する際に、特開2010−140893号公報に開示の、反応を進行させるため、原料を含むスラリーをビーズミルと反応容器との間で循環させながら反応させてもよく、WO2009/047977に開示の、効率的に反応を進行させるため、原料の硫化リチウムを予め粉砕しておいてもよく、特開2011−136899号公報に開示の、原料の硫化リチウムの比表面積を大きくするため、溶解パラメーターが9.0以上の極性溶媒(例えば、メタノール、ジエチルカーネート、アセトニトリル)に所定時間浸漬してもよい。
【0073】
硫化物系ガラス固体電解質を、溶融急冷法、メカニカルミリング法又はスラリー法で製造する場合を説明したが、これら方法を実施する際の温度条件、処理時間、仕込み料等の製造条件は上記に限定されず、使用設備等に合わせて適宜調整することができる。
【0074】
硫化物系ガラス固体電解質を所定の温度で熱処理することで、硫化物系結晶化ガラス固体電解質(硫化物系ガラスセラミックス固体電解質)を製造することができる。
硫化物系固体電解質(ガラスセラミックス)の製造方法は、例えば特開2005−228570号公報、WO2007/066539、特開2002−109955号公報に開示されている。
【0075】
Li11構造の硫化物系ガラスセラミックス固体電解質を製造する場合の熱処理温度は、好ましくは180℃以上330℃以下であり、より好ましくは200℃以上320℃以下であり、特に好ましくは210℃以上310℃以下である。
熱処理温度が180℃未満の場合、結晶化度の高い結晶化ガラスが得られにくい場合があり、熱処理温度が330℃超の場合、結晶化度の低い結晶化ガラスが生じるおそれがある。
【0076】
Li11構造の硫化物系ガラスセラミックス固体電解質を製造する場合の熱処理時間は、熱処理温度が180℃以上210℃以下の温度の場合は、好ましくは3時間以上240時間以下であり、特に好ましくは4時間以上230時間以下である。また、熱処理温度が210℃超330℃以下の温度の場合は、好ましくは0.1時間以上240時間以下であり、より好ましくは0.2時間以上235時間以下であり、さらに好ましくは0.3時間以上230時間以下である。
熱処理時間が0.1時間未満の場合、結晶化度の高い結晶化ガラスが得られにくい場合があり、熱処理時間が240時間超の場合、結晶化度の低い結晶化ガラスが生じるおそれがある。
【0077】
LiPS構造、Li構造、LiPS構造及び/又はLiSiS構造を有する硫化物系ガラスセラミックス固体電解質を製造する場合の加熱条件は、公知の加熱条件でよく、例えば特開2002−109955号公報に開示の加熱条件が適用できる。
【0078】
Li11構造の硫化物系ガラスセラミックス固体電解質、及びLiPS構造、Li構造、LiPS構造及び/又はLiSiS構造を有する硫化物系ガラスセラミックス固体電解質のいずれを製造する場合であっても、加熱処理は、好ましくは露点−40℃以下の環境下で実施し、より好ましくは露点−60℃以下の環境下で実施する。
加熱時の圧力は、常圧であってもよく、減圧下であってもよい。また、加熱雰囲気は、空気であってもよく、不活性雰囲気下であってもよい。
上記に加えて、加熱処理を特開2010−186744号公報に開示の溶媒中で実施してもよい。
【0079】
固体電解質の形状は、特に制限されないが、固体電解質が酸化物系固体電解質又は硫化物系固体電解質である場合は、好ましくは固体電解質粒子である。固体電解質が粒子状であることにより、スラリー状にして塗布することにより電解質層を積層できる他、静電法によっても電解質層を積層することができる。
固体電解質粒子の粒径は、好ましくは一次粒子径が0.01μm以上100μm以下であり、より好ましくは0.01μm以上20μm以下である。
【0080】
固体電解質粒子の粒径は、体積基準平均粒径(Mean Volume Diameter)であり、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定できる。レーザー回折式粒度分布測定方法は、乾燥せずに粒度分布を測定することができ、粒子群にレーザーを照射して、その散乱光を解析することで、粒度分布を測定することができる。
【0081】
平均粒径を測定するレーザー回折式粒度分布測定装置が、Malvern Instruments Ltd社製マスターサイザー2000である場合、具体的な測定手順は以下の通りである。
