複合X線分析装置
【課題】X線回折分析と蛍光X線分析の両方の分析により単結晶構造解析を行うX線分析装置の提供。
【解決手段】X線源2と、X線源が放射するX線を単結晶試料へ入射させる光学系3と、単結晶試料を支持する試料台4と、回折X線検出器5と、回折検出器5を角度移動させる回転駆動系6と、回折X線測定データ保存部と、回折X線の測定データに基づいて結晶構造のデータ解析を行う構造解析データ解析部と、エネルギー分散型蛍光X線検出器7と、蛍光X線測定データ保存部と、蛍光X線の測定データに基づいて蛍光X線分析を行う蛍光X線解析部と、蛍光X線分析データ保存部と、蛍光X線分析データを取得するとともに構造解析データ解析部へ出力する、蛍光X線分析データ取得手段と、を備える複合X線分析装置1であって、構造解析データ解析部は、蛍光X線分析データ取得手段が出力する蛍光X線分析データに基づいて、結晶構造のデータ解析を行う。
【解決手段】X線源2と、X線源が放射するX線を単結晶試料へ入射させる光学系3と、単結晶試料を支持する試料台4と、回折X線検出器5と、回折検出器5を角度移動させる回転駆動系6と、回折X線測定データ保存部と、回折X線の測定データに基づいて結晶構造のデータ解析を行う構造解析データ解析部と、エネルギー分散型蛍光X線検出器7と、蛍光X線測定データ保存部と、蛍光X線の測定データに基づいて蛍光X線分析を行う蛍光X線解析部と、蛍光X線分析データ保存部と、蛍光X線分析データを取得するとともに構造解析データ解析部へ出力する、蛍光X線分析データ取得手段と、を備える複合X線分析装置1であって、構造解析データ解析部は、蛍光X線分析データ取得手段が出力する蛍光X線分析データに基づいて、結晶構造のデータ解析を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折分析とエネルギー分散型蛍光X線分析の両方の分析により単結晶構造解析を行うX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折装置では、試料にX線を照射して、試料より発生する回折X線を測定することにより、試料の回折像を得る。たとえば試料が単結晶の場合は、回折像の測定データを用いて結晶構造の解析が主に行われる。一方、蛍光X線分析装置では、試料にX線を照射して、試料が放射する蛍光X線を測定することにより、試料の元素情報を得る。すなわち、測定される蛍光X線から含有原子を特定し、蛍光X線のピーク強度より含有原子それぞれの含有量を得る。
【0003】
単結晶構造解析において、X線回折装置によって得られる単結晶試料の回折像の測定データに加えて、蛍光X線分析装置によって得られる単結晶試料の元素情報、特に重元素の情報が、結晶構造を3次元的に解析するために必要な位相情報を決定する際に、非常に重要な役割を担っている。
【0004】
最近の開発スピードにあわせるには両者の分析結果を早急に利用し、解析スピードを上げる必要があり、かつ精密な解析結果が求められている。測定スピードと正確性を求めるには、X線回折分析と蛍光X線分析の両方の分析を同一装置により行うことが出来るX線分析装置によって、X線回折分析から得られる回折像の測定データと、蛍光X線分析から得られる元素情報とを、単結晶構造解析用の情報としてスムーズに利用できる環境が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−14566号公報
【特許文献2】特開平9−257726号公報
【特許文献3】特開平5−188019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
X線回折分析と蛍光X線分析の両方を同一装置により行う技術について、従来より提案されている。特許文献1には、回折X線検出器の角度移動に連動して、蛍光X線検出器を移動させる技術が記載されている。特許文献2には、ゴニオメーターのθ回転部に分光結晶を設置し、ゴニオメーターの2θ回転部に、蛍光X線分析用アタッチメントを設置し、X線回折測定のためのX線検出器の角度移動に応じて、分光結晶と蛍光X線分析用アタッチメントを移動させる技術が記載されている。なお、特許文献2に記載の蛍光X線分析は、分光結晶によって分光する波長分散型X線分析(以下、WDXと記す)である。特許文献3には、X線をプローブとして試料のX線回折、蛍光X線分析及び蛍光EXAFSの測定を行うことにより、薄膜及び薄膜表面・界面等の同一箇所を総合的に解析できるX線複合分析装置が記載されている。
【0007】
X線単結晶構造解析を行うためのX線回折測定に使用する単結晶試料は、例えば100μm以下といった小さな試料であり、X線回折測定に使用するX線源からのX線を単結晶試料に照射する場合、単結晶試料が放射する蛍光X線の強度は小さく、高い分解能を有しているWDXによる蛍光X線分析が望ましいと考えられる。
【0008】
一方、X線単結晶構造解析を行うためのX線回折装置には、単結晶試料を複雑な方向転換移動をさせるために、単結晶試料を保持する試料台に回転駆動系が必要であり、単結晶試料の近傍に、蛍光X線測定のためのX線検出器を配置する空間には制限が大きい。
【0009】
よって、特許文献1に記載の技術を適用して、X線単結晶構造解析を行うためのX線回折装置に、特許文献1の図1に記載の蛍光X線検出器及び平行リンク機構を単結晶試料の近傍に配置するのは困難である。また、WDXによる蛍光X線分析が望ましいにもかかわらず、特許文献2に記載の技術を適用して、分光結晶及び蛍光X線分析用アタッチメントを、X線単結晶構造解析を行うためのX線回折装置に配置して、装置の回転駆動系の角度移動に応じて移動させるのは困難である。WDXによる蛍光X線分析には、X線検出器に加えて、分光結晶や測角器などの構造物が必要であり、単結晶試料の近傍に配置することが出来る空間に制限が大きい装置に、それらを設置することはより困難となる。さらに、X線単結晶構造解析を行うためのX線回折装置に、X線回折装置の構造が異なる特許文献3に記載の技術を適用するのも、困難である。
【0010】
それゆえ、X線回折分析、蛍光X線分析、及びEXAFSなどを複数備えるX線分析装置に係る従来技術はあるにもかかわらず、単結晶構造解析を行うために、X線回折分析と蛍光X線分析が同一装置において可能とする装置については提案されていない。
【0011】
X線単結晶構造解析において、結晶構造を3次元的に解析するための位相を決定する際に、元素情報が重要になる。それにもかかわらず、現在、X線単結晶構造解析を行うための、X線回折測定と蛍光X線測定とが、別々の装置で行われており、装置が2台必要であることによるコストの増大という問題を引き起こしている。同じ単結晶試料に対してX線回折測定と蛍光X線測定を別々に行うことによる測定時間が増加してしまう問題も生じている。単結晶試料が不安定な試料である場合は特に、異なる2度の測定を別々の装置で行い、測定時間の増加や単結晶試料の移動などにより、試料が変質してしまって解析をより困難としてしまう。さらに、蛍光X線分析によって得られる元素情報を、単結晶構造解析を行う装置に転送しなければならず、障害となっている。
【0012】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、X線回折分析と蛍光X線分析の両方の分析により単結晶構造解析を行うX線分析装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係る複合X線分析装置は、X線を放射する、X線源と、前記X線源が放射するX線を単結晶試料へ入射させる、光学系と、前記単結晶試料を支持するとともに1又は複数の回転駆動系を備え前記単結晶試料を方向転換する、試料台と、前記単結晶試料より発生する回折X線を検出する、回折X線検出器と、前記回折X線検出器を前記単結晶試料に対して角度移動させる回転駆動系と、前記回折X線検出器が検出する回折X線の測定データを保存する回折X線測定データ保存部と、前記回折X線測定データ保存部が保存する前記回折X線の測定データに基づいて、結晶構造のデータ解析を行う構造解析データ解析部と、前記単結晶試料が放射する蛍光X線を検出する、エネルギー分散型蛍光X線検出器と、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器が検出する蛍光X線の測定データを保存する蛍光X線測定データ保存部と、前記蛍光X線測定データ保存部が保存する前記蛍光X線の測定データに基づいて、蛍光X線分析を行う蛍光X線解析部と、前記蛍光X線解析部が出力する蛍光X線分析データを保存する蛍光X線分析データ保存部と、前記蛍光X線分析データ保存部が保存する前記蛍光X線分析データを取得するとともに前記構造解析データ解析部へ出力する、蛍光X線分析データ取得手段と、を備える複合X線分析装置であって、前記構造解析データ解析部は、前記蛍光X線分析データ取得手段が出力する前記蛍光X線分析データに、さらに基づいて、結晶構造のデータ解析を行う、ことを特徴とする。
【0014】
(2)上記(1)に記載の複合X線分析装置であって、前記単結晶試料に対して前記光学系と反対側に設けられ、前記光学系から前記単結晶試料へ入射するX線のダイレクトビームを遮蔽する、ビームストッパを、さらに備え、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、検出するX線を受光する受光部と、前記ビームストッパと前記受光部との間に配置され、前記ビームストッパにおける前記ダイレクトビームが直接照射される部分が放射する蛍光X線を遮蔽するための、X線遮蔽体と、を備えていてもよい。
【0015】
(3)上記(2)に記載の複合X線分析装置であって、前記X線遮蔽体は、前記受光部の周縁を囲っていてもよい。
【0016】
(4)上記(3)に記載の複合X線分析装置であって、前記X線遮蔽体は、さらに、先端側がテーパー状になっていてもよい。
【0017】
(5)上記(3)に記載の複合X線分析装置であって、前記X線遮蔽体は、内部に中空導光管を備え、ポリキャピラリーとして機能してもよい。
【0018】
(6)上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の複合X線分析装置であって、前記光学系から前記単結晶試料へ入射するX線のダイレクトビームの光軸に対して垂直であって前記単結晶試料を貫く平面に対して、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器の前記受光部が、前記光学系側に配置されてもよい。
【0019】
(7)上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の複合X線分析装置であって、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、前記単結晶試料に対して外方へ退避することが可能な退避機構を、さらに備えてもよい。
【0020】
(8)上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の複合X線分析装置であって、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、前記単結晶試料が放射する蛍光X線を検出することにより、前記試料台が前記単結晶試料を支持する状態を検出してもよい。
【0021】
(9)上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の複合X線分析装置であって、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、シリコンドリフト検出器又はリチウムドリフトシリコン検出器であってもよい。
【0022】
(10)上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の複合X線分析装置であって、前記回折X線検出器が前記単結晶試料より発生する回折X線を検出する期間の一部の期間である第1の期間に、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器が、前記単結晶試料が放射する蛍光X線を検出してもよい。
【0023】
(11)上記(10)に記載の複合X線分析装置であって、前記回折X線検出器が前記単結晶試料より発生する回折X線を検出する期間の一部の期間であり前記第1の期間の後の期間である第2の期間に、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器が前記第1の期間に検出する前記蛍光X線の測定データに基づいて、前記蛍光X線解析部が蛍光X線分析を行ってもよい。
【0024】
(12)上記(1)乃至(11)のいずれかに記載の複合X線分析装置であって、前記単結晶試料を構成する化合物に含まれる所定の原子に複数種類の可能性がある場合に、前記構造解析データ解析部は、前記蛍光X線分析データより、前記所定の原子を決定し、該決定される原子に基づいて、前記単結晶試料の結晶構造を決定してもよい。
【0025】
(13)上記(1)乃至(11)のいずれかに記載の複合X線分析装置であって、前記単結晶試料を構成する化合物に含まれる所定の原子の一部が他の原子に置換されている場合に、前記構造解析データ解析部は、前記蛍光X線分析データより、前記他の原子の置換量を決定し、該置換量に基づいて、前記単結晶試料の結晶構造を決定してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、X線回折分析と蛍光X線分析の両方の分析により単結晶構造解析を行うX線分析装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る複合X線分析装置の構造を示す模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る制御解析部のブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器の先端の形状を表す模式図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器が検出する蛍光X線のスペクトルを表す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の構造を示す模式図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器の先端の形状を表す模式図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器の配置を示す模式図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器が検出する蛍光X線のスペクトルを表す図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器が検出するビームストッパからの蛍光X線のスペクトルを表す図である。
【図10A】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器が検出するビームストッパからの蛍光X線のスペクトルを表す図である。
【図10B】図10Aを縦軸方向に拡大した図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係るX線遮蔽体の役割を示す模式図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器の先端の形状の他の例を表す模式図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器の先端の形状の他の例を表す模式図である。
【図14】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器の先端の形状の他の例を表す模式図である。
【図15】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器の先端の形状の他の例を表す模式図である。
【図16】本発明の第3の実施形態に係る単結晶構造解析を行う化合物の分子モデルの構造の例を示す図である。
【図17】本発明の第4の実施形態に係る単結晶構造解析を行う化合物の分子モデルの構造の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下に示す図は、あくまで、当該実施形態の実施例を説明するものであって、図に示す縮尺と実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0029】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る複合X線分析装置1の構造を示す模式図である。当該実施形態に係る複合X線分析装置1は、単結晶である試料100のX線回折分析と蛍光X線分析の両方を行うことが可能である複合X線分析装置であり、単結晶構造の解析を行うことが出来る。複合X線分析装置1は、X線を放射するX線源2と、X線源2が放射するX線を試料100へ入射させる光学系3と、試料100を支持する試料台4と、試料100より発生する回折X線を検出する回折X線検出器5と、回折X線検出器5を試料100に対して角度移動させる回転駆動系6と、エネルギー分散型X線分析(以下、EDXと記す)用の蛍光X線検出器7(エネルギー分散型蛍光X線分析器)と、ビームストッパ8と、X線回折測定と蛍光X線測定を制御するとともに測定データの解析を行う制御解析部9と、を備えている。なお、複合X線分析装置1は、さらに、試料冷却部10(図示せず)を備えており、試料冷却部10は、試料100の上方に配置され、試料冷却部10は、試料100に冷却窒素ガスを噴射し、試料100を所定の温度に維持することが出来る。
【0030】
当該実施形態に係る複合X線分析装置1の特徴は、単結晶構造解析を行うことが可能なX線回折装置と、EDX用の蛍光X線検出器を用いた蛍光X線分析装置とを、同一の装置に備えたことにある。それにより、単結晶構造解析に必要となるX線回折分析と蛍光X線分析の両方の分析を行うことが可能となる複合X線分析装置が実現されている。単結晶構造解析に用いられる単結晶試料の結晶は前述の通り小さく、単結晶試料が放射する蛍光X線が微弱であるため、EDX用の蛍光X線検出器では検出が困難であると考えられるところ、発明者らは実験的にそれが可能であることを発見した。これにより、X線回折分析と蛍光X線分析の両方の分析を同一の装置で行うことが可能となる。
【0031】
