説明

複屈折パターンを有する物品

【課題】フルカラー画像(潜像)形成が可能である複屈折パターンを有する物品であって、当該各カラーの濃淡などの繊細な色表現を含む物品の提供。
【解決手段】複屈折性が異なる領域をパターン状に2つ以上有するパターン化光学異方性層を含む物品であって、前記パターン化光学異方性層における複屈折性が同一の領域はそれぞれ、複数の描画単位からなり、複屈折性が略均一である強度階調用画素および複屈折性が異なる2種以上の前記描画単位を含む面積階調用画素を少なくとも含む物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複屈折パターンを有する物品に関する。本発明は特に複屈折パターンにより多様な色表現が可能な物品に関する。
【背景技術】
【0002】
高級ブランド品や金券、商品券、紙幣、クレジットカード、工業用部品などの模倣品が近年増え続けている。その模倣品対策として複屈折パターンを用いた画像形成により、偽造防止向けセキュリティ物品に応用することが提案されている(例えば、特許文献1)。複屈折パターンは、偏光性を有しない光源では不可視な潜像であり、偏光フィルタにより画像などの情報を可視化することが可能となる。特許文献1に記載の方法は、面内のレターデーションの値を自在に制御できるため、カラーフィルタを用いない高い透過率または反射率のフルカラー画像形成が可能であり、高い偽造防止性を有している。しかし、特許文献1には各カラーの濃淡などを含む、さらに複雑な色表現を実現することについての開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−69793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、フルカラー画像(潜像)形成が可能である複屈折パターンを有する物品であって、当該各カラーの濃淡などの繊細な色表現を含む物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題の解決のために鋭意研究を重ねた結果、インクジェットプリンター、電子写真、あるいは、銀塩フィルム用スキャナーなどに広く用いられている画像表現を応用して、色表示の幅を広げられることを発見し、さらに詳細な条件を検討して、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[10]を提供するものである。
【0006】
[1]複屈折性が異なる領域をパターン状に2つ以上有するパターン化光学異方性層を含む物品であって、
前記パターン化光学異方性層における複屈折性が同一の領域はそれぞれ複数の描画単位からなり、
複屈折性が略均一である強度階調方式画素および複屈折性が異なる2種以上の前記描画単位を含む面積階調方式画素を少なくとも含む物品。
[2]前記強度階調方式画素が2つ以上の描画単位を含む[1]に記載の物品。
[3]前記面積階調方式画素として、前記の2種以上の描画単位それぞれにおける複屈折性は同一であり、かつ該画素内の前記の2種以上の描画単位の数の比が互いに異なっている画素を2種以上含む[1]または[2]に記載の物品。
【0007】
[4]複屈折性が異なる領域がレターデーションの異なる領域である[1]〜[3]のいずれか一項に記載の物品。
[5]前記パターン化光学異方性層が少なくとも1つの反応性基を有する液晶性化合物を含む組成物から形成された層である[1]〜[4]のいずれか一項に記載の物品。
[6]前記パターン化光学異方性層が下記(1)〜(3)の工程をこの順で含む方法で形成されたものである[5]に記載の物品:
(1)液晶性化合物を含む組成物からなる層を加熱または光照射する工程;
(2)該層にパターン露光を行う工程;
(3)得られた層を50℃以上400℃以下に加熱する工程。
【0008】
[7]前記パターン露光がレーザ光を用いて行われることを特徴とする[6]に記載の物品。
[8]レーザ光の波長が300nm〜420nmである[7]に記載の物品。
[9]レーザ光のビーム径が前記描画単位の描画単位の1辺の長さの0.5倍以上3倍以下である[7]または[8]に記載の物品。
[10]レーザ光のビーム径が5〜30μmである[7]または[8]に記載の物品。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、カラーの濃淡などの繊細な色表現を含むフルカラー画像(潜像)形成が可能である複屈折パターンを有する物品が提供される。面積階調、強度階調などの概念を組み合わせて作製される本発明の物品は、特開2009−69793号公報に記載の複屈折パターンを有する物品の色再現領域を広げることを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】基本的な複屈折パターンを有する物品(透過型および反射型)の構成を模式的に示す図である。
【図2】支持体又は仮支持体上にパターン化光学異方性層を有する複屈折パターンを有する物品の構成を模式的に示す図である。
【図3】配向層を有する複屈折パターンを有する物品の構成を模式的に示す図である。
【図4】粘着層を有する複屈折パターンを有する物品の構成を模式的に示す図である。
【図5】印刷層を有する複屈折パターンを有する物品の構成を模式的に示す図である。
【図6】力学特性制御層および転写層を有する転写型の複屈折パターンを有する物品の構成を模式的に示す図である。
【図7】添加剤層を有する複屈折パターンを有する物品の構成を模式的に示す図である。
【図8】パターン化光学異方性層を複数有する複屈折パターンを有する物品の構成を模式的に示す図である。
【図9】基本的な複屈折パターン作製材料の構成を模式的に示す図である。
【図10】支持体または仮支持体上に光学異方性層を有する複屈折パターン作製材料の構成を模式的に示す図である。
【図11】配向層を有する複屈折パターン作製材料の構成を模式的に示す図である。
【図12】粘着層を有する複屈折パターン作製材料の構成を模式的に示す図である。
【図13】印刷層を有する複屈折パターン作製材料の構成を模式的に示す図である。
【図14】力学特性制御層および転写層を有する転写型複屈折パターン作製材料の構成を模式的に示す図である。
【図15】添加剤層を有する複屈折パターン作製材料の構成を模式的に示す図である。
【図16】光学異方性層を複数有する複屈折パターン作製材料の構成を模式的に示す図である。
【図17】強度階調方式、および面積階調方式を説明する図である。
【図18】ルックアップテーブル(LUT)を利用した画像処理を説明する図である。
【図19】感光材料の一例に露光を行ったときの、露光量と生じる位相差の関係を示すグラフである。
【図20】レーザ光(ビーム)の中心(図では25μmの位置)からの距離に伴う露光量(mJ/cm2)の一次元分布の例を示す図である。
【図21】サブピクセルの概念を説明する図である。
【図22】実施例で行った面積階調露光を説明する図である。
【図23】実施例で作成した複屈折パターンの潜像を示す図である。
【図24】実施例で作成した複屈折パターンの潜像の拡大写真を示す図である。
【図25】実施例で作成した複屈折パターンの潜像を示す図である。
【図26】レターデーションを変更した場合の色調の変化を色度図上で示す図である。
【図27】実施例で行ったパターン露光を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0012】
本明細書において、「位相差」、「レターデーション」又は「Re」は面内のレターデーションを表す。面内のレターデーション(Reθ)は透過または反射の分光スペクトルから、Journal of Optical Society of America,vol.39,p.791−794(1949)や特開2008−256590号公報に記載の方法を用いて位相差に換算する、スペクトル位相差法を用いて測定することができる。前記文献は透過スペクトルを用いた測定法であるが、特に反射の場合は、光が光学異方性層を2回通過するため、反射スペクトルより換算された位相差の半分を光学異方性層の位相差とすることができる。Re0は正面レターデーションである。Re(λ)は測定光として波長λnmの光を用いたものである。本明細書におけるレターデーション又はReは、R、G、Bに対してそれぞれ611±5nm、545±5nm、435±5nmの波長で測定されたものを意味し、特に色に関する記載がなければ545±5nmまたは590±5nmの波長で測定されたものを意味する。
【0013】
本明細書において、角度について「実質的に」とは、厳密な角度との誤差が±5°未満の範囲内であることを意味する。さらに、厳密な角度との誤差は、4°未満であることが好ましく、3°未満であることがより好ましい。レターデーションについて「実質的に」とは、レターデーションが±5%以内の差であることを意味する。さらに、レターデーションが実質的に0とは、レターデーションが5nm以下であることを意味する。また、屈折率の測定波長は特別な記述がない限り、可視光域の任意の波長を指す。なお、本明細書において、「可視光」とは、波長が400〜700nmの光のことをいう。
【0014】
[複屈折パターンの定義]
複屈折パターンとは、広義には複屈折性の異なる2つ以上のドメインが2次元の面内または3次元的にパターニングされたものである。特に2次元の面内において、複屈折性は面内で屈折率が最大となる遅相軸の方向と、ドメイン内のレターデーションの大きさの2つのパラメータにより定義される。例えば液晶性化合物による位相差フィルムなどにおける面内の配向欠陥や厚み方向の液晶の傾斜分布も広義には複屈折パターンと言えるが、狭義にはあらかじめ決めたデザインなどを基に、意図して複屈折性を制御してパターン化したものを複屈折パターンと定義することが望ましい。本発明における複屈折パターンは、遅相軸の方向は一定であり、レターデーションの大きさの異なるドメインによって形成されたパターンでもよく、遅相軸の方向が異なるドメインによって形成されたパターンでもよく、遅相軸の方向及びレターデーションの大きさの双方が異なるドメインによって形成されたパターンでもよい。この中で、本発明における複屈折パターンは、遅相軸の方向は一定であり、レターデーションの大きさの異なるドメインによって形成されたパターンであることが好ましい。複屈折パターンは特に記載しない限り、複数層有していてもよく、複数層のパターンの境界は一致していても異なっていてもよい。
【0015】
[複屈折パターンを有する物品]
本明細書において、「複屈折パターンを有する物品」とは、複屈折性の異なる領域を2つ以上有する物品を意味する。複屈折パターンを有する物品は複屈折性の異なる領域を3つ以上有することがさらに好ましい。複屈折性が同一である個々の領域は連続的形状であっても非連続的形状であってもよい。
【0016】
図1〜8は、複屈折パターンを有する物品の例である。複屈折パターンを有する物品は少なくとも一層のパターン化光学異方性層101を有する。本明細書において「パターン化光学異方性層」とは複屈折性が異なる領域をパターン状に有する光学異方性層を意味する。パターン化光学異方性層は例えば後述の複屈折パターン作製材料を用いて容易に作製することができるが、複屈折性が異なる領域をパターン状に有する層であれば作製方法は特に限定されない。
