説明

複層塗膜形成方法

【課題】水性中塗り塗料、水性ベース塗料を用いる3コート1ベーク法において、水性中塗り塗膜の反応硬化速度を調節することによって、よりいっそう優れた塗膜外観を有する複層塗膜を提供すること
【解決手段】電着塗膜の上に水性中塗り塗料を塗装して中塗り塗膜を形成し、次にこの中塗り塗膜上に水性ベース塗料を塗装してベース塗膜を形成し、さらにこのベース塗膜上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成した後、この中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に焼付け硬化させて、複層塗膜を形成する方法であって、
この水性中塗り塗料は、
水酸基含有アクリル樹脂エマルション、および
トリアジン核1個あたりのイミノ基の数が平均1.0未満であり、数平均分子量が1000未満であるアルキルエーテル化メラミン樹脂を含む、メラミン樹脂、
を少なくとも含む水性中塗り塗料であり、および
この水性中塗り塗料に含まれるアルキルエーテル化メラミン樹脂の含有量は、樹脂固形分100質量部に対して10〜35質量部である、
複層塗膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層塗膜の形成方法に関し、特に3コート1ベーク法を用いて自動車車体に中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜からなる複層塗膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体の塗装は、基本的には電着塗膜、中塗り塗膜、およびベース塗膜とクリヤー塗膜とからなる上塗り塗膜を被塗物である鋼板の上に順次積層して行われる。従来、これらの塗膜は、それぞれ塗膜の機能に応じて組成が調整された塗料組成物を塗布し、各塗膜毎に焼き付け硬化させて形成されてきた。複数の塗料を塗り重ねる場合、下地となる層を完全に成膜および平滑化しておかないと、隣接する塗膜層が相互に干渉し、下地層の凹凸が上層に反映されて、複層塗膜の外観が悪化するためである。
【0003】
しかしながら、作業効率を上げ、特に近年要請が強い省エネルギーを実現するために、自動車車体塗装業界においても、複数の塗料を未硬化の状態で塗り重ね、その後、それらを同時に硬化させる複層塗膜形成方法、例えば、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる工程を包含する3コート1ベーク法などが次第に採用されるようになってきた。
【0004】
特開2003−105257号公報(特許文献1)には、カルボキシル基含有水性ポリエステル樹脂とメラミン樹脂とを含む下地隠蔽性および平滑性が良好な水性中塗り塗料組成物が開示されている。しかしながら、特許文献1には、水性中塗り塗料組成物を塗布し、焼き付け硬化させて中塗り塗膜を形成した後、その上に上塗り塗料を塗布した後、加熱硬化することによって複層塗膜を得ることが記載されており、水性中塗り塗料組成物の3コート1ベーク法への適用については全く開示されていない。詳しくは、特許文献1においては、水性中塗り塗料の下地隠蔽性および平滑性については詳細に検討されているが、形成された未硬化の中塗り塗膜上にさらに上塗り塗料を塗布する3コート1ベーク法において得られる複層塗膜の塗膜外観については全く検討されていない。
【0005】
特開2003−251264号公報(特許文献2)には、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に加熱硬化させる工程を包含する3コート1ベーク法において、中塗り塗膜の粘度を制御することによって、中塗り塗膜とベース塗膜との間の混層を防止し、黄変することなく、優れた外観を有する塗膜を形成することができる複層塗膜形成方法が開示されている。また、特許文献2では、中塗り塗膜を形成する中塗り塗料として、アクリルエマルション樹脂、メラミン樹脂、分散剤顔料分散ペーストおよび増粘剤からなる水性中塗り塗料を使用しており、増粘剤を中塗り塗料に添加して粘度を高めることによって、得られる複層塗膜の塗膜外観の向上を図っている。
【0006】
特開2003−251275号公報(特許文献3)には、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に加熱硬化させる工程を包含する3コート1ベーク法において、粘度を高めた水性中塗り塗料を用いることにより優れた外観を有する塗膜を形成することができる複層塗膜形成方法が開示されている。なお、特許文献3では、中塗り塗膜を形成する中塗り塗料として、アクリルエマルション樹脂、メラミン樹脂、分散剤顔料分散ペーストおよび増粘剤からなる水性中塗り塗料を使用しており、増粘剤として好ましくはウレタン会合型増粘剤を使用して塗料の粘度を高めることによって、塗装時におけるタレを抑制し、塗料のチクソ性をも向上させて、優れた外観を有する塗膜を形成している。
【0007】
特開2003−251276号公報(特許文献4)には、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に加熱硬化させる工程を包含する3コート1ベーク法において、水性中塗り塗料から形成される中塗り塗膜の応力歪特性(−20℃におけるヤング率および伸び率)を制御することによって、耐チッピング性や耐衝撃性に優れ、優れた外観を有する塗膜を形成することができる複層塗膜形成方法が開示されている。なお、特許文献4では、水性中塗り塗料として、アクリルエマルション樹脂、メラミン樹脂、分散剤顔料分散ペーストおよび増粘剤からなる水性中塗り塗料を使用しており、増粘剤を水性中塗り塗料に添加して塗料の粘度を高めることによって、優れた仕上がり外観を有する複層塗膜を形成している。
【0008】
上記の通り、いわゆる3コート1ベーク法において、中塗り塗料の粘度を調節することによって、得られる複層塗膜の外観を向上させる試みがなされている。しかしながら、水性中塗り塗料および水性ベース塗料を用いる3コート1ベーク法によって得られる複層塗膜においては、塗膜外観(仕上がり性)の更なる向上が求められている。そのため、水性中塗り塗料の粘度調節以外の手法について検討する必要性がでてきた。
【0009】
特開2002−294148号公報(特許文献5)には、カルボキシル基含有水性ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂を含んだ水性中塗り塗料組成物であって、前記メラミン樹脂の重合度が2.5以下、かつ、単核体比率が50%以上であって、前記メラミン樹脂の有する反応性基は、完全アルキル型であり、前記カルボキシル基含有水性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は5000〜15000であることを特徴とする水性中塗り塗料組成物が記載されている。しかしながらこの特許文献5に記載される水性中塗り塗料組成物は、基体樹脂の種類が本発明とは異なり、硬化による外観へ及ぼす影響は全く違うものと推測されるものである。
【0010】
【特許文献1】特開2003−105257号公報
【特許文献2】特開2003−251264号公報
【特許文献3】特開2003−251275号公報
【特許文献4】特開2003−251276号公報
【特許文献5】特開2002−294148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであり、水性中塗り塗料、水性ベース塗料を用いる3コート1ベーク法において、水性中塗り塗膜の反応硬化速度を調節することによって、よりいっそう優れた塗膜外観を有する複層塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究の結果、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる工程を包含する3コート1ベーク法において、中塗り塗膜形成に使用する水性中塗り塗料において、トリアジン核1個あたりのイミノ基の数が平均1.0未満であり、数平均分子量が1000未満であるアルキルエーテル化メラミン樹脂を含むメラミン樹脂を使用することによって、中塗り塗膜の反応硬化速度を調節することができ、これにより得られる複層塗膜の塗膜外観を向上させることができることを見出した。従って、本発明は以下を提供する。
【0013】
本発明は、
電着塗膜の上に水性中塗り塗料を塗装して中塗り塗膜を形成し、次にこの中塗り塗膜上に水性ベース塗料を塗装してベース塗膜を形成し、さらにこのベース塗膜上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成した後、この中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に焼付け硬化させて、複層塗膜を形成する方法であって、
この水性中塗り塗料は、
水酸基含有アクリル樹脂エマルション、および
トリアジン核1個あたりのイミノ基の数が平均1.0未満であり、数平均分子量が1000未満であるアルキルエーテル化メラミン樹脂を含む、メラミン樹脂、
を少なくとも含む水性中塗り塗料であり、および
この水性中塗り塗料に含まれるこのアルキルエーテル化メラミン樹脂の含有量は、樹脂固形分100質量部に対して10〜35質量部である、
複層塗膜の形成方法、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0014】
上記水性中塗り塗料は水酸基含有ポリエステル樹脂をさらに含み、そして水性中塗り塗料に含まれる各成分の樹脂固形分質量比(但し樹脂固形分に対する)は、
水酸基含有アクリル樹脂エマルション 5〜50質量%、
水酸基含有ポリエステル樹脂 5〜80質量%、および
メラミン樹脂 10〜50質量%、
であるのが、より好ましい。
【0015】
