説明

複屈折パターンを有する物品

【課題】基材の表面の一部領域に複屈折パターンフィルムが設けられた物品であって、その表面の段差が平滑化された物品の提供。
【解決手段】基材、複屈折性の異なる領域を二つ以上含むパターン化光学異方性層を含む複屈折パターンフィルム、および透明なオーバーコート層をこの順に含む物品であって、前記複屈折パターンフィルムは前記基材の表面の一部領域に設けられており、前記オーバーコート層は、前記基材の前記複屈折パターンフィルムが設けられた表面全面を覆っており、前記複屈折パターンフィルムの厚みが5〜200μmであり、前記オーバーコート層の厚みが、前記複屈折パターンフィルムが設けられていない領域において前記複屈折パターンフィルムの厚みの1.2〜5倍であり、
前記オーバーコート層の正面レターデーションが0〜200nmで正面レターデーションの誤差が±50nmである物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複屈折パターンを有する物品に関する。より詳しくは、本発明は基材の表面の一部領域に複屈折パターンフィルムを設けた物品であって、その一面の段差が平滑化された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
複屈折パターンを有する物品は、偏光性を有しない光源では不可視であるが、偏光フィルタにより可視化することが可能となる潜像を有する。複屈折パターンを有する物品の一例の製造方法については特許文献1、2に記載があり、それら物品を偽造防止のために応用することが提案されている。
【0003】
複屈折パターンを有するフィルムを利用して、複屈折パターンをチケットなどの基材の表面の一部に設けることにより、基材に簡便に偽造防止機能を持たせることができる。しかし、このように作製された物品は表面に段差を有し、製造工程や輸送工程で物品を重ねたり巻いたりする際に複屈折パターン部分に大きく力がかかったり、段差に接触する別の物品の面にその形状が転写してしまったりして望ましくない。
【0004】
フィルム状物品の段差の平滑化については、特許文献3に、エンボスホログラムをオーバーコート層で平滑化する技術についての記載がある。しかしながら、ホログラムの凹凸の高さは光の波長と同程度で大きくても1μm程度で、凹凸を平滑化するためにオーバーコート層の厚みや熱物性を考慮する必要はなかった。また、複屈折パターンと異なり、ホログラムは屈折率の面内分布で表示されるため複屈折の均一性は必要とせず、特許文献3に記載の例においてもポリエチレンテレフタレートのように複屈折の大きいフィルムを用いることが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−69793号公報
【特許文献2】特開2010−113249号公報
【特許文献3】特開平8−179679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、基材の表面の一部領域に複屈折パターンフィルムが設けられた物品であって、その表面の段差が平滑化された物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題の解決のために、複屈折パターンフィルムが設けられた面をオーバーコートすることに着眼して鋭意研究を重ね、複屈折パターンフィルムによる潜像の視認性に影響を与えにくいオーバーコート層を見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下[1]〜[6]を提供するものである。
[1]基材、複屈折性の異なる領域を二つ以上含むパターン化光学異方性層を含む複屈折パターンフィルム、および透明なオーバーコート層をこの順に含む物品であって、
前記複屈折パターンフィルムは前記基材の表面の一部領域に設けられており、
前記オーバーコート層は、前記基材の前記複屈折パターンフィルムが設けられた表面全面を覆っており、
前記複屈折パターンフィルムの厚みが5〜200μmであり、
前記オーバーコート層の厚みが、前記複屈折パターンフィルムが設けられていない領域において前記複屈折パターンフィルムの厚みの1.2〜5倍であり、
前記オーバーコート層の正面レターデーションが0〜200nmで正面レターデーションの誤差が±50nmである物品。
【0009】
[2]前記オーバーコート層の正面レターデーションが50nm以下である[1]に記載の物品。
[3]前記オーバーコート層の厚みが、複屈折パターンを有するフィルムが設けられていない領域において、複屈折パターンフィルムの厚みの1.5〜3倍である[1]または[2]に記載の物品。
[4]前記オーバーコート層が100℃以下のガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーを含むフィルムであって、延伸倍率が2倍以下のフィルムからなる[1]〜[3]のいずれか一項に記載の物品。
[5]前記熱可塑性ポリマーが、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、またはポリウレタンエラストマーである請求項4に記載の物品。
[6]前記オーバーコート層が、複屈折パターンフィルムが設けられている前記基材上に直接塗布された紫外線硬化モノマーを含む無溶剤の組成物を、紫外線硬化することにより形成された層である[1]〜[3]のいずれか一項に記載の物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、基材の表面の一部領域に複屈折パターンフィルムが設けられた物品であって、その表面の段差が平滑化された物品が提供される。本発明の物品においては、複屈折パターンによる潜像の視認性に影響を与えることなく、重ねたり巻いたりした際に複屈折パターン部分にかかる圧力が緩和されており、また、段差の形状が他の物品に転写するという問題が解決されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の物品の構成を模式的に示す図である。
【図2】基本的な複屈折パターンフィルム(透過型および反射型)の構成を模式的に示す図である。
【図3】支持体上にパターン化光学異方性層を有する複屈折パターンフィルムの構成を模式的に示す図である。
【図4】配向層を有する複屈折パターンフィルムの構成を模式的に示す図である。
【図5】粘着層を有する複屈折パターンフィルムの構成を模式的に示す図である。
【図6】印刷層を有する複屈折パターンフィルムの構成を模式的に示す図である。
【図7】力学特性制御層および転写層を有する転写型の複屈折パターンフィルムの構成を模式的に示す図である。
【図8】添加剤層を有する複屈折パターンフィルムの構成を模式的に示す図である。
【図9】パターン化光学異方性層を複数有する複屈折パターンフィルムの構成を模式的に示す図である。
【図10】実施例で行ったパターン露光のパターンを示す図である。
【図11】実施例で作製した複屈折パターンフィルムを偏光板を介して観察した場合に観察されるパターンの拡大図である。
【図12】実施例で作製した複屈折パターンフィルムを適当な大きさに切断し、粘着剤で商品券に貼り付けた例を示す図である。
