説明

複層塗膜形成方法

【課題】 水性着色ベース塗料を用いた3コート1ベーク法において、塗膜外観を損なうことなく、耐チッピング性に優れる複層塗膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】 電着塗料の硬化塗膜上に、水性第1着色ベース塗料(A)を塗装して第1着色ベース塗膜を形成し、次に第1着色ベース塗膜を予備加熱することなく、第1着色ベース塗膜上に水性第2着色ベース塗料(B)を塗装して第2着色ベース塗膜を形成し、ついで第1着色ベース塗膜及び第2着色ベース塗膜を予備加熱後、第2着色ベース塗膜上にクリヤー塗料(C)を塗装してクリヤー塗膜を形成し、形成された3層の塗膜を同時に加熱硬化させる複層塗膜形成方法において、水性着色第1ベース塗料(A)及び水性着色第2ベース塗料(B)の各塗料が、該水性着色第1ベース塗料(A)及び水性着色第2ベース塗料(B)の各塗料の全樹脂固形分に対しタルク顔料を1〜5質量%含有する複層塗膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層塗膜形成方法に関し、特に自動車車体外板用に水性塗料を用いた3コート1ベークの塗膜形成において、良好な塗膜外観及び耐チッピング性を与えることができる複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タレ、ムラ、混層などの発生がなく仕上がり性が良好な水性3コート1ベーク(3C1B)複層塗膜形成方法として、被塗物上に、水性第1着色塗料(A)、水性第2着色塗料(B)、及びクリヤ塗料(C)を用いて、以下の工程1〜工程5からなる3コート1ベーク方式によって得られる複層塗膜形成方法が知られている。工程1:ウレタンエマルション(a)とその他の成分(b)からなる水性第1着色塗料(A)を塗装する工程、工程2:常温でセッティングすることにより、水性第1着色塗料(A)の塗膜粘度を1×10Pa・秒(20℃、シェアレート0.1秒−1)以上とする工程、工程3:水性第2着色塗料(B)を塗装する工程、工程4:予備加熱を施す工程、工程5:クリヤ塗料(C)を塗装して、3層からなる塗膜を同時に焼付け乾燥する工程。(例えば特許文献1参照)しかしながら、この方法では、塗膜物性への配慮が少なく、耐チッピング性に劣るという欠点があった。
【0003】
また、3C1B塗装系で、中塗りもベース塗料も水性塗料を用いて耐衝撃性及び塗膜外観を向上させる方法として、電着塗膜が形成された基材上に、水性中塗り塗料(1)、水性ベース塗料(2)及びクリヤー塗料を、順次ウエットオンウエットで塗布し、得られた複層塗膜を同時に焼き付け硬化させる複層塗膜の形成方法において、前記水性中塗り塗料(1)が、平均粒径0.05〜10μmのアクリルエマルション、平均粒径0.01〜1μmのウレタンエマルション及び硬化剤を含有し、アクリルエマルションの平均粒径がウレタンエマルションの平均粒径と同じかまたはそれより大きく、かつアクリルエマルション/ウレタンエマルションの個数比が1/0.1〜1/500であることを特徴とする複層塗膜の形成方法が知られている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、耐チッピング性の改善が十分ではないという欠点があった。
【0004】
また、中塗り塗膜の物性を向上させて複層塗膜の耐チッピング性を改善させる水性3C1B複層塗膜形成方法として、(1)電着塗膜が形成された被塗物を提供する工程;(2)電着塗膜の上に水性中塗り塗料を塗布して中塗り塗膜を形成する工程;(3)中塗り塗膜を硬化させないで中塗り塗膜の上に水性ベース塗料、及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで順次塗布してベース塗膜及びクリヤー塗膜を形成する工程;(4)中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる工程;を含む複層塗膜形成方法において、該水性中塗り塗料が、アクリル樹脂エマルジョン、硬化剤、及び有機物処理酸化チタン顔料を含有することを特徴とする複層塗膜の形成方法が知られている(例えば特許文献3参照)。しかしながら、この方法では、第1層の中塗り塗膜が、白色顔料である酸化チタン顔料を多く含むため淡彩色になり、複層塗膜が濃彩色の場合は、第2層のみで着色しなければならず、塗色の再現性が安定しない、又、耐チッピング性も十分でないという欠点を有していた。
【0005】
また、耐チッピング性が良好な塗膜物性値、及び耐チッピング性が良好な塗料を開発した3C1Bの複層塗膜形成方法として、着色第1ベース塗料(A)、着色第2ベース塗料(B)を塗装し、さらにクリヤ塗料(C)をウェットオンウェットで塗装した後、3層からなる複層塗膜を同時に加熱して架橋硬化させる塗膜形成方法において、−20℃における着色第1ベース塗料(A)の硬化塗膜のヤング率が3000MPa以上、かつ破壊エネルギーが2×10-3J以上である着色第1ベース塗料(A)を塗装する複層塗膜形成方法が知られている(例えば特許文献4参照)。しかしながら、この方法では、第1層目の塗膜物性値は規定されているが、その達成手段は明確でなく、発明の詳細な説明からは、第1層目にVOC排出規制等の問題がある溶剤系の塗料を使用しなければ指定の塗膜物性値を達成できず、良好な耐チッピング性が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−097917号公報