また、上記水性中塗り塗料に含まれる水酸基含有アクリル樹脂エマルションは、酸価3〜50mgKOH/gおよび水酸基価10〜150mgKOH/gであり、および
上記上記水性中塗り塗料に含まれる水酸基含有ポリエステル樹脂は、酸価5〜50mgKOH/gおよび水酸基価5〜150mgKOH/gであるのが、より好ましい。
【0016】
本発明はさらに、上記複層塗膜の形成方法において用いられる、水性中塗り塗料も提供する。
【0017】
本発明はまた、上記複層塗膜の形成方法によって得られる複層塗膜も提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、水性中塗り塗料、水性ベース塗料を用いる3コート1ベーク法において、水性中塗り塗膜の反応硬化速度を調節することができる。これにより、複層塗膜の塗膜物性を維持しつつ、優れた塗膜外観を有する複層塗膜を提供することができる。本発明の塗膜形成方法はまた、水性中塗り塗料、水性ベース塗料を用いる3コート1ベーク法に関する方法であるため、塗装工程短縮、焼き付け工程の削減およびコスト削減、そして環境に対する負荷の低減が可能となっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を以下に詳細に説明する。まず、本発明で使用する水性中塗り塗料、水性ベース塗料およびクリヤー塗料をそれぞれ説明し、その後、複層塗膜の形成方法を詳細に説明する。
【0020】
水性中塗り塗料
本発明の方法で用いる水性中塗り塗料は、水性媒体中に分散または溶解された状態で、水酸基含有アクリル樹脂エマルションおよびメラミン樹脂を少なくとも含む。この水性中塗り塗料にはさらに、水酸基含有ポリエステル樹脂、顔料を含んでもよく、さらに粘性剤またはフィラーなどのような自動車車体用水性中塗り塗料に通常含まれる添加剤を含んでもよい。
【0021】
水酸基含有アクリル樹脂エマルション
本発明の方法で用いる水性中塗り塗料に含まれる水酸基含有アクリル樹脂エマルションは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)、および水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)を含むモノマー混合物を乳化重合して得ることができる。尚、モノマー混合物の成分として以下に例示される化合物は、1種または2種以上を適宜組み合わせて使用してよい。
【0022】
本発明の方法で用いる水性中塗り塗料は、水酸基含有アクリル樹脂エマルションと、以下で詳述するトリアジン核1個あたりのイミノ基の数が平均1.0未満であり、数平均分子量が1000未満であるアルキルエーテル化メラミン樹脂とを含むことによって、中塗り塗膜と上塗り塗膜との良好な密着性を確保しつつ、仕上がり外観が良好な複層塗膜を形成することができる。
【0023】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)は、水酸基含有アクリル樹脂エマルションの主骨格を構成するために使用する。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。
【0024】
上記酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)は、得られる水酸基含有アクリル樹脂エマルションの保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性などの諸安定性を向上させ、塗膜形成時におけるメラミン樹脂などの硬化剤との硬化反応を促進するために使用する。酸基は、カルボキシル基、スルホン酸基およびリン酸基などから選ばれることが好ましい。特に好ましい酸基は上記諸安定性向上や硬化反応促進機能の観点から、カルボキシル基である。
【0025】
上記カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびフマル酸などが挙げられる。スルホン酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、p−ビニルベンゼンスルホン酸、p−アクリルアミドプロパンスルホン酸、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸などが挙げられる。リン酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸モノエステル、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートのリン酸モノエステルなどのライトエステルPM(共栄社化学製)などが挙げられる。
【0026】
上記水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)は、水酸基に基づく親水性を水酸基含有アクリル樹脂エマルションに付与し、これを塗料として用いた場合における作業性や凍結に対する安定性を増すと共に、メラミン樹脂などの硬化剤との硬化反応性を付与するために使用する。
【0027】
上記水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性アクリルモノマーなどが挙げられる。
【0028】
上記ε−カプロラクトン変性アクリルモノマーの具体例としては、ダイセル化学工業(株)製の「プラクセルFA−1」、「プラクセルFA−2」、「プラクセルFA−3」、「プラクセルFA−4」、「プラクセルFA−5」、「プラクセルFM−1」、「プラクセルFM−2」、「プラクセルFM−3」、「プラクセルFM−4」および「プラクセルFM−5」などが挙げられる。
【0029】
モノマー混合物は、その他のモノマー成分として、スチレン系モノマー、および(メタ)アクリロニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含んでよい。スチレン系モノマーとしては、スチレンのほかにα−メチルスチレンなどが挙げられる。
【0030】
また、モノマー混合物は、カルボニル基含有エチレン性不飽和モノマー、加水分解重合性シリル基含有モノマー、種々の多官能ビニルモノマーなどの架橋性モノマーを含んでよい。その場合、得られる水酸基含有アクリル樹脂エマルションは自己架橋性となる。
【0031】
水酸基含有アクリル樹脂エマルションの調製における乳化重合は、上記モノマー混合物を水性液中で、ラジカル重合開始剤および乳化剤の存在下で、攪拌下加熱することによって実施することができる。反応温度は例えば30〜100℃程度として、反応時間は例えば1〜10時間程度が好ましく、水と乳化剤を仕込んだ反応容器にモノマー混合物またはモノマープレ乳化液の一括添加または暫時滴下によって反応温度の調節を行うとよい。
【0032】
上記ラジカル重合開始剤としては、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤が使用できる。具体的には、水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩が水溶液の形で使用できる。また、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸などの還元剤とが組み合わされたいわゆるレドックス系開始剤が水溶液の形で使用できる。
【0033】
上記乳化剤としては、炭素数が6以上の炭素原子を有する炭化水素基と、カルボン酸塩、スルホン酸塩または硫酸塩部分エステルなどの親水性部分とを同一分子中に有するミセル化合物から選ばれるアニオン系または非イオン系の乳化剤が用いられる。このうちアニオン乳化剤としては、アルキルフェノール類または高級アルコール類の硫酸半エステルのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩;アルキルまたはアリルスルホナートのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアリルエーテルの硫酸半エステルのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩などが挙げられる。また非イオン系の乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアリルエーテルなどが挙げられる。またこれら一般汎用のアニオン系、ノニオン系乳化剤の他に、分子内にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する、すなわちアクリル系、メタクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系などの基を有する各種アニオン系、ノニオン系反応性乳化剤なども適宜、単独または2種以上の組み合わせで使用される。
【0034】
また乳化重合の際、メルカプタン系化合物や低級アルコールなどの分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)の併用は、乳化重合を進める観点から、また塗膜の円滑かつ均一な形成を促進し基材への接着性を向上させる観点から、好ましい場合も多く、適宜状況に応じて行われる。
【0035】
また乳化重合としては、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法や、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法など、いずれの重合法もとることができる。
【0036】
このようにして本発明で用いられる水酸基含有アクリル樹脂エマルションが調製される。得られたアクリル樹脂の質量平均分子量は、特に限定されないが、一般的に5万〜100万程度であり、例えば10万〜80万程度である。
【0037】