【図13】実施例で行った抜き加工およびスリット加工を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0013】
本明細書において、レターデーション(位相差)は特に指定がなければ正面レタ−デーションを指す。レターデーションは透過または反射の分光スペクトルから、Journal of Optical Society of America,vol.39,p.791−794(1949)や特開2008−256590号公報に記載の方法を用いてレターデーションに換算する、スペクトル位相差法を用いて測定することができる。前記文献は透過スペクトルを用いた測定法であるが、特に反射の場合は、光が光学異方性層を2回通過するため、反射スペクトルより換算されたレターデーションの半分を光学異方性層のレターデーションとすることができる。本明細書におけるレターデーションは、R、G、Bに対してそれぞれ611±5nm、545±5nm、435±5nmの波長で測定されたものを意味し、特に色に関する記載がなければ545±5nmの波長で測定されたものを意味する。
【0014】
本明細書において、レターデーションの誤差とは、面内の任意の10箇所のレターデーションを測定したときの標準偏差を意味する。
【0015】
本明細書において、レターデーションについて「実質的に」とは、レターデーションが±5%以内の差であることを意味する。さらに、レターデーションが実質的に0とは、レターデーションが5nm以下であることを意味する。また、屈折率の測定波長は特別な記述がない限り、可視光域の任意の波長を指す。なお、本明細書において、「可視光」とは、波長が400〜700nmの光のことをいう。
【0016】
[潜像]
本明細書において、潜像とは、偏光性を有しない光源では不可視であるが、偏光フィルタにより可視化することが可能となる像を意味する。本発明において、偏光フィルタにより可視化することが可能となる像は、複屈折パターンにより得られる。
【0017】
[複屈折パターンの定義]
複屈折パターンとは、広義には複屈折性の異なる2つ以上の領域が2次元の面内または3次元的に配置されて描かれたパターンを差す。なお特に2次元の面内においては、複屈折性は屈折率が最大となる遅相軸の方向と領域内のレターデーションの大きさの2つのパラメータにより定義される。例えば液晶性化合物による位相差フィルムなどにおける面内の配向欠陥や厚み方向の液晶の傾斜分布も広義には複屈折パターンと言えるが、狭義にはあらかじめ決めたデザインなどを基に、意図して複屈折性を制御してパターン化したものを複屈折パターンと定義することが望ましい。複屈折パターンは特に記載しない限り、複数層に渡っていてもよく、複数層のパターンの境界は一致していても異なっていてもよい。
【0018】
[複屈折パターンフィルム]
本発明において、「複屈折パターンフィルム」は、パターン化光学異方性層を含むフィルムである。後述のように複屈折パターンフィルムは、パターン化光学異方性層のみからなっていても、パターン化光学異方性層および後述する各種機能層等を含む積層体からなっていてもよい。複屈折パターンフィルムは、支持体上に直接、または他の層を介して後述の光学異方性層を塗布し、乾燥、パターン露光などの工程を経て形成されたものであってもよく、パターン化光学異方性層に加えて、仮支持体および接着層等を有する複屈折パターン転写箔から転写させて基材上に形成されたものであってもよい。複屈折パターン転写箔を用いる態様については特開2010−113249号公報の記載を参照できる。なお、本明細書において「パターン化光学異方性層」とは複屈折パターンを有する光学異方性層のことであり、複屈折性の異なる領域を2つ以上有する光学異方性層を意味する。パターン化光学異方性層は複屈折性の異なる領域を3つ以上有することがさらに好ましい。複屈折性が同一である個々の領域は連続的形状であっても非連続的形状であってもよい。パターン化光学異方性層は例えば、後述のように、液晶性化合物を含む組成物から形成された層を用い、パターン露光を含む方法で複屈折のパターンを形成することによって作製することができるが、複屈折性が異なる領域を有する層であれば作製方法は特に限定されない。
複屈折パターンフィルムは基材表面に設けられた状態で厚みが5〜200μmであればよく、容易にRtoRで加工できる点から10〜100μmであることがより好ましい。
【0019】
[基材]
基材は、通常、複屈折パターンによる潜像が付与されていない物品に対応し、後述の支持体が基材となっていてもよい。基材としては、例えば、紙製の物品、プラスチック製の物品、金属製の物品等が挙げられる。具体的な基材の例としては特に限定されないがプリペイドカードやIDカードなどに用いられるプラスチックカード、各種証明書、有価証券、商品券、高級ブランド品、化粧品、薬品、タバコ等の商品パッケージ等が挙げられる。また金属反射面を有する基材をより好ましく用いることができる。このような基材の例としてはデジタルカメラ表面、腕時計裏面、懐中時計裏面、パソコン筐体表面、携帯電話表面および裏面、携帯音楽プレーヤー表面および裏面、化粧品や飲料の蓋、菓子や医薬品に用いられるPTP包装の表面および裏面、薬品包装用の金属缶表面、貴金属表面、宝飾品表面、または上に挙げた金属反射面を有する基材を包む透明包装があげられる。
【0020】
[オーバーコート層]
本発明の物品において、オーバーコート層は複屈折パターンフィルムが設けられた基材の表面の、全面を覆うように設けられる。すなわち、表面は、基材が有する面の1つの面の表面であればよい。全面を覆うとは、段差の平滑化が望まれる面の全面を覆うことを意味し、基材の形態によっては、複屈折パターンフィルムが設けられた基材の1面全体が覆われていなくてもよい。本発明の物品の断面図を模式的に図1に示す。
【0021】
オーバーコート層は、潜像の視認性を損なわないために正面レターデーションが0〜200nmで正面レターデーションの誤差が±50nmとなることが必要である。好ましくは正面レターデーションが50nm以下、さらに好ましくは正面レターデーションが20nm以下であればよい。このような条件を満たすオーバーコート層としては、例えば、熱可塑性ポリマーを含むフィルムからなる層、または紫外線硬化モノマーを含む無溶剤の組成物を基材表面に塗布後、それを硬化して設けられる層が挙げられる。
【0022】
