説明

複屈折フィルムおよび偏光素子

【課題】溶解性の高いエステル系ポリマーを含み、厚み方向の複屈折率Δnxz(=n−n)が大きい複屈折フィルムを実現する。
【解決手段】エステル系ポリマーは式(I)で表わされる繰り返し単位を有し、A、Bはスチルベン基に置換する置換基で、独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基。a、bはA、Bの置換数で、独立して0〜4のいずれかの整数。Rは水素原子、炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基。Rは炭素数2〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基。R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基。nは2以上の整数。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学フィルムに関し、特に複屈折フィルムおよび偏光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルでは光の位相差を制御するため複屈折フィルムが用いられる。複屈折フィルムとして、芳香族ポリイミドや芳香族ポリエステルなどの芳香族ポリマーを主成分とするコーティング液を、ガラス板やポリマーフィルムなどの基材の上に流延して塗膜を成膜し、芳香族ポリマーを配向させたものが知られている(特許文献1)。
【0003】
従来のこの種の芳香族ポリマーは耐熱性や機械的強度に優れるという特徴がある一方、有機溶媒に対する溶解性に乏しいという欠点がある。このため従来の芳香族ポリマーを主成分とする複屈折フィルムは、当該芳香族ポリマーを、例えばシクロペンタノン、メチルエチルケトン、ジクロロエタンのような極性の高い溶媒に溶解させて溶液状にした後、流延、塗布し、乾燥して成膜されていた。しかしこの成膜方法においては、当該芳香族ポリマーを溶解できる溶媒の選択肢が限られるため、乾燥条件が制限されたり高価な設備が必要であったりした。そのため例えばトルエンのような極性の低い溶媒に可溶な新規の芳香族ポリマーが求められていた。
【特許文献1】特開2004−70329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、極性の低い溶媒に溶解性の高い芳香族ポリマーを含み、さらに厚み方向の複屈折率Δnxz(=n−n)が大きな複屈折フィルムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、従来背反関係にあった高い溶解性と厚み方向の大きな複屈折率Δnxzの関係を改善すべく鋭意検討した結果、
(1)ポリマー骨格中にスチルベン基を導入することと、
(2)一般式(I)のR、または一般式(II)中のR、Rに特定の置換基を導入すること
によりこれが解決できることを見出した。
【0006】
本発明の要旨は次の通りである。
(1)本発明の複屈折フィルムは、下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有するエステル系ポリマーを含むことを特徴とする。
【化1】

一般式(I)において、AおよびBはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。aおよびbはそれぞれ独立して0〜4のいずれかの整数である。Rは水素原子、炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。Rは炭素数2〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基を表わす。R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。nは2以上の整数である。
(2)本発明の複屈折フィルムは、前記一般式(I)において、Rがメチル基、Rが炭素数2〜4の直鎖もしくは分枝のアルキル基であることを特徴とする。
(3)本発明の複屈折フィルムは、前記一般式(I)において、R〜Rがそれぞれ独立して炭素数1〜4の直鎖もしくは分枝のアルキル基であることを特徴とする。
(4)本発明の複屈折フィルムは、下記一般式(II)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有する共重合体エステル系ポリマーを含むことを特徴とする。
【化2】