以下、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の構成について説明する。X線源2はX線管を備え、陰極から出る熱電子を加熱しターゲットに衝突させてX線を放射する。光学系3はX線源2が放射するX線を試料100へ入射させるために配置される。光学系3は、多層膜集光ミラーとコリメータとを備え、X線源2が放射するX線を多層膜集光ミラーによって集光しコリメータより試料100へ出射している。以下、X線源2と光学系3とを組み合わせたものを、X線発生部とする。X線発生部が直接出射し試料100へ入射する強いX線を、X線のダイレクトビームと呼ぶこととする。なお、X線発生部は、単位面積当たりのX線量が10kW/mm2といった高輝度なX線を出射することが出来る。ここで、X線発生部の構造は、当該構造に限定されることはない。
【0032】
試料台4は、針状のサンプルホルダーと、1又は複数の回転駆動系と、を備えており、針状のサンプルホルダーの先端には単結晶である試料100が装着され、試料100はサンプルホルダーに支持される。X線発生部が出射するX線のダイレクトビームが試料100に入射するよう、サンプルホルダーが配置される。さらに、回転駆動系にサンプルホルダーの他端が固定され、回転駆動系により、試料100を3次元的に方向転換させることが可能となっている。X線回折測定において、試料100が回転駆動系によってどのような方向に回転していても、X線のダイレクトビームの中に試料100が完全に含まれている。
【0033】
回折X線検出器5は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)である。X線のダイレクトビームが試料100に照射され、試料100より回折X線が発生する。回折X線検出器5は、試料100に対してX線発生部と反対側に配置される場合に、X線のダイレクトビームの光軸に対して垂直に配置され、回折X線を2次元の平面で検出することが可能である。回折X線検出器5は、試料100を中心に角度移動をすることが出来る回転駆動系6の上に配置されている。試料台4の回転駆動系と、回転駆動系6により、回折X線検出器5は、試料100の回折像全体を検出することが可能である。なお、回折X線検出器5は、CCDに限定されることはなく、単結晶である試料100の回折像を検出することが出来るX線検出器であればよい。
【0034】
蛍光X線検出器7は、前述の通り、EDX用のX線検出器であり、例えば、SDD(シリコンドリフト検出器:Silicon Drift Detector)である。蛍光X線検出器7は、試料100が放射する蛍光X線を検出することが可能である。蛍光X線検出器7は、後述する通り、受光部12(図示せず)を備えている。受光部12は、蛍光X線検出器7が検出する蛍光X線を受光する部分であり、受光面を有している。受光部12で受光される蛍光X線が、受光部12を介して蛍光X線検出器7の本体部の内部に進入し、電気信号に変換されることにより、蛍光X線検出器7は蛍光X線の検出を行うことが出来る。なお、ここで、蛍光X線検出器7を、SDDとしたが、試料100が放射する蛍光X線を測定することが出来る性能のEDX用のX線検出器であって、配置するのに十分に小型化されたX線検出器であれば、これに限定されることはない。たとえば、Si(Li)型検出器(リチウムドリフトシリコン検出器)は、試料100が放射する蛍光X線を測定することが出来、本発明に適用することが可能である。
【0035】
ビームストッパ8は、X線のダイレクトビームの光軸上であって、試料100に対してX線発生部(光学系3)の反対側に設けられる。ビームストッパ8は、X線発生部が出射し試料100へ入射するX線のダイレクトビームを遮蔽している。それにより、ビームストッパ8は、X線のダイレクトビームが回折X線検出器5に到達するのを抑制し、回折X線検出器5がダメージを受けてしまうことなどを抑制している。ビームストッパ8を支持するアームにビームストッパ8が装着され、アームがX線発生部に固定されている。これにより、試料台4の回転駆動系が試料100をどの方向に傾斜させていても、回転駆動系6が回折X線検出器5をどの位置に移動させていても、X線のダイレクトビームの光軸上で、X線のダイレクトビームの出射方向において、ビームストッパ8より先方に、X線のダイレクトビームが進行することをビームストッパ8が抑制する。
【0036】
制御解析部9は、X線回折測定及び蛍光X線測定の制御を行うとともに、得られた測定データの解析を行う。制御方法により、X線回折測定のみを行うことも、蛍光X線測定のみを行うことも、同時に、X線回折測定と蛍光X線測定を行うことも可能である。X線回折測定では、試料台4の回転駆動系及び回折X線検出器5が配置されている回転駆動系6の駆動制御を行い、さらに回折X線検出器5の検出制御を行い、回折X線検出器5が検出する回折像に係る情報を複数収集し、それにより回折像全体の測定データを取得する。蛍光X線測定では、蛍光X線検出器7の検出制御を行うことで蛍光X線の測定データを取得する。
【0037】
図2は、当該実施形態に係る制御解析部9のブロック図である。制御解析部9の中で、データの保存と解析を行う手段について主に示している。制御解析部9は、回折X線測定データ保存部21と、構造解析データ解析部22と、蛍光X線測定データ保存部23と、蛍光X線解析部24と、蛍光X線分析データ保存部25と、蛍光X線分析データ取得手段26と、を備えている。
【0038】
回折X線測定データ保存部21は、回折X線検出器5が検出する回折X線を、回折X線の測定データとして、保存している。ここで、試料100の回折X線の測定データとは、例えば、試料100の回折像の回折位置と強度であり。ここで、回折位置が、逆格子空間の指数(hkl)に対応している。構造解析データ解析部22は、回折X線測定データ保存部21に保存されている回折X線の測定データを取得する手段を有しており、回折X線の測定データなどに基づいて、試料100の単結晶構造のデータ解析を行う。蛍光X線測定データ保存部23は、蛍光X線検出器7が検出する試料100が放射する蛍光X線の測定データを保存する。蛍光X線の測定データとは、例えば、分解能に応じて複数のエネルギー値と、該エネルギー値における蛍光X線の強度である。蛍光X線の測定データより、蛍光X線のスペクトルを表示することが出来る。蛍光X線解析部24は、蛍光X線測定データ保存部23に保存されている蛍光X線の測定データを取得する手段を有しており、蛍光X線の測定データに基づいて、蛍光X線分析を行う。蛍光X線解析部24は、試料100の蛍光X線のスペクトルのピークエネルギーとピーク強度などから、試料100に含有される元素とその元素の含有量などの元素情報を解析する。さらに、蛍光X線解析部24は試料100の元素情報を、蛍光X線分析データとして、蛍光X線分析データ保存部25へ出力する。蛍光X線分析データ保存部25は、蛍光X線解析部24が出力する蛍光X線分析データを保存する。蛍光X線分析データ取得手段26は、蛍光X線分析データ保存部25に保存されている蛍光X線分析データを取得し、構造解析データ解析部22に、蛍光X線分析データを出力する。構造解析データ解析部22は、蛍光X線分析データから得られる試料100の元素情報に基づいて、例えば、重原子多重同型置換法などにより、位相情報を特定し、回折像の測定データとあわせて、試料100の単結晶における電子密度をデータ解析により取得する。また、さらに、取得した電子密度と試料100の元素情報に基づいて、試料100の単結晶の構造が特定される。なお、制御解析部9は、同一のコンピュータの中に配置されることも、複数のコンピュータの中に分散して配置されることもありえる。
【0039】
なお、制御解析部9は、試料冷却部10の制御も行う。制御解析部9は、試料100近傍に設けられる温度センサーからの温度情報に基づいて、噴射する冷却窒素ガスの温度を調節することにより、試料100を一定の温度に維持する。
【0040】
図3は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の先端の形状を表す模式図である。蛍光X線検出器7の外径は20mmであり、その先端に受光部12を有している。ここで、蛍光X線検出器7がSDDである場合、受光部12は、複数のリング形状の電極が設けられる円形状の平面である。試料100の蛍光X線測定を行う場合、試料100が放射する蛍光X線を検出する感度が最大となるように、蛍光X線検出器7が複合X線分析装置1に配置されている。受光部12で受光される蛍光X線の受光感度を最大にする蛍光X線の入射方向を、蛍光X線検出器7の光軸と定義すると、蛍光X線検出器7の光軸が、試料100の中心部を貫いているのが望ましい。なお、受光部12が受光できる蛍光X線の量をより多くするために、受光部12の中心より光軸が受光部12の受光面に垂直に延伸しているのが一般的であるが、必ずしもこれに限定されない。さらに、試料100が放射する蛍光X線を検出する感度をより高くするよう、受光部12が試料100により近接するよう、蛍光X線検出器7が配置されるのが望ましい。
【0041】
図4は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7が検出する蛍光X線のスペクトルを表す図である。図の横軸は、蛍光X線のエネルギーを表しており、単位は(keV)であり、図の縦軸は、X線強度(Intensity)を表しており、単位は検出カウント数であり、(a.u.)となっている。ここでは、試料100がC129H149Cu4N11O39の単結晶であり、結晶サイズは、0.1mm×0.08mm×0.06mmである。蛍光X線検出器7の受光部12と試料100との距離を1cmとし、積算時間を100秒間として試料100が放射する蛍光X線を測定した結果が、図4に示されている。
【0042】
試料100に含まれるCuの含有量は9.3%と、結晶サイズが100μm程度であり、Cuの含有量10%以下の単結晶が放射する蛍光X線のスペクトルより、Cuの特性X線が観測されている。また、X線回折測定を行っている期間に、同時に蛍光X線測定を行ったところ、X線源2のX線シャッタと蛍光X線検出器7が同期していないため、20%程度シグナルは弱まるものの、X線回折測定と蛍光X線測定とを同時に行うことが可能であることを示されている。蛍光X線検出器7をX線源2のX線シャッタと同期すれば、より良好な蛍光X線のスペクトルが得られるのは、言うまでもない。また、受光部12と試料100との距離を2cmとした場合であっても、蛍光X線分析を行うのに十分なCuの特性X線が観測されている。
【0043】
単結晶構造解析を行う際に、従来において別々の装置で行われていたX線回折分析と蛍光X線分析を、本発明に係る複合X線分析装置が行うことが出来ている。それによって、従来において生じていたコストの増大が抑制される。試料を装置から装置へ移動させる手間が省略されるだけでなく、X線回折測定と蛍光X線測定とを同時に行うことが出来、測定時間の低減が実現している。また、2つの測定を同じ環境下で行うことが出来るので、測定データにより正確性が向上され、解析性能を向上させることが出来る。とくに、経時変化が大きい安定性の悪い試料を測定する場合に、当該効果は顕著に表れる。
【0044】
X線回折測定に要する時間は、蛍光X線測定に要する時間より、一般的に長い。よって、X線回折測定を行っている期間に、蛍光X線測定を同時に行うことにより、測定時間の低減が実現される。すなわち、回折X線検出器5が試料100より発生する回折X線を検出する期間の一部の期間である第1の期間に、蛍光X線検出器7が、試料100が放射する蛍光X線を検出することにより、測定時間の低減が実現する。
【0045】
蛍光X線測定を行った後に、さらに、X線回折測定と並行して、蛍光X線測定データ保存部23に保存されている当該蛍光X線の測定データに基づいて、蛍光X線解析部24が元素情報の解析を行い、蛍光X線分析データ保存部25が蛍光X線分析データを保存し、蛍光X線分析データ取得手段26が蛍光X線分析データを取得し、構造解析データ解析部22へ出力することが出来る。これにより、測定時間のみならず、単結晶構造解析に必要な時間の大幅な短縮が実現される。回折X線検出器5が試料100より発生する回折X線を検出する期間の一部の期間であり第1の期間の後の期間である第2の期間に、蛍光X線検出器7が第1の期間に検出する蛍光X線の測定データに基づいて、蛍光X線解析部24が蛍光X線分析を行うことにより、単結晶構造解析に必要な時間の大幅な短縮が実現される。
【0046】
また、本発明に係る複合X線分析装置には、蛍光X線分析データ取得手段を有しており、蛍光X線分析で得られた試料の元素情報を、早急にかつ簡便に、単結晶構造解析に利用することが出来ており、解析性能をさらに向上させることが出来る。
【0047】
蛍光X線分析によって、対象となる試料の元素情報(化学組成の情報)が得られるが、試料の結晶状態の情報を得ることが出来ない。X線回折分析によって、試料の結晶状態が良好か否かの情報を得ることは出来るが、試料の化学組成がどうなっているのかの情報は不十分である。それゆえ、従来において、X線回折測定と蛍光X線測定が別々に行われていたことによって、測定に適した結晶状態及び組成の試料の選択に時間を要してしまう上に、経時変化が大きい試料では、その信頼性も低減してしまう。これに対して、本発明に係る複合X線分析装置を用いることにより、対象となる試料の結晶状態の情報をX線回折分析によって得るとともに、試料の化学組成の情報を蛍光X線分析によって得ることにより、測定時間の低減、コストの低減、及び信頼性の向上が実現されている。
【0048】
単結晶構造解析において、蛍光X線解析で決定した経験的な化学組成に基づいて、X線解析測定の測定結果を解析することが出来るので、単結晶の構造決定がより短時間で(より容易に)より正確に行うことができる。たとえば、単結晶構造解析において、初期位相を決定する際の困難性の一つに、単結晶成長時に用いた溶媒が、対象となる単結晶試料に残存しているか否かが不明であることが挙げられる。規格化構造因子のより正確な計算には、試料のより正確な化学組成が求められるからである。蛍光X線分析により、重元素と軽元素の組成比を得ることが出来、その組成比より、試料の中に溶媒の存在が予見される場合には、単結晶の構造決定をする際に、単結晶成長の際に用いた溶媒分子をあらかじめ化学組成に追加することにより、単結晶構造解析の初期段階での位相決定の成功率を改善することが出来るという格別な効果が得られる。
【0049】
新規構造の蛋白質の構造解析を行う上で、重原子置換結晶を用いた重元子動径置換法は、位相決定に有効な方法である。しかしながら、重原子置換結晶の探索には、多数の重原子を用いたソーキング、X線回折測定、及び重原子の結合の有無を調べる作業などが必要であり、多大な手間と時間を必要とする。本発明に係る複合X線分析装置を用いることにより、これら手間と時間が大幅に短縮され、重原子置換体結晶の探索に非常に有効である。
【0050】
例えば、ニワトリ卵白リゾチーム結晶に重原子試薬としてテトラクロロ白金酸カリウム(K2PtCl4)をソーキングしたPt置換体結晶について、本発明に係る複合X線分析装置によってX線回折測定及び蛍光X線測定を行ったところ、わずか数分でPtの存在を確認することができた。実際に、K2PtCl4濃度及びソーキング時間の異なる組み合わせの場合について実験を行ったが、例えば、以下の4つのケース(ケースA〜D)について説明する。K2PtCl4濃度及びソーキング時間が、それぞれ、ケースAは2mM及び130分、ケースBは2mM及び63時間、ケースCは4mM及び450分、ケースDは10mM及び10分である。これらの条件で、Pt置換体結晶を形成して測定及び解析を行ったところ、ケースDの場合にPtのスペクトルのピークが最も高くなっており、位相決定に適した重原子置換体結晶が形成されていた。このように、本発明に係る複合X線分析装置を用いることにより、重原子誘導体作成にかかる時間を大幅に短縮することができる。
【0051】
また、蛍光X線検出器7を固定して、試料100が放射する蛍光X線を検出し、測定されるX線強度を比較することにより、試料100を支持する試料台4のサンプルホルダーの位置をアライメントすることが出来る。逆に、試料台4のサンプルホルダーに試料100を固定して、蛍光X線検出器7が蛍光X線を検出することにより、試料100に対する蛍光X線検出器7の位置をアライメントすることも出来る。
【0052】
さらに、例えば、X線回折測定を行っている期間において、定期的に試料100が放射する蛍光X線を測定し、測定される蛍光X線のスペクトルに変化が生じていないかを調べることにより、試料100が試料台4の回転駆動系によって方向転換している間に、試料100がサンプルホルダーより落下したり、サンプルホルダーに対して位置ずれを起こしてしまっていないか、試料100の位置をモニターすることが出来る。蛍光X線測定データ保存部23に保存される蛍光X線の測定データ、又は、蛍光X線分析データ保存部25に保存される蛍光X線分析データのいずれかを、各測定に対する蛍光X線分析の結果として比較すればよい。すなわち、蛍光X線検出器7は、試料が放射する蛍光X線を検出することにより、試料台4が試料100を支持する状態を検出するためにも用いることが出来る。
【0053】
対称性の観点から、回折X線検出器5は、X線回折測定の際、X線発生部が出射するX線の光軸の一方側(例えば、図1に示す上側・反時計まわり側)のみ、試料100を中心に角度移動を行えば、試料100の回折像全体を取得することが出来る。それゆえ、試料台4が十分に小さいのであれば、蛍光X線検出器7は、X線発生部が出射するX線の光軸の他方側(図1に示す下側・時計まわり側)に配置すればよい。しかし、実際には、試料台4は回転駆動系を備えていることにより、蛍光X線検出器7を他方側に配置することは困難である場合が多い。それゆえ、試料台4に必要な空間を考慮して、蛍光X線検出器7は、図1に示す通り、一方側に配置されることとなる。
【0054】
X線源2に用いるターゲット金属がMoである場合は、出射するX線の波長が短く、X線回折測定に必要な回折X線検出器5の可動空間は小さくて済む。すなわち、図1に示すX線発生部が出射するX線の光軸に対して反時計回りに回転すべき角度は小さく、蛍光X線検出器7を配置する空間には余裕がある。
【0055】