上記アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は−50℃〜20℃、好ましくは−40℃〜10℃、さらに好ましくは−30℃〜0℃の範囲であるのが好ましい。この範囲の樹脂のTgとすることにより、水酸基含有アクリル樹脂エマルションを含む水性中塗り塗料をウェットオンウェット方式において用いた場合に、下塗り塗料および上塗り塗料との親和性や密着性が良好となり、ウェット状態の上側塗膜との界面でのなじみが良く反転が起こらない。また、最終的に得られる塗膜の適度な柔軟性が得られ、耐チッピング性が高められる。これらの結果、非常に高外観を有する複層塗膜が形成できる。樹脂のTgが−50℃未満では塗膜の機械的強度が不足し、耐チッピング性が弱くなるおそれがある。一方、樹脂のTgが20℃を超えると、塗膜が硬くて脆くなるため、耐衝撃性に欠け、耐チッピング性が弱くなるおそれがある。前記各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂のTgが上記範囲となるように選択する。
【0038】
上記水酸基含有アクリル樹脂エマルションにおけるアクリル樹脂の固形分酸価は3〜50mgKOH/gであるのが好ましく、5〜40mgKOH/gであるのがより好ましい。酸価を上記範囲に調節することにより、樹脂エマルションやそれを用いた水性中塗り塗料の保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性などの諸安定性が向上し、また、塗膜形成時におけるメラミン樹脂などの硬化剤との硬化反応が十分起こり、塗膜の諸強度、耐チッピング性、耐水性が向上する。固形分酸価が3mgKOH/g未満である場合は、上記諸安定性が劣ることとなるおそれがあり、また、メラミン樹脂などの硬化剤との硬化反応が十分行われず、塗膜の諸強度、耐チッピング性、耐水性が劣ることとなるおそれがある。一方、固形分酸価が50mgKOH/gを超えると、樹脂の重合安定性が悪くなったり、上記諸安定性が悪くなったり、得られた塗膜の耐水性が劣ることとなるおそれがある。
【0039】
水酸基含有アクリル樹脂エマルションにおけるアクリル樹脂の固形分酸価の調整は、水酸基含有アクリル樹脂エマルションの調製に用いられる各モノマー成分の種類および配合量を、樹脂の酸価が上記範囲となるように選択することによって調整することができる。この調整においては、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)においてカルボキシル基含有モノマーを用いることが好ましく、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)の内、カルボキシル基含有モノマーが好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上含まれるものを用いるのがより好ましい。
【0040】
上記水酸基含有アクリル樹脂エマルションにおけるアクリル樹脂の水酸基価(固形分)は、10〜150mgKOH/gであるのが好ましく、20〜100mgKOH/gであるのがより好ましい。水酸基価を上記範囲に調節することにより、樹脂が適度な親水性を有し、樹脂エマルションを含む塗料組成物として用いた場合における作業性や凍結に対する安定性が増すと共に、メラミン樹脂などの硬化剤との硬化反応性が良好となる。水酸基価が10mgKOH/g未満である場合は、前記硬化剤との硬化反応が不十分となり、塗膜の機械的性質が弱く、耐チッピング性に欠け、耐水性および耐溶剤性にも劣ることとなるおそれがある。一方、水酸基価が150mgKOH/gを超えると、得られる塗膜の耐水性が低下したり、前記硬化剤との相溶性が悪く、塗膜にひずみが生じ硬化反応が不均一に起こり、その結果、塗膜の諸強度、特に耐チッピング性、耐溶剤性および耐水性が劣ることとなるおそれがある。水酸基含有アクリル樹脂エマルションにおけるアクリル樹脂の水酸基価の調整は、水酸基含有アクリル樹脂エマルションの調製に用いられる各モノマー成分の種類および配合量を、樹脂の水酸基価が上記範囲となるように選択することによって調整することができる。
【0041】
得られた水酸基含有アクリル樹脂エマルションに対し、カルボン酸の一部または全量を中和して水酸基含有アクリル樹脂エマルションの安定性を保つため、塩基性化合物を添加してもよい。このような塩基性化合物としては、一般に、アンモニア、各種アミン類、アルカリ金属などが用いられ、本発明においても適宜使用することができる。
【0042】
水性中塗り塗料中に含まれる水酸基含有アクリル樹脂エマルションの含有量は、塗料樹脂固形分に対して5〜50質量%であるのが好ましく、7〜40質量%であるのがより好ましい。水酸基含有アクリル樹脂エマルションの含有量が5質量%未満である場合は、耐チッピング性などといった塗膜強度が劣ることとなるおそれがある。一方、水酸基含有アクリル樹脂エマルションの含有量が50質量%を超える場合は、得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0043】
メラミン樹脂
本発明における水性中塗り塗料は、上記のトリアジン核1個あたりのイミノ基の数が平均で1.0個未満であり数平均分子量が1000未満であるアルキルエーテル化メラミン樹脂を、塗料樹脂固形分に対し10〜35質量%含む。上記アルキルエーテル化メラミン樹脂の含有量は13〜32質量%であることが更に好ましい。なお上記アルキルエーテル化メラミン樹脂の含有量が10質量%未満である場合は、塗膜を形成した場合の外観向上が十分でない。また、35質量%を超えると塗膜を形成した場合には付着性が低下する。
【0044】
本発明における水性中塗り塗料においては、上記アルキルエーテル化メラミン樹脂が含まれることによって、3コート1ベーク法において、被塗物により近い中塗り塗膜の反応硬化速度を抑制することができる。そしてこれにより、中塗り塗膜およびベース塗膜の硬化時における両塗膜の反応硬化速度が近似することとなり、得られる複層塗膜の外観が向上することとなる。
【0045】
トリアジン核1個あたりのイミノ基の数が平均で1.0個未満であり、数平均分子量が1000未満であるアルキルエーテル化メラミン樹脂
本発明における水性中塗り塗料で用いるメラミン樹脂は、トリアジン核1個あたりのイミノ基の数が平均で1.0個未満であり、数平均分子量が1000未満であるアルキルエーテル化メラミン樹脂を含むことを条件とする。この、トリアジン核1個あたりのイミノ基の数が平均で1.0個未満であり、数平均分子量が1000未満であるアルキルエーテル化メラミン樹脂は、メラミン(2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン)のアミノ基の一部にホルムアルデヒドを反応してメチロール化し、次いで得られたメチロール基の一部をアルコールでアルキルエーテル化することによって調製することができる。
【0046】
メラミンは、メラミンを構成するトリアジン核の炭素原子に結合するアミノ基(−NH)を3つ有する。このアミノ基を構成する2つ水素原子に対してホルムアルデヒドを付加させることができるため、理論的には、メラミン1モルに対して、6モルのホルムアルデヒドを付加させことができ、トリアジン核1個に6つのメチロール基を導入することができる。こうしてメラミンに導入されたメチロール基に対して、アルコールを反応させることによって、アルキルエーテル化する。
【0047】
本発明においては、ホルムアルデヒドを用いるメチロール化において、メラミンのアミノ基の水素原子全てを反応させてメチロール化するのではなく、イミノ基(−NH−CHOR;ここでRはHまたはアルキル基である。)がトリアジン核1個当たり平均で1.0個未満、好ましくは0.01〜0.5個残存する程度に反応させる。上記アルキルエーテル化メラミン樹脂におけるイミノ基の数が、トリアジン核1個当たり1.0個以上になると中塗り塗料自体の貯蔵安定性が低下することとなるおそれがある。イミノ基の含有量は、トリアジン核1個当たり0.01〜0.5個であることが、複層塗膜における外観向上の観点から好ましい。
【0048】
アルキルエーテル化において、メラミンに導入されたメチロール基と反応させるアルコールとして、炭素数1〜4の1価アルコールが用いられる。このようなアルコールとして、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコールなどが挙げられる。上記アルキルエーテル化反応に用いるアルコールは、1種であってもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、メチルアルコールおよびブチルアルコールなどによる2種のアルコールを用いてアルキルエーテル化を行ってもよい。なお上記メチロール化反応およびアルキルエーテル化反応は既知の方法で行うことができる。また、アルキルエーテル化にはメチルアルコールを用いるか、またはメチルアルコールおよびブチルアルコールを併用した系であることが、塗膜を形成した場合の塗膜外観の点から好ましい。
【0049】
トリアジン核1個あたりのイミノ基の数が平均で1.0個未満であり、数平均分子量が1000未満であるアルキルエーテル化メラミン樹脂は、アルキルエーテル化部分におけるメチル基/ブチル基の比率が、モル比で50/50〜100/0であるのが好ましい。メチル基/ブチル基の比率が50/50を下回ると、塗膜形成した場合に外観が低下する恐れがある。このメチル基/ブチル基の比率はより好ましくは55/45〜100/0であり、さらに好ましくは60/40〜100/0である。
【0050】
こうして調製される、トリアジン核1個あたりのイミノ基の数が平均で1.0個未満であるアルキルエーテル化メラミン樹脂は、数平均分子量を1000未満とする。上記数平均分子量は、1000以上になると塗膜形成した場合の平滑性が低下する。上記数平均分子量は、300〜900が好ましく、より好ましくは、400〜700である。
【0051】