一般式(II)において、Rは水素原子、炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。Rは炭素数2〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基を表わす。R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。R、RはそれぞれR、Rと同様である。R〜R12はそれぞれR〜Rと同様である。lおよびmは2以上の整数である。
(5)本発明の複屈折フィルムは、前記一般式(II)で表わされる共重合体エステル系ポリマーにおいて、l/(l+m)の値が0.3〜0.8であることを特徴とする。
(6)本発明の複屈折フィルムは、前記一般式(I)または一般式(II)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有するエステル系ポリマーのガラス転移温度が100℃以上、300℃以下であることを特徴とする。
(7)本発明の偏光素子は、上記の複屈折フィルムと偏光子とを含むことを特徴とする。
(8)本発明の偏光素子は、(上記の複屈折フィルム)/接着層/偏光子/接着層/透明保護フィルムがこの順に積層されたことを特徴とする。
(9)本発明の偏光素子は、(上記の複屈折フィルムと基材との積層体)/接着層/偏光子/接着層/透明保護フィルムがこの順に積層されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複屈折フィルムは、極性の低い溶媒にも溶解性の高い一般式(I)または一般式(II)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有するエステル系ポリマーを含むため、エステル系ポリマーを塗布する基材の自由度が高く、さらに厚み方向の複屈折率Δnxz(=n−n)が大きい複屈折フィルムを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
従来の芳香族ポリマーにおいては、ポリマー構造を直線状にして厚み方向の複屈折率Δnxzを大きくすると溶解性が低下し、ポリマー構造を屈曲状にして溶解性を高めると厚み方向の複屈折率Δnxzが小さくなるという問題があった。前者の例としてはテレフタル酸等のパラ置換6員環、後者の例としてはイソフタル酸等のメタ置換6員環がある。すなわち溶解性を高めることと厚み方向の複屈折率Δnxzを大きくすることは背反関係にあった。
【0009】
本発明者らは、従来背反関係にあった溶解性と厚み方向の複屈折率Δnxzの関係を改善すべく鋭意検討した結果、
(1)ポリマー骨格中にスチルベン基を導入することと、
(2)一般式(I)のR、または一般式(II)中のR、Rに特定の置換基を導入すること
により溶解性と厚み方向の複屈折率の関係が改善できることを見出した。R、Rに導入される特定の置換基とは炭素数2〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基である。その理由は次のように推定される。
(1)スチルベン基はポリマー鎖を適度に屈曲させて溶解性を高めることができ、またπ電子が豊富であるため芳香族環同士の相互作用を強めて厚み方向の複屈折率Δnxzを大きくすることができる。
(2)R、Rに導入される特定の置換基は、その置換基の大きさに応じて、隣接する2つのベンゼン環を互いにねじれるように変形させ、溶解性を高めることができる。またポリマー構造の直線性を維持して厚み方向の複屈折率Δnxzの低下を抑えることができる。
【0010】
[複屈折フィルム]
本発明の複屈折フィルムは一般式(I)または一般式(II)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有するエステル系ポリマーを含むことを特徴とする。本明細書において「複屈折フィルム」とは、フィルム面内および厚み方向の一方もしくは両方に屈折率異方性を有する透明フィルムをいう。本発明の複屈折フィルムは、好ましくは、フィルム厚み方向の屈折率nがフィルム面内の最大屈折率nよりも小さい、すなわちn>nの関係を満たすものである。
【0011】
本発明の複屈折フィルムの波長550nmにおける厚み方向の複屈折率Δnxz(=n−n)は好ましくは0.02以上であり、より好ましくは0.02〜0.08である。本発明の複屈折フィルムはこのような高い厚み方向の複屈折率Δnxzを有することにより、所望の厚み方向の位相差値Rth(=Δnxz×フィルム厚み)を有する複屈折フィルムをより薄く作製することが可能になる。
【0012】
本発明の複屈折フィルムの厚みは用途や所望の厚み方向の位相差値に応じて適宜設定されるが、好ましくは1μm〜20μm、より好ましくは1μm〜10μmである。
【0013】
本発明の複屈折フィルムの波長400nmにおける透過率は、好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上である。本発明の複屈折フィルムは一般式(I)または一般式(II)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有するエステル系ポリマーを用いることによりこのような高い透過率を得ることができた。この理由は、R、Rに導入される特定の置換基が、隣接する2つのベンゼン環を互いにねじれるように変形させて、ベンゼン環の過度の重なりを抑えることができたからである。
【0014】
[エステル系ポリマー]
本発明の複屈折フィルムは下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有するエステル系ポリマーを含むことを特徴とする。
【化1】