しかし、X線源2に用いるターゲット金属がCuやCrなどである場合、出射X線の波長はMoの場合よりも長く、X線回折測定に必要な回折X線検出器5の可動空間はより大きくなり、蛍光X線検出器7を配置する空間にも制限がよりかかる。この場合、蛍光X線検出器7を配置する空間が回折X線検出器5の可動空間と重なることもあり得る。このような場合に対応するために、蛍光X線検出器7は退避機構を備えているのが望ましい。ここで、退避機構とは、例えばXYZステージであり、制御解析部9が退避機構を制御することにより、蛍光X線検出器7の本体部が移動する。X線回折測定を行う際、回折X線検出器5が蛍光X線測定のために蛍光X線検出器7の本体部を配置する空間と離れているときに、例えば、図1に示す位置にあるときに、蛍光X線検出器7を図1に示す位置に配置して、蛍光X線測定を行うとよい。そして、回折X線検出器5が、図1に示す蛍光X線検出器7の位置に近づく前に、退避機構により、蛍光X線検出器7の本体部を回折X線検出器5の可動空間の外方へ、すなわち、試料に対して外方へ退避させるとよい。
【0056】
なお、当該実施形態に係る複合X線分析装置1は、試料冷却部10(図示せず)を備えており、例えば、試料100が蛋白質の単結晶である場合のように、X線回折測定の測定期間が長く、単結晶を同じ温度条件に維持する必要な場合であっても、X線回折測定を行うことが出来る。前述の通り、試料冷却部10は、試料100の上方に配置されるので、蛍光X線検出器7を配置する空間に制限がよりかかっており、本発明の効果はさらに高まっている。また、単結晶を同じ温度条件に維持する必要がある場合に、同一の装置において、X線回折測定と蛍光X線測定を同じ環境下で行うことが出来ており、本発明の効果はさらに高まっている。
【0057】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置1は、第1の実施形態に係る複合X線分析装置1と基本的な構成は同じである。当該実施形態に係る複合X線分析装置1は、蛍光X線検出器7の形状において、第1の実施形態に係る複合X線分析装置1と主に異なる。
【0058】
図5は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の構造を示す模式図である。図に示す通り、蛍光X線検出器7の先端形状が、図1に示す蛍光X線検出器7と異なっている。蛍光X線検出器7は、後述する通り、X線遮蔽体13(図示せず)を備えており、試料100が放射する蛍光X線を検出する位置に蛍光X線検出器7の受光部12がある場合に、X線遮蔽体13は、ビームストッパ8におけるダイレクトビームが直接照射される部分が放射する蛍光X線を遮蔽している。
【0059】
図6は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の先端の形状を表す模式図である。蛍光X線検出器7は、図6に示す通り、X線遮蔽体13をさらに備えている。X線遮蔽体13の形状は、蛍光X線検出器7の本体側が中空円柱をしており、先端側が中空の円錐台形状であり、先端には円形の開口部がある。すなわち、X線遮蔽体13は、中空円柱形状により、蛍光X線検出器7の受光部12の周縁を囲っている。また、X線遮蔽体13の先端側がテーパー状になっており、先端に近づくにつれて、断面の半径が徐々に小さくなっていく構造となっている。X線遮蔽体13は、ビームストッパ8からの蛍光X線を遮蔽する材質であれば何でもよく、ここでは、ステンレススチールからなるとしているが、一般的な金属であってもよい。また、必要に応じて鉛が含まれていてもよい。
【0060】
図7は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の配置を示す模式図である。蛍光X線検出器7の本体部の外径は20mmであり、X線遮蔽体13の中空円柱部分の外径は12mmであり、受光部12からX線遮蔽体13の先端までの距離は20mmである。X線遮蔽体13の先端から試料100までの距離L1は2mmである。
【0061】
光学系3のコリメータから試料100に入射するX線の光軸上に、順に、試料100と、ビームストッパ8が配置されている。コリメータの外径は13mmである。図7に示す通り、ビームストッパ8に、X線のダイレクトビームが照射される位置に鉛によって形成されているコア部11が備えられており、コア部11をホルダーが支持している。すなわち、コア部11は、ビームストッパ8におけるX線のダイレクトビームが直接照射される部分である。試料100に入射するするX線のダイレクトビームをコア部11にある鉛が吸収することにより、ビームストッパ8のコア部11はX線のダイレクトビームを遮蔽している。試料100とビームストッパ8のコア部11の距離L2は、11mmである。なお、ここでは、ビームストッパ8は、鉛によって形成されているコア部11を備えるとしたが、ビームストッパ8はこれに限定されることはなく、たとえば、鉛合金によって形成される一体型であってもよい。この場合であっても、本発明に係るX線遮蔽体13は、一体型のビームストッパにおけるX線のダイレクトビームが直接照射される部分が放射する蛍光X線を遮蔽する。
【0062】
図7に示す蛍光X線検出器7は、試料100が放射する蛍光X線を検出するのに、適した位置に配置されている。X線のダイレクトビームが試料100に照射する領域の中心部を、蛍光X線検出器7の光軸が貫いているのが望ましい。蛍光X線検出器7の光軸は、受光部12の中心から受光部12の平面に対して垂直に延伸しているので、試料100が受光部12へ放射する蛍光X線XL1の中心は、受光部12の中心に到達する。図には、試料100が受光部12へ放射する蛍光X線XL1の中心が波線で示されている。
【0063】
これに対して、X線遮蔽体13の一部は、受光部12とビームストッパ8との間に配置されており、X線遮蔽体13は、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線を遮蔽している。とくに、X線遮蔽体13は、コア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2を遮蔽している。図には、コア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2の中心が波線で示されている。もしもX線遮蔽体13が存在していなければ、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線が受光部12に到達するところ、X線遮蔽体13が存在していることにより、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線が、とくにコア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2が、X線遮蔽体13により遮蔽されている。
【0064】
一般に、X線のダイレクトビームが回折X線検出器に到達し回折X線検出器がダメージを受けてしまうことを抑制するために、またX線のダイレクトビームが装置の構造物に当たり発生する散乱X線によるノイズを軽減させるために、あるいは作業者への安全対策のためなどに、X線分析装置にはビームストッパが配置される。ビームストッパがX線のダイレクトビームを遮蔽する部分は、鉛などの重金属によって形成されており、X線のダイレクトビームを試料に照射する際、ビームストッパに到達するX線のダイレクトビームによってビームストッパの当該部分を形成している鉛などの重金属より蛍光X線が放射される。ここでは、ビームストッパの当該部分を形成する代表的な材料として、鉛を例に説明する。
【0065】
蛍光X線検出器、例えば、EDX用のX線検出器は、試料が放射する蛍光X線を測定する際に、近傍に位置するビームストッパの鉛が放射する蛍光X線も同時に測定することとなる。ビームストッパの鉛の蛍光X線は、試料の蛍光X線分析にとって妨害となる情報である。ビームストッパの鉛が放射する蛍光X線が測定されることにより、測定される蛍光X線に含まれる鉛のスペクトルが、試料に鉛が含まれていることに起因するのか、ビームストッパの鉛に起因するのか判断が困難となる。さらに、試料中に鉛がある場合には、その鉛の定量分析をする際に強度が不正確に測定されてしまうので、蛍光X線分析を困難にする。また、白金のように、鉛の特性X線の波長に近い波長の特性X線を有する元素もあり、後述する図8の例のように、試料中に白金が含まれる場合には、測定される蛍光X線のスペクトルに、白金のスペクトルと鉛のスペクトルが一部重なってしまい、蛍光X線分析を困難とする。
【0066】
ビームストッパが放射する蛍光X線の検出を抑制するためには、蛍光X線検出器を、出来る限りビームストッパに並ぶように配置すればよい。しかし、ビームストッパの近傍には、回折X線検出器が配置され、広い回折角度範囲の回折像を捕らえるために回折X線検出器が試料に対して角度移動を行うので、ビームストッパの近傍に配置された蛍光X線検出器は、X線回折測定にとって障害物となる。また、試料の環境を変化させる装置を付加する場合は蛍光X線検出器をビームストッパ近傍に配置することはより困難となる。
【0067】
X線回折測定に必要な回折X線検出器の可動空間を考慮すると、蛍光X線検出器をX線発生部の近傍に配置すればよいが、蛍光X線検出器から望む試料の方向と蛍光X線検出器から望むビームストッパの方向がなす角度は小さくなり、ビームストッパが放射する蛍光X線の検出を抑制することが困難となる。
【0068】
当該実施形態に係る蛍光X線検出器7は、かかる問題を解決するために、X線遮蔽体13を備えている。当該実施形態に係る蛍光X線検出器7により、X線回折分析と蛍光X線分析とを行う複合X線分析装置において、ビームストッパが放射する蛍光X線の影響を抑制しつつ、試料が放射する蛍光X線を検出することができる。以下、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の効果について説明する。
【0069】
図8は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7が検出する蛍光X線のスペクトルを表す図である。図の横軸及び縦軸は、図4と同様であるが、横軸及び縦軸のスケールは図4と異なっている。ここでは、試料100は前述のK2PtCl4の単結晶であり、図7に示す位置に蛍光X線検出器7が配置される場合に、積算時間を25秒間として試料100の蛍光X線を測定した結果が、図8に示されている。
【0070】
図8には、Pt(白金)のLα線のエネルギー値とPtのLβ線のエネルギー値のそれぞれに、X線強度5000を超える大きなピークが観測されており、試料100に含まれるPtの蛍光X線が検出されている。これに対して、図に破線で示されるPb(鉛)のLα線のエネルギー値とPbのLβ線のエネルギー値には、背景のX線強度よりも大きいピークは観測されていない。
【0071】
図9は、第1の実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7が検出するビームストッパ8からの蛍光X線のスペクトルを表す図である。図の横軸及び縦軸は、図8と同様であるが、縦軸のスケールは図8と異なっている。第1の実施形態に係る蛍光X線検出器7は、当該実施形態に係る蛍光X線検出器7と異なり、X線遮蔽体13を有していない。また、ビームストッパ8が放射する蛍光X線の強度を測定するために、ここでは、試料100を試料台4に装着していない。積算時間を300秒間として蛍光X線を測定した結果が、図9に示されている。ここでは、試料100を試料台4に装着していないので、蛍光X線のスペクトルは、ビームストッパ8のコア部11の鉛が放射する蛍光X線を主に検出したものだと考えられる。
【0072】
図9には、PbのLα線のエネルギー値とPbのLβ線のエネルギー値のそれぞれにX線強度500を超えるピークが観測されており、ビームストッパ8の鉛が放射する蛍光X線が検出されている。第1の実施形態に係る複合X線分析装置1が試料100の蛍光X線測定を行う際に、図9に示すPbの特性X線のピークが同時に観測されるのに対して、図8に示す通り、当該実施形態に係る複合X線分析装置1では、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線が、X線遮蔽体13によって十分に遮蔽されていると考えられる。
【0073】
図10Aは、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7が検出するビームストッパ8からの蛍光X線のスペクトルを表す図である。図の横軸及び縦軸は、図8と同様であるが、縦軸のスケールは図8と異なっている。図10Aに示す蛍光X線のスペクトルは、図9に示す蛍光X線の測定と同様の測定によって得られる。すなわち、試料100を試料台4に装着せず、ビームストッパ8が放射する蛍光X線を積算時間を300秒間として測定した結果が、図10Aに示されている。図10Aには、図9に示す蛍光X線のスペクトルでは観測された、PbのLα線のエネルギー値やLβ線のエネルギー値に、目立ったピークは観測されていない。
【0074】
図10Bは、図10Aを縦軸方向に拡大した図である。すなわち、図10Bの横軸のスケールは図10Aと同じであるが、図10Bの縦軸のスケールは、図10Aよりさらに小さい。図10Bが示す通り、PbのLα線のエネルギー値に現れるX線強度は6程度で、X線遮蔽体13によって、ビームストッパ8のコア部11が放射する蛍光X線の検出が1/100程度に軽減されている。
【0075】
前述の通り、Pt(白金)などの重原子は、重原子多重同型置換法などにおいて、よく用いられる。Ptの特性X線の波長は、前述の通り、Pb(鉛)などの重原子と特性X線の波長と近いものがあり、試料100自体にPtが含まれる場合や、重原子多重同型置換法によりPtを含む溶液に単結晶試料を漬ける(ソーキング)ことにより形成される重原子置換結晶(重原子誘導体)について、蛍光X線分析を行う場合など、ビームストッパが放射する蛍光X線により、蛍光X線分析を困難にするところ、当該実施形態に係る複合X線分析装置1では、ビームストッパ8が放射する蛍光X線の検出を抑制することが出来ており、本発明の効果は顕著に高まっている。
【0076】
図11は、当該実施形態に係るX線遮蔽体13の役割を示す模式図である。X線遮蔽体13は、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線を遮蔽している。
【0077】
受光部12で受光される蛍光X線は、受光部12を介して蛍光X線検出器7の内部に進入し、電気信号に変換される。試料100の全領域に、X線発生部が出射するX線のダイレクトビームが照射されているとすると、X線が照射される試料100より、全方位に向けて、蛍光X線が放射される。試料100が放射する蛍光X線のうち、試料100が受光部12へ放射する蛍光X線XL1が、図11に示されている。図に示す試料100が受光部12へ放射する蛍光X線XL1は、試料100と受光部12を結んで作られる空間、すなわち、試料100の内部(及び表面)の任意の点と、受光部12の任意の点とを結んで作られる空間に存在している。同様に、ビームストッパ8にもX線発生部が出射するX線のダイレクトビームが照射され、ビームストッパ8より、全方位に向けて、蛍光X線が放射される。とくに、コア部11はビームストッパ8におけるX線のダイレクトビームが直接照射される部分であり、コア部11より、強度の強い蛍光X線が放射される。ビームストッパ8が放射する蛍光X線のうち、コア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2が、図11に示されている。図に示すコア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2は、同様に、コア部11の内部(及び表面)の任意の点と、受光部12の任意の点とを結んで作られる空間に存在している。
【0078】
X線遮蔽体13は、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線の、少なくとも一部を遮蔽することにより、ビームストッパ8が放射する蛍光X線が蛍光X線検出器7に検出されることを抑制する。コア部11が放射する受光部12への蛍光X線XL2のすべてをX線遮蔽体13が遮蔽していると、さらに望ましい。ビームストッパ8が放射する蛍光X線を、蛍光X線検出器7が検出することがさらに抑制される。この場合、X線遮蔽体13は、コア部11と受光部12とを結んで作る空間を分断しており、図11に示すコア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2のすべてを遮蔽することとなる。また、X線遮蔽体13が、ビームストッパ8と受光部12とを結んで作る空間を分断していると、さらに望ましい。
【0079】
図12は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の先端の形状の他の例を表す模式図である。図6とは異なり、X線遮蔽体13は受光部12の周縁の一部しか囲っていないが、一部しか囲っていない構造であっても、X線遮蔽体13を受光部12とビームストッパ8との間に配置することにより、図11に示す通り、ビームストッパが受光部12へ放射する蛍光X線を、とくにコア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2を、すべて遮蔽する構造となっている。
【0080】
図13は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の先端の形状の他の例を表す模式図である。図6と同様に、また、図12とは異なり、X線遮蔽体13は、受光部12の周縁をすべて囲っている構造であり、中空円柱形状をしている。受光部12の周縁をすべて囲っていることにより、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線のみならず、他方向から受光部12で受光されるX線をも、X線遮蔽体13は遮蔽することが出来るとともに、蛍光X線検出器7の配置をより簡易に調整することが出来る。
【0081】
図14は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の先端の形状の他の例を表す模式図である。X線遮蔽体13は、円錐台の形状をしていることにより、受光部12の周縁をすべて囲っている構造であるとともに、X線遮蔽体13は、テーパー状になっている。
【0082】
図6及び図14に示すX線遮蔽体13の先端には開口部があり、開口部の形状、とくに、開口半径の大小によって、試料100が受光部12へ放射する蛍光X線XL1のうち、受光部12へ到達するX線量を制御することが出来る。開口部の開口半径を大きくすることにより、蛍光X線XL1のうちより多くのX線量のX線が受光部12に到達することが出来るが、開口部の開口半径が大きくなるのに伴い、他方向からのX線がより多く受光部12へ到達することになってしまう。反対に、開口部の開口半径を小さくすることにより、蛍光X線XL1のうち受光部12へ到達するX線量をより制限することになるが、他方向からのX線が受光部12へ到達することをより抑制することが出来る。開口半径を含め、開口部の形状は、試料100が放射する蛍光X線の強度や、他方向からの蛍光X線の強度などを考慮して、適切なものが選択されるのが望ましい。