まず、装置の分散槽に脱水処理されたトルエン(和光純薬製、製品名:特級)110mlを入れ、さらに分散剤として脱水処理されたターシャリーブチルアルコール(和光純薬製、特級)を6%添加する。この混合物を十分混合した後、「乾燥した固体電解質粒子」を添加して粒子径を測定する。乾燥した固体電解質粒子の添加量は、マスターサイザー2000で規定されている操作画面で、粒子濃度に対応するレーザー散乱強度が規定の範囲内(10〜20%)に収まるように加減して加える。この範囲を超えると多重散乱が発生し、正確な粒子径分布を求めることができなくなるおそれがある。また、この範囲より少ないとSN比が悪くなり、正確な測定ができないおそれがある。マスターサイザー2000では、乾燥した固体電解質粒子の添加量に基き、レーザー散乱強度が表示されるので、上記レーザー散乱強度に入る添加量を見つけるとよい。
乾燥した固体電解質粒子の添加量は、イオン伝導性物質の種類等により最適量は異なるが、概ね0.01g〜0.05g程度である。
【0082】
固体電解質の添加量は、製造する電池に要求される出力密度と充放電容量に基づき適宜含有量を設定すればよく、本発明の複合電極材料のを用いる場合は、あらためて固体電解質を添加しなくともよい。
電極が固体電解質を含む場合、電極中の固体電解質の含有量は、好ましくは固体電解質と本発明の複合電極材料の質量比が9:1〜1:99となるようにし、より好ましくは5:5〜1:99である。
固体電解質の量が多すぎると電気容量が小さくなるおそれがあり、電解質の量が少ないと(又は含まない)とイオン伝導性が低くなるおそれがある。
【0083】
[電極の形成方法]
本発明の電極は、本発明の複合電極材料を通常の方法でプレス成形して、シート状の電極とする方法等により形成できる。好ましくは複合電極材料の固体イオン伝導性物質が、ガラス状固体電解質であり、ガラス転移温度以上の温度で加熱しながらプレスし、当該ガラス状固体電解質の一部又は全部を融着させるか、又はガラス状固体電解質の一部又は全部をガラスセラミック化して電極とする。
また、本発明の複合電極材料を集電体上に膜状に形成して電極とする方法が挙げられる。製膜方法としては、エアロゾルデポジション法、スクリーン印刷法、コールドスプレー法等が挙げられる。さらに、溶媒に分散又は一部を溶解させてスラリー状にして塗布する方法が挙げられる。必要に応じてバインダーを混合してもよい。
【0084】
上記集電体としては、ステンレス鋼、金、白金、銅、亜鉛、ニッケル、スズ、アルミニウム又はこれらの合金等からなる板状体、箔状体、網目状体等が使用できる。
電極層として用いる場合は、電池設計に応じて、適宜に層厚みを選定すればよい。
【0085】
[リチウム電池]
本発明のリチウム電池は、正極層及び負極層の少なくとも一方が本発明の電極であり、例えば負極層、固体電解質層及び正極層がこの順に積層した積層体であればよく、さらに集電体を有してもよい。
【0086】
正極層及び負極層は、少なくとも一方が本発明の電極であればよい。
本発明の電極ではない正極層は、例えば正極活物質及び固体電解質からなる正極合材により形成される。正極層は、さらに導電助剤及び/又は結着材を含んでもよい。正極活物質、固体電解質、及び導電助剤等は、複合電極材料と同様のものが使用できる。
本発明の電極ではない負極層は、例えば負極活物質及び固体電解質からなる負極合材により形成される。負極層は、さらに導電助剤及び/又は結着材を含んでもよい。負極活物質、固体電解質、及び導電助剤等は、複合電極材料と同様のものが使用できる。
【0087】
固体電解質層は、上述した固体電解質からなる層であり、好ましくは固体電解質粒子が互いに融着している層である融着とは、固体電解質粒子の一部が溶解し、溶解した部分が他の個体電解質粒子と一体化することを意味する。また、固体電解質層は、固体電解質の板状体であってもよく、当該板状体固体電解質層は、固体電解質粒子の一部又は全部が溶解し、互いに結合して板状体になっている場合を含む。
固体電解質層の厚さは、好ましくは0.001mm以上1mm以下である。
【0088】
本発明のリチウムイオン電池は、公知の方法により製造することができ、例えば、塗布法、静電法(静電スプレー法、静電スクリーン法等)により製造することができる。