一般式(I)において、AおよびBはスチルベン基に置換する置換基で、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。aおよびbはAおよびBの置換数で、それぞれ独立して0〜4のいずれかの整数である。Rは水素原子、炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。Rは炭素数2〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基を表わす。R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わす。nは2以上の整数である。
【0015】
このようにポリマー骨格中にスチルベン基を導入し、かつ、R、Rに特定の置換基を導入することにより、溶解性を高めることと厚み方向の複屈折率Δnxzを大きくすることが両立可能になる。
【0016】
好ましくは一般式(I)におけるRはメチル基、Rは炭素数2〜4の直鎖もしくは分枝のアルキル基である。R〜Rは炭素数1〜4の直鎖もしくは分枝のアルキル基である。R〜Rのアルキル基の炭素数が多すぎると(例えばRおよびRで11以上、R〜Rで7以上)、厚み方向の複屈折率が小さくなったり、耐熱性(ガラス転移温度)が低下したりするおそれがある。
【0017】
本発明の複屈折フィルムは一つの実施形態として、下記一般式(II)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有するエステル系ポリマー(共重合体)を含む。式(II)中、lおよびmは2以上の整数であり、R〜Rは一般式(I)と同様である。R、RはそれぞれR、Rと同様であり、R〜R12はそれぞれR〜Rと同様である。lおよびmは2以上の整数を表わす。
【化2】

