説明

複層フィルム、複層フィルムの製造方法、偏光板保護フィルム及び偏光板

【課題】脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる基材フィルムを備えた複層フィルムであって、接着力が高く、且つ、高湿度環境であってもその接着力が低下し難い複層フィルムを提供する。
【解決手段】脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を表面に有する基材フィルムとウレタン樹脂層とを備える複層フィルムにおいて、ウレタン樹脂層を、(A)ポリウレタン、(B)エポキシ化合物、(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、(D)前記(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対して1.4当量〜2.7当量の、三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物を含む樹脂を硬化させた層にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層フィルム及びその複層フィルムの製造方法、並びにその複層フィルムを備えた偏光板保護フィルム及び偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマディスプレイ等の各種画像表示装置に使用されるフィルムとして、脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなるフィルムが知られている。これらのフィルムは光学特性に優れているため、例えば、液晶表示装置を構成する液晶セルの電極基板、偏光板、偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用透明電極付きフィルム、導光板、光ディスクなどの光学用途への展開が図られている。
【0003】
前記のような光学用途へ用いられるフィルムは、例えば、偏光子、ハードコート層、反射防止層、帯電防止層、防眩層、防汚層などの他の様々な機能を有する部材に貼り合せられて使用されることが多い。したがって、前記のフィルムは、貼り合せられる部材との接着力が高いことが望まれる。
【0004】
ところが、脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を有するフィルムのなかには、他の部材との接着性に劣るものがある。そこで、当該フィルムの表面に、易接着層を設けることが従来からなされてきた。易接着層とは、必要に応じて接着剤を介してフィルムを何らかの部材と貼り合わせる際に、フィルムの接着力を補強して、より強固に接着させる層である。易接着層については、ウレタン樹脂により形成したものが従来から提案されてきた(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−274390号公報
【特許文献2】特開2002−285124号公報
【特許文献3】特開2006−201736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、ウレタン樹脂によって形成された易接着層は、耐水性に劣ることがあった。このため、従来の易接着層を備える複層フィルムを、例えば偏光子と貼り合せた後に高温高湿度の環境下に長時間置くと、接着力が低下することがあった。
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を有する基材フィルムを備えた複層フィルムであって、接着力が高く、且つ、高湿度環境であってもその接着力が低下し難い複層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を有する基材フィルムと、(A)ポリウレタン、(B)エポキシ化合物、(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、(D)三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物を含むウレタン樹脂を硬化させてなるウレタン樹脂層とを備える複層フィルムにおいて、(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対して(D)成分の量を所定の範囲に収めるにすることにより、ウレタン樹脂層の耐水性を特異的に高めることが可能となるので、高湿度環境であっても接着力を低下し難くできることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の〔1〕〜〔12〕を要旨とする。
【0008】
〔1〕 脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を表面に有する基材フィルムと、ウレタン樹脂層とを備え、
前記ウレタン樹脂層は、
(A)ポリウレタン、
(B)エポキシ化合物、
(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、
(D)前記(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対して1.4当量〜2.7当量の、三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物
を含む樹脂を硬化させた層である、複層フィルム。
〔2〕 前記(A)ポリウレタンが酸構造を含有し、
前記(B)エポキシ化合物の量が、前記(A)ポリウレタンの酸構造と当量になる前記(B)エポキシ化合物の量に対し、0.2倍〜1.4倍である、〔1〕記載の複層フィルム。
〔3〕 前記(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方が、ヒドラジノ基を有する化合物である、〔1〕又は〔2〕記載の複層フィルム。
〔4〕 前記(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、前記(D)三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物の沸点が、前記基材フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度より高い、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の複層フィルム。
〔5〕 前記(A)ポリウレタン、前記(B)エポキシ化合物、前記(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、前記(D)三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物を含む樹脂が、微粒子をさらに含む、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の複層フィルム。
〔6〕 位相差フィルムである、〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の複層フィルム。
〔7〕 脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を表面に有する基材フィルムの前記表面に、
(A)ポリウレタン、
(B)エポキシ化合物、
(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、
(D)前記(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対して1.4当量〜2.7当量の、三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物
を含む樹脂を塗布し、硬化させることを含む、複層フィルムの製造方法。
〔8〕 前記(A)ポリウレタンが酸構造を含有し、
前記(B)エポキシ化合物の量が、前記(A)ポリウレタンの酸構造と当量になる前記(B)エポキシ化合物の量に対し、0.2倍〜1.4倍である、〔7〕記載の製造方法。
〔9〕 前記(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方が、ヒドラジノ基を有する化合物である、〔7〕又は〔8〕記載の製造方法。
〔10〕 前記(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、前記(D)三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物の沸点が、前記基材フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度より高い、〔7〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔11〕 前記(A)ポリウレタン、前記(B)エポキシ化合物、前記(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、前記(D)三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物を含む樹脂が、微粒子をさらに含む、〔7〕〜〔10〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔12〕 塗布した樹脂を硬化させるのと同時に、前記基材フィルムを延伸する、〔7〕〜〔11〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔13〕 〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の複層フィルムを備える、偏光板保護フィルム。
〔14〕 偏光子と、〔13〕記載の偏光板保護フィルムとを備える、偏光板。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を有する基材フィルムを備え、接着力が高く、且つ、高湿度環境であってもその接着力が低下し難い複層フィルムを提供できる。
また、本発明によれば、脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を有する基材フィルムを備え、接着力が高く、且つ、高湿度環境であってもその接着力が低下し難い複層フィルムの製造方法を提供できる。
さらに、本発明によれば、本発明の複層フィルムを備えた偏光板保護フィルム及び偏光板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例1〜3、9、10及び比較例1〜3の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態及び例示物等を示して本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。また、以下の説明において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」を意味する。
【0012】
[1.概要]
本発明の複層フィルムは、基材フィルムと、ウレタン樹脂層とを備える。このうち、基材フィルムは、脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を表面に有する。以下、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を「脂環式構造含有重合体樹脂」と呼ぶことがあり、アクリル重合体を含む樹脂を「アクリル樹脂」と呼ぶことがある。
【0013】
また、ウレタン樹脂層は、(A)ポリウレタン、(B)エポキシ化合物、(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、(D)三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物を含む樹脂(以下、「未硬化状態のウレタン樹脂」ということがある。)を硬化させた層である。以下、(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方を「(C)成分」と呼ぶことがあり、(D)三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物を「(D)成分」と呼ぶことがある。
【0014】
通常、ウレタン樹脂層は基材フィルムの脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層の表面に設けられ、このウレタン樹脂層が基材フィルムの接着性を改善する。さらに、本発明の複層フィルムにおいては、(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対して、(D)成分の当量を特定の範囲に収めることにより、ウレタン樹脂層の耐水性を向上させて、高湿度環境であっても接着力を低下し難くしている。
【0015】
[2.基材フィルム]
基材フィルムは、基材フィルムの表面に脂環式構造含有重合体樹脂からなる層又はアクリル樹脂からなる層を有する。したがって、基材フィルムが1層のみを有する単層構造のフィルムである場合、脂環式構造含有重合体樹脂からなる層又はアクリル樹脂からなる層のみによって基材フィルムが形成される。また、基材フィルムが2層以上の層を有する複層構造のフィルムである場合、基材フィルムの少なくとも一方の最外層が脂環式構造含有重合体樹脂からなる層又はアクリル樹脂からなる層であれば、その基材フィルムは他に任意の層を有していてもよい。
【0016】
〔2−1.脂環式構造含有重合体樹脂〕
脂環式構造含有重合体は、重合体の繰り返し単位中に脂環式構造を有する重合体であり、主鎖に脂環式構造を有する重合体、及び、側鎖に脂環式構造を有する重合体のいずれを用いてもよい。脂環式構造含有重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、機械的強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有する重合体が好ましい。
【0017】
脂環式構造としては、例えば、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造などが挙げられる。中でも、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0018】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及び基材フィルムの成形性が高度にバランスされ、好適である。
【0019】
脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有してなる繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択してもよく、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、基材フィルムの透明性および耐熱性の観点から好ましい。
【0020】