図では複屈折性が異なる領域を101A、101B、101Cとして例示する。
【0017】
図1(a)、(b)に示す複屈折パターンを有する物品はそれぞれ、最も基本的な透過型および反射型の複屈折パターンを有する物品の構成である。
【0018】
透過型の場合、複屈折パターンを有する物品、すなわち、パターン化光学異方性層を挟んで、光源および観測点は反対側にあり、偏光フィルタなどを用いて作製された偏光光源から出た光が複屈折パターンを有する物品を通過して面内で異なる楕円偏光が出射され、観測点側でさらに偏光フィルタを通過させて情報を可視化する。ここで偏光フィルタは直線偏光フィルタでも円偏光フィルタでも楕円偏光フィルタでもよく、偏光フィルタ自身が複屈折パターンまたは二色性パターンを有していてもよい。
【0019】
反射型の場合、光源および観測点はいずれも、パターン化光学異方性層から見て片側にあり、複屈折パターンを有する物品の前記パターン化光学異方性層から見た反対側の面には反射層がある。偏光フィルタなどを用いて作製された偏光光源から出た光が複屈折パターンを有する物品を通過、反射層で反射して再び複屈折パターンを有する物品を通過して面内で異なる楕円偏光が出射され、観測点側でさらに偏光フィルタを通過させて情報を可視化する。ここで偏光フィルタは直線偏光フィルタでも円偏光フィルタでも楕円偏光フィルタでもよく、偏光フィルタ自身が複屈折パターンまたは二色性パターンを有していてもよい。また、光源と観測で同一の偏光フィルタを用いてもよい。反射層は反射性の高いホログラム層や電極層などと兼ねてもよい。
【0020】
さらに反射層は部分的に光を反射し、部分的に光を透過する半透過半反射層でもよく、その場合複屈折パターンを有する物品は透過、反射の両方の画像を可視化させることができるだけでなく、複屈折パターンを有する物品の半透過半反射層の下側にある文字や画像などの一般的な情報を光学異方性層の上側からフィルタなしに視認することができる。反射層は支持体の光学異方性層側でも反対側でもよいが、支持体の制約が少ないことから光学異方性層側であることが好ましい。
【0021】
図2(a)、(b)は支持体又は仮支持体上にパターン化光学異方性層101を有する、それぞれ透過型、反射型の例である。仮支持体の場合、粘着剤や接着剤を用いて対象とする物品にパターン化光学異方性層101を転写することも可能である。
【0022】
図3(a)〜(c)に示す複屈折パターンを有する物品は配向層14を有する例である。パターン化光学異方性層101として、液晶性化合物を含む溶液を塗布乾燥して液晶相を形成した後、加熱または光照射して重合固定化した光学異方性層から形成された層を用いる場合、配向層14は液晶性化合物の配向を助けるための層として機能する。
【0023】
図4(a)〜(d)は粘着層を有する複屈折パターンを有する物品の例である。シールラベルのような複屈折パターンを有する物品を作製するときに粘着層が必要となる。一般に粘着層には離型紙または離型フィルムが貼合されており、実用性の観点から好ましい。さらには、一旦対象物に貼合した後、剥離しようとすると特定のパターンで対象物に粘着剤が残るような特殊粘着層でもよい。
【0024】
図5(a)〜(d)は印刷層を有する複屈折パターンを有する物品の例である。印刷層は不可視な複屈折パターンに重ねて可視の画像を与えるものが一般的だが、たとえばUV蛍光染料やIR染料などによる不可視なセキュリティ印刷と組み合わせることもできる。印刷層は光学異方性層の上でも下でも、さらには支持体の光学異方性層と反対側でもよく、印刷層に透過性があれば複屈折パターンによる潜像をフィルタで可視化した際、印刷と潜像が重なって見えるようになる。
【0025】
図6(a)〜(d)は力学特性制御層および転写層を有する転写型の複屈折パターンを有する物品の例である。力学特性制御層は転写層が対象物に接触した際、所定の条件を満たしたときに対象物に光学異方性層が転写するように剥離性をコントロールする層である。力学特性制御層としては、隣接する層との剥離性を付与する剥離層や、転写時に均一に応力をかけることにより転写性を向上させるクッション層のようなものが挙げられる。転写層としては一般的な粘着剤、接着剤の他、熱により接着性を発現するホットメルト接着剤、紫外線照射によって接着性を発現するUV接着剤、さらには接着剤を転写したいパターンに印刷した層が挙げられる。図には示さないが、配向層と力学特性制御層を兼ねてもよい。また、転写型の複屈折パターンを有する物品を用いることによって、当該物品に反射層が無くても、対象物が反射性を有していれば反射型にすることができる。
【0026】
図7(a)から(d)に示す複屈折パターンを有する物品は、添加剤層を有するものである。添加剤層には、後述のように光学異方性層に可塑剤や光重合開始剤を後添加するための層、表面保護のためのハードコート層、指紋付着やマジックペンによる落書き防止の撥水層、タッチパネル性を付与する導電層、赤外線を透過させないことにより赤外線カメラで見えなくする遮蔽層、左右円偏光のいずれかを通過させないことにより円偏光フィルタで画像を見えなくする円偏光選択反射層、光学異方性層に感光性を付与する感光層、RFIDのアンテナとして作用するアンテナ層、水没した際に変色するなどして水没を検知する水没検知層、温度により色の変わるサーモトロピック層、潜像の色を制御する着色フィルタ層、透過型で光源側の偏光/非偏光を切り替えると潜像が可視化する偏光層、磁気記録性を付与する磁性層等の他、マット層、散乱層、潤滑層、感光層、帯電防止層、レジスト層などとしての機能を有するものが含まれる。
【0027】
図8(a)〜(c)に示す複屈折パターンを有する物品は、パターン化光学異方性層を複数有するものである。複数の光学異方性層の面内遅相軸は同一でも異なっていてもよいが、異なっていることが好ましい。複数の光学異方性層の複屈折性が異なる領域は互いに同一でも異なっていてもよい。図には示さないが、パターン化光学異方性層は3つ以上あってもよい。レターデーションあるいは遅相軸の向きが互いに異なる光学異方性層を2層以上設け、それぞれに独立したパターンを与えることにより、さらに多彩な機能を有する潜像を形成することができる。
【0028】
[複屈折パターン作製材料]
以下に、複屈折パターン形成法の一例である、複屈折パターン作製材料を用いる方法について説明する。複屈折パターン作製材料は複屈折パターンを作製する為の材料であり、所定の工程を経ることで複屈折パターンを有する物品を作成することができる材料を指す。複屈折パターンの形成法については、特に記載がない限りこの方法に限定されない。
【0029】
複屈折パターン作製材料は通常、フィルム、またはシート形状であればよい。複屈折パターン作製材料は、光学異方性層又は、光学異方性層のみからなるもののほか、様々な副次的機能を付与することが可能である機能性層を有しているものであってもよい。機能性層としては、支持体、配向層、反射層、粘着層などが挙げられる。また、転写材料として用いられる複屈折パターン作製用材料、又は転写材料を用いて作製された複屈折パターン作製材料などにおいて、仮支持体、力学特性制御層を有していてもよい。
【0030】
図9(a)に示す複屈折パターン作製材料は、自己支持性を有する光学異方性層12のみからなる複屈折パターン作製材料の例である。
光学異方性層は複屈折性を有する層であり、一軸または二軸延伸されたポリマー層や配向した液晶性化合物を固定化した層、配向が揃った有機または無機単結晶層などにより形成されていればよい。光学異方性層としては、フォトマスクによる露光あるいはデジタル露光などのパターン露光や、ホットスタンプやサーマルヘッド、赤外線レーザ露光などのパターン加熱、針やペンによって機械的に加圧またはせん断を加える触針描画、反応性化合物の印刷などにより、光学異方性を任意に制御する機能を有することができる層が好ましい。そのような機能を有する光学異方性層は、後述の方法などにより、パターン化光学異方性層を得ることが容易であるからである。パターン形成のためには、フォトマスクによる露光あるいは走査露光などのパターン露光を用いることが好ましい。該パターニング工程に加えて必要に応じて熱や薬液による漂白、現像などと組み合わせてパターンを形成することもできる。この場合支持体の制約が少ないことから熱による漂白、現像が好ましい。図9(b)に示す複屈折パターン作製材料は、自己支持性を有する光学異方性層12に反射層13を付した例である。
【0031】
図10(a)、(b)は支持体または仮支持体11上に光学異方性層12を有する例である。仮支持体の場合、粘着剤や接着剤を用いて対象とする物品に光学異方性層を転写することも可能である。
図11(a)〜(c)に示す複屈折パターン作製材料は配向層14を有する例である。
図12(a)〜(d)は粘着層を有する複屈折パターン作製材料の例である。
図13(a)〜(d)は印刷層を有する複屈折パターン作製材料の例である。
【0032】
図14(a)〜(d)は力学特性制御層および転写層を有する転写型複屈折パターン作製材料の例である。
図15(a)〜(d)は添加剤層を有する複屈折パターン作製材料の例である。
【0033】
図16(a)〜(d)に示す複屈折パターン作製材料は光学異方性層を複数有するものである。複数の光学異方性層の面内遅相軸は同一でも異なっていてもよいが、異なっていることが好ましい。図には示さないが、光学異方性層は3つ以上あってもよい。液晶性化合物を用いて光学異方性層を形成する場合、配向層があることが好ましいが、光学異方性層自体が配向層を兼ねることで図16(c)のように配向層を省略することもでき、さらに好ましい。転写型複屈折パターン作製材料を用いれば、複屈折パターンを有する層を複数有する物品の作製を容易に行うことができる。
【0034】
例えば、後述の複屈折パターン作製材料を用いた場合、露光量により照射部のレターデーションを制御することができ、未露光部のレターデーションを実質的に0にすることもできる。
【0035】
以下、複屈折パターン作製材料、それを用いた複屈折パターンを有する物品の作製方法および複屈折パターンを有する物品の材料、作製方法等について、詳細に説明する。ただし、本発明はこの態様に限定されるものではなく、他の態様についても、以下の記載および従来公知の方法を参考にして実施可能であって、本発明は以下に説明する態様に限定されるものではない。
【0036】
[光学異方性層]
複屈折パターン作製材料における光学異方性層は、レターデーションを測定したときにレターデーションが実質的に0でない入射方向が一つでもある、即ち等方性でない光学特性を有する層である。
【0037】
複屈折パターン作製材料における光学異方性層としては、少なくとも1つのモノマーまたはオリゴマーおよびそれらを硬化させたものを含む層、少なくとも1つのポリマーを含む層、少なくとも1つの有機または無機単結晶を含む層などがあげられる。
