説明

複合電着膜、複合電着膜の製造方法および機能膜の製造方法

【課題】操作が簡素で、かつ効率よく微粒子を配列させることができる複合電着膜、複合電着膜の製造方法、および機能膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】溶媒2中に電解重合用のモノマー3、微粒子4、およびアニオン系界面活性剤5を配合して、微粒子4がアニオン系界面活性剤5によって荷電微粒子として溶媒2中に分散した微粒子分散液1を調製し、かかる微粒子分散液1中で電解を行う。その結果、陽極6表面ではモノマーの電解重合が起こって電解重合膜11が成長するとともに、微粒子4の泳動電着が同時に起こる。従って、泳動電着した微粒子4同士の隙間内が電解重合膜11で埋められた複合電着膜10が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子と電解重合膜との複合電着膜、当該複合電着膜の製造方法、および機能膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機あるいは無機の微粒子を堆積させる方法は、各種機能膜の製造技術として着目されており、例えば、フォトニック結晶を製造するにあたって微粒子を堆積させる技術の適用が検討されている。フォトニック結晶は、光の波長程度の周期で誘電率が変化するように人工的に作られた結晶媒質であり、フォトニックバンドギャップを有するため、特定の波長の光を通さない性質を有している。そのため、次世代の光学素子、光導波路、光ファイバー、波長フィルター、発光デバイス等への応用が期待されている。かかるフォトニック結晶を製造するにあたっては、レーザー加工法や半導体リソグラフィー法の他に、液中に分散した微粒子を基体上に配列させながら堆積させる微粒子配列法が提案されている。
【0003】
微粒子配列法としては、静電反発を利用して微粒子を配列させる静電相互作用タイプと、微粒子を最密充填する堆積タイプとが挙げられ、前者の静電相互作用タイプは、微粒子を自己組織化(コロイド結晶化)により配列させるとともに、架橋性高分子で微粒子間を架橋させてゲルにする方法である。後者の堆積タイプとしては、沈降により微粒子を沈着させる方法、電気泳動を利用して電極板に微粒子を電着させる方法(特許文献1参照)、板状物を引き上げる際に板状物に微粒子を付着させる方法(非特許文献1参照)が挙げられる。なお、静電相互作用タイプや堆積タイプにより得られたコロイド結晶をテンプレートとして用いてインバース構造体を作成する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3995242号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ACCOUNTS OF CHEMICAL RESEARCH Vol.42,No1,January 2009,1-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の微粒子配列法では、以下に示す理由から、微粒子分散液の調製や取扱いに多大な手間がかかるとともに、微粒子を配列させるのに多大な時間を必要とするという問題点がある。まず、従来の微粒子配列法は、不純物の影響を受けやすいため、微粒子分散液においては長時間の透析等を行って不純物イオンを除去する必要があるとともに、分子分散液を保存する容器や、分子分散液が接触する部材に関しては長時間をかけて十分に洗浄しておく必要がある。また、微粒子を配列させる操作中、不純物の混入を防止する必要がある。さらに、静電相互作用タイプおよび堆積タイプのいずれにおいても微粒子を配列させるのに多大な時間がかかる。例えば、板状物を引き上げる際に板状物に微粒子を付着させる方法の場合、溶媒の蒸発速度が速すぎると、膜にひび割れが発生し、白色化してしまうため、1cmの引き上げに10〜20時間も要する。また、静電相互作用タイプの場合、温度制御を厳密に行う必要がある。
【0007】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、操作が簡素で、かつ効率よく微粒子を配列させることができる複合電着膜、複合電着膜の製造方法、および機能膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る複合電着膜は、電解重合膜内に、複数の微粒子、およびアニオン系界面活性剤が含まれていることを特徴とする。
【0009】
本発明において、前記微粒子は、前記電解重合膜内において当該電解重合膜の面内方向および当該電解重合膜の厚さ方向に配列している構成を採用することができる。
【0010】
本発明において、前記微粒子は、前記電解重合膜内において当該電解重合膜の面内方向および当該電解重合膜の厚さ方向に周期的に配列して周期性構造物を形成している構成を採用することができる。
【0011】
本発明において、前記微粒子の間に前記電解重合膜が充填されている第1複合電着層と、前記微粒子の間に隙間が形成されている第2複合電着層とが積層されている構成を採用してもよい。
【0012】
また、本発明に係る複合電着膜の製造方法では、溶媒中に電解重合用のモノマー、複数の微粒子、および該微粒子を前記溶媒中に分散させるアニオン系界面活性剤が配合された微粒子分散液中で電解を行い、陽極表面において、前記モノマーの電解重合と、前記微粒子の泳動電着とを同時に行うことを特徴とする。
【0013】
本発明では、溶媒中に電解重合用のモノマー、微粒子、およびアニオン系界面活性剤を配合して、微粒子がアニオン系界面活性剤によって荷電微粒子として溶媒中に分散した微粒子分散液を調製し、かかる微粒子分散液中で電解を行う。その結果、陽極表面ではモノマーの電解重合が起こって電解重合膜が成長するとともに、微粒子の泳動電着が同時に起こる。従って、泳動電着した微粒子同士の隙間内が電解重合膜で埋められた複合電着膜が得られる。かかる構成によれば、従来の微粒子配列法と違って、不純物の影響等は、一般的な電解重合と同レベルである。従って、微粒子分散液の調製や取扱いに多大な手間を必要としない。また、陽極上においては複合電着膜が厚く成長しても、複合電着膜においては、電解重合膜が導電性を発揮するため、微粒子の泳動電着がスムーズに起こる。従って、厚い複合電着膜であっても、短時間で製造することができる。また、電解重合および泳動電着を利用するため、電極表面がどのような形状であっても、複合電着膜の形成を行うことができる。さらに、本発明によれば、複合電着膜を広い面積で積層させる場合でも、複合電着膜を短時間で形成することができる。
【0014】
本発明において、溶媒については特に限定されるものではないため、溶媒としては、有機溶剤、あるいは水と有機溶剤との混合溶媒を用いることができる。本発明においては、前記溶媒は、水を主成分とする水系溶媒であることが好ましく、前記溶媒は水であることが特に好ましい。
【0015】