脂環式構造含有重合体としては、例えば、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系重合体は、透明性と成形性が良好なため、好適である。
【0021】
ノルボルネン系重合体としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体、又はそれらの水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体、又はそれらの水素化物;等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適である。ここで「(共)重合体」とは、重合体及び共重合体のことをいう。
【0022】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって、複数個が環に結合していてもよい。また、ノルボルネン構造を有する単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0023】
極性基の種類としては、例えば、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン酸基などが挙げられる。
【0024】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類およびその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンおよびその誘導体;などが挙げられる。
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0025】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、例えば、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより製造してもよい。
【0026】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。また、ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0027】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、例えば、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより製造してもよい。
【0028】
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環を有する環状オレフィン系モノマーの付加重合体を挙げることができる。
【0029】
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン系モノマーの付加重合体を環化反応して得られる重合体;シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン等の環状共役ジエン系モノマーの1,2−または1,4−付加重合体;およびこれらの水素化物;などを挙げることができる。
【0030】
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサン等のビニル脂環式炭化水素系モノマーの重合体およびその水素化物;スチレン、α−メチルスチレン等のビニル芳香族炭化水素系モノマーを重合してなる重合体に含まれる芳香環部分を水素化してなる水素化物;ビニル脂環式炭化水素系モノマー、またはビニル芳香族炭化水素系モノマーとこれらビニル芳香族炭化水素系モノマーに対して共重合可能な他のモノマーとのランダム共重合体若しくはブロック共重合体等の共重合体の、芳香環の水素化物;等を挙げることができる。前記のブロック共重合体としては、例えば、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体またはそれ以上のマルチブロック共重合体、並びに傾斜ブロック共重合体等を挙げることもできる。
【0031】
脂環式構造含有重合体の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサンを用いて(但し、試料がシクロヘキサンに溶解しない場合にはトルエンを用いてもよい)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは20,000以上であり、通常100,000以下、好ましくは80,000以下、より好ましくは50,000以下である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、本発明の複層フィルムの機械的強度および成型加工性が高度にバランスされ好適である。
【0032】
脂環式構造含有重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は通常1.2以上、好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.8以上であり、通常3.5以下、好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.7以下である。分子量分布が3.5を超えると低分子成分が増すため緩和時間の短い成分が増加し、一見同じ面内位相差Reを有する基材フィルムであっても高温曝露時の緩和が短時間で大きくなることが推定され、基材フィルムの安定性が低下するおそれがある。一方、分子量分布が1.2を下回るようなものは重合体の生産性の低下とコスト増につながり、実用性という観点からはあまり現実的でない。
【0033】
脂環式構造含有重合体のガラス転移温度は、好ましくは130℃以上、より好ましくは135℃以上であり、好ましくは150℃以下、より好ましくは145℃以下である。ガラス転移温度が130℃を下回ると高温下における耐久性が悪化する可能性があり、150℃を上回るものは、耐久性は向上するが通常の延伸加工が困難となる可能性がある。
【0034】
脂環式構造含有重合体は、光弾性係数の絶対値が10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、「C=Δn/σ」で表される値である。脂環式構造含有重合体の光弾性係数が10×10−12Pa−1を超えると、基材フィルムの面内レターデーショReのバラツキが大きくなるおそれがある。
【0035】
脂環式構造含有重合体の飽和吸水率は、好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、基材フィルムの面内位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの経時変化を小さくすることができる。また、本発明の複層フィルムを備える偏光板及び液晶表示装置の劣化を抑制でき、長期的にディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。
【0036】
飽和吸水率は、試験片を一定温度の水中に一定時間浸漬して増加した質量を、浸漬前の試験片の質量に対する百分率で表した値である。通常は、23℃の水中に24時間、浸漬して測定される。脂環式構造含有重合体における飽和吸水率は、例えば、脂環式構造含有重合体中の極性基の量を減少させることにより、前記の範囲に調節することができる。飽和吸水率をより低くする観点から、脂環式構造含有重合体は、極性基を有さないことが好ましい。
【0037】
脂環式構造含有重合体樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、脂環式構造含有重合体以外にもその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例を挙げると、顔料、染料等の着色剤;可塑剤;蛍光増白剤;分散剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;耐電防止剤;酸化防止剤;滑剤;界面活性剤などの添加剤が挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0038】
ただし、脂環式構造含有重合体樹脂に含まれる重合体の量は、一般的には50%〜100%、または70%〜100%である。特に、本発明に係る基材フィルムは、高い疎水性を有する脂環式構造含有重合体樹脂からなる層を有する場合であっても、ウレタン樹脂層を備えることにより親水性が高い他の部材と強固に接着できるという利点を有する。この利点を効果的に活用する観点からは、脂環式構造含有重合体樹脂に含まれる重合体の量が、例えば80%〜100%、より詳しくは90%〜100%となるように、その他の成分の量を調整することが好ましい。
【0039】
ただし、脂環式構造含有重合体樹脂には、実質的に粒子を含まないことが好ましい。ここで、実質的に粒子を含まないとは、脂環式構造含有重合体樹脂に粒子を含ませても、粒子を全く含まない状態からの基材フィルムのヘイズの上昇幅が0.05%以下の範囲である量までは許容できることを意味する。脂環式構造含有重合体は、多くの有機粒子や無機粒子との親和性に欠けるため、上記範囲を超えた量の粒子を含む脂環式構造含有重合体樹脂を延伸すると、空隙が発生しやすく、その結果として、ヘイズの著しい低下が生じるおそれがある。
【0040】
脂環式構造含有重合体樹脂からなる層は、その製法によって特に制限されない。脂環式構造含有重合体樹脂からなる層は、脂環式構造含有重合体樹脂を公知のフィルム成形法で成形することによって得られる。フィルム成形法としては、例えば、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などが挙げられる。中でも、溶剤を使用しない溶融押出法が、残留揮発成分量を効率よく低減させることができ、地球環境や作業環境の観点、及び製造効率に優れる観点から好ましい。溶融押出法としては、ダイスを用いるインフレーション法などが挙げられ、中でも生産性や厚み精度に優れる点でTダイを用いる方法が好ましい。
【0041】
〔2−2.アクリル樹脂〕
アクリル重合体とは、アクリル酸又はアクリル酸誘導体の重合体を意味し、例えばアクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸およびメタクリル酸エステルなどの重合体及び共重合体が挙げられる。アクリル重合体は強度が高く硬いため、強度の高い複層フィルムを実現できる。
【0042】
アクリル重合体としては、(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位を含む重合体が好ましい。その場合、アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステルのみからなる単独重合体若しくは共重合体でもよく、また、(メタ)アクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体との共重合体でもよい。
【0043】
(メタ)アクリル酸エステルとして、好ましくは(メタ)アクリル酸と炭素数1〜15のアルカノール又はシクロアルカノールから誘導される構造のものが挙げられ、より好ましくは、炭素数1〜8のアルカノールから誘導される構造のものが挙げられる。炭素数が多すぎる場合は、得られる基材フィルムの破断時の伸びが大きくなる傾向がある。
【0044】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−デシル、アクリル酸n−ドデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−デシル、メタクリル酸n−ドデシルなどのメタクリル酸エステル類;などを挙げることができる。
【0045】
これらの(メタ)アクリル酸エステルは、例えば水酸基、ハロゲン原子などの任意の置換基を有していてもよい。そのような置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジルなどを挙げることができる。
また、(メタ)アクリル酸エステルは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0046】
アクリル重合体は、アクリル酸又はアクリル酸誘導体のみの重合体であってもよいが、アクリル酸又はアクリル酸誘導体とこれに共重合可能な単量体との共重合体でもよい。共重合可能な単量体としては、例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、並びに、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、アルケニル芳香族単量体、共役ジエン単量体、非共役ジエン単量体、シアン化ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体、カルボン酸不飽和アルコールエステル、オレフィン単量体などが挙げられる。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステル以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の具体例としては、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、イタコン酸ジメチルなどが挙げられる。
【0048】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、モノカルボン酸、多価カルボン酸、多価カルボン酸の部分エステル及び多価カルボン酸無水物のいずれでもよく、その具体例としては、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノn−ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0049】
アルケニル芳香族単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0050】
共役ジエン単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、シクロペンタジエンなどを挙げることができる。
【0051】
非共役ジエン単量体の具体例としては、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンなどが挙げられる。
【0052】
カルボン酸不飽和アルコールエステル単量体の具体例としては、酢酸ビニルなどを挙げることができる。
【0053】
オレフィン単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンなどを挙げられる。
【0054】
これらの共重合可能な単量体の中でも、アルケニル芳香族単量体が好ましく、スチレンが特に好ましい。
また、共重合可能な単量体は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0055】
アクリル重合体が共重合可能な単量体を含む場合、当該アクリル重合体におけるアクリル酸又はアクリル酸誘導体と共重合可能な単量体に由来する繰り返し単位の含有量は、好ましくは50重量%以下、より好ましくは15重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0056】