ポリマーを含む前記光学異方性層は、複屈折性、透明性、耐溶媒性、強靭性および柔軟性といった異なった種類の要求を満たすことができる点で好ましい。該光学異方性層中のポリマーは未反応の反応性基を有することが好ましい。露光により未反応の反応性基が反応してポリマー鎖の架橋が起こるが、露光条件の異なる露光によってポリマー鎖の架橋の程度が異なり、その結果としてレターデーション値が変化して複屈折パターンが形成しやすくなると考えられるためである。
【0038】
光学異方性層は好ましくは20℃において、より好ましくは30℃において、さらに好ましくは40℃において固体であればよい。20℃において固体であると、他の機能性層の塗布や、支持体上への転写や貼合が容易であるからである。
他の機能性層の塗布を行う為、光学異方性層は耐溶媒性を有することが好ましい。本明細書において、「耐溶媒性を有する」とは対象の溶媒に2分間浸漬した後のレターデーションが浸漬前のレターデーションの30%から170%の範囲内に、より好ましくは50%から150%の範囲内に、最も好ましくは80%から120%の範囲内にあることを意味する。対象の溶媒としては水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N−メチルピロリドン、ヘキサン、クロロホルム、酢酸エチルの中から、好ましくはアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N−メチルピロリドンの中から、最も好ましくはメチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、またはこれらの混合溶媒等があげられる。
【0039】
光学異方性層は20℃においてレターデーションが5nm以上であればよく、10nm以上10000nm以下であることが好ましく、20nm以上2000nm以下であることが最も好ましい。レターデーションが5nm以下では複屈折パターンの形成が困難である場合がある。レターデーションが10000nmを越えると、誤差が大きくなり実用できる精度を達成することが困難である場合がある。
【0040】
光学異方性層の製法としては特に限定されないが、少なくとも1つの反応性基を有する液晶性化合物を含んでなる溶液を塗布乾燥して液晶相を形成した後、加熱または光照射して重合固定化して作製する方法;少なくとも2つ以上の反応性基を有するモノマーを重合固定化した層を延伸する方法;側鎖に反応性基を有するポリマーからなる層を延伸する方法;またはポリマーからなる層を延伸した後にカップリング剤等を用いて反応性基を導入する方法などが挙げられる。後述するように、光学異方性層は転写により形成されたものであってもよい。前記光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがさらに好ましい。
【0041】
[液晶性化合物を含有する組成物を配向固定化してなる光学異方性層]
光学異方性層の製法として少なくとも1つの反応性基を有する液晶性化合物を含んでなる溶液を塗布乾燥して液晶相を形成した後、加熱または光照射して重合固定化して作製する場合について以下に説明する。本製法は、後述するポリマーを延伸して光学異方性層を得る製法と比較して、薄い膜厚で同等のレターデーションを有する光学異方性層を得ることが容易であり、好ましい。
【0042】
[液晶性化合物]
一般的に、液晶性化合物はその形状から、棒状タイプと円盤状タイプに分類できる。さらにそれぞれ低分子と高分子タイプがある。高分子とは一般に重合度が100以上のものを指す(高分子物理・相転移ダイナミクス,土井 正男 著,2頁,岩波書店,1992)。本発明では、いずれの液晶性化合物を用いることもできるが、棒状液晶性化合物を用いることが好ましい。
なお、本明細書において、液晶性化合物を含む組成物から形成された層について記載されるとき、この形成された層において液晶性を有する化合物が含まれる必要はない。例えば、前記低分子液晶性化合物が熱、光等で反応する基を有しており、結果的に熱、光等で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失ったものが含まれる層であってもよい。また、液晶性化合物としては、2種以上の棒状液晶性化合物、2種以上の円盤状液晶性化合物、又は棒状液晶性化合物と円盤状液晶性化合物との混合物を用いてもよい。温度変化や湿度変化を小さくできることから、反応性基を有する棒状液晶性化合物または円盤状液晶性化合物を用いて形成することがより好ましく、少なくとも1つは1液晶分子中の反応性基が2以上あることがさらに好ましい。2種以上の液晶性化合物の混合物の場合、少なくとも1つが2以上の反応性基を有していることが好ましい。
【0043】
好ましくは、架橋機構の異なる2種類以上の反応性基を有する液晶性化合物を用い、条件を選択して2種類以上の反応性基の一部の種類のみを重合させることにより、未反応の反応性基を有するポリマーを含む光学異方性層を作製するとよい。架橋機構としては縮合反応、水素結合、重合など特に限定はないが、2種以上のうち少なくとも一方は重合が好ましく、2種類以上の異なる重合を用いることがさらに好ましい。一般に架橋反応は、重合に用いられるビニル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基だけでなく、水酸基、カルボン酸基、アミノ基なども用いることができる。
【0044】
本明細書において、架橋機構の異なる2種類以上の反応性基を有する化合物とは、段階的に異なる架橋反応工程を用いて架橋させる化合物であり、各段階の架橋反応工程では、それぞれの架橋機構に応じた反応性基が官能基として反応する。また、例えば側鎖に水酸基を有するポリビニルアルコールのようなポリマーの場合で、ポリマーを重合する重合反応を行った後、側鎖の水酸基をアルデヒドなどで架橋させた場合は2種類以上の異なる架橋機構を用いたことになるが、本明細書において2種類以上の異なる反応性基を有する化合物というときは、好ましくは、支持体等の上に層を形成した時点において該層中で2種類以上の異なる反応性基を有する化合物であって、その後にその反応性基を段階的に架橋させることができる化合物であればよい。特に好ましい態様として2種以上の重合性基を有する液晶性化合物を用いることが好ましい。段階的に架橋させる反応条件として、温度の違い、光(照射線)の波長の違い、重合機構の違いのいずれでもよいが、反応を分離しやすい点から重合機構の違いを用いることが好ましく、用いる開始剤の種類によって制御することがさらに好ましい。重合機構としては、ラジカル重合性基とカチオン重合性基の組み合わせが好ましい。前記ラジカル重合性基がビニル基、(メタ)アクリル基であり、かつ前記カチオン重合性基がエポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基である組み合わせが反応性を制御しやすく特に好ましい。以下に反応性基の例を示す。
【0045】
【化1】

【0046】
棒状液晶性化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく 用いられる。以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。上記高分子液晶性化合物は、低分子の反応性基を有する棒状液晶性化合物が重合した高分子化合物である。棒状液晶性化合物の例としては、例えば、特開2008−281989号公報、特表平11−513019号公報(WO97/00600)および特表2006−526165号公報に記載のものが挙げられる。
【0047】
以下に、棒状液晶性化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、一般式(I)−1〜7で表される化合物は、特表平11−513019号公報(WO97/00600)に記載の方法で合成することができる。
【0048】
【化2】

【0049】
【化3】

【0050】
【化4】

【0051】
【化5】

【0052】
本発明の他の態様として、前記光学異方性層に円盤状液晶を使用した態様がある。前記光学異方性層は、モノマー等の低分子量の円盤状液晶性化合物の層または重合性の円盤状液晶性化合物の重合(硬化)により得られるポリマーの層であることが好ましい。前記円盤状液晶性化合物の例としては、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physicslett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルなどを挙げることができる。上記円盤状液晶性化合物は、一般的にこれらを分子中心の円盤状の母核とし、直鎖のアルキル基やアルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基等の基(L)が放射線状に置換された構造であり、液晶性を示し、一般的に円盤状液晶とよばれるものが含まれる。ただし、このような分子の集合体が一様に配向した場合は負の一軸性を示すが、この記載に限定されるものではない。円盤状液晶性化合物の例としては特開2008−281989号公報の段落[0061]〜[0075]に記載のものが挙げられる。
液晶性化合物として、反応性基を有する円盤状液晶性化合物を用いる場合、水平配向、垂直配向、傾斜配向、およびねじれ配向のいずれの配向状態で固定されていてもよい。
【0053】
光学異方性層の形成に用いられる、液晶性化合物を含有する組成物には、液晶性化合物の架橋を促進するため重合性モノマーを添加してもよい。
重合性モノマーとしては、例えば、エチレン性不飽和二重結合を2個以上有し、光の照射によって付加重合するモノマー又はオリゴマーを用いることができる。
そのようなモノマー及びオリゴマーとしては、分子中に少なくとも1個の付加重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物を挙げることができる。その例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレートなどの単官能アクリレートや単官能メタクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)シアヌレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンやグリセリン等の多官能アルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを付加した後(メタ)アクリレート化したもの等の多官能アクリレートや多官能メタクリレートを挙げることができる。
【0054】
更に特公昭48−41708号公報、特公昭50−6034号公報及び特開昭51−37193号公報に記載されているウレタンアクリレート類;特開昭48−64183号公報、特公昭49−43191号公報及び特公昭52−30490号公報に記載されているポリエステルアクリレート類;エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸の反応生成物であるエポキシアクリレート類等の多官能アクリレー卜やメタクリレートを挙げることができる。