本発明において、前記アニオン系界面活性剤については特に限定されるものではないが、アルキルベンゼンスルホン酸、あるいはそれらの塩を用いることが好ましい。例えば、前記アニオン系界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸あるいはドデシルベンゼンスルホン酸塩を用いることが好ましい。かかる構成によれば、アニオン系界面活性剤は、界面活性剤およびドーパントとして機能するため、界面活性剤およびドーパントとして各々、別の成分を微粒子分散液に配合する必要がない。
【0016】
本発明において、前記微粒子は、無機材料あるいは有機材料の微粒子のいずれであってもよい。無機材料の微粒子としては、シリカ、アルミニウム酸化物、チタン酸化物等の微粒子や、カーボンナノチューブ等を例示することができる。また、有機材料の微粒子としては、ポリメチルメタクリレートやポリスチレンの微粒子等を例示することができる。
【0017】
本発明において、前記微粒子は、温度応答性ポリマーの微粒子であってもよい。かかる微粒子(温度応答性ポリマーの微粒子)としては、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドのハイドロゲル微粒子を例示することができる。
【0018】
本発明において、前記微粒子分散液には、支持電解質が配合されていることが好ましい。かかる支持電解質としては、塩化ナトリウム等を例示することができる。
【0019】
本発明において、前記電解中、前記微粒子分散液の組成を段階的に変化させる方法を採用することができる。かかる構成によれば、例えば、微粒子の含有量が異なる電解重合膜が界面を介して接している階段接合構造の複合電着膜を製造することができる。
【0020】
本発明において、前記電解中、前記微粒子分散液の組成を連続的に変化させる方法を採用してもよい。かかる構成によれば、例えば、電解重合膜内において微粒子の含有量が連続的に変化する傾斜接合構造の複合電着膜を製造することができる。
【0021】
本発明に係る複合電着膜の製造方法を用いた機能膜の製造方法では、例えば、前記電解により、前記微粒子の間に電解重合膜が充填されている第1複合電着層と、前記微粒子の間に隙間が形成されている第2複合電着層とが積層された複合電着膜を形成した後、前記第1複合電着層と前記第2複合電着層とを分離し、前記第1複合電着層および前記第2複合電着層のうちの少なくとも一方から機能膜を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、溶媒中に電解重合用のモノマー、微粒子、およびアニオン系界面活性剤を配合して、微粒子がアニオン系界面活性剤によって荷電微粒子として溶媒中に分散した微粒子分散液を調製し、かかる微粒子分散液中で電解を行う。その結果、陽極表面ではモノマーの電解重合が起こって電解重合膜が成長するとともに、微粒子の泳動電着が同時に起こる。従って、泳動電着した微粒子同士の隙間内が電解重合膜で埋められた複合電着膜が得られる。かかる構成によれば、従来の微粒子配列法と違って、不純物の影響等は、一般的な電解重合と同レベルである。従って、微粒子分散液の調製や取扱いに多大な手間を必要としない。また、陽極上においては複合電着膜が厚く成長しても、複合電着膜においては、電解重合膜が導電性を発揮するため、微粒子の泳動電着がスムーズに起こる。従って、厚い複合電着膜であっても、短時間で製造することができる。また、電解重合および泳動電着を利用するため、電極表面がどのような形状であっても、複合電着膜の形成を行うことができる。さらに、本発明によれば、複合電着膜を広い面積で積層させる場合でも、複合電着膜を短時間で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を適用した複合電着膜およびその製造方法を示す説明図である。
【図2】本発明を適用した複合電着膜の製造の際に用いられる材料の説明図である。
【図3】本発明の実施例1で用いられるマイクロゲルの説明図である。
【図4】本発明の実施例1で得られる複合電着膜の説明図である。
【図5】本発明の実施例1に係る複合電着膜の製造に用いたマイクロゲルの性質を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例2で得られた複合電着膜を拡大して示す説明図である。
【図7】本発明の実施例3で得られた複合電着膜を拡大して示す説明図である。
【図8】本発明の実施例4に係る複合電着膜のα層の断面構成を模式的に示す説明図である。
【図9】本発明の実施例4で得られた複合電着膜を拡大して示す説明図である。
【図10】本発明の実施例4において複合電着膜を製造する際の塩化ナトリウム(支持電解質)の濃度の影響を示す説明図である。
【図11】本発明の実施例5に係る複合電着膜の断面を3000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真である。
【図12】本発明の実施例5に係る複合電着膜の断面をさらに拡大して示す電子顕微鏡写真である。
【図13】本発明の実施例5に係る複合電着膜の表面(β層の表面)を拡大して示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。
【0025】
(複合電着膜の製造方法)
図1は、本発明を適用した複合電着膜およびその製造方法を示す説明図であり、図1(a)、(b)は、電着方法を模式的に示す説明図、および複合電着膜の断面構成を模式的に示す説明図である。
【0026】
本形態では、図1(a)に示すように、溶媒2中に電解重合用のモノマー3、複数の微粒子4、およびアニオン系界面活性剤5を配合して微粒子分散液1を調製した後、微粒子分散液1を貯留した電解槽8にステンレススチール等からなる陽極6および陰極7を浸漬し、この状態で直流電解を行う。その結果、陽極6の表面では、図1(b)を参照して後述する複合電着膜10が形成される。なお、微粒子分散液1には、塩化ナトリウム等の支持電解質を配合してもよい。
【0027】
本形態において、溶媒2については特に限定されるものではないため、溶媒2としては、水や水を主成分とする水系溶媒を用いることができるとともに、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、炭酸プロピレン等の有機溶剤、あるいは水と有機溶剤との混合溶媒を用いることができる。本形態では、溶媒2として、水を用いる。
【0028】
電解重合用のモノマー3としては、ピロール、3−メチルピロール等のピロール誘導体のモノマー、アニリンモノマー、アルキルアニリン等のアニリン誘導体のモノマー、チオフェン、3−メチルチオフェンや3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体のモノマー等を用いることができる。本形態において、モノマー3として、ピロールを用いる。
【0029】
