説明

複屈折マーキング

【課題】従来技術のデバイスの欠点を有さず、偽造が困難となる効果を示し、大規模でも経済的な製造が可能である、特に装飾、セキュリティ、認証、または識別用途向けの複屈折マーキングを提供する。
【解決手段】発明は、基材の少なくとも1 つの面上に重合可能な液晶材料を印刷し、前記液晶材料を重合することにより複屈折マーキングを調製する方法、この方法により得られる複屈折マーキング、および前記複屈折マーキングの装飾、セキュリティ、認証、および識別用途での使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷技術を用いて基材の少なくとも1つの面上に重合可能な液晶材料を付着させ、前記液晶材料を重合させることにより、重合液晶材料を含む複屈折マーキングを調製する方法に関する。本発明はさらに、この方法により得られる複屈折マーキング、および前記複屈折マーキングの装飾、セキュリティ、認証、または識別用途での使用に関する。さらに、本発明は、本発明の複屈折マーキングを含む、セキュリティ、認証、または識別マーキング、スレッド、またはデバイス、有価証券、ホットスタンピングフォイル、反射フォイル、および光データ記憶デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー液晶材料を含む複屈折フィルムは従来技術において公知である。英国特許第2324382号では、プラスチック基材上にコートされ、重合され、それによりロールツーロールコーティングが適用可能になる重合可能な液晶材料から調製された、ホメオトロピック配向を有する液晶ポリマーフィルムが開示されている。ポリマー液晶材料のマトリックス中に固定されている界面活性剤を含む配向層の使用も記載されている。一代替実施形態によれば、基材をアルミニウムまたは十分に滑らかなAl23でコートして、液晶材料をホメオトロピック配向させる。得られた均一にホメオトロピック配向したフィルムは、電気光学ディスプレイ、光学補償層中で、またはアクティブスイッチング層として用いることができる。
【0003】
複屈折フィルムをセキュリティデバイスとして使用することも従来技術において報告されている。
【0004】
英国特許第2330360号では、少なくとも2つの反射波長の最大値を示す、らせん状にねじれた分子構造を有するポリマーフィルムが記載されている。このフィルムは、様々な温度でサーモクロミックメソゲン組成物を重合することで得られる。重合中に温度を変化させるため、この重合可能なサーモクロミック組成物のらせんピッチが変化し、それに伴い最大反射率も変化する。重合反応により様々なピッチ長さが定まり、温度変化の種類、程度、および速度に応じて一連の反射色を示すポリマーフィルムが得られる。
【0005】
しかし、英国特許第2330360号に記載の方法の欠点は、重合プロセス中に温度およびその変化を正確に制御する必要があることと、サーモクロミック特性を有する特定の材料が必要であることである。
【0006】
英国特許第2357061号では、重合液晶材料の層を含むセキュリティ用途向けのホットスタンピングフォイルが開示されている。この液晶ポリマー層は、プラスチック基材上で調製され、次いで、その反対表面にホットメルト接着剤を有する例えばアルミニウムの反射層で積層される。液晶層はラッカーで保護されている。配置された層の全体は、支持層で支えられている。支持層とラッカー層の間にあるワックス層は、熱を加えることにより、配置された複屈折層の放出を可能にする。この液晶材料は、例えば、平面、チルト、スプレイ、またはホメオトロピック構造、および巨視的に均一な配向を有する、重合または架橋したネマチックまたはスメクチック材料である。このホットスタンピングフォイルは、装飾目的で、あるいは有価証券、例えば銀行紙幣、クレジットカード、またはIDカードを認証し、その偽造を防止するために用いることができる。複屈折材料による偏光の透過または反射効果は、直線偏光子を用いた場合にみることができる。二色性染料を組み込むことで、さらなる色彩効果が得られる。
【0007】
しかし、英国特許第2357061号に記載のプロセスは、典型的にはプラスチック基材上で調製されるポリマー液晶材料を、反射性アルミニウム層に移動させるかまたは積層する、あるいはアルミニウム層を液晶層に付着させる、追加のプロセス工程を必要とする。これは、アルミニウム表面上のネマチック液晶の自然な配向がホメオトロピックであるために必要である。しかし、この配向は隠されたデザインを表示するには有用ではない。また、重合可能な材料を基材上にコートして液晶ポリマー層を調製すると、通常はこの材料が均一にコートされた領域が生じる。像やパターンの形成には、特定の材料、またはフォトマスクや光配向などのさらなる技術が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】英国特許第2324382号
【特許文献2】英国特許第2330360号
【特許文献3】英国特許第2357061号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の目的
本発明の目的は、従来技術のデバイスの欠点を有さず、偽造が困難となる効果を示し、大規模でも経済的な製造が可能である、特に装飾、セキュリティ、認証、または識別用途向けの複屈折マーキングを提供することにある。
【0010】
本発明のさらなる目的は、迅速で確実かつ安価な製造を可能とする、本発明の複屈折マーキングの調製方法に関する。
【0011】
本発明のさらなる目的は、本発明の複屈折マーキングの有利な使用を提供することにある。
【0012】
本発明のさらなる目的は、偽造が困難である、セキュリティ、認証、または識別マーキングまたはデバイス、反射フィルム、および光データ記憶デバイスに関する。
【0013】
本発明の他の目的は、以下の詳細の説明により当業者には直ちに明らかとなる。