これらの中で、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジぺンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジぺンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが好ましい。
また、この他、特開平11−133600号公報に記載の「重合性化合物B」も好適なものとして挙げることができる。
これらのモノマー又はオリゴマーは、単独でも、二種類以上を混合して使用してもよい。
【0055】
また、カチオン重合性モノマーを用いることもできる。例えば、特開平6−9714号、特開2001−31892号、特開2001−40068号、特開2001−55507号、特開2001−310938号、特開2001−310937号、特開2001−220526号の各公報に例示されているエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。
エポキシ化合物としては、以下の芳香族エポキシド、脂環式エポキシド及び脂肪族エポキシド等が挙げられる。
【0056】
芳香族エポキシドとしては、例えば、ビスフェノールA、あるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールA或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、並びにノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0057】
脂環式エポキシドとしては、少なくとも1個のシクロへキセン又はシクロペンテン環等のシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化することによって得られる、シクロヘキセンオキサイド又はシクロペンテンオキサイド含有化合物が挙げられる。
脂肪族エポキシドの好ましいものとしては、脂肪族多価アルコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル等があり、その代表例としては、エチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル又は1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、グリセリン或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はトリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0058】
また、本発明の組成物においては、カチオン重合性モノマーとして、単官能または2官能のオキセタンモノマーを用いることもできる。たとえば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(東亜合成(株)製商品名OXT101等)、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ベンゼン(同OXT121等)、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン(同OXT211等)、ジ(1−エチル−3−オキセタニル)メチルエーテル(同OXT221等)、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン(同OXT212等)等を好ましく用いることができ、特に、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ(1−エチル−3−オキセタニル)メチルエーテルなどの化合物や、特開2001−220526号公報、同2001−310937号公報に記載されている公知のあらゆる官能または2官能オキセタン化合物を使用できる。
【0059】
[2層以上の光学異方性層]
液晶性化合物を含む組成物からなる光学異方性層を2層以上積層する場合、液晶性化合物の組み合わせについては特に限定されず、全て棒状性液晶性化合物からなる層の積層体、円盤状液晶性化合物を含む組成物からなる層と棒状性液晶性化合物を含む組成物からなる層の積層体、又は全て円盤状液晶性化合物からなる層の積層体のいずれであってもよい。また、各層の配向状態の組み合わせも特に限定されず、同じ配向状態の光学異方性層を積層してもよいし、異なる配向状態の光学異方性層を積層してもよい。
【0060】
[溶媒]
液晶性化合物を含有する組成物を、塗布液として、例えば支持体又は後述する配向層等の表面に塗布する場合の塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0061】
[配向固定化]
液晶性化合物の配向の固定化は、液晶性化合物に導入した反応性基の架橋反応により実施することが好ましく、反応性基の重合反応により実施することがさらに好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれるが、光重合反応がより好ましい。光重合反応としては、ラジカル重合、カチオン重合のいずれでも構わない。ラジカル光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。カチオン光重合開始剤の例には、有機スルフォニウム塩系、ヨードニウム塩系、フォスフォニウム塩系等を例示する事ができ、有機スルフォニウム塩系、が好ましく、トリフェニルスルフォニウム塩が特に好ましい。これら化合物の対イオンとしては、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロフォスフェートなどが好ましく用いられる。
【0062】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがさらに好ましい。液晶性化合物の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、10mJ/cm2〜10J/cm2であることが好ましく、25〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。照度は10〜1000mW/cm2であることが好ましく、20〜500mW/cm2であることがより好ましく、40〜350mW/cm2であることがさらに好ましい。照射波長としては250〜450nmにピークを有することが好ましく、300〜410nmにピークを有することがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは加熱条件下で光照射を実施してもよい。
【0063】
[偏光照射による光配向]
前記光学異方性層は、偏光照射による光配向で面内のレターデーションが発現あるいは増加した層であってもよい。偏光照射は、特開2009−69793号公報の段落「0091」〜「0092」の記載、特表2005−513241号公報(国際公開WO2003/054111)の記載などを参照して行うことができる。
【0064】
[ラジカル性の反応性基とカチオン性の反応性基を有する液晶化合物の配向状態の固定化]
前述したように、液晶性化合物が重合条件の異なる2種類以上の反応性基を有することもまた好ましい。この場合、条件を選択して複数種類の反応性基の一部種類のみを重合させることにより、未反応の反応性基を有するポリマーを含む光学異方性層を作製することが可能である。このような液晶性化合物として、ラジカル性の反応基とカチオン性の反応基を有する液晶性化合物(具体例としては例えば、前述のI−8〜I−15)を用いた場合に特に適した重合固定化の条件について以下に説明する。
【0065】
まず、重合開始剤としては重合させようと意図する反応性基に対して作用する光重合開始剤のみを用いることが好ましい。すなわち、ラジカル性の反応基を選択的に重合させる場合にはラジカル光重合開始剤のみを、カチオン性の反応基を選択的に重合させる場合にはカチオン光重合開始剤のみを用いることが好ましい。光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.1〜8質量%であることがより好ましく、0.5〜4質量%であることが特に好ましい。
【0066】
次に、重合のための光照射は紫外線を用いることが好ましい。この際、照射エネルギーおよび/または照度が強すぎるとラジカル性反応性基とカチオン性反応性基の両方が非選択的に反応してしまう恐れがある。したがって、照射エネルギーは、5mJ/cm2〜500mJ/cm2であることが好ましく、10〜400mJ/cm2であることがより好ましく、20mJ/cm2〜200mJ/cm2であることが特に好ましい。また照度は5〜500mW/cm2であることが好ましく、10〜300mW/cm2であることがより好ましく、20〜100mW/cm2であることが特に好ましい。照射波長としては250〜450nmにピークを有することが好ましく、300〜410nmにピークを有することがさらに好ましい。
【0067】
また光重合反応のうち、ラジカル光重合開始剤を用いた反応は酸素によって阻害され、カチオン光重合開始剤を用いた反応は酸素によって阻害されない。従って、液晶性化合物としてラジカル性の反応基とカチオン性の反応基を有する液晶化合物を用いてその反応性基の片方種類を選択的に重合させる場合、ラジカル性の反応基を選択的に重合させる場合には窒素などの不活性ガス雰囲気下で光照射を行うことが好ましく、カチオン性の反応基を選択的に重合させる場合には敢えて酸素を有する雰囲気下(例えば大気下)で光照射を行うことが好ましい。
【0068】
また、液晶性化合物としてラジカル性の反応基とカチオン性の反応基を有する液晶化合物を用いてその反応性基の片方の種類を選択的に重合させる場合において、その片方を選択的に重合させる手段として他方の重合性基に対応する重合禁止剤を用いることも好ましい。例えば、液晶性化合物としてラジカル性の反応基とカチオン性の反応基を有する液晶化合物を用いてそのカチオン性の反応基を選択的に重合させる場合にはラジカル性重合に対する重合禁止剤を少量加えることにより、その選択性を向上させることが可能である。このような重合禁止剤の使用量は、塗布液の固形分の0.001〜10質量%であることが好ましく、0.005〜5質量%であることがより好ましく、0.02〜1質量%であることが特に好ましい。例えばラジカル性重合に対する重合禁止剤としてはニトロベンゼン、フェノチアジン、ハイドロキノン等が挙げられる。また、一般に酸化防止剤として用いられるヒンダートフェノール類もラジカル性重合に対する重合禁止剤として有効である。
【0069】
[水平配向剤]