【0083】
第1の実施形態で説明した通り、当該実施形態に係る複合X線分析装置1において、蛍光X線検出器7が試料100が放射する蛍光X線を検出することにより、試料台4の位置や蛍光X線検出器7の位置をアライメントすることが出来る。図6や図14に示す先端がテーパー形状となっているX線遮蔽体13を用いることにより、蛍光X線検出器7が検出する蛍光X線の指向性は高まるので、より正確にアライメントを行うことが出来る。小さい開口半径のX線遮蔽体13を用いることにより、さらに高精度のアライメントをすることが出来る。
【0084】
さらに、第1の実施形態で説明した通り、当該実施形態に係る複合X線分析装置1において、蛍光X線検出器7が試料100が放射する蛍光X線を検出することにより、試料100の位置をモニターすることが出来る。図6や図14に示す先端がテーパー形状となっているX線遮蔽体13を用いることにより、蛍光X線検出器7が検出する蛍光X線の指向性は高まるので、より正確に試料100の位置をモニターすることが出来る。
【0085】
図15は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の先端の形状の他の例を表す模式図である。図6及び図14とは異なり、図15に示すX線遮蔽体13は、先端が逆テーパー状となっている。X線遮蔽体13の内部には、複数の中空導光管(capillaly)が設けられている。中空導光管は、管の延伸方向から進入するX線を通す性質を有しており、X線遮蔽体13は、蛍光X線を遮蔽する機能に加えて、開口部の内側を通過したX線を受光部12へ導光するポリキャピラリとしても機能している。これにより、図15に示すX線遮蔽体13を用いることにより、ビームストッパ8が放射する蛍光X線が検出されるのを抑制しつつ、試料100が放射する蛍光X線をより多く検出することが可能となり、検出感度が向上する。
【0086】
以上、X線遮蔽体13の形状について説明した。試料100が放射する蛍光X線の強度や、所望する検出精度などに応じて、最適な形状のX線遮蔽体13を用いるとよい。
【0087】
本発明により、複合X線分析装置1において、X線回折測定と、蛍光X線測定とを、同時に行うことが可能となる。前述の通り、回折X線検出器5は、X線回折測定の際に、回転駆動系6によって試料100を中心に角度移動をする。それゆえ、X線回折測定の障害とならないように、蛍光X線検出器7は、試料100に対して、X線発生部側に配置されるのが望ましい。ここで、X線発生部が出射するX線の光軸に対して垂直な平面であって、試料100のいずれかを貫く平面を考えると、蛍光X線検出器7の受光部12が、当該平面のX線発生部側に配置されていればよい。たとえば、図7に示す通り、蛍光X線検出器7の受光部12が、試料台4が支持する試料100より、左側に配置されていればよい。また、試料100を中心に回折X線の方向を考えると、X線発生部への方向(X線のダイレクトビームの出射方向)に近づくにつれて、試料100を通過した回折X線の強度は低下していく。それゆえ、蛍光X線検出器7が出来る限りX線発生部の光学系3に並ぶように配置されるとなおよい。第1の実施形態に係る複合X線分析装置1についても同様である。
【0088】
試料100が放射する蛍光X線の検出感度を向上させるために、蛍光X線検出器7の受光部12は出来る限り試料100に近づけるのが望ましい。しかし、蛍光X線検出器7の本体部の断面の大きさにより、他の機器との関係で、蛍光X線検出器7が試料100に近づけることが出来る距離にも限界がある。例えば、図7に示す蛍光X線検出器7の本体部の断面は円形状であり、外径は20mmとなっている。しかし、蛍光X線検出器7の本体部の断面が大きく、蛍光X線検出器7の受光部12を試料100に近づけることが出来る限界の位置にあっても、第2の実施形態に係る蛍光X線検出器7はX線遮蔽体13を有し、X線遮蔽体13の先端を試料100により近付けることが出来、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線を遮蔽することが出来ている。この場合、X線遮蔽体13の断面が蛍光X線検出器7の本体部の断面の外縁より内側になるのが望ましい。例えば、図6及び図7に示すX線遮蔽体13の中空円柱部分の外径は12mmとなっている。さらに、図7に示す通り、X線遮蔽体13の先端をテーパー状とすることにより、X線遮蔽体13の先端から試料100までの距離L1を2mmと、X線遮蔽体13は、他の機器、例えば、X線発生部の光学系3の障害となるのを避けつつ、試料100のより近くにまで先端が延伸する形状となっている。また、図12に示すX線遮蔽体13は、受光部12の周縁の一部しか囲っていない構造であり、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線とは反対側まで広がっておらず、他の機器、例えば、X線発生部の光学系3の障害となるのが抑制される。
【0089】
以上、本発明の第1及び第2に係る複合X線分析装置について説明した。本発明に係る複合X線装置は、単結晶構造解析を行うX線分析装置としたが、第2の実施形態に係る蛍光X線検出器7のX線遮蔽体13に係る技術は、当該複合X線分析装置に限定されることなく、回折X線検出器と蛍光X線検出器とビームストッパとを備える、複合X線分析装置であれば、他の構造であっても適用することが出来る。例えば、微細結晶からなる粉末状試料のX線回折分析と蛍光X線分析を行うことが出来る透過型の複合X線分析装置であってもよい。さらに、ビームストッパ以外であっても、X線遮蔽体がX線源からのX線に起因する蛍光X線を遮蔽する場合にも、係る技術は適用される。
【0090】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態では、試料を構成する化合物に含まれる所定の原子に複数種類の可能性がある場合の単結晶構造解析に、本発明を適用している。当該実施形態に係る複合X線分析装置1の構造は、第1又は第2の実施形態に係る複合X線分析装置1と同じである。試料を構成する化合物に含まれる所定の原子に複数種類の可能性がある場合、本発明の効果はさらに高まることとなる。
【0091】
例えば、試料を構成する化合物が金属錯体化合物である場合、金属錯体化合物の中心金属が複数種類の金属のいずれかである可能性が残ることがあり得る。これらの金属錯体化合物の結晶構造は共通点がかなり多く、所定の精度のX線回折分析からは、中心金属の原子種の特定が困難となってしまう。X線は電子によって散乱されており、可能性がある複数の金属原子の電子数の相対的な差が小さい場合には、原子種の特定がより困難であり、X線回折測定から原子種を特定するためには、より高い精度の測定と分析が必要となる。例えば、可能性がある複数の金属原子がニッケル(Ni)か亜鉛(Zn)のいずれかである場合、原子種の特定は困難であり、原子種の特定をするために非常に高精密な測定と分析が必要となり、単結晶構造解析においても、構造の決定に多大な手間と時間がかかってしまう。
【0092】
図16は、当該実施形態に係る単結晶構造解析を行う化合物の分子モデルの構造の例を示す図である。図の左側に示す金属錯体化合物は、Niを中心金属とするポルフィリンであり、図の右側に示す金属錯体化合物は、Znを中心金属とするポルフィリンである。中心金属(Ni又はZn)に4個の窒素(N)が結合しており、さらに、図に示す通り、複数の炭素(C)と水素(H)が結合している。試料がいずれかの金属錯体化合物である場合であっても、蛍光X線分析によって、試料の化学組成の情報を得ることにより、金属錯体化合部の中心金属の種類を決定することが出来る。
【0093】
蛍光X線分析の結果を単結晶構造解析に利用することにより、より低い精度のX線回折測定であっても、結晶構造の決定が可能となる。さらに、本発明に係る複合X線分析装置1を用いることにより、X線回折測定と蛍光X線測定とが並行して行われ、制御解析部9の蛍光X線解析部24が蛍光X線分析を行い、蛍光X線解析部24が出力する蛍光X線分析データより、構造データ解析部22が、原子種を決定し、決定される原子種に基づいて
、単結晶構造解析を行い、試料の結晶構造を決定することが出来る。よって、時間の低減、コストの低減、及び信頼性の向上が実現されている。特に、中心金属の特性X線の波長が、Pbの特性X線の波長と近い場合には、第2の実施形態に係る複合X線分析装置1を用いることにより、本発明の効果はさらに高まる。
【0094】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態では、試料を構成する化合物に含まれる所定の原子の一部が他の原子に置換されている場合の単結晶構造解析に、本発明を適用している。当該実施形態に係る複合X線分析装置1の構造は、第1又は第2の実施形態に係る複合X線分析装置1と同じである。試料を構成する化合物に含まれる所定の原子の一部が他の原子に置換されている場合、本発明の効果はさらに高まることとなる。
【0095】
図17は、当該実施形態に係る単結晶構造解析を行う化合物の分子モデルの構造の例を示す図である。図に示す化合物は、サイアロン(SIALON)蛍光体であり、青色発光ダイオードを用いて効率よく発光させることができるので、LED照明の材料として多彩な白色発光を実現することが出来る物質である。当該実施形態に係る単結晶構造解析に用いるサイアロン蛍光体は、図に矢印で示す原子が所定の原子であるアルミニウム(Al)であるサイアロンを基本的な化学組成として、Alの一部(例えば、0.2%)を、ユウロピウム(Eu)といった置換した化合物である。ここで、化合物に含まれる所定の原子(ここではAl)の一部を他の原子(ここではEu)に置換することを、化合物に他の原子をドープすると定義してもよい。また、置換がされていないサイアロンのAlの原子数に対して、置換されるEuの原子数の割合を、Euの置換量であると定義する。
【0096】
サイアロン蛍光体は、サイアロンにEu2+イオンを固溶することにより、合成することが出来る。また、置換する(ドープする)原子はEuに限定されることはなく、他の希土類金属原子であってもよいし、さらに他の金属原子でもあってもよい。Euの置換量(ドープ量)を制御することにより、発色を制御することが出来る。これにより、昼光色、昼白色、白色、温白色、又は電球色といった多彩な白色の発光が可能であり、サイアロン蛍光体は、効率性、耐久性及び耐熱性に優れ、環境負荷の高い水銀蛍光灯と比較して環境負荷が抑制される次世代の照明材料である。例えば、液晶ディスプレイのバックライトの材料として用いることが出来る。
【0097】
サイアロンに固溶させるEu2+イオンの量を制御することによって、サイアロン蛍光体のEuの置換量(ドープ量)を制御することが出来るが、形成される複数の結晶粒においても、置換量(ドープ量)にばらつきが出てしまう場合もあり、サイアロン蛍光体のEuの置換量を正確に同定することは困難である。かかる場合であっても、本発明を適用することにより、試料とする結晶1個に対して測定が出来るので、試料における他の原子の置換量をより正確に決定することが出来る。
【0098】
Euの置換量が数%である場合、サイアロン蛍光体の単結晶を試料として、X線回折測定をしても、平均構造として見えてしまうので、Euの置換量をX線回折分析から決定することは非常に困難である。しかし、測定前にEuの置換量が不明である場合であっても、蛍光X線分析によって、試料の化学組成の情報を得ることにより、Euの置換量を決定することが出来る。よって、第3の実施形態と同様に、蛍光X線分析の結果を単結晶構造解析に利用することにより、より正確な単結晶構造解析が可能となる。さらに、本発明に係る複合X線分析装置1を用いることにより、X線回折測定と蛍光X線測定とが並行して行われ、制御解析部9の蛍光X線解析部24が蛍光X線分析を行い、蛍光X線解析部24が出力する蛍光X線分析データより、構造データ解析部22が、Euの置換量を決定し、決定されるEuの置換量に基づいて、単結晶構造解析を行い、試料の結晶構造を決定することが出来る。特に、注目する原子の特性X線の波長が、Pbの特性X線の波長と近い場合には、第2の実施形態に係る複合X線分析装置1を用いることにより、本発明の効果はさらに高まる。なお、ここで、Euの置換量は0.5%としたが、この置換量に限定されることがないのは言うまでもない。特に、他の原子の置換量が10%以下であるときに、X線回折分析によって、他の原子の置換量を決定することが非常に困難となるため、他の原子の置換量が10%以下であるとき、本発明の顕著な効果が得られている。
【0099】
以上、第3及び第4の実施形態において、本発明の顕著な効果が得られる単結晶構造解析について説明したが、これらの単結晶構造解析に限定されることはないのは言うまでもなく、蛍光X線分析の結果を利用すると有利となる単結晶構造解析に、広く本発明を適用することが出来る。
【符号の説明】
【0100】
1 複合X線分析装置、2 X線源、3 光学系、4 試料台、5 回折X線検出器、6 回転駆動系、7 蛍光X線検出器、8 ビームストッパ、9 制御解析部、10 試料冷却部、11 コア部、12 受光部、13 遮蔽体、100 試料、XL1,XL2 蛍光X線。
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折分析とエネルギー分散型蛍光X線分析の両方の分析により単結晶構造解析を行うX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折装置では、試料にX線を照射して、試料より発生する回折X線を測定することにより、試料の回折像を得る。たとえば試料が単結晶の場合は、回折像の測定データを用いて結晶構造の解析が主に行われる。一方、蛍光X線分析装置では、試料にX線を照射して、試料が放射する蛍光X線を測定することにより、試料の元素情報を得る。すなわち、測定される蛍光X線から含有原子を特定し、蛍光X線のピーク強度より含有原子それぞれの含有量を得る。
【0003】
単結晶構造解析において、X線回折装置によって得られる単結晶試料の回折像の測定データに加えて、蛍光X線分析装置によって得られる単結晶試料の元素情報、特に重元素の情報が、結晶構造を3次元的に解析するために必要な位相情報を決定する際に、非常に重要な役割を担っている。
【0004】
最近の開発スピードにあわせるには両者の分析結果を早急に利用し、解析スピードを上げる必要があり、かつ精密な解析結果が求められている。測定スピードと正確性を求めるには、X線回折分析と蛍光X線分析の両方の分析を同一装置により行うことが出来るX線分析装置によって、X線回折分析から得られる回折像の測定データと、蛍光X線分析から得られる元素情報とを、単結晶構造解析用の情報としてスムーズに利用できる環境が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−14566号公報
【特許文献2】特開平9−257726号公報
【特許文献3】特開平5−188019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
X線回折分析と蛍光X線分析の両方を同一装置により行う技術について、従来より提案されている。特許文献1には、回折X線検出器の角度移動に連動して、蛍光X線検出器を移動させる技術が記載されている。特許文献2には、ゴニオメーターのθ回転部に分光結晶を設置し、ゴニオメーターの2θ回転部に、蛍光X線分析用アタッチメントを設置し、X線回折測定のためのX線検出器の角度移動に応じて、分光結晶と蛍光X線分析用アタッチメントを移動させる技術が記載されている。なお、特許文献2に記載の蛍光X線分析は、分光結晶によって分光する波長分散型X線分析(以下、WDXと記す)である。特許文献3には、X線をプローブとして試料のX線回折、蛍光X線分析及び蛍光EXAFSの測定を行うことにより、薄膜及び薄膜表面・界面等の同一箇所を総合的に解析できるX線複合分析装置が記載されている。
【0007】
X線単結晶構造解析を行うためのX線回折測定に使用する単結晶試料は、例えば100μm以下といった小さな試料であり、X線回折測定に使用するX線源からのX線を単結晶試料に照射する場合、単結晶試料が放射する蛍光X線の強度は小さく、高い分解能を有しているWDXによる蛍光X線分析が望ましいと考えられる。
【0008】
一方、X線単結晶構造解析を行うためのX線回折装置には、単結晶試料を複雑な方向転換移動をさせるために、単結晶試料を保持する試料台に回転駆動系が必要であり、単結晶試料の近傍に、蛍光X線測定のためのX線検出器を配置する空間には制限が大きい。
【0009】
よって、特許文献1に記載の技術を適用して、X線単結晶構造解析を行うためのX線回折装置に、特許文献1の図1に記載の蛍光X線検出器及び平行リンク機構を単結晶試料の近傍に配置するのは困難である。また、WDXによる蛍光X線分析が望ましいにもかかわらず、特許文献2に記載の技術を適用して、分光結晶及び蛍光X線分析用アタッチメントを、X線単結晶構造解析を行うためのX線回折装置に配置して、装置の回転駆動系の角度移動に応じて移動させるのは困難である。WDXによる蛍光X線分析には、X線検出器に加えて、分光結晶や測角器などの構造物が必要であり、単結晶試料の近傍に配置することが出来る空間に制限が大きい装置に、それらを設置することはより困難となる。さらに、X線単結晶構造解析を行うためのX線回折装置に、X線回折装置の構造が異なる特許文献3に記載の技術を適用するのも、困難である。
【0010】
それゆえ、X線回折分析、蛍光X線分析、及びEXAFSなどを複数備えるX線分析装置に係る従来技術はあるにもかかわらず、単結晶構造解析を行うために、X線回折分析と蛍光X線分析が同一装置において可能とする装置については提案されていない。
【0011】
X線単結晶構造解析において、結晶構造を3次元的に解析するための位相を決定する際に、元素情報が重要になる。それにもかかわらず、現在、X線単結晶構造解析を行うための、X線回折測定と蛍光X線測定とが、別々の装置で行われており、装置が2台必要であることによるコストの増大という問題を引き起こしている。同じ単結晶試料に対してX線回折測定と蛍光X線測定を別々に行うことによる測定時間が増加してしまう問題も生じている。単結晶試料が不安定な試料である場合は特に、異なる2度の測定を別々の装置で行い、測定時間の増加や単結晶試料の移動などにより、試料が変質してしまって解析をより困難としてしまう。さらに、蛍光X線分析によって得られる元素情報を、単結晶構造解析を行う装置に転送しなければならず、障害となっている。