アクリル重合体の好ましい具体例としては、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル/アクリル酸ブチル/スチレン共重合体、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル/スチレン/アクリル酸ブチル共重合体などが挙げられる。アクリル重合体は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらのうち、ポリメタクリレートが好ましく、中でもポリメチルメタクリレートがより好ましい。
【0057】
アクリル重合体の分子量は、特に限定されないが、通常、重量平均分子量で50,000〜500,000である。分子量がこの範囲内にあると、均質なフィルム層を溶融流延法により容易に作製することができる。
【0058】
アクリル樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、アクリル重合体以外にもその他の成分を含んでいてもよい。その成分の例を挙げると、脂環式構造含有重合体樹脂が含んでいてもよい成分と同様の例が挙げられる。なお、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0059】
アクリル樹脂の引張試験における破断時伸びは、好ましくは10%以上、より好ましくは50%以上であり、好ましくは180%以下、より好ましくは170%以下である。破断時伸びが上記範囲内にあるときに、基材フィルムの不要部分のカス上げ加工性が良好となる。ここで、前記のカス上げ加工性とは、基材フィルムの不要部分を切除した場合に、切除された不要部分(カス)を除去する際の操作性のことを意味する。破断時伸びは、JIS K 7127の規定により、試験片タイプ1B(W10,L100,t0.1mm)、速度5mm/分の条件で求められた値である。
【0060】
アクリル樹脂からなる層の製造方法に特に制限は無い。例えば、熱可塑性のアクリル樹脂によって層を形成する場合、前述の脂環式構造含有重合体樹脂からなる層と同様のフィルム成形法で成形することによって製造してもよい。
【0061】
また、例えば紫外線硬化型のアクリル樹脂によって層を形成する場合、未硬化状態のアクリル樹脂を下地となるフィルムの表面に塗布し、その後、紫外線を照射して紫外線硬化型のアクリル樹脂を硬化させることにより、アクリル樹脂からなる層を形成してもよい。
【0062】
紫外線硬化型のアクリル樹脂としては、ウレタン樹脂層と親和性のある樹脂を用いることが好ましい。例えば、ウレタンアクリレート系、エポキシアクリレート系、ポリエステルアクリレート系のアクリル樹脂などが好ましい。
【0063】
未硬化状態のアクリル樹脂として、好ましくは、例えば分子中に重合性不飽和結合またはエポキシ基を有するプレポリマー、オリゴマー及びモノマーのうち一種類又は二種類以上を含み、紫外線の照射により硬化する樹脂などが挙げられる。
分子中に重合性不飽和結合またはエポキシ基を有するプレポリマー又はオリゴマーとしては、例えば、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールとの縮合物などの不飽和ポリエステル類;ポリエステルメタクリレート、ポリエーテルメタクリレート、ポリオールメタクリレート、メラミンメタクリレートなどのメタクリレート類;ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリオールアクリレート、メラミンアクリレートなどのアクリレート類;カチオン重合型エポキシ化合物;などが挙げられる。
【0064】
分子中に重合性不飽和結合またはエポキシ基を有するモノマーの例としては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸メトキシブチル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸エトキシメチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸エステル類;アクリル酸−2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル、アクリル酸−2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル、アクリル酸−2−(N,N−ジベンジルアミノ)メチル、アクリル酸−2−(N,N−ジエチルアミノ)プロピル等の不飽和置換の置換アミノアルコールエステル類;アクリルアミド、メタクリルアミド等の不飽和カルボン酸アミド類;エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシアクリレート、2−ヘキシルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクレリート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等の多官能性アクリレート類;トリメチロールプロパントリチオグリコレート、トリメチロールプロパントリチオプロピレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート等の、分子中に2個以上のチオール基を有するポリチオール類;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルフェニルエーテル、グリシジルエチルエーテル、エピクロロヒドリン、アリルグリシジルエーテル、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジグリシジルエーテル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等のエポキシ化合物などが挙げられる。
本発明においては、これらのプレポリマー、オリゴマー及びモノマーは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0065】
未硬化状態の紫外線硬化型のアクリル樹脂における前記プレポリマー、オリゴマー及びモノマーの含有量は、優れた塗布適性が得られる観点から、5重量%〜95重量%が好ましい。
【0066】
紫外線硬化型のアクリル樹脂は、好ましくは光重合開始剤及び光重合促進剤を含む。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、アシルフォスフィンオキサイド類、ベンゾインエーテル類、オキシムエステル類などのラジカル重合性開始剤;芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、メタセロン化合物、ベンゾインスルホン酸エステルなどのカチオン重合性開始剤;などが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。光重合開始剤の含有量は、アクリル樹脂中に、通常、0.1重量%〜10重量%である。
【0067】
紫外線硬化型のアクリル樹脂は、未硬化状態においては溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジアセトングリコール、プロプレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メチルエチルケトオキシムなどのオキシム類;などが挙げられる。また、溶剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0068】
未硬化状態のアクリル樹脂を下地となるフィルムの表面に塗布する方法は特に限定されず、公知の塗布法を採用してもよい。具体的な塗布法としては、例えば、ワイヤーバーコート法、ディップ法、スプレー法、スピンコート法、ロールコート法、グラビアコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、スライドコート法、エクストルージョンコート法などが挙げられる。
【0069】
未硬化状態のアクリル樹脂の塗布量は特に限定されないが、硬化後の厚みとして、通常0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、通常50μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下となる量が好ましい。
【0070】
〔2−3.基材フィルムの構造及び物性等〕
基材フィルムは、一層のみを備える単層構造のフィルム層であってもよく、二層以上の層を備える複層構造のフィルム層であってもよい。基材フィルムを複層構造のフィルム層とすることにより、様々な特性を有する偏光板を製造することができる。ただし、基材フィルムが二層以上の層を備える場合、脂環式構造含有重合体樹脂からなる層又はアクリル樹脂からなる層が、基材フィルムの最表面に位置するようにする。この際、基材フィルムの2面の最表面(おもて面及び裏面)のうち、一方の最表面にのみ脂環式構造含有重合体樹脂からなる層又はアクリル樹脂からなる層が位置していてもよく、両方の最表面に脂環式構造含有重合体樹脂からなる層又はアクリル樹脂からなる層が位置していてもよい。
【0071】
基材フィルムが二層以上の層を備える場合、一種類のフィルム層を二層以上備えていてもよく、異なる二種類以上のフィルム層を備えていてもよい。また、基材フィルムには、上述した脂環式構造含有重合体樹脂及びアクリル樹脂以外の樹脂からなる層を設けてもよい。このように脂環式構造含有重合体樹脂からなる層又はアクリル樹脂からなる層と組み合わせる層の種類に制限は無く、例えば、傷付防止、反射防止、帯電防止、防眩、防汚などの機能を有するフィルム層が挙げられる。基材フィルムの層構成の具体例を挙げると、例えば、アクリル樹脂からなる層、スチレン系樹脂からなる層、及びアクリル樹脂からなる層をこの順に積層させた三層構造の基材フィルムなどが挙げられる。
【0072】
基材フィルムが二層以上の層を備える場合、基材フィルムの製造方法に制限は無い。例えば、別々に製造したフィルム層を接着剤を用いて貼り合せて基材フィルムを製造してもよい。また、例えば、接着剤を用いずに共押出法などにより基材フィルムを製造してもよい。
【0073】
接着剤は、貼り合わせるフィルム層を形成する樹脂の種類により適宜選択してよい。接着剤の例としては、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、変性ポリオレフィン系接着剤、ポリビニルアルキルエーテル系接着剤、ゴム系接着剤、エチレン−酢酸ビニル系接着剤、塩化ビニル−酢酸ビニル系接着剤、SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体)系接着剤、SIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)系接着剤、エチレン−スチレン共重合体などのエチレン系接着剤、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体などのアクリル酸エステル系接着剤などが挙げられる。接着剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0074】
接着剤で形成される接着層の平均厚みは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。
【0075】
接着剤を使用せずに基材フィルムを製造する場合、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法などの共押出成形法;ドライラミネーションなどのフィルムラミネーション成形法などを用いてもよい。また、例えば、あるフィルム層の表面に、別のフィルム層を構成する樹脂を含む溶液をコーティングするコーティング成形法などを用いてもよい。これらの中でも、製造効率や、基材フィルム中に溶剤などの揮発性成分を残留させないという観点からは共押出成形法が好ましく、共押出成形法の中でも共押出Tダイ法が好ましい。さらに、共押出Tダイ法にはフィードブロック方式とマルチマニホールド方式が挙げられるが、フィルム層の厚みのばらつきを少なくできる点からは、マルチマニホールド方式がさらに好ましい。
【0076】
基材フィルムは、延伸されていない未延伸フィルムであってもよく、延伸された延伸フィルムであってもよい。また、基材フィルムが2層以上の層を備える場合、予め延伸されたフィルム層を積層して延伸フィルムを得てもよく、共押出等により得られた複層フィルム層を延伸して延伸フィルムを得てもよい。
【0077】
延伸方法は特に制限されず、例えば、一軸延伸法、二軸延伸法のいずれを採用してもよい。延伸方法の例を挙げると、一軸延伸法の例としては、フィルム搬送用のロールの周速の差を利用して長尺方向に一軸延伸する方法;テンター延伸機を用いて幅方向に一軸延伸する方法等が挙げられる。また、二軸延伸法の例としては、固定するクリップの間隔を開いての長尺方向の延伸と同時に、ガイドレールの広がり角度により幅方向に延伸する同時二軸延伸法;フィルム搬送用のロール間の周速の差を利用して長尺方向に延伸した後、その両端部をクリップ把持してテンター延伸機を用いて幅方向に延伸する逐次二軸延伸法などの二軸延伸法等が挙げられる。さらに、例えば、幅方向又は長尺方向に左右異なる速度の送り力若しくは引張り力又は引取り力を付加できるようにしたテンター延伸機を用いて、フィルムの幅方向に対して任意の角度θをなす方向に連続的に斜め延伸する斜め延伸法を用いてもよい。
【0078】
延伸に用いる装置として、例えば、縦一軸延伸機、テンター延伸機、バブル延伸機、ローラー延伸機等が挙げられる。
延伸温度は、未延伸の基材フィルムを形成する材料のガラス転移温度をTgとしたときに、好ましくは(Tg−30℃)以上、より好ましくは(Tg−10℃)以上であり、好ましくは(Tg+60℃)以下、より好ましくは(Tg+50℃)以下である。
延伸倍率は、使用する基材フィルムの光学特性に応じて適宜選択してもよく、通常1.05倍以上、好ましくは1.1倍以上であり、通常10.0倍以下、好ましくは2.0倍以下である。
【0079】
基材フィルムは、1mm厚換算での全光線透過率が80%以上であることが好ましい。さらに好ましくは、全光線透過率が90%以上である。
基材フィルムは、1mm厚でのヘイズが0.3%以下であることが好ましい。さらに好ましくは、ヘイズが0.2%以下である。ヘイズが0.3%を超えると、基材フィルムの透明性が低下することがある。
【0080】
基材フィルムの平均厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは20μm以上であり、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下である。
基材フィルムの厚み変動幅は、長尺方向及び幅方向にわたって、前記平均厚みの±3%以内であることが好ましい。厚み変動を上記範囲にすることにより、基材フィルムの位相差(レターデーション)などの光学特性のバラツキを小さくすることができる。
【0081】