上記アルキルエーテル化メラミン樹脂の使用は種々の利点がある一方で、上記アルキルエーテル化メラミン樹脂は、一般的に低温硬化の条件下では、水酸基を含む塗膜形成性樹脂(水酸基含有アクリル樹脂エマルションおよび必要に応じた水酸基含有ポリエステル樹脂)と十分な硬化反応を起こし難いという難点がある。そのため、水性中塗り塗料においては、上記アルキルエーテル化メラミン樹脂と併せて、下記に詳述するその他のメラミン樹脂を用いるのがより好ましい。上記アルキルエーテル化メラミン樹脂とその他のメラミン樹脂を併用する場合における、上記アルキルエーテル化メラミン樹脂とその他のメラミン樹脂の含有比は、10/90〜45/55であることが特に好ましい。
【0052】
その他のメラミン樹脂
本発明における水性中塗り塗料においては、トリアジン核1個あたりのイミノ基の数が平均で1.0個未満であり数平均分子量が1000未満である上記アルキルエーテル化メラミン樹脂以外のメラミン樹脂を、さらに含んでもよい。その他のメラミン樹脂としては、イミノ基をトリアジン核1個当り平均で1.0個以上、数平均分子量が500〜2500のメラミン樹脂を挙げることができる。
【0053】
その他のメラミン樹脂において、イミノ基が、トリアジン核1個当たり1.0個未満である場合は、中塗り塗料の硬化性が低下するおそれがある。上記イミノ基の含有量はトリアジン核1個当たり1.2〜2.5個であることが、塗膜形成した場合の塗膜物性の観点から好ましい。上記数平均分子量は、500未満では塗膜形成した場合の硬化性が低下するおそれがあり、2500を超えると塗膜外観が低下するおそれがある。数平均分子量は550〜1200であるのがより好ましく、600〜1100であるのがさらに好ましい。このように、上記アルキルエーテル化メラミン樹脂とその他のメラミン樹脂とを組み合わせて用いることによって、中塗り塗膜の良好な反応硬化性を確保し、形成される複層塗膜の良好な塗膜物性を確保することができる。
【0054】
水性中塗り塗料中に含まれるメラミン樹脂の総含有量は、塗料樹脂固形分に対して10〜50質量%であるのが好ましく、15〜40質量%であるのがより好ましい。メラミン樹脂の含有量が10質量%未満である場合は、得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。またメラミン樹脂の含有量が50質量%を超える場合は、得られる塗膜のチッピング性が低下するおそれがある。なお本明細書内において、数平均分子量は、GPC(ゲルパーミィエーションクロマトグラム)により測定し、ポリスチレンポリマー分子量に換算した値を用いている。
【0055】
その他の樹脂
【0056】
水性中塗り塗料は、上記樹脂成分以外の樹脂成分をさらに含んでもよい。含んでもよい樹脂成分としては特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、水溶性アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂およびエポキシ樹脂などを挙げることができる。この中で、水酸基含有ポリエステル樹脂がより好ましく用いられる。
【0057】
水酸基含有ポリエステル樹脂
水酸基含有ポリエステル樹脂としては、多価アルコール成分と多塩基酸成分とを縮合してなるオイルフリーポリエステル樹脂、または多価アルコール成分および多塩基酸成分に加えてヒマシ油、脱水ヒマシ油、桐油、サフラワー油、大豆油、アマニ油、トール油、ヤシ油など、およびそれらの脂肪酸のうち1種、または2種以上の混合物である油成分を、上記酸成分およびアルコール成分に加えて、三者を反応させて得られる油変性ポリエステル樹脂などを挙げることができる。また、アクリル樹脂やビニル樹脂をグラフト化したポリエステル樹脂も使用できる。更に、多価アルコール成分と多塩基酸成分とを反応させてなるポリエステル樹脂に、ポリイソシアネート化合物を反応させて得るウレタン変性ポリエステル樹脂も使用することができる。
【0058】
水酸基含有ポリエステル樹脂に用いることができる多価アルコール成分の例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9−ノナンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチルペンタンジオール、水素化ビスフェノールAなどのジオール類、およびトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの三価以上のポリオール成分、並びに、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールペンタン酸、2,2−ジメチロールヘキサン酸、2,2−ジメチロールオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸成分を挙げることができる。
【0059】
水酸基含有ポリエステル樹脂に用いることができる多塩基酸の例としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸などの芳香族多価カルボン酸および酸無水物;ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、1,4−および1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族多価カルボン酸および無水物;無水マレイン酸、フマル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸などの脂肪族多価カルボン酸および無水物などの多塩基酸成分およびそれらの無水物などを挙げることができる。必要に応じて安息香酸やt−ブチル安息香酸などの一塩基酸を併用してもよい。
【0060】
水酸基含有ポリエステル樹脂を調製する際には、反応成分として、更に、1価アルコール、カージュラE(商品名:シエル化学製)などのモノエポキサイド化合物、およびラクトン類(β−プロピオラクトン、ジメチルプロピオラクトン、ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−カプリロラクトン、クロトラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトンなど)を併用してもよい。特にラクトン類は、多価カルボン酸および多価アルコールのポリエステル鎖へ開環付加してそれ自身ポリエステル鎖を形成し、さらには水性中塗り塗料組成物の耐チッピング性を向上するのに役立つ。これらは、全反応成分の合計質量の3〜30%、好ましくは5〜20%、特に7〜15%で含有されてよい。
【0061】
上記水酸基含有ポリエステル樹脂は、その酸価を調整し、カルボキシル基を塩基性物質で中和(例えば、50%以上)することで容易に水性化することができる。ここで用いられる塩基性物質としては、例えばアンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどがあり、このうち、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが好適である。また、上記中和の際の中和率は特に限定されず、例えば、80〜120%である。
【0062】
上記水酸基含有ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、800〜10000であるのが好ましく、1000〜8000であるのがより好ましい。数平均分子量が800未満であるとポリエステル樹脂を水分散させた時の安定性が低下するおそれがある。また数平均分子量が10000を超えると、樹脂の粘度が上がるため、塗料にした場合の固形分濃度が下がり、塗装作業性が低下するおそれがある。
【0063】
上記水酸基含有ポリエステル樹脂の水酸基価(固形分)は、5〜150mgKOH/gであるのが好ましく、30〜130mgKOH/gであるのがより好ましい。水酸基価が5mgKOH/g未満である場合は、得られる塗膜の硬化性が低下するおそれがある。また水酸基価が150mgKOH/gを超えると塗膜の耐チッピング性が低下するおそれがある。
【0064】
上記水酸基含有ポリエステル樹脂は5〜50mgKOH/gの酸価(固形分)を有することが好ましく、10〜45mgKOH/gであるのがより好ましい。酸価が5mgKOH/g未満であると水酸基含有ポリエステル樹脂の水分散安定性が低下するおそれがある。また50mgKOH/gを超えると、形成される塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0065】
また、上記水酸基含有ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、−40〜50℃であることが好ましい。上記ガラス転移温度が−40℃未満である場合、得られる塗膜の硬度が低下する恐れがあり、50℃を超える場合、下地隠蔽性が低下する恐れがある。さらに好ましくは、−40〜10℃である。なお、ガラス転移温度は、示差走査型熱量計(DSC)などによって実測することができる。
【0066】
水性中塗り塗料が上記水酸基含有ポリエステル樹脂を含む場合の含有量は、水性中塗り塗料に含まれる樹脂固形分質量に対して5〜80質量%であるのが好ましく、20〜75質量%であるのがより好ましい。水酸基含有ポリエステル樹脂の含有量が80質量%を超える場合は、得られる塗膜の塗膜物性が低下するおそれがある。また水酸基含有ポリエステル樹脂の含有量が5質量%未満である場合は、中塗り塗料の貯蔵安定性が低下するおそれがある。
【0067】
他の成分
本発明で用いる水性中塗り塗料は、さらに顔料分散ペースト、粘性剤、その他の添加剤成分などを含んでもよい。
【0068】
顔料分散ペースト