一般式(II)で表わされるポリマーのシーケンスに特に制限はなく、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。一般式(II)で表わされるエステル系ポリマーにおいてスチルベン基を含む繰り返し単位の含有率、すなわちl/(l+m)の値は、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.3〜0.8である。l/(l+m)の値がこの範囲であれば、特に溶解性に優れ厚み方向の複屈折率の大きな複屈折フィルムが得られる。
【0018】
上記のエステル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)に特に制限はないが、好ましくは10,000〜500,000である。上記のエステル系ポリマーのガラス転移温度は、耐熱性の観点から100℃以上が好ましく、成形性や延伸性の観点から300℃以下が好ましい。
【0019】
本発明の複屈折フィルムは上記のエステル系ポリマーを複屈折フィルムの総重量の、好ましくは50重量%〜100重量%、より好ましくは80重量%〜100重量%含む。本発明の複屈折フィルムは一般式(I)または一般式(II)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有するエステル系ポリマー以外のポリマー(例えばイミド系ポリマー、エーテルケトン系ポリマー、アミドイミド系ポリマー、スチレン系ポリマーなど)を含んでいてもよい。また本発明の複屈折フィルムは紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤などの任意の添加剤を含むことができる。
【0020】
[エステル系ポリマーの重合方法]
上記のエステル系ポリマーは、通常、ビフェノール化合物とジカルボン酸化合物とを重縮合させて得ることができる。重縮合方法に特に制限はないが、相間移動触媒の存在下、ビフェノール化合物とジカルボン酸化合物とをアルカリ水溶液と水非混和性有機溶剤の2相系で反応させる界面重合法が好ましく用いられる。このような重合法によれば透明性に優れ、分子量の大きなエステル系ポリマーを得ることができる。
【0021】
上記のビフェノール化合物として、例えば2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタンなどが用いられる。
【0022】
上記のジカルボン酸化合物として、好ましくは、4,4’−スチルベンジカルボン酸クロライドが用いられる。一般式(II)のように共重合体とする場合は、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、フタル酸クロライド、ビフェニルジカルボン酸クロライドなどが併用される。
【0023】
上記の相間移動触媒に特に制限はないが、メチルトリn−オクチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩や、テトラフェニルホスホニウムクロライドなどの第4級ホスニウム塩などが用いられる。上記の水非混和性有機溶剤に特に制限はないが、クロロホルム、ジクロロメタンなどが用いられる。
【0024】
[複屈折フィルムの製造方法]
本発明の複屈折フィルムは溶液流延法や溶融押し出し法などの任意の方法により成膜することができる。本発明に用いられるエステル系ポリマーは、溶媒の揮発過程で、フィルム厚み方向の屈折率nがフィルム面内の屈折率の最大値nより小さくなるように、ポリマー環が自発的に配向する性質を有する。このため本発明の複屈折フィルムの製造においては、複屈折性の発現性の観点から溶液流延法が好ましく用いられる。
【0025】
溶液流延法は上記のエステル系ポリマーを溶媒に溶解して溶液を調製し、この溶液を基材の表面に流延、塗布して、乾燥する方法である。溶媒としては上記のエステル系ポリマーを溶解するものであれば特に制限は無く、例えばトルエン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、酢酸エチルなどが用いられる。上記の溶液の濃度は通常1重量%〜40重量%である。流延、塗布手段としてはスピンコータ、ダイコータ、バーコータなどの任意のコータが用いられる。乾燥手段としては空気循環式乾燥オーブン、熱ドラムなどの任意の乾燥装置が用いられる。乾燥温度は通常40℃〜200℃である。
【0026】
上記の溶液を塗布するための基材に特に制限はなく、単層のものでもよいし複数層の積層体(例えばアンカーコート層を含む)であってもよい。具体的な基材としてはガラス板やポリマーフィルムがある。基材がアンカーコート層を含む場合、アンカーコート層に特に制限はないが、エステル系ポリマーとの密着性が良好であるという点で、ビニルアルコール系ポリマーやウレタン系ポリマーが好ましい。アンカーコート層の厚みは好ましくは0.01μm〜5μmである。
【0027】
基材としてのガラス板は、例えば無アルカリガラスのように液晶セルに用いられるものが好ましい。基材としてポリマーフィルムを用いると基材に可撓性をもたせることができる。基材に用いるポリマーフィルムの素材としてはフィルム形成性のあるポリマーであれば特に限定されないが、スチレン系ポリマー、(メタ)アクリル酸系ポリマー、エステル系ポリマー、オレフィン系ポリマー、ノルボルネン系ポリマー、イミド系ポリマー、セルロース系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、カーボネート系ポリマーなどがある。基材の厚みは用途によるほかは特に限定されないが、一般的には1μm〜1000μmの範囲である。
【0028】
一般式(I)または一般式(II)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有するエステル系ポリマーは溶解性に優れるため、ポリマーフィルムの侵食が少ない溶媒、例えばトルエンが使用できる。このため従来のエステル系ポリマーでは侵食が激しくて使用できなかった基材、例えば(メタ)アクリル酸系ポリマー、オレフィン系ポリマーを主成分とするフィルムも使用できる。これにより複屈折フィルムのコストを下げることが可能になる。
【0029】
[偏光素子]
本発明の偏光素子は本発明の複屈折フィルムと偏光子とを含む。偏光子は光を2つの直交する偏光成分に分離したとき、一方の偏光成分を透過し、他方の偏光成分を吸収、散乱ないし反射するものであれば任意のものが用いられる。偏光子は、例えばポリビニルアルコールを二色性色素で染色して延伸したものである。偏光子の厚みには特に制限はないが、例えば10μm〜200μmである。
【0030】
本発明の偏光素子は一つの実施形態として、(本発明の複屈折フィルム)/接着層/偏光子/接着層/透明保護フィルムがこの順に積層されてなる。この構成によれば、本発明の複屈折フィルムが偏光子の保護フィルムを兼ねるため、偏光素子を薄型化することができる。
【0031】
本発明の偏光素子は他の実施形態として、(本発明の複屈折フィルムと基材との積層体)/接着層/偏光子/接着層/透明保護フィルムがこの順に積層されてなる。この構成によれば、複屈折フィルムの製造工程において得られた複屈折フィルムと基材との積層体を偏光子の保護フィルムとして利用することができるため、複屈折フィルムを基材から剥離する工程が省かれ、偏光素子の生産性が向上する。
【0032】
上記の構成における透明保護フィルムは透明で複屈折率の小さいフィルムであれば特に制限はなく、例えば上記の(メタ)アクリル酸系ポリマー、オレフィン系ポリマーのほかにセルロース系ポリマー、ノルボルネン系ポリマーを含むフィルムが用いられる。
【0033】
[複屈折フィルム、偏光素子の用途]
本発明の複屈折フィルム、偏光素子は光学異方性を活かして各種の光学素子に用いられる。特に各種液晶パネル、例えばパソコンモニター、ノートパソコン、コピー機、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機器、ビデオカメラ、液晶テレビ、電子レンジ、バックモニター、カーナビゲーション、カーオーディオ、店舗用モニター、監視用モニター、介護用モニター、医療用モニターなどの液晶パネルに好適に用いられる。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
攪拌装置を備えた反応容器の中で表1に示すように、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン3.27gとメチルトリn−オクチルアンモニウムクロライド0.20gを1M水酸化カリウム水溶液35mlに溶解させた。この溶液に、4,4’−スチルベンジカルボン酸クロライド3.05gを35mlのクロロホルムに溶解させた溶液を攪拌しながら一度に加え、室温(23℃)で90分間攪拌した。その後重合溶液を静置分離してポリマーを含んだクロロホルム溶液を分離し、酢酸水で洗浄し、さらにイオン交換水で洗浄した後、メタノールに投入してポリマーを析出させた。析出したポリマーを濾過し、減圧乾燥させて白色の下記構造式(III)のポリマーを得た。
【化3】