【特許文献2】特開2004−337670号公報
【特許文献3】特開2004−298836号公報
【特許文献4】特開2003−181368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するものであり、その目的は水性着色ベース塗料を用いた3コート1ベーク法において、塗膜外観を損なうことなく、耐チッピング性に優れる複層塗膜を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、この課題を解決すべく鋭意研究の結果、電着塗料の硬化塗膜上に、水性第1着色ベース塗料(A)を塗装して第1着色ベース塗膜を形成し、次に第1着色ベース塗膜を予備加熱することなく、第1着色ベース塗膜上に水性第2着色ベース塗料(B)を塗装して第2着色ベース塗膜を形成し、ついで第1着色ベース塗膜及び第2着色ベース塗膜を予備加熱後、第2着色ベース塗膜上にクリヤー塗料(C)を塗装してクリヤー塗膜を形成し、形成された3層の塗膜を同時に加熱硬化させる複層塗膜形成方法において、水性着色第1ベース塗料(A)及び水性着色第2ベース塗料(B)の各塗料に、該水性着色第1ベース塗料(A)及び水性着色第2ベース塗料(B)の各塗料の全樹脂固形分に対しタルク顔料を1〜5質量%含有させることにより、上記問題を解決することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、電着塗料の硬化塗膜上に、水性第1着色ベース塗料(A)を塗装して第1着色ベース塗膜を形成し、次に第1着色ベース塗膜を予備加熱することなく、第1着色ベース塗膜上に水性第2着色ベース塗料(B)を塗装して第2着色ベース塗膜を形成し、ついで第1着色ベース塗膜及び第2着色ベース塗膜を予備加熱後、第2着色ベース塗膜上にクリヤー塗料(C)を塗装してクリヤー塗膜を形成し、形成された3層の塗膜を同時に加熱硬化させる複層塗膜形成方法において、水性着色第1ベース塗料(A)及び水性着色第2ベース塗料(B)の各塗料が、該水性着色第1ベース塗料(A)及び水性着色第2ベース塗料(B)の各塗料の全樹脂固形分に対しタルク顔料を1〜5質量%含有することを特徴とする複層塗膜形成方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記複層塗膜形成方法において、水性第1着色ベース塗料(A)及び水性第2着色ベース塗料(B)の各塗料中のポリウレタン樹脂(a)、ポリエステル樹脂(b)、及びメラミン樹脂(c)の合計量の含有割合が、該各塗料の全樹脂固形分に対し70質量%以上である複層塗膜形成方法を提供するものである。
また、本発明は、上記複層塗膜形成方法において、水性第1着色ベース塗料(A)と水性第2着色ベース塗料(B)が、同一の樹脂構成成分及び顔料を含有する塗料である複層塗膜形成方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記複層塗膜形成方法において、クリヤー塗料(C)が、水酸基含有アクリル樹脂を含む主剤と、ポリイソシアネート化合物を含む硬化剤とを含有する2液ウレタン型塗料である複層塗膜形成方法を提供するものである。
また、本発明は、上記複層塗膜形成方法において、クリヤー塗料(C)に含まれる水酸基含有アクリル樹脂が、水酸基価150〜200mgKOH/g、酸価4〜15mgKOH/g、ガラス転移点20〜35℃、及び重量平均分子量4,000〜7,000を有するものであり、かつ樹脂中の水酸基が全て1級水酸基である水酸基含有アクリル樹脂である複層塗膜形成方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、上記複層塗膜形成方法において、クリヤー塗料(C)の硬化剤が、脂肪族ポリイソシアネート化合物を含有するものである複層塗膜形成方法を提供するものである。
また、本発明は、上記複層塗膜形成方法において、電着塗料の硬化塗膜が形成される基材が、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、及び冷延鋼板から選択される少なくとも一つである複層塗膜形成方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複層塗膜形成方法により、3つの塗料を塗装し同時に焼き付けて得られる複層塗膜に、良好な塗膜外観、優れた耐チッピング性を与えることができる。この複層塗膜形成方法は、特に自動車塗装分野に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、タルク顔料は、水性第1着色ベース塗料(A)及び水性第2着色ベース塗料(B)の各塗料に、耐チッピング性を向上させる目的で含有される。そのタルク顔料の含有量は、(A)及び(B)の各塗料の全樹脂固形分に対し、1〜5質量%であり、好ましくは2〜4質量%である。1質量%未満では、耐チッピング性向上の効果が少なく、5質量%を超えると、塗膜外観の低下をもたらし、耐チッピング性が低下する。
化学組成MgSi10(OH)で示されるタルク顔料が、耐チッピング性に効果がある理由としては、形状が葉片状、又は鱗状であり、又、軟質で湾曲しやすい性質があるため、塗膜中に含まれると、チッピング試験における衝撃を吸収し、分散する効果があると推定される。