顔料分散ペーストは、顔料と顔料分散剤とを少量の水性媒体に予め分散することによって調製することができる。顔料分散剤の固形分中には、揮発性の塩基性物質が全く含まれていないか、または3質量%以下の割合で含まれている。本発明で用いる水性中塗り塗料においては、このような顔料分散剤を用いることによって、水性中塗り塗料から形成される塗膜中の揮発性塩基性物質の量が少なくなり、得られる複層塗膜の黄変を抑えることができる。従って、顔料分散剤の固形分中に揮発性の塩基性物質が3質量%を超えて含まれていると、得られる複層塗膜が黄変し、仕上がり外観が悪くなる傾向にあるため好ましくない。
【0069】
揮発性の塩基性物質とは、沸点が300℃以下の塩基性物質を意味するものであり、無機および有機の窒素含有塩基性物質を挙げることができる。無機の塩基性物質としては、例えば、アンモニアなどが挙げられる。有機の塩基性物質としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジメチルドデシルアミンなどの炭素数1〜20の直鎖状または分枝状のアルキル基含有1〜3級アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノールなどの炭素数1〜20の直鎖状または分枝状ヒドロキシアルキル基含有1〜3級アミン;ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンなどの炭素数1〜20の直鎖状または分枝状のアルキル基および炭素数1〜20の直鎖状または分枝状のヒドロキシアルキル基を含有する1〜3級アミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの炭素数1〜20の置換または非置換鎖状ポリアミン;モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリンなどの炭素数1〜20の置換または非置換環状モノアミン;ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、N,N−ジメチルピペラジンなどの炭素数1〜20の置換または非置換環状ポリアミンなどのアミン類を挙げることができる。
【0070】
本発明で用いる水性中塗り塗料には、上記顔料分散剤以外の成分にも、揮発性の塩基性物質が含まれる場合がある。従って、上記顔料分散剤に含まれる揮発性の塩基性物質量は、より少なく抑える程、より好ましい。すなわち、揮発性の塩基性物質を実質的に含まない顔料分散剤を用いて分散することが好ましい。また、従来一般的に使用されているアミン中和型の顔料分散樹脂を使用しないことが更に好ましい。そして、複層塗膜形成時に、単位面積1mmあたりの揮発性の塩基性物質が7×10−6mmol以下になるように顔料分散剤を用いることが好ましい。
【0071】
顔料分散剤は、顔料親和部分および親水性部分を含む構造を有する樹脂である。顔料親和部分および親水性部分としては、例えば、ノニオン性、カチオン性およびアニオン性の官能基を挙げることができる。顔料分散剤は、1分子中に上記官能基を2種類以上有していてもよい。
【0072】
ノニオン性官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミド基、ポリオキシアルキレン基などが挙げられる。カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基などが挙げられる。また、アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。このような顔料分散剤は、当業者にとってよく知られた方法によって製造することができる。
【0073】
顔料分散剤としては、その固形分中に揮発性の塩基性物質を含まないか、または3質量%以下の含有量であるものであれば特に限定されないが、少量の顔料分散剤によって効率的に顔料を分散することができるものが好ましい。例えば、市販されているもの(以下いずれも商品名)を使用することもでき、具体的には、ビックケミー社製のアニオン・ノニオン系分散剤であるDisperbyk 190、Disperbyk 181、Disperbyk 182(高分子共重合物)、Disperbyk 184(高分子共重合物)、EFKA社製のアニオン・ノニオン系分散剤であるEFKAPOLYMER4550、アビシア社製のノニオン系分散剤であるソルスパース27000、アニオン系分散剤であるソルスパース41000、ソルスパース53095などを挙げることができる。
【0074】
顔料分散剤の数平均分子量は、下限1000、上限10万であることが好ましい。1000未満であると、分散安定性が充分ではない場合があり、10万を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となる場合がある。より好ましくは、下限2000、上限5万であり、更に好ましくは、下限4000、上限5万である。
【0075】
前記顔料分散ペーストは、顔料分散剤と顔料とを公知の方法に従って混合分散することにより得られる。顔料分散ペースト製造時の顔料分散剤の割合は、顔料分散ペーストの固形分に対して、下限1質量%、上限20質量%であることが好ましい。1質量%未満であると、顔料を安定に分散しにくく、20質量%を超えると、塗膜の物性に劣る場合がある。好ましくは、下限5質量%、上限15質量%である。
【0076】
顔料としては、通常の水性塗料に使用される顔料であれば特に限定されないが、耐候性を向上させ、かつ隠蔽性を確保する点から、着色顔料であることが好ましい。特に二酸化チタンは着色隠蔽性に優れ、しかも安価であることから、より好ましい。
【0077】
二酸化チタン以外の顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、金属錯体顔料などの有機系着色顔料;黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラックなどの無機着色顔料などが挙げられる。これら顔料に、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクなどの体質顔料を併用しても良い。
【0078】
また顔料として、カーボンブラックと二酸化チタンとを主要顔料とした標準的なグレーの塗料を用いることもできる。他にも、上塗り塗料と明度または色相などを合わせた塗料や各種の着色顔料を組み合わせた塗料を用いることもできる。
【0079】
顔料は、水性中塗り塗料中に含まれる全ての樹脂の固形分および顔料の合計質量に対する顔料の質量の比(PWC;pigment weight content)が、10〜60質量%であることが好ましい。10質量%未満では、隠蔽性が低下するおそれがある。60質量%を超えると、硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が低下することがある。
【0080】
会合型粘性剤
本発明で使用する水性中塗り塗料はさらに粘性剤を含んでいてもよい。粘性剤としては特に限定されないが、例えば、セルロース系のもの、アルカリ増粘型のもの、および会合型のものを挙げることができる。上記会合型のものとしては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、市販されているもの(以下いずれも商品名)としては、アデカノールUH−420、アデカノールUH−462、アデカノールUH−472、UH−540、アデカノールUH−814N(旭電化工業社製)、プライマルRH−1020(ローム&ハース社製)、クラレポバール(クラレ社製)などを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0081】
粘性剤を含有することにより、水性中塗り塗料の粘度を高くすることができ、水性中塗り塗料を塗装する際に、タレが発生することを抑制することができる。また、中塗り塗膜とベース塗膜との間での混層をより抑制することができる。その結果、塗装時の塗装作業性が向上し、得られる複層塗膜の仕上がり外観を優れたものとすることができる。
【0082】
粘性剤を用いる場合における含有量は、上記水性中塗り塗料の樹脂固形分(水性中塗り塗料に含まれる全ての樹脂の固形分)100質量部に対して、下限0.01質量部、上限20質量部であることが好ましく、下限0.1質量部、上限10質量部であることがより好ましい。0.01質量部未満であると、増粘効果が得られず、塗装時のタレが発生するおそれがあり、20質量部を超えると、外観および得られる塗膜の諸性能が低下するおそれがある。
【0083】
その他の添加剤としては、上記成分の他に通常添加される添加剤、例えば、フィラー;紫外線吸収剤;酸化防止剤;消泡剤;表面調整剤;ピンホール防止剤などが挙げられる。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0084】
水性中塗り塗料の調製
本発明で使用する水性中塗り塗料は、上述の水酸基含有アクリル樹脂エマルション、トリアジン核1個あたりのイミノ基の数が平均1.0未満であり数平均分子量が1000未満であるアルキルエーテル化メラミン樹脂を含むメラミン樹脂、そして必要に応じた水酸基含有ポリエステル樹脂などを混合して調製される。なお各樹脂成分の好ましい割合は上述の通りである。
【0085】
水酸基含有ポリエステル樹脂が含まれる場合における、水酸基含有アクリル樹脂エマルション/水酸基含有ポリエステル樹脂の割合(固形分質量比)は、1/6〜2/1であるのが好ましい。水酸基含有アクリル樹脂エマルション/水酸基含有ポリエステル樹脂の割合を上記範囲にすることによって、塗膜粘度、そして中塗り塗膜の平滑性、吸水率および溶出率を好ましい範囲とすることができる。
【0086】
追加の樹脂成分、顔料分散ペーストやその他の添加剤は、適量混合すれば良い。但し、追加の樹脂成分は、水性中塗り塗料用組成物中に含まれる全ての樹脂の固形分を基準として、50質量%以下の割合で配合することが好ましい。50質量%を超えて配合した場合は、塗料中の固形分濃度を高くすることが困難になるため、好ましくない。
【0087】