【0035】
このポリマーのガラス転移温度Tgは232℃、重量平均分子量Mwは144,000であった。各溶媒(シクロペンタノン、トルエン)に対する溶解性は、表2に示すように全ての溶媒に20重量%以上溶解した。
【0036】
得られたポリマーをトルエンに溶解させ、スピンコート法によってガラス基板上に流延、塗布し、70℃で5分間乾燥させた後、さらに110℃で乾燥させて複屈折フィルムを作製した。乾燥後の複屈折フィルムの厚みは2.5μm、透過率は92%、波長550nmにおける厚み方向の複屈折率Δnxz[550]は表2に示すように0.067であった。
【0037】
[実施例2]
4,4’−スチルベンジカルボン酸クロライド3.05gに代えて、4,4’−スチルベンジカルボン酸クロライド1.53gとイソフタル酸クロライド1.02gを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、下記構造式(IV)のポリマーを得た。
【化4】

【0038】
このポリマーのガラス転移温度Tgは228℃、重量平均分子量Mwは108,000であった。各溶媒(シクロペンタノン、トルエン)に対する溶解性は、表2に示すように全ての溶媒に20重量%以上溶解した。
【0039】
得られたポリマーを用いて実施例1と同様の方法で複屈折フィルムを作製した。乾燥後の複屈折フィルムの厚みは2.5μm、透過率は92%、波長550nmにおける厚み方向の複屈折率Δnxz[550]は表2に示すように0.039であった。
【0040】
[比較例1]
メチルトリn−オクチルアンモニウムクロライド0.20gに代えてベンジルトリエチルアンモニウムクロライド0.06gを用いたことと、4,4’−スチルベンジカルボン酸クロライド3.05gに代えてテレフタル酸クロライド2.03gを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、下記構造式(V)のポリマーを得た。
【化5】

【0041】
このポリマーのガラス転移温度Tgは205℃、重量平均分子量Mwは39,000であった。各溶媒(シクロペンタノン、トルエン)に対する溶解性は、表2に示すように全ての溶媒に20重量%以上溶解した。
【0042】
得られたポリマーを用いて実施例1と同様の方法で複屈折フィルムを作製した。乾燥後の複屈折フィルムの厚みは2.5μm、透過率は92%、波長550nmにおける厚み方向の複屈折率Δnxz[550]は表2に示すように0.016であった。
【0043】
[比較例2]
メチルトリn−オクチルアンモニウムクロライド0.20gに代えてベンジルトリエチルアンモニウムクロライド0.06gを用いたことと、4,4’−スチルベンジカルボン酸クロライド3.05gに代えてテレフタル酸クロライド1.02gとイソフタル酸クロライド1.02gを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、下記構造式(VI)のポリマーを得た。
【化6】