基材フィルムの残留揮発性成分の含有量は、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。揮発性成分の含有量を上記範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、基材フィルムの面内位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの経時変化を小さくすることができ、さらには本発明の複層フィルムを備える偏光板又は液晶表示装置等の劣化を抑制でき、長期的にディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。揮発性成分は分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体及び溶媒などが挙げられる。揮発性成分の含有量は、分子量200以下の物質の合計として、ガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0082】
[3.ウレタン樹脂層]
ウレタン樹脂層は、(A)ポリウレタン、(B)エポキシ化合物、(C)成分{即ち、一級アミン及び二級アミンの一方又は両方}、並びに、(D)成分{即ち、三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物}を含む未硬化状態のウレタン樹脂を硬化させた層である。ウレタン樹脂層は易接着層として機能し、接着剤を介して基材フィルムを他の部材(例えば、偏光子等)と貼り合わせる際に、接着剤による基材フィルムと他の部材との接着を補強して、より強固に接着させようになっている。すなわち、ウレタン樹脂層は、接着剤の機能を補強する層であり、別称としてプライマー層などと呼ばれる。
【0083】
通常、ウレタン樹脂層は、基材フィルムの脂環式構造含有重合体樹脂からなる層又はアクリル樹脂からなる層の表面に、接着剤の層等の他の層を介することなく、直接に設けられる。
ウレタン樹脂層は、基材フィルムの一方の表面に設けてもよいし、両面に設けてもよい。基材フィルムの両面にウレタン樹脂層を設けることにより、基材フィルムの取り扱い性を効果的に改善できる。
【0084】
〔3−1.(A)ポリウレタン〕
ポリウレタンとしては、例えば、(i)1分子中に平均2個以上の活性水素を含有する成分と(ii)多価イソシアネート成分とを反応させて得られるポリウレタン;または、上記(i)成分及び(ii)成分をイソシアネート基過剰の条件下で、反応に不活性で水との親和性の大きい有機溶媒中でウレタン化反応させてイソシアネート基含有プレポリマーとし、次いで、該プレポリマーを中和し、鎖延長剤を用いて鎖延長し、水を加えて分散体とすることによって製造されるポリウレタン;などが挙げられる。これらのポリウレタンには酸構造(酸残基)を含有させてもよい。
【0085】
イソシアネート基含有プレポリマーの鎖伸長方法は公知の方法としてもよく、例えば、鎖伸長剤として、水、水溶性ポリアミン、グリコール類などを使用し、イソシアネート基含有プレポリマーと鎖伸長剤とを、必要に応じて触媒の存在下で反応させてもよい。
【0086】
前記(i)成分(すなわち、1分子中に平均2個以上の活性水素を含有する成分)としては、特に限定されるものではないが、水酸基性の活性水素を有するものが好ましい。このような化合物の具体例としては、次のようなものが挙げられる。
【0087】
(1)ポリオール化合物
ポリオール化合物として、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサングリコール、2,5−ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ジメチルプロパンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。
【0088】
(2)ポリエーテルポリオール
ポリエーテルポリオールとして、例えば、前記のポリオール化合物のアルキレンオキシド付加物;アルキレンオキシドと環状エーテル(例えばテトラヒドロフランなど)との開環(共)重合体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコールの共重合体;グリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリオクタメチレングリコールなどのグリコール類;などが挙げられる。
【0089】
(3)ポリエステルポリオール
ポリエステルポリオールとして、例えば、アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等のジカルボン酸又はその無水物と、上記(1)で挙げられたようなエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタメチレンジオール、ネオペンチルグリコールなどのポリオール化合物とを、水酸基過剰の条件で重縮合させて得られたものなどが挙げられる。より具体的には、例えば、エチレングリコール−アジピン酸縮合物、ブタンジオール−アジピン縮合物、ヘキサメチレングリコール−アジピン酸縮合物、エチレングリコール−プロピレングリコール−アジピン酸縮合物、或いはグリコールを開始剤としてラクトンを開環重合させたポリラクトンジオールなどが挙げられる。
【0090】
(4)ポリエーテルエステルポリオール
ポリエーテルエステルポリオールとして、例えば、エーテル基含有ポリオール(例えば、前記(2)のポリエーテルポリオールやジエチレングリコール等)または、これと他のグリコールとの混合物を上記(3)で例示したようなジカルボン酸又はその無水物に加えてアルキレンオキシドを反応させてなるものなどが挙げられる。より具体的には、例えば、ポリテトラメチレングリコール−アジピン酸縮合物などが挙げられる。
【0091】
(5)ポリカーボネートポリオール
ポリカーカーボネートポリオールとしては、例えば、一般式HO−R−(O−C(O)−O−R)x−OH(ただし、式中、Rは炭素原子数1〜12の飽和脂肪酸ポリオール残基を示す。また、xは分子の繰り返し単位の数を示し、通常5〜50の整数である。)で示される化合物などが挙げられる。これらは、飽和脂肪族ポリオールと置換カーボネート(例えば、炭酸ジエチル、ジフェニルカーボネートなど)とを、水酸基が過剰となる条件で反応させるエステル交換法;前記飽和脂肪族ポリオールとホスゲンとを反応させるか、または必要に応じて、その後さらに飽和脂肪族ポリオールを反応させる方法;などにより得ることができる。
【0092】
上記の(1)から(5)に例示したような化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0093】
前記(i)成分と反応させる(ii)成分(即ち、多価イソシアネート成分)としては、例えば、1分子中に平均2個以上のイソシアネート基を含有する脂肪族、脂環族または芳香族の化合物を使用してもよい。
【0094】
脂肪族ジイソシアネート化合物としては、炭素原子数1〜12の脂肪族ジイソシアネートが好ましく、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート(HDI)などが挙げられる。脂環式ジイソシアネート化合物としては、炭素原子数4〜18の脂環式ジイソシアネートが好ましく、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)などが挙げられる。芳香族イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0095】
ポリウレタンは、酸構造を有することが好ましい。酸構造を有するポリウレタンは、界面活性剤を使用せずに、若しくは界面活性剤の量が少なくても、水中に分散させることが可能となるので、ウレタン樹脂層の耐水性が良くなることが期待される。これを自己乳化型といい、界面活性剤を使用すること無く分子イオン性のみで、水中にポリウレタンが分散安定化しうることを意味する。このようなポリウレタンを用いたウレタン樹脂層は、界面活性剤が不要であるために、脂環式構造含有重合体樹脂及びアクリル樹脂との接着性に優れ、かつ高い透明性を維持できるため、好ましい。
【0096】
酸構造としては、例えば、カルボキシル基(−COOH)、スルホン酸基(−SOH)等の酸基などを挙げることができる。また、酸構造は、ポリウレタンにおいて側鎖に存在していてもよく、末端に存在していてもよい。なお、酸構造は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0097】
酸構造の含有量としては、ポリウレタン中の酸価として、好ましくは20mgKOH/g以上、より好ましくは25mgKOH/g以上であり、好ましくは250mgKOH/g以下、より好ましくは150mgKOH/g以下である。酸価が20mgKOH/g未満では水分散性が不十分となりやすく、一方、酸価が250mgKOH/gより大きいとウレタン樹脂層の耐水性が劣る傾向となる。
【0098】
ポリウレタンに酸構造を導入する方法は、従来から用いられている方法が特に制限なく使用できる。好ましい例を挙げると、ジメチロールアルカン酸を、前記(2)から(4)に記載したグリコール成分の一部もしくは全部と置き換えることによって、予めポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール等にカルボキシル基を導入する方法が挙げられる。ここで用いられるジメチロールアルカン酸としては、例えば、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸などが挙げられる。なお、ジメチロールアルカン酸は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0099】
また、ポリウレタンが含む酸構造の一部又は全部は、中和することが好ましい。酸構造を中和することにより、ポリウレタンの水分散性を向上させることができる。酸成分を中和する中和剤としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの無機塩基;などを挙げられる。なお、中和剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0100】
ポリウレタンの数平均分子量は、1,000以上が好ましく、より好ましくは20,000以上であり、1,000,000以下が好ましく、より好ましくは200,000以下である。
【0101】
ポリウレタンとしては、水系ウレタン樹脂として市販されているものを用いてもよい。水系ウレタン樹脂とは、ポリウレタンと水とを含む組成物であり、通常、ポリウレタン及び必要に応じて含まれる他の成分が水の中に分散しているものである。水系ウレタン樹脂としては、例えば、旭電化工業社製の「アデカボンタイター」シリーズ、三井東圧化学社製の「オレスター」シリーズ、大日本インキ化学工業社製の「ボンディック」シリーズ、「ハイドラン」シリーズ、バイエル社製の「インプラニール」シリーズ、日本ソフラン社製の「ソフラネート」シリーズ、花王社製の「ポイズ」シリーズ、三洋化成工業社製の「サンプレン」シリーズ、保土谷化学工業社製の「アイゼラックス」シリーズ、第一工業製薬社製の「スーパーフレックス」シリーズ、ゼネカ社製の「ネオレッツ」シリーズなどを用いることができる。
なお、ポリウレタンは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0102】
〔3−2.(B)エポキシ化合物〕
エポキシ化合物は架橋剤として機能する成分であり、エポキシ化合物を用いることによってウレタン樹脂層の機械的強度を高めることができる。また、エポキシ化合物が有する極性構造により、接着力を向上させる作用も見込まれる。
【0103】
エポキシ化合物としては、エポキシ基を有する化合物を用いる。通常は、1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を用いる。これにより、架橋反応を進行させてウレタン樹脂層の機械的強度を効果的に向上させることができる。
【0104】
また、エポキシ化合物としては、水に溶解性があるか、または水に分散してエマルジョン化しうるものが好ましい。ウレタン樹脂層の形成に用いられる未硬化状態のウレタン樹脂は、通常、水を含む流体状の水系樹脂として用意される。ここで水系樹脂とは、固形分を、水等の水系の溶剤に溶解又は分散した状態で含有する組成物のことをいう。エポキシ基が水に溶解性を有するか又はエマルジョン化しうるものであれば、前記の水系樹脂の塗布性を良好にして、ウレタン樹脂層の製造を容易に行うことが可能となる。
【0105】
エポキシ化合物の例を挙げると、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類1モルと、エピクロルヒドリン2モルとのエーテル化によって得られるジエポキシ化合物;グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール類1モルと、エピクロルヒドリン2モル以上とのエーテル化によって得られるポリエポキシ化合物;フタル酸、テレフタル酸、シュウ酸、アジピン酸等のジカルボン酸1モルと、エピクロルヒドリン2モルとのエステル化によって得られるジエポキシ化合物等のエポキシ化合物;などが挙げられる。エポキシ化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0106】
エポキシ化合物の量は、ポリウレタン100重量部に対し、通常2重量部以上、好ましくは5重量部以上、より好ましくは8重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは16重量部以下、より好ましくは14重量部以下である。エポキシ化合物の量を前記範囲の下限値以上とすることによりエポキシ化合物とポリウレタンとの反応が十分に進行するのでウレタン樹脂層の機械的強度を適切に向上させることができ、上限値以下とすることにより未反応のエポキシ化合物の残留を少なくでき、やはりウレタン樹脂層の機械的強度を適切に向上させることができる。
【0107】
また、ポリウレタンが酸構造を有する場合、ポリウレタンの酸構造と当量になるエポキシ化合物の量に対し、エポキシ化合物の量は、重量基準で、好ましくは0.2倍以上、より好ましくは0.4倍以上、特に好ましくは0.6倍以上であり、好ましくは1.4倍以下、より好ましくは1.2倍以下、特に好ましくは1.0倍以下である。ここで、ポリウレタンの酸構造と当量になるエポキシ化合物の量とは、ポリウレタンの酸構造の全量と過不足無く反応できるエポキシ化合物の理論量をいう。ポリウレタンが酸構造を有すると、その酸構造はエポキシ化合物のエポキシ基と反応しうる。この際、エポキシ化合物の量を前記の範囲に収めることにより、酸構造とエポキシ化合物との反応を適切な程度に進行させて、ウレタン樹脂層の機械的強度を効果的に向上させることができる。
【0108】
〔3−3.(C)成分〕