これら成分を加える順番は、エマルションに硬化剤を加える前でもよいし、後でも良い。水性中塗り塗料は、水性であれば形態は特に限定されず、例えば、水溶性、水分散型、水性エマルションなどの形態であればよい。
【0088】
水性ベース塗料
本発明の複層塗膜の形成方法において、水性ベース塗膜の形成には水性ベース塗料が用いられる。この水性ベース塗料には、塗膜形成性樹脂、硬化剤、有機系または無機系の各種着色顔料、体質顔料および必要により光輝性顔料等を含有することができる。
【0089】
本発明の塗膜形成方法に用いる水性ベース塗料に含有される塗膜形成性樹脂としては、数平均分子量が5000〜30000であることが好ましく、更に好ましくは7000〜25000である。5000より小さいと作業性および硬化性が十分でなくなるおそれがある。また30000を超えると塗装時の不揮発分が低くなりすぎ、かえって作業性が悪くなるおそれがある。なお本明細書では、分子量はスチレンポリマーを標準とするGPC法により決定される。
【0090】
上記塗膜形成性樹脂は、20〜180の水酸基価(固形分)を有することが好ましく、好ましくは30〜160である。上限を超えると塗膜の耐水性が低下するおそれがあり、下限を下回ると塗膜の硬化性が低下するおそれがある。上記塗膜形成性樹脂はまた、10〜80mgKOH/gの酸価(固形分)を有することが好ましく、更に好ましくは15〜70mgKOH/gである。上限を超えると塗膜の耐水性が低下するおそれがあり、下限を下回ると塗膜の硬化性が低下するおそれがある。
【0091】
上記塗謨形成性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂等の塗膜形成性樹脂を好ましいものとして挙げることができる。これらの樹脂の形態としては、水溶性、水分散性またはエマルションであって良く、1種または2種以上を併用して用いることができる。上記塗謨形成性樹脂としてアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂を用いることが、耐侯性、耐水性等の塗膜性能面から好ましい。
【0092】
上記硬化剤としては、アミノ樹脂、ブロックイソシアネート樹脂、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物等が好ましいものとして挙げられる。得られた塗膜の諸性能、コストの点からブチル化および/またはブチル化メラミン樹脂、および/またはブロックイソシアネート樹脂が一般的に用いられる。
【0093】
上記硬化剤の含有量は塗膜形成性樹脂との総固形分に対して20〜100質量%である。含有量が20質量%を下回ると硬化性が不十分となるおそれがあり、100質量%を上回ると硬化膜が堅くなりすぎ脆くなるおそれがある。
【0094】
上記着色顔料としては、例えば有機系のアゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等が挙げられ、無機系では黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタン等が挙げられる。また、体質顔料としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等が用いられる。更に、アルミニウム粉、マイカ粉等の扁平顔料を添加しても良い。
【0095】
上記光輝性顔料としては、形状は特に限定されず、更に着色されていても良いが、例えば、平均粒径(D50)が2〜50μmであり、且つ厚さが0.1〜5μmであるものが好ましい。また、平均粒径が10〜35μmの範囲のものが光輝感に優れ、更に好適に用いられる。
【0096】
上記塗料中の光輝性顔料の顔料濃度(PWC)は、一般的に20.0質量%以下である。上限を超えると塗膜外観が低下する。好ましくは、0.01〜18.0質量%であり、より好ましくは、0.1〜15.0質量%である。光輝剤の含有量が20.0質量%を超えると、塗膜外観が低下するおそれがある。
【0097】
上記光輝性顔料としては、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウム等の金属または合金等の無着色あるいは着色された金属製光輝剤およびその混合物が挙げられる。更に、干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料その他の着色、有色偏平顔料等を併用しても良い。
【0098】
上記光輝性顔料およびその他の全ての顔料を含めた塗料中の全顔料濃度(PWC)としては、0.1〜50質量%であり、好ましくは、0.5〜40質量%であり、より好ましくは、で1.0〜30質量%である。上限を超えると塗膜外観が低下するおそれがある。
【0099】
また、上記水性ベース塗料には、クリヤー塗膜とのなじみ防止、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤を添加することができる。粘性制御剤としては、一般にチクソトロピー性を示すものを使用でき、例えば、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドの燐酸塩等のポリアマイド系のもの、酸化ポリエチレンのコロイド状膨潤分散体等のポリエチレン系等のもの、有機酸スメクタイト粘土、モンモリロナイト等の有機ベントナイト系のもの、ケイ酸アルミ、硫酸バリウム等の無機顔料、顔料の形状により粘性が発現する偏平顔料、架橋あるいは非架橋の樹脂粒子等を粘性制御剤として挙げることができる。
【0100】
本発明に用いられる水性ベース塗料中には、上記成分の他に塗料に通常添加される添加剤、例えば、表面調整剤、酸化防止剤、消泡剤等を配合してもよい。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0101】
水性ベース塗料の調製
本発明の複層塗膜形成方法に用いられる水性ベース塗料の製造方法は、特に限定されず、各樹脂および顔料などの配合物をニーダーまたはロールなどを用いて混練、分散するなどの当業者に周知の全ての方法を用い得る。
【0102】
また、本発明で使用する水性ベース塗料としては、自動車車体用水性ベース塗料として市販されているものを使用することができる。例えば、アクアレックスAR−2000シルバーメタリック(商品名)(日本ペイント社製水性メタリックベース塗料)、NWB−230(商品名)(日本ペイント社製水性メタリックベース塗料)などが挙げられる。
【0103】
クリヤー塗料
本発明の方法で用いるクリヤー塗料は自動車車体用クリヤー塗料として通常使用される塗料組成物であればよい。例えば、媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成性樹脂、必要に応じた硬化剤およびその他の添加剤を含むものを挙げることができる。塗膜形成性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらはアミノ樹脂および/またはイソシアネート樹脂などの硬化剤と組み合わせて用いることができる。透明性または耐酸エッチング性などの点から、アクリル樹脂および/若しくはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、または、カルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/若しくはポリエステル樹脂などを用いることが好ましい。
【0104】
クリヤー塗料の塗料形態としては、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルション)、非水分散型、粉体型のいずれでもよく、また必要により、硬化触媒、表面調整剤などを含有させても良い。
【0105】
複層塗膜形成方法
本発明の複層塗膜の形成方法では、まず、電着塗膜が形成された被塗物を提供する。電着塗膜は被塗物に対して電着塗料を塗装し、焼き付け硬化して形成する。被塗物は、カチオン電着塗装可能な金属製品であれば特に制限されない。例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛およびこれらの金属を含む合金などを挙げることができる。
【0106】
電着塗料は、特に限定されるものではなく公知のカチオン電着塗料やアニオン電着塗料を使用することができる。また、電着塗装および焼き付けは、自動車車体を電着塗装するのに通常用いられる方法および条件で行なえばよい。
【0107】
次いで、電着塗膜の上に水性中塗り塗料を塗布して中塗り塗膜を形成する。中塗り塗料は、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと言われる回転霧化式の静電塗装機などを用い、スプレーして塗布することができる。
【0108】
塗布量は、硬化塗膜の膜厚が10〜40μm、好ましくは15〜30μmになるように調節する。膜厚が10μm未満であると得られる塗膜の外観および耐チッピング性が低下するおそれがあり、40μmを超えると塗装時のタレや焼付け硬化時のピンホールなどの不具合が起こることがある。
【0109】
この中塗り塗膜は、水性ベース塗料を塗布する前に、加熱または送風することによって予備乾燥(プレヒート)させることが好ましい。その理由は、乾燥が不充分な場合、塗膜中に残存した水が複層塗膜を焼き付ける工程で突沸を起こし、ワキを発生しやすくなるからである。また中塗り上にベースを塗装した際にベースと混ざりやすくなり外観が低下する可能性があるからである。予備乾燥温度は、塗膜を完全に硬化する温度よりも低い温度であればよく、例えば室温〜100℃、好ましくは60〜100℃、より好ましくは70〜90℃である。また、予備乾燥時間は特に制限されず、例えば2〜20分、好ましくは3〜10分である。
【0110】
ついで、中塗り塗膜を硬化させないで中塗り塗膜の上に水性ベース塗料およびクリヤー塗料を、ウェットオンウェットで順次塗布してベース塗膜およびクリヤー塗膜を形成する。ここで、ウェットオンウェット塗布とは、複数の塗膜を硬化させることなく、必要に応じて上記予備乾燥などを行った上で塗り重ねることをいう。