【0014】
本発明者らは、本発明の方法により得られる重合液晶材料を含む複屈折マーキングを提供することにより、上記の目的を実現できることを発見した。前記方法では、重合可能な液晶材料を基材上に付着させて重合させ、前記基材は反射基材であり、前記重合可能な液晶材料は印刷技術によって付着させる。前記方法により調製された複屈折マーキングは、特に著しい視覚効果を示す。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の概要
本発明は、反射基材の少なくとも1つの表面上に重合可能な液晶材料を印刷し、前記液晶材料を重合させることにより、重合液晶材料を含む複屈折マーキングを調製する方法に関する。
【0016】
本発明はさらに、本発明の方法により得られる複屈折マーキングに関する。
【0017】
本発明はさらに、本発明の複屈折マーキングの装飾、セキュリティ、認証、または識別用途での使用に関する。
【0018】
本発明はさらに、少なくとも1つの本発明の複屈折マーキングを含むセキュリティ、認証、または識別マーキング、スレッドまたはデバイスに関する。
【0019】
本発明はさらに、少なくとも1つの本発明の複屈折マーキング、あるいは少なくとも1つの本発明のセキュリティ、認証、または識別マーキング、スレッドまたはデバイスを含む、有価証券、ホットスタンピングフォイル、反射フォイル、または光データ記憶デバイスに関する。
【0020】
用語の定義
本出願に記載の液晶層およびフィルムに関して、本出願全体にわたって用いるものとして、以下の用語の定義が挙げられる。
【0021】
本出願で用いる「フィルム」という用語は、多少なりとも顕著な機械安定性および柔軟性を示す自己支持、すなわち自立フィルムまたはフォイル;コートまたは印刷が部分的でも全面的でもよいプレコート、プレ印刷、または積層されたフォイル;および支持用基材上の、または2つ以上の基材の間のコーティングまたは層を含む。
【0022】
「マーキング」という用語は、基材の全領域を覆うフィルム、コーティング、または層;および基材の個別領域を覆う、例えば規則的なパターンまたはイメージの形をしたマーキングを含む。
【0023】
「液晶またはメソゲン材料」あるいは「液晶またはメソゲン化合物」という用語は、1つまたは複数の棒状、板状、または円盤状のメソゲン基、すなわち液晶相の挙動を誘起する能力をもつ基を含む材料または化合物を意味する。棒状または板状の基を有する液晶化合物は、当技術分野では「カラミティック」液晶としても知られている。円盤状の基を有する液晶化合物は、当技術分野では「ディスコティック」液晶としても知られている。メソゲン基を含む化合物または材料は、必ずしもそれ自体が液晶相を示す必要はない。他の化合物との混合物としてのみ、あるいはメソゲン化合物もしくは材料またはその混合物を重合した場合に、液晶相挙動を示すことも可能である。
【0024】
単純化するために、「液晶材料」という用語は、以下、液晶材料とメソゲン材料の両方について用い、「メソゲン」という用語はこの材料のメソゲン基について用いる。
【0025】
「非キラル」材料という用語は、アキラル化合物のみからなる材料、およびラセミ体からなるか、またはそれを含む材料を含める。
【0026】
ダイレクターとは、液晶材料中のメソゲンの(カラミティック化合物の場合)分子長軸または(ディスコティック化合物の場合)分子短軸の好ましい配向方向を意味する。
【0027】
「平面構造」、「平面配向(alignment)」、または「平面配向(orientation)」という用語は、ダイレクターがフィルムまたは層の平面に対して実質的に平行である、液晶材料の層またはフィルムを指す。
【0028】
「ホメオトロピック構造」、「ホメオトロピック配向(alignment)」、または「ホメオトロピック配向(orientation)」という用語は、ダイレクターがフィルム平面に対して実質的に垂直である、すなわちフィルム法線に対して実質的に平行である、液晶材料の層またはフィルムを指す。
【0029】
「チルト構造」、「チルト配向(alignment)」、または「チルト配向(orientation)」という用語は、ダイレクターがフィルムの平面に対して0〜90°のθ角で傾斜している、液晶材料の層またはフィルムを指す。
【0030】
「スプレイ構造」、「スプレイ配向(alignment)」、または「スプレイ配向(orientation)」という用語は、チルト角が0〜90°、好ましくは最小値から最大値の範囲で、フィルム平面に対して垂直な方向に単調に変化する、上記チルト配向を意味する。
【0031】
単純化のために、平面、ホメオトロピック、チルト、またはスプレイ配向(orientation)、配向(alignment)、または構造を有する液晶材料を含むフィルムは、以下、それぞれ「平面フィルム」、「ホメオトロピックフィルム」、「チルトフィルム」、「スプレイフィルム」とも呼ぶ。
【0032】
「反射基材」という用語は、金属フィルム上に印刷用の鏡状表面を有する基材;例えば真珠光沢顔料系上に印刷する場合に特に適切である、ランベルト反射を示す基材;および例えば回析格子、ホログラム、またはキネグラムのような光学可変デバイス(OVD)を含むか、またはその一部である基材を対象とする。「反射」とは、スペクトルの可視範囲内(波長が約400〜800nm)、および可視範囲外、例えば紫外線または赤外線範囲内(すなわち波長が400nm未満または800nm超)の光の反射を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書は、少なくとも以下の発明を開示している。
[1]反射基材の少なくとも1つの表面上に重合可能な液晶材料を印刷し、前記液晶材料を重合させることにより、重合液晶材料を含む複屈折マーキングを調製する方法。
[2]前記重合可能な液晶材料がネマチックまたはスメクチック液晶材料である、[1]に記載の方法。