(C)成分とは、一級アミン及び二級アミンの一方又は両方のことを表す。したがって、一級アミンだけを(C)成分として用いてもよく、二級アミンだけを(C)成分として用いてもよく、一級アミン及び二級アミンを組み合わせて(C)成分として用いてもよい。(C)成分は架橋剤として機能する成分であり、(C)成分を用いることによってウレタン樹脂層の機械的強度を高めることができる。また、ポリウレタンとエポキシ化合物と(C)成分とを組み合わせることにより、接着力を顕著に向上させることができる。
【0109】
(C)成分としては、水に溶解性があるか、または水に分散してエマルジョン化しうるものが好ましい。これにより、未硬化状態のウレタン樹脂が水系樹脂として用意される場合に、その水系樹脂の塗布性を良好にして、ウレタン樹脂層の製造を容易に行うことが可能となる。
【0110】
(C)成分の例を挙げると、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)、モノエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール(AMPD)、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパン水酸化カリウム、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトシキシシラン、3−アミノプロピル−トリス(2−メトキシ−エトキシ−エトキシ)シラン、シクロヘキシルアミン、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンペンタミン、アミノエチルエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、アミノエチルエタノールアミン、アミノプロピルエタノールアミン、アミノヘキシルエタノールアミン、アミノエチルプロパノールアミン、アミノプロピルプロパノールアミン、アミノヘキシルプロパノールアミン、5−アミノピラゾール、1−メチル−5−アミノピラゾール、1−イソプロピル−5−アミノピラゾール、1−ベンジル−5−アミノピラゾール、1,3−ジメチル−5−アミノピラゾール、1−イソプロピル−3−メチル−5−アミノピラゾール、1−ベンジル−3−メチル−5−アミノピラゾール、1−メチル−4−クロロ−5−アミノピラゾール、1−メチル−4−アシノ−5−アミノピラゾール、1−イソプロピル−4−クロロ−5−アミノピラゾール、3−メチル−4−クロロ−5−アミノピラゾール、1−ベンジル−4−クロロ−5−アミノピラゾールなどの一級アミン;ジエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどの二級アミン;N−メチル−3−アミノプロピルトリメトキシカルボン酸ジヒドラジド、カルボジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、グリコリック酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ジヒドラジド等のヒドラジド化合物;メラミン樹脂;ユリア樹脂;グアナミン樹脂;等が挙げられる。なかでも、ヒドラジド化合物のようにヒドラジノ基(−NHNH基)を有する化合物は、反応性が高いのでウレタン樹脂層の機械的強度を適切に向上させることができ、また比較的沸点が高くウレタン樹脂層の耐熱性を高くできるので、特に好ましい。また、(C)成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0111】
(C)成分の沸点は、基材フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度よりも高いことが好ましい。基材フィルムが複数種類の樹脂を含んでいる場合には、それらの樹脂のガラス転移温度のうち最も低いガラス転移温度よりも(C)成分の沸点が高いことが好ましい。本発明の複層フィルムを延伸したり乾燥させたりする場合、通常は、基材フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度程度の温度において延伸又は乾燥を行う。この際、(C)成分の沸点が前記のように高ければ、(C)成分が気化してウレタン樹脂層において気泡が発生することを安定して防止できる。
【0112】
(C)成分の量は、ポリウレタン100重量部に対し、通常0.5重量部以上、好ましくは1重量部以上、より好ましくは2重量部以上であり、通常40重量部以下、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。(C)成分の量を前記範囲の下限値以上とすることによりウレタン樹脂層の機械的強度を適切に向上させることができ、上限値以下とすることにより未反応のエポキシ化合物の残留を少なくでき、やはりウレタン樹脂層の機械的強度を適切に向上させることができる。
【0113】
〔3−4.(D)成分〕
(D)成分とは、三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物のことを表す。(D)成分は、エポキシ化合物のエポキシ基による架橋反応を促進させる触媒として作用するので、(D)成分を用いることによりウレタン樹脂層の機械的強度を高めることができる。また、架橋反応の進行によりウレタン樹脂層における化学結合が強固になるので、(D)成分にはウレタン樹脂層の耐水性を向上させることができる。ただし、(D)成分は、エポキシ化合物のエポキシ基に対して特定の量だけ使用した場合にウレタン樹脂層の耐水性を特異的に向上させるので、この点に鑑みると、(D)成分は触媒としての作用以外の作用も発揮しうるものと推察される。
【0114】
(D)成分としては、水に溶解性があるか、または水に分散してエマルジョン化しうるものが好ましい。これにより、未硬化状態のウレタン樹脂が水系樹脂として用意される場合に、その水系樹脂の塗布性を良好にして、ウレタン樹脂層の製造を容易に行うことが可能となる。
【0115】
(D)成分のうちで三級アミンは、三級アミノ基を有する化合物である。三級アミンにおいては、当該三級アミンが有する三級アミノ基の窒素原子において、エポキシ化合物のエポキシ基と反応又は触媒作用等が生じると考えられる。このため、三級アミンとエポキシ化合物のエポキシ基との関係においては、三級アミンの価数は、通常、当該三級アミンが有する三級アミノ基の数と同数となる。
【0116】
三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリ[(2−ヒドロキシ)−1−プロピル]アミン、N,N−ジエチルメタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ビス(トリメチルシリル)ウレアなどが挙げられる。なお、三級アミンは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0117】
ところで、アミンの中には、一級アミノ基又は二級アミノ基と三級アミノ基とを組み合わせて含むアミンがありえる。この点につき、本発明においては、一級アミノ基又は二級アミノ基と三級アミノ基とを組み合わせて含むアミンは、三級アミノ基として取り扱うものとする。
【0118】
(D)成分のうちでイミダゾール化合物は、イミダゾール及びその誘導体である。イミダゾール化合物においては、イミダゾール環に含まれる2個の窒素原子において、エポキシ化合物のエポキシ基と反応又は触媒作用等が生じると考えられる。このため、イミダゾール化合物とエポキシ化合物のエポキシ基との関係においては、イミダゾール化合物の価数は、通常は2価となる。
【0119】
イミダゾール化合物としては、例えば、イミダゾール;2−メチルイミダゾール等のアルキルイミダゾール;1−(2−アミノエチル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−アミノエチル)−2−エチルイミダゾール、2−アミノイミダゾールサルフェート、2−(2−アミノエチル)−ベンゾイミダゾール等のアミノ基を有するイミダゾール等が挙げられる。なお、イミダゾール化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0120】
(D)成分のうちでイミダゾリン化合物は、イミダゾリン及びその誘導体である。イミダゾリン化合物においては、イミダゾリン環に含まれる2個の窒素原子において、エポキシ化合物のエポキシ基と反応又は触媒作用等が生じると考えられる。このため、イミダゾリン化合物とエポキシ化合物のエポキシ基との関係においては、イミダゾリン化合物の価数は、通常は2価となる。
【0121】
イミダゾリン化合物としては、例えば、イミダゾリン;2−メチル−2−イミダゾリン等のアルキルイミダゾリン等が挙げられる。なお、イミダゾリン化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0122】
(D)成分の沸点は、基材フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度よりも高いことが好ましい。基材フィルムが複数種類の樹脂を含んでいる場合には、それらの樹脂のガラス転移温度のうち最も低いガラス転移温度よりも(D)成分の沸点が高いことが好ましい。本発明の複層フィルムを延伸したり乾燥させたりする場合に、(D)成分の沸点が前記のように高ければ、(D)成分が気化してウレタン樹脂層において気泡が発生することを安定して防止できる。
【0123】
(D)成分の量は、エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対して、通常1.4当量以上、好ましくは1.6当量以上であり、通常2.7当量以下、好ましくは2.5当量以下である。(A)ポリウレタン、(B)エポキシ化合物、(C)成分及び(D)成分を組み合わせた未硬化状態のウレタン樹脂において、(D)成分の量をこのような範囲とすることにより、当該樹脂を硬化させたウレタン樹脂層の耐水性を向上させることができるので、接着力を高湿度環境であっても低下し難くできる。
【0124】
従来の易接着層においてエポキシ化合物と(D)成分とを組み合わせる場合、(D)成分は触媒として機能すると認識されていたので、(D)成分の量は易接着層の性能には大きな影響を与えないと考えられていた。しかし、本発明者は、前記のように(D)成分の量をエポキシ化合物のエポキシ基に対する当量で特定の範囲に収まるようにすることで、耐水性を顕著に向上させられることを見出した。このように耐水性が向上することは、従来の技術からは予測のできない顕著な効果であり、実用上優れた意義を有する。
【0125】
〔3−5.溶剤〕
未硬化状態のウレタン樹脂は、通常、溶剤を含む流体状の樹脂である。具体的には、(A)ポリウレタン、(B)エポキシ化合物、(C)成分及び(D)成分、並びに必要に応じて用いられるその他の成分が、溶剤に溶解又は分散した液状の組成物となっている。この際、溶剤としては、水又は水溶性の溶剤を用いる。
【0126】
水溶性の溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。中でも、溶剤としては、水を用いることが好ましい。なお、溶剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0127】
溶剤の量は、未硬化状態のウレタン樹脂の粘度が、塗布に適した範囲になるように設定することが好ましい。
【0128】
〔3−6.その他の成分〕
未硬化状態のウレタン樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述したもの以外の成分を含んでいてもよい。
【0129】
例えば、未硬化状態のウレタン樹脂は、さらに微粒子を含むことが好ましい。これにより、ウレタン樹脂層も微粒子を含むことになり、ウレタン樹脂層の表面に凹凸を形成できる。これにより、巻回の際にウレタン樹脂層が他の層と接触する面積が小さくなり、その分だけウレタン樹脂層の表面の滑り性を向上させて、本発明の複層フィルムを巻回する際のシワの発生を抑制できる。
【0130】
微粒子の平均粒子径は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上であり、通常500nm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下である。平均粒子径を前記範囲の下限値以上にすることによりウレタン樹脂層の滑り性を効果的に高めることができ、前記範囲の上限値以下にすることによりヘイズを低く抑えることができる。なお、微粒子の平均粒子径としては、レーザー回折法によって粒径分布を測定し、測定された粒径分布において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(50%体積累積径D50)を採用する。
【0131】
微粒子としては、無機微粒子、有機微粒子のいずれを用いてもよいが、水分散性の微粒子を用いることが好ましい。無機微粒子の材料を挙げると、例えば、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア等の無機酸化物;炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、燐酸カルシウム等が挙げられる。また、有機微粒子の材料を挙げると、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。これらの中でも、シリカが好ましい。シリカの微粒子は、シワの発生を抑制する能力及び透明性に優れ、ヘイズを生じ難く、着色が無いため、本発明の複層フィルムの光学特性に与える影響がより小さいからである。また、シリカはウレタン樹脂への分散性および分散安定性が良好だからである。また、シリカの微粒子の中でも、非晶質コロイダルシリカ粒子が特に好ましい。
なお、微粒子は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0132】
ウレタン樹脂層に含まれる微粒子の量は、ウレタン樹脂層に含まれるポリウレタン100重量部に対し、通常0.5重量部以上、好ましくは5重量部以上、より好ましくは8重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは18重量部以下、より好ましくは15重量部以下である。微粒子の量を前記の範囲の下限値以上とすることにより、本発明の複層フィルムを巻回した場合にシワの発生を抑制できる。また、微粒子の量を前記範囲の上限値以下とすることにより、本発明の複層フィルムの白濁の無い外観を維持できる。
【0133】
さらに、未硬化状態のウレタン樹脂は、架橋剤を含んでいてもよい。特に、ウレタン樹脂層の厚みを1μm以下にする場合に架橋剤を含ませることが、ウレタン樹脂層の機械強度を向上させる観点から好ましい。架橋剤としては、樹脂中に存在する重合体が有する反応性基と反応する官能基を有する化合物であれば、特に制限なく使用することができる。中でも、水に溶解性があるか、又は水に分散してエマルジョン化しうるものが好ましい。架橋剤の例を挙げると、水系イソシアネート化合物、水系カルボジイミド化合物、水系オキサゾリン化合物等が挙げられる。
【0134】
水系イソシアネート化合物としては、通常、2個以上の非ブロック型のイソシアネート基若しくはブロック型のイソシアネート基を有する化合物を用いる。