アニオン系界面活性剤5としては、アルキルベンゼンスルホン酸、アルファスルホ脂肪酸エステル、脂肪酸、アルキル硫酸、アルキルエーテル硫酸エステル、あるいはそれらの塩を用いることができる。本形態において、アニオン系界面活性剤5としては、アルキルベンゼンスルホン酸のうち、ドデシルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩(SDBS/Sodium Dodecyl Benzene Sulfonate)を用いる。
【0030】
微粒子4としては、無機材料あるいは有機材料の微粒子のいずれであってもよい。無機材料の微粒子4としては、シリカの微粒子や、カーボンナノチューブ等を例示することができる。また、有機材料の微粒子4としては、ポリメチルメタクリレートやポリスチレンの微粒子等を例示することができる。また、微粒子4は、温度応答性ポリマーの微粒子であってもよい。かかる微粒子4(温度応答性ポリマーの微粒子)としては、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドのハイドロゲル微粒子を例示することができる。
【0031】
(複合電着膜10の構成等)
図2は、本発明を適用した複合電着膜10の製造の際に用いられる材料の説明図であり、図2(a)、(b)は、電解重合用のモノマーとして用いられるピロールの説明図、アニオン系界面活性剤として用いられるドデシルベンゼンスルホン酸塩の説明図、および電解重合の際のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの配合量とポリピロールの生成量との関係を示すグラフである。なお、図2(c)に示すデータは、電着の際、微粒子4を配合しない条件でのポリピロールの生成量である。
【0032】
本形態で用いた微粒子分散液1において、電解重合用のモノマー3としてのピロールは、図2(a)に示す化学式で表される。ピロールは、溶媒2としての水には溶解しにくいが、アニオン系界面活性剤5としてのアルキルベンゼンスルホン酸とともに配合すれば、水にも溶解する。従って、微粒子分散液1中で直流電解を行うと、陽極6の表面においてモノマー3が電解重合され、電解重合膜が形成される。本形態では、モノマー3としてピロールを用いたため、ピロールは、図2(a)示す反応式に従って、陽極6表面で酸化され、ポリピロールからなる電解重合膜が形成される。その際、アニオン系界面活性剤5として用いたドデシルベンゼンスルホン酸は、ポリピロールにおいてドーパントして機能するため、ポリピロールは優れた導電性を有することになる。従って、ポリピロールは、電解時間とともに、膜厚が増大する。
【0033】
また、図2(c)に示すように、電解時間を例えば1時間と一定した場合でも、ポリピロールの生成量は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの配合量を増大させるに伴って増大し、10mM以上では、ポリピロールの生成量は略一定である。従って、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを10mM程度配合すれば、ポリピロールを効率よく生成することができる。
【0034】
また、本形態では、微粒子分散液1には、サイズが数nm〜数百nmの微粒子4が配合されている。ここで、微粒子4は溶媒2に分散しにくい。しかるに本形態では、微粒子分散液1には、微粒子4とともに、アニオン系界面活性剤5としてのドデシルベンゼンスルホン酸塩が配合されており、かかるドデシルベンゼンスルホン酸塩は、図2(b)に示すように、疎水性基と親水性基とを有している。このため、微粒子4にドデシルベンゼンスルホン酸が吸着し、微粒子4は、荷電粒子として溶媒2中に分散する状態となる。また、ドデシルベンゼンスルホン酸塩は、親水性基としてスルホン酸基を有している。このため、微粒子4は、ゼータ電位が±0Vあるいはプラスである場合も、アルキルベンゼンスルホン酸の吸着によってゼータ電位がマイナスとなる。また、ゼータ電位がマイナスである微粒子4では、ゼータ電位がよりマイナスになる。従って、直流電解を行うと、陽極6表面には、モノマー3の電解重合と、微粒子4にアニオン系界面活性剤5が吸着された荷電粒子の泳動電着とが同時に起こり、図1(b)に示すように、電解重合膜11内に微粒子4およびアニオン系界面活性剤(図示せず)が含まれた複合電着膜10が形成される。なお、微粒子4に疎水結合したアニオン系界面活性剤5は、陰イオン性基をピロールに吸着しているとも考えることができる。
【0035】
かかる方法により製造した複合電着膜10は、概ね2つの層からなり、以下の説明では、下層側の層をα層(第1複合電着層)と称し、上層側の層をβ層(第2複合電着層)という。なお、α層と陽極6との層間には、微粒子4を含まない電解重合単体膜が形成されている。
【0036】
本形態の複合電着膜10において、α層では、微粒子4が複合電着膜10の面内方向に略最密状態に配列しているとともに、微粒子4は複合電着膜10の厚さ方向で重なるように略最密状態に配列している。従って、微粒子4は、α層において電解重合膜11の面内方向および電解重合膜の厚さ方向に周期的に配列して周期性構造物を形成している。また、α層において、微粒子4の間は電解重合膜11で充填された状態にある。
【0037】
また、複合電着膜10のβ層でも、α層と同様、微粒子4は、複合電着膜10の面内方向に略最密状態に配列しているとともに、微粒子4は、複合電着膜10の厚さ方向で重なるように略最密状態に配列している。従って、微粒子4は、β層において面内方向および電解重合膜の厚さ方向に周期的に配列して周期性構造物を形成している。但し、β層では、α層と違って、微粒子4の間は電解重合膜11で充填されておらず、荷電粒子(微粒子4)のみが堆積した状態、あるいは荷電粒子(微粒子4)同士が電解重合膜11によって部分的に結合している状態にある。このため、β層では、微粒子4の間に隙間が形成されている。また、α層とβ層とでは微粒子4の間隔に差がある。従って、β層は、α層と比較して下層側から容易に剥離させることができる。それ故、本形態の複合電着膜10によれば、α層とβ層とが積層した機能膜を得ることができるとともに、β層を剥離した後に残ったα層を機能膜として用いることができる。また、剥離したβ層のみを機能膜として用いることもできる。なお、電解時の電流密度等により、電解時の電解重合速度と、荷電粒子(微粒子4)の泳動電着速度との相対的な大小関係を制御することにより、複合電着膜10におけるα層とβ層との比率を制御することができる。
【0038】
(電着のメカニズム)
本形態においては、電着を開始すると、陽極6近傍にピロールモノマーが集まり、陽極6近傍におけるピロールモノマーの濃度がある値を超えると、ピロールモノマーの電界重合が開始する。その際、陽極6への拡散係数がピロールモノマーの方が微粒子4よりも大きいため、まず、ポリピロールからなる電解重合単体膜が生成される。
【0039】
そして、微粒子4が遅れて陽極6近傍に集まり、陽極6近傍における微粒子4の過飽和値がある値に達したとき、微粒子4の堆積、結晶化が開始する。それ故、電解重合単体膜とα層との間に明瞭な境界が存在する。
【0040】