[3]前記基材が少なくとも1つの金属層または金属化層を含む、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記金属がアルミニウム、金、および銅から選択される、[3]に記載の方法。
[5]前記基材が少なくとも1つの反射顔料の層を含む、[1]または[2]に記載の方法。
[6]前記反射顔料が干渉または真珠光沢顔料、および液晶顔料から選択される、[5]に記載の方法。
[7]前記液晶材料が、平面配向を誘起し、かつ/または高める少なくとも1種の化合物を含む、[1]から[6]の少なくとも一項に記載の方法。
[8]平面配向を誘起し、かつ/または高める前記化合物が界面活性剤である、[7]に記載の方法。
[9]前記重合液晶層がスプレイ構造を有する、[1]から[8]の少なくとも一項に記載の方法。
[10]前記重合液晶層が前記基材に面するその表面で実質的に平面配向を示し、その反対表面で実質的にホメオトロピック配向を示す、[9]に記載の方法。
[11][1]から[10]の少なくとも一項に記載の方法により得られる複屈折マーキング。
[12][1]から[11]の少なくとも一項に記載の方法または複屈折マーキングの、装飾、セキュリティ、認証、または識別用途での使用。
[13][10]に記載の複屈折マーキングを少なくとも1つ含む、セキュリティ、認証、または識別マーキング、スレッドまたはデバイス。
[14][11]に記載の少なくとも1つ複屈折マーキング、あるいは[13]に記載の少なくとも1つのセキュリティ、認証、または識別マーキング、スレッドまたはデバイスを含む、有価証券、ホットスタンピングフォイル、反射フォイル、または光データ記憶デバイス。
【0034】
本発明の好ましい実施形態は、
・液晶材料が非キラル材料である、
・液晶材料がキラル化合物を含まない、
・液晶材料がラセミ体を含む、
・液晶材料がらせん状にねじれた構造を有さない、
・液晶材料が赤外線範囲内またはそれ未満の波長の選択的反射を示さない、
・重合可能な液晶材料がネマチックまたはスメクチック液晶材料である、
・反射基材が、金属が好ましくはアルミニウム、金、および銅から選択され、非常に好ましくはアルミニウムである少なくとも1つの金属または金属化層を含む、
・反射基材が金属フィルム、金属化紙もしくはポリマーフィルム、ホットスタンピングフォイル、またはホログラフィック像である、
・反射基材が好ましくは干渉もしくは真珠光沢顔料または液晶顔料から選択される反射顔料の少なくとも1つの層を含む、
・反射基材が特定範囲の電磁スペクトルの反射用の誘電性コーティングの少なくとも1つの層を含む、
・反射基材が特定範囲の電磁スペクトルの反射用のホログラフィック光学素子(HOE)である、
・反射基材が特定範囲の電磁スペクトルの反射用に最適化されたホログラムまたは虹ホログラムである、
・液晶材料が平面配向を誘起し、かつ/または高める少なくとも1種の化合物を含む、
・平面配向を誘起し、かつ/または高める化合物が界面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤である、
・重合液晶材料が平面構造を有する、
・重合液晶材料がスプレイ構造を有する
方法または複屈折マーキングに関する。
【0035】
反射基材は、鏡面またはブラッグ反射を示す基材、あるいはOVD(光学可変デバイス)層またはOVD層の一部であってよい。好ましい反射基材は、金属または金属化基材、すなわち1つまたは複数の金属層を組み込んだか、またはそれにより覆われた基材である。また、これらの基材は、ホットスタンピングフォイルやホログラフィック像のようにOVDの一部であってもよい。さらに、金属フレーク、真珠光沢もしくは干渉顔料、または液晶顔料、あるいはこれらの混合物のような反射顔料の1つまたは複数の層を組み込んでいるか、それにより覆われている基材が好ましい。
【0036】
金属基材または金属化層は、例えば、Al、Cu、Ni、Ag、Cr、または例えばPt−RhやNi−Crのような合金、あるいは光透過バインダー中に分散している1種または複数の金属フレークを含む層から選択することができる。適切な金属フレークとは、例えばアルミニウム、金、またはチタンのフレーク、あるいは、例えばFe23および/またはTiO2といった金属酸化物のフレークである。
【0037】
適切な真珠光沢または干渉顔料とは、例えば、マイカ、SiO2、Al23、TiO2;あるいは二酸化チタン、酸化鉄、酸化チタン鉄、もしくは酸化クロム、またはこれらの組合せの1つまたは複数の層でコートしたガラスフレーク;金属と金属酸化物の組合せを含むフレーク;酸化鉄層および/または二酸化ケイ素層でコートした例えばアルミニウムの金属フレークである。これらの顔料は専門家には公知であり、数多くの種類が市販されている。好ましい顔料とは例えば、市販のIriodin(登録商標)、Colourstream(登録商標)、Xirallic(登録商標)(メルク社、ダルムシュタット、ドイツ製)、Paliochrome(登録商標)(BASF社、ルートヴィヒスハーフェン、ドイツ製)、またはフレックス社製の光学可変顔料である。
【0038】
また、重合または架橋コレステリック液晶材料、例えば透明バインダー中に分散したコレステリック液晶顔料を含む液晶顔料またはコーティングを用いることも可能である。適切な液晶顔料およびバインダー系は、専門家には公知であり、例えば米国特許第5,364,557号、米国特許第5,834,072号、欧州特許第0601483号、WO94/22976号、WO97/27251号、WO97/27252号、WO97/30136号、またはWO99/02340号に記載されている。
【0039】
好ましくは、基材は金属、特にアルミニウムの表面を基材−液晶層の界面に含む。
【0040】
さらに、透明バインダー中に分散した真珠光沢または干渉顔料、液晶顔料、あるいはこれらの混合物の1つまたは複数の層で覆われた基材が好ましい。