熱可塑性ポリマーを含むフィルムは、延伸倍率が2倍以下であることが好ましく、1.2倍以下であることがさらに好ましい。すなわち、実質的に延伸処理されていないフィルムであるか、延伸処理されていても延伸倍率が2倍以下、好ましくは1.2倍以下であるフィルムであればよい。上記の範囲の正面レターデーションのオーバーコート層とするためである。また、熱可塑性ポリマーを含むフィルムは平滑化の観点からガラス転移温度が100℃以下が好ましく、融点が200℃以下が好ましい。このような特性を満たす分子構造としては分子内にベンゼン環などの芳香族を含まない構造が例としてあげられ、熱可塑性ポリマーの具体的な例としてはポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、ポリウレタンエラストマーが挙げられる。オーバーコート層が熱可塑性ポリマーを含むフィルムの場合は直接複屈折パターンを含む基材の全面に塗布しても、カバーフィルムとして基材の上に粘着剤または接着剤を介して貼合してもよい。粘着剤や接着剤としては特に限定はないが、粘着剤としてはアクリル系、シリコーン系、ウレタン系、接着剤としては天然ゴム系、デンプン系、アクリル系、ウレタン系、酢酸ビニル系、塩化ビニル系、シリコーン系、エポキシ系、イソシアネート系などが挙げられる。貼合工程においては熱可塑性ポリマーの厚みやガラス転移温度に応じて熱や圧力を用いて貼合してもよい。塩化ビニル樹脂の場合は100℃以上の熱と圧力を用いることが好ましい。ポリエチレンおよびポリプロピレンの場合は50℃以上の熱と圧力を用いることが好ましい。ポリウレタンエラストマーの場合は熱は不要で圧力のみで貼合することができて好ましい。
【0023】
紫外線硬化モノマーを含む無溶剤の組成物から設けられる層は、無溶剤の組成物とするために粘度の小さい紫外線硬化モノマーを含む組成物から形成された層であればよい。紫外線硬化モノマーは2種以上の混合物であってもよい。紫外線硬化モノマーの例としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ジクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート)、ビニルベンゼンおよびその誘導体(例、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン)、ビニルスルホン(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例、メチレンビスアクリルアミド)およびメタクリルアミド、エポキシモノマー(ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、およびペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル)等が挙げられる。
【0024】
組成物(塗布液)の粘度は5〜1000mPa・s以下が好ましく、10〜500mPa・s以下がより好ましい。「無溶剤」とは、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N−メチルピロリドン、ヘキサン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル等の溶媒を含まないことを意味する。
【0025】
オーバーコート層は、透明であることが好ましい。さらに複屈折パターンフィルムによる潜像の色を変化させない態様とする場合においては、オーバーコート層は、無色であることが好ましい。
【0026】
オーバーコート層は、複屈折パターンフィルムが設けられていない領域において、複屈折パターンフィルムの厚みの1.2〜5倍であるように設けられる。すなわち、基材表面からオーバーコート層の表面までの距離は基材表面から複屈折パターンフィルム表面までの距離の1.2〜5倍であるようにする。さらに厚みは複屈折パターンフィルムの厚みの1.2〜3倍であることが好ましい。
【0027】
[複屈折パターンフィルムの構成]
複屈折パターンフィルムは少なくとも一層のパターン化光学異方性層を有する。本明細書において「パターン化光学異方性層」とは複屈折性が異なる領域をパターン状に有する光学異方性層を意味する。パターン化光学異方性層は例えば特開2009−69793号公報の段落「0053」〜「0146」に記載の複屈折パターン作製材料を用いて容易に作製することができるが、複屈折性が異なる領域をパターン状に有する層であれば作製方法は特に限定されない。
以下の図では複屈折性が異なる領域を101A、101B、101Cとして例示する。
【0028】
図2(a)、(b)はそれぞれ、最も基本的な透過型および反射型の複屈折パターンフィルムの構成を、模式的に示す。
【0029】
透過型の場合、複屈折パターンフィルム、すなわち、パターン化光学異方性層を挟んで、光源および観測点は反対側にあり、偏光フィルタなどを用いて作製された偏光光源から出た光がパターン化光学異方性層を通過して面内で異なる楕円偏光が出射され、観測点側でさらに偏光フィルタを通過させて情報を可視化する。ここで偏光フィルタは直線偏光フィルタでも円偏光フィルタでも楕円偏光フィルタでもよく、偏光フィルタ自身が複屈折パターンまたは二色性パターンを有していてもよい。透過型の場合は、基材としては少なくとも複屈折パターンフィルムを設ける部分において透明性を有するものを用いればよい。
【0030】
反射型の場合、光源および観測点はいずれも、パターン化光学異方性層から見て片側にあり、パターン化光学異方性層から見て反対側の面には反射層がある。偏光フィルタなどを用いて作製された偏光光源から出た光がパターン化光学異方性層を通過、反射層で反射して再びパターン化光学異方性層を通過して面内で異なる楕円偏光が出射され、観測点側でさらに偏光フィルタを通過させて情報を可視化する。ここで偏光フィルタは直線偏光フィルタでも円偏光フィルタでも楕円偏光フィルタでもよく、偏光フィルタ自身が複屈折パターンまたは二色性パターンを有していてもよい。また、光源と観測で同一の偏光フィルタを用いてもよい。反射層13は反射性の高いホログラム層や電極層などと兼ねてもよい。
【0031】
さらに反射層は部分的に光を反射し、部分的に光を透過する半透過半反射層でもよく、その場合複屈折パターンフィルムは透過、反射の両方の画像を可視化させることができるだけでなく、複屈折パターンフィルムの半透過半反射層の下側にある文字や画像などの一般的な情報を光学異方性層の上側からフィルタなしに視認することができる。
基材の表面が反射性を有し、複屈折パターンフィルムが実質的に反射型となっていてもよい。
反射層は支持体から見てパターン化光学異方性層側でも反対側でもよいが、支持体の制約が少ないことからパターン化光学異方性層側であることが好ましい。
【0032】
図3(a)、(b)は支持体又は仮支持体(11)上にパターン化光学異方性層101を有する、それぞれ透過型、反射型の例である。仮支持体の場合、パターン化光学異方性層101を設ける際には仮支持体を剥離してから、必要に応じて粘着剤や接着剤を用いて基材に複屈折パターンフィルムを設ければよい。
【0033】
図4(a)、(b)に示す複屈折パターンフィルムは配向層14を有する例である。パターン化光学異方性層101として、液晶性化合物を含む溶液を塗布乾燥して液晶相を形成した後、加熱または光照射して重合固定化した光学異方性層から形成された層を用いる場合、配向層14は液晶性化合物の配向を助けるための層として機能する。
【0034】
図5(a)〜(d)は粘着層15を有する複屈折パターンフィルムの例である。シールラベルのような複屈折パターンフィルムを作製するときに粘着層が必要となる。一般に粘着層には離型紙または離型フィルムが貼合されており、実用性の観点から好ましい。さらには、一旦対象物に貼合した後、剥離しようとすると特定のパターンで対象物に粘着剤が残るような特殊粘着層でもよい。
【0035】