【0111】
水性ベース塗料は、通常、塗膜の硬化後の膜厚が10〜30μmとなるように塗布量が調節される。硬化後の膜厚が10μm未満である場合、下地の隠蔽が不充分になったり、色ムラが発生するおそれがあり、また、30μmを超える場合、塗装時にタレや、加熱硬化時にピンホールが発生したりするおそれがある。
【0112】
クリヤー塗料は、通常、塗膜の乾燥硬化後の膜厚が10〜70μmとなるように塗布量が調節される。硬化後の膜厚が10μm未満であると複層塗膜のつや感などの外観が低下し、70μmを超えると鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、流れなどの不具合が起こったりする。なお、必要に応じて、水性ベース塗料を塗装した後、クリヤー塗料を塗装する前に、上記予備乾燥を行ってもよい。
【0113】
次いで、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる。焼き付けは、通常110〜180℃、好ましくは120〜160℃の温度に加熱して行われる。これにより、高い架橋度の硬化塗膜を得ることができる。加熱温度が110℃未満であると、硬化が不充分になる傾向があり、180℃を超えると、得られる塗膜が固く脆くなるおそれがある。加熱する時間は、上記温度に応じて適宜設定することができるが、例えば、温度が120〜160℃である場合、10〜60分間である。
【実施例】
【0114】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0115】
製造例1 顔料分散ペーストの調製
Disperbyk 190(ビックケミー社製ノニオン・アニオン系分散剤、商品名)4.5部、BYK−011(ビックケミー社製消泡剤、商品名)0.5部、イオン交換水22.9部、ルチル型二酸化チタン72.1部を予備混合した後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で粒度5μm以下となるまで混合分散し、顔料分散ペーストを得た。
【0116】
製造例2 水酸基含有アクリル樹脂エマルションの調製
攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器および窒素導入管などを備えた通常のアクリル系樹脂エマルション製造用の反応容器に、水445部およびニューコール293(日本乳化剤社製乳化剤、商品名)5部を仕込み、攪拌しながら75℃に昇温した。表1のモノマー混合物、水240部およびニューコール293 30部の混合物を、ホモジナイザーを用いて乳化し、そのモノマープレ乳化液を上記反応容器中に3時間にわたって攪拌しながら滴下した。モノマープレ乳化液の滴下と併行して、重合開始剤としてAPS(過硫酸アンモニウム)1部を水50部に溶解した水溶液を、上記反応容器中に上記モノマープレ乳化液の滴下終了時まで均等に滴下した。モノマープレ乳化液の滴下終了後、さらに80℃で1時間反応を継続し、その後、冷却した。冷却後、ジメチルアミノエタノール2部を水20部に溶解した水溶液を投入し、不揮発分40.6質量%の水酸基含有アクリル樹脂エマルションを得た(固形分水酸基価80mgKOH/g;固形分酸価10.4mgKOH/g)。得られた水酸基含有アクリル樹脂エマルションは、30%ジメチルアミノエタノール水溶液を用いてpHを7.2に調整した。
【0117】
【表1】

【0118】
製造例3 メラミン樹脂Aの調製
メタノール128.2g(4.0モル)とn−ブタノール74.1g(1.0モル)を配合した反応容器に、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを11.8に調整した後に、パラホルムアルデヒド(92%CHO)169.7g(5.2モル)を加えた。60℃で20分間加温して、パラホルムアルデヒドをメタノールに溶解させ後に、メラミン126.1g(1.0モル)を加え、水酸化ナトリウム水溶液でpHを13.0に調整した。還流温度で、メタノールを系外に留去しながら1時間反応させ、さらに常圧で内温が110℃になるまで濃縮した。次に320.4g(10.0モル)のメタノールと741.2g(10.0モル)のn−ブタノールを加え、硫酸でpHを2.0に調整した後に、30℃で3.5時間反応させた。その後、水酸化ナトリウム水溶液でpHを9.2に調整した。中和塩を濾別し、濾液を減圧濃縮して、メラミン樹脂Aを得た。
【0119】
製造例4 メラミン樹脂Bの調製
37%のホルマリン973g(12.0モル)と50%の水酸化ナトリウム水溶液1.0mLを反応容器に加えて、37℃に保った後にメラミン126g(1.0モル)を加えた。その混合溶液を90℃で25分間反応させた後に、室温の水2000gを40分間で加えて混合溶液の温度を40℃まで冷却した。スラリー状の沈殿物を濾別し、室温で乾燥させた。この乾燥した沈殿物180gとメタノール350gを加えて29℃に加温した後に70%の硝酸水溶液8.0mLを加え反応温度を約35℃で25分間保つことによりエーテル化反応を行った。50%の水酸化ナトリウム水溶液を加えて反応系のpHを9.8−10.5にすることで反応を停止させた後、さらに37%のホルマリン192gと水酸化ナトリウムを加えてpHを9.8−10.5に調整した。減圧下80℃で留分を517g除去した後に、メタノール350gと70%の硝酸4.4mLを加えて約30℃で15分反応させた。50%の水酸化ナトリウムと37%のホルマリン192gを加えてpHを9.8−10.5に調整した後に減圧下80℃で510gを留去した。同様に、メタノール350gと70%の硝酸4.4mLを加えて約30℃で15分反応させた後に50%の水酸化ナトリウムを加えてpHを9.8−10.5に調整した。減圧下120℃で揮発分を留去、ろ過を経て、無色透明で粘調な液体であるメラミン樹脂Bを得た。
【0120】
製造例5 メラミン樹脂Cの調製
37%のホルマリン973g(12.0モル)と50%の水酸化ナトリウム水溶液1.0mLを反応容器に加えて、37℃に保った後にメラミン126g(1.0モル)を加えた。その混合溶液を90℃で25分間反応させた後に、室温の水2000gを40分間で加えて混合溶液の温度を40℃まで冷却した。スラリー状の沈殿物を濾別し、室温で乾燥させた。この乾燥した沈殿物180gとメタノール350gを加えて29℃に加温した後に70%の硝酸水溶液8.0mLを加え反応温度を約35℃で25分間保つことによりエーテル化反応を行った。50%の水酸化ナトリウム水溶液を加えて反応系のpHを9.8−10.5にすることで反応を停止させた後、さらに37%のホルマリン192gと水酸化ナトリウムを加えてpHを9.8−10.5に調整した。減圧下80℃で留分を517g除去した後に、メタノール350gと70%の硝酸4.4mLを加えて約30℃で15分反応させた。50%の水酸化ナトリウムと37%のホルマリン192gを加えてpHを9.8−10.5に調整した後に減圧下80℃で510gを留去した。同様に、ブタノール350gと70%の硝酸4.4mLを加えて約30℃で15分反応させた後に50%の水酸化ナトリウムを加えてpHを9.8−10.5に調整した。減圧下120℃で揮発分を留去、ろ過を経て、無色透明で粘調な液体であるメラミン樹脂Cを得た。
【0121】
製造例6 メラミン樹脂Dの調製
370.6g(5.0モル)のn−ブタノールを配合した反応容器に、パラホルムアルデヒド(92%CHO)169.7g(5.2モル)とメラミン126.1g(1.0モル)を加えて、100℃まで昇温し、20分間反応させた。次に88%のギ酸0.33gを加えて、さらに同じ温度で20分間反応させた。キシレン500gを加えて、還流温度を3時間保持してデカンターを用いて反応系外へ水分を除去することによりアルキルエーテル化を行った。さらに減圧下でキシレンを留去した後に所定量の2−エチルヘキシルアルコールとトリエチルアミン0.3gを加えて、不揮発分が65%のブチル化メラミン樹脂溶液(メラミン樹脂D)を得た。
【0122】
製造例7 メラミン樹脂Eの調製
メタノール160.2g(5.0モル)を配合した反応容器に、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを11.8に調整した後に、パラホルムアルデヒド(92%CHO)169.7g(5.2モル)を加えた。60℃で20分間加温して、パラホルムアルデヒドをメタノールに溶解させ後に、メラミン126.1g(1.0モル)を加え、水酸化ナトリウム水溶液でpHを13.0に調整した。還流温度で、メタノールを系外に留去しながら1時間反応させ、さらに常圧で内温が110℃になるまで濃縮した。次に640.8g(20.0モル)のメタノールを加え、硫酸でpHを2.0に調整した後に、30℃で3.5時間反応させた。その後、水酸化ナトリウム水溶液でpHを9.2に調整した。中和塩を濾別し、濾液を減圧濃縮して、メラミン樹脂Eを得た。
【0123】
上記より得られたメラミン樹脂A〜Eにおける、分子量、トリアジン核1個あたりのイミノ基(−NH−CHOR;ここでRはHまたはアルキル基である。)の数、トリアジン核1個あたりのメチロール基(−NH−CHOH)の数、そしてアルキルエーテル化された部分におけるアルキル基の割合(メチル化率およびブチル化率)を示す。なおこれらの基の数およびアルキル基の割合はいずれも平均値である。上記アルキル基の割合は、核磁気共鳴分光法(NMR法)によるピーク面積比より求めることができる。
【0124】
【表2】

【0125】
製造例8 水酸基含有ポリエステル樹脂の調製