【0041】
適切な基材には、フィルム、紙、板、革、セルロースシート、織物、プラスチック、ガラス、セラミックス、および金属が含まれる。適切なポリマーフィルムとは、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリカーボネート(PC)、またはトリアセチルセルロース(TAC)であり、PETまたはTACが特に好ましい。アルミニウムで金属化した基材、またはアルミニウムフォイルが特に好ましい。
【0042】
液晶材料を印刷した基材または少なくとも基材の表面は、好ましくは例えばフォイル、フィルム、またはシートのように平らであり、その厚さは好ましくは200μm未満、特に60μm未満、最も好ましくは20μm未満である。
【0043】
基材の表面は、好ましくは平面状であるが、構造状でもパターン状でもよく、かつ/またはレリーフを有していてもよい。基材の形状、構造、パターン、および/またはレリーフは、好ましくは本発明の複屈折マーキングの所望の用途に適合している。適切な構造化およびパターニング技術は、特に精密工学およびマイクロテクノロジーの分野の当業者に公知であり、リソグラフィ、エッチング、切断、スタンピング、パンチング、エンボシング、成形、および放電加工技術が含まれるが、これらだけには限らない。
【0044】
また、回析格子、ホログラム、キネグラム、または一般的なホログラフィック光学素子(HOE)のようなOVD;エンボシング、パターニング、または構造化された表面を有するホログラフィック層;あるいは反射ホログラフィック顔料の層を含むかまたはその一部である反射基材を用いることも可能である。構造化された表面の高い方の領域で反射した光は、構造化された表面の低い方の領域で反射した光に干渉し、それによりホログラフィック像を形成する。ホログラフィック層の調製は、例えばその開示全体が参照により本出願に組み込まれる米国特許第4,588,664号に記載されている。
【0045】
したがって、例えば銀行紙幣などのような基材またはその選択された領域には、液晶材料がその上に印刷されたホログラムまたは反射金属層を付着させることができる。あるいは、マーキングを別に反射基材上で調製し、次いでそれを有価証券に、例えばセキュリティスレッドや他の形態のセキュリティマーキングとして適用することもできる。
【0046】
本実施形態は、偏光子を通して見た場合に銀行紙幣の認証が容易となるセキュリティマーキングを提供するため、銀行紙幣や有価証券上の偽造検査用セキュリティスレッドまたはホログラムとしての使用に特に適している。
【0047】
液晶材料は、反射基材の1つの面または両方の面に付着させることができる。この液晶材料は、基材の個別領域上に印刷してパターンまたは像を形成することができる。このパターンまたは像は、例えば、印刷領域における表面光沢の変化により非偏光下で見えるようになっているが、非偏光下では見えず、偏光子を通して見た場合にのみ見えるようにしてもよい。あるいは、液晶材料を基材全体の上に印刷して、偏光子を通して見た場合にのみ見える連続相またはフィルムを形成してもよい。
【0048】
好ましくは、複屈折マーキングは、液晶材料と溶媒を含む混合物を反射基材上に印刷し、重合前または重合中に溶媒を蒸発させることにより調製される。この混合物は、溶媒中に液晶材料を溶解、分散、または乳化させたものであればよい。好ましくは溶液を用いる。溶媒は、熱や減圧などの外部からの力を使用して、あるいは使用せずに蒸発し得る。
【0049】
液晶材料は、例えばスクリーン印刷、オフセット印刷、ドライオフセット印刷、リールツーリール印刷、活版印刷、グラビア印刷、ロトグラビア印刷、フレキソ印刷、凹版印刷、パッド印刷、ヒートシール印刷、インクジェット印刷、熱転写印刷、またはスタンプや印刷版を使う印刷を含めた、専門家に公知である通常の印刷技術によって、基材上に印刷することができる。印刷プロセスは、基材上での液晶材料の自発的な配向を誘起するか、または高める。
【0050】
液晶材料は、ポリマーバインダー、もしくはポリマーバインダーを形成することが可能な1種または複数のモノマー、および/または1種または複数の分散助剤をさらに含んでいてもよい。適切なバインダーおよび分散助剤は、例えばWO96/02597号に開示されている。
【0051】
バインダーまたは分散助剤を含まない液晶材料が特に好ましい。
【0052】
好ましい一実施形態では、液晶材料は、基材上の液晶材料の平面配向を誘起するか、または高める添加剤を含む。好ましくは、添加剤は1種または複数の界面活性剤を含む。適切な界面活性剤は、例えばJ.Cognard,Mol.Cryst.Liq.Cryst.78,Supplement 1,1−77(1981)に記載されている。非イオン性界面活性剤が特に好ましく、例えば市販のフルオロカーボン界面活性剤Fluorad FC−171(登録商標)(3M社製)やZonyl FSM(登録商標)(デュポン社製)のようなフルオロカーボン界面活性剤が非常に好ましい。
【0053】
適切かつ好ましいフルオロカーボン界面活性剤は、例えば、Fluorad FC−171(登録商標)(3M社製)として市販されている、式Iの界面活性剤である。
【0054】
n2n+1SO2N(C25)(CH2CH2O)xCH3
式中、nは4〜12の整数であり、xは5〜15の整数である。
【0055】
重合可能な液晶材料中での平面配向を高める添加剤の量の下限は、液晶材料の好ましくは0.01重量%、特に0.05重量%、最も好ましくは0.1重量%である。前記化合物の量の上限は、液晶材料の好ましくは5重量%、特に3重量%、最も好ましくは1.5重量%である。
【0056】
複屈折マーキングの厚さの最適範囲は、液晶材料の複屈折の強度に依存する。当業者はこの厚さの最適範囲を容易に決定することができる。複屈折が0.1〜0.3の複屈折マーキングは一般に、その好ましい厚さが0.5〜20μm、特に0.7〜10μm、最も好ましくは1〜6μmである。