【実施例】
【0089】
製造例
[固体電解質の調製]
(1)硫化リチウムの製造
硫化リチウムを特開平7−330312号公報における第1の態様(2工程法)の方法に従って製造した。具体的には、撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpm、130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。続いてこの反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した水硫化リチウムを脱硫化水素化し硫化リチウムを得た。昇温するにつれ、硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。水硫化リチウムの脱硫化水素反応が終了後(約80分)に反応を終了し、硫化リチウムを得た。
【0090】
(2)硫化リチウムの精製
得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリー)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。さらにNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥し、精製硫化リチウムを得た。
得られた精製硫化リチウム中の不純物含有量をイオンクロマトグラフ法により測定したところ、亜硫酸リチウム(LiSO)、硫酸リチウム(LiSO)、チオ硫酸リチウム(Li)の各硫黄酸化物の総含有量が0.13質量%であり、N−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)の含有量は0.07質量%であった。
【0091】
(3)固体電解質の製造
上記で製造した平均粒径30μm程度の精製LiS2.54gと平均粒径50μm程度のP(アルドリッチ社製)67.46gを10mmφアルミナボール175個が入った500mlアルミナ製容器に入れ密閉した。上記計量、密閉作業はすべてグローブボックス内で実施し、使用する器具類はすべて乾燥機で事前に水分除去して使用した。
この密閉したアルミナ容器を、遊星ボールミル(レッチェ社製PM400)にて室温下、36時間メカニカルミリング処理することで白黄色の固体電解質ガラス粒子を得た。このときの回収率は78%であった。
得られた固体電解質ガラス粒子のX線回折測定(CuKα:λ=1.5418Å)を行なった結果、原料LiSのピークは観測されず、固体電解質ガラスに起因するハローパターンであった。
【0092】
得られた固体電解質ガラス粒子をグローブボックス内Ar雰囲気下でSUS製チューブに密閉し、300℃2時間の加熱処理を施し、電解質ガラスセラミック粒子(平均粒径14.52μm)を得た。
得られた固体電解質ガラスセラミック粒子について、X線回折測定を実施したところ、2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された。このことから、得られた固体電解質ガラスセラミック粒子は、Li11結晶ができていることが分かる。
また、この固体電解質ガラスセラミック粒子の伝導度を評価したところ、伝導度は1.3×10−3S/cmであった。
【0093】
実施例1
[正極合材の製造]
硫黄(アルドリッチ製、純度99.998%)7.63gとケッチェンブラック(EC600JD、ライオン社製、平均細孔直径:12.7nm、BET比表面積:1365m/g)2.37gを遊星ボールミルで15分間混合した。この硫黄ケッチェンブラックの混合物をステンレス容器に入れ、150℃で6時間熱処理し、さらに300℃で2時間45分間熱処理を行い、室温に冷却して、硫黄導電助剤複合体を得た。
【0094】
THF(テトラヒドロフラン、和光純薬(株)製、203−13965)150mlに得られた硫黄導電助剤複合体0.974gを加え、これに溶媒がTHF溶液であり体積モル濃度が1.7である1.7MTEBHLi(水素化トリエチルホウ素リチウム)溶液(和光純薬(株)製、120−05631)30.0mlを加えて65℃に加熱し、8時間撹拌した。攪拌後、24時間放置し、その後、上澄みを取り、THFを添加して、未反応TEBHLiをこのTHFに溶解させて、未反応TEBHLiを除去した。このTHFによる未反応TEBHLi除去作業を2回行い、次いでヘキサンによる未反応TEBHLiの除去及びTHFの置換除去操作を4回繰り返した後、室温で真空引きして溶媒を除去し、150℃2時間の真空加熱により乾燥し、さらに300℃で6時間の真空加熱により乾燥して、硫化リチウム導電助剤複合体を得た。