非ブロック型のイソシアネート化合物としては、例えば、多官能イソシアネート化合物と一価又は多価のノニオン性ポリアルキレンエーテルアルコールとを反応させて得られる化合物が挙げられる。
ブロック型イソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチルシクロヘキシルジイソシアネート(H6TDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、2,4,6−トリイソプロピルフェニルジイソシアネート(TIDI)、1,12−ジイソシアネートドデカン(DDI)、2,4,−ビス−(8−イソシアネートオクチル)−1,3−ジオクチルシクロブタン(OCDI)、n−ペンタン−1,4−ジイソシアネート、およびこれらのイソシアヌレート変性体、アダクト変性体、ビュレット変性体、アロファネート変性体、並びに、これらの重合体で1個以上のイソシアネート基を有するものをポリオキシアルキレン基、カルボキシル基等で変性し、水溶性およびまたは水分散性にし、イソシアネート基をブロック剤(フェノール、ε−カプロラクタムなど)でマスクすることにより得られる化合物などが挙げられる。
【0135】
水系カルボジイミド化合物としては、通常、2個以上のカルボジイミド結合(−N=C=N−)を有する化合物を用いる。2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物は、例えば、2分子以上のポリイソシアネートとカルボジイミド化触媒とを用いて、2個のイソシアネート基を脱炭酸反応させてカルボジイミド結合を形成させる方法によって得ることができる。2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物を作製する際に使用されるポリイソシアネートおよびカルボジイミド化触媒は特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。
【0136】
架橋剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0137】
架橋剤の量は、ポリウレタン100重量部に対して、固形分で、通常1重量部以上、好ましくは5重量部以上であり、通常70重量部以下、好ましくは65重量部以下である。このような配合にすることにより、ウレタン樹脂層の機械的強度と、未硬化状態のウレタン樹脂の安定性を両立させることが可能となる。
【0138】
さらに、未硬化状態のウレタン樹脂には、本発明の効果を著しく損なわない限り、例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、架橋剤などを含ませてもよい。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0139】
〔3−7.ウレタン樹脂層の製造方法〕
ウレタン樹脂層は、通常、基材フィルムの表面に(A)ポリウレタン、(B)エポキシ化合物、(C)成分及び(D)成分を含む未硬化状態のウレタン樹脂の層を形成し、その後、当該ウレタン樹脂を硬化させることにより製造する。未硬化状態のウレタン樹脂は、通常は溶剤に(A)ポリウレタン、(B)エポキシ化合物、(C)成分及び(D)成分等が溶解又は分散した組成物であり、例えば、エマルション、コロイド分散系、水溶液などの形態としてもよい。
【0140】
未硬化状態のウレタン樹脂においては、通常、ポリウレタン等の成分が粒子となって分散している。この粒子の粒径は、本発明の複層フィルムの光学特性の観点から、0.01μm〜0.4μmであることが好ましい。前記の粒径は、動的光散乱法により測定してもよく、例えば、大塚電子社製の光散乱光度計DLS−8000シリーズにより測定してもよい。
【0141】
未硬化状態のウレタン樹脂の粘度は、15mPa・s以下であることが好ましく、10mPa・s以下であるのが特に好ましい。未硬化状態のウレタン樹脂の粘度が前記範囲内にあると、基材フィルムの表面に未硬化状態のウレタン樹脂を均一に塗布することができる。前記の粘度は、音叉型振動式粘度計により25℃の条件下で測定した値である。未硬化状態のウレタン樹脂の粘度は、例えば、未硬化状態のウレタン樹脂が含む溶剤の割合及び樹脂中に含まれる粒子の粒径などによって調整することができる。
【0142】
通常、基材フィルムの表面に未硬化状態のウレタン樹脂の層を形成する場合には、塗布法によって樹脂を塗布し、塗膜を形成する。塗布方法は特に限定されず、公知の塗布法を採用してもよい。具体的な塗布法としては、例えば、ワイヤーバーコート法、ディップ法、スプレー法、スピンコート法、ロールコート法、グラビアコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、スライドコート法、エクストルージョンコート法などが挙げられる。
【0143】
未硬化状態のウレタン樹脂の層を基材フィルムに形成した後で、当該層を形成する樹脂を硬化させて、本発明に係るウレタン樹脂層を得る。
通常、未硬化状態のウレタン樹脂は溶剤を含むので、硬化させる際には溶剤を乾燥させて除去する。乾燥方法は任意であり、例えば、減圧乾燥、加熱乾燥など任意の方法で行ってもよい。中でも、樹脂中において架橋反応等の反応を速やかに進行させる観点から、加熱乾燥によって樹脂を硬化させることが好ましい。
【0144】
加熱により樹脂を硬化させる場合、加熱温度は、溶剤を乾燥させて未硬化状態のウレタン樹脂を硬化させることができる範囲で適切に設定する。ただし、基材フィルムとして延伸フィルムを用い、且つ、当該基材フィルムに発現した位相差を変化させたくない場合には、加熱温度は、基材フィルムにおいて配向緩和が生じない温度に設定することが好ましい。具体的には、基材フィルムを形成する材料のガラス転移温度をTgとしたときに、好ましくは(Tg−30℃)以上、より好ましくは(Tg−10℃)以上であり、好ましくは(Tg+60℃)以下、より好ましくは(Tg+50℃)以下である。
【0145】
さらに、未硬化状態のウレタン樹脂の層を基材フィルムの表面に形成した後で、延伸処理を行ってもよい。延伸処理は、未硬化状態のウレタン樹脂を硬化させた後で行ってもよいが、ウレタン樹脂層からの微粒子などの脱落を防ぐ観点からは、未硬化状態のウレタン樹脂を硬化させる前、または硬化させるのと同時に延伸処理を行うことが好ましい。さらに、均一なウレタン樹脂層を形成する観点からは、未硬化状態のウレタン樹脂を硬化させるのと同時に延伸処理を行うことがより好ましい。
【0146】
延伸処理においては、通常、基材フィルムを延伸して、当該基材フィルムに所望の位相差を発現させる。したがって、延伸方法、延伸に用いる装置、延伸温度などは、基材フィルムの説明の項において述べたのと同様のものを採用してもよい。
【0147】
基材フィルムを延伸すると、基材表面に形成されたウレタン樹脂層も延伸されることになる。しかし、通常はウレタン樹脂層の厚みは基材フィルムの厚みに比べ十分に小さいので、延伸されたウレタン樹脂層には大きな位相差は発現しない。
【0148】
また、ウレタン樹脂層を設ける前に、基材フィルムの表面に改質処理を施し、基材フィルムとウレタン樹脂層との密着性を向上させてもよい。基材フィルムに対する表面改質処理としては、例えば、エネルギー線照射処理及び薬品処理等が挙げられる。エネルギー線照射処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、電子線照射処理、紫外線照射処理等が挙げられ、処理効率の点等から、コロナ放電処理、プラズマ処理が好ましく、コロナ放電処理が特に好ましい。また、薬品処理としては、例えば、ケン化処理、重クロム酸カリウム溶液、濃硫酸等の酸化剤水溶液中に浸漬し、その後、水で洗浄する方法が挙げられる。
【0149】
さらに、ウレタン樹脂層の表面には、親水化表面処理を施すことが好ましい。ウレタン樹脂層の表面は、通常、本発明の複層フィルムを他の部材と貼り合わせる際の貼り合せ面となるので、この面の親水性を更に向上させることにより、本発明の複層フィルムと他の部材との接着性を顕著に向上させることができる。
【0150】
ウレタン樹脂層に対する親水化表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、ケン化処理、紫外線照射処理などが挙げられる。中でも、処理効率の点などからコロナ放電処理及び大気圧プラズマ処理が好ましく、コロナ放電処理が特に好ましい。プラズマ処理としては、大気圧プラズマ処理が好ましい。
【0151】
親水化表面処理では、ウレタン樹脂層の表面の平均水接触角を、好ましくは70°以下、より好ましくは60°以下、特に好ましくは50°以下であり、通常20°以上にすることが望ましい。また、水接触角の標準偏差は、好ましくは0.01°〜5°である。ウレタン樹脂層の表面をこのような水接触角となるように表面改質処理することにより、本発明の複層フィルムを偏光子等の他の部材と強固に接着できる。
【0152】
前記の水接触角は、接触角計を用いてθ/2法により求める。平均水接触角は、例えば、親水化表面処理を施したウレタン樹脂層の表面において、100cmの範囲内で無作為に選んだ20点の水接触角を測定し、この測定値の加算平均により算出される。水接触角の標準偏差は、この測定値から算出される。親水化処理を行うことにより、ウレタン樹脂層の表面に、例えばヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、スルホン酸基などの官能基を導入することができる。
【0153】
コロナ放電処理は、電極の構造として、ワイヤー電極、平面電極、ロール電極のものが好適である。放電を均一にするために、処理対象のフィルムと電極との間に誘電体を挟んで処理を実施することが好ましい。
電極の材質としては、例えば、鉄、銅、アルミ、ステンレスなどの金属が挙げられる。
電極形状としては、例えば、薄板状、ナイフエッジ状、ブラシ状などが挙げられる。
【0154】
誘電体としては、比誘電率が10以上のものを使用し、両極の電極をそれぞれ誘電体で挟んだ構造が好ましい。誘電体の材質としては、例えば、セラミック;シリコンゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック;ガラス;石英;二酸化珪素;酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタンなどの金属酸化物;チタン酸バリウム等の化合物;などが挙げられる。特に、比誘電率10以上(25℃環境下)の固体誘電体を介在させておくことが、低電圧で高速にコロナ放電処理を行えるという点で有利である。上記比誘電率10以上の固体誘電体としては、例えば、二酸化ジルコニウム、二酸化チタンなどの金属酸化物;チタン酸バリウムなどの酸化物;シリコンゴムなどが挙げられる。なお、誘電体の厚みは0.3mm〜1.5mmの範囲が好ましい。誘電体の厚みが薄すぎると絶縁破壊を起こし易く、厚すぎると印加電圧を高くすることになるため、効率が悪くなる可能性がある。
【0155】
処理対象のフィルムと電極との間隔は、0.5mm〜10mmであることが好ましい。0.5mm未満では厚みの薄いフィルムしか電極間を通せなくなる。このため、例えば継ぎ目等の厚みが厚い部分がある場合などには、フィルムの厚みが厚い部分が電極間を通過する際に電極に当たり、フィルムが傷つく場合がある。また、10mmを超えると印加電圧が高くなるので、電源が大きくなり放電がストリーマ状になる可能性がある。
【0156】
コロナ放電処理の出力は、処理対象面のダメージをできるだけ少なく処理する条件が好ましく、具体的には、好ましくは0.02kW以上、より好ましくは0.04kW以上であり、好ましくは5kW以下、より好ましくは2kW以下である。また、この範囲内で、可能な限り低出力で、数回コロナ放電処理を施すことが、好ましいコロナ放電処理方法である。
【0157】
コロナ放電処理の密度は、基材フィルムのコロナ放電処理を施された面の平均水接触角が、通常20°〜70°、より好ましくは20°〜50°であり、また、水接触角の標準偏差を0.01°〜5°の範囲内にすることができるように調整することが好適である。具体的には、コロナ放電処理の密度は、好ましくは1W・min/m以上、より好ましくは5W・min/m以上、特に好ましくは10W・min/m以上であり、好ましくは1000W・min/m以下、より好ましくは500W・min/m以下、特に好ましくは300W・min/m以下である。処理密度が低過ぎる場合は、水系樹脂の塗布性が低下しやすい。また、処理密度が高過ぎる場合は、処理された表面が破壊され、密着性が低下しやすい。
【0158】
コロナ放電処理の周波数は、好ましくは5kHz以上、より好ましくは10kHz以上であり、好ましくは100kHz以下、より好ましくは50kHz以下である。周波数が低下し過ぎるとコロナ放電処理の均一性が劣化し、コロナ放電処理のムラが生じるおそれがある。また、周波数が大きくなり過ぎると、高出力のコロナ放電処理を行う場合には特に問題ないが、低出力のコロナ放電処理を実施する場合に安定した処理を行うことが難しくなり、その結果、処理ムラが発生するおそれがある。
【0159】
コロナ放電処理は電極周辺をケーシングで囲い、ケーシングの内部に不活性ガスを入れ、電極部にガスをかけるようにすると、放電をより細かい状態で発生させることができる。不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素等が挙げられる。なお、不活性ガスは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0160】
親水化表面処理としてプラズマ処理を行う場合、プラズマ放電処理としては、例えば、グロー放電処理、フレームプラズマ処理などが挙げられる。グロー放電としては、真空下で行う真空グロー放電処理、大気圧下で行う大気圧グロー放電処理のいずれも用いることができる。中でも、生産性の観点から、大気圧下で行う大気圧グロー放電処理が好ましい。なお、大気圧とは、700〜780Torrの範囲である。
【0161】
グロー放電処理は、相対する電極の間に処理対象のフィルムを置き、装置中にプラズマ励起性気体を導入し、電極間に高周波電圧を印加することにより、該気体をプラズマ励起させ、電極間においてグロー放電を行うものである。これにより、処理された面の親水性がより高められる。
【0162】
プラズマ励起性気体とは、上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいう。プラズマ励起性気体としては、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガス;窒素;二酸化炭素;テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物;アルゴン、ネオンなどの不活性ガスに、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基などの極性官能基を付与し得る反応性ガスを加えたもの;などが挙げられる。なお、プラズマ励起性気体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0163】
プラズマ処理における高周波電圧の周波数は、1kHz〜100kHzの範囲が好ましく、電圧の大きさは、電極に印加した時の電界強度が1kV/cm〜100kV/cmとなる範囲になるようにすることが好ましい。