なお、微粒子4の堆積層はポリピロールの電解重合単体膜の上に単純に吸着するものではない。ポリピロールにより固定された一次核の表面上に整然と成長していくコロイド結晶である。ポリピロールの成長を伴わない微粒子だけの堆積であれば、それを保証するために相当大きな微粒子濃度が必要である。成長するポリピロールという「1次核固定剤」が存在するために比較的小さな微粒子濃度(過飽和値)で堆積が可能になる。粒子濃度が低いので結晶成長面上で新たにつくられる2次核の生成頻度が過度に大きくならない。すなわち、結晶核が少なくなる。そのため、大きな単結晶状の結晶が成長する。つまり、結晶粒界が少なくなる。従って結晶の乱れの密度も小さい。それ故、溶媒蒸発後にもあまり白色化しないことになる。
【0041】
次に、堆積した微粒子4の隙間を埋めるようにポリピロール(電解重合膜11)が成長し、α層が形成される。その間、微粒子4の堆積も進行するので、電解重合膜11の成長が微粒子4の堆積に追従できない部分によってβ層が形成される。その際、微粒子4が陽極6に向けて過度に拡散してこない限り、微粒子4は規則性をもって堆積する。ここで、微粒子4が規則性をもって堆積していれば、電着後に溶媒を蒸発させる際、ひび割れが発生しにくい。また、微粒子4がポリマーである場合、乾燥時の収縮によって微粒子4の間が広がるときに、微粒子4の間で接している部分がポリマーの収縮時に引き延ばされ、微粒子4がブリッジで連結される。それ故、微粒子4の堆積層(β層)は、壊れにくい。
【0042】
なお、α層では微粒子4の隙間に電解重合膜11が入り込んでいるのに対して、β層では微粒子4の間に隙間が存在しているため、α層とβ層とでは微粒子4の間隔に差がある。それ故、α層とβ層とを容易に剥離させることができる。例えば、β層に粘着テープを貼った後、粘着テープを引き剥がせば、β層のみを剥がすことができる。
【0043】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、溶媒2中に電解重合用のモノマー3、微粒子4、およびアニオン系界面活性剤5を配合して、微粒子4がアニオン系界面活性剤5によって荷電微粒子として溶媒2中に分散した微粒子分散液1を調製し、かかる微粒子分散液1中で電解を行う。その結果、陽極6表面ではモノマー3の電解重合が起こって電解重合膜11が成長するとともに、微粒子4の泳動電着が同時に起こる。従って、泳動電着した微粒子4同士の隙間内が電解重合膜11で埋められた複合電着膜10が得られる。かかる構成によれば、従来の微粒子配列法と違って、不純物の影響等は、一般的な電解重合と同レベルである。従って、微粒子分散液1の調製や取扱いに多大な手間を必要としない。また、陽極6上においては複合電着膜10が厚く成長しても、複合電着膜10においては、電解重合膜11が導電性を発揮するため、微粒子4の泳動電着がスムーズに起こる。従って、厚い複合電着膜10であっても、短時間で製造することができる。また、電解重合および泳動電着を利用するため、陽極6表面がどのような形状であっても、複合電着膜10の形成を行うことができる。さらに、本形態によれば、複合電着膜10を広い面積で積層させる場合でも、複合電着膜10を短時間で形成することができる。よって、本形態の複合電着膜10、および複合電着膜10の製造方法によれば、操作が簡素で、かつ効率よく微粒子4を配列させることができる。
【0044】
また、本形態で得られた複合電着膜10は、フォトニック結晶等として利用可能であり、各種光学素子、光導波路、光ファイバー、波長フィルター、発光デバイス等への応用が期待できる。例えば、α層から剥がしたβ層をフォトニッククリスタルフィルム(機能膜)として利用できる。また、α層から剥がしたβ層をインバースオパール構造形成用のテンプレート(機能膜)に用いることができる。また、β層から分離したα層から微粒子4を除去すれば、α層をインバースオパール構造の機能膜として利用することができる。さらに、β層から分離したα層はあらたに微粒子を積層させるための、つまりコロイド結晶化させるための基盤として使用できる。しかも、その際は、微粒子分散液のみを塗布するだけで十分である。これはα層が結晶成長を保証するに十分なだけの一次核として働くからである。従来法でこういうことが困難であった理由は安定な一次核がつくれなかったことにある。結晶学的に言えばα層がエピタキシャル結晶成長を引き起こす成長面を提供していることになる。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
本発明の実施例1として、ピロールの電解重合を利用して、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(以下、PNIPAMという。)のマイクロゲル(微粒子4)を電着法により積層して、構造発色させる例を説明する。
【0046】
(PNIPAMのマイクロゲルの調製工程)
図3は、本発明の実施例1で用いられるマイクロゲルの説明図であり、図3(a)、(b)は、PNIPAMの合成方法を示す説明図、およびマイクロゲルにSDBSが吸着している様子を示す説明図である。
【0047】
PNIPAMのマイクロゲルを調製するにあたっては、例えば、図3(a)に示すように、N−イソプロピルアクリルアミド(以下、NIPAMという。)と、アリルアミン(以下、AMという。)と、架橋剤としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(以下、BISという。)とをドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を分散剤として用いて水に溶かした後、過硫酸カリウムを開始剤として分散重合を行い、粒径が250nm程度のポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(以下、PNIPAMという。)のマイクロゲル(微粒子4)が分散したマイクロゲル分散液を得る。
【0048】
かかるマイクロゲル分散液に対してドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(以下、SDBSという。)を添加すると、図3(b)に示すように、マイクロゲルにドデシルベンゼンスルホン酸が吸着してミセルを形成し、一部のミセルは、PNIPAMのネットワークの拘束を受けるとともに、他のミセルは、PNIPAMのネットワークからフリーな状態にあると報告されている(B.Jean and T.Lee,J.Phys.Chem.B,2005,109,5162参照)。
【0049】
(PNIPAMのマイクロゲルの電着工程)
図4は、本発明の実施例1で得られる複合電着膜10の説明図であり、図4(a)、(b)、(c)は、電解時間と複合電着膜10の生成量との関係を示すグラフ、複合電着膜10の乾燥収縮に伴って反射光のスペクトラムがシフトする様子を示す説明図、および複合電着膜10を覆うポリビニルアルコール層の説明図である。
【0050】