【0057】
マーキングの厚さは例えば、液晶混合物の溶媒濃度を変化させることで変えることができる。したがって、最終液晶層の厚さは、混合物中の液晶材料の量を増加させることで増加する。さらに、湿潤剤または界面活性剤を液晶溶液に加えてその表面張力およびその基材への接着力を変化させてもよい。そのような湿潤剤または界面活性剤は、同一の界面活性剤でもよく、または上記の平面配向を高めるのに用いる界面活性剤に加えてもよい。適切な界面活性剤は上記の通りである。
【0058】
本発明の複屈折マーキングは、好ましくは複屈折層の上に付着させた、1つまたは複数のさらなる層を含んでもよい。
【0059】
このさらなる層は、複屈折フィルムの所望の用途に従って選択することができ、例えば保護層、支持層、接着層、反射層、光学位相差層、カラーフィルター、および/または偏光子などとしての機能を有することができる。
【0060】
例えば、本発明の好ましいマーキングは、液晶層上に付着させた円または直線偏光子を含む。それにより、このマーキングが恒久的に見えるようになり、例えば物品または有価証券上で見える照合またはコピー防止マーキングとして用いることができる。
【0061】
適切な直線偏光子は当技術分野で公知である。例えば、典型的には例えばポリビニルアルコールの一軸延伸ポリマーフィルム、または二色性染料が組み込まれたポリマーフィルムを含む通常の直線吸収偏光子を用いることができる。また、例えばその開示全体が参照により本出願に組み込まれる欧州特許出願第0397263号に記載の、平面構造を有するガラス状、重合、または架橋液晶(LC)材料の層を含む直線偏光子を用いることも可能である。
【0062】
適切な円偏光子も当技術分野で公知である。例えば、通常の直線偏光子と4分の1波長位相差フィルム(QWF)の組合せを用いることができる。あるいは、その開示全体が参照により本出願に組み込まれる、例えば欧州特許第0606940号、WO97/35219号、欧州特許第0982605号、およびWO99/02340号に記載の、反射偏光子またはカラーフィルターとして狭い波長域(ノッチ偏光子)または広い波長域で作用し得る、平面構造を有するガラス状、重合、または架橋コレステリック液晶(LC)材料の層を含む円偏光子を用いることも可能である。
【0063】
本発明の別の好ましいマーキングは、液晶材料を透過し、反射基材で反射される光の光位相シフトを引き起こす、1つまたは複数の光学位相差層の相を含む。これにより、偏光子を通して見た場合に、複屈折マーキングのさらなるカラーシフトが生じる。好ましくは、位相差層は、円偏光子を透過する波長の約0.25倍の正味位相差を示す4分の1波長フィルムまたはフォイル(QWF)である。
【0064】
適切な位相差層は当技術分野で公知であり、典型的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリカーボネート(PC)、あるいはジまたはトリアセチルセルロース(DAC、TAC)などのような等方性ポリマーの一軸または二軸延伸あるいは圧縮フィルムを含む。また、その開示全体が参照により本出願に組み込まれる、例えばWO98/04651号に記載の、平面構造を有するガラス状、重合、または架橋液晶材料の層を含むか、あるいは、例えばWO98/12584号に記載の、チルトまたはスプレイ構造を有するガラス状、重合、または架橋液晶材料の層を含む位相シフト層または位相差フィルムを用いることも可能である。
【0065】
本発明の第一の好ましい実施形態によれば、界面活性剤を含む重合可能なネマチックまたはスメクチック、好ましくはネマチック液晶材料を金属化または金属基材の個別領域上に印刷し、印刷領域内のこの材料をin−situ重合する。
【0066】
このマーキングを非偏光下で見た場合、色彩効果はみられない。液晶材料は透明であり、印刷領域内の表面光沢の変化のために、短い距離でのみ裸眼に対して見える。基材の印刷領域、または印刷および非印刷領域を含む基材全体を透明ラッカーで覆うことにより、印刷領域と非印刷領域の間の表面光沢の変化を防止することができ、マーキングは、非偏光下で見た場合、完全に見えないようになる。マーキングがその異なる厚さにより、特定の視角に対して依然として見えている場合には、液晶材料を含まないインクを有するネガティブマーキングを適用することでこれを克服することができる。表面全体を後でニス掛けすることでこの隠蔽効果を高めることができる。
【0067】
このマーキングを反射背景を背に直線偏光子を通して見た場合、偏光子を回転すると、特定の角間隔で印刷領域内で色彩を見ることができる。色彩強度は、反射基材の種類を変えることで影響され得る。
【0068】
マーキングを円偏光子を通して見た場合、印刷領域は暗色背景を背に見える。
【0069】
本発明の第二の好ましい実施形態によれば、界面活性剤を含む重合可能なネマチックまたはスメクチック、好ましくはネマチック液晶材料を、透明バインダー中に分散した干渉顔料の層で覆われた、例えば紙基材の表面の個別領域上に印刷し、印刷領域内の液晶材料をin−situ重合する。
【0070】
このマーキングを非偏光下で見た場合、色彩効果はみられない。液晶材料は透明であり、印刷領域内の表面光沢の変化のために、短い距離でのみ裸眼に対して見える。基材の印刷領域、または印刷および非印刷領域を含む基材全体を透明ラッカーで覆うことにより、印刷領域と非印刷領域の間の表面光沢の変化を防止することができ、マーキングは、非偏光下で見た場合、完全に見えないようになる。
【0071】
このマーキングを反射背景を背に直線偏光子を通して見た場合、以下の効果が観察される。印刷領域は、明るい背景を背にやや暗い領域として現れる。液晶材料の配向が平面状である場合、偏光子を回転すると、偏光子の特定角度で、印刷領域が暗色になる。
【0072】