【0012】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、X線回折分析と蛍光X線分析の両方の分析により単結晶構造解析を行うX線分析装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係る複合X線分析装置は、X線を放射する、X線源と、前記X線源が放射するX線を単結晶試料へ入射させる、光学系と、前記単結晶試料を支持するとともに1又は複数の回転駆動系を備え前記単結晶試料を方向転換する、試料台と、前記単結晶試料より発生する回折X線を検出する、回折X線検出器と、前記回折X線検出器を前記単結晶試料に対して角度移動させる回転駆動系と、前記回折X線検出器が検出する回折X線の測定データを保存する回折X線測定データ保存部と、前記回折X線測定データ保存部が保存する前記回折X線の測定データに基づいて、結晶構造のデータ解析を行う構造解析データ解析部と、前記単結晶試料が放射する蛍光X線を検出する、エネルギー分散型蛍光X線検出器と、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器が検出する蛍光X線の測定データを保存する蛍光X線測定データ保存部と、前記蛍光X線測定データ保存部が保存する前記蛍光X線の測定データに基づいて、蛍光X線分析を行う蛍光X線解析部と、前記蛍光X線解析部が出力する蛍光X線分析データを保存する蛍光X線分析データ保存部と、前記蛍光X線分析データ保存部が保存する前記蛍光X線分析データを取得するとともに前記構造解析データ解析部へ出力する、蛍光X線分析データ取得手段と、を備える複合X線分析装置であって、前記構造解析データ解析部は、前記蛍光X線分析データ取得手段が出力する前記蛍光X線分析データに、さらに基づいて、結晶構造のデータ解析を行う、ことを特徴とする。
【0014】
(2)上記(1)に記載の複合X線分析装置であって、前記単結晶試料に対して前記光学系と反対側に設けられ、前記光学系から前記単結晶試料へ入射するX線のダイレクトビームを遮蔽する、ビームストッパを、さらに備え、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、検出するX線を受光する受光部と、前記ビームストッパと前記受光部との間に配置され、前記ビームストッパにおける前記ダイレクトビームが直接照射される部分が放射する蛍光X線を遮蔽するための、X線遮蔽体と、を備えていてもよい。
【0015】
(3)上記(2)に記載の複合X線分析装置であって、前記X線遮蔽体は、前記受光部の周縁を囲っていてもよい。
【0016】
(4)上記(3)に記載の複合X線分析装置であって、前記X線遮蔽体は、さらに、先端側がテーパー状になっていてもよい。
【0017】
(5)上記(3)に記載の複合X線分析装置であって、前記X線遮蔽体は、内部に中空導光管を備え、ポリキャピラリーとして機能してもよい。
【0018】
(6)上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の複合X線分析装置であって、前記光学系から前記単結晶試料へ入射するX線のダイレクトビームの光軸に対して垂直であって前記単結晶試料を貫く平面に対して、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器の前記受光部が、前記光学系側に配置されてもよい。
【0019】
(7)上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の複合X線分析装置であって、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、前記単結晶試料に対して外方へ退避することが可能な退避機構を、さらに備えてもよい。
【0020】
(8)上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の複合X線分析装置であって、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、前記単結晶試料が放射する蛍光X線を検出することにより、前記試料台が前記単結晶試料を支持する状態を検出してもよい。
【0021】
(9)上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の複合X線分析装置であって、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、シリコンドリフト検出器又はリチウムドリフトシリコン検出器であってもよい。
【0022】
(10)上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の複合X線分析装置であって、前記回折X線検出器が前記単結晶試料より発生する回折X線を検出する期間の一部の期間である第1の期間に、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器が、前記単結晶試料が放射する蛍光X線を検出してもよい。
【0023】
(11)上記(10)に記載の複合X線分析装置であって、前記回折X線検出器が前記単結晶試料より発生する回折X線を検出する期間の一部の期間であり前記第1の期間の後の期間である第2の期間に、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器が前記第1の期間に検出する前記蛍光X線の測定データに基づいて、前記蛍光X線解析部が蛍光X線分析を行ってもよい。
【0024】
(12)上記(1)乃至(11)のいずれかに記載の複合X線分析装置であって、前記単結晶試料を構成する化合物に含まれる所定の原子に複数種類の可能性がある場合に、前記構造解析データ解析部は、前記蛍光X線分析データより、前記所定の原子を決定し、該決定される原子に基づいて、前記単結晶試料の結晶構造を決定してもよい。
【0025】
(13)上記(1)乃至(11)のいずれかに記載の複合X線分析装置であって、前記単結晶試料を構成する化合物に含まれる所定の原子の一部が他の原子に置換されている場合に、前記構造解析データ解析部は、前記蛍光X線分析データより、前記他の原子の置換量を決定し、該置換量に基づいて、前記単結晶試料の結晶構造を決定してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、X線回折分析と蛍光X線分析の両方の分析により単結晶構造解析を行うX線分析装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る複合X線分析装置の構造を示す模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る制御解析部のブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器の先端の形状を表す模式図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器が検出する蛍光X線のスペクトルを表す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の構造を示す模式図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器の先端の形状を表す模式図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器の配置を示す模式図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器が検出する蛍光X線のスペクトルを表す図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器が検出するビームストッパからの蛍光X線のスペクトルを表す図である。
【図10A】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器が検出するビームストッパからの蛍光X線のスペクトルを表す図である。
【図10B】図10Aを縦軸方向に拡大した図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係るX線遮蔽体の役割を示す模式図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器の先端の形状の他の例を表す模式図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器の先端の形状の他の例を表す模式図である。
【図14】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器の先端の形状の他の例を表す模式図である。
【図15】本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置の蛍光X線検出器の先端の形状の他の例を表す模式図である。
【図16】本発明の第3の実施形態に係る単結晶構造解析を行う化合物の分子モデルの構造の例を示す図である。
【図17】本発明の第4の実施形態に係る単結晶構造解析を行う化合物の分子モデルの構造の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下に示す図は、あくまで、当該実施形態の実施例を説明するものであって、図に示す縮尺と実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0029】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る複合X線分析装置1の構造を示す模式図である。当該実施形態に係る複合X線分析装置1は、単結晶である試料100のX線回折分析と蛍光X線分析の両方を行うことが可能である複合X線分析装置であり、単結晶構造の解析を行うことが出来る。複合X線分析装置1は、X線を放射するX線源2と、X線源2が放射するX線を試料100へ入射させる光学系3と、試料100を支持する試料台4と、試料100より発生する回折X線を検出する回折X線検出器5と、回折X線検出器5を試料100に対して角度移動させる回転駆動系6と、エネルギー分散型X線分析(以下、EDXと記す)用の蛍光X線検出器7(エネルギー分散型蛍光X線分析器)と、ビームストッパ8と、X線回折測定と蛍光X線測定を制御するとともに測定データの解析を行う制御解析部9と、を備えている。なお、複合X線分析装置1は、さらに、試料冷却部10(図示せず)を備えており、試料冷却部10は、試料100の上方に配置され、試料冷却部10は、試料100に冷却窒素ガスを噴射し、試料100を所定の温度に維持することが出来る。
【0030】
当該実施形態に係る複合X線分析装置1の特徴は、単結晶構造解析を行うことが可能なX線回折装置と、EDX用の蛍光X線検出器を用いた蛍光X線分析装置とを、同一の装置に備えたことにある。それにより、単結晶構造解析に必要となるX線回折分析と蛍光X線分析の両方の分析を行うことが可能となる複合X線分析装置が実現されている。単結晶構造解析に用いられる単結晶試料の結晶は前述の通り小さく、単結晶試料が放射する蛍光X線が微弱であるため、EDX用の蛍光X線検出器では検出が困難であると考えられるところ、発明者らは実験的にそれが可能であることを発見した。これにより、X線回折分析と蛍光X線分析の両方の分析を同一の装置で行うことが可能となる。
【0031】
以下、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の構成について説明する。X線源2はX線管を備え、陰極から出る熱電子を加熱しターゲットに衝突させてX線を放射する。光学系3はX線源2が放射するX線を試料100へ入射させるために配置される。光学系3は、多層膜集光ミラーとコリメータとを備え、X線源2が放射するX線を多層膜集光ミラーによって集光しコリメータより試料100へ出射している。以下、X線源2と光学系3とを組み合わせたものを、X線発生部とする。X線発生部が直接出射し試料100へ入射する強いX線を、X線のダイレクトビームと呼ぶこととする。なお、X線発生部は、単位面積当たりのX線量が10kW/mm2といった高輝度なX線を出射することが出来る。ここで、X線発生部の構造は、当該構造に限定されることはない。
【0032】
試料台4は、針状のサンプルホルダーと、1又は複数の回転駆動系と、を備えており、針状のサンプルホルダーの先端には単結晶である試料100が装着され、試料100はサンプルホルダーに支持される。X線発生部が出射するX線のダイレクトビームが試料100に入射するよう、サンプルホルダーが配置される。さらに、回転駆動系にサンプルホルダーの他端が固定され、回転駆動系により、試料100を3次元的に方向転換させることが可能となっている。X線回折測定において、試料100が回転駆動系によってどのような方向に回転していても、X線のダイレクトビームの中に試料100が完全に含まれている。
【0033】
回折X線検出器5は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)である。X線のダイレクトビームが試料100に照射され、試料100より回折X線が発生する。回折X線検出器5は、試料100に対してX線発生部と反対側に配置される場合に、X線のダイレクトビームの光軸に対して垂直に配置され、回折X線を2次元の平面で検出することが可能である。回折X線検出器5は、試料100を中心に角度移動をすることが出来る回転駆動系6の上に配置されている。試料台4の回転駆動系と、回転駆動系6により、回折X線検出器5は、試料100の回折像全体を検出することが可能である。なお、回折X線検出器5は、CCDに限定されることはなく、単結晶である試料100の回折像を検出することが出来るX線検出器であればよい。
【0034】
蛍光X線検出器7は、前述の通り、EDX用のX線検出器であり、例えば、SDD(シリコンドリフト検出器:Silicon Drift Detector)である。蛍光X線検出器7は、試料100が放射する蛍光X線を検出することが可能である。蛍光X線検出器7は、後述する通り、受光部12(図示せず)を備えている。受光部12は、蛍光X線検出器7が検出する蛍光X線を受光する部分であり、受光面を有している。受光部12で受光される蛍光X線が、受光部12を介して蛍光X線検出器7の本体部の内部に進入し、電気信号に変換されることにより、蛍光X線検出器7は蛍光X線の検出を行うことが出来る。なお、ここで、蛍光X線検出器7を、SDDとしたが、試料100が放射する蛍光X線を測定することが出来る性能のEDX用のX線検出器であって、配置するのに十分に小型化されたX線検出器であれば、これに限定されることはない。たとえば、Si(Li)型検出器(リチウムドリフトシリコン検出器)は、試料100が放射する蛍光X線を測定することが出来、本発明に適用することが可能である。
【0035】
ビームストッパ8は、X線のダイレクトビームの光軸上であって、試料100に対してX線発生部(光学系3)の反対側に設けられる。ビームストッパ8は、X線発生部が出射し試料100へ入射するX線のダイレクトビームを遮蔽している。それにより、ビームストッパ8は、X線のダイレクトビームが回折X線検出器5に到達するのを抑制し、回折X線検出器5がダメージを受けてしまうことなどを抑制している。ビームストッパ8を支持するアームにビームストッパ8が装着され、アームがX線発生部に固定されている。これにより、試料台4の回転駆動系が試料100をどの方向に傾斜させていても、回転駆動系6が回折X線検出器5をどの位置に移動させていても、X線のダイレクトビームの光軸上で、X線のダイレクトビームの出射方向において、ビームストッパ8より先方に、X線のダイレクトビームが進行することをビームストッパ8が抑制する。
【0036】
制御解析部9は、X線回折測定及び蛍光X線測定の制御を行うとともに、得られた測定データの解析を行う。制御方法により、X線回折測定のみを行うことも、蛍光X線測定のみを行うことも、同時に、X線回折測定と蛍光X線測定を行うことも可能である。X線回折測定では、試料台4の回転駆動系及び回折X線検出器5が配置されている回転駆動系6の駆動制御を行い、さらに回折X線検出器5の検出制御を行い、回折X線検出器5が検出する回折像に係る情報を複数収集し、それにより回折像全体の測定データを取得する。蛍光X線測定では、蛍光X線検出器7の検出制御を行うことで蛍光X線の測定データを取得する。
【0037】
図2は、当該実施形態に係る制御解析部9のブロック図である。制御解析部9の中で、データの保存と解析を行う手段について主に示している。制御解析部9は、回折X線測定データ保存部21と、構造解析データ解析部22と、蛍光X線測定データ保存部23と、蛍光X線解析部24と、蛍光X線分析データ保存部25と、蛍光X線分析データ取得手段26と、を備えている。
【0038】
回折X線測定データ保存部21は、回折X線検出器5が検出する回折X線を、回折X線の測定データとして、保存している。ここで、試料100の回折X線の測定データとは、例えば、試料100の回折像の回折位置と強度であり。ここで、回折位置が、逆格子空間の指数(hkl)に対応している。構造解析データ解析部22は、回折X線測定データ保存部21に保存されている回折X線の測定データを取得する手段を有しており、回折X線の測定データなどに基づいて、試料100の単結晶構造のデータ解析を行う。蛍光X線測定データ保存部23は、蛍光X線検出器7が検出する試料100が放射する蛍光X線の測定データを保存する。蛍光X線の測定データとは、例えば、分解能に応じて複数のエネルギー値と、該エネルギー値における蛍光X線の強度である。蛍光X線の測定データより、蛍光X線のスペクトルを表示することが出来る。蛍光X線解析部24は、蛍光X線測定データ保存部23に保存されている蛍光X線の測定データを取得する手段を有しており、蛍光X線の測定データに基づいて、蛍光X線分析を行う。蛍光X線解析部24は、試料100の蛍光X線のスペクトルのピークエネルギーとピーク強度などから、試料100に含有される元素とその元素の含有量などの元素情報を解析する。さらに、蛍光X線解析部24は試料100の元素情報を、蛍光X線分析データとして、蛍光X線分析データ保存部25へ出力する。蛍光X線分析データ保存部25は、蛍光X線解析部24が出力する蛍光X線分析データを保存する。蛍光X線分析データ取得手段26は、蛍光X線分析データ保存部25に保存されている蛍光X線分析データを取得し、構造解析データ解析部22に、蛍光X線分析データを出力する。構造解析データ解析部22は、蛍光X線分析データから得られる試料100の元素情報に基づいて、例えば、重原子多重同型置換法などにより、位相情報を特定し、回折像の測定データとあわせて、試料100の単結晶における電子密度をデータ解析により取得する。また、さらに、取得した電子密度と試料100の元素情報に基づいて、試料100の単結晶の構造が特定される。なお、制御解析部9は、同一のコンピュータの中に配置されることも、複数のコンピュータの中に分散して配置されることもありえる。