反応器にイソフタル酸25.6部、無水フタル酸22.8部、アジピン酸5.6部、トリメチロールプロパン19.3部、ネオペンチルグリコール26.7部、ε-カプロラクトン17.5部、ジブチルスズオキサイド0.1部を加え、混合撹拌しながら170℃まで昇温した。その後3時間かけ220℃まで昇温しつつ、酸価8となるまで縮合反応により生成する水を除去した。次いで、無水トリメリット酸7.9部を加え、150℃で1時間反応させ、酸価が40のポリエステル樹脂を得た。さらに、100℃まで冷却後ブチルセロソルブ11.2部を加え均一になるまで撹拌し、60℃まで冷却後、イオン交換水98.8部、ジメチルエタノールアミン5.9部を加え、固形分50質量%、固形分酸価40、水酸基価110、数平均分子量2870、ガラス転移温度−3℃の水酸基含有水性ポリエステル樹脂を得た。
【0126】
実施例1
水性中塗り塗料の調製
製造例1より得られた顔料分散ペースト 139部、製造例2より得られた水酸基含有アクリル樹脂エマルション 24.6部、製造例8より得られた水酸基含有ポリエステル樹脂 109.8部、製造例より得られたメラミン樹脂B 15部、メラミン樹脂A 20部を混合した後、アデカノールUH−814N(ウレタン会合型増粘剤、有効成分30%、旭電化工業社製、商品名)3.33部を混合攪拌し、水性中塗り塗料を得た。
【0127】
複層塗膜の形成
リン酸亜鉛処理したダル鋼板に、パワーニクス110(日本ペイント社製カチオン電着塗料、商品名)を、乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間の加熱硬化後冷却して、鋼板基板を準備した。得られた基板に、上記実施例または製造例で調製した水性中塗り塗料を、下記ロボット塗装機を用いて膜厚20μmに塗装した。次いで、80℃で5分プレヒートを行い、アクアレックスAR−2000シルバーメタリック(商品名)(日本ペイント社製水性メタリックベース塗料)を、下記ロボット塗装機を用いて膜厚10μm塗装し、80℃で3分プレヒートを行った。更に、その塗板にクリヤー塗料として、マックフローO−1800W−2クリヤー(日本ペイント社製酸エポキシ硬化型クリヤー塗料、商品名)をエアースプレー塗装にて35μm塗装した後、140℃で30分間の加熱硬化を行い、試験片を得た。
(ロボット塗装機)
機種:ABBカートリッジベル
線速:600mm/s
回転数:25000rpm
シェービングエアー:1.5kg/cm
印加電圧:−90kV
【0128】
なお、上記水性中塗り塗料、水性ベース塗料およびクリヤー塗料は、下記条件で希釈し、塗装に用いた。
【0129】
(水性中塗り塗料)
シンナー:イオン交換水
40秒/NO.4フォードカップ/20℃
塗料固形分は、54質量%であった。
【0130】
(水性ベース塗料)
シンナー:イオン交換水
45秒/NO.4フォードカップ/20℃
【0131】
(クリヤー塗料)
シンナー:EEP(エトキシエチルプロピオネート)/S−150(エクソン社製
芳香族系炭化水素溶剤、商品名)=1/1(質量比)の混合溶剤
30秒/NO.4フォードカップ/20℃
【0132】
実施例2〜3、および比較例1〜4
メラミン樹脂の種類および量を表3、4に記載される種類および量に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水性中塗り塗料を調製した。得られた水性中塗り塗料、および実施例1で用いた水性ベース塗料およびクリヤー塗料を用いて、実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。
【0133】
実施例4
製造例1より得られた顔料分散ペースト 139部、製造例2より得られた水酸基含有アクリル樹脂エマルション 24.6部、製造例8より得られた水酸基含有ポリエステル樹脂 140部、製造例より得られたメラミン樹脂B 10部、メラミン樹脂A 10部を混合した後、アデカノールUH−814N(ウレタン会合型増粘剤、有効成分30%、旭電化工業社製、商品名) 3.33部を混合攪拌し、水性中塗り塗料を得た。
得られた水性中塗り塗料、および実施例1で用いた水性ベース塗料およびクリヤー塗料を用いて、実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。
【0134】
比較例5
製造例1より得られた顔料分散ペースト 139部、製造例2より得られた水酸基含有アクリル樹脂エマルション 24.6部、製造例8より得られた水酸基含有ポリエステル樹脂 60部、製造例より得られたメラミン樹脂B 40部、メラミン樹脂A 20部を混合した後、アデカノールUH−814N(ウレタン会合型増粘剤、有効成分30%、旭電化工業社製、商品名) 3.33部を混合攪拌し、水性中塗り塗料を得た。
得られた水性中塗り塗料、および実施例1で用いた水性ベース塗料およびクリヤー塗料を用いて、実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。
【0135】
上記実施例および比較例により得られた複層塗膜について、下記評価を行った。
【0136】
複層塗膜の仕上がり外観
上記実施例および比較例より得られた複層塗膜の仕上がり外観をWave Scan(BYK Gardner社製表面粗度測定器、商品名)にて評価した。W2値は長波長試験であり、塗膜肌評価に対応し、W1値は短波長試験であり、塗膜のムジ感評価に対応する。これらの値は何れも小さいものほど塗膜外観が良好であることを示す。結果を表3、4に示す。なお下記表中における各樹脂成分の量は、水性中塗り塗料に含まれる各成分の樹脂固形分質量である。
【0137】
一次付着性評価方法
上記実施例および比較例より得られた複層塗膜を有する塗装物試験片に、小型のカッターナイフを垂直に当て、下地に達する等間隔の平行線を2mm間隔で11本引き、それらの平行線に垂直に交わる等間隔の平行線11本を2mm間隔で引いて、4本の直線に囲まれた2mm四方の100個の正方形を刻んだ後、接着テープ(幅24mm)を上記試験塗膜のカット部分に気泡を含ませずに圧着した後急激に引っ張って、上塗り塗膜の剥離度合いから中塗り塗膜と上塗り塗膜との密着性を評価した。剥離した碁盤目の数を記載した。
【0138】
【表3】

【0139】
【表4】

【0140】
上記表3に示されるように、実施例によって得られた複層塗膜はいずれも、仕上がり外観に優れたものであり、そして中塗り塗膜と上塗り塗膜との密着性(一次付着性)も良好であった。一方、トリアジン核1個あたりのイミノ基の数が平均1.0未満であり数平均分子量が1000未満であるアルキルエーテル化メラミン樹脂を含まない比較例1〜3は何れも、複層塗膜の仕上がり外観が劣ることが確認された。また上記アルキルエーテル化メラミン樹脂の量が5質量%である比較例4においては、複層塗膜の仕上がり外観の向上は確認されるものの、本発明と比較して劣るものであった。上記アルキルエーテル化メラミン樹脂の量が40質量%である比較例5においては、複層塗膜の仕上がり外観は向上した一方で、中塗り塗膜と上塗り塗膜との密着性が大きく劣ることとなった。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明において、水性中塗り塗料、水性ベース塗料を用いる3コート1ベーク法において水性中塗り塗膜の反応硬化速度を調節することによって、複層塗膜の塗膜物性を維持しつつ、優れた塗膜外観を有する複層塗膜を提供することができる。本発明の塗膜形成方法はまた、水性中塗り塗料、水性ベース塗料を用いる3コート1ベーク法に関する方法であるため、塗装工程短縮、焼き付け工程の削減およびコスト削減、そして環境に対する負荷の低減が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗膜の上に水性中塗り塗料を塗装して中塗り塗膜を形成し、次に該中塗り塗膜上に水性ベース塗料を塗装してベース塗膜を形成し、さらに該ベース塗膜上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成した後、該中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に焼付け硬化させて、複層塗膜を形成する方法であって、
該水性中塗り塗料は、
水酸基含有アクリル樹脂エマルション、および
トリアジン核1個あたりのイミノ基の数が平均1.0未満であり、数平均分子量が1000未満であるアルキルエーテル化メラミン樹脂を含む、メラミン樹脂、
を少なくとも含む水性中塗り塗料であり、および
該水性中塗り塗料に含まれる該アルキルエーテル化メラミン樹脂の含有量は、樹脂固形分100質量部に対して10〜35質量部である、
複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記水性中塗り塗料は水酸基含有ポリエステル樹脂をさらに含み、そして水性中塗り塗料に含まれる各成分の樹脂固形分質量比、但し樹脂固形分に対する、は、
水酸基含有アクリル樹脂エマルション 5〜50質量%、
水酸基含有ポリエステル樹脂 5〜80質量%、および
メラミン樹脂 10〜50質量%、
である、
請求項1記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記水性中塗り塗料に含まれる水酸基含有アクリル樹脂エマルションは、酸価3〜50mgKOH/gおよび水酸基価10〜150mgKOH/gであり、および
前記前記水性中塗り塗料に含まれる水酸基含有ポリエステル樹脂は、酸価5〜50mgKOH/gおよび水酸基価5〜150mgKOH/gである、
請求項1または2記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の複層塗膜の形成方法において用いられる、水性中塗り塗料。
【請求項5】
請求項1〜3いずれかに記載の複層塗膜の形成方法によって得られる複層塗膜。

【公開番号】特開2009−261997(P2009−261997A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111101(P2008−111101)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】