マーキングを円偏光子を通して見た場合、印刷領域が現れ、暗色背景を背に見える。この効果は、円偏光子の向きとは関係がない。
【0073】
上記の効果は、標準的なセキュリティマーキングでは得ることができない。したがって、本発明の複屈折マーキングは、容易に偽造またはコピーすることができないセキュリティ、認証、または識別マーキングだけでなく、装飾目的にも適している。さらに、複屈折マーキングは、印刷プロセスを用いて、大規模であっても経済的に製造することができる。本発明の方法により、本発明の複屈折マーキングの迅速で確実かつ安価な製造が可能になる。
【0074】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、本発明の複屈折フィルムは、ホットスタンピングフォイルの一部である。したがって、本発明の複屈折フィルムを含むホットスタンピングフォイルも、本発明の目的である。ホットスタンピングフォイルの好ましい構造およびアセンブリは、その全体が参照により本出願に組み込まれる英国特許第2357061号に記載されている。本発明の好ましい実施形態による複屈折フィルムの反射基材は、英国特許第2357061号に記載の、液晶材料の層がその上に印刷されている反射層に対応している。
【0075】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、本発明の複屈折マーキングは、光データ記憶デバイスの一部である。したがって、本発明の複屈折フィルムを含む光データ記憶デバイスも、本発明の目的である。本発明の複屈折フィルムは光学機能に影響を与えないため、ソフトウェア、オーディオ、および/またはビデオデータのようなデータ用のメモリ読み出しおよび/または書き込みデバイスであり得るそのようなデバイス、特にコンパクトディスク(CD)をマークするのに特に適している。
【0076】
一般に、そのようなコンパクトディスクは、ポリカーボネートのような透明プラスチック材料で作られたディスクを含む。このプラスチックの1つの面は、デジタル形式のデータ(データピット)を含み、例えば、レーザー光線用の反射表面として機能し、通常はデータピット上に直接スパッタリングされる薄いアルミニウムコーティングで金属化されている。アルミニウム層上には、保護ワニスがスピンコートされている。保護ワニス上には、印刷像を適用することができる。データの読み出しは、透明プラスチック材料を通して行われる。本実施形態の一変形によれば、本発明の複屈折マーキングを、基材として用いられる保護ワニス上に直接印刷することができる。複屈折マーキングは、ディスクの1つの面を完全に、またはその1つまたは複数の部分のみ覆い得る。直線偏光子を通してディスクの印刷面を見た場合、不規則なパターンが描かれているのが見える。
【0077】
複屈折層の液晶材料は、好ましくはネマチックまたはスメクチック液晶材料である。ネマチック液晶材料が特に好ましい。
【0078】
好ましくは、液晶材料は、好ましくは有機溶媒中に溶解し、溶媒の蒸発中または蒸発後にin−situ重合することにより重合または架橋する、重合可能または架橋可能な材料である。
【0079】
重合可能な液晶材料は、好ましくは少なくとも1種の重合可能な一反応性アキラルメソゲン化合物、および少なくとも1種の重合可能な二反応性または多反応性アキラルメソゲン化合物を含む。
【0080】
二反応性または多反応性化合物が重合可能な材料中に存在すると、三次元ポリマー網目が形成され、液晶材料の平面配向が恒久的に固定される。このような網目で作られたポリマーフィルムは、自己支持式であり、高い機械および熱安定性、およびその物理および光学特性における低い温度依存性を示す。
【0081】
二反応性および多反応性化合物の濃度を変えることで、ポリマーフィルムの架橋密度を容易に調整することができ、それにより、光学位相差フィルムの光学特性、熱および機械安定性、または耐溶媒性における温度依存性にとっても重要であるガラス転移温度などの、その物理および化学特性を容易に調整することができる。
【0082】
好ましい重合可能な液晶材料は、
−5〜60%の1種または複数の二反応性アキラルメソゲン化合物、
−20〜90%の1種または複数の一反応性アキラルメソゲン化合物、
−0〜10%、好ましくは0.1〜5%の1種または複数の界面活性剤、
−0〜10%、好ましくは0.1〜5%の1種または複数の光開始剤
を含む。
【0083】
上記および下記で言及する重合可能な化合物および重合可能なメソゲン化合物は、好ましくはモノマーである。
【0084】
本発明で用いる重合可能なメソゲン一反応性、二反応性、または多反応性化合物は、それ自体公知の方法、および、例えば、Houben−Weyl、Methoden der organischen Chemie、Thieme−Verlag、シュトゥットガルトなどの有機化学の標準的な著作に記載されている方法により調製することができる。典型例は、例えばWO93/22397号、欧州特許第0261712号、ドイツ特許第19504224号、およびドイツ特許第4408171号、およびドイツ特許第4405316号に記載されている。ただし、これらの文献に開示されている化合物は単に、本発明の範囲を制限するものではない例とみなすべきである。
【0085】
特に有用な重合可能な一反応性および二反応性メソゲン化合物を表す例を、以下の化合物のリストに示す。ただし、このリストは単に説明のためであるとみなすべきであり、本発明を制限することは決して目的ではなく、代わりに本発明を説明することが目的である。
【0086】
【化1】

【0087】