【0015】
本発明における水性第1着色ベース塗料(A)及び水性第2着色ベース塗料(B)は、樹脂構成成分として、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン−アクリル樹脂等の基体樹脂の1種以上、アミノ樹脂、ブロックイソシアネートなどの架橋剤の1種以上、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテル系可塑剤の1種以上等を含む既知の水性熱硬化型塗料が適用でき、それと共に塗料業界において公知の無機顔料、有機顔料、アルミ顔料、パール顔料、体質顔料などの各種顔料の1種以上、その他に、必要に応じて表面調整剤、消泡剤、界面活性剤、造膜助剤、増粘剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの各種添加剤、各種レオロジーコントロール剤、各種有機溶剤などの1種以上が配合可能である。
【0016】
本発明における水性第1着色ベース塗料(A)及び水性第2着色ベース塗料(B)の各塗料に使用される架橋剤としては、アミノ樹脂、ブロックイソシアネート化合物等が挙げられるが、アミノ樹脂が好ましい。
アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられるが、メラミン樹脂が好ましく、アルキルエーテル化メラミン樹脂がより好ましく、メトキシ基単独又はメトキシ基とブトキシ基の両方で置換されたメラミン樹脂が特に好ましい。
【0017】
本発明における3コート1ベーク複層塗膜形成方法においては、通常の自動車車体の塗膜構成(通常は下から電着、中塗り、着色ベース、クリヤーの塗膜層がある。)と異なり、中塗り塗膜層に当たるものがない。このため、本発明においては、水性第1着色ベース塗料(A)及び水性第2着色ベース塗料(B)に中塗り塗料の機能の一部(塗膜外観と耐チッピング性の向上)を持たせる必要がある。クリヤー塗料(C)との組み合わせによっても、これらの機能は左右されることもあるので、組み合わせるクリヤー塗料(C)の選択も重要である。
【0018】
また、本発明における3コート1ベーク複層塗膜形成方法においては、他の通常の3コート1ベーク複層塗膜形成方法と異なり、第1層の塗料が塗装された後の予備加熱が施される工程がなく、水性第1着色ベース塗料(A)及び水性第2着色ベース塗料(B)が塗装された後、予備加熱工程は1回だけである。このため、本発明においては、クリヤー塗料(C)が塗装された後の加熱硬化工程で、熱収縮による塗膜外観低下を防ぐために、水性第1着色ベース塗料(A)と水性第2着色ベース塗料(B)とは、類似又は同種の樹脂構成成分及び顔料を含有する塗料であることが好ましく、同種の樹脂構成成分及び顔料を含有する塗料であることがより好ましく、同一の樹脂構成成分及び顔料を含有する塗料であることがさらに好ましい。塗色によっては、着色顔料だけが異なり、同一の樹脂構成成分を含有する塗料であってもよい。また、塗料の樹脂構成成分及び顔料などの各成分の配合割合も同一であることが特に好ましい。
【0019】
水性第1着色ベース塗料(A)及び水性第2着色ベース塗料(B)の各塗料の樹脂構成成分としては、ポリウレタン樹脂(a)、及びポリエステル樹脂(b)を基体樹脂、メラミン樹脂(c)を架橋剤として含有するものが好ましい。この樹脂構成成分は、塗り重ね時における良好な塗膜外観及び耐チッピング性を発揮させるために好ましく、その合計量が全樹脂固形分に対し70質量%以上であることが、その効果を十分に発現するためにはより好ましい。樹脂構成成分としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂以外の他の樹脂構成成分を含有させてもよく、他の樹脂構成成分としては、ポリウレタン−アクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂等を挙げることができる。
樹脂構成成分としてのポリエーテル系可塑剤は、種々のポリエーテル系可塑剤が使用可能であるが、ポリエーテル系可塑剤の分子量が500〜3,000であるものが好ましい。
【0020】
本発明における水性第1着色ベース塗料(A)及び水性第2着色ベース塗料(B)の各塗料に使用されるポリウレタン樹脂(a)は、特に限定されないが、ポリオールとポリイソシアネートを反応させることによって製造できる。このポリオールとしては、ポリエステルポリオールが好ましく、ポリイソシアネートとしては、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートが好ましい。
【0021】
この脂肪族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられ、脂環族ジイソシアネートとしては、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4´ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロへキシレンジイソシアネート等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0022】