本形態では、精製したマイクロゲル分散液、ピロール、およびSDBSをビーカーに入れて、微粒子分散液1を調製した後、微粒子分散液1にステンレススチール製の陽極および陰極を浸漬して直流電解を行い、陽極表面に、図1(b)を参照して説明した複合電着膜10を形成する。電解条件は、例えば、以下の通りである。なお、電解には定電流電圧電源を用い、以下の印加電圧および電流値は、定電流電圧電源における設定値である。
印加電圧=3.0V
電流値=10mA
液温=20℃
電極間距離=1.5cm
溶媒=水
ピロールの濃度=50mM/L
微粒子4(マイクロゲル)の濃度=0.3wt%
SDBSの濃度=10mM/L
【0051】
かかる電着工程における電解時間と複合電着膜10の重量との関係を図4(a)に三角および実線L21で示してある。図4(a)からわかるように、電解時間に比例して、複合電着膜が成長していることがわかる。なお、図4(a)には、比較例として、ピロールは配合するがマイクロゲルを配合しない場合の電解時間と複合電着膜10の重量との関係を四角および点線L22で示してあり、マイクロゲルは配合するがピロールを配合しない場合の電解時間と複合電着膜10の重量との関係を丸および実線L23で示してある。図4(a)からわかるように、ピロールは配合するがマイクロゲルを配合しない場合には、電解時間の経過に伴い、電解重合によりポリピロールの生成が進行することがわかる。また、マイクロゲルは配合するがピロールを配合しない場合には、電解時間の経過に伴い、泳動電着によりマイクロゲルの堆積が進行することがわかる。
【0052】
(複合電着膜の評価結果)
本形態で得られた複合電着膜10では、図1(b)を参照して説明したように、マイクロゲルからなる微粒子4が配列しており、本形態において、微粒子4として用いたマイクロゲルは、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドのハイドロゲルである。従って、複合電着膜10を形成した後、乾燥させていくと、図4(b)に示すように、乾燥時間の経過に伴って、乾燥収縮が発生し、反射光の波長が低波長域にシフトしていく。そして、乾燥後、複合電着膜10を加湿していくと、加湿時間の経過に伴って、反射光の波長が高波長域にシフトしていく。なお、乾燥時間が十分に長くてβ層のマイクロゲルから水分が失われると、β層は透明となる。従って、複合電着膜10の色相は、α層のポリピロールの黒色となる。このように、本形態の複合電着膜10は、含有水分量変化に伴って構造発色が変化し、反射光のピーク波長が可逆的に変化する。
【0053】
次に、図4(c)に示すように、複合電着膜10をシンジオタクチックな立体規則性の高いポリビニルアルコール層(PVA)で覆い、マイクロゲルの含有水分量の変化を抑制しながら、温度変化に伴って構造発色が変化する様子を調査した。その結果、複合電着膜10は、温度が20℃の条件では緑色であったが、温度が40℃の条件では青色に変化した。そして、温度を20℃に戻すと、複合電着膜10は緑色に戻った。このように、本形態の複合電着膜10は、温度変化に伴って構造発色が変化し、色相が可逆的に変化する。
【0054】
(PNIPAMのマイクロゲルの評価)
PNIPAMのマイクロゲルの性質、およびPNIPAMのマイクロゲルの性質に及ぼすSDBSの影響を調査した。より具体的には、ゼータサイザーを用いて動的光散乱法(DLS)により、マイクロゲルの粒子径やマイクロゲルのゼータ電位を測定した。その結果を図5に示す。図5は、本発明の実施例1に係る複合電着膜10の製造に用いたマイクロゲルの性質を示す説明図であり、図5(a)、(b)、(c)は、SDBSが共存しない場合とSDBSが共存する場合とにおけるマイクロゲルの粒子径分布を示すグラフ、SDBSの濃度とマイクロゲルの粒子径やゼータ電位との関係を示すグラフ、およびSDBSが共存しない場合とSDBSが共存する場合とにおけるマイクロゲルの粒子径と温度との関係を示すグラフである。
【0055】
まず、図5(a)には、SDBSが共存しない場合におけるマイクロゲルの粒子径分布を白丸および実線L11で示し、SDBSが共存する場合におけるマイクロゲルの粒子径分布を黒丸および実線L12で示してある。図5(a)から分かるように、SDBSが共存する場合のマイクロゲルのピーク粒子径は、SDBSが共存しない場合のマイクロゲルのピーク粒子径より大きい。それ故、図1(a)および図3(b)に示すように、マイクロゲルにSDBSが吸着し、荷電粒子が形成されていることがわかる。
【0056】
図5(b)には、SDBSの濃度とマイクロゲルの粒子径と関係を四角で示し、SDBSの濃度とマイクロゲルのゼータ電位と関係を三角で示してある。図5(b)から分かるように、SDBSの濃度が高くなるほど、マイクロゲルの粒子径が増大する。また、SDBSが共存しない場合(SDBS濃度=0mM)のマイクロゲルのゼータ電位は、+18mVであるが、SDBSを添加するとゼータ電位がマイナスにシフトし、SDBS濃度が10mMの条件では、ゼータ電位が−40mVに変化する。このように、本例で用いたPNIPAMのマイクロゲルは、開始剤(末端)由来の負電荷と、共重合成分(アリルアミン)由来の正電荷とを有しているが、後者がやや優勢であるため、元々は、プラスのゼータ電位を有している。但し、SDBSと共存させると、PNIPAMのマイクロゲルは、マイナスのゼータ電位を示すことになる。
【0057】
図5(c)には、SDBSが共存しない場合における粒子径と温度との関係を三角で示し、SDBSが共存する場合における粒子径と温度との関係を四角で示してある。図5(c)から分かるように、SDBSが共存する場合(SDBS濃度=10mM)には、マイクロゲルにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが吸着することにより形成されたミセルの一部がPNIPAMのネットワークの拘束を受けているため、SDBSが共存しない場合(SDBS濃度=0mM)に比して、体積相転移の温度が高く、体積相転移が起こりにくい。
【0058】
(本実施例1の主な効果)
以上説明したように、本例では、水(溶媒)中に電解重合用のピロール、PNIPAMのマイクロゲル(微粒子4)、およびSDBS(アニオン系界面活性剤)を配合して、マイクロゲルがSDBSによって荷電微粒子として溶媒中に分散した微粒子分散液1を調製し、かかる微粒子分散液1中で電解を行う。その結果、陽極表面ではピロールの電解重合が起こって電解重合膜が成長するとともに、マイクロゲルの泳動電着が同時に起こる。従って、泳動電着したマイクロゲル同士の隙間内が電解重合膜で埋められたα層(第1複合電着層)と、泳動電着したマイクロゲルが堆積したβ層(第2複合電着層)とを備えた複合電着膜10が得られる。その際、陽極上においては複合電着膜10が厚く成長しても、複合電着膜10においては、電解重合膜が導電性を発揮するため、マイクロゲルの泳動電着がスムーズに起こる。従って、厚い複合電着膜10であっても、短時間で製造することができる。また、電解重合および泳動電着を利用するため、電極表面がどのような形状であっても、複合電着膜10の形成を行うことができる。さらに、本形態によれば、複合電着膜10を広い面積で積層させる場合でも、複合電着膜10を短時間で形成することができる。