図6(a)〜(d)は印刷層16を有する複屈折パターンフィルムの例である。印刷層は不可視な複屈折パターンに重ねて可視の画像を与えるものが一般的だが、たとえばUV蛍光染料やIR染料などによる不可視なセキュリティ印刷と組み合わせることもできる。印刷層は光学異方性層の上でも下でも、さらには支持体の光学異方性層と反対側でもよく、印刷層に透過性があれば複屈折パターンによる潜像をフィルタで可視化した際、印刷と潜像が重なって見えるようになる。
【0036】
図7(a)〜(d)は力学特性制御層17および転写層18を有する転写型の複屈折パターンフィルムの例である。力学特性制御層は転写層が対象物に接触した際、所定の条件を満たしたときに対象物に光学異方性層が転写するように剥離性をコントロールする層である。力学特性制御層としては、隣接する層との剥離性を付与する剥離層や、転写時に均一に応力をかけることにより転写性を向上させるクッション層のようなものが挙げられる。転写層としては一般的な粘着剤、接着剤の他、熱により接着性を発現するホットメルト接着剤、紫外線照射によって接着性を発現するUV接着剤、さらには接着剤を転写したいパターンに印刷した層が挙げられる。図には示さないが、配向層と力学特性制御層を兼ねてもよい。また、反射層のない転写型材料でも、基材が反射性を有していれば反射型にすることができる。
【0037】
図8(a)〜(d)に示す複屈折パターンフィルムは、表面層19を有するものである。表面層は、表面保護のためのハードコート層、指紋付着やマジックペンによる落書き防止の撥水層、タッチパネル性を付与する導電層、赤外線を透過させないことにより赤外線カメラで見えなくする遮蔽層、左右円偏光のいずれかを通過させないことにより円偏光フィルタで画像を見えなくする円偏光選択反射層、光学異方性層に感光性を付与する感光層、RFIDのアンテナとして作用するアンテナ層、水没した際に変色するなどして水没を検知する水没検知層、温度により色の変わるサーモトロピック層、潜像の色を制御する着色フィルタ層、透過型で光源側の偏光/非偏光を切り替えると潜像が可視化する偏光層、磁気記録性を付与する磁性層等の他、マット層、散乱層、潤滑層、感光層、帯電防止層、レジスト層などが挙げられる。表面層はパターン化光学異方性層(またはパターン化光学異方性層を形成するための層)に可塑剤や光重合開始剤を後から添加するための添加剤層を兼ねていてもよい。
【0038】
図9(a)〜(c)に示す複屈折パターンフィルムは、パターン化光学異方性層を複数有するものである。複数の光学異方性層の面内遅相軸は同一でも異なっていてもよい。複数の光学異方性層の複屈折性が異なる領域は互いに同一でも異なっていてもよい。図には示さないが、パターン化光学異方性層は3つ以上あってもよい。レターデーションあるいは遅相軸の向きが互いに異なる光学異方性層を2層以上設け、それぞれに独立したパターンを与えることにより、さらに多彩な機能を有する潜像を形成することができる。
【0039】
[パターン化光学異方性層]
パターン化光学異方性層は複屈折性の異なる領域を2つ以上有する光学異方性層であるかぎり、特に限定されない。例としては、上述の特開2009−69793号公報に記載の光学異方性層からパターン露光、加熱等の工程を経て作製されたものがあげられる。光学異方性層は液晶性化合物を含む組成物から形成された層であることが好ましい。液晶性化合物としては、高分子液晶でも反応性を有する低分子液晶でもよいが、温度変化や湿度変化を小さくできることから、反応性基を有する棒状液晶性化合物または円盤状液晶性化合物が好ましい。また、前記組成物は、1液晶分子中の反応性基が2以上ある液晶性化合物を少なくとも1つ含むことがさらに好ましい。2種以上の液晶性化合物の混合物の場合、少なくとも1つが2以上の反応性基を有していることが好ましい。
【0040】
好ましくは、架橋機構の異なる2種類以上の反応性基を有する液晶性化合物を用い、条件を選択して2種類以上の反応性基の一部の種類のみを重合させることにより、未反応の反応性基を有するポリマーを含む光学異方性層を作製するとよい。架橋機構としては縮合反応、水素結合、重合など特に限定はないが、2種以上のうち少なくとも一方は重合が好ましく、2種類以上の異なる重合を用いることがさらに好ましい。一般に架橋反応は、重合に用いられるビニル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基だけでなく、水酸基、カルボン酸基、アミノ基なども用いることができる。好ましい、棒状液晶性化合物の具体例としては、特開2009−69793号公報に記載のものがあげられる。
【0041】
光学異方性層に所定の工程を行ってパターン化光学異方性層を作製し、その前後に必要に応じて追加の層を形成することにより複屈折パターンフィルムを作製することができる。パターン化光学異方性層の作製に際して行う工程は特に限定されないが、例えば、パターン露光、加熱、熱書き込みなどが挙げられる。好ましくは光学異方性層を含む複屈折パターン作製材料にパターン露光と加熱をこの順で行うことにより、効率的にパターン化光学異方性層を作製することができる。
【0042】
[パターン露光]
本明細書において、パターン露光とは、複屈折パターン作製材料の一部の領域のみが露光されるように行う露光又は2つ以上の領域に互いに露光条件の異なる露光を意味する。互いに露光条件の異なる露光には、未露光(露光しないこと)が含まれていてもよい。パターン露光の手法としてはマスクを用いたコンタクト露光、プロキシ露光、投影露光などでもよいし、レーザや電子線などを用いてマスクなしに決められた位置にフォーカスして直接描画する走査露光を用いてもよい。また、複屈折パターン作製材料の形態が枚葉であればバッチ式露光、ロール形態であればRtoR式露光でもよい。前記露光の光源の照射波長としては250〜450nmにピークを有することが好ましく、300〜410nmにピークを有することがさらに好ましい。具体的には、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、青色レーザ等が挙げられる。好ましい露光量としては通常3〜2000mJ/cm2程度であり、より好ましくは5〜1000mJ/cm2程度、最も好ましくは10〜500mJ/cm2程度である。パターン露光の解像度を1200dpi以上にすることにより、マイクロ印刷潜像が形成でき、好ましい。解像度を高めるためには、パターン露光時にパターン化光学異方性層が固体であり、尚且つ厚みが10μm以下であることが必要であり、好ましい。厚み10μm以下で実現するためにはパターン化光学異方性層が重合性液晶化合物を含む層を配向固定化したものであることが好ましく、重合性液晶化合物が架橋機構の異なる2種類以上の反応性基を有することが特に好ましい。また、RtoR式露光を使用する場合に用いる巻き芯としては、特に制限は無いが、外径10mm〜3000mm程度のものが好ましく、より好ましくは20mm〜2000mm程度のもの、さらに好ましくは30mm〜1000mm程度のものである。巻き芯に巻きつける際のテンションとしては、特に制限は無いが、1N〜2000N程度が好ましく、より好ましくは3N〜1500N程度であり、さらに好ましくは5N〜1000N程度である。
【0043】