前記光学異方性層の形成用組成物中に、特開2009−69793号公報の段落「0098」〜「0105」に記載の、一般式(1)〜(3)で表される化合物および一般式(4)のモノマーを用いた含フッ素ホモポリマーまたはコポリマーの少なくとも一種を含有させることで、液晶性化合物の分子を実質的に水平配向させることができる。尚、本明細書において「水平配向」とは、棒状液晶の場合、分子長軸と透明支持体の水平面が平行であることをいい、円盤状液晶の場合、円盤状液晶性化合物のコアの円盤面と透明支持体の水平面が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、水平面とのなす傾斜角が10度未満の配向を意味するものとする。傾斜角は0〜5度が好ましく、0〜3度がより好ましく、0〜2度がさらに好ましく、0〜1度が最も好ましい。
水平配向剤の添加量としては、液晶性化合物の質量の0.01〜20質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましく、0.02〜1質量%が特に好ましい。なお、特開2009−69793号公報の段落「0098」〜「0105」に記載の一般式(1)〜(4)にて表される化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0070】
[延伸によって作製される光学異方性層]
光学異方性層はポリマーの延伸によって作製されたものでもよい。光学異方性層は少なくとも1つの未反応の反応性基を持つ事が好ましいが、このようなポリマーを作製する際にはあらかじめ反応性基を有するポリマーを延伸してもよいし、延伸後の光学異方性層にカップリング剤などを用いて反応性基を導入してもよい。延伸法によって得られる光学異方性層の特長としては、コストが安いこと、及び自己支持性を持つ(光学異方性層の形成及び維持に支持体を要しない)ことなどが挙げられる。
【0071】
[2層以上の光学異方性層]
上記のように複屈折パターン作製材料は、光学異方性層を2層以上有してもよい。2層以上の光学異方性層は法線方向に互いに隣接していてもよいし、間に別の機能性層を挟んでいてもよい。2層以上の光学異方性層は互いにほぼ同等のレターデーションを有していてもよく、異なるレターデーションを有していてもよい。また遅相軸の方向が互いにほぼ同じ方向を向いていてもよく、異なる向きを向いていてもよい。遅相軸の方向が互いにほぼ同じ方向を向いている2層以上の光学異方性層を用いることによって、大きなレターデーションを有するパターンを作製することができる。
【0072】
光学異方性層を2層以上含む複屈折パターン作製材料を作製する方法としては、複屈折パターン作製材料上に光学異方性層を直接形成する、別の複屈折パターン作製材料を転写材料として用いて複屈折パターン作製材料上に光学異方性層を転写するなどの方法が挙げられる。このうち複屈折パターン作製材料を転写材料として用いて複屈折パターン作製材料上に光学異方性層を転写する方法がより好ましい。
【0073】
[光学異方性層の後処理]
作製された光学異方性層を改質するために、様々な後処理を行ってもよい。後処理としては例えば、密着性向上の為のコロナ処理や、柔軟性向上の為の可塑剤添加、保存性向上の為の熱重合禁止剤添加、反応性向上の為のカップリング処理などが挙げられる。また、光学異方性層中のポリマーが未反応の反応性基を有する場合、該反応性基に対応する重合開始剤を添加することも有効な改質手段である。例えば、カチオン性の反応性基とラジカル性の反応性基を有する液晶性化合物をカチオン光重合開始剤を用いて配向固定化した光学異方性層に対してラジカル光重合開始剤を添加することで、後にパターン露光を行う際の未反応のラジカル性の反応性基の反応を促進することができる。可塑剤や光重合開始剤の添加手段としては、例えば、光学異方性層を該当する添加剤の溶液に浸漬する手段や、光学異方性層の上に該当する添加剤の溶液を塗布して浸透させる手段などが挙げられる。また、光学異方性層の上に他の層を塗布する際にその層の塗布液に添加剤を添加しておき、光学異方性層に浸漬させる添加剤層を用いる方法もあげられる。この際に浸漬させる添加剤、特には光重合開始剤の種類や量により、後に述べる複屈折パターン作製材料へのパターン露光時の各領域への露光量と最終的に得られる各領域のレターデーションとの関係を調整し、所望する材料特性に近づけることが可能である。
【0074】
前記光学異方性層上に形成する添加剤層は、フォトレジストのような感光性樹脂層の他、反射光沢を制御する散乱層、表面の傷つきを防止するハードコート層、指紋付着やマジックなどの落書きを防止する撥水撥油層、帯電によるごみつきを防止する帯電防止層などの表面層と共用してもよい。感光性樹脂層としては、少なくとも1種のポリマーと少なくとも1種の光重合開始剤を含んでいることが好ましい。ポリマーとしては特に限定はないが、ハードコート性を持たせるためにはTgの高い材料が好ましい。
【0075】
[支持体]
複屈折パターン作製材料はそれぞれ、力学的な安定性を保つ目的で支持体を有してもよい。複屈折パターン作製材料における支持体がそのまま複屈折パターンを有する物品における支持体となっていてもよく、複屈折パターンを有する物品における支持体が複屈折パターン作製材料における支持体とは別に(複屈折パターン形成時または形成後に、複屈折パターン作製材料における支持体と代わって又は追加で)設けられてもよい。支持体としては特に限定はなく、剛直なものでもフレキシブルなものでもよい。剛直な支持体としては特に限定はないが表面に酸化ケイ素皮膜を有するソーダガラス板、低膨張ガラス、ノンアルカリガラス、石英ガラス板等の公知のガラス板、アルミ板、鉄板、SUS板などの金属板、樹脂板、セラミック板、石板などが挙げられる。フレキシブルな支持体としては特に限定はないがセルロースエステル(例、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート)、ポリオレフィン(例、ノルボルネン系ポリマー)、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(例、ポリメチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリスルホン、ノルボルネン系ポリマーなどのプラスチックフィルムや紙、アルミホイル、布などが挙げられる。取扱いの容易さから、剛直な支持体の膜厚としては、100〜3000μmが好ましく、300〜1500μmがより好ましい。フレキシブルな支持体の膜厚としては、3〜500μmが好ましく、10〜200μmがより好ましい。支持体は後に述べるベークで着色したり変形したりしないだけの耐熱性を有することが好ましい。後述する反射層の代わりに、支持体自体が反射機能を有することもまた好ましい。
【0076】
[配向層]
既に説明したように、光学異方性層の形成には、配向層を利用してもよい。配向層は、一般に支持体もしくは仮支持体上又は支持体もしくは仮支持体上に塗設された下塗層上に設けられる。配向層は、その上に設けられる液晶性化合物の配向方向を規定するように機能する。配向層は、光学異方性層に配向性を付与できるものであれば、どのような層でもよい。配向層の好ましい例としては、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理された層、アゾベンゼンポリマーやポリビニルシンナメートに代表される偏光照射により液晶の配向性を発現する光配向層、無機化合物の斜方蒸着層、およびマイクログルーブを有する層、さらにω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチル等のラングミュア・ブロジェット法(LB膜)により形成される累積膜、あるいは電場あるいは磁場の付与により誘電体を配向させた層を挙げることができる。配向層としてはラビングの態様ではポリビニルアルコールを含むことが好ましく、配向層の上または下の少なくともいずれか1層と架橋できることが特に好ましい。配向方向を制御する方法としては、光配向層およびマイクログルーブが好ましい。光配向層としては、ポリビニルシンナメートのように二量化によって配向性を発現するものが特に好ましく、マイクログルーブとしてはあらかじめ機械加工またはレーザ加工により作製したマスターロールのエンボス処理が特に好ましい。
【0077】
[反射層]
複屈折パターン作製材料は、より容易に識別できる複屈折パターンの作製のために反射層を有していてもよい。反射層としては特に限定されないが、偏光解消性のないものが好ましく、例えばアルミや銀などの金属層、誘電体多層膜による反射層、光沢を有する印刷層が挙げられる。また、透過率が30〜95%、反射率が30〜95%の半透過半反射層を用いることもできる。半透過半反射層は金属層の厚みを薄くする方法が安価で製造できるので好ましい。一方、金属による半透過半反射層は吸収を有しているため、吸収なしに透過率と反射率を制御できる誘電体多層膜は光利用効率の観点から好ましい。反射層は、複屈折パターン形成後の複屈折パターンを有する物品上に形成してもよい。
【0078】
[粘着層]
複屈折パターン作製材料は、後述のパターン露光及びベーク後に作製される複屈折パターンを有する物品をさらに他の物品に貼付するための粘着層を有していてもよい。粘着層の材料は特に限定されないが、複屈折パターン作製の為のベークの工程を経てた後でも粘着性を有する材料であることが好ましい。粘着層は、複屈折パターン形成後の複屈折パターンを有する物品上に形成してもよい。
【0079】
[塗布方法]
光学異方性層、所望により形成される配向層、などの各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、スリットコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(米国特許2681294号明細書)により、塗布により形成することができる。二以上の層を同時に塗布してもよい。同時塗布の方法については、米国特許2761791号、同2941898号、同3508947号、同3526528号の各明細書および原崎勇次著、コーティング工学、253頁、朝倉書店(1973)に記載がある。
【0080】
[複屈折パターンを有する物品の作製]
複屈折パターン作製材料に少なくとも、パターン露光及び加熱(ベーク)をこの順に行うことにより、複屈折パターンを有する物品を作製することができる。
【0081】
[パターン露光]