ポリエステルポリオールは、多価アルコールと多塩基酸及び必要に応じて油脂類から得られた脂肪酸との反応によって得られる。
多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、水素化ビスフェノールA、グリセリン、トリエチルエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット、ジペンタエリトリット、C36ダイマージオール等が挙げられ、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0023】
また、多塩基酸としては、例えば無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水トリメリット酸、C36ダイマー酸等が挙げられ、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
また油脂類から得られた脂肪酸としては、大豆油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、きり油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、トール油脂肪酸、ラウリン酸、ステアリン酸等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0024】
ポリウレタン樹脂(a)は、水酸基価10〜100mgKOH/gが好ましく、20〜80mgKOH/gがより好ましい。10mgKOH/g以下の場合は、水性媒体中での樹脂の乳化安定性が低下し、100mgKOH/gを超える場合は、塗膜の耐水性が低下することがある。
また、ポリウレタン樹脂(a)の酸価は、10〜50mgKOH/gが好ましく、20〜50mgKOH/gがより好ましい。酸価が10mgKOH/g以下の場合は、水性媒体中での樹脂の乳化安定性が低下し、50mgKOH/gを超える場合は、塗膜の耐水性が低下することがある。
【0025】
また、ポリウレタン樹脂(a)の数平均分子量は、500〜50,000が好ましく、1,000〜30,000であることがより好ましい。500以下の場合は、耐チッピング性が低下し、50,000を超える場合は、焼付け時に十分なフロー性が得られず塗膜外観が低下することがある。
【0026】
本発明における水性第1着色ベース塗料(A)及び水性第2着色ベース塗料(B)の各塗料に使用されるポリエステル樹脂(b)は、特に限定されないが、その樹脂原料として、通常のポリエステル樹脂を構成する多価アルコール、多塩基酸及び必要に応じて油脂類から得られた脂肪酸等から、公知のエステル化反応によって得ることができる。
【0027】
この多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、水素化ビスフェノールA、グリセリン、トリエチルエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット、ジペンタエリトリット、C36ダイマージオール等が挙げられ、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0028】
また、多塩基酸としては、例えば無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水トリメリット酸、C36ダイマー酸等が挙げられ、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
また油脂類から得られた脂肪酸としては、大豆油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、きり油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、トール油脂肪酸、ラウリン酸、ステアリン酸等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ポリエステル樹脂(b)の水酸基価は、10〜150mgKOH/gが好ましく、20〜130mgKOH/gがより好ましい。10mgKOH/g以下の場合は、水性媒体中での樹脂の乳化安定性が低下し、150mgKOH/gを超える場合は、塗膜の耐水性が低下することがある。
また、ポリエステル樹脂(b)の酸価は、10〜50mgKOH/gが好ましく、20〜40mgKOH/gがより好ましい。10mgKOH/g以下の場合は、水性媒体中での樹脂の乳化安定性が低下することがあり、50mgKOH/gを超える場合は、塗膜の耐水性が低下することがある。
【0030】
ポリエステル樹脂(b)の数平均分子量は、500〜50,000が好ましく、1,000〜30,000であることがより好ましい。500以下の場合は、耐チッピング性が低下し、50,000を超える場合は、焼付け時に十分なフロー性が得られず塗膜外観が低下する。
【0031】
本発明における水性第1着色ベース塗料(A)及び水性第2着色ベース塗料(B)中のポリウレタン樹脂(a)、ポリエステル樹脂(b)、及びメラミン樹脂(c)の合計量の含有割合は、全樹脂固形分に対し70質量%〜100質量%が好ましく、70質量%〜90質量%がより好ましい。
【0032】