[パターン露光時の露光条件]
複屈折パターン作製材料の2つ以上の領域に互いに露光条件の異なる露光を行う際、「2つ以上の領域」は互いに重なる部位を有していても有していなくてもよいが、互いに重なる部位を有していないことが好ましい。パターン露光は複数回の露光によって行われてもよく、もしくは、例えば領域によって異なる透過スペクトルを示す2つ以上の領域を有するマスク等を用いて1回の露光によって行われていてもよく、又は両者が組み合わされていてもよい。すなわち、パターン露光時に、異なる露光条件で露光された2つ以上の領域を生ずるような形で露光が行われていればよい。走査露光を用いる場合には、露光領域によって光源強度を変える、露光領域の照射スポットを変える、走査速度を変えるなどの手法で領域ごとに露光条件を変えることが可能であり、好ましい。
【0044】
露光条件としては、特に限定はされないが、露光ピーク波長、露光照度、露光時間、露光量、露光時の温度、露光時の雰囲気等が挙げられる。この中で、条件調整の容易性の観点から、露光ピーク波長、露光照度、露光時間、および露光量が好ましく、露光照度、露光時間および露光量がさらに好ましい。パターン露光時に相異なる露光条件で露光された領域はその後、焼成を経て相異なる、かつ露光条件によって制御された複屈折性を示す。特に異なるレターデーション値を与える。すなわち、パターン露光の際に領域ごとに露光条件を調整することにより、焼成を経た後に領域ごとに異なる、かつ所望のレターデーションを有する複屈折パターンを作製することが可能である。なお、異なる露光条件で露光された2つ以上の露光領域間の露光条件は不連続に変化させてもよいし、連続的に変化させてもよい。
【0045】
[マスク露光]
露光条件の異なる露光領域を生じる手段の一つとして、露光マスクを用いた露光は有用である。例えば1つの領域のみを露光するような露光マスクを用いて露光を行った後に、温度、雰囲気、露光照度、露光時間、露光波長を変えて別のマスクを用いた露光や全面露光を行うことで、先に露光された領域と後に露光された領域の露光条件は容易に変更することができる。また、露光照度、あるいは露光波長を変えるためのマスクとして領域によって異なる透過スペクトルを示す2つ以上の領域を有するマスクは特に有用である。この場合、ただ一度の露光を行うだけで複数の領域に対して異なる露光照度、あるいは露光波長での露光を行うことができる。異なる露光照度の下で同一時間の露光を行うことで異なる露光量を与えることができることは言うまでもない。
【0046】
[走査露光]
走査露光は、例えば、光により所望の2次元パターンを描画面上に形成する描画装置を応用して行うことができる。
このような描画装置の代表的な例として、光ビーム発生手段から導出された光ビームを、光ビーム偏向走査手段を介して被走査体上に走査させることにより、所定の画像等を記録するように構成された画像記録装置がある。この種の画像記録装置では、画像等の記録に際して、光ビーム発生手段から導出される光ビームを画像信号に対応して変調させる(特開平7−52453号公報)。
【0047】
また主走査方向に回転するドラムの外周面に貼着された被走査体上に対してレーザビームを副走査方向に走査することで記録を行うタイプ、および、ドラムの円筒内周面に貼着された被走査体上に対してレーザビームを回転走査させることで記録を行うタイプ(特許2783481号)の装置も使用できる。
【0048】
さらに、描画ヘッドにより2次元パターンを描画面上に形成する描画装置を用いることもできる。例えば、半導体基板や印刷版の作製で用いられている、露光ヘッドにより所望の2次元パターンを感光材料等の露光面上に形成する露光装置が使用できる。このような露光ヘッドとして代表的なものは、多数の画素を有し所望の2次元パターンを構成する光点群を発生させる画素アレイを備えている。この露光ヘッドを、露光面に対して相対移動させながら動作させることにより、所望の2次元パターンを露光面上に形成することができる。
【0049】
上記のような露光装置としては、たとえば、DMD(デジタルマイクロミラーデバイス)を露光面に対して所定の走査方向に相対的に移動させるとともに、その走査方向への移動に応じてDMDのメモリセルに多数のマイクロミラーに対応した多数の描画点データからなるフレームデータを入力し、DMDのマイクロミラーに対応した描画点群を時系列に順次形成することにより所望の画像を露光面に形成する露光装置が提案されている(特開2006−327084号公報)。
【0050】
露光ヘッドが備える空間光変調素子としては、上記のDMDの以外の、空間光変調素子を使用することもできる。なお、空間光変調素子は、反射型および透過型のいずれでもよい。そのほかの空間光変調素子の例としては、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)タイプの空間光変調素子(SLM;Special Light Modulator)、電気光学効果により透過光を変調する光学素子(PLZT素子)、液晶光シャッタ(FLC)等の液晶シャッターアレイなどが挙げられる。なお、MEMSとは、IC製造プロセスを基盤としたマイクロマシニング技術によるマイクロサイズのセンサ、アクチュエータ、そして制御回路を集積化した微細システムの総称であり、MEMSタイプの空間光変調素子とは、静電気力を利用した電気機械動作により駆動される空間光変調素子を意味している。
【0051】
さらに、回折格子ライトバルブ(GLV;Grating Light Valve)を複数ならべて二次元状に構成したものを用いることもできる。
露光ヘッドの光源としては、上記したレーザ光源の他に、ランプ等も使用可能である。
【0052】
[2つ以上の光学異方性層のパターン露光]
複屈折パターン作製材料にパターン露光を行って得られた積層体の上に新たな複屈折パターン作製用転写材料を転写し、その後に新たにパターン露光を行ってもよい。この場合、一度目及び二度目ともに未露光部である領域(通常レターデーション値が一番低い)、一度目に露光部であり二度目に未露光部である領域、及び、一度目及び二度目ともに露光部である領域(通常レターデーション値が一番高い)でベーク後に残るレターデーションの値を効果的に変えることができる。なお、一度目に未露光部であり二度目に露光部である領域は、二度目の露光により一度目及び二度目ともに露光部である領域と同様となると考えられる。同様にして転写とパターン露光を交互に三度、四度と行うことにより、四つ以上の領域を作ることも容易にできる。この手法は、異なる領域の間で、露光条件だけでは与え得ないような差異(光学軸の方向の違いや非常に大きなレターデーションの差異など)を持たせたい時に有用である。
【0053】
[加熱(ベーク)]
パターン露光された複屈折パターン作製材料に対して50℃以上400℃以下、好ましくは80℃以上400℃以下に加熱を行うことにより複屈折パターンを作製することができる。加熱に使用する機器としては、温風炉、マッフル炉、IRヒーター、セラミックヒーター、電気炉等が使用できる。また、複屈折パターン作製材料の形態が枚葉であればバッチ式加熱、ロール形態であればRtoR式加熱でもよい。RtoR式加熱を使用する場合に用いる巻き芯としては、特に制限は無いが、外径10mm〜3000mm程度のものが好ましく、より好ましくは20mm〜2000mm程度のもの、さらに好ましくは30mm〜1000mm程度のものである。巻き芯に巻きつける際のテンションとしては、特に制限は無いが、1N〜2000N程度が好ましく、より好ましくは3N〜1500N程度であり、さらに好ましくは5N〜1000N程度である。