【0095】
得られた硫化リチウム導電助剤複合体0.293gと五硫化二リン(アルドリッチ製)0.107gにキシレン(和光純薬(株)製、242−00685)30mlを加え、150℃に加熱し、8時間撹拌した。攪拌後に、24時間放置し、その後、上澄みを取り、ヘキサンを添加して、未反応P及びキシレンを除去した。このヘキサンによる除去作業を2回行い、室温で真空引きして溶媒を除去し、150℃2時間の真空加熱により乾燥して、正極硫化リチウム導電助剤の電解質複合体を回収した。
上記電解質複合体について、X線回折(XRD)を実施した。結果を図1に示す。図1から、ミリングなしであっても、カーボン存在下でLiSとPから電解質が合成されていることが確認できる。
尚、XRD分析は下記条件で実施した。
測定装置:リガクSmartlab
管電圧:45kV
管電流:200mA
スリット:soller slit 5.0°
スキャンスピード(2θ/θ):2°/min
ステップ幅(2θ/θ):0.02°
線源:CuKα:λ=1.5418Å
【0096】
得られた正極硫化リチウム導電助剤の電解質複合体をさらに遊星ボールミルで5時間ミリングし、正極合材を製造した。
ミリング後の正極合材について、TEM(透過電子顕微鏡)により複合化の状態を観察し、TEM−EDS分析により元素分析を実施した。TEM写真を図2、TEM−EDS分析の結果を図3に示す。図3から、正極合材は、S、P及びC元素がどの点でも観察され、ほぼ均一である状態であることが確認できた。
【0097】
[全固体リチウム電池の作製及び評価]
正極層に製造した正極合材、電解質層に製造例で製造した固体電解質ガラスセラミック粒子、負極にIn/Li箔を用いて全固体リチウム電池を作製した。
製造例で作製した固体電解質ガラスセラミック50mgを計量し、Φ10mmの円筒状に成形し固体電解質層を形成した。円筒状の固体電解質層の一方の面に、作製した正極合材7.9mgを配置し、同様に円筒状に正極層を成形した。固体電解質層の正極合材を形成したもう一方の反対側に、Φ10mm厚さ0.1mmtのIn箔を配置し、次いでΦ10mm厚さ0.1mmtのLi箔を配置し、さらにIn箔、Li箔、In箔を繰り返し負極層とし、正極層−電解質層−負極層の全固体リチウム電池を作製した。
製造した電池について、その容量を評価したところ、電池の初期充電容量は766mAh/g(S)であり、0.1C放電容量は321mAh/g(S)であった。
【0098】
実施例2
[正極合材の製造]
硫黄(アルドリッチ製、純度99.998%)7.74gとケッチェンブラック(EC600JD、ライオン社製、平均細孔直径:12.7nm、BET比表面積:1365m/g)2.26gを遊星ボールミルで15分間混合した。この硫黄ケッチェンブラックの混合物をステンレス容器に入れ、150℃で6時間熱処理し、さらに300℃で2時間45分間熱処理を行い、室温に冷却して、硫黄導電助剤複合体を得た。
【0099】
THF(テトラヒドロフラン、和光純薬(株)製、203−13965)150mlに得られた硫黄導電助剤複合体0.960gを加え、これに溶媒がTHF溶液であり体積モル濃度が1.7である1.7MTEBHLi(水素化トリエチルホウ素リチウム)溶液(和光純薬(株)製、120−05631)30.0mlを加えて65℃に加熱し、8時間撹拌した。攪拌後、24時間放置し、その後、上澄みを取り、THFを添加して、未反応TEBHLiをこのTHFに溶解させて、未反応TEBHLiを除去した。このTHFによる未反応TEBHLi除去作業を2回行い、次いでヘキサンによる未反応TEBHLi除去操作を4回繰り返した後、室温で真空引きして溶媒を除去し、150℃2時間の真空加熱により乾燥して、硫化リチウム導電助剤複合体を得た。
【0100】