上式で、Pは重合可能な基、好ましくはアクリル、メタクリル、ビニル、ビニルオキシ、プロペニルエーテル、エポキシ、またはスチリル基であり、xおよびyはそれぞれ独立に1〜12であり、AはL1で一置換、二置換、または三置換されていてもよい1,4−フェニレンまたは1,4−シクロヘキシレンであり、vは0または1であり、Z0は−COO−、−OCO−、−CH2CH2−、−C≡C−、または単結合であり、Yは極性基であり、R0は非極性アルキルまたはアルコキシ基であり、L1およびL2はそれぞれ独立にH、F、Cl、CN、またはハロゲン化されていてもよい炭素数1〜7のアルキル、アルコキシ、アルキルカルボニル、アルコキシカルボニル、もしくはアルコキシカルボニルオキシ基である。
【0088】
なお、「極性基」という用語は、F、Cl、CN、NO2、OH、OCH3、OCN、SCN、フッ化されていてもよい炭素数最大4のカルボニルまたはカルボキシル基、あるいは一、オリゴ、またはポリフッ化された炭素数1〜4のアルキルまたはアルコキシ基を意味する。「非極性基」という用語は、炭素数が1以上、好ましくは1〜12のアルキル基、あるいは炭素数が2以上、好ましくは2〜12のアルコキシ基を意味する。
【0089】
重合可能な液晶材料の重合は、例えばそれを熱または化学線に曝露することで実現することができる。化学線とは、紫外線、赤外線、または可視光のような光の照射、X線またはガンマ線の照射、あるいはイオンや電子のような高エネルギー粒子の照射を意味する。好ましくは、重合は紫外線照射により行われる。化学線源としては、例えば1個の紫外線ランプまたは複数の紫外線ランプのセットを用いることができる。高いランプ出力を用いると、硬化時間を減少させることができる。別の可能な化学線源は、紫外線レーザー、赤外線レーザー、または可視光レーザーなどのようなレーザーである。
【0090】
重合は、化学線の波長で吸収する開始剤の存在下で行うことが好ましい。例えば、紫外線を使って重合する場合、紫外線照射下で分解して重合反応を開始させるフリーラジカルまたはイオンを生成する光開始剤を用いればよい。重合可能なメソゲンをアクリレートまたはメタクリレート基で硬化させる場合、ラジカル光開始剤を用いることが好ましく、重合可能なメソゲンをビニルおよびエポキシド基で硬化させる場合、カチオン性光開始剤を用いることが好ましい。また、加熱すると分解して重合を開始させるフリーラジカルまたはイオンを生成する重合開始剤を用いることも可能である。ラジカル重合用光開始剤としては、例えば市販のIrgacure 651、Irgacure 184、Darocure 1173、またはDarocure 4205(すべてチバガイギー社製)を用いることができ、カチオン光重合の場合には市販のUVI 6974(ユニオンカーバイド)を用いることができる。重合可能な液晶材料は、好ましくは0.01〜10%、非常に好ましくは0.05〜5%、特に0.1〜3%の重合開始剤を含む。紫外線光開始剤、特にラジカル紫外線光開始剤が好ましい。
【0091】
硬化時間は、特に、重合可能なメソゲン材料の反応性、印刷層の厚さ、重合開始剤の種類、および紫外線ランプの出力に依存する。本発明の硬化時間は、好ましくは10分以下、特に好ましくは5分以下、非常に好ましくは2分未満である。大量生産のためには、硬化時間は3分以下、非常に好ましくは1分以下、特に30秒以下が好ましい。
【0092】
本発明の重合可能な液晶混合物は、例えば触媒、増感剤、安定化剤、抑制剤、共反応モノマー、界面活性化合物、潤滑剤、湿潤剤、分散剤、疎水剤、接着剤、流動性向上剤、消泡剤、脱気剤、不活性希釈剤、反応性希釈剤、助剤、着色剤、染料、顔料などの、1種または複数の他の適切な成分または添加剤を含んでいてもよい。
【0093】
適切な添加剤は、例えばその開示全体が参照により本出願に組み込まれるWO00/47694号に記載されている。
【0094】
特に、例えば保存中の重合可能な材料の望ましくない自発的な重合を防止するには、安定化剤を加えることが好ましい。安定化剤としては、この目的で当業者に公知の原則としてすべての化合物を用いることができる。
【0095】
これらの化合物は数多くの種類が市販されている。安定化剤の典型例は、4−エトキシフェノールまたはブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)である。
【0096】
得られるポリマーフィルムの物理特性を改変するため、重合可能な液晶材料に、例えば連鎖移動剤のような他の添加剤を加えることもできる。例えばドデカンチオールのような一官能性チオール化合物、または例えばトリメチルプロパントリ(3−メルカプトプロピオネート)のような多官能性チオール化合物などの連鎖移動剤を重合可能な材料に加えることで、本発明のポリマーフィルム中の2つの架橋間の遊離ポリマー鎖の長さおよび/またはポリマー鎖の長さを調整することができる。連鎖移動剤の量を増加させると、得られるポリマーフィルムのポリマー鎖の長さが減少する。
【0097】
また、ポリマーの架橋結合を増加させるために、最大20%の2つ以上の重合可能な官能基を有する非メソゲン化合物を、重合可能な二官能性または多官能性メソゲン化合物の代わりに、あるいはそれに追加して、重合可能な液晶材料に加えてポリマーの架橋結合を増加させることもできる。二官能性非メソゲンモノマーの典型例は、炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキルジアクリレートまたはアルキルジメタクリレートである。2つを超える重合可能な基を有する非メソゲンモノマーの典型例は、トリメチルプロパントリメタクリレートまたはペンタエリスリトールテトラアクリレートである。
【0098】
別の好ましい実施形態では、重合可能な材料の混合物は最大70%、好ましくは3〜50%の、重合可能な官能基を1個有する非メソゲン化合物を含む。一官能性非メソゲンモノマーの典型例は、アルキルアクリレートまたはアルキルメタクリレートである。
【0099】
また、例えば最大20重量%の量の重合不可能な液晶化合物を加えて、得られるポリマーフィルムの光学特性を改変することも可能である。
【0100】