【0039】
なお、制御解析部9は、試料冷却部10の制御も行う。制御解析部9は、試料100近傍に設けられる温度センサーからの温度情報に基づいて、噴射する冷却窒素ガスの温度を調節することにより、試料100を一定の温度に維持する。
【0040】
図3は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の先端の形状を表す模式図である。蛍光X線検出器7の外径は20mmであり、その先端に受光部12を有している。ここで、蛍光X線検出器7がSDDである場合、受光部12は、複数のリング形状の電極が設けられる円形状の平面である。試料100の蛍光X線測定を行う場合、試料100が放射する蛍光X線を検出する感度が最大となるように、蛍光X線検出器7が複合X線分析装置1に配置されている。受光部12で受光される蛍光X線の受光感度を最大にする蛍光X線の入射方向を、蛍光X線検出器7の光軸と定義すると、蛍光X線検出器7の光軸が、試料100の中心部を貫いているのが望ましい。なお、受光部12が受光できる蛍光X線の量をより多くするために、受光部12の中心より光軸が受光部12の受光面に垂直に延伸しているのが一般的であるが、必ずしもこれに限定されない。さらに、試料100が放射する蛍光X線を検出する感度をより高くするよう、受光部12が試料100により近接するよう、蛍光X線検出器7が配置されるのが望ましい。
【0041】
図4は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7が検出する蛍光X線のスペクトルを表す図である。図の横軸は、蛍光X線のエネルギーを表しており、単位は(keV)であり、図の縦軸は、X線強度(Intensity)を表しており、単位は検出カウント数であり、(a.u.)となっている。ここでは、試料100がC129H149Cu4N11O39の単結晶であり、結晶サイズは、0.1mm×0.08mm×0.06mmである。蛍光X線検出器7の受光部12と試料100との距離を1cmとし、積算時間を100秒間として試料100が放射する蛍光X線を測定した結果が、図4に示されている。
【0042】
試料100に含まれるCuの含有量は9.3%と、結晶サイズが100μm程度であり、Cuの含有量10%以下の単結晶が放射する蛍光X線のスペクトルより、Cuの特性X線が観測されている。また、X線回折測定を行っている期間に、同時に蛍光X線測定を行ったところ、X線源2のX線シャッタと蛍光X線検出器7が同期していないため、20%程度シグナルは弱まるものの、X線回折測定と蛍光X線測定とを同時に行うことが可能であることを示されている。蛍光X線検出器7をX線源2のX線シャッタと同期すれば、より良好な蛍光X線のスペクトルが得られるのは、言うまでもない。また、受光部12と試料100との距離を2cmとした場合であっても、蛍光X線分析を行うのに十分なCuの特性X線が観測されている。
【0043】
単結晶構造解析を行う際に、従来において別々の装置で行われていたX線回折分析と蛍光X線分析を、本発明に係る複合X線分析装置が行うことが出来ている。それによって、従来において生じていたコストの増大が抑制される。試料を装置から装置へ移動させる手間が省略されるだけでなく、X線回折測定と蛍光X線測定とを同時に行うことが出来、測定時間の低減が実現している。また、2つの測定を同じ環境下で行うことが出来るので、測定データにより正確性が向上され、解析性能を向上させることが出来る。とくに、経時変化が大きい安定性の悪い試料を測定する場合に、当該効果は顕著に表れる。
【0044】
X線回折測定に要する時間は、蛍光X線測定に要する時間より、一般的に長い。よって、X線回折測定を行っている期間に、蛍光X線測定を同時に行うことにより、測定時間の低減が実現される。すなわち、回折X線検出器5が試料100より発生する回折X線を検出する期間の一部の期間である第1の期間に、蛍光X線検出器7が、試料100が放射する蛍光X線を検出することにより、測定時間の低減が実現する。
【0045】
蛍光X線測定を行った後に、さらに、X線回折測定と並行して、蛍光X線測定データ保存部23に保存されている当該蛍光X線の測定データに基づいて、蛍光X線解析部24が元素情報の解析を行い、蛍光X線分析データ保存部25が蛍光X線分析データを保存し、蛍光X線分析データ取得手段26が蛍光X線分析データを取得し、構造解析データ解析部22へ出力することが出来る。これにより、測定時間のみならず、単結晶構造解析に必要な時間の大幅な短縮が実現される。回折X線検出器5が試料100より発生する回折X線を検出する期間の一部の期間であり第1の期間の後の期間である第2の期間に、蛍光X線検出器7が第1の期間に検出する蛍光X線の測定データに基づいて、蛍光X線解析部24が蛍光X線分析を行うことにより、単結晶構造解析に必要な時間の大幅な短縮が実現される。
【0046】
また、本発明に係る複合X線分析装置には、蛍光X線分析データ取得手段を有しており、蛍光X線分析で得られた試料の元素情報を、早急にかつ簡便に、単結晶構造解析に利用することが出来ており、解析性能をさらに向上させることが出来る。
【0047】
蛍光X線分析によって、対象となる試料の元素情報(化学組成の情報)が得られるが、試料の結晶状態の情報を得ることが出来ない。X線回折分析によって、試料の結晶状態が良好か否かの情報を得ることは出来るが、試料の化学組成がどうなっているのかの情報は不十分である。それゆえ、従来において、X線回折測定と蛍光X線測定が別々に行われていたことによって、測定に適した結晶状態及び組成の試料の選択に時間を要してしまう上に、経時変化が大きい試料では、その信頼性も低減してしまう。これに対して、本発明に係る複合X線分析装置を用いることにより、対象となる試料の結晶状態の情報をX線回折分析によって得るとともに、試料の化学組成の情報を蛍光X線分析によって得ることにより、測定時間の低減、コストの低減、及び信頼性の向上が実現されている。
【0048】
単結晶構造解析において、蛍光X線解析で決定した経験的な化学組成に基づいて、X線解析測定の測定結果を解析することが出来るので、単結晶の構造決定がより短時間で(より容易に)より正確に行うことができる。たとえば、単結晶構造解析において、初期位相を決定する際の困難性の一つに、単結晶成長時に用いた溶媒が、対象となる単結晶試料に残存しているか否かが不明であることが挙げられる。規格化構造因子のより正確な計算には、試料のより正確な化学組成が求められるからである。蛍光X線分析により、重元素と軽元素の組成比を得ることが出来、その組成比より、試料の中に溶媒の存在が予見される場合には、単結晶の構造決定をする際に、単結晶成長の際に用いた溶媒分子をあらかじめ化学組成に追加することにより、単結晶構造解析の初期段階での位相決定の成功率を改善することが出来るという格別な効果が得られる。
【0049】
新規構造の蛋白質の構造解析を行う上で、重原子置換結晶を用いた重元子動径置換法は、位相決定に有効な方法である。しかしながら、重原子置換結晶の探索には、多数の重原子を用いたソーキング、X線回折測定、及び重原子の結合の有無を調べる作業などが必要であり、多大な手間と時間を必要とする。本発明に係る複合X線分析装置を用いることにより、これら手間と時間が大幅に短縮され、重原子置換体結晶の探索に非常に有効である。
【0050】
例えば、ニワトリ卵白リゾチーム結晶に重原子試薬としてテトラクロロ白金酸カリウム(K2PtCl4)をソーキングしたPt置換体結晶について、本発明に係る複合X線分析装置によってX線回折測定及び蛍光X線測定を行ったところ、わずか数分でPtの存在を確認することができた。実際に、K2PtCl4濃度及びソーキング時間の異なる組み合わせの場合について実験を行ったが、例えば、以下の4つのケース(ケースA〜D)について説明する。K2PtCl4濃度及びソーキング時間が、それぞれ、ケースAは2mM及び130分、ケースBは2mM及び63時間、ケースCは4mM及び450分、ケースDは10mM及び10分である。これらの条件で、Pt置換体結晶を形成して測定及び解析を行ったところ、ケースDの場合にPtのスペクトルのピークが最も高くなっており、位相決定に適した重原子置換体結晶が形成されていた。このように、本発明に係る複合X線分析装置を用いることにより、重原子誘導体作成にかかる時間を大幅に短縮することができる。
【0051】
また、蛍光X線検出器7を固定して、試料100が放射する蛍光X線を検出し、測定されるX線強度を比較することにより、試料100を支持する試料台4のサンプルホルダーの位置をアライメントすることが出来る。逆に、試料台4のサンプルホルダーに試料100を固定して、蛍光X線検出器7が蛍光X線を検出することにより、試料100に対する蛍光X線検出器7の位置をアライメントすることも出来る。
【0052】
さらに、例えば、X線回折測定を行っている期間において、定期的に試料100が放射する蛍光X線を測定し、測定される蛍光X線のスペクトルに変化が生じていないかを調べることにより、試料100が試料台4の回転駆動系によって方向転換している間に、試料100がサンプルホルダーより落下したり、サンプルホルダーに対して位置ずれを起こしてしまっていないか、試料100の位置をモニターすることが出来る。蛍光X線測定データ保存部23に保存される蛍光X線の測定データ、又は、蛍光X線分析データ保存部25に保存される蛍光X線分析データのいずれかを、各測定に対する蛍光X線分析の結果として比較すればよい。すなわち、蛍光X線検出器7は、試料が放射する蛍光X線を検出することにより、試料台4が試料100を支持する状態を検出するためにも用いることが出来る。
【0053】
対称性の観点から、回折X線検出器5は、X線回折測定の際、X線発生部が出射するX線の光軸の一方側(例えば、図1に示す上側・反時計まわり側)のみ、試料100を中心に角度移動を行えば、試料100の回折像全体を取得することが出来る。それゆえ、試料台4が十分に小さいのであれば、蛍光X線検出器7は、X線発生部が出射するX線の光軸の他方側(図1に示す下側・時計まわり側)に配置すればよい。しかし、実際には、試料台4は回転駆動系を備えていることにより、蛍光X線検出器7を他方側に配置することは困難である場合が多い。それゆえ、試料台4に必要な空間を考慮して、蛍光X線検出器7は、図1に示す通り、一方側に配置されることとなる。
【0054】
X線源2に用いるターゲット金属がMoである場合は、出射するX線の波長が短く、X線回折測定に必要な回折X線検出器5の可動空間は小さくて済む。すなわち、図1に示すX線発生部が出射するX線の光軸に対して反時計回りに回転すべき角度は小さく、蛍光X線検出器7を配置する空間には余裕がある。
【0055】
しかし、X線源2に用いるターゲット金属がCuやCrなどである場合、出射X線の波長はMoの場合よりも長く、X線回折測定に必要な回折X線検出器5の可動空間はより大きくなり、蛍光X線検出器7を配置する空間にも制限がよりかかる。この場合、蛍光X線検出器7を配置する空間が回折X線検出器5の可動空間と重なることもあり得る。このような場合に対応するために、蛍光X線検出器7は退避機構を備えているのが望ましい。ここで、退避機構とは、例えばXYZステージであり、制御解析部9が退避機構を制御することにより、蛍光X線検出器7の本体部が移動する。X線回折測定を行う際、回折X線検出器5が蛍光X線測定のために蛍光X線検出器7の本体部を配置する空間と離れているときに、例えば、図1に示す位置にあるときに、蛍光X線検出器7を図1に示す位置に配置して、蛍光X線測定を行うとよい。そして、回折X線検出器5が、図1に示す蛍光X線検出器7の位置に近づく前に、退避機構により、蛍光X線検出器7の本体部を回折X線検出器5の可動空間の外方へ、すなわち、試料に対して外方へ退避させるとよい。
【0056】
なお、当該実施形態に係る複合X線分析装置1は、試料冷却部10(図示せず)を備えており、例えば、試料100が蛋白質の単結晶である場合のように、X線回折測定の測定期間が長く、単結晶を同じ温度条件に維持する必要な場合であっても、X線回折測定を行うことが出来る。前述の通り、試料冷却部10は、試料100の上方に配置されるので、蛍光X線検出器7を配置する空間に制限がよりかかっており、本発明の効果はさらに高まっている。また、単結晶を同じ温度条件に維持する必要がある場合に、同一の装置において、X線回折測定と蛍光X線測定を同じ環境下で行うことが出来ており、本発明の効果はさらに高まっている。
【0057】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る複合X線分析装置1は、第1の実施形態に係る複合X線分析装置1と基本的な構成は同じである。当該実施形態に係る複合X線分析装置1は、蛍光X線検出器7の形状において、第1の実施形態に係る複合X線分析装置1と主に異なる。
【0058】
図5は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の構造を示す模式図である。図に示す通り、蛍光X線検出器7の先端形状が、図1に示す蛍光X線検出器7と異なっている。蛍光X線検出器7は、後述する通り、X線遮蔽体13(図示せず)を備えており、試料100が放射する蛍光X線を検出する位置に蛍光X線検出器7の受光部12がある場合に、X線遮蔽体13は、ビームストッパ8におけるダイレクトビームが直接照射される部分が放射する蛍光X線を遮蔽している。
【0059】
図6は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の先端の形状を表す模式図である。蛍光X線検出器7は、図6に示す通り、X線遮蔽体13をさらに備えている。X線遮蔽体13の形状は、蛍光X線検出器7の本体側が中空円柱をしており、先端側が中空の円錐台形状であり、先端には円形の開口部がある。すなわち、X線遮蔽体13は、中空円柱形状により、蛍光X線検出器7の受光部12の周縁を囲っている。また、X線遮蔽体13の先端側がテーパー状になっており、先端に近づくにつれて、断面の半径が徐々に小さくなっていく構造となっている。X線遮蔽体13は、ビームストッパ8からの蛍光X線を遮蔽する材質であれば何でもよく、ここでは、ステンレススチールからなるとしているが、一般的な金属であってもよい。また、必要に応じて鉛が含まれていてもよい。
【0060】
図7は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の配置を示す模式図である。蛍光X線検出器7の本体部の外径は20mmであり、X線遮蔽体13の中空円柱部分の外径は12mmであり、受光部12からX線遮蔽体13の先端までの距離は20mmである。X線遮蔽体13の先端から試料100までの距離L1は2mmである。
【0061】
光学系3のコリメータから試料100に入射するX線の光軸上に、順に、試料100と、ビームストッパ8が配置されている。コリメータの外径は13mmである。図7に示す通り、ビームストッパ8に、X線のダイレクトビームが照射される位置に鉛によって形成されているコア部11が備えられており、コア部11をホルダーが支持している。すなわち、コア部11は、ビームストッパ8におけるX線のダイレクトビームが直接照射される部分である。試料100に入射するするX線のダイレクトビームをコア部11にある鉛が吸収することにより、ビームストッパ8のコア部11はX線のダイレクトビームを遮蔽している。試料100とビームストッパ8のコア部11の距離L2は、11mmである。なお、ここでは、ビームストッパ8は、鉛によって形成されているコア部11を備えるとしたが、ビームストッパ8はこれに限定されることはなく、たとえば、鉛合金によって形成される一体型であってもよい。この場合であっても、本発明に係るX線遮蔽体13は、一体型のビームストッパにおけるX線のダイレクトビームが直接照射される部分が放射する蛍光X線を遮蔽する。
【0062】
図7に示す蛍光X線検出器7は、試料100が放射する蛍光X線を検出するのに、適した位置に配置されている。X線のダイレクトビームが試料100に照射する領域の中心部を、蛍光X線検出器7の光軸が貫いているのが望ましい。蛍光X線検出器7の光軸は、受光部12の中心から受光部12の平面に対して垂直に延伸しているので、試料100が受光部12へ放射する蛍光X線XL1の中心は、受光部12の中心に到達する。図には、試料100が受光部12へ放射する蛍光X線XL1の中心が波線で示されている。
【0063】
これに対して、X線遮蔽体13の一部は、受光部12とビームストッパ8との間に配置されており、X線遮蔽体13は、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線を遮蔽している。とくに、X線遮蔽体13は、コア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2を遮蔽している。図には、コア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2の中心が波線で示されている。もしもX線遮蔽体13が存在していなければ、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線が受光部12に到達するところ、X線遮蔽体13が存在していることにより、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線が、とくにコア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2が、X線遮蔽体13により遮蔽されている。
【0064】
一般に、X線のダイレクトビームが回折X線検出器に到達し回折X線検出器がダメージを受けてしまうことを抑制するために、またX線のダイレクトビームが装置の構造物に当たり発生する散乱X線によるノイズを軽減させるために、あるいは作業者への安全対策のためなどに、X線分析装置にはビームストッパが配置される。ビームストッパがX線のダイレクトビームを遮蔽する部分は、鉛などの重金属によって形成されており、X線のダイレクトビームを試料に照射する際、ビームストッパに到達するX線のダイレクトビームによってビームストッパの当該部分を形成している鉛などの重金属より蛍光X線が放射される。ここでは、ビームストッパの当該部分を形成する代表的な材料として、鉛を例に説明する。