【0059】
また、PNIPAMのマイクロゲルは、正電荷であるため、直接電着できないが、本形態では、正電荷のマイクロゲルに対電荷のSDBSが吸着し、マイクロゲルのゼータ電位は負の値に変化する。従って、マイクロゲルはSDBSとともに陽極に泳動する。それ故、PNIPAMのマイクロゲルのように正電荷の微粒子4であっても、陽極表面において、ピロールの電解重合と、マイクロゲルの泳動電着とを同時に行うことができる。
【0060】
また、アニオン系界面活性剤として用いたSDBSは、電解重合膜においてドーパントして機能するため、マイクロゲルの泳動電着がスムーズに起こる。また、SDBSは、アニオン系界面活性剤およびドーパントの双方の機能を発揮するため、アニオン系界面活性剤の他に別途、ドーパントを添加する必要がないという利点がある。また、アニオン系界面活性剤として用いたSDBSは、長いアルキル基を有しているため、複合電着膜10は適度な可撓性を有している。それ故、電解中、陽極表面から複合電着膜10が剥離することがない。
【0061】
[実施例2]
本発明の実施例2として、ピロールの電解重合を利用して、シリカ(シリコン酸化物)の微粒子4を電着法により積層する例を説明する。
【0062】
図6は、本発明の実施例2で得られた複合電着膜10を拡大して示す説明図であり、図6(a)、(b)、(c)は、複合電着膜10のα層表面を20000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真、複合電着膜10のα層表面を12500倍に拡大して示す電子顕微鏡写真、および断面を6000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真である。
【0063】
本例では、水(溶媒)にピロール、シリカの微粒子4およびSDBSをビーカーに入れて、微粒子分散液1を調製した後、微粒子分散液1にステンレススチール製の陽極および陰極を浸漬して直流電解を行い、陽極表面に、図1(b)を参照して説明した複合電着膜10を形成する。電解条件は、例えば、以下の通りである。
印加電圧=3.0V
電流値=10mA
液温=20℃
電極間距離=1.5cm
溶媒=水
ピロールの濃度=30mM/L
シリカの微粒子4の濃度=5wt%
SDBSの濃度=10mM/L
【0064】
かかる電着工程により得られた複合電着膜10では、図6に示すように、シリカの微粒子4が複合電着膜10の面内方向に略最密状態に配列しているとともに、微粒子4が複合電着膜10の厚さ方向で重なるように略最密状態に配列している。微粒子4の間は電解重合膜で充填され、かかる電解重合膜によって、微粒子4は、陽極表面に保持されている。
【0065】
[実施例3]
本発明の実施例3として、ピロールの電解重合を利用して、ポリメチルメタクリレートの微粒子4を電着法により積層する例を説明する。
【0066】
図7は、本発明の実施例3で得られた複合電着膜10を拡大して示す説明図であり、図7(a)、(b)、(c)は、複合電着膜10のα層表面を10000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真、複合電着膜10のα層表面を25000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真、および複合電着膜10のα層表面を8000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真である。
【0067】
本例では、水(溶媒)にピロール、ポリメチルメタクリレートの微粒子4およびSDBSをビーカーに入れて、微粒子分散液1を調製した後、微粒子分散液1にステンレススチール製の陽極および陰極を浸漬して直流電解を行い、陽極表面に、図1(b)を参照して説明した複合電着膜10を形成する。電解条件は、例えば、以下の通りである。
印加電圧=3.0V
電流値=10mA
液温=20℃
電極間距離=1.5cm
溶媒=水
ピロールの濃度=30mM/L
ポリメチルメタクリレート(微粒子4)の濃度=3wt%
SDBSの濃度=10mM/L
【0068】
かかる電着工程により得られた複合電着膜10では、図7に示すように、ポリメチルメタクリレートの微粒子4が複合電着膜10の面内方向に略最密状態に配列しているとともに、微粒子4が複合電着膜10の厚さ方向で重なるように略最密状態に配列している。また、微粒子4の間は電解重合膜で充填され、かかる電解重合膜によって、微粒子4は陽極表面に保持されている。
【0069】
[実施例4]
本発明の実施例4として、ピロールの電解重合を利用して、ポリスチレンの微粒子4を電着法により積層する例を説明する。
【0070】
図8は、本発明の実施例4に係る複合電着膜10のα層の断面構成を模式的に示す説明図である。図9は、本発明の実施例4で得られた複合電着膜10を拡大して示す説明図であり、図9(a)、(b)、(c)、(d)は、塩化ナトリウム(支持電解質)の濃度が10mMの条件で形成した複合電着膜10のα層表面を法線方向からみた様子を5000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真、塩化ナトリウムの濃度が1mMの条件で形成した複合電着膜10のα層表面を法線方向からみた様子を5000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真、塩化ナトリウムの濃度が10mMの条件で形成した複合電着膜10のα層表面を斜め方向からみた様子を5000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真、および塩化ナトリウムの濃度が1mMの条件で形成した複合電着膜10のα層表面を斜め方向からみた様子を5000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真である。
【0071】
なお、図9(e)、(f)、(g)、(h)には、参考例として、ポリスチレンの微粒子4を添加せずに、電解重合したポリピロール膜の表面を拡大して示す電子顕微鏡写真を示してある。図9(e)、(f)、(g)、(h)は、塩化ナトリウム(支持電解質)の濃度が10mMの条件で電解重合したポリピロール膜の表面を法線方向からみた様子を5000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真、塩化ナトリウムの濃度が1mMの条件で電解重合したポリピロール膜の表面を法線方向からみた様子を5000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真、塩化ナトリウムの濃度が10mMの条件で電解重合したポリピロール膜の表面を斜め方向からみた様子を5000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真、および塩化ナトリウムの濃度が1mMの条件で電解重合したポリピロール膜の表面を斜め方向からみた様子を5000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真である。なお、図9(f)に映し出されている粒子は焦点調整のために付した粒子である。