【0044】
このポリマーのガラス転移温度Tgは205℃、重量平均分子量Mwは61,000であった。各溶媒(シクロペンタノン、トルエン)に対する溶解性は、表2に示すように全ての溶媒に20重量%以上溶解した。
【0045】
得られたポリマーを用いて実施例1と同様の方法で複屈折フィルムを作製した。乾燥後の複屈折フィルムの厚みは2.5μm、透過率は92%、波長550nmにおける厚み方向の複屈折率Δnxz[550]は表2に示すように0.014であった。
【0046】
[比較例3]
2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン3.27gに代えて2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン2.28gを用いたことと、メチルトリn−オクチルアンモニウムクロライド0.20gに代えてベンジルトリエチルアンモニウムクロライド0.07gを用いたことと、4,4’−スチルベンジカルボン酸クロライド3.05gに代えてテレフタル酸クロライド1.02gとイソフタル酸クロライド1.02gを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、下記構造式(VII)のポリマーを得た。
【化7】

【0047】
このポリマーのガラス転移温度Tgは200℃、重量平均分子量Mwは77,000であった。各溶媒(シクロペンタノン、トルエン)に対する溶解性は、表2に示すようにシクロペンタノン、トルエンに不溶であった。
【0048】
得られたポリマーをクロロホルムに溶解して実施例1と同様の方法で複屈折フィルムを作製した。乾燥後の複屈折フィルムの厚みは2.5μm、透過率は92%、波長550nmにおける厚み方向の複屈折率Δnxz[550]は表2に示すように0.020であった。
【表1】

【表2】

【0049】
[評価]
実施例1のエステル系ポリマー(構造式III)は各溶媒(シクロペンタノン、トルエン)に良好な溶解性を示し、さらにこのエステル系ポリマーから得られた複屈折フィルムは非常に高い複屈折率(Δnxz[550]=0.067)を示した。
【0050】
実施例2のエステル系ポリマー(構造式IV)は各溶媒(シクロペンタノン、トルエン)に良好な溶解性を示し、さらにこのエステル系ポリマーから得られた複屈折フィルムは高い複屈折率(Δnxz[550]=0.039)を示した。実施例1よりもかなり複屈折率が低い理由は、4,4’−スチルベンジカルボン酸クロライドを減らしてイソフタル酸クロライドを加えて共重合体を形成したためと考えられる。
【0051】
比較例1のエステル系ポリマー(構造式V)は各溶媒(シクロペンタノン、トルエン)に良好な溶解性を示すが、このエステル系ポリマーから得られた複屈折フィルムの複屈折率が低い(Δnxz[550]=0.016)という問題があった。
【0052】
例えば、厚み方向の位相差値(=厚み方向の複屈折率Δnxz[550]×フィルム厚み)が200nmである複屈折フィルムを作製した場合、比較例1のエステル系ポリマーを用いるとフィルム厚みは12.5μmとなるが、実施例1のエステル系ポリマーを用いればフィルム厚みは3.0μmで済み、9.5μm(76%)もの薄型化ができる。
【0053】
比較例2のエステル系ポリマー(構造式VI)は各溶媒(シクロペンタノン、トルエン)に良好な溶解性を示すが、このエステル系ポリマーから得られた複屈折フィルムの複屈折率が比較例1よりさらに低い(Δnxz[550]=0.014)という問題があった。
【0054】
比較例3のエステル系ポリマー(構造式VII)は、このエステル系ポリマーから得られた複屈折フィルムの複屈折率が比較例1、2より多少高い(Δnxz[550]=0.020)という利点はあるが、各溶媒(シクロペンタノン、トルエン)に溶解しないため使用しにくいという問題があった。
【0055】
[測定方法]
[ガラス転移温度]
示差走査熱量計(セイコー社製 製品名「DSC−6200」)を用いて、JIS K 7121(1987 プラスチックの転移温度測定方法)に準じた方法により測定した。具体的には3mgの粉末サンプルを窒素雰囲気下(窒素ガス流量50ml/分)において、昇温速度10℃/分で室温から220℃まで昇温させた後、降温速度10℃/分で30℃まで降温させて1回目の測定を行なった。次に昇温速度10℃/分で350℃まで昇温して2回目の測定を行なった。ガラス転移温度としては2回目の測定データを採用した。なお熱量計は標準物質(インジウム)を用いて温度補正した。
【0056】
[重量平均分子量]
重量平均分子量は各試料を0.1%テトラヒドロフラン溶液に調整し、0.45μmメンブレンフィルターにて濾過した後、GPC本体としてゲルパーミエーションクロマトグラフ装置(東ソー社製 製品名「HLC−8820GPC」)を用い、検出器としてRI(GPC本体に内蔵)を用いて測定した。具体的にはカラム温度40℃、ポンプ流量0.35ml/分とし、データ処理は予め分子量既知の標準ポリスチレンの検量線を用いて、ポリスチレン換算分子量より分子量を求めた。なお使用カラムはSuperHZM−M(径6.0mm×15cm)、SuperHZM−M(径6.0mm×15cm)およびSuperHZ2000(径6.0mm×15cm)を直列につないだものを用い、移動相としてはテトラヒドロフランを用いた。
【0057】
[透過率]
分光光度計(日立製作所製 製品名「U−4100」)を用いて、波長400nmにおける透過率を測定した。
【0058】
[厚み方向の複屈折率]
王子計測機器社製 製品名「KOBRA−WPR」を用いて波長550nmで測定した。厚み方向の複屈折率Δnxz[550]は、正面位相差値およびサンプルを40度傾けた際の位相差値(R40)から、装置に付属のプログラムにより計算して求めた。膜厚はSloan社製 製品名「Dektak」により求めた値を用いた。
【0059】
[溶解性]
各溶媒を入れたサンプル瓶にポリマーを少しずつ加え、溶解の程度を目視観察した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有するエステル系ポリマーを含むことを特徴とする複屈折フィルム。
【化1】