【0065】
蛍光X線検出器、例えば、EDX用のX線検出器は、試料が放射する蛍光X線を測定する際に、近傍に位置するビームストッパの鉛が放射する蛍光X線も同時に測定することとなる。ビームストッパの鉛の蛍光X線は、試料の蛍光X線分析にとって妨害となる情報である。ビームストッパの鉛が放射する蛍光X線が測定されることにより、測定される蛍光X線に含まれる鉛のスペクトルが、試料に鉛が含まれていることに起因するのか、ビームストッパの鉛に起因するのか判断が困難となる。さらに、試料中に鉛がある場合には、その鉛の定量分析をする際に強度が不正確に測定されてしまうので、蛍光X線分析を困難にする。また、白金のように、鉛の特性X線の波長に近い波長の特性X線を有する元素もあり、後述する図8の例のように、試料中に白金が含まれる場合には、測定される蛍光X線のスペクトルに、白金のスペクトルと鉛のスペクトルが一部重なってしまい、蛍光X線分析を困難とする。
【0066】
ビームストッパが放射する蛍光X線の検出を抑制するためには、蛍光X線検出器を、出来る限りビームストッパに並ぶように配置すればよい。しかし、ビームストッパの近傍には、回折X線検出器が配置され、広い回折角度範囲の回折像を捕らえるために回折X線検出器が試料に対して角度移動を行うので、ビームストッパの近傍に配置された蛍光X線検出器は、X線回折測定にとって障害物となる。また、試料の環境を変化させる装置を付加する場合は蛍光X線検出器をビームストッパ近傍に配置することはより困難となる。
【0067】
X線回折測定に必要な回折X線検出器の可動空間を考慮すると、蛍光X線検出器をX線発生部の近傍に配置すればよいが、蛍光X線検出器から望む試料の方向と蛍光X線検出器から望むビームストッパの方向がなす角度は小さくなり、ビームストッパが放射する蛍光X線の検出を抑制することが困難となる。
【0068】
当該実施形態に係る蛍光X線検出器7は、かかる問題を解決するために、X線遮蔽体13を備えている。当該実施形態に係る蛍光X線検出器7により、X線回折分析と蛍光X線分析とを行う複合X線分析装置において、ビームストッパが放射する蛍光X線の影響を抑制しつつ、試料が放射する蛍光X線を検出することができる。以下、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の効果について説明する。
【0069】
図8は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7が検出する蛍光X線のスペクトルを表す図である。図の横軸及び縦軸は、図4と同様であるが、横軸及び縦軸のスケールは図4と異なっている。ここでは、試料100は前述のK2PtCl4の単結晶であり、図7に示す位置に蛍光X線検出器7が配置される場合に、積算時間を25秒間として試料100の蛍光X線を測定した結果が、図8に示されている。
【0070】
図8には、Pt(白金)のLα線のエネルギー値とPtのLβ線のエネルギー値のそれぞれに、X線強度5000を超える大きなピークが観測されており、試料100に含まれるPtの蛍光X線が検出されている。これに対して、図に破線で示されるPb(鉛)のLα線のエネルギー値とPbのLβ線のエネルギー値には、背景のX線強度よりも大きいピークは観測されていない。
【0071】
図9は、第1の実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7が検出するビームストッパ8からの蛍光X線のスペクトルを表す図である。図の横軸及び縦軸は、図8と同様であるが、縦軸のスケールは図8と異なっている。第1の実施形態に係る蛍光X線検出器7は、当該実施形態に係る蛍光X線検出器7と異なり、X線遮蔽体13を有していない。また、ビームストッパ8が放射する蛍光X線の強度を測定するために、ここでは、試料100を試料台4に装着していない。積算時間を300秒間として蛍光X線を測定した結果が、図9に示されている。ここでは、試料100を試料台4に装着していないので、蛍光X線のスペクトルは、ビームストッパ8のコア部11の鉛が放射する蛍光X線を主に検出したものだと考えられる。
【0072】
図9には、PbのLα線のエネルギー値とPbのLβ線のエネルギー値のそれぞれにX線強度500を超えるピークが観測されており、ビームストッパ8の鉛が放射する蛍光X線が検出されている。第1の実施形態に係る複合X線分析装置1が試料100の蛍光X線測定を行う際に、図9に示すPbの特性X線のピークが同時に観測されるのに対して、図8に示す通り、当該実施形態に係る複合X線分析装置1では、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線が、X線遮蔽体13によって十分に遮蔽されていると考えられる。
【0073】
図10Aは、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7が検出するビームストッパ8からの蛍光X線のスペクトルを表す図である。図の横軸及び縦軸は、図8と同様であるが、縦軸のスケールは図8と異なっている。図10Aに示す蛍光X線のスペクトルは、図9に示す蛍光X線の測定と同様の測定によって得られる。すなわち、試料100を試料台4に装着せず、ビームストッパ8が放射する蛍光X線を積算時間を300秒間として測定した結果が、図10Aに示されている。図10Aには、図9に示す蛍光X線のスペクトルでは観測された、PbのLα線のエネルギー値やLβ線のエネルギー値に、目立ったピークは観測されていない。
【0074】
図10Bは、図10Aを縦軸方向に拡大した図である。すなわち、図10Bの横軸のスケールは図10Aと同じであるが、図10Bの縦軸のスケールは、図10Aよりさらに小さい。図10Bが示す通り、PbのLα線のエネルギー値に現れるX線強度は6程度で、X線遮蔽体13によって、ビームストッパ8のコア部11が放射する蛍光X線の検出が1/100程度に軽減されている。
【0075】
前述の通り、Pt(白金)などの重原子は、重原子多重同型置換法などにおいて、よく用いられる。Ptの特性X線の波長は、前述の通り、Pb(鉛)などの重原子と特性X線の波長と近いものがあり、試料100自体にPtが含まれる場合や、重原子多重同型置換法によりPtを含む溶液に単結晶試料を漬ける(ソーキング)ことにより形成される重原子置換結晶(重原子誘導体)について、蛍光X線分析を行う場合など、ビームストッパが放射する蛍光X線により、蛍光X線分析を困難にするところ、当該実施形態に係る複合X線分析装置1では、ビームストッパ8が放射する蛍光X線の検出を抑制することが出来ており、本発明の効果は顕著に高まっている。
【0076】
図11は、当該実施形態に係るX線遮蔽体13の役割を示す模式図である。X線遮蔽体13は、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線を遮蔽している。
【0077】
受光部12で受光される蛍光X線は、受光部12を介して蛍光X線検出器7の内部に進入し、電気信号に変換される。試料100の全領域に、X線発生部が出射するX線のダイレクトビームが照射されているとすると、X線が照射される試料100より、全方位に向けて、蛍光X線が放射される。試料100が放射する蛍光X線のうち、試料100が受光部12へ放射する蛍光X線XL1が、図11に示されている。図に示す試料100が受光部12へ放射する蛍光X線XL1は、試料100と受光部12を結んで作られる空間、すなわち、試料100の内部(及び表面)の任意の点と、受光部12の任意の点とを結んで作られる空間に存在している。同様に、ビームストッパ8にもX線発生部が出射するX線のダイレクトビームが照射され、ビームストッパ8より、全方位に向けて、蛍光X線が放射される。とくに、コア部11はビームストッパ8におけるX線のダイレクトビームが直接照射される部分であり、コア部11より、強度の強い蛍光X線が放射される。ビームストッパ8が放射する蛍光X線のうち、コア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2が、図11に示されている。図に示すコア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2は、同様に、コア部11の内部(及び表面)の任意の点と、受光部12の任意の点とを結んで作られる空間に存在している。
【0078】
X線遮蔽体13は、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線の、少なくとも一部を遮蔽することにより、ビームストッパ8が放射する蛍光X線が蛍光X線検出器7に検出されることを抑制する。コア部11が放射する受光部12への蛍光X線XL2のすべてをX線遮蔽体13が遮蔽していると、さらに望ましい。ビームストッパ8が放射する蛍光X線を、蛍光X線検出器7が検出することがさらに抑制される。この場合、X線遮蔽体13は、コア部11と受光部12とを結んで作る空間を分断しており、図11に示すコア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2のすべてを遮蔽することとなる。また、X線遮蔽体13が、ビームストッパ8と受光部12とを結んで作る空間を分断していると、さらに望ましい。
【0079】
図12は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の先端の形状の他の例を表す模式図である。図6とは異なり、X線遮蔽体13は受光部12の周縁の一部しか囲っていないが、一部しか囲っていない構造であっても、X線遮蔽体13を受光部12とビームストッパ8との間に配置することにより、図11に示す通り、ビームストッパが受光部12へ放射する蛍光X線を、とくにコア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2を、すべて遮蔽する構造となっている。
【0080】
図13は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の先端の形状の他の例を表す模式図である。図6と同様に、また、図12とは異なり、X線遮蔽体13は、受光部12の周縁をすべて囲っている構造であり、中空円柱形状をしている。受光部12の周縁をすべて囲っていることにより、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線のみならず、他方向から受光部12で受光されるX線をも、X線遮蔽体13は遮蔽することが出来るとともに、蛍光X線検出器7の配置をより簡易に調整することが出来る。
【0081】
図14は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の先端の形状の他の例を表す模式図である。X線遮蔽体13は、円錐台の形状をしていることにより、受光部12の周縁をすべて囲っている構造であるとともに、X線遮蔽体13は、テーパー状になっている。
【0082】
図6及び図14に示すX線遮蔽体13の先端には開口部があり、開口部の形状、とくに、開口半径の大小によって、試料100が受光部12へ放射する蛍光X線XL1のうち、受光部12へ到達するX線量を制御することが出来る。開口部の開口半径を大きくすることにより、蛍光X線XL1のうちより多くのX線量のX線が受光部12に到達することが出来るが、開口部の開口半径が大きくなるのに伴い、他方向からのX線がより多く受光部12へ到達することになってしまう。反対に、開口部の開口半径を小さくすることにより、蛍光X線XL1のうち受光部12へ到達するX線量をより制限することになるが、他方向からのX線が受光部12へ到達することをより抑制することが出来る。開口半径を含め、開口部の形状は、試料100が放射する蛍光X線の強度や、他方向からの蛍光X線の強度などを考慮して、適切なものが選択されるのが望ましい。
【0083】
第1の実施形態で説明した通り、当該実施形態に係る複合X線分析装置1において、蛍光X線検出器7が試料100が放射する蛍光X線を検出することにより、試料台4の位置や蛍光X線検出器7の位置をアライメントすることが出来る。図6や図14に示す先端がテーパー形状となっているX線遮蔽体13を用いることにより、蛍光X線検出器7が検出する蛍光X線の指向性は高まるので、より正確にアライメントを行うことが出来る。小さい開口半径のX線遮蔽体13を用いることにより、さらに高精度のアライメントをすることが出来る。
【0084】
さらに、第1の実施形態で説明した通り、当該実施形態に係る複合X線分析装置1において、蛍光X線検出器7が試料100が放射する蛍光X線を検出することにより、試料100の位置をモニターすることが出来る。図6や図14に示す先端がテーパー形状となっているX線遮蔽体13を用いることにより、蛍光X線検出器7が検出する蛍光X線の指向性は高まるので、より正確に試料100の位置をモニターすることが出来る。
【0085】
図15は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の先端の形状の他の例を表す模式図である。図6及び図14とは異なり、図15に示すX線遮蔽体13は、先端が逆テーパー状となっている。X線遮蔽体13の内部には、複数の中空導光管(capillaly)が設けられている。中空導光管は、管の延伸方向から進入するX線を通す性質を有しており、X線遮蔽体13は、蛍光X線を遮蔽する機能に加えて、開口部の内側を通過したX線を受光部12へ導光するポリキャピラリとしても機能している。これにより、図15に示すX線遮蔽体13を用いることにより、ビームストッパ8が放射する蛍光X線が検出されるのを抑制しつつ、試料100が放射する蛍光X線をより多く検出することが可能となり、検出感度が向上する。
【0086】
以上、X線遮蔽体13の形状について説明した。試料100が放射する蛍光X線の強度や、所望する検出精度などに応じて、最適な形状のX線遮蔽体13を用いるとよい。
【0087】
本発明により、複合X線分析装置1において、X線回折測定と、蛍光X線測定とを、同時に行うことが可能となる。前述の通り、回折X線検出器5は、X線回折測定の際に、回転駆動系6によって試料100を中心に角度移動をする。それゆえ、X線回折測定の障害とならないように、蛍光X線検出器7は、試料100に対して、X線発生部側に配置されるのが望ましい。ここで、X線発生部が出射するX線の光軸に対して垂直な平面であって、試料100のいずれかを貫く平面を考えると、蛍光X線検出器7の受光部12が、当該平面のX線発生部側に配置されていればよい。たとえば、図7に示す通り、蛍光X線検出器7の受光部12が、試料台4が支持する試料100より、左側に配置されていればよい。また、試料100を中心に回折X線の方向を考えると、X線発生部への方向(X線のダイレクトビームの出射方向)に近づくにつれて、試料100を通過した回折X線の強度は低下していく。それゆえ、蛍光X線検出器7が出来る限りX線発生部の光学系3に並ぶように配置されるとなおよい。第1の実施形態に係る複合X線分析装置1についても同様である。
【0088】
試料100が放射する蛍光X線の検出感度を向上させるために、蛍光X線検出器7の受光部12は出来る限り試料100に近づけるのが望ましい。しかし、蛍光X線検出器7の本体部の断面の大きさにより、他の機器との関係で、蛍光X線検出器7が試料100に近づけることが出来る距離にも限界がある。例えば、図7に示す蛍光X線検出器7の本体部の断面は円形状であり、外径は20mmとなっている。しかし、蛍光X線検出器7の本体部の断面が大きく、蛍光X線検出器7の受光部12を試料100に近づけることが出来る限界の位置にあっても、第2の実施形態に係る蛍光X線検出器7はX線遮蔽体13を有し、X線遮蔽体13の先端を試料100により近付けることが出来、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線を遮蔽することが出来ている。この場合、X線遮蔽体13の断面が蛍光X線検出器7の本体部の断面の外縁より内側になるのが望ましい。例えば、図6及び図7に示すX線遮蔽体13の中空円柱部分の外径は12mmとなっている。さらに、図7に示す通り、X線遮蔽体13の先端をテーパー状とすることにより、X線遮蔽体13の先端から試料100までの距離L1を2mmと、X線遮蔽体13は、他の機器、例えば、X線発生部の光学系3の障害となるのを避けつつ、試料100のより近くにまで先端が延伸する形状となっている。また、図12に示すX線遮蔽体13は、受光部12の周縁の一部しか囲っていない構造であり、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線とは反対側まで広がっておらず、他の機器、例えば、X線発生部の光学系3の障害となるのが抑制される。
【0089】
以上、本発明の第1及び第2に係る複合X線分析装置について説明した。本発明に係る複合X線装置は、単結晶構造解析を行うX線分析装置としたが、第2の実施形態に係る蛍光X線検出器7のX線遮蔽体13に係る技術は、当該複合X線分析装置に限定されることなく、回折X線検出器と蛍光X線検出器とビームストッパとを備える、複合X線分析装置であれば、他の構造であっても適用することが出来る。例えば、微細結晶からなる粉末状試料のX線回折分析と蛍光X線分析を行うことが出来る透過型の複合X線分析装置であってもよい。さらに、ビームストッパ以外であっても、X線遮蔽体がX線源からのX線に起因する蛍光X線を遮蔽する場合にも、係る技術は適用される。
【0090】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態では、試料を構成する化合物に含まれる所定の原子に複数種類の可能性がある場合の単結晶構造解析に、本発明を適用している。当該実施形態に係る複合X線分析装置1の構造は、第1又は第2の実施形態に係る複合X線分析装置1と同じである。試料を構成する化合物に含まれる所定の原子に複数種類の可能性がある場合、本発明の効果はさらに高まることとなる。
【0091】