【0072】
図10は、本発明の実施例4において複合電着膜10を製造する際の塩化ナトリウム(支持電解質)の濃度の影響を示す説明図であり、図10(a)、(b)は、塩化ナトリウムの濃度と複合電着膜10の生成量との関係を示すグラフ、塩化ナトリウムの濃度と複合電着膜10の反射スペクトルとの関係を示すグラフである。
【0073】
本例では、水(溶媒)にピロール、ポリスチレンの微粒子4およびSDBSをビーカーに入れて、微粒子分散液1を調製した後、微粒子分散液1にステンレススチール製の陽極および陰極を浸漬して直流電解を行い、陽極表面に、図1(b)を参照して説明した複合電着膜10を形成する。電解条件は、例えば、以下の通りである。
印加電圧=3.0V
電流値=10mA
液温=20℃
電極間距離=1.5cm
溶媒=水
ピロールの濃度=30mM/L
ポリスチレン微粒子(微粒子4)の濃度=2wt%
SDBSの濃度=10mM/L
塩化ナトリウム(支持電解質)の濃度=10mM、1mM
【0074】
かかる電着工程により得られた複合電着膜10のα層では、図1(b)を参照して説明したように、微粒子4が複合電着膜10の面内方向および厚さ方向で重なるように配列している。また、微粒子4の間は電解重合膜11で充填され、かかる電解重合膜11によって、微粒子4は、陽極6表面に保持されている。本例では、微粒子分散液1に支持電解質が添加されているため、図8および図9(a)〜(d)に示すように、複合電着膜10のα層の表面には突起17が形成され、かかる突起17に相当する部分でも、微粒子4が複合電着膜10の面内方向および厚さ方向で略最密状態に配列している。なお、図9(a)、(c)と、図9(b)、(d)とを比較すれば分かるように、複合電着膜10のα層の突起17は、支持電解質の濃度が高い方が顕著に発生する。
【0075】
かかる突起17は、図9(e)〜(h)に示すように、ポリスチレンの微粒子4を添加せずに、電解重合したポリピロール膜(参考例)の表面にも発生する。この場合も、図9(e)、(g)と、図9(f)、(h)とを比較すれば分かるように、ポリピロール膜の突起は、支持電解質の濃度が高い方が顕著に発生する。
【0076】
また、図10(a)には、ポリスチレンの微粒子4を配合した条件で塩化ナトリウムの濃度を変化させたときの複合電着膜10の生成量を菱形および実線L41で示し、ポリスチレンの微粒子4を配合しない参考条件で塩化ナトリウムの濃度を変化させたときの複合電着膜10の生成量を四角および実線L42で示してある。このときの電解条件は、以下の通りである。
印加電圧=3.0V
電流値=10mA
液温=20℃
電極間距離=1.5cm
電解時間=15分
溶媒=水
ピロールの濃度=30mM/L
ポリスチレン微粒子(微粒子4)の濃度=0wt%、2wt%
SDBSの濃度=10mM/L
塩化ナトリウム(支持電解質)の濃度=1〜10mM
【0077】
図10(a)からわかるように、ポリスチレンの微粒子4を配合した場合、塩化ナトリウムの濃度を高くするほど、複合電着膜10が増大しているのに対して、ポリスチレンの微粒子4を配合しない場合、塩化ナトリウムの濃度が5mM以上では、複合電着膜10の生成量に変化が見られない。それ故、ポリスチレンの微粒子4を配合した場合、塩化ナトリウムの濃度をある程度高くすれば、複合電着膜10を効率よく製造することができることが分かる。
【0078】
また、図10(b)には、塩化ナトリウムの濃度を10mMとしたときの反射スペクトルを実線L51で示し、塩化ナトリウムの濃度を5mMとしたときの反射スペクトルを実線L52で示し、塩化ナトリウムの濃度を1mMとしたときの反射スペクトルを実線L53で示してある。このときの電解条件は、以下の通りである。
印加電圧=3.0V
電流値=10mA
液温=20℃
電極間距離=1.5cm
電解時間=15分
溶媒=水
ピロールの濃度=30mM/L
ポリスチレン微粒子(微粒子4)の濃度=2wt%
SDBSの濃度=10mM/L
塩化ナトリウム(支持電解質)の濃度=1、5、10mM
【0079】
図10(b)からわかるように、塩化ナトリウム(支持電解質)の濃度を変化させると、反射スペクトルが変化していることから、塩化ナトリウム(支持電解質)の濃度を変化させると複合電着膜10のα層の表面に形成される突起17(図8参照)の大きさや数が変化することが分かる。
【0080】
[実施例5]
図11は、本発明の実施例5に係る複合電着膜10の断面を3000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真である。図12は、本発明の実施例5に係る複合電着膜10の断面をさらに拡大して示す電子顕微鏡写真であり、図12(a)、(b)は、α層の断面を12500倍に拡大して示す電子顕微鏡写真、およびβ層の断面を8000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真である。図13は、本発明の実施例5に係る複合電着膜10の表面(β層の表面)を拡大して示す電子顕微鏡写真であり、図13(a)、(b)は、β層の表面を5000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真、およびα層の断面を40000倍に拡大して示す電子顕微鏡写真である。
【0081】
本発明の実施例5では、実施の形態4と同様、ピロールの電解重合を利用して、ポリスチレンの微粒子4を電着法により積層する。なお、本例では、ポリスチレンの濃度を実施例4より低い1wt%とし、支持電解質としての塩化ナトリウムを配合していない。
【0082】
本例でも、実施例4と同様、水(溶媒)にピロール、ポリスチレンの微粒子4およびSDBSをビーカーに入れて、微粒子分散液1を調製した後、微粒子分散液1にステンレススチール製の陽極および陰極を浸漬して直流電解を行い、陽極表面に、図1(b)を参照して説明した複合電着膜10を形成する。電解条件は、例えば、以下の通りである。
【0083】
印加電圧=3.0V
電流値=10mA
液温=20℃
電極間距離=1.5cm
溶媒=水
ピロールの濃度=30mM/L
ポリスチレン微粒子(微粒子4)の濃度=1wt%
SDBSの濃度=5mM/L
【0084】
かかる電着工程により得られた複合電着膜10の断面は、図11に示すように、α層の上層側にβ層が積層された構造を有しており、α層では、図1(b)を参照して説明したように、微粒子4が複合電着膜10の面内方向および厚さ方向で重なるように配列している。ここで、α層の断面を観察するために複合電着膜10を切断すると、切断面で微粒子4が電解重合膜から脱落し、その結果、図12(a)に示すように、微粒子4が存在していた個所が球形の隙間となったインバースオパール構造が形成されている。