得られた硫化リチウム導電助剤複合体0.281gと五硫化二リン(アルドリッチ製)0.120gにキシレン(和光純薬(株)製、242−00685)30mlを加え、150℃に加熱し、8時間撹拌した。攪拌後に、24時間放置し、その後、上澄みを取り、ヘキサンを添加して、未反応Pとキシレンを除去した。このヘキサンによる除去作業を2回行い、室温で真空引きして溶媒を除去し、150℃2時間の真空加熱により乾燥して、正極硫化リチウム導電助剤の電解質複合体を回収した。
得られた正極硫化リチウム導電助剤の電解質複合体をさらに遊星ボールミルで5時間ミリングし、正極合材を製造した。
【0101】
[全固体リチウム電池の作製及び評価]
正極層に製造した複合正極、電解質層に製造例で製造した固体電解質ガラスセラミック粒子、負極にIn/Li合金を用いて全固体リチウム電池を作製した。
製造例で作製した固体電解質ガラスセラミック50mgを計量し、Φ10mmの円筒状に成形し固体電解質層を形成した。円筒状の固体電解質層の一方の面に、作製した正極合材8.7mgを配置し、同様に円筒状に正極層を成形した。固体電解質層の正極合材を形成したもう一方の反対側に、Φ10mm厚さ0.1mmtのIn箔を配置し、次いでΦ10mm厚さ0.1mmtのLi箔を配置し、さらにIn箔、Li箔、In箔を繰り返し負極層とし、正極層−電解質層−負極層の全固体リチウム電池を作製した。
製造した電池について、その容量を評価したところ、電池の初期充電容量は1247mAh/g(S)、0.1C放電容量は687mAh/g(S)であった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の複合電極材料は、リチウムイオン電池の電極に使用でき、本発明のリチウムイオン電池は、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを電力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の電池として用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質、導電物質及び固体イオン伝導性物質とが複合化している複合電極材料。
【請求項2】
前記活物質の表面に前記固体イオン伝導性物質が複合化している請求項1に記載の複合電極材料。
【請求項3】
前記活物質の表面の一部に前記固体イオン伝導性物質が複合化している請求項1又は2に記載の複合電極材料。
【請求項4】
表面の一部が、前記固体イオン伝導性物質、及び前記導電物質である請求項1〜3のいずれかに記載の複合電極材料。
【請求項5】
前記活物質がS原子を含む請求項1〜4のいずれかに記載の複合電極材料。
【請求項6】
前記固体イオン伝導性物質がLi原子及びS原子を含む固体電解質である請求項1〜5のいずれかに記載の複合電極材料。
【請求項7】
導電物質と活物質を複合化した複合材料、及び前記活物質と反応することにより固体イオン伝導性物質を合成できる物質とを反応させる複合電極材料の製造方法。
【請求項8】
S原子を含む活物質と導電物質とを複合化した複合材料と、P、B、Zn、Si、Cu、Ga及びGeから選択される1以上の元素とSを含む化合物と、を反応させる、
P、B、Zn、Si、Cu、Ga及びGeから選択される1以上の元素とアルカリ金属とSとを含む固体イオン伝導性物質と、S原子を含む活物質と、導電物質と、を複合化させた複合電極材料の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法により製造された複合電極材料。
【請求項10】
請求項1〜6及び9のいずれかに記載の複合電極材料を含む電極。
【請求項11】
請求項1〜6及び9のいずれかに記載の複合電極材料を用いて製造された電極。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の電極を備えるリチウム電池。
【請求項13】
請求項12に記載のリチウム電池を備える装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−80637(P2013−80637A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220474(P2011−220474)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】