重合は、好ましくは重合可能な液晶材料の液晶相中で行われる。そのため、好ましくは低い融点および広い液晶相範囲を有する重合可能なメソゲン化合物または混合物が用いられる。これらの種類の材料は、正確な相を生成するために長期にわたる高温を必要としないため、そのような材料の使用は、重合温度の低下を可能にし、技術的な観点から重合プロセスを容易にし、大量生産には相当な利点となる。適切な重合温度の選択は、主に重合可能な材料の透明点、および特に基材の軟化点に依存する。好ましくは、重合温度は、重合可能なメソゲン混合物の透明温度より少なくとも30℃低い。120℃より低い重合温度が好ましい。90℃より低い温度、特に60℃以下の温度が特に好ましい。
【0101】
本発明の複屈折マーキングは、装飾、セキュリティ、認証、または識別用途で、セキュリティ、認証、または識別マーキングとして、あるいは複屈折マーキングを含むスレッドまたはデバイス中で用いることができる。
【0102】
複屈折マーキングは様々な方法で用いることができる。例えば、上記の重合液晶材料で金属スレッドを調製し、次いでこのスレッドをセキュリティ文書に、ホットスタンピングフォイル(HSF)の一部として、または編みスレッドとして適用することが可能である。さらなる実施形態によれば、液晶材料を、既存のセキュリティ文書上の反射領域に直接適用し、例えば銀行紙幣上の反射領域にオーバープリントする。
【0103】
複屈折マーキングは、例えば物品、デバイス、または文書上に直接適用して、あるいはスレッド、ホログラム、またはホットスタンピングフォイルとして、装飾用途または有価証券の認証および偽造防止のためのセキュリティ用途で、あるいは隠された像、情報、またはパターンの識別のために用いることができる。複屈折マーキングは、消費者製品もしくは家庭内の物体、車体、フォイル、包装材料、衣服、または織布に適用するか、プラスチックに組み込むか、あるいは銀行紙幣のような有価証券、クレジットカードもしくはIDカード、国籍識別文書、免許証、または切手、チケット、株券、小切手などのような貨幣価値を有する任意の製品上にセキュリティマーキングまたはスレッドとして適用することができる。
【0104】
さらに詳述することなく、当業者なら、上記の説明を用いて本発明を最大限に利用することができると思われる。このため、以下の実施例は単に説明のためであり、本開示の残りを制限するものでは決してないと理解すべきである。
【0105】
前述の説明および以下の実施例において、特記なき場合、温度はすべて訂正することなく摂氏で記載され、部および%はすべて重量部および重量%である。
【実施例】
【0106】
実施例1
以下の重合可能な混合物を調製する。
化合物(A) 12.12%
化合物(B) 29.66%
化合物(C) 22.90%
化合物(D) 28.37%
Irgacure 907 6.42%
Fluorad FC 171 0.53%
【0107】
【化2】

【0108】
化合物(A)、(B)、および(C)は、D.J.Broerら、Makromol.Chem.190、3201〜3215(1989)に記載の方法で、またはそれと同様に調製することができる。化合物(D)およびその調製は英国特許第2,280,445号に記載されている。Irgacure 907は市販の光開始剤である(チバガイギー)。Fluorad FC 171は市販の界面活性剤である(3M社)。
【0109】
重合可能な混合物をトルエンに溶解させた30重量%溶液を調製し、1μmフィルターで濾過した。次いで、溶液をフレキソ印刷機のインク室に置いて、アニロックスローラに移動させた。このローラから溶液をポリマー印刷版に移動させた。この版のレリーフは、印刷されるべきデザインの鏡像であった。次いで、溶液をこの版から、アルミニウムで金属化された厚さ12μmの黒色PETフィルムの金属化面に移動させた。トルエンをファンで蒸発させた後、フィルムに紫外線ランプの下を通過させて、液晶材料を重合して固体フィルムを得た。
【0110】
偏光子を通して見た場合、印刷領域内の表面光沢の変化のために、印刷領域が現れる。直線偏光子を通して見た場合、偏光子を回転させると、45°の間隔で藍色が見える。これらの領域の間では色彩は見えない。円偏光子を通して見た場合、印刷領域は黒色(暗色)背景を背に明るく見える。印刷領域全体をオーバープリントするのに透明ラッカーを用いることで、サンプルを見るのに偏光子を使わなければ、印刷領域は完全に見えなくなる。
【0111】
実施例2
ニトロセルロースバインダー中のIriodin(登録商標)顔料Afflair 201およびAfflair 211(メルク社、ダルムシュタット、ドイツから市販)で事前に印刷した紙基材を用いた以外は、実施例1のように実施例1の溶液を印刷した。
【0112】
偏光デバイスなしで見た場合、印刷領域はその異なる表面光沢のために識別可能である。円偏光子を通して見た場合、印刷領域は黒色背景を背にくっきりと見える。印刷領域全体をオーバープリントするのにラッカーを用いることで、サンプルを見るのに偏光子を使わなければ、印刷領域は完全に見えなくなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射基材の少なくとも1つの表面上に重合可能な液晶材料を印刷し、前記液晶材料を重合させることにより、重合液晶材料を含む複屈折マーキングを調製する方法。

【公開番号】特開2010−33082(P2010−33082A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257335(P2009−257335)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【分割の表示】特願2004−535063(P2004−535063)の分割
【原出願日】平成15年8月8日(2003.8.8)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】