さらに、水性第1着色ベース塗料(A)及び水性第2着色ベース塗料(B)の各塗料中でのメラミン樹脂(c)の全樹脂固形分に対する含有割合は、20〜40質量%が好ましい。20質量%未満では、耐水性、耐チッピング性などの塗膜性能が低下し、40質量%を超えると、耐チッピング性が低下する。
【0033】
また、水性第1着色ベース塗料(A)及び水性第2着色ベース塗料(B)の各塗料に使用されるポリウレタン樹脂(a)及びポリエステル樹脂(b)の合計量の含有割合は、全樹脂固形分に対して、好ましくは30〜80質量%、より好ましくは40〜70質量%である。30質量%以下では、耐チッピング性、塗膜外観性が低下することがあり、80質量%以上でも架橋剤配合量が少なくなるため耐水性、耐チッピング性などの塗膜性能が低下することがある。
ポリウレタン樹脂(a)とポリエステル樹脂(b)の含有割合は、固形分質量比で50/50〜90/10の範囲が、塗膜外観及び耐チッピング性を維持させるために好ましい。
【0034】
本発明における水性第1着色ベース塗料(A)及び水性第2着色ベース塗料(B)中のメラミン樹脂(c)としては、水性塗料に適用できる公知のものを使用することができる。
例えば、トリアジン核1個当りのメチロール基が平均3個以上メチルエーテル化されたメラミン樹脂や、或いはそのメトキシ基の一部を炭素数2個以上のアルコールで置換されたメラミン樹脂や、さらにはイミノ基を有し、かつその縮合度が3以下である親水性メラミン樹脂などが好適に使用できる。このようなメラミン樹脂としては、市販品として例えば、サイメル325、サイメル327、サイメル350、サイメル202、サイメル211、サイメル235、サイメル250、サイメル251、サイメル254、マイコート775(商品名、いずれもサイテック社製)、メラン5920、メラン6230(商品名、いずれも日立化成社製)、ルヴィパール052、ルヴィパール072(商品名、いずれもBASF社製)などが挙げられる。
【0035】
また、ポリウレタン樹脂(a)及びポリエステル樹脂(b)の合計量のメラミン樹脂(c)に対する含有比率は、固形分質量比で55/45〜85/15が好ましく、60/40〜80/20がより好ましい。
【0036】
本発明におけるクリヤー塗料(C)は、自動車車体用クリヤー塗料として通常使用されているものでよく、溶剤型のアクリルメラミン架橋タイプや酸エポキシ架橋タイプの1液型熱硬化性塗料も使用可能であるが、本発明においては、水酸基含有アクリル樹脂と、ポリイソシアネート化合物の硬化剤からなる2液ウレタン型塗料が、塗膜外観性及び耐チッピング性を維持させるために好ましい。
2液ウレタン型塗料は、溶剤希釈型2液ウレタン型塗料が好ましい。希釈剤としての溶剤は、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素、ケトン類、エステル類などが挙げられる。
クリヤー塗料(C)の不揮発分は、40〜60質量%が好ましく、45〜55質量%がより好ましい。
【0037】
さらに、その水酸基含有アクリル樹脂は、水酸基価150〜200mgKOH/g、酸価4〜15mgKOH/g、ガラス転移点20〜35℃、及び重量平均分子量4,000〜7,000を有するものであり、かつ樹脂中の水酸基が全て1級水酸基であることが、本発明においては好適である。この範囲外である場合、本発明の3コート1ベーク複層塗膜形成において、良好な塗膜外観及び耐チッピング性の効果が十分に発揮できないことがある。
また、硬化剤としては、脂肪族ポリイソシアネート化合物が好適である。この範囲外である場合、本発明の3コート1ベーク複層塗膜形成において、良好な塗膜外観及び耐チッピング性の効果が十分に発揮できないことがある。
【0038】
また、本発明におけるクリヤー塗料(C)で使用される水酸基含有アクリル樹脂は、特に限定されないが、アクリル系モノマー等のエチレン性不飽和モノマーのラジカル共重合等公知の方法によって得ることができる。
このようなエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸の2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル又は4−ヒドロキシブチル等の水酸基含有アルキル基によるエステル化物、或いはアクリル酸又はメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトン開環付加物、アクリル酸又はメタクリル酸4−ヒドロキシブチルのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物等の水酸基含有モノマーの1種以上を、必須構成成分として含む。
【0039】
また、本発明で使用される水酸基含有アクリル樹脂は、樹脂中に含有する全ての水酸基が1級水酸基であることが望ましい。
水酸基含有アクリル樹脂が含有する水酸基において、1級水酸基を用いることにより、耐擦り傷性、耐酸性に優れ、さらに耐チッピング性に優れた塗膜を得ることができる。