例えば、試料を構成する化合物が金属錯体化合物である場合、金属錯体化合物の中心金属が複数種類の金属のいずれかである可能性が残ることがあり得る。これらの金属錯体化合物の結晶構造は共通点がかなり多く、所定の精度のX線回折分析からは、中心金属の原子種の特定が困難となってしまう。X線は電子によって散乱されており、可能性がある複数の金属原子の電子数の相対的な差が小さい場合には、原子種の特定がより困難であり、X線回折測定から原子種を特定するためには、より高い精度の測定と分析が必要となる。例えば、可能性がある複数の金属原子がニッケル(Ni)か亜鉛(Zn)のいずれかである場合、原子種の特定は困難であり、原子種の特定をするために非常に高精密な測定と分析が必要となり、単結晶構造解析においても、構造の決定に多大な手間と時間がかかってしまう。
【0092】
図16は、当該実施形態に係る単結晶構造解析を行う化合物の分子モデルの構造の例を示す図である。図の左側に示す金属錯体化合物は、Niを中心金属とするポルフィリンであり、図の右側に示す金属錯体化合物は、Znを中心金属とするポルフィリンである。中心金属(Ni又はZn)に4個の窒素(N)が結合しており、さらに、図に示す通り、複数の炭素(C)と水素(H)が結合している。試料がいずれかの金属錯体化合物である場合であっても、蛍光X線分析によって、試料の化学組成の情報を得ることにより、金属錯体化合部の中心金属の種類を決定することが出来る。
【0093】
蛍光X線分析の結果を単結晶構造解析に利用することにより、より低い精度のX線回折測定であっても、結晶構造の決定が可能となる。さらに、本発明に係る複合X線分析装置1を用いることにより、X線回折測定と蛍光X線測定とが並行して行われ、制御解析部9の蛍光X線解析部24が蛍光X線分析を行い、蛍光X線解析部24が出力する蛍光X線分析データより、構造データ解析部22が、原子種を決定し、決定される原子種に基づいて
、単結晶構造解析を行い、試料の結晶構造を決定することが出来る。よって、時間の低減、コストの低減、及び信頼性の向上が実現されている。特に、中心金属の特性X線の波長が、Pbの特性X線の波長と近い場合には、第2の実施形態に係る複合X線分析装置1を用いることにより、本発明の効果はさらに高まる。
【0094】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態では、試料を構成する化合物に含まれる所定の原子の一部が他の原子に置換されている場合の単結晶構造解析に、本発明を適用している。当該実施形態に係る複合X線分析装置1の構造は、第1又は第2の実施形態に係る複合X線分析装置1と同じである。試料を構成する化合物に含まれる所定の原子の一部が他の原子に置換されている場合、本発明の効果はさらに高まることとなる。
【0095】
図17は、当該実施形態に係る単結晶構造解析を行う化合物の分子モデルの構造の例を示す図である。図に示す化合物は、サイアロン(SIALON)蛍光体であり、青色発光ダイオードを用いて効率よく発光させることができるので、LED照明の材料として多彩な白色発光を実現することが出来る物質である。当該実施形態に係る単結晶構造解析に用いるサイアロン蛍光体は、図に矢印で示す原子が所定の原子であるアルミニウム(Al)であるサイアロンを基本的な化学組成として、Alの一部(例えば、0.2%)を、ユウロピウム(Eu)といった置換した化合物である。ここで、化合物に含まれる所定の原子(ここではAl)の一部を他の原子(ここではEu)に置換することを、化合物に他の原子をドープすると定義してもよい。また、置換がされていないサイアロンのAlの原子数に対して、置換されるEuの原子数の割合を、Euの置換量であると定義する。
【0096】
サイアロン蛍光体は、サイアロンにEu2+イオンを固溶することにより、合成することが出来る。また、置換する(ドープする)原子はEuに限定されることはなく、他の希土類金属原子であってもよいし、さらに他の金属原子でもあってもよい。Euの置換量(ドープ量)を制御することにより、発色を制御することが出来る。これにより、昼光色、昼白色、白色、温白色、又は電球色といった多彩な白色の発光が可能であり、サイアロン蛍光体は、効率性、耐久性及び耐熱性に優れ、環境負荷の高い水銀蛍光灯と比較して環境負荷が抑制される次世代の照明材料である。例えば、液晶ディスプレイのバックライトの材料として用いることが出来る。
【0097】
サイアロンに固溶させるEu2+イオンの量を制御することによって、サイアロン蛍光体のEuの置換量(ドープ量)を制御することが出来るが、形成される複数の結晶粒においても、置換量(ドープ量)にばらつきが出てしまう場合もあり、サイアロン蛍光体のEuの置換量を正確に同定することは困難である。かかる場合であっても、本発明を適用することにより、試料とする結晶1個に対して測定が出来るので、試料における他の原子の置換量をより正確に決定することが出来る。
【0098】
Euの置換量が数%である場合、サイアロン蛍光体の単結晶を試料として、X線回折測定をしても、平均構造として見えてしまうので、Euの置換量をX線回折分析から決定することは非常に困難である。しかし、測定前にEuの置換量が不明である場合であっても、蛍光X線分析によって、試料の化学組成の情報を得ることにより、Euの置換量を決定することが出来る。よって、第3の実施形態と同様に、蛍光X線分析の結果を単結晶構造解析に利用することにより、より正確な単結晶構造解析が可能となる。さらに、本発明に係る複合X線分析装置1を用いることにより、X線回折測定と蛍光X線測定とが並行して行われ、制御解析部9の蛍光X線解析部24が蛍光X線分析を行い、蛍光X線解析部24が出力する蛍光X線分析データより、構造データ解析部22が、Euの置換量を決定し、決定されるEuの置換量に基づいて、単結晶構造解析を行い、試料の結晶構造を決定することが出来る。特に、注目する原子の特性X線の波長が、Pbの特性X線の波長と近い場合には、第2の実施形態に係る複合X線分析装置1を用いることにより、本発明の効果はさらに高まる。なお、ここで、Euの置換量は0.5%としたが、この置換量に限定されることがないのは言うまでもない。特に、他の原子の置換量が10%以下であるときに、X線回折分析によって、他の原子の置換量を決定することが非常に困難となるため、他の原子の置換量が10%以下であるとき、本発明の顕著な効果が得られている。
【0099】
以上、第3及び第4の実施形態において、本発明の顕著な効果が得られる単結晶構造解析について説明したが、これらの単結晶構造解析に限定されることはないのは言うまでもなく、蛍光X線分析の結果を利用すると有利となる単結晶構造解析に、広く本発明を適用することが出来る。
【符号の説明】
【0100】
1 複合X線分析装置、2 X線源、3 光学系、4 試料台、5 回折X線検出器、6 回転駆動系、7 蛍光X線検出器、8 ビームストッパ、9 制御解析部、10 試料冷却部、11 コア部、12 受光部、13 遮蔽体、100 試料、XL1,XL2 蛍光X線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を放射する、X線源と、
前記X線源が放射するX線を単結晶試料へ入射させる、光学系と、
前記単結晶試料を支持するとともに1又は複数の回転駆動系を備え前記単結晶試料を方向転換する、試料台と、
前記単結晶試料より発生する回折X線を検出する、回折X線検出器と、
前記回折X線検出器を前記単結晶試料に対して角度移動させる回転駆動系と、
前記回折X線検出器が検出する回折X線の測定データを保存する回折X線測定データ保存部と、
前記回折X線測定データ保存部が保存する前記回折X線の測定データに基づいて、結晶構造のデータ解析を行う構造解析データ解析部と、
前記単結晶試料が放射する蛍光X線を検出する、エネルギー分散型蛍光X線検出器と、
前記エネルギー分散型蛍光X線検出器が検出する蛍光X線の測定データを保存する蛍光X線測定データ保存部と、
前記蛍光X線測定データ保存部が保存する前記蛍光X線の測定データに基づいて、蛍光X線分析を行う蛍光X線解析部と、
前記蛍光X線解析部が出力する蛍光X線分析データを保存する蛍光X線分析データ保存部と、
前記蛍光X線分析データ保存部が保存する前記蛍光X線分析データを取得するとともに前記構造解析データ解析部へ出力する、蛍光X線分析データ取得手段と、
を備える複合X線分析装置であって、
前記構造解析データ解析部は、前記蛍光X線分析データ取得手段が出力する前記蛍光X線分析データに、さらに基づいて、結晶構造のデータ解析を行う、
ことを特徴とする、複合X線分析装置。
【請求項2】
前記単結晶試料に対して前記光学系と反対側に設けられ、前記光学系から前記単結晶試料へ入射するX線のダイレクトビームを遮蔽する、ビームストッパを、さらに備え、
前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、
検出するX線を受光する受光部と、
前記ビームストッパと前記受光部との間に配置され、前記ビームストッパにおける前記ダイレクトビームが直接照射される部分が放射する蛍光X線を遮蔽するための、X線遮蔽体と、を備える、
ことを特徴とする、請求項1に記載の複合X線分析装置。
【請求項3】
前記X線遮蔽体は、前記受光部の周縁を囲っている、
ことを特徴とする、請求項2に記載の複合X線分析装置。
【請求項4】
前記X線遮蔽体は、さらに、先端側がテーパー状になっている、
ことを特徴とする、請求項3に記載の複合X線分析装置。
【請求項5】
前記X線遮蔽体は、内部に中空導光管を備え、ポリキャピラリーとして機能する、
ことを特徴とする、請求項3に記載の複合X線分析装置。
【請求項6】
前記光学系から前記単結晶試料へ入射するX線のダイレクトビームの光軸に対して垂直であって前記単結晶試料を貫く平面に対して、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器の前記受光部が、前記光学系側に配置される、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合X線分析装置。
【請求項7】
前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、前記単結晶試料に対して外方へ退避することが可能な退避機構を、さらに備える、
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合X線分析装置。
【請求項8】
前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、前記単結晶試料が放射する蛍光X線を検出することにより、前記試料台が前記単結晶試料を支持する状態を検出する、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合X線分析装置。
【請求項9】
前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、シリコンドリフト検出器又はリチウムドリフトシリコン検出器である、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合X線分析装置。
【請求項10】
前記回折X線検出器が前記単結晶試料より発生する回折X線を検出する期間の一部の期間である第1の期間に、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器が、前記単結晶試料が放射する蛍光X線を検出する、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合X線分析装置。
【請求項11】
前記回折X線検出器が前記単結晶試料より発生する回折X線を検出する期間の一部の期間であり前記第1の期間の後の期間である第2の期間に、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器が前記第1の期間に検出する前記蛍光X線の測定データに基づいて、前記蛍光X線解析部が蛍光X線分析を行う、
ことを特徴とする、請求項10に記載の複合X線分析装置。
【請求項12】
前記単結晶試料を構成する化合物に含まれる所定の原子に複数種類の可能性がある場合に、
前記構造解析データ解析部は、前記蛍光X線分析データより、前記所定の原子を決定し、該決定される原子に基づいて、前記単結晶試料の結晶構造を決定する、
ことを特徴とする、請求項1乃至11のいずれかに記載の複合X線分析装置。
【請求項13】
前記単結晶試料を構成する化合物に含まれる所定の原子の一部が他の原子に置換されている場合に、
前記構造解析データ解析部は、前記蛍光X線分析データより、前記他の原子の置換量を決定し、該置換量に基づいて、前記単結晶試料の結晶構造を決定する、
ことを特徴とする、請求項1乃至11のいずれかに記載の複合X線分析装置。
【請求項1】
X線を放射する、X線源と、
前記X線源が放射するX線を単結晶試料へ入射させる、光学系と、
前記単結晶試料を支持するとともに1又は複数の回転駆動系を備え前記単結晶試料を方向転換する、試料台と、
前記単結晶試料より発生する回折X線を検出する、回折X線検出器と、
前記回折X線検出器を前記単結晶試料に対して角度移動させる回転駆動系と、
前記回折X線検出器が検出する回折X線の測定データを保存する回折X線測定データ保存部と、
前記回折X線測定データ保存部が保存する前記回折X線の測定データに基づいて、結晶構造のデータ解析を行う構造解析データ解析部と、
前記単結晶試料が放射する蛍光X線を検出する、エネルギー分散型蛍光X線検出器と、
前記エネルギー分散型蛍光X線検出器が検出する蛍光X線の測定データを保存する蛍光X線測定データ保存部と、
前記蛍光X線測定データ保存部が保存する前記蛍光X線の測定データに基づいて、蛍光X線分析を行う蛍光X線解析部と、
前記蛍光X線解析部が出力する蛍光X線分析データを保存する蛍光X線分析データ保存部と、
前記蛍光X線分析データ保存部が保存する前記蛍光X線分析データを取得するとともに前記構造解析データ解析部へ出力する、蛍光X線分析データ取得手段と、
を備える複合X線分析装置であって、
前記構造解析データ解析部は、前記蛍光X線分析データ取得手段が出力する前記蛍光X線分析データに、さらに基づいて、結晶構造のデータ解析を行う、
ことを特徴とする、複合X線分析装置。
【請求項2】
前記単結晶試料に対して前記光学系と反対側に設けられ、前記光学系から前記単結晶試料へ入射するX線のダイレクトビームを遮蔽する、ビームストッパを、さらに備え、
前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、
検出するX線を受光する受光部と、
前記ビームストッパと前記受光部との間に配置され、前記ビームストッパにおける前記ダイレクトビームが直接照射される部分が放射する蛍光X線を遮蔽するための、X線遮蔽体と、を備える、
ことを特徴とする、請求項1に記載の複合X線分析装置。
【請求項3】
前記X線遮蔽体は、前記受光部の周縁を囲っている、
ことを特徴とする、請求項2に記載の複合X線分析装置。
【請求項4】
前記X線遮蔽体は、さらに、先端側がテーパー状になっている、
ことを特徴とする、請求項3に記載の複合X線分析装置。
【請求項5】
前記X線遮蔽体は、内部に中空導光管を備え、ポリキャピラリーとして機能する、
ことを特徴とする、請求項3に記載の複合X線分析装置。
【請求項6】
前記光学系から前記単結晶試料へ入射するX線のダイレクトビームの光軸に対して垂直であって前記単結晶試料を貫く平面に対して、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器の前記受光部が、前記光学系側に配置される、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合X線分析装置。
【請求項7】
前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、前記単結晶試料に対して外方へ退避することが可能な退避機構を、さらに備える、
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合X線分析装置。
【請求項8】
前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、前記単結晶試料が放射する蛍光X線を検出することにより、前記試料台が前記単結晶試料を支持する状態を検出する、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合X線分析装置。
【請求項9】
前記エネルギー分散型蛍光X線検出器は、シリコンドリフト検出器又はリチウムドリフトシリコン検出器である、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合X線分析装置。
【請求項10】
前記回折X線検出器が前記単結晶試料より発生する回折X線を検出する期間の一部の期間である第1の期間に、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器が、前記単結晶試料が放射する蛍光X線を検出する、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合X線分析装置。
【請求項11】
前記回折X線検出器が前記単結晶試料より発生する回折X線を検出する期間の一部の期間であり前記第1の期間の後の期間である第2の期間に、前記エネルギー分散型蛍光X線検出器が前記第1の期間に検出する前記蛍光X線の測定データに基づいて、前記蛍光X線解析部が蛍光X線分析を行う、
ことを特徴とする、請求項10に記載の複合X線分析装置。
【請求項12】
前記単結晶試料を構成する化合物に含まれる所定の原子に複数種類の可能性がある場合に、
前記構造解析データ解析部は、前記蛍光X線分析データより、前記所定の原子を決定し、該決定される原子に基づいて、前記単結晶試料の結晶構造を決定する、
ことを特徴とする、請求項1乃至11のいずれかに記載の複合X線分析装置。
【請求項13】
前記単結晶試料を構成する化合物に含まれる所定の原子の一部が他の原子に置換されている場合に、
前記構造解析データ解析部は、前記蛍光X線分析データより、前記他の原子の置換量を決定し、該置換量に基づいて、前記単結晶試料の結晶構造を決定する、
ことを特徴とする、請求項1乃至11のいずれかに記載の複合X線分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−255769(P2012−255769A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−68128(P2012−68128)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】
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