なお、複屈折パターンはレターデーションが実質的に0である領域を含んでいてもよい。例えば、2種類以上の反応性基を有する液晶性化合物を用いて光学異方性層を形成した場合において、パターン露光で未露光であると上記ベークによってレターデーションが消失し、実質的に0となる場合がある。
【0054】
ベークを行った複屈折パターン材料の上には、新たな複屈折パターン作製用転写材料を転写し、その後に新たにパターン露光とベークを行ってもよい。この場合、一度目及び二度目の露光条件で組み合わせて、二度目のベーク後に残るレターデーションの値を効果的に変えることができる。この手法は、例えば互いに遅相軸の方向が異なる複屈折性を持つ二つの領域を互いに重ならない形で作りたい時に有用である。
【0055】
[熱書き込み]
上記のように、未露光領域にベークを行うことによってレターデーションを実質的に0にすることが可能であるため、複屈折パターンフィルムには、パターン露光に基づく潜像に加えて、熱書き込みによる潜像が含まれていてもよい。熱書き込みはサーマルヘッド又は、赤外線やYAGなどのレーザ描画を用いて行うことができる。例えば、サーマルヘッドを有する小型のプリンタとの組み合わせで、秘匿を必要とする情報(個人情報、暗証番号、意匠性を損なう商品管理コードなど)を簡便に潜像化することができ、ダンボール箱などに熱書き込みする赤外線やYAGレーザをそのまま用いることもできる。
【0056】
[複屈折パターンフィルムの機能性層]
複屈折パターンフィルムを構成する機能性層としてはパターン化光学異方性層の他に、支持体、配向層、印刷層等のほか、複屈折パターン転写箔を用いて作製された物品場合においては、接着層、などが挙げられる。これらの機能性層はあらかじめ複屈折パターン作製材料に含まれていてもよいし、パターン化光学異方性層が作製された後に形成されてもよい。
【0057】
機能性層はディップコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、スリットコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(米国特許2681294号明細書)による塗布により形成することができる。またこの場合、二層以上の層を同時に塗布してもよい。同時塗布の方法については、米国特許2761791号、同2941898号、同3508947号、同3526528号の各明細書および原崎勇次著、コーティング工学、253頁、朝倉書店(1973)に記載がある。また機能性層の性質に応じて、上記の他の形成法が用いられてもよい。
【0058】
[支持体]
複屈折パターンフィルムを構成する支持体としては特に限定はなく剛直なものでもフレキシブルなものでもよいが、フレキシブルなものが好ましい。剛直な支持体としては特に限定はないが表面に酸化ケイ素皮膜を有するソーダガラス板、低膨張ガラス、ノンアルカリガラス、石英ガラス板等の公知のガラス板、アルミ板、鉄板、SUS板などの金属板、樹脂板、セラミック板、石板などが挙げられる。フレキシブルな支持体としては特に限定はないがセルロースエステル(例、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート)、ポリオレフィン(例、ノルボルネン系ポリマー)、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(例、ポリメチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリスルホン、ノルボルネン系ポリマーなどのプラスチックフィルムや紙、アルミホイル、布などが挙げられる。取扱いの容易さから、剛直な支持体の膜厚としては、100〜3000μmが好ましく、300〜1500μmがより好ましい。フレキシブルな支持体の膜厚としては、3〜500μmが好ましく、10〜200μmがより好ましい。
前述のように支持体が前記の物品であってもよい。
【0059】
[配向層]
パターン化光学異方性層として、液晶性化合物を含む溶液を塗布乾燥して液晶相を形成した後、加熱または光照射して重合固定化した光学異方性層から形成された層を用いた場合等において、複屈折パターンフィルムは、配向層を有していてもよい。配向層は、一般に支持体もしくは仮支持体上又は支持体もしくは仮支持体上に塗設された下塗層上に設けられる。配向層は、その上に設けられる液晶性化合物の配向方向を規定するように機能する。配向層は、光学異方性層に配向性を付与できるものであれば、どのような層でもよい。配向層の好ましい例としては、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理された層、アゾベンゼンポリマーやポリビニルシンナメートに代表される偏光照射により液晶の配向性を発現する光配向層、無機化合物の斜方蒸着層、およびマイクログルーブを有する層、さらにω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチル等のラングミュア・ブロジェット法(LB膜)により形成される累積膜、あるいは電場あるいは磁場の付与により誘電体を配向させた層を挙げることができる。配向層としてはラビングの態様ではポリビニルアルコールを含むことが好ましく、配向層の上または下の少なくともいずれか1層と架橋できることが特に好ましい。配向方向を制御する方法としては、光配向層およびマイクログルーブが好ましい。光配向層としては、ポリビニルシンナメートのように二量化によって配向性を発現するものが特に好ましく、マイクログルーブとしてはあらかじめ機械加工またはレーザ加工により作製したマスターロールのエンボス処理が特に好ましい。
【0060】
[接着層]
複屈折パターン転写箔を用いて作製された複屈折パターンフィルムなどにおいては、接着層が含まれていてもよい。接着層としては感圧性樹脂層、感光性樹脂層および感熱性樹脂層などを用いることができる。
【0061】
[反射層]
複屈折パターン転写を有する物品は必要とする視覚効果を得るために反射層を有していてもよい。反射層としては特に限定されないが偏光解消性のないものが好ましく、金属薄膜層、金属粒子含有層、誘電体薄膜層等が挙げられる。
金属薄膜層に用いられる金属としては特に限定されないがアルミ、クロム、ニッケル、銀、金等が挙げられる。金属薄膜層は、単層膜であっても、多層膜であってもよく、例えば、真空製膜法、物理気相成長法および化学気相成長法等によって製造することができる。反射性の金属粒子を含有する層としては、例えばゴールドやシルバー等のインキで印刷された層が挙げられる。