本明細書において、パターン露光とは、複屈折パターン作製材料の一部の領域のみが露光されるように行う露光又は2つ以上の領域に互いに露光条件の異なる露光を意味する。互いに露光条件の異なる露光には、未露光(露光しないこと)が含まれていてもよい。パターン露光の手法としてはマスクを用いたコンタクト露光、プロキシ露光、投影露光などでもよいし、レーザや電子線などを用いてマスクなしに決められた位置にフォーカスして直接描画する走査露光を用いてもよいが、より精密な潜像における色表現や操作の容易性のために、走査露光を用いることが好ましい。前記露光の光源の照射波長としては250〜450nmにピークを有することが好ましく、300〜410nmにピークを有することがさらに好ましい。具体的には、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、青色レーザ等が挙げられる。好ましい露光量としては通常3〜2000mJ/cm2程度であり、より好ましくは5〜1000mJ/cm2程度、最も好ましくは10〜500mJ/cm2程度である。パターン露光の解像度を1200dpi以上にすることにより、マイクロ印刷潜像が形成でき、好ましい。解像度を高めるためには、パターン露光時にパターン化光学異方性層が固体であり、尚且つ厚みが10μm以下であることが必要であり、好ましい。厚み10μm以下で実現するためにはパターン化光学異方性層が重合性液晶化合物を含む層を配向固定化したものであることが好ましく、重合性液晶化合物が架橋機構の異なる2種類以上の反応性基を有することが特に好ましい。
【0082】
[パターン露光時の露光条件]
複屈折パターン作製材料の2つ以上の領域に互いに露光条件の異なる露光を行う際、「2つ以上の領域」は互いに重なる部位を有していても有していなくてもよいが、互いに重なる部位を有していないことが好ましい。パターン露光は複数回の露光によって行われてもよく、もしくは、例えば領域によって異なる透過スペクトルを示す2つ以上の領域を有するマスク等を用いて1回の露光によって行われていてもよく、又は両者が組み合わされていてもよい。すなわち、パターン露光時に、異なる露光条件で露光された2つ以上の領域を生ずるような形で露光が行われていればよい。走査露光を用いる場合には、露光領域によって光源強度を変える、露光領域の照射スポットを変える、走査速度を変えるなどの手法で領域ごとに露光条件を変えることが可能であり、好ましい。
【0083】
露光条件としては、特に限定はされないが、露光ピーク波長、露光照度、露光時間、露光量、露光時の温度、露光時の雰囲気等が挙げられる。この中で、条件調整の容易性の観点から、露光ピーク波長、露光照度、露光時間、および露光量が好ましく、露光照度、露光時間および露光量がさらに好ましい。パターン露光時に相異なる露光条件で露光された領域はその後、焼成を経て相異なる、かつ露光条件によって制御された複屈折性を示す。特に異なるレターデーション値を与える。すなわち、パターン露光の際に領域ごとに露光条件を調整することにより、焼成を経た後に領域ごとに異なる、かつ所望のレターデーションを有する複屈折パターンを作製することが可能である。なお、異なる露光条件で露光された2つ以上の露光領域間の露光条件は不連続に変化させてもよいし、連続的に変化させてもよい。
【0084】
[マスク露光]
露光条件の異なる露光領域を生じる手段の1つとして、露光マスクを用いた露光は有用である。例えば1つの領域のみを露光するような露光マスクを用いて露光を行った後に、温度、雰囲気、露光照度、露光時間、露光波長を変えて別のマスクを用いた露光や全面露光を行うことで、先に露光された領域と後に露光された領域の露光条件は容易に変更することができる。また、露光照度、あるいは露光波長を変えるためのマスクとして領域によって異なる透過スペクトルを示す2つ以上の領域を有するマスクは特に有用である。この場合、ただ一度の露光を行うだけで複数の領域に対して異なる露光照度、あるいは露光波長での露光を行うことができる。異なる露光照度の下で同一時間の露光を行う事で異なる露光量を与えることができることは言うまでもない。
【0085】
[走査露光]
走査露光は、例えば、光により所望の2次元パターンを描画面上に形成する描画装置を応用して行うことができる。
このような描画装置の代表的な例として、光ビーム発生手段から導出された光ビームを、光ビーム偏向走査手段を介して被走査体上に走査させることにより、所定の画像等を記録するように構成された画像記録装置がある。この種の画像記録装置では、画像等の記録に際して、光ビーム発生手段から導出される光ビームを画像信号に対応して変調させる(特開平7−52453号公報)。転じて光ビームの光路上に、光強度変調手段、例えば音響光学変調器(AOM)を配設し、この音響光学変調器内で回折された一次回折光の強度を、所定の画像信号に基づいて変調された駆動信号に応じて変化させ、該変調された一次回折光を被走査体上に照射するタイプの装置を用いることもできる。また、光ビーム発生手段を直接変調して、光強度を変化させてもよい。
【0086】
また主走査方向に回転するドラムの外周面に貼着された被走査体上に対してレーザビームを副走査方向に走査することで記録を行うタイプ、および、ドラムの円筒内周面に貼着された被走査体上に対してレーザビームを回転走査させることで記録を行うタイプ(特許2783481号)の装置も使用できる。
【0087】
さらに、描画ヘッドにより2次元パターンを描画面上に形成する描画装置を用いることもできる。例えば、半導体基板や印刷版の作製で用いられている、露光ヘッドにより所望の2次元パターンを感光材料等の露光面上に形成する露光装置が使用できる。このような露光ヘッドとして代表的なものは、多数の画素を有し所望の2次元パターンを構成する光点群を発生させる画素アレイを備えている。この露光ヘッドを、露光面に対して相対移動させながら動作させることにより、所望の2次元パターンを露光面上に形成することができる。
【0088】
上記のような露光装置としては、たとえば、DMD(デジタルマイクロミラーデバイス)を露光面に対して所定の走査方向に相対的に移動させるとともに、その走査方向への移動に応じてDMDのメモリセルに多数のマイクロミラーに対応した多数の描画点データからなるフレームデータを入力し、DMDのマイクロミラーに対応した描画点群を時系列に順次形成することにより所望の画像を露光面に形成する露光装置が提案されている(特開2006−327084号公報)。
露光ヘッドが備える空間光変調素子としては、上記のDMD以外の透過型空間光変調素子を使用することもできる。なお、空間光変調素子は、反射型および透過型のいずれでもよい。そのほかの空間光変調素子の例としては、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)タイプの空間光変調素子(SLM;Special Light Modulator)や、電気光学効果により透過光を変調する光学素子(PLZT素子)や、液晶光シャッタ(FLC)等の液晶シャッターアレイなどが挙げられる。なお、MEMSとは、IC製造プロセスを基盤としたマイクロマシニング技術によるマイクロサイズのセンサ、アクチュエータ、そして制御回路を集積化した微細システムの総称であり、MEMSタイプの空間光変調素子とは、静電気力を利用した電気機械動作により駆動される空間光変調素子を意味している。
【0089】
さらに、回折格子ライトバルブ(GLV:Grating Light Valve)を複数ならべて二次元状に構成したものを用いることもできる。
露光ヘッドの光源としては、上記したレーザ光源の他に、ランプ等も光源として使用可能である。
【0090】
[描画デザイン]
パターン化光学異方性層がレターデーション(位相差)が異なる2つ以上の領域を有するものである場合、潜像が可視化した際のカラーは位相差によって変化する。位相差は、パターン露光時の露光量等の露光条件で制御されているため、例えば上記の走査露光を行う際に、露光条件を変化させると色調を変化させることができるが、色の濃淡を表現することは困難である。本発明においては、このパターン化光学異方性層により、デジタル描画処理において従来から知られている階調表現方法を応用し、色の濃淡の表現が可能であることを見出した。
【0091】
[階調表現方法]
デジタル描画処理においては,その解像性と階調性が重要な要因となる。細かな解像性と,中間調を忠実に再現する階調性が文字や写真を含むあらゆる原稿に対する描画処理において望まれる。
従来において,階調性を表す方式として,特開昭54−144126号公報,特開昭56−17478号公報,特開昭57−76977号公報等に開示されているディザマトリクスを用いた面積階調法がある。2値書込方式では画素を構成するドット数をNとすると,その階調数はN段の階調が表される。
一方,多階調を実現する1ドット多値書込方式が提案されており、強度階調方式といわれる。強度階調方式は、例えば,レーザビーム書き込みにおいて,書き込み1ドットの濃度を変調するものである。書き込みのレーザダイオードの光変調方式には,主にその露光時間を変調するパルス幅変調方式と,露光強度を変調するパワー変調方式とがある。上記パルス幅変調方式としては特開昭62−49776号公報,パワー変調方式としては特開昭64−1547号公報に具体的な技術が開示されている。
【0092】
図17において、αβは強度階調方式の画素、γδは、面積階調方式の画素の露光の模式図である。この例では、最小のマス目が1ドット(描画単位)を示す。このドットが縦横10ドットのマトリックスで最小の画素を形成している。α、βでは各ドットの濃度が変わっており、画素の濃度を変化させている:強度階調。γδでは、各ドットの濃度は変わらないが、マトリックス中の濃度のあるドットの数が多く、結果として、δの画素が、より濃いことを表現している:面積階調。
【0093】
すなわち、偏光板によってカラー画像が可視化する物品においても、色調を変化させたい場合は強度階調、色の濃淡を変化させたい場合は面積階調を採用して描画を行うことにより、色再現領域を広げることが可能となる。
【0094】
[画像処理(画像データから、露光量への変換)]
上述の記録装置を用いて、画像を形成する場合、画像の入稿装置、画像記録装置、画像記録材料により、特性が異なるので、それらを補正した画像データを作成すればよい。この技術に関しては、公知の技術を使うことが可能であり、たとえば、文献「デジタルハードコピー技術」:岩本明人、小寺宏曄責任編集 共立出版 P.33 に詳しく記載されている方法を用いることができる。このうち、代表的な技術としては、ルックアップテーブル(LUT)を利用する技術が挙げられ、特開平10−39555号公報、特開平11−167633号公報等、画像処理技術として広く用いられている。
【0095】
LUTを用いた方法では、露光強度と色との関係は、あらかじめ用意した、LUTを用いて、光強度に対応するように調整することができる。画像データのフローは図18の通りであり、このフローに基づいた手順は例えば次のようである:
スキャナーあるいはデジタルカメラ、あるいは、コンピュータ等で作成した画像データを用意する;これを所望のLUTを参照しながら、露光機に適合した画像パターンに変化する;変換されたデータは、各描画単位に相当する光強度データとして露光部に入力される;露光機は、そのデータに基づき、指定されて光強度を指定された位置に露光する;これにより、所望の光パターンを記録材料に露光する。
【0096】
すなわち、複屈折パターンを利用した画像表示の際にも、LUTをあらかじめ用意することにより、所望の色表示が可能となる。
後述の実施例1で用いた複屈折パターン作製材料P−1の感度特性(露光量と位相差の関係)は図19の様になる。