また、水酸基含有アクリル樹脂において、上記水酸基含有モノマーと共重合可能な他のアクリル系モノマーとしては、アクリル酸又はメタクリル酸、アクリル酸又はメタクリル酸のメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、2−エチルヘキシル、ラウリル、ステアリル等の炭化水素基のエステル化物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリロアミド等が挙げられる。その他に共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、マレイン酸、酢酸ビニル等が挙げられる。これらの共重合可能なモノマーは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
本発明におけるクリヤー塗料(C)は、水酸基含有アクリル樹脂と硬化剤であるポリイソシアネート化合物とを含有する2液ウレタン型塗料であることが、良好な塗膜外観得るために好ましいが、ポリイソシアネート化合物としては、脂肪族ポリイソシアネート化合物であることが、良好な対チッピング性を発揮する上で好ましい。水酸基含有アクリル樹脂と硬化剤の配合割合は、通常の2液ウレタン型塗料の配合割合と同様なものであればよい。
【0041】
本発明における塗装方法は、電着塗料の硬化塗膜上に、水性第1着色ベース塗料(A)を塗装して第1着色ベース塗膜を形成し、次に第1着色ベース塗膜を予備加熱することなく第1着色ベース塗膜上に水性第2着色ベース塗料(B)を塗装して第2着色ベース塗膜を形成し、ついで第1着色ベース塗膜及び第2着色ベース塗膜を予備加熱後、第2着色ベース塗膜上にクリヤー塗料(C)を塗装してクリヤー塗膜を形成し、形成された3層の塗膜を同時に加熱硬化させる複層塗膜形成方法である。
ここで使用される電着塗料としては、種々の電着塗料が挙げられるが、好ましくはカチオン電着塗料である。電着塗料の塗装方法としては、通常の電着塗料の塗装方法が用いられる。電着塗料の硬化塗膜の厚みは、通常の電着塗料の硬化塗膜と同様な厚みであればよい。
【0042】
また、被塗物基材としては、予め表面処理を施された合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、及び冷延鋼板から選択される少なくとも一つであることが、の複良好な耐チッピング性を発揮する上で好適である。
本発明において、水性第2着色ベース塗料(B)の塗装後の予備加熱としては、40〜100℃で、1〜10分間が良好な塗膜外観を得るために好ましい。
【0043】
本発明における各塗膜層の加熱硬化(焼付け)後の膜厚は、第1着色ベース塗料(A)は5〜30μmが好ましく、第2着色ベース塗料(B)は5〜30μmが好ましく、クリヤー塗料(C)は20〜50μmが好ましい。
また、加熱硬化温度は、120〜170℃が好ましく、加熱硬化時間は15〜30分間が好ましい。
また、水性第1着色ベース塗料(A)の塗装工程前に、チッピングプライマーやアンダーコートプライマーなどの自動車塗装分野において公知の塗装工程も実施可能である。
本発明の塗装方法は、特に限定されるものでないが、エアースプレー、静電エアースプレー、或いは回転霧化式の静電塗装機を用いたスプレー塗装方法が好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。尚、部及び%は、それぞれ質量部及び質量%を示す。
【0045】
<ポリエステルポリオール樹脂溶液E−1の調製>
反応水の分離管が付属した還流冷却管、窒素ガス導入装置、温度計、及び撹拌装置を装備した反応容器に、ラウリン酸10部、無水フタル酸30部、アジピン酸18.3部、ネオペンチルグリコール34.6部、及びトリメチロールプロパン7.1部を入れ混合し、得られた混合物を120℃に加熱して溶解した後、撹拌しながら160℃に上昇させた。160℃で1時間保った後、徐々に昇温し、5時間かけて230℃まで温度を上げた。次いで温度を230℃に保って反応を続け、酸価2mgKOH/gになったところで反応を終了して冷却した。80℃以下まで冷却した後に、トルエン22.8部を加え、不揮発分80%、水酸基価75mgKOH/g、酸価2mgKOH/g、数平均分子量1,500のポリエステルポリオール樹脂溶液E−1を得た。
【0046】
<ポリウレタン樹脂溶液U−1の調製>
窒素ガス導入装置、温度計、及び撹拌装置を装備した反応容器に、ポリエステル溶液E−1 81.8部、ジメチロールプロピオン酸4.7部、イソホロンジイソシアネート24.2部、及びメチルエチルケトン40部を入れ混合し、撹拌しながら80℃にて反応させ、イソシアネート価が0.67meq/gになったところでジエタノールアミン5.7部を加え、さらに80℃で反応を続け、イソシアネート価が0.01meq/gになったところで、ブチルセロソルブ40部を加え反応を終了する。その後、減圧下で100℃でトルエン及びメチルエチルケトンを除去した。その後50℃まで冷却しジエタノールアミン2.6部を加えて樹脂の中和を行い、さらに脱イオン水を加え、不揮発分25%、水酸基価62mgKOH/g、酸価21mgKOH/g、数平均分子量4,000のポリウレタン樹脂溶液U−1を得た。
【0047】
<ポリエステル樹脂溶液E−2の調製>