誘電体薄膜層は単層膜であっても、多層膜であってもよい。用いる材料としては隣接する層との屈折率差が大きい材料を用いて作製された薄膜が好ましい。高屈折率材料としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、酸化インジウム等が挙げられる。低屈折率材料としては、二酸化珪素、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム等が挙げられる。
支持体または物品自体が反射性を有するものであってもよい。
【0062】
[印刷層]
複屈折パターンフィルムは必要とする視覚効果を得るために印刷層を有していてもよい。印刷層とは、可視または紫外線や赤外線などで視認できるパターンを形成した層などが挙げられる。UV蛍光インクやIRインクはそれ自体もセキュリティ印刷であるため、セキュリティ性が向上するので好ましい。印刷層を形成する方法は特に限定はないが、一般的に知られている凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷の他、インクジェットやゼログラフィなどを用いることができる。インクとしては、各種インクを用いることができるが、耐久性の観点から、UVインクを用いることが好ましい。また、解像度を1200dpi以上のマイクロ印刷にすることによっても、セキュリティ性を高めることができるので好ましい。
【0063】
[本発明の物品の応用]
本発明の物品表面の複屈折パターンは通常はほぼ無色透明で、ほとんど視認できないか、印刷層などに基づく像が視認できるのみである一方で、偏光板を介した場合においては、追加の特徴的な明暗、あるいは色を示し容易に目視で認識できる。この性質を生かして、本発明の物品は、例えば偽造防止手段として利用することができる。すなわち、複屈折パターン有する物品は、複屈折パターンフィルム部分において偏光板を用いることで通常の目視ではほぼ不可視である多色の画像を識別することができる。複屈折パターンは偏光板を介さずにコピーしても何も映らず、逆に偏光板を介してコピーすると永続的な、つまりは偏光板無しでも目視可能なパターンとして残る。従って複屈折パターンの複製は困難である。このような複屈折パターンの作製法は広まっておらず、材料も特殊であることから、偽造防止手段として用いるに適していると考えられる。
【0064】
本発明の物品表面の複屈折パターンは、潜像によるセキュリティ効果だけでなく、例えばパターンをバーコード、QRコードのようにコード化することによって、デジタル情報との連携を図ることができ、さらにはデジタル暗号化も可能となる。また、前述のように高解像度潜像を形成することで偏光板を介しても肉眼では見分けがつかないマイクロ潜像印刷にでき、さらにセキュリティを高めることができる。他にもUV蛍光インク、IRインクなどの不可視インクによる印刷との組み合わせでもセキュリティを高めることができる。
【0065】
本発明の物品には、セキュリティだけでなく他の機能の付与、例えば値札や賞味期限などの製品情報表示機能、水につけると色が変色するインクを印刷することによる水没検知機能と組み合わせることも可能である。
【0066】
また、本発明の物品においては複屈折パターンフィルムが基材表面に設けられたことに由来する段差がオーバーコート層により平滑化されているため、物品を、重ねたり巻いたりして、製造、輸送、使用などがされる場合において、取り扱いがしやすいという利点がある。また、オーバーコート層によっては、複屈折パターンフィルムが保護されるという利点も得られるため、複屈折パターンの保護のために設けられる上述の表面層は必ずしも必要ではなく好ましい。さらに、オーバーコート層を適切に選択することにより、複屈折パターンを適用する基材の表面保護性や、強度などの性質を、複屈折パターンフィルムの性質に依存せずに調整することも可能である。
【実施例】
【0067】
(配向層用塗布液AL−1の調製)
下記の組成物を調製し、孔径30μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、配向層用塗布液AL−1として用いた。
──────────────────────────────────―
配向層用塗布液組成(%)
──────────────────────────────────―
ポリビニルアルコール(PVA205、クラレ(株)製) 3.21
ポリビニルピロリドン(Luvitec K30、BASF社製) 1.48
蒸留水 52.10
メタノール 43.21
──────────────────────────────────―
【0068】
(光学異方性層用塗布液LC−1の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、光学異方性層用塗布液LC−1として用いた。
LC−1−1は2つの反応性基を有する液晶化合物であり、2つの反応性基の片方はラジカル性の反応性基であるアクリル基、他方はカチオン性の反応性基であるオキセタン基である。
【0069】
──────────────────────────────────―
光学異方性層用塗布液組成(%)
──────────────────────────────────―
重合性液晶化合物(LC−1−1) 32.88
水平配向剤(LC−1−2) 0.05
カチオン系光重合開始剤
(CPI100−P、サンアプロ株式会社製) 0.66
重合制御剤
(IRGANOX1076、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
0.07
メチルエチルケトン 46.34
シクロヘキサノン 20.00
──────────────────────────────────―
【0070】
【化1】

【0071】
(添加剤層OC−1の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、転写接着層用塗布液OC−1として用いた。ラジカル光重合開始剤RPI−1としては2−トリクロロメチル−5−(p−スチリルスチリル)1,3,4−オキサジアゾールを用いた。下記組成はその溶液としての使用量である。
【0072】
──────────────────────────────────―
添加剤層用塗布液組成(質量%)
──────────────────────────────────―
バインダ(MH−101−5、藤倉化成(株)製) 7.63
ラジカル光重合開始剤(RPI−1) 0.49
界面活性剤 0.03
(メガファックF−176PF、大日本インキ化学工業(株)製)
メチルエチルケトン 91.85
──────────────────────────────────―
【0073】
(複屈折パターン作製材料P−1の作製)
厚さ25μmのポリイミドフィルム(カプトン100H、東レデュポン(株)製)の上にアルミニウムを60nm蒸着し、反射層つき支持体を作製した。そのアルミニウムを蒸着した面上にワイヤーバーを用いて配向層用塗布液AL−1を塗布、乾燥した。乾燥膜厚は0.5μmであった。配向層をラビング処理した後、ワイヤーバーを用いて光学異方性層用塗布液LC−1を塗布、膜面温度90℃で2分間乾燥して液晶相状態とした後、空気下にて160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて紫外線を照射してその配向状態を固定化して厚さ4.5μmの光学異方性層を形成した。この際用いた紫外線の照度はUV−A領域(波長320nm〜400nmの積算)において500mW/cm2、照射量はUV−A領域において500mJ/cm2であった。光学異方性層のレターデーションは400nmであり、20℃で固体のポリマーであった。最後に、光学異方性層の上に添加剤層用塗布液OC−1を塗布、乾燥して0.8μmの添加剤層を形成し、実施例1の複屈折パターン作製材料P−1を作製した。