(一般式(I)において、AおよびBはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わし、aおよびbはそれぞれ独立して0〜4のいずれかの整数であり、Rは水素原子、炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わし、Rは炭素数2〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基を表わし、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わし、nは2以上の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(I)において、Rがメチル基、Rが炭素数2〜4の直鎖もしくは分枝のアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の複屈折フィルム。
【請求項3】
前記一般式(I)において、R〜Rがそれぞれ独立して炭素数1〜4の直鎖もしくは分枝のアルキル基であることを特徴とする請求項1または2に記載の複屈折フィルム。
【請求項4】
下記一般式(II)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有する共重合体エステル系ポリマーを含むことを特徴とする複屈折フィルム。
【化2】

(一般式(II)において、Rは水素原子、炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わし、Rは炭素数2〜10の直鎖もしくは分枝のアルキル基を表わし、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表わし、R、RはそれぞれR、Rと同様であり、R〜R12はそれぞれR〜Rと同様であり、lおよびmは2以上の整数である。)
【請求項5】
前記一般式(II)で表わされる共重合体エステル系ポリマーにおいて、l/(l+m)の値が0.3〜0.8であることを特徴とする請求項4に記載の複屈折フィルム。
【請求項6】
前記一般式(I)または一般式(II)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有するエステル系ポリマーのガラス転移温度が100℃以上、300℃以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の複屈折フィルム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の複屈折フィルムと偏光子とを含むことを特徴とする偏光素子。
【請求項8】
(請求項1から6のいずれかに記載の複屈折フィルム)/接着層/偏光子/接着層/透明保護フィルムがこの順に積層されたことを特徴とする偏光素子。
【請求項9】
(請求項1から6のいずれかに記載の複屈折フィルムと基材との積層体)/接着層/偏光子/接着層/透明保護フィルムがこの順に積層されたことを特徴とする偏光素子。

【公開番号】特開2009−198711(P2009−198711A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39073(P2008−39073)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】