上述の材料を用いて、多色カラー画像形成する場合、その色表現は、たとえば、赤(R)、緑(G)、青(B)、黒(K)の色に対して、
(I)350nm<Re(R)<370nm、
(II)240nm<Re(G)<280nm;
(III)160nm<Re(B)<220nm;
(IV)120nm<Re(K)<160nm
の位相差を選ぶことができる。上記の中でRe値に幅あるのは、表現色には、官能的な要素があるからであり、より厳密には、後述で使うような、色度図上の座標を指定すれば、より一義的に決定する事ができる。また他の色に対しても同様に適宜、位相差を選択することができる。
【0097】
また、厳密な色表現においては、単に、光学異方性層だけでなく、下地の色、偏光板の持つ色味、照明の状況など多くの要素に影響を受ける。これらの要素を加味して、最終的な色表現は決定される。これらの要因を固定して測定するため、後述の実施例で用いているように、複屈折パターンの上にスーパーハイコントラスト直線偏光板(サンリッツ社製)を、その吸収軸の向きと、光学異方性層の遅相軸の向きとの成す角が45°となるように配置し、領域の反射色は、蛍光灯により照明された部屋にて放射輝度計BM−5A(トプコン社製)を用い、反射色(Yxy)を測定することも好ましい。しかし、測定方法は、本法に限られず、想定される使用条件に応じて、測定器、照明などを変更して測定することができる。測定器としては、一般的な分光反射測定器を用いることができる。例えば、(株)島津製作所の分光光度計、コニカミノルタセンシング(株)製の分光測色計等を好適に用いることができる。これらの装置を用いて、鏡面性の反射であれば、鏡面反射スペクトル、拡散性の反射であれば、積分球反射スペクトルを測定すればよい。
このようにして、位相差の量に応じて、色度図上のどの点の位置の色が表示できるかが決定でき、このデータをルックアップテーブル(LUT)とすることができる。作製したLUT用いて、表現したい色に対応する照射光量を決定することができる。
【0098】
上記のように画素に対して、略一様露光をする単一色の表現に加えて、さらに面積階調(あるいは網点)を利用することができる。すなわち、画素内を描画単位に分割し、その描画単位の色を変えて、1画素を混合色として表現することができる(面積階調あるいは網点)。この場合、少ない色で、多くの色を表現することができる。また、背景色を使えば、描画点の数で画素の明るさをコントロールすることができる。
【0099】
例えば、レーザ光を用いて露光を行う場合であって、レーザ光に10μmのビームを用いる場合、そのビームを重畳することにより、単位面積あたりの露光量を上げることができる。別法として、ビーム強度を周知の方法によって変えることでも露光量の調整は可能である。さらに、10μm描画単位はそのままにして、10μmより大きなビーム径又はより小さなビーム径の光を用いてもよい。なお、図20にレーザ光(ビーム)の中心(図では25μmの位置)からの距離に伴う露光量(露光面上における露光量)の分布の例を示す。本明細書においてビーム径という場合、図に示す両矢印部分(半値幅)を意味する。
【0100】
面積階調露光方式の場合、描画単位と同等あるいは、それより小さいビーム径にした方が、描画単位間の干渉が少なくなり、好適である。また、より広い面積を均一な色で構成し、たとえば画素単位で色を変えるような露光方式(強度階調に対応する露光方式)をとる場合には、描画単位より大きいビームで露光すれば、描画単位ごとの露光量が平均化され、厳密な意味での色表現が可能になり、好適である。
描画単位は、人が視認可能な単位などを考慮して、1.25μm以上40μm以下程度、好ましくは5μm以上30μm以下程度、の1辺を有する略正方形、あるいはこの正方形に内接する略円形であればよい。ビーム径は対応して描画単位の1辺の長さの0.3倍以上5倍以下、好ましくは0.5倍以上3倍以下の範囲であればよい。
【0101】
濃度階調部は、全画素同一露光量でもよいが、画素内を図21の(3)(4)のようにいくつかのサブピクセルに分け、それぞれのサブピクセルの合成として、1画素の色を表現してもよい。この場合、実際に用意する色は少なくできるので、計算等を簡便に行うことができる。
上記のように、面積階調方式と強度階調方式を組み合わせることで、より表現力を高めることができる。特に2つ以上の領域に互いに露光条件の異なる露光を行うことにより色を表現する複屈折パターンでは、一般に印刷で知られている色設計を当てはめることが難しく、面積階調方式と強度階調方式を組み合わせる特別な色表現方式が好適である。
【0102】
[2つ以上の光学異方性層のパターン露光]
複屈折パターン作製材料にパターン露光を行って得られた積層体の上に新たな複屈折パターン作製用転写材料を転写し、その後に新たにパターン露光を行ってもよい。この場合、一度目及び二度目ともに未露光部である領域(通常レターデーション値が一番低い)、一度目に露光部であり二度目に未露光部である領域、及び、一度目及び二度目ともに露光部である領域(通常レターデーション値が一番高い)でベーク後に残るレターデーションの値を効果的に変えることができる。なお、一度目に未露光部であり二度目に露光部である領域は、二度目の露光により一度目及び二度目ともに露光部である領域と同様となると考えられる。同様にして転写とパターン露光を交互に三度、四度と行うことにより、四つ以上の領域を作ることも容易にできる。この手法は、異なる領域の間で、露光条件だけでは与え得ないような差異(光学軸の方向の違いや非常に大きなレターデーションの差異など)を持たせたい時に有用である。
【0103】
[加熱(ベーク)]
パターン露光された複屈折パターン作製材料に対して50℃以上400℃以下、好ましくは80℃以上400℃以下に加熱を行うことにより複屈折パターンを作製することができる。
なお、複屈折パターンはレターデーションが実質的に0である領域を含んでいてもよい。例えば、2種類以上の反応性基を有する液晶性化合物を用いて光学異方性層を形成した場合において、パターン露光で未露光であると上記ベークによってレターデーションが消失し、実質的に0となる場合がある。
【0104】
ベークを行った複屈折パターン材料の上には、新たな複屈折パターン作製用転写材料を転写し、その後に新たにパターン露光とベークを行ってもよい。この場合、一度目及び二度目の露光条件で組み合わせて、二度目のベーク後に残るレターデーションの値を効果的に変えることができる。この手法は、例えば互いに遅相軸の方向が異なる複屈折性を持つ二つの領域を互いに重ならない形で作りたい時に有用である。
【0105】
[熱書き込み]
上記のように、未露光領域にベークを行うことによってレターデーションを実質的に0にすることが可能であるため、複屈折パターンを有する物品には、パターン露光に基づく潜像に加えて、熱書き込みによる潜像が含まれていてもよい。熱書き込みはサーマルヘッド又は、赤外線やYAGなどのレーザ描画を用いて行うことができる。例えば、サーマルヘッドを有する小型のプリンタとの組み合わせで、秘匿を必要とする情報(個人情報、暗証番号、意匠性を損なう商品管理コードなど)を簡便に潜像化することができ、ダンボール箱などに熱書き込みする赤外線やYAGレーザをそのまま用いることもできる。
【0106】
[複屈折パターンに積層される機能性層]
複屈折パターン作製材料は、上述のように露光及びベークを行って複屈折性パターンを作製された後に、さらに様々な機能を持った機能性層を積層され、複屈折パターンを有する物品となっていてもよい。機能性層としては、特に限定されるものではないが、例えば、表面層、印刷層、などがあげられる。
【0107】
[表面層]
表面層としては、反射光沢を制御する散乱層、表面の傷つきを防止するハードコート層、指紋付着やマジックなどの落書きを防止する撥水撥油層、帯電によるごみつきを防止する帯電防止層などが挙げられる。散乱層としては、エンボスによる表面凹凸層、粒子などのマット剤を含むマット層が好ましい。ハードコート層としては、少なくとも1種類の二官能以上の重合性モノマーを含む層を光照射または熱により重合した層が好ましい。表面層は、パターン形成前の複屈折パターン作製材料にすでに設けられていてもよい。複屈折パターン作製材料においては、表面層は、例えば、添加剤層として、設けておくことができる。
【0108】
[保護層]
特に半透過半反射層を用いた態様の場合、光学干渉によるムラが顕在化することがある。そのため、光学異方性層との屈折率差を小さくするため、屈折率が1.4〜1.7で膜厚が30μm以上、好ましくは50μm以上、特に好ましくは100μm以上の保護層を光学的に接触した状態で貼合することにより、ムラを低減できるので好ましい。光学的な接触には、屈折率マッチングオイルや粘着剤、接着剤を用いることができるが、簡便性から粘着剤または接着剤が好ましい。
【0109】
[印刷層]
印刷層とは、可視または紫外線や赤外線などで視認できるパターンを形成した層などが挙げられる。UV蛍光インクやIRインクはそれ自体もセキュリティ印刷であるため、セキュリティ性が向上するので好ましい。印刷層を形成する方法は特に限定はないが、一般的に知られているフレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷の他、インクジェットやゼログラフィなどを用いることができる。また、解像度を1200dpi以上のマイクロ印刷にすることによっても、セキュリティ性を高めることができるので好ましい。
【0110】
[複屈折パターンを有する物品の応用]
複屈折パターン作製材料に上述のように露光及びベークを行って得られる物品は通常はほぼ無色透明であるか、印刷層などに基づく像が視認できるのみである一方で、二枚の偏光板で挟まれた場合、あるいは反射層又は半透過反射層を有する物品につき、偏光板を介した場合においては、追加の特徴的な明暗、あるいは色を示し容易に目視で認識できる。この性質を生かして、上記の製造方法により得られる複屈折パターンを有する物品は、例えば偽造防止手段として利用することができる。すなわち、複屈折パターンを有する物品は、偏光板を用いることで通常の目視ではほぼ不可視である多色の画像が識別することができる。複屈折パターンは偏光板を介さずにコピーしても何も映らず、逆に偏光板を介してコピーすると永続的な、つまりは偏光板無しでも目視可能なパターンとして残る。従って複屈折パターンの複製は困難である。このような複屈折パターンの作製法は広まっておらず、材料も特殊であることから、偽造防止手段として用いるに適していると考えられる。
特に、半透過半反射層を含む複屈折パターンを有する物品は、紙に印刷された印字や写真などの上から、粘着剤など貼合して用いることができる。また、半透過半反射層を用いた複屈折パターンを有する物品を、ラミネートフィルムや透明ラベルなど粘着機能を有する一般的な物品の一部に貼合することもできる。
【0111】