【0074】
(複屈折パターンフィルムP−2の作製)
P−1をレーザ走査露光によるデジタル露光機(INPREX IP−3600H、富士フイルム(株)製)にて図10に示すように、0mJ/cm2、8mJ/cm2、25mJ/cm2の露光量を用いてパターン露光した。図中、無地で示した領域の露光量が0mJ/cm2、横線で示した領域の露光量が8mJ/cm2、縦線で示した領域の露光量が25mJ/cm2となるように露光した。その後、遠赤外線ヒータ連続炉を用い、膜面温度が210℃となるように20分間加熱して、複屈折パターンフィルムP−2を作製した。物品P−2の上に偏光板(HLC−5618、サンリッツ(株)製)をかざしたところ、所定の方向でかざしたときに、物品P−2に施した複屈折パターンを確認することができた。物品P−2の上に偏光板を介して観察されるパターンの拡大図を図11に示す。図中、地のアルミ箔が銀色を呈するのに対し、格子部は紺色ないし水色、斜線部は黄色ないし橙色を呈する二色のパターンが観察される。
【0075】
作製された複屈折パターンフィルムP−2に粘着剤シートを貼り付けて約25μmの粘着剤(PA−T1、リンテック(株)製)を付与した後に適当な大きさに切断し、商品券に貼り付けた比較例1を作製した。概観を図12に示す。粘着剤を含む複屈折パターンフィルムの厚みは50μmであった。この上に、厚さ100μmのウレタンエラストマーフィルム(DUS605−CER、シーダム(株)製)に粘着剤シートを貼り付けて約25μmの粘着剤(PA−T1、リンテック(株)製)を付与した125μm厚のフィルムを貼合して実施例1を作製した。ウレタンエラストマーフィルムのレターデーションをスペクトル位相差法で10ヶ所測定したところ、3.2±1.0nmであった。図中の認証部の部分が複屈折パターンの施された反射部である。認証部の複屈折パターンは実施例1、比較例1とも通常の目視ではほぼ不可視だが、偏光板をかざす事によって二色のパターンとして目視が可能になり、該パターンによって真贋の判別が可能となる。しかしながら、比較例1の商品券を100枚重ねたところ、複屈折パターンフィルムを貼り付けた位置が膨らんでしまい、梱包に不適切なものとなってしまった。実施例1は100枚重ねても均一なものとなり、良好に梱包することができた。
【0076】
(比較例2)
実施例1のウレタンエラストマーフィルムの代わりに、厚さ100μmのPETフィルム(テトロンG2、帝人デュポン(株)製)を用いた比較例2を作製した。PETフィルムのレターデーションをスペクトル位相差法で10ヶ所測定したところ、532±135nmであった。また比較例2は比較例1と同様100枚重ねたときの梱包性が不良であった。
【0077】
(実施例2、比較例3)
複屈折パターンフィルムP−2に粘着剤シート(PA−T1、リンテック(株)製)を貼り付けて約25μmの粘着剤を付与した後に5mm幅にスリットした。市販の粘着剤付合成紙(VJFP/P5E/PP60、王子タック(株)製)の上にこの物品をRtoRで貼合した。次いでUVシール印刷機を用いて、この支持体上に不揮発分100%で粘度が300mPa・sの無溶剤UVコートニス(TG−2、(株)T&K TOKA製)をワイヤーバーを用いて100μm全面塗布後、空気下にて160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて紫外線を照射して硬化し、図13のように抜き加工、スリット加工して実施例2を作製した。UVコートニス層のレターデーションは、実質的にゼロであった。UVコートニスを塗布せずに抜き加工、スリット加工した比較例3は、ロール形態でP−2貼合部が膨らんでしまって巻き取り不良が発生したのに対し、実施例2では問題なく良好なシールラベルを作製できた。
【符号の説明】
【0078】
101 パターン化光学異方性層
10 基材
11 (仮)支持体
13 反射層又は半透過半反射層
14 配向層
15 粘着層
16 印刷層
17 力学特性制御層
18 転写層
19 添加剤層又は表面層
201 複屈折パターンフィルム
202 オーバーコート層
203 物品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、複屈折性の異なる領域を二つ以上含むパターン化光学異方性層を含む複屈折パターンフィルム、および透明なオーバーコート層をこの順に含む物品であって、
前記複屈折パターンフィルムは前記基材の表面の一部領域に設けられており、
前記オーバーコート層は、前記基材の前記複屈折パターンフィルムが設けられた表面全面を覆っており、
前記複屈折パターンフィルムの厚みが5〜200μmであり、
前記オーバーコート層の厚みが、前記複屈折パターンフィルムが設けられていない領域において前記複屈折パターンフィルムの厚みの1.2〜5倍であり、
前記オーバーコート層の正面レターデーションが0〜200nmで正面レターデーションの誤差が±50nmである物品。
【請求項2】
前記オーバーコート層の正面レターデーションが50nm以下である請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記オーバーコート層の厚みが、複屈折パターンを有するフィルムが設けられていない領域において、複屈折パターンフィルムの厚みの1.5〜3倍である請求項1または2に記載の物品。
【請求項4】
前記オーバーコート層が100℃以下のガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーを含むフィルムであって、延伸倍率が2倍以下のフィルムからなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の物品。
【請求項5】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、またはポリウレタンエラストマーである請求項4に記載の物品。
【請求項6】
前記オーバーコート層が、複屈折パターンフィルムが設けられている前記基材上に直接塗布された紫外線硬化モノマーを含む無溶剤の組成物を、紫外線硬化することにより形成された層である請求項1〜3のいずれか一項に記載の物品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2013−68868(P2013−68868A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208531(P2011−208531)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】