反応水の分離管が付属した還流冷却管、窒素ガス導入装置、温度計、撹拌装置を装備した反応容器に、ラウリン酸10部、無水フタル酸30部、アジピン酸8.6部、ネオペンチルグリコール28.7部、トリメチロールプロパン12.7部を入れ混合し、得られた混合物を120℃に加熱して溶解した後、撹拌しながら160℃に上昇させた。160℃で1時間保った後、徐々に昇温し、5時間かけて230℃まで温度を上げた。次いで温度を230℃に保って2時間反応を続けた後、180℃まで温度を下げ、無水トリメリット酸10部を入れ反応を続け、酸価が25mgKOH/gになったところで反応を終了して冷却した。80℃以下まで冷却した後に、ブチルセロソルブ25部、次いでジメチルエタノールアミン3.2部を加えて樹脂の中和を行い、その後に脱イオン水を加え、不揮発分30%、水酸基価90mgKOH/g、酸価25mgKOH/g、数平均分子量2,000のポリエステル樹脂溶液E−2を得た。
【0048】
<水酸基含有アクリル樹脂溶液 R−1の調製>
温度計、還流冷却器、攪拌機、及び滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、キシレンを66.7部仕込み、窒素気流下攪拌しながら加熱し140℃を保った。次に、140℃の温度で、メタクリル酸n−ブチル10部、スチレン10部、アクリル酸n−ブチル18部、メタクリル酸シクロヘキシル19.3部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル41.7部、及びアクリル酸1部のエチレン性不飽和モノマーと、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート5部との均一に混合した滴下成分を2時間かけて滴下ロートより等速滴下した。滴下終了後、140℃の温度を1時間保った後、反応温度を110℃に下げた。その後、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.1部をキシレン1部に溶解させた重合開始剤溶液を追加触媒として添加し、さらに110℃の温度を2時間保ったところで反応を終了し、水酸基含有アクリル樹脂溶液R−1を得た。得られた樹脂溶液R−1中の水酸基含有アクリル樹脂の樹脂水酸基価は180mgKOH/g、樹脂酸価は7.2mgKOH/g、不揮発分は64.3%、及びゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量は5,600であった。また、この水酸基アクリル樹脂のガラス転移点は、29℃であった。また、樹脂溶液R−1中の水酸基含有アクリル樹脂は、全ての水酸基が1級水酸基であった。
【0049】
ここで、ガラス転移点とは、下記に示した式から計算された数値である。
1/Tg=Σ(mi/Tgi)
Tg:共重合体のガラス転移点
mi:モノマーi成分のモル分率
Tgi:モノマーi成分のホモポリマーのガラス点(°K)
【0050】
<製造例1〜10>
水性第1着色ベース塗料A−1〜5及び水性第2着色ベース塗料B−1〜5の製造例
表1に示す配合割合にて、水性第1着色ベース塗料A−1〜5及び水性第2着色ベース塗料B−1〜5を作成した。なお、表1中の各成分の配合量の単位は、質量部である。
水性第1着色ベース塗料及び水性第2着色ベース塗料は、表1に示す配合割合にて、ポリエステル樹脂溶液E−2に、カーボンブラック(三菱化学製、商品名「MA−100」)、タルク顔料(富士タルク工業製、商品名「タルクLMS−200」)、体質顔料(堺化学社製、商品名「硫酸バリウムB34」)を加え、分散機にて分散後、ポリウレタン樹脂溶液U−1、メラミン樹脂(サイテック社製、商品名「サイメル327」、メチル化メラミン樹脂、不揮発分90%)、ポリプロピレングリコール (日油(株)製、商品名「ユニオールD1000」、数平均分子量1000)、表面調整剤(ビックケミー社製、商品名「ビケトールWS」)、レオロジーコントロール剤(ロームアンドハース社製、商品名「プライマルASE−60」)を加えてディゾルバーで撹拌し、脱イオン水で40秒/フォードカップ#4(20℃)の粘度に調整した。
【0051】
【表1】

表1の注記
*ユニオールD1000は、不揮発性物質であり、架橋性官能基(水酸基)を有するので、樹脂固形分に含む。
【0052】
<製造例11>
2液ウレタン型塗料C−1の製造例
水酸基含有アクリル樹脂溶液R−1を70部、紫外線吸収剤「チヌビン400」(商品名、チバスペシャルティケミカルス社製)1.3部、光安定剤「チヌビン292」(商品名、チバスペシャルティケミカルス社製)0.7部、表面調整剤「BYK−300」(商品名、ビックケミー社製)0.2部、ジエチレングリコールモノブチルアセテート5部、酢酸n−ブチル12.8部、芳香族石油ナフサ「ソルベッソ100」(商品名、エッソ社製)10部を順次仕込み、均一になるまでディゾルバー撹拌する。次に塗装直前に、脂肪族ポリイソシアネート溶液「バソナートHI−172S」(商品名、BASF社製、HDI系イソシアヌレート型3量体の72%溶液)33.3部を加えて、2液ウレタン型塗料C−1を得た。
【0053】
<実施例1〜5>
リン酸亜鉛化成処理を施された合金化溶融亜鉛メッキ鋼板に、カチオン電着塗料「V−50」(商品名、日本ペイント社製)を硬化膜厚が約20μmになるように電着塗装し、160℃で30分間加熱、硬化させた。