【0085】
また、本例では、図12(b)および図13(a)、(b)に示すように、β層では、微粒子4が複合電着膜10の面内方向および厚さ方向で重なるように配列しており、β層は、電極上に一つの大きな結晶、すなわち、コロイド単結晶として成長していることが確認できた。また、β層は、透明であり、特定の方向にのみ構造発色を呈する角度依存性発色の結晶として形成されている。さらに、β層では隣り合う微粒子4同士が接合したブリッジ構造になっており、かかるブリッジ構造は、溶媒である水の蒸発時に形成されたものである。このため、β層では、微粒子4同士が連結し、自己固定化されている。また、本例では、微粒子4の欠陥が少ないので、応力が均一に分散し、全方位において均等なブリッジ形成となっている。このため、β層ではひび割れが発生しにくく、その結果、水分の蒸発後も白色化せず、透明な結晶になっている。
【0086】
かかる効果は、ポリスチレンの濃度を1wt%という低い濃度に設定したことに由来する。すなわち、ポリスチレンの濃度が高い場合、結晶化速度よりも堆積速度が大きくて結晶内に欠陥部分が多く含まれることになる。従って、電着後、溶媒を蒸発させる際に収縮応力が欠陥部分に集中してひび割れが生じて白色化する。その結果、構造発色が弱くなるか、ほとんどみられなくなる。しかるに本例では、ポリスチレンの濃度が低いので、結晶化速度よりも堆積速度が小さい。それ故、欠陥の少ない結晶が得られるので、溶媒蒸発時に収縮応力が均等に分散する。よって、本例によれば、ひび割れが発生しにくく、微粒子4間には均等なブリッジが形成されるので、透明で大きな単結晶が得られる。
【0087】
[その他の実施例]
上記実施例では、アニオン系界面活性剤としてSDBSを用いたため、アニオン系界面活性剤は、界面活性剤およびドーパントとして機能する。但し、他のアニオン系界面活性剤を用いたため、ドーパントとしての機能が低い場合、アニオン系界面活性剤の他にドーパントを別途、微粒子分散液1に配合して電解を行ってもよい。
【0088】
上記実施例では、電解中、微粒子分散液1の組成が一定であったが、微粒子分散液1の組成を段階的に変化させてもよい。例えば、電解中、微粒子分散液1において、微粒子4の配合量を段階的に変化させてもよい。かかる構成によれば、微粒子4の含有量が異なる電解重合膜が界面を介して接している階段接合構造の複合電着膜10を製造することができる。
【0089】
また、電解中、微粒子分散液1の組成を連続的に変化させてもよい。例えば、電解中、微粒子分散液1において、微粒子4の配合量を連続的に変化させてもよい。かかる構成によれば、電解重合膜内において微粒子4の含有量が連続的に変化する傾斜接合構造の複合電着膜10を製造することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 微粒子分散液
2 溶媒
3 モノマー
4 微粒子
5 アニオン系界面活性剤
6 陽極
7 陰極
8 電解槽
10 複合電着膜
11 電解重合膜(ポリピロール)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解重合膜内に、複数の微粒子、およびアニオン系界面活性剤が含まれていることを特徴とする複合電着膜。
【請求項2】
前記微粒子は、前記電解重合膜内において当該電解重合膜の面内方向および当該電解重合膜の厚さ方向に配列していることを特徴とする請求項1に記載の複合電着膜。
【請求項3】
前記微粒子は、前記電解重合膜内において当該電解重合膜の面内方向および当該電解重合膜の厚さ方向に周期的に配列して周期性構造物を形成していることを特徴とする請求項2に記載の複合電着膜。
【請求項4】
前記微粒子の間に前記電解重合膜が充填されている第1複合電着層と、前記微粒子の間に隙間が形成されている第2複合電着層とが積層されていることを特徴とする請求項2または3に記載の複合電着膜。
【請求項5】
溶媒中に電解重合用のモノマー、複数の微粒子、および該微粒子を前記溶媒中に分散させるアニオン系界面活性剤が配合された微粒子分散液中で電解を行い、陽極表面において、前記モノマーの電解重合と、前記微粒子の泳動電着とを同時に行うことを特徴とする複合電着膜の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒は、主成分が水である水系溶媒であることを特徴とする請求項5に記載の複合電着膜の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒は、水であることを特徴とする請求項6に記載の複合電着膜の製造方法。
【請求項8】
前記アニオン系界面活性剤は、アルキルベンゼンスルホン酸あるいはアルキルベンゼンスルホン酸塩であることを特徴とする請求項5乃至7に記載の複合電着膜の製造方法。
【請求項9】
前記微粒子は、無機材料の微粒子あるいは有機材料の微粒子であることを特徴とする請求項5乃至8の何れか一項に記載の複合電着膜の製造方法。
【請求項10】
前記微粒子は、温度応答性ポリマーの微粒子であることを特徴とする請求項5乃至8の何れか一項に記載の複合電着膜の製造方法。
【請求項11】
前記微粒子は、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドのハイドロゲル微粒子であることを特徴とする請求項10に記載の複合電着膜の製造方法。
【請求項12】
前記微粒子分散液には、支持電解質が配合されていることを特徴とする請求項5乃至11の何れか一項に記載の複合電着膜の製造方法。
【請求項13】
前記電解中、前記微粒子分散液の組成を段階的に変化させることを特徴とする請求項5乃至12の何れか一項に記載の複合電着膜の製造方法。
【請求項14】
前記電解中、前記微粒子分散液の組成を連続的に変化させることを特徴とする請求項5乃至12の何れか一項に記載の複合電着膜の製造方法。
【請求項15】
請求項5乃至14の何れか一項に記載の複合電着膜の製造方法を用いた機能膜の製造方法であって、
前記電解により、前記微粒子の間に電解重合膜が充填されている第1複合電着層と、前記微粒子の間に隙間が形成されている第2複合電着層とが積層された複合電着膜を形成した後、前記第1複合電着層と前記第2複合電着層とを分離し、前記第1複合電着層および前記第2複合電着層のうちの少なくとも一方から機能膜を得ることを特徴とする機能膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−162800(P2012−162800A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−4464(P2012−4464)
【出願日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月1日 社団法人高分子学会発行の「高分子討論会予稿集59巻2号」に発表
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)