【0164】
親水化表面処理としてケン化処理を行う場合、ケン化処理としては、アルカリケン化処理が好適である。処理方法としては、例えば浸漬法、アルカリ液塗布法等が挙げられるが、生産性の観点から、浸漬法が好ましい。
【0165】
ケン化処理における浸漬法は、アルカリ液の中に処理対象のフィルムを適切な条件で浸漬し、そのフィルムの全表面のアルカリと反応性を有する全ての面をケン化処理する手法であり、特別な設備を必要としないため、コストの観点で好ましい。アルカリ液は、水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。アルカリ液の濃度は、好ましくは0.5mol/l以上、より好ましくは1mol/l以上であり、好ましくは3mol/l以下、より好ましくは2mol/l以下である。アルカリ液の液温は、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上であり、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下である。処理された面の平均水接触角及び水接触角の標準偏差を所望の範囲に設定するためには、例えば、浸漬時間などを適宜調整する。
【0166】
アルカリ液に浸漬した後は、処理されたフィルムにアルカリ成分が残留しないように、水で十分に水洗したり、希薄な酸に浸漬してアルカリ成分を中和することが好ましい。
【0167】
親水化表面処理として紫外線照射処理を行う場合、照射する紫外線の波長は、通常100nm〜400nmである。また、紫外線の光源であるランプの出力値は、通常120W以上、好ましくは160W以上であり、通常240W以下、好ましくは200W以下である。紫外線の照射量は、紫外線照射対象物に対して、紫外線の積算光量の総量で表記すると、好ましくは100mJ/cm以上、更に好ましくは、200mJ/cm以上、特に好ましくは300mJ/cm以上であり、好ましくは2,000mJ/cm以下、更に好ましくは1,500mJ/cm以下、特に好ましくは1,000mJ/cm以下である。積算光量の総量は、紫外線照射ランプの照度とライン速度(フィルムの移動速度)によって決まる値であり、例えば、紫外線積算照度計(アイグラフィック社製:EYEUV METER UVPF−A1)で測定する。
【0168】
〔3−8.ウレタン樹脂層の構造及び物性等〕
ウレタン樹脂層の厚みは、0.005μm以上が好ましく、0.01μm以上がより好ましく、0.02μm以上が特に好ましく、また、5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下が特に好ましい。前記範囲内にあると、基材フィルムとウレタン樹脂層との十分な接着強度が得られ、かつ、本発明の複層フィルムの反りなどの欠陥を無くすことができる。
【0169】
基材フィルムの厚みtとウレタン樹脂層の厚みtとの比t/tは、0.0003以上が好ましく、0.0010以上がより好ましく、0.0025以上が特に好ましく、また、0.0100以下が好ましく、0.0080以下がより好ましく、0.0050以下が特に好ましい。これにより、本発明の複層フィルムの透明性を向上させることができる。なお、本発明の複層フィルムが基材フィルムを一層だけ備える場合には当該基材フィルムの厚みが厚みtとなり、本発明の複層フィルムが基材フィルムを二層以上備える場合にはそれらの基材フィルムの厚みの合計が厚みtとなる。また、本発明の複層フィルムがウレタン樹脂層を一層だけ備える場合には当該ウレタン樹脂層の厚みが厚みtとなり、本発明の複層フィルムがウレタン樹脂層を二層以上備える場合にはそれらのウレタン樹脂層の厚みの合計が厚みtとなる。
【0170】
基材フィルムとウレタン樹脂層との界面屈折率差は、0.05以下であることが好ましい。界面屈折率差が前記範囲内にあると、本発明の複層フィルムを光が透過する際の光の損失を抑えることができる。
【0171】
[4.その他の層]
本発明の複層フィルムは、本発明の要旨を逸脱しない限り、基材フィルムのウレタン樹脂層を形成しない側の表面に、他の層を備えていてもよい。その例を挙げると、反射防止層、ハードコート層、帯電防止層、防眩層、防汚層、セパレーターフィルム等が挙げられる。
【0172】
[5.複層フィルムの物性等]
本発明の複層フィルムは、光学部材としての機能を安定して発揮させる観点から、1mm厚換算での全光線透過率が、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定できる。
【0173】
本発明の複層フィルムは、1mm厚換算でのヘイズが、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。ヘイズを低い値とすることにより、本発明に係る複層フィルムを組み込んだ表示装置の表示画像の鮮明性を高めることができる。ここで、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値である。
【0174】
本発明の複層フィルムは、面内又は厚み方向に位相差を有する位相差フィルムであってもよい。具体的な位相差の範囲は、本発明の複層フィルムの用途に応じて設定される。具体的な範囲を挙げると、通常は、面内位相差Reで10nm〜500nm、厚み方向の位相差Rthで−500nm〜500nmの範囲から適宜選択される。
なお、面内位相差Reは、フィルムの遅相軸方向の屈折率nx、遅相軸に面内で直交する方向の屈折率ny、及び厚み方向の屈折率nz、フィルムの平均厚みDとしたときに、(nx−ny)×Dで定義される値である。また、厚み方向の位相差Rthは、((nx+ny)/2−nz)×Dで定義される値である。
【0175】
また、本発明の複層フィルムは、面内位相差Reのバラツキが、通常10nm以内、好ましくは5nm以内、さらに好ましくは2nm以内である。面内位相差Reのバラツキを上記範囲にすることにより、本発明の複層フィルムを液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に、表示品質を良好なものにすることが可能になる。ここで、面内位相差Reのバラツキは、光入射角0°(入射光線と基材フィルムの表面とが直交する状態)の時の面内位相差Reを、フィルムの幅方向に測定したときの、その面内位相差Reの最大値と最小値との差である。
【0176】
本発明の複層フィルムの残留揮発性成分の含有量は、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。揮発性成分の含有量を上記範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、本発明の複層フィルムの面内位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの経時変化を小さくすることができる。
【0177】
本発明の複層フィルムは、そのTD方向(横方向ともいう。通常は、幅方向に一致する。)の寸法を、例えば1000mm〜2000mmとしてもよい。また、本発明の複層フィルムは、そのMD方向(縦方向ともいう。通常は、長手方向に一致する。)の寸法に制限は無いが、長尺のフィルムであることが好ましい。ここで「長尺」のフィルムとは、フィルムの幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0178】
[6.偏光板]
本発明の複層フィルムは、光学フィルムとして任意の用途に用いてもよい。ただし、本発明の複層フィルムは他の部材と接着性に優れ、且つ、その接着性が高湿度下においても低下し難いという利点を有するので、この利点を有効に活用する観点からは、他の部材と貼り合せて用いる用途に適用することが好ましい。具体的な用途の例を挙げると、本発明の複層フィルムは、偏光板保護フィルムとして用いることが好ましい。
【0179】
偏光板は、通常、偏光子と偏光板保護フィルムとを備える。したがって、本発明の複層フィルムを偏光板保護フィルムとして用いる場合には、通常、偏光子に本発明の複層フィルムを貼り合わせるようにする。
【0180】
偏光板は、例えば、本発明の複層フィルムのウレタン樹脂層と偏光子とを貼り合わせることにより製造できる。接着の際、ウレタン樹脂層に接着層を介することなく直接に偏光子を貼り合せてもよく、接着層を介して貼り合せてもよい。さらに、偏光子の一方の面だけに本発明の複層フィルムを貼り合せてもよく、両方の面に貼り合せてもよい。偏光子の一方の面だけに本発明の複層フィルムを貼り合わせる場合、偏光子の他方の面には、透明性の高い別のフィルムを貼り合せてもよい。
【0181】
偏光子は、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素若しくは二色性染料を吸着させた後、ホウ酸浴中で一軸延伸することによって製造してもよい。また、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素もしくは二色性染料を吸着させ延伸し、さらに分子鎖中のポリビニルアルコール単位の一部をポリビニレン単位に変性することによって製造してもよい。さらに、偏光子として、例えば、グリッド偏光子、多層偏光子、コレステリック液晶偏光子などの、偏光を反射光と透過光とに分離する機能を有する偏光子を用いてもよい。これらの中でも、ポリビニルアルコールを含んでなる偏光子が好ましい。偏光子の偏光度は、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。偏光子の厚み(平均厚み)は、好ましくは5μm〜80μmである。
【0182】
偏光子と本発明の複層フィルムとを接着するための接着剤としては、光学的に透明であれば特に限定されず、例えば、水性接着剤、溶剤型接着剤、二液硬化型接着剤、紫外線硬化型接着剤、感圧性接着剤などが挙げられる。この中でも、水性接着剤が好ましく、特にポリビニルアルコール系の水性接着剤が好ましい。なお、接着剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0183】
接着層の平均厚みは、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下である。
【0184】
本発明の複層フィルムと偏光子とを貼り合わせる方法に制限は無いが、例えば、偏光子の一方の面に必要に応じて接着剤を塗布した後、ロールラミネーターを用いて偏光子と本発明の複層フィルムとを貼り合せ、必要に応じて乾燥を行う方法が好ましい。乾燥時間及び乾燥温度は、接着剤の種類に応じて適宜選択される。
【実施例】
【0185】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。なお、以下の説明において、量を示す「部」及び「%」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0186】
[製造例1:基材フィルム(I)の製造]
脂環式構造含有重合体樹脂(ZEONOR1430、日本ゼオン社製;ガラス転移温度135℃)のペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて70℃で2時間乾燥した。その後、65mm径のスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するTダイ式のフィルム溶融押出し成形機を使用し、溶融樹脂温度270℃、Tダイの幅500mmの成形条件で、厚み100μm、長さ1000mの基材フィルム(I)を製造した。この基材フィルム(I)は、脂環式構造含有重合体樹脂からなる基材フィルムである。
【0187】
[製造例2:基材フィルム(II)の製造]
ゴム粒子を含むメタクリル樹脂(ガラス転移温度105℃、ビカット軟化温度103℃)からなるb層、スチレン−無水マレイン酸共重合体(ダイラークD332、ノヴァケミカルジャパン社製、ガラス転移温度130℃、ビカット軟化温度130℃、オリゴマー成分含有量3重量%)からなるa層を、b層(厚み70μm)−a層(厚み40μm)−b層(厚み70μm)の順に備える未延伸の3層構造のフィルムを、共押出成形により得た。得られたフィルムを、延伸温度134℃、延伸速度107%/分、MD方向の延伸倍率1.6倍、TD方向の延伸倍率1.2倍で同時に二軸延伸し、幅1200mm、厚み(総厚)94μmの延伸フィルムを基材フィルム(II)として得た。この基材フィルム(II)は、表面にアクリル樹脂からなる層を有する基材フィルムである。
【0188】
[製造例3:偏光子の製造]
厚み80μmのポリビニルアルコールフイルムを0.3%のヨウ素水溶液中で染色した。その後、4%のホウ酸水溶液及び2%のヨウ化カリウム水溶液中で5倍まで延伸した後、50℃で4分間乾燥させて偏光子を製造した。
【0189】
[製造例4:接着液の調製]
ゴーセファイマーZ410(日本合成化学工業製、アセトアセチル基を含むポリビニルアルコール)に水を加えて固形分3%に希釈し、接着液を製造した。
【0190】
[実施例1]
〔(A)ポリウレタンの準備〕
温度計、攪拌機、窒素導入管および冷却管を備えた四つ口フラスコに、ポリエステルポリオールであるマキシモールFSK−2000(川崎化成工業社製、水酸基価56mgKOH/g)840部、トリレンジイソシアネート119部、およびメチルエチルケトンを200部入れ、窒素を導入しながら75℃で1時間反応させた。反応終了後、60℃まで冷却し、ジメチロールプロピオン酸35.6部を加え、75℃で反応させて、酸構造を含有するポリウレタンの溶液を得た。前記のポリウレタンのイソシアネート基(−NCO基)の含有量は0.5%であった。
【0191】
次いで、このポリウレタンの溶液を40℃にまで冷却し、水1500部、イソフタル酸ジヒドラジド(沸点224℃以上)51.4部(ポリウレタン100部に対し3部)を加え、ホモミキサーで高速撹拌することにより乳化を行った。この乳化液から加熱減圧下によりメチルエチルケトンを留去し、中和されたポリウレタンの水分散体を得た。この水分散体の固形分濃度は40%であった。
【0192】
〔液状樹脂の調製〕
さらに、この水分散体を、含まれるポリウレタンが100部となる量取り、ここにエポキシ化合物であるデナコールEX−313(ナガセケムテックス社製、グリセロール ポリグリシジル エーテル、エポキシ当量141g/eq)10部と、シリカ微粒子(平均粒子径100nm)8部と、イミダゾール(沸点257℃)4.3部と、水とを配合して、未硬化状態のウレタン樹脂として固形分5%の液状の水系樹脂を得た。これは、計算上、デナコールEX−313のエポキシ基1当量に対して、イミダゾールを1.8当量配合させたものである。
【0193】
〔複層フィルムの製造〕
コロナ処理装置(春日電機社製)を用いて、出力300W、電極長240mm、ワーク電極間3.0mm、搬送速度4m/minの条件で、製造例1で得た基材フィルムIの表面に放電処理を施した。
【0194】
基材フィルムIの放電処理を施した表面に、前記の液状の水系樹脂を、乾燥膜厚が0.5μmになるようにロールコーターを用いて塗布した。その後、テンター式横延伸機を用いて、基材フィルムIの両端部をクリップで把持して延伸温度140℃で40秒かけて、延伸倍率2.0倍で連続的に横一軸延伸し、さらに左右両端の部分を裁断して除去した。これにより、塗布された水系樹脂を乾燥する工程と、フィルムを延伸する工程とが同時に実施され、基材フィルムIの表面にウレタン樹脂層が形成されて、配向軸が幅方向に一致した延伸複層フィルム1を得た。