この電着塗料の硬化塗膜上に、表2に示される水性第1着色ベース塗料を、ベル回転式静電塗装機で、硬化膜厚7〜12μmになるように塗装して第1着色ベース塗膜を形成し、塗装ブース内で5分間放置後、表2に示される水性第2着色ベース塗料を、第1着色ベース塗膜上にベル回転式静電塗装機で、硬化膜厚5〜10μmになるように塗装して第2着色ベース塗膜を形成した。これを塗装ブース内で5分間放置後、80℃で3分間加熱して予備加熱した後、クリヤー塗料C−1を、第2着色ベース塗膜上にベル回転式静電塗装機で、硬化膜厚30〜35μmになるように塗装してクリヤー塗膜を形成し、10分間放置後、140℃で25分間加熱硬化させて、3層の複層塗膜が形成された塗膜評価用の試験片を作成した。尚、塗装は、ブース温度25℃、相対湿度75%の条件で行った。
【0054】
<比較例1〜4>
表2に示される水性第1着色ベース塗料と、水性第2着色ベース塗料を使用した以外は、実施例1〜3と同様にして、塗膜評価用の試験片を作成し、評価結果を表2に示す。
【0055】
上記実施例及び比較例により得られた複層塗膜は、以下の方法により評価した。その結果も表2に示す。
尚、実施例4は、第1着色ベース塗料と第2着色ベース塗料が、同一の樹脂構成成分および同一の顔料を含有する同一の塗料である場合である。
【0056】
<評価方法>
以下の方法で、塗膜外観、耐チッピング性を評価した。
塗膜外観
試験塗板の目視観察により、次の基準で評価した。
○:塗膜に蛍光灯を映すと、蛍光灯が鮮明に映る。
△:塗膜に蛍光灯を映すと、蛍光灯の周囲(輪郭)がややぼやける。
×:塗膜に蛍光灯を映すと、蛍光灯の周囲(輪郭)が著しくぼける。
【0057】
耐チッピング性
試験塗板を、飛び石試験機(スガ試験機製、商品名「JA−400LA型」)に、角度45度、−20℃の雰囲気下でセットし、0.9〜1.1gに選別された7号砕石20個を、6.5kg/cmで噴射して塗膜表面に衝突させ、セロハンテープで剥離後、剥離した塗膜の面積、状態を次の基準で評価した。
◎:素地に達するキズがなく、小石1個当りの平均剥離面積が2mm未満である。
○:素地に達するキズがなく、小石1個当りの平均剥離面積が2mm以上、かつ4mm未満である。
△:平均剥離面積は4mm未満であるが、素地に達するキズがある。
×:平均剥離面積は4mm以上であり、素地に達するキズもある。
【0058】
【表2】

表2から明らかなように、本発明による複層塗膜形成方法実施例1〜5は、比較例1〜4に比べ、塗膜外観、耐チッピング性に優れる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗料の硬化塗膜上に、水性第1着色ベース塗料(A)を塗装して第1着色ベース塗膜を形成し、次に第1着色ベース塗膜を予備加熱することなく、第1着色ベース塗膜上に水性第2着色ベース塗料(B)を塗装して第2着色ベース塗膜を形成し、ついで第1着色ベース塗膜及び第2着色ベース塗膜を予備加熱後、第2着色ベース塗膜上にクリヤー塗料(C)を塗装してクリヤー塗膜を形成し、形成された3層の塗膜を同時に加熱硬化させる複層塗膜形成方法において、水性着色第1ベース塗料(A)及び水性着色第2ベース塗料(B)の各塗料が、該水性着色第1ベース塗料(A)及び水性着色第2ベース塗料(B)の各塗料の全樹脂固形分に対しタルク顔料を1〜5質量%含有することを特徴とする複層塗膜形成方法。
【請求項2】
水性第1着色ベース塗料(A)及び水性第2着色ベース塗料(B)の各塗料中のポリウレタン樹脂(a)、ポリエステル樹脂(b)、及びメラミン樹脂(c)の合計量の含有割合が、該各塗料の全樹脂固形分に対し70質量%以上である請求項1に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項3】
水性第1着色ベース塗料(A)と水性第2着色ベース塗料(B)が、同一の樹脂構成成分及び顔料を含有する塗料である請求項1又は2に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項4】
クリヤー塗料(C)が、水酸基含有アクリル樹脂を含む主剤と、ポリイソシアネート化合物を含む硬化剤とを含有する2液ウレタン型塗料である請求項1〜3のいずれかに記載の複層塗膜形成方法。
【請求項5】
クリヤー塗料(C)に含まれる水酸基含有アクリル樹脂が、水酸基価150〜200mgKOH/g、酸価4〜15mgKOH/g、ガラス転移点20〜35℃、及び重量平均分子量4,000〜7,000を有するものであり、かつ樹脂中の水酸基が全て1級水酸基である水酸基含有アクリル樹脂である請求項4に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項6】
クリヤー塗料(C)の硬化剤が、脂肪族ポリイソシアネート化合物を含有するものである請求項4又は5に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項7】
電着塗料の硬化塗膜が形成される基材が、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、及び冷延鋼板から選択される少なくとも一つである請求項1〜6のいずれかに記載の複層塗膜形成方法。




【公開番号】特開2010−253378(P2010−253378A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106057(P2009−106057)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【出願人】(599076424)BASFコーティングスジャパン株式会社 (59)
【Fターム(参考)】