複屈折パターンを有する物品は、潜像によるセキュリティ効果だけでなく、例えばパターンをバーコード、QRコードのようにコード化することによって、デジタル情報との連携を図ることができ、さらにはデジタル暗号化も可能となる。また、前述のように高解像度潜像を形成することで偏光板を介しても肉眼では見分けがつかないマイクロ潜像印刷にでき、さらにセキュリティを高めることができる。他にもUV蛍光インク、IRインクなどの不可視インクによる印刷との組み合わせでもセキュリティを高めることができる。また、剥がすと粘着剤の一部がパターンとして対象物に残存する開封防止ラベル機能との組み合わせも可能である。
【0112】
複屈折パターンを有する物品は、セキュリティだけでなく他の機能との複合、例えば値札や賞味期限などの製品情報表示ラベル機能、水につけると色が変色するインクを印刷することによる水没ラベル機能、セキュリティを施した保険証書や投票用紙と組み合わせることも可能である。
【0113】
複屈折パターンを有する物品に粘着層を設けてラベルとして利用する場合、ラベルを対象物から剥がして再利用されてしまうことによりセキュリティ性が低下する恐れがあるため、ラベルに脆性加工を施すと再利用防止ができるので好ましい。脆性加工の方法については特に限定はないが、支持体自体を脆性化する、ラベルに切り込みを入れる方法などが挙げられる。
【0114】
[光学素子]
また、上記の製造方法により得られる複屈折パターンを有する物品は光学素子への利用も可能である。例えば上記の製造方法により得られる複屈折パターンを有する物品を構造的な光学素子として用いた場合、特定の偏光にのみ効果を与える特殊な光学素子の作製が可能である。一例として、複屈折パターンを有する回折格子は特定の偏光を強く回折する偏光分離素子として機能し、プロジェクターや光通信分野への応用が可能である。
【実施例】
【0115】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0116】
(配向層用塗布液AL−1の調製)
下記の組成物を調製し、孔径30μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、配向層用塗布液AL−1として用いた。
──────────────────────────────────―
配向層用塗布液組成(%)
──────────────────────────────────―
ポリビニルアルコール(PVA205、クラレ(株)製) 3.21
ポリビニルピロリドン(Luvitec K30、BASF社製) 1.48
蒸留水 52.10
メタノール 43.21
──────────────────────────────────―
【0117】
(光学異方性層用塗布液LC−1の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、光学異方性層用塗布液LC−1として用いた。
LC−1−1は2つの反応性基を有する液晶化合物であり、2つの反応性基の片方はラジカル性の反応性基であるアクリル基、他方はカチオン性の反応性基であるオキセタン基である。
【0118】
──────────────────────────────────―
光学異方性層用塗布液組成(%)
──────────────────────────────────―
重合性液晶化合物(LC−1−1) 32.83
水平配向剤(LC−1−2) 0.35
カチオン系光重合開始剤
(CPI100−P、サンアプロ株式会社製) 0.66
重合制御剤
(IRGANOX1076、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
0.07
メチルエチルケトン 48.09
シクロヘキサノン 20.00
──────────────────────────────────―
【0119】
【化6】

【0120】
(添加剤層OC−1の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、添加剤層用塗布液OC−1として用いた。ラジカル光重合開始剤RPI−1としては2−トリクロロメチル−5−(p−スチリルスチリル)1,3,4−オキサジアゾールを用いた。
【0121】
──────────────────────────────────―
添加剤層用塗布液組成(質量%)
──────────────────────────────────―
バインダ(B−1) 27.44
ラジカル光重合開始剤(RPI−1) 0.49
メガファックF−176PF(大日本インキ化学工業(株)製) 4.65
メチルエチルケトン 67.42
──────────────────────────────────―
【0122】
【化7】

【0123】
(実施例1:複屈折パターン作製材料P−1の作製)
厚さ50μmのポリエチレンナフタレートフィルム(テオネックスQ83、帝人デュポン(株)製)の上にアルミニウムを蒸着し、反射層つき支持体を作製した。そのアルミニウムを蒸着した面上にワイヤーバーを用いて配向層用塗布液AL−1を塗布、乾燥した。乾燥膜厚は0.5μmであった。配向層をラビング処理した後、ワイヤーバーを用いて光学異方性層用塗布液LC−1を塗布、膜面温度80℃で2分間乾燥して液晶相状態として、複屈折パターン作製材料P−1を作製した。
【0124】
上記の複屈折パターン作製材料P−1を用いて、特開2007−25003号公報の段落「0218」に記載のDMDを用いた露光装置及び露光方法により、波長405nmのレーザ光を用い、最大露光量 20mJ/cm2、描画密度10μmで露光を行った(全面露光)。この際、所望の露光量を得るために、ビームを重畳し、露出量の調節のため、DMDにより、露光時間の調節も行った。
【0125】
上記露光後の、光学異方性層の上に添加剤層用塗布液OC−1を塗布、乾燥して0.8μmの添加剤層を形成した。さらに下記の要領で、画像処理(パターン露光)を行った。
描画単位10μm、1画素を100μmの設定で描画した。ビーム径7μmとした。
下記画像に対して
ハーフトーン部:描画パターン(a)、ドットあたりの露光量7mJ/cm2とした。露光パターンとしては、図22のような面積階調露光を行った(ドットあたりのRe=150nm相当)。なお、図22において、黒い部分が露光を行った部位である。
文字部:画素全面同一露光量とし、その露光量は90mJ/cm2とした
(1画素あたりのRe=360nm相当)露光パターンは画素が均一となるように露光を行った(強度階調露光)。
【0126】
上記の条件で露光後、230℃のクリーンオーブンで1時間のベークを行い、レターデーションパターンを作製した。
レターデーションパターンスーパーハイコントラスト直線偏光板(サンリッツ社製)を、その吸収軸の向きと、光学異方性層の遅相軸の向きとの成す角が45°となるように重ねた。その結果、図23に示す潜像が確認できた。
なお、本実施例の加熱では、クリーンオーブンを用いたが、赤外線を用いた加熱なども利用することもできる。
【0127】
さらに、ハーフトーン部を偏光顕微鏡「Nikon ECLIPSE E600 POL」で観察したところ、網点上のパターンが形成されていることを確認した(図24写真1)。
同様に赤色部を観察したところ、一様な露光が達成されていることを確認した。
一方、文字部については、画素内はほぼ均一なパターンが観察された(図24写真2)
【0128】
図25のように描画単位を利用して、肉眼では見にくい画像を埋め込むこともできた。さらに、画像の中に、たとえば、可変の数字:シリアルナンバーを書き込んだパターンも作製した。本実施例のようにデジタル露光装置を用いた場合には、パターンの変更が容易である。
【0129】
−色再現域の拡大−
図26は、色度図上、レターデーション(位相差)を変更した場合に色調がどのように動くかを示した図である。比較例として、露光量だけを変化させて、表現するとこの線状の色を表現できるが、その他の色表現はできない(左図)。これに対して、面積階調を組み合わせることで線を囲む範囲、を表現することができる(右図)。
【0130】
複屈折パターン作製材料P−1を用いて露光量を変化させ露光した後、前記と同様にベークを行った。色度を測定し、プロットした一例として、表1に露出量色度図上の座標点を示す。
【0131】
【表1】

【0132】
表1に示した露出量を用いて図27に示すパターンAおよびB、Cの網点で露光した。その後同様にベーク処理をした。上記AおよびB、Cの色度図上の1:3および3:1の内分点に略該当する色を表現することができた(表2)。
【0133】
【表2】

【符号の説明】
【0134】
101 パターン化光学異方性層
11 (仮)支持体
12 光学異方性層
13 反射層又は半透過半反射層
14 配向層
15 粘着層
16 印刷層
17 力学特性制御層
18 転写層
19 添加剤層又は表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複屈折性が異なる領域をパターン状に2つ以上有するパターン化光学異方性層を含む物品であって、
前記パターン化光学異方性層における複屈折性が同一の領域はそれぞれ複数の描画単位からなり、
複屈折性が略均一である強度階調方式画素および複屈折性が異なる2種以上の前記描画単位を含む面積階調方式画素を少なくとも含む物品。
【請求項2】
前記強度階調方式画素が2つ以上の描画単位を含む請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記面積階調方式画素として、前記の2種以上の描画単位それぞれにおける複屈折性は同一であり、かつ該画素内の前記の2種以上の描画単位の数の比が互いに異なっている画素を2種以上含む請求項1または2に記載の物品。
【請求項4】
複屈折性が異なる領域がレターデーションの異なる領域である請求項1〜3のいずれか一項に記載の物品。
【請求項5】
前記パターン化光学異方性層が少なくとも1つの反応性基を有する液晶性化合物を含む組成物から形成された層である請求項1〜4のいずれか一項に記載の物品。
【請求項6】
前記パターン化光学異方性層が下記(1)〜(3)の工程をこの順で含む方法で形成されたものである請求項5に記載の物品:
(1)液晶性化合物を含む組成物からなる層を加熱または光照射する工程;
(2)該層にパターン露光を行う工程;
(3)得られた層を50℃以上400℃以下に加熱する工程。
【請求項7】
前記パターン露光がレーザ光を用いて行われることを特徴とする請求項6記載の物品。
【請求項8】
レーザ光の波長が300nm〜420nmである請求項7に記載の物品。
【請求項9】
レーザ光のビーム径が前記描画単位の描画単位の1辺の長さの0.5倍以上3倍以下である請求項7または8に記載の物品。
【請求項10】
レーザ光のビーム径が5〜30μmである請求項7または8に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−203636(P2011−203636A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72684(P2010−72684)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】