【0195】
[実施例2]
イミダゾールの量を3.8部にしたこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム2を製造した。この際、デナコールEX−313のエポキシ基1当量に対するイミダゾールの当量は1.6当量であった。
【0196】
[実施例3]
イミダゾールの量を6.1部にしたこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム3を製造した。この際、デナコールEX−313のエポキシ基1当量に対するイミダゾールの当量は2.5当量であった。
【0197】
[実施例4]
エポキシ化合物の種類をデナコールEX−521(ナガセケムテックス社製、ポリグリセロール ポリグリシジル エーテル、エポキシ当量183g/eq)に変更したこと、イソフタル酸ジヒドラジドの代わりにアジピン酸ジヒドラジド(沸点270℃)をポリウレタン100部に対し3部となる量用いたこと、並びに、イミダゾールの代わりに2−メチルイミダゾール(沸点270℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム4を製造した。この際、デナコールEX−521のエポキシ基1当量に対して、2−メチルイミダゾールは1.9当量であった。
【0198】
[実施例5]
イソフタル酸ジヒドラジドの代わりに3−アミノプロピルトリエトキシシラン(沸点217℃)をポリウレタン100部に対し3部となる量用いたこと、イミダゾールの代わりにN,N−ジメチルベンジルアミン(沸点183℃)を15.0部用いたこと、シリカ微粒子を配合しなかったこと、並びに、テンター式横延伸機による延伸を行わず、水系樹脂の塗布後に100℃で50秒かけて乾燥した後でフィルムの左右両端の部分を裁断するようにしたこと以外は実施例1と同様にして、複層フィルム5を製造した。この際、デナコールEX−313のエポキシ基1当量に対して、N,N−ジメチルベンジルアミンは1.6当量であった。
【0199】
[実施例6]
エポキシ化合物の種類をデナコールEX−612(ナガセケムテックス社製、ソルビトール ポリグリシジル エーテル、エポキシ当量166g/eq)に変更したこと、イソフタル酸ジヒドラジドの代わりにエチレンジアミン(沸点117℃)をポリウレタン100部に対し3部となる量用いたこと、イミダゾールの代わりにN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA、沸点120℃)を5.8部用いたこと、並びに、テンター式横延伸機による延伸を行わず、水系樹脂の塗布後に100℃で50秒かけて乾燥した後でフィルムの左右両端の部分を裁断するようにしたこと以外は実施例1と同様にして、複層フィルム6を製造した。この際、デナコールEX−612のエポキシ基1当量に対するN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンの当量は1.7当量であった。
【0200】
[実施例7]
基材フィルムIの代わりに製造例2で得た基材フィルムIIを用いたこと、イソフタル酸ジヒドラジドの代わりにアジピン酸ジヒドラジド(沸点270℃)をポリウレタン100部に対し3部となる量用いたこと、イミダゾールの代わりに2−メチル−2−イミダゾリン(沸点144℃)を5.5部用いたこと、シリカ微粒子の代わりにアクリル樹脂微粒子(平均粒子径100nm)を用いたこと、並びに、延伸温度を100℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム7を製造した。この際、デナコールEX−313のエポキシ基1当量に対する2−メチル−2−イミダゾリンの当量は1.8当量であった。
【0201】
[実施例8]
基材フィルムIの代わりに製造例2で得た基材フィルムIIを用いたこと、エポキシ化合物の種類をPG−207GS(新日鐵化学社製、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量320g/eq)に変更したこと、イソフタル酸ジヒドラジドの代わりにモノエタノールアミン(沸点171℃)をポリウレタン100部に対し3部となる量用いたこと、イミダゾールの量を2.0部にしたこと、並びに、延伸温度を134℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム8を製造した。この際、PG−207GSのエポキシ基1当量に対して、イミダゾールは1.9当量であった。
【0202】
[実施例9]
イミダゾールの量を3.3部にしたこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム3を製造した。この際、デナコールEX−313のエポキシ基1当量に対するイミダゾールの当量は1.4当量であった。
【0203】
[実施例10]
イミダゾールの量を6.5部にしたこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム3を製造した。この際、デナコールEX−313のエポキシ基1当量に対するイミダゾールの当量は2.7当量であった。
【0204】
[比較例1]
イミダゾールを用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム9を製造した。
【0205】
[比較例2]
イミダゾールの量を3.0部にしたこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム10を製造した。この際、デナコールEX−313のエポキシ基1当量に対するイミダゾールの当量は1.2当量であった。
【0206】
[比較例3]
イミダゾールの量を7.5部にしたこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム11を製造した。この際、デナコールEX−313のエポキシ基1当量に対するイミダゾールの当量は3.1当量であった。
【0207】
[比較例4]
イソフタル酸ジヒドラジドを用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム12を製造した。この際、デナコールEX−313のエポキシ基1当量に対するイミダゾールの当量は1.8当量であった。
【0208】
[比較例5]
エポキシ化合物であるデナコールEX−313を用いなかったこと、並びに、延伸温度を140℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、延伸複層フィルム13を製造した。
【0209】
[接着力の評価]
〔初期の偏光板のピール強度測定〕
実施例又は比較例で製造した延伸複層フィルム又は複層フィルムのウレタン樹脂層の表面と、製造例3で製造した偏光子の片面とを、製造例4で製造した接着剤を用いてロールラミネーターで貼り合わせることにより、偏光板を製造した。得られた偏光板を幅10mmに切断し、偏光子とフィルムとを90°方向に引っ張り、剥がれる際の引っ張り力(90°ピール強度)を測定した。測定は20mmの長さで行い、その際の平均値(平均ピール強度)を求めた。なお、測定機としては万能引張圧縮試験機(TCM−500CR:新興通信工業社製)を用い、引張速度20mm/分で試験を実施した。結果を表1〜3に示す。
【0210】
〔耐湿試験後の偏光板のピール強度測定〕
前記のように作製した偏光板を60℃、90%RHの恒温高湿槽中で200時間放置した。その後、得られた偏光板を幅10mmに切断し、上記の〔初期の偏光板のピール強度測定〕と同様にして、平均ピール強度を求めた。結果を表1〜3に示す。
【表1】

【0211】
【表2】

【0212】
【表3】

【0213】
[検討]
上述した実施例及び比較例の初期の偏光板の平均ピール強度を比べることにより、本発明によれば、本発明に係る(A)ポリウレタン、(B)エポキシ化合物及び(C)成分を組み合わせることにより、脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる基材フィルムを備える複層フィルムにおいて、高い接着力を実現できることが分かる。
【0214】
ここで、(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対する(D)成分の当量数以外の条件が共通する実施例1〜3、9、10及び比較例1〜3の結果を、図1を示す。図1において、横軸は(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対する(D)成分の当量数を示し、縦軸は初期の偏光板の平均ピール強度に対する耐湿試験後の偏光板の平均ピール強度の比を示す。図1から分かるように、(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対する(D)成分の当量数が1.4当量〜2.7当量の範囲において、初期の偏光板の平均ピール強度に対する耐湿試験後の偏光板の平均ピール強度の比が特異的に大きくなる。このことから、(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対する(D)成分の当量数が1.4当量〜2.7当量の範囲では、耐湿試験によるウレタン樹脂層の接着性の低下を小さくできることが分かる。したがって、本発明に係る(A)ポリウレタン、(B)エポキシ化合物、(C)成分及び(D)成分を組み合わせたウレタン樹脂層において、(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対する(D)成分の当量数を1.4当量〜2.7当量の範囲に収めることにより、高湿度環境であっても接着力を低下し難くできることが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を表面に有する基材フィルムと、ウレタン樹脂層とを備え、
前記ウレタン樹脂層は、
(A)ポリウレタン、
(B)エポキシ化合物、
(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、
(D)前記(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対して1.4当量〜2.7当量の、三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物
を含む樹脂を硬化させた層である、複層フィルム。
【請求項2】
前記(A)ポリウレタンが酸構造を含有し、
前記(B)エポキシ化合物の量が、前記(A)ポリウレタンの酸構造と当量になる前記(B)エポキシ化合物の量に対し、0.2倍〜1.4倍である、請求項1記載の複層フィルム。
【請求項3】
前記(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方が、ヒドラジノ基を有する化合物である、請求項1又は2記載の複層フィルム。
【請求項4】
前記(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、前記(D)三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物の沸点が、前記基材フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度より高い、請求項1〜3のいずれか一項に記載の複層フィルム。
【請求項5】
前記(A)ポリウレタン、前記(B)エポキシ化合物、前記(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、前記(D)三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物を含む樹脂が、微粒子をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の複層フィルム。
【請求項6】
位相差フィルムである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の複層フィルム。
【請求項7】
脂環式構造含有重合体又はアクリル重合体を含む樹脂からなる層を表面に有する基材フィルムの前記表面に、
(A)ポリウレタン、
(B)エポキシ化合物、
(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、
(D)前記(B)エポキシ化合物のエポキシ基1当量に対して1.4当量〜2.7当量の、三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物
を含む樹脂を塗布し、硬化させることを含む、複層フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記(A)ポリウレタンが酸構造を含有し、
前記(B)エポキシ化合物の量が、前記(A)ポリウレタンの酸構造と当量になる前記(B)エポキシ化合物の量に対し、0.2倍〜1.4倍である、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
前記(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方が、ヒドラジノ基を有する化合物である、請求項7又は8記載の製造方法。
【請求項10】
前記(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、前記(D)三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物の沸点が、前記基材フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度より高い、請求項7〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記(A)ポリウレタン、前記(B)エポキシ化合物、前記(C)一級アミン及び二級アミンの一方又は両方、並びに、前記(D)三級アミン、イミダゾール化合物およびイミダゾリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物を含む樹脂が、微粒子をさらに含む、請求項7〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
塗布した樹脂を硬化させるのと同時に、前記基材フィルムを延伸する、請求項7〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の複層フィルムを備える、偏光板保護フィルム。
【請求項14】
偏光子と、請求項13記載の偏光板保護フィルムとを備える、偏光板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−206343(P2012−206343A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73316(P2011−73316)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】